古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:秀和システム

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 2025年4月6日に『日刊ゲンダイ』紙インターネット版に、佐藤優(さとうまさる)先生による書評が掲載されました。参考にしてぜひお読みください。
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 以下のリンクから当該ページに移動することができます。

※「週末オススメ本ミシュラン 『トランプの電撃作戦』古村治彦著/秀和システム(選者:佐藤優)」

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/370096?utm_source=x&utm_medium=sns

 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になる。2025年1月20日に発足した第二次ドナルド・トランプ政権、アメリカと世界の動きを網羅的に分析している。断片的な情報に惑わされない、トランプ政権の本質と世界構造の大きな変化について的確に分析ができたと考えているが、読者の皆様のご判断をいただければ幸いだ。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 以下にまえがき、目次、あとがきを掲載している。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。
『トランプの電撃作戦』著者近影trumpdengekisakusenharuhikofurumura001


(貼り付けはじめ)

まえがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 2025年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権が発足した。トランプ大統領は就任直後から異例のスピードで、次々と施策を発表し、実行している。注目を集めているのは、イーロン・マスクが率いる政府効率化省(せいふこうりつかしょう)だ。政府効率化省のスタッフたちは各政府機関に乗り込んで、人事や予算の情報を集め、調査している。そして、米国国際開発庁(USAID)については、マスクの進言もあり、閉鎖が決定された。日本では聞き慣れない、米国国際開発庁という政府機関の名前が日本でも連日報道されるようになった。その他、トランプ政権の動きは、日本のメディアでも連日報道されている。

 第2次トランプ政権の一気呵成(いっきかせい)、電光石火(でんこうせっか)の動きは、米連邦政府と官僚たちに対する「電撃作戦 Blitzkrieg(ブリッツクリーク)」と呼ぶべき攻撃だ。電撃作戦、電撃戦とは、第2次世界大戦中のドイツ軍が採用した、機動性の高い戦力の集中運用で、短期間で勝負を決する戦法だ。トランプとマスク率いる政府効率化省は、相手に反撃する隙を与えないように、短期間で勝負を決しようとしている。

アメリカではこれまで、新政権発足後から100日間は、「新婚期間、ハネムーン期間 honeymoon 」と呼ばれ、あまり大きな動きはないが、支持率は高い状態が続くという、少しのんびりとした、エンジンをアイドリングする期間ということになっていた。しかし、第2次トランプ政権のスピード感に、アメリカ国民と世界中の人々が驚き、翻弄(ほんろう)されている。人々は、トランプ大統領が次に何をするかを知りたがっている。政権発足直後に、これほどの注目を集めた政権はこれまでなかっただろう。

 1月20日以降、メディアや世論調査の各社が、ドナルド・トランプ大統領の職務遂行支持率 job approval ratings(ジョブ・アプルーヴァル・レイティングス)を調査し、結果発表を行っている。アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティックス」で各社の数字を見ることができるが、2月に入って、支持が不支持を上回り、支持率が伸びていることが分かる。世論調査会社「ラスムッセン・レポート社」が2月9日から13日にかけて実施した世論調査の結果では、トランプ大統領の仕事ぶりの支持率が54%、不支持率は44%だった。トランプの電撃作戦について、アメリカ国民は驚きをもって迎え、そして、支持するようになっている。

「トランプが大統領になって何が起きるか」ということを昨年11月の大統領選挙直後から質問されることが多くなった。私は「私たちが唯一予測できることはトランプが予測不可能であることだ The only thing we can predict is that Trump is unpredictable. 」という、海外の記事でよく使われるフレーズを使ってはっきり答えないようにしていた。ずるい答えで、申し訳ないと思っていたが、トランプ政権がスタートして見なければ分からないと考えていた。

 私は、第2次トランプ政権の方向性について見当をつけるために、昨年の大統領選挙前後から第2次トランプ政権発足直後の数週間まで、アメリカ政治を観察 observation(オブザヴェイション) してきた。洪水のような情報の流れに身を置きながら、トランプの発言やアメリカでの記事を分析した。そして、大統領就任式での演説(素晴らしい内容だった)を聞き、それ以降の動きを見ながら、確信を得たことを本書にまとめた。内容については、読んでいただく読者の皆さんの判定を受けたいと思う。

 本書の構成は以下の通りだ。第1章では、ドナルド・トランプと、テック産業の風雲児であり、トランプを支持してきたイーロン・マスクとピーター・ティールの関係を中心にして、アメリカにおける「新・軍産複合体」づくりの最新の動きを見ていく。ピーター・ティールの存在がなければ、トランプの出現と台頭はなかったということが分かってもらえると思う。

 第2章では、第2次トランプ政権の主要閣僚について解説する。第2次トランプ政権の柱となる政策分野を中心に、閣僚たちの分析を行っている。閣僚たちのバックグラウンドや考え方を改めて分析し、どのような動きを行うかについて分析する。外交関係の閣僚たちは第4章で取り上げる。

 第3章では、2024年の大統領選挙について改めて振り返り、トランプの勝因とジョー・バイデンとカマラ・ハリス、民主党の敗因について分析する。また、次の2028年の大統領選挙にトランプ大統領は立候補できないので、誰が候補者になるかを現状入手できる情報を基にして予測する。

 第4章では、第2次トランプ政権の発足で、アメリカの外交政策はどうなるかについて分析した。ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を中心とする中東情勢、北朝鮮関係について分析する。また、第2次トランプ政権の外交政策の基本は「モンロー主義」であることを明らかにする。

 第5章では、世界全体の大きな構造変化について分析する。アメリカを中心とする「西側諸国 the West(ジ・ウエスト)」対 中国とロシアを中心とする「西側以外の国々 he Rest(ザ・レスト)」の構図、脱ドル化の動き、新興大国の動き、米中関係のキーマンの動きを取り上げている。アメリカの世界からの撤退がこれから進む中で、日本はどのように行動すべきかについても合わせて考えている。

 本書を読んで、読者の皆さんが第2次トランプ政権について理解ができて、戸惑いや不安を減らすことに貢献できるならば、著者としてこれ以上の喜びはない。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

=====

『トランプの電撃作戦』◆目次

まえがき 1

第1章 ピーター・ティールとイーロン・マスクに利用される第2次トランプ政権

●新・軍産複合体づくりを進める2人が支えた132年ぶりの返り咲き大統領 18

●トランプ陣営においてわずか3カ月で最側近の地位を得たイーロン・マスク 24

●第1次トランプ政権誕生に尽力し、影響力を持ったピーター・ティール 28

●第1次トランプ政権で「官僚制の打破」と「規制の撤廃」を求めたピーター・ティール 36

●第2次ドナルド・トランプ政権の人事に影響力を持つ世界一の大富豪イーロン・マスク 40

●トランプを昔から支えてきた側近グループからは嫌われるイーロン・マスク 42

●2010年代から進んでいたティールとマスクの「新・軍産複合体」づくりの動き 46

●選挙後に「トランプ銘柄」と目されたパランティア社、スペースX社、アンドゥリル社の株価が高騰 50

●パルマー・ラッキーという聞き慣れない起業家の名前が出てきたが重要な存在になるようだ 56

●パランティア・テクノロジーズとアンドゥリル社が主導する企業コンソーシアム 59

●21世紀の軍拡競争によってティールとマスクは莫大な利益を得る 64

第2章 第2次ドナルド・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」政権となる

●忠誠心の高い人物で固めた閣僚人事 68

●「アメリカ・ファースト」は「アメリカ国内優先」という意味であることを繰り返し強調する 70

●「常識」が基本になるトランプ政権が「社会を作り変える」政策を転換する 72

●40歳で副大統領になったJ・D・ヴァンスはトランプの「後継者」 75

●厳しい家庭環境から這い上がったヴァンス 76

●ピーター・ティールがヴァンスを育て、政界進出へ強力に後押しした 80

●政府効率化省を率いると発表されたイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミの共通点もまたピーター・ティール 83

