古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:白人優越主義

 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。  アメリカでも、西側先進諸国でも、移民をバックグラウンドにした人々に対する攻撃が増加している。ヨーロッパ諸国では、白人による非白人への攻撃が起きている。また、アメリカでも同様の事象が起きている。アメリカの場合はネイティヴアメリカンの人々以外は、全員が元を辿れば別の国や地域からやって来た人々であり、移民や移民の子孫同士で嫌い合って、攻撃をしているという滑稽なことになっている。

 このような状況に対して、人種差別は良くない、外国人を嫌うことは良くない、それぞれ悪いことだというのが社会の前提になっている。それは全くその通りだ。これに異論を挟むことはできないし、物理的な攻撃を加えることは誰にしても犯罪行為であって、きちんとした裁判を行い、判決を確定させた上で、刑を執行しなければならない。法の下に差別があってはならない。

 下記論稿は、ドイツ国内での移民や移民のバックグラウンドを持つ人々への物理的な攻撃を行った過激派に関する書籍の内容を紹介する内容となっている。ドイツでは2000年代から、反移民思想を掲げる「国家社会主義地下組織」が組織され、実際に物理的な攻撃を実施し、複数の人々が殺害されるということが起きた。ドイツ警察の対処が遅かったために、このような考えが広がり、それが「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭を許したということになっている。
 私は、このような人種差別や外国人排斥に反対する。しかし、同時に、このような考えを持つ人々が生まれながらにそのようになったとは思わない。こうした考えを持つ人々はドイツ東部に多いとされている。ドイツは1989年に統一を果たしたが、旧東ドイツの人々は体制の大変化に戸惑い、ついていけず、置いてけぼりにされた。西側の人々から蔑まれ、待遇の良い職にありつくこともできず、結局、外国人や移民と低報酬の仕事を争うことになった。結果として、彼らには不満が鬱積し、それの向く先が移民や移民のバックグラウンドを持つ人々ということになった。彼らとて、安定した生活ができていれば、そのような考えを持つことはなかっただろう。「衣食足りて礼節を知る」という言葉もあるが、「衣食」が満足いくものであれば、そのようなことはなかった。

 また、資本主義の行き過ぎによる、優勝劣敗があまりにもきつく効きすぎてしまったのも問題だ。資本側は労働者を安くでこき使いたい。そのためには、国内で安く使える人々の大きなグループ、層を作らねばならない。貧乏人の大きな集団を作らねばならない。国内に「発展途上国」「貧乏国」を作る必要がある。ドイツであれば、ドイツ東部がそうだ。そして、そうした人々の不満は移民や外国人、移民のバックグラウンドを持つ人々に向けさせる。そうして、人種差別や排外主義が台頭してくるのである。一部政治家たちは自分たちの票を獲得し、政治家としての生活を守るために、このような劣情を利用する。日本でも全く同じことが起きている。

 犯罪行為をした者たちをただ罰するだけでは犯罪を抑止することはできない。大きな視点で、構造的に見ていく必要がある。「人種差別は駄目」「排外主義は駄目」とお題目のように唱えるだけでは何の意味もない。それを解決するためには現状を把握し、分析しなければならない。

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ドイツの極右の台頭は新しい現象ではない(Germany’s Far-Right Surge Isn’t New

-2000年代初頭にドイツが致命的な過激派に立ち向かうことができなかったことは、警告となるはずだ。

エミリー・シュルテイス筆

2024年6月1日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/15/germany-far-right-neo-nazi-terrorism-europe-nsu-murders-white-nationalism/

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ドイツのミュンヘンで国家社会主義地下組織の犠牲者たちの写真を掲げる抗議者たち(2018年7月11日)

2011年11月のある朝、ドイツ東部の都市アイゼナハの銀行に2人組の男が押し入り、銀行の窓口職員をピストルで殴り、約99000ドルを盗んだ。地元警察が男たちを近くの道路脇のキャンピングカーまで追跡した後、銃声が鳴り響き、車は炎上した。警察官は車内で2人の男の死体を発見した。1人がもう1人を撃ち、銃を自分に向けたのだった。その日のうちに、アイゼナハで起こったことを聞いた約100マイル離れた女性が、自分のアパートにガソリンをまいて火をつけ、逃走した。

ウーヴェ・ベンハルトとウーヴェ・ムンドロスという2人の男は、典型的な銀行強盗ではなかった。ベアテ・ツェーペという女性とともに、彼らはドイツから移民を排除し、この国の白人としてのアイデンティティを脅かすと思われる人物を排除しようとするネオナチ・テロリストのトリオを形成していた。そして警察の捜査は、一連の銀行強盗以上のものを発見した。ベーンハルトとムンドロスは、彼らが率いる地下テロ集団である「国家社会主義地下組織(the National Socialist UndergroundNSU)」の資金源として金を盗み、当局の目を逃れながらドイツ全土で連続殺人を計画、実行していた。

NSUに関する暴露が初めて明らかになったとき、ドイツを根底から揺るがしたが、この話は国外では比較的知られていない。ジャーナリストのジェイコブ・クシュナーの新著『目を背ける:殺人、爆弾テロ、そしてドイツから移民を排除しようとする極右キャンペーンの物語(A True Story of Murders, Bombings, and a Far-Right Campaign to Rid Germany of Immigrants)』は、その状況を変えようとしている。

クシュナーは次のように書いている。「人種差別的な過去を償ったと思いたがっていた国は、暴力的な偏見が現在のものであることを認めざるを得なくなる。アドルフ・ヒトラー率いるナチスがホロコーストでユダヤ人やその他の少数民族を死に追いやってから60年、ドイツの警察はバイアスに目がくらみ、周囲で繰り広げられている人種差別的暴力に気づくことができなかった。この事件は、ドイツ人に、テロリズムは必ずしもイスラム教徒や外国人によるものではないことを認めさせるだろう。多くの場合、テロリズムは自国の白人によるものだ。そして、他に類を見ない大移動の時代において、白人テロの標的はますます移民になっている」。

『目を背ける』は主に被害者の家族や、右翼過激派テロの根絶に積極的に努めた人々の視点を通して語られており、3部構成になっている。クシュナーはまず、1990年代後半にベーンハルト、ムンドロス、ズシャペがドイツ東部の都市イエナでどのように過激化したかを説明する。彼らだけで自分たちの意見を過激化させた訳ではない。ベルリンの壁崩壊後、ドイツに入国する亡命希望者の数が急増した。これらの新たな到着者たちは、少数の注目を集める暴動や難民住宅への攻撃を含む、抗議活動や暴力にしばしば遭遇した。当時イエナでは右翼過激派の活動が盛んであった。それは、一種の二重スパイ(double agent)であるティノ・ブラントによって率いられていた。ブラントはネオナチの活動を報告することになっていた政府の情報提供者を務めながら、極右イデオロギーを推進する自分のグループに資金を提供していた。

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ドイツ・ツヴィッカウのウーヴェ・ベンハルト、ウーヴェ・ムンドロス、ベアテ・ツェーペの住居だったアパートの焼け跡(2011年11月13日)

本書の第2部では、3人の過激派が13年間にわたり、ドイツ当局の目をかいくぐって、ドイツ全土で10人の移民を殺害する計画を立て、実行に移した経緯が描かれている。2011年に銀行強盗事件が起きてから、この殺人事件は解決に至った。クシュナーは、NSUが10年間も殺人を繰り返した責任の多くは当局ン位あると主張している。当局の捜査は、移民が麻薬や組織犯罪に関与しているという、ドイツのメディアに後押しされた有害な風説(tropes)に誘導されていた。

被害者家族の直接の証言は、警察官の被害者に対する思い込みがどれほど被害者を迷わせたかを力強く物語っている。たとえば、2006年にドルトムント市内のキオスクで父メフメト・クバシクを殺害されたガムゼ・クバシクは、メフメトの違法行為について母親とともに何時間も尋問されたと説明した。ガムゼ・クバシクは「もう聞いていられなかった。私たちはまるで犯罪者のようだった」と証言した。

捜査のいくつかの側面は馬鹿馬鹿しいものに近づいている。たとえば、2005年にベーンハルトとムンドロスがニュルンベルクのケバブスタンドでイスマイル・ヤサールを射殺した後、ドイツ警察はヤサールがスタンドで麻薬を密売していたという説を執拗に追及した。警察は自分たちの仮説を裏付けるために、スナック・バーを開いて、ケバブとソーダを秘密裏に売り、1年間と約3万6000ドルの税金を費やし、誰かがやって来て麻薬の購入について尋ねてくるのを待った。しかし、誰も来なかった。「なぜなら、ヤサールが麻薬売人ではなかった」とクシュナーは書いている。ヤサールの息子ケレムは、「もし父親が生粋のドイツ人だったら、彼の殺人はすぐに解決されただろうと感じずにはいられなかった」と述べている。

