古村治彦です。
民主党のジョー・バイデン政権の主要政策である大型投票法案が先月、連邦上院で否決された。大型公共支出法案と合わせてバイデン政権の目玉政策であり、民主党としては可決成立を進めようとしてきたが、失敗に終わった。その内容を見ると、ちょっと首をかしげてしまうような内容も含まれている。大義名分は「マイノリティなど、投票に困難を感じている人々の投票を促進する」というものだが、民主党の支持基盤であるマイノリティの投票率向上を狙ったものである。例えば「写真付きではない身分証明書でも受け付けねばならない」というものがある。これだと、他人の出生証明書やソーシャル・セキュリティ・ナンバー・カードを使って投票ができることになる。
アメリカでは住民票という制度はなく、投票をするためには、自分自身で地元の選挙管理委員会に届け出をして、有権者登録(registration)をしなければならない。その際に、各党の予備選挙に投票したい人は民主党支持か共和党支持かも登録する。州によっては、予備選挙で党員以外の人の投票を受け付けるところもある。連邦レヴェルの選挙でも実施主体は各州であり、各州の権限が強く、全国一律、統一的ということはない。そこをある程度まで統一させようというのが法案の別の大義名分でもあった。
しかし、今回、民主党のジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出)とカースティン・シネマ連邦上院議員(アリゾナ州選出)も共和党所属50名の連邦上院議員と共に反対票を投じたために、否決された。両議員の出身州は共に共和党優勢州であり、共和党支持の有権者が多いために、地元の有権者の意向に敏感にならざるを得ないために、結果として、バイデン政権の目玉政策に反対票を投じることになる。両議員に対しては、共和党側から「こちら側に来ませんか」という秋波が送られている。
バイデン政権と民主党は連邦下院ではかろうじて過半数を超えているが、連邦上院では50対50の同数で、同数になった際の決選投票で議長である副大統領が投票できるために、連邦上院で過半数を握っている状態だ。今年秋の中間選挙で、連邦上下両院で民主党が過半数を失うと、バイデン政権の行く先は更に不透明になる。アメリカ政治の混迷はさらに深まるということになる。
(貼り付けはじめ)
連邦上院共和党が反対票を投じた大型投票権法案の内容をご紹介する(What's in
the major voting rights bill that Senate Republicans voted to block)
グレイス・パネッタ筆
2022年1月21日
『ビジネス・インサイダー』誌
https://www.businessinsider.com/freedom-to-vote-act-john-lewis-voting-rights-bill-explainer-2022-1
・連邦上院民主党は、水曜日の夜、投票権法案可決に向けて最後の手段を講じたが、失敗した。
連邦上院共和党は、アメリカの選挙を再構築する広範囲な法案を否決した。
・以下は、「投票の自由:ジョン・R・ルイス投票促進法案(Freedom to Vote: John R. Lewis
Act)」が可決していたら、こうなるはずだったことを紹介する。
連邦上院は水曜日、「投票の自由・ジョン・ルイス投票促進法」を否決し、連邦上院民主党の投票権法可決に向けての懸命な努力に致命的な一撃を与えた。
2022年1月13日、連邦下院は2つの法案を可決した。そして、2つの法案は一つにまとめられ、法案名は「投票の自由:ジョン・R・ルイス投票権促進法案」となった。民主党は、連邦上院での法案審議を早めるために、関係のないNASA法案を立法手段として利用した。NASA法案はすでに両院で審議されていたため、通常審議に必要な60票の代わりに、単純多数決で審議が進められた。
しかし、民主党の独創的な手続き上の回避策にもかかわらず、審議を終了するには60票が必要で、法案は予想通り共和党が一致して反対したことで阻止された。その後、連邦上院のフィリバスター規定を変更するための投票を行おうというシューマー議員の動きも、上院の共和党議員50人全員と民主党の上院議員2人の賛成で失敗に終わった。上院の共和党議員50人全員と、民主党のジョー・マンチン、カーステン・シネマの2人が反対票を投じた。
もし、この法案が成立していれば、アメリカの投票と選挙管理の風景は大きく変わっていただろう。
投票の自由法案は、全米で投票選挙法を標準化し、今年可決された何十もの新しい州レベルの投票規制の影響を覆すなど、投票へのアクセスを大幅に拡大するものだ。ジョン・ルイス投票促進法案は、最高裁で破棄されたり弱体化されたりした、1965年の投票権法の主要
