古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:棍棒外交

 古村治彦です。

 アメリカは西半球に立て籠もろうとしている。世界に対する一極支配は既に不可能な状況になっている。そうした中で第二次ドナルド・トランプ政権は202512月に発表した、「国家安全保障戦略(National Security StrategyNSS)」で、「アメリカ・ファースト外交」を掲げ、「西半球」をアメリカの勢力圏(sphere of influence)とすると発表した。

 トランプ政権は、ヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領の拘束連行を実施し、グリーンランドの領有を主張している。有名なモンロー主義と棍棒外交を混ぜ合わせた、アメリカ・ファースト外交政策、ドンロー主義は、あらゆる手段を用いて、西半球から中国やロシアの影響を排除し、アメリカの支配権を確立するということになる。

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 アメリカが西半球を勢力圏とすると、中国とロシアがそれ以外の地域を勢力圏にするという構造になる。ロシアは自国の周辺を「緩衝地帯」「衛星国」として、自国の防備を固めるという行動を取り、中国は影響を少しずつ拡大していく。一帯一路計画はその一例であるし、BRICSという枠組みもそれにあたる。

 アメリカの西半球のアメリカ勢力圏化は、実質的なアメリカ「帝国化」である。アメリカの利益のために、勢力圏内の全ての国家がアメリカの利益のために「奉仕する」という構造を目指すことになる。簡単に言えば、全ての国家を属国とするということだ。帝国と属国の関係を西半球に築き、搾取するということだ。遅れてきた植民地主義である。ドンロー主義のこのような態度は西半球の全ての国々の反米感情を増大させることになる。また、既に、ブラジルはBRICSの一角として、西側以外の国々の中でリーダー格として存在感を増している。西半球は既にアメリカの勢力圏、植民地帝国として再編することはできない。アメリカが、本当の意味で「共存共栄(co-prosperity)」を学ばねば、ドンロー主義による、西半球の植民地化は、太平洋戦争における日本の「大東亜共栄圏(Great East Asian Co-Prosperity Sphere)」と同じ結果に終わるだろう。
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(貼り付けはじめ)

「ドンロー主義」は意味をなさない(The ‘Donroe Doctrine’ Makes No Sense

-寛大に解釈したとしても矛盾が山積している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年1月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/08/donroe-doctrine-trump-venezuela-empire/

ドナルド・トランプ政権のヴェネズエラ政策(ニコラス・マドゥロ大統領の最近の拉致事件を含む)の戦略的正当性(the strategic justification)について、もしあなたが困惑しているなら、それは仕方がないと思う。なぜなら、これまでに提示された論拠のほとんどは信頼性に欠けているからだ。

第一に、これはアメリカを「麻薬テロ(narcoterrorism)」から守ることではない。ヴェネズエラはアメリカに流入する違法薬物(ましてやフェンタニル[fentanyl])の主要な供給源ではなかっただけでなく、ドナルド・トランプ米大統領が、麻薬密売で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領フアン・オルランド・エルナンデスに完全恩赦(a full pardon)を与えるという最近の決定は、彼がこの問題をどれほど真剣に考えているかを示している。さらに、米司法省は、トランプ政権が昨年繰り返し騒ぎ立てた危険な麻薬カルテル「カルテル・デ・ロス・ソレス」が実際には存在しなかったことを認めた。言い換えれば、それは、繰り返し警告されながら発見されることのなかったイラクの大量破壊兵器(weapons of mass destruction)と同じくらい真実である、完全に虚構の政権プロパガンダだったのだ。

マドゥロ大統領の拘束は、アメリカの安全保障強化を目的としたものではなかった。ヴェネズエラは非常に脆弱な国(a very weak country)であり、マドゥロ大統領が容易に拘束されたことからもそれが明らかだ。また、アメリカの強力なライヴェル国にとって、ヴェネズエラは緊密な戦略的同盟国ではない。中国はヴェネズエラに軍事基地を建設しておらず、イランはアメリカを攻撃するためのミサイルをヴェネズエラに輸送していなかった。ヴェネズエラには、アメリカの貿易ルートを阻害できるほどの強力な海軍力も存在しなかった。カラカスからアメリカが直面する深刻な脅威を夜も眠れずに心配する人は誰もいなかったし、マドゥロ大統領がブルックリンに収監された今、誰もが安眠できている訳ではない。

また、トランプ大統領が野党指導者マリア・コリーナ・マチャドを権力の座に就かせることを既に断念し、代わりに依然として紛れもなく独裁的な政権を率いるマドゥロ大統領の副大統領と交渉する意向を示していることを考えると、これは民主政治体制の促進を目的としたものでもない。

 

 

 

 

 

危険な薬物の撲滅でも、深刻な安全保障上の脅威に立ち向かう必要性でも、民主政体を回復したいという願望でもないのなら、それは石油に違いない、そうではないか? トランプは、これが本当の理由であり、アメリカ企業がすぐにそこに参入して石油を奪い、アメリカを偉大な国にするつもりだと繰り返し述べている。これもまた間違いだ。トランプは自分が信じたいものなら何でも信じることができるが(そして頻繁にそうしている)、近いうちにアメリカを待ち受ける大規模な石油ブームなど起きない。火曜日、トランプはヴェネズエラがアメリカに最大5000万バレルの石油を引き渡すことに同意したと自慢したが、これはせいぜいアメリカの石油生産量の4日分にも満たない量だと気づくまでならば、素晴らしい話に聞こえるだろう。トランプは、売却益を管理し、ヴェネズエラの経済支援に使うと述べたが、もしこれを信じているのなら、トランプの略奪的本能(predatory instincts)に注意を払っていないことになる。そして、たとえその石油からの収入が最終的に得られるようになったとしても、それはヴェネズエラが経済再建に必要とするものの表面をかすめる程度にしか過ぎない。

確かに、ヴェネズエラは世界最大の確認埋蔵量(the world’s largest proven reserves)を誇るが、その重質原油は採掘が難しく、精製コストも高額になる。率直に言って、良識ある生産者なら開発を試みようとしないであろうし、まさに最後の手段と言えるだろう。ヴェネズエラの老朽化したインフラの危機的状況と、昨今の原油価格の低迷を考えると、なおさらだ。そして、もし奇跡的にヴェネズエラの原油が大量に世界市場に流入すれば、価格はさらに下落し、アメリカのシェールオイル掘削業者の多くは廃業に追い込まれるだろう。

そして、トランプ大統領や大手石油会社がどう考えようと、世界は徐々に炭化水素資源から離脱し、他のエネルギー源へと目を向けつつあり、ヴェネズエラの埋蔵量の価値はさらに低下していることを忘れてはならない。実際、気候変動の現実を考えると、最も賢明なのは、できる限り多くの原油を地中に残しておくことだ。つまり、中国が将来のグリーン産業を支配し、その結果影響力を獲得することにレーザーのように集中している一方で、トランプと彼を取り囲む戦略の天才たちは、地球を脅かす前世紀のエネルギー政策にさらに力を入れているということになる。

従って、この作戦の戦略的根拠についてあなたが混乱するのも無理はない。私がここで見出す唯一の「戦略的」目的(“strategic” objective)は、西半球(the Western Hemisphere)におけるアメリカの覇権(U.S. hegemony)を再確立するという大まかな考えだ。トランプはあらゆるものに自分の名前を冠することで自らの領土を示すことを好むため、この考えは現在「ドンロー・ドクトリン(Donroe Doctrine)」として宣伝されており、最近の「国家安全保障戦略(National Security StrategyNSS)」にも明確に示唆されている。これは外交政策のリアリストたちが支持できる合理的な考えのように聞こえるかもしれないが、綿密な検証にも耐えられない。