しかし、クシュナーはまた、ドイツ社会全体が第二次世界大戦後の反移民、白人ナショナリズムの範囲を認めることに満足してきたと主張する。クシュナーは次のように書いている。「白人ナショナリズムは決して消えてはいなかった。ホロコーストを引き起こしたのと似たような出来事、つまり、ポグロム(pogroms 訳者註:ユダヤ人大虐殺)、ユダヤ人経営の企業に対する攻撃、ユダヤ人の家屋からの追放が、いまや移民に対しても起こっている。特にドイツ東部では、1990年代にネオナチや右翼過激派が急増し、東部全域で暴力行為を行ったスキンヘッドを指して、その時期は 『野球のバットの時代(baseball bat years)』と呼ばれることもあるほどだった」。

この本の第3部では、NSU裁判について取り上げており、この裁判は2018年に 10件の殺人罪とトリオの共犯者数名に対するズシェペの有罪判決で最高潮に達した。この判決は、殺害された人々の家族に冷たい慰めだけをもたらした。「NSUは私の父を殺害した。しかし、捜査当局は父の名誉を傷つけた。警察は父を二度目に殺害した」とガムゼ・クバシクは語った。

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2015年12月9日、ミュンヘンで殺人罪の裁判を受けるツェーペ

ドイツがNSU事件から十分に教訓を学んだと誰も信じないように、クシュナーはそれを、ドイツの移民コミュニティのメンバーに対する憎悪と暴力のより最近の事例と結びつけている。NSU スキャンダルは、ドイツの公の場から完全に消え去った訳ではないが、裁判が終わった後は新聞の見出しから外れ、他の右翼過激派暴力事件をきっかけに言及されることが最も多くなった。2020年2月、ドイツ中部の都市ハーナウで右翼過激派が人種差別的な暴挙で2軒のシーシャバーをターゲットに移民のバックグラウンドを持つ9人を殺害した。2022年11月、54歳の男が政治家、ジャーナリスト、その他の公人らに脅迫文を送った罪で約6年の懲役刑を言い渡された。その中にはフランクフルトのトルコ出身弁護士で、数人のNSU犠牲者の遺族の代理人を務めたセダ・バサイ=ユルディスも含まれていた。脅迫状には「NSU 2.0」と署名されていた。

ドイツにおける白色テロリズム(white terrorism 訳者註:右派が左派を攻撃するテロ)撲滅の問題点の1つは、反移民感情が国政でも健在であることだ。ドイツの調査報道機関コレクティブは1月、右翼過激派が昨年末に秘密裏に会合し、ドイツ国民を含む数百万人の移民のバックグラウンドを持つ人々を国外追放する計画について話し合っていたことを明らかにする暴露報告を発表した。ベルリン郊外のポツダムでの会合に出席した者の中には、ドイツ議会で77議席を占め、当時全国での投票率が22%だった極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部政治家も含まれていた。コレクティブ報告書とその発表以来、無関係なスキャンダルが相次ぎ、同党の支持率は現在16%に低下したが、最近のヨーロッパ議会選挙では2019年よりも5%ポイント近く良い成績を収めた。

移民のバックグラウンドを持つ人々の「再移住(remigration)」に関するこれらの過激派の計画は、誰がドイツに帰属し、誰が属さないのか、そして最終的には誰が決定するのかをめぐる戦線に光を当てている。多くの人にとって、これらはまた、ナチスの歴史をどのように処理してきたかを誇りに思っている国において、ドイツ当局が極右イデオロギーによってもたらされる脅威を過小評価していたことを思い出させるものでもあった。コレクティブの報告書はドイツ国民の間で広範な反発を引き起こし、数百万人が街頭に出て「二度と起こさない」と宣言した。

それでもAfDは、ベーンハルト、ムンドロス、ズシャペが育ったチューリンゲン州と、彼らが本拠地を置いていたザクセン州を含む、今秋のドイツ東部3州の選挙で勝利を収める見通しだ。AfDの政治家たちは引き続き、ドイツから移民を排除したいと考える人々の、議会における代弁者だ。「これらの新たなネオナチたちは、ドイツが過去の恐怖を思い出すことに執着しすぎていると信じる政党のレトリックに勇気づけられていると感じている」とクシュナーはAfDについて書いている。

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2013年56日、ミュンヘンでのNSU殺人裁判の初日、オーバーランデスゲリヒト・ミュンヘン裁判所の法廷入口の外で機動隊と格闘するデモ参加者たち。

『目を逸らす』はドイツ国内の物語だが、クシュナーは関連性を引き出して、反移民右翼過激派の暴力に立ち向かうことができていないことが、西側民主政治体制諸国全体の問題であることを例示している。具体例は無数にある。サウスカロライナ州チャールストンの教会での黒人信者たちの虐殺、ニュージーランドのクライストチャーチにある2つのモスクの礼拝者たちの虐殺、あるいはテキサス州エルパソのウォルマートでメキシコ系アメリカ人やその他の買い物客たちの虐殺などが挙げられる。NSUトリオの原動力となった核心的なイデオロギー、つまり白人至上主義(white supremacy)は国境を越えている。

このため、NSUの記事は、白色テロリズムという自国の問題に取り組むアメリカへの警告となっている。右翼過激派によるテロ攻撃は近年増加傾向にあり、名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation LeagueADL)によると、主に白人至上主義者らによって行われたこのような攻撃により、2017年から2022年の間に、アメリカで58人が死亡した。「私たちが目を背け続ければ、ドイツの危機や大虐殺から逃れることはできないだろう」とクシュナーは結論付けている。

※エミリー・シュルテイス:ロサンゼルスを拠点とするジャーナリストで、ヨーロッパ諸国の選挙と極右勢力の台頭を取材している。ツイッターアカウント:@emilyrs

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 共和党のドナルド・トランプ大統領と民主党のジョー・バイデン前副大統領との間の討論会で、最後の方だったと記憶しているが、白人優越主義(White Supremacism)に対して、トランプ大統領は直接非難するような言葉を使わなかった。白人優越主義とつながりがあるプラウド・ボーイズ(Proud Boys)に対して、「スタンバイ(stand by)」するように求めた。

 このスタンバイは日本語にもなっており、「準備を整えていつでも出られるようにしておく、待機しておく」という意味で使われる。インターネット上の英和辞典で調べると、「そばにいる、(何もしないで)傍観する、(いつでも行動できるように)待機する、(放送開始に備えて)待機する、スタンバイする」という意味が書かれている。

 トランプ大統領が「何もしないで傍観する」という意味で使ったのなら、プラウド・ボーイズの過激な行動をしないように求めるという言葉になるし、「いつでも行動できるように待機する」という意味で使ったのなら、プラウド・ボーイズには次の行動に備えて準備をしておくことを求めることになる。今は動いてはいけないということでは一緒だが、その意味は大きく異なる。

 私は下の記事を読んだときに、トランプ大統領の「スタンバイ」は「いつでも行動できるように待機する」のことだったのだろうと考えた。下の記事では、不正投票を防ぐために、自発的に監視団を組織したいとトランプ陣営が考えている、という内容になっている。トランプ大統領はこの監視団にプラウド・ボーイズに参加するように求めているのだろう。

 軽くでも武装したプラウド・ボーイズの面々が選挙に関連する施設の周辺にたむろするということになれば、これは選挙に関わる人、選挙を運営する人たちから実際に投票に行く有権者たちまで大きな心理的圧迫を与えることになる。以前のアメリカ、特に南部では、白人たちが非白人たちが投票に行かないように、投票に行けないように様々な手段を講じた。トランプ陣営の派遣する監視団はこれに近いものになる。

 そうなれば、このトランプ陣営派遣の監視団に対して、反対する組織やグループも周辺にたむろすることになるだろう。Antifaなどは出てくるだろう。

 そうなれば考えられるのは衝突であり、流血の惨事である。死亡者も出るほどの事件が全米各地で起きることが考えられる。それを防ぐために、各州知事(大統領選挙は各州知事が大きな権限を持っている)はアメリカ軍の出動を要請するようになる。

