古村治彦です。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イラン戦争の終結について度々言及している。戦争とは国際的な問題を解決する手段としての機能を持つ。話し合いをしても解決ができないという場合に最後は武力に訴えるということにあり、国際問題解決の最終手段である。今回のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、宣戦布告なしの先制攻撃であり、その点で国際法違反である。さらに、イランとはオマーンを仲介役として核兵器開発に関する交渉を行っていたこともあり、騙し討ちでもある。イランは報復攻撃を行い、ホルムズ海峡の餞別的な封鎖(航行できる船舶を選別している)を実施して対抗している。
軍事力、攻撃能力だけ見れば、アメリカとイスラエルはイランを圧倒している。その強大な軍事力を叩きつければ、イラン政府は機能停止状態に陥り、イラン国民は現体制への不平不満から政府を打倒し、新たな政府と政権が樹立され、親米路線になるという見通しがあったがそれは完全に外れてしまった。イランは武力面でのエスカレーションを実施せずに、ホルムズ海峡の封鎖という手段を用いて、非対称戦を戦い、世界を巻き込むという手段で、状況を有利に進めている。アメリカとイスラエルは戦争の目的である、イランの弱体化を田性出来ずに、自分たちが追い込まれている。下記論稿にある通りに、「戦闘では勝ちながら、戦争には負けている」ということになる。
イラン戦争は一刻も早い停戦が望ましい。アメリカ国民の支持も得られていない中で、トランプ大統領としては、できれば誰かに責任を押し付けて(ピート・ヘグセス国防長官あたりか)、「勝利宣言」をして、イランから手を引きたいということになるだろう。そうなれば、イスラエルは一緒に「勝利をした」と宣言して、一旦は矛を収めるだろう。しかし、戦争目的は達成されていない。実質は敗北ということになる。それでも、イラン戦争は停戦こそ望ましい。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプはイランとの戦争に敗北しつつある(Trump Is Losing
the War in Iran)
-開戦から1カ月が経った現在、イラン・イスラム共和国は生き残ること自体が勝利と言えるだろう。
ラヴィ・アグラワル筆
2026年3月30日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/03/30/trump-war-iran-israel-lebanon-gulf-winner-loser/
アメリカはイランにおいて成功を収めているだろうか? それは誰に質問するかによって答えが変わる。先週発表されたピュー・リサーチ・センターの調査によると、ドナルド・トランプ米大統領のイラン紛争への対応を批判するアメリカ人は61%、支持するアメリカ人は37%だった。この数字はトランプ大統領への支持率を反映しており、意見の分裂は主に党派的な傾向に基づいていることを示唆している。注目すべきは、共和党支持者の10人中7人がホワイトハウスのこれまでの戦争遂行を支持しているのに対し、民主党支持者では10人中わずか1人しか支持していない点だ。
アメリカとイスラエルによるイランへの共同攻撃の成功を検証するもう1つの方法は、被害の規模を分析することだろう。この指標で見ると、戦闘開始から1カ月が経過した時点で、アメリカとイスラエルはイランに与えた損害をはるかに上回っている。最高指導者アリ・ハメネイ師を含むイランの政治・軍事指導者数名が殺害され、イランの空軍と海軍はほぼ壊滅状態となり、核開発計画はさらに後退した。イランの弾道ミサイル発射能力は低下しており、イランの主要同盟諸国の1つであるレバノンを拠点とする武装組織ヒズボラは激しい砲撃を受けている。一方で、イランは主要な交通・貿易ルートを遮断することに成功し、今のところ大きな永続的な損害を与えていないという点も注目に値する。