■「投票の自由」法案からの規定(Provisions from The Freedom
to Vote Act):
投票の自由法案(FTVA)は、2021年3月に下院を通過したH.R.1(投票権、選挙資金、連邦倫理に関する民主党が提案している大規模メッセージ法案)の後継法案としてスリム化された内容になっている。
連邦上院共和党が2021年6月にH.R.1に対する議事妨害を行った(filibustered)。その後、連邦上院民主党の一部議員たちが、民主党所属のジョー・マンチン議員、選挙管理担当の官僚たち、その他の関係者からの多くの意見を取り入れ、「投票の自由法案」の草稿を作成した。
共和党所属の連邦上院議員の50名全員が2021年10月下旬の法案採決の際、法案審議の阻止に動いた。
●法案において、投票過程で必須条件とされたもの(What the bill would
require on voting access):
・選挙の投票日を連邦政府の定める休日(federal holiday)にする。
・有権者登録をオンライン、自動、投票日当日に行えるようにする。
・期日前投票の期間を最低15日間確保する、その中には少なくとも2度の週末を含む。
・アメリカ合衆国郵便公社による効率的な選挙郵便の配達に加え、投函箱への十分なアクセスとオンライン投票による投票結果の追跡が可能な郵便投票の実施。
・各州は、投票に身分証明が必要な場所において、写真がついていない多種多様な身分証明書を受け入れねばならない。
・誤った選挙区で行われた仮投票の有資格者票を得票に加えて集計すること。
・重罪で有罪判決を受けた元被収監者の投票権を復活させること。
・有権者名簿の管理に関する規制を強化する。これによって各州が有権者を名簿から削除することを困難となる。
・障害を持つ有権者や海外・軍関係の有権者に対応するための保護と資源を拡充させる。
・アメリカ領土での投票に対する連邦政府の保護と監視を強化する。
・アメリカ合衆国選挙支援委員会(U.S. Election Assistance
Commission)の再承認と強化に加え、有権者登録に関する資源と広報や連絡(outreach)を向上させる。
・また、同法案には、連邦法に投票権を肯定的に規定する「投票権法(Right to
Vote Act)」も含まれている。
●選挙実施機関と選挙区の再編成について(On election administration
and redistricting):
・新しい選挙区を決める場合に、一定の基準を用いることを各州に義務付けることで、党派的なゲリマンダー(partisan gerrymandering)を禁止する。
・有権者が確認可能な紙の投票用紙を使用し、選挙後に監査を行うことを各州に義務付ける。
・各州にサイバーセキュリティーの補助金を与え、アメリカ合衆国選挙支援委員会に投票機器のサイバーセキュリティー基準を強化するよう指示する。
・地方の選挙管理者を理由なく解雇、解任することを禁止する。
・有権者登録への干渉を連邦犯罪とし、選挙業務にかかわる人々に対する嫌がらせ、脅迫、威嚇に対する罰則を強化する。
・投票用紙と選挙資料の透明性を保護するための証拠保全要件(chain of
custody requirements)、非公式な党派的 「監査」に対抗するための規定を再定義する。
●選挙資金について(On campaign finance):
・この法案には、選挙におけるいわゆるダークマネーを対象とした「情報公開法(DISCLOSE
Act)」と、選挙広告の透明性を高めることを目的とした「誠実な広告法(HONEST Ads Act)」が含まれている。
・連邦下院議員選挙に公的資金制度を創設し、候補者が選挙資金について、育児を含む「個人使用(personal use)」サービスに使用することを認める。
・外国の干渉を受けた事例を報告する選挙運動に対する連邦政府の義務を創設する。
・ある候補の政治活動委員会と選挙運動との間の違法な協調をより厳格に取り締まる。
・連邦選挙管理委員会による選挙資金規制の執行を強化する。
■ジョン・ルイス投票促進法からの規定(Provisions from the John
Lewis Voting Rights Advancement Act):
ジョン・ルイス投票促進法は、特に連邦最高裁判所と各級連邦裁判所を狙い、1965年の画期的な投票権法の主要部分を無力化したり、弱めたりした判決を取り消すことを目的としている。
