古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:産業政策

 古村治彦です。

 アメリカ通商代表(U.S. Trade Representative)は、アメリカの通商政策を担う役職であり、閣僚級とされている。そして、外交交渉を行う権限を持ち、大使として扱われる。各国との貿易に関する取り決めについてアメリカを代表して交渉を行う。「自由で公正な貿易」を実現するという建前を持っているが、本音はアメリカにとって有利な貿易上の取り決めを行うことが仕事である。

 下の記事では、ジョー・バイデン政権の米通商代表であるキャサリン・タイのインタヴューが掲載されている。キャサリン・タイは両親が台湾からの移民でアリ、彼女自身も中国を流ちょうに話す。中国側と交渉する際には、中国語を使うことはないだろうが、米通商代表が中国語を理解できるということは、中国に対しての大きなプレッシャーとなり、アドヴァンテージとなる。

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キャサリン・タイ

 キャサリン・タイはインタヴューの中で、産業政策の重要性について述べている。アメリカが自由貿易体制を守りながら、経済成長をしていくためには、産業政策で、アメリカの各産業、特に最先端の産業分野を守り育てることが重要ということになる。このような主張に対しては、特定の企業に対する保護、税制優遇や補助金は非効率を生み出し、技術革新が阻害されるという反論がなされる。これに対して、キャサリン・タイは中国を例に挙げて、競争を阻害しない形での税制優遇や補助金供与ができるとしている。新自由主義、市場至上主義の時代ではまず考えられなかったことである。アメリカは、競争相手である中国の産業政策を学ぼうとしているのである。

アメリカは日本の産業政策については、叩き潰そうとしてそれに成功した。それは、究極的には、日本がアメリカの属国であり、日本はアメリカの指令を拒むことができなかったからだ。しかし、時代は変わった。アメリカは中国の真似をしようとしている。そして、米通商代表を、中国語に堪能な移民2世であるキャサリン・タイが務めていることは、大きな意味がある。

(貼り付けはじめ)

産業政策についてホワイトハウスが正当化する根拠(The White House’s Case for Industrial Policy)

-キャサリン・タイ米通商代表はアメリカが不公正な競争を助長しているという批判に反論している。

ラヴィ・アグロウアル筆

2023年3月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/03/02/live-industrial-policy-katherine-tai-trade-economy-chips-inflation/?tpcc=recirc_carousel091023

国際貿易が激動に見舞われているのは当然のことだ。2007年に始まった世界金融危機(global financial crisis)の後、グローバライゼーション(globalization)の進展という数十年来のトレンドは、まず減速し、その後逆行し(reverse course)始めた。2020年には新型コロナウイルス感染拡大が発生し、サプライチェーンが一瞬にして寸断された。国や企業はいわゆる 「ニアショアリング(nearshoring)」や 「フレンドショアリング(friendshoring)」に注力した。その後、ロシアがウクライナに侵攻し、地政学(geopolitics)が貿易に更に影響を及ぼし始めた。米中冷戦の勃発や世界的なナショナリズムの波が加われば、世界が産業政策の時代に乗り出したように見える理由が分かるだろう。アメリカから中国、インド、ヨーロッパ、そしてその他の国々まで、主要な経済は内向きになっており、自由貿易やグローバルなモノの流れよりも国内の拡大(domestic expansion)を優先している。

今年2月の一般教書演説(State of the Union)で、ジョー・バイデン米大統領は「バイ・アメリカン(Buy American)」という言葉を展開し、大きな拍手を浴びた。バイデン政権はインフレ削減法(Inflation Reduction Act、IRA)やCHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)などの画期的な法案を成立させ、クリーンエネルギーや半導体に4000億ドル以上の補助金を提供している。しかし、このような誘導策はアメリカ企業に国内投資のみを奨励し、他国への投資は奨励しない。アジアやヨーロッパの好機到来を迎えている各企業は、既にアメリカに投資を移し始めている。世界の他の地域からは抗議の声が上がっている。各国の大合唱は、ワシントンが不公正な競争(unfair competition)を助長していると非難している。

米国が保護主義に転じていると言っても、他国よりも自国の利益を優先する唯一の国とは言い難い。しかし、これは補助金競争(subsidies race)が健全な経済学を代表しているのかどうかという問題を提起している。最初の一時的な興奮状態(sugar high)の後、世界は結局、効率と技術革新(efficiency and innovation)の恩恵を犠牲にすることになるのだろうか? 大国間競争(great-power competition)の新時代から恩恵を受けるのは誰か?

産業政策の促進におけるワシントンの役割を理解するために、私はホワイトハウスの通商政策の策定と実施を任務とする、バイデン政権の最高当局者であるキャサリン・タイ米通商代表に話を聞いた。私たちの会話は、本誌のライブジャーナリズムフォーラムであるFP Liveで放送された。 FP購読者はFP Liveでヴィデオインタヴューを視聴できる。以下は、編集され要約されたトランスクリプトだ。

フォーリン・ポリシー:タイ大使、ヨーロッパの政策立案者たちは、インフレ削減法やCHIPS・科学法を見て、不公正な競争(Unfair competition)と保護主義(protectionism)の匂いを嗅いでいる。彼らの批判にどう答えるか?

キャサリン・タイ:CHIPS・科学法とインフレ削減法は重要な成果だ。長年の不手際や怠慢を経て、ようやく私たちは自分たちに投資している。非常に長い間、私たちは世界に溶け込むために自由化政策を進めてきたが、その一方で、我が国が必要としているものには目を向けてきなかった。

あなたが言うような批判は、私がその場で耳にしたものというより、むしろ報道で読んだものだ。それはパートナーからの懸念として私に届けられたものだ。これは重要な違いだ。

私たちは、パートナーや同盟国が私たちと共有している懸念を非常に深刻に受け止めている。

インフレ抑制法について考えてみよう。ヨーロッパのパートナーやカウンターパートとの会話はいつも、バイデン大統領の信じられないほどの成果、つまり気候危機との闘いにおいて私たちがこれまでに行った最大の貢献を祝福することから始まる。なぜ会話がそこから始まるのかというと、心に留めておくべき重要な事実がある。つまり、アメリカとヨーロッパは、気候変動とその持続可能性への影響、そして、私たちの経済の将来に関して、私たち全員が地球全体として直面している重大な課題を認識するという点で完全に一致している。

私たちは、パートナーや同盟国が私たちと共有している懸念を非常に真剣に受け止めている。インフレ抑制法は、気候変動との闘いへの署名であり、重要な貢献であると同時に、ここにある民主的な法の支配システムの産物でもあることを認識することが重要だ。私たちが最も緊密に対話し、協力しているパートナーも民主政体国家だ。民主政体諸国は私たちが取り組んでいる活動において団結しており、どのように協力してこれを実現できるかを考えるために、私たちが直面している課題に真剣に取り組んでいる。その全体的な文脈において、インフレ抑制法は(経済的持続可能性の課題を)解決するものにはならない。これは、技術と経済がこの課題に対処するよう奨励する重要な動機となる。これは、最初かもしれないが、行う必要がある最後の重要な政策貢献ではない。

フォーリン・ポリシー:あなたは、ヨーロッパからの批判に対処しているが、マクロ経済的な側面からの批判もある。経済学者たちは、世界が産業政策の時代に突入することを懸念している。自由貿易とは異なり、産業政策は長期的には非効率になりかねないという主張がある。また、大企業に補助金を出すと、技術革新が阻害されるとも言われている。

キャサリン・タイ:インフレ抑制法が対応している最初の課題は気候危機だが、世界経済の大きな混乱と不安定性の中で、私たちはこの危機の緊急性に直面している。新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻決定を通じて私たちが目にしたのは、私たちが乗り越えなければならない世界経済の脆弱さだ。

世界経済もまた、世界経済において非常に重要な役割を担っているにもかかわらず、構造的に我が国の経済のような形で運営されていない、非常に大規模かつ成長を続ける経済の台頭による重大な歪みを経験している。

フォーリン・ポリシー:あなたは中国について話している。

キャサリン・タイ:そう、私は中国について話している。これは、過去数十年にわたって進められてきたグローバライゼーション・プロジェクトの基本的な前提に対する挑戦という点で、絶対に無視できない要素だ。

補助金が非効率的であるというあなたの指摘についてだが、私たちが補助金(subsidies)や税制上の優遇措置(tax incentives)を提供している限りにおいて、補助金は市場システムの中で運営され、企業の行動に影響を与えることを目的としている。中国経済を動かしていると私たちが見ている補助金や国家支援の種類は、まったく異なる規模のものだ。実際、それらは経済を動かしている。市場システムにインセンティヴを生み出すことが目的ではない。経済における国家と表現の間には直接的な境界線がある。そしてこれは、経済成長と発展への持続可能な道という観点から、ヨーロッパの友人や世界中の他のパートナーと私たちが共有するもう1つの課題の非常に重要な側面だ。分野が平等でないヴァージョンのグローバライゼーションでは、私たちは適応する方法を見つけなければない。私たちは一緒に適応する必要がある。

フォーリン・ポリシー:アメリカの内政・外交政策の多くは、中国との競争というプリズムを通してフィルターがかけられているようにいつも感じている。アメリカは既に中国から切り離されている(ディカップリング、decoupling from China)のか?

キャサリン・タイ:私がよく質問される中で、使われている言葉がいくつかあり、私はいつもそれと戦っている。ディカップリングもその1つであり、脱グローバル化(deglobalization)もその1つだ。ディカップリングという言葉が、経済を完全に切り離そうとしているという意味であれば、たとえそれが望ましい目標だったとしても、それを実現するのは非常に難しいと考える。

私たちがやろうとしているのは、現在見られるグローバライゼーションのヴァージョンにおいて、リスクと脆弱性がどこにあるのかを確認し、特定することだ。私たちが新型コロナウイルス感染拡大を通じて経験したサプライチェーンの課題は、示唆に富んでいる。感染拡大初期の個人防護具、マスク、手袋、人工呼吸器であれ、私たち全員に影響を与えた半導体チップの不足であれ、私たちは、供給と生産の集中が重大なリスクと脆弱性を生み出すことを認識することなく、最低コストを追い求め、効率性を追求して設計されたグローバル・サプライチェーンを目の当たりにしている。

私たちが焦点を当てているのは、ヨーロッパの友人たちがリスク回避と呼んでいるもので、これは実際に物事を考えるのに非常に役立つ考え方だ。私の観点からすると、それはサプライチェーンの回復力を構築し、経済の回復力を確保するためのインセンティヴを生み出すことだ。なぜなら、それが地政学的であれ、気候関連であれ、疫病であれ、私たちが遭遇する危機は更に大きくなるからだ。この期間を建設的かつ生産的に過ごすために私たちがしなければならないことは、将来のショックに耐え、和らげることができるように世界経済を適応させ、備える方法を見つけ出すことだ。それをディカップリングとは呼ばない。それは、まさに、私たち全員がより多くの選択肢を持てるようにすることなのだ。

フォーリン・ポリシー:私もディカップリングという言葉に満足していないので、あなたの前任者のロバート・ライトハイザーを含む数名のアメリカ政府当局者たちがこの言葉を使用し、アメリカの政策としてディカップリングを主張していることは指摘しておきたい。

しかし、中国と関係を持つことも重要だ。アメリカの政策の一部が中国を封じ込めたり、中国の台頭を遅らせたりすることであるなら、それは世界経済そのものに悪影響を与えるのではないだろうか?

キャサリン・タイ:私の観点からすると、少なくとも貿易と経済分野では、中国を封じ込めることがバイデン政権の政策の目的ではない。それはアメリカを引き上げることである。世界経済統合における効率性の追求において、自分たちはあまり目立たないと感じていた特定の分野の労働者を元気づける。実際には数世代前に行った投資にまだ依存しているインフラを整備する。そして、より速く走れ、より高くジャンプできるように自分自身を鍛え上げる。それはおそらく、通商政策を含む経済政策を見る上で最も有用なレンズだ。

フォーリン・ポリシー:もちろん、あなたの役割はアメリカの利益を第一(America’s interests first)に考えることだ。しかし、繰り返しになるが、大国が自らの回復力(resilience)、つまり独自の産業政策を構築している世界では、最終的には小規模な経済が苦しむことがよくある、と言う経済学者たちもいる。アメリカ、中国、ヨーロッパが内向き(looking inward)になっている時代に、グローバルサウスは勝てない。あなたの役割においてそれをどのように考えているか?

キャサリン・タイ:あなたは「アメリカの利益が第一(America’s interests first)」と述べたが、それがアメリカ・ファースト[America First](ドナルド・トランプ前大統領の政策)に関しての、不愉快な思いを引き起こす。どの国も自分たちの利益を大事にしているではないか? しかし、私はバイデン政権のアプローチをそれらと区別したいと考えている。アメリカ第一主義だけのことではない。それはまた、アメリカがどのようにリードし、どのように提携できるかということでもある。私たちは自分自身に投資する必要があるが、それを1人で行わないようにするにはどうしたらよいか? なぜなら、それは私たちが生きたい世界、つまり私たちが1人で何かをするような世界ではないからだ。

小国や発展途上国に何が起きているかかというあなたの質問に対しての答えは次のようになる。発展途上国から中所得国に至るまで、世界最大の経済大国にふさわしいリーダーになるためには、必然的に次のことを行わねばならない。それは、自分自身を大切にしながら、良きパートナーである必要性を決して忘れないということだ。

グローバライゼーションのより強靭な新ヴァージョンの創造を促進するために、私たちが革新しなければならない重要な要素がある。それは、大規模な先進経済国と小規模な発展途上国とのパートナーシップのこれまでのモデルを、アメリカがどのように改善できるかということだ。

あなたが世界経済を流動的であるように感じているのはその通りだが、変化は恐ろしいものであり、変化がどのようなものになるかという保証はないため、私たちは皆、変化に対してある種の偏見を持っている。

フォーリン・ポリシー:中国に関するアメリカの通商政策の長期目標は何か?

キャサリン・タイ:私は1年少し前に米中貿易関係についてスピーチをした。私はその内容全てを承認する。それは、私たちが共存し、公正に競争し、繁栄し続けることができる方法を見つける必要があるということ、そして、私たちの政治的・経済的DNAの核となる制度や原則を守る必要があるということだ。そして、市場競争の原則に基づき、強力な民主政治体制と繁栄する経済を継続するためのスペースを確保することである。

世界で第2位の経済大国が全く異なるシステムで運営され、大きな影響力を持ち、独自の主権を持ち、独自の決定を下していることを考えると、どのようにしてこれらの目標を達成できるのだろうか? これは、私たちのありのままを守り、繁栄するための空間を創造しようとしているアメリカ、そしてパートナーや同盟国として、私たちが取り組む最も重要な問題の1つだ。

フォーリン・ポリシー:最後に質問がある。個人的な質問をさせて欲しい。私はアジア系アメリカ人だ。あなたはアジア系アメリカ人だ。これは、私が自分自身に取り組んでいる質問だ。自分の文化的伝統、自分の複数のアイデンティティ、そして自分が身に着けているさまざまな帽子について、どのように考えているか? あなたは政権内でも数少ない、流暢な中国語話者でもあることを付け加えておく。あなたが守るために雇われたのはアメリカの国益でありながら、あなたの立場にいる人々には必ずしも当てはまらない世界的な展望も持っているということを考えると、これら全ての要素はあなたの政策決定にどのように影響するだろうか?

キャサリン・タイ:移民の子供で、家庭では違う言語を話して育ってきたので、私は言語を学ぶのが大好きだ。私はたくさんの言語で、「お手洗いはどこですか?」と聞けると思う。そして、私は、少なくとも2つか、3つの言語での答えを理解できるかもしれない。これは、私たちが米通商代表部で行っている仕事の重要な側面を強調しているだけでなく、コミュニケーションと理解における橋を架け、溝を埋めることができなければならないというバイデン政権の国際的な見通しも強調している。私は、皆さんとの今回のような機会を捉えて会話をし、私たちの考え方や何を達成しようとしているのかを詳しく説明することに多くの時間を費やしている。

中国を含むアジアのパートナーに関しては、非常に複雑な関係にあり、非常に大規模で重要なパートナーであるため、常に自分の視点を伝えることから始め、次にそれらの国々の意見に耳を傾けられるように、コミュニケーションする必要がある。これは、国内側の政策立案にとっても非常に重要なスキルセットとなる。こうした違いは、国家観だけにとどまらない。私が特に誇りと責任感を持っていることは、アメリカの通商政策をどのように推進するかについて超党派の見解を維持することだ。なぜなら、それが実際に私の職名と私たちの機関の肩書に入っているからだ。その肩書こそは「私たちは米通商代表だ」というものだ。米通商代表として、私たちが政策を推進し、策定する必要があるのは、アメリカ全体、経済、コミュニティ、地域、全ての構成要素の利益のためだ。

※ラヴィ・アグロウアル:『フォーリン・ポリシー』誌編集者。ツイッターアカウント:@RaviReports


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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム、2021年)と『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)で、取り上げたが、私はアメリカの産業政策に注目している。特に、アメリカ軍部とシリコンヴァレーの情報産業・IT産業との新・軍産複合体づくりが行われていることを指摘した。そして、ジョー・バイデン政権では、産業政策が重視されていることも併せて紹介した。

 産業政策とは、「政府の政策を利用して、市場だけが生み出す可能性のある結果とは異なる、できればもっと前向きな結果を生み出そうとすることだ(Industrial policy is the use of government policy to try to produce an outcome that’s different—hopefully, more positive—than what the market alone is likely to produce)」と定義されている。政府が産業を保護し、指導して、より良い結果を生み出そうとするもので、その元祖は日本である。その研究を行ったのが、日本研究の大家だった故チャルマーズ・ジョンソンだった。このことも詳しく拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で紹介している。

 そして、現在、産業政策によって、急激な経済発展を成功させ、アメリカの地位を脅かすまでになっているのが中国だ。そして、アメリカ国内では、「中国の成功をけん引している産業政策なるものを私たちやるべきだ」という主張が出ている。下に紹介する論稿はまさにそれだ。現在、電気自動車、バッテリー、クリーンエネルギー(太陽光パネルなど)、人工知能、ロボット工学といった最先端分野で、中国がアメリカをリードしている分野が多い。それは、中国が産業政策をうまく使ったからだ。中国の産業政策の特徴は、「中央統制[central control](ただし反抗的な地方[recalcitrant localities])、巨額の補助金[massive subsidies](ただし熾烈な競争[ferocious competition])、保護主義[protectionism](ただし外国投資の勧誘[courting foreign investment])が入り混じった混乱した状況」であるが、「保護をしながら同時に激しい競争をさせる」「外資導入も積極的に行う」ということにある。加えて、こうした政策を首尾一貫して行える政府機関も存在する。それが中国国家発展改革委員会(China’s National Development and Reform Commission)である。日本では、通商産業省が「経済参謀本部(Economic General Staff)」であった。

 この論稿で重要なのは、アメリカ政府は権力、職掌が分立しており、こうした1つの本部機能を持つことは難しいのであるが、ジョー・バイデン政権1期目の前半は、ジェイソン・マセニー(Jason Matheny)という人物を、「技術・国家安全保障担当大統領次席補佐官(deputy assistant to the president for technology and national security)、国家安全保障会議(NSC)技術・国家安全保障担当調整官(National Security Council [NSC] coordinator for technology and national security)、そして、ホワイトハウス科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy、OSTP)国家安全保障担当副局長の3つの異なる役職に任命した」ということだ。この人物が調整役となって、首尾一貫した政策の陣頭指揮(国内政策と対外政策)を執っていたということだ。現在はランド研究所所長となっている。この人物の存在が非常に重要ということになる。

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ジェイソン・マセニー

 米中は最先端の産業分野において官民協働で戦っている。その戦いは激しいものであるが、そのような戦いができることは羨ましい。しかも、産業政策を立案し、成功させたのは、戦後日本であった。日本がこの戦いに加われないほどに落ちぶれ果ててしまったこと花とも残念なことである。

(貼り付けはじめ)

迷走するアメリカの産業政策は中国から教訓を得ることができる(America’s Flailing Industrial Policy Can Take Lessons From China)

-北京の経験は、数々のチャンスと罠(opportunities and traps)の両方を示す行程表(ロードマップ、roadmap)である。

ボブ・デイヴィス筆

2024年4月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/11/america-industrialpolicy-china-economics-infliation-manufacturing/

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ジョー・バイデン大統領率いるホワイトハウスは、ここ数十年で最も野心的な産業政策プログラム(industrial policy program)を策定し、海外との競争によって、国内で衰退した戦略的産業(strategic industries)を復活させようとしている。その目的は次の通りだ。クリーンエネルギー(clean energy)と半導体製造(semiconductor manufacturing)に重点を置き、アメリカの産業と技術力を強化することで、中国の先を行くことである。

しかし、北京と対決しようとするあまり、ワシントンは中国が何十年にもわたり西側諸国(the West)に追いつくことを目的とした産業政策を試行錯誤しながら(through trial and lots of errors)学んだ教訓を無視してきた。米中両国の政治体制が異なっているが、ワシントンが学ぼうと思えば学べることはまだたくさんある。

アメリカは少なくとも第二次世界大戦後、産業政策の一分野、すなわち新技術の育成(fostering new technologies)において主導してきた。ジェット飛行機からスーパーコンピューター、通信衛星、インターネットに至るまで、世界経済に革命をもたらす技術の開発には、多くの場合、国防総省を介した(via the Pentagon)連邦資金(federal dollars)と支援が重要な役割を果たした。しかし、アメリカが日本のような外国の競争相手に負けることに悩み始めた1980年代初頭以降、政府は重要産業の再国内化で惨めに失敗してきた。

アメリカ政府が何も試さなかった訳ではない。ロナルド・レーガン元大統領は国内の小型車製造を復活させようとし、ジョージ・H・W・ブッシュは薄型テレビ(flat-screen televisions)に狙いを定め、ビル・クリントンは小型車に再挑戦した。バラク・オバマはソーラーパネルを推進した。ドナルド・トランプは電気通信機器を推した。どれも成功しなかったが、その主な理由は、補助金を得るアメリカ国内生産よりも、海外生産の方がはるかに安価なままだからである。

だからといって、ジョー・バイデン大統領の取り組みが絶望的であることを意味する訳ではないが、課題の大きさと、他の国の経験に目を向ける必要性を指摘している。中国は産業政策で失敗したこともあるが、繊維、タイヤ、電子機器製造、太陽エネルギー、風力発電、バッテリー、高速鉄道など多様な分野で、西側のライヴァルに打ち勝つ強力な産業を自国内で構築するために政府の政策を利用してきた。過去45年間、こうした成功によって、中国は貧しい国から、世界第2位の経済大国に成長した。

ホワイトハウスの元国際経済担当シニア・ディレクター、ピーター・ハレルは次のように語っている。「私の知る限りでは、バイデンのホワイトハウスでも中国の産業政策を研究する努力はなされてきた。しかし、その目的は、私たちにとってプラスになる教訓があるかどうかを確認することよりも、中国からの報復や被害を軽減する方法を見つけ出すことだった」。

第一に、定義だ。産業政策とは、政府の政策を利用して、市場だけが生み出す可能性のある結果とは異なる、できればもっと前向きな結果を生み出そうとすることだ(Industrial policy is the use of government policy to try to produce an outcome that’s different—hopefully, more positive—than what the market alone is likely to produce)。基本的に、政府は、経済成長の基礎となる産業の発展や技術の進歩のために投資する。

中国の産業政策をアメリカと比較するのは難しい。中国は一般的に西側諸国に追いつくことに重点を置いてきたのに対し、アメリカは他国よりも抜きんでる(stay ahead of the pack)ことを目指してきた。中国は、全権を握る(しかししばしば目に見えない)共産党をトップとする独裁的な政府(autocratic government)によって運営されている。ワシントンでは、経済における政府の役割についてまったく異なる見解を持つ2つの政党の間で権力がシフトしている。

中国の産業政策を説明する明確なハンドブックも存在しない。中央統制[central control](ただし反抗的な地方[recalcitrant localities])、巨額の補助金[massive subsidies](ただし熾烈な競争[ferocious competition])、保護主義[protectionism](ただし外国投資の勧誘[courting foreign investment])が入り混じった混乱した状況だ。しかし、このシステムにはアメリカが学ぶことができる部分がまだある。

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中国の東部、山東省の煙台港で輸出を待つ数百台の電気自動車(1月10日)。

中国は世界的な補助金のチャンピオンだ。アメリカが世界の軍事支出を支配しているのと同じように、補助金支出を支配している。戦略国際​​問題研究所(Center for Strategic and International Studies、CSIS)の中国専門家スコット・ケネディは、2019年に中国はGDPに占める割合で、アメリカの12倍の補助金を支出したと推定している。これらの補助金には、研究開発費(R&D dollars)や税額控除(tax credits)、安価な資金調達(cheap financing)、地価の割引(cut-rate land prices)、政府による優先購入(government purchasing preferences)、さまざまな投資基金の支払い(investment fund payouts)などが含まれていた。

バイデン政権のある元高官によれば、バイデンの税控除と補助金は数年間で6000億ドルに達する可能性があるという。しかしケネディは、それが中国との格差を縮めることにつながるかどうかは疑問であると述べている。ケネディは中国を「先進国には同輩がいない特異な存在(an outlier that has no peers in the industrialized world)」と呼んでいる。

中国専門の研究者たちは、中国の成功の秘訣は、単なる支出ではなく、驚くべきことに競争(competition)にあると述べている。中国共産党と中央政府は産業政策の優先順位(industrial policy priorities)を設定するが、計画を実施し、支出のほとんどを賄うのは地方自治体に委ねられている。地方レヴェルでは、地元の党幹部が中国政府の意向を実行して昇進を目指して争っているため、競争は熾烈である。

シカゴ大学の経済学者チャン・タイ・シエは、この競争が計画されることはほとんどないと語った。中央政府は、自らの制御を超えた競争を引き起こすよりも、むしろ州のチャンピオンを生み出すことに努めたいと考えている。しかし、政治的に安全と見なされているため、中国政府が優先分野に指定している分野に資金が殺到している。「中国の産業政策の秘訣は地方政府間の競争だ(The secret sauce of China’s industrial policy is competition among local governments)。各都市で役人たちは(経済的に)意味のないことをしているが、彼らは党階層内の人々を喜ばせたいのである」と述べた。

戦略国際問題研究所(CSIS)の調査によると、電気自動車(electric vehicles、EVs)が優先事項になってから、2020年までに全米約400社が電気自動車ビジネスの様々な分野に参入した。同じプロセスが太陽エネルギーでも起こり、現地レヴェルでの競争が激しすぎて太陽光パネルの価格が暴落し、中国企業は収益を上げるために輸出に目を向ける一方で、事業を存続させるために政府の融資に頼った。

これら全てが外国の競合他社を市場から追い出す巨大な力を生み出した。中国は現在、世界需要の3倍の太陽光パネルを生産していると『フィナンシャル・タイムズ』紙は報じた。 戦略国際問題研究所(CSIS)の研究者イラリア・マゾッコによると、昨年の中国の太陽光パネル、電池、電気自動車の輸出は鉄鋼および関連品目の輸出とほぼ同額だった。太陽光パネル業界は長年中国特有の過剰生産(overproduction)が蔓延してきた業界だという。

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ジョージア州ノークロスの同社を訪問した太陽電池会社スニバのマット・カード社長(中央)がジャネット・イエレン米財務長官としている(2024年3月27日)。

ジャネット・イエレン米財務長官は、最近の中国訪問中に中国の財務長官に対し、クリーンエネルギー製品の超安価な輸出を止めるよう強く求めたと述べた。イエレン財務長官は、最近の講演で「過剰生産能力は、アメリカの労働者や企業、世界経済だけでなく、中国経済の生産性や成長にもリスクをもたらす」と述べた。

中国製品の価格は非常に安いので、アメリカ国内の太陽光発電会社の一部は、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)の補助金だけでは中国に代わる代替手段を生み出すのに十分ではないと主張している。『ウォールストリート・ジャーナル』紙の試算によると、IRAインフレ抑制法可決以降にアメリカで発表された新たな太陽光パネル生産量の約4分の1を中国企業が占めており、中国企業は最大14億ドルの補助金を受け取ることになる。