 アメリカ合衆国憲法で認められている存在として「ミリシア(militia)」がある。これは民兵組織と訳されるが、アメリカ独立戦争(革命)で、住民たちが自分たちの銃を手にとって集まってイギリス軍と戦って独立を手にしたということが由来だ。アメリカの銃規制もこのミリシアの存在意義とも関連している。

 ミリシアは政府が圧政的に自分たちの生活や自由を侵害するなら抵抗し、その政府を倒すこともできる。ミリシアは今回の大統領選挙でもトランプ応援の面から日本でも報道されている。

 おそらく、トランプ陣営派遣監視団にはミリシア集団も参加するだろう。そこに米軍がやってきて、自分たちの活動を阻害するような動きに出れば、急進的なミリシア集団は、「米軍が圧政的な政府の手先になっている」ということで省とすることも考えられる。これではもう内戦(civil war)状態である。

 日本では南北戦争と習うが、英語で言えば「Civil War」と書く。アメリカでただ一度、分裂(南北間での)の危機をはらんだ内戦、ということである。先ごろ、ミシガン州知事誘拐計画で逮捕されたミリシア集団は、「内戦を起こすこと」を目的にしていた。今回の選挙が全米各地で内戦状態を生み出すことになれば、「デモクラシーの総本山」アメリカの威信は地に墜ちる。

(貼り付けはじめ)

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202010108:17 午前7時間前更新

焦点:トランプ陣営が投票監視、民主優勢地区に「軍団」動員へ

[フィラデルフィア 7日 ロイター] - 11月の米大統領選を控え、共和党は期日前投票所や郵便投票専用の投函箱を監視するとして、志願者を大規模に動員する構えだ。トランプ大統領は有権者の不正行為がまん延するという根拠のない主張を行っており、そうした主張を裏付ける証拠を見つけようというのだ。

10月7日、11月の米大統領選を控え、共和党は期日前投票所や郵便投票専用の投函箱を監視するとして、志願者を大規模に動員する構えだ。写真は4月、ウィスコンシン州ベロ糸で不在者投票を確認する選挙のボランティア(2020年 ロイター/Daniel Acker

ペンシルベニア、フロリダ、ウィスコンシンといった激戦州で、共和党の投票監視人らが不正探しに乗り出す。特に目を光らせようというのが、新型コロナウイルス感染の大流行で利用が拡大する郵便投票だ。この活動に関わる党幹部ら20人余りが明らかにした。

幹部らは、これまでに何人の志願者を受け付けたか明らかにしていないが、トランプ氏陣営は今年の選挙戦序盤で、目標は全米で5万人としている。

幹部らによると、監視人らの使命は不正行為の写真や動画を撮り、大統領選の結果を巡って法廷闘争が起きた場合に、共和党側の主張を裏付ける証拠として役立てることだ。

米国は今年、武装した市民グループが抗議活動家と各地の街頭で衝突するなど、緊張感に包まれている。そうした中で、こうした監視行為が投票を巡る小競り合いをエスカレートさせかねないと懸念する声も出ている。

共和・民主両党関係者が投票を監視すること自体は、米国の選挙で18世紀から行われている通例の慣習だ。さまざまな州法や地方自治体の規則が適用される。

もっとも投票権活動家らは、今年のトランプ氏陣営のやり方は非常に異例だと指摘する。期日前投票に焦点を絞るのも異例なら、民主党がインチキな大量の郵便投票で選挙を「盗もう」としているという、大統領およびその支持者らの根拠のない主張の証拠集めに重点を置いているのも異例だという。

この「トランプ軍団」への志願者を募るため、9月にツイッターに投稿された動画では、大統領の息子、ドナルド・トランプ・ジュニア氏が、民主党が「不正な投票用紙を数百万枚追加する」計画だという根拠のない主張を展開した。

トランプ氏は、11月の選挙結果が出たら受け入れると確約するのを繰り返し拒んでいる。9月29日の大統領選候補者討論会では支持者らに対し「投票に行って注意深く監視しろ」とあおった。

激戦州での郵便投票の申請者数は、民主党の方が大幅に多くなっている。つまり投票所での投票が始まる前の情勢では、バイデン副大統領がリードする展開となりそうだ。

歴史的に共和党が郵便投票を活用してきたフロリダ州でも、郵便投票を申請した民主党員が約250万人と、共和党の約170万人を上回っている。ペンシルベニア州では民主党の申請者数が150万人超と、共和党の約3倍に達した。

共和党側は、郵便投票を逐一監視する方針を示している。1人で複数の投票用紙を投函する様子を捉えるとして、監視カメラも設置する計画だ。

一部の州は第三者に投函を託す代理投函を認めるが、ペンシルベニア州など複数の州はこれを禁止している。政治的な対立が激しい同州バックス郡の共和党責任者、パット・ディオン氏は「全米的に監視人や監視カメラ、弁護士があふれ、混乱しそうだ」としながらも、共和党の取り組みを支持している。

民主党側と投票権活動家らは、トランプ氏が投票を保護するのではなく抑圧しようとしていると訴える。

超党派の投票権団体、ブレナン・センターのミルナ・ペレズ氏は「きちんと資格のある有権者を怖がらせ、投票に行くと危険な目に遭うと思わせる試みだ」と言い切った。

さらに民主党側は、トランプ氏陣営の活動について、負けた場合に郵便投票結果に異議を唱えるための下地作りだと主張。勝敗の判定を認めず、議会か法廷に決定を委ねようとする可能性があるとしている。

トランプ氏陣営の報道官、シア・マクドナルド氏は「トランプ大統領のための投票監視志願者は、全てのルールが公平に適用されることを見届けるよう訓練を受ける。不正が指摘されれば、トランプ氏陣営は法の執行を求めて法廷に訴える」との声明を出した。

<共和党の存在を知らしめよ>

共和党全国委員会が連邦裁判所の許可を得ず、こうした「投票の安全確保」活動を自在に支援する大統領選は約40年ぶりだ。過去にニュージャージー州の選挙で共和党が、拳銃を所持して「投票セキュリティー・タスクフォース」と書かれたユニフォームを来たチームをマイノリティー住民の居住地域に動員したのを受け、1982年の同意判決でこうした活動は制限されていた。

しかし、同意判決は2018年に期限を迎え、更新を求める民主党の訴えは連邦裁判所で棄却された。

2016年の大統領選でトランプ氏が辛勝したウィスコンシン州の共和党幹部によると、同州では監視人志願者らを民主党優勢の郡に配備する予定だ。

やはり重要な激戦州のペンシルベニア州も、監視活動の中心地となる見通し。同州の選挙人20人を確保できなければ、トランプ氏は再選の道を断たれるも同然なのだ。

共和党が支持者に送った電子メールによると、同党は同州フィラデルフィア郊外のモンゴメリー郡で向こう2週間、約50人の志願者を相手に、11カ所の郵便投票投函箱を監視するための仮想訓練を何度か行う。

ロイターが閲覧したメールには「共和党員がそこにいることを知らしめ、不正が見逃されることはないと有権者に分からせることが極めて重要だ」と書かれていた。

民主党も有権者を守るための独自活動を始めたが、選管に公式登録する投票監視人や弁護士団の動員など、より伝統的な手法を取っている。

<法廷闘争>

選挙専門家らによると、各地の選挙法は投票所での投票を念頭に設計されているため、郵便投票の爆発的な拡大によって、法のあり方が問われることになりそうだ。

フランクリン・マーシャル・カレッジの政治科学教授、テリー・マドンナ氏は、期日前投票所に立ち入ろうとしたり、投票用紙を投函しようとする有権者に盾突いたりする監視人についての規則は、存在しないという。「全ては選挙管理人の判断に委ねられる。選挙管理人が同意した行為は許される。そう考えると、大規模な法廷闘争につながる可能性が高そうだ」と予想する。

ペンシルベニア州フィラデルフィアでは9月下旬、期日前投票所に立ち入ろうとしたトランプ氏陣営関係者が選管理当局から追い返され、既に訴訟に発展。市当局者は、同州の規定では期日前投票所で選挙陣営関係者が「監視」行動を行う権利はないと表明。トランプ氏陣営は即座に提訴し、現在係争中だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 これまでにもアメリカにおける戦闘的な左派グループであるantifaについての記事をご紹介しました。今回もまた、ピーター・ベイナートによる論稿をご紹介します。ベイナートの基本的な立場は、「antifaの暴力には反対だが、それを反対派が過剰に強調することにも反対」というものです。トランプ大統領が、シャーロッツヴィルでの事件が起きた後、白人優越主義やネオナチを明確に批判せずに、ぶつかり合った両者が悪い、という言い方をして批判を浴びました。

