古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:憲法改正

 古村治彦です。

 今回も海外メディアで紹介された安倍晋三元首相に関する記事をご紹介する。2つの記事は「安倍晋三元首相の業績を評価する」内容である。簡単に言えば、アベノミクスで日本経済を回復させた、日本を「普通の美しい国にする(アメリカの下で戦争ができる国にする)」という目標をある程度達成した、インド太平洋地域の安全保障の枠組みを作るために、インドを引き込むことに成功した、中国との関係は冷え込んだ(対立が激化した)、憲法改正に向かって精力的に動いていた、日本憲政史上最長の在任記録を達成した、自民党最大派閥の領袖としてキングメイカーとして力をふるうところだったなど、である。

 ロシアとの関係(北方領土問題の解決を目指すもうまくいかず)、北朝鮮との関係(北朝鮮のミサイル開発は進み、日本人拉致問題は解決せず)のような「負の遺産」については書かれていない。これらの記事は言ってみれば「礼賛記事」である。

 分析として興味深いのは、安倍元首相が頑固な「ナショナリスト」から「国際主義者(internationalist)」へと臆面もなく進化したことと書かれている点だ。ナショナリストというのはアメリカからすると嫌われる。ナショナリズムを突き詰めていくと反米に貼ってしまうからだ。安倍晋三元首相を中心とする「歴史修正主義(revisionism)」や「核武装論」はアメリカにとって受け入れられるものではない。そうしたところをバランスを取りながら、アメリカに利用されてきたのが安倍晋三元首相だったと私は考えている。アメリカにとっては、防衛予算を増やしたり、自衛隊を海外で「使いやすく」したりしてくれるという点では便利な人物であるが、歴史修正主義や核武装に関してはそんなことは許さないというところだっただろう。

 安倍元首相の逝去で日本政治はこれから変化していくだろう。それだけの存在感があった。どのように変化していくかを注視していく。

(貼り付けはじめ)

安倍晋三元首相はいかにして日本を変えたか(How Shinzo Abe Changed Japan

-暗殺された元首相は複雑な遺産を置いていった。

トバイアス・ハリス筆

2022年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/08/shinzo-abe-assassinated-obituary-japan-legacy-abenomics/

安倍晋三元首相は、2007年9月にそのキャリアを終えるはずだった。2007年7月の参議院選挙で自民党を惨敗させ、首相就任からわずか1年で辞任を余儀なくされた安倍首相自身、かつて期待された政治生命が終わったという見方を広く共有していたようだ。

しかし、その5年後には自民党のトップに返り咲き、2012年12月に劇的な首相への返り咲きを果たす。そして2020年9月、7年8カ月という記録的な在任期間の後に首相の座から退いた後、自民党最大派閥のリーダーとして、また世界の中でも有名な政治家として、日本政府の方向性を左右する並外れた力を持つ、キャリアの第3幕が始まった。

こうして日本の権力の頂点に立った安倍首相は7月8日、参議院選挙を控えた自民党候補の応援演説中に、暗殺者が仕掛けたショットガンの2発の爆風に倒れ、その生涯を閉じた。

安倍首相は、政治家として名高いが毀誉褒貶の激しい一族の出身であり、このような高みに上り詰めたのも当然のことだった。しかし、安倍首相は決して権力そのものに興味があったのではない。1990年代に政界入りした彼は、祖父であり元首相の岸信介からの使命を受け継いだ。それは、日本の政治家たちの助けを受けながら、米国が世界舞台で力を発揮するために課した制約、とりわけ戦後憲法と「平和」条項による日本の軍事力制約を取り除くことだった。

1990年代初頭、冷戦の終結とバブルの崩壊により、独りよがりだった政治分野のエスタブリッシュメントたちは力を失い、安倍元首相をはじめとする若い保守派政治家たちが、「戦後レジームからの脱却(break] away from the postwar regime)」の好機ととらえ、第一次政権時にそれを押し出した。

新しい保守主義者たちは、日本の国家を根本から変えようとした。戦後、内閣の中でかろうじて「同輩中の首席(first among equals)」であった首相の権力を強化しようとした。また、政府の危機管理能力を強化するために、本格的な能力を持つ防衛省、首相直属の安全保障会議など、確固とした国家安全保障体制を構築しようとした。官僚や国会議員の権力を制限した。彼らは国益を犠牲にして自分たちの狭い利益を追求しようとしてきたからだ。そして、アメリカや他のパートナー諸国と一緒に戦うことのできる適切な軍隊を日本が持つことを妨げている制約を緩めようとした。

しかし、安倍元首相がこのプログラムに欠けていたもの、すなわち経済力を身につけたのは、2007年の首相退陣後、荒野に身を置いてからである。

2006年の首相就任後、安倍元首相は経済政策の知識と経験が乏しいことを認めた。他の民主政治体制国家の有権者たちと同様に、日本の有権者たちもまず経済問題に関心を持つことを考えると、これは致命的な欠点である。2009年の自民党の大敗後、野党に戻った安倍首相は、日本経済の停滞という問題を真剣に考えるようになった。

