古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:石油

 古村治彦です。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イラン戦争の終結について度々言及している。戦争とは国際的な問題を解決する手段としての機能を持つ。話し合いをしても解決ができないという場合に最後は武力に訴えるということにあり、国際問題解決の最終手段である。今回のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、宣戦布告なしの先制攻撃であり、その点で国際法違反である。さらに、イランとはオマーンを仲介役として核兵器開発に関する交渉を行っていたこともあり、騙し討ちでもある。イランは報復攻撃を行い、ホルムズ海峡の餞別的な封鎖(航行できる船舶を選別している)を実施して対抗している。

 軍事力、攻撃能力だけ見れば、アメリカとイスラエルはイランを圧倒している。その強大な軍事力を叩きつければ、イラン政府は機能停止状態に陥り、イラン国民は現体制への不平不満から政府を打倒し、新たな政府と政権が樹立され、親米路線になるという見通しがあったがそれは完全に外れてしまった。イランは武力面でのエスカレーションを実施せずに、ホルムズ海峡の封鎖という手段を用いて、非対称戦を戦い、世界を巻き込むという手段で、状況を有利に進めている。アメリカとイスラエルは戦争の目的である、イランの弱体化を田性出来ずに、自分たちが追い込まれている。下記論稿にある通りに、「戦闘では勝ちながら、戦争には負けている」ということになる。

 イラン戦争は一刻も早い停戦が望ましい。アメリカ国民の支持も得られていない中で、トランプ大統領としては、できれば誰かに責任を押し付けて(ピート・ヘグセス国防長官あたりか)、「勝利宣言」をして、イランから手を引きたいということになるだろう。そうなれば、イスラエルは一緒に「勝利をした」と宣言して、一旦は矛を収めるだろう。しかし、戦争目的は達成されていない。実質は敗北ということになる。それでも、イラン戦争は停戦こそ望ましい。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプはイランとの戦争に敗北しつつある(Trump Is Losing the War in Iran

-開戦から1カ月が経った現在、イラン・イスラム共和国は生き残ること自体が勝利と言えるだろう。

ラヴィ・アグラワル筆

2026年3月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/30/trump-war-iran-israel-lebanon-gulf-winner-loser/

アメリカはイランにおいて成功を収めているだろうか? それは誰に質問するかによって答えが変わる。先週発表されたピュー・リサーチ・センターの調査によると、ドナルド・トランプ米大統領のイラン紛争への対応を批判するアメリカ人は61%、支持するアメリカ人は37%だった。この数字はトランプ大統領への支持率を反映しており、意見の分裂は主に党派的な傾向に基づいていることを示唆している。注目すべきは、共和党支持者の10人中7人がホワイトハウスのこれまでの戦争遂行を支持しているのに対し、民主党支持者では10人中わずか1人しか支持していない点だ。

アメリカとイスラエルによるイランへの共同攻撃の成功を検証するう1つの方法は、被害の規模を分析することだろう。この指標で見ると、戦闘開始から1カ月が経過した時点で、アメリカとイスラエルはイランに与えた損害をはるかに上回っている。最高指導者アリ・ハメネイ師を含むイランの政治・軍事指導者数名が殺害され、イランの空軍と海軍はほぼ壊滅状態となり、核開発計画はさらに後退した。イランの弾道ミサイル発射能力は低下しており、イランの主要同盟諸国の1つであるレバノンを拠点とする武装組織ヒズボラは激しい砲撃を受けている。一方で、イランは主要な交通・貿易ルートを遮断することに成功し、今のところ大きな永続的な損害を与えていないという点も注目に値する。

それでは、なぜアメリカは戦い(the battle)には勝利しているが、戦争(the war)には敗北しているように感じられるのだろうか? その答えは、おそらく期待(expectations)にあるだろう。そしてこの点において、イラン政権の存続と、世界経済に打撃を与え、アメリカの敵対諸国を潤す能力自体が、イラン・イスラム共和国が優位に立っていることを示唆している。戦争が起きた場合、イランは常に存続と混乱を戦略目標としてきた。トランプ大統領の明らかな苛立ちは、彼が望んでいた迅速な作戦(the quick operation)が実現していないことを明確に示している。

アメリカが敗北する可能性があると見なされる第一の理由は、開戦当初のアメリカの過剰な目標設定にある。2月28日にトゥルーソーシャルに投稿された動画の中で、トランプ大統領は、イランのミサイル開発能力の喪失、代理勢力による地域不安定化の阻止、そして核兵器保有の阻止に加え、政権交代・体制転換(regime change)を望んでいるかのように示唆した。しかし、これらの目標はいずれも今のところ達成されていない。

開戦当初、『フォーリン・ポリシー』誌の複数のアナリストが指摘したように、イラン・イスラム共和国は政権存続を確実にするため、主要な政治・軍事要職の後継者を慎重に選定していた。確かにミサイル発射能力は低下しているものの、イランはイスラエルや地域のアメリカの同盟諸国に向けてミサイルを発射し続けている。テヘランは昨年(2025年)6月のアメリカとイスラエルによる攻撃後、わずか数カ月でミサイル計画を再構築した実績があり、今回の戦争が終結すれば再び同様の行動に出る可能性が高い。ヒズボラは壊滅的な打撃を受けたものの、存続している。そして、イランが紛争を長期化させるための周到な計画を立てている証拠として、イエメンのフーシ派反乱軍が最近になって参戦し、週末にはイスラエルに向けてミサイルを発射した。さらに、イラン国内には依然として約440キログラムの高濃縮ウランが存在し、新たな指導者たち(しかも、より復讐心に燃える指導者たち)が戻ってくるのを待っている。

イランとの戦争をアメリカの失敗とみなす2つ目の理由は、イランがこれまでに世界に与えた莫大な経済的コストである。ジェット燃料の価格は今年120%上昇した。世界の原油価格の主要指標であるブレント原油も同時期に87%以上上昇した。これは主に、イランがホルムズ海峡をほぼ完全に封鎖したことが原因である。ホルムズ海峡は通常、世界の原油の5分の1が毎日通過する海峡であり、液化天然ガス(LNG)の20%も同様だ。LNGの供給途絶に加え、イランのミサイル攻撃でカタールの主要ガス田が損傷したことで、今月ヨーロッパでは天然ガス価格が70%以上も急上昇した。ホルムズ海峡は、世界のヘリウム供給量の3分の1(子供の風船だけでなく半導体製造にも重要な成分)と世界の肥料販売量の3分の1の輸送路でもある。封鎖が長引けば長引くほど、世界はエネルギー危機に加え、半導体と食糧の危機にも直面する可能性が高まる。こうした波及効果は、イラン・イスラム共和国が黙って引き下がるつもりはないということを世界に知らしめる手段と言えるだろう。エジプト、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、サウジアラビア、南アフリカで世論調査を実施したゲオポルによると、今回の紛争とその世界的なコストについてイランを非難する回答者はわずか18%にとどまった。その代わりに、29%がアメリカを、38%がイスラエルを非難している。これは、中立的な観察者たちが有望視していた外交交渉の最中に攻撃が発生したことが一因であることが考えられる。

アメリカが今回の戦争で敗者となりつつある第三の理由は、ジョージ・W・ブッシュ政権下でのイラク戦争の失敗とは異なり、今回は国内的にも国際的にも承認を求めなかったことにある。今回は、民主政治体制の推進やルールに基づく秩序といった建前は存在しなかったのだ。この戦争においてアメリカが真に味方としているのはイスラエルだけだが、イスラエル自身もここ一世代で最も国際的に孤立し、支持を集めなくなっている。トランプ大統領は、まずNATO同盟諸国に支援を要請し、その後、支援が得られないと悟ると、支援は必要ないと否定するという、極めて恥ずべき行動に出た。この戦争によって、大西洋を挟んだ関係は弱体化した。そして、ワシントンが自らルールを積極的に破壊している体制のリーダーとして振る舞う能力もまた、弱体化した。

第四に、この戦争はアメリカの敵対諸国を潤すという予期せぬ結果をもたらしている。原油価格の高騰を抑制するため、米財務省はイランとロシアに対する既存の石油制裁を解除した。その結果、テヘランは戦争開始前よりも多くの原油収入を日々得ている。一方、モスクワは紛争が続く限り、毎日1億5000万ドルの石油収入を得ており、この資金は間違いなくウクライナでの戦争に使われるだろう。ペルシア湾岸諸国から石油の半分以上を調達している中国にとっては、状況はより複雑だ。北京は供給面で多少の制約に直面しているものの、外交政策はワシントンが常に直面しているような、複雑な問題に比較的縛られていない。中国軍指導部は、アメリカがミサイル迎撃ミサイルをどれほど急速に消費しているかを注視している可能性が高い。それは、アメリカは他の分野での攻撃を抑止する能力が低下することになるからだ。

最後に、この戦争は共和党議員の間でトランプ大統領への支持を揺るがしている。米国防総省は、イランにおける継続的な軍事活動を支援するため、2000億ドルの追加予算を要求する意向を示しているものの、正式な提案はまだ行っていない。これは、連邦議会で十分な支持が得られるかどうかについて、疑念が高まっているためと考えられる。共和党所属の、サウスカロライナ州選出のナンシー・メイス連邦下院議員は、先週、イランに関する連邦下院軍事委員会の非公開会合に出席した後でX上に、「繰り返すが、私はイランへの地上部隊派遣を支持しない。今回のブリーフィングを受けて、その姿勢はさらに強固になった」と述べた。

戦争の真の評価は、戦争終結後にしかできない。アメリカは今後、イランの軍事インフラにさらなる打撃を与え、この評価を覆す可能性もある。すでに、各陣営が結果をどのように解釈するかは想像に難くない。イランは世界最大の軍事大国、地域覇権国であり、アメリカに立ち向かったことを誇示するだろう。イスラエルは、たとえ一時的であっても、敵の軍事力を壊滅させたと主張するだろう。そしてアメリカは、圧倒的な武力誇示を行ったと述べるにとどまるだろう。

しかし、たとえ戦争が数日のうちに終結したとしても、イラン政権の残存勢力は生き残っただけで正当化されるだろう。指導者たちは復讐心に燃え、報復を国内でも国際的にも実行に移すだろう。イランの将来の指導者たちはこの紛争を研究し、最大の抑止力は世界経済に莫大な損害を与える能力であると認識するだろう。それは、戦後の指導部が攻撃ドローンやミサイルの兵器庫を迅速に再構築することを意味するかもしれない。また、北朝鮮のように、古い核兵器使用禁止のファトワを放棄し、爆弾こそが最良の安全保障手段だと判断する可能性もある。そもそもこの紛争は何のために起こったのだろうか? イスラエルにとっては、地域の敵対勢力を繰り返し叩き潰す戦略だったのかもしれないが、ワシントンにとってはそうではない。トランプ大統領は長年、中東における高コストの長期化する戦争を非難してきた。彼はイラン政権の本質、そしてその規模と地理的条件が、アメリカが一夜にして指導者を捕らえたヴェネズエラとは大きく異なる点を、おそらく見誤っていたのだろう。

この地域で長年苦しんできた住民たちのことを考えてみよう。イランとレバノンでは、数千人が命を落とし、100万人以上が避難を余儀なくされた。イスラエルでは、2年近くにわたり、サイレンが鳴り響くとすぐに地下壕に駆け込む人々がいる。そして、ペルシア湾岸諸国では、ドバイやドーハに移住した外国人や移民労働者たちが、移住当初には想像もしていなかった不安定な状況に直面している。もしこれら全てが、将来の戦争に繋がるためだけのものだとしたら、一体何のためにこんなことをしてきたのだろうか?

