古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:米中関係

 古村治彦です。

 アメリカの国力低下と中国の台頭という現象が起きている。これは世界の構造が大きく変化していくことを示している。私たちは西洋近代600年の支配構造が変容し、新たな世界になっていく道筋の入り口に立っていると言える。国際政治におけるアメリカの地位と影響力は低下し、中国の存在感は増大し続ける。アメリカと中国は多くの面で違いがあるが、外交政策においてはその違いは顕著である。以下の、ウォルトの論稿ではその違いについて、以下のように主張している。

中国は外交政策で国家主権を強調し、他国とビジネスライクな関係を維持している。一方、アメリカは普遍的な自由価値観の推進者としての立場を取り、民主政体を広める使命を持つと信じている。アメリカの外交政策はしばしば他国の人権や民主化を重視し、中国の現実的アプローチから学ぶ必要性がある。このような中で、アメリカは自己の基準に合致しない場合もあり、これにより偽善の非難を受けやすい状況にある。結論として、中国の成功とアメリカの失敗から学び、他国の間違いだけでなく正しい点からも教訓を得るべきである。

 アメリカは介入主義的な(interventionist)外交政策を推し進め、アメリカの価値観を拡散することで、世界の秩序を維持しようとした。中国は現在、内政に干渉することを控え、中国の価値観を押し付けるようなことはしていないし、そもそもそれは不可能である。アメリカは超大国として介入主義的な外交政策を実行するだけの国力を維持してきたが、中国はそこまでの余裕がない。しかし、そうした制限がかえって、中国の外交政策を抑制的なものにしている。アメリカは国力の低下もあり、海外への介入や関与はこれまで通りにはいかない。それが苛立ちを招いているが、アメリカ国民の多くは、「これまで外国には十分にしてやった。これからはアメリカ国内の疲弊している地域を建夫なすことに注力すべきだ」という考えになっている。アメリカはこれから、抑制的な外交政策を採用しなければならない。そのために中国から学ぶべきというのが下の論稿の趣旨だ。

 バラク・オバマ元大統領が世界の警察官を辞めると発言して10年近く経過した。その後、ドナルド・トランプ大統領が出現し、アメリカは世界で戦争を行わなかった。トランプ大統領については賛否両論激しいが、この点は評価すべきだ。世界構造は、アメリカ一極から米中二極へと転換していくことが予想される。そして、長期的に見れば、非西洋の、グローバルサウスが世界の中心になっていく更に新たな世界構造になっていく。そこでは様々な価値観が共存していくことが必要となる。日本はこれから、「アメリカ中心」「西洋中心」=アメリカの属国をしていれば安心という構造の価値観外交から脱却していく必要がある。

(貼り付けはじめ)

アメリカが中国から学べるもの(What the United States Can Learn From China

-中国の台頭の中で、アメリカ人は中国政府が何を正しく行っているのか、そして何を間違っているのかを問うべきである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/20/united-states-china-rise-foreign-policy-lessons/?tpcc=recirc_trending062921

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北京の八一ビルで協定書に署名した後、握手するアメリカ統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード大将と中国人民解放軍房峰輝総参謀長(2017年8月15日)。

どのような競争の分野でも、ライヴァルたちは常により優れた結果を得ようと努力する。彼らは、自分たちの立場を改善する革新的なものを探しており、敵対して効果があるように見えるものは何でも真似しようと努める。この現象は、スポーツ、ビジネス、国際政治でも見られる。模倣するということは、他の人がやったこととまったく同じことをしなければならないという意味ではないが、他の人が恩恵を受けてきた政策を無視し、適応することを拒否することは、負け続ける良い方法だ。

今日、中国とより効果的に競争する必要性は、おそらくほぼ全ての民主党と共和党の政治家たちが同意する唯一の外交政策問題である。この合意がアメリカの国防予算を形成し、アジアにおけるパートナーシップを強化する取り組みを推進し、ハイテク貿易戦争(high-tech trade war)の拡大を促進している。しかし、中国について警告を発する専門家たちの大合唱は、アメリカの技術を盗み、以前の貿易協定に違反したとして中国を非難することは別として、中国がこれを成功させるのに役立った、より広範な措置を考慮することはほとんどない。もし、中国が本当にアメリカの利益を奪っている(eating America’s lunch)のであれば、アメリカ人は中国政府の何が正しくて、アメリカの何が間違っているのかを自問すべきではないだろうか? 中国の外交政策へのアプローチは、ワシントンの人々に有益な教訓を提供するだろうか?

確かに、中国の台頭の大部分は純粋に国内の改革によるものだ。世界で最も人口の多いこの国は常に巨大な権力の潜在力を秘めていたが、その潜在力は深い内部分裂や誤ったマルクス主義の経済政策によって、1世紀以上にわたって抑圧されてきた。ひとたび国の指導者たちがマルクス主義(レーニン主義ではない!)を捨てて市場を受け入れると、この国の相対的な力が急激に増大することは避けられなかった。そして、インフレ抑制法やその他の措置を通じて国家産業政策(national industrial policy)を策定しようとするバイデン政権の取り組みは、いくつかの主要技術で優位に立とうとする中国の国家支援による取り組みを模倣しようとする遅ればせながらの試みを反映していると主張する人々もいるだろう。

しかし、中国の台頭は、国内改革や西側諸国の無頓着(complacency)だけによるものではなかった。更に言えば、中国の台頭は、外交政策への広範なアプローチによって促進されており、アメリカの指導者たちは、それについて熟考するのがよいだろう。

まず、最も明らかなことは、中国がアメリカを何度も陥れてきた、高コストの泥沼を回避してきたことである。中国政府は、その力が増大しているにもかかわらず、海外で高額の費用がかかる可能性のある約束を引き受けることに消極的だ。例えば、イランを守るため、あるいはアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアのさまざまな経済パートナーを守るために戦争をするという約束はしていない。中国は、ロシアに軍事的に価値のある軍民両用技術(militarily valuable dual-use technologies)を提供している(そしてその対価として高額の報酬を得ている)が、中国はロシアに強力な武器(lethal weaponry)を送ったり、軍事顧問団(military advisors)を派遣するかどうか議論したり、ロシアの戦争勝利を支援するために自国の軍隊を派遣することを検討したりしている訳ではない。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーティン大統領は「制限のない(no-limits)」パートナーシップについて多くのことを語るかもしれないが、中国はロシアとの取引において厳しい取引を続けており、最も顕著なのはロシアの石油とガスを格安で入手することを要求していることである。

対照的に、アメリカは外交政策の泥沼状態(quicksand)に対する、間違いを犯さない本能を持っているようだ。

独裁者たちを追い落とし、アフガニスタン、イラク、リビアなどに民主政治体制を輸出するために何兆ドルも費やしていないにもかかわらず、決して守る必要のない安全保障を世界中の国々に拡大し続けている。驚くべきことに、アメリカの指導者たちは、また別の国を守るという任務を引き受けるたびに、その国が戦略的価値に限界がある場合や、アメリカの利益を促進するのにあまり貢献できない場合でも、それをある種の外交政策の成果だと今でも考えている。

アメリカは現在、歴史上かつてないほど多くの国々を防衛することを正式に約束しており、これら全ての約束を守ろうとしていることは、なぜアメリカの国防予算が中国よりもはるかに大きいのかを説明するのに役立つ。中国の支出と、私たちの活動との差が毎年5兆ドル以上もある中で、アメリカが何をできるか想像してみて欲しい。もし全世界を取り締まろうとしていなければ、おそらくアメリカも中国と同様に世界クラスの鉄道、都市交通、空港のインフラを整備でき、財政赤字も低く抑えられていたはずだ。

これは、NATOを離脱し、アメリカの全ての約束を破棄し、「アメリカ要塞(Fortress America)」の内側に撤退することを主張するものではないが、新たな約束を延長することについてより賢明であり、既存の同盟諸国がその役割を果たすべきであると主張することを意味する。世界中の何十か国を守ると誓わなくても、中国がより強くなり影響力を増せるのであれば、なぜアメリカにそれができないのだろうか?

