古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:習近平

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 トランプ関税が発表され、日本には24%の関税が課されることになった。世界各国にはまず10%、それから個別の国々で、対米黒字が多い国を中心にして、様々な税率が課されることになった。中国には145%が課されるという発表があったために、「日本の24%は大したことはないな」という感想を持ってしまうが、やはりこれは日本にとっては重大な問題だ。

 今年4月からゴールデンウイークの連休までの間に、石破茂首相の側近である、赤澤亮正経済再生担当大臣が2度訪米し、関税や日米貿易について、スコット・ベセント財務長官、ジェイミソン・グリア米通商代表と議論した。1度目はドナルド・トランプ大統領も出てきて驚きを持って迎えられた。通常、こういう交渉事は同格のカウンターパートと行うものであり、大統領が大臣と交渉することはない。
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 中国はトランプ関税に対して一歩も引かず、対抗措置を取ることを表明している。トランプ関税によって、株式や債券が下落し、アメリカ側が譲歩や撤退を余儀なくされる中で、中国に一貫性は評価され、信頼性が高まっている。中国のトランプ関税対策の最高責任者になっているのが、何立峰(かりつほう、He Lifeng)副首相だ。何立峰は、習近平の「側近中の側近」であり、福建省で長くテクノクラートを務めた人物だ。習近平の部下となり、習近平の結婚式にも出席した、数少ない人物の1人である。経済学で博士号を取得しているが、英語も話せないということで(前任の劉鶴はハーヴァード大学で教育を受けて英語が堪能)、あまり評価が高くなかったが、最近になって評価を上昇させている。こうしたところは、石破茂首相と赤澤経済担当相との関係に似ている(赤澤大臣はコーネル大学留学経験があり英語は堪能であると考えられる)。

 何立峰副首相の動きをこれから注視していく必要がある。

(貼り付けはじめ)

アメリカの関税交渉で中心的な役割を担う中国の貿易担当最高責任者である何立峰とは何者か?(Who is He Lifeng, the Chinese trade tsar taking centre stage in US tariff talks?

ロウリー・チェン、マイケル・マルティナ筆

2025年5月7日

ロイター通信

https://www.reuters.com/business/autos-transportation/chinas-trade-tsar-limelight-us-tariff-talks-2025-05-07/?taid=681b618679cfff00010e4fe1&utm_campaign=trueAnthem:+Trending+Content&utm_medium=trueAnthem&utm_source=twitter

●要約(Summary

・何副首相が土曜日に複数のアメリカ政府高官と会談。

・当初は外国人投資家たちの期待に応えられなかったが、自信と経験を積んできている。

・国家主導の成長(state-led growth)をイデオロギー的に支える人物として評価されている。

北京・ワシントン発。5月7日(ロイター通信)。習近平国家主席の長年の側近であり、外国投資家たちの間では重要なフィクサーとしての評判を徐々に築き上げてきた何立峰(He Lifeng)が、アメリカとの貿易停滞打開(breaking a trade deadlock with the United States)に向けた土曜日の協議で中心的な役割を果たすことになる。

世界のトップ2経済大国が互いの輸入品に100%を超える関税を課すなど、数週間にわたって緊張が高まっている状況を受け、何立峰はスイスでスコット・ベセント米財務長官とジェイミソン・グリア米通商代表と会談する予定だ。

ドナルド・トランプ米大統領は、習近平国家主席に対し、貿易協定の可能性について自身に電話するよう繰り返し求めてきたが、緊張緩和への道筋は、米中経済貿易問題を統括する何副首相を経由するだろうと見られる。

ロイター通信は、過去1年間に何副首相と面会した外国人投資家や外交官13人にインタヴューを行った。彼らは、70歳の何副首相が、英語が全く話せず、用意された発言から逸脱することを嫌う、堅苦しい共産党官僚という印象だったが、実際には、より自信に満ちた人物へと成長し、その実行力(ability to get things done)に感銘を受けたと語っている。