それでは、なぜアメリカは戦い(the battle)には勝利しているが、戦争(the war)には敗北しているように感じられるのだろうか? その答えは、おそらく期待(expectations)にあるだろう。そしてこの点において、イラン政権の存続と、世界経済に打撃を与え、アメリカの敵対諸国を潤す能力自体が、イラン・イスラム共和国が優位に立っていることを示唆している。戦争が起きた場合、イランは常に存続と混乱を戦略目標としてきた。トランプ大統領の明らかな苛立ちは、彼が望んでいた迅速な作戦(the quick operation)が実現していないことを明確に示している。
アメリカが敗北する可能性があると見なされる第一の理由は、開戦当初のアメリカの過剰な目標設定にある。2月28日にトゥルーソーシャルに投稿された動画の中で、トランプ大統領は、イランのミサイル開発能力の喪失、代理勢力による地域不安定化の阻止、そして核兵器保有の阻止に加え、政権交代・体制転換(regime change)を望んでいるかのように示唆した。しかし、これらの目標はいずれも今のところ達成されていない。
開戦当初、『フォーリン・ポリシー』誌の複数のアナリストが指摘したように、イラン・イスラム共和国は政権存続を確実にするため、主要な政治・軍事要職の後継者を慎重に選定していた。確かにミサイル発射能力は低下しているものの、イランはイスラエルや地域のアメリカの同盟諸国に向けてミサイルを発射し続けている。テヘランは昨年(2025年)6月のアメリカとイスラエルによる攻撃後、わずか数カ月でミサイル計画を再構築した実績があり、今回の戦争が終結すれば再び同様の行動に出る可能性が高い。ヒズボラは壊滅的な打撃を受けたものの、存続している。そして、イランが紛争を長期化させるための周到な計画を立てている証拠として、イエメンのフーシ派反乱軍が最近になって参戦し、週末にはイスラエルに向けてミサイルを発射した。さらに、イラン国内には依然として約440キログラムの高濃縮ウランが存在し、新たな指導者たち(しかも、より復讐心に燃える指導者たち)が戻ってくるのを待っている。
イランとの戦争をアメリカの失敗とみなす2つ目の理由は、イランがこれまでに世界に与えた莫大な経済的コストである。ジェット燃料の価格は今年120%上昇した。世界の原油価格の主要指標であるブレント原油も同時期に87%以上上昇した。これは主に、イランがホルムズ海峡をほぼ完全に封鎖したことが原因である。ホルムズ海峡は通常、世界の原油の5分の1が毎日通過する海峡であり、液化天然ガス(LNG)の20%も同様だ。LNGの供給途絶に加え、イランのミサイル攻撃でカタールの主要ガス田が損傷したことで、今月ヨーロッパでは天然ガス価格が70%以上も急上昇した。ホルムズ海峡は、世界のヘリウム供給量の3分の1(子供の風船だけでなく半導体製造にも重要な成分)と世界の肥料販売量の3分の1の輸送路でもある。封鎖が長引けば長引くほど、世界はエネルギー危機に加え、半導体と食糧の危機にも直面する可能性が高まる。こうした波及効果は、イラン・イスラム共和国が黙って引き下がるつもりはないということを世界に知らしめる手段と言えるだろう。エジプト、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、サウジアラビア、南アフリカで世論調査を実施したゲオポルによると、今回の紛争とその世界的なコストについてイランを非難する回答者はわずか18%にとどまった。その代わりに、29%がアメリカを、38%がイスラエルを非難している。これは、中立的な観察者たちが有望視していた外交交渉の最中に攻撃が発生したことが一因であることが考えられる。
アメリカが今回の戦争で敗者となりつつある第三の理由は、ジョージ・W・ブッシュ政権下でのイラク戦争の失敗とは異なり、今回は国内的にも国際的にも承認を求めなかったことにある。今回は、民主政治体制の推進やルールに基づく秩序といった建前は存在しなかったのだ。この戦争においてアメリカが真に味方としているのはイスラエルだけだが、イスラエル自身もここ一世代で最も国際的に孤立し、支持を集めなくなっている。トランプ大統領は、まずNATO同盟諸国に支援を要請し、その後、支援が得られないと悟ると、支援は必要ないと否定するという、極めて恥ずべき行動に出た。この戦争によって、大西洋を挟んだ関係は弱体化した。そして、ワシントンが自らルールを積極的に破壊している体制のリーダーとして振る舞う能力もまた、弱体化した。