●第2次トランプ政権は国境の守りを固めることを最優先 90

●国防長官のピート・ヘグセスの仕事は国境防衛とアメリカ軍幹部の粛清 96

●「以前の偉大さを取り戻すために関税引き上げと減税を行う」と主張するハワード・ラトニック商務長官 99

●トランプに忠誠を誓うスコット・ベセント財務長官は減税と関税を支持してきた 105

●トランプ大統領は石油増産を最優先するエネルギー政策を推進する 109

●トランプの石油増産というエネルギー政策のキーマンとなるのはダグ・バーガム内務長官 112

●ロバート・F・ケネディ・ジュニアの厚生長官指名でビッグファーマとの対決 116

●「アメリカを再び健康に」で「医原病」に対処する 117

●ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件関連文書の公開はCIAとの取引材料になる 120

●トゥルシー・ギャバードの国家情報長官指名と国家情報長官経験者のジョン・ラトクリフのCIA長官指名 122

●第2次トランプ政権にアメリカ・ファースト政策研究所出身者が多く入った 127

●「裏切り者、失敗者の巣窟」と非難されるアメリカ・ファースト政策研究所 128

●第2次トランプ政権で進めようとしているのは「維新」だ 135

第3章 トランプ大統領返り咲きはどうやって実現できたのか

●共和党「トリプル・レッド」の圧倒的優位状態の誕生 140

●トランプ当選を「的中させた」経緯 142

●アメリカの有権者の不満をキャッチしたトランプ、それができなかったバイデンとハリス 149

●バイデンからハリスへの大統領選挙候補交代は不安材料だらけだった 156

●「自分だったら勝っていただろう」と任期の最後になって言い出したバイデン 161

●カリフォルニア州を含むアメリカ西部出身者で、これまで民主党大統領選挙候補になれた人はいないというジンクスは破られず 164

●アメリカ国内の分裂がより際立つようになっている 168

●2028年の大統領選挙の候補者たちに注目が集まる 173

第4章 トランプの大統領復帰によって世界情勢は小康状態に向かう

●対外政策も「アメリカ・ファースト」 188

●「終わらせた戦争によっても成功を測る」「私たちが決して巻き込まれない戦争」というトランプの言葉 195

●第2次トランプ政権の外交政策を担当する人物たちを見ていく 197

●トランプ大統領の返り咲きによってウクライナ戦争停戦の機運が高まる 202

●ロシアのプーティン大統領に対しては硬軟両方で揺さぶりをかけている 206

●トランプの出現で一気に小康状態に向かった中東情勢 210

●スキャンダルを抱えるネタニヤフはトランプからの圧力に耐えきれずに停戦に合意した 212

●北朝鮮に対しても働きかけを行う 216

●トランプ率いるアメリカは「モンロー主義」へ回帰する―― カナダ、グリーンランド、パナマを「欲しがる」理由 220

●トランプは「タリフマン(関税男)」を自称し、関税を政策の柱に据える 226

●日本に対しても厳しい要求が突きつけられる 229

●日本にとって「外交の多様化」こそが重要だ 236

第5章 トランプ率いるアメリカから離れ、ヨーロッパはロシアに、アジアは中国に接近する

●「ヤルタ2・0」が再始動 240

●参加国の増加もあり影響力を高めるBRICS 244

●「脱ドル化」の流れを何としても止めたいアメリカ 249

●グローバルサウスの大国としてさらに存在感を増すインドネシア 253

●サウジアラビアは脱ドル化を睨み中国にシフトしながらもアメリカとの関係を継続 257

●宇宙開発やAIで続く米中軍拡競争 260

●キッシンジャーは最後の論文で米中AI軍拡競争を憂慮していた 263

●キッシンジャー最後の論文の共著者となったグレアム・アリソンとはどんな人物か 267

●ヘンリー・キッシンジャーの教え子であるグレアム・アリソンが中国最高指導部と会談を持つ意味 269

●トランプが進めるアメリカ一極の世界支配の終焉によってユーラシアに奇妙な団結が生まれるだろう 273

●トランプ大統領返り咲きは日本がアメリカとの関係を真剣に考え直すきっかけになる 275

あとがき 279

=====

あとがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 昨年(2024年)、アメリカ大統領選挙が進む中で、私の周りで、「トランプさんはおかしい人だから、何をするか分からない」ということを言う人たちが多くいた。「トランプは狂人 madman(マッドマン)だから、核戦争を引き起こす可能性が高い」というような扇動(せんどう)的な記事がインターネットに出ていたこともある。本書を読んで、こうした考えは誤りだということに気づいてもらえたと思う。

 ドナルド・トランプは合理的(利益のために最短のルートを選ぶことができる)で、めちゃくちゃなことをやるのではなく、そこには意味や理由がきちんと存在する。トランプ政権で大きな影響力を持つイーロン・マスクについてもそうだ。合理性を追求するあまりに、常識や慣例に縛られないので、結果として、非常識な行動をしているように多くの人たちに見られてしまうが、中身を見れば極めて常識的だ。本書で取り上げたように、トランプ、マスクの裏にはピーター・ティールが控えている。ピーター・ティールもまた同種の人間だ。彼らは自己利益を追求しながら、アメリカに大変革(だいへんかく)をもたらそうとしている。

  トランプは、激しい言葉遣いや予想もつかない行動、常人には思いつかないアイディアを駆使して、相手に「自分(トランプ)は常人(じょうじん」とは違う狂人(きょうじん)で、予測不可能だ」と思わせ、相手を不安と恐怖に陥れて、交渉などを有利に進める方法を採る。これを「狂人理論 madman theory(マッドマン・セオリー)」と呼ぶ。トランプはこの方法を使って、現在、アメリカ国内と世界中の人々を翻弄している。しかし、トランプのこれまでの行動を見れば、必要以上に恐れることはないということが分かる。「狂人理論」を使う人間は本当の狂人ではない。トランプの交渉術だと分かっていれば、落ち着いて対処でき、落としどころを見つけることができる。トランプは、「有言実行 walk the talk(ウォーク・ザ・トーク)」の人物であるが、自身の言葉に過度に縛られず、取引を行う柔軟性を持つ。この点がトランプの強さだ。

本書で見てきたように、トランプ返り咲きによって、世界は小康状態 lull(ロル)に向かう。大きな戦争は停戦となる。実際にイスラエル・ガザ紛争は停戦となり、ウクライナ戦争も停戦に向かう動きになっている。これだけでもトランプの功績は大きい。トランプは、大統領就任式の演説で述べたように、「終わらせた戦争」「(アメリカが)巻き込まれない戦争」によって評価されることになる。同時に、しかし、アメリカの製造業回帰、高関税は世界経済にマイナスの影響をもたらすことになる。これから、そのマイナスをどのように軽減するかについて、取ディール引が行われることになる。日本にも厳しい要求が突きつけられることになるだろうが、トランプを「正しく」恐れながら、落ち着いて対処することが必要だ。

 そのためには、トランプ政権が行う施策や行動の根本に何があるかということを理解しておく必要がある。そうでなければ、表面上の言葉や行動に驚き、翻弄され、おろおろするだけになってしまう。私は、本書を通じて、第2次トランプ政権の行動の基本、原理原則を明らかにできたといういささかの自負を持っている。

 本書は2024年12月から準備を始め、2025年1月から本格的に執筆を始めた。2025年1月20日のトランプ大統領の就任式以降の、怒濤(どとう)のような激しい動きを取り入れて、可能な限りアップデイトしたが、皆さんのお手許に届く頃には古くなっているところもあるだろう。あらかじめご寛恕をお願いする。