 

 白人優越主義やネオナチとそれらを信奉する人々による暴力はまずもって批判されねばなりません。白人優越主義やナチズムが席巻し、それが政権のイデオロギーになった時に、人類に大きな不幸をもたらしました。

 

 こうした白人優越主義やネオナチに対抗するために、反ファシズム運動、antifaが生まれたという歴史を考えると、その正当性が高いということは言えます。しかし、一般の人々を威圧するような行動が出てくるようになると話は別です。ポートランドで開催されたパレードで、参加者の中にトランプがかぶっている赤い帽子をかぶっている人がいれば、乱入する、という警告を出したのはやりすぎであり、自分たちの正義を押し付けて、かえって人々を抑圧し、彼らが反対していることを自分たちがやっているということになります。

 

 正義が暴走する、目的が手段を正当化する、という言葉がありますが、これは右派であろうが、左派であろうが、誰であろうが、許されることではありません。常に自分たちの主張に瑕疵はないか、間違っていないかということを顧みなければ、自分たちが抑圧する側になるということが起こります。そこは常に気を付けたいものです。

 

(貼りつけはじめ)

 

antifaに関してトランプが間違っていること(What Trump Gets Wrong About Antifa

―トランプ大統領が左派の暴力について懸念を持っているのなら、暴力的な左派の台頭を招いている白人優越主義運動と戦うことで左派の台頭の対処を開始することができる

 

ピーター・ベイナート筆

2017年8月16日

『ジ・アトランティック』誌

https://www.theatlantic.com/politics/archive/2017/08/what-trump-gets-wrong-about-antifa/537048/

 

火曜日の記者会見で、ドナルド・トランプは、彼が「オルト左派(alt left)」と呼ぶものについて長広舌をふるった。トランプは、先週末のシャーロッツヴィルで起きた事件について、白人優越主義者だけが非難されるべきではないと主張した。トランプは次のように明言した。「白人優越主義者たちの反対側にいたグループもまた大変に暴力的だった。これは誰も言いたがらないが」。

 

私はトランプの最後の言葉は正しくないということを自信をもって言える。本誌9月号には私の論稿「暴力的左翼の台頭」も掲載されている。その中で、私は、トランプが「誰も議論したくない」と主張している現象について議論している。トランプ大統領の発言は正しい。シャーロッツヴィルやその他の場所で、左派の活動家たちが振るう暴力が深刻な問題となっている。トランプ大統領が間違っているのは、左派と白人優越主義を比較可能なものと主張していることだ。

 

トランプが「オルト左派(この言葉が悪いということを後ほど説明する)」と呼ぶものは、antifaだ。Antifaは、反ファシスト(anti-fascist)を縮めた言葉だ。antifaの運動は1920年代から1930年代にかけてドイツ、イタリア、スペインの路上でファシストと戦った戦闘的左派にまで遡ることができる。1970年代から1980年代、1990年代にかけて、イギリスとドイツの人種差別に反対するパンクたちが、音楽シーンに浸透しつつあったネオナチのスキンヘッドたちを追い出そうとした。パンクを通じて、反人種差別行動と自称したグループ、のちの反ファシスト行動、antifaがアメリカで勢いを増していった。 antifaはトランプ時代になって爆発的な成長を遂げている。それには明確な理由がある。それは、白人優越主義が公の場に出てくるようになり、それに対抗するために人々が動員されるようになったからだ。

 

アナーキズム運動の一部として、antifaの活動家たちは、政府の政策を変更させることよりも直接行動で白人優越主義と戦っている。彼らは白人優越主義者たちを公の場で特定しようとし、彼らが失職し、アパートから追い出されるようにしようとしている。彼らは白人優越主義者のデモに乱入する。時には暴力が伴う。

 

私は論稿の中で同意したように、彼らの戦術の中にはトラブルを引き起こすだけのものが存在する。戦術のためにかえってマイナスになることがある。それは、保守派がantifaの暴力を自分たちの正当化や白人優越主義者たちの暴力の免罪に使うからだ。これはトランプが記者会見の時に行ったことだ。戦略的にもマイナスだ。それは、白人優越種者たちが自分たちを集会の自由の権利を侵害されている被害者であると描写するからだ。道徳的にもマイナスだ。それは、antifaの活動家たちはこの権利を蹂躙しているからだ。暴力を使用することで、公民権運動の白人優越主義との闘いにおける道徳的な遺産を否定している。 そして、人種差別主義者たちが集まることを否定することで、ACLUの道徳的な遺産を拒否している。1977年、ACLUは、ネオナチがイリノイ州スコーキーで行進する権利を守るために連邦最高裁まで戦った。

 

antifaの活動家たちはまじめだ。彼らは、自分たちの行為は弱い立場の人々が傷つけられることから守っていると純粋に信じている。コーネル・ウエストは、シャーロッツヴィルで自分たちが行ったのはこれだと主張している。しかし、antifaが主張している反権威主義は、根本的に権威主義的だということが言える。それは、antifaの活動家たちは誰も選挙で選ばれていないのに、「この人の考えは醜いので公の場で表明することはできない」ことを決めることができるという主張は権威主義的だ。このような反民主的、正統ではない権力は腐敗する。これは今年4月にオレゴン州ポートランドで起きたことが示している。Antifaの活動家たちは、ポートランドのローズフェスティヴァルのパレードで共和党の地方委員会が参加する場合に、トランプ大統領がかぶっている赤い帽子をかぶっている人々が一緒に歩く場合には、パレードに乱入するという警告を発した。Antifaの警告のために、共和党の地方委員会は、物理的な暴力や脅迫のために、有権者登録ができないと主張した。

 

だから、antifaは、保守陣営の創造の産物ではない。 リベラル派こそが対峙しなければならない道徳的問題なのだ。

 

しかし、antifaが問題であると発言することは、トランプが行ったように、白人優越主義と同等の問題だと示唆することとは違う。「オルト左派」という言葉を使うことは、存在しない道徳的な問題であると主張することである。

 

第一に、antifaは、暴力を使っているが、白人優越主義者たちが使うほどのレヴェルの暴力を使ってはいない。シャーロッツヴィルで殺人を犯したのは、antifaの活動家ではなく、ナチスの信奉者であったことは偶然ではない。名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation League)によると、2007年から2016年までの10年間で、右派過激派は372件の政治的な動機を持った殺人を犯した、ということだ。左派の同様の事件はこの数字の2%以下に過ぎない。

 

第二に、antifaの活動家たちは、オルト右翼のように権力を掌握していはいない。白人優越主義、キリスト教優越主義はアメリカ史の中の長い期間、アメリカ政府の政策となってきた。アナーキズムはそうではなかった。アメリカの公園や政府機関の建物にミハイル・バクーニンの銅像がないのはそのためだ。Antifaにはスティーヴ・バノンのような人物はいない。バノンは、彼が参加していた「ブライトバート」について、「オルト右翼の討論の場」と呼んでいる。そして、現在はホワイトハウスで働いている(訳者註:その後は更迭された)。antifaにはジェファーソン・ボーリガード・セッションズ三世司法長官のような人物はいない。彼のミドルネームは南軍の将軍の名前で、ファーストネームは、南部連合の大統領の名前である。また、セッションズはNAACPを「反米的」と呼んだ。It boasts no equivalent to Alex Jones, アレックス・ジョーンズはドナルド・トランプを「素晴らしい」と称賛した。antifaの社会に関する考えは「オルト右翼」の考えほど有害ではないが、考えを実現するだけの力を持っていない。

 

antifaの考えは有害ではない。antifaの活動家たちは大量虐殺や強制奴隷労働を行った政権や体制を称賛しない。彼らのほとんどはアナーキストだ。アナーキズムは現実的なイデオロギーではない。しかし、アナーキズムはある特定の人種や宗教の人々を人間以下の存在と描くようなイデオロギーではない。

 

ドナルド・トランプがantifaを弱体化させたいと望むなら、自分自身の偏見をなくすように最大限の努力をすべきだ。彼の偏見に対抗して、antifaは人々を動員しているのだ。シャーロッツヴィルのような場所で南軍の銅像を降ろすことは良いスタートとなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)

アメリカの戦闘的左派グループについての論稿をご紹介します③

 

 古村治彦です。

 