モンロー・ドクトリン(the Monroe Doctrine)の本来の目的は、アメリカが西半球におけるライヴァル大国の軍事介入を心配しなくて済むようにすることだった。ジェイムズ・モンロー大統領の構想が実現するまでにはほぼ1世紀を要したが、最終的にアメリカは他の全ての大国を西半球から追い出し、歴史家C・ヴァン・ウッドワードが「自由な(もしくは無料の)安全保障(free security)」と呼んだものの恩恵を享受することに成功した。

しかし、トランプと側近たちが言っているのはそういうことではない。なぜなら、現在、西半球で重要な軍事的役割を果たしている大国はおらず、また、そのような役割を担おうとしている大国も存在しないからだ。「国家安全保障戦略」が明らかにしたように、トランプ政権は、発生する可能性のあるあらゆる問題において、可能な限り多くの近隣諸国に、自らの指示に従わせようとしている。彼らは現在、マドゥロ大統領の後継者たちにこう言い放っている。「私たちの要求に応じなければ、封鎖(blockading)を続け、もしかしたらもっとひどいことをするかもしれない」。そして、彼らは地域の他の国々がこのメッセージを理解し、従順に行動してくれることを期待しているのだ。

特に、トランプ政権は現在、近隣諸国の経済政策を統制し、これらの国々や中国などの国々にとって経済的に有益な政策を拒否する権利を主張している。「国家安全保障戦略」では、「私たちは、敵対的な外国の侵略や主要資産の所有から自由な西半球を望んでいる」と述べ、さらに、部外者が「戦略的に重要な資産を所有または支配」してはならず、アメリカは「西半球以外の競争相手がこの地域で影響力を高めることをより困難にしなければならない」と付け加えている。トランプとその仲間たちは、一部のラテンアメリカ諸国が「低コストと規制上のハードルの少なさ(low costs and fewer regulatory hurdles)」に惹かれて他国と「ビジネスを行うことに魅力を感じている(attracted to doing business)」ことを理解しているため、「そのような援助を拒否するよう各国に促す(induce countries to reject such assistance)」と主張している。しかし、トランプ政権は一般的に外国援助に反対し、あらゆる二国間関係において利益の大半を独占しようとする略奪的な政権であるため、望むものを手に入れるには寛大さ(generosity)ではなく脅迫(threats)に頼らざるを得ない。

しかし問題は、アメリカがこのように近隣諸国の経済に介入し続けるなら、その国の経済状況に責任を負うことになるということだ。ラテンアメリカ諸国に対し、アメリカ製品よりも安価な中国製品(場合によっては電気自動車のように大幅に優れた製品)を購入できないと告げれば、消費者は不満を抱くだろう。もし同じラテンアメリカ諸国に対し、インフラ整備やその他の機会創出につながる中国やその他の外国からの投資を拒否するよう命じれば、アメリカはそれを提供しなくてはいけなくなる。さもなければ、ラテンアメリカ諸国の貧困を助長していると非難されるだろう。これに加えて、アメリカの問題をこの地域からの移民や難民のせいにする傾向、そして可能な限り多くの移民や難民を強制送還するという強硬な姿勢が加われば、安定した覇権どころか、反米感情の高まりと地域の不安定化を招くことになる。

より成功したアメリカの政策との対比は明白だ。例えば第二次世界大戦後、アメリカはヨーロッパとアジア(かつての敵国であったドイツと日本を含む)で非常に成功したパートナーシップを築いた。これは、これらの国々がソ連という共通の脅威を認識していたことに加え、アメリカが新たなパートナー諸国が第二次世界大戦から可能な限り速やかに復興できるよう、慈悲深く行動したことも一因となっている。しかし、トランプは「慈悲深く()benevolent」という言葉の意味を理解していない。彼の人生観は「私のものは私のもの、他人のものは交渉の余地がある(what’s mine is mine and what’s yours is negotiable)」というものだ。

銃を突きつけて西半球を支配しようとする試み(trying to run the Western Hemisphere at the point of a gun)は、過去と同様に、今後もうまくいくことはないだろう。トランプの顧問であるスティーヴン・ミラーは、「歴史の鉄則(iron laws of history)」の1つは、世界は力によって支配されていることだ(the world is governed by power)と考えている。ミラーが言及しなかった「鉄則」は、力こそが全てだと考える指導者は必然的に多くの愚かな行為を犯すということ(leaders who think power is all that matters inevitably do a lot of stupid things)だ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領の外交政策はいつも通り、はったりを利かせながら進んでいる。西半球(Western Hemisphere)を勢力圏(Sphere of Influence)として、支配を確立するために、逆に言えば、世界覇権国であることを辞めるために動いている。ヴェネズエラ攻撃、グリーランド奪取への言及、パナマ運河への野心、カナダやメキシコを「州」として扱うような行動は南北アメリカ大陸を支配するための動きである。ドンロー主義は、モンロー主義(南アメリカからイギリスの影響を排除する)と棍棒外交(アメリカ海軍の戦艦の太平洋と大西洋の行き来を確保しつつ、物流の通行料を取るためにパナマを奪取する)を混合させたものだ。ドンロー主義が排除を目指すのは、中国とアメリカの影響力だ。

 19世紀のイギリス、21世紀の中国とロシア、それぞれターゲットは異なる。また、置かれている状況も異なる。南アメリカには「西側以外の国々」の中核であるBRICSの一角ブラジルが控えている。ブラジルは国力を充実させ、南アメリカの地域大国となり、ドル覇権からの離脱を目指す存在である。BRICSは既に世界の重要な拠点を押さえている。BRICSの位置を確認すれば、北米大陸(とヨーロッパ)が包囲されていることが分かる。
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BRICS加盟諸国の地図

 アメリカの横暴な動きが続けば、ヨーロッパ諸国がそうであるように、アメリカを「脅威」と見なすことで、西側以外の国々が「対米防衛同盟」を成立させることで、「脅威の均衡(balance of threat)」を図るということも起きるだろう。「脅威の均衡」はこのブログでも頻繁にご紹介しているスティーヴン・M・ウォルトが提唱した考えである。簡単に言えば、ある国を「脅威」と認識した国々は、その国に従うか(「バンドワゴニング、勝馬に乗る[bandwagoning]」)、同盟を組んで対抗するか(バランシング、均衡を図る[balancing])ということになる。中国は表立って、対米防衛同盟の動きを行うことはないだろうが、アメリカの暴力的な動きが激しくなれば、西側以外の国々が結束して、アメリカに対抗し、アメリカを包囲し、封じ込める(containment)ということも考えられる。

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勢力均衡理論が再び台頭している(The Balance-of-Power Theory Strikes Again

-ドナルド・トランプの脅しに対する世界の反応に誰も驚くことはない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年1月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/23/trump-threats-europe-greenland-balance-power/

ついに、かつて友好国だった国々が、ならず者国家アメリカ(a rogue America)に対抗し始めているのを目にする日が来たのだろうか?

