古村治彦です。
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トランプ関税が発表され、日本には24%の関税が課されることになった。世界各国にはまず10%、それから個別の国々で、対米黒字が多い国を中心にして、様々な税率が課されることになった。中国には145%が課されるという発表があったために、「日本の24%は大したことはないな」という感想を持ってしまうが、やはりこれは日本にとっては重大な問題だ。
今年4月からゴールデンウイークの連休までの間に、石破茂首相の側近である、赤澤亮正経済再生担当大臣が2度訪米し、関税や日米貿易について、スコット・ベセント財務長官、ジェイミソン・グリア米通商代表と議論した。1度目はドナルド・トランプ大統領も出てきて驚きを持って迎えられた。通常、こういう交渉事は同格のカウンターパートと行うものであり、大統領が大臣と交渉することはない。
中国はトランプ関税に対して一歩も引かず、対抗措置を取ることを表明している。トランプ関税によって、株式や債券が下落し、アメリカ側が譲歩や撤退を余儀なくされる中で、中国に一貫性は評価され、信頼性が高まっている。中国のトランプ関税対策の最高責任者になっているのが、何立峰(かりつほう、He Lifeng)副首相だ。何立峰は、習近平の「側近中の側近」であり、福建省で長くテクノクラートを務めた人物だ。習近平の部下となり、習近平の結婚式にも出席した、数少ない人物の1人である。経済学で博士号を取得しているが、英語も話せないということで(前任の劉鶴はハーヴァード大学で教育を受けて英語が堪能)、あまり評価が高くなかったが、最近になって評価を上昇させている。こうしたところは、石破茂首相と赤澤経済担当相との関係に似ている(赤澤大臣はコーネル大学留学経験があり英語は堪能であると考えられる)。
何立峰副首相の動きをこれから注視していく必要がある。
(貼り付けはじめ)
アメリカの関税交渉で中心的な役割を担う中国の貿易担当最高責任者である何立峰とは何者か?(Who is He Lifeng, the Chinese trade tsar
taking centre stage in US tariff talks?)
ロウリー・チェン、マイケル・マルティナ筆
2025年5月7日
ロイター通信
https://www.reuters.com/business/autos-transportation/chinas-trade-tsar-limelight-us-tariff-talks-2025-05-07/?taid=681b618679cfff00010e4fe1&utm_campaign=trueAnthem:+Trending+Content&utm_medium=trueAnthem&utm_source=twitter
●要約(Summary)
・何副首相が土曜日に複数のアメリカ政府高官と会談。
・当初は外国人投資家たちの期待に応えられなかったが、自信と経験を積んできている。
・国家主導の成長(state-led growth)をイデオロギー的に支える人物として評価されている。
北京・ワシントン発。5月7日(ロイター通信)。習近平国家主席の長年の側近であり、外国投資家たちの間では重要なフィクサーとしての評判を徐々に築き上げてきた何立峰(He Lifeng)が、アメリカとの貿易停滞打開(breaking a trade
deadlock with the United States)に向けた土曜日の協議で中心的な役割を果たすことになる。
世界のトップ2経済大国が互いの輸入品に100%を超える関税を課すなど、数週間にわたって緊張が高まっている状況を受け、何立峰はスイスでスコット・ベセント米財務長官とジェイミソン・グリア米通商代表と会談する予定だ。
ドナルド・トランプ米大統領は、習近平国家主席に対し、貿易協定の可能性について自身に電話するよう繰り返し求めてきたが、緊張緩和への道筋は、米中経済貿易問題を統括する何副首相を経由するだろうと見られる。
ロイター通信は、過去1年間に何副首相と面会した外国人投資家や外交官13人にインタヴューを行った。彼らは、70歳の何副首相が、英語が全く話せず、用意された発言から逸脱することを嫌う、堅苦しい共産党官僚という印象だったが、実際には、より自信に満ちた人物へと成長し、その実行力(ability to get things done)に感銘を受けたと語っている。
会談について説明を受けたアメリカのビジネス関係者たちは、先月、世界有数の企業トップが北京で開催されたビジネスフォーラムに集まった際、多くの企業が何副首相に感銘を受けていたと述べている。
関係者のほとんどは匿名を条件に、中国の広大な金融セクターに対する広範な規制監督権も有する何副首相との秘密のやり取りについて語った。
ロイター通信が何副首相の公務に関する調査を行ったところ、何副首相は過去1年間に少なくとも60回、外国人と会談を行っている。これは、2023年3月に副首相に就任してから2024年3月までの45回から着実に増加していることを意味する。
中国国務院(China's State Council)は、この会談に関するファックスによるコメント要請に回答しなかった。
●現状維持の擁護者?(DEFENDER OF STATUS QUO?)