 これまでにもアメリカにおける戦闘的な左派グループであるantifaについての記事をご紹介しました。今回もまた、ピーター・ベイナートによる論稿をご紹介します。ベイナートの基本的な立場は、「antifaの暴力には反対だが、それを反対派が過剰に強調することにも反対」というものです。トランプ大統領が、シャーロッツヴィルでの事件が起きた後、白人優越主義やネオナチを明確に批判せずに、ぶつかり合った両者が悪い、という言い方をして批判を浴びました。

 

 白人優越主義やネオナチとそれらを信奉する人々による暴力はまずもって批判されねばなりません。白人優越主義やナチズムが席巻し、それが政権のイデオロギーになった時に、人類に大きな不幸をもたらしました。

 

 こうした白人優越主義やネオナチに対抗するために、反ファシズム運動、antifaが生まれたという歴史を考えると、その正当性が高いということは言えます。しかし、一般の人々を威圧するような行動が出てくるようになると話は別です。ポートランドで開催されたパレードで、参加者の中にトランプがかぶっている赤い帽子をかぶっている人がいれば、乱入する、という警告を出したのはやりすぎであり、自分たちの正義を押し付けて、かえって人々を抑圧し、彼らが反対していることを自分たちがやっているということになります。

 

 正義が暴走する、目的が手段を正当化する、という言葉がありますが、これは右派であろうが、左派であろうが、誰であろうが、許されることではありません。常に自分たちの主張に瑕疵はないか、間違っていないかということを顧みなければ、自分たちが抑圧する側になるということが起こります。そこは常に気を付けたいものです。

 

(貼りつけはじめ)

 

antifaに関してトランプが間違っていること(What Trump Gets Wrong About Antifa

―トランプ大統領が左派の暴力について懸念を持っているのなら、暴力的な左派の台頭を招いている白人優越主義運動と戦うことで左派の台頭の対処を開始することができる

 

ピーター・ベイナート筆

2017年8月16日

『ジ・アトランティック』誌

https://www.theatlantic.com/politics/archive/2017/08/what-trump-gets-wrong-about-antifa/537048/

 

火曜日の記者会見で、ドナルド・トランプは、彼が「オルト左派(alt left)」と呼ぶものについて長広舌をふるった。トランプは、先週末のシャーロッツヴィルで起きた事件について、白人優越主義者だけが非難されるべきではないと主張した。トランプは次のように明言した。「白人優越主義者たちの反対側にいたグループもまた大変に暴力的だった。これは誰も言いたがらないが」。

 

私はトランプの最後の言葉は正しくないということを自信をもって言える。本誌9月号には私の論稿「暴力的左翼の台頭」も掲載されている。その中で、私は、トランプが「誰も議論したくない」と主張している現象について議論している。トランプ大統領の発言は正しい。シャーロッツヴィルやその他の場所で、左派の活動家たちが振るう暴力が深刻な問題となっている。トランプ大統領が間違っているのは、左派と白人優越主義を比較可能なものと主張していることだ。

 

トランプが「オルト左派(この言葉が悪いということを後ほど説明する)」と呼ぶものは、antifaだ。Antifaは、反ファシスト(anti-fascist)を縮めた言葉だ。antifaの運動は1920年代から1930年代にかけてドイツ、イタリア、スペインの路上でファシストと戦った戦闘的左派にまで遡ることができる。1970年代から1980年代、1990年代にかけて、イギリスとドイツの人種差別に反対するパンクたちが、音楽シーンに浸透しつつあったネオナチのスキンヘッドたちを追い出そうとした。パンクを通じて、反人種差別行動と自称したグループ、のちの反ファシスト行動、antifaがアメリカで勢いを増していった。 antifaはトランプ時代になって爆発的な成長を遂げている。それには明確な理由がある。それは、白人優越主義が公の場に出てくるようになり、それに対抗するために人々が動員されるようになったからだ。

 

アナーキズム運動の一部として、antifaの活動家たちは、政府の政策を変更させることよりも直接行動で白人優越主義と戦っている。彼らは白人優越主義者たちを公の場で特定しようとし、彼らが失職し、アパートから追い出されるようにしようとしている。彼らは白人優越主義者のデモに乱入する。時には暴力が伴う。

 

私は論稿の中で同意したように、彼らの戦術の中にはトラブルを引き起こすだけのものが存在する。戦術のためにかえってマイナスになることがある。それは、保守派がantifaの暴力を自分たちの正当化や白人優越主義者たちの暴力の免罪に使うからだ。これはトランプが記者会見の時に行ったことだ。戦略的にもマイナスだ。それは、白人優越種者たちが自分たちを集会の自由の権利を侵害されている被害者であると描写するからだ。道徳的にもマイナスだ。それは、antifaの活動家たちはこの権利を蹂躙しているからだ。暴力を使用することで、公民権運動の白人優越主義との闘いにおける道徳的な遺産を否定している。 そして、人種差別主義者たちが集まることを否定することで、ACLUの道徳的な遺産を拒否している。1977年、ACLUは、ネオナチがイリノイ州スコーキーで行進する権利を守るために連邦最高裁まで戦った。

 

antifaの活動家たちはまじめだ。彼らは、自分たちの行為は弱い立場の人々が傷つけられることから守っていると純粋に信じている。コーネル・ウエストは、シャーロッツヴィルで自分たちが行ったのはこれだと主張している。しかし、antifaが主張している反権威主義は、根本的に権威主義的だということが言える。それは、antifaの活動家たちは誰も選挙で選ばれていないのに、「この人の考えは醜いので公の場で表明することはできない」ことを決めることができるという主張は権威主義的だ。このような反民主的、正統ではない権力は腐敗する。これは今年4月にオレゴン州ポートランドで起きたことが示している。Antifaの活動家たちは、ポートランドのローズフェスティヴァルのパレードで共和党の地方委員会が参加する場合に、トランプ大統領がかぶっている赤い帽子をかぶっている人々が一緒に歩く場合には、パレードに乱入するという警告を発した。Antifaの警告のために、共和党の地方委員会は、物理的な暴力や脅迫のために、有権者登録ができないと主張した。

 

だから、antifaは、保守陣営の創造の産物ではない。 リベラル派こそが対峙しなければならない道徳的問題なのだ。

 

しかし、antifaが問題であると発言することは、トランプが行ったように、白人優越主義と同等の問題だと示唆することとは違う。「オルト左派」という言葉を使うことは、存在しない道徳的な問題であると主張することである。

 

第一に、antifaは、暴力を使っているが、白人優越主義者たちが使うほどのレヴェルの暴力を使ってはいない。シャーロッツヴィルで殺人を犯したのは、antifaの活動家ではなく、ナチスの信奉者であったことは偶然ではない。名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation League)によると、2007年から2016年までの10年間で、右派過激派は372件の政治的な動機を持った殺人を犯した、ということだ。左派の同様の事件はこの数字の2%以下に過ぎない。

 

第二に、antifaの活動家たちは、オルト右翼のように権力を掌握していはいない。白人優越主義、キリスト教優越主義はアメリカ史の中の長い期間、アメリカ政府の政策となってきた。アナーキズムはそうではなかった。アメリカの公園や政府機関の建物にミハイル・バクーニンの銅像がないのはそのためだ。Antifaにはスティーヴ・バノンのような人物はいない。バノンは、彼が参加していた「ブライトバート」について、「オルト右翼の討論の場」と呼んでいる。そして、現在はホワイトハウスで働いている(訳者註:その後は更迭された)。antifaにはジェファーソン・ボーリガード・セッションズ三世司法長官のような人物はいない。彼のミドルネームは南軍の将軍の名前で、ファーストネームは、南部連合の大統領の名前である。また、セッションズはNAACPを「反米的」と呼んだ。It boasts no equivalent to Alex Jones, アレックス・ジョーンズはドナルド・トランプを「素晴らしい」と称賛した。antifaの社会に関する考えは「オルト右翼」の考えほど有害ではないが、考えを実現するだけの力を持っていない。

 

antifaの考えは有害ではない。antifaの活動家たちは大量虐殺や強制奴隷労働を行った政権や体制を称賛しない。彼らのほとんどはアナーキストだ。アナーキズムは現実的なイデオロギーではない。しかし、アナーキズムはある特定の人種や宗教の人々を人間以下の存在と描くようなイデオロギーではない。

 