アメリカに本社を置く最大手の太陽光発電メーカーである「ファースト・ソーラー」社のマーク・ウィドマー最高経営責任者(CEO)は連邦上院委員会で、「インフレ抑制法の太陽光エネルギー税額控除の最大受益者が中国になる大きなリスクがある」と述べている。

それでも、補助金は中国の成功を保証しているものでもない。中国を中心とした市場調査会社であるガベカル・ドラゴノミクスの技術アナリストであるダン・ワンは、中国は半導体の設計と製造に何十億ドルもの補助金を費やしているが、先進的なコンピューターチップの製造において市場リーダーである台湾積体電路製造(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.、TSMC)に少なくとも5年遅れを取っていると推定している。

資金の洪水は腐敗も招く。清華紫光集団(Tsinghua Unigroup Inc.)は、中国政府から巨額の半導体製造補助金を受けった。清華紫光集団を率いた趙偉国は、中国の汚職防止当局から「自分が経営する国有企業を私的に支配とした」との申し立てを受けて拘束された。

ここには、アメリカにとっていくつかの教訓がある。第一に、補助金だけでは産業政策を進めるのに十分ではない。第二に、中国が優先している産業で、中国と競争するには莫大な費用がかかり、おそらくアメリカがほぼ提供しないレヴェルの保護主義が必要となる。

国内企業の業界団体であるアメリカ太陽エネルギー製造業者連合のエグゼクティブディレクターであるマイケル・カーは、政府は何が必要なのかの一例として砂糖産業に注目すべきだと述べた。そこでは、アメリカは価格が一定の水準を下回った場合に、砂糖のローン返済を受け入れており、ミシガン州、ミネソタ州、およびカリブ海気候とは程遠い他の場所で砂糖が栽培されるという奇妙なシステムを支持している。

しかし、おそらく最も重要なことは、中国の例は、産業政策が競争を促進することを保証することの重要性を示しているということになるだろう。ピーター・ハレルは、「私たちが産業政策を考えるとき、補助金や税金補助金が少数の企業を固定化し、既存企業を弱体化させないようにすることを考える必要がある」と語った。

バイデン政権の国家経済会議前委員長ブライアン・ディーズは、バイデン政権の計画のように、現金補助金よりも税額控除に依存する方が競争を促進し、中国に蔓延する過剰生産を回避するはずだと述べた。税額控除が認められる前に、投資家たちは市場を評価し、収益性があるかどうかを判断し、資金を投下する必要がある。政府が決定を下している訳ではない。利益を追求する企業が決断しているのだ。

ディーズは次のように語っている。「補助金は収益を向上させる。しかし、最終的には、誰かが多額の資本を危険に晒さねばならない。返済能力がなければ、利用率は低くなる」。

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左:2020年1月22日、中国北部の河北省邯鄲の工場でフェイスマスクを生産する労働者たち。右:2月15日、フロリダ州マイアミ北部にある家族経営の医療機器工場で呼吸用マスクを生産する労働者たち 2021年15日。

中国の産業政策目標は、1970年代後半に経済が世界に開放されて以来、変化してきた。当初、中国は膨大な、かつ低賃金の労働力を利用して、繊維、アパレル、エレクトロニクス製造業を中国に誘致した。それ以降、北京はより野心的になり、現在ではロボット工学、半導体、クリーンエネルギー、人工知能などの未来の技術でリーダーシップを発揮することを目指している。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学者バリー・ノートンは、中国は特に「ショートボード(short board)」技術と呼ばれるもの、つまり西側諸国の封鎖によって中国が機能不全に陥る可能性がある分野に重点を置いている、と指摘している。例えば、トランプ政権以降、中国は中国のコンピューター産業がアメリカ主導の輸出規制に耐えられるよう、国内の半導体設計・製造装置メーカーの強化(strengthening its domestic semiconductor design and manufacturing equipment makers)に注力してきた。

産業政策に依存し過ぎることには、明らかに敗者となるプロジェクトを、撤退するべき時期よりも、はるかに長く続けることなどのマイナス面もある。たとえば、国際競争力のあるガソリン車、燃料電池、水素エネルギーの開発という失敗した取り組みに資金をつぎ込むことなどだ。しかし、多くの場合、中国は挫折もあったが、必要な調整を行ってきた。自動車分野では、ガソリン車が中国の産業政策計画から除外されるようになった。その代わりに、電気自動車が登場した。5カ年計画や指導者が次の選挙を心配する必要がないシステムに対する中国の執着を真似するよう、アメリカに勧める人はいないが、民主的な制度においては、関与と長期計画は米国の弱点となるのは必然であろう。

アメリカの繊維メーカーは既に、バイデン政権が新型コロナウイルス感染拡大期間中に当初提案された2021年の法律で義務付けられている、アメリカ製のマスク、ガウン、その他の個人用保護具の購入や、国防生産法(Defense Production Act)への資金提供がうまくいかずに、役に立たなかったと不満を漏らしている。全国繊維組織評議会のキンバリー・グラスは、アメリカ企業は約束された注文に向けて準備を進めたが、連邦政府機関は安価な中国からの輸入品を購入し続けたと述べている。

あるホワイトハウス高官は、退役軍人省はアメリカ製の物品129点を特定し購入を開始しており、他の機関も同様の取り組みを始めていると述べた。しかしグラス会長は、彼女のグループのメンバーたちはアメリカ製の注文を見たことがないと語った。

アメリカ政治の分裂状態について考えると、バイデンのクリーンエネルギー計画のどれだけが第二期トランプ大統領の任期後にも存続できるかは、まったくもって不透明だ。トランプ大統領は現在、電気自動車を雇用の喪失者として非難し、自動車産業は政府の自動車推進政策によって「暗殺」されていると主張している。そして、クリーンエネルギーに対する補助金や税制上の優遇措置の大部分を盛り込んだインフレ抑制法は、共和党からの投票を1票も得られずに可決された。半導体製造に対して、390億ドルの補助金と税額控除を提供するCHIPSおよび科学法(CHIPS and Science Act)は、超党派の支持を得ており、トランプ政権での提案として始まったため、より安全であるように思われる。

過去に共和党政権は民主党の産業政策努力を阻止しようと努めてきた。例えば、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、超効率のガソリン車を開発するというクリントン政権の取り組みを即座に中止した。連邦議会共和党はオバマ大統領の太陽光パネル開発計画を縮小した。

ディーズは、地方政治での動きもあり、クリーンエネルギーへの補助金は政権交代後も存続するとみている。インフレ抑制法可決後に行われたクリーンエネルギーへの投資の約75%は共和党が勝利した連邦下院選挙区で実施された。ディーズは、「産業能力に、より精力的な方法でもっと投資する必要があるという基本的な命題には、より継続性がある」と述べている。

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北京のビルに飾られている巨大な中国国旗の近くで自身の電話を見る男性(2017年10月23日)。

アメリカが中国指導部の経済支配を真似て近づくことは、たとえそれを望むとしても、不可能なことだ。中国には、小規模な共産党指導グループが大規模な政府計画システムを監督する並行システムがあり、優先事項の承認を得るために様々な機関や国有企業によるロビー活動が渋滞するほどに活発である。

アメリカの産業政策へのアプローチは様々な機関の間で分裂しており、国家計画委員会(state planning agency)の後継である中国国家発展改革委員会(China’s National Development and Reform Commission)のような全体をまとめる機関はない。商務省が半導体プログラムを運営し、エネルギー省、財務省、内国歳入庁、その他の機関がクリーンエネルギー奨励金について発言権を持ち、国防総省が半導体や通信技術に関連する他のプログラムを管理している。ホワイトハウスの無名機関である科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy、OSTP)が調整役として起用される可能性もあるが、大きな影響力を持つことはほぼない。

産業政策の監督を調整するため、ホワイトハウスは著名なテクノロジスト(technologist)であるジェイソン・マセニーを、技術・国家安全保障担当大統領次席補佐官(deputy assistant to the president for technology and national security)、国家安全保障会議(NSC)技術・国家安全保障担当調整官(National Security Council [NSC] coordinator for technology and national security)、そして、ホワイトハウス科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy、OSTP)国家安全保障担当副局長の3つの異なる役職に任命した。国家安全保障が技術の進歩にますます依存する中、ホワイトハウスは政策が「一致している(in sync)」ことを確認したいとマセニーは語った。マセニーが国防シンクタンクのランド研究所所長に就任するために2022年に政権から離れた後は、彼の仕事は複数の人物に分担されていた。

オバマ政権で、国家安全保障委員会に勤務した経験を持つ、現在は政治コンサルティング会社バウンダリー・ストーン・パートナーズ社に勤めるクリスティン・ターナーは次のように語っている。「全体像を把握できる人は誰もいない。業界政策を全面的に機能させるための全ての糸を引く責任を負う閣僚レヴェルの担当者は存在しない」。長年にわたり、商務長官や新たな競争力強化担当政府機関(new competitiveness agency)を産業政策調整担当(industrial policy czar)にするという提案があったが、政府諸機関の間で、そして、連邦議会の各委員会の間の対立のため、実現には至らなかった。

あるホワイトハウス高官は、非常に多くの様々な機関が産業政策の取り組みに関与する必要があることで、アメリカの制度には利点があると反論した。「これは政府全体のアプローチだ」とこの人物は述べ、この計画はホワイトハウス次席補佐官のナタリー・クイリアンが調整していると述べた。

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オハイオ州ジョンズタウンにあるインテル社の新しい半導体製造工場を訪問するジョー・バイデン米大統領(2022年9月9日)。

ある意味、アメリカは中国の産業政策への取り組み方を真似し始めている。アメリカは何年もの間、中国がアメリカの経済モデルに従うことに利点を見出し、中国は保護主義を続ければ貿易が遮断されることを恐れるようになると考え、アメリカを中国の自由市場モデルとして提示しようとしてきた。しかし、それはもはや行われていない。現在、アメリカ政府も中国政府と同程度に、国内産業を活性化している。ライヴァル国が不利になる行動を取る理由として「互恵性(reciprocity)」を挙げる可能性が高い。

バイデン大統領が、中国の政府諸機関が収集する可能性のあるデータを送信しているとして、中国製電気自動車のアメリカへの輸入を禁止する大統領令案を発表したとき、バイデンの考えは明確だった。バイデン大統領は「中国は、中国で操業するアメリカ車やその他の外国車に制限を課している。なぜ中国からのコネクテッドヴィークル(connected vehicles)が安全対策措置なしで、我が国で走行することを許可されなければならないのか?」と述べた。

おそらく、中国の例が示すアメリカ政府にとって最も難しい問題は、このような保護主義にどこまで傾くかということだろう。中国の成功の重要な部分は、通信製造(telecommunications manufacturing)などの分野で巨大な国内市場を遮断したことだ。これにより、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)は、国際競争に必要な研究開発や自動化の費用を賄える確実な収益基盤を手に入れた。中国はインターネットサーヴィスでもこの方式を繰り返し、百度(Baidu)はグーグルやその他の企業との競争から自由に成長できるようになった。

しかし、中国は多くの産業で海外からの投資も奨励してきた。中国は、合弁事業(joint ventures)、規制(regulations)、審査委員会(review committees)、そしてあからさまな盗用(outright theft)を利用して、濫用される可能性のある秘密技術を学習してきた。その例は数多く存在する。中国で事業を行う条件として、日本とヨーロッパの新幹線メーカーは中国鉄道省と中国企業にノウハウを移転した。やがて、中国企業が強力な競争相手となった。中国が電気自動車市場を開拓していた頃、外国自動車メーカーはアップグレードを支援するために地元企業からバッテリーを購入する必要があった。一方、中国資本のヴォルヴォ・カー・グループは韓国から、より先進的なバッテリーを購入することができ、電気自動車での競争力が高まった。

トランプ政権は、中国がアメリカに輸出する品目の4分の3に関税を課すことで、アメリカ国内市場の保護に努めたが、中国企業がサプライチェーンを再構築し、ヴェトナムとメキシコでの事業を通じて、アメリカに輸出できるようにしたため、大きな影響はなかった。審査に関わった弁護士らによると、バイデンは関税を維持し、中国企業が国家安全保障審査に合格してアメリカ企業を買収することをほぼ不可能にすることで保護を倍増したということだ。市場調査会社ロジウム・グループによると、中国の対アメリカ投資は2016年の540億ドルから2022年には約15億ドルに急減した。フォードが電気自動車での競争力を高めるために、中国の「コンテンポラリー・アンペレックス・テクノロジー」社から先進的な電池技術のライセンス供与を受けるという契約でさえ、連邦議会とヴァージニア州知事から非難を浴びた。

外国投資に対する偏見は、中国とその他の少数の敵対国家にのみ適用される。アメリカの産業政策計画は一般に海外投資(foreign investment)に大きく依存している。半導体メーカーに対するCHIPS法の補助金は主に、台湾に本拠を置くTSMCに、アメリカに先進的な工場を建設するよう説得する方法として始まった。最近、バイデン政権はアリゾナ州の新しい半導体製造工場3カ所へのTSMCの650億ドルの投資を支援するため、TSMCへの66億ドルの補助金を承認したが、プロジェクトの作業進行は予定より遅れている。これは、インテル社やその他の米メーカーへの補助金に、追加されるものである。

中国に関して、アメリカのアプローチは曖昧だ。バイデン政権が太陽光発電の設置拡大を推進しているので、アメリカ国内に新設される中国資本の太陽光パネル工場は税額控除の対象となる可能性がある。しかし、中国の電池メーカーや半導体企業は一般的にそうではない。そこでは、アメリカは中国企業を締め出し、アメリカ企業が技術分野で中国企業を追い越すことを期待している。

戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家であるケネディは、中国企業がアメリカの市場リーダーから学んでアップグレードしたのと同じように、中国企業がリーダーとなっている、バッテリーや電気自動車、その他のグリーンテクノロジーなどの分野で、中国からの投資が必要だと述べた。

ケネディは次のように指摘している。「私たちは、表が出ればあなた方の勝ち、裏が出れば私たちの負けというアプローチを採っている。もし、私たちが技術的に進んでいるのであれば、中国に技術を与えたくないので中国からの投資は望まない。私たちが遅れている場合、それは国家安全保障上のリスクであると感じ、従って中国に依存したくないということになる」。

中国企業への投資優遇措置を全面的に禁止するよりも、リスクと利益を比較検討するアプローチの方が、筋が通っている。中国はまさにその手法を使っている。中国は、テスラの高級電気自動車生産能力を高めるために上海に工場を建設するよう奨励しようとしたとき、様々な減税措置や低利融資を提供した。

同様に、アメリカが明らかに遅れている、バッテリー分野での中国の投資を奨励することは、アメリカで生産する中国企業に、非中国企業が受けるのと同じ優遇措置を与えることを意味する。太陽光発電では、サプライチェーンを多様化する方法の1つとして、アメリカで生産する全ての企業(中国企業、非中国企業を問わず)は、使用する材料が中国以外の供給源から来ている場合、より多くの利益を得るべきである。

アメリカは、中国がこれまで非常にうまく利用してきた別のアプローチ、つまり、アメリカへの投資承認と引き換えに技術へのアクセスを要求するというアプローチを試すこともできる。アメリカでは連邦下院が、アメリカに友好的な買い手に販売されない限り、アプリを禁止する法案を可決したが、これは北京へのシグナルとして解釈すべきだ。基本的に、この法案は、TikTokの基盤となる技術を西側諸国の管理下に移すことを求めている。

技術交流(technology exchange)は、中国がアメリカでビジネスを行うために支払う代償となる可能性がある。カリフォルニア大学サンディエゴ校のエネルギー専門家マイケル・デイビッドソンは次のように指摘している。「非常に皮肉な状況がある。アメリカは、技術移転(technology transfer)を強制する中国の保護主義政策について長い間不満を述べてきた。アメリカには、それを覆し、中国から有利な条件で技術を手に入れるチャンスがある」。

この種の圧力戦術を使うことは、被害者が一流の弁護士や独立した司法機関にアクセスできる民主的なシステムにおいては難しいかもしれない。それでも、何がうまくいき、何がうまくいかないかを知るために、アメリカ人は中国の経験を研究するのがよいだろう。

※ボブ・デイヴィス:『ウォールストリート・ジャーナル』紙で長年にわたり、米中経済関係の特派員を務めた。共著に『超大国の対決: トランプと習近平の戦いが新たな冷戦をどのように脅かすか(Superpower Showdown: How the Battle Between Trump and Xi Threatens a New Cold War)』がある。ツイッターアカウント:@bobdavis187

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は、現在、ジョー・バイデン政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァン(Jake Sullivan、1976年-、46歳)が2020年当時に書いた論稿を紹介する。共著者のジェニファー・ハリス(Jennifer M. Harris、1981年-、42歳)はサリヴァンよりも若く、彼の右腕とも言うべき存在だ。サリヴァンは2011年から2013年まで、バラク・オバマ政権、ヒラリー・クリントン国務長官が率いる国務省で、政策企画本部長(Director of Policy Planning)を務めた。この時、政策企画本部でスタッフとして働いていたのがジェニファー・ハリスだった。
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ジェイク・サリヴァンとジョー・バイデン
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ジェニファー・ハリス

 ハリスはノースカロライナ州にあるウェイクフォレスト大学を卒業後、オックスフォード大学に留学し、修士号を取得した。帰国後にイェール大学法科大学院を修了し、弁護士となった。オックスフォード大学留学、イェール大学法科大学院修了、弁護士という経歴は、ジェイク・サリヴァンと同じだ。

政策企画本部は、国務省の重要な政策や構想(initiative)を担当する、頭脳集団、参謀集団だ。ジェニファー・ハリスはヒラリー国務長官が提唱した「エコノミック・ステイトクラフト」という考えの主要な立案者だった。

バイデン政権では、国家安全保障会議と国家経済会議の2つのホワイトハウスの機関に属する国際経済・労働担当上級部長を務めた。しかし、今年2月に辞任した。国家安全保障会議を主宰するのは国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、ここでもサリヴァンは、ハリスの上司となった。ジェニファー・ハリスは、バイデン政権内の「対中強硬派」として知られていた。以下の論文から重要な部分を引用する。
(引用はじめ)

政策立案者たちは、過少投資(underinvestment)が国家安全保障にとって、アメリカの国家債務よりも大きな脅威であることを認識すべきである。ワシントンの内外で毎年開かれる会合で、上級の国家安全保障専門家たちは、国家安全保障上の脅威の筆頭として、いまだに債務を非難している。将軍や提督たちは、定期的に連邦議会でその旨を証言している。しかし、もう議論の余地はないだろう。債務ではなく、長期停滞[secular stagnation](それによって、不安定な金融状況によってのみ満足のいく成長が達成される)の方が、はるかに差し迫った国家安全保障上の懸念なのだ。結局のところ、低成長に直面した緊縮財政と投資不足が、ハンガリーのヴィクトール・オルバンやブラジルのジャイル・ボルソナロのような不安定化する独裁政権を生み出すかを、世界は10年間も実証してきたのだ。

(中略)

産業政策[industrial policy](広義には、経済の再構築を目的とした政府の行動)を提唱することは、かつては恥ずべきことだと考えられていた。40数年の中断にもかかわらず、産業政策は深くアメリカ的である。ヘンリー・クレイのアメリカン・システムから、ドワイト・D・アイゼンハワーの州間高速道路網、リンドン・ジョンソンの偉大な社会(グレイト・ソサエティ)に至るまで、アメリカの歴史を通じて受け継がれてきた伝統である。

産業政策への回帰は、単に数十年前にこの国がやり残したことを取り戻すだけであってはならない。特定のセクターで勝者を選ぶことに注力するのではなく、月に人類を送り込む、ネット・ゼロ・エミッションを達成するといった大規模な使命(ミッション)に政府が投資することに注力すべきだというコンセンサスが生まれつつある。

(中略)

 もう一つの理由は、他国、特にアメリカの競争相手がそれを実践していることだ。習近平国家主席が主導している「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025、Made in China 2025)」戦略は、中国を商業と軍事の両分野でテクノロジーと先端製造業のリーダーへと飛躍させることを目的とした、10年間の青写真である。正確な見積もりは難しいが、中国の補助金だけでも数千億ドルに達する。こうした投資は、人工知能、太陽エネルギー、5Gなど、多くの専門家たちが、中国はアメリカと肩を並べるか、既に上回っていると確信している、いくつかの分野で、大きな成果を上げている。

もしワシントンが民間部門の研究開発に大きく依存し続ければ、その研究開発は長期的な革新的な進歩ではなく、短期的な利益を生む応用に向けられているので、アメリカ企業は中国企業との競争で負け続けることになるだろう。そして、危機の際に、軍事技術からワクチンに至るまでの必需品を生産するのに必要な製造基盤が欠如すれば、アメリカは更に不安定を増すだろう。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 サリヴァンとハリスは、政府が産業政策を通じて巨額の投資を行うべきこと、そして、中国が産業政策を行っているのだから、競争に勝つためには、アメリカも産業政策を実施すべきであることを訴えている。サリヴァンは国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、ハリスは、国家安全保障会議と国家経済会議の両方に所属する、国際経済・労働担当上級部長を務めた。これは、ジェイク・サリヴァンをはじめとする、バイデン政権の最高幹部たち産業政策の実施が、経済対策や景気対策の域を超えて、安全保障の問題であると考えていることを示している。

(貼り付けはじめ)

アメリカは新しい経済哲学を必要としている。外交政策の専門家たちがそれを助けることができる(America Needs a New Economic Philosophy. Foreign Policy Experts Can Help.)

-アメリカは、経済政策を誤れば、大戦略を正しいものにすることはできない。
ジェニファー・ハリス、ジェイク・サリヴァン筆
2020年2月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/02/07/america-needs-a-new-economic-philosophy-foreign-policy-experts-can-help/

アメリカの外交政策立案者たちは今、力がますます経済的な尺度で測定され、行使される世界に直面している。権威主義的資本主義(authoritarian capitalism)が、主流モデルになっている市場民主政治体制(market democracy)として挑戦しており、技術的混乱、気候変動、格差が政府と国民の間の結びつきを緊張させている。このような世界では、少なくとも他の何よりも経済が、地政学(geopolitics)におけるアメリカの成功と失敗を左右する。

ソヴィエト連邦が享受したことのないレヴェルの経済力と影響力を既に獲得している中国への対応となれば、なおさらだ。軍事力が重要であることに変わりはないが、米中間の新たな大国間競争は、結局のところ、それぞれの国がいかに効果的に自国の経済を管理し、世界経済を形成するかにかかっている。

共和国成立の初期から第二次世界大戦後までのアメリカの歴史を振り返って見ると、大戦略(grand strategy)の変化により、重商主義(mercantilism)から自由放任絶対主義(laissez-faire absolutism)、ケインズ主義(Keynesianism)から新自由主義(neoliberalism)へ、経済哲学(economic philosophy)の変化が時々必要となった。その変更を確実な者にするため、国家安全保障(national security)に関する議論が重要であることが証明されている。アメリカが新たな大国間競争(great-power competition)の時代に入り、格差、テクノロジー、気候変動などの強力な要素と闘っている今日も同様である。

これまでと同様、アメリカは過去数十年間に拡大した経済イデオロギー(不完全に新自由主義と呼ばれることもある)を超えて、経済の運営方法、経済が果たすべき目標、そしてそれらの目標を達成するために経済をどのように再構築すべきかを再考する必要がある。 そしてこれは経済的であると同時に地政学的な義務でもある。そしてこれまでと同様、国家安全保障と外交政策のコミュニティは、この国内経済政策の議論において積極的な役割を果たし、必要な改革を提唱し実現を支援すべきである。

今日、国内政策の穏健な専門家たちは、経済学者たちが多くのことを間違えており、重大な修正が必要であることを受け入れ、真の清算を経験している。その結果、労働者の力、資本への課税、独占禁止政策、公共投資の範囲などに関する議論に著しい変化が生じている。対外政策の専門家たちは、アメリカの競争力を強化するために何が必要かをより重視し始めたが、同じような基本的な清算はしていない。外交政策の専門家たちは、国内外を問わず、自国の経済前提において何を変える必要があるのか、より鋭く体系的な感覚を養うべき時が来ている。

過去3年間、ドナルド・トランプという国家的緊急事態(national emergency)に対処するため、外交政策に取り組む民主党と反トランプの共和党が団結して、同盟、価値観、制度に関する一連の重要な提案の中核を擁護してきた。そうすることで、経済に関する難しい質問についての意見の相違を無視したり、回答を避けたりする傾向があった。そして過去30年にわたり、外交政策の専門家たちは経済学に関する質問を国際経済問題を担当する小さな専門家コミュニティにほとんど丸投げしてきた。

その理由の1つは、経済学と外交政策は異なるものであるべきだという考えからきている。あたかも両者を混ぜ合わせると、長い間客観的な科学として扱われてきた経済学が、地政学の利己的な影響によって汚されてしまうからと考えられた。また、外交政策のエリートたちが、アメリカ社会の他の多くの人々と同じように、この経済学の正統性を内面化し、委任が単なる便宜的な問題であるかのように信じ込むようになったことも一因である。例えば、バラク・オバマ政権とジョージ・W・ブッシュ政権が、国内経済政策ではこれほど異なるアプローチを採用していたのに、環太平洋経済連携協定(TPP)から国際通貨基金(IMF)に至るまで、対外経済政策ではほぼ同じアプローチをとっていたのはこのためだ。

しかし、外交政策の専門家は、新たな経済政策論争を傍観する必要はないし、むしろ傍観すべきではない。過去において、アメリカの大戦略はその時々の経済理論に基づいて構築されてきた。例えば、アメリカは建国当初、重商主義(mercantilism)に基づく帝国を退けていた。フランスやイギリスのような既成勢力に勝てないことは百も承知だったが、アメリカは重商主義を否定し、代わりに自由貿易モデルを採用し、その普及に貢献した。実際、アメリカがアダム・スミスやデイヴィッド・リカードに早くから傾倒していたのは、地政学的に生き残るためでもあった。

冷戦時代にも似たようなことがあった。アメリカ政府は、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズによって提唱された処方箋を用い、第二次世界大戦後の数十年間、ソ連経済が太刀打ちできないペースで経済成長を達成した。これは、公共投資(public investment)と、完全雇用(full employment)を優先する金融政策によって、消費者需要と工業生産を刺激するというものだった。歴史は、当時のケインズ主義の台頭を、世界大恐慌(Great Depression)と世界大戦に対する明白で必然的な対応として解釈する傾向があるが、冷戦の初期には、このアプローチが正統派として定着することは明確ではなかった。

1933年から1944年まで国務長官を務めたコーデル・ハルや、ヴェテランの外交官ジョージ・ケナンのようなアメリカの国家安全保障の専門家を含むさまざまな人物たちが、ソヴィエトに打ち勝つには、大恐慌前の数十年間に主流だった自由放任主義の経済哲学を捨てることが必要だと主張したからである。ケナンは冷戦初期に、より拡張的な経済学を主張する際に、1930年代の外交政策の惨状は、1920年代の「失われた機会(lost opportunities)」に起因すると主張した。

歴史は再びノックを鳴らしている。中国との競争の激化と国際政治・経済秩序の変化は、現代の外交政策当局に同様の本能を呼び起こすはずだ。今日の国家安全保障の専門家たちは、過去40年間主流だった新自由主義経済哲学を乗り越える必要がある。この哲学は、個人の自由と経済成長の両方を最大化する最も確実な道としての競争市場に対する反射的な信頼と、それに対応する政府の役割は、財産権の行使を通じて競争市場を確保することに限定されるのが最善であり、市場の失敗という稀な事例にのみ介入するという信念に要約される。

外交政策の専門家たちが次の経済哲学を考え出す必要はない。その任務はより限定的であり、新自由主義の後に何が起こるべきかについて展開中の議論に地政学的視点を提供し、その後、新たなアプローチが出現したときに国家安全保障を主張することである。

この目的を達成するために、外交政策コミュニティは多くの古い思い込みを捨てる必要がある。経済学の主流派からは、従来のアプローチの最も有害な要素が捨て去られつつあるが、外交政策の会話には、ある種の決まり文句がまだ残っている。