 これからの4年間は、第2次トランプ政権が何を成し遂げ、何に失敗するかを、そして、世界構造が大きく変化する様子を目撃する刺激的な4年間となる。

最後に、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生には、現在のアメリカ政治状況分析に関し、情報と助言をいただいたことに感謝申し上げます。秀和システムの小笠原豊樹編集長には本書刊行の過程を通じて大変お世話になりました。記して感謝します。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

(貼り付け終わり)

(終わり
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『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になる。2025年1月20日に発足した第二次ドナルド・トランプ政権、アメリカと世界の動きを網羅的に分析している。断片的な情報に惑わされない、トランプ政権の本質と世界構造の大きな変化について的確に分析ができたと考えているが、読者の皆様のご判断をいただければ幸いだ。
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 以下にまえがき、目次、あとがきを掲載している。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。
『トランプの電撃作戦』著者近影trumpdengekisakusenharuhikofurumura001


(貼り付けはじめ)

まえがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 2025年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権が発足した。トランプ大統領は就任直後から異例のスピードで、次々と施策を発表し、実行している。注目を集めているのは、イーロン・マスクが率いる政府効率化省(せいふこうりつかしょう)だ。政府効率化省のスタッフたちは各政府機関に乗り込んで、人事や予算の情報を集め、調査している。そして、米国国際開発庁(USAID)については、マスクの進言もあり、閉鎖が決定された。日本では聞き慣れない、米国国際開発庁という政府機関の名前が日本でも連日報道されるようになった。その他、トランプ政権の動きは、日本のメディアでも連日報道されている。

 第2次トランプ政権の一気呵成(いっきかせい)、電光石火(でんこうせっか)の動きは、米連邦政府と官僚たちに対する「電撃作戦 Blitzkrieg(ブリッツクリーク)」と呼ぶべき攻撃だ。電撃作戦、電撃戦とは、第2次世界大戦中のドイツ軍が採用した、機動性の高い戦力の集中運用で、短期間で勝負を決する戦法だ。トランプとマスク率いる政府効率化省は、相手に反撃する隙を与えないように、短期間で勝負を決しようとしている。

アメリカではこれまで、新政権発足後から100日間は、「新婚期間、ハネムーン期間 honeymoon 」と呼ばれ、あまり大きな動きはないが、支持率は高い状態が続くという、少しのんびりとした、エンジンをアイドリングする期間ということになっていた。しかし、第2次トランプ政権のスピード感に、アメリカ国民と世界中の人々が驚き、翻弄(ほんろう)されている。人々は、トランプ大統領が次に何をするかを知りたがっている。政権発足直後に、これほどの注目を集めた政権はこれまでなかっただろう。

 1月20日以降、メディアや世論調査の各社が、ドナルド・トランプ大統領の職務遂行支持率 job approval ratings(ジョブ・アプルーヴァル・レイティングス)を調査し、結果発表を行っている。アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティックス」で各社の数字を見ることができるが、2月に入って、支持が不支持を上回り、支持率が伸びていることが分かる。世論調査会社「ラスムッセン・レポート社」が2月9日から13日にかけて実施した世論調査の結果では、トランプ大統領の仕事ぶりの支持率が54%、不支持率は44%だった。トランプの電撃作戦について、アメリカ国民は驚きをもって迎え、そして、支持するようになっている。

「トランプが大統領になって何が起きるか」ということを昨年11月の大統領選挙直後から質問されることが多くなった。私は「私たちが唯一予測できることはトランプが予測不可能であることだ The only thing we can predict is that Trump is unpredictable. 」という、海外の記事でよく使われるフレーズを使ってはっきり答えないようにしていた。ずるい答えで、申し訳ないと思っていたが、トランプ政権がスタートして見なければ分からないと考えていた。

 私は、第2次トランプ政権の方向性について見当をつけるために、昨年の大統領選挙前後から第2次トランプ政権発足直後の数週間まで、アメリカ政治を観察 observation(オブザヴェイション) してきた。洪水のような情報の流れに身を置きながら、トランプの発言やアメリカでの記事を分析した。そして、大統領就任式での演説(素晴らしい内容だった)を聞き、それ以降の動きを見ながら、確信を得たことを本書にまとめた。内容については、読んでいただく読者の皆さんの判定を受けたいと思う。

 本書の構成は以下の通りだ。第1章では、ドナルド・トランプと、テック産業の風雲児であり、トランプを支持してきたイーロン・マスクとピーター・ティールの関係を中心にして、アメリカにおける「新・軍産複合体」づくりの最新の動きを見ていく。ピーター・ティールの存在がなければ、トランプの出現と台頭はなかったということが分かってもらえると思う。

 第2章では、第2次トランプ政権の主要閣僚について解説する。第2次トランプ政権の柱となる政策分野を中心に、閣僚たちの分析を行っている。閣僚たちのバックグラウンドや考え方を改めて分析し、どのような動きを行うかについて分析する。外交関係の閣僚たちは第4章で取り上げる。

 第3章では、2024年の大統領選挙について改めて振り返り、トランプの勝因とジョー・バイデンとカマラ・ハリス、民主党の敗因について分析する。また、次の2028年の大統領選挙にトランプ大統領は立候補できないので、誰が候補者になるかを現状入手できる情報を基にして予測する。

 第4章では、第2次トランプ政権の発足で、アメリカの外交政策はどうなるかについて分析した。ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を中心とする中東情勢、北朝鮮関係について分析する。また、第2次トランプ政権の外交政策の基本は「モンロー主義」であることを明らかにする。

 第5章では、世界全体の大きな構造変化について分析する。アメリカを中心とする「西側諸国 the West(ジ・ウエスト)」対 中国とロシアを中心とする「西側以外の国々 he Rest(ザ・レスト)」の構図、脱ドル化の動き、新興大国の動き、米中関係のキーマンの動きを取り上げている。アメリカの世界からの撤退がこれから進む中で、日本はどのように行動すべきかについても合わせて考えている。

 本書を読んで、読者の皆さんが第2次トランプ政権について理解ができて、戸惑いや不安を減らすことに貢献できるならば、著者としてこれ以上の喜びはない。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

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『トランプの電撃作戦』◆目次

まえがき 1

第1章 ピーター・ティールとイーロン・マスクに利用される第2次トランプ政権

●新・軍産複合体づくりを進める2人が支えた132年ぶりの返り咲き大統領 18

●トランプ陣営においてわずか3カ月で最側近の地位を得たイーロン・マスク 24

●第1次トランプ政権誕生に尽力し、影響力を持ったピーター・ティール 28

●第1次トランプ政権で「官僚制の打破」と「規制の撤廃」を求めたピーター・ティール 36

●第2次ドナルド・トランプ政権の人事に影響力を持つ世界一の大富豪イーロン・マスク 40

●トランプを昔から支えてきた側近グループからは嫌われるイーロン・マスク 42

●2010年代から進んでいたティールとマスクの「新・軍産複合体」づくりの動き 46

●選挙後に「トランプ銘柄」と目されたパランティア社、スペースX社、アンドゥリル社の株価が高騰 50

●パルマー・ラッキーという聞き慣れない起業家の名前が出てきたが重要な存在になるようだ 56

●パランティア・テクノロジーズとアンドゥリル社が主導する企業コンソーシアム 59

●21世紀の軍拡競争によってティールとマスクは莫大な利益を得る 64

第2章 第2次ドナルド・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」政権となる

●忠誠心の高い人物で固めた閣僚人事 68

●「アメリカ・ファースト」は「アメリカ国内優先」という意味であることを繰り返し強調する 70

●「常識」が基本になるトランプ政権が「社会を作り変える」政策を転換する 72

●40歳で副大統領になったJ・D・ヴァンスはトランプの「後継者」 75

●厳しい家庭環境から這い上がったヴァンス 76

●ピーター・ティールがヴァンスを育て、政界進出へ強力に後押しした 80

●政府効率化省を率いると発表されたイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミの共通点もまたピーター・ティール 83