ドナルド・トランプがantifaを弱体化させたいと望むなら、自分自身の偏見をなくすように最大限の努力をすべきだ。彼の偏見に対抗して、antifaは人々を動員しているのだ。シャーロッツヴィルのような場所で南軍の銅像を降ろすことは良いスタートとなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12








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 古村治彦です。

 

 今回は戦闘的左派antifaに関する論稿の後半部をご紹介します。著者のベイナートはここで重要なことを書いています。それは、暴力肯定、戦闘的であることは、自分たちを反対者と同じ存在にしてしまうという批判です。私はこの指摘ができるベイナートを尊敬しています。

 

 戦闘的左派antifaは若者を中心にして勢力を拡大しています。人種差別主義者や白人優越主義者たちが集まっている場所に出て行って、その集会の開催を阻止し、そのためには暴力を使います。これに対して、人種差別主義者や白人優越主義者、そして、トランプ支持者たちは自分たちの権利が侵害されているという意識を持ち、さらに先鋭化し、激しい行動に出ます。そして、被害者意識から更なる暴力をふるい、殺人事件まで起こしています。私は、白人優越主義、人種差別主義、ネオナチには一片の理解も共感もありません。しかし、こうした考えを信奉する人々とトランプ大統領を支持し、投票した人々をいっしょくたに扱うことには反対です。

 

 暴力は何も生み出さない、というきれいごとを言うつもりはありません。しかし、自分の権利が侵害される、生命が脅かされるといった場合に緊急的に暴力をふるうことは仕方がありませんが、それも過剰であってはなりません。

 

 ベイナートの論稿によると、antifaの活動家たちは、「人種差別主義者や白人優越主義者が集まって考えを述べることは、ひいては少数派に対する暴力を生み出すから、それを事前に阻止しているのだ」と述べているそうすが、これはアメリカの予防的先制攻撃(preemptive attack)の論理と変わりません。私は彼らの暴力肯定は、こうした論理から認められるものではないと考えます。

 

 また、antifaの活動家たちは、「どのアメリカ人が集会を行うことが許され、誰には許されないのか」を決める権威を持っている、と主張しているそうですが、これは大変思い上がった考えであると言わざるを得ません。何が正しいのかを決めるのは自分(たち)だ、という考えを持ち、それが実行されたとき、どれほどの悲劇が起きてきたかは人類の歴史を見れば明らかです。

 

 こうして見てくると、「正しさ」を自分たちで決めて、そのうえで反省がない場合、大きな失敗が起きるという人類の歴史でみられる現象が、現代のアメリカでも起きていると言わざるを得ません。トランプ支持者の中に人種差別主義者や白人優越主義者が混ざっていることは間違いありません。しかし、「トランプ支持者たちは人種差別主義者で、白人優越主義者で、ファシストだ」などと言うことは間違っています。彼ら全員がそうではないからです。そこをいっしょくたにして暴力をふるう対象にする、という行為は左派の持つ、寛容性や多様性というプラスの面を大きく損なうものです。

 

(貼り付けはじめ)

 

ポートランドはこうした状況を生み出すうえで最も重要な場所と言えるだろう。アメリカの太平洋岸北西部は長年にわたり、白人優越主義者たちを魅了した場所であった。白人優越主義者たちは複数の人種が共に生活する東部や南部からすると安息所のような場所だと考えた。1857年、オレゴン(当時は連邦直轄領)は、アフリカ系アメリカ人の居住を禁じた。1920年代まで、オレゴン州はクークラックスクラン(KKK)のメンバーが人口に占める割合が全米で最も高い州であった。

 

1988年、ポートランドのネオナチがエチオピアからの移民を野球のバットで殺害した。その直後、ポートランド州立大学の講師で『ファシストたちに抗して』の著者アレックス・リード・ロスは、「反ナチスのスキンヘッズたちが人種偏見に反対するスキンヘッズ(Skinheads Against Racial Prejudice)の支部を立ち上げた。その直後、ポートランドで反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)グループが結成された」と書いている。

 

トランプ時代の現在、ポートランドは反ファシズム闘争の砦となっている。トランプ当選後、数日にわたって、覆面をした活動家たちはデモ行進をしながらショーウィンドウを破壊した。今年の4月初旬、antifaの活動家たちは、ワシントン州に属するヴァンクーバー(オレゴン州の都市ポートランドの都市圏を形成している)で行われた「トランプと自由のためのラリー」に対して発煙筒を投げ込んだ。地元紙はこの時の大乱闘について、ライヴ会場での観客同士の押し合いへし合い(モッシュピットと呼ばれる)のようであったと書いた。

 

反ファシズム活動家たちがポートランドの82番街でのパレードを中止するように圧力をかけてきたとき、トランプ支持者たちは「マーチ・フォ・フリー・スピーチ」デモで対応した。デモの参加者の中に、ジェレミー・クリスティアンがいた。クリスティアンは屈強な男性で犯罪歴があり、アメリカ国旗を振り回していた。クリスティアンは人種に関する罵詈雑言を喚き散らし、ナチス式の敬礼を繰り返した。それから数週間後の今年5月25日、クリスティアンだと思われる男性がantifaを「パンクファンの尻軽女たちの集まり」と呼んでいる映像が公開された。

 

翌日、クリスティアンは電車に乗り、「有色人種」が都市を破壊していると叫び始めた。彼はたまたま乗り合わせていた10代の少女2人に絡んだ。1人の少女はアフリカ系アメリカ人で、もう1人はイスラム教徒であることを示すヒジャブをかぶっていた。クリスティアンは2人に対して、「サウジアラビアに帰れ」「自殺して果てろ」と言い放った。少女たちは電車の後ろに逃げ、3名の男性がクリスティアンと少女たちの間に立った。1人が「どうぞ、この電車から降りてください」と言った。クリスティアンはこの3人をナイフで刺した。1人は電車の中で出血多量で亡くなった。もう1人は病院に運ばれた後に死亡宣告された。1人は何とか命を取り留めた。

 

このサイクルは続いた。クリスティアンの事件から9日後、トランプ支持者たちはポートランドで再びデモを開催した。このデモでは、バークリーで反ファシズム活動家を殴打したチャップマンも姿を現し、参加者たちの称賛を受けた。antifaの活動家たちは警察が介入し、スタンガンと催涙ガスを使って解散させるまで、デモに対してレンガを投げつけた。

 

ポートランドで失われたものは、マックス・ウェーバーが国家が機能するために不可欠なものと考えるものそのものである。それは正当な暴力の独占である。antifaの構成員のほとんどがアナーキストであるため、反ファシストの人々は白人優越主義者たちが集まることを政府が阻止することを望まない。彼らは、政府の無能さを声高に叫びながら、自分たちで阻止したいと望んでいる。他の左派グループの活動家たちからの支援を受けて、彼らは政府の邪魔をすることに一部成功している。デモ参加者たちは今年2月、市議会での会議に何度も乱入した。それは会議が非公開で行われていたからだ。2017年2月と3月、警察の暴力とポートランド市役所のダコタ・アクセス・パイプラインへの投資に抗議している活動家たちはテッド・ウィーラー市長を徹底的に追い回した。家まで付け回し、市長はホテルに避難した。パレードの主催者に送られてきたEメールには憎悪に満ちた言葉が書き連ねられていた。その中には「警察は私たちが道路を封鎖するのを阻止することはできない」という言葉もあった。

 

こうした動きをトランプ支持者たちは恐怖感を持って受け止めている。彼らはリベラル派の拠点では、彼らの言論の自由を守ることが拒絶されているのだという猜疑心を持っている。トランプ支持者であるジョーイ・ギブソンは6月4日のデモを組織した人物である。ギブソンは私の取材に対して、「私が最も不満に思っているのは、リベラル派の拠点となっている町の市長や町長たちが警察を出動させないことです。彼らは保守派の人々が集まって話すことを望まないのです」。デモの安全を守るために、ギブソンは極右の民兵組織「オース・キーパーズ」を招いた。今年6月末、マルトノマウ郡共和党代表ジェイムズ・バカルもまた安全のために民兵組織を使うだろう、それは、「デモ参加者はポートランドの町中は安全ではないと考えている」からだ、とバカルは述べた。

 

antifaの支持者たちは権威主義に反対しているantifaの活動家の多くは、中央集権化された国家という概念に反対している。しかし、立場の弱い少数派を守るという大義名分の下に、反ファシズム活動家たちは、どのアメリカ国民が公共の場で集まることができ、誰ができないかを決定する権威を持っていると自認している。彼らが持つという権威は民主的な基盤の上には立っていない。彼らが避難している政治家たちと違い、antifaに参加している男女は投票で追い出すことはできない。彼らは選挙の洗礼を受けていないし、そもそも彼らは自分たちの名前も明かしてはいないのだ。

