古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:戦争

 古村治彦です。

 第二次世界大戦でアメリカは、現在の国連安全保障理事会常任理事国(米英仏中露)で連合国(Allied Powers)を形成し勝利を収めた。その後の冷戦(the Cold War)もソ連を倒して勝利を収めた。しかし、個別的な戦争では良い結果を収めていない。朝鮮戦争は引き分け、ヴェトナム戦争は敗北(撤退)、湾岸戦争は多国籍軍を率いて勝利を収めたが、アフガニスタン戦争やイラク戦争は泥沼の果てに撤退、現在のイラン戦争はイランの反撃(ホルムズ海峡封鎖やドローン攻撃)によって不利な状況に置かれている。アメリカ軍は世界最強であることは誰もが認めているところだ。そのアメリカ軍が戦闘(battle)では勝利を収めることができるが、アメリカとして戦争(war)で勝利を収めることができなのはどうしてか?

 アメリカの国益と戦争の目的がうまく合致していなかった場合に戦争に負けている。簡単に言えば、そこまで必死にならない、必死になれない戦争の場合には勝利を収めることができない。相手は必死だ。そして、各戦闘で負けても、戦争を引き延ばし、アメリカ側に多大の犠牲を強いることで、アメリカ国内に厭戦ムードを生み出し、アメリカが撤退に追い込まれるように仕向けるということになる。アメリカの国益という言葉は非常に曖昧で、使う人の考えが大きく反映される。国益ということを考えると、国家の安全と存続が最低限の内容になると考えられるが、アメリカは地理的に非常に恵まれている。敵対している国家と隣接しておらず、また、大西洋と太平洋に囲まれているのも大きい。国家の安全と存続を守りやすい。

しかし、超大国ということで、世界の平和にも責任があるという主張が出てくると、途端に事態が難しくなる。また、世界を平和に保つために、民主政治体制を拡散することを使命と考える一部エリートたちのために、積極的な海外介入が行われることで、かえって恨みや反感を買うということも起き、それが安全を脅かすということにもなっている。

 問題は、失敗する戦争が繰り返されることだ。どうして、戦闘で勝てても、戦争に勝てないのかということをアメリカのエリートたちが真剣に反省することが何よりも重要だ。

(貼り付けはじめ)

なぜアメリカは戦争に負け続けるのか(Why the United States Keeps Losing Wars)

-ワシントンは誤った目的のために誤った戦争を戦ってきた長い歴史がある。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年8月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/08/05/iran-trump-lost-wars-us-military-history-strategy-geopolitics/

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ジョージ・W・ブッシュ米大統領が空母エイブラハム・リンカーン艦上でイラクにおける主要な戦闘作戦の終了を宣言した(2003年5月1日)

この記事を読んでいるあなたがアメリカ人であれば、戦争に負け続けることにうんざりしているかもしれない。私自身もそうだ。「なぜこんなことが繰り返されるのか?」と自問することもあるだろう。これは興味深くも、同時に落胆させられる謎だ。アメリカは何十年にもわたって世界最強の国であり続け、その軍事予算や純粋な軍事力は他国の追随を許さないものだが、近年の戦績は敗北続きだからだ。これには、ドナルド・トランプ政権が掲げた目標を何一つ達成できていないばかりか、イランを戦略的により有利な立場に立たせて終わる可能性が高い、現在のイランとの戦争も含まれる。

敗北した戦争のリストを見てみよう。朝鮮戦争は引き分けでした(これについては後述する)。ヴェトナム戦争は明白な敗北であり、2003年のイラク戦争やアフガニスタンでの「終わりのない戦争(forever war)」も同様だ。1999年のコソヴォ紛争も、決して勝利とは言えない。セルビアは、戦闘開始前に提示された条件よりも有利な条件で終戦を迎えたからだ。1983年の小さな島国グレナダへの侵攻(圧倒的な戦力差があり、戦争と呼ぶのもはばかられるような事案だ)を含めない限り、この数十年間でアメリカが収めた唯一の明白な勝利は、1991年の湾岸戦争だけだ。もちろん、アメリカと同盟諸国が冷戦に「勝利(win)」したことは承知している。しかし、それは例外と言えるでしょう。なぜなら、冷戦はソビエト連邦との直接的な武力衝突を伴わない「戦争(war)」だったからだ。

なぜアメリカはこれほどうまくいかないのか? 資金不足が原因でないことは明らかだ。アメリカの国防予算は巨額であり、連邦議会も求められればいつでも追加予算を承認してきたからだ。火力不足でもない。アメリカは、自国の領土から遠く離れた場所であっても、標的を破壊することにかけては依然として驚異的な能力を発揮するからだ。ドナルド・トランプ大統領とピート・ヘグセス国防長官が、イランとの愚かな戦争で高性能ミサイルの備蓄を浪費してしまったため、その能力は現在いくぶん低下しているかもしれない。しかし、勝利を収められない理由を説明する要因としては不十分だ。アメリカ軍の勇気が足りない訳でもない。アメリカ軍は、しばしば英雄的な行動をもって、自らを危険に晒すことを厭わない姿勢を持ち続けている。そして、あの「負ける」戦争担当長官(secretary of (losing a) war)がどう考えていようとも、アメリカ軍に十分なテストステロンが欠けているからなどでは決してない。

実際のところ、アメリカが戦争に負け続けている真の理由は、戦略的かつ構造的なところにある。アメリカはこれまで、自国のささやかな国益と、外国の社会をアメリカ流に作り変えるといった極めて野心的な目標とを組み合わせた「選択の戦争(war of choice)」を遂行してきた。その結果、敵対勢力はワシントンよりもはるかに強い決意で臨むことになる。彼らにとっては、自らの存続や、少なくとも独立と自律(independence and autonomy)の維持がかかっているからだ。一方、アメリカの場合は、望ましい目標ではあるものの、究極的には「死活的に重要」とまでは言えない目的のために戦っていることがほとんどだ。こうした状況下では、アメリカ以上に敵対勢力の方が、進んで犠牲を払う覚悟を持つのは当然のことと言える。非対称な紛争(asymmetric conflicts)の多くあるいは全てに見られるように、弱者が勝利するのは、戦場での決定的な勝利によってではなく、負けずに、強大国が泥沼(a quagmire)の状況に兵士や資金を投入し続けることの無意味さに気づくのを待つことによってだ。

この単純な構図は、近年の戦争の全てについて多くのことを物語っている。朝鮮半島において、アメリカは重要な国益を守ろうとしていた。もし共産主義勢力が朝鮮半島で完全な勝利を収めれば、アジアにおける冷戦の情勢に重大な影響が及ぶ恐れがあったからだ。しかし中国は、アメリカによる朝鮮半島統一の動きを自国の存亡に関わる脅威と見なし、その事態を阻止するために、最終的に少なくとも20万人の兵士(実際にはそれ以上だった可能性が高い)を犠牲にした。3年に及ぶ激しい戦闘の末、結果は実質的に引き分けに終わった。

ヴェトナムにおいてアメリカが直面したのは、ヴェトナム共産主義運動の激しいナショナリズムだった。それは、かつてフランスの植民地支配を打ち破り、決して根絶やしにできないことが証明されていた勢力だ。アメリカの指導者たちは、共産主義の勝利を阻止することが死活的に重要であると国民に説得することに、一時は成功した(主に「ドミノ倒し(falling dominos)」や「失われた信用(lost credibility)」といった誇張された恐怖を煽った)。しかし最終的には、終わりの見えない戦争に対して国民の反発が高まり、アメリカ軍の撤退を余儀なくさせ、ハノイの最終的な勝利への道を開くことになった。

イラクやアフガニスタンでの悲惨な結末も、同様の経緯をたどったものだった。サダム・フセインは絶えず問題を起こす人物だったが、2003年の時点ではすでに封じ込められており、兵器開発計画も雲散霧消し、911テロ攻撃への関与も皆無だった。したがって、中東地域を親米民主政治体制国家の海に変えようと夢見ていたアメリカのネオコンたちが何と言おうと、フセインを打倒することはアメリカの死活的な国益にはかなっていなかった。サダム・フセインの排除は容易だったが(これは彼が実際には大した脅威ではなかったことを明らかにした)、占領軍はすぐに強力な反乱勢力(a powerful insurgency)に直面することになった。この勢力は外国による支配に反対し、イランやシリアの支援を受けていた。両国とも、ワシントンの次の標的になることだけは避けたかったからだ。こうして、野心的に開始された選択の戦争は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。似た話は他にもあったのではないか?

