古村治彦です。
アメリカは西半球に立て籠もろうとしている。世界に対する一極支配は既に不可能な状況になっている。そうした中で第二次ドナルド・トランプ政権は2025年12月に発表した、「国家安全保障戦略(National Security Strategy、NSS)」で、「アメリカ・ファースト外交」を掲げ、「西半球」をアメリカの勢力圏(sphere of influence)とすると発表した。
トランプ政権は、ヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領の拘束連行を実施し、グリーンランドの領有を主張している。有名なモンロー主義と棍棒外交を混ぜ合わせた、アメリカ・ファースト外交政策、ドンロー主義は、あらゆる手段を用いて、西半球から中国やロシアの影響を排除し、アメリカの支配権を確立するということになる。
アメリカが西半球を勢力圏とすると、中国とロシアがそれ以外の地域を勢力圏にするという構造になる。ロシアは自国の周辺を「緩衝地帯」「衛星国」として、自国の防備を固めるという行動を取り、中国は影響を少しずつ拡大していく。一帯一路計画はその一例であるし、BRICSという枠組みもそれにあたる。
アメリカの西半球のアメリカ勢力圏化は、実質的なアメリカ「帝国化」である。アメリカの利益のために、勢力圏内の全ての国家がアメリカの利益のために「奉仕する」という構造を目指すことになる。簡単に言えば、全ての国家を属国とするということだ。帝国と属国の関係を西半球に築き、搾取するということだ。遅れてきた植民地主義である。ドンロー主義のこのような態度は西半球の全ての国々の反米感情を増大させることになる。また、既に、ブラジルはBRICSの一角として、西側以外の国々の中でリーダー格として存在感を増している。西半球は既にアメリカの勢力圏、植民地帝国として再編することはできない。アメリカが、本当の意味で「共存共栄(co-prosperity)」を学ばねば、ドンロー主義による、西半球の植民地化は、太平洋戦争における日本の「大東亜共栄圏(Great East Asian Co-Prosperity Sphere)」と同じ結果に終わるだろう。
(貼り付けはじめ)
「ドンロー主義」は意味をなさない(The ‘Donroe Doctrine’
Makes No Sense)
-寛大に解釈したとしても矛盾が山積している。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2026年1月8日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/01/08/donroe-doctrine-trump-venezuela-empire/
ドナルド・トランプ政権のヴェネズエラ政策(ニコラス・マドゥロ大統領の最近の拉致事件を含む)の戦略的正当性(the strategic justification)について、もしあなたが困惑しているなら、それは仕方がないと思う。なぜなら、これまでに提示された論拠のほとんどは信頼性に欠けているからだ。
第一に、これはアメリカを「麻薬テロ(narcoterrorism)」から守ることではない。ヴェネズエラはアメリカに流入する違法薬物(ましてやフェンタニル[fentanyl])の主要な供給源ではなかっただけでなく、ドナルド・トランプ米大統領が、麻薬密売で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領フアン・オルランド・エルナンデスに完全恩赦(a full pardon)を与えるという最近の決定は、彼がこの問題をどれほど真剣に考えているかを示している。さらに、米司法省は、トランプ政権が昨年繰り返し騒ぎ立てた危険な麻薬カルテル「カルテル・デ・ロス・ソレス」が実際には存在しなかったことを認めた。言い換えれば、それは、繰り返し警告されながら発見されることのなかったイラクの大量破壊兵器(weapons of mass destruction)と同じくらい真実である、完全に虚構の政権プロパガンダだったのだ。
マドゥロ大統領の拘束は、アメリカの安全保障強化を目的としたものではなかった。ヴェネズエラは非常に脆弱な国(a very weak country)であり、マドゥロ大統領が容易に拘束されたことからもそれが明らかだ。また、アメリカの強力なライヴェル国にとって、ヴェネズエラは緊密な戦略的同盟国ではない。中国はヴェネズエラに軍事基地を建設しておらず、イランはアメリカを攻撃するためのミサイルをヴェネズエラに輸送していなかった。ヴェネズエラには、アメリカの貿易ルートを阻害できるほどの強力な海軍力も存在しなかった。カラカスからアメリカが直面する深刻な脅威を夜も眠れずに心配する人は誰もいなかったし、マドゥロ大統領がブルックリンに収監された今、誰もが安眠できている訳ではない。
また、トランプ大統領が野党指導者マリア・コリーナ・マチャドを権力の座に就かせることを既に断念し、代わりに依然として紛れもなく独裁的な政権を率いるマドゥロ大統領の副大統領と交渉する意向を示していることを考えると、これは民主政治体制の促進を目的としたものでもない。
危険な薬物の撲滅でも、深刻な安全保障上の脅威に立ち向かう必要性でも、民主政体を回復したいという願望でもないのなら、それは石油に違いない、そうではないか?