日銀が長引くデフレーションにもっと積極的に取り組むことを望む経済評論家たちと力を合わせ、「全く新しい次元(an entirely new dimension)」の金融刺激策、拡大する財政政策、ハイテク分野への生産シフトと日本の労働力減少を遅らせるための産業・労働・規制政策の数々を盛り込んだ、後にアベノミクスとして知られるようになるプログラムを作成した。

批判者たちの中には、安倍首相がアベノミクスを自らの政治的野心を隠すためのイチジクの葉(fig leaf)として日和見的に利用していると批判する人たちもいるだろうが、事実、アベノミクスは日本の成長課題に取り組むための真剣で、持続的、かつ柔軟な試みであった。しかし、それは安倍首相が成熟した考えを持つようになったことを示すものである。安倍首相は、若手議員の頃は軍事力やアメリカによる日本占領の象徴的な遺産に固執していたが、2回目に首相になると、国力の基盤である経済力を無視できないことを学んだのであろう。より競争力の高い世界で日本の将来を確保するためには、日本経済は新たな成長基盤が必要であった。

アベノミクスのおかげもあり、安倍首相は、最初の首相に続いた短期間の首相の回転ドアを終わらせ、2回目の政権で選挙後に選挙に勝つことができた。アベノミクスは、少なくとも何年にもわたる停滞した賃金を逆転させた。企業の利益、税収、観光客の流れを押し上げ、過去最高を記録した。失業率を下げて過去最低を記録することもできた。

安倍元首相の忍耐力は、国家安全保障会議を設立し、首相官邸に官僚の人事決定を集中させ、日本国憲法を再解釈して日本の自衛隊が集団的自衛隊に従事することを許可するという長年の野心を追求することを可能にした。憲法を改正するために、深刻ではあるが最終的には失敗した入札を開始する。

また、日米関係を強化するだけでなく、インドやオーストラリアといった地域のパートナー(日米豪印戦略対話の基礎を築いた)や東南アジアの主要諸国との関係を深めるなど、野心的な外交政策を追求することができた。また、アメリカが環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership TPP)から離脱した後、日本は地域および世界の経済統合を追求する上で指導的な役割を果たすことができた。

安倍元首相の数々の成功は新型コロナウイルス感染拡大によって弱められた。新型コロナウイルス感染拡大によって経済的利益が逆転させられ、日本の国家を強化し中央集権化する改革の限界を明らかにした。2020年8月に個人の健康上の理由で辞任したとき、彼は後継者に青写真を残したが、これまでのところ、国内外で力を行使することは、これを超えていない。

一方、安倍首相は、死ぬまで強力な政治力を発揮し、財政政策や防衛政策をめぐる今後の議論において中心的な役割を果たすことができる政治家としての資質も身につけていた。安倍首相の死は、岸田文雄首相たちが埋めるべき大きな空白を残した。

※トバイアス・ハリス:アメリカ進歩センターのアジア担当上級研究員。著書に『因襲打破主義者:安倍晋三と新しい日本』がある。ツイッターアカウント:@observingjapan

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安倍の遺産は彼を超えて生き続ける(Abe’s Legacy Will Outlive Him

-ワシントンは、日本をインド太平洋における真の安全保障上の同盟国にした人物を追悼している。

ジャック・デッチ、エイミー・マキノン筆

2022年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/08/shinzo-abe-assassination-japan-indo-pacific-security/

日本の安倍晋三元首相は金曜日、奈良市で自身の政党の選挙運動中に銃撃され、死亡した。戦後の平和主義から脱却し、日本の安全保障体制、特にインド太平洋地域において、日本とその同盟諸国が自己主張を強める中国に立ち向かうために結集する中で、日本で最も長く首相を務めた人物が、東京に不滅の影響を残しているのだ。

安倍首相は4期にわたって政権を担当し、1年生き延びるのがやっとの首相もいるような不安定な政治状況の中で、2度目の政権を約8年間務めた。中国の台頭に対してより厳しい姿勢とより強気の防衛費に向けて、寡黙な日本国民を説得し、日本の軍事力を強化するとともに、クアッド(Quad)として知られる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)の見直しに向けたレトリックの土台を構築した。

ランド研究所で東アジアの安全保障問題を専門とする政治学者のジェフリー・ホーナングは、「安倍元首相は日本の外交政策と国際舞台での日本の役割を大きく前進させた。彼は、クアッドや自由で開かれたインド太平洋といったものを提唱した人物だ。彼は、崩壊しそうな時に提供される必要があったものに、構造的、概念的なアイデアを提供するのを助けた」。

日本は1990年代の「失われた10年(lost decade)」に埋没し、安倍元首相が登場するまでは、大局的な戦略的思考から遠ざかっていた。しかし、安倍元首相が「アベノミクス」と呼ばれる金融緩和政策と財政出動のカクテルで、かつて強力だった日本経済を超高速で(ワープスピード、warp speed)に戻そうとするにつれ、東京の戦略予測は変化しはじめた。

