古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:大統領選挙

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 アメリカでトランプが新大統領として選出され、日本では石破茂首相が総選挙を終えて、予算成立を目指すことになる。国内政策、対外政策は共に思い通りに進むものではない。それは、多くの要因が影響してくるからだ。国内政策であれば、政党、省庁、地方自治体、利益団体などが絡むし、対外政策では国家や国際機関が絡む。国内政策と対外政策はお互いが影響し合う。これによって非常に複雑な状況になり、予想通り、思い通りにいかないことがある。

 今回ご紹介するのはスティーヴン・M・ウォルトの記事で、選挙の時に発表される綱領(platform)はあてにならないというものだ。言われてみれば確かにそうだという内容になっている。ウォルトの主張をまとめると以下のようになる。

選挙で発表される綱領は、政権を取った場合に実現したい政策を発表するものだ。今回の大統領選挙での共和党、民主党の綱領の対外政策の部分は総花的ということだ。党の綱領は理想を示すものである一方、実現が難しい高邁な目標を掲げることが多く、実行可能な政策とのギャップが存在する。

実際の対外政策は選挙戦の公約とは異なる可能性がある。それは、大統領は外交政策において広範な裁量権を持っているため、選挙時の発言に縛られることはない。歴史的に見ても、選挙戦での公約と政権発足後の実際の政策には乖離が見られることが多く、過去の例としてクリントンの対中政策やバイデンの経済政策や対イラン外交のケースが挙げられる。

当選後の状況や出来事が予測不可能であるため、どのような事態が発生するかは事前に計画することが難しい。だから、次期大統領が具体的に何を行うかは、党綱領を見ても明確には分からない 最終的に、党綱領は党の目指す方向性を示すものではあるが、次期大統領がどのような課題に直面し、どのように対応するかは、党綱領ではなく、実際の政治的状況によって決まる。

 今回の大統領選挙ではドナルド・トランプが当選した。トランプが何をやるのか不安を募らせている人たちが多くいるという報道もなされている。トランプが何でもかんでもできるということはない。そのための権力分立(separation of power)である。そして、対外政策においても彼の思い通りにはいかない。それが政治の現実である。いたずらに不安を煽って、トランプに対する敵愾心を刺激する報道や主張こそはアメリカの分断・分裂を即死することになる。まずは落ち着いて現実を見ることだ。現実は理想通りに、また悪い想像通りには進まない。

(貼り付けはじめ)

外交政策について、アメリカの政党は力を持っていない(On Foreign Policy, U.S. Parties Don’t Have the Power

-なぜ大統領選挙の公式綱領に注目するのは間違いなのか?

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/26/republicans-democrats-conventions-platforms-2024-election-trump-harris-foreign-policy/

symbolicsofrepublicanpartyanddemocraticparty001
2008年8月25日、ワシントンDCに掲げられた民主党(ロバ)と共和党(ゾウ)のシンボルマーク

アメリカの共和党と民主党は大統領候補を選出した。そのプロセスの一環として、彼らはまた、11月に勝利した場合に何を支持し、何を提案するかを述べた公式声明、いわゆる党綱領を発表した。ドナルド・トランプJD・ヴァンスがどのように行動したかの兆候を探してそれらを調べたくなる誘惑に駆られる。または、カマラ・ハリスとティム・ウォルツが統治することになるが、両方を読んだ上での私からのアドバイスは、「気にしないこと」だ。少なくとも外交政策に関して言えば、どちらの文書も2025年以降に何が予想されるかについてはあまり語っていない。

確かに、この2つの文書は全く異なるものだ。共和党の綱領はトランプ大統領の言葉のサラダであり、深刻な綱領的な声明というよりも、他国との関係を統治したり管理したりするための青写真(blueprint)どころか、彼の支離滅裂で奇妙に大文字のツイートのようなものだ。それは彼のおなじみの不満に満ちたテーマのほとんどを呼び起こすが、それは役に立たないほど曖昧であり、おそらくそれがポイントだ。これは、トランプ大学の古い広告の1つである詐欺の政治ヴァージョンだ。

対照的に、民主党の綱領は長くて、真面目で、理屈っぽくて、ちょっと退屈で、どの大統領も守れそうもないほど多くの公約を掲げている。ジョー・バイデン大統領の外交政策の成果をバラ色の目で評価し、良い点(同盟諸国との関係改善など)を強調し、ウクライナやガザ地区への対応を肯定的に描くために狂ったように回転している。ハリスが当選した場合に何をするかということについては、それほど多くを語らないという事実を除けば、注目に値するだけの十分な内容がここにはある。

それでは、これらの文書をどう解釈すればいいのだろうか? 始めに、党綱領とは何か、どのように交渉されるのかを理解することが重要だ。党綱領とは、党内で誰が十分な政治力を持ち、自分たちの意見を文書で表現できるかを反映したものである。共和党の場合、2024年の綱領を見れば、かつては誇り高く原則的な政治組織であったものを、トランプがほぼ完全に支配していることが分かる。

民主党の場合は、主要な利益団体や利害関係者、特に大口献金者の外交政策に対する主要な関与を反映している。だからこそ、バイデンの明らかに複雑な記録を肯定的に捉え、「中産階級の雇用を海外に移転させ、サプライチェーンを空洞化させ、労働者を大切にする代わりに企業のCEOに報酬を与え、包括的な経済成長を生み出せなかった(let middle-class jobs move offshore, hollowed out our supply chains, rewarded corporate CEOs instead of valuing workers, and failed to generate inclusive economic growth)」貿易政策を否定している。「永遠の戦争(forever wars)」を否定する一方で、あらゆる地域が重要である世界を描き、アメリカは「世界の舞台でリードし続けなければならない(must continue to lead on the world stage)」と主張している。リベラルな覇権主義そのものだ。

それでは、なぜこれらの発言を真に受けてはいけないのか? 第一の、そして最も明白な理由は、大統領は外交政策に関して莫大な裁量権(enormous latitude)を持っており、選挙戦に勝つため、あるいは献金を集めるために書かれたものには拘束されないということだ。大統領は、大口献金者やその他の利益団体が望むことを単純に無視することはできないが、特に再選にこだわる必要のない任期初期には、それらに縛られることはない。予算を通過させ、国内政策を承認させるためには議会での支持が必要だが、外交・国防政策で大統領が何をするかはほとんど大統領次第である。

更に言えば、重要な外交政策の決定は、綱領委員会や連邦議会の有力議員たち、著名な知事や党委員長によって行われることはない。その代わりに、大統領への忠誠心や大統領の世界観との適合性を主な理由として選ばれた側近や被任命者の小さなインナーサークルが決定することになる。例えば、バーニー・サンダース連邦上院議員はバイデンの2020年の当選に貢献したが、彼の側近でバイデン政権において重要なポストに就いた者はおらず、外交政策に関する彼の意見は一貫して無視された。バラク・オバマ前大統領が2009年にライヴァルだったヒラリー・クリントンを国務長官に任命することで党の結束を図ったのは事実だが、彼は彼女に力と権限をあまり与えず、代わりに自身のホワイトハウス補佐官と国家安全保障会議に主要な外交政策の決定と実行を委ねた。

第三に、党の綱領では聞こえがよく、選挙戦では有利に働く主張や立場も、選挙が終わって政権が発足すると違って見えることが多い。例えば、1992年の選挙戦で民主党のビル・クリントン候補は、中国の人権侵害に目をつぶっているとして現職のジョージ・HW・ブッシュ大統領を繰り返し批判したが、政権に就いてみると、北京に対する自らの影響力は限られており、この問題を軽視する方が理にかなっていることが分かった。同様に、2020年の民主党の綱領は、ドナルド・トランプ大統領が関税に依存し、2015年のイランとの核合意を放棄したことを厳しく批判していたが、ジョー・バイデンはトランプ時代の経済制限の多くをそのまま維持し、テヘランとの包括的共同作業計画(Joint Comprehensive Plan of Action with Tehran)に再び参加するという選挙公約を果たすことはなかった。

政党綱領はまた、過大な約束と過小な実現によって誤解を招く。綱領は、政党が達成すると信じ込ませたい事柄の願望リスト(wish list)であるため、これらの目標を実現するのを困難にする政治的障害を軽視したり省略したりする。前述したように、大統領は外交政策の遂行においてかなりの個人的権限を持っているとはいえ、反対政党はもちろんのこと、凝り固まった官僚組織(特に国防総省)や利益団体、ロビー団体、メディアからの反発に対処しなければならない。時間と政治資金は有限であるため、党綱領に盛り込まれた高邁な目標のいくつかは、完全に放棄されないまでも、必然的に後回しにされてしまう。

しかし、党の綱領がほとんど無視されるべき最も重要な理由は、候補者が大統領に就任した後に何が起こるかを、どんな選挙運動も予測することができないということだ。あるいは、元イギリス首相ハロルド・マクミランが、政治家にとって最も困難なことは何かとの質問に「出来事だ、親愛なる君、出来事だよ」と皮肉を込めて答えたと伝えられている。アメリカは非常に強力だが、世界的に重要なアクターはアメリカだけではない。ジョージ・W・ブッシュ前大統領は9月11日の同時多発テロが起きるとは思っていなかったし、バラク・オバマはアラブの春(Arab Spring)に目を奪われ、ドナルド・トランプは新型コロナウイルスに困惑し、ジョー・バイデンの外交政策はウクライナと中東の戦争に乗っ取られた。