アフガニスタンにおいても、無知、理想主義、そして戦略的重要性の低さが相まって、アメリカの戦争努力は最終的に破綻した。ワシントンがオサマ・ビン・ラディンとその庇護者であるタリバンを追撃したことには正当な理由があったが、アフガニスタンを西側式の民主政体国家に変えようと居座り続けたことが、「帝国の墓場(graveyard of empires)」という悪名にふさわしい社会からの激しい抵抗を招いた。結局のところ、反乱勢力にとっては「アメリカを追い出すこと」の方が、アメリカ側にとっての「反乱勢力を打ち負かすこと」(そもそもそれが可能だったとしても)よりも重要だった。そして最終的に、トランプ大統領(当時)とそれに続くジョー・バイデン大統領が、長らく無意味なものとなっていた紛争に終止符を打った。

ワシントンの芳しくない実績の中で、1991年の湾岸戦争は明白な例外と言える。厳密に言えば、この戦争も「選択の戦争(war of choice)」だった。アメリカ自身の安全保障に対する差し迫った脅威に直面することなく、イラクによるクウェート占有を容認することも可能だったからだ。しかし、イラクがクウェートとその石油収入を支配し続ければ、湾岸地域の勢力均衡(the balance of power)が懸念すべき形で変化する恐れがあった。また、ジョージ・H・W・ブッシュ政権は、こうした無抵抗のまま行われる侵略を成功させてしまえば、危険な前例を作りかねないと懸念していた。しかし極めて重要なのは、このケースではアメリカの目標がアメリカの国益と完全に合致していたという点だ。アメリカと同盟諸国はイラクをクウェートから排除し、イラクの軍事力を壊滅させ、さらに国連による徹底的な査察を課して兵器開発計画を解体させた。しかし、ブッシュは賢明にも「バグダッドへ進軍(go to Baghdad)」して政権を打倒する道を選ばなかった。そうすることは国連安全保障理事会による承認の範囲を超えるものであり、また、分断され反感を抱く社会を占領・統治することをアメリカに強いることになったからだ。アメリカの目的は国益と合致しており、ブッシュが戦争を迅速に終結させたことから、この戦争は極めて大きな成功を収めたものと正当に評価されている。

しかし、超大国が自国の利益と目標を整合させることは容易ではない。アメリカは圧倒的な力を持ち、客観的に見ても安全が保障されているため、国家の存亡に関わるような極めて重大な利益が脅かされる事態や、第二次世界大戦時にアメリカ国民が払ったような多大な犠牲を正当化できる事態は、そう多くは生じないからだ。同時に、アメリカの力と技術的優位性は、あらゆる場所への介入を容易にし、政策立案者たちに「紛争には容易に勝利できる」と思い込ませる要因にもなっている。まとめると、問題はアメリカが戦争に弱いということではない。問題は、アメリカが往々にして「間違った目的のために間違った戦争(fighting the wrong wars for the wrong objectives)」を行っていることにある。そうした行動は、アメリカの判断に対する同盟諸国の信頼を損ない、中国のような真のライヴァルとの競争をより困難にしている。

「終わりのない戦争」への反対を掲げ、自らを「平和の候補者(peace candidate)」と称した大統領の下でさえ、なぜこうした事態が繰り返されるのか? 理由は数多くがあるが、その1つとして、アメリカの外交政策エリート層が、自らの責任を認めたり過去の過ちから学んだりすることに依然として躊躇していることが挙げられる。この問題を如実に物語っているのが、ロバート・ケーガンが『レスポンシブル・ステイトクラフト』誌のインタヴューで語った内容だ。ケーガンは、トランプがイランとの戦争に踏み切ろうとした動きを公然と批判した点では評価されるべきだが、一貫してアメリカの外交政策における強硬姿勢を支持しており、2003年のイラク戦争を公に強く主張した人物の一人でもあった。イラク戦争が過ちだったかどうかを問われた際、彼は次のように答えた。「それが過ちだったと認めることに、どんな意味があるのか​​分からない。死者が生き返ることもないのだから」。さらに彼は、自身の最大の心残りは、あの戦争によって、彼が好むような「介入主義的な外交政策(interventionist foreign policy)」に対する国民の支持が低下してしまったことだと付け加えた。

外交政策に関わる人々の間で、現時点ではMAGA支持層の多くを含め)、過ちを認め責任を取ることへの消極的な姿勢が蔓延している限り、アメリカ人は失望を味わうことに慣れざるを得ないだろう。

訂正(2026年8月10日):本記事の以前のヴァージョンには写真のキャプションに不正確な日時が含まれていた。写真は2023年ではなく、2003年に撮影された。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 以下のスティーヴン・M・ウォルト教授の論考は、是非多くの方々に読んでいただきたい内容だ。タイトルの通り、「戦争は無意味(pointless)になってきている」という内容だ。冷戦期から現在まで、アメリカは多くの戦争を戦ってきた。大きな戦争で言えば、朝鮮戦争やヴェトナム戦争であるが、これらの戦争は多額の戦費を支出し、多くの人命を失いながら、勝利することはできなかった。最近で言えば、アフガニスタン戦争やイラク戦争、イラン戦争について評価をすると、敗北となる。アメリカは自分が必ず勝てると「事前評価」をしている国に対してのみ軍事行動を取っている。それなのに失敗続きである。例外は、ジョージ・H・W・ブッシュ政権下での第一次湾岸戦争である。この時はイラクをクウェートから排除するという目的を堅持し、それ以上に拡大しなかったこともあり、戦争を無駄に拡大せずに成功を収めた。アメリカは多くの戦争を戦いながら、目的を達成できず、かえって外交での方が成功を収めている。米中国交正常化やオスロ合意、イランとの核開発に関する合意などである。

 今回のイラン戦争について考えてみると、軍事力の面で言えば、アメリカが圧倒している。イランは中東地域に限れば、軍事大国であるが、それでもアメリカには遠く及ばない。しかし、世界にとって重要なチョークポイントであるホルムズ海峡を確保し、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派といった新イラン勢力を支援しながら、アメリカとイスラエル、ペルシア同盟諸国に揺さぶりをかけ、こちらも紅海の出入り口として重要なチョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡にも影響を与えるという戦術で、アメリカとイスラエルに対抗し、成功している。イランも国内数千カ所を攻撃され、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめとする最高指導層を殺害され、また、子供を含む多くの民間人にも犠牲が出ているが、崩れることなく、対抗している。ナショナリズムと宗教の強靭さとドローンやAIなどのテクノロジーの低コストがイランに味方をしている。まさに「アメリカは戦闘(battle)には勝っているが、戦争(war)には負けている」ということになる。
 アメリカや日本でも米中戦争を懸念するふりをして、使嗾している勢力がいる。しかし、米中戦争は最も無意味な戦争になるだろう。そして、日本がそれに巻き込まれて、唆されて、中国と軍事衝突するなどということも無意味である。

 19世紀のアメリカ、そして、現在の中国は戦争から遠ざかることで国力の充実に成功した。このことを私たちは教訓として拳拳服膺すべきである。そして、日本が日本国憲法で定めている「戦争放棄」、専守防衛こそはこの教訓に当てはまるものであるということを再認識したい。