第二に、アメリカとは異なり、中国はほぼ全ての国々とビジネスライクな外交関係を維持している。他のどの国よりも多くの外交的な目的を持ち、大使のポストが空になることはめったになく、成功した大統領候補のために資金を集める能力を主な資格とする素人ではない、外交官たちはますますよく訓練された専門家になっている。中国の指導者たちは、外交関係は他人の善行に対する報酬ではないことを認識している。彼らは情報を入手し、中国の見解を他国に伝え、強引さ(brute-force)ではなく説得(persuasion)によって、自国の利益を推進するために不可欠なツールである。

対照的に、アメリカは依然として、対立している国々からの外交承認を保留する傾向があり、それによって彼らの利益や動機を理解することがより困難になり、我が国の利益や動機を伝えることがより困難になっている。アメリカ政府は、イラン、ベネズエラ、北朝鮮の政府と定期的に意思疎通ができれば有益であるにもかかわらず、これらの政府を公式に承認することを拒否している。中国はこれら全ての国ともちろん対話しており、アメリカの最も緊密な同盟国全てとも対話している。私たちも同じようにすべきではないだろうか?

中国は、例えばイスラエルやエジプトなど、アメリカと緊密な関係にある国を含む中東のあらゆる国と外交関係や経済関係を持っている。対照的に、アメリカはイスラエル(そしてエジプトとサウジアラビアとはある程度)と「特別な関係(special relationship)」を持っており、それはイスラエルが何をするにしても、イスラエルを支持することを意味する。一方、イランやシリア、イエメンの大部分を支配しているフーシ派との定期的な接触はない。アメリカの地域パートナーは、アメリカの支援を当然のことと考えており、アメリカがライヴァルに手を伸ばすかもしれないと心配する必要がないため、アメリカの助言を頻繁に無視している。その好例は次のようなものだ。サウジアラビアは、ロシアや中国と良好な関係を維持しており、暗黙の脅威(tacit threats)を利用して、ワシントンからますます大きな譲歩を引き出そうとしているが、アメリカ政府当局者たちは、その見返りとして、同様の勢力均衡政治(balance-of-power politics)のゲームを決してしようとはしていない。この非対称的な取り決めを考慮すると、サウジアラビアとイランの間の最近の緊張緩和を支援したのがワシントンではなく北京であったことは驚くべきことではない。

第三に、中国の外交政策に対する一般的なアプローチは国家主権(national sovereignty)を強調することである。つまり、全ての国が自国の価値観に従って自由に統治すべきであるということだ。中国とビジネスをしたいのであれば、中国が国の運営方法を指図してくるのではないかと心配する必要はない。また、中国の政治制度と異なる場合に制裁を受けるのではないかと心配する必要もない。

対照的に、アメリカは自らを、一連の普遍的で自由な価値観の主要な推進者であると考えており、民主政体を広めることが世界的な使命の一部であると信じている。いくつかの注目すべき例外を除いて、アメリカはしばしばその力を利用して、他国に人権を尊重し民主政体に向けてより努力させるよう努めており、時には他国が人権を尊重し民主政体に向けてさらに努力すると誓約することを支援の条件とすることもある。しかし、世界の国々の大多数が完全な民主政体国家ではないことを考えると、多くの国が中国のアプローチを好む理由は簡単に理解できる。特に、中国が自国に具体的な利益を提供している場合にはそうだ。米財務長官を務めたラリー・サマーズは次のように述懐している。「発展途上国の誰かが私にこう言った。『私たちが中国から得られるものは空港だ。アメリカから得られるのはお説教だ。あなたが悔い改めない独裁者、または完全とは言えない民主政体国家の指導者なら、どちらのアプローチがより魅力的だと思うか?』」。

事態をより悪化させているのは、アメリカが道徳的な姿勢(moral posturing)を貫く傾向であり、そのため、アメリカ自身の基準を満たさない場合には、常に偽善(hypocrisy)の非難を受けやすい状態にある。もちろん、どんな大国もその公言する理想を全て実現することはできないが、国家が独自に高潔であると主張するほど、それが達成できなかった場合のペナルティは大きくなる。ガザ戦争に対するジョー・バイデン政権の、常識外れの、戦略的に支離滅裂な対応ほど、この問題が顕著に表れた場所はない。双方が犯した犯罪を非難し、戦闘を終わらせるために、アメリカの影響力を最大限に活用する代わりに、アメリカはイスラエルが復讐に満ちた残忍な破壊活動を行うための手段を提供し、国連安全保障理事会でそれを擁護し、却下した。大量虐殺(genocide)の証拠が豊富にあり、国際司法裁判所と国際刑事裁判所の首席検察官の両方が厳しい評価を下しているにもかかわらず、大量虐殺のもっともらしい容疑がかけられている。そしてその間ずっと、「ルールに基づいた秩序(rule-based order)」を維持することがいかに重要かを主張している。これらの出来事が中東やグローバルサウスの多くの地域におけるアメリカのイメージに深刻なダメージを与えていること、あるいは中国がそれらの出来事から利益を得ていることを知っても、誰も驚かないはずだ。注目すべきことに、アメリカ政府当局者たちは、この悲劇に対するアメリカの対応が、どのようにしてアメリカ人をより安全にし、より豊かにし、あるいは世界中でより賞賛されるようになったのかを説明する明確な声明をまだ発表していない。

重要なのは、中国がアメリカの主要なライヴァルとして台頭したのは、その潜在的な力をより効果的に動員することによってもあるが、海外への関与を制限し、アメリカの歴代政権が被ってきた自傷行為(elf-inflicted wounds)を回避することによってでもあった。だからといって、中国の記録が完璧だと言っているのではない。習近平国家主席が平和的な台頭に関する政策(policy of rising peacefully)を公然と放棄したのは間違いで、習の非常に国家主義的な「戦狼」外交(nationalistic “wolf warrior” diplomacy)は、これまで中国政府との緊密な関係を歓迎していた国々を遠ざけた。大騒ぎされている一帯一路構想は、よく言っても玉石混交で、善意と怒りの両方を生み、中国政府が回収に苦労するであろう巨額の負債を生み出している。ウクライナにおけるロシアに対する暗黙の支持は、ヨーロッパでのイメージを傷つけ、各国政府に経済統合の緊密化からの撤退を促しており、また、国家主権の原則に対する想定されている約束を常に守っている訳ではない。

しかし、中国の台頭を深く懸念しているアメリカ人は、中国政府が何をうまくやって、何をワシントンがうまくやらなかったかを反省すべきだ。ここでの皮肉を見逃すのは難しい。中国は、アメリカが以前に世界超大国の頂点に上り詰めたのを模倣する部分もあり、急速に台頭してきた。誕生したばかりのアメリカには、肥沃な大陸、まばらで分断された先住民族、そして 2つの広大な海による保護など、多くの生来の利点があり、国外でのトラブルに巻き込まれず、国内で権力を築くために、それらの資産を活用した。アメリカが外国と戦ったのは 1812年から1918年の間に2度だけであり、それらの戦争の相手国 (1846年のメキシコと1898年のスペイン) は、重要な同盟国を持たない弱小国家だった。そして、ひとたび大国になると、アメリカは他の大国が互いにバランスを保てるようにし、可能な限り紛争から遠ざかり、両世界大戦での被害を最小限に抑え、「平和を勝ち取った(won the peace)」。中国も1980年以来同様の経過をたどっており、これまでのところ大きな成果を上げている。

ドイツのオットー・フォン・ビスマルク首相はかつてこう述べた。「自分の間違いから学ぶのは愚か者だけだ。賢者は他人の間違いから学ぶ(Only a fool learns from his own mistakes. The wise man learns from the mistakes of others.)」。彼の発言は修正される可能性がある。賢明な国は、他国の間違いからだけでなく、彼らが行ったこと正しいことからも学ぶ。アメリカは中国のようになろうとすべきではない(とはいえ、ドナルド・トランプ元大統領は明らかに一党独裁体制[one-party system]を羨んでいるが)が、世界の他の国々に対する中国のより現実的で利己的なアプローチから何かを学ぶことはできるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。最終回です。