トランプは、これが本当の理由であり、アメリカ企業がすぐにそこに参入して石油を奪い、アメリカを偉大な国にするつもりだと繰り返し述べている。これもまた間違いだ。トランプは自分が信じたいものなら何でも信じることができるが(そして頻繁にそうしている)、近いうちにアメリカを待ち受ける大規模な石油ブームなど起きない。火曜日、トランプはヴェネズエラがアメリカに最大5000万バレルの石油を引き渡すことに同意したと自慢したが、これはせいぜいアメリカの石油生産量の4日分にも満たない量だと気づくまでならば、素晴らしい話に聞こえるだろう。トランプは、売却益を管理し、ヴェネズエラの経済支援に使うと述べたが、もしこれを信じているのなら、トランプの略奪的本能(predatory instincts)に注意を払っていないことになる。そして、たとえその石油からの収入が最終的に得られるようになったとしても、それはヴェネズエラが経済再建に必要とするものの表面をかすめる程度にしか過ぎない。
確かに、ヴェネズエラは世界最大の確認埋蔵量(the world’s largest
proven reserves)を誇るが、その重質原油は採掘が難しく、精製コストも高額になる。率直に言って、良識ある生産者なら開発を試みようとしないであろうし、まさに最後の手段と言えるだろう。ヴェネズエラの老朽化したインフラの危機的状況と、昨今の原油価格の低迷を考えると、なおさらだ。そして、もし奇跡的にヴェネズエラの原油が大量に世界市場に流入すれば、価格はさらに下落し、アメリカのシェールオイル掘削業者の多くは廃業に追い込まれるだろう。
そして、トランプ大統領や大手石油会社がどう考えようと、世界は徐々に炭化水素資源から離脱し、他のエネルギー源へと目を向けつつあり、ヴェネズエラの埋蔵量の価値はさらに低下していることを忘れてはならない。実際、気候変動の現実を考えると、最も賢明なのは、できる限り多くの原油を地中に残しておくことだ。つまり、中国が将来のグリーン産業を支配し、その結果影響力を獲得することにレーザーのように集中している一方で、トランプと彼を取り囲む戦略の天才たちは、地球を脅かす前世紀のエネルギー政策にさらに力を入れているということになる。
従って、この作戦の戦略的根拠についてあなたが混乱するのも無理はない。私がここで見出す唯一の「戦略的」目的(“strategic” objective)は、西半球(the Western
Hemisphere)におけるアメリカの覇権(U.S. hegemony)を再確立するという大まかな考えだ。トランプはあらゆるものに自分の名前を冠することで自らの領土を示すことを好むため、この考えは現在「ドンロー・ドクトリン(Donroe Doctrine)」として宣伝されており、最近の「国家安全保障戦略(National Security Strategy、NSS)」にも明確に示唆されている。これは外交政策のリアリストたちが支持できる合理的な考えのように聞こえるかもしれないが、綿密な検証にも耐えられない。
モンロー・ドクトリン(the Monroe Doctrine)の本来の目的は、アメリカが西半球におけるライヴァル大国の軍事介入を心配しなくて済むようにすることだった。ジェイムズ・モンロー大統領の構想が実現するまでにはほぼ1世紀を要したが、最終的にアメリカは他の全ての大国を西半球から追い出し、歴史家C・ヴァン・ウッドワードが「自由な(もしくは無料の)安全保障(free security)」と呼んだものの恩恵を享受することに成功した。
しかし、トランプと側近たちが言っているのはそういうことではない。なぜなら、現在、西半球で重要な軍事的役割を果たしている大国はおらず、また、そのような役割を担おうとしている大国も存在しないからだ。「国家安全保障戦略」が明らかにしたように、トランプ政権は、発生する可能性のあるあらゆる問題において、可能な限り多くの近隣諸国に、自らの指示に従わせようとしている。彼らは現在、マドゥロ大統領の後継者たちにこう言い放っている。「私たちの要求に応じなければ、封鎖(blockading)を続け、もしかしたらもっとひどいことをするかもしれない」。そして、彼らは地域の他の国々がこのメッセージを理解し、従順に行動してくれることを期待しているのだ。