(貼り付けはじめ)

戦争は無意味なものとなってきている(War Has Become Pointless)

-軍事紛争(miliary conflict)はこれまで常に存在してきた。それがもはや意味をなさなくなってきている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年7月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/06/war-iran-ukraine-israel-united-states-russia-pointless/

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アラスカ州アンカレッジでのロシアのウラジーミル・プーティン大統領(2025年8月15日);ワシントンでのイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2025年4月7日);ワシントンでのドナルド・トランプ大統領(2025年8月14日)

『戦争論(On War)』を読んだことがなくても、カール・フォン・クラウゼヴィッツの有名な格言「戦争とは他の手段による政治の延長である(war is the continuation of politics by other means)」は知っているかもしれない。彼の主張しているポイントは、戦争には常に明確な政治的目的が必要であり、その目的こそが戦略の選択や軍事力の行使のあり方を導くべきだということだ。望ましい政治的成果をもたらさない限り、戦場での華々しい戦果も無意味なものとなる。

私は最近この問題についてよく考えているが、現代世界における戦争はますます無意味なものになりつつあるのではないかと考え始めている。その様に述べるのにはかなりの躊躇がある。それは、戦争はコストが増大し、発生頻度は減るだろうという過去の予測は、ことごとく外れてきたからだ。例えば、1849年、ラルフ・ワルド・エマーソンは「戦争はもはや末期状態にあり、文明が野蛮に打ち勝つことが確実であるのと同様に、普遍的な平和もまた確実である(War is on its last legs, and universal peace is as sure as is the prevalence of civilization over barbarism)」と書いた。第一次世界大戦前には、ポーランドの銀行家ジャン・ド・ブロッホが、軍事技術の進歩によって戦争はあまりに危険なものとなり、「自滅という代償を払う以外には」不可能になりつつあると論じた。

同様の文脈で、1909年に初版が出版されたノーマン・エンジェルの『大いなる幻想(The Great Illusion)』は、相互依存関係(interdependence)にある以上、大国間戦争(great power war)がもたらすコストは、得られるいかなる利益をも上回るだろうと警告した。より最近では、ジョン・ミューラーやスティーヴン・ピンカーといった学者たちが、戦争は「時代遅れ(obsolete)」とまではいかなくとも「廃れつつある(obsolescent)」と論じたが、彼らの予想をはるかに超える規模の新たな紛争が勃発するのを目の当たりにすることになった。軍事史家の故マイケル・ハワードは、ミューラーの著書『破滅からの後退(Retreat from Doomsday)』の書評の中で、戦争が消滅しつつあるという記述を読んだ慎重な人物なら、「自分の防空壕がきちんと整備されているか確認するだろう」と皮肉を込めて述べている。

従って、戦争が消滅しつつあるとは私は言わない。戦争がなくなることはない。ただ、その無意味さが増しているだけだ。近年の歴史について考えてみよう。

第二次世界大戦以降、アメリカは数多くの戦争を行ってきたが、対等なライヴァルや他の大国を相手にした戦争はなかった。その代わり、強力な同盟国を持たない弱小国を相手に戦うことがほとんどだった。それにもかかわらず、1991年の第一次湾岸戦争や、1983年の強力なグレナダへの取るに足らない侵攻を除けば、その戦績は芳しいものではない。朝鮮戦争は引き分けに終わり、ヴェトナム戦争は明らかな敗北だった。湾岸戦争で勝利できたのは、アメリカが戦争を始めたのではなく、多くの同盟諸国の支援があり、そしてジョージ・H・W・ブッシュ大統領が「イラクをクウェートから追い出し、その軍事力を大幅に解体する」という限定的な政治目標を堅持するという賢明な判断を下したことが大きな要因だった。ソマリアへの介入は屈辱的な撤退に終わり、コソヴォ紛争は実質的に引き分け、そして現在「終わりのない戦争(forever war)」として知られるイラクやアフガニスタンでの紛争は、多大な犠牲を伴う敗北となった。ドナルド・トランプによるイランへの愚かな攻撃は戦略的な大失敗であり、支持者たちは必死になって(しかし説得力に欠ける形で)それを否定しようとしている。

これらの戦争のほとんどは、アメリカをより安全にしたり繁栄させたりするどころか、むしろ戦わなかった場合よりも悪い状況を招いた。このリストには、ピート・ヘグセス国防長官による、ラテンアメリカからの麻薬密輸容疑者を標的とした殺人を伴う作戦も加えられるだろう。この作戦は数十億ドルの費用を費やし、罪のない人々を殺害し、国際法に違反しているにもかかわらず、違法薬物の供給にはほとんど、あるいは全く効果を上げていない。一言で言えば、これらの戦争は無意味なのだ。

それでは、旧ソ連や今日のロシアはどうだろうか? 1979年のアフガニスタン侵攻は、ソ連の経済問題を悪化させ、最終的な崩壊の可能性を高めることになった大きな失策だった。2022年のウクライナ侵攻も同様に、多大な犠牲を伴う泥沼の戦いとなっている。4年にわたる戦争と数十万人の死傷者を出した末にウラジーミル・プーティンが得たものといえば、ウクライナの当初の領土の約20%に過ぎない。ロシアがこの戦争を始めた主な狙いは、ウクライナが西側諸国に接近するのを阻止することにあったかもしれないが、プーティンは自軍の能力、ウクライナ側の抵抗の粘り強さ、そしてキエフが他国から支援を取り付ける能力を明らかに読み違えていた。たとえこの戦争が、ロシア側の切実な安全保障上の懸念に一部起因していたとしても、今となってはその意義はますます失われているように見える。さらに忘れてはならないのは、シリアのバシャール・アサド政権を支えようとしたロシアの試みが結局は失敗に終わったこと、そしてアフリカ各地の独裁者への支援も、最近になって考えると、決して得策とは言えない状況にあるということだ。

イスラエルについて考えてみよう。イスラエルは数多くの戦術的勝利を収めてきたが、それらが永続的な戦略的利益をもたらすことはないようだ。ガザ地区でのジェノサイドはハマスを壊滅させていないし、幾度となく繰り返される爆撃やレバノン南部への再占領も、ヒズボラを排除するには至っていない。爆撃によって勝利を手にできるという信念は、イスラエルを安全にするどころか、むしろ「ならず者国家(a pariah state)」へと変貌させ、アメリカとの特別な関係を危うくしている。ヨルダン川西岸地区におけるパレスティナ人への継続的な不当な扱いに加え、イスラエルの戦争中毒(Israel’s addiction to war)は、近隣諸国の多くとの関係正常化を阻んでいる。本来なら、こうした国々との終わりのない戦争よりも、関係正常化こそがイスラエルの長期的な未来にとって遥かに有益なはずなのだ。(ちなみに、ハマスについても同様のことが言える。2023年10月7日にイスラエルに対して行った殺戮を伴う攻撃は戦争犯罪であり、パレスティナ独立国家の樹立という目標を前進させることには何も貢献しなかった。)

実際、どこを見ても、無意味な紛争の例ばかりを目にする。サダム・フセインは2つの戦争、イランへの侵攻と1990年のクウェート占領を始めたが、そのどちらも完全な失敗に終わった。スーダンやリビアの内戦における各勢力は、自国を疲弊させただけであり、最終的に勝利を収める側にとっても、それは「ピュロスの勝利(a pyrrhic victory、訳者註:損害ばかりが大きく割に合わない勝利)」となるだろう。サウジアラビアのイエメン介入は、数万人もの不必要な死者を出した以外には何の結果ももたらさなかったし、インドとパキスタンが時折繰り広げる国境衝突も、成功や決定的な成果とは程遠いものだ。長引くコンゴ紛争に至っては語り始めるのも嫌なほどだ。