※ラヴィ・アグラワル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長。Xアカウント:@RaviReports

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2026年2月28日にアメリカとイスラエルによるイラン攻撃とイランからイスラエルと湾岸諸国にあるアメリカ軍基地に対する報復攻撃によって戦争状態が発生した。正式な宣戦布告は出されていないが、もう戦争状態と言っていいだろう。アメリカとイスラエルはイラク国内のクルド人勢力に武器を供与し、イラン国内に侵攻させようとしている報道もある。事態は深刻度を増している。
hormuzstraitmap001
 イラン革命防衛隊はホルムズ海峡の船舶航行を差し止める通達を出し、既に数隻の船舶が攻撃を受けている。これによって世界の石油と天然ガスの20%が通過するホルムズ海峡を船舶が航行できなくなった。しかし、既に船舶の積み荷に保険をかけている保険会社がホルムズ海峡を航行しないように差し止めをしているということだ。トランプ大統領は、アメリカがタンカーの護衛や格安に保険を提供すると述べているが、どこまで効果を発揮するかは不透明だ。

船舶が航行できなければ、ペルシア湾岸諸国は石油を輸出できないだけではなく、日用品、食糧の輸入もままならなくなるということになる。大富豪たちが集まる煌びやかな都市ドバイであっても、食料がなければ人々は生活ができない。また、石油が輸出できなければ、富裕な暮らしもできなくなる。パイプラインもあるようだが、船舶で輸送できない分を贈れるほどの余力はないようだ。イランも石油が輸出できなければ外貨獲得ができずに追い込まれてしまうだろうが、国民がアメリカとイスラエルに対する敵愾心を持つことで、しばらくは耐乏生活ができるということになるだろう。
perusiangulfpipelinesmap001
 イスラエルはともかく、アメリカはアメリカが正義の鉄槌を振り下ろせば、イラン国民も蜂起して、イラン政府を転覆させると考えていた節がある。しかし、その目論見は外れてしまったようだ。そのように簡単にはいかない。イランはヴェネズエラとは違い(ヴェネズエラには大変失礼な物言いになるが)、軍事力や経済力は大きく、そう簡単に崩れるものではない。戦争状態が数週間続くことで、原油価格は上昇する。先週は60ドル台だった価格が既に76ドルを超えた。日本では円安も進んでおり、エネルギー調達コストは上がっていく。これからしばらくは厳しい状態が続く。年内は影響が続くと見ておくのが妥当であろう。
comexcrudeoilprices202602070304graph001
COMEXの原油価格の推移(1カ月)

(貼り付けはじめ)

〇「トランプ氏、ペルシャ湾航行する船舶に保険を提供 必要なら護衛も」

CNN日本語版 2026.03.04 Wed posted at 16:44 JST

https://www.cnn.co.jp/usa/35244566.html

CNN) トランプ米大統領は3日、ペルシャ湾を航行する船舶に対して「保険と保証」を提供するよう米国際開発金融公社(DFC)に指示したと明らかにした。また、必要であれば米海軍がホルムズ海峡でタンカーの護衛に当たる考えも示した。

トランプ氏はSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、DFCに対し、ペルシャ湾を航行するエネルギー輸送などの海上貿易の財務的安全性を確保するため、「非常に妥当な価格」で保険と保証を提供するよう命じたと明らかにした。全ての船会社が利用できるとしている。

トランプ氏はさらに、必要であれば、米海軍は可能な限り速やかにホルムズ海峡でタンカーの護衛を開始すると明らかにした。

イランは今週に入り、ホルムズ海峡を航行する船舶への攻撃を示唆しており、すでに一部のタンカーが攻撃を受けている。複数の海上保険会社は、周辺海域での戦争関連の損害について補償を打ち切ったと顧客に通知した。

独立系石油アナリストのトム・クローザ氏はCNNの取材に対し「イランがホルムズ海峡を封鎖することはできないと思うが、保険会社や船舶運航会社なら封鎖できる」と語っていた。

トランプ氏のプログラムは、保険を失った船舶を補償することを目的としている。保険がなければ、攻撃で原油を失った場合の費用を負担することになるからだ。

その結果、海峡は事実上封鎖状態となっている。S&Pグローバルのコモディティーズ・アット・シーのデータによると、2日に同海峡を通過した石油・化学タンカーは2隻にとどまった。通常は1日あたり約60隻が通航し、世界の原油輸送量の約20%を担っている。

=====

保険会社は船舶のホルムズ海峡航行を制限している(Insurers Are Keeping Ships Away From the Strait of Hormuz

-イランからの混乱が広がる中で世界の海運業界は圧力に晒されて苦境に立っている。

エリザベス・ブラウ筆

2026年3月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

ホルムズ海峡のすぐ南では、海図を見ると交通渋滞の様相を呈しており、数十隻の船舶が密集している。海峡の向こう、ペルシア湾でも、海上交通の混乱が見られる。世界の石油と天然ガスの20%が通過するホルムズ海峡が、この数十年の中でより危険な状況に陥っているからだ。これは既に原油価格と世界の海運に影響を与えている。たとえ紛争が明日終結したとしても、その波及効果は何年も続くだろう。

世界の海運にとって、ペルシア湾から抜け出す唯一の航路であるホルムズ海峡は、スエズ運河と同じくらい重要であり、スエズ運河を巡る最近の問題は、今後の状況を予感させるものだ。2023年11月、フーシ派の反政府勢力は紅海を航行していたギャラクシー・リーダー号を攻撃し、これをきっかけに一連の攻撃が開始された。2024年2月までに、スエズ運河のコンテナ取扱量は82%も減少しました。スエズ運河は回復を始めたが、イラン戦争による混乱に見舞われた。そして今、同様の運命がイランのすぐそばにあるホルムズ海峡を襲っている。

中東地域で緊張が高まるたびに、海峡の一方にオマーン、もう一方にイランが位置するホルムズ海峡を事実上封鎖するのではないかという懸念が高まる。イランは、自国の石油貿易も船舶の海運に依存しているため、実際に封鎖を試みることはない。しかし、2月28日にアメリカとイスラエルが攻撃を行ってから数時間後、テヘランは船舶に対し、ホルムズ海峡(正確にはイラン側海域)を航行しないよう警告し、航行を試みる船舶を攻撃すると表明した。現在、ホルムズ海峡海域の交通は事実上麻痺状態にあり、少なくとも3隻の船舶がミサイル攻撃を受けた。

しかし実際には、保険業界が声を上げているため、テヘランの行動によって海峡での交通渋滞が引き起こされたという訳ではない。船舶は、特に危険な海域に入るには、保険引受人(underwriters)からの特別な許可が必要となる。武力紛争が勃発するか、勃発する恐れがある場合、保険会社は、たとえ経験豊富な戦争リスク保険会社(war-risk insurers)であっても、危険な海域への進入について、より高額で困難にする特別な条件を課すことになる。

まさにこれがホルムズ海峡の両側で起こっている。3月2日の午前遅く、デンマークの海事専門家ラース・イェンセンはリンクトインに次のように投稿した。「現在、ペルシア湾には4000TEUを超えるコンテナ船が17隻存在し、総積載量は15万6000TEUに上る。さらに、4000TEU未満のコンテナ船が約50隻存在する。つまり、約20万TEUのコンテナ船がペルシア湾内に閉じ込められていることになる」。イェンセンはさらに、ホルムズ海峡周辺に閉じ込められた船舶は「世界第13位の船舶輸送能力に相当し、世界のコンテナ積載能力の約0.6%が利用できない状態にある」と付け加えた。(TEUは通常サイズのコンテナ1個に相当する単位だ。)

ホルムズ海峡の反対側では、同様に多数のタンカーが保険会社の進入許可、あるいは待機継続命令、あるいは他の場所への航行命令を待っている。しかし、待機も賢明な選択肢ではない。コーマック・マクギャリーは次のように述べている。「船舶の戦争リスク保険は、たとえ高額であっても、通常は船舶の航行コストのごく一部に過ぎない。はるかに大きな影響は、船舶が航行を停止した場合だ。ほとんどの船舶とまではいかなくても、多くの船舶が事実上、今後数日間の状況を見守るために停泊している」。

ペルシア湾岸地域に閉じ込められた船舶は、もちろん、数日どころか、紛争終結まで、閉じ込められる可能性が高い。ドナルド・トランプ米大統領は紛争終結まで「4週間から5週間」と述べており、ピート・ヘグゼス国防長官は3月2日に2週間、4週間、あるいは6週間継続する可能性を示唆した。つまり、船員たちは2週間、4週間、5週間、6週間、あるいはそれ以上もの間、ペルシア湾岸で何もせずに(食料があることを祈るしかない)、他の多くの船舶もホルムズ海峡の反対側で、おそらくそれ以上も、何日も、あるいはそれ以上も、何もせずに停泊することになる。

紅海やスエズ運河からは船舶の航路を変更できるが、ホルムズ海峡からは変更できない。それは、石油とガスの産出地であるペルシア湾には、他に出口がないからだ。サウジアラビアとアラブ首長国連邦は、イランと同様にそれぞれ1本の陸上パイプラインを保有しているが、陸上ルートで輸送できるのは海峡輸送量のごく一部に過ぎず、海上輸送から陸上輸送への移行には複雑な物流が伴う。石油とガスの価格が既に大幅に上昇しているのも当然のことだ。(70億バレル以上の原油が陸上および浮体式船舶に貯蔵されているが、ほとんどの国や企業はアクセスで着ない状況だ。)

これらの船舶が停泊している間、航海を完了することも、次の航海を引き受けることもできない。システムへの負担は、特に他の遅延が重なるにつれて、時間とともに蓄積されていく。石油輸送が最も大きな打撃を受けるだろうが、閉じ込められた船舶は、より広範な世界の貨物輸送にとって不可欠な存在だ。

ペルシア湾岸諸国にとって、このほぼ完全な停滞は必需品の到着も困難にすることを意味する。「海峡が数週間にわたってほぼ閉鎖されてしまえば、いずれ食料が不足することになる。砂漠の国々に鉄道や飛行機で運ばれていない物資、つまり、基本的に、あらゆる物資が不足することになる」とマクギャリーは指摘している。確かに物資は空輸できるが、量は限られており、この地域での飛行機輸送は現在明らかに安全ではない。これは、非常に高い生活水準を誇りながらも、生活のほぼ全てを輸入に依存している裕福なペルシア湾岸諸国にとって恐ろしい事態である。

湾岸諸国の生活水準が急落すれば、不満を抱く国民は声を上げ、支配者たちはワシントンにその点を訴えるだろう。しかし、戦争の悪夢を再び箱の中にしまうのは容易なことではない。特に、国家指導者のほとんどが殺害された後はなおさらだ。ホルムズ海峡の安定は、最終的にはイランの何らかの安定にかかっているが、それは非常に遠い先の話になりそうだ。

※エリザベス・ブロウ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。大西洋評議会(Atlantic Council)上級研究員。著書に『さよならグローバライゼーション(Goodbye Globalization)』がある。Blueskyアカウント:@elisabethbraw.bsky.social

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2026年1月2日、ドナルド・トランプ大統領の最終決定を受け、アメリカ軍によるヴェネズエラ侵入・ニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束移送作戦が実行された。作戦名は「絶対的決意作戦(Operation Absolute Resolve)」だ。マドゥロ夫妻はアメリカのニューヨークに移送された。このブログでも何度も紹介したように、トランプ大統領が発表した「国家安全保障戦略」の「モンロー主義」「西半球重視」が実行された形である。「モンロー主義」とは、「西半球(南北アメリカ大陸)はアメリカの影響圏(sphere of influence)であり、他国の影響を排除する。その代わり、アメリカはヨーロッパには出て行かない」という原則だ。これは、「南米大陸はアメリカの利益に貢献させる存在とする」ということで、「ヤンキー帝国主義(Yankee Imperialism)」である。日本の「大東亜共栄圏(Great East Asian Co-Prosperity Sphere)」と同様の考えである。1830年代のモンロー主義は、イギリスの南米進出を阻止するためのもので、2025年のモンロー主義は、中国(とロシア)の進出を阻止するためのものだ。