会談について説明を受けたアメリカのビジネス関係者たちは、先月、世界有数の企業トップが北京で開催されたビジネスフォーラムに集まった際、多くの企業が何副首相に感銘を受けていたと述べている。

関係者のほとんどは匿名を条件に、中国の広大な金融セクターに対する広範な規制監督権も有する何副首相との秘密のやり取りについて語った。

ロイター通信が何副首相の公務に関する調査を行ったところ、何副首相は過去1年間に少なくとも60回、外国人と会談を行っている。これは、2023年3月に副首相に就任してから2024年3月までの45回から着実に増加していることを意味する。

中国国務院(China's State Council)は、この会談に関するファックスによるコメント要請に回答しなかった。

●現状維持の擁護者?(DEFENDER OF STATUS QUO?

しかし、何副首相が西側諸国の企業幹部との交渉にますます慣れてきたにもかかわらず、ロイター通信がインタヴューした多くのビジネスマンは、副首相は政策革新者ではないと述べた。

先月の会合について説明を受けたこのビジネスマンは、何副首相のアメリカ企業幹部たちから評判が上がってきているのは、アメリカにおける混乱を受けて、中国の指導者たちが特に予測可能で自信に満ちている(predictable and confident)ように見えたことが、その要因となった可能性が高いと述べた。

報道によると、ヨーロッパ委員会は、年間約1000億ドル相当のアメリカからの輸入品を対象とするリストに民間航空機を含める予定だという。

彼は最後に中国の主要なマクロ経済計画機関の最高責任者を務め、産業政策(industrial policy)の策定を担当した。また、外国との会談では、北京の輸出主導型成長戦略(Beijing's export-led growth strategy)を繰り返し擁護してきた。

あるアメリカ人実業家はロイター通信に対し、国内消費よりも製造業の振興を支持してきた何副首相は、習近平国家主席の「1兆ドル規模の黒字創出における最大の補佐官(chief lieutenant for building a trillion-dollar surplus)」を務めていると語った。

何副首相は別の意味で、中国の過剰生産能力に関する不満を繰り返し無視してきた。これは、中国が輸出圧力の抑制と新たな協力の道を模索する中で、多くの国々が共有している不満だと3人の関係者がロイター通信に語った。

大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)のグローバル・チャイナ・ハブの上級研究員ウェン・ティ・ソンは次のように述べた。「日常的には、何副首相は中国の貿易黒字を擁護するだろう。何副首相が貿易黒字について軟化することは考えにくい。貿易黒字は中国の雇用創出にとって極めて重要な問題だ」。

何副首相は、トランプ大統領による関税攻撃の打撃を受けている日本やヨーロッパ連合(EU)といった先進市場への中国の最近の働きかけにおいて最前線に立ってきた。

何副首相はスイス訪問後、ハイレヴェル経済対話のためフランスを訪問する予定だ。

●期待外れのスタート(UNDERWHELMING START

何副首相が副首相に就任する前、経済問題は劉鶴(Liu He)前副首相が担当していた。劉鶴はハーヴァード大学で教育を受けた、英語が堪能な経済学者であり、トランプ政権下ではアメリカとの貿易協定交渉にも携わった。

何副首相は厦門大学で経済学の博士号を取得しているが、国内問題に注力してきた経歴を持つため、中国経済の代表として世界に向けて発信する上で、多くのことを学んできた。

出席者の1人によると、昨年7月に何副首相が重要な経済政策会合の結果を報告した後、アメリカ企業幹部の一部は何副首相に失望したという。

この人物によると、2027年の党大会で退任することになっている何副首相は、数十人の側近に囲まれた記者会見で、特に精力的な様子は見せなかったという。

一方、劉鶴や王岐山といった何立峰の前任者は、雄弁さと比較的くつろいだ物腰で外国人記者の間で知られていた。

また、何副首相は、2月に日本のビジネス代表団が提起した北京のレアアース輸出規制や、中国国内の日本人の安全に関する懸念を軽視した。

何副首相と3月の会談について説明を受けたこの実業家は、何副首相との過去の協議を「チャットGPTと話しているようだった(talking to ChatGPT)」と表現した。しかし、最近では、何副首相は欧米企業の幹部たちにもっと受け入れられるようなコミュニケーション方法を採るようになったと述べた。