●第2次トランプ政権は国境の守りを固めることを最優先 90

●国防長官のピート・ヘグセスの仕事は国境防衛とアメリカ軍幹部の粛清 96

●「以前の偉大さを取り戻すために関税引き上げと減税を行う」と主張するハワード・ラトニック商務長官 99

●トランプに忠誠を誓うスコット・ベセント財務長官は減税と関税を支持してきた 105

●トランプ大統領は石油増産を最優先するエネルギー政策を推進する 109

●トランプの石油増産というエネルギー政策のキーマンとなるのはダグ・バーガム内務長官 112

●ロバート・F・ケネディ・ジュニアの厚生長官指名でビッグファーマとの対決 116

●「アメリカを再び健康に」で「医原病」に対処する 117

●ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件関連文書の公開はCIAとの取引材料になる 120

●トゥルシー・ギャバードの国家情報長官指名と国家情報長官経験者のジョン・ラトクリフのCIA長官指名 122

●第2次トランプ政権にアメリカ・ファースト政策研究所出身者が多く入った 127

●「裏切り者、失敗者の巣窟」と非難されるアメリカ・ファースト政策研究所 128

●第2次トランプ政権で進めようとしているのは「維新」だ 135

第3章 トランプ大統領返り咲きはどうやって実現できたのか

●共和党「トリプル・レッド」の圧倒的優位状態の誕生 140

●トランプ当選を「的中させた」経緯 142

●アメリカの有権者の不満をキャッチしたトランプ、それができなかったバイデンとハリス 149

●バイデンからハリスへの大統領選挙候補交代は不安材料だらけだった 156

●「自分だったら勝っていただろう」と任期の最後になって言い出したバイデン 161

●カリフォルニア州を含むアメリカ西部出身者で、これまで民主党大統領選挙候補になれた人はいないというジンクスは破られず 164

●アメリカ国内の分裂がより際立つようになっている 168

●2028年の大統領選挙の候補者たちに注目が集まる 173

第4章 トランプの大統領復帰によって世界情勢は小康状態に向かう

●対外政策も「アメリカ・ファースト」 188

●「終わらせた戦争によっても成功を測る」「私たちが決して巻き込まれない戦争」というトランプの言葉 195

●第2次トランプ政権の外交政策を担当する人物たちを見ていく 197

●トランプ大統領の返り咲きによってウクライナ戦争停戦の機運が高まる 202

●ロシアのプーティン大統領に対しては硬軟両方で揺さぶりをかけている 206

●トランプの出現で一気に小康状態に向かった中東情勢 210

●スキャンダルを抱えるネタニヤフはトランプからの圧力に耐えきれずに停戦に合意した 212

●北朝鮮に対しても働きかけを行う 216

●トランプ率いるアメリカは「モンロー主義」へ回帰する―― カナダ、グリーンランド、パナマを「欲しがる」理由 220

●トランプは「タリフマン(関税男)」を自称し、関税を政策の柱に据える 226

●日本に対しても厳しい要求が突きつけられる 229

●日本にとって「外交の多様化」こそが重要だ 236

第5章 トランプ率いるアメリカから離れ、ヨーロッパはロシアに、アジアは中国に接近する

●「ヤルタ2・0」が再始動 240

●参加国の増加もあり影響力を高めるBRICS 244

●「脱ドル化」の流れを何としても止めたいアメリカ 249

●グローバルサウスの大国としてさらに存在感を増すインドネシア 253

●サウジアラビアは脱ドル化を睨み中国にシフトしながらもアメリカとの関係を継続 257

●宇宙開発やAIで続く米中軍拡競争 260

●キッシンジャーは最後の論文で米中AI軍拡競争を憂慮していた 263

●キッシンジャー最後の論文の共著者となったグレアム・アリソンとはどんな人物か 267

●ヘンリー・キッシンジャーの教え子であるグレアム・アリソンが中国最高指導部と会談を持つ意味 269

●トランプが進めるアメリカ一極の世界支配の終焉によってユーラシアに奇妙な団結が生まれるだろう 273

●トランプ大統領返り咲きは日本がアメリカとの関係を真剣に考え直すきっかけになる 275

あとがき 279

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あとがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 昨年(2024年)、アメリカ大統領選挙が進む中で、私の周りで、「トランプさんはおかしい人だから、何をするか分からない」ということを言う人たちが多くいた。「トランプは狂人 madman(マッドマン)だから、核戦争を引き起こす可能性が高い」というような扇動(せんどう)的な記事がインターネットに出ていたこともある。本書を読んで、こうした考えは誤りだということに気づいてもらえたと思う。

 ドナルド・トランプは合理的(利益のために最短のルートを選ぶことができる)で、めちゃくちゃなことをやるのではなく、そこには意味や理由がきちんと存在する。トランプ政権で大きな影響力を持つイーロン・マスクについてもそうだ。合理性を追求するあまりに、常識や慣例に縛られないので、結果として、非常識な行動をしているように多くの人たちに見られてしまうが、中身を見れば極めて常識的だ。本書で取り上げたように、トランプ、マスクの裏にはピーター・ティールが控えている。ピーター・ティールもまた同種の人間だ。彼らは自己利益を追求しながら、アメリカに大変革(だいへんかく)をもたらそうとしている。

  トランプは、激しい言葉遣いや予想もつかない行動、常人には思いつかないアイディアを駆使して、相手に「自分(トランプ)は常人(じょうじん」とは違う狂人(きょうじん)で、予測不可能だ」と思わせ、相手を不安と恐怖に陥れて、交渉などを有利に進める方法を採る。これを「狂人理論 madman theory(マッドマン・セオリー)」と呼ぶ。トランプはこの方法を使って、現在、アメリカ国内と世界中の人々を翻弄している。しかし、トランプのこれまでの行動を見れば、必要以上に恐れることはないということが分かる。「狂人理論」を使う人間は本当の狂人ではない。トランプの交渉術だと分かっていれば、落ち着いて対処でき、落としどころを見つけることができる。トランプは、「有言実行 walk the talk(ウォーク・ザ・トーク)」の人物であるが、自身の言葉に過度に縛られず、取引を行う柔軟性を持つ。この点がトランプの強さだ。

本書で見てきたように、トランプ返り咲きによって、世界は小康状態 lull(ロル)に向かう。大きな戦争は停戦となる。実際にイスラエル・ガザ紛争は停戦となり、ウクライナ戦争も停戦に向かう動きになっている。これだけでもトランプの功績は大きい。トランプは、大統領就任式の演説で述べたように、「終わらせた戦争」「(アメリカが)巻き込まれない戦争」によって評価されることになる。同時に、しかし、アメリカの製造業回帰、高関税は世界経済にマイナスの影響をもたらすことになる。これから、そのマイナスをどのように軽減するかについて、取ディール引が行われることになる。日本にも厳しい要求が突きつけられることになるだろうが、トランプを「正しく」恐れながら、落ち着いて対処することが必要だ。

 そのためには、トランプ政権が行う施策や行動の根本に何があるかということを理解しておく必要がある。そうでなければ、表面上の言葉や行動に驚き、翻弄され、おろおろするだけになってしまう。私は、本書を通じて、第2次トランプ政権の行動の基本、原理原則を明らかにできたといういささかの自負を持っている。

 本書は2024年12月から準備を始め、2025年1月から本格的に執筆を始めた。2025年1月20日のトランプ大統領の就任式以降の、怒濤(どとう)のような激しい動きを取り入れて、可能な限りアップデイトしたが、皆さんのお手許に届く頃には古くなっているところもあるだろう。あらかじめご寛恕をお願いする。

 これからの4年間は、第2次トランプ政権が何を成し遂げ、何に失敗するかを、そして、世界構造が大きく変化する様子を目撃する刺激的な4年間となる。

最後に、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生には、現在のアメリカ政治状況分析に関し、情報と助言をいただいたことに感謝申し上げます。秀和システムの小笠原豊樹編集長には本書刊行の過程を通じて大変お世話になりました。記して感謝します。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