 ヴェネズエラは世界最大規模の石油埋蔵量を誇り、ウゴ・チャヴェス政権で国有化されるまではアメリカ企業が投資し、石油を採掘し、利益を得ていた。今回のヴェネズエラ侵攻は、アメリカがヴェネズエラの石油資源を「管理」するために実行された。このことはドナルド・トランプ大統領も認めている。そして、ヴェネズエラできちんとした政権が誕生するまで、アメリカがヴェネズエラを統治するが、その経費はヴェネズエラの石油を管理し売却した利益で賄うとしている。

その後は、民主派・反体制派の指導者たちがアメリカによって「エスコート」され、ヴェネズエラの統治にあたる。その代表格がマリア・コリナ・マチャドだ。

これまでの「民主化(democratization)」の事例から考えると次のようなシナリオが考えられる。こうした人々はアメリカ傀儡である。アメリカの後ろ盾が新指導者たちの「正統性(legitimacy)」の源となる。新政府はまず石油産業の国有化を止め、アメリカ企業に売り渡す。新指導者たちはアメリカ企業から利益を得る。新自由主義的な改革を進め、国民には苦痛を味わうことを強制する。結果として、国民の間には「マドゥロ大統領時代が良かった」という不満が高まる。結果として、「民主的な」新指導者たちは人々を弾圧する。最悪の場合には国内で内戦が勃発する。アメリカは適当なところで「あとはご勝手に」と引き上げる。ヴェネズエラ国内に、そして南アメリカに不安定要因を生み出すということになる。

 ヴェネズエラは南アメリカの独立運動の父であるシモン・ボリバルの生まれた場所である。ヴェネズエラの正式国名には「ボリバル共和国」とつく。このことはこのブログでも以前に紹介した。アメリカ軍の侵入によって、ヴェネズエラ国民の多くは「ボリバル主義」を汚されたと考えるだろう。アメリカの帝国主義に対する反感が高まり、ナショナリズムが高まる。これが厄介である。ヴェネズエラ軍の一部がゲリラ戦を展開すれば内戦は激化する。

 私はトランプ政権内で、ネオコンのような対外介入主義のグループが力を持つようになっていると考える。マルコ・ルビオ国務長官とエルブリッジ・コルビー国防次官はその代表格だ。このブログで2025年12月31日にご紹介した、トランプ政権の外交政策に関わる重要人物についての記事を是非ご参照いただきたい。

 トランプが融通無碍であり、国際法違反など全く歯牙にもかけないということは分かっていた。しかし、他国に侵攻して指導者を拘束移送するという、ネオコンでもやらないようなことをやるのは予想外だった。予想外のことをやる人物だという恐怖を週に持たせる「狂人理論(Madman Theory)」に従っているということもできるが、「TACOTrump Always Chickened Out)」、つまり、「トランプはいつも最後になったら怖気づいて逃げる」という評価を覆したかったということもあるだろう。また、国内問題、特に物価高問題とエプスタイン文書問題から目を逸らさせるということもあっただろう。

 今回の攻撃は短期的にはプラスの効果があるだろうが、中長期的に見て、マイナスの効果を生むことになるだろう。「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」アメリカへの信頼の低下、ドル離れ、中国への傾斜と言ったことが考えられる。アメリカを警戒して、中国に近づく、バランシング(Balancing)が起きるということも考えられる。

 2026年も世界は安定しないということになる。ドル離れも進み、実物資産への資金の流入が続くことになる。アメリカの衰退は続き、日本もそれに付き合って一緒に沈んでいくことになる。

(貼り付けはじめ)

トランプによるマドゥロ政権の驚くべき転覆に関する5つの重要なポイント(Five key takeaways on Trump’s stunning toppling of Maduro

ジュリア・マンチェスター、ラウラ・ケリー、レイチェル・フラジン、レベッカ・ベイッチ、エラ・リー筆

2026年1月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5671319-trump-venezuela-operation-maduro-takeaways/

ドナルド・トランプ大統領がヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を拘束する作戦を成功させたことで世界中に衝撃が走った。

今回の大規模な作戦は土曜日の早朝に行われ、150機以上のアメリカ軍機が投入された。マドゥロ大統領と妻のシリア・フローレスはニューヨーク南部地区で迅速に起訴され、現在はアメリカ軍艦船「イオウジマ」でニューヨークへ向かっている。

トランプ大統領は、この作戦の詳細を発表する記者会見で、新政権が樹立されるまでアメリカが南米の国家であるヴェネズエラを統治すると発表したことなど報道の中心となった。

共和党はマドゥロ大統領追放に向けた政権の行動を称賛したが、民主党は作戦自体と連邦議会の不関与を即座に非難した。

トランプ大統領によるマドゥロ大統領の驚くべき失脚に関する5つのポイントを掲載する。

(1)トランプがヴェネズエラを「統治」するとしさらなる攻撃を警告した(Trump seeks to ‘run’ Venezuela, threatens more strikes

トランプによる最新の記者会年において最も注目を集めたのは、新指導者が安全かつ平和的に就任するまで、アメリカがヴェネズエラを統治すると明言したことだ。

トランプは自身の邸宅マール・ア・ラーゴで記者団に対して次のように語った。「安全かつ適切で賢明な政権交代(transition)が実現するまで、私たちはこの国を統治するつもりだ。誰かが政権に就くようにさせることで起きた、過去数年間と同じ状況に陥るのは避けたい」。

ヴェネズエラを誰が統治するのか具体的に問われると、トランプは「あるグループ(a group)」と共に統治すると述べた。

トランプは次のように述べた。「私たちはあるグループと共にヴェネズエラを統治し、適切に統治されるよう徹底するつもりだ。私たちはヴェネズエラ国民が確実に保護されるようにするつもりだ、そしてこの暴漢によって国外追放されたヴェネズエラ国民が確実に保護されるようにするつもりだ」。

ヴェネズエラのデルシー・ロドリゲス副大統領は、土曜日にマドゥロ大統領が逮捕されたことを受け、権力を掌握した。アメリカはロドリゲス副大統領と協力するかどうかとの質問に対し、トランプ大統領は、マルコ・ルビオ国務長官が彼女と協議したと述べた。

「彼女は基本的に、ヴェネズエラを再び偉大な国にするために必要だと考えることを実行する用意がある」とトランプ大統領は述べた。

トランプ大統領は、必要と判断されれば、アメリカは第二次攻撃を行う用意があると警告した。

トランプ大統領は「必要であれば、第二次の、より大規模な攻撃を行う用意がある。実際、第二次攻撃が必要だと想定していたが、現在のところ、おそらく必要ではないだろうと考えている」と述べた。

(2)民主党は不正だと訴えている(Democrats cry foul

連邦議会民主党は、攻撃が行われる前に連邦議会に通知がなされていなかったと指摘し、攻撃を激しく非難した。

連邦上院外交委員会の幹部委員であるジーン・シャヒーン連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、民主党)は声明で、今回の作戦はトランプ政権が連邦議会に説明した内容と「全くもって首尾一貫していない」と述べた。

「大統領がこれまで様々な形で正当化してきたにもかかわらず、明確な終わりのない武力紛争にアメリカを引きずり込むことがなぜ正当化されるのか、大統領から直接聞く必要がある」とシャヒーン議員は述べた。

戦争権限(war powers)と軍の展開を管轄する連邦下院外交委員会の幹部委員グレゴリー・ミークス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は、今回の作戦を「国際法違反(a violation of international law)であり、アメリカの国際的な立場をさらに悪くするものだ」と非難した。

連邦下院情報委員会の民主党側筆頭委員ジム・ハイムズ連邦下院議員(コネチカット州選出、民主党)も今回の軍事行動に疑問を呈した。

ハイムズ議員は声明で、「マドゥロは正統性のない統治者(an illegitimate ruler)だが、彼の大統領職が連邦議会の承認なしの軍事行動を正当化するような脅威をもたらすという証拠は見ていない。また、攻撃日以降の戦略やヴェネズエラが混乱に陥るのをいかに防ぐのかについて何も聞いていない」と述べた。

トランプ大統領は、連邦議会が作戦の詳細を漏洩し、任務に支障をきたしただろうと主張し、マルコ・ルビオ国務長官も大統領の主張を擁護した。

ルビオ長官は、「これは事前に通知できる種類の任務ではない。任務を危険に晒すからだ」と述べた。

(3)作戦はロシアと中国にとって前例となる恐れを促す(Operation spurs fear over precedent for Russia, China

トランプ大統領は、マドゥロ政権の主要な同盟国であるロシア、中国、イランとのアメリカ関係への影響は、石油を中心に展開すると述べた。

トランプ大統領は具体的な内容を明らかにしなかったものの、ヴェネズエラ産原油のアメリカへの販売を、イランとロシアの原油輸出を圧迫するために利用する可能性があるという強い示唆が示された。中国はロシア産原油の主要購入国である。

 

トランプ大統領は次のように明言した。「石油を必要としている他の国々に関して言えば、私たちは石油ビジネスを営んでいる。私たちはそれを売るつもりだ。・・・言い換えれば、私たちは石油を売ることになる。・・・私たちは大量の石油を他の国々に売ることになる。多くの国々が既に石油を使っている」。

トランプは、ヴェネズエラでの作戦がロシアのウラジーミル・プーティン大統領との関係にどのような影響を与えるかについては明確に言及しなかった。ある時点では、ロシアのウクライナ戦争は「収束しつつある(straightened out)」と示唆し、その後、プーティン大統領については「満足していない(not thrilled)」と述べた。

しかし、トランプ大統領の側近たちは、アメリカの敵対勢力に恐怖心を抱かせようとした。トランプは金曜日、生活費の高騰に抗議するイランの民衆の抗議活動を守るため、イランで軍事作戦を開始すると警告を発していた。

ルビオ国務長官は「トランプ大統領が何かをすると言った時、問題に対処すると言った時、大統領はそれを真剣に受け止め、行動に移す」と述べた。

ルビオ長官は続けて「ニコラス・マドゥロには、今回の事態を避ける機会が何度もあった。非常に、非常に、非常に寛大な申し出が何度も提示されたにもかかわらず、野蛮な行動を選んだ」と述べた。

「そして、その結果は今夜私たちが目にしたことだ」。

(4)トランプはヴェネズエラの石油管理を目指す(Trump seeks control of Venezuelan oil

トランプ大統領は土曜日、ヴェネズエラが世界最大の石油確認埋蔵量を保有していることから、アメリカがヴェネズエラの石油セクターを管理したいと述べた。

トランプは土曜日の記者会見で、「ヴェネズエラの石油事業は長きにわたり、完全に破綻していた」と述べた。

トランプは続けて「世界最大規模のアメリカの巨大石油会社に、数十億ドルを投じて、ひどく壊れたインフラ、石油インフラを修復させ、ヴェネズエラのために利益を上げてもらうつもりだ」と語った。

アメリカには国営石油会社が存在しないため、石油の採掘を行うかどうか、またいつ行うかは政府ではなく個々の石油会社が決定する。

マドゥロが拘束された時、アメリカ企業シェヴロンはすでにヴェネズエラで操業している状態であった。

(5)マドゥロ大統領が麻薬密輸で告発されるも、ギャングと関係は起訴の根拠は不十分 (Maduro accused of drug trafficking, but indictment is slim on gang ties

マドゥロは、妻や政権関係者とともに、ヴェネズエラの指導者が自らと同盟国の利益のために、麻薬密売からテロに至るまで、広範な犯罪行為を政府の権力を利用して保護・推進したとして、4件の起訴がなされている。

起訴状によると、マドゥロが6つの異なるテロ組織や麻薬密売組織に関与したと非難しているが、それらのつながりについてはほとんど詳細が示されていないか、組織について軽く言及しているだけである。

ニューヨーク南部地区の検察官たちは、ヴェネズエラの指導者たちが25年以上にわたり、公的な信頼と権力を悪用し、政府機関を腐敗させ、大量のコカインをアメリカに輸入したと主張している。