最も重要なのは、差別の歴史を持つ各州が、新しい投票規則や選挙区割り計画を制定する前に、連邦政府の許可を得ることを義務付ける連邦事前審査要件(federal preclearance requirement)を復活させるための新しい方式を作ることである。2013年の画期的なシェルビー対ホルダー裁判における連邦最高裁判決で、これまでの適用方式を取り消した。
また、ジョン・ルイス投票促進法第2条に基づく人種に基づく有権者差別に対する保護を大幅に弱めたブロノヴィッチ対民主党全国委員会裁判の最高裁判決(2021年)を取り消すものとなった。
連邦下院の法案は2021年8月末に可決された。連邦上院に提出された法案は比較的小さな違いがあるが、2021年11月に連邦上院の共和党員1人を除く49名が議事妨害を行った。
・ブロノヴィッチ判決による最高裁の新たな「道標」と基準を覆し、投票権法第2条に基づく人種差別の立証を困難にしている。
・投票権のパラメーターの下で、マイノリティーの選挙区を設定する努力を強化するために、司法判例と立法プロセスを盛り込む。
・投票権法の下で、少数派の選挙区を設定する取り組みを強化するため、司法判例と立法経緯を明記する。
・連邦最高裁がシェルビー裁判で取り消した連邦事前承認制度(federal preclearance
regime)を復活させる。今回の法案は、最近投票権侵害の経歴のある州に要求する新しい適用方式を創設するものである。
・連邦裁判所を狙い、シャドー・ドケット(闇の台帳、shadow docket)と呼ばれる、緊急判決で、裁判官に理由の説明を義務付け、パーセル原則(Purcell principle)と呼ばれる選挙規則に関する緊急事件の判断において、裁判官が選挙の近さだけに頼ることを制限しようとするものだ。
・連邦上院版の法案には、選挙実施者を嫌がらせや脅迫から守るための連邦政府の保護を強化する「選挙実施者・投票所保護法」も含まれている。
・連邦上院版の法案は更に、「ネイティヴ・アメリカン投票権法」に修正を加えている。この法律は、ネイティヴ・アメリカン共同体における有権者保護を強化する法律である。
■選挙集計法とは何か?(What about the Electoral Count
Act?)
この2つの法案が予想通りに可決されないとなると、本格的な選挙改革の最良のチャンスは、1887年に制定された選挙集計法(Electoral Count Act、ECA)の更新ということになるだろう。この法律は、連邦議会選挙の投票の数え方を規定し、議会が論争している選挙の問題を解決するための道筋を提供しようとするものである。
2021年1月6日の暴動事件発生から1年経過し、ドナルド・トランプ前大統領とその協力者たちがその曖昧さを利用してマイク・ペンス前副大統領に圧力をかけ、トランプの選挙人団獲得における敗北を覆そうとしたことから、政治な立場の違いを超えた専門家たちは、議会に19世紀に成立した法律を近代化するよう求めてきた。
特に専門家たちからは、副大統領の役割はあくまで儀礼的なものであることを明確にすること、異議申し立ての基準を明確にすること(特に各州が無投票で選挙人名簿を提出した場合)、異議申し立てに必要な議員数のハードルを上げることなどを連邦議会に対して求めている。
連邦上下両院の議員による改革への取り組み現在、4つの別々の試みが進められている。連邦上院では、アンガス・キング連邦上院議員を中心とする民主党のグループが法案提出を予定しており、超党派の穏健派上院議員たちもこの問題について可能性を検討している。
超党派の議員グループのメンバーであるユタ州選出のミット・ロムニー連邦上院銀は火曜日、記者団の取材に対して次のように答えた。「まだ改革プロセスの初期段階だ。私たちは、選挙に関連する他の条項と同様に、この法律に加えたい修正点として、変更点のリストを取り交わした」。
連邦下院では、2021年1月6日暴動に関する特別委員会と連邦下院行政委員会の民主党側委員が、それぞれ独自の分析と法改正の提言を発表する予定である。
しかし、連邦議会民主党指導部やホワイトハウスは、選挙集計法改革だけでは不十分であり、より重要な選挙権法の成立に取って代わるものではないとしている。
連邦議会で様々な提案がなされていること、民主党指導部が選挙集計法法案に対する単独での支持を今のところ表明していないこと、明確な期限がないことも、選挙集計法改革の可能性を阻む要因になっている。
ロムニーは「選挙集計法が適用される選挙がこれから3年間実施されないこともあり、すぐにでもやらなければならないという緊急性はないと私は考える」と述べた。
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●「米 投票権めぐる法案 成立見通し立たず バイデン政権に打撃か」
