古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:米通商代表

 古村治彦です。

 アメリカ通商代表(U.S. Trade Representative)は、アメリカの通商政策を担う役職であり、閣僚級とされている。そして、外交交渉を行う権限を持ち、大使として扱われる。各国との貿易に関する取り決めについてアメリカを代表して交渉を行う。「自由で公正な貿易」を実現するという建前を持っているが、本音はアメリカにとって有利な貿易上の取り決めを行うことが仕事である。

 下の記事では、ジョー・バイデン政権の米通商代表であるキャサリン・タイのインタヴューが掲載されている。キャサリン・タイは両親が台湾からの移民でアリ、彼女自身も中国を流ちょうに話す。中国側と交渉する際には、中国語を使うことはないだろうが、米通商代表が中国語を理解できるということは、中国に対しての大きなプレッシャーとなり、アドヴァンテージとなる。

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キャサリン・タイ

 キャサリン・タイはインタヴューの中で、産業政策の重要性について述べている。アメリカが自由貿易体制を守りながら、経済成長をしていくためには、産業政策で、アメリカの各産業、特に最先端の産業分野を守り育てることが重要ということになる。このような主張に対しては、特定の企業に対する保護、税制優遇や補助金は非効率を生み出し、技術革新が阻害されるという反論がなされる。これに対して、キャサリン・タイは中国を例に挙げて、競争を阻害しない形での税制優遇や補助金供与ができるとしている。新自由主義、市場至上主義の時代ではまず考えられなかったことである。アメリカは、競争相手である中国の産業政策を学ぼうとしているのである。

アメリカは日本の産業政策については、叩き潰そうとしてそれに成功した。それは、究極的には、日本がアメリカの属国であり、日本はアメリカの指令を拒むことができなかったからだ。しかし、時代は変わった。アメリカは中国の真似をしようとしている。そして、米通商代表を、中国語に堪能な移民2世であるキャサリン・タイが務めていることは、大きな意味がある。

(貼り付けはじめ)

産業政策についてホワイトハウスが正当化する根拠(The White House’s Case for Industrial Policy

-キャサリン・タイ米通商代表はアメリカが不公正な競争を助長しているという批判に反論している。

ラヴィ・アグロウアル筆

2023年3月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/03/02/live-industrial-policy-katherine-tai-trade-economy-chips-inflation/?tpcc=recirc_carousel091023

国際貿易が激動に見舞われているのは当然のことだ。2007年に始まった世界金融危機(global financial crisis)の後、グローバライゼーション(globalization)の進展という数十年来のトレンドは、まず減速し、その後逆行し(reverse course)始めた。2020年には新型コロナウイルス感染拡大が発生し、サプライチェーンが一瞬にして寸断された。国や企業はいわゆる 「ニアショアリング(nearshoring)」や 「フレンドショアリング(friendshoring)」に注力した。その後、ロシアがウクライナに侵攻し、地政学(geopolitics)が貿易に更に影響を及ぼし始めた。米中冷戦の勃発や世界的なナショナリズムの波が加われば、世界が産業政策の時代に乗り出したように見える理由が分かるだろう。アメリカから中国、インド、ヨーロッパ、そしてその他の国々まで、主要な経済は内向きになっており、自由貿易やグローバルなモノの流れよりも国内の拡大(domestic expansion)を優先している。

今年2月の一般教書演説(State of the Union)で、ジョー・バイデン米大統領は「バイ・アメリカン(Buy American)」という言葉を展開し、大きな拍手を浴びた。バイデン政権はインフレ削減法(Inflation Reduction ActIRA)やCHIPS・科学法CHIPS and Science Act)などの画期的な法案を成立させ、クリーンエネルギーや半導体に4000億ドル以上の補助金を提供している。しかし、このような誘導策はアメリカ企業に国内投資のみを奨励し、他国への投資は奨励しない。アジアやヨーロッパの好機到来を迎えている各企業は、既にアメリカに投資を移し始めている。世界の他の地域からは抗議の声が上がっている。各国の大合唱は、ワシントンが不公正な競争(unfair competition)を助長していると非難している。

米国が保護主義に転じていると言っても、他国よりも自国の利益を優先する唯一の国とは言い難い。しかし、これは補助金競争(subsidies race)が健全な経済学を代表しているのかどうかという問題を提起している。最初の一時的な興奮状態(sugar high)の後、世界は結局、効率と技術革新(efficiency and innovation)の恩恵を犠牲にすることになるのだろうか? 大国間競争(great-power competition)の新時代から恩恵を受けるのは誰か?

産業政策の促進におけるワシントンの役割を理解するために、私はホワイトハウスの通商政策の策定と実施を任務とする、バイデン政権の最高当局者であるキャサリン・タイ米通商代表に話を聞いた。私たちの会話は、本誌のライブジャーナリズムフォーラムであるFP Liveで放送された。 FP購読者はFP Liveでヴィデオインタヴューを視聴できる。以下は、編集され要約されたトランスクリプトだ。

フォーリン・ポリシー:タイ大使、ヨーロッパの政策立案者たちは、インフレ削減法やCHIPS・科学法を見て、不公正な競争(Unfair competition)と保護主義(protectionism)の匂いを嗅いでいる。彼らの批判にどう答えるか?