マドゥロ大統領は政権発足当初から、麻薬密売人に外交パスポートを提供し、マネーロンダリングされた資金を積んだ航空機に外交上の隠れ蓑を提供していたとされている。

マドゥロ大統領とその妻は、2006年から2015年にかけて独自のコカイン密売組織を運営し、自分たちの利益を損なう人々の誘拐、暴行、殺害を命じたとして告発されている。

さらにアメリカ政府は、マドゥロ大統領が、コロンビア革命軍(Fuerzas Armadas Revolucionarias de ColombiaFARC)と連携して麻薬密売を支援していたと主張している。

しかし、起訴状はトランプ政権が長年にわたり主張してきた疑惑については、ほとんど触れていない。トランプ陣営はマドゥロがトレン・デ・アラグア・ギャングやカルテル・デ・ロス・ソレスと繋がりがあると述べているものの、起訴状は、マドゥロとこれらのグループとの関係について、これらのグループのリーダーたちを起訴する以外に具体的な詳細は示していない。

起訴状は、マドゥロがメキシコの2つの主要カルテルと繋がりがあるとも非難しているものの、シナロア・カルテルやセタスの活動についてはほとんど言及していない。

この法廷闘争は、トランプにマドゥロ大統領を追い落とす権限があったかどうかという疑問にも悩まされることは間違いないところだ。

=====

トランプ政権はヴェネズエラでの活動開始後に「ギャング・オブ・エイト」にその旨を通知した(Trump administration informed Gang of Eight of Venezuela operation after it started

アレクサンダー・ボルトン筆

2026年1月3日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/5671149-surprise-operation-maduro-arrest/

事情に詳しい情報筋によると、トランプ政権は、ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領に対する作戦開始後に、連邦上下両院の共和党・民主党トップと、連邦上下両院の情報・諜報委員会の委員長および幹部からなる「ギャング・オブ・エイト(Gang of Eight)」に作戦について報告したという。

トランプ政権は、アメリカ軍機と特殊部隊がカラカスへ向かう間、奇襲効果を維持するため、連邦議会の主要指導者たちに事前の通知をしなかった。

連邦上院情報・諜報委員会委員長トム・コットン連邦上院議員(アーカンソー州選出、共和党)は土曜日、政権が作戦について連邦議会に事前通知しなかったことを擁護した。

コットン議員はフォックスニューズに対して、「おそらく、この4日間、適切な天候を待っていたことが、情報漏洩がなかった理由の1つだろう」と語り、連邦議会の主要委員会にはこの作戦について事前に通知されていなかったことを認めた。

コットン議員は続けて「FBIがアメリカ国内で麻薬密売人やサイバー犯罪者を逮捕する際に、連邦議会に通知されることはない。同様に、行政機関が起訴された人物を逮捕する際にも、連邦議会に通知されることはない」と発言した。

アーカンソー州選出の共和党議員であるコットンは、「行政機関が逮捕を行うたびに、連邦議会に通知する必要はない」と付け加えた。

連邦上院情報委員会副委員長マーク・ワーナー連邦上院議員(ヴァージニア州選出、民主党)は、マドゥロ大統領に対する軍事行動の承認権限は連邦議会が持つべきだったと述べ、今回の攻撃は中国とロシアを地域近隣諸国への攻撃的な行動へと駆り立てる可能性があると警告した。

ワーナー議員は、「我が国の憲法が軍事力行使に関する最も重大な決定を連邦議会に委ねているのには理由がある。政権交代(regime change)を実行するための軍事力行使は、その影響が最初の攻撃で終わらないからこそ、最も綿密な監視を必要とする」と警告した。

ワーナー議員は、今回の一方的な行動は、中国が台湾を攻撃したり、ロシアがウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を攻撃したりする正当性(justification)を与える可能性があると述べた。

ワーナー議員は、「アメリカが犯罪行為を行ったと非難する外国指導者たちを軍事力で侵略し、捕らえる権利を主張するのであれば、中国が台湾の指導者に対して同様の権限を主張することを何が妨げるというのか?」と発言した。

「ウラジーミル・プーティン大統領がウクライナ大統領を拉致するのをなぜ正当化できないのか?」とワーナー議員は問いかけた。

マルコ・ルビオ国務長官は、主要議員には作戦の「直後(immediately after)」に通知されたと述べ、事前通知(advanced notice)があれば作戦は危険に晒されただろうと主張した。

「私たちは直後に連邦議員たちに連絡を取った。これは連邦議会に通知できるような種類の作戦ではなかった」と彼は述べた。

ルビオ長官は、予測不可能な気象条件のため、アメリカ軍幹部は作戦の正確な時期を把握できなかったと指摘した。

ルビオ国務長官はフロリダ州でトランプ大統領と記者会見に出席し記者団に次のように語った。「これはトリガーベース(trigger-based、訳者註:特定の条件やイヴェントが発生したときに自動的に発動する)の任務であり、条件が満たされる必要があった。数日間、毎晩監視を続けてきた。したがって、誰かに電話して『今後15日以内にこれを実行するかもしれない』と言えるような任務ではなかった」。

ルビオ長官は続けて、「これは本質的に、アメリカ司法から逃亡中の起訴された2人の逮捕であった。任務を危険に晒すことになるので、事前に通知できるような任務ではない」と述べた。

トランプ大統領は記者団に対し、連邦議会は国防当局や情報機関の当局者から提供された機密情報を漏洩する傾向があると述べた。

トランプ大統領は「連邦議会には漏洩する傾向がある。これは良くないことだ」と述べた。

=====

アメリカが実行したマドゥロ拘束の作戦はどのように実行したか(How the US operation to capture Maduro went down

エレン・ミッチェル、フィリップ・ティモティジャ筆

2026年1月3日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/5671368-us-forces-capture-maduro/

金曜日の午後10時46分(東部標準時)、ドナルド・トランプ大統領は数カ月にわたる緊張の高まりと外交交渉の失敗を受け、ヴェネズエラの指導者ニコラス・マドゥロを捕らえる計画を実行に移した。

統合参謀本部議長ダン・ケイン大将によると、「絶対的決意作戦(Operation Absolute Resolve)」として知られるこの作戦は、アメリカ軍当局と情報・諜報機関による数カ月にわたる計画とリハーサルの集大成であった。

この作戦の基盤はアメリカの情報・諜報機関によって築かれたもので、彼らは数カ月にわたってマドゥロ大統領を追跡し、「彼の移動方法、居住地、旅行先、食事場所、服装を把握」したとケイン大将は土曜日の朝、トランプ大統領とともに行われた記者会見で述べた。

CIAは8月からヴェネズエラに小規模な部隊を派遣しており、マドゥロ大統領の生活様式に関する知見を提供することで、最終的にマドゥロ大統領を捕らえるのを容易にしたと、事情に詳しい情報源が土曜日に『ザ・ヒル』誌に匿名を条件に語った。この情報源は、機密事項について匿名を条件に語った。

CIAはまた、ヴェネズエラ政府内にマドゥロ大統領の移動パターンを追跡する要員を配置し、任務遂行中にマドゥロ大統領の居場所を特定することができたと情報源は付け加えた。

アメリカ軍兵士たちは数週間の準備を経て、12月初旬には即行動開始の準備を整えていたが、「イヴェントの一連の同時発生(a series of aligned events)」を待っていた。

ケイン大将は「ヴェネズエラでは、この時期の天候は常に重要な要素だ。クリスマスと新年の数週間、アメリカ軍兵士たちは辛抱強く待機し、適切なきっかけが訪れ、大統領が行動開始を命じるのを待っていた」と述べた。

ケイン大将は、昨夜の天候が「ちょうど良い程度(just enough)」に回復し、アメリカ軍の飛行士たちの進路が開けたことで、トランプ政権は好機を見出していたと述べた。

マドゥロ大統領拘束がどのように実行されたかの詳細は以下の通りだ。

ケイン大将は記者団に対し、金曜日夜のトランプ大統領の命令を受け、爆撃機、戦闘機、情報収集機、偵察機、監視機を含む150機以上のアメリカ軍機が、陸上と海上の20カ所の基地からヴェネズエラに向けて発進したと述べた。

アメリカ軍のヘリコプター群は、法執行官を含む救出部隊を乗せて離陸し、水面から100フィート(約30メートル)上空からヴェネズエラへの飛行を開始した。海岸線に近づくと、アメリカ軍はアメリカ宇宙軍、アメリカ・サイバー軍、その他の司令部が提供する「様々な効果を積み重ね(layering different effects)」、「進路を開き(create a pathway)」し始めた。

これらの部隊は、F-22F-18F-35E/A-18E-2B-1爆撃機、そして遠隔操縦無人機によって守られており、ヴェネズエラの防空システムを「解体・無力化(dismantling and disabling)」し、ヘリコプター群がカラカスへ安全に進入できるよう武器を使用したとケイン大将は述べた。

ケイン大将は「部隊が、彼らが物陰に隠れていた高地の最後の地点を通過した時、私たちは完全に奇襲効果(the element of surprise)を維持できたと判断した」と語った。

トランプ大統領がフロリダ州パームビーチの邸宅マール・ア・ラーゴから作戦のライヴ配信を見守る中、アメリカ軍は東部標準時午前1時1分にマドゥロ大統領の邸宅に到着した。部隊が進入する途中、部隊は銃撃を受け、ヘリコプター1機が被弾したものの、まだ飛行は可能だった。

その後、軍人たちは複数のFBI捜査官と共にマドゥロ大統領の邸宅に侵入した。トランプ大統領はマドゥロの邸宅を「厳重に警備され(very highly guarded)」「要塞(fortress)」のようと評した。

トランプは「彼らはただ侵入しただけで、本来は侵入できない場所に侵入した。まさにそのために設置された鉄の扉だ。護衛たちは数秒のうちに排除された」と述べた。

トランプ大統領はまた、ヴェネズエラの指導者が安全な部屋に入ろうとしたが失敗したと述べた。

アメリカ軍最高司令官であるトランプは、「彼は安全な部屋に入ろうとしたが、あまりにも急な襲撃に遭い、入ることができなかった」と述べた。

一方、ケイン大将は、アメリカ軍特殊部隊が安全確保のために「迅速かつ正確かつ規律正しく」行動し、最終的にマドゥロ大統領と妻シリア・フローレスを逮捕したが、2人は「降伏(gave up)」したと述べた。

夫妻はアメリカ軍の支援を受けて米司法省によって拘束された。

マドゥロ大統領の邸宅敷地内に侵入したアメリカ軍部隊には、空中および地上の情報ティームからリアルタイムの最新情報が提供されていた。

ケイン大将は、ヘリコプター群が救出部隊を救助するために出動し、戦闘機とドローンが上空から制圧射撃を行ったと述べた。部隊がヴェネズエラから撤退し始めると、「複数の自衛交戦(multiple self-defense engagements)」があったとケイン大将は指摘した。

アメリカ軍はヴェネズエラ領土を離れ、東部標準時午前3時29分にマドゥロ大統領夫妻とともに海上に到着した。その後、夫妻は海軍のワスプ級強襲揚陸艦「イオウジマ」に移された。

ケイン大将は「私たちは、計画し、訓練し、リハーサルし、報告し、何度もリハーサルを行う。正しく行うためではなく、間違えないようにするためだと考えている」と述べた。

マドゥロ大統領の拘束後、トランプ大統領は、政権移行が行われるまで、マルコ・ルビオ国務長官とピート・ヘグゼス国防長官を含むアメリカ政府のティームがヴェネズエラを「統治(run)」すると述べた。

トランプ大統領は、ヴェネズエラにアメリカ軍を地上派遣する可能性を排除しなかった。

トランプ大統領は、「必要であれば、私たちは地上部隊の派遣を恐れない。昨夜、非常に高いレヴェルの部隊を地上に派遣した。私たちはヴェネズエラが適切に統治されるようにする」と発言した。

「我々は今、ヴェネズエラに駐留している。必要であれば、再び派遣する準備もできている」とトランプ大統領は記者会見で述べ、アメリカはヴェネズエラの利益を生む石油産業も管理すると付け加えた。「石油産業は莫大な利益を生み出すだろう。私たちはヴェネズエラ国民にその利益を与える」。