第四に、この戦争はアメリカの敵対諸国を潤すという予期せぬ結果をもたらしている。原油価格の高騰を抑制するため、米財務省はイランとロシアに対する既存の石油制裁を解除した。その結果、テヘランは戦争開始前よりも多くの原油収入を日々得ている。一方、モスクワは紛争が続く限り、毎日1億5000万ドルの石油収入を得ており、この資金は間違いなくウクライナでの戦争に使われるだろう。ペルシア湾岸諸国から石油の半分以上を調達している中国にとっては、状況はより複雑だ。北京は供給面で多少の制約に直面しているものの、外交政策はワシントンが常に直面しているような、複雑な問題に比較的縛られていない。中国軍指導部は、アメリカがミサイル迎撃ミサイルをどれほど急速に消費しているかを注視している可能性が高い。それは、アメリカは他の分野での攻撃を抑止する能力が低下することになるからだ。
最後に、この戦争は共和党議員の間でトランプ大統領への支持を揺るがしている。米国防総省は、イランにおける継続的な軍事活動を支援するため、2000億ドルの追加予算を要求する意向を示しているものの、正式な提案はまだ行っていない。これは、連邦議会で十分な支持が得られるかどうかについて、疑念が高まっているためと考えられる。共和党所属の、サウスカロライナ州選出のナンシー・メイス連邦下院議員は、先週、イランに関する連邦下院軍事委員会の非公開会合に出席した後でX上に、「繰り返すが、私はイランへの地上部隊派遣を支持しない。今回のブリーフィングを受けて、その姿勢はさらに強固になった」と述べた。
戦争の真の評価は、戦争終結後にしかできない。アメリカは今後、イランの軍事インフラにさらなる打撃を与え、この評価を覆す可能性もある。すでに、各陣営が結果をどのように解釈するかは想像に難くない。イランは世界最大の軍事大国、地域覇権国であり、アメリカに立ち向かったことを誇示するだろう。イスラエルは、たとえ一時的であっても、敵の軍事力を壊滅させたと主張するだろう。そしてアメリカは、圧倒的な武力誇示を行ったと述べるにとどまるだろう。
しかし、たとえ戦争が数日のうちに終結したとしても、イラン政権の残存勢力は生き残っただけで正当化されるだろう。指導者たちは復讐心に燃え、報復を国内でも国際的にも実行に移すだろう。イランの将来の指導者たちはこの紛争を研究し、最大の抑止力は世界経済に莫大な損害を与える能力であると認識するだろう。それは、戦後の指導部が攻撃ドローンやミサイルの兵器庫を迅速に再構築することを意味するかもしれない。また、北朝鮮のように、古い核兵器使用禁止のファトワを放棄し、爆弾こそが最良の安全保障手段だと判断する可能性もある。そもそもこの紛争は何のために起こったのだろうか?
イスラエルにとっては、地域の敵対勢力を繰り返し叩き潰す戦略だったのかもしれないが、ワシントンにとってはそうではない。トランプ大統領は長年、中東における高コストの長期化する戦争を非難してきた。彼はイラン政権の本質、そしてその規模と地理的条件が、アメリカが一夜にして指導者を捕らえたヴェネズエラとは大きく異なる点を、おそらく見誤っていたのだろう。
この地域で長年苦しんできた住民たちのことを考えてみよう。イランとレバノンでは、数千人が命を落とし、100万人以上が避難を余儀なくされた。イスラエルでは、2年近くにわたり、サイレンが鳴り響くとすぐに地下壕に駆け込む人々がいる。そして、ペルシア湾岸諸国では、ドバイやドーハに移住した外国人や移民労働者たちが、移住当初には想像もしていなかった不安定な状況に直面している。もしこれら全てが、将来の戦争に繋がるためだけのものだとしたら、一体何のためにこんなことをしてきたのだろうか?
※ラヴィ・アグラワル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長。Xアカウント:@RaviReports
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(終わり)

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