その一方で、誰がうまくやっているだろうか? それは中国だ。それは、中国はこうした戦争の全てに関与せず、国内での国力増強(building power at home)に専念してきたからだ。科学と技術における支配の追求(pursuing scientific and technological dominance)、貿易、投資、多国間外交の場での関与、そしてグリーン技術の提供を通じて、世界的な影響力を築き上げてきた(building global influence through trade, investment, diplomatic engagement at multiple forums, and the provision of green technologies)。19世紀の大半を通じてアメリカがそうであったように、他の大国が破滅的な戦争で互いに消耗し合う間に、距離を置いて関与を避けるというのは賢明な戦略である(remaining aloof while the other major powers punch themselves out in ruinous wars turns out to be a smart strategy)ことが証明されている。

今は何が起きているだろうか? なぜ、クラウゼヴィッツの基準である、開戦者が明確な政治的目標を掲げ、それを妥当なコストで達成できたという基準を満たす戦争を見つけるのはこれほど難しいのだろうか? 考えられる理由は少なくとも4つある。

第一に、核兵器の存在が理由として挙げられる。主要大国(および一部の他の国々)にとって、核兵器を保有していることは、他国が自国に対して行える行動に明確な制約を課すことになる。核兵器は実際の戦争遂行にはあまり役に立たないが、他国による征服の試みを抑止する上では極めて有効だ。確かに、核保有国が攻撃を受けた例はある(1973年10月のエジプト・シリアによるイスラエル攻撃や、インド・パキスタン間の深刻な国境紛争など)。しかし、こうしたケースで攻撃を仕掛けた側は限定的な目標しか持っておらず、相手国を征服しようとは考えていなかった。核兵器の影が「決定的な勝利(decisive victories)」を不可能にするため、戦争の政治的目標は必然的に限定的なものとならざるを得ない。しかし、戦争で達成できる目標が限定的であれば、その目標達成のために国家が費やそうとするコストもまた、自ずと制限されることになる。

第二に、決定的な政治目標の達成をさらに困難にしているのが、現代のナショナリズムの力だ。ナショナリズムは、外国からの侵略者に対して社会が猛然と戦うよう駆り立てるからだ。アメリカはこのことをヴェトナム戦争で思い知らされたが、その教訓をすぐに忘れ、イラクやアフガニスタンで再び思い知らされることになった。プーティンもウクライナで同様の過ちを犯した。イスラエルのシオニストとパレスティナのナショナリストは互いに、相手側の国民的アイデンティティの強靭さや、自らの共同体を守るために戦う意志の強さを過小評価してきた。これこそが、あの紛争が最終的な解決を見ないまま続いている理由の1つだ。

第三に、戦争はますます無意味なものとなっているのは、グローバライゼイションと相互依存(globalization and interdependence)によって、国家は領土を拡大しなくても豊かになれるようになったからだ。アメリカは、グリーンランドのような地域を支配しなくても、そこに存在する資源や資産から利益を得ることができる。真に有望な機会があればアメリカ企業が投資を行えばよいし、あるいはそうした投資を行う外国企業とアメリカが貿易を行えばよい。また、アンドリュー・コーやジョナサン・マーコウィッツが示したように、たとえ(豊富な油田のような)極めて価値の高い領土を征服したとしても、すでに大規模かつ多様な経済を持つ国家にとって、そこから得られる経済的利益は比較的小さいものだ。極端な例を挙げれば、もし中国が台湾を円滑に併合したとしても、中国のGDP全体に上乗せされるのはわずか5%に過ぎない。これは決して無視できない数字ではあるが、それ単独で情勢を一変させるようなものではない。しかも台湾は、すでに高度に発展した経済を持っている。小規模な経済圏を持つ国では計算が異なるが、そうした国々にとっても、経済的利益のために領土を奪取するより、国内の発展を通じて豊かになる方がはるかに賢明な選択と言える。

注意:私は経済的な相互依存によって戦争が不可能になったと言わないし、ホルムズ海峡のような重要な地理的チョークポイント(chokepoints)を支配することが、一部の国家に強力な交渉力を与えるという事実を否定することもない。私が指摘したいのは、単に、国家にとって戦争よりも貿易を通じて目的を達成する方が一般的に容易だということだ。さらに、他国が「相互依存を武器化(weaponize interdependence)」できるという事実は、戦闘のコストを増大させ、大国を含むあらゆる国家にとって野心的な政治目標の達成を困難にする可能性がある。国家は今後も戦争を行うだろうが、だからといってそれが賢明な選択であるとはならない。

そして、テクノロジーとそれが現代の戦場に与える影響についても考える必要がある。F-35が誇る驚異的な技術力や、アメリカやイスラエルなどが実施する複雑な諸兵科連合(combined arms、訳者註:歩兵、戦車、航空機など異なる兵科を連携させ効果を向上させる戦術)作戦の能力に目を奪われるあまり、戦争の様相が、一見して圧倒的に優勢な敵を相手にする場合であっても、徐々に地元の防衛側に有利な方向へと変化していることを見落としてしまいがちだ。アメリカはイラクやアフガニスタンにおいて、制空権を確保し、複雑な戦場をリアルタイムで監視する能力を持ち、圧倒的な火力を誇っていたが、それでも敗北した。ロシア軍はウクライナ軍を数で圧倒しており、2022年以降、その軍事的な遂行能力も大幅に向上させているが、それでも領土を1平方キロ獲得するたびに甚大な損害を被っている。

こうした傾向は、安価でありながら高度化が進むドローンの登場(もちろんそれらも重要だが)だけが原因ではない。小火器の拡散、標的捕捉・監視能力の向上、即席爆発装置(IED)の開発、そして自爆攻撃の利用といった要因も関係しており、これら全てが敵対的な地域の占領や維持を困難にしている。言い換えれば、こうした事態の進展は、かつてアメリカが支配していた「グローバル・コモンズ(the global commons)」の範囲を縮小させ、MITのバリー・ポーゼンが「係争地帯(contested zone)」と呼んだ領域を拡大させた。この領域では、より弱い敵対勢力であっても、強大な力を持つ大国に対して甚大なコストを強いることが可能だ。アメリカ海軍は依然として強力な戦力だが、今日、ペルシア湾内を自由に航行していないのには理由がある。こうした戦争の様相の変化は、強力なナショナリズムと相まって、外国政府に圧力をかけたり、不穏な動きを見せる住民を鎮圧したりすることを、より困難なものにしている。

誤解しないで欲しいのだが、私は各国が安全保障への懸念を捨て、剣を鋤に持ち替えて軍備を放棄すべきだと言っているのではない。結局のところ、ある国が自衛のための備えを固めているからこそ、他国は費やすコストに見合うだけの利益を得ることが難しくなる。つまり、有利な勢力均衡(a favorable balance of power)を維持し、信頼に足る抑止力(a credible deterrent)を備えておくことは、依然として重要だということだ。しかし、私たちはこの状況が何を意味するのかを認識する必要がある。それは、自衛(self-defense)は容易になる一方で、侵略戦争(aggressive wars)はますます無意味になりつつある。侵略戦争は、アメリカにとっても、その他のどの国にとっても、うまくいっていない。よって、ある国について、「直ちに阻止しなければならない致命的な脅威(mortal danger that must be stopped immediately)」と「容易に崩れ去る砂上の楼閣(a fragile house of cards that will be easy to topple)」ということを同時に主張する、言葉巧みなシンクタンクの研究員やロビイスト、あるいは私利私欲に走る外国の指導者が説いてきたときは、このことを思い出して欲しい。彼らの主張は間違っているということを。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt

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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 今年8月に日本でウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の伝記が出版された。邦訳の題名は『ゼレンスキーの素顔 真の英雄か、危険なポピュリストか』(セルヒー・ルデンコ著、安藤清香翻訳、アンドリー・グレンコ解説、PHP研究所、2022年)となっている。英語の題名は『Zelensky: A Biography』となっている。英語版では200ページ、日本語版では271ページになっている。もともとは2021年にウクライナで出版されたもののようだ。伝記の大部分はゼレンスキーの生い立ちから大統領就任後までの動きを網羅しているが、それは批判的な内容になっているようだ。

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ゼレンスキーの素顔 真の英雄か、危険なポピュリストか

 本書は、ウクライナ戦争勃発前に書かれており(英語版や日本語版では戦争後の動きも追加されているそうだ)、戦争前のゼレンスキーがどのようにとらえられていたかということが分かる本になっているようだ。

 ゼレンスキーはウクライナ戦争が始まるまでは日本でもそうだったが、世界でもよく知られていない、無名の存在だった。戦争が始まってから、世界で最も有名な政治家となった。今年の春頃は、世界各国の議会にテレビスクリーンを設置させて、「ウクライナを支援せよ」と指令を出すまでになった。ゼレンスキーを第二次世界大戦期のイギリスのウィンストン・チャーチル首相と比肩する存在だ、という能天気な評論も出たほどだ。

 しかし、ゼレンスキーとウクライナの2021年までの評価は、汚職にまみれた、汚職が構造の中に取り込まれた国であり、汚職根絶を公約して当選したゼレンスキー自身が構造に取り込まれてしまった、政治的に無能な政治家である、というものだった。戦争によってそのような評価が雲散霧消し、「力強い指導者」という評価に早変わりした。

 ゼレンスキーを神聖視し、無誤謬の完全な指導者と考えるのは間違っている。

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ヴォロディミール・ゼレンスキーの教化(The Education of Volodymyr Zelensky)

-元コメディアンであるゼレンスキーのウクライナ大統領就任後の2年間を追った新しい伝記が刊行。

ジャック・デッチ筆

2022年9月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/03/volodymyr-zelensky-biography-review-rudenko-ukraine-president/

2019年のウクライナ大統領選挙への出馬を決めるまで、ヴォロディミール・ゼレンスキーはウクライナの政治史からほとんど姿を消していた。今世紀最初の20年間にキエフのマイダン広場を揺るがした2つの騒乱、すなわち選挙当局に不正な決選投票を廃棄させた2004年から2005年かけてのオレンジ革命と、親ロシア派のヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領を政権から追いやり、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の最初の軍事介入を招いた2014年の死闘で、ゼレンスキーは何ら役割を担っていなかった。ゼレンスキーは兵役義務すら果たさなかった。彼の徴兵逃れは長い間、政敵からの批判を誘ってきた。

従って、ウクライナの指導者の新しい伝記は、ゼレンスキーが成功したコメディアンとテレビの大物から、英国のウィンストン・チャーチルとの比較とともに、自慢の戦時指導者にどのように変身したかを説明すると期待されている。

ウクライナ人ジャーナリスト、セルヒー・ルデンコによる200ページの『ゼレンスキー伝(Zelensky: A Biography)』にはそのようなことは書かれていない。この200ページの本は昨年(2021年)ウクライナ語で出版されたが、今年2月のロシア侵攻のかなり前のことである。著者は最近出版された英語版に、戦時中の指導者としてのゼレンスキーを描いたいくつかのシーンを追加されている。しかし、それらは公的な記録にはほとんど何も付け加えられない。

ルデンコが提供するのは、大統領就任後の約2年間、まるで人気テレビ番組『人民の奉仕者(Servant of the People)』の1シーズンの延長のように、ドタバタと混沌としていたゼレンスキーの描写である。俳優としてのゼレンスキーは、ありえない状況で大統領になる、学校の先生を演じていた。現実世界では、自分の政党に番組名と同じ名前をつけている。

政界入りして最初の課題は、自分が本気であることを人々に納得してもらうことだったようだ。ゼレンスキーは、「私は本気だ(I'm Not Kidding)」 というスローガンを掲げて選挙戦を始めた。彼の公約は、「ウクライナの中道主義(Ukrainian centrism)」というキャッチフレーズとともに、反腐敗(anti-corruption)の公約を掲げていたが、この言葉はほとんど空虚であることが判明している。テレビ討論では、チョコレート王と呼ばれた現職のペトロ・ポロシェンコ大統領を非難し、自分自身は現職の「評決(verdict)」であると宣言した。

ルデンコによれば、ゼレンスキー自身の補佐官の中にも、彼が大統領の座に着く可能性がないと考えていた人がいたという。

ウクライナの政治ストラティジストであるセルヒイ・ハイダイは本書の中で次のように振り返っている。「彼らは、大統領選挙当選などありえない、ヴォロディミールは遊んでいるだけだと考えていた。しかし、彼が勝利したとき、彼らは更に混乱した。彼らはどうしたらいいのか分からなかった。それがどんなに重い責任なのか、自分たちのこれまでの生活が終わったことを理解していたからだ」。

ゼレンスキーの勝利は、ウクライナの政治に新しい局面をもたらした。結婚式の写真家やレストラン経営者が議会で議席を獲得した。しかし、すぐに明らかになったのは、ゼレンスキーには真のイデオロギーがなく、政権運営の中心的な計画もないということだった。ゼレンスキーは、テレビ番組で演じた人物のように、自分の親友たちをトップの職位に据えた。賄賂を要求して捕まる者もいた。ある新人国会議員は、採決中に出会い系アプリをスワイプしているところを目撃されている。

前述のハイダイは「彼は自分が何を引き受けたのか、すぐに理解しなければならなかった。そうすれば、まったく別のゼレンスキーになっていただろう。彼はまだ、地方レヴェルでも中央レヴェルでも、物事の仕組みを理解していないのだろう。彼は典型的なシステムの人質になってしまった」と語っている。

ハイダイは、テレビで演じていたゼレンスキーという人物を引き合いに出し、「ヴァシール・ホラボロドコはもういない。ゼレンスキーは、システムによって、どんな手続きが必要か、どんなルールがあるか、何をすべきかを決められている」と述べた。

ルデンコが描写しているような、呆然とした行動は、ゼレンスキーが国際舞台に立った時にも見られた。2019年9月の記者会見で、当時のドナルド・トランプ米大統領がウクライナの指導者にバイデン家の取引を調査するよう働きかけたことを白紙に戻そうとした時、彼は呆れたような表情を見せた。トランプはこの試練の間、ウクライナへのアメリカによる軍事支援を停止し、それが最初の弾劾につながった。

ゼレンスキーは、当初プーティンと一対一の外交ができるとさえ思っていた。ロシアが侵攻してくるまでは、ウクライナ人の多くが大統領選の世論調査で彼を合格点以下と評価していた。

ルデンコの描写は、ウクライナの未来が戦場で展開される中で、必然的に不完全なスナップショットである。大統領就任初期から盟友たちを排除するまでのゼレンスキーの政治教育が、戦時中のリーダーシップに活かされることは間違いない。この夏、ゼレンスキーは幼なじみの情報部長と、選挙戦の盟友であるウクライナ検察庁長官を追い出した。ゼレンスキーを最初に電波に乗せたオリガルヒのイホル・コロモイスキーは、彼の所有するプリヴァト銀行が国有化され、廃止されるのを目撃している。

残念なことに、この話に欠けているのは、戦争に至るまでの数か月から数週間のゼレンスキーの心の状態に関するものだ。ロシア軍が国境を越えて殺到する数日前に、ゼレンスキーがミュンヘン安全保障会議に参加した時、ジャーナリストたちは公然とゼレンスキーがウクライナに戻るかどうか疑問を持っていた。ロシアによる攻撃の2日目の夜、ゼレンスキーはキエフのマリインスキー宮殿から姿を現し、ロシアによる暗殺未遂の可能性があると脅され、彼がまだそこにいることを世界に告げた。その瞬間の出来事と他の多くの出来事は、将来の伝記で確実に取り上げられるだろう。