アメリカ軍は現在もヴェネズエラに駐留している。

=====

連邦上院は来週トランプ大統領のヴェネズエラに対する軍事行動を阻止する投票を行う予定している(Senate to vote next week to block Trump’s military action against Venezuela

アレクサンダー・ボルトン筆

2026年1月3日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/5671074-senate-war-powers-resolution-venezuela-vote/

連邦上院は来週、ドナルド・トランプ大統領によるヴェネズエラへの軍事行動継続を阻止するための超党派の戦争権限決議案を採決する。アメリカ軍が土曜日早朝に南アメリカのヴェネズエラを攻撃し、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束したことを受け、この採決はより一層の重要性を帯びている。

トランプ政権によるヴェネズエラへの更なる敵対行為を阻止するこの決議案は特権的な議決であるため、ジョン・スーン連邦上院多数党(共和党)院内総務(サウスダコタ州選出、共和党)は、この決議案の審議を阻止することはできない。

この決議案は、チャック・シューマー連邦上院少数党(民主党)院内総務(ニューヨーク州選出、民主党)、ティム・ケイン連邦上院議員(ヴァージニア州選出、民主党)、ランド・ポール連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)、アダム・シフ連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が提出している。

連邦上院での可決には単純過半数の賛成が必要となる。

ケイン議員は声明の中で次のように述べている。「連邦議会が戦争、平和、外交、貿易といった問題において、憲法上極めて重要な役割を改めて主張すべき時がとっくに過ぎている。連邦議会の明確な承認がない限り、ヴェネズエラとの戦争は行わないことを規定した私の超党派決議案は来週採決される」。

ケイン議員は「アメリカの民主政治体制250周年を迎えた今、建国の父たちが逃れようと闘った暴政(tyranny)へと堕落することを許してはならない」と付け加えた。

アダム・シフ連邦上院議員は、トランプ大統領のマドゥロ大統領に対する行動は、この地域を「混乱(chaos)」に陥れる恐れがあると警告した。

カリフォルニア州選出の民主党議員であるシフは声明の中で「連邦議会の承認も国民の支持もないまま行動するトランプ大統領は、西半球を混乱に陥れる危険を冒し、戦争を始めるのではなく、終わらせるという約束を破った」と述べた。

シフ議員は連邦議会に対し、武力行使を承認するか拒否するかの権限を再確認するよう促した。

シフ議員はさらに「新たな戦争に巻き込まれることを深く拒絶するアメリカ国民の声を代弁しなければならない」と語った。

連邦上院の戦争権限決議案は、民主党議員全員とリバータリアン寄りの保守派であるポール議員が賛成票を投じると見込まれているため、来週可決される可能性がある。

可決に必要な51票を確保するには、共和党議員からさらに3人の賛成票が必要となる。

穏健派のスーザン・コリンズ連邦上院議員(メイン州選出、共和党)とリサ・マコウスキー連邦上院議員(アラスカ州選出、共和党)、そして長年にわたりアメリカ主導の海外軍事関与に懸念を表明してきたポピュリスト保守派のジョシュ・ホウリー連邦上院議員(ミズーリ州選出、共和党)は、この決議案に賛成票を投じる可能性がある。

連邦上院共和党指導部のスーン議員は、マドゥロの拘束を「アメリカで起訴されている麻薬犯罪について、彼を裁きにかけるための重要な第一歩」と称賛した。

スーン議員はソーシャルプラットフォームXに、「この必要な行動を遂行してくれた勇敢な軍隊の男女に感謝する」と投稿した。

ジム・マクガヴァン下院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)が提出した、トランプ大統領によるヴェネズエラへの軍事力行使を阻止するための法案は、先月(2025年12月)、連邦下院で否決された。

連邦下院は213対211で、マクガヴァン議員提出の法案を否決した。この法案は、連邦議会の承認なしに、ヴェネズエラとの敵対行為またはヴェネズエラに対する敵対行為から全てのアメリカ軍を撤退させるよう大統領に指示するものだった。

連邦下院はまた、連邦下院外交委員会の民主党側筆頭議員であるグレゴリー・ミークス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)が提出した決議案を216対210で否決した。この決議案は、連邦議会の承認がない限り、「大統領が指定する西半球のあらゆるテロ組織」との敵対行為からアメリカ軍を撤退させるというものだ。

ミークス議員の決議案は、アメリカへの麻薬密輸の疑いがあるヴェネズエラの船舶に対する軍事攻撃を阻止することを目的としていた。

連邦上院で可決された戦争権限に関する決議は、法的な効力を持つためには連邦下院の承認とトランプ大統領の署名が必要となる。

​​トランプ大統領は、最高司令官(commander in chief)としての権限を制限する決議案には拒否権を発動すると予想されているが、上下両院とも拒否権を覆すのに十分な票数に達していない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 第二次世界大戦後の世界体制において重要なのは米ドル基軸体制である。世界の貿易においてそのほとんどがドルで決済を行われるということだ。アメリカは為替の手間もかからずに、ドルを使って貿易ができるということだ。極端なことを言えば、アメリカはドルを刷りさえすれば、世界中の国々から物品やサーヴィスを買うことができるということだ。世界各国を旅行して、円とドルのお札を出してみて、どちらを取るかと質問されたら、日本以外の国であればほとんどの人がドルを取るだろう。

 この米ドル基軸体制の基本にあるのが、ペトロダラー(petrodollar)体制である。これは、サウジアラビアのアブドゥル・アズィーズ国王とアメリカのフランクリン・デラノ・ルーズヴェルト大統領の会談の後に決定されたもので、石油取引は、米ドルのみで行うという合意がなされた。その結果、アメリカは最重要物資である石油を自国通貨ドルで買うことができるようになった。産油国は石油と引き換えに手に入れた米ドルで米国債に投資して、利益を得ることができた。アメリカは米国債を使って国内整備を行うことができた。また、日本や西ドイツなどの国々はアメリカに製品を輸出し、稼いだ米ドルで石油や天然資源を買い、戦後復興と経済成長につなげていった。

 米ドルに対する信頼は、アメリカの国力に対する信頼である。アメリカが世界第債の軍事大国であると同時に世界最大の経済大国であることがその基礎にある。それが揺らぐようになっている。アメリカが率いる西側諸国に対して、中露がリードする西側以外の国々が台頭している。これらの国々が「どうして米ドルを使わねばならないのか」ということになっている。米ドル基軸体制に対する疑問が出ている。こうした疑問が出ているだけでも、アメリカの国力の減退が大きいということを示している。

 更に言えば、今年の大統領選挙の結果次第では、アメリカ国内の状況が不安定になり、それがアメリカ経済に大きな影響を与えることになるだろう。アメリカ国内で選挙結果を受けて、暴動や暴力が頻発することになれば、米国債の価値も毀損される。米国債の価値が毀損されれば、米国債崩れということが起きる。そうした事態に備えて西側以外の国々は米国債の保有量を減らし、金の保有量を増やしている。

 米ドルの支配はこれからしばらく続いていくだろう。しかし、その崩壊の足音が聞こえるような状態になっている。私たちはそうした状況に備えなければならない。

(貼り付けはじめ)

米ドルが負ける方になんて賭けるな(Don’t Bet Against the Dollar

-アメリカの競争相手である各国は、米ドルを基軸とするシステム内での自主性の限界に挑戦しているが、真のグローバルな代替手段は存在せず、世界は転換点(inflection)からは程遠い。

ジャレッド・コーエン筆

2024年6月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/10/brics-currency-dollar-yuan-united-states-economy/?tpcc=recirc_trending062921

georgewashingtondollar001
地球の玉座の頂上に座るジョージ・ワシントンをドル紙幣から持ち上げる風船として機能するアメリカドルのシンボルが示すイラスト

米ドルが世界経済と米国の経済国家戦略の基軸(central pillar)となったブレトンウッズ会議から80年が経った。そして、80年にわたり、私たちは米ドルの将来の終焉についての予測も目撃してきた。しかし、米ドルの将来に関する議論はほぼ最初から的外れだった。ここで出てくる疑問は、出来事や危機や新技術が米ドルを基軸通貨の台座から追い落とすかどうかではない。むしろ、米ドルが依然優勢であるものの、冷戦後のコンセンサスが崩れつつある世界経済において、アメリカの競争相手、さらにはパートナーがどのようにして金融システムの限界を押し広げているかということである。

数十年にわたり、米ドルの終焉を予感させる出来事は数多く報じられてきた。1971年にリチャード・ニクソン米大統領が米ドルと金のリンクを切り離した(delinked)とき、イギリスのある著名なジャーナリストはそれを「全能の米ドルが正式に廃位された瞬間()」であると宣言した。1990年代のユーロ導入を米ドル終焉の瞬間と見た人も存在した。2010年代の世界金融危機と中国の台頭により、経済学者の多くは人民元(the yuan)が世界の準備通貨(reserve currency)になる可能性があると予測した。最後に、2022年のロシアの本格的なウクライナ侵攻と西側主導の対モスクワ制裁は、きたるべき「ポスト・ドル世界(post-dollar world)」についての疑問を引き起こした。

米ドルには地経学的な逆風(geoeconomic headwinds)が厳しく吹きつけている。各国は貿易における米ドルへの依存を減らし、アメリカの決済システムから距離を置くよう取り組んでいる。しかし、未来は、ドル支配(dollar dominance)と、いわゆる脱ドル化(de-dollarization)の間の二項対立(binary)ではない。アメリカ経済は依然として世界最大であり、最も豊かな資本市場と最も信頼できる金融機関を擁している。米ドルは依然として金融上の安全な避難先(financial safe haven)であり、アメリカだけでなく、世界的に最も信頼できる交換および価値の保存媒体(the most reliable medium of exchange and store of value)である。80年前に米ドルの地位を確立したネットワークと歴史は今も維持されており、米ドルの支配に対する不満の高まりにより、利便性の一部が分かりにくくなっている。変化したのは、アメリカの競合国や一部のパートナー国が、技術の進歩(technological advances)と地経学的修正主義(geoeconomic revisionism)に勇気づけられて、ドルベースのシステム内での金融自主性の限界を押し広げていることだ。しかし、実際にそれを変えるための協調的な取り組みが見られる転換点には程遠い。

米ドルの立場が変わるとしたら、それは革命(revolution)ではなく進化(evolution)によるものとなるだろう。より多くの国が米ドルの到達範囲を制限する措置を試行し、導入するだろう。新興の金融テクノロジーは、新たな変化に関する諸理論と、様々な多国間金融協定を促進するだろう。一方、西側の政策立案者やビジネスリーダーたちは、世界の不安定化でアメリカ経済が多額の債務を負う中でも、米ドルの歴史的な地位を守らなければならないだろう。しかし、米ドルは当面、世界経済を下支えし続けるだろう。

usdollargold001
左:印刷機の彫刻版にシートを敷く米国財務省職員(1935年頃)、右:ニューヨーク連邦準備銀行の金庫室で、国際為替取引に使用される金の延べ棒の計量が行われる(1965年頃)

米ドルのような通貨はかつて存在しなかった。歴史家たちは、スペイン帝国のドル銀貨(Spanish Empire’s pieces of eight)、オランダのギルダー銀貨(Dutch guilders)、または、1920年代まで主要基軸通貨であった英ポンド スターリング(U.K. pound sterling)に米ドルを例えている。しかし、経済学者のマイケル・ペティスが指摘するように、米ドルは「国際通商においてこれほど極めて重要な役割を果たした唯一の通貨(the only currency ever to have played such a pivotal role in international commerce)」だ。米ドルは世界の外貨準備保有額の58%を占めている。全ての外国為替取引の88% に関与している。国際的な影響力により、他国の貿易不均衡は、アメリカの不均衡によって相殺される。