11月に誰が勝利しても、それぞれの党の綱領でさえ言及されていないいくつかの大きな問題に直面することは間違いなく、それらにどう対応するかについての指針を得るためにこの文書を掘り起こす人は誰もいないだろう。

私は皮肉を言うつもりはない。党綱領は党が何を目指しているかを明らかにし、信者たちを結集させ、エネルギーを生み出し、明確なメッセージを提示するのに役立つ。しかし、彼らが明らかにしていないのは、次期大統領が2025年1月以降に何をするかということであり、選挙が終わったら誰もこれらの文書を調べに戻らないだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Xアカウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 今年2024年は世界各国で国政レヴェルの大きな選挙が実施された。ブラジル、インド、インドネシアなどで選挙が実施された。日本では9月の自民党総裁選挙で石破茂が総裁に選出され、首相となったが、10月初旬に衆議院を解散し総選挙が実施され、自公は過半数を割り込んだが、政権維持ができそうな公算が高まっている。アメリカでは大統領選挙と連邦上下両院の選挙が実施され、共和党のドナルド・トランプが大統領に返り咲き、連邦上下両院で共和党が過半数を獲得する勢いとなっている。

 石破首相は総総選挙で自民党の議席を減らしたが、特に安倍派清和会系の議員たちの数を減らしたことで、党内の掌握ができたと考えられる。反石破派は党内野党的な立場となるが、造反することはできない。党を割って新党ということもできない。高市早苗議員たちが党を割って新党という与太話が出ていたが、現在はしぼんでいる。こうした議員たちは自民党にいてこそなんぼであり、自民党から離れたら何の力もない。サラリーマン世界で管理職だ、役員だと威張ってみても、定年退職したらただの高齢者というのと変わらない。政敵を無力化する、排除するというのは世の常だ。安倍派清和会支配の間は故安倍晋三元首相と追随者たちがこの世の春とばかりにやりたい放題であった。そのために自民党が緩み切って弛緩した。今回の総選挙での惨敗はまさに「因果は巡る糸車」ということになる。

 今回の自民党総裁選挙と総選挙は自民党保守本流(突き詰めれば国民の生活が第一)と自民党保守傍流(突き詰めれば国民は国家の駒に過ぎない)の戦いで、保守本流が勝ったと言うことになる。2012年からの我慢に我慢の保守本流側が勝利をしたということになる。岸田前首相からの路線をこれからも堅持していくことになる。田中角栄と大平正芳が冥界で喜んでいるだろう。

 国内政治はこれまでのように、増上慢に、傲慢になった安倍派清和会支配の自民党がやりたい放題であった時代から変わった。何事も交渉して、譲るところは譲ると言うことがなされることになった。自民党議員たちはこれまでのようにふんぞり返り、暴言を吐いて、国会運営も思い通りと言うことはできなくなった。一から頭の下げ方、野党との交渉の仕方を勉強することになるだろう。中途半端に当選回数を重ねてきた安倍チルドレンたちは鍛え直されるくらいでちょうど良い。

 国内政治で忙しくなると、国際政治、外交が疎かになるという心配がある。これは逆手に取れば、「アメリカからの無理な注文に応じられない理由にできる」ということでもある。石破首相が国内政治対応が忙しくて、トランプ前大統領との関係構築が後手に回るという心配(批判)がなされているが、一目散にトランプタワーに行ってトランプに会うことに何の意味があるのか。歯の浮くようなお世辞とゴルフ場での媚びた態度でトランプの起源を取ることが外交と考えているならばそれは間違いだ。石破首相もどこまでできるは分からないが、対米隷属状態の改善と言うことに動くだろう。トランプは交渉の人だ。そして、石破首相がプロテスタントであることは交渉に貢献することになるだろう。詳しくは『世界覇権国交代劇の真相』の佐藤優先生によるまえがきと第一章を読んでいただきたい。

 アメリカが衰退し、トランプはそのための墓堀人ということになる。石破首相は現状についてよく理解している。より現実的な動きを大きくはすることになるだろう。石破首相は国内政治と国際政治においてこれまでの安部派清和会支配時代の澱みを掃除しようとしているのであり、心ある国民は石破首相を応援するべきである。

(貼り付けはじめ)

日本の混迷政治が東アジアの安定を揺るがす(Japan’s Chaotic Politics May Shake East Asia’s Stability

-長らく支配してきた自民党の大敗が東京の計画を不透明なものにしている。

ウィリアム・スポサト筆

2024年10月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/30/japan-election-surprise-liberal-democratic-party-ishiba-komeito-uncertainty/

ishibashigeruforeignpolicy001
総選挙の翌日に石破茂首相を映し出す大型テレビ画面の下を歩く人々(10月28日、東京)

日本で長期にわたり政権を維持してきた自由民主党の選挙での驚くべき敗北は、まさに世界がそれを最も必要としていなかったときに、新たな不安定時代(new era of instability)の到来をもたらした。

石破茂新首相が仕掛けた10月27日の解散総選挙では、自由民主党と、宗教組織の支援を受けた連立政党である公明党が大敗し、衆議院で過半数の議席を確保できなかった。それまで絶対安定多数を享受してきたがそれが崩壊した。自民党は前議会比23%減の191議席を確保した。仏教団体の創価学会が支援する公明党も同様に悲惨な結果となり、25%減のわずか24議席となった。更に追い打ちをかけるように、公明党の党首は自らの議席を獲得できなかった。

過去20年間、農水相や防衛相など影響力のあるポストを歴任し、政治家としてよく知られた石破にとって、今回の結果は特に厳しいものとなった。彼は9月末、この16年の間で、5度目の挑戦にして、ようやく自民党の総裁に選出された。

前任の岸田文雄前首相が、自民党議員たちの不適切な資金集めに絡む政治スキャンダルで責任を取って辞任した後、石破氏が党員投票で総裁に選ばれた。

このスキャンダルは典型的なほどに日本的なもので、他の多くの国、特にアメリカでは通常業務となるような、疑わしい慣行と比較的少額の資金が絡んでいた。この事件では、自民党の調査によって、85人の議員が4年間に5億8000万円(約380万ドル)の資金調達を報告していなかったことが判明した。

このようなスキャンダルは、複雑な規制によってほとんどの人が何かしらの罪を犯している日本では、ほとんど目新しいものではない。安倍晋三首相は在任中、同様のスキャンダルを何度も乗り越え、日本で最も長く首相を務めた。

首相退任後の2022年、安倍元首相は自民党と統一教会(Unification Church)との長年にわたる関係に腹を立てた一匹狼的な犯罪者に殺害されるという悲劇に見舞われた。この殺害事件に対する怒りが広まる一方で、世論は犯人の訴えを支持するようになり、自民党は再調査を開始し、統一教会との関係を放棄せざるを得なくなった。

長い間待ったのではあるが、石破首相の在任期間は長くは存在しないかもしれない。衆議院が新首相を選出しなければならないまでの30日以内に、石破から相殺を交代させるのは物理的、手続き的に困難だが、惨めな成績を受けて、石破が辞任することが予想される。一方、自民党と最大野党の立憲民主党(Constitutional Democratic PartyCDP)の勢力均衡のカギを握る中小政党との密室交渉(backroom negotiations)が始まった。

自民党は11月11日に国会を開き、そこで新首相を選出することを提案している。過半数を獲得する者がいなければ、第2回投票での最大得票者に首相の座が与えられ、弱体化した少数政権(weakened minority government)が誕生することになる。このような政権の安定性を維持するのは難しいだろう。

日本の政治では通常そのようになるのであるが、自民党と立憲民主党の間にイデオロギー的な違いはほとんどない。立憲民主党は、女性が結婚後も自分の姓を保持できるようにすること(自民党には明確な政策がない問題)に賛成し、日本の巨額の政府債務を抑制しようとしながら貧富の格差を縮小するのに役立つ措置を提案している。日本の政府債務は年間 GDPの260%に相当し、世界の主要経済国の中で最高水準となっている。

立憲民主党は議席数を51%伸ばし、148議席に達した。これは215議席の自民党・公明党連立政権にはまだ遠く及ばないが、過半数までは射程圏(striking distance)内だ。立憲民主党は、自民党以外の政党の政治家で現在も政界で活躍している数少ないリーダーの1人である、野田佳彦元首相が率いる政党だ。財務大臣、そして総理大臣として安定した手腕を発揮した野田代表は、特に外交の分野では自民党と同じ政策の多くを追求することが予想される。

しかし、この全ての中でより大きな懸念は、権力争い(jockeying for power)、連立提携の試み(attempted coalition tie-ups)、個人的な対立(personal rivalries)により、日本の存在が大いに役立つはずのときに、世界の舞台から日本がほぼいなくなることだ。

第二次世界大戦後の平和主義(pacifism)と、事実上あらゆる国際問題についての和解と交渉(reconciliation and negotiation)を助言する一般的な外交政策への重点から離れ、日本は今日、増大する近隣諸国(中国、ロシア、北朝鮮)の連合に対抗する最前線国家(front-line state)となっている。

正式な陸海空軍がないにもかかわらず、東京の防衛力増強は、1950年に「警察予備隊(National Police Reserve)」という無難な名称で最初の部隊が創設されて以来、静かに行われてきた。そのペースは2012年から2020年までの安倍政権時代に加速し、最近更迭された岸田首相によって更に加速した。岸田首相は、防衛費を10年間でNATO加盟国の基準であるGDPの2%にまで倍増させると宣言したが、その財源は明らかではない。日本の軍事力は世界で最も有能なものの1つと考えられており、通常トップ10に入る。

