古村治彦です。
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2025年1月20日に第2次ドナルド・トランプ政権が発足し、イーロン・マスクが率いる政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)が各政府機関の調査を行った。「急襲(blitzkrieg、blitz)」という言葉がぴったりだった。政府効率化省は、米国国際開発庁をはじめとするいくつかの政府機関の閉鎖と人員削減、予算削減を行おうとしているが、目標の予算の2兆ドル(約290兆円)の削減(連邦政府の予算は約7兆ドル[約1020兆円])まではまだまだ遠い道のりだ。現在、連邦議会ではトランプ大統領肝いりの予算案が共和党内部の意見対立もあり、連邦下院でだいぶ修正されており、連邦上院での更なる修正も行われる。予算案については、イーロン・マスクは「失望」しており、更に、もうすぐでトランプ政権から去る(自身のビジネスに専念するため)ことになっている。マスクとトランプは最後には意見の対立があり、イーロンが静かに政権を去るということになりそうだ。関連の記事を以下に貼り付ける。
(貼り付けはじめ)
●マスク氏、減税法案に「失望」表明 トランプ氏と意見対立鮮明に
日本経済新聞 2025年5月29日
【ワシントン=高見浩輔】米政府効率化省(DOGE)を実質的に率いる起業家のイーロン・マスク氏が、連邦議会下院が可決したトランプ減税の延長法案を批判した。米CBSテレビが5月28日、インタビューの一部を明らかにした。同法案を推進するトランプ米大統領との意見対立が鮮明になっている。
■マスク氏、「DOGEの取り組み損なう」
マスク氏は「財政赤字を削減するどころか、さらに拡大し、DOGE チームが行っている取り組みを損なうような巨額の歳出法案には率直に言って失望した」と話した。超党派組織の責任ある連邦予算委員会(CRFB)は大型法案によって政府債務が2034会計年度までの10年間に3.1兆ドル(約450兆円)膨らむと試算している。2025年末に期限を迎える個人所得減税の恒久化やチップ収入や残業代への免税措置を盛り込んだ一方、歳出削減を巡っては低所得層向けの支援策をどこまで削るか調整が難航した。防衛や国境警備には増強には2000億ドルを超える額が新たに積み増された。
多くの公約を詰め込んだ法案は「1つの大きく美しい法案」と名付けられ、トランプ氏は可決後に「我が国の歴史上最も重要な立法措置の一つ」と称賛した。これに対し、マスク氏はインタビューで「法案は大きいか美しいかのどちらかだ」と皮肉った。
マスク氏は政治活動への批判が経営する米テスラの不買運動に発展したことを受け、政権から距離を置くと表明済みだ。5月20日には政治献金も今後は大幅に減らす考えを明らかにした。
■政権から距離、批判も控えめか
今回の批判も下院が5月22日に法案を可決して1週間が経過した後に発信された。マスク氏は、政権交代前の2024年12月、議会の与野党指導部が合意した「つなぎ法案」を直後にSNSへの大量投稿で批判して、撤回させた。当時と比べて発言は控えめだ。
DOGEが進めた連邦政府職員のリストラは、多くの訴訟に発展するなど強引さが批判されてきたが、財政規律の回復を求めるマスク氏の主張は政権発足前から一貫している。
共和内には、低所得層向けの公的医療保険といった歳出を大幅に削減すれば、2026年の中間選挙で逆風になると慎重な声が根強い。
財政改善を求める保守強硬派と大幅な歳出削減に反対する穏健派との綱引きのなかで、トランプ氏も調整に加わりお互いに妥協点を見いだしたのが今回の大型法案だ。議会の共和党指導部は上院での修正を経て7月の成立を目指している。
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●「イーロン・マスク氏、政権去る 歳出削減果たせず―米」
時事通信 外信部2025年05月29日20時31分配信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025052900798&g=int#goog_rewarded
【ワシントン時事】トランプ米大統領に近い実業家イーロン・マスク氏は28日、X(旧ツイッター)に「特別政府職員としての予定された任期が終了する」と投稿し、トランプ政権を去る意向を明らかにした。行政の無駄を省く新組織「政府効率化省(DOGE)」を率い、政府部門縮小の旗振り役を担ったが、強引な手法に反発は大きく、歳出削減を果たせないまま退場となった。