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2020年、新型コロナウイルス感染拡大の到来により、特にトランプがウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶことを主張し、感染拡大の起源が地政学的な疑惑の対象となったため、米中関係はさらに崩壊した。中国は、いわゆる「戦狼(wolf worrier)」外交の斬新な新しい形で米中外交関係を更に汚染し、パンデミックの最初の発生の誤った対応を非難し、ウイルスがウクライナのアメリカのバイオラボで発生したという奇妙な陰謀説を広めた。数か月後、北京は香港に対する抜本的な取り締まりを開始し、住民が香港から逃れようと奔走する中、狂乱の大規模な脱出を引き起こし、ワシントンに敵対的な感情を更に根付かせた。

戦略国際問題研究所の上級顧問であるスコット・ケネディは、「2020年は、中国に対して絶え間なく行動を起こした年となった。中国の人々は新型コロナウイルス感染拡大、個々の行動への対応、全体的なトーンのため、非常にタカ派になりやすかった」と述べている。

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2021年3月18日、アラスカ州アンカレッジで行われた米中会談のオープニングセッションで、中央外交委員会弁公室の楊潔篪主任(左)と中国の王毅外相(左から2番目)と向き合いながら発言するアントニー・ブリンケン米国務長官(右)

アラスカ州アンカレッジにあるキャプテンクック・ホテルの会議室で、新任のアントニー・ブリンケン米国務長官と王毅外相(当時)が向かい合って座り、補佐官たちと米中国旗が並んでいた。新型コロナウイルス対策としてフェイスマスクを着用していたが、誰も笑っていないのは明らかだ。

バイデンが大統領に就任して2カ月も経たないうちに、ブリンケン、ジェイク・サリヴァン大統領国家安全保障担当補佐官をはじめとするバイデン側近の一団が、政権として初めて中国当局者と正式に対面するためにアラスカを訪れていた。中国の国営メディアは、この会談を、トランプ時代のページをめくる機会として描いていた。アメリカ側も含め、ほとんどの人が、この会談は慎重に振り付けられた挨拶という典型的な形式を踏むと予想していた。

その代わり、花火が打ち上げられた。中国のトップ外交官である楊潔篪は、アメリカ側がテーブルに持ち込んだ不満に対して激怒し、米中関係を「前例のない困難な時期(period of unprecedented difficulty)」に突入させたとワシントンを非難した。

楊潔篪は「中国の首を絞めるようなことはできない」と述べた。ブリンケンは守りに入り、北京が「世界の安定を維持するルールベースの秩序を脅かす(threaten the rules-based order that maintains global stability)」行動をしていると非難した。

楊潔篪は中国の聴衆を相手にした。バイデンはトランプではないが、アンカレッジでの外交対決は、双方がリセットボタンを取り違えていることを示す最も明確な兆候だった。

バイデンは、トランプの外交政策の残滓を覆すことを誓った。しかし、中国への対応という点では、バイデンの立場は前任者と驚くほど似ている。関税や、新疆ウイグル自治区での北京の犯罪を大量虐殺とするバイデン政権の宣言など、トランプ大統領の遺志を継いだ多くの主要な備品は、依然としてしっかりと存在している。ある面では、バイデンは更に進化している。

国家安全保障会議元部長ポール・ヘーンルは次のように語っている。「多くの人が、バイデン政権が誕生していかにタフであるかに驚いた。バイデン政権は、共和党が民主党よりも中国に対して厳しいと主張することを望んでおらず、超党派のアプローチを維持したいと予測していた」。

バイデンの大統領就任から2年、中国のハイテク部門に対する徹底的なキャンペーンが展開され、中国の半導体産業をターゲットにした懲罰的な新しい輸出規制を発表し、現在はファーウェイのアメリカ国内サプライヤーとの関係遮断を検討している。台湾では、中国が侵攻してきた場合、軍事的に台湾を防衛するとの発言を受けて、共和党と民主党の議員がバイデンの側に結集した。

これらの即席の発言は、何十年にもわたる米国の「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」のドクトリンに対しての疑問が出るようになった。現在、そのドクトリンは非常に曖昧であるため、中国の台北に対する砲撃が開始された場合にアメリカが何をするかについて混乱しているのは中国人だけではない。

そのため、関係は不安定な状態に陥っている。ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長であるチェン・リーは次のように語っている。「危険な状況ですが、そうは言っても、中国、台湾、アメリカの3者はみな、その危険性を認識していると考えている。必然性はないが、負のスパイラルに陥っている。それは、相互に強化された恐怖、そして敵意によって引き起こされる」。

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台湾付近で中国の軍事活動が活発化した後、軍事訓練で照明弾が発射され、警備に当たる台湾の兵士たち

連邦議会で超党派の支持を得ているものを見つけるのは難しいが、2022年9月下旬、連邦上院外交委員会の議員たちは台湾政策法でそれを実現した。

この法律は、後に大規模な国防政策法案の一部として形を変えて通過したが、起草当時は米台関係の最も包括的な見直しの一環と考えられており、連邦議会が台湾への支援を倍増させるという北京への警告となった。連邦議員たちは最終的に、台湾政策法の最も論争的な提案の1つである、台湾を非NATOの主要同盟国として正式に指定することには至らなかったが、台湾の武器調達のために最大20億ドルの融資を用意することになった。最初の法案は17対5の賛成多数で連邦上院委員会を通過したが、少数の反対派の中にはバイデンの連邦議会における最も重要な同盟者たちも含まれていた。

バイデンの同盟者でありながら繁多に回った民主党所属のマーフィー連邦上院議員は次のように述べている。「これまでの台湾政策は成功の核心であり、今がそれを破棄する時ではない」と述べた。台湾政策法の支持者たちは、「一つの中国(One China)」政策を廃止するのではなく、明確な安全上の保障を作り出すものでもないと言うだろう。それは技術的には正しいが、実質はそうではない。私たちの多くが必要ないと思っている時に、全く新しい台湾政策を打ち出すことになるだけのことだ」。

誰に聞くかによって、これはハト派の最後のあがきか、あるいは民主党の中国政策における中道派と進歩派の間の亀裂の始まりかのどちらか、という2つの解釈が出てくる。

コーネル大学教授のワイスは、ワシントンにおける中国のコンセンサスの出現が、集団思考(groupthink)を助長していると警告する。ワイスは次のように述べている。「このような一般的なコンセンサスに対して、あまり多くの疑問を投げかけることは政治的に有利ではないし、キャリア的にも賢明とは言えない。そのため、この戦略は私たちをどこへ連れて行くのか? どこに向かっているのか? どうすれば、私たちが進んでいる有害な軌道を曲げることができるのか?」。

連邦下院中国特別委員会は、今後数か月で、中国の影響力とアメリカとの関係を調査するため、この議論を形作る原動力となる予定だ。ギャラガー委員長は、委員会の最優先事項の1つは、「中国共産党率いる中国とのこの新しい冷戦に勝つ(win this new cold war with Communist China)」ために必要な長期投資に焦点を当てることだと述べた。

マーフィー議員は次のように述べている。「ソ連との対立に使った用語を、中国との対立に使うことはできない。ソ連との対立で使った用語を、中国との対立に使うことはできない。ソ連との貿易関係は事実上ゼロだった。しかし、現在のアメリカにとって、最重要の貿易関係は中国とのものだ。だから、冷戦の戦士や冷戦愛好家たちが、ソ連と競争したように中国と競争できると考えていることを心配している。同じことではない」。

それにもかかわらず、この呼び名が定着しているのは、おそらくアメリカ人にとって、他の超大国との緊迫した時代を表す唯一の表現方法だからだろう。

シカゴ国際問題評議会の上級フェローで、情報機関の東アジア担当だったポール・ヒアは、「米中関係の悪化を新たな冷戦に例えることのリスクは、自己成就的予言(self-fulfilling prophecy)になるということだ」と指摘している。ヒアは更に「これを冷戦と呼ぶ時、基本的には『そうだ、私たちは実際的な闘争に従事しており、一方だけが勝つことができる』と言っているようなものだ」と述べた。