キャサリン・タイ:CHIPS・科学法とインフレ削減法は重要な成果だ。長年の不手際や怠慢を経て、ようやく私たちは自分たちに投資している。非常に長い間、私たちは世界に溶け込むために自由化政策を進めてきたが、その一方で、我が国が必要としているものには目を向けてきなかった。

あなたが言うような批判は、私がその場で耳にしたものというより、むしろ報道で読んだものだ。それはパートナーからの懸念として私に届けられたものだ。これは重要な違いだ。

私たちは、パートナーや同盟国が私たちと共有している懸念を非常に深刻に受け止めている。

インフレ抑制法について考えてみよう。ヨーロッパのパートナーやカウンターパートとの会話はいつも、バイデン大統領の信じられないほどの成果、つまり気候危機との闘いにおいて私たちがこれまでに行った最大の貢献を祝福することから始まる。なぜ会話がそこから始まるのかというと、心に留めておくべき重要な事実がある。つまり、アメリカとヨーロッパは、気候変動とその持続可能性への影響、そして、私たちの経済の将来に関して、私たち全員が地球全体として直面している重大な課題を認識するという点で完全に一致している。

私たちは、パートナーや同盟国が私たちと共有している懸念を非常に真剣に受け止めている。インフレ抑制法は、気候変動との闘いへの署名であり、重要な貢献であると同時に、ここにある民主的な法の支配システムの産物でもあることを認識することが重要だ。私たちが最も緊密に対話し、協力しているパートナーも民主政体国家だ。民主政体諸国は私たちが取り組んでいる活動において団結しており、どのように協力してこれを実現できるかを考えるために、私たちが直面している課題に真剣に取り組んでいる。その全体的な文脈において、インフレ抑制法は(経済的持続可能性の課題を)解決するものにはならない。これは、技術と経済がこの課題に対処するよう奨励する重要な動機となる。これは、最初かもしれないが、行う必要がある最後の重要な政策貢献ではない。

フォーリン・ポリシー:あなたは、ヨーロッパからの批判に対処しているが、マクロ経済的な側面からの批判もある。経済学者たちは、世界が産業政策の時代に突入することを懸念している。自由貿易とは異なり、産業政策は長期的には非効率になりかねないという主張がある。また、大企業に補助金を出すと、技術革新が阻害されるとも言われている。

キャサリン・タイ:インフレ抑制法が対応している最初の課題は気候危機だが、世界経済の大きな混乱と不安定性の中で、私たちはこの危機の緊急性に直面している。新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻決定を通じて私たちが目にしたのは、私たちが乗り越えなければならない世界経済の脆弱さだ。

世界経済もまた、世界経済において非常に重要な役割を担っているにもかかわらず、構造的に我が国の経済のような形で運営されていない、非常に大規模かつ成長を続ける経済の台頭による重大な歪みを経験している。

フォーリン・ポリシー:あなたは中国について話している。

キャサリン・タイ:そう、私は中国について話している。これは、過去数十年にわたって進められてきたグローバライゼーション・プロジェクトの基本的な前提に対する挑戦という点で、絶対に無視できない要素だ。

補助金が非効率的であるというあなたの指摘についてだが、私たちが補助金(subsidies)や税制上の優遇措置(tax incentives)を提供している限りにおいて、補助金は市場システムの中で運営され、企業の行動に影響を与えることを目的としている。中国経済を動かしていると私たちが見ている補助金や国家支援の種類は、まったく異なる規模のものだ。実際、それらは経済を動かしている。市場システムにインセンティヴを生み出すことが目的ではない。経済における国家と表現の間には直接的な境界線がある。そしてこれは、経済成長と発展への持続可能な道という観点から、ヨーロッパの友人や世界中の他のパートナーと私たちが共有するもう1つの課題の非常に重要な側面だ。分野が平等でないヴァージョンのグローバライゼーションでは、私たちは適応する方法を見つけなければない。私たちは一緒に適応する必要がある。

フォーリン・ポリシー:アメリカの内政・外交政策の多くは、中国との競争というプリズムを通してフィルターがかけられているようにいつも感じている。アメリカは既に中国から切り離されている(ディカップリング、decoupling from China)のか?

キャサリン・タイ:私がよく質問される中で、使われている言葉がいくつかあり、私はいつもそれと戦っている。ディカップリングもその1つであり、脱グローバル化(deglobalization)もその1つだ。ディカップリングという言葉が、経済を完全に切り離そうとしているという意味であれば、たとえそれが望ましい目標だったとしても、それを実現するのは非常に難しいと考える。

私たちがやろうとしているのは、現在見られるグローバライゼーションのヴァージョンにおいて、リスクと脆弱性がどこにあるのかを確認し、特定することだ。私たちが新型コロナウイルス感染拡大を通じて経験したサプライチェーンの課題は、示唆に富んでいる。感染拡大初期の個人防護具、マスク、手袋、人工呼吸器であれ、私たち全員に影響を与えた半導体チップの不足であれ、私たちは、供給と生産の集中が重大なリスクと脆弱性を生み出すことを認識することなく、最低コストを追い求め、効率性を追求して設計されたグローバル・サプライチェーンを目の当たりにしている。