大口献金者としてトランプ氏の信頼を勝ち得たマスク氏は、政権内外で権勢を振るった。世界最大の援助機関だった米国際開発局(USAID)を「犯罪組織だ」と決め付け、政府縮小の「先輩」であるアルゼンチンのミレイ大統領から贈られたチェーンソーを集会で振り回すなど、過激な言動で耳目を集め続けた。
しかし、DOGEが音頭を取った政府職員の大量解雇や一部政府機関の解体は混乱を招き、野党民主党や労組は「マスクこそ切れ」「影の大統領だ」と批判。内部対立を辞さないやり方を巡っては、ルビオ国務長官やベセント財務長官ら重要閣僚との確執も報じられた。
批判の高まりを背景に、マスク氏が最高経営責任者(CEO)を務め、本人の富の「源泉」でもあった米電気自動車(EV)大手テスラは急激な販売不振に見舞われた。マスク氏は4月、「テスラにより多くの時間を割く」と表明することを余儀なくされた。
トランプ政権は「歳入より歳出が問題だ」(ベセント氏)とし、歳出削減を掲げるが、トランプ氏肝煎りの大型減税関連法案ではかえって財政赤字が大きく増える見通し。与党共和党の財政規律派からは「DOGEが暴露した無駄の削減を実現する必要がある」(上院議員)との声が上がる。
マスク氏が米テレビに対し、「赤字を増やす大規模な支出法案には失望している」と発言したことが27日伝わると、ボート行政管理予算局(OMB)長官はDOGEが示した削減案を含めた減額修正予算の提案を「来週にも行う」と表明した。トランプ政権が「小さな政府」を志向する限り、マスク氏の隠然とした影響力は残りそうだ。
(貼り付け終わり)
蒸気の記事で重要なのは、「低所得層向けの支援策をどこまで削るか調整が難航した」という部分だ。トランプ政権はポピュリズム政権であり、アメリカ国民の連邦政府やワシントン政治に対する不信感から生まれた政権だ。トランプ政権の支持基盤は、貧しい白人労働者だ。彼らはしかしながら、政府からの福祉に頼っている面もある。共和党内の財政規律派は、こうした貧しい人々向けの支援策を削りたい(その裏には富裕層への減税をしたいという考えがある、共和党は金持ちの党であるというアイデンティティは残っている)ということになる。トランプは、法案を支持しているが、イーロンとしてはそんなことをして良いのか、それならまず政府の無駄を削減する方が先だということになっているのだろう。
更に、下記論稿にあるように、イーロン・マスクの突破力をホワイトハウスの行政管理予算局(Office of Management and Budget、OMB)のラッセル・ヴォート局長は利用してきた。下記論稿には次のように書かれている。「振り返ってみると、連邦政府の官僚機構に対する統制強化こそがDOGEの真の目的で、コスト削減は副次的なものだということは明らかだ。ヴォートは常に連邦政府の官僚機構を統制することを目標としていた。マスクは、自身の奇行で注目を集め、「政府の効率(government efficiency)」(結局のところ、誰がそれを望まないだろうか?)が全てであるかのように見せかけることで、その目的から目を逸らし、トランプへの批判を逸らす役割を果たした」。
ラッセル・ヴォートとイーロン・マスク
ヴォートは官僚機構を削減し、統制を強化するために、イーロン・マスクを利用した。それはお互いにとってウィンウィンの関係だ。しかし、イーロンが政権を去るとなると、そうした動きが頓挫することになる。そして、妥協派であるスコット・ベセント財務長官などが力を持ち、トランプ革命は骨抜きにされることになるだろう。ポピュリズムは常に敗北で終わるということを歴史は教えてくれるが、トランプもその教訓から逃れることは難しいのかもしれない。
(貼り付けはじめ)
イーロン・マスクはドナルド・トランプにとっての役に立つ馬鹿(訳者註:良い活動をしていると信じているが実際にはそれと気付かずに悪事に荷担している者)だった(Elon Musk Was Donald Trump’s Useful Idiot)
-世界一の富豪が利用された可能性が高まっている。
ギデオン・リックフィールド筆
2025年5月14日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/05/14/elon-musk-donald-trump-doge-russell-vought/?tpcc=recirc_trending062921
イーロン・マスクは、政府効率化省(Department of Government
Efficiency、DOGE)で一体何を達成したいと望んでいたのだろうか?
