古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 今年4月2日にドナルド・トランプ大統領が高関税政策(トランプ関税、解放記念日関税とも呼ばれる)を発表し、アメリカと中国との間で「貿易戦争(trade war)」が勃発した。これにより、アメリカ国債の金利が急上昇し、慌てたトランプ政権側では、スコット・ベセント米財務長官を中心にして(ウォール街の意向もあって)、譲歩を行い、トランプ関税の実施の90日間の停止を発表し、中国との間で貿易交渉を行っている。しかし、膠着状態にあるようだ。

 6月5日に、ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席が電話会談を行った。1時間半の会談だったそうだが、通訳が間に入っての会談だったと推測されるので、実質は1時間弱くらいのものだっただろう。中国側は中国人留学生の学生ヴィザに関する懸念を伝え、トランプ大統領は中国人留学生を歓迎すると述べたようだ。アメリカの大学は大きなビジネスになっている。中国人留学生は重要なお得意様だ。彼らは巨額の授業料収入をもたらす。さらに大学のある地域(多くは大学しか産業がない)にとって重要な消費者となる。また、趙一流大学にとっても頭脳明晰、才能あふれる留学生たち(特に大学院生)は貴重な存在だ。アメリカ人学生が自然科学系を忌避する中で、中国人留学生は貴重な戦力である。これは、最先端のテック産業にとっても、人材確保の面で極めて重要なことだ。トランプ政権内の対中強硬派にとっては痛しかゆしの面がある。

トランプ政権にとって、極めて重要なのは、レアアースの中国からの輸入である。下記論稿に以下のような記述がある。「4月の貿易摩擦激化の際に導入されたレアアース元素と磁石に関する新たな輸出管理制度を引き続き利用し、アメリカへの輸出を制限している。フォードを含む、中国のサプライチェインに大きく依存している防衛・自動車分野の大手アメリカ企業は、深刻な危機に直面している」。中国からのレアアースが規制されると困るのは、防衛産業だということだ。最大の仮想敵国である中国からのレアアースがないと、アメリカは戦争ができないというのは何とも皮肉な状況だ。こうして見ると、トランプ政権は中国に譲歩をしなければならない。米中貿易戦争をしてしまうと、アメリカにとって最後の頼みの綱である軍事にも支障が出てきてしまうのだ。
 下記論稿では中盤あたりに次のような興味深い記述がある。「トランプ大統領の楽観的なトーンは、習近平国家主席と中国に対して一貫して温かくオープンな姿勢を示してきた一方で、政権の他の部署は意図的なものか、あるいは一貫性のなさ(disjointedness)からか、より強硬な政策を追求してきたという、お馴染みの力関係(a familiar dynamic)を反映している」。トランプ政権は第1知事政権でもそうだったが、米中貿易戦争を行い、それが行き過ぎて、トランプ大統領がトップダウンで抑えるということがあった。トランプ政権内の対中強硬派は大局観に欠け、行き過ぎてしまう傾向があるようだ。そのために、トランプを煩わせることがある。今回もトランプがトップダウンで行き過ぎを押さえようとしている。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプ大統領と習近平国家主席が電話会談で沈黙を破る(Trump and Xi Break the Silence With Phone Call

-両首脳は難題の進展を主張したが、その言葉が現実に反映されるかどうかは未知数だ。
リリ・パイク筆

2025年6月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/05/trump-xi-jinping-phone-call-trade-tariffs-student-visas-china/

木曜日に行われたドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の1時間半に及ぶ電話会談は、レアアース輸出から中国人学生ヴィザに至るまで、多くの難題を解決したかに見えたが、現実は言葉通りの複雑なままだろう。

この電話会談は、トランプが2期目の大統領に就任して以来、両首脳の間で初めて公に知られている会談となった。その前に行われた5月初旬のスイスでの貿易担当高官協議は予想外の成功を収め、米中両国の貿易ティームは、トランプ大統領が引き起こした4月の貿易摩擦で高水準にまでエスカレートした関税を撤回することで合意した。アメリカは関税率を145%から30%に、中国は10%に引き下げた。米中両国はまた、より大規模な貿易協定の交渉のため、追加関税の賦課を90日間停止することにも合意した。