安倍元首相は、中国をあからさまに刺激することなく、非同盟のニューデリーを対話に誘い込むために、太平洋の安全保障についてインドを含めて拡大することに中心的役割を果たした。2007年、安倍首相は短い任期中に初めてインドを訪問し、インド洋と太平洋の間の「二つの海の合流点(confluence of the two seas)」についての構想を演説し、後にアメリカが採用した「自由で開かれたインド太平洋」の基礎となるヴィジョンを示した。また、2004年のインド洋大津波をきっかけに非公式に発足し、後に地域安全保障フォーラムとして再構築された「クアッド(Quad)」の立役者としても広く知られている。

オバマ政権時代に副大統領として安倍元首相と仕事をしたジョー・バイデン米大統領は、金曜日に声明を発表し、「安倍元首相は日米同盟と日米両国民の友情の擁護者であった。日本の首相として最も長く在職し、自由で開かれたインド太平洋という彼のヴィジョンは、今後も続くだろう」と述べた。

安倍元首相は、戦犯を含む第二次世界大戦の日本軍を祀る神社を参拝して批判を浴びた強固な日本のナショナリスト(nationalist)から、臆面もなく国際主義者(internationalist)へと進化した。アメリカの元政府高官や専門家たちは、安倍元首相の影響は太平洋を越えて波及していると考えている。安倍は、アメリカの権力の回廊でこの地域について語られる方法に、紛れもない影響を及ぼした。2017年、日本の政府関係者は安倍元首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想をワシントン周辺で喧伝し、非同盟のインドを惹きつけようとした。このフレーズは、今やバイデン自身のトークポイントの主力となっている。そして米防総省は2018年、この地域の最高軍事司令部の名称を米太平洋軍から米インド太平洋軍に変更したが、これは安倍首相の影響力を証明するものである。

米インド太平洋軍司令官と駐韓アメリカ大使を務めたアメリカ海軍の四つ星提督(退役)ハリー・ハリスは次のように述べた。「国際的に日本が置かれている状況は、安倍元首相に一直線に戻ることができると思う。難しいことはないだろう。安倍元首相は日本と同盟にとって変革のリーダーだった。インド太平洋の両側で多くの人が彼を惜しんでいることだろう」。

戦後、アメリカ軍に占領された日本の憲法は、帝国日本の軍国主義への回帰を防ぐために平和主義を謳い文句にした。しかし、2015年には、自衛のための限定的な武力行使を容認する法案が国会で可決され、戦争の悲惨さを思い知る国民を前に、安倍首相は長年の目標であった戦争放棄の条文を削除することに失敗した。安倍首相は、国家安全保障会議の設置、2013年の日本初の国家安全保障戦略の採択、首相官邸での意思決定の一元化など、日本の安全保障機構を一新する一連の制度改革を推進することに成功した。

安倍元首相は第二次世界大戦の遺産を過去のものにしたいという願望を持っていたが、批判的な人々から、安倍元首相は歴史を修正し、戦時中に日本軍が行った残虐行為を軽視していると頻繁に非難された。そのプラグマティズムにもかかわらず、安倍首相は日本の最も重要な安全保障と貿易のパートナーの1つである韓国との関係をほぼ冷却化し、戦時中の韓国人奴隷労働者の利用をめぐって日本に8万9000ドルの賠償金を支払うよう求めた韓国の最高裁判決をめぐって、2018年に貿易戦争を開始した。

安倍首相が2度目の政権に復帰した2012年、前任の野田佳彦元首相が、中国が釣魚島と呼ぶ東シナ海の尖閣諸島の領有を主張し、激しく争う国有化を決めたことで、日本の中国との関係はどん底に陥っていた。安倍首相の在任期間中、関係は冷え込んだままだった。当時のバラク・オバマ大統領は、尖閣諸島での戦闘を含めて、アメリカの日本に対する安全保障上の関与を再確認した。

ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター長のミレア・ソリスは、「アメリカがこの地域に完全に留まっていることを確認することが中心だった。安倍元首相は、中国が覇権を握るアジアでは日本は生きていけないと強く感じていた」と述べている。

それは、自由で開かれたインド太平洋を維持しようとする彼の努力と、インド、アメリカ、オーストラリアとのクアッドへの関与を裏打ちするものであった。多くの同盟国との関係を緊張させたトランプ政権の間、安倍首相はニューヨークへ飛び、就任前にトランプと会談するなど、魅力攻勢(charm offensive)を仕掛けた。

安倍首相は、アメリカの政策立案者の頭の中にあった太平洋とインド洋の結合、地域の同盟関係の拡大について努力し、国内では平和主義者の日本が、インドは形式的に軍事的に非同盟のままでインドを仲間に引き入れるという利益を得た。

ランド研究所の専門家であるホーナングは、「中国に反発していると口先だけで言うのではなく、実際に中国に反撃することができる。自由と透明性の原則を守るだけで良い。日本政府は決して言わないだろうが、中国の影響力を抑制し、中国に一度も言及することなく中国のやっていること全てに反撃しようとする戦略であり、実に巧妙であった」。

2020年の驚きの退陣後も、安倍首相は台湾を擁護する発言をし、2020年12月には中国が台湾に侵攻すれば「経済的自殺行為(economic suicide)」と警告するなど、日本政界で力を発揮していた。2022年4月の『ロサンゼルス・タイムズ』紙への寄稿では、台湾とウクライナの類似点を強調し、アメリカの戦略的曖昧さの立場が成り立たなくなったと主張した。安倍元首相は「今こそアメリカは、中国の侵略計画から台湾を守ることを明確にしなければならない」と書いている。