日本はまた、アメリカとの戦略的同盟(strategic alliance)を超えて、幅広い国々と防衛関係を形成する連合構築国(coalition builder)となっている。日本人は、日米防衛協力が世界でも最も広範なものの1つであるとよく強調していることに注目したい。

今日、日本は多くの国々と防衛関係を築いている。その中には、南シナ海の支配に向け着実に歩みを進める中国を警戒する東南アジア諸国だけでなく、イギリス、フランス、イタリアといった遠く離れた同盟諸国も含まれている。日本は、東京にNATOの事務所を置くというアイデアさえ推進しようとしたが、消極的なフランスに却下された。

日本もまた、外交政策の発表においてより強い姿勢を示しており、これまでの歴史的寡黙さ(historical reticence)の多くから脱却している。岸田はロシアのウクライナ侵略を即座に非難し、すぐに制裁を発動した。岸田は「これは明らかな国際法違反であり、ウクライナの主権と領土保全を侵害するものである。国際秩序の根幹を揺るがす行​​為として全く容認できない」と述べた。

岸田は後に、日本が懸念する理由を明らかにし、2023年にワシントンを訪問した際に記者団に対し、「ウクライナは明日の東アジアの姿になるかもしれない(Ukraine may be the East Asia of tomorrow)」と語った。これは、中国がモスクワからヒントを得て、そのような中国と台湾の再統一(reunification of China and Taiwan)と呼ばれる計画を進めるのではないかという懸念に明確に言及したものだ。

このウクライナへの支持、そしてアジアにおける同様の侵略に対する懸念の高まりは、誰が政権を獲得しようとも変わる可能性は低い。横浜にある神奈川大学の日本外交政策専門家コーリー・ウォレスは、連立政権の首相には焦点を当てるべき国内問題が山ほどあるというリスクがあると語る。

ウォレスは「日本の石破首相は、国内問題で忙殺されることになり、国際問題でリーダーシップを発揮する余裕がなくなるかもしれない」と述べている。

日本にとっての懸念の1つは、ドナルド・トランプがアメリカ大統領に返り咲く可能性にどう対処するかだろう。日本は、トランプ大統領の最初の任期中、トランプ大統領との衝突を回避できた数少ない同盟国の1つであり、安倍首相が「トランプのささやき屋(Trump whisperer)」になったことが大きく評価されている。お世辞とゴルフ(flattery and golf)を組み合わせることで、安倍首相は気まぐれなトランプ大統領と良い関係を保つことができた。

ウォレスは「石破にはトランプ大統領の懐に飛び込むスキルも関心もないと思う」と語った。

この新米の指導者は、日本の外交・防衛政策について、すでにいくつかの厳しい発言で驚かせている。石破は自民党総裁選に向けた準備期間中に、岸田と安倍が強化に努めてきた日米安全保障関係を再構築したいと述べ、本質的にはより平等である必要があることを示唆した。石破はまた、中国に対抗するためのアジア版NATOの創設も提案した。これがどうやってうまくいくのかという疑問に直面した石破は、後にこれらは長期的なアイデアだと言って撤回した。

元外交官の沼田貞昭は「石破氏はかなり世間知らず(naive)のようだ。彼は防衛専門家と言われているので、問題について知っているに違いない」と述べ、この考えは日本にとって、特に核兵器の分野で多くの問題を抱えていると付け加えた。沼田は「安倍と石破が核共有(nuclear sharing)などの概念について話すとき、彼らは核兵器の使用に関して何を決断する準備ができている必要があるのか​​について本当に明確な考えを持っていたのだろうか? 日本の指導者、政策立案者、国民は核IQを高める必要がある」と述べている。

政治的な駆け引きが進行する中、このような議論は将来に先送りされる可能性が高い。しかし、どの程度先の未来になるかは、ロシア、北朝鮮、中国がそれぞれの同盟関係をどこまで発展させるかによって大きく左右されるだろう。北朝鮮軍のロシアへの派遣は、また新たな緊張の高まりを意味する。日本の首相が誰であれ、早急に準備を整える必要があるだろう。

※ウィリアム・スポサト:東京を拠点とするジャーナリストで2015年以来『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。ロイター通信とウォールストリート・ジャーナル紙に勤務し、20年以上にわたり日本の政治と経済を取材してきた。2021年にはカルロス・ゴーン事件とそれが日本に与えた衝撃に関する著作で執筆者の1人となった。

=====
日本の新首相は政治的断層の上に座っている(Japan’s New Prime Minister Is Sitting on a Political Fault Line

-与党である自民党は国力の追求をめぐって揺れ動いている。

トバイアス・ハリス筆

2024年10月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/09/ishiba-japan-ldp-shinzo-abe-militarization/

ishibashigeruforeignpolicy002
東京にある衆議院で本会議に臨む石破茂新首相(10月9日)

石破茂新首相が2018年の自民党(Liberal Democratic PartyLDP)総裁選で当時の安倍晋三首相に挑戦することを決めた瞬間ほど、石破茂新首相の人柄が表れた瞬間はないと言えるだろう。

2018年、安倍首相は2度目に首相に就任してから6年を迎え、支持率に影響を及ぼしたいくつかのスキャンダルにもかかわらず、国内では完全に支配的であり、海外ではますます有名な政治家となっていた。自民党は規則を変更し、安倍首相が3期目(任期は3年間)の総裁選に立候補することを可能にした。これにより、安倍首相は日本で最長の首相職に就くのに十分な期間首相の座に留まることが可能となった。自民党が安倍の再任を拒否するとは考えられなかった。

それでも石破は総裁選への立候補と安倍への挑戦を決意した。石破は2012年9月の自民党総裁選で安倍に逆転で敗北したにも関わらず、かつては安倍に忠実に仕えていたが、安倍首相に対する幻滅はますます高まっていた。石破は、首相の経済計画であるアベノミクス(Abenomics)は主に大企業と大都市に利益をもたらし不平等を増大させる一方で、安倍首相の国家安全保障改革は日本をどのように守るべきかというより本質的な議論を回避していると考えていた。

より根本的な点としては、石破はまた、特に影響力の個人的な使用や権力の濫用に関する確かな非難に直面して、安倍首相の強権的なリーダーシップのスタイルにもがっかりした。石破は安倍首相にこれらの懸念に答えてもらいたいと考え、2018年の選挙戦では「正直と正義(honesty and justice)」をスローガンに掲げて選挙活動を行ったが、安倍首相の同盟者たちはこのスローガンを首相と彼のスキャンダルに対する陰険な攻撃だと認識していた。

石破は予想以上に健闘したが、安倍は予想通り快勝した。

石破は、安倍首相に敵対したために大きな代償を払った。今月首相に就任するまでの8年間、石破氏は閣僚や自民党幹部のポストに就いていなかった。石破は安倍首相の最も熱心な支持者たちから恨み(enmity)を買っており、彼らは石破が安倍首相を裏切っていると非難していた。このことが、2020年の安倍首相辞任後の党首選で石破が3位に甘んじた原因の1つであることは間違いない。

彼は自分の党と歩調を合わせていない人物だったが、それでも安倍首相の重大な誤りであると信じていることに関して自分の見解を曲げることを望まなかった。

それゆえ、石破が党内では友人を持たず、依然として権力を持つ右派に嫌われているという評判にもかかわらず、9月27日にわずか15票差で、安倍首相の最も忠実な側近である高市早苗氏を破り、自民党の総裁に、そして日本の次期首相になったことは驚きだった。

石破と安倍やその追随者たちとの違いは、単なる政策の問題ではない。むしろ、それらは自民党内のより根本的な哲学的分裂(more fundamental philosophical divide)を反映している。

安倍首相は文字通り、たとえ日本国民がそのグループの目標を共有しなかったり、その手法を承認しなかったりしたとしても、日本軍に対する戦後の制約を取り除き、日本を本格的な大国にしようとする党の伝統の継承者だった。冷戦終結後の安倍たちの努力のおかげで、この伝統が党内を支配するようになり、自民党内の他の思想派を脇に追いやったり、包摂したりした。

石破は、そうした対立する系統の1つに属する。彼は1980年代、自民党の悪名高き「影の将軍(shadow shogun)」田中角栄の勧めで政界入りした。田中角栄は、いわゆるロッキード事件に端を発する贈収賄容疑で法的手続きに巻き込まれながらも、圧倒的な政治機構を築き上げた人物である。田中角栄は腐敗した政治機構を築いたことで最もよく知られているが、彼の政治には接待以上のものがあった。

日本の辺境の「雪国(snow country)」の一部である日本海に面した新潟県出身の田中角栄は、この国のどの地域も戦後の経済奇跡から取り残されないようにするという決意を持っていた。田中は、自民党がその権力を使って高速道路、橋、高速鉄道を建設し、故郷のような田舎の僻地で雇用を創出し開発を促進し、列島をつなぎ合わせることを望んでいた。彼は徹底した民主政体信奉者であり、彼のニックネームのもう1つは「庶民の首相(the commoners’ prime minister)」であったが、石破や他の若手政治家たちに対し、有権者の意見や懸念に耳を傾け、彼らの生活をより良くするために国家権力を活用することを優先しなければならないと強調した。

田中派は1970年代から1980年代にかけて自民党を支配したが、田中が法廷闘争に明け暮れ、ますます健康を害していくにつれて分裂し、ついには汚職スキャンダルによって田中の信奉者たち(石破もその1人)が政治改革を求めて自民党を離党し、1993年に自民党を初めて野党に転落させた。