第一に、政策立案者たちは、過少投資(underinvestment)が国家安全保障にとって、アメリカの国家債務よりも大きな脅威であることを認識すべきである。ワシントンの内外で毎年開かれる会合で、上級の国家安全保障専門家たちは、国家安全保障上の脅威の筆頭として、いまだに債務を非難している。将軍や提督たちは、定期的に連邦議会でその旨を証言している。しかし、もう議論の余地はないだろう。債務ではなく、長期停滞[secular stagnation](それによって、不安定な金融状況によってのみ満足のいく成長が達成される)の方が、はるかに差し迫った国家安全保障上の懸念なのだ。結局のところ、低成長に直面した緊縮財政と投資不足が、ハンガリーのヴィクトール・オルバンやブラジルのジャイル・ボルソナロのような不安定化する独裁政権を生み出すかを、世界は10年間も実証してきたのだ。

これはなにも、借金や赤字が決して問題ではないということではない。むしろ、それは良い借金と悪い借金の区別を強調することであり、この点は現在経済界で広く受け入れられている。アメリカの国家安全保障コミュニティは、当然のことながら、中国に対するアメリカの長期的な競争力を決定するインフラ、テクノロジー、技術革新、教育への投資を主張し始めている。成長、インフレ、金利が全て遅れているため、政策立案者たちは、アメリカにはこれらの投資を行う余裕がないというシンプソン・ボウルズ委員会に遡る(そして2021年に民主党が大統領に就任すれば戻る可能性が高い)議論に怯えるべきではない。

しかし、悪い借金は中長期的な成長の可能性を高めることなくリスクを生む。トランプ政権の2018年税制法案は、1兆5000億ドルから2兆3000億ドル(2009年の景気刺激策の2倍から3倍)の値札を掲げており、高価な教訓となっている。企業やアメリカの富裕層に対するトリクルダウン減税を、アメリカの低・中所得層から富裕層へ何兆ドルも再分配するゾンビ・イデオロギーとしか見なせないほど、棺桶に釘が刺さりすぎている。

企業やアメリカの富裕層へのトリクルダウン減税という考えは信用できない。それは単に、アメリカの中低所得層から富裕層へ何兆ドルも再分配するものであり、外交政策専門家たちはそれを否定すべきである。

第二に、産業政策[industrial policy](広義には、経済の再構築を目的とした政府の行動)を提唱することは、かつては恥ずべきことだと考えられていた。40数年の中断にもかかわらず、産業政策は深くアメリカ的である。ヘンリー・クレイのアメリカン・システムから、ドワイト・D・アイゼンハワーの州間高速道路網、リンドン・ジョンソンの偉大な社会(グレイト・ソサエティ)に至るまで、アメリカの歴史を通じて受け継がれてきた伝統である。

産業政策への回帰は、単に数十年前にこの国がやり残したことを取り戻すだけであってはならない。特定のセクターで勝者を選ぶことに注力するのではなく、月に人類を送り込む、ネット・ゼロ・エミッションを達成するといった大規模な使命(ミッション)に政府が投資することに注力すべきだというコンセンサスが生まれつつある。

産業政策に立ち返るべき最大の地政学的理由は気候変動だ。炭素に課税するだけでは気候変動に対処できない。それには、研究開発、新技術の展開、気候に優しいインフラの開発を通じて脱炭素アメリカ経済(post-carbon U.S. economy)への移行を裏付ける、計画的かつ方向性のある公共投資の急増が必要となる。

もう一つの理由は、他国、特にアメリカの競争相手がそれを実践していることだ。習近平国家主席が主導している「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025、Made in China 2025)」戦略は、中国を商業と軍事の両分野でテクノロジーと先端製造業のリーダーへと飛躍させることを目的とした、10年間の青写真である。正確な見積もりは難しいが、中国の補助金だけでも数千億ドルに達する。こうした投資は、人工知能、太陽エネルギー、5Gなど、多くの専門家たちが、中国はアメリカと肩を並べるか、既に上回っていると確信している、いくつかの分野で、大きな成果を上げている。

もしワシントンが民間部門の研究開発に大きく依存し続ければ、その研究開発は長期的な革新的な進歩ではなく、短期的な利益を生む応用に向けられているので、アメリカ企業は中国企業との競争で負け続けることになるだろう。そして、危機の際に、軍事技術からワクチンに至るまでの必需品を生産するのに必要な製造基盤が欠如すれば、アメリカは更に不安定を増すだろう。

第三に、政策立案者たちは、あらゆる貿易協定が良い貿易協定であり、より多くの貿易が常に解決策であるという通念を乗り越えなければならない。細部が重要なのだ。TPPをどう考えるにせよ、国家安全保障コミュニティは、その実際の中身を探ることなく、疑うことなくTPPを支持した。アメリカの貿易政策は、長年にわたってあまりにも多くの過ちを犯してきた。

ノーベル賞受賞者で経済学者のポール・クルーグマンは最近、中国の世界貿易機関(WTO)加盟がアメリカ国内の地域社会に与える影響について、「物語の重要な部分を見逃していた」と指摘し、この問題について謝罪の意を表明した。彼は、デイヴィッド・オーサー、デイヴィッド・ドーン、ゴードン・ハンソンらによる、アメリカの雇用が中国に奪われ、1990年代後半の議論では伝統的な経済学者たちによって否定されていた、劇的な雇用の喪失を記録した研究に、部分的に反応したのである。

新しい思想家たちはまた、個々の合意を超えて、今日の経済に適用される貿易理論の基本前提の一部に疑問を投げかけている。例えば、原則として損失者が補償される限り、貿易は必然的に双方の生活を豊かにするという考えは、経済学の分野で当然の圧力に晒されている。これは、法人税を広範囲に分配するどころか、そもそも法人税を徴収することでその利益を利用してきたアメリカの恐るべき実績を考えると特に当てはまる。

貿易に対するより良いアプローチは、貿易から得られる理論的利益の多くを損なうタックスヘイブン(租税回避地)や抜け穴をより積極的に標的にすることである。また、企業投資のために世界を安全にするのではなく、アメリカ国内の賃金を向上させ、高賃金の雇用を創出することに焦点を当てるべきである。例えば、ゴールドマン・サックスのために中国の金融システムを開放することが、なぜアメリカの交渉の優先事項なってしまうのか? また、対外貿易政策を労働者や地域社会への国内投資と結びつけ、貿易調整を中途半端な約束に終わらせないようにすべきである。

うまく行けば、別のコースで経済的利益だけでなく、戦略的利益も得られるはずだ。ほんの一例を挙げると、TPPには存在しない為替操作(currency manipulation)に関する規定は、アメリカの中産階級を助けるだけでなく、複数の大陸にわたって中国の力を強化するために設計された一連のインフラプロジェクト、中国が進める一帯一路構想(Belt and Road Initiative、BRI)のような取り組みに資金を提供する能力を制限することによって、アメリカの戦略的地位をも助けるだろう。中国は一帯一路の資金の多くを外貨準備の備蓄を通じて賄ってきた。この外貨準備は、輸出の競争力を高めるため、自国通貨の価値を下げるために外国為替市場に何年も大規模な介入を行って蓄積したものである。

第四に、外交政策の専門家たちは、アメリカを拠点とする多国籍企業にとって良いことが、必然的にアメリカにとっても良いことであるという考えを捨てなければならない。アメリカの外交官は納税者の金で世界中を飛び回り、アメリカ企業が外国で契約や取引を勝ち取るよう働きかけている。しかし、こうした契約や取引によって創出される雇用は、アメリカ国内ではなく海外で創出されることがあまりにも多く、利益の全てまたは大部分は、アメリカの労働者や地域社会ではなく、投資家にもたらされる。

製薬業界を例にとれば、アメリカは医薬品開発において誰もが認めるリーダーであり、アメリカの交渉担当者の多くは医薬品を輸出の強みの源泉とみなしてきた。そのため、アメリカの貿易取引では大手製薬企業に対して寛大な条件が提示されている。知的財産(intellectual property)はアメリカが所有しているが、有効成分のほとんどは海外で製造されている。これはグローバル化の当然の事実のように聞こえるかもしれない。しかし、アメリカの医薬品の最大の輸入元は低賃金国ではなく、アイルランドとスイスである。

これは世界資本が低賃金国に移動しているということを示していない。それは税金逃れのために起こっている。カリフォルニア大学バークレー校の経済学者ガブリエル・ザクマンの試算によると、アメリカ企業が利益をアイルランドやスイスなどの税制の緩い管轄区域に移しているため、アメリカ政府は年間700億ドル近くの税収を失っているという。これは毎年徴収される法人税収のほぼ20パーセントに相当する額だ。

その結果、経済学者のブラッド・セッツァーが示したように、現在、アメリカの医薬品貿易赤字は民間航空の黒字を上回っている。実際、アメリカはスマートフォンよりも多くの医薬品を輸入している。アメリカ政府が、アメリカの利益から完全に乖離した業界にこれほど多くの政治資金を投じるべきかどうか、その答えは決して明白ではない。

政府による企業擁護は特権であり、権利ではない。今後のアメリカの政権は、海外で活動するアメリカ企業のために外交的影響力を行使するかどうか、またその方法を決定する際に、税制と歳入を考慮に入れるべきである。

最後に、外交政策の専門家の助けが自ら答えを導き出す中心となる分野がいくつかある。好例の1つは、独占禁止政策(antitrust policy)の再活性化に関して現在進行中の活発な議論だ。経済の集中(economic concentration)が低成長、賃金の停滞、不平等の拡大と関連している証拠を踏まえると、新たな経済的コンセンサスがどのような形で現れても、新たな形の独占禁止法が必要な要素となるだろう。

しかし、例えばアメリカが大規模なテクノロジー・プラットフォームを解体する場合、ワシントンが新たな国際的独占禁止法戦略も導入しない限り、中国のハイテク巨大企業に世界的な市場シェアを譲り渡すだけだと懸念する声もある。特に、戦略的技術の数々が天秤にかかっていることを考えると、外交政策コミュニティは、それらがどこで、どのように生産されるかについて、何か言うべきことがあるはずだ。

より広く言えば、国家安全保障上の懸念によって引き起こされる議論と、それを代弁する指導者たちは、しばしば、どのアイデアに価値があり、どのアイデアが真剣であるとみなされ、どのアイデアがそうでないかを決定する、強力な検証の源である。経済を管理し成長させる方法に関する新しい常識は、外交政策コミュニティがそのケースを説明する手助けをすれば、より容易に定着するだろう。

そして何よりも重要なのは、今日の世界に対する新たな大戦略(grand strategy)は、その背後にある経済哲学と同じ程度のものでしかないということである。過去の思い込みは、とりわけ国内の混乱と、アメリカの対中アプローチにおける弱点や盲点を招いた。今こそそれを捨てる時だ。外交政策界は積極的に新しい経済モデルを模索すべきである。アメリカの国家安全保障はそれにかかっている。

※ジェニファー・ハリス:ルーズヴェルト研究所研究員・ブルッキングス研究所非常勤上級研究員。2008年から2014年にかけて国務省政策企画局局員、2004年から2008年にかけて国家情報会議スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@jennifermharris

※ジェイク・サリヴァン:カーネギー国際平和財団非常勤上級員。バラク・オバマ大統領次席アシスタント、2013年から2014年にかけてジョー・バイデン副大統領国家安全保障担当補佐官、2011年から2013年まで国務省政策企画局局長を務めた。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 久しぶりの投稿となりました。実は9月に新型コロナウイルス感染しました。その時に、ある出版社から、書籍出版の話をいただきました。回復後に原稿を書き始めました。それがようやくひと段落したので、ブログを再開します。よろしくお願いいたします。

 今回は、バイデン政権で重職を務める2人の論文をご紹介する。筆者は、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官とホワイトハウスの国家安全相会議(主宰は国家安全保障問題担当大統領補佐官)でインド・太平洋調整官を務め、最近、米国務副長官に指名されたカート・キャンベルの論文だ。テーマは米中関係だ。重要な部分を以下に引用する。
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(左から)アシュトン・カーター元国防長官、カート・キャンベル、ジェイク・サリヴァン
(引用はじめ)

軍事力に資源を集中していたソ連とは異なり、中国は地理経済学を主要な競争の場と見なしている。将来を見据え、人工知能、ロボット工学、先端製造業、バイオテクノロジーなどの新興産業や技術に多額の投資を行っている。中国は、欧米企業の相互待遇を否定することで、これらの分野での優位性を追求している。アメリカは中国に恒久的な正常貿易関係を認め、世界貿易機関(WTO)への加盟を支援し、世界で最も開かれた市場の一つを維持してきた。しかし、産業政策、保護主義、そして完全な窃盗の組み合わせを通じて、中国は自国市場にさまざまな公式・非公式の障壁を設け、アメリカの開放性を利用してきた。

(註略)

中国との経済競争において最も決定的な要因は、アメリカの国内政策である。新たな「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」、つまり、ソヴィエト連邦が世界初の人工衛星を打ち上げた時のように、国民の研究を強力に鼓舞するような瞬間、という考え方は大げさかもしれないが、政府はアメリカの経済的・技術的リーダーシップを促進する役割を担っている。しかしアメリカは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した州間高速道路システムや、科学者ヴァネヴァー・ブッシュが推進した基礎研究イニシアティヴなど、まさにその時期に行った野心的な公共投資から目を背けている。ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ。公共投資を飢餓状態に追い込みながら、中国への強硬路線を求めるのは自滅的である。競争を考えれば、こうした投資を「社会主義的」と表現するのは特に皮肉である。実際、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)やマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、共和党)のような奇妙なイデオロギー仲間は、アメリカの新たな産業政策について説得力のある主張を行っている。

(中略)

アメリカはまた、中国による知的財産の窃盗、的を絞った産業政策(targeted industrial policies)、経済と安全保障分野の混合に直面して、技術的優位性を守らなければならない。そのためには、双方向の技術投資と貿易の流れをある程度制限する必要があるが、こうした努力は全面的に行うのではなく、国家安全保障や人権にとって重要な技術については、制限を課し、そうでないものについては通常の貿易と投資を継続できるようにする、選択的に行うべきである。このような対象を絞った制限であっても、産業界や他国政府との協議のもとで実施されなければならない。これを怠れば、知識や人材の流れを阻害し、世界のテクノロジー・エコシステムをバルカン化させかねない。そのような事態は、中国に対するアメリカの重要な競争上の優位性を無にすることになる。つまり、世界最高の人材を調達し、世界中から最大のブレークスルーを合成することができるオープンな経済ということである。一方、技術規制の行き過ぎは他国を中国に向かわせる可能性がある。特に、中国は既に多くの国にとって最大の貿易相手国である。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 サリヴァンとキャンベルは、中国との競争を念頭に置いて、アメリカ国内で「ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ」と述べている。この内容がバイデン政権において実際に実行されている。バイデン政権が実施しているのは、産業政策(Industrial Policy)だ。具体的には、半導体製造強化である(CHIPS法)。

 アメリカは、中国に対して技術的優位を保ちたい。それが、軍事的な優位にもつながるからだ。しかし、中国もまた、効率的な産業政策を実施し、それに成功している。アメリカは、中国に追いつかれつつある。下記論文の題名は「悲劇的な結末を迎えない競争(Competition Without Catastrophe)」だ。キャンベルは対中強硬派として知られているが、中国との対決は「悲劇的な結末」を迎えることもあるということは分かっているようだ。アメリカが中国に対して採用できる対処方法はかなり限られつつある。

(貼り付けはじめ)

悲劇的な結末を迎えない競争(Competition Without Catastrophe)

-アメリカは如何にして、中国に挑戦し、共存することができるか?

カート・M・キャンベル、ジェイク・サリヴァン筆
2019年9・10月号(発行日:2019年8月1日)

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/china/competition-with-china-without-catastrophe

アメリカは現在、冷戦終結以来、最も重大な外交政策の見直しの最中にある。ワシントンは依然としてほとんどの問題で激しく意見が分かれているが、中国に関与する時代があっさりと幕を閉じたというコンセンサスは高まっている。現在議論されているのは、次に何が来るかということである。

アメリカの外交政策の歴史を通じて行われてきた、多くの議論がそうであったように、この議論にも生産的な革新と破壊的なデマゴギーの両方の要素がある。トランプ政権の国家安全保障戦略が2018年に掲げたように、「戦略的競争(strategic competition)」が今後のアメリカの対北京アプローチを活気づけるべきだという点については、専門家のほとんどが同意できるだろう。しかし、「戦略的」という言葉で始まる外交政策の枠組みは、しばしば答えよりも多くの問題を提起する。「戦略的忍耐(strategic patience)」は、いつ何をすべきかについての不確かさ(uncertainty)を反映する。「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」は、何をシグナルとすべきかの不確かさを反映している。そしてこの場合、「戦略的競争」は、何をめぐる競争なのか、勝つとはどういうことなのかについての不確かさを反映している。

新たなコンセンサスの急速な合体により、米中競争に関するこれらの本質的な疑問は未解決のまま放置されている。アメリカは一体何のために競争しているのか? そして、この競争の最も妥当な望ましい結果とはどのようなものだろうか? 競争の手段と明確な目的を結びつけることができなければ、アメリカの政策は競争のための競争へと流れ、やがて危険な対立の連鎖に陥ることになる。

アメリカの政策立案者やアナリストたちは、40年にわたる対中外交・経済関与戦略(four-decade-long strategy of diplomatic and economic engagement with China)の根底にあった楽観的な前提を、ほとんど、そして当然ながら、捨ててきた。このことについては、本稿の著者の1人である、カート・キャンベルが昨年、イーライ・ラトナーと共に、本誌に論稿を発表した。しかし、競争を受け入れることを急ぐあまり、政策立案者たちは旧来の希望的観測の代わりに新たな希望的観測を持ち込もうとしているのかもしれない。中国の政治体制、経済、外交政策に根本的な変化をもたらすことができると思い込んだことが、関与の基本的な間違いだった。ワシントンは今日、同じような過ちを犯す危険を冒している。競争によって、関与が失敗した中国の変革を成功させることができると思い込んでいる。

米中両国の間には多くの分断があるが、それぞれが大国として相手と共存していこうという覚悟が必要である。アメリカの正しいアプローチの出発点は、ワシントンの決定が北京の長期的な発展の方向性を決定する能力について謙虚になることからでなければならない。中国の軌跡に関する仮定に依存するのではなく、アメリカの戦略は、中国の体制に将来何が起ころうと、それに耐えうるものでなければならない。冷戦の最終的な終結のような決定的な終局状態ではなく、アメリカの利益と価値観に有利な条件での、明確な安定した共存状態を目指すべきである。

そのような共存には、競争と協力の要素が含まれ、アメリカの競争的努力は、そのような有利な条件を確保することに向けられる。このことは、アメリカの政策が関与の域を超えつつあることから、短期的にはかなりの摩擦を意味するかもしれない。過去には、積極的な結びつきのために摩擦を回避すること自体が目的であった。今後、中国政策は、アメリカがどのような関係を築きたいかということだけでなく、アメリカがどのような利益を確保したいかということについても考えなければならない。ワシントンが追い求めるべき安定した状態とは、正しくその両方に関するものである。つまり、競争が続く中でも、危険なエスカレート・スパイラルを防ぐために必要な一連の条件である。

アメリカの政策立案者たちは、この目標を手の届かないものとして諦めるべきではない。もちろん、中国がこのような結果をもたらすかどうかに口を出すことは事実である。従って、米中関係においては今後も警戒が合言葉であり続ける必要がある。共存はアメリカの利益を守り、避けられない緊張が全面的な対立に発展するのを防ぐ最良の機会を提供するが、それは競争の終結や基本的に重要な問題での降伏を意味するものではない。むしろ共存とは、競争を解決すべき問題としてではなく、管理すべき条件として受け入れることを意味する。

●冷戦の論理ではなく、冷戦からの教訓を(COLD WAR LESSONS, NOT COLD WAR LOGIC)

現在の競争に関するぼんやりとした言説を考えると、現在の競争を理解するために、アメリカ人が記憶している唯一の大国間競争である冷戦に立ち戻りたいという誘惑は理解できる。この類推(analogy)には直感的な魅力がある。ソ連と同様、中国は抑圧的な政治体制と大きな野心を持つ大陸規模の競争相手である。中国が提起する挑戦はグローバルで永続的なものであり、その挑戦に応えるには、1950年代から1960年代にかけてアメリカが追求したような国内動員(domestic mobilization)が必要となる。

しかし、この類推は適切ではない。今日の中国は、かつてのソ連よりも経済的に手ごわく、外交的に洗練され、イデオロギー的に柔軟な競争相手となっている。そしてソ連とは異なり、中国は世界に深く組み込まれており、アメリカ経済と結びついている。冷戦はまさに生存競争(existential struggle)だった。アメリカの封じ込め戦略(U.S. strategy of containment)は、ソ連がいつか自重で崩壊するという予測、つまりこの戦略を最初に策定した外交官ジョージ・ケナンが信念をもって宣言したように、ソ連には「自らの崩壊の種(the seeds of its own decay)」が含まれているという予測に基づいて構築された。

今日ではそのような予測は当てはまらない。現在の中国国家が最終的に崩壊するという前提で、あるいはそれを目的として、新たな封じ込め政策を構築するのは間違っている。中国には人口動態、経済、環境など多くの課題があるにもかかわらず、中国共産党は状況に適応する驚くべき能力を示しており、それはしばしば残酷な場合もある。一方、集団監視と人工知能の融合により、より効果的なデジタル権威主義が可能になり、改革や革命に必要な集団行動を組織することはおろか、熟考することも困難になる。中国が深刻な国内問題に遭遇する可能性は十分にあるが、崩壊の予想は賢明な戦略の基礎を形成することはできない。たとえ国家が崩壊したとしても、それはアメリカの圧力ではなく国内の力学の結果である可能性が高い。

冷戦の類推は、中国がもたらす実存的脅威を誇張し、アメリカとの長期競争において中国がもたらす強みを軽視するものである。アジアのホットスポットにおける紛争のリスクは深刻ではあるが、冷戦時代のヨーロッパほど高くはなく、また核エスカレーションの脅威もそれほど大きくはない。ベルリンとキューバで起こったような核の瀬戸際政策は、米中関係に当然の帰結ではない。また、米中の競争が世界を代理戦争に陥らせたり、イデオロギー的に一致した国々が武力闘争の準備をするライヴァルブロックを生み出したりしたこともない。

しかし、危険性が低下したとはいえ、中国は極めて挑戦的な競争相手である。前世紀において、ソヴィエト連邦を含め、アメリカの敵対国がアメリカのGDPの60%に達したことはなかった。中国は2014年にそのしきい値を超えた。購買力ベースで、そのGDPはすでにアメリカのGDPを25%上回っている。中国はいくつかの経済分野で世界のリーダー的存在になりつつあり、その経済はソ連時代よりも多様化、柔軟化、高度化している。

中国はまた、自国の経済的影響力を戦略的影響力に変えることにも優れている。ソ連が内向きの閉鎖経済(closed economy)が足かせになったのに対し、中国はグローバル化を受け入れ、世界の3分の2以上の国にとって最大の貿易相手国となった。軍事化された米ソ紛争には欠けていた、経済的、人的、技術的なつながりが、中国とアメリカおよびより広い世界との関係を規定している。世界的な経済主体として、中国はアメリカの同盟諸国やパートナーの繁栄の中心となっている。学生や観光客は世界の大学や都市を溢れている。その工場は、世界の高度な技術の多くを生み出す工場だ。この太いつながりの網のおかげで、どの国がアメリカと連携し、どの国が中国と連携しているのかを判断することさえ困難になっている。エクアドルとエチオピアは投資や監視技術を中国に期待しているかもしれないが、これらの購入が、アメリカからの意識的な離反の一環であるとはほとんど考えられない。

中国はソ連よりも手ごわい競争相手として浮上しているが、アメリカにとって不可欠なパートナーでもある。アメリカと中国が協力しても解決が難しい地球規模の問題は、アメリカと中国が二大汚染国であることを考慮すると、両国が協力しなければ解決することは不可能である。その中で最も重要なのは気候変動(climate change)である。経済危機、核拡散、世界的パンデミックなど、他の多くの国境を越えた課題にも、ある程度の共同努力が必要だ。この協力の必要性は、冷戦時代にはほとんど似ていない。

新たな冷戦という概念から、封じ込めの最新版を求める声が上がる一方で、こうした考え方に抵抗感を示すのが、中国との融和的な「重大な交渉(grand bargain)」の提唱者たちである。このような交渉は、米ソのデタント(detente)の条件をはるかに超えるものだ。このシナリオでは、アメリカはアジアにおける影響力の範囲を中国に事実上譲歩することになる。このシナリオでは、アメリカはアジアにおける影響力の範囲を事実上中国に譲歩することになる。推進派は、アメリカの国内的な逆風と相対的な衰退を考えれば、この譲歩は必要だと擁護する。この立場は現実的なものと宣伝されているが、封じ込め以上に耐えうるものではない。世界で最もダイナミックな地域を中国に譲ることは、アメリカの労働者や企業に長期的な損害を与える。アメリカの同盟国や価値観にダメージを与え、主権を持つパートナーを交渉の材料にすることになる。重大な交渉はまた、投機的な約束のために、アメリカの同盟関係や西太平洋で活動する権利さえも放棄するような、厳しく恒久的なアメリカの譲歩を必要とするだろう。このようなコストは容認できないだけでなく、大筋合意は強制力を持たない。台頭する中国は、嗜好や国力が変われば、協定に違反する可能性が高い。

新しい封じ込めの擁護者たちは、管理された共存を求めるいかなる声も、重要な交渉のヴァージョンの論拠とみなす傾向があり、重要な交渉の擁護者たちは、持続的な競争を示唆するいかなる声も、封じ込めのヴァージョンのケースとみなす傾向がある。この対立は、中国の屈服や米中領有を前提としない、両極端の間の道を見えにくくしている。

その代わり、軍事、経済、政治、グローバル・ガバナンスという4つの重要な競争領域において、北京と良好な共存条件を確立し、米ソ対立のような脅威認識を引き起こすことなく、アメリカの利益を確保することを目指すべきである。ワシントンは冷戦の教訓に耳を傾けるべきであるが、その論理が今でも通用するという考えは否定すべきである。

●持続可能な抑止に向かって(TOWARD SUSTAINABLE DETERRENCE)

真にグローバルな戦いであった冷戦時代の軍事競争とは対照的に、ワシントンと北京にとっての危険はインド太平洋に限定される可能性が高い。それでも、この地域には南シナ海、東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島という少なくとも4つの潜在的なホットスポットがある。どちらの側も紛争を望んでいないが、米中両国が攻撃能力に投資し、この地域での軍事的プレゼンスを高め、これまで以上に接近して活動するにつれて、緊張が高まっている。ワシントンは、中国がアメリカ軍を西太平洋から追い出そうとしていると恐れ、北京は、アメリカが中国を囲い込もうとしていると恐れている。人民解放軍の元海軍司令官である呉勝利提督は、このような事態は「戦争の火種になりかねない」と警告している。

しかし、インド太平洋における米中両軍の共存を不可能と片付けるべきではない。アメリカは、中国の兵器の到達範囲を考えると、軍事的優位を回復するのは難しいことを受け入れ、その代わりに、中国がアメリカの行動の自由を妨害したり、アメリカの同盟諸国やパートナーに物理的な威圧を加えたりすることを抑止することに集中しなければならない。北京は、アメリカが主要な軍事的プレゼンス、主要な水路での海軍活動、同盟とパートナーシップのネットワークを持つ、この地域の常駐大国であり続けることを受け入れなければならないだろう。

台湾と南シナ海は、この全体的なアプローチに最も重大な課題をもたらす可能性が高い。いずれの場合も、軍事的な挑発や誤解は、壊滅的な結果を伴うより大きな火種を容易に引き起こす可能性があり、このリスクは、ワシントンと北京双方の指導者たちの思考をますます活性化させるに違いない。