そして、安倍元首相は殺害される前、日本政治のキングメイカーとなるべくしてなった。専門家や政府高官たちは、安倍首相の影響力はまだ残っていると考えている。この10年余りの間に、日本はGDPの2%を防衛費として使うようになった。何十年もの間、その半分を使うのがやっとだった日本にとって、これは急な変化である。また、日本は軍事的により攻撃的な方向へと舵を切り続けている。安倍首相の後継者である岸田文雄首相は、敵対勢力に対する先制攻撃という、ほんの数年前までは考えられなかったことを言い出している。

ホーナングは次のように述べた。「安倍首相は、中国を問題視して危険信号(赤旗、red flag)を掲げた最初の人物だ。防衛の問題だけではない。経済的な問題でもある。外交問題でもある。政府全体の問題なのだ。そういう意味で、安倍首相は実にユニークで、自衛隊のこれからのあり方を示してくれた」。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント: @JackDetsch

※エイミー・マキノン:国家安全保障・情報分野担当記者。ツイッターアカウント:@ak_mack

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2015-12-09




アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 先日の大阪のW選挙(大阪府知事選挙、大阪市長選挙)では大阪維新の会が勝利を収めました。この時のW選挙では、大阪維新の会対自民・民主・共産(公明党は自主投票)という奇妙な構図になりました。自民党は連日、大臣クラスを選挙応援に派遣していたのですが、一枚岩の感じはなく、官邸は大阪維新の会を間接的に支援しているかのように見えました。また、連立与党のパートナーである公明党が自主投票に回るということもあって、自公が一枚岩で大阪維新の会に対峙するという感じはありませんでした。

 

 下に貼りつけた毎日新聞の記事は、官邸(菅義偉官房長官)と自民党(谷垣禎一幹事長)との間の分裂が起きているようです。この記事では、軽減税率のことが焦点になっているようです。公明党は軽減税率を導入したい、連立を組んでいる安倍政権はそれを何とかしてあげたい、しかし、財務大臣の経験もある谷垣氏は財務省の意向もあって反対している、ということだそうです。

 

 私はこの分裂はもっと大きな問題にまで波及すると考えます。それは憲法改正問題です。安保法制も成立した今、安倍政権が目指すものは憲法改正です。公明党は平和の党とは言いながら、その実態は既に自民党に従属するだけの政党になってしまっており、憲法改正、具体的には憲法第九条改正に関しても理屈をこねて見ないふりをして、彼らの考える実利を取るという方向に行くと思われます。

 

 そして、大阪維新の会がW選挙で勝ったことで、来年の参議院議員選挙とそれ以降の動きが激しくなりそうです。具体的には、橋下徹氏が国政に進出、ということで大阪維新の会が大阪や関西を中心に票を伸ばしつつ、公明党の現職は通すという方向になるでしょう。衆議院との同日選挙ということも言われているようですが、同日選挙では与党が強いですから、自民党、公明党、そして大阪維新の会と、自民党にすり寄るいくつかの野党が衆参でそれぞれ3分の2の議席を獲得するというシナリオが描かれているでしょう。

 

私は、憲法改正に向けた動きを「2016年問題」と名付けて2014年の段階で重大な問題であると書きました。

 

※2014年1月7日付 「【再掲】2016年問題と言ったほうがよいかもしれない」

http://suinikki.blog.jp/archives/1328800.html

 

 この時はまだ、「憲法改正には時間がかかる」と考えていました。しかし、どうも事態はかなり急激に動いているようです。来年の参議院選挙、憲法改正まで進めさせるかどうかの大変重大な選挙となります。野党の結集もままならない状況で、改憲勢力が衆参3分の2の議席を占めてしまう危険性が高まっています。その中で、自民党からいくらなんでもこうした動きに反対するという人々が出てくれば良いのですが、それも期待薄です。日本は益々危険な方向に進みそうです。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

自民党:菅官房長官と谷垣幹事長、関係ぎくしゃく

 

毎日新聞 20151126日 2139分(最終更新 1127日 0002分)

http://mainichi.jp/select/news/20151127k0000m010119000c.html

 

 自民党の谷垣禎一幹事長と菅義偉官房長官の関係がぎくしゃくしている。軽減税率に関する与党協議では、安倍晋三首相が24日に行った指示を巡り、谷垣氏が財源規模への言及があったとにおわせる一方、菅氏は明確に否定した。2人は安倍政権を支える「両輪」だが、大阪ダブル選でもすきま風が吹いたばかりで、与党幹部は政局への影響を注視している。【高本耕太、野原大輔】

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 「具体的な数字は言っていない。首相に確認した」。菅氏は25日の記者会見で首相指示の内容を問われ、こう言い切った。自民党が想定する4000億円の枠にこだわらないとの意思表示だ。官邸関係者によると、首相は「ない袖は振れない」としつつ、財源や対象品目は与党協議に任せる意向という。

 