このような変化は、世界情勢の大きな転換点となるだろう。もし実際にそうなったとしても、それはトランプ政権の戦略的近視眼(the strategic myopia of the Trump administration)と、ますます不安定になる大統領の略奪的衝動(the predatory impulses of an increasingly erratic president)に完全に起因するだろう。

過去100年ほど、アメリカの世界支配の台頭は、その地位が圧倒的ではあっても、多くの国々がワシントンを牽制するために結集するほどではなかったという点で、古いスタイルの勢力均衡理論(old-style balance-of-power theory)の部分的な例外であった。冷戦期には、アメリカはソ連主導の諸国連合という対抗勢力に直面したが、世界の主要諸国や中規模諸国のほとんどは、アメリカの特定の政策に時折反対する場合があっても、アメリカを貴重な同盟国と見なしていた。しかし、カナダのマーク・カーニー首相が火曜日、スイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムの参加者に語ったように、そのような世界はもはや過去のものとなった。今日、彼は次のように語った。「大国間の競争(great-power rivalry)が繰り広げられる世界において、中間に位置する国々には選択肢がある。互いに好意を得るために競争するか、協力して影響力のある第三の道を切り開くかだ。」

以下、私自身の研究に触れて恐縮ですが、約40年以上前に博士論文(そして最初の著書)を執筆して以来、同盟の諸起源(the origins of alliances)と国家間の均衡を保つ理由(the reasons why states balance)というテーマについて考え、書き続けてきた。国家が同盟を結ぶのは、主に脅威への対応(response to threats)であり、力(power)だけによるものではないと私は主張した。もちろん、力は脅威の一要素だ(つまり、他の条件が同じであれば、強い国家は弱い国家よりも危険だ)。しかし、地理や知覚された意図[他者の行動から読み取った目的や動機]geography and perceived intentions)も重要だ。近隣にある国家は遠くにある国家よりも厄介な傾向があり、修正主義的な野心を持つ国家(states with highly revisionist ambitions)は特に危険だ。特に、他国から領土を奪ったり、他の国の統治者を支配しようとしたりする場合には猶更だ。弱小国家や孤立国家は、脅威となる勢力に「勝ち馬に乗る、バンドワゴニング(bandwagoning)」することで融和(accommodate)しようとすることもあるが、より典型的な対応は、理想的には他国と連携して、脅威となる勢力と均衡を保つことだ(the more typical response is to balance against a threatening power, ideally in partnership with others)。

私が「脅威の均衡理論(balance-of-threat theory)」と名付けたこの定式は、とりわけ、アメリカの冷戦同盟システムがワルシャワ条約機構やソ連の様々な非同盟諸国よりもはるかに大規模で強力であった理由を説明するものであった。アメリカは総合的な力では勝っていたが、ソ連はヨーロッパとアジアの多くの中規模国に隣接し、領土獲得に最適化された大規模な軍隊を有し、その指導者たちは共産主義の普及に公然と尽力していた。対照的に、アメリカはヨーロッパとアジアから2つの巨大な海によって隔てられており、そこに領土的野心はなかった。脅威の均衡理論は、1991年にイラクをクウェートから追い出した多国籍軍のような、不均衡な構造(lopsided alignments)も説明できる。あの事件では、イラクをはるかに上回る能力を総合的に備えた、本来はあり得ないような国々のグループが力を合わせた。なぜなら、彼らは皆、イラクの行動が地域の安定に対する深刻な脅威であると見なしたからである。

脅威均衡理論は、アメリカが単独で権力の頂点に立つ一方で、公然とした均衡維持の努力が少数の脆弱なならず者国家(weak rogue states)に限られていた「一極時代(unipolar moment)」という一見異常な状況を理解する上でも役立つだろう。冷戦時代のアメリカの同盟諸国がNATOに残留したのは、(1)制度的惰性(institutional inertia)(「NATOが崩壊していないのなら、なぜ修復する必要があるのか​​?」)、(2)不確実性へのヘッジをしたいという願望(a desire to hedge against uncertainty)、(3)アメリカの保護に頼るのは極めて良い取引だという認識(the recognition that relying on American protection was a pretty good deal)、そして、(4)ワシントンの最悪の衝動が他国に向けられていたという事実(the fact that Washington’s worst impulses were directed elsewhere)、による。ヨーロッパの指導者たちは、2003年のイラク侵攻のような失策が自国に悪影響を及ぼすことを正しく恐れ、アメリカの判断力に何度も疑問を呈したが、「ソフト・バランシング(soft balancing)」にとどまり、再編や自立に向けた努力は行わなかった。この決定が容易にされたのは、アメリカが依然として同盟諸国に対して自制(with restraint)を示し、領土的野心を抱かず、概ね各国政府と建設的な協力関係を築こうと努めていたためである。対照的に、ロシア、中国、北朝鮮、イランは、アメリカからの潜在的な脅威をより強く懸念する理由があったため、アメリカの力のバランスを取るためにより積極的な努力を傾けた。

それは当時のことであり、今は違う。ドナルド・トランプは、大統領として2期目を開始して以来、脅威の均衡理論が警告するほぼ全てのことを実行し、予想通り否定的な結果をもたらしている。トランプは、カナダ、グリーンランド・デンマーク、パナマに対する拡張主義的な目標を公然と繰り返し宣言しており、その野望はそこで止まらないかもしれない。彼と彼の側近たちは、主権の規範(the norm of sovereignty)を含む国際法は無意味であり、強い者は手に入れることができるものは何でも手に入れることができると信じているようだ。彼は、他国に経済的・政治的譲歩を強要するために、関税の脅威を繰り返し振りかざしたり、課したりしてきた。彼は、多くの場合、非常に疑わしい理由をもって、6カ国以上に軍事力を行使し、デンマークなどの忠実な同盟国に対しても軍事力行使をほのめかしてきた。彼は、他の外国の指導者たちを露骨に軽蔑し、適正手続きを経ずに100人以上の外国人民間人を殺害することを容認してきた。これもまた、国際法違反である。さらに、反逆的な政府の凶悪集団(例:移民関税執行局[Immigration and Customs Enforcement])をアメリカ国内の都市に解き放つことで、他国社会がアメリカを安定し規制の行き届いた社会と見なすこと、あるいは彼の外交政策行動を異常な事例と捉えることを不可能にした。要するに、国内外を問わず、アメリカ政府は危険ないじめっ子であり、強迫的な略奪者のように振る舞っているのだ。

ある意味、この行動は奇妙だ。賢い捕食者たち(clever predators)は、真意を可能な限り隠そうとする。トランプも2016年、そして最初の任期の大部分においてそうだったように、それは「部屋の中の大人(adults in the room)」によって抑制されていたことも一因だ。しかし、2021年1月6日の犯罪を免れ、再選を果たし、確固たる信念を持たない取り巻き、忠誠者、追従者、そして日和見主義者たち(cronies, loyalists, sycophants, and opportunists with no fixed principles)で政権を固めたことで、彼は最悪の衝動を解き放った。そして今、世界は注目し始めている。

世界はどのように反応しているのだろうか? 確かに、アメリカの最も近い同盟諸国は、いくつかの明白な理由から、トランプの好戦的な姿勢に抵抗するのが遅れている。アメリカとの関係を縮小し、アメリカに対抗する動きを見せるにはコストがかかり、意味のある対抗勢力となるのに十分な数の国を集めるには、集団行動におけるよくあるディレンマ(the usual dilemmas of collective action)に直面する。したがって、イギリスのキア・スターマー首相、NATO事務総長のマーク・ルッテ、韓国の李在明大統領のような人々が、お世辞、象徴的な服従、贈り物、そして小さな譲歩を組み合わせることで、ワシントンとの緊密なパートナーシップから得られる利益のほとんどを維持できるかどうかを見極めようとしたのは理解できる。

試してみる価値はあったかもしれないが、その賭けは明らかに成功しなかった。トランプ自身の言動が、そのアプローチの愚かさを露呈した。過去の合意は全ていつでも再交渉可能であると信じ、いかなる譲歩もさらなる要求への誘いと解釈する捕食者を受け入れることはできない。

脅威均衡理論が予測するように、かつての友好諸国は距離を置き、信頼できず潜在的に敵対的なアメリカに対する依存を減らし、互いに、そして場合によってはアメリカの敵対諸国とも新たな取り決めを結んでいる。長年、どの国にとっても最良の隣国であったカナダの首相が北京を訪れ、「新たな戦略的パートナーシップの柱(the pillars of [a] new strategic partnership)」を概説するということは、地殻変動が起こっていることを物語っている。ヨーロッパの指導者たちも、数十年にわたるゼリー状の優柔不断の後、再び背骨が生えてきたように見える。なぜなら、彼らには選択肢がほとんど残されていないからだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙のエド・ルースは明確に次のように述べている。「トランプに立ち向かうことが成功を保証するわけではない。一方、服従は必ず失敗する(Standing up to Trump offers no guarantee of success. Submission, on the other hand, is certain to fail)」。

かつてアメリカが誇った数々の国際的パートナーシップの更なる崩壊を防ぎ、新興国により適した新たな枠組みを構築するには、もう手遅れではないだろうか? 確かに手遅れだが、それはトランプ政権がこれまでの略奪的な戦略を捨て、アメリカが一方的な利益のためだけでなく、共通の利益のために他国と協力する意思を示すことが条件だ。その可能性はどれほど高いだろうか?