台湾に関しては、歴史的な複雑さを考慮すると、現状を一方的に変更しないという暗黙の約束(tacit commitment)がおそらく期待できる最善のものである。しかし、台湾は潜在的な引火点であるだけではない。それはまた、米中関係の歴史の中で、誰にも言われていない最大の成功でもある。この島は、アメリカと中国の間の曖昧な空間の中で、双方が一般的に採用した柔軟で微妙なアプローチの結果として成長、繁栄、民主化されてきた。このように、台湾をめぐる外交は、他の様々な問題に関して、ますます困難を極める米中外交のモデルとなる可能性があるが、これには同様に、激しい関与、相互の警戒、ある程度の不信感、そして国際社会への対応が含まれる可能性が高い。忍耐と必要な自制が求められる。一方、南シナ海では、航行の自由に対する脅威が中国自身の経済に壊滅的な結果をもたらす可能性があるという中国政府の理解は、アメリカの抑止力と組み合わせることで、よりナショナリズム的な感情を調整するのに役立つかもしれない。

このような共存を実現するためには、ワシントンは米中の危機管理と自国の抑止力の両方を強化する必要がある。冷戦時代の敵対国同士であった米ソ両国は、偶発的な衝突が核戦争にエスカレートするリスクを軽減するため、軍事ホットラインを設置し、行動規範を定め、軍備管理協定を締結するなど、協調して取り組んできた。宇宙空間やサイバースペースといった新たな潜在的紛争領域がエスカレートのリスクを高めている現在、アメリカと中国は危機管理のための同様の手段を欠いている。

あらゆる軍事領域において、米中両国は、少なくとも米ソ海事事故協定(1972年)のような正式で詳細な協定を必要としている。この協定は、海上での誤解を避けることを目的とした一連の具体的なルールを定めたものである。米中両国はまた、特に南シナ海での衝突を回避するために、より多くのコミュニケーション・チャンネルとメカニズムを必要とする。二国間の軍事関係はもはや政治的な意見の相違を人質に取るべきでなく、双方の軍高官がより頻繁に実質的な話し合いを行い、個人的な関係を築くとともに、双方の作戦に対する理解を深めるべきだ。歴史的に見ても、こうした努力の一部、特に危機管理コミュニケーションについては、進展が難しいことは明らかになっている。中国の指導者たちは、危機管理コミュニケーションによってアメリカが恐れを持つことなく行動することを助長しかねず、また現場の軍幹部に権限を委譲しすぎることを恐れている。しかし、中国が力をつけ、軍事改革を進めていることから、こうした懸念は和らいでいるかもしれない。

この領域におけるアメリカの効果的な戦略には、意図しない衝突のリスクを減らすだけでなく、意図的な衝突を抑止することも必要である。北京が領土紛争において、武力による威嚇を利用して既成事実を追求することは許されない。とはいえ、このリスクを管理するためにアメリカ軍がこの地域で優位に立つ必要はない。トランプ政権の元国防総省高官エルブリッジ・コルビーが主張しているように、「支配を伴わない抑止は、たとえ非常に偉大で恐ろしい相手であっても可能」なのである(deterrence without dominance—even against a very great and fearsome opponent—is possible)。

インド太平洋における抑止力を確保するために、ワシントンは、空母のような高価で脆弱なプラットフォームから、莫大な資金を費やすことなく中国の冒険主義を阻止するように設計された、より安価な非対称能力(asymmetric capabilities)へと投資の方向を変えるべきである。これには、北京自身のプレイブックを参考にすることが必要だ。中国が比較的安価な対艦巡航ミサイルや弾道ミサイル(antiship cruise and ballistic missiles)に依存してきたように、アメリカは長距離無人空母艦載攻撃機(long-range unmanned carrier-based strike aircraft)、無人水中ヴィークル(unmanned underwater vehicles)、誘導ミサイル潜水艦(guided missile submarines)、高速攻撃兵器(high-speed strike weapons)を導入すべきである。これらの兵器は全て、攻撃作戦が成功するという中国の自信を失わせ、衝突や誤算のリスクを軽減しながらも、アメリカと同盟諸国の利益を守ることができる。アメリカはまた、東南アジアやインド洋に軍事的プレゼンスを分散させ、必要な場合には恒久的な基地ではなく、アクセス協定を活用すべきである。そうすることで、アメリカ軍の一部を中国の精密打撃複合体(China’s precision-strike complex)の外に置き、危機に迅速に対処する能力を維持することができる。また、人道支援、災害救援、海賊対処任務など、中国との紛争にとどまらない幅広い事態に対処できるよう、アメリカ軍の態勢を整えることもできる。

●互恵性を確立する(ESTABLISHING RECIPROCITY)

軍事力に資源を集中していたソ連とは異なり、中国は地理経済学を主要な競争の場と見なしている。将来を見据え、人工知能、ロボット工学、先端製造業、バイオテクノロジーなどの新興産業や技術に多額の投資を行っている。中国は、欧米企業の相互待遇を否定することで、これらの分野での優位性を追求している。アメリカは中国に恒久的な正常貿易関係を認め、世界貿易機関(WTO)への加盟を支援し、世界で最も開かれた市場の一つを維持してきた。しかし、産業政策、保護主義、そして完全な窃盗の組み合わせを通じて、中国は自国市場にさまざまな公式・非公式の障壁を設け、アメリカの開放性を利用してきた。

この構造的不均衡により、安定した米中経済関係への支持が損なわれており、たとえ習国家主席とドナルド・トランプ大統領が短期通商停戦に合意できたとしても、関係が断絶するリスクが高まることに直面している。アメリカのビジネス界の多くは、知的財産を盗むために国家ハッカーを雇うこと、外国企業に事業の現地化と合弁事業への参加を強制すること、国内の大企業に補助金を与えること、その他外国企業を差別することなど、中国の不公平な行為を容認するつもりはもうない。

アメリカの労働者と技術革新を保護しながら、こうした摩擦の拡大を緩和するには、中国が世界の主要市場に完全にアクセスできるようにすることが必要であり、そのためには、中国が自国の経済改革を進んで採用することが条件となる。ワシントンとしては、アメリカの経済力の核心的な源泉に投資し、志を同じくするパートナーからなる統一戦線を構築して互恵関係の確立を支援し、自業自得を避けながら技術的リーダーシップを守らなければならない。

中国との経済競争において最も決定的な要因は、アメリカの国内政策である。新たな「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」、つまり、ソヴィエト連邦が世界初の人工衛星を打ち上げた時のように、国民の研究を強力に鼓舞するような瞬間、という考え方は大げさかもしれないが、政府はアメリカの経済的・技術的リーダーシップを促進する役割を担っている。しかしアメリカは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した州間高速道路システムや、科学者ヴァネヴァー・ブッシュが推進した基礎研究イニシアティヴなど、まさにその時期に行った野心的な公共投資から目を背けている。ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ。公共投資を飢餓状態に追い込みながら、中国への強硬路線を求めるのは自滅的である。競争を考えれば、こうした投資を「社会主義的」と表現するのは特に皮肉である。実際、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)やマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、共和党)のような奇妙なイデオロギー仲間は、アメリカの新たな産業政策について説得力のある主張を行っている。

このような国内基盤の上に、ワシントンは志を同じくする国々と協力し、国有企業から固有の技術革新政策、デジタル貿易に至るまで、世界貿易機関(WTO)が現在扱っていない問題について、新たな基準を定めるべきである。理想的には、これらの基準はアジアとヨーロッパをつなぐものである。そのためにアメリカは、WTOシステムの上に市場民主政治体制国家のルール設定イニシアティヴを重ねることで、これらのギャップを埋めることを検討すべきである。理屈は簡単だ。中国がこの新しい経済共同体への平等なアクセスを望むのであれば、自国の経済・規制の枠組みも同じ基準を満たさなければならない。この共同体の引力が合わさることで、中国は選択を迫られることになる。フリーライド(ただ乗り)を抑制して貿易ルールに従うか、世界経済の半分以上から不利な条件を受け入れるか、もし北京が、必要な改革は経済体制の変更に相当すると主張するのであれば、そうすることもできるが、世界は中国に互恵的な待遇を提供する権利がある。場合によっては、北京がアメリカの輸出や投資を扱うのと同じように中国の輸出や投資を扱うことで、ワシントンが中国に一方的に相互措置を課す必要があるかもしれない。このような努力は困難でコストがかかるものであり、トランプ政権が中国に対して共通の立場をとるのではなく、アメリカの同盟国と貿易摩擦を起こすという決断を下したのは、まさにアメリカの影響力の無駄遣いである。

アメリカはまた、中国による知的財産の窃盗、的を絞った産業政策(targeted industrial policies)、経済と安全保障分野の混同に直面して、技術的優位性を守らなければならない。そのためには、双方向の技術投資と貿易の流れをある程度制限する必要があるが、こうした努力は全面的に行うのではなく、国家安全保障や人権にとって重要な技術については、制限を課し、そうでないものについては通常の貿易と投資を継続できるようにする、選択的に行うべきである。このような対象を絞った制限であっても、産業界や他国政府との協議のもとで実施されなければならない。これを怠れば、知識や人材の流れを阻害し、世界のテクノロジー・エコシステムをバルカン化させかねない。そのような事態は、中国に対するアメリカの重要な競争上の優位性を無にすることになる。つまり、世界最高の人材を調達し、世界中から最大のブレークスルーを合成することができるオープンな経済ということである。一方、技術規制の行き過ぎは他国を中国に向かわせる可能性がある。特に、中国は既に多くの国にとって最大の貿易相手国である。

この点で、中国企業フアウェイの5Gインフラ開発への参加に対するトランプ政権の大声で一方的なキャンペーンは、警告となるかもしれない。もし、アメリカのトランプ政権が事前に同盟諸国やパートナーと調整し、創造的な政策立案を試みていたら(例えば、フアウェイの機器の代替品の購入に補助金を与える多国間融資イニシアティヴを確立するなど)、他の供給者を検討するよう各州を説得することにもっと成功したかもしれない。そうすれば、フアウェイがアメリカ商務省のアメリカ技術を供給できない事業体のリストに登録されたことを受けて、現在5G展開で直面している2年の遅れを最大限に活用できたかもしれない。テクノロジー分野における中国との貿易を制限する今後の取り組みが成功するには、慎重な検討、事前の計画、多国間支援が必要となる。そうしないと、アメリカの技術革新を損なう危険がある。

●反中国ではなく、親民主政治体制を(PRO-DEMOCRACY, NOT ANTI-CHINA)

米中間の経済・技術競争は、新たな対立モデルの出現を示唆している。しかし、対立する2つのブロックの間に鋭いイデオロギー的分裂があった冷戦時代とは異なり、ここではその境界線はより曖昧である。ワシントンも北京も冷戦に特徴的だったような布教活動をしている訳ではないが、中国がそのシステムを明確に輸出しようとしていないとしても、最終的にはソ連よりも強力なイデオロギー的挑戦をしてくるかもしれない。国際秩序が最も強力な国家を反映するものであるならば、中国が超大国の地位を獲得することは、独裁政治へ他の国々が近づく可能性が出てくる。中国の権威主義的資本主義(authoritarian capitalism)とデジタル監視(digital surveillance)の融合は、マルクス主義よりも耐久性があり、魅力的であることが証明されるかもしれない。独裁者や民主政治の面での後進国への支援は、アメリカの価値観に挑戦し、中国北西部における100万人以上のウイグル族の拘束など、中国自身の残酷な慣行の隠れ蓑を提供するだろう。世界中で民主的な統治が失われていることが、アメリカの利益にとって重要なことなのかどうか疑問に思う人もいるかもしれない。民主的な政府はアメリカの価値観に沿い、良い統治を追求し、国民を大切にし、他の開かれた社会を尊重する傾向がある。

ワシントンは、米中競争の中で点数を稼ぐためではなく、これらの価値観の魅力を高めることに集中することで、政治的な領域で中国と共存するための有利な条件を確立することができる。中国のプレゼンスが世界的に高まるなか、アメリカは冷戦時代にありがちだった、ライヴァル政府との関係だけで第三国を見るという傾向を避けるべきである。トランプ政権の政策の中には、ラテンアメリカでモンロー・ドクトリンを発動したり、アフリカで中国に対抗することを主眼とした演説を行ったりなど、この古いアプローチを反映しているものがある。中国のイニシアティヴに対して、ワシントンが自国を北京との競争における戦場としてしか考えていないと感じられるような、考えなしの対応をするよりも、自国の条件に基づいて国家と意図的に関わるような姿勢の方が、アメリカの利益と価値を高めることができるだろう。

中国の一帯一路構想(China’s Belt and Road Initiative)は、この原則を実際に適用する最も明白な機会を提供する。アメリカとそのパートナー諸国は、あらゆる港湾、橋梁、鉄道路線など、あらゆる場面で中国と戦うのではなく、進歩に最も役立つ質の高い、高水準の投資について各国に積極的に売り込むべきである。反中国だからという理由ではなく、成長促進、持続可能性促進、自由促進という理由で投資を支援することは、特に中国の国家主導の投資が各国である程度の反発を引き起こしているため、長期的にははるかに効果的である。コスト超過、入札なしの契約、汚職、環境悪化、劣悪な労働条件などが原因である。

この観点から、民主政治体制を守る最善の方法は、良い統治に不可欠な価値観、特に透明性(transparency)と説明責任(accountability)を強調し、市民社会(civil society)、独立メディア、情報の自由な流れを支援することである。こうした措置を講じることで、民主主義が後退するリスクを減らし、発展途上国の生活を向上させ、中国の影響力を低下させることができる。このような行動をとるには、アメリカとその同盟諸国やパートナーから多国間資金を注入し、各国に真の選択肢を与える必要がある。しかし、もっと根本的なことも必要である。アメリカは、人的資本と良好なガバナンスへの投資が、中国の搾取的アプローチよりも長期的には良い結果をもたらすという確信に、より大きな自信を持つ必要がある。

また、人間の倫理について難しい問題を提起する新技術の規範を設定するには、スコアよりも原則に焦点を当てることが不可欠である。人工知能からバイオテクノロジー、自律型兵器から遺伝子編集された人間に至るまで、適切な行動を定義し、遅れをとっている国々に一線を画すよう圧力をかけるために、今後数年間は重要な闘いが繰り広げられるだろう。ワシントンは、このような議論のパラメーターを遅滞なく形成し始めるべきである。最後に、中国との共存は、アメリカが、中国国民に対する中国政府による非人道的な扱いや、外国NGO職員の恣意的な拘束に対して声を上げることを妨げるものではないし、また妨げることはできない。北京のウイグル人抑留に対する西側の相対的な沈黙は、道徳的な汚点を残している。したがって、アメリカとそのパートナーは国際的な圧力を動員し、中立的な第三者による抑留者への接見と、抑留に加担している個人や企業への制裁を要求すべきである。中国は、そのような圧力は関係を不安定にすると脅すかもしれない。しかしワシントンは、人権侵害について発言することを、予測可能で日常的な関係の一部とすべきだ。

●競争と協力を守る(SEQUENCING COMPETITION AND COOPERATION)

米中関係の競争が激化するにつれ、協力の余地はなくなることはないにしても、縮小するだろうという考えは、しばしば信仰の対象であると考えられている。しかし、敵国であっても、アメリカとソ連は、宇宙探査、伝染病、環境、地球規模の共有物など、多くの問題で協力する方法を見つけた。現代の課題の性質を考慮すると、アメリカと中国の間の協力の必要性ははるかに深刻である。米中両国の指導者は、このような国境を越えた課題における協力を、一方の当事者の譲歩としてではなく、双方にとって不可欠な必要性として考慮すべきだ。

協力と競争のバランスを適切に保つために、ワシントンはそれぞれの順序を考慮する必要がある。アメリカは歴史的に、まず中国と協力し、次に中国と競争しようとしてきた。一方、中国政府は、第一に競争し、第二に協力することに非常に慣れており、戦略的利益分野におけるアメリカの譲歩に明示的または暗黙的に協力の申し出を結びつけている。

今後、ワシントンは国境を越えた課題に関して熱心な求婚者になることを避けるべきである。熱心さがかえって交渉材料となり、協力の幅を狭めることになりかねない。直感に反するかもしれないが、北京との効果的な協力には競争が不可欠である。多くの中国政府関係者のゼロサム戦略思考では、アメリカのパワーと決意に対する認識は非常に重要であり、中国官僚機構は長い間、両者の変化に注目してきた。このような敏感さを考えると、ワシントンが毅然とした態度で臨み、コストを課すことさえできる能力を示すことは、共通の大義(common cause)を見出すことについて真剣に語ることと同じくらい重要である可能性がある。従って、最善のアプローチは、競争によってリードし、協力の申し出によってフォローし、グローバルな課題に対する中国の支援とアメリカの利益に対する譲歩の間のいかなる関連性の交渉も拒否することであろう。

●二極を超えて(BEYOND THE BILATERAL)

アメリカの政策立案者が念頭に置いておくべき冷戦の教訓がもう1つある。それは、中国との競争におけるアメリカの最大の強みの1つは、他の国々よりも両国に関係しているということである。アメリカの同盟諸国とパートナーの重みを総合すると、あらゆる分野で中国の選択が決まる可能性があるが、それはアメリカがこれら全ての関係を深め、それらを結びつけるよう努めた場合に限られる。米中競争に関する議論の多くは二国間の側面に焦点を当てているが、アメリカは最終的には、アジアとその他の世界の関係と制度の密なネットワークに中国戦略を組み込む必要があるだろう。

これはトランプ政権にとって覚えておきたい教訓だ。これらの永続的な利点を活用する代わりに、関税や軍事基地の支払い要求などにより、アメリカの伝統的な友人の多くを疎外し、主要な制度や協定を放棄または弱体化させてきた。国連や世界銀行から世界貿易機関に至るまで、多くの国際機関はアメリカが設計と主導に協力し、航行の自由、透明性、紛争解決、そして貿易。これらの機関から撤退することで、アメリカの長期的な影響力を犠牲にして短期的な余裕と柔軟性が得られ、中国政府が規範を再構築し、これらの機関内で独自の影響力を拡大することが可能になる。

アメリカは、同盟を削減すべきコストではなく、投資すべき資産と見なす必要がある。有能な同盟諸国からなる独自のネットワークを構築する有意義な能力がない以上、北京はアメリカがこの長期的な優位性を浪費することほど望むことはないだろう。中国との明瞭な共存関係を確立することは、どのような状況下でも困難であるが、支援なしには事実上不可能である。アメリカが抑止力を強化し、より公正で互恵的な貿易システムを確立し、普遍的価値を守り、世界的な課題を解決するには、単独では不可能である。効果的なものにするためには、アメリカのいかなる戦略も同盟諸国とともに始めなければならない。

※カート・M・キャンベル:「ジ・アジア・グループ」会長兼最高経営責任者。2018年から2019年にかけてマケイン研究所キッシンジャー記念研究員を務めている。2009年から2013年にかけて国務次官補(東アジア・太平洋問題担当)を務めた。

※ジェイク・サリヴァン:カーネギー国際平和財団非常勤上級研究員。2013年から2014年にかけて国家安全保障問題担当副大統領補佐官、2011年から2013年にかけて国務省政策企画局局長を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 平成に入ってから、日本では「改革!改革!」の掛け声が響き渡った。これまでの非効率な日本式のやり方ではダメで、アメリカのような国にならねばならない、という論調が席巻した。アメリカやイギリスのような二大政党制になって、重要なことを決めやすい政治を行うべきだということで、小選挙区制と比例代表を並立させる現行の選挙制度(定数などは異なる)を導入した。経済では、市場に任せればうまくいくということで、規制緩和と民営化、雇用の流動化などが進められた。

デフレが進行し、その結果が成長なき平成時代30年となり、日本の中間層は減少し、何より、少子高齢化が促進された。就職氷河期世代、団塊ジュニア世代の被った被害は大きく、彼らが前の世代のように生活でき、結婚し、子供を産み育てていればと思うけれども、もう後の祭りだ。日本のアメリカ化、アメリカ従属化を進めた小泉純一郎と司令塔、実質的には小泉よりも実力者だった竹中平蔵の罪は万死に値する。生まれてくるはずだった日本人を生れまなくし(その数を考えると、虐殺者という言葉さえも使いたくなる)、日本を現状に追い込んだことの罪は万死に値する。

 ジョー・バイデン政権は、発足後、新型コロナ対策を進めながら、もう1つ産業政策を進めようとしてきた。産業政策とは、国家がある産業分野の成長を促し、あるいは産業構造を変化させる政策である。アメリカで言えば、クリーンエネルギー部門の成長を促そうとしているし、自動車産業ではこれまでのガソリン車から電気自動車への転換を促そうとしている(それに不安を持っている自動車産業労働者たちが全米規模でストをしている)。

 こうした産業政策の本家本元は日本である。何度も書いているが、チャルマーズ・ジョンソンが『通産省と日本の奇跡』(1975年)で明らかにした。その政策を最も忠実に行っているが中国である。中国の成功を見れば、産業政策の有効性は確かだ。アメリカも、「中国もやっている、中国に後れを取ってはいけない」ということで産業政策を行っているが、政策実行の効率性では中国には及ばない。

 日本は日本らしい、日本型資本主義(コーポラティズムに近い)で繁栄したが、1980年代からのに米経済摩擦によって、アメリカに骨抜きにされ、破壊された。日本はどこまで行ってもアメリカの属国である。戦争でアメリカに惨敗を喫した敗戦国である。日本に関しては、アメリカはコントロールすることができる。しかし、中国はそういう訳にはいかない。

 残念なのは、日本はアメリカの属国として、本格的にアメリカされてしまって、経済は衰退し、もはやそれを取り戻すことは困難である。後は、これまでの資産を食いつぶしながら、衰退のスピードにブレーキをかけながら、ヨーロッパの元世界帝国(スペインやオランダなど)のようになっていくしかない。しかし、より懸念されるのは更に衰退していくことだ。日本人が出稼ぎに行き、東アジア、東南アジアの国々から、「日本の労働力は安くて優秀だ」ということで生産拠点づくりをされることだ。それはそれでありがたいことだが、数十年前に日本が東南アジアでやったことをやられるというのは、「因果は巡る糸車」ということになる。しかし、その頃には日本の労働可能人口は減っていて、日本は魅力的な投資先ではなくなっているかもしれない。どこまで行っても先行き暗い話になってしまう。

(貼り付けはじめ)

日本経済は新自由主義経済学が失敗だったことを証明しているのか?(Does Japan’s Economy Prove That Neoliberalism Lost?)

-ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)が躓(つまづ)いている中で、経済学者たちは東アジアの「奇跡(miracle)」について考え直している。

マイケル・ハーシュ筆

2023年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/14/japan-economy-neoliberalism-east-asia-washington-consensus-imf/?tpcc=recirc_trending062921

日本は上昇している一方で、中国は下降し、日本と同様のデフレーション(Japan-like deflation)に陥る危機に直面している。アメリカは日本型の保護主義と産業政策(Japanese-style protectionism and industrial policy)を実践しているが、日本はかつてワシントンが促進していた、より新しく、より開かれた貿易ルールを支持している。

これらの潮流は、ソヴィエト共産主義(Soviet communism)の崩壊により政府主導の経済成長(government-directed economic growth)という考え方全体の信用が失墜したように見えた冷戦終結以来、私たちが慣れ親しんできた新自由主義的な主張の事実上の逆転を示している。その後、1990年代初頭に日本のバブル経済が崩壊し、東アジアの「奇跡(miracle)」の発祥である日本の、長期にわたるゆっくりとした高齢化が始まった。しかし、経済学の専門家たちは、グローバライゼーション(globalization)のこの長く奇妙な旅が始まって以来、非常に多くの悪い判断をしてきたため、事態の進展についていくことができていない。それは、主流派経済学者の多くが、自由市場原理主義(free-market fundamentalism)のモデルである「ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)」が、いくつかの側面で壊滅的に失敗したことを、いまだに認めることができないからだ。

EU離脱がイギリスにとって災難であることが判明し、アメリカは悪化の一途をたどる不平等に苦悩している一方で、日本は、史上まれに見る戦後の歴史の新たな章に入ったのかもしれない。2023年第2四半期の年率5%近い成長や、物価と賃金の若干の上昇など、新たな活況を享受している。日本政府が年次白書で述べているように、これらの指標は「経済が25年にわたるデフレとの戦いの転換点に達しつつあることを示唆している」ということだ。日本はまた、アメリカ人がうらやむほど社会的に安定している。なぜなら、アメリカは悩ませているような巨大な所得格差(huge income inequality)の問題に悩まされていないからだ。もちろん、日本は民族的多様性は大きくない。日本は完璧なモデルとは言えず、たとえば女性の権利を認める点ではまだ遅れているが、人間開発指数は富裕国の中で上昇している。経済史家のアダム・トゥーズは、平等、平均余命、あるいは2.7パーセントという驚異的な失業率で測っても、日本は今日、「世界で最も裕福で最も成功した社会の最上位に位置しており、現在その位置にいる期間がアメリカよりも7年半長い」と述べている。

市場の動きに敏感な政府による産業支援(market-sensitive government industrial support)という日本や東アジアの「中間の道(middle way)」を長い間唱えてきた他の経済学者たちも同意している。ノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツは、「日本の四半世紀の経済成長率を高く評価することはできないが、多くの人々を置き去りにしなかったこと(not leaving as many people behind)は評価できる。日本が持っていた大きな利点は、停滞期(malaise)に入る前に、はるかに平等主義的な国家(egalitarian state)を実現していたことだ」と述べている。あるいは、国際通貨基金(IMF)のエコノミスト、フアド・ハサノフとレダ・チェリフが最近の論文で結論づけているように、アジアの奇跡の経済モデル[Asian miracles’ economic models](主に香港、韓国、シンガポール、台湾で使われているもの)は、「ほとんどの先進国のそれよりもはるかに低い市場所得不平等をもたらした」ということだ。

東アジアはどうやったのか? 輸出競争力(export competitiveness)を重視し、補助金を受けている企業(subsidized firms)にもグローバル市場での競争を強いることで、これらの国々は中産階級(middle class)のために良い雇用を創出し、ラテンアメリカからアフリカに至るまで、過去の悪しき産業政策の特徴であった失敗した「輸入代替」政策(“import substitution” policies)の落とし穴を回避した。そのうえで、累進課税制度(progressive tax systems)を導入した。

対照的に、中国の景気減速の原因の一つは、独裁的な指導者である習近平が経済の市場部分を厳しく取り締まり過ぎ、1970年代後半に始まった政府対市場コントロールの微妙な均衡(balance of government-vs.-market control)を乱したことにあるという意見もある。スティグリッツは、「習近平は、政府の使える手段を微妙に、あるいは市場の枠組みの中で使う方法を知らないようだ」と述べている。

それは、東アジア型の市場介入(East Asian-style market intervention)を主張する人々との政策論争では、つい最近までワシントン・コンセンサスが圧倒していたからだ。日本や他の東アジア諸国が実践してきたような「産業政策(industrial policy)」は有害であり、特にアメリカでは、目立たない形で実践されるしかなかった。ワシントンの民主、共和両党の主張により、資本移動(capital flows)は世界中で無頓着に解き放たれ、市場障壁(market barriers)は撤廃された。1990年代後半にアジア金融危機が起こると、新自由主義者たちは当初、腐敗した縁故資本主義(corrupt crony capitalism)と政府の過剰な干渉(heavy government interference)が原因だとして、正当性を主張した。しかし、2008年の大暴落でウォール街が沈没し、アメリカの金融システム全体が崩壊した後、この危機が実際にはグローバル資本主義と新自由主義の行き過ぎによるものであることが明らかになった。アメリカとアジアの両方の問題は政府の強権(heavy hand of government)ではなく、むしろその逆だった。それは、まったく規制されていない資本の流れと金融市場、そして言うまでもなく、アメリカのウォール街とキャピタルゲイン獲得者を優遇する逆進的な税制政策(regressive tax

日本の榊原英資元財務・国際担当副大臣は、当時私に次のように語っていた。「世界の資本市場にかなりの程度責任がある。いわゆるアジア危機を見ると、根本的な原因はマレーシア、タイ、韓国、中国への巨大な資本流入にある。そして突然、それらの国々から資本が流出した。借り手は無謀な借金をし、貸し手は無謀な融資をした。日本の銀行だけではない。アメリカの銀行もヨーロッパの銀行も同様だ」。榊原が正しかったことが証明された。そして、似たようなことが、いや、もっと悪い出来事が、約10年後にアメリカ経済を襲ったのだ。