 ただ、軽減税率に慎重な自民党側には、頭越しの菅氏の言動に反発が少なくない。24日の首相指示は谷垣氏と宮沢洋一税調会長に直接出され、両氏は4000億円を前提とした指示との認識を示している。税調幹部は「宮沢氏は会見前に発言内容を首相とすりあわせた」と強調する。

 

 菅氏の念頭にあるのは来夏の参院選だ。勝利して長期政権を築くには、公明党の支持母体・創価学会の支援が不可欠だ。学会側と独自の人脈がある菅氏は、周囲に「自民党の主張で押し切れるものではない」と発言。公明幹部も「菅さんはすぐれた勘を持っている」と持ち上げる。

 

 元財務相の谷垣氏らにとって、1兆円規模の財源が必要な公明党の主張はのめない内容だ。ただ、安倍政権では昨年の消費再増税の延期判断など、既定路線が覆されてきた経緯がある。首相指示を盾に公明党に譲歩を迫る谷垣氏の思惑は崩れ去り、自公両党の対立が激しくなるほど、官邸の求心力が増す構図になっている。

 

 菅氏の強気の背景には、政局の主導権を首相官邸で握り続ける思惑がありそうだ。大阪ダブル選で自民党と対立する大阪維新の会に秋波を送ったのも、首相に近い橋下徹大阪市長との「連携カード」を手に、与党をけん制するためだ。

 

 それでも軽減税率協議は難航しており、公明党内では「2017年4月の消費再増税の見送りもあり得る」との声が漏れ始めた。与党内では「伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の成功の余勢を駆って衆院解散を狙うのでは」との見方があり、来年の通常国会会期末の衆院解散と衆参同日選を予想する声も出ている。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 

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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 安倍安保マフィアの中心人物である礒崎陽輔参議院議員(自民党)兼首相補佐官はツイッターで積極的に発言し、世論をリードしようとして、時々「立憲主義という言葉は聞いたことがない(最高学府である東京大学法学部を卒業しているのに)」と書いたり、女子高生にたしなめられて逃げ出してしまったりするような、安倍氏周辺に多い、おっちょこちょいな人物です。

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 昨日、礒崎陽輔参議院議員は地元の大分で国政報告会を行ったそうで、この会での発言の要旨が朝日新聞に掲載されていました。礒崎議員は東大法学部では立憲主義は習わなかったようですが、どんなことでも正当化できる、白を黒と言いくるめる魔法の話術である東大話法(安富歩東京大学教授の言葉)と、何を言っているのか一般人には理解できないが、それで一般人を「統治してあげる」ための「霞が関文学」については第一人者のようです。簡単に言うと、詭弁を弄して自分を正当化することに長けているのです。

 
abenamaniku001
 

 礒崎議員の論旨は「憲法9条では必要最小限度の自衛権は認められている。時代が変わったから集団的自衛権でも日本を守るために良いものだ。日本を守ることに良いことを日本国憲法がダメと言っている訳がない」というものです。彼が言う時代が変わっているというのは具体的には中国を想定しています。先日の安倍首相のテレビ出演でも説明の地図で、中国の地図の上にはドクロをあしらった海賊の旗が付けられていました。中国が攻めてくるというのなら、領土領海領空の範囲内で専守防衛の自衛権を発揮すれば済むことです。アメリカ軍も日本に基地を置いている(これだけでアメリカの世界戦略に資している訳ですから片務的ではない)のですから、アメリカ軍も作戦行動を取るでしょう。中国にも日本と同じくらいにアホがいて、「日本をやっつけたい、アメリカと戦いたい」と病的に思っているでしょうが、そんなのが力を持たないようにしているでしょう(日本ではどうもそうではないですが)。

 

 集団的自衛権となれば、どうしても自衛隊の海外派兵ということになります。その際には「安全な」後方勤務、具体的には物資輸送や傷病兵の看護などになるでしょうが、テロ組織とテロ攻撃の遍在性(どこにでもいることができる)を考えると、派兵となり、相手側から見て「敵」「侵略者」と見なされた時点で、「安全な後方」などと言うものは存在しません。ですから、集団的自衛権が「日本を守るために良いもの」とはなりません。

 

 日本国憲法を読めば確かにどこにも「日本国の領土領海領空を越えて軍隊を出してはならない」と書いていませんが、その前提となる軍隊を持たないと書いている訳ですから、存在しない軍隊は外に出すことはできません。存在しないんですから。ただ、芦田均、吉田茂と金森徳次郎の一種の姦計で、自衛のための必要最小限度の戦力は持つことが出来るという解釈も成り立つようになり、それで自衛隊が置かれているのですが、政府はこれをずっと「軍隊ではない」と言ってきました。

 

 日本が攻撃されていないのに同盟関係にある国が攻撃されて、日本が攻撃されたと見なして自衛隊が海外に出てその国のために戦うというのは、日本の役割ではありません。帝国の存立を守るための自衛権の行使という名目の下でなぜか南太平洋、インド洋、北太平洋、中国にまで堂々とかつ姑息に攻め入った過去を持つ日本が行う役割ではありません。「良い・悪い」の問題に礒崎議員はしていますが、これは、最後は個人の判断になりますので、私は「悪い」と判断します。そして、礒崎議員は「日本にとって良いことを日本国憲法がダメというはずはない」と言って、憲法にその責を負わせようとしていることに憤りを覚えます。憲法を大切にしているように見えて実はそうではない、これが東大話法+霞が関文学の真骨頂です。その証拠に彼は憲法改正についても言及しています。