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領はグリーンランド領有に関して、反対したヨーロッパ諸国への関税措置を撤廃し、買収交渉を行うという姿勢の転換を行った。「俺たち(アメリカ)が第二次世界大戦で助けてやらなかったら今頃お前たちはドイツを話していたんだぞ、そして、片言の日本語も話していただろう」ということをスイスで開かれているダヴォス会議で発言し、ヨーロッパ諸国の国民の不興を買っている。トランプにすればそんなことはお構いなしだ。「アメリカ・ファースト」で突き進むだけだ。グリーンランドのレアメタルと、中露両国が開発し、アジア諸国にとって便利な北極海航路に対する嫌がらせ(と通行料の徴収ができれば最高)でアメリカ国民に利益をもたらす、お金を配ることが最重要の目的だ。
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 この伝で行けば、パナマ運河もアメリカに戻せということになる。グリーンランドとパナマ運河を押さえることで、世界の物流を押さえることができる。それがトランプと側近たちの狙いだろう。しかし、それは中露両国も黙ってはいないだろう。

 トランプの交渉術は相手にショックを与えて、思考力を奪っておいて、それで交渉を行うというものだ。とんでもないことを言ったり、行ったりして、相手がひるんでいる隙に、自分の要求を通すということだ。交渉という点では、トランプは世界でも指折りの才能と経験を持っている。日本の政界で太刀打ちできる人はいないだろう。経済界ではいるかもしれないが。

 しかし、このようなトランプの交渉術は既に見切られている。トランプが強く出る場合に、相手も強く出て、トランプをひるませることができれば、トランプは引く。実際に、高関税政策に対して、中国は強く出てトランプを引かせている。今回のグリーンランドに関することでも、ヨーロッパ諸国がアメリカ国債の売却をちらつかせることで、トランプは引いた。世界の先進諸国はアメリカ国債を「安全資産」と保有してきたが、その売却という、一種の自爆的な方法を取るぞと脅すことで、トランプを引かせるという方法を採用している。

 トランプの「アメリカ・ファースト」外交は、アメリカの衰退を促進する。そして、世界は、世界覇権国アメリカの衰退に対応するために、この時期を過ごすことになる。

(貼り付けはじめ)

トランプは外交をどのようにやるかを全く分かっていない(Trump Has No Idea How to Do Diplomacy

-たとえ部分的に正しいとしても、彼は間違っている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年8月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/08/19/trump-diplomacy-putin-ukraine-europe/

アラスカで行われたウラジーミル・プーティン大統領とのあの奇妙な首脳会談と、ワシントンで行われたNATO首脳会議の組み合わせは、ドナルド・トランプ米大統領がひどい交渉者であり、「譲歩の術(art of the giveaway)」の達人であることを改めて思い知らせる出来事だった。トランプは準備を怠り、部下に事前に根回しをする(lay the groundwork beforehand)、会議に臨むたびに自分が何を望んでいるのか、どこまで譲歩(red line)すべきかさえ分からずにいる。戦略もなければ細部にも関心がなく、行き当たりばったりで臨む。

最初の任期中、北朝鮮の金正恩委員長との的外れなリアリティ番組のような会合に時間を浪費したことで分かったように、トランプが本当に求めているのは注目と、自分が主導権を握っていることを示唆するドラマチックなヴィジュアルだけだ。彼が締結するであろう合意の中身は、無関係とまでは言わないまでも、二次的なものに過ぎない。だからこそ、最近発表された貿易協定の中には、彼が主張するほどアメリカにとって有利ではないものもあるのだ。

トランプの突飛な外交失策に人々が注目するのは、彼が世界最強の国の大統領であり、カルト的な共和党の卑怯な議員たちが彼の気まぐれに付き従い続けているからに他ならない。しかし、トランプ、マルコ・ルビオ国務長官、そして外交の素人スティーヴ・ウィトコフのような軽薄な人物が、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やセルゲイ・ラブロフ外相といった人物と対峙すれば、後者がアメリカから巧みに利益を得ることは目に見えている。自問自答してみて欲しい。トランプがアラスカでプーティンと会談した際、アメリカ、同盟国、あるいはウクライナのために何か得たものはあっただろうか? プーティンは何かを譲歩しただろうか? さらに言えば、ウクライナを見捨てないよう説得するために現れたヨーロッパ各国の首脳からトランプはどのような譲歩(concessions)を得たのだろうか?

強力な敵対国との交渉を成功させるには、双方の利益、力、そして決意を冷徹かつ容赦なく現実的に評価する必要がある。プーティンのような指導者を、単に好意を抱いているから、あるいは滑走路にレッドカーペットを敷いたからといって、魅了して譲歩させることは不可能だ。希望的観測にふけったり、誰も真剣に受け止めないような脅しや約束をしたりしても、何の成果も得られない。

この最後の問題は、10年以上にわたり西側のロシア・ウクライナ政策を悩ませてきた。大半の西側諸国の政治家や評論家たちは未だ認めたがらないが、問題の根本原因はロシアと西側諸国の動機付けにおける根本的な非対称性(a fundamental asymmetry)にある。これは双方の脅威認識(perceptions of threat)と致命的な国益の定義(definitions of vital interests)の相違から生じる非対称性だ。(記録のために付記すれば、この認識の隔たりこそが、2014年に私たちのうちの何人かがこの道を進むことに警鐘を鳴らした理由である)。プーティンが自らの行動に数多くの理由を抱えていたとしても、最も重要なのは、ウクライナのNATO加盟がロシアにとって存亡の危機(an existential threat to Russia)をもたらすという恐怖、ロシアの政治スペクトル全体に広く共有されていた恐怖であった。

この問題において西側の立場を最も損なったのは、外交政策エリートたちが「無制限なNATO拡大(open-ended NATO enlargement)」、特に2008年のウクライナとジョージアへの将来加盟申請準備招待が戦略的失策(a strategic blunder)であった事実を、現実逃避的に認めてこなかったことだ。これがプーティンが和平合意で対処すべきと主張する「根本原因(root causes)」の中で最も重要であり、西側諸国の拡大推進の使徒たち(the Western apostles of expansion)が最も激しく否定、無視しようとしてきた点だ。これらはいずれもプーティンの違法な予防戦争(Putin’s illegal preventive war)を正当化するものではないが、そもそも紛争が起きた原因を誰も認めず対処しなければ、深刻な対立を終結させるのは困難である。

非愉快な現実は、モスクワは自国の経済を戦時体制に置き、数十万人の命を犠牲にすることを厭わなかったのに対し、ウクライナを支援する西側諸国はそうしておらず、今後もそうするつもりはないということだ。ウクライナ人は祖国を守るために計り知れないほどの英雄的な犠牲を払ってきたし、西側諸国はキエフに多額の資金、武器、情報、訓練、外交支援を提供してきた。しかし、ヨーロッパや北アメリカの他の国々が、自国の軍隊をキエフに派遣してそこで戦死するなどということについては、最初から明らかだった。(繰り返すが、西側諸国の指導者たちが2008年、あるいは2014年以降にこの点をもっと慎重に検討していればよかったのにと思う。)NATOが自ら参戦すべきだったと考える人々もおり、私は彼らの一貫した姿勢を尊敬しているが、彼らが関係する国民や指導者を説得することは全くできなかった。