それ以上に、この30年の間に、中国が貿易ルールにほとんど注意を払わず、産業スパイ(industrial espionage)、投資コントロール、為替操作(currency manipulation)、知的財産の窃盗(intellectual property theft)などの組織的な違反を展開していたことも明らかだった。同じ時期、アメリカは、自国のハイテクの優位性が自動的に中産階級の新たな製造業の時代につながると考えていたが、それは大きな間違いだった。海外に流出したのはアメリカの資本だけではなかった。1990年代半ばまでには、シリコンヴァレー式の新興企業では経済が大きく発展しないことは明らかだった。

新自由主義はそれ以来瀕死の状態にあり、ドナルド・トランプとジョー・バイデンが新自由主義に対して死に至るような打撃を与えた。おそらく最も重大な失敗は、純粋に経済的なものではなく、社会的、政治的なものだった。アメリカだけでなく、イギリスなど他の西側主要経済大国でも、新自由主義的思考へのほとんど宗教的な傾倒によってもたらされた不平等の深刻化が、右派と左派に衝撃的な社会的不安定とポピュリズムを生み出していることが明らかになった。トランプとボリス・ジョンソン元英国首相は、戦後の世界経済システムを築いた2つの民主政体国家を反グローバリズムの内向き連合国(anti-globalist, inward-looking confederacies)に変えた。トランプは貿易戦争の開始と世界貿易機関(World Trade Organization、WTO)の機能不全に怒りの矛先を向け、ジョンソンはヨーロッパ連合(European Union 、EU)から離脱した。なぜこのような混乱に陥ってしまったのだろうか? 少し歴史を振り返ってみよう。

これまでずっと世界の舞台で繰り広げられてきたことは、経済発展に対するこれまでにないアプローチの歴史的な試練に他ならず、また社会の安定に対する前例のない試練でもあった。

約30年前、ビル・クリントン米大統領がソ連崩壊の勝利主義的余波の中で大統領に就任し、彼のようなかつて進歩的だった民主党員でさえも、市場とグローバライゼーションが解決策であると決断した時に新自由主義的経済政策が始まった。政府が指令を下す経済(command economies)は完全に信用されなくなった。アメリカの大きな政府も同様だった。そして発展途上国では、政府の介入、いわゆる輸入代替、つまり国内産業の支援と外国に対する貿易障壁の閉鎖は、特にアフリカとラテンアメリカでは、腐敗と貧困の蔓延(corruption and endemic poverty)を招き、悲惨な失敗となった。

しかし、東アジアには奇妙な異端児がいた。東アジアの「虎たち(Tigers)」は、戦後の管理経済の覇者である日本に触発され、元素の火で遊ぶ悪魔のように市場原理に手を加え、大成功を収めた。その頃、世界銀行の白鳥正樹専務理事は、東アジアの類まれな成功、つまり政府による巧みな市場促進を組み合わせたユニークで巧妙な成功について研究するよう熱心に働きかけていた。

世界銀行(World Bank)は350ページにも及ぶ長大な報告書を作成し、「市場に親和性のある国家介入(market-friendly state intervention)」は時に有効かもしれないと躊躇しながらも結論づけた。しかし、その結論はあまりにも保険をかけている内容で、インパクトはほとんどなかった。特にアメリカ市場がすでに攻撃を受けていると見られ、クリントンが「雇用、雇用、雇用」と説いていたときにはなおさらだ。また、アメリカの政策立案者たちは、ロシアのような国々が、政府が指令を下す経済から抜け出すために中途半端な改革しかできない言い訳を見つけることを望まなかった。

主流派の経済学者たちは、東アジアに有力な代替案があるという考えに対し、大鉈を振るった。ポール・クルーグマンは、1994年の『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した記事「アジアの奇跡の神話(The Myth of Asia’s Miracle)」の中で、国内の産業に資本をつぎ込んでも「収穫逓増(diminishing returns)」をもたらすだけだと主張し、アジアをソ連と比較して、「ソヴィエト帝国の経済実績がかつてどれほど印象的で恐ろしいものであったかを人々は忘れている」と述べた。クルーグマンは特に、経済学者のアルウィン・ヤングとローレンス・ラウの研究を引用し、東アジアの「全要素生産性(total factor productivity)」の数字が示すように、東アジアの経済成長は効率性の改善(improved efficiency)ではなく、労働力の急激な増加などの「投入」(“inputs” such as rapid labor force increases)によるものだと主張した。ヤングは1993年、『インスティテュートナル・インヴェスター』誌のインタヴュー記事の中で、東アジアの経済成長は「ステロイドを使った経済成長(economic growth on steroids)」にすぎないと語り、「見た目は立派だが、中身は腐っている(You look impressive, but inside you’re rotting)」と述べた。

ヤングや他の経済学者たちは、その証拠として日本の低経済成長期を指摘したが、東アジア経済モデルの超長期的な時間軸、つまり、これらの国々が後に生産性と効率性を向上させるための制度的基礎を築いていたという事実を考慮していなかったそしてその間ずっと、新自由主義は、アメリカ資本の外国への流出と、より安価な労働力によってゆっくりと損なわれつつあった。クリントンとその擁護者たちが見落としていたのは、「資本が国際的に流動し、その所有者や経営者が本拠地を含む特定の国民経済に長期投資することにあまり興味を示さなくなっている」ということだった。世界銀行エコノミスト(当時)のロバート・ウェイドは、当時そう主張した。彼は主流派と考えを変えた人物だった。

もちろん、ウェイドたちは無視された。新自由主義の歴史的潮流はあまりに強力で、日本人は自分たちの意見を主張することに対してあまりにおとなしすぎた。日本は相変わらず、「日本の経済的成功から普遍的な理論を形成する(forming universal theories from the economic success of Japan)」ことが苦手な国だった。この国の伝説的な官僚の一人だった天谷直弘は、私が日本に住んでいた1992年に私に次のように語った。それは実用主義の文化ということだ。日本人には独自のケインズやマルクスがいなかった。そして率直に言って、機敏なテクノクラート階級と儒教(Confucian)の奉仕の伝統を持つ東アジアの官僚ほど賢明な官僚はほとんど存在しなかった。例えば、ネルー式の社会主義で成長したインドは、誰かが事業を始めようとするたびに官僚的なもつれを伴う「ライセンス統治(license raj)」の下で何十年も苦しんできた。

しかし、この長年定着してきた経済の「知恵」の多くが今、ひび割れつつある――それは、新自由主義資本主義が地球上で猛威を振るう間に促進してきた氷河の融解と同じだ。シェリフとハサノフが『名前を明かさない政策の復活』で書いているように、「50年間の発展を総括すると、相対的または絶対的貧困から先進経済の地位に到達した国はわずか数か国だけであった」。政府は大きな変化をもたらすことができないという考え。東アジアはそれが可能であることを証明したが、「最近まで、アジアの奇跡の経験は、少なくとも標準的な開発経済学の観点からは、模倣できないし、模倣すべきではない『偶然』と考えられてきた。」

Yet much of this long-entrenched economic “wisdom” is now cracking—much like the melting glaciers that neoliberal capitalism, during its rampage across the planet, has helped to promote. As Cherif and Hasanov write in “The Return of the Policy That Shall Not Be Named”: “Our summary of 50 years of development showed that only a few countries made it from relative or absolute poverty to advanced economy status,” giving rise to the idea that government can’t make much of a difference. East Asia proved that it could, but “until recently, the experiences of the Asian miracles have been mostly considered as ‘accidents’ that cannot and should not be emulated, at least from the point of view of standard development economics.”

それはもはや事実ではない。良くも悪くも、新しい世界経済のコンセンサスが生まれつつある。ジョン・メイナード・ケインズが『雇用・利子・貨幣の一般理論(The General Theory of Employment, Interest, and Money)』の序文で次のように書いている。「困難は、新しい考えにあるのではなく、古い考えから抜け出すことにある」。

経済学の新たな見方は、2つの関連する要因によって推進されている。1つは、グローバライゼーションとテクノロジーの進歩の世界中への広がりによって打撃を受けている西側中産階級の怒りであり、もう1つは中国の台頭である。冷戦後の極端な楽観的な夢から集団として目覚めたかのように、アメリカの政治に関心を持つ人々は、数年のうちに、両政党を超えて、レーガン時代の自由市場の考え方を捨て去り、冷戦初期の考え方を再び受け入れた。特に中国の脅威は、長い間埋もれていた当時の産業政策がいかに成功したかという記憶を呼び覚ました。

東アジア研究の原点の一つである『市場を統治する(Governing the Market)』の著者であるウェイドが指摘しているように、アメリカが現在も世界で最も革新的な経済大国であるのは、密かに進められてきた産業政策によるところが少なくない。国防高等研究計画局(The Defense Advanced Research Projects Agency)、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)、その他いくつかの連邦政府機関は、「汎用技術(general purpose technologies)」においてアメリカが画期的な進歩を遂げるのを支援してきた。なかでも、全米科学財団(the National Science Foundation)はグーグルの検索エンジンを支えるアルゴリズムに資金を提供し、アップルへの初期の資金提供は中小企業技術革新研究プログラム(the Small Business Innovation Research program)からもたらされた。経済学者マリアナ・マズカートは、2013年に出版された著書『起業家的国家:公的部門対民間部門対立という神話を覆す(The Entrepreneurial State: Debunking Public vs. Private Sector Myths)』の中で、iPhoneを「スマート」にしているテクノロジーは、インターネット、ワイヤレスネットワーク、全地球測位システム、マイクロエレクトロニクス、タッチスクリーンディスプレイ、音声認識パーソナルアシスタントSIRIなど、全て国家が資金を提供しているものだと指摘している。

従って、少なくとも政策立案者たちの間では、経済学的に言えば、新しい常識が戸棚から出てきた。ダートマス大学の経済学者で、ピーターソン国際経済研究所の非常勤シニアフェローであるダグラス・アーウィンは、「政府補助金と貿易制限によって特定の国の産業を発展させるという、新しいワシントン・北京・ブリュッセル・コンセンサスが出現していると述べている。また、ワシントン・コンセンサスの代わりに、私たちは「ワシントン・コンステレーション(Washington Constellation)」と呼ばれる、多くの異質な経済成長理論コンセプトの集合体の台頭を目の当たりにしている、とも述べている。

しかし、経済学の専門家たち自身は、新自由主義的な信念を捨てるべきかどうか、まだ確信が持てないでいる。オックスフォード大学の若手経済学者で、韓国の重工業への国家投資の成功を新古典派経済学で説明した画期的な論文を書いたネイサン・レインは次のように語っている。「今起こっているのは非常に不快なことだ。過去数十年で経済学が経験的な方向に転換した。ワシントン・コンセンサスにイデオロギー的に結びついていない私のような人々は、『我々はただの経験主義者だ(We’re just empiricists)。これを調べてみよう』と言っていた。人々は、『そんなことはやめなさい』と言った。人々は、それがうまくいくかどうかという質問をするだけでも、敏感に反応する」。

かつてワシントン・コンセンサスの顔であり代弁者であったIMFでは、過去数十年間、産業政策の受け入れは苦しい戦いであった。だからこそ、ハサノフとチェリフは2019年、ワーキングペーパーに、「名前を言ってはいけない政策の復活(The Return of the Policy That Shall Not Be Named")」という中身のはっきりしないとしたタイトルをつけざるを得なかった。その1年後、彼らはさらに上位の部門から論文「産業政策の原則(The Principles of Industrial Policy)」を発表した。しかし、IMFはこの6月にアーウィンによる反論を発表した。

アーウィンは次のように書いている。「産業政策をめぐる議論は長い間膠着状態(stalemate)にあった。産業政策は生産性の向上と構造改革(structural transformation)に不可欠であるという意見もあれば、腐敗を助長し非効率を助長する(abetting corruption and fostering inefficiency)という意見もある」。アーウィンは、何世代にもわたる新自由主義的な考え方に共鳴し、「定量的モデル(quantitative models)は、最適に設計された産業政策から得られる利益は小さく、変革をもたらす可能性は低いことを示唆している」と結論づけた。

しかし、ここ数年の新たな実証データは、数十年前からの東アジアの産業政策投資の多くが大きな成果を上げていることを示している。プリンストン大学のアーネスト・リューのような若い経済学者たちは、市場の歪みに関する新たな尺度がまさにそれを提供できることを示すことで、産業政策に対する古い偏見の一部の間違いを暴いていると主張している。古い偏見とは、「適切なセクターを支援対象にするために必要な信頼できる情報が不足している」というものだ。

バイデン政権は産業政策を全面的に採用しているが、産業政策と言う言葉の代わりに「産業戦略(industrial strategy)」という言葉を使っている。ギタ・ゴピナスIMF第一副専務理事が今月初めの講演で述べたように、IMFのアドヴァイスは「慎重に行動すること(to tread carefully)」である。歴史には、コストがかかるだけでなく、よりダイナミックで効率的な企業の出現を妨げたIP(産業政策)の例が数多くある。

産業政策の成功が、今日の世界で台湾ほど大きな役割を果たしているところはない。アメリカと中国が国家としての台湾の将来をめぐって争う中、台湾が地政学的にこれほどホットな問題になっている理由の一つは、世界のチップの60%以上を生産するという驚異的な世界一の半導体産業の存在である。1987年に設立された台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company、TSMC)は、最初の資金調達の少なくとも半分を政府から受け、その後数十年にわたって先進的なチップのトップメーカーとなった。韓国では、世界銀行が鉄鋼総合企業の設立は韓国の比較優位(comparative advantage)にないと助言したことがある。しかし、ポスコ(旧浦項製鉄、Pohang Iron and Steel Company)は「かなり早く、世界で最も効率的な製鉄所になった」とウェイドは述べている。

つまり、かつてタブー視されていた政府主導の産業補助金、半閉鎖市場(semi-closed markets)、台湾のような経済ナショナリズムが、各方面で受け入れられつつあると結論づけざるを得ない。これらの各要素を取り上げた、経済学者のレカ・ジュハシュ、ネイサン・レイン、ダニ・ロドリックの3人による論文「産業政策の新しい経済学(The New Economics of Industrial Policy)」は、主流派の『アニュアル・レヴュー・オブ・エコノミクス』誌から来年初めに出版される予定である。レインによれば、バイデンの経済諮問委員会の委員長であり、進歩的経済学者としてのキャリアの長いジャレド・バーンスタインは、共著者たちを今月末に同諮問委員会で講演するよう招待したということだ。

過去2年半で、バイデンは、国家経済会議前委員長ブライアン・ディーズが、主に「4つの基本法」を構成要素とする「現代アメリカの産業戦略(modern American industrial strategy)」と呼ぶ政策を策定した。4つの基本法とは、経済を瀬戸際からの回復させたアメリカ救済法、そして最近成立した超党派のインフラ協定、CHIPSと科学法、そしてインフレ抑制法(この法律の下でワシントンは低炭素技術に補助金を出し、自国製の技術的リーダーシップを優先している)である。

ディースに寄ればこれが意味するのは、政府は「個人の収益だけを考えている人々の個別の決定が主要分野で私たちを後追いすることを運命として受け入れる」のではなく、「それらの分野での長期的な戦略的投資を計画している」ということである。それは今後数十年間の、「我が国の経済成長の根幹を形成するものであり、我が国の生産能力を拡大する必要がある分野だ」とディースは述べている。初期段階では有望な成果がいくつかある。アメリカの製造業の雇用は2000年代初頭以来の最高水準に達し、ホワイトハウスは6月、バイデン政権下で製造業の新規雇用が80万人近く創出されたと自画自賛した。また、バイデンが大統領に就任して以降、民間部門は、製造業とクリーンエネルギーへの投資を4800億ドル以上行ったと発表した。

重要な要素は次の通りだ。政府がスタートから主導する高度な産業セクターの構築(building sophisticated industrial sectors with government seeding)、輸出志向(export orientation)、競争(competition)、受けた支援に対する説明責任(accountability for the support received)。この政策はまだ完全には明確になっていないが、バイデン政権はアジアの奇跡の成功の重要な原則のいくつかを模倣しようとしていると同時に、新自由主義の欠陥も認識しようとしている。

元世界銀行エコノミストのナンシー・バードソールは、教育、再訓練、その他の大規模な投資について言及し、次のように語った。「新自由主義が不平等を生み出すのであれば、政府が敗者に補償する必要がある。しかし、アメリカではそんなことは起こらなかった。政府は、過去20年間にアメリカに雇用が移動したチャイナ・ショックへの対処には及ばない、ある種の内容の薄い小さなプログラムを考案しただけだった」。

ピーターソン研究所所長のアダム・ポーゼンは、『フォーリン・ポリシー』誌に発表した最近の論稿において、産業政策は時には役立つものの、産業政策が採用する「ゼロサム」経済学は、「4つの大きな分析上の誤謬」に基づいて必ず裏目に出ると主張した。ポーゼンは「自己取引(self-dealing)は賢い方法である(訳者註:自己取引とは、弁護士、管財人、会社役員、その他の受託者が、取引においてその立場を利用し、信託の受益者、会社の株主、または顧客の利益ではなく、自分自身の利益のために行動すること)。自給自足(self-sufficiency)は達成可能だ。補助金(subsidies)は多ければ多いほど良いということ。そして重要なのは国内生産(local production )だ」と述べている。

ディースは、産業政策に対するこうした一般的な新自由主義的な反対意見に対処しようとしている。バイデン政権は勝者を選び出して、民間投資を締め出しているのではなく、むしろ、「公共投資を利用して、より多くの民間投資を呼び寄せ、企業の累積的な利益を確保しようとしている」と主張した。ディースは「この投資により国家収益が強化される」と述べている。これは、ディースが「文字通り民間投資の基礎を築く」交通インフラを意味する。政府資金による技術革新が行われ、また政府は全国の学校や大学における STEM 教育とトレーニングに投資している。ディースは、冷戦時代の栄光の時代を思い出しながら、バイデンは「ジョン・F・ケネディ大統領時代に人類を月に連れて行ったアポロ計画よりも多額の投資を技術革新に対して行っている」と述べている。

産業政策のもう1つの主要分野はクリーンエネルギーだとディースは語った。ディースは次のように語っている。「気候危機は市場の力だけでは対処できないことを私たちは知っている。私たちは、公的リーダーシップと投資が解決の鍵であることを知っている。それでも何十年もの間、我が国は傍観し続けてきた。しかし現在、我が国の産業戦略により、“民間部門による大規模な投資を奨励する”ために、クリーンエネルギーへの国家史上最大規模の投資を行っている」。

しかし、新しい政策スキームには依然として一貫性のない部分が残っている。バイデン大統領の計画におけるそのような分野の1つは、トランプ大統領が策定した関税の受け入れである。ハサノフのような経済学者たちは、競争を維持するために世界中に活発な輸出市場が存在する場合、東アジアモデルははるかにうまく機能すると述べている。

こうした矛盾は部分的には、「主流派が依然として、他の“良い”投資を締め出すという偽りの議論を考え出していることが原因」だとスティグリッツは述べている。「恥ずかしい話だ。アメリカは理性を失い、自分を抑えられなくなっている(all over the place)。共和党には、市場が中国と競争できないこと以外に、産業政策の役割について考えるための一貫した枠組みがない。民主党は、ジョー・マンチン連邦上院議員の政治的な動きのせいで、必要とされる一貫したアプローチを考えることができない。産業政策は私たちが議会を通じて得られるものの全てだ」とスティグリッツは述べた。

今日、皮肉なことに、日本はワシントンがそうしていない中で、自由貿易の旗を掲げる国の1つとなっている。トランプ政権時代、日本政府はトランプが離脱を決めた後の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の復活に貢献し、後継となる環太平洋パートナーシップに関する包括的かつ先進的な協定の再交渉にカナダなど他の加盟国と協力した。 2019年のインタヴューで、当時のカナダ国際貿易大臣ジェームズ・カーは、「ルールに基づいた多国間貿易システムと公正な貿易に対する日本の立場、態度、支持は模範的であり、非常に重要だった」と私に語った。今年、日本は多国間暫定控訴仲裁取り決めに参加することでWTOを救済しようと努めた。この取り決めは、加盟国間でWTO紛争を解決できるようにすることで、WTOの上級委員会に相当する多国間枠組みを作ろうとするものだ。

ヨーロッパ連合も産業政策を採用している。グリーンディール産業計画とネットゼロ産業法を策定している。これは、加盟国に対して、民間投資家たちを促して、IRAの下で利用可能な外国補助金と同等の補助金を提供するためのより大きな柔軟性を与えることで、バイデン政権のIRAを模倣している。また、ヨーロッパ委員会は最近、ヨーロッパ経済の様々な分野にわたる重要な原材料の特定とアクセスの確保を支援するために、ヨーロッパ重要原材料法を制定し、人工知能とデジタル技術における複数の取り組みを主導している。現在、躍進しているのは政策立案者たちであり、経済学者たちは後れを取っている。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本大攻勢:ワシントンの賢人たちはいかにしてアメリカの将来をウォール街に売り渡したか(Capital Offense: How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall Street)』と『自分たちとの戦争:なぜアメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか』の2冊の著作がある。ツイッターアカウント:@michaelphirsh

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 米中両国の貿易戦争という言葉は、ドナルド・トランプ大統領時代から使われている。お互いの輸出入に対して高関税をかけるということをやり合った。今回ご紹介するのは、米中経済戦争(economic war)についての記事だ。経済戦争とは、多くの産業分野で、敵対国に勝つ、市場のシェアを奪い、技術で優位に立つために戦いを仕掛けるということだ。現在、米中間では経済戦争が起きており、中国側が有利だというのが下の記事の筆者の分析だ。中国は経済戦争に勝つために、産業政策(Industrial Policy)を実施し、成功している。産業政策の本家本元は日本である。産業政策を世に知らしめたのは故チャルマーズ・ジョンソンの著書『通産省と日本の奇跡』である。日本はアメリカの属国であったため、日米間の戦いは、最初からアメリカの勝利と決まっていたが、中国は大胆に勝負を仕掛け、状況を有利に動かしている。

以下の記事で重要なのは、次の記述だ。

(貼り付けはじめ)

中国はアメリカの技術や産業能力に対して大規模な正面攻撃を仕掛けてきている。2006年に発表された「科学技術発展のための国家中・長期計画(National Medium- and Long-Term Plan for the Development of Science and Technology)」は、この対立における最初の攻撃と考えることができ、2015年には習近平の「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025、中国製造2025)」戦略がそれに続く。どちらも中国が自給自足(self-sufficiency)を目指す重要技術を特定し、主要産業における外国企業の市場参入制限、広範な知的財産の盗用、技術移転の強制、中国企業への巨額の補助金などを背景としている。後者の文書では、主要産業における中国の市場占有率の数値目標も追加された。
=====
 しかし、通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能など、中国の国内先端産業の育成に用いられる巨額の補助金やその他の不公正な慣行は、比較優位とは無関係だ。自国企業を強化し、外国企業の競争力を削ぐという、産業分野における破壊的侵略(industrial predation)による支配欲が反映されているのである。1995年から2018年にかけて、中国とアメリカが先進産業で占める世界生産のそれぞれのシェアの変化には強い負の相関があるのはこのためだ。言い換えると、アメリカがシェアを失った産業で、中国がシェアを獲得したということだ。
=====

アメリカの産業戦略が首尾一貫していない主な理由の一つは、戦略を策定し、全ての政府機関がそれに沿うようにすることを仕事とする主体が存在しないことである。このような戦略は、中央集権化され(centralized)、大統領の権限に裏打ちされたものでなければならない。そして適切な資金を提供する必要がある。共和制の擁護者が軍事防衛予算の増額を求めるのは当然だが、アメリカは経済防衛予算の増額も必要としている。

(貼り付け終わり)

 簡単に言うならば、中国は特定の産業分野に資源、資金、人材を集中させるための産業政策を実行した。その分野とは、「通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能」といった最先端産業である。これらの産業分野でアメリカに勝つために、官民協調、一丸となって戦う、そのために政府は目標を設定し、それに誘導するために関税や補助金などを利用するという、「産業政策」を実施している。そして、それが成功しつつある。

中国は、電気自動車やスマートフォンの分野で国産化に成功し、市場シェアを拡大させている。「国産化」が重要なのは、重要な部品を外国に頼っている場合、経済制裁などが行われると、その製品が作れなくなるが、国産化はその危険を回避できるということになる。米中間に当てはめると、スマートフォンの重要なチップをアメリカ製に頼っていては、中国は経済制裁などの不安を抱えたままになる。また、アメリカはチップの供給を止めることができるという優位な立場に立つ。しかし、中国が国産化に成功すれば、アメリカはその優位を失う。これは経済戦争において重要な要素となる。

バイデン政権は遅ればせながら、産業政策を実施しようとしている。しかし、状況を好転させるのはなかなかに難しい。

(貼り付けはじめ)

米中経済戦争を如何にして勝つか(How to Win the U.S.-China Economic War)

-最初のステップは経済戦争をきちんと定義することだ

ロバート・D・アトキンソン筆

2022年11月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/08/us-china-economic-war-trade-industry-innovation-production-competition-biden/?tpcc=recirc062921

中国が単なる軍事的敵対者ではなく、経済的敵対者であることが、アメリカに明らかになりつつある。中国が先端産業において得た経済的利益の多くは、アメリカが失ったものであり、その逆もまた然りで、両国は技術革新と生産能力の両方において優位性を求めて争っている。この傾向は今後も続くと思われる。中国の習近平国家主席は昨年(2021年)、「技術革新が世界の主戦場となり、技術優位の競争はかつてないほど激しくなるだろう」と述べ、このことを認めている。

経済戦争(economic war)は、経済競争(economic competition)とは別物だ。例えば、カナダとアメリカは経済的に競争しているが、両国とも貿易は互いに有益な比較優位(comparative advantage)に基づいて行われることを理解している。これとは対照的に、中国はアメリカの技術や産業能力に対して大規模な正面攻撃を仕掛けてきている。2006年に発表された「科学技術発展のための国家中・長期計画(National Medium- and Long-Term Plan for the Development of Science and Technology)」は、この対立における最初の攻撃と考えることができ、2015年には習近平の「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025、中国製造2025)」戦略がそれに続く。どちらも中国が自給自足(self-sufficiency)を目指す重要技術を特定し、主要産業における外国企業の市場参入制限、広範な知的財産の盗用、技術移転の強制、中国企業への巨額の補助金などを背景としている。後者の文書では、主要産業における中国の市場占有率の数値目標も追加された。

経済戦争は前例がないということではない。1900年から1945年まで、ドイツは様々な不公正な貿易慣行を用いて世界的に経済的、政治的な力を獲得し、最終的には軍事力のために利用した。しかし、北京は経済戦争を別の次元に引き上げた。中国の長年にわたる、そして増大する攻撃は、競争相手を潰し、アメリカを経済的な属国(economic vassal state)とすることを目的としている。

ドナルド・トランプ前米大統領の貿易戦争は、アメリカの産業・技術力に対する中国の長年の攻撃に対する反応であった(不十分な表現ではあったが)。当時、ワシントンの専門家たちの多くは、アメリカが本格的な経済戦争に突入したという認識ではなく、トランプの保護主義的な傾向によるものと考えていた。中国の経済侵略の意図と程度が広く理解されるようになったのは、ここ数年のことだ。ジョー・バイデン米大統領が中国への先端チップや半導体装置の輸出を新たに禁止したのは、バイデンと政権内の一部の人々がそれに気づいた証拠だ。

バイデンの禁止令にもかかわらず、アメリカは中国との長期的な経済戦争への備えがほとんどないままである。北京の技術革新重商主義施策(innovation-mercantilist practices)は、世界貿易機関(World Trade Organization、WTO)が違法と見なす戦術を用いて、先端産業の生産高の大きなシェアを獲得しようとするもので、他国の産業政策(industrial policies)をはるかに超えるものである。それを無視して、中国が軌道修正すると信じたり、アメリカの多くの政策立案者たちのように、中国は民主的で自由な市場でない、あるいは高齢化が進んでいるため成功できないと思い込んだりするのは、砂の中に頭を突っ込んで最善の結果を望むのと同じことだ。賭け金は大きい。戦争に勝てば、国内の賃金や競争力を高め、経済や国家の安全保障を向上させることができる。しかし、負ければその反対となる。