私たちが焦点を当てているのは、ヨーロッパの友人たちがリスク回避と呼んでいるもので、これは実際に物事を考えるのに非常に役立つ考え方だ。私の観点からすると、それはサプライチェーンの回復力を構築し、経済の回復力を確保するためのインセンティヴを生み出すことだ。なぜなら、それが地政学的であれ、気候関連であれ、疫病であれ、私たちが遭遇する危機は更に大きくなるからだ。この期間を建設的かつ生産的に過ごすために私たちがしなければならないことは、将来のショックに耐え、和らげることができるように世界経済を適応させ、備える方法を見つけ出すことだ。それをディカップリングとは呼ばない。それは、まさに、私たち全員がより多くの選択肢を持てるようにすることなのだ。

フォーリン・ポリシー:私もディカップリングという言葉に満足していないので、あなたの前任者のロバート・ライトハイザーを含む数名のアメリカ政府当局者たちがこの言葉を使用し、アメリカの政策としてディカップリングを主張していることは指摘しておきたい。

しかし、中国と関係を持つことも重要だ。アメリカの政策の一部が中国を封じ込めたり、中国の台頭を遅らせたりすることであるなら、それは世界経済そのものに悪影響を与えるのではないだろうか?

キャサリン・タイ:私の観点からすると、少なくとも貿易と経済分野では、中国を封じ込めることがバイデン政権の政策の目的ではない。それはアメリカを引き上げることである。世界経済統合における効率性の追求において、自分たちはあまり目立たないと感じていた特定の分野の労働者を元気づける。実際には数世代前に行った投資にまだ依存しているインフラを整備する。そして、より速く走れ、より高くジャンプできるように自分自身を鍛え上げる。それはおそらく、通商政策を含む経済政策を見る上で最も有用なレンズだ。

フォーリン・ポリシー:もちろん、あなたの役割はアメリカの利益を第一(America’s interests first)に考えることだ。しかし、繰り返しになるが、大国が自らの回復力(resilience)、つまり独自の産業政策を構築している世界では、最終的には小規模な経済が苦しむことがよくある、と言う経済学者たちもいる。アメリカ、中国、ヨーロッパが内向き(looking inward)になっている時代に、グローバルサウスは勝てない。あなたの役割においてそれをどのように考えているか?

キャサリン・タイ:あなたは「アメリカの利益が第一(America’s interests first)」と述べたが、それがアメリカ・ファースト[America First](ドナルド・トランプ前大統領の政策)に関しての、不愉快な思いを引き起こす。どの国も自分たちの利益を大事にしているではないか? しかし、私はバイデン政権のアプローチをそれらと区別したいと考えている。アメリカ第一主義だけのことではない。それはまた、アメリカがどのようにリードし、どのように提携できるかということでもある。私たちは自分自身に投資する必要があるが、それを1人で行わないようにするにはどうしたらよいか? なぜなら、それは私たちが生きたい世界、つまり私たちが1人で何かをするような世界ではないからだ。

小国や発展途上国に何が起きているかかというあなたの質問に対しての答えは次のようになる。発展途上国から中所得国に至るまで、世界最大の経済大国にふさわしいリーダーになるためには、必然的に次のことを行わねばならない。それは、自分自身を大切にしながら、良きパートナーである必要性を決して忘れないということだ。

グローバライゼーションのより強靭な新ヴァージョンの創造を促進するために、私たちが革新しなければならない重要な要素がある。それは、大規模な先進経済国と小規模な発展途上国とのパートナーシップのこれまでのモデルを、アメリカがどのように改善できるかということだ。

あなたが世界経済を流動的であるように感じているのはその通りだが、変化は恐ろしいものであり、変化がどのようなものになるかという保証はないため、私たちは皆、変化に対してある種の偏見を持っている。

フォーリン・ポリシー:中国に関するアメリカの通商政策の長期目標は何か?

キャサリン・タイ:私は1年少し前に米中貿易関係についてスピーチをした。私はその内容全てを承認する。それは、私たちが共存し、公正に競争し、繁栄し続けることができる方法を見つける必要があるということ、そして、私たちの政治的・経済的DNAの核となる制度や原則を守る必要があるということだ。そして、市場競争の原則に基づき、強力な民主政治体制と繁栄する経済を継続するためのスペースを確保することである。

世界で第2位の経済大国が全く異なるシステムで運営され、大きな影響力を持ち、独自の主権を持ち、独自の決定を下していることを考えると、どのようにしてこれらの目標を達成できるのだろうか? これは、私たちのありのままを守り、繁栄するための空間を創造しようとしているアメリカ、そしてパートナーや同盟国として、私たちが取り組む最も重要な問題の1つだ。

フォーリン・ポリシー:最後に質問がある。個人的な質問をさせて欲しい。私はアジア系アメリカ人だ。あなたはアジア系アメリカ人だ。これは、私が自分自身に取り組んでいる質問だ。自分の文化的伝統、自分の複数のアイデンティティ、そして自分が身に着けているさまざまな帽子について、どのように考えているか? あなたは政権内でも数少ない、流暢な中国語話者でもあることを付け加えておく。あなたが守るために雇われたのはアメリカの国益でありながら、あなたの立場にいる人々には必ずしも当てはまらない世界的な展望も持っているということを考えると、これら全ての要素はあなたの政策決定にどのように影響するだろうか?

