古村治彦です。
今回は少し古い本になりますが、『エコノミック・ヒットマン』という本を皆様にご紹介します。ヒットマンというと、大変物騒な単語ですが、エコノミック・ヒットマンという言葉について、著者ジョン・パーキンスは次のように書いています。
(引用はじめ)
エコノミック・ヒットマン(EHM)とは、世界中の国々を騙して莫大な金をかすめとる、きわめて高収入の職業だ。彼らは世界銀行や米国国際開発庁(USAID)など国際「援助」組織の資金を、巨大企業の金庫や、天然資源の利権を牛耳っている富裕な一族の懐へと注ぎこむ。その道具に使われるのは、不正な財務収支報告書や、選挙の裏工作、賄賂、脅し、女、そして殺人だ。彼らは帝国の成立とともに古代から暗躍していたが、グローバル化が進む現代では、その存在は質量ともに驚くべき次元に到達している(1ページ)
(引用終わり)
エコノミック・ヒットマンとは、発展途上国に入り込み、そこで経済近代化計画を売り込みながら、実際には途上国から利益を搾り取るための存在で、経済アナリストやコンサルタントをしています。ヒットマンですが、彼らは実際の武器を振り回すわけではありません。彼らが使うのは経済統計や経済モデル、プレゼンの資料などです。
彼らはアメリカの大企業に雇われ、でっち上げの経済近代化計画を発展途上国に持掛け、それを導入させ、結果として、アメリカの大企業に大きな利権をもたらします。その国の人々が豊かになることには関心がありません(表向きは「皆さんのお為ですよ」と笑顔を振りまきますが)。
エコノミック・ヒットマンの裏に気付く発展途上国のリーダーがやはり出てくるのですが、こうしたリーダーたちは、謎の死を遂げたり、政治的に失脚したりします。これを行うのが「ジャッカル」と呼ばれる人たちで、CIAの特殊工作員です。そして、このジャッカルでも手におえない場合は、アメリカ軍がその国を攻撃するということになります。パナマのマニュエル・ノリエガ将軍がその具体例です。
著者のパーキンスはひょんなことからエコノミック・ヒットマンの道に入り、大成功を収めますが、自分のやっていることに疑問が生じ、30代には引退することになりますが、その後もコンサルタントや顧問という形でエコノミック・ヒットマンの世界に関わることになりました。
彼の物語を荒唐無稽の話と切り捨てることも可能です。しかし、南米で1970年代に生まれた「従属理論(Dependency Theory)」や、イマニュエル・ウォーラスティンの「世界システム論(World Systems Theory)」は、こうした現実を説明するための理論です。「発展途上国はどうして発展途上国のままなのか、資源もあって、国民も決して怠惰という訳ではないのに」という疑問に対して、「それは先進諸国が発展党上告をそのままにして利権を貪りたいからだ」ということが答えになります。また、こうした発展途上国には、国内に先進諸国の利権に奉仕する人々が出てきます。こうした人々は「買弁(comprador)」と呼ばれます。こうしたことは、2012年5月に私が出しました『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)でも詳しく説明しています。
『エコノミック・ヒットマン』では、世界覇権国・世界帝国のアメリカと発展途上国の関係について上記の諸理論でも説明される事象の実際面が詳しく描かれています。それでは、アメリカと日本の関係はどうでしょうか。大きく言えば、「日本はアメリカの属国(client state)である」という点では、この本に出てくるパナマ、エクアドル、インドネシアなどと構造は変わりません。
「日米関係だけは別だ。世界で最も緊密で平等な同盟関係だ」と考え、沖縄やアメリカ国債の問題などが見えない方々には、この本の話は荒唐無稽なおとぎ話ということになるでしょう。
(終わり)