ドルは、アメリカだけでなく世界中の国々と消費者に安定と安全を提供する。アメリカの開かれた市場(open markets)、法の支配(rule of law)、信頼できる諸機関(trusted institutions)、そして深く流動性の高い資本市場(deep, liquid capital markets)により、これは信頼できる資産だ。アメリカ以外では、投資適格資産の供給が限られている。しかし、米ドルに不満がない訳ではない。ここ数年、米ドルを玉座(pedestal)から叩き落とすつもりだと公に表明する世界の指導者たちが増えている。彼らは、世界が分断され、米ドル以外の通貨との取引の効率を高める金融テクノロジーの台頭、財政状況が不透明で経済関係にある国や団体のリストが増え続ける分断されたアメリカを目の当たりにしている。対立が発生し、彼らはそれを利用する立場を公に表明している。

紛争と競争(conflict and competition)が激化する世界では、脱ドル化(de-dollarization)の話は今後も続くだろう。米ドルが世界経済の中心ではなかった場合、敵対者たちはよりうまく制裁を回避でき、より効果的な代替経済圏(more potent alternative economic blocs)が存在する可能性がある。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が昨年、上海で行った演説で、「私は毎晩、なぜ全ての国が貿易をドルに基づいて行わなければならないのか自問している(Every night I ask myself why all countries have to base their trade on the dollar)」と劇的に述べたのはそのためだ。アメリカの「制度的覇権(institutional hegemony)」の危険性を警告し、中国外務省は、2023年2月に論文を発表し、アメリカは米ドルを通じて「他国にアメリカの政治経済戦略に奉仕するよう強制している(coerces other countries into serving America’s political and economic strategy)」と主張した。中国外務省は更に、「米ドルの覇権が世界経済の不安定性と不確実性の主な原因である(hegemony of [the] U.S. dollar is the main source of instability and uncertainty in the world economy)」と述べた。

russiancurrency001
ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始した2022年2月24日、モスクワ中心部の両替所の前を通り過ぎる女性

ロシアによるウクライナへの全面侵攻とその後の制裁発動からおよそ1年後という声明のタイミングは、その背後にある真の動機を信じがたい。 80年近くにわたる米ドルの支配により、中国などの国の台頭など、歴史上最も偉大な平和と繁栄が見られた。1944年には、米ドルは世界に課せられていなかった。それは、中国とブラジルを含む44カ国が第二次世界大戦後の金融秩序を決定するためにブレトンウッズに集結したとき、戦後の状況と驚くべき程度の国際的合意から生まれた。今日の不安定を引き起こしているのは米ドルではなく、ヨーロッパと中東での戦争、そしてインド太平洋の緊張だ。これらの地政学的な課題は、中国によるロシアへの支援の深化などを通じて結びついている。モスクワは、その経済的寿命をウクライナへの攻撃を維持するために利用してきたが、戦争は世界中のお金の動き方を変えた。ロシアの侵攻から数週間以内に、世界経済の60%以上を占める、37の同盟諸国とパートナーからなるアメリカ主導の連合は、ロシアに制裁と輸出規制を課した。 2022年4月までに、ロシアの輸入額は戦前の中央値を約43%下回った。その結果は、クレムリンが発表しているよりも深刻で、一般のロシア人は政権が引き起こした苦痛を感じている。しかし、ロシアは新たな市場と経済を戦時態勢に置く手段を見つけたため、アジアへの軸足がモスクワを救った。ロシアは現在、GDP6%を軍事に費やしている。

変わったのは、お金がどこから来たのかだけではなく、そのお金がどのようなものであるかだ。これは中央アジアやコーカサスにある旧ソ連諸国でも見られ、西側の技術を米ドルで購入し、ルーブルでロシアに売っている。ロシアの対中国貿易でもそれが分かる。ウクライナへの本格的な侵攻後の最初の9カ月で、ロシアのルーブルと人民元の貿易は40%以上急増した。一方、中国とロシアの二国間貿易は、2023年に過去最高の2400億ドルに達し、わずか1年で26.3%増加した。人民元は最近、ロシアで米ドルに代わって最も取引されている通貨となり、モスクワ取引所で取引される外貨全体のほぼ42%を占めている。その結果、戦争とロシア政府によるアメリカの決済システム(U.S. payment systems)の回避により、世界最大の国ロシアと、第2位の経済大国中国は、主に米ドル以外の通貨で取引されるようになった。

しかし、米ドル以外の通貨の国際化はまだ遠い先の話だ。米ドルの優位性の継続は、政府から企業、家計に至る数百万の市場参加者からの信任投票によるものだ。もっともらしい代替案を生み出すためには、二国間の変化だけでなく、法の支配(rule of law)、透明性(transparency)、説明責任(accountability)に基づいた信頼できる新たな機関と多国間の連携が必要となるだろう。中国主導のクロスボーダー銀行間決済システム(Chinese-led Cross-Border Interbank Payment SystemCIPS)もそのような試みの1つで、1日当たり2万5900件の処理を行っていると報告されているが、その合計は、1日約50万件、総額18億ドルの取引を行う、アメリカの手形交換所銀行間決済システムには大きく及ばない。数兆の価値。そして、CIPS取引のうち80%は、北京ではなくベルギーに拠点を置くシステムであるSWIFTに依存している。過去80年間に米ドルが獲得してきた信頼が、米ドルを際立たせている。

cairousdollar001
2022年8月24日、カイロの通貨両替店から出てくる女性

大規模な非ドル化を主張する人々にとっての最も重大な2つの問題は、何かを無に置き換えることは不可能であること、そしてアメリカの競争相手が、時にはそのレトリックが別のことを示唆しているとしても、現時点では米ドルに取って代わる能力も意思も持っていないことである。だからと言って、米ドルの立場を当然のことと考えるべきだという訳ではない。技術革新(innovation)と地経学的断片化(geoeconomic fragmentation)により、その影響は徐々に薄れていく可能性がある。最も重要な新たなトレンドは、新しい技術モデル、セクター固有の取り決め、二国間および多国間連携だ。これらの取り組みはわずかなものだが、将来的には有意義な代替手段となる可能性がある。

アメリカは、ほとんどの主要市場と同様に発達した金融テクノロジーを持っているが、特定の金融テクノロジーの消費者への導入においては、少数の国は遅れている。これらの比較は、あらゆる範囲で行われている。2021年、エルサルヴァドルは、仮想通貨(cryptocurrency)を法定通貨(legal tender)とした最初の国となった。より重要なことは、大西洋評議会が中央銀行デジタル通貨(central bank digital currenciesCBDC)の普及を追跡しており、世界のGDPの98%を占める、134の国と通貨同盟がCBDCの活用事例(use cases)を模索していると報告している(2020年はわずか35カ国だった)。G20加盟国のうち11カ国でプロジェクトが進行中だが、CBDC を本格的に開始しているのは3カ国だけだ。より分断された世界(more divided world)においては、より多くの CBDC が存在する。大西洋評議会の報告によると、2022年2月以来、「ホールセールCBDC の開発は2倍になっている」ということだ。

1970年代と80年代に、アメリカの消費者がクレジットなどの金融テクノロジーを大量に導入したとき、中国経済は、相対的に混乱に陥り、文化大革命からまだ回復途中だった。 1976年の GDP はわずか1540億ドルだった。しかしながら、今日、中国は世界第 2位の経済大国であり、そのデジタル人民元(digital yuan (e-CNY) は、「脱ドル化」に向けたテクノロジー主導の取り組みについて語る多くの専門家の注目を集めている。e-CNYは、銀行口座を持たない中国国民に更なる効率性と金融包摂を提供する可能性があるが、多くの点で、西側諸国のデジタルおよびモバイル決済システムとほとんど違いはない。

それにもかかわらず、中国は米ドルの代替手段として電子人民元を国際化する努力をしており、中国政府はデジタル通貨のデビュー会場として、2022年の北京冬季オリンピックを選んだことでその意図を明確にした。オリンピック期間中、依然として新型コロナウイルス感染症による厳しい規制下にあった首都北京を訪れる訪問者は税関を通過し、すぐに通貨を電子人民元に両替することができた。しかし、これは海外からの信頼を高めるどころか、金融技術における北京のリーダーシップへの懸念を深めるだけでなく、中国共産党による中国社会への支配を強め、中国が世界に対して利用できる新たな地経学的影響力を生み出す可能性があるとして、警戒を呼び起こした。

ecnychina001
2023年9月2日に北京で開催された2023年中国国際サーヴィス貿易交易会で、来場者は中国のデジタル通貨e-CNYを使って支払いを行っている

他国で目立った普及が見られないという事実は、e-CNYが海外では信頼できる代替手段ではないことを示しており、国内でもまだ試験段階にあり、中国のわずか25都市で2億6000万のウォレットに達している。14億人以上の人口のうち。しかし、中国のデジタル通貨の国際化への取り組みは続いている。プロジェクト「mBridge」は、中国本土、香港、タイ、アラブ首長国連邦と25のオブザーバー諸国が参加する国境を越えた CBDCプログラムであり、そのような取り組みの1つだ。中国政府が世界の多くの地域で電子人民元の信頼を高めるための措置をまだ講じていなかったとしても、ドルに依存する決済レールに代わる、より効率的で低コストの代替手段に国際的な関心が集まっている。

しかし、中国は最も近いパートナーとの間で、限定的な脱ドル化の新たな道を見出している。中国は現在、特に東アジア、サハラ以南のアフリカ、資源豊富な新興市場において、120カ国以上の最大の貿易相手国となっている。世界経済の影響力が拡大する中、中国は国際収支の米ドルからの移行に取り組んでおり、現在では中国の商品貿易総額の23%もが人民元で占められている。

その傾向が最も顕著に見られるのは石油取引だ。石油の価格は米ドルで決められており、世界の石油デリヴァティヴ市場の取引量(1日の平均現物原油フローの約23倍)は完全にドル建てだ。しかし、中国政府は、中国の貿易と世界経済における米ドルの役割を減らすことに取り組んでいる。中国は、大国だが資源に乏しく、主に中東からのエネルギー輸入に依存している。昨年の時点で、中国はサウジアラビアから日量約180万バレルの原油を輸入している。この貿易を米ドルから遮断するために、リヤドと中国は、70億ドルの通貨スワップ協定に署名した。そして、毎日の世界の原油量の約14% が制裁対象国から供給されており、この分野での非ドル化へのインセンティヴは明らかだ。

しかしながら、インドとロシアの間の貿易パターンが示すように、ここでは石油市場の脱ドル化を目指す人々の範囲が彼らの理解を超えている可能性がある。西側主導の対ロシア制裁発動を受けて、インドはロシア海上輸送原油の最大の輸出先となり、2023年5月には、日量215万バレルに達した。しかしニューデリーは、両替と決済にインドルピーを使用することを主張した。この立場は、モスクワに対する制裁や禁輸措置と相まって、それ以来摩擦を引き起こしている。ロシアとインド間の石油貿易は当初の増加にもかかわらず、最近12カ月ぶりの低水準となった。

oilbarrels001
2022年2月24日、インド・チェンナイのガソリンスタンドで石油バレル(樽)を積み上げる労働者たち

経済全体を「制裁に耐える(sanctions-proof)」方向への動きは、他に様々な形で行われている。ロシア政府は、長年にわたり米ドル保有を着実に減らしており、アメリカ国債の保有額は2017年12月の1022億ドルから半年後にはわずか149億ドルまで減少させた。同様に、2023年に中国は、アメリカ国債保有を減らし、金購入を30%増額した。こうした傾向は、アメリカの敵対諸国や競争相手に限定されている訳ではない。ゴールドマンサックス・リサーチが指摘しているように、ジョージ・W・ブッシュ政権までは核開発計画をめぐり、アメリカの制裁の対象となっていたインドも、自国の金保有量を増やしているが、世界中の埋蔵量に占める金の割合は依然としてわずかだ。

金はある程度の多様化と制裁からの隔離を提供するが、米ドルの代替品ではない。実際の収益ははるかに予測しにくく、金には多額の輸送コストと保管コストがかかり、貿易決済の交換媒体としての金の機能は低い。一方、現物の金の供給は限られており、金先物はわずか約400億ドル相当の貴金属に裏付けられている。この数字は、多くの資産への分散投資や投資の機会を生み出す上場投資信託を含めるとさらに上昇するが、依然として国際通貨市場には遠く及ばない。