2022年1月20日 15時26分 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220120/k10013440551000.html
アメリカで投票の権利をめぐり議論が続く中、議会上院で、与党・民主党が主導する、投票権を守るためとする法案が、野党・共和党などの反対で、成立の見通しが立たなくなり、実現を強く訴えてきたバイデン政権にとって打撃となりそうです。
アメリカの議会上院で19日、与党・民主党が主導する、郵便投票の拡大など投票の権利を守るためだとする法案の審議が行われ、この結果、野党・共和党などの反対で、成立の見通しが立たなくなりました。
アメリカでは、トランプ前大統領などが先の大統領選挙で大規模な不正が行われたとする根拠のない主張を続けていることを背景に、去年、19の州で選挙法が改正され、期日前投票で有権者の本人確認を厳格化することなどが決まりました。
野党・共和党が主導するこうした法改正は、本人確認の厳格化によって、運転免許証などを持つ割合が少なく、民主党の支持基盤でもある、黒人などのマイノリティーを選挙から排除することがねらいだという反発も出ていて、民主党側はこれに対抗する法案の成立を目指していました。
法案が成立しなかったことを受けて、バイデン大統領は声明で「議会上院が民主主義を守ろうとしなかったことにひどく失望している」として不快感を示しましたが、民主主義を守るためだとして実現を強く訴えてきただけに、バイデン政権にとって打撃となりそうです。
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●「米投票権法案が頓挫、バイデン政権に打撃 民主党内もまとまらず」
ワシントン=大島隆 2022年1月20日 14時27分 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ1N4FZMQ1NUHBI00J.html
米国で広がる投票制限の州法制定の動きに対して、全国規模で投票する権利を守る連邦法制定の動きが頓挫した。法案を推進する民主党は19日、議事妨害のルールを変更することで採決に持ち込もうとしたが、共和党だけでなく民主党議員からも反対が出て変更案が否決された。法案は成立の見通しが立たなくなり、推進してきたバイデン政権にとっては大きな打撃となる。
米国では共和党の州議会議員や知事が主導して、不正防止を理由に投票手続きを厳格化する州法の制定が進んでいる。一方、民主党や投票権問題に取り組む市民団体は「マイノリティーらの投票制限につながる」と反対。郵便投票の拡大や投票日の休日化などで投票を容易にする、全国で適用される新たな投票権法の制定をめざしていた。バイデン大統領も11日、ジョージア州アトランタで演説し、「投票権法案は、民主主義か専制かを選ぶ、この国の転換点となる」と法案への支持を訴えていた。
法案は下院で可決され、上院での採決が焦点となっていた。上院では民主党と共和党が共に50議席で同数だが、フィリバスターと呼ばれる議事妨害のルールがあり、審議を打ち切って採決に入るためには60人の賛成が必要となる。
このため民主党上院は19日、投票権法案に限ってフィリバスターをなくし、過半数で可決できるようにする異例のルール変更を提案。しかし、民主党の上院議員2人が「ルール変更ではなく超党派の合意をめざすべきだ」と反対に回ったため変更案は否決され、投票権法案は成立の見通しが立たなくなった。(ワシントン=大島隆)
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●「投票権制限効果を持つ州法が相次いで成立(米国)-2022年中間選挙に向け、民主党に逆風」
2022年1月26日 JETRO
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/afa1db0106200e32.html
2020年の米国大統領選挙では、新型コロナウイルス禍を受け、郵便投票が奨励され、ドライブスルー形式の投票なども導入された。これらは結果的に、マイノリティーの投票権を守ることにつながった。同時に、民主党のジョー・バイデン氏の勝利を後押ししたとみられる。
こうした大統領選挙後、共和党の勢力が強い州を中心に、投票権を制限する効果を持つ法案が可決された。この動きに、民主党は反発を強めている。とはいえ、対抗策を打ち出すのが難しい状況だ。2022年11月の中間選挙に向けて、民主党への逆風が強まる状況にある。