結局、石破は1997年に自民党に戻ったが、その時点で自民党は別の政党になっており、安倍支配をもたらした右傾化(the move to the right)が既に始まっていた。

しかし、自民党が変わっても、石破は田中から学んだ教訓に固執した。党は有権者の声に耳を傾けなければならなかった。日本の最も恵まれない人々や地域の生活をより良いものにしなければならなかった。そして、自民党が大きな変化、例えば日本国憲法の変更や国防費の増額を望むのであれば、有権者がこれらの目標を支持するよう説得するために、懸命に働き、正直に話さなければならなかった。

石破が一貫して自民党で最も人気のある政治家の1人であるのは偶然ではない。

石破が現代の自民党で異彩を放っているのは、田中への愛着だけではない。彼はまた、世界の中で日本が果たすべき役割についても独自な見解を持っている。戦時中、満州での従軍経験から再軍備に深く懐疑的で、冷戦時代にはアメリカからの日本の独立を主張することに熱心だった田中とは異なり、石破は平和主義者(pacifist)ではない。実際、石破は自分のことを「軍事オタク(military otaku)」と呼んでいる。日本の議員としては異例なほど軍事問題に熱心であることを、狂信的なオタク(fanatical nerd)を意味する日本語を使って表現している。

しかし、安倍首相とその支持者たちが国家的大国のプロジェクトの一環として日本の軍備を強化しようとしたのに対し、石破は自国と国民を守ることに関心がある。日本は軍事的脅威から自国を守るだけの能力を持つべきであり、無謀や無策(ecklessness or fecklessness)によって東京を危険に晒す可能性のあるアメリカへの依存を減らすべきである。確かに、石破は日本がアメリカと同盟を結ぶことに反対していないが、核抑止力(nuclear deterrent)の管理も含め、日本が一人前の独立したパートナーになることを望んでいる。

石破が望んでいないのは、日本が自国のために力を競い合ったり、東アジアの軍事バランスだけに集中したりすることだ。そして、軍事力の追求と並行して、中国や韓国、その他の地域大国との関係における外交や通商の重要性を強調し、戦時中の過去について日本がもっと謙虚になることを求めてさえいる。

この哲学的な隔たりは、9月の自民党総裁選挙で明らかになった。石破は日本国民の安全と安心を強調して立候補した。高市のスローガンは「総合的な国力の強化(strengthening comprehensive national power)」だった。これら2つの綱領の間には、戦後の日本の政治において最も永続的な断層(the most enduring fault lines)のいくつかがあり、21世紀においては、相対的な衰退を容認し対応する日本政府と、それを逆転させるために並外れた措置とリスクを講じる日本政府の違いを意味する可能性がある。

石破の今後について楽観視できないのはこのためだ。安倍首相は去ったかもしれないが、安倍派自体が一部の議員の政治資金の移転を隠蔽した資金計画による裏金(slush fund scheme)への参加によって崩壊したとしても、2012年から2022年に亡くなるまで安倍首相が支配していた党内で、安倍の思想とその知的な後継者たちは引き続き大きな役割を果たし続けている。

石破の勝利が彼らの最後の敗北を意味しない。高市は既に次の党首選の準備をしているかもしれない。しかし、石破の反安倍ヴィジョンの高市の親安倍ヴィジョンに対する勝利というよりは、石破の有権者からの根強い人気が議席を守るかもしれないと考えた自民党の弱小議員たちによる日和見的な賭け(opportunistic bet)であり、石破の前任者である岸田文雄による、高市よりも石破の方が自分の遺産を守れるという賭けだったのかもしれない。

従って、石破は勝利したが、依然として党内で孤立している。自民党総裁としての最初の1週間を彼は、アベノミクスへの反対を撤回し、とりわけ岸田前首相が安倍元首相の経済政策を推進したことを理由に、安倍自身の派閥を中心とした選挙資金スキャンダルに関与した自民党議員に対して寛容の姿勢を表明した。石破氏が2018年に声高に拒否した、何が何でも権力を行使するスタイルの政治だ。

これらの妥協(compromises)は避けられなかったのかもしれない。高市とその支持者たちは現在、自民党内で野党を構成しており、石破が安倍路線から大きく逸脱した場合、反乱の有力な火種となる可能性がある。しかし、これらの措置はまた、より民主的な政治を築こうと決意した理想主義的な真実の語り手としての彼の評判を損なう可能性があり、まさにそれが彼が政治に固執し続ける理由であるが、それは首相の職を開始直後に弱体化させるだけでなく、首相の地位を危険にさらす可能性もある。石破が10月27日の解散総選挙で政府の過半数を獲得することを準備している。どの政治家にとっても、特に石破の歴史を持つ政治家にとって、党内で過半数の支持者がいる状況でポスト安倍自民党を新たに構築するのは荷が重すぎるかもしれない。安倍首相の政治的ヴィジョンに引き続き関与している。

しかしながら、石破自身が新しい自民党の追求に失敗したとしても、彼の勝利は日本の与党の中心にある対立を露わにした。安倍首相が国内外で執拗に権力を追い求めた代償に対する自民党の清算は、今後何年にもわたって日本の政治を形作っていくだろう。

※トバイアス・ハリス:アメリカ進歩センター(Center for American Progress)上級研究員。著者に『因習打破主義者:安倍晋三と新しい日本(The Iconoclast: Shinzo Abe and the New Japan)』がある。ツイッターアカウント:@observingjapan

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 アメリカ大統領選挙から時間が経ち、様々な意見が飛び交っている。私が最も信用していないのは「想定通りでしたね」などと述べる人たちで、それは想定ではなく、あなたの希望や願望ではないのかと言いたくなる。想定するにあたってどのようなモデルを作り、どれくらい世論調査の数字データを集め、どれくらいの質的な調査を行ったのかと言いたくなる。今回の選挙結果を「想定通りでしたね」と言えるほど頭脳明晰であるからには、自分の原罪の仕事や学業でさぞや周囲を驚かせるだけの結果を出せているのでしょうね、羨ましい限りですと皮肉を言いたくなる。ここで愚痴を書いても仕方がないが、そのように思ったので書いておく。

 今回、民主党はホワイトハウス、連邦上院の過半数、連邦下院の過半数を失う大惨敗となった。2016年もそうであったが、大統領選挙の一般得票数ではヒラリー・クリントンが上回っていた。「大統領選挙の仕組みが違っていたならねぇ」ということは言えた訳だが、今回は全てにおいてうまくいかなかった。共和党の「赤い波(red wave)」に飲み込まれた形になった。「今回の選挙は民主党が真剣に反省する機会となるだろう」ということは2016年にも言われていたが、結局あまり反省ができていなかったようだ。そして、今回も民主党進歩主義派の重鎮であるバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ―モント州選出、無所属)のお説教をもらうことになった。
berniesandersjusticedemorats001

 各種世論調査の結果や出口調査の結果から、私たちが今まで習ってきたような「共和党は経営者やお金持ちの党、民主党は労働者やマイノリティの党」という構図は崩れ去り、逆になっている。「共和党は労働者の党」となった。そして、民主党は口先だけはきれいごとを言う、リベラル志向のお金持ちたちが支配する党になった。労働者のための政策をしてこなかったということで、これまで民主党支持だった労働者たち、特に白人労働者が民主党から離れたと言うことは2016年の選挙後に分析されている。そうしたことを私は最新刊『世界覇権国交代劇の真相』で述べている。是非読んでいただきたい。

 民主党内のエスタブリッシュメント派と進歩主義派の対立については拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも詳しく書いている。2016年のサンダース躍進に刺激を受けて登場した、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)をはじめとする若手の議員たちは「ジャスティス・デモクラッツ」を結成し、主流派・エスタブリッシュメント派が支配する執行部と対立している。進歩主義派の若手議員たちは「スクアット(Squad)」と呼ばれている。バラク・オバマ元大統領は若手たちの動きを嫌がって、「銃殺隊(firing squad)をうろうろさせるな」という発言をしたほどだ。オバマは演説がうまくイメージが良いので、リベラル、進歩主義的とみられることもあるが、決してそうではない。それどころか、民主党を支配する大ボスということになっている。ジョー・バイデンに再選を諦めさせたのはオバマの力が大きい。

 民主党がこれから変化していくことは難しい。サンダースの「お説教」も何度目のことだろうか。2016年にヒラリー・クリントンがドナルド・トランプ支持者を「負け犬(deplorables)」と呼んだ。今年の選挙戦の最終版、ジョー・バイデン大統領は「ゴミ(garbage)」と呼んだ。熱心なトランプ支持者たちは元々、(熱心であったかどうかは別にして)民主党支持者だった。そうした人々を負け犬、ごみと呼んでしまうような民主党エスタブリッシュメントに対して、人々は失望と怒りを感じている。その結果が「赤い波」となった。

(貼り付けはじめ)

サンダース:民主党は「労働者階級の人々を見捨ててきた」(Sanders: Democratic Party ‘has abandoned working class people’

アレクサンダー・ボルトン筆

2024年11月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/4977546-bernie-sanders-democrats-working-class/
バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ―モント州選出、無所属)は水曜日、民主党が労働者階級の優先事項をほとんど無視していると非難し、それが、民主党がホワイトハウスと連邦上院を掌握する力を失った最大の理由だと指摘した。