テクノロジーは、世界の金融システムにおける金(ゴールド)の用途と役割も変える可能性がある。歴史的に、金は法定通貨よりも優れた価値の保存手段であることが証明されてきた。しかし、同様の機能が欠けており、言うまでもなく、ストレージと移動のコストが高くなる。しかし、既存の保管システムにおける現物の金のデジタル化により、決済機能の効率が向上する。

技術的進歩がどのようなものであれ、真の脱ドル化には多国間合意に裏付けられた説得力のある代替案が必要となるだろう。上海協力機構(Shanghai Cooperation Organisation)、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)、BRICS(現BRICS+)などの中国主導の機構は、それぞれのやり方でそのようなフォーラムを創設しようとしている。ブラジル大統領ルラが南アフリカで昨年開催されたサミットでBRICS諸国に共通通貨の創設を呼び掛け、そのような交換媒体は「支払いの選択肢を増やし、脆弱性を軽減する(increases our payment options and reduces our vulnerabilities.)」と仲間の指導者たちに主張したのはこのためだ。

広く宣伝されているこの取り組みにも落とし穴(pitfalls)がある。元々のBRICS諸国には世界人口の42% が住んでおり、国際通貨基金(International Monetary Fund)によると、世界の経済生産高の3分の1を占めている。しかし、経済的、イデオロギー的、地政学的な相違により、政策が統一される可能性は極めて低い。加盟諸国ですら、BRICS主導の脱ドル化という考えを否定しており、インド外務大臣S・ジャイシャンカールは昨年7月に「BRICS通貨という考えはない(There is no idea of a BRICS currency)」と述べた。

データは、ジャイシャンカール大臣の感情を強調している。国際決済銀行(Bank for International Settlements)によると、BRICS貿易の根幹は米ドルである。2022年には、インドルピーに関する全ての外国為替取引の97%、ブラジルレアルに関する全ての取引の95%、人民元に関するすべての取引の84%に関与した。

一部のセクターでは脱ドルへの取り組みが勢いを増しているが、脱ドル化を巡るレトリックは多くの意味で、真剣な政策というよりも、パフォーマンス的な政治に近い。人民元の魅力を高めるために、中国政府は資本規制を緩和したり、監視国家モデル(surveillance state model)から脱却したりする可能性があるが、その兆候はほとんど見られない。ヨーロッパ連合がアメリカの金融システムを動かすような資本市場を創設すればユーロを押し上げる可能性があるが、実際にはそうはなっていない。こうした動きは、中国国民にとってもヨーロッパ人にとっても同様に有益となるだろう。しかし今のところ、米ドルはアメリカだけでなく、世界のほとんどの国にとって、依然として最も信頼されており、多くの点で最も効率的な通貨である。そして、BRICSは新たな国際金融システムを構築したいという願望を持っているかもしれないが、過去25年間に新興市場の出現を可能にしてきた世界経済は米ドルに基づいて構築された。

usdollar002
アメリカのライヴァル諸国は、世界を米ドルから引き離すことに成功しないかもしれないが、アメリカ政府も世界の他の国々をその軌道から追い出さないように注意すべきである。制裁のための米ドルの使用は、経済国家戦略の貴重な手段となる可能性があり、ペロポネソス戦争に先立ってアテネが近くの町メガラに通商禁止措置をとった紀元前432年以来、西側諸国政府によって制裁が展開されてきた。しかし、それらが過度に使用されたり乱用されたりすると、信頼が損なわれ、武器化された世界経済(weaponized global economy)から自らを守ろうとする世界の他の国々から離れることになる。

制裁の行使に関する議論はここ2年間でより緊急性を増し、新たな形をとってきた。ロシアのウクライナ侵攻直後、アメリカとその同盟諸国は、西側諸国にある約3000億ドル相当のロシアの主権資産を凍結した。これには、ロシアの金と、ユーロ、米ドル、英ポンド、日本円、その他の通貨建ての外貨準備高の相当部分が含まれていた。世界経済は2年間これらの制裁に適応したが、最近、金融の歴史の新たな章に入った。

今年まで、アメリカは戦争状態にない国の海外資産を押収したことはなかった。しかし、4月24日、ジョー・バイデン大統領はウクライナのための経済的繁栄と機会の再建法(Rebuilding Economic Prosperity and OpportunityREPO)に署名し、まさにそれを実行し、ウクライナを支援するためにロシアの資産を押収する手段を確立した。

REPOの主張は、少なくともワシントンとそのパートナーのほとんどにとって、明白かつ説得力のあるものだった。ウクライナ再建の費用は日を追うごとに増大しており、世界経済フォーラムはその額を約4860億ドルと見積もっている。ロシア資産の再利用は政治的に洗練された解決策であり、アメリカやヨーロッパ連合の納税者に直接コストを課さないという利点がある。しかし、ほとんどの政策と同様、これにはトレードオフが関係しており、最近の5月のG7財務大臣会合でもかなりの議論の対象となった。

このポリシー変更は何をもたらす可能性があるだろうか? アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ストレインは、ロシア資産の差し押さえにより、いつ自国の資産が差し押さえられるか分からないと他国に不安を与える可能性があると批評家たちが主張していると述べた。そのリスクを考慮すると、彼らは西側経済から距離を置くための予防措置を講じ、米ドルやユーロを保有する意欲が減り、西側諸国への投資さえも行わなくなるだろう。ストレインは、REPOに関してはこれらのリスクは「正当だが、最終的には説得力がない(legitimate, but ultimately unpersuasive)」と考えているが、こうした措置を効果的にするために関与が必要となる同盟諸国と協力する場合も含め、無視すべきではない。

これらの会話は、実際の、あるいはそう認識されている経済的強制力の過剰使用が、米ドルに代わるものを見つけたいという、他国の欲求を増大させるだけである可能性を示している。制裁は、対象を絞った多国間で、特定の目的を達成するために設定された場合に最も効果的だ。慎重に使用すれば、それらはアメリカの経済的立場を強化するが、乱用すると国を弱体化させる。

hansmorgenthaukunghsianghsi001
1944年のブレトンウッズ会議に出席する米財務長官ヘンリー・モーゲンソーと中華民国財務副部長の孔祥熙

米ドルの終焉は、何十年にもわたって過剰予測されてきた。しかし、米ドルが永遠に最高の地位に君臨すると考える人は、チャールズ・クラウトハマーから謙虚さの教訓を学ぶべきである。1990年1月、冷戦終結でアメリカが最高権力を誇っていたとき、彼は次のように書いた。「冷戦後の世界の最も顕著な特徴は、その一極性(unipolarity)である。間違いなく、やがて多極化(multipolarity)が訪れるだろう」。米ドルの一極性の瞬間は終わっていない。しかし、世界は変わる可能性がある。

第二次世界大戦後、米ドルが世界のコンセンサスとして浮上したとき、アメリカ経済は世界のGDPのほぼ半分を占めていた。それ以来、中国は世界第2位の経済大国になった。中国政府はアメリカ主導の秩序に挑戦している。各新興市場は発展し、より大きな自主性を求めている。新しい通貨とテクノロジーがオンラインに登場した。一方、ワシントンは、米ドルが与える特権を常に守っている訳ではない。不必要な関税は、世界経済におけるアメリカの役割と影響力を縮小させる可能性がある。財政の瀬戸際政策(fiscal brinksmanship)は、債務上限をめぐる度重なる対立やデフォルトの脅威と相まって、信頼を損なう。アメリカの国債発行高は35兆ドルに近づき、財政赤字は平時であっても記録的なペースで拡大している。

しかし、もしドルを批判する人々が本当に代替案を求めているのであれば、根本的に異なる政策の採用を余儀なくされるだろう。中国が現在経験している経済問題は、景気循環的なものというよりも構造的なものであるように見える。中国政府の閉鎖資本勘定は取引に利用できる人民元の額を制限しており、昨年、中国は対外直接投資で史上初の四半期赤字を報告した。中国の貿易相手国の多くは、米ドルからの脱却を望んでいるが、ゴールドマンサックス・リサーチは、自国の通貨が米ドルに固定されていることが多いため、中国でも蓄積できる人民元には制限があると指摘している。アメリカの同盟諸国に関して言えば、EUですら、代替手段としてのユーロの魅力を高める可能性のあるはずの、流動性が高い資本市場を創設するための措置を講じていない。

脱ドル化に向けた動きは依然としてわずかだが、意味があり、感動を与えるものである。米ドルがその地位を失うには、ワシントンで一連の政策が失敗し、米ドルを批判する者たちが権威主義的で国家主導の経済(authoritarian, state-led economies)だけでなく、世界的に魅力的な代替案を生み出す必要があるだろう。世界の金融システムは変化しており、確かなことは何もない。しかし、米ドルが負ける方に賭けるのはやはり誤りだろう。

※ジャレッド・コーエン:ゴールドマンサックス国際研究所国際問題部門責任者兼共同会長。ゴールドマンサックスのパートナー兼経営委員会委員を務めている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今年の冬はエネルギー価格の高騰があり、世界各国で厳しい冬になりそうだ。光熱費の高騰により生活が苦しくなる。ウクライナ戦争によって、ロシアに対しては経済生成が発動され、ロシアからの天然ガス輸入ができなくなった。ロシアは天然資源輸出ができなくなれば、経済的に行き詰って戦争を継続できなくなるだろうと考えられていた。しかし、そのような目算は崩れてしまった。非西側諸国によるロシアの天然資源輸入が大きかった。

アメリカや日本をはじめとする先進諸国は産油諸国に石油の増産を求めているが、これはこれまでのところうまくいっていない。サウジアラビアは増産を拒否している。ここにも西洋諸国(the West)対それ以外の世界(the Rest)の対立構造が明らかになっている。ロシアは非西洋諸国、具体的には中国やインドに石油を割安で輸出している。これでお互いにウィン・ウィンの関係を築いている。

ヨーロッパはロシアからの天然資源輸入がなくなり、アメリカからの高い天然ガスを買わねばならず、通常であれば安い夏の時期に買っておいて冬に備える備蓄も全くできなかったことから、厳しい冬になる。偶然見たテレビニューズの取材に対して、「薪を備蓄して冬に備える」と答えていたドイツ国民の声が印象的だった。

 日本でも東京都の小池百合子知事がタートルネックのセーターやスカーフの着用を推奨して話題になった。首元を温めれば暖房の設定温度は低くできるということのようだ。暖房や建物の建材などのエネルギー効率を高めれば、エネルギー消費を減らすことができる。気候変動のためにそうすべきということは長年言われてきたが、今回のウクライナ戦争とそれに影響を受けてのエネルギー価格高騰もあるので、こうした動きを促進しようという主張は出てきている。

 しかし、「言うは易く行うは難し」である。これから建物を全面的に改修するなり建て替えるなりするには多額の資金がかかる。更に言えば、こうした建材の材料費も高騰している。そことの兼ね合いが難しい。エネルギー効率を高めておけば、戦争が終わってエネルギー価格が下がればこれまでよりもエネルギー関連支出が下がるということになるから良いではないかということであるが、戦争でそのような対策が進むというのは何とも皮肉なものだ。

(貼り付けはじめ)

そうだ、私たちはエネルギー需要の削減について話す必要がある(Yes, We Need to Talk About Cutting Energy Demand

-エネルギー供給のみに集中することで、世界は危機に立ち向かうための最も安価で迅速な方法のいくつかを無視している。

ジェイソン・ボードフ、メーガン・L・オサリヴァン筆

2022年6月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/06/29/energy-demand-supply-efficiency-conservation-oil-gas-crisis-russia-europe-prices-inflation/