キャサリン・タイ:移民の子供で、家庭では違う言語を話して育ってきたので、私は言語を学ぶのが大好きだ。私はたくさんの言語で、「お手洗いはどこですか?」と聞けると思う。そして、私は、少なくとも2つか、3つの言語での答えを理解できるかもしれない。これは、私たちが米通商代表部で行っている仕事の重要な側面を強調しているだけでなく、コミュニケーションと理解における橋を架け、溝を埋めることができなければならないというバイデン政権の国際的な見通しも強調している。私は、皆さんとの今回のような機会を捉えて会話をし、私たちの考え方や何を達成しようとしているのかを詳しく説明することに多くの時間を費やしている。

中国を含むアジアのパートナーに関しては、非常に複雑な関係にあり、非常に大規模で重要なパートナーであるため、常に自分の視点を伝えることから始め、次にそれらの国々の意見に耳を傾けられるように、コミュニケーションする必要がある。これは、国内側の政策立案にとっても非常に重要なスキルセットとなる。こうした違いは、国家観だけにとどまらない。私が特に誇りと責任感を持っていることは、アメリカの通商政策をどのように推進するかについて超党派の見解を維持することだ。なぜなら、それが実際に私の職名と私たちの機関の肩書に入っているからだ。その肩書こそは「私たちは米通商代表だ」というものだ。米通商代表として、私たちが政策を推進し、策定する必要があるのは、アメリカ全体、経済、コミュニティ、地域、全ての構成要素の利益のためだ。

※ラヴィ・アグロウアル:『フォーリン・ポリシー』誌編集者。ツイッターアカウント:@RaviReports


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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカ大統領選挙は、民主党は現職のジョー・バイデン大統領、共和党は予備選挙を圧倒的な勢いで勝ち進み、ライヴァルたちを蹴散らしたドナルド・トランプ前大統領がそれぞれ候補者に内定し、いち早く、「バイデン対トランプ」の構図となり、攻守所を変えて、2020年大統領選挙の再戦となっている。現在のところ、トランプが若干のリードという状況だ。ただ、五大湖周辺の激戦州となっている、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルヴァニア各州の世論調査の数字は拮抗しており、予断を許さない。これらの州をバイデンが取ると、数字上では選挙人獲得数で、バイデンが僅差で勝利を収める。

 私は個人としてはトランプ大統領支持である。もしアメリカ国民で投票権を持っているならば、トランプ大統領に投票する。しかし、バイデンを操っているエスタブリッシュメント派(民主党、そして共和党)は、非常に手強い。また、政府を握っているということは、大きな力を持っているということで、やれることの数や範囲は大きい。また、彼らは、バイデンも含めて、数々の犯罪行為に手を染めている(その代表がヒラリーだ)。彼らが逮捕を逃れるためにも、バイデン再選が彼らにとって望ましいということになる。
 アメリカ国内の分断は深刻化している。経済格差も大きくなり、かつ、教育格差(経済格差に連動する)、人種間格差(これもまた前記2つに連動する)などが大きくなっている。そうしたことから、「内戦」「第二次南北戦争」という声も上がっている。「選挙が正常に実施されない」という予測も出ている。確かに、全米各地の投票所での民主、共和両党の支持者やそれ以外の人々による、にらみ合いや衝突が起きることは考えられるが、それがアメリカ全土に広がるかどうかは不透明だ。トランプにしても、バイデンにしても、自身がアメリカ合衆国大統領であると主張するためには、「民主的な選挙」で選ばれた、という正統性が必要だ。

 トランプが大統領に当選すれば、ロバート・ライトハイザーが財務長官に就任するだろうという見方が出ている。ライトハイザーは米通商代表部に勤務した経験を持つ弁護士で、貿易交渉に長けた人物として知られてきた。そして、トランプ1期目の政権で、米通商代表に就任した。そして、米中間の関税引き上げ競争、米中貿易戦争を指揮した。その彼が、トランプ政権の財務長官になるという話だ。
 ライトハイザーは、現在、トランプ陣営の経済政策顧問を務めており、トランプ政権発足後に財務長官に起用されるということは絵空事ではない。ライトハイザーの影響は、現在のバイデン政権にも引き継がれている。バイデン政権は中国製の電気自動車の関税を100%に引き上げると発表したが、このような保護主義的、ナショナリスト的な関税政策は、トランプ政権下で激化したものであり、その主導者がロバート・ライトハイザーだった。

ライトハイザーは、中国製品に対する関税引き上げ(60%)や中国政府が出している補助金に対する調査など、積極的な姿勢を示している。ライトハイザーが財務長官になれば、アメリカの通商政策だけでなく国際経済政策も変化することになるだろう。