ルデンコは本書の冒頭で次のように書いている。「2022年2月24日以降、私たちは全く別のゼレンスキーを発見した。プーティンの挑戦を受けて、ロシアの侵略に対する民衆の抵抗のリーダーとなることを恐れない男となった。支持者と反対者をまとめ上げ、腐敗した役人と腐敗撲滅のための戦いのために、そして大人と子供、国籍も信仰も異なる人々をこの闘いで団結させることに成功した大統領となった。ヨーロッパ議会やアメリカ連邦議会で拍手喝采を浴びる国家元首となった」。

しかし、私たちは彼がどのようにして大統領職にまで到達したのか、まだ疑問を持っている。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@JackDetsch

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ゼレンスキーがウクライナは汚職にまみれた国だというトランプの主張を否定:「今からはこの主張が真実ではないのだ」(Zelensky rejects Trump claim that Ukraine is a corrupt country: ‘From now, it’s not true’)

タル・アクセルロッド筆

2020年2月15日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/europe/483250-zelensky-rejects-trump-claim-that-ukraine-is-a-corrupt-country/

ウクライナ大統領ヴォロディミール・ゼレンスキーは「ウクライナは汚職にまみれた国だ」というトランプ大統領の主張を否定した。

CNNのクリスティアンア・アマンポーラーとのインタヴューの中で、ゼレンスキーは、昨年フォックス・ニューズとのインタヴューでトランプが主張した「ウクライナは世界第三位の汚職にまみれた国だ」という言説に反撃し、キエフは日々汚職と戦っていると述べた。

ゼレンスキーは次のように語った。「トランプ大統領の主張は真実ではない。トランプ大統領と会談を持った時、彼はそれまでの数年間、汚職が酷い国だと述べた。私はトランプ大統領に対して、率直にかつ開かれた態度で話をした。私は彼に対して、私たちは汚職と戦っていると述べた。私たちは日々戦っている」。

ゼレンスキーは続けて「どうかどうか、ウクライナは汚職にまみれた国だという発言は止めていただきたい。それは、これからはそれが真実ではなくなるからだ。私はこのイメージを変えたいのだ」と述べた。

このコメントは、連邦上院がウクライナとの取引をめぐる弾劾裁判でドナルド・トランプ大統領に対して無罪評決を行った1週間後に発表された。

民主党は、トランプ大統領がウクライナへの軍事援助4億ドル近くを保留し、ゼレンスキー大統領に政敵であるジョー・バイデン前副大統領とその息子ハンター・バイデンについて徹底的に調査するよう圧力をかけ、権力を乱用したと主張している。また、その後の調査を妨害するように働きかけることで、議会による調査全体を妨害したと主張している。

共和党は、トランプ大統領が汚職対策に関して問題があることで知られるであるウクライナに資金が流れないようにしようとしたのだと反論している。

ゼレンスキーは、数カ月にわたって米連邦議会の中で主要な議題となり、党派的な対立を露呈した弾劾手続きによって、トランプ大統領との関係が損なわれることはなかったと述べた。

ゼレンスキーは「ウクライナはアメリカと非常に良い関係を築いている」と述べた。

ゼレンスキーはウクライナ東部でのロシアとの紛争に言及し、「トランプ大統領、アメリカ、そして一般のアメリカ国民がウクライナを支えてくれていること、特に戦争が起きている今、感謝したい。皆さんの支援に感謝する。私たちはその支援を実感している。心で感じ、体で感じている」と述べた。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2020年米大統領選挙は、現在のところ、民主党のジョー・バイデン前副大統領が優勢だと報じられている。恐らくこのまま「バイデン勝利」ということにするんだろう。選挙の結果をめぐっては、不満や疑念が存在し、それが暴力事件という形で噴出するだろう。市民ミリシア(civic militias)と州知事が派遣した州兵(national guards)の内戦状態にまで発展することも考えられる。市民ミリシアにはアメリカ軍を退役した元軍人たちも多く参加しており、ただ武器を持っていきがっているような人たちではない。あらゆるシチュエーションでの戦闘訓練を行っている組織もある。簡単に鎮圧されない。そうなれば、捕縛は無理となり、州兵たちに対して射殺命令が出るだろう。

 私は選挙前にそのことを示す論説をこのブログで紹介した。そのようなことが現実になると思っていた人たちは少ないだろうが、今日、私たちの目の前にある危機なのだ。

 私は非常に後悔し、自分を責めていることがある。それは、「この論文を読んでいながら、なぜ気づかなかったのか、大事だと思ったから読んだはずなのに、その内容を敷衍できなかった」という思いだ。それは、私も翻訳作業に参加した『イスラエル・ロビーⅠ・Ⅱ』(講談社)の著者であるハーヴァード大学教授スティーヴン・ウォルトが2018年に発表した論稿だ。そのタイトルは「ディック・チェイニー政権にようこそ」というものだ。

※論稿へはこちらからどうぞ。 

2018年の段階で、トランプ政権は「ディック・チェイニー政権」になっていたのだ。マイク・ペンス、マイク・ポンぺオ、マーク・エスパー、ジーナ・ハスペル、更にジョン・ボルトンというチェイニーの息のかかった人間たち、凶暴なネオコンたちがトランプ政権を占拠していたのだ。トランプ政権が独自に外交をやろうと思えば、ホワイトハウスで、ジャレッド・クシュナーとイヴァンカ・トランプを通じてやらねばならなかった。その代表例が北朝鮮の金正恩委員長とのトップ会談だった。これは、バラク・オバマ政権でもそうだった。国務省を迂回して、キューバとの国交正常化やイランとの核開発に関する合意と言った、自分たちがやりたいことをやるためには、ホワイトハウスを強化するしかなかった。
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ヒラリー(左)とビル・クリントン(中)、チェイニー(右)
 ウォルト教授の指摘で大事なことは、「チェイニー主義(Cheneyism)」という言葉であって、このチェイニー主義には共和党のネオコンと民主党の人道的介入主義派が含まれている。アホ・ブッシュ政権が始めたイラク戦争には、連邦上院議員だったヒラリー・クリントンとジョー・バイデンが賛成していた。トランプ政権は前門の民主党(エスタブリッシュメント)、後門の共和党(エスタブリッシュメント)に挟まれていたのだ。トランプ主義、トランプ現象は、既成のワシントンに巣くう2つの勢力、ヒラリーが代表する人道的介入主義派とチェイニーが代表するネオコンによって包囲され、絞め殺された。そのことに私は早く気づいておくべきだったのだ。トランプ革命は「あらかじめ裏切られた革命」だったのだ。
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チェイニー(左)とバイデン(右)
 ディック・チェイニーの長女リズ・チェイニーはアメリカ国務省や悪名高きアメリカ国際開発庁(USAID)で勤務し、ブッシュ政権(父親のチェイニーは副大統領)では中近東担当国務次官補代理を務めた。2016年から地元ワイオミング州の連邦下院議員を務め、今回2020年の選挙では3回目の当選を果たした。アメリカ合衆国下院共和党会議議長を務めており、連邦下院共和党ではナンバー3の地位にある。このリズが共和党の保守勢力を代表する人物になるという主張も既に出ている。
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リズ・チェイニー(左)とディック・チェイニー
 2016年の大統領圓居を思い返してみれば、民主党のヒラリー・クリントンを共和党支持であるはずの、ネオコンの論客ロバート・ケーガンが熱心に応援していた。これは一つの傍証に過ぎないが、人道的介入主義派とネオコンは同種同根なのだ。そのことは、手前味噌で恐縮だが、拙著『アメリカ政治の秘密』で明らかにしている。