■多州で講じられた投票権制限とは
ニューヨーク大学法学部ブレナン司法センターは2021年12月、「各州における投票権制限の動き外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を取りまとめた。この報告によると、2021年1月から12月7日までに、19州で33の投票制限法が制定されたという。中でも、共和党の勢力が強い州でそうした動きが活発だ(表参照)。
各州で多く採用された投票制限としては、郵便投票の受付窓口の制限や、投票者の身分証明要件の厳格化、有権者名簿からの除外などがある。
例えば、ジョージア州で成立した法律には、投票の列に並んで待っている有権者に水を提供することを禁止する条項が盛り込まれた。テキサス州では、選挙監視員の行動に制限が課されることになる。結果的に、障害者支援や言語的支援が難しくなる。また、24時間利用可能な投票所の設置やドライブスルー投票も禁止される。
ペンシルベニア州でも、投票権を広範に制限する法案が州議会で一度は可決された。しかし、州知事が拒否権を発動。現在、30の法案審議が2022年に持ち越されている。なおそれら法案の中には、州知事の審査なしに州議会が制限的な投票法を成立できるようにする憲法改正案が含まれているという。
このような立法が目立つようになった背景には、司法判断がある。連邦最高裁判所は2021年7月、アリゾナ州の投票制限強化について合法とする判決を下していた。これが各州の投票規制導入の追い風になったとみられる。
表:各州の投票権制限の動き
州名 制限項目
アラスカ A、K
アーカンソー A、B、F、I
アリゾナ C、H、J
フロリダ C、E、F、G、I、L、M
ジョージア A、D、G、I、L、P
アイオワ A、B、D、F、G、J、K、M、N、P
アイダホ H
インディアナ G
カンザス D、F、H、M
ケンタッキー A、F、J
ルイジアナ J
モンタナ F、I、M、N
ニューハンプシャー I、J、M
ネバダ O
ニューヨーク A
オクラホマ A
テキサス D、F、H、I、J、K、M、N、P
ユタ J
ワイオミング I
注:制限項目の内容。
A:郵便投票の受付窓口を制限
B:郵便投票の受付期間を短縮
C:永久不在者投票リストへの掲載制限
D:特に要求のない有権者への郵便投票申請書の送付を廃止または制限
E:特に要求のない有権者への郵便投票用紙の送付を廃止または制限
F:有権者の郵便投票用紙を返送する際の支援制限
G:郵便投票箱の数、場所などを制限
H:郵便投票に厳しい署名要件を課す
I:より厳しい投票者の身分証明要件を課す
J:有権者名簿から除外
K:障害のある有権者への障壁を増やす
L:投票の列に並ぶ有権者に軽食、水提供を禁止
M:有権者登録をより困難に
N:投票所の数、開所時間を制限
O:選挙区ごとの有権者数を増やす
P:期日前投票の日数と時間を制限
出所:ブレナン司法センター
■民主党は猛反発
ジョージア州議会が2021年3月に投票制限法を可決した際、バイデン大統領は「残虐行為」という強い表現で非難した。テキサス州で成立した投票制限法に対して、司法省は2021年11月、「有権者の権利を奪う」としてテキサス州を提訴した。
各州で投票制限の動きが続く中、民主党は危機感を強め、連邦レベルでの投票権強化に動く。バイデン大統領は2022年1月6日(注1)の演説でも、この問題に言及。主に共和党が州知事や州議会を押さえている州で投票方法を従来より制限する立法の動きについて、牽制した(2022年1月7日付ビジネス短信参照)。また、カマラ・ハリス副大統領も1月17日(注2)の演説で、各州の投票権制限法により5,500万人の米国人の投票権が影響を受けると懸念を表明した(2022年1月18日付ビジネス短信参照)。さらに、ジョージア州アトランタを訪問したバイデン大統領は、2022年1月11日の演説で、上院の議事進行妨害(フィリバスター)規定を改めてでも、投票権法案を成立させることを求めた。
法案は、1月13日に下院で可決された。しかし、上院での審議は難航。議事規定の改定には、民主党からも反対の声が上がった〔キルステン・シネマ上院議員(アリゾナ州)とジョー・マンチン上院議員(ウェスト・バージニア州)が当該改定に反対〕。法案は結局、19日の上院採決で否決された。この結果に対しバイデン大統領は、非常に落胆したとしながらも、「同志と共に必要な法案を前に進めていく」との声明を発表した(2022年1月21日付ビジネス短信参照)。
選挙権擁護の活動家で、ジョージア州知事選挙に民主党から立候補しているステーシー・エイブラムス氏は投票制限の動きについて、「私たちが今直面しているのは、民主主義の破壊だ。非常に現実的で深刻なケースと言える」と訴えた。さらに「党派に関係なく、われわれの民主主義を保護する上院が必要」と語った。