ライトハイザーは、貿易赤字に注目し、炭素国境税の導入や人権侵害者への制裁などを提案している。彼は中国を敵対国と位置付けている。ライトハイザーは現在のバイデン政権の「強いドル」政策(輸入品が安くなる)ではなく、「弱いドル」政策(輸出品が安くなる)を進めることになる。アメリカらの輸出を増やすことで、雇用を増やすということを目指す。そうなれば、日本に関して言えば、円高が進むということになる。

「バイデン、トランプ、どちらが勝つか」という予測ももちろん重要だろうが、「どちらが勝って、どのようになるか、何が起きるか」というより細かいことにも注目していく必要があるだろう。

(貼り付けはじめ)

トランプが世界経済を革命的に変化させる手助けをするであろう人物(The Man Who Would Help Trump Upend the Global Economy

-ロバート・ライトハイザーは財務長官となる可能性があり、貿易政策以外にも革命を起こそうとしている。

エドワード・アルデン筆

2024年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/18/robert-lighthizer-trump-election-trade-tariffs-treasury-secretary/?tpcc=recirc_trending062921

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この10年近く、アメリカの通商政策は、1人の人物のイメージで作り替えられてきた。その人物とは、ロバート・ライトハイザーである。ドナルド・トランプ大統領時代の通商代表(trade representative)として、彼は、60年にわたるルールに基づく多国間貿易システム(multilateral trading system)の支持から離れ、強固なナショナリスト的アプローチへと、アメリカを方向転換させた。ジョー・バイデン大統領の下でライトハイザーの後任となったキャサリン・タイは、彼が築いた道を歩み続けている。トランプ大統領の元高官たちのほとんどが、トランプ大統領は再び大統領になるにはふさわしくないと非難しているにもかかわらず、ライトハイザーは他の多くの人々と同じように、トランプ大統領をより大きな公共の利益のための、欠陥のある船(flawed vessel for some greater public good)であると信じている。ライトハイザーは、2024年の選挙戦でもトランプの政策顧問の一人であり、11月にトランプが勝利すれば、より大きな仕事(おそらく財務長官)を任されるだろう。アメリカの通商政策だけでなく、より広範なアメリカの国際経済政策を変革するというライトハイザーの使命はまだ始まったばかりだ。

ライトハイザーの影響力は先月、バイデンが激戦州ペンシルヴァニア州ピッツバーグにある北米最大の産業別労働組合であるユナイテッド・スティールワーカーズの本部を訪問した際に最大限に発揮された。訪問後、政権はライトハイザーの要請でトランプ大統領が最初に課した一部の中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる計画を発表した。今週、タイ通商代表による見直しを受けて、バイデン政権は輸入された中国製電気自動車に100%の関税を課し、中国製の半導体、リチウムイオン電池、太陽電池、鉄鋼、アルミニウムの税率を引き上げた。タイ通商代表はまた、造船業界に対する中国の補助金に対する新たな第301条調査(ライトハイザーが復活させた1970年代の米国通商一国主義[trade unilateralism]の手段)にも着手した。更なる関税が中国に課せられる可能性が高い。そして、ライトハイザー自身も、トランプが大統領に選ばれたら、アメリカの輸出を増やすために強い米ドルの価値を切り下げるようアドバイスしており、このアドバイスは財務省ポストのオーディションの内容として広く読まれている。

ライトハイザーの影響力の拡大は、トランプ大統領の通商政策に見られる攻撃的なナショナリズムが一過性のものではないことを、アメリカの最も親密な同盟国を含む貿易相手国に警告するものである。その代わりに、アメリカは、民主、共和両政党の垣根を越えて、国際経済政策に「アメリカ・ファースト(America First)」のアプローチを取り入れる選択をした。この選択が意味するところは、今後何年も、おそらく何十年も続くだろう。そのため、自由貿易と多国間ルールのアメリカによる受け入れを非難の代弁者として、キャリアを積んできたライトハイザーは、その中間に位置する人物ということになる。

ライトハイザーがアメリカの次世代の国際経済政策の立案者になるとは考えにくい。第二次世界大戦の終戦直後に生まれた彼は、弁護士としてキャリアのほとんどを外国の競争からアメリカの鉄鋼産業を守ることに費やした。かつてアメリカの製造業の基幹産業であった鉄鋼は、情報技術、成長しているグリーン産業、高等教育や観光を含む国際サーヴィス貿易が急増する経済が支配する経済において、今や誤差の範囲のシェアを占めているだけだ。しかし、ライトハイザーが鉄鋼から学んだ教訓、つまり、アメリカの貿易相手国が、生産に補助金を出したり、商品を原価以下でダンピングしたりするなどの略奪的な行為に従事し、アメリカの雇用を奪い、製造業を空洞化させているという教訓は、今や民主、共和両党の貿易当局者たちにとって福音となっている。