 今回のバイデン勝利で、私はこの、大義名分を掲げて対外戦争をやりたがる人間たちの大復活があると見ている。バイデン政権は「ディック・チェイニー(ネオコン)・ヒラリー・クリントン(人道的介入主義派)連立政権」である。ネオコンは「世界中が民主政治体制の資本主義国になれば世界から戦争がなくなる」という理想主義を掲げ、人道的介入主義派は「独裁者たちの圧政に苦しむ人々を人道的な理由から助けねばならない」という「人道上、人類としてやるべき」ことを理由にしている。しかし、こうした人々も中東諸国や中央アジア諸国の王国や独裁国家を倒そうとは言わない。二枚舌なのだ。

 新型コロナウイルス感染拡大が落ち着けば、経済の復興に焦点が移る。その時に、手っ取り早いのは戦争だ。戦争経済(war-boost-economy)だ。戦費は心配いらない、ドル建て国債はいくらでも発行できるのだ。日本から貢がせても良い。対中、対露、対北朝鮮において、もっとも近距離にある場所はどこか、それは日本だ。大きな戦争が大好き、反中、反露、反北朝鮮のバイデン政権のために、日本はお金だけではなく、いろいろな負担もさせられることだろう。バイデンはトランプの「アメリカ第一(America First、アメリカ国内の諸問題の解決を最優先にするという考え)」と「アイソレーショニズム(Isolationism、国内問題解決優先主義)」を批判して当選してできるのだから、アホのビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュの時と同じようなことになる。

 ジミー・カーターもジョージ・H・W・ブッシュも何やらおかしげなマスコミの煽動やプロパガンダで再選はできなかった。しかし、彼らは「元大統領」として、最高に評価が高い人たちだ。田中角栄もそうだった。その時に評価されなくても、後々に評価されるのだ。トランプはその仲間入りを果たしたということはそれだけで誇り高いことだ。

 さぁ、これから厳しい時代になる。戦争の時代になる。影響を最小限とするための準備をしよう。「トランプなんて大嫌い、良かった、バイデンになって」と不幸の始まりに立って、能天気に喜んでいられるのは一面では羨ましい。「Ignorance is Bliss」という言葉がある。しかし、一緒になって、良かった良かった、の浮かれ騒ぎはできない。帝国アメリカの終わり、世界の構造の変化に備えなければならない。

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 2020年2月22日に実施されたアメリカ大統領選挙民主党予備選挙・ネヴァダ州党員集会の結果はバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が圧勝という結果が出た。まだ最終結果が出ていないので、獲得代議員数は確定していない。2位にはジョー・バイデン前副大統領が入りそうだが、得票率ではサンダースの半分にも届かない状況だ。それでも持ち直したという評価になっているというのは、2019年を通じて隠し世論調査でトップを走ってきた候補者としては何とも情けない話だ。
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 サンダースの大躍進を苦々しく思っているのは、ドナルド・トランプ大統領や共和党側ではなく、民主党内の反サンダースの人々だ。民主党エスタブリッシュメント派と呼ばれる主流派の人々だ。

 2020年2月21日に『ワシントン・ポスト』紙が、アメリカ政府の情報機関が、2020年のアメリカ大統領選挙に介入するために、ドナルド・トランプ大統領とバーニー・サンダースを支援している、選挙介入をしている、と報じた。アメリカ大統領選挙の結果を、アメリカの有権者の考えではなく、ロシアの意向によって決められるなどということは、アメリカ国家の正当性の根幹を揺るがす大事件だ。

 ここで重要なのは、報道でサンダースの名前が挙がった点だ。「サンダースの大躍進の裏にはロシアの存在がある」と読み取る人も出てくるだろう。この報道は、トランプ大統領に対する攻撃であると同時に、サンダースへの攻撃ということになる。

 この報道に関しては、サンダースは、ロシアが選挙に介入しようとしているという情報を伝達されたことは認めたが、ロシアに対して「アメリカの選挙に手を触れようとするな」という警告を発した。

 アメリカはこれまで世界各国の選挙に介入したり、クーデターに関与したりしてきた。日本についても、自民党に選挙資金を提供したり、労働組合を懐柔したりすることで、安定的な一党支配体制を構築した。このことについては拙著『アメリカ政治の秘密』をお読みいただきたい。

 下の記事によると、サンダースはロシアの選挙介入に関する報道が出た後、それがワシントン・ポスト紙の報道だと知り、「good friends(本当に仲の良い友人たち)」と嫌味たっぷりに言い捨てたそうだ。これは、「ああ、なるほど、民主党内の私に反対する勢力が書かせたな、仲の良いワシントン・ポストを使ったな」というだ。そして、その後に、ロシアからの選挙介入を非難しつつ、民主・共和両党のエスタブリッシュメント派を名指しし、「あなたたちもロシア人と同じく、私たちを止めることはできない」とツイッター上で宣言した。
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 下の記事の著者クリス・シリーザは私の尊敬するアメリカの政治記者だが、彼は一連の動きに敏感に反応して、これはサンダースによる「宣戦布告」だと書いている。民主党内部の争いについてはこのブログでも何度も紹介しているが、私はシナリオによっては分裂もあると考える。象徴的な言葉を使えば、「オバマの党」と「サンダースの党」に分裂することになると考えている。世界中どこでもそうだが、急速な変化を望む人々(革命を求める人々をしておく)と漸進的な変化を望む人々(改良を求める人々としておく)がどうしても対立してしまう。

 今のアメリカは若者たち、ミレニアル世代(20代中盤くらいから30代後半くらいまで)とZ世代(18歳から20代中盤くらいまで)には、「自分たちは親や祖父母たちに比べて経済的、社会的に恵まれていない」「上の世代が決めた戦争の最前線に放り込まれるのは若い私たちだ」「アメリカの現制度はおかしいところが多い」という意識が強い。その現状への不満をうまく掬い取ったのがバーニー・サンダースだ。彼は1980年代から主要な主張は一切変わっていない。それを若者たちが「発見」したのだ。

 一方、1990年代に若者で今や中年になったX世代(現在の40歳から上くらい)は上の世代と同じく、穏健になっている。私もこの世代に属するが(日本で言えば団塊ジュニア世代となる)、1994年にアメリカ映画「リアリティ・バイツ」という映画が公開された。私は、主演の女優ウイノナ・ライダーに憧れたものだが、若者たちの日常の苦しさを描いた映画で、X世代を象徴する映画と当時言われた。「リアリティ・バイツ(Reality bites)」とは「日常が噛みついてくる」という意味だ。X世代はあれから25年経って、現実に噛み千切られて、すっかり丸くなった。世論調査を見ても、ジョー・バイデン支持の割合が高い。「何とかしようと思っても無駄さ、現実はとても厳しいものさ」という諦観があるのだと思う。民主党支持層には世代間の亀裂がある。大まかに言えば、若い人たちはサンダース支持、X世代から上は中道派ということになる。

 民主党は分裂への動きも含みながら大統領選挙予備選挙を進めていくことになる。繰り返しになるが、予備選挙の結果次第では、民主党は分裂するのではないかと私考えている。私が考える最悪のシナリオは、6月までの民主党予備選挙で宣誓済み代い議員獲得数でサンダースが1位になるが過半数には至らない、そこで7月の民主党全国大会の代議員による党の指名候補選挙で1回目の投票では誰も過半数を得ることができず、2回目の投票ということになり、特別代議員も参加しての選挙で、サンダース以外の候補者が過半数を獲得して党の指名候補となり、それに憤激したサンダース支持者たちが暴れるというものだ。

 民主党にとってはサンダースがすんなりと宣誓済み代議員の過半数を獲得して民主党全国大会に進んで、1回目の投票でサンダースが党の指名候補になる方がまだ分裂の危険は少ないと思う。エスタブリッシュメント派も渋々従うだろうし、どうせサンダースでは選挙に勝てない、勝てなければ、「だから左に寄り過ぎては駄目なんだ」と言って、左派を追い出すか、おとなしくさせることができる。