(貼り付け終わり)

(終わり
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 本日、2024年10月29日、『著世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(秀和システム)が発売になりました。

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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 本書では、私が佐藤先生の胸を借りる形で、アメリカ政治、特に大統領選挙とウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争について分析しました。大きな流れは全く外していません。アメリカ大統領選挙でカマラ・ハリスの勢いが落ちることを予見し(このブログで何度もご紹介している通りハリスの勢いは落ちています)、イスラエルが戦争の段階を上げていくであろうことに警告を発しています。私たちの対談では、私たちがそれぞれ持つ「型」を使って、状況をどのように分析しているかが分かります。

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 このブログでも宣伝を開始し、まえがき、目次、あとがきを公開しています。予約が伸びていないという厳しい状況です。今回もまえがき、目次、あとがきを公開します。参考にしていただき、是非本書を手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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2024年10月29日付『朝日新聞』朝刊3面から
(貼り付けはじめ)

まえがき 佐藤 優

 本書は、私とアメリカ政治を中心に国際関係に通暁した古村治彦氏(愛知大学国際問題研究所客員研究員)との初の共著だ。古村氏は、私がとても尊敬する異能の知識人・副島隆彦氏の学風を継承する優れた専門家だ。国際問題の現象面だけでなく、その内在的論理を理解して、はじめて分析が成立するという点で私と古村氏は認識を共有している。

 本書の記述は、岸田文雄前政権時代の事象を中心に論じているが、現時点で特に改める事柄はないと考えている。なぜなら、現下国際政治ゲームにおいて日本が外交の主体的プレイヤーとして活動できる閾値(いきち)が狭いからだ。

 本書の特徴は、通常の国際政治学者が重視しない宗教に着目している点だ。この点に関して、9月27日の自民党総裁選挙で同党総裁に選出され、10月1日の衆議院本会議と参議院本会議で第102代日本国内閣総理大臣に指名され、就任した石破茂氏に特別の注意を払う必要がある。

 石破氏の履歴やエピソードを伝える記事はたくさん報じられているが、なぜか同氏の宗教に言及したものが少ない。宗教が個人の内面に留まっているならば、政治分析の上で考察の対象にならない。しかし、石破氏の場合は、信仰が明らかに政治に影響を与えるタイプだ。

  石破氏は自らの信仰を公にしており、キリスト教系のメディアにも登場している。

《自民党総裁選の投開票が27日、東京・永田町の党本部で行われ、石破茂元幹事長(67)が第28代総裁に選出された。現在、自民党は衆議院で過半数の議席を保持しているため、石破氏が岸田文雄首相の後継として、第102代首相に就任することになる。

 同志社の創立者である新島襄から洗礼を受け、後に牧師となった金森通倫(みちとも)を曽祖父に持つ石破氏は、プロテスタントの4代目のクリスチャン。クリスチャンが日本の首相に就くのは、第92代首相を務めた麻生太郎副総裁(84)以来、15年ぶりとみられる。

 (中略)石破氏の父である石破二郎は、鳥取県知事や参議院議員時代に自治相(当時)などを務めた政治家。浄土真宗の仏教徒でクリスチャンではなかったが、金森以来、プロテスタントの家系の母が通っていた日本基督教団鳥取教会で石破氏は洗礼を受けた。幼少期は、同教会の宣教師によって始められた愛真幼稚園に通った。鳥取大学教育学部附属中学卒業後、上京して慶應義塾高校に進学。東京では日本キリスト教会世田谷伝道所(現世田谷千歳教会)に通い、教会学校の教師も務めた。》(9月27日、 Christian Today

 石破氏が洗礼を受けた日本基督教団鳥取教会は、同志社系(組合派)だ。組合系にはさまざまな考え方がある。他方、石破氏が東京で通っていた日本キリスト教会世田谷伝道所は長老派(カルヴァン派)の教会だ。カルヴァン派では、各人は生まれる前から神によって定められた使命があると考える。どんな逆境でも試練と受け止めれば、必ず選ばれた者であるあなたは救われると教える。この教会で、石破氏は教会学校の教師(聖書の先生)をしていたのだから、聖書や神学についても勉強しているはずだ。

 学生時代に洗礼を受けた人でもその後はキリスト教から離れたり、信仰が薄くなってしまう人もいる、石破氏は信仰が強い方だと思う。現在も日本基督教団鳥取教会の会員だ。ちなみに私も石破氏と同じくかつてはカルヴァン派の日本キリスト教会に属していたが、現在は日本基督教団の組合派系教会に属しているプロテスタントのキリスト教徒だ。だから石破氏の信仰を皮膚感覚で理解することが出来る。

 キリスト教関係のメディアで石破氏は、2018年8月30日、渡部信氏(クリスチャンプレス発行人)と山北宣久氏(前日本基督教団総会議長)の取材でこんなやりとりをしている。

―― クリスチャン議員として、どのような思いで政治に向き合っておられますか。

 私は、神様の前に自分の至らなさ、誤っているところをお詫び申し上げるようにしています。そして、「過ちを正してください」、「ご用のために用いてください」という思いでお祈りしています。

 ―― 特に政治家として強調したい点は。

 ヨーロッパにしろ、アジアにしろ、米国もそうですが、同じ信仰を持つ人は多いはずです。にもかかわらず、世の中は争いが絶えない。いかに争いをなくしていくか。いかに互いが神の前には無力であることを共通認識し、自分だけが正しいという思いを持たず、弱い人のために働き、祈ることができるか。それをできるだけ共有したいと思っています。常にこの思いをもって、平和な世界を作りたいと考えています。

 ―― 世界にはさまざまな緊張が存在します。日本が韓国などと平和外交するためにはどうすればいいと思いますか。

 韓国の近現代史、韓国と日本が過去にどういう関係にあったのかを知らないまま、外交努力をしても説得力がありません。慰安婦問題、領土問題など、一致できない点もありますが、共にやれることもたくさんあるはずです。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政

権と共にできることは何なのか。これを考えていくことが重要だと私は思います。(中略)

 ―― 最後に、日本のクリスチャンに向けてメッセージを。

「共にお祈りください」とお願いをしたいです。》(2018年9月5日 、Christian Press

 石破氏は、自民党員の選挙によって総裁に選ばれただけではなく、神の召命によって自民党総裁、内閣総理大臣になったと一人のプロテスタントのキリスト教徒として確信しているのだと思う。本書では、ドナルド・トランプ氏に長老派(カルヴァン派)の価値観が与えている影響の重要性について言及した。石破氏に関してもそのことが言える。11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選すれば、宗教的価値観を共有する石破氏との間で興味深い外交を展開することができると思う。