ジュネーブでの会談から数週間後、予想通り明るい雰囲気は薄れ、米中両国は相手の弱点を突く姿勢を続けた。ワシントンは、ファーウェイ製チップと、アメリカ製半導体および航空技術の中国への輸出に新たな制限を課した。一方、中国はジュネーブでアメリカに対する非関税措置の撤廃に合意していたものの、4月の貿易摩擦激化の際に導入されたレアアース元素と磁石に関する新たな輸出管理制度を引き続き利用し、アメリカへの輸出を制限している。フォードを含む、中国のサプライチェインに大きく依存している防衛・自動車分野の大手アメリカ企業は、深刻な危機に直面している。

トランプ大統領にとって、レアアース問題は明らかに電話会談の最優先事項となった。電話会談後のトゥルース・ソーシャル(Truth Social)への投稿で、トランプ大統領は勝利を宣言した。「レアアース製品の複雑さに関する疑問はもはや存在しないはずだ」。

しかしながら、中国側の発表ではこれらの鉱物については一切触れられていなかった。

アジア・ソサエティ政策研究所の国際安全保障・外交担当副所長ダニエル・ラッセルは記者会見で、トランプ大統領の発言は「不可解なほど不透明で、具体的な成果を示唆していない」と述べた。この電話会談が実際にアメリカへの鉱物資源の流入再開につながるかどうかは、今後数週間、中国の港湾で確認する必要がある。

北京側も、言葉の上ではあるが勝利を手にした。中国側の発表では、「アメリカは中国人学生のアメリカ留学を歓迎する」と述べられていた。これは、先週マルコ・ルビオ国務長官が「中国人学生のヴィザを積極的に取り消す(aggressively revoke visas for Chinese students)」と発表し、中国人学生コミュニティを混乱に陥れた状況からの大きな転換となるだろう。トランプ大統領は木曜日、ホワイトハウスを訪問したドイツのフリードリヒ・メルツ首相との記者会見で、この方針転換を認めたようで、「中国人学生が来るのは問題ない。率直に言って、彼らを受け入れるのは私たちにとって光栄だ(Chinese students are coming—no problem. It’s our honor to have them, frankly)」と述べた。

これらの発言がどのように政策に反映されるのか、あるいは、そもそも反映されるのかについては、依然として未解決の問題である。

米中両国の声明や発表の全体的なトーンは、両最高首脳が互いを招き合うなど、概ね肯定的だった。特にトランプ大統領は「非常に良い電話会談だった(very good phone call)」と述べ、この傾向を強く支持した。

戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)の中国ビジネス・経済担当上級顧問兼理事会議長スコット・ケネディは、本誌に対し、この動きは中国の戦略の有効性を示していると述べた。「中国は非常に効果的な経済手段を見つけた。トランプ大統領にはこれを肯定的に捉える様々な理由がある(China’s found an economic tool that really bites, so the president has got a variety of reasons to frame this in a positive light)」とケネディは述べた。

トランプ大統領の楽観的なトーンは、習近平国家主席と中国に対して一貫して温かくオープンな姿勢を示してきた一方で、政権の他の部署は意図的なものか、あるいは一貫性のなさ(disjointedness)からか、より強硬な政策を追求してきたという、お馴染みの力関係(a familiar dynamic)を反映している。
両超大国は、電話会談で双方が設定することに合意した次回の貿易協議で、トランプ新時代における両国の関係をテストし続けることになるだろう。
しかし、北京の発表には、アメリカに対し中国へのいかなる干渉や妨害行為も停止し、台湾問題には慎重に対処するよう求めるなど、より多くの警告が含まれていた。ケネディは、この発表にはアメリカへの「微妙な皮肉(subtle dig)」も含まれていると指摘し、電話会談はトランプ大統領の要請で行われたと指摘した。これは、ワシントンが北京の譲歩を懇願している兆候を示している。

より広範な貿易協定の実現には依然として大きな課題が存在し続けている。具体的には、中国の輸出依存型経済モデル(China’s export-dependent economic model)とトランプ大統領の製造業回帰への意欲(Trump’s desire to reshore manufacturing)との間の対立だ。スコット・ベセント米財務長官は5月にジュネーブで、米中両国は「一緒にバランスを取り戻す(rebalance together)」ことができると述べたが、専門家たちは今後、長く困難な交渉の道のりが待ち受けていると見ている。米中両国は、第1次トランプ政権の任期中に貿易協定を締結するまでには何年もかかったが、中国は最終的にこの協定を遵守しなかった。

※リリ・パイク:『フォーリン・ポリシー』誌記者。Blueskyアカウント:@lilipike.bsky.social X: @lili_pike

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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