アメリカの国家安全保障分野のエリートたちは、軍事戦争に対する計画を真剣に捉えている。戦争ゲームの演習や米国防総省の支援に多大な資源を費やしている。戦闘を研究するために、数多くの戦争専門大学を設立している。戦争のあらゆる側面について助言するために、数え切れないほどのコンサルタントたちを雇っている。過去の紛争から学ぶために歴史学者を雇う。そして、連邦政府内の各機関と連携する。このような動きをしている。

このようなシステムは、経済戦争にはほとんど存在しない。計画もない。評価もない。戦略もない。経済安全保障システムもない。せいぜい、個々のプログラムやイニシアチヴがあるだけで、政府全体の戦略やシステムを構成することはできない。台湾への侵攻がないこともあり、ワシントンを眠りから覚ますような、中国の大規模な経済攻撃はないだろうと人々は考えている。

ワシントンの政界関係者のほとんどは、少なくともまだ、北京との経済関係を勝ち負けで考えてはいない。政策立案者たちは、外国の敵がアメリカの国家安全保障上の重要な利益を攻撃する可能性があることは理解しているが、アメリカの経済上の重要な利益に関しても同じことが言えるということはあまり認めたくないようだ。実際、経済アドバイザーのほとんどは、貿易が相互に利益をもたらすという比較優位(comparative advantage)の概念をいまだに提唱している。例えば、アメリカは旅客機の製造が得意で、中国は5G機器の製造に長けているといった具合だ。

しかし、通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能など、中国の国内先端産業の育成に用いられる巨額の補助金やその他の不公正な慣行は、比較優位とは無関係だ。自国企業を強化し、外国企業の競争力を削ぐという、産業分野における破壊的侵略(industrial predation)による支配欲が反映されているのである。1995年から2018年にかけて、中国とアメリカが先進産業で占める世界生産のそれぞれのシェアの変化には強い負の相関があるのはこのためだ。言い換えると、アメリカがシェアを失った産業で、中国がシェアを獲得したということだ。

ワシントンはまた、政府の援助や戦略的指示がなくても、企業が自らの利益のために行動すれば経済厚生(economic welfare)が最大化するという自由市場の教義に固執している。しかし、経済学者アダム・スミスやフリードリヒ・ハイエクの最も熱心な信奉者でさえも、市場の力だけでは国家に必要な軍事力を生み出すことはできないと信じている。だからこそ政府が介入し、計画を立てなければならない。しかし、ワシントンの専門家の多くは、その論理を経済戦争の能力にまで広げようとしない。

確かに、経済戦争(economic war)と軍事戦争(military war)は異なる。経済戦争では直接的な死傷者はほとんど出ないが、戦闘ははるかに長期にわたって行われる。しかし、どちらの戦争も最終的には国家の自律的な存続能力(the ability of the state to exist autonomously)を脅かすことになる。

必要な戦争に対する戦略を持たないことより悪いのは、まったく戦わないことだ。ワシントンは、北京がほとんどの先端産業で世界的な主導権を獲得するのを阻止し、中国の経済的なアメリカ(および緊密な同盟諸国)への依存度を大幅に高めること(その逆ではなく)を確実にするという包括的な目標を掲げて、経済戦争を戦うことに関与する必要がある。

問題は、そのような戦略をどのように策定し、運用するかである。これまでのところ、米連邦政府は真のアメリカの経済競争力戦略を生み出すことに失敗している。アメリカの歴代政権がこのテーマについて何かを発表してきたが、それは大抵の場合、実績や有利な政策、あるいは将来の政策意図のリストでしかなかった。最近ホワイトハウスが打ち出したバイオエコノミー構想は、アメリカのバイオテクノロジー産業をいかに成長させるかを提案したものだが、競争力のある産業分析に基づいたものではなかった。また、このプログラムは、ホワイトハウス科学技術政策局が主導する、内容が狭いものだ。効果的なバイオ産業戦略、特に中国に対する戦略には、貿易政策、税制政策、規制政策、その他様々な要素を盛り込む必要がある。

アメリカの産業戦略が首尾一貫していない主な理由の一つは、戦略を策定し、全ての政府機関がそれに沿うようにすることを仕事とする主体が存在しないことである。このような戦略は、中央集権化され(centralized)、大統領の権限に裏打ちされたものでなければならない。そして適切な資金を提供する必要がある。共和制の擁護者が軍事防衛予算の増額を求めるのは当然だが、アメリカは経済防衛予算の増額も必要としている。

ワシントンが、経済戦争戦略が必要だと判断した場合、誰が経済戦争戦略を主導すべきかを最初に決めなければならない。軍事戦略を主導するのは米国防総省である。なぜなら米国防総省は軍事戦争を戦うための機関だからだ。しかし、経済戦争は多面的であるため、米商務省が単独で経済安全保障戦略を主導することはできない。

この戦線における米政府機関間の効果的な連携は、自動的に行われるとは期待できない。中国との経済戦争に勝利することがアメリカの国際経済政策の第一目標であるというコンセンサスはまだ得られておらず、様々な機関がそれぞれの狭い範囲での、時には相反する利益を推進するために行動することが多い。例えば、財務省や国務省が対中強硬策に反対し、商務省や米国防総省がそれを支持するというのはよくあることで、通常は膠着状態(stalemate)に陥る。財務省と国務省が国際協調と世界金融の調和を求めるのに対し、商務省と米国防総省は中国を弱体化させ、アメリカ企業を後押ししたいと考えているのだ。

そのため、連邦議会は、敵対者、特に中国との経済競争を管理するために、ホワイトハウス国家経済安全保障会議(White House National Economic Security Council)を設立すべきである。これは、「人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)」が提案し、超党派の連邦議員グループによって連邦議会に提出された、「技術競争力評議会(Technology Competitiveness Council)」創設のアイデアと似ている。技術競争力評議会の役割は、アメリカがどのようにして中国に経済的に勝つことができるかに関する政府全体の戦略を確立し、調整し、アメリカの主要な活動全てがこの目標の達成に向けて連携できるようにすることになる。連邦議会はまた、米中経済戦争における連邦議会自身の様々な取り組みに一貫性を与えるために、「統合経済競争力委員会(Joint Economic Competitiveness Committee)」を設立すべきである。連邦議会は現在、様々な委員会や小委員会が存在しているが、これらはまったく連携していない。

一旦、政策立案者たちが、アメリカが中国と経済戦争状態にあることを受け入れ、アメリカの取り組みを指導する組織を設立することになれば、次の問題は、「それでは、戦争に勝つために一体何をすべきか」ということになる。

いかなる経済戦争戦略も、軍事戦争戦略と同様に、2つの重要な課題を包含しなければならない。1つは、敵よりも速く行動すること(running faster than the adversary)だ。この場合、主要産業におけるアメリカの競争力を高める国内政策を通じて、迅速に行動するということになる。もう1つは、アメリカの主要産業における競争力を高めることにより、敵である中国の速度を低下させることである。そのために、アメリカから得ている経済投入と、不公平な貿易慣行から利益を得ている中国企業によるアメリカ市場へのアクセスを妨げることが必要だ。

これは、税金、貿易、独占禁止法、外交と海外援助、諜報、科学技術、製造など、多くの分野で政策を見直し、修正することを意味する。言い換えれば、中国との経済戦争に勝つためには、アメリカの経済政策と外交政策のほぼ全ての部分が連携する必要があるということだ。確かに、各政府機関はそれぞれの優先政策を持っている。それらを調整するのが大統領の仕事ということになる。

例えば、アメリカの対外援助は、受け入れ国が中国側につくかどうかという点と、明らかに関係しているだろう。財務省は人民元に対するドルの価値を下げるよう促すだろう。税制政策は、貿易部門、特に先進産業の減税に重点を置くことになる。通商政策ではアメリカの先進産業の公平な扱いが優先されるだろう。独占禁止法規制当局は大企業を解体するという取り組みを放棄するだろう。科学政策は応用研究に焦点を当てることになるだろう。国務省は、中国の経済侵略に対する行動を調整するために、私が以前から主張してきた貿易のためのNATOの組織化を主導するだろう。そして諜報機関と国内法執行機関は商業諜報活動と対諜報活動を優先するだろう。

そのためには、ワシントンは人材を必要としている。国防、情報、外交政策に携わる公務員や政治任用者(political appointees)のほとんどは、これらの分野を専門とする一流大学を卒業している。しかし、現在アメリカの大学で経済戦争について教えているところはない。ワシントンは、この新興分野に特化した大学や職業訓練プログラムに資金を提供する必要がある。また、超党派の連邦上院議員グループが提案した「グローバル競争分析室(Office of Global Competition Analysis)」のような、米中両国の先端産業の強み、弱み、機会、脅威を評価する分析能力を大幅に向上させる必要がある。

最後に、政治的分裂(political divisions)を克服しなければならない。これまで連邦政府が経済戦争のために動員してきた範囲は限られているが、二大政党が優先してきた武器は異なっている。民主党は財政支出を行い、共和党は減税と規制緩和を行っている。もしアメリカの軍事政策が、一方の政党は海軍を、もう一方の政党は空軍を支持するというように二分されていたとしたらどうだろう。しかし、経済戦争に関しては、それがアメリカの現状なのだ。共和党と民主党がそれぞれの違いを脇に置き、同じ目標を抱くことで、アメリカを中国より優位に立たせることになるのだ。

※ロバート・D・アトキンソン:情報技術・革新財団創設者兼会長、ジョージタウン大学エドマンド・A・ウォルシュ記念外交学部非常勤教授。クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデン各政権で助言役を務め、最新刊『技術革新経済:国際的な優位のための戦い(Innovation Economics: The Race for Global Advantage)』を含む4冊の著書がある。ツイッターアカウント:@RobAtkinsonITIF

(貼り付け終わり)

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 古村治彦です。

 アメリカは高いインフレ率に見舞われ、その対処のために利上げを行っている。高校の現代社会、倫理政経の授業で行うような説明をすれば、利上げを行うことで、社会に出回っているお金が金融機関に預けられることになり、出回るお金が少なることで、物価が下がるということになる。しかし、物価が下がるというのは景気後退を伴う。アメリカは来年に景気後退ということになるかもしれない。アメリカで景気後退ということになれば、世界でも旺盛な需要のアメリカで需要が落ちるということになり、それが世界全体に影響を与えることになる。日本を含めてアメリカとの貿易関係が対外貿易に大きな割合を占めている国々にとってアメリカの景気減速はそのマイナスの影響を大きく受けるという懸念が出てくる。

 ジョー・バイデン政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァンは補佐官就任以前に複数の論稿で、「産業政策(industrial policy)」について書いている。産業政策とは国家が特定の産業を保護し育成するというものだ。産業政策と言えば、戦後日本がその成功例である。チャルマーズ・ジョンソン著『通産省と日本の奇跡: 産業政策の発展1925-1975』こそは産業政策をアメリカに知らせて、「日本の経済政策はこうなっているのか」ということをアメリカ政府に知らせた歴史的な書籍である。この本が出た時、通産省では「誰が日本にとって最も重要な秘密をアメリカに知らせるような行為に協力したのか」という犯人捜しのようなことが行われたという逸話が残っている。アメリカは自由市場、政府の介入を嫌うということを基本にしてきたが、それが変化しつつある。補助金などを通じて産業政策で中国と対抗すること、特に半導体分野での競争をもくろんでいる。政府補助金は自由貿易体制を侵害するものだという批判は当然出てくる。

 中国も生後日本の奇跡の経済成長を研究し、自国に政策に応用し、成功させている。中国は国内では自由市場体制を採用していないが、対外貿易では、自由貿易体制の恩恵を受けてきた。アメリカの内向きな政策、保護主義的な政策について「自由貿易体制を侵害する」として反対している。対外貿易の面で見れば、中国が自由貿易体制の擁護者という奇妙な状態になっている。そして、日本の産業政策から学んだであろう米中両国が産業政策を使って対決するという構図になっているのも何とも奇妙な形である。

(貼り付けはじめ)

バイデンの「アメリカ・ファースト」経済政策はヨーロッパとの間に溝を生む恐れがある(Biden’s ‘America First’ Economic Policy Threatens Rift With Europe)

-ヨーロッパ諸国では、自動車、クリーンエネルギー、半導体に対するアメリカ政府による膨大な補助金供与が自国の経済にとって危険であると考えられている。

エドワード・アルデン筆

2022年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/05/biden-ira-chips-act-america-first-europe-eu-cars-ev-economic-policy/

ジョー・バイデン米国大統領の就任以降、2年近くの蜜月が続いたが、経済政策をめぐってワシントンとヨーロッパの同盟国の間に大きな亀裂が入りつつある。この対立をうまく処理しなければ、アメリカがヨーロッパやアジアの同盟諸国やパートナーと協力して中国やロシアの野心を抑えるというバイデン政権の新しい世界経済秩序の構想は競合する経済ブロックの世界へと堕落してしまうかもしれない。

数カ月の間、静かに続いていた対立は、先週ついに表に姿を現した。ヨーロッパ連合(EU)の域内市場委員であるティエリー・ブルトンは、今週メリーランド州で開かれる大西洋横断経済政策の重要な調整機関であるアメリカ・EU貿易技術評議会(U.S.-EU Trade and Technology Council)の会合から離脱することを発表した。「評議会の議題は、多くの欧州産業界の閣僚や企業が懸念している問題について十分な議論ができるものではなくなった」と述べ、電気自動車やクリーンエネルギーに対するアメリカの新たな補助金がヨーロッパの自動車メーカーやその他の企業に不利になっているというEUの苦情を指摘した。ブルトンは「欧州の産業基盤の競争力を維持することが急務であるという点に焦点を当てる」と述べた。

先週、新型コロナウイルス感染拡大後初めて開催されたホワイトハウスの公式晩餐会に出席するためワシントンを訪れたフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米国の補助金は「アメリカ経済にとって非常に良いものだが、ヨーロッパ経済と適切に調整されていなかった」と述べた。訪問に先立ち、フランスのブルーノ・ル・メール経済・財務相は、アメリカが中国式の産業政策を追求していると非難した。

今回問題となった補助金は、今年初めにアメリカ連邦議会で可決された2つの巨大法案、インフレイション削減法(Inflation Reduction Act、IRA)とCHIPS・科学法だ。前者は、アメリカでクリーンエネルギーをより早く導入するために3700億ドルもの補助金を提供するものだ。その中には、米国で電気自動車を購入した場合の税額控除も含まれているが、これはその電気自動車が北米で組み立てられ、その部品がアメリカまたはその他の「自由貿易パートナー諸国(free-trade partners)」で製造された場合に限られる。このような表現をすると、フォルクスワーゲンやBMWといったヨーロッパの自動車会社が打撃を受けることになるだろう。後者は、半導体メーカーがアメリカに高性能製造工場を新設に対して520億ドル支援するものだ。ヨーロッパ各国の指導者たちは、どちらの法律もアメリカ企業に不当な補助金を与え、ヨーロッパ大陸の競争力問題を悪化させ、アメリカや中国と費用のかかる補助金競争へとヨーロッパを追い込む可能性があると考えられている。

オランダ政府は先週、チップ製造装置の主要メーカーであるASMLとASMインターナショナルに対して、中国との関係を断つよう求めるアメリカの圧力に公然と反撃した。アメリカは、高性能の半導体とチップ製造装置の中国への販売を阻止するため、徹底的なキャンペーンを展開しているが、日本やオランダのような同盟諸国を説得するには至っていない。オランダの経済大臣ミッキー・アドリアンセンスは『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、オランダは中国との関係について「非常に前向き」であり、中国への輸出規制については欧州とオランダが「独自の戦略を持つべき」であると述べた。

バイデン大統領とヨーロッパの指導者たちは、大西洋を横断する根本的な亀裂を許すわけにはいかないことを十分承知している。

分裂が拡大しているのは、ロシアのウクライナ戦争が一因である。アメリカとヨーロッパは対ロシア制裁とウクライナへの軍事支援で一致団結しているが、ヨーロッパはこの紛争ではるかに高い経済的代償を払っている。ヨーロッパ各国の天然ガス価格は米国の10倍程度に高騰し、ヨーロッパの産業界は大きな不利益を被っている。アメリカは、ヨーロッパがロシアのガスの損失を液化天然ガス(liquefied natural gas、LNG)の輸出で埋めるのを助けているが、それは現在高騰している市場価格で販売されている。在ワシントン・フランス大使のフィリップ・エチエンヌは、『フォーリン・ポリシー』誌の取材に対して、「アメリカがヨーロッパに液化天然ガスを提供してくれるのはありがたいが、価格については問題がある」と述べた。

より長期的に見れば、バイデン政権の産業政策(industrial policies)の相反する目標が争点の中心になる。一方では、アメリカは、将来の産業にとって重要な技術や投入物を供給する中国の役割を減らし、強固なサプライチェインを構築することを望んでいる。そのためには、無駄な重複を防ぎ、供給の弾力性を高めるために、同盟諸国との密接な協力、つまり、政権が「友人たちとの共有(フレンドシャアリング、friendshoring)」と呼んでいるものが必要である。一方、中国との競争もあって製造業が失われたことは、アメリカの安全保障を弱め、経済に悪影響を与えたと考え、アメリカの製造業の復活を切望している。また、ミシガン州、ペンシルヴァニア州、ウィスコンシン州などの各州では、製造業の雇用喪失が民主党への支持を低下させた。アメリカの新たな措置はいずれも、企業がヨーロッパや他の緊密なパートナー諸国ではなく、アメリカに投資することを有利にするものだ。

バイデン政権の商務長官であるジーナ・ライモンドは、自分の父親はロードアイランド州にあるブローヴァの時計工場で28年間勤めていたが、同社が生産を中国に移したことで失業したと先週マサチューセッツ工科大学で行ったスピーチで述べた。ライモンドは「これからは、未来の技術をアメリカで発明するだけでなく、その製造もアメリカで行うようにすべきだ」と述べた。このような考え方は、アメリカの同盟諸国やパートナー国にとって都合の悪いものだ。それは、アメリカがこれらの国々に対して新たな規制を受け入れるよう主張し、多国籍企業が安価なエネルギーと寛大な補助金を利用するためにアメリカに移転したり生産を拡大したりすることで、中国市場を失うという可能性に直面することになるからだ。

このような懸念を抱いているのはヨーロッパだけではない。世界貿易機関(World Trade Organization、WTO)のンゴジ・オコンジョ・イウェアラ事務局長は、無差別規範(貿易相手国が平等に扱われるという条件)を保護しようとしている。イウェアラは、バイデン政権が提示する二者択一を受け入れる国はほとんどないと主張する。「多くの国は2つのブロックのどちらかを選ぶことを望んでいない」と彼女はオーストラリアのロウリー研究所でのスピーチで述べた。このような選択を強いることは、アメリカ、中国、その他の国々が協力せざるを得ない問題での進展を損なう恐れがある。彼女は、「弾力性と安全保障の構築を目的とした政策による分断(デカップリング)は、結局は自己目的化してしまい、気候変動、新型コロナウイルス感染拡大、政府債務危機などの集団的課題に対する協力に悪影響を及ぼす可能性がある」と警告した。

バイデンは、マクロンとの公式晩餐会に先立って、ヨーロッパ各国の懸念を認識し、それを改善しようとする意思を示す言葉を発している。バイデンは、米仏両首脳が「私たちのアプローチを調整し、連携させるための実際的な手段を議論することに合意した。大西洋の両側で製造と革新が強化されるようにした」と述べた。マクロンは、「両首脳は、私たちのアプローチを再び同調して進めることに合意した」と繰り返した。バイデンは「私たちは、存在するいくつかの違いを解決することができる。私はそれを確信している」と述べた。

しかし、その詳細は簡単に解決できるものではないだろう。バイデンは、上記の法律には修正すべき「不具合」があることを率直に認めた。しかし、例えば、自由貿易パートナーが生産する商品への補助金の拡大に関するインフレイション削減法の文言を拡張して、EUを含めることができるかどうかは不明だ。また、議会や政権、鉄鋼や太陽光発電などの業界には、アメリカは製造業の復活が遅れていると考え、この法案の「アメリカ第一」原理にこだわる人々が多い。彼らは、この法律の過度に寛大な解釈に反発するだろう。

バイデン大統領とヨーロッパ各国の指導者たちは、大西洋を横断する根本的な亀裂を許す訳にはいかないことを十分承知している。冷戦の最盛期以降で、ロシアと中国の二重の脅威が、アメリカとヨーロッパに、エアバス社とボーイング社への補助金をめぐる長い論争のように、ストレスの少ない時代には何年もくすぶっていたかもしれない経済問題を協力し解決することを迫っているのである。

この大きな賭けは、両者が解決策を見出すことを示唆している。マクロン大統領は「この状況下では、私たちは協力する以外に選択肢はないのだ」と述べた。

※エドワード・アルデン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ウエスタン・ワシントン大学非常勤教授。外交評議会上級研究員。著書に『調整の失敗:アメリカは如何にして世界経済を置き去りにするのか(Failure to Adjust: How Americans Got Left Behind in the Global Economy)』がある。ツイッターアカウント:@edwardalden

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世界各国がインフレイションを下げようと躍起になっている中で世界規模での景気後退に起きると国連が警告(UN warns of a global recession as countries race to lower inflation)

トバイアス・バーンズ筆

2022年10月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/3673894-un-warns-of-a-global-recession-as-countries-race-to-lower-inflation/

国連は、アメリカやヨーロッパなどの先進諸国の規制当局が高騰するインフレイションを抑えようとする中、月曜日に世界的な景気後退の発生を警告した。

国連は、アメリカ連邦準備制度(U.S. Federal Reserve)をはじめとする中央銀行に対し、「軌道修正し、これまで以上に高い金利に頼ることで物価を下げようとする誘惑を避けるように」と呼びかけた。

アメリカ連邦準備制度は、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な経済活動停止を受けて、景気が減速し、40年ぶりの高水準にあるインフレイション率を下げようと、金利を引き上げている。3月以降、金利は0%前後から3から3.25%へと上昇している。

しかし、国連の主要な経済関連団体をはじめに、世界各国の金融当局の姿勢を見直すことを求める声が高まっている。彼らは、インフレイション目標を下げることは、継続的な金利引き上げの痛みに見合わないと主張している。アメリカ連邦準備制度の中央値予想によれば、来年の金利は4.6%に達すると見られている。

国連貿易開発会議(U.N. Conference on Trade and Development、UNCTAD)は月曜日に発表した報告書の中で、中央銀行に対し、今後の景気後退は「政策によるもの(policy-induced)」であり「政治的意思(political will)」の問題であるとし、軌道修正するよう促した。

国連貿易開発会議のグローバライゼイション部門の部長であるリチャード・コズル・ライトは声明の中で、「政策立案者たちが直面している本当の問題は、あまりにも多くのお金があまりにも少ない商品を追いかけることによるインフレイション危機ではない。あまりにも多くの企業が高すぎる株式配当を支払い、あまりにも多くの人々が給料日から給料日までの間の生活に苦労し、あまりにも多くの政府が債券支払いから債券支払いまで何とか生き残っているという、分配に関する危機的状況である」と述べている。

月曜日の国連貿易開発会議報告書は、世界経済における最後の高インフレイション期との比較を軽んじ、今日の経済状況は1970年代とは本質的に異なり、両者の間に類似点を見出すことは「過ぎ去った時代の経済の内臓を調べ上げること」に等しいと述べている。

具体的には、賃金上昇が物価上昇をもたらし、その逆もまた同じだ(物価上昇が賃金上昇をもたらす)という賃金価格スパイラルは、今日の世界の価格ダイナミクスにとって重要な力ではないとしている。

UNCTADの報告書は、「1970年代を特徴付けた賃金価格スパイラルが存在しないにもかかわらず、政策立案者たちは、ポール・ヴォルカーが率いていたアメリカ連邦準備制度が追求したのと同じ規模ではないにしても、短期間の鋭い金融ショックが、不況を引き起こすことなくインフレ期待を固定するのに十分であると期待しているようだ」と述べている。

同時に報告書は次のように書いている。「しかし、多くの国で起きている深い構造的・行動的変化、特に金融化、市場集中、労働者の交渉力に関する変化を考えると、過ぎ去った時代の経済的内臓をふるいにかけても、ソフトランディングに必要なフォワードガイダンス(forward guidance 訳者註:中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明すること)は得られそうにない」。

アメリカ国内のコメンテーターたちの中にも、40年前にインフレイションを引き起こした賃金と物価のスパイラルを軽視し、今日の経済のグローバライゼイションを強調し、同様の見解を示す人たちがいる。

ウエストウッドキャピタルの経営パートナーであるダン・アルパートはインタヴューで次のように語った。「インフレが賃金価格スパイラルを引き起こすと考えるギリシャの大合唱がある。しかし、それは供給サイドを無視しており、賃金価格スパイラルが発生した1970年代と今日の供給状況の大きな違いを無視している。今日、私たちは膨大な量の外生的な供給と商品、つまり世界中から商品がやってくるのだ」。

米連邦準備制度は7月の会合議事録で、「賃金価格スパイラルの欠如」と指摘し、国内経済では賃金上昇と物価上昇の相互強化が作用していないことを認めている。

しかし、ジェローム・パウエルFRB議長は、講演や公的な発言でこの2つの概念をしばしば結びつけている。9月の記者会見では、FRBの金利設定委員会の委員たちが「労働市場の需要と供給が時間の経過とともに均衡し、賃金と物価に対する上昇圧力が緩和されることを期待する」と述べた。

パウエル議長は、「アメリカ人は利上げによる経済的痛みを感じるための準備をいつまで続けるべきか?」と質問され、「いつまでか? それは、賃金に影響を与え、それ以上に物価に影響を与えるまでだ。インフレが下がるのにどれだけ時間がかかるかによる」と答えた。

より大きく言えば、パウエル議長は、景気後退や経済減速の痛みは2つの悪のうち小さい方で、大きい悪は米国の消費者にとって常に物価が上昇することだと主張している。

パウエルは8月に「金利の上昇、経済成長の鈍化、労働市場の軟化はインフレ率を低下させるが、家計や企業には痛みをもたらす。これらはインフレを抑えるための不幸なコストだ。しかし、物価の安定を回復できなければ、はるかに大きな痛みを意味する」と述べている。

共和党はインフレに対してタカ派的なスタンスをとっており、賃金価格スパイラルは景気後退に直面しているアメリカ経済にとって依然としてリスクであると主張している。

連邦下院歳入委員会の共和党側幹部委員ケヴィン・ブレイディ連邦議員(テキサス州選出、共和党)は月曜日にCNBCのテレビ番組に出演し、「確かに、賃金スパイラルはかなり危険だ。どの国もそうでありたいとは思わないが、私たちは深くその中にいる。私たちは伝統的な定義のスタグフレイションの状態にある」と語った。

ブレイディ議員は「私が懸念しているのは、FRBがインフレを減速させるために必要な失業率を知っているかどうかということだ。つまり、インフレ減速を達成するために経済成長をどの程度減速させるべきか、彼らが知っていると私には思えない。私は、彼らがここで手探り状態になっていることを心配している」と述べた。

インフレがもたらすリスクについては違いがあるものの、共和党所属の政治家たちや国連のエコノミストの中には、過去10年間の超緩和的な金融政策は行き過ぎだったという意見を一致して述べる人たちがいる。

パット・トゥーミー連邦上院議員(ペンシルヴァニア州選出、共和党)はインタヴューの中で、「私たちはあまりにも長い間非常に金融緩和政策を採用していたので、資産価格は高騰し、少しやり過ぎということになった。そして今、金利を正常化しているので、風をいくらか弱める傾向にある」と述べた。

国連のエコノミストたちも、月曜日の報告書とともに発表された声明の中で、ほぼ同じことを述べている。

UNCTADは「超低金利の10年間で、中央銀行は一貫してインフレ目標を下回り、より健全な経済成長を生み出すことができなかった」と書いている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 昨日2021年9月29日に、自民党総裁選挙の投開票が実施され、岸田文雄衆議院議員が総裁に選出された。現在、地味党と公明党で連立与党を組んでおり、岸田氏が菅義偉首相の次の首相ということになる。