ライトハイザーは2023年に著書『どんな貿易も自由ではない(No Trade Is Free)』を発表した。この本は、貿易自由化(trade liberalization)のメリットに関する長年にわたるコンセンサスに対する痛烈な告発である。フランクリン・D・ルーズベルトからバラク・オバマに至るまで、アメリカの歴代大統領は、世界的な貿易障壁(global trade barriers)の交渉による削減が、アメリカと世界をより豊かで安全なものにすると信じていた。ライトハイザーは常にこれに反対していた。しかし、ドナルド・レーガン政権時代に米通商代表部に短期間勤務した後、彼は世間から忘れ去られた存在になったが、連邦議会の公聴会にはたびたび登場した。特に2001年に実現した世界貿易機関(WTO)への中国の加盟に警告を発した。トランプが2020年の選挙で敗北した後に書かれた彼の著書は、アメリカの通商体制に対する「私はあなたにそう言ったよね(I told you so)」となるものだ。関税を引き下げ、世界的な貿易ルールでワシントンの手を縛ることは、「私が予想した以上に明白で、議論の余地のない失敗(a starker, more indisputable failure than even I could have predicted)」であり、アメリカの製造業の喪失、アメリカ人の賃金の低迷、中国に対するアメリカの戦略的地位の急激な低下をもたらしたとライトハイザーは書いている。しかし、「多国籍企業と輸入業者の影響下にある共和党と民主党のエスタブリッシュメント派は、自分たちの過ちを認識したくなかったし、認識することが不可能だった(political establishments of both the Republican and Democratic parties, under the influence of multinational corporations and importers, were unwilling or unable to recognize their mistakes)」と彼は主張する。

ライトハイザーは任期の4年間、米通商代表を務めた。これは、気まぐれな大統領の下では稀な業績である。彼は、アメリカを別の方向に変えることができた。ライトハイザーは世界の大部分からの鉄鋼とアルミニウムの輸入品に最大25%の関税を課し、中国のアメリカ向け輸出の4分の3に同様の関税を課し、北米自由貿易協定(North American Free Trade AgreementNAFTA)の再交渉にカナダとメキシコを強硬に参加させた。こうした動きは、主に国内で人気があり、メキシコでの労働法の執行を強化し、アメリカでの生産拡大を求める条項をめぐって、民主党は新たなアメリカ・メキシコ・カナダ協定を支持して結集した。バイデン政権はまた、ジャネット・イエレン財務長官の当初の強い反対にもかかわらず、対中関税を維持した。

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ワシントンのホワイトハウスの大統領執務室で、新たな関税を課す措置に署名したドナルド・トランプ米大統領に並んで立っているロバート・ライトハイザー米通商代表(2018年1月23日)

しかし、ライトハイザーはまだ始まったばかりだ。彼が思い描いているのは、最も単純な言葉で言えば、世界経済における安定化勢力(a stabilizing force in the global economy)となることをあまり心配せず、アメリカの狭い経済的利益を追求することをはるかに心配するアメリカの姿である。財務長官となったライトハイザーは、その使命を遂行するためにより多くの手段を手にすることになる。

ライトハイザーの重要な指標は、従来の経済学者がほとんど注目しないもの、それは、貿易赤字(trade deficit)だ。アメリカは、1975年以来、毎年財とサーヴィスの赤字を出しており、2022年にはなんと9510億ドルに達するが、2000年代半ばの経済規模に比べて貿易赤字ははるかに大きかった。しかし、ほとんどの経済学者は、貿易赤字は国民貯蓄率の関数(a function of national savings rates)であり、これはアメリカの高い消費と低い民間および公的貯蓄の必然的な結果であるため、貿易面での政府の介入の影響をほとんど受けないと考えている。ライトハイザーはこれに反対し、赤字はアメリカの富が競合国、最も重要なのは中国に直接移転するものであり、政府の強制的な行動によって是正できると考えている。

ライトハイザーは、中国だけでなく世界の他国との貿易のバランスを取ることをアメリカの政策目標とするだろう。その影響は非常に大きくなるだろう。ライトハイザーがトランプに提案したとされる手段の1つは、他の通貨に対して米ドルを安くするための協調的な取り組みだ。他の条件が同じであれば、ドルが安くなれば外国人がアメリカの輸出品に支払う価格は下がり、アメリカ人にとって輸入品はより高価になり、貿易を均衡に近づけるのに役立つだろう。しかし、ドルは世界通貨(world currency)としての役割もあり、長い間過大評価されてきた。最近では、好調なアメリカ経済と中東とヨーロッパの紛争を受けて投資家たちが安全なアメリカ資産を求めて高騰している。詳細は乏しいが、ライトハイザーは、1971年にリチャード・ニクソン米大統領と、1987年にロナルド・レーガン大統領が取った措置、つまり、貿易相手国がドルに対して自国の通貨を切り上げる措置を講じることに同意しない限り、関税を課したり脅したりする行為の再現を構想しているようだ。今日の世界的な金融の流れの規模(レーガン大統領がドル安に取り組んだときの水準の何倍にもなっている)を考えると、通貨の安定を乱すことの結果を予測するのは難しい。