 サンダースでは本選挙でトランプ大統領に勝てないというのは、よほどの失政がない限り、現職が有利ということもあるが、選挙の帰趨を決める重要な州であるフロリダ州で勝てないということもあるからだ。フロリダ州は2000年以降、勝利した側が全て取っている。フロリダ州の特徴は、成功して優雅な引退生活を送るために引っ越してきた老人たちが多いこと、キューバ革命の際にキューバから亡命してきた人々とその子孫が多く、反共意識が強いことがある。「社会主義」という言葉には反感を持つ。「資本主義自由市場経済」の勝利者であるアメリカで生まれ育ち、成功した人たちと、革命から逃れてきた人々、どちらもサンダースを支持する人たちは少ない。もちろん、これからのサンダースの選挙運動次第であるが、現在のところ、ひっくり返すところまで至っていない。また、中西部の五大湖周辺州では、共和党優位のインディアナ州と民主党優位のイリノイ州を除く、ペンシルヴァニア州(厳密には中西部には属さないが)、オハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州の動向が重油だ。これらの州で勝利を収めねば、大統領への当選もない。今のところ、サンダースが固めているということもないようだ。こうしたことから、現在のところ、トランプ大統領の再選の可能性は高いということになる。

 民主党が勝手に内部闘争をしてくれている分には、トランプ大統領も「どうぞどうぞ好きなだけおやんなさい」ということになり、時々ちょっかいを出して、火に油を注ぐようなことをやればよい、高みの見物ということになる。

(貼り付けはじめ)

バーニー・サンダースが遂に民主党エスタブリッシュメント派に対して宣戦布告(Bernie Sanders just declared war on the Democratic establishment)

クリス・シリーザ(CNN編集委員)筆Chris Cillizza

2020年2月22日

CNN

https://edition.cnn.com/2020/02/22/politics/bernie-sanders-2020/index.html

CNN発。金曜日の夜、バーニー・サンダースはこれまでの長年にわたる民主党エスタブリッシュメント派との戦いを公の場に暴露した。2020年の大統領選挙民主党予備選挙でのサンダースの勝利にロシアが貢献しようとしているというニュースが報じられて数時間後でありネヴァダ州での民主党党員集会の数時間前に、サンダースはツイートをしてエスタブリッシュメント派との戦いを宣言した。

金曜日の夜、サンダースはツイッターに次のように投稿(ツイート)した。「共和党エスタブリッシュメント派の皆さんへのニュースが入りました。民主党エスタブリッシュメント派の皆さんにもニュースがあります。そのニュースとは、彼ら(ロシア人)は私を止められない、というものです」。

なんてこった!

このツイートのタイミングは決して偶然ではないと思われる。

『ワシントン・ポスト』紙は金曜日午後、その支援がどれだけ明らかなのかは不明としながらも、サンダース選対はロシアがサンダースの勝利のために動いているというブリーフィングを受けたと報じた。

同日、サンダースは1カ月前にロシアの試みについて情報提供を受けたことを認めた。サンダースは次のように述べた。「ロシア、そしておそらく他の国々が、今回の大統領選挙に関与しようとしているという情報が私たちに伝えられました。私はロシアに対してメッセージを送ります。アメリカ国内のいかなる選挙にも手を出すな」。

サンダースは金曜日の夜のツイートの前に、選挙戦を取材している記者団に対して、ワシントン・ポスト紙の報道のタイミングには何かの意図があるのではないかという疑いを持っていると語った。彼はネヴァダ州の党員集会の直前だったことを指摘し、どのメディアが報じたのかと質問した。ワシントン・ポスト紙が報じたと知らされると、皮肉たっぷりに「誰かさんたちの素晴らしい友人たちだね」と言い残した。

その後、サンダースの広報担当マイク・キャスカはツイートの中で、トランプ政権の差し金を示唆した。キャスカは次のようにツイートした。「もしこのリークがバーニーを傷つけることを意図しないものだったなら、誰からも関心も集めることはなかっただろう。トランプ大統領が本選挙でバーニーと対決することに関して神経質になっているのは明らかだ」。

そして、サンダースは前述のようなツイートをした。これは明らかに、民主・共和両党のエスタブリッシュメント派と戦争状態にあるとサンダース自身が考えていることを明確にするものだった。予想通り、サンダースのツイートに対しては、多くの否定的な反応が、いわゆる党のエスタブリッシュメントから寄せられた。

長年にわたり民主党のストラティジストを務めているジョー・ロックハートは「民衆党のエスタブリッシュメント派は私たちに公民権、参政権、重火器所持の禁止、社会保障とメディケアを与えてくれました」とツイートし、更に「議員、あなたはこれまでにいったい何を成し遂げましたか?」と投降した。

サンダースの大統領選挙出馬に関する限り、今回だけではなく2016年の時もそうだったが、民主党エスタブリッシュメント派と、サンダース、サンダース選対、支持者たちとの間は戦争状態にあることは公言されていなかったが明らかだった。

2016年のアメリカ大統領選挙民主党予備選挙は憎悪を深めただけに終わった。民主党全国委員会からハッキングされて暴露されたEメールによって、民主党全国委員会の複数のスタッフがヒラリー・クリントンに有利になるように不正を働いていたことが明らかになった。最終的にサンダースはヒラリー・クリントン支持を表明したが、選挙戦を通じて生じた悪感情は消え去ることはなかった。

今年公開されたドキュメンタリー映画の中でヒラリー・クリントンはサンダースについて次のように語った。「彼を好きな人間なんていません。誰も彼と一緒に働きたいと思いません。彼はこれまでに何も成し遂げたことがないんですよ。彼は職業政治家で、他の仕事をしたことがありません。彼の話す内容は馬鹿げたことばかりで、それに引き込まれてしまう人たちのことをかわいそうに思います」。

サンダースは今年1月、ヒラリーからの攻撃をことさら軽いものとして扱おうとした。しかし、彼は自分自身の中に怒りを貯めこみ続けているのは明らかだ。

そして、物事が更に悪くなったのは運営がうまくいかなかったアイオワ州での党員集会時であった。投票集計が絶望的に遅くなったが、それよりもサンダースにとって良くなかったのは、一般得票数ではサンダースが勝利を得ながら、代議員獲得数ではインディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジが勝利を収め、結果に分裂があったことだ。こうした結果によって、サンダース自身と彼の支持者たちの脳裏には何かのたくらみが進行しているという考えが浮かんだ。彼らは何が進行しているのか、その裏に何があるのかを明確に分かっていなかったし、現在も分かっていない。しかし、何が確かにあるのだということは確信を持っている。だからサンダースは民主党に頼らずに自力で選挙組織を作り、選挙運動を展開しているのだ。確かに、サンダースは民主党エスタブリッシュメント派に反対する組織を作り上げているのだ。

明確にしておきたい。サンダースの行動も発言も間違っているということではない!長きにわたって民主党に属している政治のプロたちで、民主社会主義者を自認する人物を民主党の大統領選挙本選挙候補者に指名することで民主党が秋の選挙で大敗を喫することになると考えている人たちは本当にたくさんいる。

大統領選挙民主党予備選挙を戦っているサンダースのライヴァルたちはサンダースと民主党との間の薄い関係を問題にしようとしている。ブティジェッジは水曜日の夜にラスヴェガスで開催された討論会で「本当に民主党に属している人物を前に出すようにしましょうよ」と述べた。

金曜日の夜にサンダースが発信したツイートによって、今回の予備選挙を動かしている大きな構造と動きがより明らかになった。戦いの中心にはサンダースがいて、民主党エスタブリッシュメント派とサンダースはどちらが生き残るかの戦いをしている。これが全てだ。サンダースは既に発言し、宣戦布告をしている。民主党エスタブリッシュメント派はサンダースからの攻撃に対して、反撃し、勝利することができるだろうか?

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