ドイツは先週、ロシアがヨーロッパへの天然ガス供給を更に制限することで、エネルギー不足が差し迫ることを警告し、エネルギー部門を戦時体制(war footing)に移行させた。冬が到来した時に必要となる在庫を満たすヨーロッパの能力を低下させることによって、ロシアは、ウクライナを征服し、西側諸国の抵抗を断ち切るためのキャンペーンの一環として、エネルギー輸出を武器化するためのレバレッジを高めている。ドイツのロベルト・ハーベック・エネルギー経済大臣は、ガスシステムを政府によるエネルギー配給の一歩手前の「警報」段階までエスカレートさせ、ドイツ国民に対し、消費行動を自発的に変えてエネルギーを節約することで「変化を起こす」よう呼びかけた。

ハーベックは、今日のエネルギー危機に対する解決策として、極めて重要かつ過小評価されていることを指摘した。現在採用されている多くのアプローチとは異なり、効率性を高めることで、ロシアのレバレッジを減らし、エネルギー価格の高騰に対処し、気候変動に対処するための炭素排出を抑制することを同時に実現することが可能となる。実際、サーモスタットの調節や運転時間の短縮から、スマートなデジタル制御や建物の断熱に至るまで、効率と節約の向上は、これらの課題全てに対処する最も迅速、安価、かつ簡単な方法の1つである。エネルギー危機がまだまだ続く中、世界中の政策立案者たちは短期・中期・長期のエネルギー消費の削減をあらゆる戦略の中心に据えるべきだ。残念ながら、ドイツが市民や企業に節電を呼びかけるのは、迫り来るエネルギー不足に対処するために多くの国がとっているアプローチの例外である。

ロシアがヨーロッパ大陸へのガス供給を削減するのではないかというヨーロッパ各国の懸念はここ数週間で現実のものとなった。ヨーロッパの数カ国への選択的な供給削減の後、ロシアはドイツへの主要ガスパイプラインの能力を60%も削減し、他の多くの国への輸出を削減した。ヨーロッパの天然ガス価格は50%以上上昇し、電力価格は2021年12月以来の高水準に上昇した。これを受けて、欧州連合(EU)加盟国10カ国が様々な段階のガス緊急事態を宣言している。

一方、原油価格は、世界的な供給不足、ロシアの輸出抑制、精製能力の限界などを背景に、ほぼ過去最高値の水準で推移している。ガソリンや軽油の価格高騰は、インフレを引き起こし、人々の生活を圧迫し、世界各国政府にとって政治的な頭痛の種となっている。例えば、ジョー・バイデン米大統領は最近、連邦ガソリン税の一時停止を議会に要求した。

石油、ガス、石炭の使用量を削減するには、効率性への投資と需要の節約が最も安価で迅速な方法であることが多い。

今回の危機に対して、各国は石油やガスの代替資源を求め、石炭の利用を増やすことで対応している。最近、液化天然ガス(LNG)を船で供給する米独の長期契約と並んで、ヨーロッパ各国はカタールと同様の契約を結ぼうとしている。ドイツ、オランダ、フィンランド、フランスなどがLNG輸入設備の新設を発表している。LNG輸入基地を1つも持たず、ロシアのパイプラインガスへの依存度を高めているドイツは、現在3基の基地を計画しており、ドイツ政府は最近、基地を建設する間、より迅速にガスを輸入できるようにするため、浮体式貯蔵・再ガス化装置4隻をチャーターしている。オランダは、ガス採掘に起因すると思われる地震によって停止した、最大の陸上ガス田の再開を検討している。ドイツ、オーストリア、イタリア、オランダは、古い石炭発電所を復活させる計画を発表した(ただし、ドイツは不可解にも今年末に最後の石炭発電所2基を停止させる計画で原子力発電所は復活させない)。そして先週、バイデンは石油業界の幹部を招集し、アメリカの石油生産と精製を促進する方法を探ろうとした。

これらの措置は全て戦争によって起きているので嘆かわしいことではあるが、現在の危機への対応としては適切なものだ。本誌にも書いたように、ロシアからのエネルギー供給の多くを喪失しても、消費者に安全で安価な燃料を確保するためには、少なくとも短期的、中期的には、他の化石燃料供給源の活用と更なるインフラへの投資が必要だということは厳然たる事実である。より多くのエネルギー供給を求める動きは、もちろんクリーンエネルギーにも及び、ヨーロッパではゼロ炭素エネルギーへの投資を増やし、その目標を前倒しで達成しようとしている。

しかし、掘削と圧送、製油所の限界への挑戦、数十億ドル規模のLNG施設の建設、ヨーロッパにおけるクリーンエネルギー供給の促進といった努力は、エネルギー使用量を削減するためのより重要なプログラムと対をなす必要がある。再生可能エネルギーの拡大と化石燃料との戦いに注目が集まる中、世界は悲しいことに、エネルギーの最も重要な事実の1つを見失っている。石油、ガス、石炭の使用量を削減し、ロシアのエネルギー資源の輸入の必要性を減らすには、効率的な投資と需要の節約が最も安価で迅速な方法だ(言うまでもなく、二酸化炭素排出量も削減できる)。

国際エネルギー機関(IEA)によると、ヨーロッパの建物で暖房のサーモスタットを摂氏1度(華氏1.8度)調節するだけで、年間100億立方メートルのガス使用を抑えることができるという。ちなみに、バイデンは3月、今年中にヨーロッパに150億立方メートルのガスを供給すると公約している。また、IEAのネットゼロエミッション達成のためのロードマップでは、建物の改修、消費電力の少ない家電製品への切り替え、自動車の燃費基準の引き上げ、産業廃熱回収の改善などの対策を通じて、エネルギー効率が今後10年間で2番目に大きな貢献を果たすとされている。効率化が進むと、その反動でエネルギー使用量が増えることがあるが、これは「リバウンド効果」と呼ばれるもので、効率化と節約による正味の効果は非常に大きく、すぐに利用可能でしかも低コストで利用できる。

確かに、EUのエネルギー安全保障計画(REPowerEU)には、2030年までにEUの2020年の基準シナリオと比較して、効率化のためのエネルギー節約を9~13%に引き上げるという目標が含まれている。例えば、フランスでは、2018年に初めて採用されたアパートの改修と、ガスを使用する効率の悪いボイラーに代わる電気暖房の設置に対する補助金を増やすと発表している。古い建物が多いフランスの建物の改修は、エネルギー使用量削減の可能性が最も高いと専門家は指摘しています。このような努力は、効率性を確保するためのスタート地点に過ぎないにもかかわらず、この危機の中で、ヨーロッパ各国政府は、エネルギー需要よりもエネルギー供給に大きな関心を寄せている。

世界的なエネルギー危機に対する供給中心の対応は、ヨーロッパ以外では更に顕著である。IEAによれば、エネルギー効率化投資の成長率は2022年に鈍化するとされており、2050年までに排出量を正味ゼロにするという気候変動目標を達成するために必要な要素には及んでいない。IEAによれば、「最もクリーンで、最も安価で、最も信頼できるエネルギー源は、各国が使用を避けることができ、一方で市民に十分なエネルギーサービスを提供できるものである」ということだ。世界的な効率化の推進は、気候変動に関する目標を達成するために必要なだけでなく、短期的には、全ての消費国、特にヨーロッパの各消費国がロシアの石油とガスの損失による不足に対処するために、必要なエネルギー供給を解放することができ、また、価格の抑制にもつながる。

現在のように石油採掘とインフラ整備に偏って力を注ぐことは、環境的に悪いだけでなく、半世紀前にエネルギー分野の象徴的存在であるエイモリー・ロヴィンズが警告したように、困難でコスト高になる。1973年の石油危機をきっかけに発表された論稿の中で、ロヴィンズは、世界のエネルギー需要を満たすために、採掘、抽出、産業施設などの大規模プロジェクトという「ハード・パス(hard path)」ではなく、保全、効率、再生可能エネルギーという「ソフト・パス(soft path)」をとるよう、エネルギー分野のリーダーたちに強く求めた。

今日、彼の論稿を読み返すと、ロヴィンズの警告がいかに的確であったか、そしてその警告に耳を傾けていれば、私たちはどれほど幸福になれたか、ということに気づかされる。半世紀前に彼が書いたように、今日、「節約は、通常、政策というより価格によって誘導され、必要であることは認められているが、現実よりも修辞的な優先順位が与えられている」のである。加えて、「優先順位は圧倒的に短期的である」と嘆き、目先の政治的・経済的な不安に応えるために、「積極的な補助金や規制によってエネルギー価格が経済水準や国際水準を大きく下回り、成長が深刻に阻害されないように抑制されている」と指摘した。実際、今日の高値に対応して、政府はエネルギー価格の補助金を出し、燃料税を停止している。市場価格が必要なレヴェルまで上昇しているときに、需要を抑制する努力を怠っているのだ。

また、ロヴィンズは、1976年に気候変動の危険性をいち早く指摘し、「石炭へのシフトは、その時あるいはその後すぐに、地球気候に大きな、そしておそらく取り返しのつかない変化をもたらす」と警告し。彼は「205年のエネルギー収入型経済への橋渡しをするために、化石燃料を短期間かつ控えめに使用する過渡的技術」の利用を提唱しており、これは最近本誌で我々が主張したことである。確かに、原子力発電に断固として反対するなど、ヴィビンズのヴィジョンには問題点も多い。しかし、過去半世紀にわたってエネルギーのリーダーたちが困難な道を選んでこなかったならば、今日のヨーロッパと世界の他の地域は、ロシアのエネルギー供給喪失に対処するためにどれほど良い状態にあっただろうかと考えると反省しなければならない。

エネルギー効率と省エネルギーが、エネルギー使用量と排出量に大きな影響を与えるにもかかわらず、社会や政治の注目を浴びてこなかったのには、多くの理由がある。家主は断熱や改修の費用を負担しなければならないが、借主は光熱費の節約によって利益を得ることが多い。これは経済学者に「プリンシパル・エージェント問題(principal-agent problem)」と呼ばれるものだ。消費者たちは、将来的な総電力コストよりも、家電製品の購入価格に注目する傾向がある。これは、「近視眼的(myopia)」として知られる行動現象である。また、節電の呼びかけは政治的な意味合いが強く、1970年代のエネルギー危機の際、ジミー・カーター米大統領(当時)がカーディガンのセーターを着て犠牲を求めた苦い思い出を呼び起こされる。

「ソフト・パス」を歩むのに最適な時期が数十年前であったとすれば、二番目に最適な時期は今である。効率や節約というと、個人的な犠牲や窮乏を連想する人もいるかもしれないが、より効率的な経済は市民の生活の質を下げる必要はなく、同じかそれ以上の生産高を上げるために、より少ないエネルギーの使用を要求するだけのことなのだ。

サーモスタットの調整など、ささやかな行動の変化が必要な節約もあるが、一人当たりのエネルギー消費量が最も多い国の消費者に、ウクライナ人が命がけで究極の犠牲を払っている時に、消費をもう少しだけ減らすように求めるのは、過大な要求にはならない。今年の冬のヨーロッパのガス危機への対応、燃料費高騰による家計への打撃、ロシアのエネルギー供給停止による経済的打撃など、世界のエネルギー政策指導者は、エネルギー効率の価値を早く再認識し、省エネルギーをロシアの侵略に対抗する強力な武器とすべきであろう。

ジェイソン・ボードフ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学気候専門大学院創設学部長、コロンビア大学国際公共問題大学院国際エネルギー政策センター創設部長。国際公共問題担当職業実行教授。米国家安全保障会議上級部長、バラク・オバマ元大統領上級顧問を務めた。ツイッターアカウント:@JasonBordoff

※メーガン・L・オサリヴァン:ハーヴァード大学ケネディ記念大学院国際問題実行部門ジーン・カークパトリック記念教授。著書に『僥倖: 新しいエネルギーの豊富さが世界の政治を覆し、アメリカの力を強化する方法』がある。ジョージ・W・ブッシュ大統領イラク・アフガニスタン担当国家安全保障問題担当大統領次席補佐官、大統領特別補佐官を務めた。ツイッターアカウント: @OSullivanMeghan

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