特に、トランプ政権は現在、近隣諸国の経済政策を統制し、これらの国々や中国などの国々にとって経済的に有益な政策を拒否する権利を主張している。「国家安全保障戦略」では、「私たちは、敵対的な外国の侵略や主要資産の所有から自由な西半球を望んでいる」と述べ、さらに、部外者が「戦略的に重要な資産を所有または支配」してはならず、アメリカは「西半球以外の競争相手がこの地域で影響力を高めることをより困難にしなければならない」と付け加えている。トランプとその仲間たちは、一部のラテンアメリカ諸国が「低コストと規制上のハードルの少なさ(low costs and fewer regulatory hurdles)」に惹かれて他国と「ビジネスを行うことに魅力を感じている(attracted to doing business)」ことを理解しているため、「そのような援助を拒否するよう各国に促す(induce countries to reject such assistance)」と主張している。しかし、トランプ政権は一般的に外国援助に反対し、あらゆる二国間関係において利益の大半を独占しようとする略奪的な政権であるため、望むものを手に入れるには寛大さ(generosity)ではなく脅迫(threats)に頼らざるを得ない。
しかし問題は、アメリカがこのように近隣諸国の経済に介入し続けるなら、その国の経済状況に責任を負うことになるということだ。ラテンアメリカ諸国に対し、アメリカ製品よりも安価な中国製品(場合によっては電気自動車のように大幅に優れた製品)を購入できないと告げれば、消費者は不満を抱くだろう。もし同じラテンアメリカ諸国に対し、インフラ整備やその他の機会創出につながる中国やその他の外国からの投資を拒否するよう命じれば、アメリカはそれを提供しなくてはいけなくなる。さもなければ、ラテンアメリカ諸国の貧困を助長していると非難されるだろう。これに加えて、アメリカの問題をこの地域からの移民や難民のせいにする傾向、そして可能な限り多くの移民や難民を強制送還するという強硬な姿勢が加われば、安定した覇権どころか、反米感情の高まりと地域の不安定化を招くことになる。
より成功したアメリカの政策との対比は明白だ。例えば第二次世界大戦後、アメリカはヨーロッパとアジア(かつての敵国であったドイツと日本を含む)で非常に成功したパートナーシップを築いた。これは、これらの国々がソ連という共通の脅威を認識していたことに加え、アメリカが新たなパートナー諸国が第二次世界大戦から可能な限り速やかに復興できるよう、慈悲深く行動したことも一因となっている。しかし、トランプは「慈悲深く()benevolent」という言葉の意味を理解していない。彼の人生観は「私のものは私のもの、他人のものは交渉の余地がある(what’s mine is mine and what’s yours is negotiable)」というものだ。
銃を突きつけて西半球を支配しようとする試み(trying to run the
Western Hemisphere at the point of a gun)は、過去と同様に、今後もうまくいくことはないだろう。トランプの顧問であるスティーヴン・ミラーは、「歴史の鉄則(iron laws of history)」の1つは、世界は力によって支配されていることだ(the world is governed by power)と考えている。ミラーが言及しなかった「鉄則」は、力こそが全てだと考える指導者は必然的に多くの愚かな行為を犯すということ(leaders who think power is all that matters inevitably do a lot of
stupid things)だ。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
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(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』