サンダースは火曜日の選挙結果について声明を発表しその中で、「労働者階級の人々を見捨ててきた民主党が、労働者階級が彼らを見捨てたことに気づくのは、それほど驚くべきことではない」と述べた。

サンダースは「民主党指導部が現状を擁護する一方で、アメリカ国民は怒り、変化を望んでいる。そして彼らは正しい」と述べた。

サンダースの厳しい声明は、ハリス副大統領が一般投票で500万票近くの差をつけられ、民主党はウエストヴァージニア州、モンタナ州、オハイオ州の連邦上院議員の議席を失ったと見られる選挙後、これまでで最も厳しく最も鋭い批判となっている。

民主党と会派を組む無所属のサンダースは、「草の根民主主義と経済的正義(grassroots democracy and economic justice)を憂慮する私たちは、非常に真剣な政治的議論をする必要がある」と述べた。

サンダースは、ここ数十年のアメリカにおける経済的不平等の大幅な拡大、何十万人もの人々を失業させる恐れのある先端技術、高額な医療費、そして何万人もの犠牲者を出したガザ地区での戦争に対するアメリカの支持をそうした議論のテーマに挙げた。

「民主党を支配する大金持ちや高給取りのコンサルタントたちは、この悲惨な選挙戦から本当の教訓を学ぶのだろうか? 彼らは、何千万人ものアメリカ人が経験している痛みや政治的疎外感を理解するのだろうか? 経済的に大きな力を持ち、ますます強大化するオリガーキーに対抗する方法を、彼らは考えているのだろうか?」とサンダースは疑念を表明した。

「おそらくそういうことはないだろう」と彼は自身が提起した疑問に答えて述べた。

連邦上院厚生・教育・労働・年金委員会の委員長であるサンダースは2028年までに連邦最低賃金を時給7.25ドルから17ドルに引き上げるという提案について、今年は一度も採決を行うことができなかった。

サンダースはまた、2021年と2022年に連邦上院予算委員長として、メディケアを拡大し、彼が「住宅危機(housing crisis)」と呼ぶものに対処するための6兆ドルの予算融和案を推進しようとしたが失敗した。

その後、チャック・シューマー連邦上院院内総務(ニューヨーク州選出、民主党)は、ジョー・バイデン大統領の「ビルド・バック・ベター」アジェンダの縮小版を中道派のジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州、無所属)と交渉したが、サンダースや他の進歩主義派がバイデンの大統領任期開始時に抱いていた大きな野望には届かなかった。

サンダースとマンチンの間に緊張が走ったのは2021年10月のことで、マンチンは民主党が成立させようとしていたものに制限をかけ、授業料無料のコミュニティ・カレッジを除外しようとした指導者会議で、サンダースがウエストヴァージニア州の中道派であるマンチンに暴言を吐いた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。
donaldtrumpjdvance20241106001

 2024年米大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ前大統領(副大統領候補はJD・ヴァンス連邦上院議員[オハイオ州選出、共和党])が民主党のカマラ・ハリス副大統領(副大統領候補はミネソタ州知事ティム・ウォルツ)を破り、不連続の形であるが、2度目の勝利を収めた。不連続の2度目の勝利は1892年のグローヴァー・クリーヴランド大統領以来のことで、歴史的なカムバックとなった。

2024uspresidentialelectionresults20241106001

 ここで、宣伝になって恐縮だが、上記の佐藤優先生との対談『世界覇権国交代劇の真相』(秀和システム)の第2章の内容が現実のものになったと私は感じている。対談は7月末に行われたが、大きな流れはあれから変わっていなかったのだということを認識した。改めて読み返してみると、この対談で、私たちは「なぜハリスが駄目で負けるのか」「何故民主党が駄目なのか」という敗因を分析していた。また、激戦州について予想をしていてそれもそのまま実現している。このブログをお読みいただいている皆さんには是非手に取ってお読みいただきたい。ブログを現在の形式で存続させるためにもよろしくお願い申し上げます。

 このブログでは冷静に、アメリカでの報道と各種世論調査の結果と、それに私の分析を加えて、「横一線であるが、トランプがややリード」と言うことをずっとお伝えしてきた。私は選挙結果を予想した訳ではないので、「当てたぞ、凄いだろう」と言う気はない。これまで同様に淡々とお伝えしていくだけのことだ。

 選挙直前に、民主党内部で既に敗因分析とハリス選対と民主党執行部に対する責任論が出ているということもこのブログでお伝えした。11月5日付の記事をお読みいただきたい。記事でご紹介したアメリカでの論稿に敗因がほぼ網羅されている。問題はそれが選挙前に出ていたということだ。

ハリスの個人的な能力のなさと言うことはもちろんあるが(経験のなさで言えばバラク・オバマやビル・クリントンもなかった)、民主党自体の問題も大きい。そもそもがハリスは2020年の大統領選挙民主党予備選挙で早々に撤退に追い込まれている。民主党員や支持者がハリスでは駄目だという判断をしたことになる。それから4年経って急にハリスが良い候補者になることはない。それでもハリスが候補者になって、全国大会で指名される頃には「ハリスは凄い、素晴らしい」の大合唱で支持率も上がっていた。しかし、時間が経過するにつれてトランプが盛り返し(ハリスの人気が落ちていった)、ついに逆転と言うことになった。ハリスは民主党の組織的な機能不全と、ジョー・バイデン政権のインフレ対策や不法移民対策の失敗という2つの重荷を背負わされたという点で気の毒な面がある。また、主流メディアやインフルエンサーたちが浮かれ気味に「ハリス有利」「ハリス圧勝」というような無責任な報道や言動を繰り返したことが民主党側にマイナスに働いたと言うこともあるだろう。

 それにしても、2020年にはバイデンが奪還した「青い壁(ブルーウォール、blue wall)」をトランプが取り返したということについて民主、共和両党はその手法について学ぶべきであろう。2020年のバイデンの勝利は、「地上戦の人」バイデンの真骨頂だった。バイデンは連邦上院議員36年、副大統領8年の叩き上げ政治家、選挙の勝者であり続けた人だ(大統領選挙予備選挙などでは負けてはいるが)。バイデンが経験と知識、人脈、選挙マシーンをフル稼働させれば選挙に勝利することはある意味では容易なことであった。しかし、2016年のヒラリー・クリントン、2024年のカマラ・ハリスは空中戦の人たちだった。また、五大湖周辺州になじみがないというのも痛かった(ヒラリーはシカゴ出身であるが)。トランプも五大湖周辺州になじみがある訳ではない。しかし、五大湖周辺州の白人労働者たちの支持を集めることができた。それが今回の勝利につながった。民主党がトランプに勝つためには地道な草の根選挙、地上戦を強化することが必要であり、共和党はこれから地上戦を徹底することが重要になってくる。

 今回の選挙はこうした点から、「トランプが強かったというよりも、ハリスが弱かった」ということが適切な分析と言うことになるだろう。一般得票数でも負けるということは、惨敗である。結局、アメリカの西海岸と東海岸の各州でしか勝てなかった。民主党優位の州でしか勝てなかった。それが全てだ。故野村克也氏の言葉「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」である。

(貼り付けはじめ)

トランプが大統領選挙で二度目の勝利、ありえない逆転劇を達成した(Trump wins presidency for second time, completing improbable comeback

ブレット・サミュエルズ筆

2024年11月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/4969061-trump-wins-presidential-election/

donaldtrump20241106001
共和党の大統領選挙候補者ドナルド・トランプ前大統領がフロリダ州ウエストパームビーチのパームビーチ・コンヴェンション・センターでの選挙当夜ウォッチパーティーの会場に登場

ディシジョン・デスクHQDDHQ)によると、ドナルド・トランプ前大統領が大統領選挙に勝利し、不名誉な状態でワシントンを去り、政治的将来が不透明になってから約4年後に2期目を確保すると予測されている。

DDHQは、トランプがペンシルヴァニア州とアラスカ州で勝利し、獲得選挙人数が270に達したと発表した。

トランプは、予想外の展開が相次いだ選挙でカマラ・ハリス副大統領を破った。選挙運動中にトランプが巻き込まれた刑事裁判、トランプ前大統領に対する2度の暗殺未遂事件、ジョー・バイデン大統領が選挙戦から脱落したことによる民主党の候補者交代など、予想外の出来事が相次いだ選挙であった。

トランプは、ホワイトハウスを失い、その後再びホワイトハウスを獲得した大統領としては、1892年のグローヴァー・クリーヴランド大統領以来、120年以上ぶりのことだ。

トランプは、約100日間にわたるハリスとの選挙戦の末、ホワイトハウス獲得に必要な選挙人数270を確保した。選挙当日まで、主要激戦7州の世論調査では、両候補の差はほとんど見られなかった。

トランプ元大統領は最終的に説得力のある勝利を収め、ジョージア州を列に戻し、ノースカロライナ州を保持して「青い壁(blue wall)」を打ち破った。トランプは一般投票では僅差で勝利すると予想されているが、2016年では一般投票数では勝利できず、共和党がそれで勝利したのは1992年以降一度だけだった。

トランプ前大統領とその伴走者(副大統領候補)であるJD・ヴァンス連邦上院議員(オハイオ州選出、共和党)は、バイデン政権時代のコスト上昇、南部国境での移民急増、海外での不安定な情勢に対する有権者の不満を利用し、自身の政策への回帰を有権者に訴えた。