その結果、ロシアは戦場で優位に立っており、ウクライナの失策(例えば2023年夏の不運な反撃など)もその一因となっている。ウクライナが失った領土(クリミアを含む)を全て奪還し、NATOとヨーロッパ連合に加盟することが唯一の受け入れ可能な結果だと依然として主張する人たちにはこの目標を具体的にどのように達成するつもりなのか説明を求めるべきだ。この奇跡をどのように実現するのか、首尾一貫した説得力のある戦略を提示するまでは、交渉のテーブルに彼らを招き入れるなど全く馬鹿げている。

したがって、トランプが先日のアラスカ首脳会談でプーティン大統領の側に立ったのは正しかったのだろうか? そして、トランプの姿勢を固めようとワシントンを訪れたヨーロッパ諸国の首脳たちの甘言や嘆願(blandishments and pleas)に抵抗すべきだったのだろうか? 答えはノーだ。

ここではより大きな利害関係が絡んでおり、アメリカとヨーロッパの交渉戦略はこれらに焦点を当てるべきである。プーティン大統領の要求の一部は将来の和平協定で受け入れざるを得ないとしても、NATO加盟国の一部からの軍撤退や、ウクライナの「非ナチ化(de-Nazified)」と部分的な武装解除といった要求は即座に拒否されるべきだ。ロシアが、将来ウクライナに駐留するかもしれないと懸念する外部勢力から自国を守る必要があると主張するならば、ウクライナはロシアによる新たな攻撃から守られ、自国を防衛する手段を与えられるべきである。

後者の懸念は、ウクライナや他の欧州諸国が、NATO第5条のような、正式な加盟国ではないものの何らかの安全保障保証に関心を持つ理由である。しかし、この考えには少なくとも2つの明白な反対意見がある。第一に、第5条は完全な安全保障の誓約ではなく、攻撃を受けた加盟国を支援するために同盟軍の派遣を自動的に引き起こすような仕掛けでは決してない。第5条は、加盟国の1つへの攻撃は加盟国全体への攻撃とみなされ、各加盟国は個別および集団的に「必要と考える行動(such action as it deems necessary)」をとると述べているだけだ。第二に、そして同様に重要な点として、トランプは生涯にわたって約束を破り、予告なしに方針を転換してきた経歴を持つ。それを考えると、分別のある国が彼の約束や誓約をなぜ信じるだろうか? たとえウクライナに対する何らかの安全保障の誓約について最終的に合意に達したとしても、誰がそれを真剣に受け止めるだろうか?

プーティン大統領とゼレンスキー大統領の直接会談の実現も検討されており、おそらくアメリカが仲介役を務めることになるだろう。これは、これまでそのような要請に抵抗してきたプーティン大統領にとって象徴的な譲歩となるだろう。しかし、戦場の現状やウクライナの長期的な展望に大きな変化がない限り、そのような会談が永続的な平和をもたらすとは到底思えない。繰り返しになるが、個人的な会談というドラマに惑わされないことが重要だ。メディアは騒ぎ立てるが、(トランプとウィトコフが関与している場合)成果はほとんどない。

一体何が期待できるというのだろうか? 戦闘の進展状況、そしてロシアがこの問題をウクライナ以外の国よりも重視しているという事実を考えると、モスクワは望んでいたことの一部を得ることになるだろう。しかし、ロシアがすでに支払ってきた莫大なコストと、ウクライナが今後も外部からの寛大な支援を受け続けることでさらに大きな損失が生じる可能性を考えると、西側諸国の利益にならないものをロシアに提供することを拒否することは可能であるはずだ。

トランプ大統領のオンオフの繰り返しや、その他多くの問題でヨーロッパの同盟諸国と争おうとする姿勢とは対照的に、最良の合意を得るための最善の方法は、アメリカがヨーロッパとの統一戦線(a unified front)を維持し、NATOがウクライナに寛大な軍事支援を継続し、ウクライナとアメリカが双方の交渉状況を現実的に評価した上で、ロシアとの真剣かつ綿密な交渉を進めることだ。しかしながら、真剣かつ綿密な交渉を遂行してくれる人物を探しているのであれば、ペンシルベニア通り1600番地は私としてはお勧めしない。

こうした状況を考えると、もし昨年(2024年)11月にカマラ・ハリス米副大統領が大統領に選出されていたらどうなっていただろうかと疑問に思う。ハリスは優れた外交政策戦略家とは言えず、バイデン政権もロシアとウクライナへの対応で幾度となく失策を犯していた。しかし、ワシントン(そして民主党エリート層)では、ウクライナがその目的の全てを達成することは不可能であり(たとえそれが抽象的にどれほど望ましく正当であったとしても)、アメリカ大統領選が終結した暁には戦争を終結させる必要があるという認識が広く共有されていた。ハリスなら、バイデンのティームを他の有能な顧問に交代させ、その成果を追求するよう指示し、困難な状況下でもウクライナが可能な限り最良の合意を得られるよう支援し続けただろうと私は思う。

もちろん、ハリス政権が成功したかどうかは分からない。しかし、信頼できる有能な外交アクターとしてのアメリカの評判をトランプ氏以上に傷つけることはできなかっただろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 アメリカによる西半球支配の動きはラテンアメリカ諸国やヨーロッパを緊張させている。ヴェネズエラ攻撃によって、「アメリカが実際に攻撃をする」可能性を見せられて、動揺が広がっている。他国からの侵略から守ってくれて、地域に安定をもたらすはずだったアメリカが攻撃する主体になったということは戦後80年の大きな節目での、国際社会の構造の大転換となった。ラテンアメリカはそれぞれに不平不満はありながらも、平和を維持してきた。しかし、これからはどうなるか分からない。

 アメリカは「裏庭(backyard)」であるラテンアメリカを勢力圏として管理し、味方につけようとしてきた。モンロー主義の場合は、ラテンアメリカ諸国が独立する時期で、スペインやポルトガルに代わってイギリスがラテンアメリカでの影響力伸長を目指して、独立運動を支援していたのを阻止するということが理由であった。アメリカは、ラテンアメリカに地域外の大国が進出してくることを安全保障上の脅威と捉え、深刻な恐怖感を持って対応する。今回のヴェネズエラ攻撃の場合には対象となるのは中国とロシアである。

 トランプ大統領はヴェネズエラの石油を管理し、販売した利益をヴェネズエラ国民とアメリカ国民に分配するとし、更には、ヴェネズエラ国民はその利益でアメリカ製品だけを買うように主張している。これは、ヴェネズエラの属国化のさらに先の「再植民地化(recolonization)」である。

 このようなアメリカの動きは長期的に見れば、アメリカの利益にならない。アメリカが大国として暴れまわることで、信頼を失い、アメリカとの協力を控えることになる。さらには、中国とロシアに近づき、対米防衛同盟を結成する動きも出てくるだろう。しかし、今のアメリカには既に長期的な視点を持って対外政策を行うだけの余裕がない。トランプ率いるアメリカはグリーンランドの領有も狙っているが、これは、レアアースの取得と、北極海航路の通行料徴収が目的である。アメリカは何が何でもお金を稼いで、国民を食べさせねばならない。トランプは、大統領就任演説で、アメリカを製造業の国にすると述べた。しかし、既に手遅れである。生産設備はなく、質の高い労働力などどこにもない。これから工場を建設すると言っても時間がかかる。その間に人々の暮らしは厳しくなる。結局、短期的な方法を取らざるを得ない。トランプの攻撃的なドンロー主義は、アメリカには余裕がなくなってどうしようもないという状況の裏返しである。アメリカはこれから「悪い隣人」となって、町のチンピラのようなことをする。「昔は立派だったのにね」と言われ、嫌われながら、衰退していく。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領の「悪い隣人」政策(Trump’s Bad Neighbor Policy

-地域諸国を属国(vassal states)のように扱うことは彼らを中国の懐に進めるになるだろう。

ウィリアム・M・レオグランデ、ピーター・コーンブルー筆

2026年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/05/trump-maduro-venezuela-oil/