しかし、コンセンサスは高まりつつあり、習近平は自らの野心に固執しているように見え、変化の余地をほとんど残していない。習近平の中国共産党総書記としての3期目は2027年に終了する。

アジア・ソサエティのシェルは「足を動かさない相手とは踊れない。中国はまだ踊りたいとは思っていない」と語った。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer

※クリスティアン・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@christinafei

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。前回の続きです。

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新しく設置された中国委員会の委員長である共和党のマイク・ギャラガー連邦下院議員は「中国への経済的依存度を下げる必要がある。台湾を守るために、日付変更線の西側にある東アジアにおけるハードパワーを急増させる必要がある」と、連邦議会が始まる前の12月に語っている。ギャラガーは「中国共産党は今日の世界における我々の最大の脅威である」とも述べた。

一方、他の米連邦議員たちも台湾に出入りし、北京の当局者を激怒させるような出張を繰り返している。

その1人が共和党のトッド・ヤング連邦上院議員で、2023年1月に台湾を訪れ、蔡英文総統に面会した。「中国共産党が強圧的な態度をとり、更に強圧的な態度をとるという脅威がある以上、私のような者が、そのような事態に直面しても引き下がらないということを示すことは理にかなっている」とヤングは本誌の取材に答えた。

アメリカ軍やバイデン政権のトップは、中国が軍事的手段を使ってでも台湾の奪還を目指していると分析評価しており、今後2年から5年以内に紛争が起こると予測する者もいるが、こうした分析評価はワシントンの全員が共有している訳ではない。

そのため、アメリカは窮地に立たされている。公式には「一つの中国(One China)」政策を堅持しており、正式な外交上の承認は北京に限定し、台北を密かに支援するだけである。しかし、バイデンは様々なインタヴューで、この政策の厳しさを超えて、中国が侵略してきた場合、台湾を軍事的に守ると宣言している。

連邦議会議事堂から同様のシグナルが発信される中、中国ウォッチャーたちは、およそ50年にわたる中国との統合計画から歯車が狂い始めた瞬間を一つだけ挙げることはできない。しかし、それは一連の出来事であり、災難であり、不祥事であった。その一つが、ミシガン州出身の若い大学卒業生と120ドルの現金、そして「アマンダ」と名乗る女性だった。

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砂嵐の中で北京の天安門前広場をパトロールする警察官(2006年4月18日)

2009年12月、ミシガン州出身の28歳、グレン・シュライヴァーは、CIA入局の手続きを開始するため、ワシントンDCに出頭するようにとの知らせを受けた。上海に住み、教師として働いていたシュライヴァーは、過去4年間、アメリカの国家安全保障に関わる仕事を求め、CIAに応募する前にアメリカの外交官試験を繰り返し受験しては失敗していた。

シュライヴァーは、秘密情報機関の職への就職活動を通じて、ある秘密を持っていた。それは、中国情報当局が彼をスパイに仕立て上げていたことである。それは、上海に住んでいたシュライヴァーが、新聞広告に掲載された米中関係のレポートを書くという仕事に応募したことから始まった。「アマンダ」と名乗る女性から120ドルの報酬を得た。そこから、「アマンダ」と中国最高峰の国家情報機関である国家安全企画部の他のエージェントたちが、彼に数万ドルを支払い、国務省やCIAのアメリカ政府の仕事に応募させるようになったことは、アメリカの弁護士が後にこの事件に関する公開文書で詳述している。

シュライヴァーはアメリカで拘束され、最終的には中国のためのスパイ活動を企てたとして有罪を認めた。しかし、シュライヴァーの事件は、アメリカの国家安全保障と情報に関わる諸機関の世界に一石を投じるものとなった。中国がアメリカでのスパイ活動を活発化させていた。シュライヴァーは、2008年から2011年の3年間だけで、中国のためにスパイ活動を試みた容疑で連邦政府に起訴された約60人の被告の1人に過ぎない。情報機関や法執行機関の関係者にとって、シュライヴァー事件は、新たな、ますます攻撃的になる中国を象徴するものだった。しかし、政策立案者たちにとっては、その認識はずっと後のことであった。

シュライヴァーがFBIに逮捕されたとき、バラク・オバマ大統領はまだサニーランズで習近平と会談しておらず、当時のヒラリー・クリントン国務長官は、アメリカのアジアへの「ピボット」(U.S. “pivot” to Asia)を宣言してからまだ1年経っていなかった。

米中関係が破局に向かう運命にないことを示唆する外交的な取り組みもたくさんあった。中国は、オバマ大統領が2015年に締結したイラン核合意を後押しした。気候変動や北朝鮮の核兵器開発の終結に向けた協力を開始し、軍事面でもオリーブの枝を差し出した。2014年、アメリカは中国に対し、太平洋で毎年行われる大規模な多国籍軍事演習、通称リムパックへの参加を要請している。

しかし、ワシントンの対中タカ派勢力は、シュライヴァーの事件や他の有名なスパイ事件が少なくとも一因となって、経済・政治面での政策論争に影響力を持ち始めている。そして、習近平がその火に油を注いだ。

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左:2015年にワシントンのホワイトハウスにおいてバラク・オバマ米大統領が中国の習近平国家主席と握手

右:2012年に訪中期間中に中国の楊潔篪中国外交部長と会談するヒラリー・クリントン米国務長官

中国は2013年、ユーラシア大陸のインフラ整備、中国の過剰な経済力の輸出、新たな世界貿易ルートの接続を目的とした、後に「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」と呼ばれる数百億ドル規模の大規模な世界規模のインフラ投資プログラムを発表した。ワシントンの一部では、北京が地政学的影響力を得るために外国のインフラプロジェクトや公的債務を行使することを可能にする経済面におけるトロイの木馬(Trojan horse)になぞらえた。そして2015年、米人事管理局(U.S. Office of Personnel Management)は、中国のハッカーが2200万人以上のアメリカ連邦政府現職職員、元職員、内定者、そしてその友人や家族の機密データを盗み見たことを明らかにした。

中国はまた、現在争われている南シナ海で人工島を建設するキャンペーンを開始した。それは、この地域の重要な国際シーレーンを脅かす可能性のある軍事能力のある飛行場とインフラを積み上げた。コーネル大学教授で、米国務省の政策計画スタッフの元上級顧問であるジェシカ・チェン・ワイスは、「特にオバマ政権の終わりに向けて、南シナ海での中国の埋め立てについて、懸念が高まり始めた」と述べた。

国際サミットの外交用語が「温かい(warm)」交流から「重要な懸念(significant concerns)」についての「率直な(candid)」議論へと変化し、大国間の緊張の高まりをかろうじて抑えていたため、オバマと習の直接会談は2013年のサニーランズ会談以降、ますます冷え込むようになった。中国では、習近平の指導の下、反米主義やナショナリズムがより積極的に浸透している。リムパックに中国を招待するという親善的なジェスチャーでさえ、気難しい注文を伴っていた。中国はこの演習に4隻の船を派遣したが、招待されていないスパイ船1隻を静かに送り込んで偵察した。

2016年後半、オバマ大統領の任期最後の年になると、中国との一体化というアメリカの戦略の高い期待は、急速に薄れ始めていた。オバマは2016年9月、CNNで「国際的なルールや規範に違反していると見られる場合、私たちは非常に毅然とした態度で臨み、結果が出ることを彼らに示してきた」と語った。

米国防情報局の元中国専門家コール・シェパードは、習金平国家主席の前任者である胡錦涛の下では「経済とおそらく政府のさらなる開放と自由化の希望がまだあった」と述べた。シェパードは続けて「しかし、習近平の2期目の5年間の任期中、習近平が胡錦濤と胡主席の前任者である江沢民の自由主義的または開放の道を歩み続けるつもりがないことが明らかになった時、状況は変わり始めた」とも述べた。

オバマのCNNインタヴューの数日後、中国の杭州で開催されたG20会議では、中国当局は大勢の世界の指導者たちにレッドカーペットを敷いて出迎えた。しかし、中国当局は米大統領専用機(エアフォース・ワン)にローリング階段を送らず、オバマは飛行機の腹にある威厳のない整備用の入り口から飛行機を降りることを余儀なくされ、これは計算された外交的無視と見なされた。