出口調査によると、トランプはラティーノ有権者たちから大きな票を獲得し、地方部での得票を伸ばし、トランプ陣営が積極的に訴えた若者層ではハリスとほぼ互角になった。

トランプは、国家史上最大の強制送還作戦の実行、2017年に署名した減税の延長、外国からの輸入品への普遍的な関税の賦課、トランスジェンダーの若者への保護の撤回、教育省の閉鎖、環境規制の抑制を公約に掲げている。彼はまた、政権に忠実な人物を集めようとしている。

トランプは、女性有権者の投票で大差をつけられると予想されていたのを跳ね返した。ハリスは、トランプが最高裁判事に選んだ3人が2022年にロウ対ウェイド判決を覆すことに他の保守派と加わったことを受け、中絶権の問題に集中した。今回の大統領選は、ロウ法廃止後初めて実施された。

共和党が連邦上院で過半数を奪還したため、トランプ大統領の当選は、連邦最高裁に対する保守派の掌握を強化するチャンスを与える可能性がある。

トランプは2016年にホワイトハウスを僅差で制したが、2020年の再選には敗れた。彼は選挙後の数週間、不正行為が蔓延しているという証明されていない主張を推し進め、2021年1月6日にはバイデンの勝利の認定を阻止しようとした彼の支持者たちによる国会議事堂への暴力的な襲撃に至った。

トランプは2020年の選挙で敗れた後、政権に留まろうとした試みをめぐり、2023年にワシントDで連邦告発によって起訴された。しかしトランプは、この問題を監督しているジャック・スミス特別顧問の解任に速やかに動くことを示唆しており、自分に対する重大な訴訟案件に介入することになる。

トランプ大統領の1期目での言動は、元閣僚や側近たちから批判を浴びてきた。彼は2023年に4つの別々の司法管轄区で起訴され、5月にニューヨークで34の重罪で有罪判決を受けた。彼は最初の任期中に2度弾劾され、好感度は40%を切って退任した。そして2021年、後任の就任式に出席することなくワシントンを去った。

多くの政治家や評論家は、トランプを政治的に死んだものとほぼ宣言しており、ミッチ・マコーネル連邦上院多数党(共和党)院内総務(ケンタッキー州選出、共和党)は2021年2月の連邦上院議場での演説でトランプを激しく非難した。しかし、マコーネルは2021年1月6日の連邦議会議事堂暴動を巡るトランプ大統領の弾劾裁判で有罪判決には投票しなかった。

もしトランプが有罪判決を受けていれば、彼の政治的キャリアは終わり、ホワイトハウスへの再出馬は不可能になっていたかもしれない。その代わりに、彼は現在、共和党を彼のイメージにさらにシフトさせる立場にあり、マコーネルの上院院内総務としての地位は来年1月で終わる。

トランプの政治的終焉を予想した一部の人々がいかに間違っていたかを示すように、トランプは忠実な支持基盤のおかげで共和党候補に当然のように当選し、7月には暗殺未遂を乗り越え、共和党大会で党の全勢力を背後に結集させ、世論調査でバイデンをリードしたことで、大統領就任への最後の道(glide path)を歩んでいるように見えた。

しかし、バイデンは7月末に選挙から撤退し、代わりにハリスが民主党有権者を奮い立たせ、記録的な資金を集めた。トランプは当初、対戦相手の変更に対応するのに苦労し、9月の討論会での不安定なパフォーマンスは、レースが拮抗する中、共和党をさらにいらだたせた。

しかし、選挙戦終盤の世論調査では、トランプは黒人有権者とラティーノ有権者に強さを見せ、得票を伸ばした。いずれもトランプを勝利に導いた重要な票田である。

トランプの選挙陣営は、外部グループと提携して激戦州の有権者たちにリーチするというこれまで試されていなかった戦略に依存しており、この方法でハリス陣営の強力なインフラを克服することに成功した。

78歳のトランプは、大統領に選出された国の歴史上最高齢であり、2020年のバイデンよりわずかに年上である。彼は以前、そうすることに問題はないと言っていたにもかかわらず、詳細な医療記録の公開を拒否している。

トランプは、不連続で2期で大統領を務める史上2人目の大統領となるが、憲法修正第22条によって任期が制限されるため、2028年に再選を目指すことはできない。

=====

トランプが2度目のホワイトハウス勝利についての5つのポイント(5 takeaways as Trump wins White House for a second time

ナイオール・スタンジ筆

2024年11月6日

『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/campaign/4975849-trump-harris-2024-presidential-run/

donaldtrumpmelaniatrumpbarontrump20241106001
2024年11月6日水曜日、フロリダ州ウエストパームビーチで開催された選挙ウォッチパーティーに登壇する共和党大統領候補ドナルド・トランプ前大統領、メラニア・トランプ夫人、バロン・トランプ氏

ドナルド・トランプ前大統領は水曜日の早朝、前代未聞のホワイトハウス争奪戦でカマラ・ハリス副大統領を破り、1世紀以上の期間の中で、非連続の勝利を収めた初の大統領となる、異例のカムバックを果たした。

このカムバックには多くの理由がある。

トランプは2020年の大統領選挙での敗北を覆そうとし、支持者たちを駆り立てて連邦議事堂にデモ行進を行わせ、暴動と連邦議員たちの避難につながった出来事から、政治家としてのキャリアは終わったと思われていた。

このカムバックの前に、トランプは史上初めて2度の弾劾訴追を受け、4件の刑事事件で起訴され、民事事件では性的虐待の責任を問われ、刑事裁判では34件の業務記録改ざんの重罪で有罪判決を受けた。

しかしトランプは、熱狂的に忠実な支持基盤に支えられていた。その支持基盤のほとんどは、腐敗した政治、法律、メディアの体制によって不当に犠牲になってきたという彼のシナリオを信じている人々だ。

トランプ前大統領は早朝、フロリダ州ウエストパームビーチで支持者たちに「私たちは誰一人として克服可能だと思っていなかった障害を克服した(We overcame obstacles that nobody thought possible)」と語り、自身の勝利を「アメリカ国民にとって素晴らしい勝利(a magnificent victory for the American people)」と呼んだ。

トランプはまた、ジョー・バイデン大統領の業績に対する国民の不満からも勝利を得た。

これから主要なポイントを挙げていく。

(1)ハリスにとって早い段階から全てがうまくいかなかった(It all went wrong from early on for Harris

ハリスにとっては早い段階から悪い兆候が出ていた(the writing was on the wall)。

1つ目の警告サインは、トランプがフロリダを制するという非常に早い段階での予測だった。結果そのものに衝撃はなかったが、世論調査の平均が予測した6ポイント差のおよそ2倍の差をつけてトランプが勝利したという事実は、ハリスにとって不吉なものとなった。

トランプにとって有利なパターンは夜の大半にわたって続き、ヴァージニア州やニュージャージー州といった安全と思われる民主党優位の州でさえハリス選対にとって不愉快なほど長い期間決着がつかない中、トランプは各激戦州で序盤にリードを奪った。

ハリスは、ワシントンの歴史あるハワード大学でのイヴェント会場を、聴衆を前にして話すことなく後にした。彼女は水曜日午後以降に演説する予定だ。

(2)人口統計学上の大きな驚き: ラティーノ男性がトランプに大きく傾く(The big demographic surprise: Latino men swing heavily to Trump

投票日前、多くのメディア報道は、トランプが黒人有権者、特に黒人男性、あるいは若年層の有権者に浸透するかどうかに焦点を当てていた。

実際、少なくとも現在の出口調査によれば、これらの人口統計グループ内の変化は控え目であり、新しいデータが追加されるにつれて多少変化する可能性がある。

しかし、1つだけ本当の衝撃があった。

CNNの出口調査によると、ラティーノ男性が圧倒的な差でトランプにシフトした。

2020年、これらの出口調査では、ラティーノ男性はトランプよりバイデンに59%対36%の23ポイント差で投票していた。

火曜日に行われたCNNの出口調査では、54%対44%の10ポイントの差で、ハリスよりもトランプに投票していることが明らかになった。

この33ポイントという驚くべき差は、鋭く、不快感をもたらす疑問をもたらすだろう。

トランプ支持者たちは、彼の文化的保守主義(cultural conservatism)とより良い経済に関する公約が流れを変えるのに役立ったと主張するだろう。

しかし、その説明では、なぜラティーナ女性の党派支持率がごくわずかしか変化しなかったのかが理解できない。

ある程度の性差別を含まないもっともらしい議論を見つけるのは難しい。

ハリスは結果として、2016年のヒラリー・クリントンに次いで、トランプに敗れた2人目の民主党女性候補となった。

(3)中絶問題は変化を生むことができなかった(The abortion issue failed to make the difference

民主党は、連邦最高裁がロウ対ウェイド判決を破棄してからあまり時間が経過していない2年後に、女性たちがかつてない数の支持を集め、全米初の女性大統領を選出するという考えに多くの期待を寄せていた。

しかし、それは起きなかった。

確かに性別でのギャップは大きかった。しかしこれまでの出口調査では、性別でのギャップが4年前よりも意味のある形で大きくなったとは示されていない。

それどころか、CNNの出口調査によれば、女性は2020年に15ポイント差でトランプよりバイデンを支持した。今年の出口調査では、ハリスはわずか10ポイント差で女性有権者の支持を受けていた。

だからといって、中絶が共和党に勝利をもたらした争点に変わったのではない。本当にそうではない。

例えば、フロリダ州での中絶に関する投票イニシアティヴは、可決に必要な60%の賛成を得られなかった。しかし、約57%という明確な多数派がこの問題のリベラル側に並んだ。

それでも結論としては、中絶問題はハリスが必要としていたほど強力なものではなかったということだ。

(4)民主党内で深刻な争いが起きるだろう(There will be serious Democratic infighting

選挙の結果を民主党は大混乱に陥った。民主党の候補者であるハリスが、党内の多くがアメリカの民主政体に対する非常に危険だと考えている人物トランプに敗れた。

そのため、すぐに指弾(finger-pointing)が始まるだろう。

民主党員の多くはバイデンが7月に選挙戦から離脱するに至った一連の出来事に固執するだろう。バイデンの撤退は6月下旬の大統領選挙候補者討論会での大失敗の後に起きた。

「バイデンならハリスよりうまくやれた」と考える人の数は非常に少ない。

しかし、バイデンが一期目で退かないという決断を下したこと、そして党がハリスに対して競争的な予備選に消極的であったことは、そのようなプロセスがあればハリスを強化できた、あるいはより優れた候補者を輩出できたと考える人々にとっては、大きな事後の非難(second-guessed)の材料になるだろう。

ハリス陣営からのメッセージ発信もまた厳しい精査の対象となるだろう。

トランプが「ファシスト」であると主張することにハリスが時間を費やしすぎたが、これは単なるお説教以上の効果がなかったのではないか?