 更には「法的安定性は関係ない」という発言もしています。現実の前には憲法など蔑ろにされても良いということですが、これは太平洋戦争中に総理大臣・陸軍大臣・参謀総長を兼ねた東条英機と同じ心性です。憲法上問題があっても、現実はひっ迫しており、憲法を蔑ろにする方策を実行するとということです。このように書くと、「憲法を守って国が亡んでもよいのか」という極論を言う人が出てきますが、現在の日本国憲法で十分に対処できることに対して、脅威の過度な強調(exaggeration of threat)を行い、憲法を骨抜きにする一種の「クーデター」の方がよほど亡国の行為といえます。 

 

 礒崎議員は来年の参議院議員選挙で勝利し、自民党だけで参議院の過半数を握り、憲法改正を進めたいとしています。いよいよ憲法を改正して、よりアメリカの属国化とアメリカの肩代わり(アメリカ陸軍は4万人削減し、米軍全体の予算も削減されます)を進めようとしています。来年改選を迎える自民党議員は49名(選挙区12名、比例:37名)ですが、この数を57名にすると自民党の単独過半数となります。私は自民党の単独過半数、そして、自公での過半数は憲法改正の一里塚になりと思いますので、それは何とか潰えて欲しいと考えています。「何か危険だな」「自民党感じ悪いよね」「公明党は何をやっているのか」と思われる皆さんには是非投票を、出来たら自公と維新や次世代以外に投票して下さることを願っております。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「憲法解釈変更「法的安定性は無関係」 礒崎首相補佐官」

 

朝日新聞電子版 20157261904

http://www.asahi.com/articles/ASH7V5T5MH7VULFA004.html

 

■礒崎陽輔・首相補佐官

 

 憲法9条全体の解釈から、我が国の自衛権は必要最小限度でなければならない。必要最小限度という憲法解釈は変えていない。

 

 政府はずっと、必要最小限度という基準で自衛権を見てきた。時代が変わったから、集団的自衛権でも我が国を守るためのものだったら良いんじゃないかと(政府は)提案している。考えないといけないのは、我が国を守るために必要な措置かどうかで、法的安定性は関係ない。我が国を守るために必要なことを、日本国憲法がダメだと言うことはありえない。

 

 本当にいま我々が議論しなければならないのは、我々が提案した限定容認論のもとの集団的自衛権は我が国の存立を全うするために必要な措置であるかどうかだ。「憲法解釈を変えるのはおかしい」と言われるが、政府の解釈だから、時代が変わったら必要に応じて変わる。その必要があるかどうかという議論はあってもいい。

 

 来年の参院選は、憲法改正が絡む話でしっかりと勝たなければならない。参院もできれば、自民党で単独過半数を取りたい。その中で憲法改正を有利に進めたい。(大分市での国政報告会で)

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)










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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 

 古村治彦です。

 

 アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に小野寺五典代議士(自民党)・元防衛大臣(第二次安倍内閣、2012―2014年)のインタヴュー記事が掲載されましたので、ご紹介します。

 

 小野寺議員が韓国について懸念を持っていること、そして日本の防衛関係者たちがアメリカの無人戦闘機(ドローン)グローバル・ホークの導入を目指していることが分かります。

 

==========

 

「日本は独力で平和を守り、維持できない(‘Japan Alone Cannot Guard or Sustain Peace’)」

―フォーリン・ポリシー誌は日本の元防衛大臣と中国の平和的台頭に対峙するための日本国憲法の再解釈について語った

 

アイザック・ストーン・フィッシュ(Issac Stone Fish

2015年6月16日

『フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)』誌

http://foreignpolicy.com/2015/06/16/japan-alone-cannot-guard-or-sustain-peace-defense-minister-itsunori-onodera/

 

朝鮮半島での動乱について語る際、多くの人々は北朝鮮に言及するが、韓国に言及する人は少ない。

 

 しかし、2014年9月まで防衛大臣を務めた小野寺五典は、韓国政府の北朝鮮に対する「挑発的な」行動について懸念を持っている。

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 日本の国会議員である小野寺は、日本の防衛政策に深く関与している。その中には、日本国憲法の再解釈を巡る議論も含まれている。日本国憲法の再解釈が可決されれば、日本はより行動的な軍隊を派遣することが出来るようになる。

 

 6月15日、国会内の彼の事務所で、『フォーリン・ポリシー』誌のアイザック・ストーン・フィッシュが小野寺にインタヴューを行い、日本のドローン使用、朝鮮半島における緊張、中国が平和的に台頭すると確信しているかどうかについて質問した。

 

 インタヴューは通訳を介して行われた。そして、インタヴュー内容を明確にするために編集し、要約を施している。

 

 フォーリン・ポリシー誌:この5月、金正恩が国防部長を粛正した。貴方は、北朝鮮の不安定さについて懸念を持っているか?