カーネギー国際平和財団の理事長で、ジョージ・W・ブッシュ(息子)、オバマの両政権下で中国、台湾、モンゴル担当の国家安全保障会議(NSC)部長を務めたポール・ヘーンルは次のように述べている。「中国は南シナ海に人工島を建設した。中国は数千億ドル規模の知的財産のインターネット上での窃盗に関与している。中国は、市場や民間セクターを犠牲にし、より国家が主導し、国家が促進する経済に移行した。そのためにアメリカは様々な経済問題の解決に取り組むことができなかった。これらは全て米中間の現実的な課題として浮上したものであり、それはトランプが大統領就任前のことだった」。

次に起きることは事態を悪化させるだけであろう。

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2017年、北京の人民大会堂内でのビジネスリーダー・イヴェントに出席するドナルド・トランプ米大統領と習近平国家主席

デイヴィッド・フィースは、米中関係の大変化を直接目撃した人物だ。2013年から2017年まで、彼は香港の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙支局に勤務し、米中両国が経済関係を深めているにもかかわらず、中国の経済的台頭によって企業スパイが急増し、国家主導の攻撃的な貿易政策が主張されている様子を追跡していた。当時、米中二国間の貿易額は年間6360億ドルで、世界最大の貿易関係であり、アメリカの対中輸出は200万人近いアメリカ人の雇用を支えていた。

フィースはまた、アメリカから遠く離れた場所から、トランプの政治的台頭と、トランプをホワイトハウスに送り込み、ワシントンのエスタブリッシュメント(そして他のほとんどの人々)を唖然とさせた劇的な2016年大統領選を目撃した。トランプは、貿易や知的財産でアメリカを騙している中国を繰り返し非難することで、これまでの大統領とは一線を画していた。2016年の選挙戦では、「われわれは泥棒に盗まれた貯金箱のようなものだ」と言い放った。トランプ派「中国が私たちの国をレイプするのを許し続けることはできない。そして、それが彼らのやっていることだ。世界史上最大の窃盗だ」とも述べた。

トランプの鋭く露骨なスタイルがアメリカ本土の有権者の神経を刺激したのなら、それはワシントンにいた対中タカ派の若手クラスにとっても同じで、彼らはアメリカの対中政策が時代遅れの希望的観測であると見て苛立ちを募らせた。

中国は、その行動によって、「アメリカが主導する自由主義的な世界秩序の責任ある利害関係者(ステイクホルダー)になることを絶対に望んでおらず、事実、その秩序に敵対し、それを修正し破壊しようとしていることを証明した」とフィース氏は述べている。

フェイスはジャーナリズムからゲームに飛び込むことを決意し、2017年初め、トランプ政権に参加した。国務省の政策企画スタッフ(国務省の社内シンクタンクのような存在)の当時の責任者であるブライアン・フックによって国務省に引き入れられ、トランプの選挙運動のプラットフォームをアメリカの外交政策に変えるための作業を開始した。それは、アメリカの対中政策に関する数十年のコンセンサスを根底から覆すものだった。

トランプ政権は、徹底的な貿易戦争(trade war)で経済関係を破壊しようとするだけでなく、中国の通信大手ファーウェイに規制をかけ、台湾への武器販売を強化し、現在は廃止されている「中国イニシアティヴ」を立ち上げた。このプログラムは、知的財産の盗難を取り締まるために作られたが、アジア系アメリカ人の研究者に対する疑念と監視の目を向けるようになった。また、マイク・ポンペオ国務長官(当時)は、任期最後の日に、離任の挨拶の中で、新疆ウイグル自治区における北京の人権侵害は大量虐殺(ジェノサイド、genocide)に相当すると宣言した。

ハドソン研究所の上級研究員で、トランプ政権下で戦略担当の大統領国家安全保障担当次席補佐官を務めたナディア・シャドローは、製造業、防衛、人権の3つの主要分野を取り巻くアメリカ国内の不満や懸念の高まりが、全てトランプ政権下でこうしたシフトに収束したと指摘する。それは「何かが起きていることを知らす冷静な目覚めの音」であったと彼女は述べた。

(つづく)

(貼り付け終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 米中関係は以前に比べて悪化している。「米中戦争は起きるのか?」という疑問ではなく、「米中戦争はいつ起きるのか?」という煽動も入った疑問が出てくるようになった。米中戦争が話題になるというのはここ最近のことだ。米中関係の悪化を反映している。

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 米中関係(アメリカと中華人民共和国との関係)は1972年2月のリチャード・ニクソン米大統領の訪中によって始まった。ハイライトは毛沢東中国共産党中央委員会主席との会談だった。そのお膳立てをしたのがヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官と周恩来国務院総理だった。中ソ対立が常態化する中で、「敵の敵は味方」で、米中は関係を改善し、1979年に正式に国交が樹立された。1973年には北京に米中連絡事務所(U.S. liaison office to the People's Republic of China)が開設され、事務所長(director、特命全権公使)が派遣された。歴代の事務所長の中には、後に大統領となったジョージ・HW・ブッシュ(父)がいる(1974-1975年)。

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 国交正常化後、米中両国は基本的に良好な関係を保った。鄧小平の改革開放路線(1978年から)もあり、1980年代の中国は「自由化」「民主化」に進んでいるように見えた。アメリカ側は「中国を国際社会に参加させ、国際経済に参加させることで、更なる国内変革を促し、最終的には中国共産党による一党独裁体制を終わらせることができる」と楽観視していた。アメリカが中国に「関与(engagement)」することで、中国の体制転覆(regime change)を行えると考えていた。ソ連が崩壊し、共産主義の魅力もがた落ちとなった。中国はこのまま一党独裁体制から転換すると考えていたところに起きた(中国側から見たら起こされた、アメリカが起こした)のが1989年6月4日の天安門事件だ。これで米中関係は冷え込むことになり、「中国は経済面では改革開放を進め、社会主義市場経済を推進するが、政治体制は維持し、思想を強化する」ということが明らかになった。

 同時期、中国は高度経済成長の道を進み始めた。政治や思想面での党勢は強化されたが、経済に関しては、鄧小平の「先に豊かになれるものから豊かになる」という「先富論」に基づいて、「世界の工場」として中国は世界の製造業の基地となった。GDPはまさに倍々ゲームで拡大していった。30年余りで、中国は世界第2位の経済大国へと変貌した。

 中国が力をつけるにつれて、アメリカは危機感を持つようになった。アメリカの世界覇権が脅かされる事態が発生した。ソ連に勝ち、1980年代の日本の経済成長も押しつぶすことに成功したアメリカであったが、中国は難敵だ。中国はソ連と日本の成功と失敗を学んでいる。更に言えば、米ソ関係で言えば、アメリカとソ連の間には大きな経済関係がなく、アメリカは経済面を気にせずに、軍事面や政治面でソ連と闘い勝利することができた。日米関係で言えば、日本はアメリカの属国であり、日本を叩き潰すことは造作のないことだった。アメリカは中国との間に重要な経済関係を持つが、中国を自分たちの言いなりに動かすことはできない。

こうした中で、アメリカ国内で「中国脅威論」が台頭し、「中国をここまで育ててモンスターにしてしまった責任はキッシンジャーにある」という主張が叫ばれるようになった。米中関係は「関与」から「対立」に変化している。アメリカ国内には「中国脅威論」が蔓延しているが、これは恐怖感の裏返しだ。

「アメリカは世界覇権国の地位から脱落するかもしれない、次の覇権は中国になる」「米ドルが世界の基軸通貨の地位を失い、豊かな生活が享受できなくなるかもしれない」という恐怖感がアメリカ国民に真実味を持って迫ってきているのだ。そのために中国を叩き潰したいと思いながらも、その方策はない。戦争をするというオプションは選べない。そんなことをすれば、アメリカや世界の経済は甚大な損害を受けることになるからだ。世界は大きな転換期を迎え、世界は分裂に向かっている。米中は2つの陣営(西洋[the West]対それ以外の世界[the Rest])の旗頭として対立を深めていく。しかし、キッシンジャーが両者の間をつないでいるうちはまだ大丈夫だろう。彼が死んだあとはどうなるか分からないが。