リズ・チェイニー元議員(ワイオミング州選出、共和党)のような人物とキャンペーンを張ることで、共和党に不満を持つ有権者を取り込もうとした試みは、常に失敗する運命にあったのではないか?

労働者階級の懸念にもっと精力的に焦点を当てれば、トランプの訴えを抑えることができたのではないか、それとも、もっと冒険的なメディア戦略を採用していれば効果があっただろうか?

ある程度、これらの疑問は不当なものになるかもしれない。ハリスが経済面で直面した逆風、そして世論調査の評価が平凡な大統領の代理として直面した逆風は、克服するにはあまりにも厳しかったのかもしれない。

しかし、だからといってこのような疑問が出るのを止めることはできないだろう。

(5)トランプは共和党政権をうまくまとめるだろう(Trump might well have unified GOP government

トランプは連邦上院で、そしておそらく連邦下院でも共和党が過半数を占める状態で進むことになる。

民主党は連邦上院では、常に苦戦を強いられ、いくつかの州では守勢に回った。

共和党優位のウエストヴァージニア州は、民主党から無所属に転じたジョー・マンチン連邦上院議員が引退を表明した時点で敗北がほぼ確実と見られていた。ウエストヴァージニア州では共和党のジム・ジャスティス知事が正式に選出された。

その他では、シェロッド・ブラウン連邦上院議員(オハイオ州選出、民主党)が共和党のバーニー・モレノ候補に議席を奪われた。現職のボブ・ケーシー連邦上院議員(ペンシルヴァニア州選出、民主党)とタミー・ボールドウィン連邦上院議員(ウィスコンシン州選出、民主党)も苦境に立たされているが、現時点では、逆転して勝利する可能性は残されている。

連邦下院では、水曜未明になっても情勢は不透明で、決着には数日かかるかもしれない。しかし、共和党が僅差で過半数を維持する可能性は確かだ。

もしそうなれば、共和党の圧勝ということになる。

(貼り付けはじめ)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 本日、2024年10月29日、『著世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(秀和システム)が発売になりました。

sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 本書では、私が佐藤先生の胸を借りる形で、アメリカ政治、特に大統領選挙とウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争について分析しました。大きな流れは全く外していません。アメリカ大統領選挙でカマラ・ハリスの勢いが落ちることを予見し(このブログで何度もご紹介している通りハリスの勢いは落ちています)、イスラエルが戦争の段階を上げていくであろうことに警告を発しています。私たちの対談では、私たちがそれぞれ持つ「型」を使って、状況をどのように分析しているかが分かります。

sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouauthors001
 
 このブログでも宣伝を開始し、まえがき、目次、あとがきを公開しています。予約が伸びていないという厳しい状況です。今回もまえがき、目次、あとがきを公開します。参考にしていただき、是非本書を手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouasahishimbunad20241029001
2024年10月29日付『朝日新聞』朝刊3面から
(貼り付けはじめ)

まえがき 佐藤 優

 本書は、私とアメリカ政治を中心に国際関係に通暁した古村治彦氏(愛知大学国際問題研究所客員研究員)との初の共著だ。古村氏は、私がとても尊敬する異能の知識人・副島隆彦氏の学風を継承する優れた専門家だ。国際問題の現象面だけでなく、その内在的論理を理解して、はじめて分析が成立するという点で私と古村氏は認識を共有している。

 本書の記述は、岸田文雄前政権時代の事象を中心に論じているが、現時点で特に改める事柄はないと考えている。なぜなら、現下国際政治ゲームにおいて日本が外交の主体的プレイヤーとして活動できる閾値(いきち)が狭いからだ。

 本書の特徴は、通常の国際政治学者が重視しない宗教に着目している点だ。この点に関して、9月27日の自民党総裁選挙で同党総裁に選出され、10月1日の衆議院本会議と参議院本会議で第102代日本国内閣総理大臣に指名され、就任した石破茂氏に特別の注意を払う必要がある。

 石破氏の履歴やエピソードを伝える記事はたくさん報じられているが、なぜか同氏の宗教に言及したものが少ない。宗教が個人の内面に留まっているならば、政治分析の上で考察の対象にならない。しかし、石破氏の場合は、信仰が明らかに政治に影響を与えるタイプだ。

  石破氏は自らの信仰を公にしており、キリスト教系のメディアにも登場している。

《自民党総裁選の投開票が27日、東京・永田町の党本部で行われ、石破茂元幹事長(67)が第28代総裁に選出された。現在、自民党は衆議院で過半数の議席を保持しているため、石破氏が岸田文雄首相の後継として、第102代首相に就任することになる。

 同志社の創立者である新島襄から洗礼を受け、後に牧師となった金森通倫(みちとも)を曽祖父に持つ石破氏は、プロテスタントの4代目のクリスチャン。クリスチャンが日本の首相に就くのは、第92代首相を務めた麻生太郎副総裁(84)以来、15年ぶりとみられる。

 (中略)石破氏の父である石破二郎は、鳥取県知事や参議院議員時代に自治相(当時)などを務めた政治家。浄土真宗の仏教徒でクリスチャンではなかったが、金森以来、プロテスタントの家系の母が通っていた日本基督教団鳥取教会で石破氏は洗礼を受けた。幼少期は、同教会の宣教師によって始められた愛真幼稚園に通った。鳥取大学教育学部附属中学卒業後、上京して慶應義塾高校に進学。東京では日本キリスト教会世田谷伝道所(現世田谷千歳教会)に通い、教会学校の教師も務めた。》(9月27日、 Christian Today

 石破氏が洗礼を受けた日本基督教団鳥取教会は、同志社系(組合派)だ。組合系にはさまざまな考え方がある。他方、石破氏が東京で通っていた日本キリスト教会世田谷伝道所は長老派(カルヴァン派)の教会だ。カルヴァン派では、各人は生まれる前から神によって定められた使命があると考える。どんな逆境でも試練と受け止めれば、必ず選ばれた者であるあなたは救われると教える。この教会で、石破氏は教会学校の教師(聖書の先生)をしていたのだから、聖書や神学についても勉強しているはずだ。

 学生時代に洗礼を受けた人でもその後はキリスト教から離れたり、信仰が薄くなってしまう人もいる、石破氏は信仰が強い方だと思う。現在も日本基督教団鳥取教会の会員だ。ちなみに私も石破氏と同じくかつてはカルヴァン派の日本キリスト教会に属していたが、現在は日本基督教団の組合派系教会に属しているプロテスタントのキリスト教徒だ。だから石破氏の信仰を皮膚感覚で理解することが出来る。

 キリスト教関係のメディアで石破氏は、2018年8月30日、渡部信氏(クリスチャンプレス発行人)と山北宣久氏(前日本基督教団総会議長)の取材でこんなやりとりをしている。

―― クリスチャン議員として、どのような思いで政治に向き合っておられますか。

 私は、神様の前に自分の至らなさ、誤っているところをお詫び申し上げるようにしています。そして、「過ちを正してください」、「ご用のために用いてください」という思いでお祈りしています。

 ―― 特に政治家として強調したい点は。

 ヨーロッパにしろ、アジアにしろ、米国もそうですが、同じ信仰を持つ人は多いはずです。にもかかわらず、世の中は争いが絶えない。いかに争いをなくしていくか。いかに互いが神の前には無力であることを共通認識し、自分だけが正しいという思いを持たず、弱い人のために働き、祈ることができるか。それをできるだけ共有したいと思っています。常にこの思いをもって、平和な世界を作りたいと考えています。

 ―― 世界にはさまざまな緊張が存在します。日本が韓国などと平和外交するためにはどうすればいいと思いますか。

 韓国の近現代史、韓国と日本が過去にどういう関係にあったのかを知らないまま、外交努力をしても説得力がありません。慰安婦問題、領土問題など、一致できない点もありますが、共にやれることもたくさんあるはずです。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政

権と共にできることは何なのか。これを考えていくことが重要だと私は思います。(中略)

 ―― 最後に、日本のクリスチャンに向けてメッセージを。

「共にお祈りください」とお願いをしたいです。》(2018年9月5日 、Christian Press

 石破氏は、自民党員の選挙によって総裁に選ばれただけではなく、神の召命によって自民党総裁、内閣総理大臣になったと一人のプロテスタントのキリスト教徒として確信しているのだと思う。本書では、ドナルド・トランプ氏に長老派(カルヴァン派)の価値観が与えている影響の重要性について言及した。石破氏に関してもそのことが言える。11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選すれば、宗教的価値観を共有する石破氏との間で興味深い外交を展開することができると思う。