 

antifaが自認する正当性は政府の正当性とは反比例の関係にある。トランプ時代において、antifa運動がこれまでにないほど勢いを増しているのはここに理由がある。ドナルド・トランプ大統領は、リベラルで民主的な規範を馬鹿にし、その消滅を望んでいる。こういう状況の中で、進歩主義者たちは選択することを迫られている。彼らはフェアプレイのルールを再確認し、トランプ大統領が行う心をむしばむような行為を制限しようとすることができる。そうした努力の多くは失敗してしまうだろう。もしくは、強い嫌悪感、恐怖感、道徳的な怒りの中で、人種差別主義者やトランプ支持者の政治的な諸権利を否定することもできる。ミドルベリー大学、バークリー、ポートランドにおいて、後者の方法が採用された。そして、特に若い人たちの間でそうした方法が拡大し続けている。

 

憎悪、恐怖、怒りは理解できる。しかし、一つ明確なことがある。ポートランドの町中で共和党員や支持者たちが安全に集まることを妨げる人々は、「自分たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義に強く反対しているのだ」と考えているのだろう。しかしながら、実際のところ、そうした人々は、その思いとは裏腹に、反対している相手である人種差別主義者、白人優越主義者、トランプ支持者といった人々に対しての同盟者、協力者となってしまっているのだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





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 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカの現状を理解するうえで重要な論稿の前半分をご紹介します。次回に後半部をご紹介します。筆者は私も尊敬しているピーター・ベイナートです。

 

 この論稿で、ベイナートは暴力行為をいとわない左派グループの台頭について論じています。antifaという運動について取り上げています。「antifa」という言葉は、「反ファシスト(antifascist)」や「反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)」を縮めた言葉で、ファシズムやファシズムを信奉するファシストに反対する、ということです。antifaの活動家たちは、人種差別主義者や白人優越主義者、ネオナチ、トランプ支持者たちを攻撃しています。それに対して、攻撃を受けている側も反撃しており、現在のアメリカの暴力的な雰囲気がこうして生み出されています。

 

 ベイナートは現在の戦闘的左派antifaと人種差別主義者や白人優越主義者、ネオナチ、トランプ支持者たちのぶつかり合いについて具体的なケースを取り上げています。ポートランド、カリフォルニア大学バークレー校、ミドルベリー大学で起きた事件を取り上げています。そして、戦闘的左派antifaが出現してきた歴史について概観しています。

 

 この論稿ではファシズム(Fascism)や権威主義(Authoritarianism)といった政治学上、大変に重要な言葉が使われています。しかし、その定義については書かれていません。これらの言葉を厳密に定義することは難しいのですが、難しいと言っているだけでは、この言葉を使うことができなくなります。ですから存在する以上は荒っぽくてもなんでも定義をして使わなければなりません。

 

 ファシズムは1920年代から1940年代半ばにイタリアやドイツで出現した政治体制を支えるイデオロギー(政治思想)です。反自由主義、反個人主義、反資本主義、反共産主義を掲げる思想です。権威主義という言葉は、戦後に政治学で出てきた言葉です。フアン・リンツという政治学者が、フランコ将軍支配下のスペインの研究から生み出した概念です。権威主義体制は、ファシズム体制や共産主義体制のようなイデオロギーはなく、政治的な動員も大きくないが、政治的多様性は低いものです。全体主義(Totalitarianism)という政治思想の言葉もありますが、これは個人が全体に従属する、という考えで、ファシズム政治体制と共産主義一党独裁体制は全体主義に分類されます。全体主義の対義語は個人主義です。これらすべての体制は非民主的体制(nondemoractic regimes)となります。

 

 antifaはファシズムと戦うということになりますが、具体的には、非民主的、自由主義、個人主義を否定する考えを信奉する人々と戦うということになります。ベイナートも論稿の中で書いていますが、ヨーロッパとは異なり、アメリカではファシズムや共産主義が大きな勢力になったことがないために、これらと戦うという伝統はありません。しかし、人種差別主義(Racism)や白人優越主義(White Supremacy)と戦う、公民権運動のような伝統は存在したので、まず人種差別主義との闘いが始まりました。その後、ヨーロッパとの反ファシズム運動との交流を経て、アメリカでも反ファシズム運動antifaが始まりました。

 

 そして、現在、活動を活発化させている白人優越主義者や人種差別主義者との闘いにantifaが参加しています。そして、antifaの活動家たちは、ベイナートの論稿のサブタイトルにもありますが、「アメリカの右派の中で勢力を増している権威主義と戦っている」と主張しているそうです。私は、antifaの活動家たちがファシズムや権威主義といった言葉をどれだけ真剣に定義づけしているのか、はなはだ疑問です。なぜなら、彼ら自身が主張していることを敷衍していくと、非民主的で、危険な考えにまで行きついてしまうからです。

 

 現在ある人種差別・白人優越主義や人種差別に伴って起きる事件について対応し、その改善や解決のために戦うということは素晴らしいことです。ファシズムや権威主義という定義の難しい、人によって定義が異なる言葉で、なおかつ大変に危険な感じを受ける言葉を使うということが大変危険なことであると私は考えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

暴力を伴う左派の台頭(The Rise of the Violent Left

Antifaの活動家たちは、「私たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義と戦っているのだ」と述べている。彼らは権威主義の火に油を注いでいるのではないか?

 

ピーター・ベイナート筆

『ジ・アトランティック』誌

2017年9月号

https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2017/09/the-rise-of-the-violent-left/534192/

 

オレゴン州ポートランドでは1907年からローズ・フェスティヴァルというお祭りが始まった。2007年からはポートランドの82番街でのパレードが始まった。2013年からはマルトノマウ郡(ポートランドもここに含まれる)共和党がパレードに参加するようになった。今年になってこうした状況が変化することになった。

 

パレード開催の数日前、「ダイレクト・アクション・アライアンス」というグループは、「ファシストが町中を行進しようと計画している」と宣言し、「ナチスがポートランドの町中を何の反対もなく行進することなどできないだろう」と警告を発した。このグループは、マルトノマウ郡共和党自体に反対しているのではなく、人々の中に影響力を浸透させようと計画している「ファシスト」に反対しているのだと主張している。しかし、彼らは、参加者たちが「トランプの旗」と「トランプのかぶっていた赤い帽子(red maga hatsred “Make America Great Again” hats)」を持つことは非難すると述べた。そうした人々は女性に性的嫌がらせをし、ヘイト、人種差別、偏見を増長させているオレンジ色の肌をしている大統領への支持を普通のことにしてしまうことになるから、私たちは反対するのだと主張している。もう一つのグループである「オレゴン・ステューデンツ・エンパウアード」は、「ファシズムを壊滅せよ!ポートランドにナチスは存在させない!」と主張している。このグループはフェイスブックを通じて結成された。

 

続いて、パレードの主催者に一通の匿名のEメールが届けられた。そこには、「トランプ支持者」や「ヘイト的な言辞」を叫ぶ人間たちがパレードに参加する場合、「私たちは200名以上でパレードに乱入し、そうした人間たちをパレードから叩き出す」という警告が書かれていた。ポートランド警察ではパレードの安全をしっかり守れるだけの力がないと主催者側に伝えたので、パレードは中止されることになった。この出来事は次に起こることに兆候そのものであった。

 

進歩主義者にとって、ドナルド・トランプはただの共和党から出た大統領という存在ではない。サフォーク大学が昨年9月に行った世論調査の結果によると、民主党支持者の76%がトランプを人種差別主義者だと考えているということであった。昨年3月、ユーガヴが行った世論調査によると、民主党支持者の71%がトランプの選挙運動には「ファシズムの含意」が存在していると述べた。こうした中で、進歩主義者たちをイライラさせている一つの疑問が存在する。アメリカ大統領が影響力を持つ人種差別主義者で、弱い立場にある少数派たちの声明ではなく、諸人権を脅威に与えているファシスト運動の指導者だと確信するならば、あなたはそれを阻止したいとどれくらい望んでいるか?