 

 小野寺五典:金正恩は最近も北朝鮮の防衛に関わる幹部たちを粛正していると私は聞いている。状況を判断するのは難しい。こうした行動が金正恩の権力基盤を強化するのか、それとも北朝鮮の軍部内部に不安定さが存在するのでこうした出来事が起きたのか、判断できない。

 

 しかし、私が懸念を持っているのは、韓国から北朝鮮に対してのやや挑発的な態度である。

 

 韓国の朴槿惠大統領は現在、北朝鮮を標的にするミサイル発射テストの実施を考え、そのための調査を行っている。これは最近の新しい動きである。私たちの懸念は、これが北朝鮮に対する挑発にならないかということであり、挑発にならないように願っている。

 

 韓国国内における混乱と人々の不満からの反政府行動もあり、朴大統領の支持率は低下し続けている。私は朴大統領が強制的な手段に訴えないことを願うばかりだ。

 

フォーリン・ポリシー誌:憲法の再解釈に関する国会における議論の最新の内容について教えて欲しい。

 

小野寺五典:日本は単独で平和を守り、維持することはできない。従って、平和を維持する目的のために、私たちはアメリカとの同盟関係を深化させている。同誌に他国との友好関係を強化している。

 

 アメリカとの間には安全保障条約があり、アメリカは日本を日本とともに共同防衛する責任を負っている。

 

 その前提条件として、当然のことながら、日本の自衛隊は日本を防衛しなくてはならない。しかし、現在の法制上では、日本の自衛隊は日本を防衛するアメリカ海軍に対して十分な防衛を与えることはできない。

 

 実際、アメリカ海軍の船舶が攻撃されたとして、公海上でこの船舶を防衛することは集団的自衛権の行動であると見なされるであろう。

 

 そして、ある国がアメリカを攻撃し、日本の領空城を越えてアメリカに向けてミサイルを発射した場合、現在の法制上では、このミサイルに対して日本は反撃を加えることはできない。

 

 アメリカ海軍の船舶に対する攻撃が日本の安全保障に重大な結果をもたらすような場合にのみ、日本は集団的自衛権を行使することになるだろう。こうした制限された条件と状況の下でのみ、だ。

 

フォーリン・ポリシー誌:6月14日、私は国会の外に多くの人々が集まり、安倍晋三首相と彼の憲法改正計画に抗議している様子を見た。アメリカ政府は日本政府がこの憲法再解釈計画を可決できないのではないかと考えるべきだろうか?

 

小野寺五典:この法案がある程度の時期を経て可決されることに何の問題もないと私は考えている。安倍首相が述べているように、この夏までに法案が可決されると私は確信している。遅くとも8月末までには可決される見込みだ。しかし、もしかしたら9月にまでずれ込む可能性もある。

 

フォーリン・ポリシー誌:日本が憲法改正に成功すれば、日本は中東地域においてアメリカを助けることが出来ると言えるか?

 

小野寺五典:憲法の再解釈によって、アメリカの中東での活動を日本が実質的に助けることが出来るようになると考えない方が良い。

 

フォーリン・ポリシー誌:外交儀礼として、日本政府は中国政府に対して憲法改正について連絡をしているのか?

 

小野寺五典:外交レヴェルで、日本政府は近隣諸国に説明をしており、その中には中国も含まれていると聞いている。

 

フォーリン・ポリシー誌:現在の日中関係は冷戦状態、もしくは冷戦状態に入る危険性を持っていると考えるか?

 

小野寺五典:その答えはノーだ。私は現在の状況を冷戦状態とは言えないと思う。しかし、日本だけではなく、他の複数の東南アジア諸国も中国の行動を注意深く監視している。

 

フォーリン・ポリシー誌:中国は「平和的な台頭」と「協調的な社会」を主張しているが、他の近隣諸国は中国を信用していると思うか?日本政府は中国を信用しているのか?

 

小野寺五典:他の近隣諸国も日本も中国を信用してはいないと思う。しかしながら、どの国も経済面においては中国と友好関係を築きたいと考えていると思う。

 

フォーリン・ポリシー誌:2013年9月に私たちは話し合ったが、それ以降、尖閣諸島を巡る状況は悪化しているのか、それとも改善しているのか?

 

小野寺五典:あの時点以降、何も変わっていない。中国の一般の船舶が複数回日本の領海内に入ってきてはいるが、中国海軍との間で事件は起きていない。

 

フォーリン・ポリシー誌:日本は現在、尖閣諸島のパトロールにドローンを使用しているか?

 

小野寺五典:最近、調査と監視を目的として普通の飛行機を使用している。現在のところ、日本が尖閣諸島のパトロールのためにドローンを使う計画を持っていないと思う。

 

 しかし、日本はドローンを有効に使用する意図は持っている。現在アメリカが使用している「グローバル・ホーク」を将来は導入することになるだろう。グローバル・ホークはより広い地域の調査とパトロールを行う際に有効である。

 

フォーリン・ポリシー誌:現在、中国は尖閣諸島のパトロールでドローンを使用しているのか?