 本書を上梓するにあたっては(株)秀和システムの小笠原豊樹氏、フリーランスの編

集者兼ライターの水波康氏にたいへんにお世話になりました。どうもありがとうござい

ます。

2024年10月2日、曙橋(東京都新宿区)の自宅にて、 佐藤 優

=====

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』目次

まえがき(佐藤 優) 1

第1章 再選を大きく引き寄せたトランプ暗殺未遂事件 13

銃撃事件で明らかになった〝神に選ばれたトランプ〟 14

トランプ聖書は「アメリカが宗教で分断されることも辞さず」の表れ 19

トランプは自らの使命を明確に自覚した 25

トランプ暗殺未遂はディープステイトの画策 28

ディープステイトの正体とは? 33

老人いじめにならないようにトランプが賢く振舞った第1回テレビ討論会 38

中絶問題とLGBTQが大統領選の争点になる 41

トランプ政権の本質は雇用にある 48

USスチールの買収と中国への対応 52

民主党はエリートの党、共和党は庶民の党 54

平和への志向が希薄なアメリカ政治。だがトランプだけは平和を志向している 58

後退戦を展開するトランプの歴史的な役割 62

第2章 民主党の反転攻勢とアメリカで進む分断 67

バイデン撤退からカマラ・ハリスへの交代劇 68

ハリス旋風の陰で核のボタンの不安 74

国家権力を背景に仕事をしてきた弱点 80

異論を認めないハリスに外交はできない 84

ヒラリーがロールモデルだと世界戦争になる 88

民主党の副大統領候補は誰になるのか 92

内戦へと向かうアメリカの危機的な現実 96

内在する差別の実態と移民のリアル 103

苦しいアメリカ国民の生活と雇用 108

ペンシルべニア州で大統領選は決まる 113

第3章 ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争から見える世界の変化 117

イスラエル・ハマス紛争はいつ終わるのか 118

イスラエルは不思議な国 122

アメリカはウクライナを勝たせる気がない 126

日本のウクライナへの軍事支援は高速道路4キロ分 133

ハマスはネタニヤフが育てた 137

イスラエルは北朝鮮に近い 144

イスラエルの論理 146

イスラエルには多方面で戦争する力がない 150

イスラエルは反アラブにも反イスラムにもなれない 153

ユダヤ人は3つに分けられる 155

キリスト教シオニストは本質において反ユダヤ的 158

イスラエルとこの世の終わり 162

ユダヤ人理解には高等魔術が役に立つ 163

第4章 ドル支配の崩壊がもたらす世界覇権国の交代 169

ハマス最高指導者・ハニーヤ暗殺の影響 170

ヨーロッパで蔓延する反ユダヤ主義 176

中東全面戦争と核拡散の恐怖 179

アメリカ離れが進み、世界構造は変化する 184

アメリカの衰退でドル支配は崩壊する 189

トランプ再選後、世界はどうなるのか 195

平和を求めない戦後アメリカ体制の欠陥 199

失われた公共圏と共同体としての世界 204

グローバル・ノースが失う世界の主導権 209

第5章 米中覇権戦争は起きるのか 215

中国は次の覇権国になれるのか 216

世界は民主主義同士で争っている 220

揺らぐデモクラシー 224

変なのしか残らない先進国の選挙 228

今日のウクライナは明日の日本 231

日本外交の未来図 236

あとがき(古村 治彦) 241

=====

あとがき 古村 治彦

 今回、佐藤優先生との対談が実現した。佐藤先生には、拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)を2回書評で取り上げていただいた。そのご縁で、今回、光栄な機会をいただくことができた。佐藤先生に厚く御礼を申し上げます。

 対談は、2024年7月16日、25日、8月1日の3回行われた。私にとっては対談自

体が初めてのことで、しかも、その相手が憧れの佐藤優先生ということもあり、1回目の対談は緊張しっぱなしであまり話せなかった。それでも、先生の温かいお人柄のおかげで、回を重ねるごとに緊張もほぐれて、自分らしく話すことができた。

 対談では、ドナルド・トランプ前大統領暗殺事件を手掛かりにして、宗教の面からアメリカ政治全体を分析した。私もごく一般的な知識しかない中で、必死に佐藤先生の話に食らいつきながら、政治学や国際関係論の知識で、私なりのアメリカ政治分析を披露した。また、大きな世界政治の流れについても、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を入り口にして、ユダヤ教やイスラム教の面から分析をすることができた。また、インテリジェンス関係のお話を伺うこともできた。対談を通じて、アメリカの衰退と世界構造の大変動が起きているという共通認識で一致した。

 私たちの対談は、様々に起きる事象についてどのように考えるか、分析するかについて、私たち2人の手法、方法論を明らかにしたものとなった。読者の皆さんが様々な事象について、自分なりに分析する際の手助けとなれば幸いだ。

 対談の期間中、そして、対談後に、アメリカ政治は大きく動いた。2024年7月21日にジョー・バイデン米大統領が大統領選挙からの撤退、再選断念を表明した。そして、同時に、カマラ・ハリス副大統領を大統領選挙候補者として支持すると発表した。8月上旬には慌ただしく、カマラ・ハリスが大統領候補に、ミネソタ州知事のティム・ウォルズが副大統領候補に決まった。

 8月19日から22日にシカゴで開催された民主党全国大会をきっかけにして、上げ潮に乗って、カマラ・ハリスが支持率を伸ばし、選挙戦を優位に展開しているというのが日米の主流派メディアの報道だ。ところが、重要な激戦州では五分五分、トランプがややリード

という結果が出ている。主流派メディアの肩入れがありながら、ハリス支持は伸びていな

い。なにもこれは私の希望的観測ではない。アメリカ政治情報サイト「リアルクリアポリ

ティックス( RealClearPolitics )」が各州レヴェルの世論調査の結果を集計し、それを大統

領選挙の選挙人数に当てはめた結果では、10月1日の段階で、「トランプ281人、ハリス257人」となっている( https://www.realclearpolling.com/maps/president/2024/no-toss-up/electoral-college )。米大統領選挙はデッドヒートを続け、終盤に向かう。

 ウクライナ戦争の状況は大きく動いていない。ウクライナ側はロシア国内への攻撃を行っている。しかし、戦況を有利に展開出来ていない。9月中旬開会の国連総会出席に合わせて、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は訪米し、バイデン大統領、ハリス副大統領、民主、共和両党首脳部、トランプ前大統領と会談し、「勝利計画」を提示したようだが、相手にされなかったようだ。ウクライナ情勢は停滞したままだ。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、対談で佐藤先生と私が危惧したように、戦争を拡大させようとしている。ガザ地区でのハマスとの戦いに加え、レバノンでのヒズボラとの戦闘を激化させようとしている。9月17日にはレバノンのヒズボラのメンバーが使用していたポケベル(イスラエルが細工をして輸出)がイスラエルの遠隔操作により爆発し、12名が死亡し約2800名が負傷する事件が起きた。9月27日にはヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師がイスラエルの空爆によって死亡した。イスラエルは10月1日にレバノンへの地上攻撃も開始した。また、イエメンのフーシ派への空爆(9月29日)も開始した。アメリカで権力の空白が生まれている中で、イスラエルのネタニヤフ政権は、中東での戦争の段階を引き上げようとしている。世界にとって非常に危険な動きだ。

 日本政治は、岸田文雄首相が2024年8月14日に退陣表明してから、慌ただしく動き始めた。9月27日に、自民党総裁選挙が実施され、石破茂氏が高市早苗氏を破って総裁に選出された。主流派マスコミは、小泉進次郎氏が先行し、高市氏が激しく追い上げと報じていたが、最後の大逆転で、石破氏が勝利を収めた。岸・安倍系清和会支配の弱体化、自民党保守本流政治の復権、日中衝突の回避のために、まことに慶賀すべき結果となった。日本も少しずつ、アメリカの属国からの方向転換を図る動きになっていく。これは、対談の中でも詳しく触れた世界の大きな流れ、アメリカの衰退と中国の台頭、西側支配の終わりとグローバル・サウスの勃興に合致している。

 対談の終わりの雑談の中で、佐藤先生から「守破離(しゅはり)」という言葉について伺った。私は落語鑑賞を趣味としている。この「守破離」という言葉は、落語協会の二階の広間に額に入れて飾ってある。伝統的な芸道や武道で大事にされている言葉だ。「守破離」とは、「剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。『守』は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。『離』は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階」(『大辞林』から)という意味だ。佐藤先生は神学、私は政治学や国際関係論という「型」を大事にしながら評論を行っている。

 佐藤先生は私に、「型がなければただの言いっぱなしですよ」とおっしゃった。佐藤先生は既に「離」の境地に達しておられるが、対談を通じて、改めて基本の大切さを私に教えて下さった。私も先生の言葉を肝に銘じて、型を大事に「守り」ながら、「破」「離」へ進んでいきたい。

 最後に、対談実現のために橋渡しをしてくださった、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生に御礼を申し上げます。対談のアレンジ、調整を行い、まとめ役を務めた水波ブックスの水波康氏、全体編集を担当した秀和システムの小笠原豊樹編集長には大変にお世話になりました。記して感謝申し上げます。

2024年10月 古村 治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