 選挙は9月17日に告示され、立候補者の受付が行われ、河野太郎ワクチン担当大臣、岸田文雄元外相・元総務会長、高市早苗元総務相、野田聖子幹事長代行が立候補した。野田氏は推薦人20名を集めるのに苦労していると報道されていたが

 菅首相が9月3日に総裁選不出馬を表明して以来、総裁選挙の状況は一気に流動化した。岸田氏は菅首相府出馬表明前から、いち早く総裁選挙立候補を表明し、高市氏は、安倍晋三前首相の再登板を求めたが断られたことを受け、「私が出たるわ(関西の出身)」と啖呵を切り、安倍氏の支援も受けて、立候補となった。河野氏は、菅政権を支える現職閣僚、ワクチン担当ということもあり、すぐに出馬を決断という訳にはいかなかったが、若手の議員たちや、小泉進次郎環境相や石破茂元幹事長の支援を受け、「小石河連合」と呼ばれる協力体制を確立し、立候補となった。野田氏はこれまでも何度か総裁選挙立候補を模索したが、推薦人集めができずに断念してきた。今回は二階幹事長率いる二階派から推薦人を「借りる」ことができたという報道もあるが、立候補にこぎつけることができた。

 今回は各派閥が対応に苦慮し、自主投票、ただし決選投票の際にはまとまって行動を同じ候補者に投票するという対応になったところが多かった。自民党の派閥は、「8個師団」時代から、三角大福中時代、ニューリーダー時代を経て、小選挙区制度導入もあり、構造を変化させつつも残っている。現在は、細田派(96名)、麻生派(55名)、竹下派(51名)、二階派(47名)、岸田派(46名)、石破派(16名)、石原派(10名)、無派閥63名という状況だ。派閥とはトップ(領袖)を総裁にするためのものとして始まったが(中間派と呼ばれた小派閥もあったが)、現在はトップが総裁を目指すということも少なくなった。今回も岸田氏のみが派閥を率いる領袖だった。

 河野氏は麻生派のプリンス(次に領袖になると見られている人)だったが、今回の総裁選挙では麻生は全体を率いて戦うということではなく、現在の領袖である麻生氏から立候補の了承は得たが、麻生は全体で河野氏を支えるという雰囲気はなかった。高市氏は、元々は細田派に属していたが既に退会しており、無派閥であり、細田は全体からの支援ということも難しかったが、実質的なオーナーである安倍晋三前首相が高市氏を全面支援した。野田氏は独自の戦いを展開した訳だが、自民党にとっては良い効果もあったと思う。

 総裁選挙の結果は次のようなものとなった。簡単にまとめたので見ていただきたい。

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■党員算定票(382票、有効投票数:760075票)は

・河野太郎(335046票、44.08%):地元神奈川県を含む37都道府県で1位

・岸田文雄(219338票、28.86%):地元広島県を含む8県で1位

・高市早苗(147764票、19.44%):地元奈良県で1位(2位は河野)

・野田聖子(57927票、7.62%):地元岐阜県で1位(2位は河野)

↓ドント方式で計算して

・河野太郎:169票、岸田文雄:110票、高市早苗:74票、野田聖子:29票

■国会議員票(380票:本来は382票だが病欠などがあった)は

・河野太郎:86票、岸田文雄:146票、高市早苗:114票、野田聖子:34票

■1回目の投票では

・河野太郎:255票、岸田文雄:256票、高市早苗:188票、野田聖子:63票

■岸田文雄、河野太郎の上位2名による決選投票

・河野太郎:131票(議員票)+39票(党員算定票)=170票

・岸田文雄:249票(議員票)+8票(党員算定表)=257票

(貼り付け終わり)

 全体の印象としては、メディアで騒がれたほどには、河野氏は党員党友票が取れていなかったこと、高市氏は議員票も党員党友票が取れていなかったことだ。インターネットで調査をすれば、支持率で言えば河野氏が断然トップだったし、高市氏を応援するインターネット世論も大きく、「高市氏が2位になるのではないか」という勢いもあった。しかし、インターネットとは曲者だ。私は2000年の「加藤の乱」を思い出す。加藤紘一氏は、自身に寄せられたEメールの束を手にして、小渕恵三首相に戦いを挑み、一敗地にまみれた。インターネットは実像をより大きく見せる効果があるように思う。

 党員党友票の大幅リードで河野氏が1回目の投票で1位になると見られていて、岸田氏、高市氏が2位と3位になると見られ、決選投票になったら「2・3位連合」という話も出ていたが、接戦で岸田氏が1位、河野氏が2位となった。河野氏の敗北が決定的となった。

 河野氏の敗因は、国会議員票の獲得数の少なさに尽きる。また、党員党友票がもっと獲得できるのではないかとも陣営は考えていたのではないか。空中戦の失敗だ。小泉純一郎出現の時のような熱狂がなければ、河野氏の当選は困難だった。そして、人々は、あの時の熱狂を苦々しい記憶として持っている。河野氏のあのドライな、冷たい態度は政治家としては致命的な欠点ということになる。それでこれまで8回も当選してきたのだから、直すことはできないだろうからそのままで進むしかない。

 今回の総裁選挙で私が考えるキーワードは「通産省」と「産業政策」だ。この2つの言葉が並ぶと、チャルマーズ・ジョンソン著『通産省と日本の奇跡: 産業政策の発展1925-1975 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス)』(1982年)を思い出す方も多くおられると思う。私がどうしてそのように考えるに至ったかについて書いていきたい。まず以下の記事をお読みいただきたい。

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●「「ガッカリ河野を見切って高市に乗り換え」議員たちの驚きの打算」

9/28(火) 10:32配信 FRIDAY

https://news.yahoo.co.jp/articles/e5b643d655ed9193bb1c197206c5f7131bf26261

 

予想外の大混戦となった自民党総裁選は、いよいよ9月29日に「決戦」を迎える。一挙手一投足を追うメディアの世論調査では、発信力の高さに定評がある河野太郎ワクチン担当相のトップは不動だが、「決選投票になれば河野氏ピンチ」というのもコンセンサスである。熾烈さを増す権力闘争の中で、勝敗を分けるとされる態度未定の議員たちの心理は複雑なようで―。

【画像】今井絵理子議員が「期待の美人秘書」と国会でツーショット!

◆着信に「安倍前総理」

「本人からの電話に驚いた。ここまで力を入れているなんて…」

携帯電話の着信履歴を見返しながら自民党の若手議員が首をひねるのも無理はない。「本人」とは、総裁選の立候補者ではない。河野氏を猛追する高市早苗前総務相を全面支援する安倍晋三前首相からの応援依頼だったからだ。議員間ではしきりに情報交換がされ、態度を決めかねているとされる約2割の議員の元には各方面からの電話が続いている。

情報戦もヒートアップする一方だ。

「もしも裏切り行為があれば、安倍さんが許すことはない」

「岸田文雄前政調会長が決戦投票で勝つのは明白。いま力を貸しておけば、新政権で活用してくれるはず」

前首相から直で電話が来る時代。この時ばかりは若手議員たちは通信手段の発達を恨んだことだろう。

いまも態度を決めかねている議員らの頭の中にあるのは、11月に予定される総選挙だ。安倍前首相からの揺さぶりも効果はあるが、その一方で、

「河野さんが首相になるのを後押しすれば、石破茂元幹事長や小泉進次郎環境相が選挙の時に必ず応援にくる」

「逆に保守色の強い高市氏では、公明党がついていけなくなるから、選挙では不利ではないか」

との算段が頭の中をメリーゴーランドのように駆け巡っているのだ。国民の人気が高い「小石河連合」に加えて、河野氏を支持する菅義偉首相からのにらみは、選挙に弱い態度未定の議員心理を揺さぶる。

だが、当選ムードを漂わせる河野陣営を横目に「ガッカリした」と距離を置き始めたのは自民党中堅議員の1人だ。その理由は、河野氏が総裁選への出馬表明を2日後に控えた9月8日に経団連を訪れていたことにある。「脱原発」を唱えていた河野氏は、十倉雅和会長と会談し「安全と認められた必要な原発は再稼働させていく」などと、自らの主張を“修正”した…と受け止められたからだ。10日の記者会見でも「安全が確認された原発を当面は再稼働させるのが現実的だ」と明言した。

◆河野包囲網

歯に衣着せぬ発言や突破力が最大のアピールポイントだったはずの河野氏は牙を抜かれつつあるようにも映る。「一部の政治家からは『すべてを電気自動車にすれば良いんだ』とか、『製造業は時代遅れだ』という声を聞くこともあるが、それは違うと思う」。日本自動車工業会の豊田章男会長は9日、踏み込んだ発言で周囲を驚かせたが、河野氏やその周辺が念頭にあるというのがもっぱらの見方だ。

さらに日本貿易会の小林健会長(三菱商事会長)も15日、原発に関して「検討もしないで『イエス・オア・ノー』ということはありえない」として、新増設の検討が必要との見解を示した。対立陣営からは「河野氏が新しい首相になれば、企業とうまくいかないのではないか」との声が伝わる。

河野氏の周辺は、財界をはじめ企業に「河野包囲網」のメッセージを送っているのは、安倍政権時代に首相秘書官を務めた今井尚哉氏であると見ている。岸田氏の勝利に向け指南しているとも報じられる今井氏は、経済産業省時代のネットワークに加えて、安倍氏が勝利してきた過去の総裁選で原動力となった支持団体の重要性を最も知る人物だ。「『職域』がどんどん剥がされているようだ」と河野氏のブレーンに不安はつきない。

今回の総裁選は、議員票382と党員票382の計764票で争われる。約110万人に上る党員が「国民感覚」に近いのは間違いないが、その内訳を考えれば、総裁選での投票行動は必ずしも「国民感覚に近い」とは言い切れない。

その理由は、業界団体に属している「職域党員」が党員票全体の4割近くに上るためだ。「職域」は全国単位で動くことが可能で、安倍氏の総裁選で党員票の積み増しに大きく貢献したとされる。さらに、この支持団体からの支援を受ける議員たちも、その動向を気にしないわけにはいかなくなる。

世論調査の数字からは「最も総理大臣に近い男」であることは間違いない河野氏だが、総裁選終盤では焦りも見え始めている。26日のフジテレビ番組で「河野氏の陣営が1回目の投票で一部の票を高市氏に回す動きもある」との解説に対して、「ひどいフェイクニュースですよ」「するわけないですよ!冗談はよしてください」と激高する一幕も。

加えて、ジャーナリストの田原総一朗氏からは「河野太郎が出馬会見で『脱原発』も、『女系天皇』も外して、どうしようもなかった。河野に言ったのよ、ガッカリしたと。なんであんなことを言ったのかといえば、そういわなければ麻生さんが出馬を認めなかったんだと」などと、ウッカリ“暴露”されてしまう始末である。

権力闘争よりも新型コロナウイルス対策の方をシッカリしてほしいというのが国民の願いであるが、自民党の若手議員からは、総選挙での応援だけは「シッカリきてくださいよ」との声が漏れる。なんとも空しいものである。

取材・文:小倉健一

イトモス研究所所長

(貼り付け終わり)

 私はこの記事を読みながら、次の文章に目が留まった。引用する。「河野氏の周辺は、財界をはじめ企業に「河野包囲網」のメッセージを送っているのは、安倍政権時代に首相秘書官を務めた今井尚哉氏であると見ている。岸田氏の勝利に向け指南しているとも報じられる今井氏は、経済産業省時代のネットワークに加えて、安倍氏が勝利してきた過去の総裁選で原動力となった支持団体の重要性を最も知る人物だ」。今回の総裁選挙で岸田氏の陣営の指南役として入り、経済界における「河野包囲網」を作り上げたのが、「今井尚哉(いまいたかや、1958年-、63歳)」氏だったというのだ。今井氏は第二次安倍政権時代に政策担当秘書官・内閣総理大臣補佐官(秘書官と兼任)を務めた人物だ。その今井氏が今回、岸田陣営の指南役となったということは違和感があった。これまでの関係で言えば、安倍氏の許で、高市氏の応援に回るのが自然ではないかと私は考えた。それなのに、今井氏が岸田氏支援に回ったのはどうしてか、ということを私は不思議に思った。そこで出てくるキーワードが「通産省(通商産業省、現在の経済産業省、戦前は商工省)」だ。岸田氏と今井氏の周辺は通産省だらけなのだ。

 まず、岸田氏の父親である岸田文武氏(きしだふみたけ、1926-1992年、65歳で没)は1978年(1949年入省)に退官するまで、通産官僚だった。貿易局長、中小企業庁長官を務めた。1963年からはニューヨークに在勤し、息子である文雄は小学校時代の3年間をニューヨークで過ごした。

 今井尚哉氏の叔父には、通産事務次官(1937年商工省入省)を務め、城山三郎の小説『官僚たちの夏(新潮文庫)』(1980年刊行、数年前に渡辺謙主演でドラマ化された)の主人公今井善衛(いまいぜんえい、1913-1996年、83歳で没)、新日鉄社長・経団連会長を務めた今井敬(いまいたかし、1929年-、92歳)がいる。安倍晋三前首相の祖父・岸信介(1896-1987年、90歳で没)元首相は1920年に農商務省に入省し、1925年の分割の際に商工省に所属した。1939年に商工省次官となった。その間には満州国に赴任した。

 上記のように、岸田氏は通産官僚の息子であり、今井氏は叔父が通産官僚で最高位の事務次官を務め、自身も通産省に入省したという経歴を持つ。岸田氏は、東京大学の入学試験で不合格となり、2年の浪人を経て、早稲田大学法学部に入学し、卒業後は日本長期信用銀行に入行した。その頃には父親が既に政治家であったが、政治家を目指してはいなかったそうだ。確かに、これまで歴代の早稲田大学出身の総理大臣は雄弁会出身者が殆どだ。雄弁会は政治家を目指す学生の登竜門であるが(最近はそうでもないようだが)、岸田氏は参加しなかったようだ。早稲田大学にはどうしても早稲田に行きたいという学生ばかりではなく、東大や京大などに不合格になって仕方なく入学してきた学生も多く、雰囲気が違う。愛校心(周囲の迷惑を考えずに早稲田の校歌を歌いまくるのはそうとは言い難いが、これが愛校心溢れる行動とされる)は早稲田大学には薄いようだ。岸田氏のよりどころは、東京の名門・開成高校にある。以下の記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

●「岸田新総裁は開成高、早稲田大卒 総裁選を争った4人の出身校と華麗なる同窓生たち 〈dot.〉」

9/29(水) 15:05配信 AERA dot.

https://news.yahoo.co.jp/articles/65b9672b1bce0cb0f2b91906bd3cfc06ba9043f6

https://news.yahoo.co.jp/articles/65b9672b1bce0cb0f2b91906bd3cfc06ba9043f6?page=2

https://news.yahoo.co.jp/articles/65b9672b1bce0cb0f2b91906bd3cfc06ba9043f6?page=3

 9月29日、第27代自民党総裁に岸田文雄議員が決定した。

 これで事実上、岸田首相が誕生することになる。9月上旬、菅義偉首相が不出馬を表明してから自民党総裁選挙がはじまり、岸田文雄、河野太郎、野田聖子、高市早苗の4人が立候補。自民党国会議員と党員・党友によって投票が行われ、新しい日本のリーダーが誕生したわけだ。総裁選を争った4人について、出身校とその特徴、同窓生をみてみよう。

【ランキング】国会議員の出身大学ランキング<政党別/女性議員/2世3世…計8ページ>

■岸田文雄氏

 岸田文雄は1957年生まれ。開成高校を卒業して東京大を目指したがかなわず、早稲田大に進んだ。

 開成には永田町・霞が関開成会(永霞会)という同窓会組織がある。同校OBの国会議員、省庁職員が集まる親睦会だ。現在、議員は9人、国家公務員は1府12省庁で約600人にのぼり、事務次官クラスが10人近くいるといわれている。

 開成OBの国会議員には東京大、官僚経由が多い(カッコ内は出身省庁)。

 上野宏史(経済産業省)

 小林鷹之(財務省)

 鈴木馨祐(財務省)

 城内実(外務省)

 鈴木憲和(農林水産省)

 永霞会事務局長の井上信治議員に「永霞会が開成OBを総理に、と盛り上がることはありますか」とたずねたところ、こう答えてくれた。

「開成から総理が生まれるのはうれしいけど、そのために永霞会を発足させたわけではありません。OBの政治家と官僚が国のために折に触れて協力し合えばいいと考えています」(「週刊朝日」2021年4月2日号)

 昨年の総裁選では菅義偉と岸田が争ったが、永霞会の開成OB議員は菅に投票しているという。これは同校OB議員が所属する派閥の事情によるものだった。

■河野太郎氏

 河野太郎は1963年生まれ。慶應義塾中等部、慶應高校から慶應義塾大経済学部に進む。総裁選でタッグを組んだ石破茂は高校から慶應に進み、慶應義塾大法学部というコースをたどった。

 慶應高校出身の国会議員はおよそ30人いるが、2世、3世が多い。父や祖父が大臣経験のある大物議員が並ぶ。(*は首相経験者)

 竹下亘 異母兄は竹下登*(17日に死去)

 福田達夫 祖父は福田赳夫*、父は福田康夫*

 岸信夫 父は安倍晋太郎、祖父は岸信介*で、岸家と養子縁組。兄は安倍晋三*

 石原伸晃、石原宏高 父は石原慎太郎 

 奥野信亮 父は奥野誠亮

 高村正大 父は高村正彦

 中曽根康隆 父は中曽根弘文、祖父は中曽根康弘*

 慶應高校出身の国会議員は「華麗なる一族」を持つ。このうち中曽根康隆の祖父、福田達夫の父と祖父、岸信夫の祖父と兄、竹下の異母兄は首相となった。逆に言えば、首相は親族を慶應高校に入れたがる傾向にあるということか。河野太郎の父、河野洋平、そして祖父・河野一郎も派閥、小グループの領袖であり、首相候補だった。

 だが、不思議なことに慶應高校出身の首相は生まれていない。慶應義塾大からは橋本龍太郎、小泉純一郎などの宰相が輩出したのだが、塾高出身は縁がない。

■野田聖子氏

 野田聖子は1960年生まれ。田園調布雙葉高校を中退してアメリカのハイスクールで学ぶ。田園調布雙葉の3学年下には雅子皇后がいた。同校には各界著名人の子女が通っていることでも知られる。長嶋茂雄の次女でスポーツキャスターの長島三奈、佐田啓二の長女で俳優の中井貴惠などだ。

 野田は帰国して上智大学外国語学部比較文化学科に入学する。現在の国際教養学部である。もともと上智大国際部と称していた。同学科は芸能人を多く送り出している。范文雀、ジュディ・オング、南沙織、アグネス・チャン、早見優、西田ひかる、リサ・ステッグマイヤー、クリスタル・ケイ、青山テルマ、はな、川平慈英、デーブ・スペクターなど。キャスターには安藤優子、山口美江、小牧ユカなどもいた。

 なお上智大出身の国会議員には平井卓也、西銘恒三郎、小林史明(以上、自民)、玄葉光一郎、山崎誠、松平浩一、今井雅人(以上、立憲民主)などがいる。同大学からは細川護熙元首相が輩出した。

 野田は1993年に初当選し、1998年には当時、戦後最年少の37歳10カ月で郵政大臣に就任する。このとき近い将来、初の女性首相誕生かと注目された。それから20年以上経ったが、今回も国のトップにはなれなかった。

■高市早苗氏

 高市早苗は1961年生まれ。野田と学年は一緒である。奈良県立畝傍高校の出身。うねびと読む。その由来について、学校史にこう記載されている。

「『畝傍』(うねび)という校名については、創立以来今日にまで続き、幾多の卒業生にとって無限の郷愁もたらす名称であるが、その由来を示す確かな記録は見当たらない」(畝高七十年史、1967年)

 そっけない。近くに畝傍山、畝傍御陵という古くからの地名があり、ここからとられたのではないかといわれている。

 同校卒業生はなかなかおもしろい。日本郵政初代社長で、三井住友フィナンシャルグループ社長をつとめた西川善文、舞踏家で大森南朋の父である麿赤兒、『試験にでる英単語』で受験界を一世風靡した元日比谷高校教諭の森一郎、中央公論社の社長だった嶋中雄作、元文部科学事務次官の前川喜平の祖父で和敬塾創始者の前川喜作など。多士済々だ。

 高市は大学入試で早稲田大、慶應義塾大に合格したが、親のすすめで神戸大経営学部に入学した。同大学出身の国会議員には山田賢司、繁本護(以上、自民)、吉川元(立憲民主)がいる。

 なお、神戸大経営学部の前身である神戸商業大出身には、宇野宗佑元首相がいた。

 1989年6月3日の宇野内閣発足後まもなく参議院選挙が行われるが、リクルート事件、消費税導入、宇野の女性問題報道で支持が得られず、自民党は大敗し、投票日翌日の7月24日に退陣を表明した。宇野の首相在任期間は69日、日本政治史上4番目の短さだった。

 このころ、高市は松下政経塾を卒塾したばかりで、国政選挙に出る準備をしていた1992年、参議院選挙で落選、1993年、衆議院選挙で初当選した。

 出身高校、大学のカラーと政治家は直接関係ない。だが、高校、大学をどのように過ごしたか、そこで、どのようなことを考え、何を目指したかは、その政治家の国家観を知るうえでヒントになる。そこで受けた教育、出会った恩師や先輩、築き上げた友人の力は大きいからだ。高校や大学で社会と向き合うようになったときのこと、やがて政治家になろうと思ったときのことなど、自身を振り返って語ってもらいたい。

<文中敬称略>(教育ジャーナリスト・小林哲夫)

(貼り付け終わり)

上記の記事にあるように、開成高校出身者たちで、政治家や官僚になっている人たちは、「永田町・霞が関開成会(永霞会)」を結成しているそうだ。岸田氏は東大出身でもなく、官僚出身でもないが、霞が関には強力な人脈を持っていると言えるだろうし、経歴は「党人派」であるが、「官僚派」に近い肌合いを持っているようだ。こうして見ると、今回、今井氏が指南役となって、岸田氏当選に尽力したということもうなずける。

 岸田氏の考えているであろう日本の姿とは、戦後高度経済成長期の「日本型」資本主義での成功例であろう。1960年代から70年代にかけて、日本は毎年10パーセント程度の経済成長率を維持した。このような経済成長が続くと、国内での経済格差が生じ、社会不安が起きるが、それを起こさず、「一億総中流社会」を実現した。英語では、「economic miracle without inequality」ということになる。以下の記事を読んでいただきたい。

(貼り付けはじめ)

●「ポストコロナ政策で岸田氏が議連、安倍・麻生・甘利氏ら参加」

ワールド

2021年6月11日 ロイター編集

https://jp.reuters.com/article/japan-kishida-idJPKCN2DN0GM

 6月11日、自民党の岸田文雄前政調会長が中心となり、ポストコロナ時代の政策を議論する「新たな資本主義を創る議員連盟」が、設立された。写真は東京都で2020年9月撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

[東京 11日 ロイター] - 自民党の岸田文雄前政調会長が中心となり、ポストコロナ時代の政策を議論する「新たな資本主義を創る議員連盟」が11日、設立された。安倍晋三前首相と麻生太郎財務相、甘利明党税調会長らも参加した。

安倍前政権発足時に政権の中枢を担った「3A」と称される安倍・麻生・甘利氏は、半導体議連など多数の議連を立ち上げている。

あいさつした麻生氏は、会場を見渡し、「政策を勉強している経済記者でなく、政局記者の顔が見える」と述べた上で、3Aによる議連設立が政局的に受け止められていることに触れ、「そういった話があるから人が集まるんだろうが、いま資本主義について議論するのは良いこと」と指摘した。

岸田氏は「コロナで格差が拡大しており、格差、分配の議論が重要になると確信している」と強調した。安倍氏は「ウォール街の強欲な資本主義でない、資本主義を考えていきたい」と語った。

初回の今回は、渋沢栄一氏の玄孫にあたる渋沢健氏(コモンズ投信会長)が講演した。

(貼り付け終わり)

 安倍晋三や麻生太郎、甘利明の三悪人の「3A」が岸田氏の議連に参加したという内容だが、岸田氏は2021年6月に立ちあげたこの議連の名前は、「新たな資本主義を創る議員連盟」だ。そして、岸田氏は「コロナで格差が拡大しており、格差、分配の議論が重要になると確信している」と発言している。しかし、分配するにも何をするにも必要なのはお金だ。その「お金の稼ぎ方」として、出てくるのが、「産業政策」だ。

 2021年6月4日、岸田氏が議連を立ち上げる1週間前、経産省は、「経済産業政策の新機軸~新たな産業政策への挑戦~」という資料を発表した。資料の内容は、いかのPDFを参照していただきたい。新時代の産業政策を打ち上げたものだ。

※資料は以下のアドレスからどうぞ↓

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/028_02_00.pdf

 

●「コロナ禍の今、経済産業省が「大きな政府」に大転換した“切実な理由”」

室伏謙一:室伏政策研究室代表・政策コンサルタント

2021.6.19 4:05 ダイアモンド誌

https://diamond.jp/articles/-/274042

https://diamond.jp/articles/-/274042?page=2

https://diamond.jp/articles/-/274042?page=3

経済産業省の産業構造審議会が、「経済産業政策の新機軸」という画期的な方針を打ち出した。新型コロナウィルスの感染拡大による社会経済の世界的な変化を受け、日本が採用すべき「経済産業政策の新規軸」をまとめたものだ。主要国がすでに転換し始めたように、「小さな政府」から「大きな政府」に転換する必要性を訴えている。特に注目されるのが、産業政策における「大規模・長期・計画的」な財政出動を求めていることだ。この「新規軸」が実現しなければ、日本の貧国化は免れないだろう。(室伏政策研究室代表・政策コンサルタント 室伏謙一)

●ウィズコロナ時代において、「政府の役割」は根本的に変わった

 6月4日、第28回産業構造審議会総会が開催された。

 産業構造審議会は、経済産業省設置法第6条第1項に基づき設置され、第7条第1項各号に掲げる事務をつかさどり、とりわけ「経済産業大臣の諮問に応じて産業構造の改善に関する重要事項その他の民間の経済活力の向上及び対外経済関係の円滑な発展を中心とする経済及び産業の発展に関する重要事項」を調査審議する、経済産業省の重要な審議会の一つである。

 同審議会の総会は、これまでの実績ベースで、概ね年に1~2回開催され、各年度の経済産業政策の重点事項や今後の経済産業政策の新たな方向性について議論・検討が行われてきており、いわば我が国の経済産業政策の重要な方向性や方向転換がここで決まっていると言ってもいい。

 さて、その重要審議会で今回の議論の対象となったのは、新型コロナウィルスの感染拡大による社会経済の世界的な変化を受けた、今後の経済産業政策の在り方、「経済産業政策の新機軸」である。

 まず、基本的な問題意識として、新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大したこの1年間を「ウィズコロナ」と位置付け、ワクチンが行き渡り始めたが、変異株の発生などにより、ウィルスへの対応は継続中であること等から、その後の十数年間をその延長線上とし、昨年1年間の変化も踏まえた、いわゆる「アフターコロナ」ではない目指したい「日常」と、それに向けた経済産業政策の望ましい在り方について議論することとしている。

 同審議会提出資料においては、「ウィズコロナ」の1年の変化や、それ以前からの構造的変化についての多角的な視点からの分析が行われているが、とりわけ重要なのが、政府の役割の変化であろう。その役割とは、経済産業政策と財政政策という二つの点における役割である。

 新型コロナへの対応の中で、世界中で政府の役割が増大し、これまでで最大規模の財政支出をするにまで至っており、米国を筆頭に各国は大規模な財政支出を続けているし、EU諸国も債務残高の対GDPという財政規律を一時停止しているが、そもそもこの十数年における国家と企業の関係を見ていくと、補完関係が強まっているのではないかとしている。

「重要産業」や「戦略産業」を国が守り育てる時代へ

 しかも、持続可能な社会を志向し、安全保障、環境、健康、雇用、人権等の社会的課題の解決を重視した投資(財政支出)へ変化するとともに、重要産業や戦略産業を国が守り育てる方向にシフトしてきているとしている。