 本書を上梓するにあたっては(株)秀和システムの小笠原豊樹氏、フリーランスの編

集者兼ライターの水波康氏にたいへんにお世話になりました。どうもありがとうござい

ます。

2024年10月2日、曙橋(東京都新宿区)の自宅にて、 佐藤 優

=====

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』目次

まえがき(佐藤 優) 1

第1章 再選を大きく引き寄せたトランプ暗殺未遂事件 13

銃撃事件で明らかになった〝神に選ばれたトランプ〟 14

トランプ聖書は「アメリカが宗教で分断されることも辞さず」の表れ 19

トランプは自らの使命を明確に自覚した 25

トランプ暗殺未遂はディープステイトの画策 28

ディープステイトの正体とは? 33

老人いじめにならないようにトランプが賢く振舞った第1回テレビ討論会 38

中絶問題とLGBTQが大統領選の争点になる 41

トランプ政権の本質は雇用にある 48

USスチールの買収と中国への対応 52

民主党はエリートの党、共和党は庶民の党 54

平和への志向が希薄なアメリカ政治。だがトランプだけは平和を志向している 58

後退戦を展開するトランプの歴史的な役割 62

第2章 民主党の反転攻勢とアメリカで進む分断 67

バイデン撤退からカマラ・ハリスへの交代劇 68

ハリス旋風の陰で核のボタンの不安 74

国家権力を背景に仕事をしてきた弱点 80

異論を認めないハリスに外交はできない 84

ヒラリーがロールモデルだと世界戦争になる 88

民主党の副大統領候補は誰になるのか 92

内戦へと向かうアメリカの危機的な現実 96

内在する差別の実態と移民のリアル 103

苦しいアメリカ国民の生活と雇用 108

ペンシルべニア州で大統領選は決まる 113

第3章 ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争から見える世界の変化 117

イスラエル・ハマス紛争はいつ終わるのか 118

イスラエルは不思議な国 122

アメリカはウクライナを勝たせる気がない 126

日本のウクライナへの軍事支援は高速道路4キロ分 133

ハマスはネタニヤフが育てた 137

イスラエルは北朝鮮に近い 144

イスラエルの論理 146

イスラエルには多方面で戦争する力がない 150

イスラエルは反アラブにも反イスラムにもなれない 153

ユダヤ人は3つに分けられる 155

キリスト教シオニストは本質において反ユダヤ的 158

イスラエルとこの世の終わり 162

ユダヤ人理解には高等魔術が役に立つ 163

第4章 ドル支配の崩壊がもたらす世界覇権国の交代 169

ハマス最高指導者・ハニーヤ暗殺の影響 170

ヨーロッパで蔓延する反ユダヤ主義 176

中東全面戦争と核拡散の恐怖 179

アメリカ離れが進み、世界構造は変化する 184

アメリカの衰退でドル支配は崩壊する 189

トランプ再選後、世界はどうなるのか 195

平和を求めない戦後アメリカ体制の欠陥 199

失われた公共圏と共同体としての世界 204

グローバル・ノースが失う世界の主導権 209

第5章 米中覇権戦争は起きるのか 215

中国は次の覇権国になれるのか 216

世界は民主主義同士で争っている 220

揺らぐデモクラシー 224

変なのしか残らない先進国の選挙 228

今日のウクライナは明日の日本 231

日本外交の未来図 236

あとがき(古村 治彦) 241

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あとがき 古村 治彦

 今回、佐藤優先生との対談が実現した。佐藤先生には、拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)を2回書評で取り上げていただいた。そのご縁で、今回、光栄な機会をいただくことができた。佐藤先生に厚く御礼を申し上げます。

 対談は、2024年7月16日、25日、8月1日の3回行われた。私にとっては対談自

体が初めてのことで、しかも、その相手が憧れの佐藤優先生ということもあり、1回目の対談は緊張しっぱなしであまり話せなかった。それでも、先生の温かいお人柄のおかげで、回を重ねるごとに緊張もほぐれて、自分らしく話すことができた。

 対談では、ドナルド・トランプ前大統領暗殺事件を手掛かりにして、宗教の面からアメリカ政治全体を分析した。私もごく一般的な知識しかない中で、必死に佐藤先生の話に食らいつきながら、政治学や国際関係論の知識で、私なりのアメリカ政治分析を披露した。また、大きな世界政治の流れについても、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を入り口にして、ユダヤ教やイスラム教の面から分析をすることができた。また、インテリジェンス関係のお話を伺うこともできた。対談を通じて、アメリカの衰退と世界構造の大変動が起きているという共通認識で一致した。

 私たちの対談は、様々に起きる事象についてどのように考えるか、分析するかについて、私たち2人の手法、方法論を明らかにしたものとなった。読者の皆さんが様々な事象について、自分なりに分析する際の手助けとなれば幸いだ。

 対談の期間中、そして、対談後に、アメリカ政治は大きく動いた。2024年7月21日にジョー・バイデン米大統領が大統領選挙からの撤退、再選断念を表明した。そして、同時に、カマラ・ハリス副大統領を大統領選挙候補者として支持すると発表した。8月上旬には慌ただしく、カマラ・ハリスが大統領候補に、ミネソタ州知事のティム・ウォルズが副大統領候補に決まった。

 8月19日から22日にシカゴで開催された民主党全国大会をきっかけにして、上げ潮に乗って、カマラ・ハリスが支持率を伸ばし、選挙戦を優位に展開しているというのが日米の主流派メディアの報道だ。ところが、重要な激戦州では五分五分、トランプがややリード

という結果が出ている。主流派メディアの肩入れがありながら、ハリス支持は伸びていな

い。なにもこれは私の希望的観測ではない。アメリカ政治情報サイト「リアルクリアポリ

ティックス( RealClearPolitics )」が各州レヴェルの世論調査の結果を集計し、それを大統

領選挙の選挙人数に当てはめた結果では、10月1日の段階で、「トランプ281人、ハリス257人」となっている( https://www.realclearpolling.com/maps/president/2024/no-toss-up/electoral-college )。米大統領選挙はデッドヒートを続け、終盤に向かう。

 ウクライナ戦争の状況は大きく動いていない。ウクライナ側はロシア国内への攻撃を行っている。しかし、戦況を有利に展開出来ていない。9月中旬開会の国連総会出席に合わせて、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は訪米し、バイデン大統領、ハリス副大統領、民主、共和両党首脳部、トランプ前大統領と会談し、「勝利計画」を提示したようだが、相手にされなかったようだ。ウクライナ情勢は停滞したままだ。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、対談で佐藤先生と私が危惧したように、戦争を拡大させようとしている。ガザ地区でのハマスとの戦いに加え、レバノンでのヒズボラとの戦闘を激化させようとしている。9月17日にはレバノンのヒズボラのメンバーが使用していたポケベル(イスラエルが細工をして輸出)がイスラエルの遠隔操作により爆発し、12名が死亡し約2800名が負傷する事件が起きた。9月27日にはヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師がイスラエルの空爆によって死亡した。イスラエルは10月1日にレバノンへの地上攻撃も開始した。また、イエメンのフーシ派への空爆(9月29日)も開始した。アメリカで権力の空白が生まれている中で、イスラエルのネタニヤフ政権は、中東での戦争の段階を引き上げようとしている。世界にとって非常に危険な動きだ。

 日本政治は、岸田文雄首相が2024年8月14日に退陣表明してから、慌ただしく動き始めた。9月27日に、自民党総裁選挙が実施され、石破茂氏が高市早苗氏を破って総裁に選出された。主流派マスコミは、小泉進次郎氏が先行し、高市氏が激しく追い上げと報じていたが、最後の大逆転で、石破氏が勝利を収めた。岸・安倍系清和会支配の弱体化、自民党保守本流政治の復権、日中衝突の回避のために、まことに慶賀すべき結果となった。日本も少しずつ、アメリカの属国からの方向転換を図る動きになっていく。これは、対談の中でも詳しく触れた世界の大きな流れ、アメリカの衰退と中国の台頭、西側支配の終わりとグローバル・サウスの勃興に合致している。

 対談の終わりの雑談の中で、佐藤先生から「守破離(しゅはり)」という言葉について伺った。私は落語鑑賞を趣味としている。この「守破離」という言葉は、落語協会の二階の広間に額に入れて飾ってある。伝統的な芸道や武道で大事にされている言葉だ。「守破離」とは、「剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。『守』は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。『離』は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階」(『大辞林』から)という意味だ。佐藤先生は神学、私は政治学や国際関係論という「型」を大事にしながら評論を行っている。

 佐藤先生は私に、「型がなければただの言いっぱなしですよ」とおっしゃった。佐藤先生は既に「離」の境地に達しておられるが、対談を通じて、改めて基本の大切さを私に教えて下さった。私も先生の言葉を肝に銘じて、型を大事に「守り」ながら、「破」「離」へ進んでいきたい。