先月末、反省の色を見せるマスクは、政府効率化省について「期待したほどの効果を上げていない(not as effective as I’d like)」と認めた。この準政府機関は、主に連邦職員の解雇、規制の撤廃、契約や助成金の取り消しによって、これまでにアメリカ政府に1700億ドルの節約をもたらしたと主張している。しかし、これらの節約額の大半については、証拠を示していないか、あるいは大幅に誇張している。実際には、政府効率化省の杜撰な政府削減策は、ある推計によると、今年、納税者に1350億ドルの追加負担をもたらすことになる。そして、実際の連邦政府支出は、ドナルド・トランプ大統領の就任以来、増加している。
マスクが現在、アメリカ政府関連の業務を縮小し、経営難に陥っているテスラをはじめとする所有する事業に注力する中で、波乱に満ちた在任期間中に彼を悩ませてきた疑問は依然として渦巻いている。彼は本当に連邦予算から1兆ドルを削減できると信じていたのだろうか、それともインサイダーとしての立場を利用して契約を獲得し、競合他社の情報を入手し、厄介な規制当局を自社の邪魔者から排除しようとしていただけなのだろうか?
人工知能を用いて政府のプロセスに革命を起こそうとしていたのだろうか、それとも単に「意識の高い(wokeness)」人々を排除しようとしていただけなのだろうか?
政府効率化省の真の狙いは、数十もの政府機関にまたがる政府データを統合することで、超強力な監視国家(a
superpowered surveillance state)を築くことだったのだろうか?
上記の全てが同時に真実である可能性もある。しかし、コスト削減策としての政府効率化省の惨憺たる失敗は、マスクを他者、特にトランプ政権で最も影響力のある影の実力者の1人である行政管理予算局(Office of Management and Budget、OMB)のラッセル・ヴォート局長の思惑のための道具のように見せ始めている。
マスクが政府効率化省で何をしようと考えていたかを理解するには、彼の経歴を調べると役に立つ。
ウォルター・アイザックソンの『2023年のイーロン・マスク(2023 Elon
Musk)』は、しばしば聖人伝的(hagiographic)だと批判されるものの、マスクの伝記作家の中で、彼と真剣に時間を過ごした唯一の人物と言える。CNNの元会長で『タイム』誌編集長でもあるアイザックソンは、マスクが20代半ばまでに、人類にとって不可欠だと彼が信じる3つの要素に基づいた「人生ヴィジョン(life vision)」を描いていたと述べている。それは、破壊的な可能性を秘めたインターネット(the internet, because of its disruptive potential)、気候変動への対応を考えた持続可能なエネルギー(sustainable energy, because of climate change)、そして人類が自らの生存のために他の惑星に植民地化しなければならないと信じていた宇宙旅行(space travel, because he believed the human race must colonize other
planets to ensure its own survival)だ。
リンクトイン(LinkedIn)の共同創業者となる前に、ペイパル(PayPal)でマスクと共に働いていたリード・ホフマンは、アイザックソンに次のように語った。「イーロンはまずヴィジョンを描き、その後、それを経済的に実現するために埋め合わせる方法を見つける」。ペイパル時代の同僚であるマックス・レブチンは、「イーロンの最大の才能の1つは、自分のヴィジョンを天からの命令のように伝える能力だ」と付け加えた。
テスラはマスクにとって気候変動への取り組み方であり、スペースXは火星への道筋だった。神聖な使命感に突き動かされたマスクは、安全性や環境への影響について些細な懸念を抱く政府の規制当局を、人類の生存を阻む障害としか考えなかった。
この好例が、『ワシントン・ポスト』紙の記者ファイズ・シディキの新著『傲慢無比:イーロン・マスクの崩壊(Hubris Maximus: The Shattering of Elon Musk)』に示されている。アイザックソンとは異なり、マスクと面会のなかったシディキは、2016年からテスラのCEOであるマスクが、オートパイロット[Autopilot,](部分的自動運転モード[the car’s partial self-driving mode])搭載車による死亡事故の調査において、米国高速道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration、NHTSA)とその姉妹機関である米国運輸安全委員会(National
Transportation Safety Board、NTSB)の職員と繰り返し衝突した様子を描写している。
シディキによると、テスラの主張の1つは、高速道路ではオートパイロットが「事故データと比較した場合、通常の運転よりも安全だった」というものだった。2022年のテスラのイヴェントで、マスクは「自動運転機能の追加が負傷や死亡を減らすと信じるようになった時点で、それを導入する道義的義務があると思う」と述べた。この論理に従えば、オートパイロットの導入を遅らせようとした規制当局は人々を殺していることになる。
官僚制と規則に対する嫌悪感に加え、マスクの「まず削減、後で修正(slash
first, fix later)」というコスト削減の姿勢、計画に対する全般的な軽蔑、そして自分が常に正しいという揺るぎない信念が加わる。これらの特徴は、『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者ケイト・コンガーとライアン・マックが2024年に出した著書『文字数制限:イーロン・マスクはいかにしてTwitterを破壊したか(Character Limit: How Elon Musk
Destroyed Twitter)』で巧みに記録されている。マスクはTwitter(現在はX)の従業員の5分の4を削減し、プラットフォームは当初は苦戦したものの、崩壊には至らなかった。なぜ同じアプローチが連邦政府には機能しないのだろうか?