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スペイン・バルセロナで行われたデモで抗議者が「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」と書かれた帽子をかぶっている。帽子の文字は「ヴェネズエラ」とテープで上書きされている(2026年1月4日)

「2026年にようこそ」とピート・ヘグゼス米国防長官は土曜日、アメリカ軍によるヴェネズエラへの攻撃を祝うマール・ア・ラーゴでの記者会見で宣言した。「トランプ大統領の下、アメリカは戻ってきた」。つまり、1900年代初頭の砲艦ドル外交(gunboat and dollar diplomacy)の時代、つまりラテンアメリカにおける帝国主義的覇権(imperial hegemony over Latin America)を志向し、いまだに完全には消えることのない敵意を生み出していた(engendering enmities that have never entirely dissipated)時代への回帰である。

世界をそれぞれの勢力圏(spheres of influence)に分割することを構想するドナルド・トランプにとって、ラテンアメリカ地域におけるアメリカの支配(U.S. domination)はそれ自体が目標だ。「西半球(the Western Hemisphere)におけるアメリカの支配は、二度と疑われることはないだろう」と、ヴェネズエラの複数の空港への空襲と、ニコラス・マドゥロ大統領とシリア・フローレス夫人の強制連行を含む夜明け前の襲撃からわずか数時間後、トランプは記者団にそのように語った。ヴェネズエラの今後について問われると、「私たちが統治することになる」と答えた。もはや国家建設(nation-building)は行わないという彼の約束は裏切られ、これで終わりとなった。

アメリカによるカラカス爆撃、マドゥロ大統領の拉致、そしてトランプ大統領によるヴェネズエラ石油産業の掌握計画は、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領の善隣政策(President Franklin D. Roosevelt’s Good Neighbor Policy)によって構想され、1950年代に米州相互援助条約(the Inter-American Treaty of Reciprocal Assistance)と米州機構(OAS)憲章(the Charter of the Organization of American States)によって成文化された米州システム(the inter-American system)に深刻な打撃を与えた。

マドゥロ大統領はラテンアメリカ内に友人をあまり持っていないが、主要国の指導者の多くはアメリカの攻撃を非難している。地域の指導者たちは短期的には反撃できる余地がほとんどないが、アメリカのラテンアメリカへの介入の歴史は、たとえトランプとその外交政策ティームがカラカスで思い通りに事が運んだとしても、西半球におけるアメリカの立場に与える外交的ダメージは、彼らが想像する以上に大きな代償を伴う可能性があることを示唆している。たとえ彼らがカラカスで思い通りに事が運ぶことができるかかどうかは、決して確定的ではない。

トランプは、第二次世界大戦終結以来の国際秩序を形作ってきた規範や制度(the norms and institutions)を破壊してきたことで悪名高い人物だ。NATOや国連から世界銀行や世界貿易機関に至るまで、「アメリカ・ファースト(America First)」は、ハードパワーに依存し、多国間の関与やコミットメントに懐疑的なアメリカの外交政策を意味してきた。

第2次トランプ政権発足後数週間で、トランプはその姿勢が西半球でどのように適用されるかを予見した。パナマシティにパナマ運河を返還し、カナダに主権を放棄して51番目のアメリカの州となるよう要求した。先月(2025年12月)末には、デンマークに対しグリーンランドの引き渡しを要求し、さもなければアメリカ軍による奪取に直面する可能性があると繰り返した。

ヴェネズエラは、昨年9月にアメリカ軍がカリブ海で麻薬密輸船とされる船舶の爆破を開始して以来、トランプの一方的な攻撃の的となっており、トランプはマドゥロをいわゆる「カルテル・デ・ロス・ソレス」の麻薬テロリストの首謀者だと非難している。

しかし、マルコ・ルビオ国務長官に煽られたトランプのヴェネズエラへの執着は、麻薬が原因だったことは一度もない。ヴェネズエラはコカインを生産していないし、ましてやフェンタニルも生産していない。ヴェネズエラはコロンビア産コカインの二次的な中継地点であり、その輸送先は主にヨーロッパだ。アメリカ市場向けのコカインは、コロンビアとエクアドルから太平洋を経由して北上するか、陸路でメキシコを経由して北上する。さらに、もしトランプの主目的が麻薬密売人の処罰であったならば、400トン以上のコカインのアメリカへの密輸を幇助した罪で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領フアン・オルランド・エルナンデスを恩赦することはなかっただろう。

トランプ大統領がカリブ海に大規模な艦隊を派遣したことは、当然のことながら、アメリカが砲艦外交(gunboat diplomacy)の手段として、あるいは介入(intervention)の前兆として、この地域に海軍部隊を定期的に派遣していた砲艦外交を想起させた。100年前、砲艦外交はセオドア・ルーズヴェルト大統領と密接に結び付けられ、モンロー主義のルーズヴェルト的系列として正当化された。この系列では、アメリカはラテンアメリカ諸国への介入によって安定を維持する権利があると主張していた。

その後20年間にわたる24回のアメリカによる介入と6回の長期占領は、ラテンアメリカ諸国の間に大規模な反感を招いた。第一次世界大戦中、多くのラテンアメリカ諸国が中立を守り、ドイツはメキシコにアメリカへの宣戦布告を促せるのではないかと考えたほどである。

1930年代、ヨーロッパに再び戦火の雲が立ち込めると、ルーズヴェルト大統領は善隣政策を採用し、関係修復と、西半球に戦争が到来した際にラテンアメリカが連合国側にしっかりと留まることを保証するために、軍事介入を放棄した。ルー元はこの政策に成功し、戦後の米州システムの基礎を築いた。

確かに、アメリカは西半球を支配するという帝国主義的誘惑(the imperial temptation)を完全に捨て去ったことはなかった。特に冷戦期においては、共産主義の脅威、とりわけキューバ革命後の脅威が、グアテマラ、キューバ、ドミニカ共和国、チリ、グレナダ、ニカラグアといった主要な国々への、秘密のそして公然の介入を生み出した。

トランプ大統領は、自ら「トランプ系列(Trump Corollary)」を発表し、続いてヴェネズエラに介入することで、ラテンアメリカにおけるブレジネフ・ドクトリン(the Brezhnev Doctrine)に相当するアメリカ版を宣言した。すなわち、アメリカの勢力圏内にある国々は限定的な主権(limited sovereignty)しか持たないというものだ。先月発表されたトランプ大統領の国家安全保障戦略(Trump’s National Security Strategy)は、「アメリカは西半球において卓越した存在でなければならない(The United States must be preeminent in the Western Hemisphere)」と明確に宣言している。

ラテンアメリカの人々は、少なくとも今後3年間は、国際法の制約がもはや適用されないホッブズ流の自然状態(a Hobbesian state of nature)に生きていることを理解すべきだ。トランプは国内法以上に国際法を軽視している。米州協力の基盤文書である米州機構(OAS)憲章は、「いかなる国または国家集団も、いかなる理由によっても、直接的または間接的に、他国の内政または外交問題に介入する権利を有しない」「いかなる国も、他国の主権的意思を強制し、そこからいかなる利益を得るため、経済的または政治的性格を有する強制的手段を用い、または用いることを奨励してはならない」「国の領土は不可侵である。いかなる理由によっても、一時的であっても、他国による直接的または間接的な軍事占領またはその他の武力行使の対象とされてはならない」と厳粛に宣言している。事実上、この憲章は今や死文(a dead letter)となっている。