■米国民の分断から政情不安につながる懸念も
ブルッキングス研究所シニアフェローのエレイン・カマーク氏は、投票権制限が選挙結果を左右すると指摘する。とくに2020年大統領選挙の結果が僅差だったアリゾナ、フロリダ、ジョージアの各州(注3)では、上下両院選挙にあたって誰が投票するかが重要になるからだ。
米国の調査会社ユーラシア・グループは、「2022年の世界10大リスク」(注4)の第3位に、米国の中間選挙を挙げた。あわせて、中間選挙で共和党の得票が予想を下回る結果だった場合でも、同党が選挙手続きや投票の不正を主張するだろうと分析(2022年1月7日付ビジネス短信参照)。米国内の分断が悪化すると懸念した。
コネチカット州のキニピアク大学が2022年1月に実施した世論調査では、「米国の民主主義が崩壊の危機にあると思う」との回答が6割近く(58%)に上る。また、「国内の政情不安の方が、敵対する国(adversaries of
US)より大きな危険」と捉える回答者は、4分の3を超える(76%)。さらに、過半の53%が「国内の政治対立が悪化する」と回答した(2022年1月13日付ビジネス短信参照)。ちなみに、「民主党と共和党のどちらが投票権を守ってくれると思うか」という問いには、民主党が45%、共和党43%だった(2022年1月17日付ビジネス短信参照)。
このように、中間選挙に向け、大多数の米国民が政情不安を予想する状況だ。国内だけでなく米国外への影響も懸念される。今後も、投票制度をめぐる状況を注視する必要がある。
注1:1月6日は、連邦議会議事堂襲撃事件から1年を経た時期。
注2 :1月17日は、キング牧師記念日。
注3:2020年の大統領選挙で、バイデン氏とトランプ氏の得票率は、バイデン氏がジョージア州で0.24ポイント(1万1,779票)、アリゾナ州で0.31ポイント(1万467票)上回った。フロリダ州では、トランプ氏が3.0ポイント(37万1,686票)上回った。
注4:ユーラシア・グループは、2022年1月に「2022年の世界10大リスク」を発表した。
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。
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●「米上院民主党トップ、フィリバスターめぐる規則変更視野 共和党が阻止する投票権案で」
2022年1月4日(火)10時47分 Newsweek日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/01/post-97771.php
米上院民主党トップのシューマー院内総務は3日、共和党により進展が阻止されている投票権関連法案について、可決しやすくするため、フィリバスター(議事妨害)に関する規則変更の是非を今月中に採決する考えを表明した。
米国では昨年、共和党が優勢の州で投票権を制限する法案が相次ぎ可決された。背景には2020年の大統領選で敗北した共和党のトランプ前大統領が不正行為のまん延を主張して選挙結果を認めなかったことがある。
シューマー氏は上院民主党の議員らに宛てた書簡で、昨年1月6日にトランプ氏の支持者などが選挙結果の確定を阻止しようとして議会議事堂を襲撃した事件に触れ「この乱暴な暴動と同様に、全米各地で共和党の州当局者らは、投票者の不正に関するトランプ氏の大うそを根拠に反民主主義的法案を可決した」と批判。この流れを止めるために「強い行動」を起こす必要があると訴えた。
投票権法案の審議を進めるには、定員100議席の上院でフィリバスターを阻止する60票を確保する必要があるが、民主党は昨年、共和党側の抵抗で4回にわたり審議入りを阻まれた。上院では両党の勢力が拮抗している。
シューマー氏は、規則変更に関する採決を今月17日の祝日までに行うと述べた。規則変更は単純過半数で承認できるが、民主党の2人の中道派議員は繰り返し規則変更に反対を表明している。
2人のうちシネマ議員は3日の声明で、投票権とともに、フィリバスターを認め、60票の賛成を必要とする規則も支持していると表明。その上で、上院規則を議論することには前向きだとした。
もう1人はマンチン議員で、コメントを求めたところ回答はなかった。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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