(貼り付けはじめ)

ワシントンの対中タカ派勢力が勢いを得ている(Washington’s China Hawks Take Flight

-数十年にわたるアメリカの対中関与の物語が離別の物語に道を譲った。

ロビー・グラマー、クリスティナ・ルー筆

2023年2月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/15/china-us-relations-hawks-engagement-cold-war-taiwan/

バラク・オバマと習近平は、カリフォルニア州パームスプリングス近郊の高級保養地サニーランズを気軽に散策し、温かく友好的な米中関係を笑顔でアピールしていた。2013年夏、超大国と新興大国の間では物事が順調に進んでいるように見えた。

オバマは2期目の大統領としてかなり経験を積んでいた。中国の新指導者である習近平は胡錦濤から引き継いだばかりで、ワシントンではほぼ全員が習近平を米中関係における新しい、より希望のあるチャプター(章)の体現者だと見ていた。オバマ大統領は、中国との「新しい協力モデル(new model of cooperation)」について語り、アメリカは「世界の大国としての中国の継続的な平和的台頭(continuing peaceful rise of China as a world power)」を歓迎すると述べた。それは米中関係の新時代の幕開けだった。

実際にはその通りにはならなかった。

10年後、オバマと習近平がサニーランズで築いたと思われる友好関係は、完全に消滅した。中国国内では、習近平が中国を統治している中国共産党に対する、彼自身の権威主義的な権力を強固なものにしている。アメリカが大量虐殺とみなしている、新疆ウイグル自治区のウイグル族やその他の少数民族に対する徹底的な弾圧を行い、第二次世界大戦後最も野心的な軍拡を主導してきた。ワシントンでは、中国との関わりを長く支持してきたいわゆるハト派は、完全に脇に追いやられている。政治的スペクトラムがますます広くなっている中で、政策立案者や連邦議員たちは、あるコンセンサスでまとまっている。それは、「中国に対して厳しく接するべき時だ」というものだ。

ワシントンは、北京が自国の領土とみなしている台湾への軍事支援を強化した。米軍トップの司令官は最近、2025年までに台湾をめぐって中国と戦うことになるかもしれないと、各部隊に警告するメモを発表した。2月上旬には、中国のスパイ気球とされる飛行体がアメリカ大陸を横断し、ワシントンで政治的な大炎上、大きな非難を引き起こしたため、両国の緊張を緩和する目的の、ジョー・バイデン米大統領のトップ外交官(アントニー・ブリンケン米国務長官)による北京への訪問は中止された。ブリンケン国務長官訪中は大きな注目を集めていた。

連邦上院外交委員会の民主党議員であるクリス・マーフィー連邦上院議員は、「私が恐れているのは、中国との軍事衝突が避けられないかのように振る舞うことで、最終的にその考えが現実のものとなってしまうことだ」と述べている。マーフィー議員は「中国は台湾を侵略する決断をしていないが、アメリカが中国政策の全てを台湾政策に変えてしまえば、それが彼らの意思決定に影響を与える可能性がある」とも述べた。

リチャード・ニクソン大統領の対中関係開放に始まり、オバマ大統領の時代まで続いた数十年にわたるアメリカの関与の努力は、単に成果を上げることができなかったのだろうか? それとも、習近平の登場と、世界における中国の位置づけに対する彼の積極的で修正主義的なアプローチが、それを無意味なものにしてしまったのだろうか?

欧米諸国の議員や政策立案者、中国アナリストの多くは、関係悪化の責任を習近平の足元だけに押し付けている。

アジア・ソサエティの米中関係センター部長であるオーヴィル・シェルは、「私は、関与について言えば、瀕死の状態だと思う(deader than a doornail)。習近平の統治の大きな悲劇の1つは、事実上、習近平がそれを破壊し、実行不可能にしたことだと思う」と述べた。

しかし、対中タカ派が誕生したのは、ワシントンの政策立案マシーンにおいてである。そこでは、人気のあるアイデアはすぐに法律(canon)となり、議論の余地はほとんどない。

ジョージタウン大学教授で、オバマ大統領の国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)で中国、台湾、モンゴル担当ディレクターを務めたエヴァン・メディロスは、「このようなコンセンサスを得る度に、政権を支援し、長期的な競争に必要なツールを与えるのとは対照的に、政権を囲い込む反響室現象(echo chamber 訳者註:自分と似た意見や思想を持った人々が集まる場[電子掲示板やSNSなど]にて、自分の意見や思想が肯定されることで、それらが正解であるかのごとく勘違いする現象)に発展する危険がある」と述べた。

対中タカ派が隆盛する中、危機へのゆっくりとしたしかし着実な進展から逃れる術はあるのだろうか?

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1994年、北京にて、朱敦法・中国人民解放軍上昇と会見するウィリアム・ペリー米国防長官

1994年夏、ペリー米国防長官は、米中関係の将来について、米軍の最高幹部たちにメモを送った。そのメモの中で、ペリーは、中国について「急速に世界最大の経済大国になりつつあり、国連安保理常任理事国の常任理事国の地位、政治的影響力、核兵器、近代化する軍隊と相まって、中国はアメリカが協力しなければならない相手である」と書いている。

ビル・クリントン政権が北京とより緊密な関係を築こうとしていた頃、ペリーはその秋以降に中国を訪問する準備をしていた。1989年の天安門事件に端を発した中国政府による抗議活動への残忍な弾圧の後、関係は凍結されていた。ペリーは1994年のメモで、「中国との軍事関係は、米国防総省にとって大きな利益となりうる」と指摘し、中国側との会談を開始するよう各米軍幹部たちに指示した。

ペリーのメモは、その後数十年にわたってワシントンで主流となる、楽観的な関与(optimistic engagement)という視点を示したものである。慎重な外交と継続的な経済協力(careful diplomacy and continued economic cooperation)によって、アメリカは中国を新興のグローバル・パワーとしての役割に導き、第二次世界大戦後の国際システムに統合することができる、という考え方であった。冷戦は終結し、ソヴィエト連邦は崩壊していた。アメリカの政策立案者たちは、熊(ソ連)を倒すように龍(中国)を飼いならすことができると確信していた。

クリントン政権は、特に貿易においてアウトリーチ活動を開始した。これらはジョージ・W・ブッシュ大統領の下で頂点に達し、中国はついに世界貿易機関に加盟し、20年に及ぶ行進を開始し、いくつかの手段を用いて、世界最大の経済大国になった。

この発展によって、数億人の中国人が貧困から救い出され、歴史上最も目覚ましい経済変革の1つとなった。しかし、豊かな国の人々、特にアメリカの人々にとっては犠牲が伴った。彼らは、低コストの中国との競争によって世界貿易と製造業におけるシェアが徐々に食い尽くされるのを目の当たりにした。世界の GDP に占める中国のシェアは1990年の 1.6% から2017年には16% に急上昇し、アメリカの対中貿易赤字は3750億ドル以上に急増した。

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1998年、ビル・クリントン米大統領が楽団を指揮している間、妻のヒラリー・クリントンは江沢民国務院総理と会談

ペリーのメモの内容は、今日のワシントンでは異端となっている。連邦下院共和党は民主党の幅広い支持を得て、アメリカ政府の対北京戦略転換を監督する中国に関する特別委員会を設置し、国務省は中南米、アフリカ、中東などで経済的・政治的に拡大する北京の足跡を監視して鈍らせるための「中国専門部門(China House)」の構築に奔走している。バイデン政権は、ドナルド・トランプ前大統領の下で制定された貿易関税を維持するだけでなく、中国の技術に対する攻勢をエスカレートさせている。
(つづく)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。
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スティーヴン・ウォルト