ラテンアメリカ諸国からの初期反応は、トランプ大統領によるアメリカ国内法の軽視に対する国内の反応と軌を一にしている。イデオロギー的に同調的な指導者たちは、支持を得るために惜しみない賛辞を送った。トランプ大統領から200億ドルの救済措置を受けたアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、マドゥロ大統領の退陣を支持し、「自由万歳、くそが(Long live freedom, damn it)」と宣言した。しかし、主要国はアメリカの介入をはっきりと非難した。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は、アメリカは「容認できない一線を越えた(has crossed an unacceptable line)」と直後に警告した。コロンビアでは、グスタボ・ペトロ大統領がワシントンの軍事作戦を「地域の主権への攻撃(assault on the sovereignty of the region)」と非難した。チリでは、退任間近のガブリエル・ボリッチ大統領が、トランプ政権の行動は「領土保全の原則の重大な侵害であり、地域諸国の安全、主権、そして安定を危険に晒す(constitutes a grave violation of the principle of territorial integrity and puts at risk the security, sovereignty, and the stability of the countries in the region)」と宣言した。メキシコ外務省は声明で、「ラテンアメリカ・カリブ海地域は相互尊重(mutual respect)、紛争の平和的解決(the peaceful settlement of disputes)、武力行使と武力威嚇の禁止(the prohibition of the use and threat of force)を基礎として築かれた平和ゾーン(a zone of peace)であるため、いかなる軍事行動も地域の安定を深刻に脅かすことになる」と指摘した。

短期的には、ラテンアメリカ諸国はトランプの攻撃的な姿勢を抑えるためにできることはほとんどない。昨年、トランプはメキシコとコロンビアへの軍事攻撃をちらつかせ、パナマ運河を再占領し、ニカラグアとキューバに新たな経済制裁を課した。強者はやりたいことをやり、弱者は当然の苦しみを味わうことになる(The strong do what they will; the weak suffer what they must)。

​​しかし長期的には、ラテンアメリカ諸国には、最初の砲艦外交の時代と同様に、選択肢がある。国際的な経済関係をヨーロッパやアジアのより信頼できるパートナーへと転換することで、アメリカの経済制裁に対して脆弱な(vulnerable)状態を軽くすることができる。アメリカの外交的圧力、そして(程度は低いものの)アメリカの軍事的脅威とのバランスを取るために、他の主要国に新たな戦略的同盟を求めることもできる。トランプの優先事項である移民問題や麻薬密売問題など、アメリカ単独では解決できない問題への協力を縮小するだけで、受動的に抵抗することもできる。

ラテンアメリカ諸国がアメリカから離れる傾向は、ここしばらく徐々に進行しており、その先頭に中国が立っている。過去10年間、アメリカ南方軍の年次態勢声明は、中国を戦略的競争相手(a strategic competitor)、そしてアメリカの半球の利益に対する脅威として拡大していると指摘してきた。昨年発表された最新版では、「アメリカと中国は激しい戦略的競争に巻き込まれている(The United States and China are locked in a fierce strategic competition)」と警告している。

ルーズヴェルト大統領の善隣政策は、ヨーロッパで高まりつつある危機に対処するため、ラテンアメリカ諸国に同盟関係を築くことを目指していた。トランプ大統領は、アメリカはこの地域に同盟国(allies)など必要なく、属国(vassals)さえあれば十分だと考えているようだ。わずか1年で、アメリカは典型的な「悪い隣国(Bad Neighbor)」に変身した。ラテンアメリカ諸国をアメリカの宗主権(suzerainty)の対象として扱うことは、ラテンアメリカ諸国の中国への傾きを加速させ、アメリカの地域的影響力(U.S. regional influence)を弱めるだけだ。もし世界でトランプ大統領のヴェネズエラ介入を密かに称賛している人がいれば、それは中国の習近平国家主席だろう。

※ウィリアム・M・レオグランデ:アメリカン大学教授。クインシー研究所非常勤研究員。ピーター・コーンブルーとの共著『キューバへの裏チャンネル:ワシントンとハバナの交渉の隠された歴史(Back Channel to Cuba: The Hidden History of Negotiations between Washington and Havana)』がある。Xアカウント:@WMLeoGrande

※ピーター・コーンブルー:ジョージワシントン大学国立安全保障アーカイヴのキューバ文書プロジェクト部長。『1962年のキューバミサイル危機(The Cuban Missile Crisis, 1962)』の共著者であり、ウィリアム・M・レオグランデと共著で『キューバへの裏チャンネル:ワシントンとハバナの交渉の隠された歴史(Back Channel to Cuba: The Hidden History of Negotiations between Washington and Havana)』もある。Xアカウント:@peterkornbluh

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領のヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束連行は世界に衝撃を与えた。私も「トランプはどうしてそんなことをやったんでしょうか」「アメリカはどうなるんですかね」といった問い合わせをいただくことがある。トランプが主張するドンロー主義(Donroe Doctrine)は、1830年代のジェイムズ・モンロー大統領のモンロー主義(南北アメリカ大陸からスペインとイギリスの影響を排除する)と、1900年頃のセオドア・ルーズヴェルト大統領(と先代のウィリアム・マッキンリー大統領)が採用した棍棒外交(中南米諸国に対して武力行使をちらつかせ、また実際に行使してアメリカに従わせる)を混合した外交政策の基盤となる原理ということになる。そして、これこそが「アメリカ・ファースト」(アメリカの利益が最優先)ということになる。

 こうしたドンロー主義に対して、懸念の声が出てくるのは当然のことだ。国外から一気に首都を急襲するという方式は、1979年から1981年にかけて起きたイランのテヘランのアメリカ大使館人質事件(Iran Hostage Crisis)において、人質救出作戦として立案されたイーグルクロー作戦(Operation Eagle Claw)と似たような形である。イーグルクロー作戦は天候に恵まれず失敗し、アメリカ大使館人質事件は当時のジミー・カーター大統領の再選失敗の最大の原因となった。もし、今回のヴェネズエラ急襲作戦が失敗していれば、トランプ大統領と政権にとって致命的な傷となったことだろう。今回の成功は幸運だったと言える。

 懸念されるのは、今回の成功に味を占めて、成功体験に浮かれて、他国にも同様の攻撃を行う可能性があることだ。メキシコやグリーンランド、パナマにアメリカ軍部隊を侵入させるということは今のところ考えにくいが、可能性がゼロではない。また、そのような可能性を相手側に考慮させることで、アメリカ側の交渉力を上げ、意向に従わせようとする可能性もある。短期的にそれが成功しても、中長期的に見て、それが成功となるかどうかは分からない。アメリカのならず者のような行動は他国からの反感を買い、忌避を生み出す。そして、相対的に、中国とロシアの評価を上げることになる。

国際関係論では、「バランシング(balancing)」と「バンドワゴニング(bandwagoning)」という考え方があるが、脅威となる国が出てきたときに他国が一緒になって対抗することを「バランシング」、脅威となる国に味方することを「バンドワゴニング」という。アメリカに対抗できるもう一つの軸として、著書やブログでも何度も紹介してきた、中国とロシアを中心とするBRICS諸国を中核とする「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」による「バランシング」が起きる可能性が高い。アメリカは予期しているよりも影響力を行使できないということになる。そうなると、国際的な孤立を招くということになる。今回のヴェネズエラ急襲成功が結果として大きな損失を生み出すということも十分に考えられる。

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ヴェネズエラはドナルド・トランプ大統領の運が尽きる場所になるかもしれない(Venezuela Might Be Where Trump’s Luck Runs Out

-トランプ大統領は、支持基盤内部の極めて強硬な派閥とハト派の間で綱渡りを続けている。

エンマ・アシュフォード筆

2026年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/05/venezuela-trump-us-military-intervention-regime-change-south-america/

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(右から)ドナルド・トランプ米大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ジョン・ラトクリフCIA長官、ピート・ヘグゼス国防長官がフロリダ州パームビーチにあるトランプの邸宅マール・ア・ラーゴからヴェネズエラにおける米軍の作戦を監視する(2026年1月3日)