 具体的には、再エネや充電インフラ等のグリーンインフラや関連研究開発への大規模投資であるが、それのみならず、特に米中の技術覇権対立を背景として、半導体については国産化や輸出管理等の強化へとシフトしている。

また、そうした覇権対立と呼応するかのように、企業の事業活動に関し、人権・奴隷労働の有無、環境への影響等について明らかにすることを法的に義務付ける、人権デュー・デリジェンスの導入が進んできていることにも言及している。

 その趣旨は、一義的には人権侵害や奴隷労働等を行っている事業者と取引をしないようにし、そうしたものを根絶させることであるが、グローバル企業は人権侵害、奴隷同然の労働、環境破壊を公然と行う事業によってコストを大幅に圧縮して莫大な利益を上げているところ、そうしたビジネスモデルを改めさせよう、それによって社会的公正を取り戻し、格差問題の解決にも繋げていこうということであろう。

 つまり、規制の強化によって公正な社会を実現しようということであり、市場重視、民間の自由な経済活動尊重の政策的思考とは隔世の感がある。

 また、同趣旨の事項として、G7蔵相・中央銀行総裁会議の共同声明にも盛り込まれ、議長国のイギリスのスナク蔵相が誇らしげに語っていた、「グローバル企業に対する国際課税の公正性の確保」についても触れられている。

 加えて、「自由貿易のアップグレード」として、これまでのグローバル企業のための、放埒な自由貿易の是正により、公正性や持続可能性、格差是正の確保を目指すことについても言及されている。

●市場原理を克服する「政策の新規軸」が不可欠である

 そして、今後に向けて、政策は何がどう変わるべきかについて次のように提言している。

「既存の市場原理だけでは社会課題解決を実現する産業はなかなか成立しない中で、『価値』を巡る国家間の競争や正統性の再定義があることも鑑み、野心的で共感を呼ぶ『目標』を設定したうえで、緩和だけでなく強化も視野に入れた規制改革や、国内外の情勢変化を踏まえた、大規模・長期・計画的な財政政策を実行し、デジタルを前提に、全く新しい行政手法のあり方を模索しながら取り組み、有志国と連携しつつ、内外一体での産業政策の展開を図る」

 そのうえで、今後に向けた大きな方向性の三本柱として、

(1)「経済」×「環境」の好循環~グリーン成長戦略~

(2)「経済」×「安保」の同時実現~経済安全保障/レジリエンス~重要技術・産業・インフラを「知る」・「守る」・「育てる」政策

(3)「経済」×「分配」=包摂的成長~「人」への投資・「地域」の持続発展~

を掲げている。

 少々総花的であり、大風呂敷を広げた感は否めないが、こうしたことを踏まえて、「『経済産業政策の新機軸』~新たな産業政策への挑戦」と題する資料が提示された。

 その中では、まず、中国や欧米において「大規模な財政支出を伴う強力な産業政策」が展開されていることや、かつては政府が主導的な役割を果たす産業政策が強く批判されていた米国においても、産業政策を支持する「産業政策論」が台頭してきていることを挙げている。

 そして、そうした産業政策を次のように総括した。

「伝統的な産業振興・保護とも、相対的に政府の関与を狭める構造改革アプローチとも異なり、気候変動対策、経済安保、格差是正など、将来の社会・経済課題解決に向けて鍵となる技術分野、戦略的な重要物資、規制・制度などに着目し(ミッション志向)、ガバメントリーチを拡張するというもの」

 そのうえで、日本においても、これまでの産業政策を検証したうえで、「産業政策の新機軸」を確立・実行していくことが求められているのではないか、経産省のみならず、政府全体として、政府の人的資源・政策資源を質と量の両面から精査した上で、速やかに実行に移していくべきなのではないか、としている。

●ようやく日の目を見たスティグリッツの提言

 こうした変化のあり方が、同資料に体系的に一覧表でまとめられている(図1参照)。

 ここで特に注目したいのは、「新機軸」における政策のフレームワークとして、「ミクロ経済政策とマクロ経済政策の一体化(需要と供給の両サイド)」が記載され、これまでの「構造改革アプローチ」においては、供給サイド、サプライサイド向けの政策が中心だったが、その転換を図るべしとしていることだ。

 実はこうした指摘は、平成28年に、伊勢サミットを前に官邸で開かれた国際金融経済分析会合において、経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏が具体的かつ簡潔に行っていた。

それは、およそ次のような内容だった。

「有効需要が欠如している状況でのサプライサイドの改革は失業を増大させる等、有害であるのみならず成長にはつながらないし、供給はそれ自身の需要を創出するわけではないのであるし、実際、需要を弱め、GDPを減らすことになる。サプララサイドの政策は需要と一体で機能するのであり、例えば、技術開発投資、人材育成投資、働きやすい環境の整備(公共交通の充実、育児休暇や傷病休暇等)」

 といった政策が有効といったものである。

 その際には、安倍官邸にはまともに受け入れられなかったようであるが(そもそも理解出来なかったのではないかとの疑いもあるが)、やっとそうした主張・考え方が日の目をみるようになったということであろう。

「大規模・長期・計画的」な財政出動が不可欠

 そして、ここが最も重要であるが、「新機軸」における財政出動を、「大規模・長期・計画的」としている。

 その背景・根拠として、同資料の「マクロ経済政策の新たな見方」において、次の3点を指摘している。

(1)低インフレ、低金利においては、財政政策の役割も重要

(2)コロナ禍による総需要の急減は、低成長を恒久化する恐れがある(履歴効果)。財政政策によって総需要不足を解消し、マイルドなインフレ(高圧経済)を実現することは、民間投資を促し、長期の成長を実現するためにも必要

(3)コロナ対策やマイルドなインフレを実現するための財政支出の拡大は、財政収支を悪化させるが、超低金利下では、そのコストは小さい

 実際、10年ものの日本国債の利回りはずっと低下してきており、近年ではほぼ横ばい状態であり、緊縮財政派がさんざん脅かしてきた「金利の急騰」などは起きていないし、起こる兆しもない。

 つまり、「民間任せ」「市場任せ」ではなく、政府が主体的かつ大きな役割を果たすべく、長期的な視点に立って、大規模な財政支出によって経済産業政策を運営していくべきであるということであり、これまでの「小さな政府」的な発想に基づく政策の否定であり、そこからの大転換である。

 もちろん、この経産省の打ち出した「新規軸」には、強い抵抗も予想される。例えば、直近で閣議決定されることが予定されている「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」では、昨年は記載されなかったプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標が、年限は示されないものの、記載される方向であり、「経済産業政策の新機軸」において示された方向性とは相反することになりそうである。

●日本が「成長するか、貧国化するか」の瀬戸際

 しかし、世界的な潮流を見ても、また新型コロナショックという危機への対応という観点に立っても、大規模な財政出動と国の役割の増大・強化への転換は当然のことである。そもそもプライマリーバランスの黒字化などという財政規律や目標を掲げている主要国は日本だけである。

 主要各国が大規模な財政支出と、国が前面に出た経済産業政策を着々と進めていく中で、日本だけがそうしたものに背を向けていれば、日本は成長しないどころか、貧国化への道を着実に進むことになるだけである。

 先にも示したとおり、財政拡大を続けても我が国は何ら問題がないのであるから、日本が先進国だったという話が遠い昔の話として語られることがないよう、政治家を筆頭に、官僚、地方公務員、専門家、事業者、そして国民全体が、財政政策と経済産業政策の両面における国の役割の重要性と拡大について、それを是とし、それを当然とする方向へ早急に転換していくことが求められよう。

 今後の議論のさらなる進展に期待するとともに、「緊縮財政」や「小さな政府」といった、ある種時代遅れな考え方に囚われて、それを狂信的に固守する勢力に足を引っ張られたりすることがないよう、関係各位の尽力を強く希望したい。

(貼り付け終わり)

 日本は政治改革と経済改革で大きく傷ついた。日本国民は、市場原理主義を持ち込めばななんでも解決という単純な議論に熱狂させられ、馬鹿を見た。小泉・竹中路線は誤りだったということだ。「アメリカみたいな国になればよい」で実際になってみたが、悲惨な状況になっている。

 経産省の資料の中に、重要な名前が掲載されている。それは、アメリカのジョー・バイデン大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンの名前だ。ジェイク・サリヴァンについては、拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で詳しく取り上げてきた。サリヴァンは補佐官就任前に、産業政策の重要性を主張する論文を書いている。アメリカにおいても、産業政策の重要性が増している。

 加えて、現在、世界で最も経済的に成功している中国が採用しているのが産業政策なのである。その源流をたどれば、日本に行きつく訳だが、世界で産業政策の重要性が増している。本家の日本でもそこに戻ろうという動きが出ている。1990年代には、産業政策なんて効果はない、そもそもなかったのだ、という議論があった。日本にそうしたことを紹介し、日本国内で主導したのは竹中平蔵だ。例えば、1993年に出版された、ローラ・タイソン著『誰が誰を叩いているのか―戦略的管理貿易は、アメリカの正しい選択?』の監訳者は竹中平蔵だ。

 「アメリカは中国を模倣して産業政策をやるべきだ」という主張もアメリカも区内で出ているような中で、「日本型」資本主義に戻ろうという岸田氏の当選はその流れに沿ったものであると言える。

 ここまで長々と書いてきたが、岸田氏当選のキーワードは「通産省」と「産業政策」であり、「日本型」資本主義へ返るという動きなのだろうということが私の結論だ。

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 日本政治研究から政治学全体に大きな貢献となったのは、チャルマーズ・ジョンソン(Chalmers Johnson、1931-2010年、79歳で没)著『通産省と日本の奇跡: 産業政策の発展1925-1975 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス)』(TBSブリタニカ、1982年;勁草書房、2018年)だ。この本では日本の奇跡の経済成長(1960年代から1970年代にかけての高度経済成長)について、通産省(MITI、Ministry of International Trade and Industry)主導の「産業政策(Industrial Policy)」が実現したということを分析している。本書の官僚主導(Strong State Model)、産業政策という分析ツールは他の国々の分析にも適用可能なものとなり、大業績となった。

 その後、1980年代の日米経済摩擦から「日本異質論(Revisionism)」の親玉のレッテル貼りがされたが、この動きは複雑なものだった。詳しくは拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』を読んで欲しいが、チャルマーズ・ジョンソンほど日本に詳しく、親日家であった人物を「日本を西洋とは違う国だと言って非難している」という方向に捻じ曲げた変な議論だった。これは簡単に言えば、産業政策潰しの言説でもあった。この時代に産業政策潰しの論稿を発表していたのが竹中平蔵だという事実も合わせて考えると、この時期から日本潰し、日本の窮乏化のための動きは始まっていたということになる。

 産業政策を徹底的に研究して実地に応用して成功を収めたのが、中国ということになる。中国社会科学院の日本部では、戦後の日本の動きをバブル崩壊まで徹底的に研究し、分析し、実地に応用しているということを私は複数の専門家から聞いた。

 更に、最近になって、アメリカでも産業政策が必要だ、産業政策は悪くないという疑問出てくるようになった。私はこの動きを追いかけていきたいと思う。今回の論稿はそのためのスタートということにしたい。

(貼り付けはじめ)

アメリカが産業政策を導入する時がやって来た(The Time for America to Embrace Industrial Policy Has Arrived)

-アメリカは常に経済のある部分を、他の部分を犠牲にして、助けてきた。こうしたことを正す時だ。

ジャレッド・バーンスタイン筆

2020年7月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/07/22/industrial-policy-jobs-climate-change/

長年にわたり、アメリカ経済をいかにして助けるかについての議論において負けたいと思えば、「産業政策(industrial policy)」という言葉を出すだけで良かった。産業政策には、国家規模でのゴールを追求し、政府が支援の対象とする特定の産業分野を選択することが可能であり、またそうすべきだという考えだ。産業政策には、低利のローン(low-cost loans)、政府保証(grants)、補助金(subsidies)、優遇税制措置(tax breaks)、6000億ドル(約66兆円)の政府の調達予算を利用しての財やサーヴィスの直接購入が含まれる。保守派だけではなく、産業政策に対する批判者たちは、産業政策について、政府の頭でっかちな人々(eggheads)が「勝利者を政府が選択する」などという馬鹿げた内容だと批判し、社会主義国での計画経済(socialist planned economies)が、そうした政府のやり方は失敗に終わることを証明していると指摘している。

コンセンサスは急速に変化している。2019年12月、共和党所属の連邦上院議員マルコ・ルビオは、中国の攻撃的な国家資本主義(state capitalism)に対抗するために、「アメリカの産業政策を再活性化すること」を求めた。民主党大統領選挙候補者ジョー・バイデンによる新しい提案を議論する中で、『ウォールストリート・ジャーナル』紙のジェラルド・サイブは次のように書いている。保守派の人々はかつて、産業政策という考えを「自由市場への有害な干渉」と激しく非難してきたが、現在は、保守派の中にも、「アメリカの製造業を支援するために」産業政策を主張する人々が出て来ている。(情報公開:私は、オバマ大統領第一期において当時のバイデン副大統領のチーフエコノミストを務め、今回の大統領選挙において非公式の形でバイデンに助言を行っている)

実際のところ、コンセンサスの変化は、制作における新たな考えに関係しているというよりも、目を覚まさせるということである。他の先進職と経済発展が著しい国々と同じく、アメリカも産業政策を追求してきた。その際の問題は、国家が産業政策を採用すべきかどうかではなく、その政策について透明性を保とうとするかどうかです。そして、さらに重要なことは、効果的で包括的な国家のゴールを促進する賢い政策を実施する意思があるのか、それとも政府とつながりの深いロビイストたちの命令を聞いた結果の逆効果の政策を採用するのかということ問題だ。

 アメリカ政府が金融業界に与えている特権を考えてみよう。金融業界が顧客に販売する資産や提供する取引は、税法によって多額の補助がされている(キャピタルゲインは、給与よりも低い税率で課税が延期され、有利な税制となっている)。規制緩和によって業界の規模と収益性が大幅に向上し、世界的な金融危機につながった住宅バブルの時のように、規制がない金融業界が組織的に(意図的に)リスクを過小評価した場合に失敗しても、税金を使った救済措置によって即座に失敗の埋め合わせが行われる。

金融業界への優遇は最悪の形態の産業政策であり、それが長年にわたり私たちの目前で展開されてきた。しかし、金融業界だけがアメリカ政府によって優遇された産業分野ではなかった。金融業界以外にも、農業全体、砂糖業界、防衛・宇宙産業、シリコンヴァレーも優遇されてきた。シリコンヴァレーに政府から補助金が与えられ、ラップトップや携帯電話が出現するかなり前から、シリコンヴァレーの製品を政府が購入しなければ、シリコンヴァレーは存在できなかったことだろう。

産業政策支持という考えは、アメリカ史に深い根を持っている。1790年の第一回の一般教書演説(State of the Union)の中で、ジョージ・ワシントン大統領は、次のように述べた。「アメリカ人の安全と利益のためには、必要不可欠な物資の供給、特に軍事関連物資の供給を他国から独立するために、製造業の成長を促進する必要がある」。18世紀には意味のあった政策が、今は必ずしも意味のあるものではないとしても、重要なサプライチェインを陸上に置く必要性は、当時から明らかだった。

しかし、産業政策の理論的根拠は変わらずに強力だ。例えば、人間の諸活動によって引き起こされる気候変動について考えてみよう。再生可能なエネルギー源に投資する政策によって、それを覆さなければならない。電気自動車(と電気チャージステイション)、新しい、効率的なグリッド、公共交通機関のような環境保護努力へと投資が必要だ。これらの中には、民間企業が取り組まないであろう、古典的な公共財が存在する。

このような産業政策の道具には、クリーンエネルギーを製造し、購入するための税制のインセンティヴ、再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(電力会社に再生可能エネルギーによるエネルギー生産を一定割合で義務付けるルール)、製造方法やエネルギー構成によって世界の他の国々に課している環境コストを各国に内在化させるための国境調整税、クリーンエネルギー生産者に対する政府の直接支援などがある。

このような国際的な側面は、産業政策のもう一つの根拠となっている。長年にわたり、中国やドイツを含む他国では、輸出を支援するために消費者による消費が抑制されてきた。中国のケースでは、競争力を促し、貿易黒字を生み出すために通貨価値が管理されてきた。アメリカのように生産量よりも消費量の方が多い国では、必然的に製造業の製品は輸出よりも輸入が多くなり、貿易赤字となった。アメリカのケースでは、貿易赤字を埋めるために、外国からの貸付(ローンが)が洪水のように流れ込み、サブプライムローン問題を含む、アメリカの金融セクターの信用サイクルの破壊を助長した。

こうしたことは賢明で堅実な産業政策を持たないことで引き起こされる結果だ。アメリカの競争相手は自国内で給料の高い雇用を維持するために投資をし、次の大きな世界的需要に自国の産業を合わせようとする。一方、アメリカは戦略的な産業政策を放棄し、アメリカの消費者と製造業者に負担をかけることになる完全の撤廃を敢えて行い、国際規模の貿易を深化させ、誰の役にも立たない状況を生み出している。政府調達のための「バイ・アメリカン(Buy American [アメリカ製品を買おう])」計画を含む、アメリカの製造業の成長を促し、クリーンエネルギーを支援するバイデン大統領の計画を理解するためにはこうしたことを理解しなければならない。

当然のことだが、産業政策は製造業以外でもうまく適用されねばならない。製造業はアメリカ国内では生産高と雇用の10%を占めているに過ぎない。サーヴィス部門において、産業政策が対象とすべき、最も実りが多いのは子育て関連分野である。アメリカは他の先進諸国よりも子育て関連分野の遅れが目立っており、新型コロナウィルス感染拡大によって、この重要な産業分野を成長させるための政策の欠如していることが明らかになった。子育て関連産業へのアプローチとしては、公立こども園の設立による直接保育の実施、保護者や事業者への補助金の支給、3歳から4歳までの子ども全てを対象とした一律の幼稚園入園前教育の導入などがある。これらの政策の明白なゴールは、子育てのかかるコストを引き下げて、親たちに労働市場への参入をしてもらうということだ。(低所得もしくは中程度の所得を得ているアメリカの世帯は平均して所得の35%を子育て関連に支出している。この割合はヨーロッパの2倍以上となっている。)

ジェニファー・ハリスとジェイク・サリヴァンは今年初めに『フォーリン・ポリシー』誌に論稿を発表し、その中で、「産業政策を主張することは、かつて恥ずべきことだと考えられた。しかし、今では当然のこととして考えられるようになっている」と書いている。アメリカが国として存続している限り、他の全ての国と同じように産業政策を実施してきた。これからもそうしていくだろう。アメリカは、給料の高い雇用、生活水準の向上、国際競争力の高い産業を育成し、子育てや気候変動などに影響を与えている市場の失敗を相殺するために、透明性が高く賢明な産業政策を実行することになるだろう。産業政策を実行しなければ、恥ずべきことであり、また世界から遅れていることになるし、何よりもアメリカ人とアメリカ経済にとって良くないことである。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2021年5月29日に最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

 先週のG7会合はイギリス南部のコーンウォール半島で開催された。対中政策、インド太平洋地域における中国の動きを以下にけん制するか、ということが話されたが、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で書いている通り、中国は着々と準備を進めている。この対中強硬路線を推進しているのは、「バイデン政権のアジア政策のツァーリ(Asia Tsar)」と評されるカート・キャンベル国家安全保障会議インド太平洋調整官である。そして、バイデン政権の対中強硬姿勢の中心にいるのは、アントニー・ブリンケン国務長官である。

 しかしながら、バイデン政権は対中強硬一辺倒ではない、というのが私の見立てだ。それは、対中強硬ではない、ジェイク・サリヴァンが国家安全保障問題担当大統領補佐官として政権内に入っているからだ。サリヴァンは中国との競争は破滅に向かわない方向で行うべきという論文も書いている。

 そして、重要なのは、サリヴァンが「産業政策(industrial policy)」に注目している点だ。日本では経済産業省が2021年6月4日「経済産業政策の新機軸」という構想を発表したが、その中にサリヴァンの発言も引用されている。今回のG7会合で、「コーンウォール・コンセンサス」メモという文書が配布されたそうだが、この肝いりはサリヴァンであり、日本の経産省からの人員もメモ作成にかかわったと考えられる。国家とビジネスの関わるの部分はそのまま産業政策のことを示唆している。

 産業政策研究と言えば、古典的業績であるチャルマーズ・ジョンソン(Chalmers Johnson、1931-2010年、79歳で没)の『通産省と日本の奇跡-産業政策の発展 1925-1975(MITI And the Japanese Miracle: The Growth of Industrial Policy, 1925-1975)』(1982年)だ。新自由主義が隆盛となったここ30年ほど、産業政策について顧みられることはなかった。しかし、時代は産業政策の時代となりつつあるようだ。

 チャルマーズ・ジョンソンについては拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造 (四六判上製)』(2012年)で詳しく取り上げたが、チャルマーズ・ジョンソンに再びスポットライトが当たる日が来るのかもしれない。

(貼り付けはじめ)

「コーンウォール・コンセンサス」はこちらです(The ‘Cornwall consensus’ is here)

-G7で集まっている世界の首脳たちはグローバライゼーションが効率性と同時に脆弱性も生み出しているという主張を受け入れている。

ジリアン・テット筆

『フィナンシャル・タイムズ』紙

2021年6月11日

https://www.ft.com/content/aa45eccb-5e0e-477a-8278-db7df959e594

 

30年前、イギリス人の経済学者ジョン・ウィリアムソンは「ワシントン・コンセンサス(Washington consensus)」という言葉を作り出した。この言葉は、自由市場、グローバライゼーション推進に基づく様々な考えの集合体である。これらの考えをアメリカの指導者たちをはじめ世界各国の指導者たちは世界中で促進していた。

しかし、現在、新しい言葉が出てきている。それは「コーンウォール・コンセンサス(Cornwall consensus)」だ。

笑わないで聞いて欲しい。この言葉は、金曜日のコーンウォールでのG7各国の指導者たちによる会合に先立ち、アドヴァイザリーメモとして配布された文書のタイトルなのである。これは本当だ。7か国の学者と政策担当者たちが集まってつくられた委員会によって書かれた文書で、「新型コロナウイルス感染拡大からより良い未来を構築するための野心的な政策集」とされている。

このメモの内容はいささか曖昧で、大袈裟な考えを含んでいる。「世界規模の衛生上の問題についての対応におけるより広範な平等と団結」といった大仰な言葉が使われている。しかし、より詳細な提案も同時になされている。例えば、「金融安定理事会(Financial Stability Board)」と同様の「データとテクノロジー理事会(Data and Technology Board)」を創設し、世界規模でインターネットを監視すること、気候関連テクノロジーに関連する「ヨーロッパ原子力研究組織(CERN、European Organization for Nuclear Research)」の創設などが提案されている。

どちらにしても、このメモが示しているのは、「G7諸国は企業法人税を巡り一致協力して動く」という細心の動向が、新しいイデオロギーに沿って、西洋諸国が協力するという新しい段階に入ったということである。

投資家たちはどのように結論付けるだろうか?投資家の多くは冷ややかな笑いを送るだろう。結局のところ、G7での様々な会合は儀式の枠から出るものではなく、そこで出されるメモも儀式的な省庁の意味しか持たない。そして、「コーンウォール・コンセンサス」提案は、何かしら意味があるように思われるが、これからすぐに採用されるということもない。

しかし、この儀式的な表現を無視するのは、いかなるビジネスや投資家にとっても馬鹿げたこととなるだろう。多くの人類学者が指摘しているように、象徴は重要なのだ。それが「空っぽ(empty)」であったり、現実離れしたりしていても、象徴は、あるグループがどのように機能するかについての前提を反映し、補強しているものなのだ。そのため、今回の「コーンウォール・コンセンサス」メモは、前提がどのように変化しつつあるかを示す、示唆に富むスナップ写真ということになる。

このメモは極めて重要だ。投資家や企業の経営陣の多くが時代精神の絶え間ない大きな変化への対応に苦闘している。こうした人々はワシントン・コンセンサスが隆盛を極めた時代にキャリアをスタートさせた。私たち人類は、常に自分たちを取り巻く文化的環境に影響される生物であり、自分たちの信条を、思考のための「自然な」方法だとして取り扱っている。

ここに5つの取り上げるべき重要な点がある。第一に、今日の指導者たちは、政治上の、予想外の出来事の発生を恐れている。30年前、マーガレット・サッチャーやロナルド・レーガンといった政治上の最重要人物たちは、自由市場に基づいたグローバライゼーションは全ての人間に利益をもたらすと当たり前のように考えていた。今日の指導者たちは、自由市場の果実は人々の間に均等に行きわたらず、そのために人々からの反撃を誘発している(これがポピュリズムだ)。「包摂(Inclusion)」は新しく人々の間で頻繁に使われる言葉になっている。

第二に、G7各国の指導者たちは、グローバライゼーションと自由市場に基づいた競争は公立を生み出すと同時に脆弱性を生み出すということに気付いている。以前であれば、個別の各企業のインセンティヴによって、最適化された国境を越えた供給チェインを作ることができるだろうと指導者たちも考えた。現在では、世界規模のサプライ・チェインは、集合行為問題によって脅威に晒されているということを指導者たちは認識している。ビジネスにおいては、各企業が個別で利益が最大になるようにするため、ある中心点に集中する行動を取る傾向がある。しかし、そうした中心点とシステムが壊れると、大混乱に陥ってしまう。結果として、「回復力(Resilience)」という言葉もまたよく聞かれるようになっている。

第三に、G7での議論は中国の脅威によって活発化させられている。「コーンウォール・コンセンサス」メモの中に中国の名前は直接出ていない。しかし、先進的なテクノロジーのためだけではなく、医療資源と天然資源のためでもある世界規模でのサプライ・チェインの多角化を求める内容がメモには書かれている。遅ればせながら、西洋諸国の各政府は、世界規模でのチップの生産を台湾を中心としたハブに集中させたことが深刻な間違いであったことを認めるようになっている。西洋諸国の各政府はこの間違いを繰り返したくないと考えている。

第四に、微妙だが、根深いものとして、ビジネスと政府との相互関係がリセットされている真っ最中ということがある。ワシントン・コンセンサス隆盛時代、各企業はお互いに競争し合う独立したアクターと見られていた。そこに政府の関与はないとされた。現在は、政府とビジネスの間の「パートナーシップ」について語られている。

政府からの鑑賞が最小限の自由企業体制(Free enterprise)は現在でも重要視されている。しかし、「パートナーシップ」は、現在の社会的に重大な諸問題に対応するための枠組みとなっている。ワクチンの獲得、気候変動対応、中国とのテクノロジー上の競争といったものが現在の重大な問題となっている。

最後に、経済学は、バイデンのホワイトハウスやその他あらゆる場所で、現在再定義の中にある。経済学は狭い範囲の数理モデルに集中してきたが、現在は、「外部性(externalities)」として片づけられてきた諸問題に関心が集まっている。環境、医療衛生、社会的な諸要素がそれらにあたる。

皮肉屋たち(もしくは熱心な自由市場信奉者たち)は、これら全てはアメリカ政治における一時的な左傾化、もしくは新型コロナウイルス感染拡大に対する短期的な反応を反映しているに過ぎないと述べるだろう。

その可能性は否定しない。しかし、私はそうではないと考えている。結局のところ、このイデオロギー上の移行を引き起こしているのは、新型コロナウイルスだけではなく、中国の台頭、気候変動の脅威、そして、ソヴィエト連邦崩壊以降に西洋で蔓延した自由市場に関連する思い上がりの消滅、といった要因である。そして、この新しいシステム構築を目指す人々は政治上のあらゆる立場の人々の中で見ることができる。「コーンウォール・コンセンサス」メモを生み出した諮問グループを組織したのは、保守党が率いるイギリス政府だったのだ。

新しい時代精神(zeitgeist)を好ましいと思うか、よくないと思うか、それはどちらも起きるだろうが、これを無視することは誰にもできない。歴史が示しているのは、知的な前提が変化する場合、それは緩慢に進む。楕円型の振り子は長期間にわたって揺れ続ける。儀式的な人工産物は時に重要性を持つ。「コーンウォール・コンセンサス」メモはそうしたものの一つとなるだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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