ライトハイザーは同様に、アメリカに拠点を置く製造業の競争力を促進するため、アメリカの税制の見直しを構想している。複雑な歴史的理由から、アメリカの輸出は長い間、アメリカの税制によって損なわれてきた。ヨーロッパをはじめとするほとんどの国は付加価値税(value-added taxesVAT)に大きく依存しており、国外に持ち出される商品やサーヴィスは通常免除されている。一方、アメリカの税金は所得税が主体であり、国際貿易ルールの下ではそのような税金は払い戻されない。ヨーロッパに輸出するアメリカ企業は、ヨーロッパでの売上に対して、アメリカの法人税と現地の付加価値税の両方を支払う。ライトハイザーは、付加価値税の利点を模倣して法人税制を「国境調整可能(border adjustable)」にすることで、これを終わらせたいと考えている。しかし、このような改正は連邦議会の試練を乗り越えなければならず、過去にはウォルマートのようなアメリカの大手輸入業者からの反発で失敗に終わっている。ライトハイザーが財務長官になれば、再びこの問題に取り組むことを期待したい。
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左:アメリカが鉄鋼とアルミニウムに関税を課した後、ブリュッセルでヨーロッパ通商担当委員との会談に臨むライトハイザー米通商代表と世耕弘成経済産業大臣(2018年3月10日)。右:ホワイトハウスで行われたアメリカ・メキシコ・カナダ通商協定の署名式で、マイク・ペンス副大統領とライトハイザー代表に挟まれスピーチするトランプ大統領(2020年1月29日)。

しかし、ライトハイザーのお気に入りの手段は、ホワイトハウスが最も明確にコントロールされている関税であることに変わりはない。今年3月の『エコノミスト』誌に寄稿したライトハイザーは、トランプ大統領が当選した場合、新たな関税を課すと発表した計画を擁護し、関税撤廃という、アメリカの「大胆な実験」は「失敗した」と主張した。アメリカの貿易赤字を削減し、再工業化を加速させるためには、新たな関税(少なくとも一律10%)が必要である。それは、「経験上、これは成功し、高賃金の産業雇用が創出される」からだ。ライトハイザーは、そのような取り組みがどこまで可能かを示唆している。全ての輸入品に対して、「均衡を達成するまで、年々段階的に高い関税率を課すべきである」と書いている。言い換えれば、全ての貿易に対して最低10%の関税をかけるというのは、あくまでも最初の一手にすぎないということだ。

ライトハイザーはさらに、デ・ミニミス(de minimis、それ以下の輸入品は関税を完全に免除される価格)として知られるあいまいな規定の削除を目指すだろう。2015年の貿易円滑化および貿易執行法により、連邦議会は消費財の少量出荷に対する高価な事務手続きを排除することを目的として、その料金を200ドルから800ドルに引き上げた。この変化は、ちょうど海外からのオンライン注文が普及し始めたときに起こった。中国のファストファッション大手の「Shein(シーイン)」社のことを考えてみよう。シーイン社は2015年に零細企業から、年間売上高が少なくとも300億ドルの巨大企業に成長し、現在ではアメリカに単一の店舗やブランドを持たずにアメリカのファストファッション市場の30%近くを占めている。シーイン社のショッピングアプリのダウンロード数は、2015年には全世界で300万件にも届かなかったが、昨年は2億6000万件以上に増加した。シーイン社のビジネスモデルには、デ・ミニミス免除により中国製の衣料品をアメリカの消費者に免税で直接発送することが含まれている。FedEx(フェデックス)やUPS などの大手運送会社も喜んで協力している。ライトハイザーは、この規定により多くの中国企業が相互主義を必要とせずにアメリカ市場に関税を払うことなしにアクセスできるようになっていると主張している。

11月にどちらが勝とうとも、ライトハイザーの影響力は残るだろう。バイデンは、アメリカの製造業を促進することと、アメリカの保護主義(protectionism)の高まりを懸念する同盟諸国との共通点を模索することの間で一線を画そうとしてきた。しかし選挙の年、バイデン政権の公平性は失われつつある。オハイオ州選出のシェロッド・ブラウン連邦上院議員(民主党)の要請を受けたバイデンは、例えば、日本の日本製鉄によるUSスティールの買収計画を阻止すると約束した。日本製鉄は既に、全ての労働組合契約を尊重し、アメリカ本社をヒューストンからピッツバーグに移転し、雇用削減や海外への生産移転を行わないことを約束している。しかし、アメリカの労働組合は依然としてこの取引に反対している。そのためバイデンは、国家安全保障を理由に買収を阻止すると発言しているが、この動きはアジア太平洋におけるアメリカの最も重要な同盟国を激怒させるに違いない。

ライトハイザーと民主党の共通点は、多くの人が認識しているよりもはるかに深い。気候変動について考えてみよう。トランプを含む多くの共和党員は科学に懐疑的であり、化石燃料の使用を削減するための政府の行動に反対している。しかし、ライトハイザーは炭素を多く含む輸入品に対する追加関税を強く支持しており、この政策はヨーロッパ連合が既に導入しており、現在バイデン政権が真剣に検討している。ライトハイザーは著書『どんな貿易も自由ではない(No Trade Is Free)』の中で、セメント、肥料、アルミニウムなどの排出量集約的な製品に追加関税を課すことになる炭素国境税(carbon border tax)を支持しており、そうしなければ「私たちが許容できるよりもはるかに多くの炭素を使用している」製品を生産する国に利益をもたらすと主張している。