国境の南側へのアメリカの軍事介入は、野球やアップルパイと同じくらいアメリカ的だ。1914年、ウッドロウ・ウィルソン大統領はアメリカの経済的利益を守るため、メキシコのベラクルスを占領するために軍隊を派遣した。冷戦時代、アメリカはキューバからニカラグア、グアテマラ、パナマに至るまで、公然と、あるいは秘密裏に、様々な政権転覆作戦(overt and covert regime change operations)を実行した。さらに最近の1994年には、クリントン政権がハイチに侵攻し、退陣したジャン=ベルトラン・アリスティド大統領を復帰させた。

それにもかかわらず、先週末に見られたような、事実上の武装誘拐(an armed kidnapping)とも言える指導者交代を、アメリカの政権が公然と、そして誇らしげに行っていることは衝撃的だった。これらの行動が選択された理由に関する公式の説明には、ほとんど策略がなく、この攻撃を何らかの国際法に組み込もうとする真摯な試みもなかった。むしろ、ドナルド・トランプ政権は事実上、アメリカの利益の優先性を主張した。ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、移民の阻止、麻薬の流入の防止、そしてアメリカの石油会社によるヴェネズエラの豊かな油田へのアクセスの許可を妨害したという主張であった。

提示された数々の論拠は、2003年のイラク侵攻の直前、政権が既に決定していた行動を正当化する様々な理由付けを次々と提示した状況を彷彿とさせる。しかし、これさえも誤解を招く。ヴェネズエラに関する説明は、ジョージ・W・ブッシュ政権が夢見ることしかできなかったようなスピードで、国際法の建前を無視して提示された。少なくともジョージ・W・ブッシュ大統領は、最終的にそのプロセスを無視する前に、国連安全保障理事会の承認(U.N. Security Council authorization)を求めた。

ここでも、提示された論拠はどれも真に説得力がない。アメリカは世界最大の産油国であり、ヴェネズエラ産の原油供給過剰(a glut of Venezuelan oil)は、世界的な価格下落によって、テキサス州などの産油地にさえ悪影響を及ぼしかねない。アメリカ国内で死者を出している薬物のほとんどは、ヴェネズエラ産ではない。そして、アメリカの法執行機関は、たとえ有効な令状があっても、通常は海外で軍事行動を起こすことはない。

実際には、これは明らかにアメリカの力、そしてこの地域を支配する必要性を誇示するための演習となった。マドゥロ大統領はトランプ政権に繰り返し反抗し、カリブ海における圧力と軍備増強にもかかわらず、権力を手放して快適な亡命生活(a comfortable exile)を送ることを拒否してきた。マドゥロ大統領の継続的な抵抗に、たとえドナルド・トランプでさえ、アメリカの譲歩(U.S. concessions)によって乗り越えられる可能性は、常に低かった。トランプは、アメリカ大統領の中でも、ハイリスクな状況においてブラフを仕掛け、譲歩する姿勢で知られている。

これは、トランプ政権が最近発表した国家安全保障戦略において、いわゆるモンロー主義のトランプ系(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)が提示されたことを考えると特に当てはまる。この戦略は、中国などの西半球外の勢力を締め出し、「西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配置する能力、あるいは戦略的に重要な資産を所有・管理する能力(the ability to position forces or other threatening capabilities, or to own or control strategically vital assets, in our Hemisphere)」を否定することを約束している。この文書が不吉に約束しているように、アメリカは「各国が私たちを第一選択のパートナーと見なすことを望んでおり、(様々な手段を通じて)他国との協力を阻止するつもりだ(nations to see us as their partner of first choice, and … will (through various means) discourage their collaboration with others)」。

マドゥロの拘束はまさにこの目的にかなうものであり、中国とロシアに西半球への介入を避けるよう求めるシグナルを送る可能性もある。また、複数の政権当局者によるキューバとメキシコに関する発言が示唆するように、これは他の地域内の諸国政府にも、移民問題、麻薬問題、あるいは他国との協力といった問題で協力を求めるシグナルを送ることになる。もし協力しなければ、アメリカによる懲罰的攻撃(a U.S. punitive strike)を受けるリスクがある。これは非常にリスクの高い戦略だ。今回の襲撃が計画通りに進まなければ、トランプ政権は期待していたよりも弱体化してしまう可能性がある。

おそらく最大の問題は、今回の襲撃をトランプのより広範な外交政策の文脈でどう解釈するかということだ。一部の人々はこれを政権内の1つの派閥の勝利(the triumph of one faction inside the administration)と解釈し、「タカ派が勝利している(The hawks are winning)」と簡潔に報じた。そして、この作戦の顔は明らかにタカ派のマルコ・ルビオ国務長官であることは事実だ。外国の政権交代を長年批判してきたJD・ヴァンス副大統領は、この襲撃を支持しているものの、襲撃に関する写真や記者会見には出席しておらず、その理由については安全保障に関する漠然とした発言のみで説明している。

しかし、トランプの側近であるタカ派やネオコンもこの状況に不満を抱いている。大統領は記者団に対し、民主派野党の有力候補であるマリア・コリーナ・マチャドには、近いうちにヴェネズエラで政権を掌握するために必要な支持がないと述べた。ルビオ長官もすぐにこの見解に同調した。政権当局者たちは、マドゥロの副大統領であるデルシー・ロドリゲスが政権移行に向けて政権と協力すると見込まれていると述べており、この作戦は民主政治体制を促す政権交代(pro-democracy regime change)というよりも、非協力的な指導者を排除すること(removing an uncooperative leader)が目的であることを示唆している。

このように、マドゥロ襲撃は、その行動は攻撃的かつ野心的であると同時に、政治的目的は非常に限定的である。この点において、これはおそらく2025年6月のトランプによるイラン核施設への攻撃に最も類似していると言えるだろう。どちらのケースでも、トランプはアメリカの軍事力の強力なデモンストレーションを行う一方で、911以降のアメリカの軍事介入の多くを悩ませてきたエスカレーション、混乱、そして意図せぬ結果(the escalation, chaos, and unintended consequences)を回避しようと努めた。つまり、彼はアメリカがほとんど何の責任も負わない武力行使を行えるという主張を試しているのだ。

このアプローチは、政権内の対立する諸派閥の間を縫うように進められ、ネオコンやレーガン主義の残党(Reaganite holdovers)が渇望する軍事行動を許容しつつ、介入主義(interventionist)に消極的な支持基盤に対しては、アメリカがイラク戦争のような惨事を再び招くことはないとの安心感を与えようとするものだ。これまでのところ、この戦略は功を奏している。しかし、政治的にも地政学的にも、依然として非常にリスクの高い戦略であることに変わりはない。トランプ大統領は幸運だった。イランへの攻撃は事態の大幅なエスカレーションにはつながらず、マドゥロ政権の掌握は今のところヴェネズエラを混乱に陥れたようには見えない。

しかし、だからといって、大統領が将来、例えばメキシコやグリーンランドで同様の攻撃を行った場合、その影響を回避できる能力がアメリカへの逆風に容易に転じないという保証はない。そして、トランプ大統領がこうしたアメリカの武力行使を繰り返せば繰り返すほど、そのどれかが壊滅的な結果を招く可能性が高まるのだ。ヴェネズエラでは、それは軍事クーデター、国家崩壊、あるいはより広範な難民危機(military coup, state collapse, or broader refugee crisis)を意味する可能性がある。他の地域では、戦争、もしくは混乱を意味する可能性がある。

トランプ大統領は、自身を支持してくれた支持基盤を遠ざけるリスクを負っているだけではない。この国際的な瀬戸際政策(this game of international brinksmanship)が成功するたびに、トランプはより自信過剰(more overconfident)になり、次回の誤算のリスク(the risks of miscalculation)が高まる可能性が高い。

※エンマ・アシュフォード:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。スティムソン・センターアメリカ大戦略再発想プログラム上級研究員。ジョージタウン大学非常勤助教。著作に『石油、国家、そして戦争(Oil, the State, and War)』がある。Xアカウント:@EmmaMAshford

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