マスクと、同じく衝動的で自信家でもあるトランプが昨年夏にDOGE構想を思いついた時、彼らが綿密に練られた計画を持っていたとはにわかには信じ難い。しかし、ヴォートという人物は、注目を集めたいだけの道化師が率いる準政府機関が、自身の目的を影に隠しながら、その目的の達成に役立つ可能性を間違いなく見抜いていた。
キリスト教国家主義者を自称するヴォートは、極右改革計画「プロジェクト2025」の立案者の1人だった。これは、トランプ氏が選挙運動中に否定したほど有害な計画であり、その後、ヴォートを行政管理予算局(OMB)に任命して、その効果的な実行を任せた。
2年前の演説で、ヴォートは「私たちは、官僚たちにトラウマになるような影響を与えたい。朝起きたら、仕事に行きたくなくなるようにしたい(We want the bureaucrats to be traumatically affected. When they wake
up in the morning, we want them to not want to go to work)」と述べた。彼の最終的な目標は、妨害的な左派が跋扈する「ディープステート(deep state)」と彼が見なす連邦政府機関を弱体化させ、大統領の手にさらなる権力を与えることだった。
マスクとヴォートの関係の詳細は、『ブルームバーグ』誌のジャーナリストであるマックス・チャフキンの先月の記事で明らかになった。チャフキンは、マスクが選挙後に「ヴォートと定期的に連絡を取り合っていた」と述べ、「ヴォートに近い人々から、マスクは彼の政策を国民に訴える役割を担う存在」と見なされ、ヴォート自身からもマスクは「戦力増強装置(force multiplier)」と見なされていたと記している。
DOGEにおけるマスクの手法、例えば試用期間中の連邦職員(労働保護が最も少ない職員)の解雇や連邦データシステムの掌握といった手法が、ヴォートではなく、マスク自身の発明であったかどうかは定かではない。おそらくOMB長官であるヴォートは、マスクの強引さに匹敵する者はいないと認識し、マスクが企業で用いてきたのと同じ電撃戦的な精神を政府にも持ち込むよう促したのだろう。
政府は無駄と詐欺の巣窟だと確信していたマスクは、できるだけ多くの職員を解雇し、若い支持者にAIツールとデータへのアクセスを与えるだけで、政府支出を削減できると本気で信じていたのかもしれない。(実際には、政府支出を大幅に削減することは可能だが、それは主に防衛、金融、医療といった産業への実質的に補助金となっているものを廃止することであり、それは政府運営の合理化だけでなく、大幅な政策変更が必要となるだろう。)
マスクはまた、利益相反(conflicts of interest)は関係ないと考えているのかもしれない。結局のところ、彼の事業が全て人類のためになるのであれば、政府との契約が増えることは人類のためになるのではないだろうか?
しかし、その過程でマスクは官僚にトラウマを与えるというヴォートの目的を確実に達成した。そして、マスクが一歩退いた現在も急速に進められている政府データの統合は、ホワイトハウスが政敵や不法移民、そして不従順な政府職員を標的にするために利用される可能性がある。
振り返ってみると、連邦政府の官僚機構に対する統制強化こそがDOGEの真の目的で、コスト削減は副次的なものだということは明らかだ。ヴォートは常に連邦政府の官僚機構を統制することを目標としていた。マスクは、自身の奇行で注目を集め、「政府の効率(government efficiency)」(結局のところ、誰がそれを望まないだろうか?)が全てであるかのように見せかけることで、その目的から目を逸らし、トランプへの批判を逸らす役割を果たした。
マスクのDOGEでの任期は、彼自身、ヴォート、そしてトランプが予想していたよりも早く終わりを迎えそうだ。関税をめぐって大統領と対立し、閣僚たちを疎外し、2500万ドルを投じたにもかかわらず州司法選挙で勝利を収められなかったことは、マスクをある種の負債にしていたのかもしれない。彼の潤沢な資金力は、トランプ政権にとって常に一定の有用性を維持することを保証し、彼の所有する企業は間違いなく有利な契約の恩恵を受け続けるだろう。しかし、ここ数カ月の出来事を踏まえると、彼が騙されたと結論づけずにはいられない。
※ギデオン・リックフィールド:元『ワイアード(WIRD)』誌編集長。民主的統治の将来についてのニューズレター「フューチャーポリス(Futurepolis)」を執筆している。Blueskyアカウント:@glichfield.bsky.social、 Xアカウント:@glichfield
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』