 今回は国際関係論(International Relations)の泰斗スティーヴン・ウォルト(Stephen M. Walt、1955年-、66歳)による米中関係悪化の分析の記事をご紹介する。少し古い記事であるが、国際関係論の学術的成果をどのように応用することができるかについて学ぶこともできる。ウォルトが言及しているのは、国際関係論のリアリズムの大家ケネス・ウォルツ(Kenneth N. Waltz、1924-2013年、88歳で没)だ。ウォルツの著作Man, the State and War: A Theoretical Analysis1959[邦訳『人間・国家・戦争: 国際政治の3つのイメージ]は、国際関係論の必読文献トップ3に入るものだが、非常に難解であり、日本語訳もようやく最近出た(2013年)ほどだ。この著作はウォルツの博士論文が基になっている。大学院在学中に朝鮮戦争に従軍し、その期間に着想を得て、博士論文計画書として提出したが、指導教授たちから「内容は全く理解できないが、何か重要なことのようなので執筆を許可する」ということになって、それが博士論文になり、著作に結びついたものだ。

また、Theory of International Politics1979[邦訳『国際政治の理論 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 3)』(2010年)]も必読書だ。
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ケネス・ウォルツ

 ウォルツは国際関係の分析について、ファーストイメージ、セカンドイメージ、サードイメージと3つのレヴェルに分けている。著作のタイトルにある通り、「人間」「国家」「戦争」の観点から分析できるというものだ。具体的にはファーストイメージの場合には、為政者や指導者たちの心理が国際関係における出来事や事件の理由となるというもので、心理学的な分析を行うことが多い。現在であれば、北朝鮮の金正恩、ロシアのウラジミール・プーチン、中国の習近平、アメリカのバイデンを対象にする分析ということになる。セカンドイメージは、国内の政治機構や圧力団体や政党などの分析を行うことになる。日本で言えば、自民党や連合、農協などの分析となる。サードイメージは国家間の関係や国際システムの観点からの分析ということになる。

 長くなったが、以下のウォルトの論稿では、米中関係の悪化について、サードイメージである国家間の関係と国際システムの観点から分析すべきであって、ファーストイメージとセカンドイメージの分析ではうまくいかないということを述べている。相手国の指導者の性格や国内の政治機構や経済機構の特殊性を関係悪化の理由にすることは簡単だ。しかし、それではその解決策は「相手国の指導者を排除し、国内システムを変更する」というものになる。米中関係でそれが起きてしまうことは大変に危険なことだ。アメリカも中国も共存が、現在の国際システムの中での、両国にとっての根本的な利益となる。枝葉末節の変更は求めるだろうが、そこを根本にして考えていくということがリアリズムということになる。

(貼り付けはじめ)

米中間の冷戦の唯一の理由を全員が誤解している(Everyone Misunderstands the Reason for the U.S.-China Cold War

―左派はその理由はアメリカの傲慢さであると主張している。右派はその理由は中国の悪意であると主張している。2つとも間違っている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2020年6月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/06/30/china-united-states-new-cold-war-foreign-policy/

アメリカはここ最近大きく分裂している。しかし、中国が大きな問題だという主張にはほぼ全員が同意しているように見える。トランプ政権は発足一日目から貿易問題について中国と争っている。また、2017年に発表した「国家安全保障戦略」で、中国を「修正主義の大国(revisionist power)」とし、戦略上の主要なライヴァルと規定した。(ドナルド・トランプ大統領は、自分の再選を支援するならば、中国政府にフリーパスを与えようとしているように見える。しかし、それは彼自身の毒舌の表れであり、政権の他の政策と矛盾している。)

民主党の大統領選挙候補者に内定しているジョー・バイデンは、2019年の選挙戦では中国が「我々の昼食を食べる(eat our lunch 訳者註:自分たちの利益を奪う)」ことになるのではないかという懸念を軽視してスタートしたかもしれないが、彼の選挙運動は時間の経過とともにますますタカ派的になっている。

驚くべきことではないが、ジョシュ・ホウリーとマット・ゲイツのような共和党所属の強硬派の連邦議員たちは警告を発している。一方、進歩主義派と穏健派は「新しい冷戦(new cold war)」に警告を発し、米中関係を管理するために新たな対話が必要だと主張している。強硬派、進歩主義派と穏健派がそれぞれ異なった処方箋を主張しているが、全てのグループは、米中関係は極めて重要だと考えている。

残念ながら、米中対立の議論も、支配的イデオロギー、国内制度、特定の指導者の人格など、相手の内的特徴に起因するという、よくある傾向に陥っている。このような傾向は、アメリカでも長い歴史を持っている。第一次世界大戦ではドイツの軍国主義をアメリカが倒し、世界を民主主義のために安全にするために参戦し、その後第二次世界大戦においてファシズムを倒すためにアメリカは戦った。冷戦初期、ジョージ・ケナンの悪名高い「X論文」(「ソ連の行動の源泉」)は、モスクワには執拗かつ内発的な拡大衝動があり、共産党の権威主義的支配を正当化するために外敵を必要とすることによって駆動されていると論じた。宥和政策は通用せず、ソ連の内部体制が「穏健になるまで」封じ込めるしかない、とケナンは主張した。最近では、アメリカの指導者たちは、イラクの問題をサダム・フセインの無謀な悪の野望のせいだとし、イランの指導者たちをイデオロギー的信念だけで外交政策を行う不合理な宗教的狂信者だと定義した。

これらの紛争は、いずれも敵対者の基本的な性質から生じたものであり、彼らが置かれた状況や国際政治そのものの本質的な競争原理から生じたものではない。

そして、現在の中国についても同様だ。HR・マクマスター前国家安全保障問題担当大統領補佐官は、中国が脅威だと主張している。その理由について、「中国の指導者たちは、民主的統治と自由市場経済に代わるものとして、閉鎖的で権威主義的なモデルを推進しているからだ」と述べている。マイク・ポンペオ国務長官はマクマスターの意見に同意している。ポンぺオの見解では、関係が悪化したのは「10年前とは違う中国共産党になってしまったから」だということだ。現在の中国共産党は、西側の思想、民主政治体制、価値観を破壊することに熱心な共産党だ」と述べている。マルコ・ルビオ連邦上院議員は次のように述べている。「中国共産党の権力は、党の支配を強化し、その影響力を世界に広げること以外には何の役にも立たない。中国は、それが国民国家のプロジェクトであれ、産業分野における能力であれ、金融統合であれ、いかなる努力においても信頼できないパートナーである」。マイク・ペンス副大統領は、米中間の衝突を回避する唯一の方法は、中国の支配者たちが「軌道修正し、“改革と開放(reform and opening)”とより大きな自由を求める精神に立ち返ることだ」と述べた。

オーストラリアのケビン・ラッド元首相など、より洗練されたチャイナ・ウォッチャーたちでさえ、中国の主張の攻撃手無し性の強化について、その理由のほとんどを習近平主席の権力集中に起因するとしている。ラッドは中国の行動を「中国が持つシステム特有の漸進的官僚主義に焦り、国際社会がリラックスして快適に、徹底的に慣れてしまった習近平の個人的指導気質の表現」であると見ている。つまり、中国の指導者が違えば、もっと深刻な問題にはならないという意味である。同様に、ティモシー・ガートン・アッシュは、「この新しい冷戦の主な原因は、2012年以降、習近平の下で中国共産党指導部が採用してきた方向性、すなわち、国内ではより抑圧的に、国外ではより攻撃的になったことだ」と考えている。また、ナショナリズムの高まりも、自然発生的なものであれ、政府主導のものであれ、中国の外交政策が強まる重要な要因であると指摘する人々も存在する。

国際関係論を専門とする学者たちは、故ケネス・ウォルツが考え出したカテゴリーに基づき、こうした説明を「ユニットレヴェル(unit-level)」、「還元主義(reductionist)」、「セカンドイメージ(second-image)」など様々な言葉で呼んでいる。この理論には多くのヴァリエーションがあるが、いずれもある国の外交行動を主としてその国が持つ内部の特性の結果として捉えている。それに従うと、アメリカの外交政策は、その民主政治体制、自由主義的価値観、資本主義的経済秩序に起因するとされるが、これは、他の国家の行動は、その国内体制、支配イデオロギー、「戦略文化(strategic culture)」、指導者の性格に由来するとされるのと同様である。

国内の性質に基づく説明は、非常にシンプルで分かりやすいので魅力的でもある。平和を愛する民主国家群が平和裏に行動するのは、寛容の規範に基づいている(と思われる)からだ。対照的に、侵略者が攻撃的に行動するのは、支配や強制に基づいているか、指導者ができることに制約が少ないからである。