しかし、何副首相が西側諸国の企業幹部との交渉にますます慣れてきたにもかかわらず、ロイター通信がインタヴューした多くのビジネスマンは、副首相は政策革新者ではないと述べた。
先月の会合について説明を受けたこのビジネスマンは、何副首相のアメリカ企業幹部たちから評判が上がってきているのは、アメリカにおける混乱を受けて、中国の指導者たちが特に予測可能で自信に満ちている(predictable and confident)ように見えたことが、その要因となった可能性が高いと述べた。
報道によると、ヨーロッパ委員会は、年間約1000億ドル相当のアメリカからの輸入品を対象とするリストに民間航空機を含める予定だという。
彼は最後に中国の主要なマクロ経済計画機関の最高責任者を務め、産業政策(industrial
policy)の策定を担当した。また、外国との会談では、北京の輸出主導型成長戦略(Beijing's
export-led growth strategy)を繰り返し擁護してきた。
あるアメリカ人実業家はロイター通信に対し、国内消費よりも製造業の振興を支持してきた何副首相は、習近平国家主席の「1兆ドル規模の黒字創出における最大の補佐官(chief lieutenant for building a trillion-dollar surplus)」を務めていると語った。
何副首相は別の意味で、中国の過剰生産能力に関する不満を繰り返し無視してきた。これは、中国が輸出圧力の抑制と新たな協力の道を模索する中で、多くの国々が共有している不満だと3人の関係者がロイター通信に語った。
大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)のグローバル・チャイナ・ハブの上級研究員ウェン・ティ・ソンは次のように述べた。「日常的には、何副首相は中国の貿易黒字を擁護するだろう。何副首相が貿易黒字について軟化することは考えにくい。貿易黒字は中国の雇用創出にとって極めて重要な問題だ」。
何副首相は、トランプ大統領による関税攻撃の打撃を受けている日本やヨーロッパ連合(EU)といった先進市場への中国の最近の働きかけにおいて最前線に立ってきた。
何副首相はスイス訪問後、ハイレヴェル経済対話のためフランスを訪問する予定だ。
●期待外れのスタート(UNDERWHELMING START)
何副首相が副首相に就任する前、経済問題は劉鶴(Liu He)前副首相が担当していた。劉鶴はハーヴァード大学で教育を受けた、英語が堪能な経済学者であり、トランプ政権下ではアメリカとの貿易協定交渉にも携わった。
何副首相は厦門大学で経済学の博士号を取得しているが、国内問題に注力してきた経歴を持つため、中国経済の代表として世界に向けて発信する上で、多くのことを学んできた。
出席者の1人によると、昨年7月に何副首相が重要な経済政策会合の結果を報告した後、アメリカ企業幹部の一部は何副首相に失望したという。
この人物によると、2027年の党大会で退任することになっている何副首相は、数十人の側近に囲まれた記者会見で、特に精力的な様子は見せなかったという。
一方、劉鶴や王岐山といった何立峰の前任者は、雄弁さと比較的くつろいだ物腰で外国人記者の間で知られていた。
また、何副首相は、2月に日本のビジネス代表団が提起した北京のレアアース輸出規制や、中国国内の日本人の安全に関する懸念を軽視した。
何副首相と3月の会談について説明を受けたこの実業家は、何副首相との過去の協議を「チャットGPTと話しているようだった(talking to ChatGPT)」と表現した。しかし、最近では、何副首相は欧米企業の幹部たちにもっと受け入れられるようなコミュニケーション方法を採るようになったと述べた。
何副首相と複数回面会したこの関係者は、習近平国家主席に近い立場にない当局者にはできない方法で、何副首相が経済政策に関する中国の立場を説明し、支援の約束を果たす能力にも感銘を受けたという。この関係者は具体的な内容を明らかにしなかった。
今年、何副首相と面会した別の外国当局者も、何副首相は関税や不動産危機に加え、デフレ圧力や高齢化といった中国の経済問題を深く理解しており、これらの問題について高度な分析を行ったと述べた。
また、何副首相は中国発のAIスタートアップ企業ディープシーク(Deepseek)の将来性にも非常に自信を持っているように見えたとこの関係者は述べた。
●「典型的な官僚」であり破壊者('TYPICAL BUREAUCRAT' AND
DEMOLISHER)
何副首相は故郷の福建省で地方官僚として出世し、習近平主席は1990年代から2000年代初頭にかけて福建省で地方官僚として権力基盤を築いた。ロイター通信が以前報じたように、彼はその頃に習近平主席の腹心となり、将来の指導者である習近平の結婚式にも出席した。
彼は2009年に工業港湾都市の天津に異動となり、大規模な都市再開発事業と高額なインフラ整備事業に着手したことで、地元住民から「破壊者(He the Demolisher)」というあだ名をつけられた。これらの事業は天津に華やかな外観を与えたが、同時に都市の債務をより深刻化させた。
シンガポール国立大学の中国専門家アルフレッド・ウーは、何副首相は経済成長の促進に力を入れ、特に「当時の多くの地方官僚と同様に、不動産と都市再開発(real estate and urban redevelopment)に熱心だった」と述べている。
福建省でジャーナリストとして働いていた際に何副首相と出会ったウーは、何副首相を「典型的な地方官僚であり、習近平の典型的な子分(typical local bureaucrat and a very typical protégé of Xi Jinping)」と評した。
ウーは続けて、「何副首相の最優先事項は習近平の指示を実行することであり、従属的な立場(a
subordinate position)にある」と述べた。
※ロウリー・チェン:ロイター通信北京支局の中国特派員。政治と一般ニュースを担当している。ロイター通信入社前は、AFPと香港の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙で6年間、中国担当記者を務めた。中国語を流暢に操る。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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