 

ワシントンでは、この疑問に対して、連邦議員たちがどのようにトランプの政策に反対できるのか、どのようにして民主党が連邦下院の過半数を再奪取するか、いつどのように大統領に対する弾劾を仕掛けるか、という形の反応が出ている。しかし、アメリカ全体としては、戦闘的な左派グループのいくつかが全く異なる形の答えを出している。大統領就任式当日、顔をマスクで隠した活動家が白人優越主義者グループの指導者リチャード・スペンサーを殴打した。今年2月、カリフォルニア大学バークレー校でマイロ・イアンノポウラスがスピーチが予定されていたところ、反対者たちが激しく抗議し、スピーチの邪魔をした。イアンノポウラスはブライトバートの編集に携わった人物だ。今年3月、保守派で過激な主張を行う政治学者チャールズ・マーレーがヴァーモント州にあるミドルバリー大学で講演を行ったところ、反対者たちは彼の体をこづき回し建物の外に押し出した。

 

こうした出来事が自分たちとはどんなに縁遠く、また別々の事件だと思われても、こうした出来事の間には共通する要素が存在する。ポートランドの82番街のパレードにマルトノマウ郡共和党が参加することに反対したグループのように、こうした活動家たちは「antifa」と呼ばれる運動に関連していることが明らかになっている。「antifa」は、「反ファシスト(antifascist)」や「反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)」を縮めた言葉だ。この運動は秘密性が高く、その活動を分類することは難しい。しかし次のことは確かに言える。antifaの力は増大している。活動的な左派の反応次第ではトランプ時代の道徳を決定することになる。

 

antifaのルーツは1920年代から30年代にまで遡ることができる。この当時、ドイツ、イタリア、スペインの町中では戦闘的な左派の人々がファシストと戦っていた。第二次世界大戦後にファシズムが退場した時、antifaもまた退場していった。しかし、1970年代から80年代にかけて、ネオナチのスキンヘッドたちがイギリスのパンクの世界に浸透し始めた。ベルリンの壁が崩壊した後、ドイツにおいてネオナチが影響力を持つようになった。こうした状況に対して、左派の若い人々、その中にはアナーキストやパンクのファンも多くいたが、彼らはストリートレヴェルでの反ファシズムの伝統を復活させた。

 

1980年代末、アメリカ国内の左派のパンクファンたちは先例に従い始めた。彼らは自分たちのグループを「反人種差別行動」と称した。理論的には、アメリカ人はファシズムよりも人種差別主義との戦いに慣れている、ということである。出版間近の『ANTIFA:反ファシストハンドブック』の著者マーク・ブレイは、こうした活動家たちは1990年代に人気のあるバンドのツアーについて回り、ネオナチがバンドのファンを自分たちに勧誘しないようにさせた。2002年、白人優越主義者のグループ「ワールド・チャーチ・オブ・ザ・クリエイター」の代表のペンシルヴァニアでの講演中にこうした人々が乱入した。この時の乱闘で25名が逮捕された。

 

2000年代になって、インターネットが発達したことで、アメリカとヨーロッパの人々の間で交流が盛んになった。そうした交流を通じて、アメリカの活動家たちは運動をantifaと呼ぶようになった。しかし、戦闘的な左派にとって、antifa運動は中心的なものとはならなかった。クリントン、ブッシュ、オバマ時代の左派の多くにとっては、ファシズムよりも、規制が撤廃された国際資本主義の方がより大きな脅威であった。

 

トランプがこうした状況を変化させている。Antifaは爆発的に成長している。「ニューヨークantifa」によると、このグループのツイッターは2017年1月の最初の3週間でフォロワー数がほぼ4倍になったと発表した。今年の夏までに15,000を超えた。トランプの台頭によって、主流派左派の中にもantifaに対して新たに親近感を持つ人々が出てきている。antifaにつながる雑誌『イッツ・ゴーイング・ダウン』誌は、「左派全体から厄介者扱いされ、脇にどかされていたアナーキストとantifaが突然、リベラル派と左派の人々から、“あなたたちが正しかったのだ”と言われるようになった」と書いている。『ザ・ネイション』誌に掲載されたある記事の著者は、「トランプ主義をファシスト的だと言うためには、氷人的なリベラル派がトランプ主義に対して成果が上がるような戦いをしていないし、結果としてトランプ主義を封じ込めることに成功していないと認識することだ」と書いた。またAこの著者は急進左派は「この政治的に重要な局面において実践的でまじめな対応を行っている」と主張している。

 

こうした対応は流血を伴っている。「antifa運動」は主にアナーキストたちによって構成されているので、活動家たちは国家の存在を信頼していない。彼らは「国家はファシズムと人種差別主義と共犯関係にある」と考える。antifaの活動家たちは直接行動を好む。彼らは白人優越主義者たちが会合を開きそうな場所に対して圧力をかけ、会合を阻止しようとする。彼らは雇い主に対して白人優越主義者を解雇するように、また家主に対して彼らを追い出すように圧力をかける。 人種差別主義者やファシストが集会を開くと思われる場合に、antifaの活動家たちはその場に行って集会を破壊しようとする。阻止活動には時には暴力が伴う。

 

このような戦術に対して主流派左派から実質的な支援が行われている。大統領就任式当日にスペンサーを殴った覆面のantifa活動家の映像が撮られた。『ザ・ネイション』誌は、この活動家のパンチは「活動的な美しさ」から出た行為と描写した。『スレイト』誌は、この行為を褒めたたえる面白おかしいピアノバラードを紹介する記事を掲載した。ツイッター上では、様々な曲がつけられた映像が拡散された。バラク・オバマ前大統領のスピーチライターを務めたジョン・ファヴロウはこの映像の拡散について次のようにツイートした。「リチャード・スペンサーが殴られる映像にどれくらいの数の歌がつけられるか分からないけど、どの歌で映像を見ても私は笑い続けるだろう」。

 

暴力は、スペンサーのような人種差別主義を公言している人物たちにだけに対して振るわれているわけではない。昨年6月、カリフォルニア州サンノゼでのトランプの選挙集会において、それに反対するデモ参加者たち、その中には「antifa」に関係している人たちがいたが、彼らがトランプの選挙集会で興奮している人々を殴りつけ、卵を投げつけた。「イッツ・ゴーイング・ダウン」誌のある記事では、この暴力を「道徳的に正しい殴打」と呼んだ。

 

反ファシズム運動の活動家たちはこうした行為を防衛的だと主張している。弱い立場の少数派に対するヘイトスピーチは、少数派に対する暴力にまでつながると彼らは主張している。しかし、トランプの支持者たちと白人優越主義者たちは、antifaの攻撃を自分たちの自由に集まる権利の侵害であると考え、権利を守ろうという動きに出ている。結果として、1960年代以降、アメリカ国内でみられることがなかった町中での政治的の激しい闘いが続くことになった。サンノゼでの乱闘の数週間後、白人優越主義の指導者の一人が、トランプの選挙集会における攻撃に抗議するためにサクラメントでデモを行うと発表した。「サクラメント反ファシズム活動」はこのデモに対する反対デモを行うと発表した。結果として乱闘が起き、10名がナイフで刺されて負傷した。

 

同じような事件がカリフォルニア大学バークレー校でも起きた。今年2月、カリフォルニア大学バークリー校で計画されていたイアンノポウラスの講演に抗議する覆面をした反ファシスト活動家たちがデモ行進中、商店のショーウィンドウを破壊し、警備をしていた警察に対して火炎瓶と石を投げつけた。大学当局は「聴衆の安全に懸念がある」ことを理由にして講演を中止した。この出来事の後、白人優越主義者たちは、「言論の自由」を支持するために「バークリーでの行進」を行うと発表した。当日のデモ行進に、41歳になるカイル・チャップマンが参加していた。チャップマンは、野球のヘルメット、スキーのゴーグル、すね当て、覆面を身に着けていた。チャップマンはantifaの活動家の頭を木の杭で打った。トランプ支持者たちはこの様子を収めた映像を拡散した。極右グループが運営するクラウドファンディングのあるウェブサイトでは、チャップマンの裁判費用のために瞬く間に8万ドル以上を集めた。今年1月、このウェブサイトは、白人優越主義者の指導者スペンサーを殴った反ファシズム活動家の身元を明らかにするために報奨金を提供した。政治現象化した闘争文化が出現しつつある。antifaと白人優越主義者の両社にそれぞれ応援団が付き、闘争を彼らが煽り立てているのだ。『イッツ・ゴーイング・ダウン』誌の編集者ジェイムズ・アンダーソンは、『ヴァイス』誌の取材に対して、「この胸糞悪い闘いは傍観者たちにとっては面白いのだ」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(つづく)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

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