タイ米通商代表と勇敢な労働省の下で、バイデン政権はまた、世界中の人権侵害者や労働者の権利侵害者を制裁するために貿易手段をより積極的に利用するようになった。ライトハイザーはそれよりもはるかに先を行くだろう。ライトハイザーは著書の中で、輸出企業が環境保護、労働規則、労働者の健康と安全に関するアメリカと同等の基準を順守しない限り、全ての輸入を阻止すべきだと提案している。

これらの構想の最大の標的は、もちろん中国である。中国を貿易相手国としてではなく、敵対的な敵対国として扱い、アメリカの対中政策転換を開始したのはトランプ政権である。この転換で重要な役割を果たしたライトハイザーは、中国を「アメリカが国家として、そして西側スタイルの自由民主主義政府として、アメリカ革命以来直面してきた最大の脅威」だと声高に主張した(mince no words)。その証拠に、ライトハイザーは、中国の巨大な経済規模を挙げている。これは、ナチス・ドイツや帝国主義時代の日本はおろか、旧ソヴィエト連邦よりもはるかに有能な敵国である。ライトハイザーは、完全な経済的デカップリング(decoupling)に近いものを求めるだろう。その第一歩として、ライトハイザーは、北京のWTO加盟を認めるために2000年に連邦議会が与えた中国の「最恵国待遇(most favored nation)」の撤廃を提案する。そうなれば、米大統領は中国に差別的な関税をかけることができるようになる。

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(左から)中国の劉鶴副首相と貿易合意に署名する前のマイク・ペンス副大統領、ロバート・ライトハイザー米通商代表、ドナルド・トランプ大統領(2020年1月15日)

民主党側でそこまで進めようという人はほぼいない。今のところ、バイデン政権は、半導体や新しい電気自動車技術など、制限する必要がありそうな戦略的な対中貿易と、自由に取引できる一般消費財(ordinary consumer goods)貿易とを区別しようとしている。「小さな庭と高いフェンス」や「デリスク」というフレーズで包含されるバイデン政権の戦略は、米中貿易における相互利益の余地をまだ多く想定している。しかし、中国が脅威と見なされれば、見なされるほど、ライトハイザーの包括的なデカップリング(decoupling)の論理は説得力を増すだろう。アメリカの対中貿易はいかなる形であれ、中国を豊かにする可能性が高く、将来的には中国をより手強い敵にする可能性がある。特に選挙の年には、米中関係におけるニュアンスの違いを求める声はかき消されてしまうだろう。

しかし、ライトハイザーのアジェンダの影響力が民主、共和両党で拡大し、持続するだろうが、その混乱は専門家の多くが懸念しているよりも小幅なものになるかもしれない。トランプ大統領が関税を課した際、世界の貿易システムはかつて考えられていたよりも回復力があることが証明され、米中貿易の小幅な下落とインフレの小幅な上昇にとどまった。しかし、アメリカのちょっとした保護主義が突然、より有害なものにエスカレートする危険性も高まっている。ライトハイザーのトランプ政権時代の戦友であるピーター・ナヴァロ前ホワイトハウス通商製造業政策局長は、2021年1月6日に起きた連邦議事堂襲撃事件に関する連邦議会の調査への協力を拒否した罪で現在服役中だが、アメリカが全面的に関税の相互撤廃を要求することを望んでいる。ある製品の関税をアメリカの水準まで引き下げることを拒否した国(ヨーロッパの乗用車に対する10%の関税をアメリカの2.5%まで引き下げる必要がある)は、相殺関税(offsetting tariffs)に直面することになる。(その場合、ヨーロッパはアメリカの輸入SUVに対する25%の関税を相殺することで報復するだろう)。民主党もまた、風力タービンや電気自動車を含む多くのクリーンエネルギー製品に新たな関税を課すことを熱望している。先月、タイ米通商代表は連邦議会の委員会で、バイデン政権は、アメリカの電気自動車産業を保護するために「早期の行動、断固とした行動(early action, decisive action)」を取ると述べた。

民主、共和両党とも保護主義を支持する傾向が強まっていることは、この先更に多くのことが起こることを示唆している。他国がこれに応じれば、1920年代や1930年代以来の貿易戦争(trade wars)や通貨戦争(currency wars)が勃発することは容易に想像できる。

確かに、歴史は繰り返さなければならないという規則はない。アメリカは単に、自由化の方向に行き過ぎ、急ぎすぎた通商政策を修正し、アメリカの一部の産業や労働者を略奪的な競争に晒されている最中にあるだけかもしれない。確かに中間地点は可能だ。しかし、あらゆる証拠は、アメリカが反対方向にあまりにも速く進みすぎるという深刻な危険に晒されていることを示唆している。それが疑わしい場合は、私たちが生きている間に登場したアメリカ通商政策の最重要な人物であるライトハイザーがこれまでに何をし、何を言い、そしてこれからも何をしようとしているのかをよく見て欲しい。

※エドワード・アルデン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ウェスタン・ワシントン大学のロス記念特別客員教授、米外交評議会の上級研究員。著書に『調整の失敗:アメリカ国民はどのようにして世界経済に取り残されたか(Failure to Adjust: How Americans Got Left Behind in the Global Economy)』がある。ツイッターアカウント:@edwardalden

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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