 最後に、対談実現のために橋渡しをしてくださった、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生に御礼を申し上げます。対談のアレンジ、調整を行い、まとめ役を務めた水波ブックスの水波康氏、全体編集を担当した秀和システムの小笠原豊樹編集長には大変にお世話になりました。記して感謝申し上げます。

2024年10月 古村 治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む ←クリックすると、アマゾンのページに進みます。

 2024年10月29日に佐藤優先生と私、古村治彦の対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(秀和システム)が発売されます。

 佐藤先生が拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の書評をしてくださったご縁で、対談をできることになった。対談は7月中に行われ、アメリカ政治と国際政治について幅広く話すことができた。宗教の面からアメリカ政治を分析し、アメリカの衰退とグローバル・サウスの台頭を念頭に、国際政治に関する幅広い話題を取り上げた。これから世界はどうなっていくかについて考える際に参考にしていただけるものと確信を持っている。

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載する。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき 佐藤 優

 本書は、私とアメリカ政治を中心に国際関係に通暁した古村治彦氏(愛知大学国際問題研究所客員研究員)との初の共著だ。古村氏は、私がとても尊敬する異能の知識人・副島隆彦氏の学風を継承する優れた専門家だ。国際問題の現象面だけでなく、その内在的論理を理解して、はじめて分析が成立するという点で私と古村氏は認識を共有している。

 本書の記述は、岸田文雄前政権時代の事象を中心に論じているが、現時点で特に改める事柄はないと考えている。なぜなら、現下国際政治ゲームにおいて日本が外交の主体的プレイヤーとして活動できる閾値(いきち)が狭いからだ。

 本書の特徴は、通常の国際政治学者が重視しない宗教に着目している点だ。この点に関して、9月27日の自民党総裁選挙で同党総裁に選出され、10月1日の衆議院本会議と参議院本会議で第102代日本国内閣総理大臣に指名され、就任した石破茂氏に特別の注意を払う必要がある。

 石破氏の履歴やエピソードを伝える記事はたくさん報じられているが、なぜか同氏の宗教に言及したものが少ない。宗教が個人の内面に留まっているならば、政治分析の上で考察の対象にならない。しかし、石破氏の場合は、信仰が明らかに政治に影響を与えるタイプだ。

  石破氏は自らの信仰を公にしており、キリスト教系のメディアにも登場している。

《自民党総裁選の投開票が27日、東京・永田町の党本部で行われ、石破茂元幹事長(67)が第28代総裁に選出された。現在、自民党は衆議院で過半数の議席を保持しているため、石破氏が岸田文雄首相の後継として、第102代首相に就任することになる。

 同志社の創立者である新島襄から洗礼を受け、後に牧師となった金森通倫(みちとも)を曽祖父に持つ石破氏は、プロテスタントの4代目のクリスチャン。クリスチャンが日本の首相に就くのは、第92代首相を務めた麻生太郎副総裁(84)以来、15年ぶりとみられる。

 (中略)石破氏の父である石破二郎は、鳥取県知事や参議院議員時代に自治相(当時)などを務めた政治家。浄土真宗の仏教徒でクリスチャンではなかったが、金森以来、プロテスタントの家系の母が通っていた日本基督教団鳥取教会で石破氏は洗礼を受けた。幼少期は、同教会の宣教師によって始められた愛真幼稚園に通った。鳥取大学教育学部附属中学卒業後、上京して慶應義塾高校に進学。東京では日本キリスト教会世田谷伝道所(現世田谷千歳教会)に通い、教会学校の教師も務めた。》(9月27日、 Christian Today

 石破氏が洗礼を受けた日本基督教団鳥取教会は、同志社系(組合派)だ。組合系にはさまざまな考え方がある。他方、石破氏が東京で通っていた日本キリスト教会世田谷伝道所は長老派(カルヴァン派)の教会だ。カルヴァン派では、各人は生まれる前から神によって定められた使命があると考える。どんな逆境でも試練と受け止めれば、必ず選ばれた者であるあなたは救われると教える。この教会で、石破氏は教会学校の教師(聖書の先生)をしていたのだから、聖書や神学についても勉強しているはずだ。

 学生時代に洗礼を受けた人でもその後はキリスト教から離れたり、信仰が薄くなってしまう人もいる、石破氏は信仰が強い方だと思う。現在も日本基督教団鳥取教会の会員だ。ちなみに私も石破氏と同じくかつてはカルヴァン派の日本キリスト教会に属していたが、現在は日本基督教団の組合派系教会に属しているプロテスタントのキリスト教徒だ。だから石破氏の信仰を皮膚感覚で理解することが出来る。

 キリスト教関係のメディアで石破氏は、2018年8月30日、渡部信氏(クリスチャンプレス発行人)と山北宣久氏(前日本基督教団総会議長)の取材でこんなやりとりをしている。

―― クリスチャン議員として、どのような思いで政治に向き合っておられますか。

 私は、神様の前に自分の至らなさ、誤っているところをお詫び申し上げるようにしています。そして、「過ちを正してください」、「ご用のために用いてください」という思いでお祈りしています。

 ―― 特に政治家として強調したい点は。

 ヨーロッパにしろ、アジアにしろ、米国もそうですが、同じ信仰を持つ人は多いはずです。にもかかわらず、世の中は争いが絶えない。いかに争いをなくしていくか。いかに互いが神の前には無力であることを共通認識し、自分だけが正しいという思いを持たず、弱い人のために働き、祈ることができるか。それをできるだけ共有したいと思っています。常にこの思いをもって、平和な世界を作りたいと考えています。

 ―― 世界にはさまざまな緊張が存在します。日本が韓国などと平和外交するためにはどうすればいいと思いますか。

 韓国の近現代史、韓国と日本が過去にどういう関係にあったのかを知らないまま、外交努力をしても説得力がありません。慰安婦問題、領土問題など、一致できない点もありますが、共にやれることもたくさんあるはずです。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政

権と共にできることは何なのか。これを考えていくことが重要だと私は思います。(中略)

 ―― 最後に、日本のクリスチャンに向けてメッセージを。

「共にお祈りください」とお願いをしたいです。》(2018年9月5日 、Christian Press

 石破氏は、自民党員の選挙によって総裁に選ばれただけではなく、神の召命によって自民党総裁、内閣総理大臣になったと一人のプロテスタントのキリスト教徒として確信しているのだと思う。本書では、ドナルド・トランプ氏に長老派(カルヴァン派)の価値観が与えている影響の重要性について言及した。石破氏に関してもそのことが言える。11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選すれば、宗教的価値観を共有する石破氏との間で興味深い外交を展開することができると思う。

 本書を上梓するにあたっては(株)秀和システムの小笠原豊樹氏、フリーランスの編

集者兼ライターの水波康氏にたいへんにお世話になりました。どうもありがとうござい

ます。

2024年10月2日、曙橋(東京都新宿区)の自宅にて、 佐藤 優

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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』目次