 

小野寺五典:そうした動きが起きているというサインがあると私は聞いている。しかし、詳細については聞いていない。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


⑦最後に

 

 自民党の憲法改正草案には、微妙なしかも目に見えにくい仕掛けがいくつもしてあって、素人には見抜けない落とし穴がいくつもあります。憲法草案作りに参加した自民党の政治家たちの多くが高級官僚出身者たちです。官僚たちのずるい言葉遣いを「霞が関文学」と揶揄しますが、自民党の憲法草案はまさに霞が関文学の傑作です。こうした落とし穴に嵌らないために、プロによる解説や批判を読むことは大変に重要なことです。

 

自民党の改憲草案に対しての批判は、つまるところ、立憲主義についての無理解と人権擁護の後退・義務の強化にあると思います。立憲主義と人権擁護は憲法にとって普遍的な要素です。少なくとも世界の先進諸国と呼ばれる国々の憲法はこれらを根本要素にしています。自民党の改憲草案はそれらが欠如している、もしくは稀薄であるという点で、世界の普遍性を無視した憲法草案と言うことができます。

 

 安倍晋三首相や麻生太郎財務相(元首相)は「自由の弧」「価値観外交」という言葉を使います。同じ価値観を持つ国々で連携しましょうということですが、本当のところは中国包囲網をやりましょうという意味です。しかし、国の形(Constitution)を決めるのに、こうした復古調、世界の普遍的な要素を否定する日本に対して、世界の先進諸国が「同じ価値観を持っている仲間だ」と考えてくれるものでしょうか。私はそうは思いません。国の根幹が違うのに、仲間だと思ってもらえる訳がありません。

 

 自民党が提出している改憲草案は包括的なものですが、一番の狙いは現在の日本国憲法第9条を変更して、自衛隊の海外派兵を容易にし、その派兵先で戦闘行為ができるようにするというものだと私は考えます。憲法9条が落とすべき本丸で、他の復古調の部分はできたらやる、出来ることを期待していないという程度のものではないかと思います。これは、アメリカによる日米軍事力共同運用(自衛隊の米軍下請化)だけはどうしても進めたいということだと思います(アメリカとしてはその副作用で安倍政権みたいなのができて少し困っていると思いますが)。

 

 アメリカは現在、財政は厳しいですし、一番の金食い虫であるアメリカ軍を削減従っています。しかし、世界の覇権を逃したくはないし、台頭している中国にはアメリカ国債を買っては貰っているが、できたら台頭を抑えたい、少なくとも邪魔したいと思っています。そこにあるのが日本です。日本が自衛隊を米軍と一緒に動かせるようになれば、中国に対しての立派な「かませ犬」になります。アメリカは自国の軍事力の一部を日本に肩代わりさせることができます。そうした流れの中の改憲というのは正しいことでしょうか。私はそう思いません。今の憲法を変える緊急の必要性はないと考えます。

 

 日本国憲法には足りない部分はあるでしょう。それら改正すべきところを改正するのではなく、9条に的を絞った改憲というのは国民の多くが望まないものです。いくら危機を叫んでみても、国民もそこまで馬鹿ではありません。しかし、完璧でもありませんから、やはり冷静になってしっかりと自分の頭で考えるようになることが重要だと思います。ポイントをつかみ知識を得れば、それだけで自分たちのことを最終的に守ることになります。そして、どれだけ面倒くさくてもやはり考え続けること、疑い続けること(師である副島隆彦先生は常に疑うことを基本にし、弟子たちにもそのことを教えています)だと思います。

 

 憲法は英語でconstitutionと言います。このconstitutionという言葉には、日本語で「構造、構成」の意味があります。憲法は法律の中でも最高の「私たちが生きる国の形」を定めたものです。それが現実に合わなくなっているので変えることはあるでしょう。日本国憲法には憲法改正に関する条文があります。ですが、あまりに安易に変えることはできないようになっています。自民党はそれを変更し、9条を変更しようとしています。今の憲法下でベストを尽くすことなく、あらゆる手段を用いて、「衆議院と参議院の総議員数の3分の2の賛成を得て発議し、国民投票を行う」ということを行おうとしません。これまでもしてきませんでした。そして、憲法を変える要件だけを変えようとしています。

 

 繰り返しになりますが、憲法を変えた方が良い、憲法を変えない方が良いと色々な意見があります。私の周りでも自分の意見を述べる人はいます。それぞれ自分なりに考えた意見だと思います。ですが不誠実なやり方で憲法を変えるということは、改憲を主張する人々も望んではいないでしょう。なぜなら、そのような不誠実なやり方で変えられた憲法には正当性など存在しないのですから。
 

  

(参考文献)

 

小林節著『「憲法」改正と改悪 憲法が機能していない日本は危ない』(時事通信社、2012年)

伊藤真著『憲法問題 なぜいま改憲なのか』(PHP新書、2013年)

伊藤真著『憲法は誰のもの? 自民党改憲案の憲章』(岩波ブックレット、2013年)

小林節著『白熱講義! 日本国憲法改正』(ベスト新書、2013年)

小林節、伊藤真著『自民党憲法改正草案にダメ出しを食らわす!』(合同出版、2013年)

舛添要一著『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書、2014年)

 

(終わり)




 

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