また、他の国家の内部的な特徴に注目することは、紛争の責任を逃れ、他人に責任を負わせることができるため、魅力的である。もし私たちが天使の側にいて、自分たちの政治システムが健全で公正な原則に基づいているならば、問題が起きたとき、それは悪い国や悪い指導者が悪いことをしているからに違いないということになる。この視点は、解決策も提供してくれる。それは、「悪い国や悪い指導者を追い出せてしまえ!」ということだ。また、国際的な問題に直面したとき、国民の支持を得るために相手を非難することは、古くから採用されてきた手法だ。この方法を成功させるには、相手の行動を引き起こしているとされる良くない、ネガティヴな性質を強調することが必要となる。

残念なことだが、紛争の責任の大半を相手国の国内事情に押し付けることもまた危険だ。まず、紛争の主な原因が相手国の体制にある場合、長期的な解決策はその体制を転覆させることである。和解(accommodation)、共存(coexistence)、相互の利益のための広範な協力はほとんどの場合排除される。破滅的な結果を招く可能性がある。競争している国々が相手国の性質それ自体を脅威とみなす場合、闘いが唯一の選択肢となる。

ユニットレヴェルの説明を使ってしまうと、米中間の対立を不可避にしているより大きな構造的要因が見落とされるか、軽視されることになる。第一に、国際システムにおいて最も強力な二国は、対立する可能性が圧倒的に高くなる。それぞれが相手にとって最大の潜在的脅威となるため、必然的にお互いを警戒する。自国の核心的利益を脅かす相手国の能力を相当程度まで低下させるためにあらゆる努力を傾ける。相手国が自国より優位に立つことがないことが確実な状況であっても、自国が優位に立つ方法を常に模索する。

仮に可能であったとしても(あるいはリスクを負う価値があったとしても)、アメリカにしても中国にしても、両国の国内の変化によってこうしたインセンティヴがなくなることはないだろう(少なくともすぐにはない)。米中両国は、相手国が自国の安全、繁栄、あるいは国内の生活様式を脅かすような立場になることを避けようと、その技術や成功の程度に差はあるにせよ、努力している。そして、どちらも相手国が将来何をしでかすか分からないからこそ、近年のアメリカの不安定な外交政策方針がよく示しているように、様々な領域で力と影響力を求めて積極的に競争しているのである。

米中関係は、地理的条件と前世紀の遺物に由来する、それぞれの戦略目標の両立しがたい不一致(incompatibility)によって、更に悪化している。アメリカが西半球においてモンロー・ドクトリンを策定し、最終的に実施したのと同じ理由から、中国の指導者たちはできるだけ安全な地域に住みたいと考えていることは十分に理解できることだ。中国政府は、その周辺諸国に対して、一党独裁の国家資本主義体制を押し付ける必要はない。中国政府はただ、近隣諸国全てが自国の利益に配慮することを望み、どの国も自国にとって大きな脅威となることを望まないだけのことだ。その目的のために、アメリカを東アジア地域から追い出して、アジアの軍事力を心配する必要がなくなり、近隣諸国がアメリカの助けを当てにできなくなるようにしたいのだ。この目標は、神秘的でも非合理的でもない。もし、世界で最も強力な国が自国の近くに大規模な軍隊を配置し、多くの近隣諸国と密接な軍事同盟を結んでいたら、どの大国もそれを喜ぶだろうか?

しかしながら、アメリカがアジアに留まる理由は十分にある。ジョン・ミアシャイマーと私が別のところで説明したように、中国がアジアで支配的な地位を確立するのを防ぐことは、中国にもっと自国に近い地域に注意を向けさせ、世界の他の地域(アメリカ自身に近い地域を含む)で中国が力を誇示することを難しくする(もちろん不可能ではないが)ことによって、アメリカの安全を強化することになる。中国が自由化しても、アメリカが中国型の国家資本主義を導入しても、この戦略的論理は変わらない。その結果、残念ながら、ゼロサム型の対立が生まれる。どちらの側も、他方から奪うことなく、自分の欲しいものを手に入れることはできないのだ。

従って、現在の米中対立の根源は、特定の指導者たちや政権のタイプに関係するというよりも、両国が追求する力の配分と特定の戦略に関係するものである。指導者たちの中には、よりリスクを受け入れることができる人、もしくはしにくい人もいる。アメリカ国民は現在、無能なリーダーシップがもたらす害悪をまた痛感させられている。しかし、より重要なことは、新しい指導者の登場や国内の大きな変化があっても、米中関係の本質的な競争力を変えることはできないということである。

この観点からすると、米国の進歩主義派も強硬派も、どちらも間違っていることになる。進歩主義派は、中国はアメリカの利益にとってせいぜい小さな脅威であり、融和と巧みな外交を組み合わせれば、全てではないにしても、ほとんどの摩擦をなくし、新たな冷戦を回避することができると考えている。私は、巧みな外交には賛成だが、それだけでは、主として力の分配に根差した激しい競争を防ぐことはできないと考えている。

トランプ大統領が貿易戦争について語ったように、強硬派は中国との競争は 「いいとこ取りで簡単に勝てる」と考えている。彼らの考えでは、制裁の強化、米中経済のデカップリング、アメリカの国防費の大幅増、志を同じくする民主主義国のアメリカ側への結集が必要であり、最終目標は中国共産党による支配を終わらせることであるとする。このような行動のコストとリスクは別として、この見解は中国の脆弱性を過大評価し、米国のコストを過小評価し、反中国のために結集する十字軍に参加する他の国々の意欲を大幅に誇張している。中国の近隣諸国は、中国に支配されることを望まず、アメリカとの関係を維持することを望んでいる。しかし、米中間の激しい紛争に引きずり込まれることは望んでいない。そして、中国がよりリベラルになったとしても、自国の利益を守ることに関心を持たず、アメリカに対して永続的な劣等感を受け入れるようになると考えることができる理由はほとんど存在しない。

では、この状況をより構造的に捉えた場合、どのようなことが言えるだろうか?

第一に、構造的に捉えた場合、長期的な視点でとらえることを教えてくれる。米中対立は、賢明な戦略や大胆で天才的な一撃をもってしても、一挙に解決できるものではない。

第二に、米中関係は重要なライヴァル同士であり、アメリカは中国に対して真剣な考慮に基づいた方法で行動すべきということだ。野心的な競争相手に対して、素人集団がその担当となったり、国家的な諸課題より個人の課題を優先させる大統領を相手にしたりすることは通常はありえない。そのためには、軍事面に対する賢明な投資が必要なのは確かだが、知識が豊富でよく訓練された官僚群による大規模な外交努力も、同等かそれ以上に重要となる。アメリカがアジア地域で影響力のある国であり続けるためには、地域内の多くの国々からの支持を得なければならない。そのためにはアジア諸国との健全な同盟関係を維持することが重要である。肝心なのは次のようなことだ。アメリカは、そのような関係の維持・管理を、選挙資金の大口提供者や資金集めパーティーの参加者、お調子者などに任せてはならないのである。

第三の、そしておそらく最も重要な点は、米中両国は不必要な衝突を避け、両国の利益が重なる問題(気候変動、新型コロナウイルス感染拡大防止など)での協力を促進するために、ライヴァル関係を衝突にまで至らないように一定の境界内に留めるようにすることに本当のかつ共通の関心を持っているということだ。全てのリスクを排除し、将来の危機を防ぐことはできないが、ワシントンは自国の超えさせない一線(レッドライン)を明確にし、中国のレッドラインについても理解するようにしなければならない。ここで、ユニットレヴェルの要素が重要になってくる。米中ライヴァル関係は今日の国際システムに組み込まれているかもしれないが、それぞれの国がその競争にどう対処するかは、誰が責任者であるか、そして国内制度の質によって決まる。私は、アメリカの指導者と国内制度の質が落ちると決めつけることはしないが、満足することもないであろう。

※スティーヴン・ウォルト:ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー記念国際関係論教授

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(終わり)

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