まえがき(佐藤 優) 1

第1章 再選を大きく引き寄せたトランプ暗殺未遂事件 13

銃撃事件で明らかになった〝神に選ばれたトランプ〟 14

トランプ聖書は「アメリカが宗教で分断されることも辞さず」の表れ 19

トランプは自らの使命を明確に自覚した 25

トランプ暗殺未遂はディープステイトの画策 28

ディープステイトの正体とは? 33

老人いじめにならないようにトランプが賢く振舞った第1回テレビ討論会 38

中絶問題とLGBTQが大統領選の争点になる 41

トランプ政権の本質は雇用にある 48

USスチールの買収と中国への対応 52

民主党はエリートの党、共和党は庶民の党 54

平和への志向が希薄なアメリカ政治。だがトランプだけは平和を志向している 58

後退戦を展開するトランプの歴史的な役割 62

第2章 民主党の反転攻勢とアメリカで進む分断 67

バイデン撤退からカマラ・ハリスへの交代劇 68

ハリス旋風の陰で核のボタンの不安 74

国家権力を背景に仕事をしてきた弱点 80

異論を認めないハリスに外交はできない 84

ヒラリーがロールモデルだと世界戦争になる 88

民主党の副大統領候補は誰になるのか 92

内戦へと向かうアメリカの危機的な現実 96

内在する差別の実態と移民のリアル 103

苦しいアメリカ国民の生活と雇用 108

ペンシルべニア州で大統領選は決まる 113

第3章 ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争から見える世界の変化 117

イスラエル・ハマス紛争はいつ終わるのか 118

イスラエルは不思議な国 122

アメリカはウクライナを勝たせる気がない 126

日本のウクライナへの軍事支援は高速道路4キロ分 133

ハマスはネタニヤフが育てた 137

イスラエルは北朝鮮に近い 144

イスラエルの論理 146

イスラエルには多方面で戦争する力がない 150

イスラエルは反アラブにも反イスラムにもなれない 153

ユダヤ人は3つに分けられる 155

キリスト教シオニストは本質において反ユダヤ的 158

イスラエルとこの世の終わり 162

ユダヤ人理解には高等魔術が役に立つ 163

第4章 ドル支配の崩壊がもたらす世界覇権国の交代 169

ハマス最高指導者・ハニーヤ暗殺の影響 170

ヨーロッパで蔓延する反ユダヤ主義 176

中東全面戦争と核拡散の恐怖 179

アメリカ離れが進み、世界構造は変化する 184

アメリカの衰退でドル支配は崩壊する 189

トランプ再選後、世界はどうなるのか 195

平和を求めない戦後アメリカ体制の欠陥 199

失われた公共圏と共同体としての世界 204

グローバル・ノースが失う世界の主導権 209

第5章 米中覇権戦争は起きるのか 215

中国は次の覇権国になれるのか 216

世界は民主主義同士で争っている 220

揺らぐデモクラシー 224

変なのしか残らない先進国の選挙 228

今日のウクライナは明日の日本 231

日本外交の未来図 236

あとがき(古村 治彦) 241

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あとがき 古村 治彦

 今回、佐藤優先生との対談が実現した。佐藤先生には、拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)を2回書評で取り上げていただいた。そのご縁で、今回、光栄な機会をいただくことができた。佐藤先生に厚く御礼を申し上げます。

 対談は、2024年7月16日、25日、8月1日の3回行われた。私にとっては対談自

体が初めてのことで、しかも、その相手が憧れの佐藤優先生ということもあり、1回目の対談は緊張しっぱなしであまり話せなかった。それでも、先生の温かいお人柄のおかげで、回を重ねるごとに緊張もほぐれて、自分らしく話すことができた。

 対談では、ドナルド・トランプ前大統領暗殺事件を手掛かりにして、宗教の面からアメリカ政治全体を分析した。私もごく一般的な知識しかない中で、必死に佐藤先生の話に食らいつきながら、政治学や国際関係論の知識で、私なりのアメリカ政治分析を披露した。また、大きな世界政治の流れについても、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を入り口にして、ユダヤ教やイスラム教の面から分析をすることができた。また、インテリジェンス関係のお話を伺うこともできた。対談を通じて、アメリカの衰退と世界構造の大変動が起きているという共通認識で一致した。

 私たちの対談は、様々に起きる事象についてどのように考えるか、分析するかについて、私たち2人の手法、方法論を明らかにしたものとなった。読者の皆さんが様々な事象について、自分なりに分析する際の手助けとなれば幸いだ。

 対談の期間中、そして、対談後に、アメリカ政治は大きく動いた。2024年7月21日にジョー・バイデン米大統領が大統領選挙からの撤退、再選断念を表明した。そして、同時に、カマラ・ハリス副大統領を大統領選挙候補者として支持すると発表した。8月上旬には慌ただしく、カマラ・ハリスが大統領候補に、ミネソタ州知事のティム・ウォルズが副大統領候補に決まった。

 8月19日から22日にシカゴで開催された民主党全国大会をきっかけにして、上げ潮に乗って、カマラ・ハリスが支持率を伸ばし、選挙戦を優位に展開しているというのが日米の主流派メディアの報道だ。ところが、重要な激戦州では五分五分、トランプがややリード

という結果が出ている。主流派メディアの肩入れがありながら、ハリス支持は伸びていな

い。なにもこれは私の希望的観測ではない。アメリカ政治情報サイト「リアルクリアポリ

ティックス( RealClearPolitics )」が各州レヴェルの世論調査の結果を集計し、それを大統

領選挙の選挙人数に当てはめた結果では、10月1日の段階で、「トランプ281人、ハリス257人」となっている( https://www.realclearpolling.com/maps/president/2024/no-toss-up/electoral-college )。米大統領選挙はデッドヒートを続け、終盤に向かう。

 ウクライナ戦争の状況は大きく動いていない。ウクライナ側はロシア国内への攻撃を行っている。しかし、戦況を有利に展開出来ていない。9月中旬開会の国連総会出席に合わせて、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は訪米し、バイデン大統領、ハリス副大統領、民主、共和両党首脳部、トランプ前大統領と会談し、「勝利計画」を提示したようだが、相手にされなかったようだ。ウクライナ情勢は停滞したままだ。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、対談で佐藤先生と私が危惧したように、戦争を拡大させようとしている。ガザ地区でのハマスとの戦いに加え、レバノンでのヒズボラとの戦闘を激化させようとしている。9月17日にはレバノンのヒズボラのメンバーが使用していたポケベル(イスラエルが細工をして輸出)がイスラエルの遠隔操作により爆発し、12名が死亡し約2800名が負傷する事件が起きた。9月27日にはヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師がイスラエルの空爆によって死亡した。イスラエルは10月1日にレバノンへの地上攻撃も開始した。また、イエメンのフーシ派への空爆(9月29日)も開始した。アメリカで権力の空白が生まれている中で、イスラエルのネタニヤフ政権は、中東での戦争の段階を引き上げようとしている。世界にとって非常に危険な動きだ。

 日本政治は、岸田文雄首相が2024年8月14日に退陣表明してから、慌ただしく動き始めた。9月27日に、自民党総裁選挙が実施され、石破茂氏が高市早苗氏を破って総裁に選出された。主流派マスコミは、小泉進次郎氏が先行し、高市氏が激しく追い上げと報じていたが、最後の大逆転で、石破氏が勝利を収めた。岸・安倍系清和会支配の弱体化、自民党保守本流政治の復権、日中衝突の回避のために、まことに慶賀すべき結果となった。日本も少しずつ、アメリカの属国からの方向転換を図る動きになっていく。これは、対談の中でも詳しく触れた世界の大きな流れ、アメリカの衰退と中国の台頭、西側支配の終わりとグローバル・サウスの勃興に合致している。

 対談の終わりの雑談の中で、佐藤先生から「守破離(しゅはり)」という言葉について伺った。私は落語鑑賞を趣味としている。この「守破離」という言葉は、落語協会の二階の広間に額に入れて飾ってある。伝統的な芸道や武道で大事にされている言葉だ。「守破離」とは、「剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。『守』は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。『離』は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階」(『大辞林』から)という意味だ。佐藤先生は神学、私は政治学や国際関係論という「型」を大事にしながら評論を行っている。

 佐藤先生は私に、「型がなければただの言いっぱなしですよ」とおっしゃった。佐藤先生は既に「離」の境地に達しておられるが、対談を通じて、改めて基本の大切さを私に教えて下さった。私も先生の言葉を肝に銘じて、型を大事に「守り」ながら、「破」「離」へ進んでいきたい。

 最後に、対談実現のために橋渡しをしてくださった、師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生に御礼を申し上げます。対談のアレンジ、調整を行い、まとめ役を務めた水波ブックスの水波康氏、全体編集を担当した秀和システムの小笠原豊樹編集長には大変にお世話になりました。記して感謝申し上げます。

2024年10月 古村 治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)
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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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