何副首相と複数回面会したこの関係者は、習近平国家主席に近い立場にない当局者にはできない方法で、何副首相が経済政策に関する中国の立場を説明し、支援の約束を果たす能力にも感銘を受けたという。この関係者は具体的な内容を明らかにしなかった。

今年、何副首相と面会した別の外国当局者も、何副首相は関税や不動産危機に加え、デフレ圧力や高齢化といった中国の経済問題を深く理解しており、これらの問題について高度な分析を行ったと述べた。

また、何副首相は中国発のAIスタートアップ企業ディープシーク(Deepseek)の将来性にも非常に自信を持っているように見えたとこの関係者は述べた。

●「典型的な官僚」であり破壊者('TYPICAL BUREAUCRAT' AND DEMOLISHER

何副首相は故郷の福建省で地方官僚として出世し、習近平主席は1990年代から2000年代初頭にかけて福建省で地方官僚として権力基盤を築いた。ロイター通信が以前報じたように、彼はその頃に習近平主席の腹心となり、将来の指導者である習近平の結婚式にも出席した。

彼は2009年に工業港湾都市の天津に異動となり、大規模な都市再開発事業と高額なインフラ整備事業に着手したことで、地元住民から「破壊者(He the Demolisher)」というあだ名をつけられた。これらの事業は天津に華やかな外観を与えたが、同時に都市の債務をより深刻化させた。

シンガポール国立大学の中国専門家アルフレッド・ウーは、何副首相は経済成長の促進に力を入れ、特に「当時の多くの地方官僚と同様に、不動産と都市再開発(real estate and urban redevelopment)に熱心だった」と述べている。

福建省でジャーナリストとして働いていた際に何副首相と出会ったウーは、何副首相を「典型的な地方官僚であり、習近平の典型的な子分(typical local bureaucrat and a very typical protégé of Xi Jinping)」と評した。

ウーは続けて、「何副首相の最優先事項は習近平の指示を実行することであり、従属的な立場(a subordinate position)にある」と述べた。

※ロウリー・チェン:ロイター通信北京支局の中国特派員。政治と一般ニュースを担当している。ロイター通信入社前は、AFPと香港の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙で6年間、中国担当記者を務めた。中国語を流暢に操る。

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(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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ドナルド・トランプ大統領による高関税(相互関税)の発表があり、その最大の標的が中国であるという状況になっている。145%という法外な関税(1万円の商品の場合には、1万4500円の関税がかけられ2万4500円になる)が中国に対して課されると発表され、中国は対抗措置として対米関税を125%にまで引き上げた。その後、トランプ大統領は高関税を引き下げる意向を示しているが、中国は強気の姿勢を崩さず、譲歩を強いられる交渉には応じないと予想される。

 こうした中で、「中国は自由貿易を守る旗手だ」「中国経済はアメリカの高関税を乗り越える」という主張も出ている。市場や国際社会の評価も中国にとってプラスの内容になっている。しかし、下記論稿の著者スコット・ケネディは、中国経済のマイナス要素をいくつか指摘している。中国は新型コロナウイルスの影響で深刻な経済危機に見舞われ、多くの都市住民が厳しいロックダウンに直面した。政府のゼロコロナ政策から期待された経済回復は失敗し、国内経済は依然として困難を抱えている。家庭の貯蓄が増え、出産を控える傾向が強まる中、中国政府の政策に対する不満も高まっている。国際的に見ても、投資家たちが中国市場への信頼感が揺らいでいると強調している。

ところが、2025年には状況が一変し、中国の経済が立ち直りつつある兆しが見えるとスコット・ケネディは指摘している。この変化は、政府が経済問題を認識し刺激策を発表したことや新技術の開発によって可能になったものだとケネディは主張している。

中国国内では、経済成長の期待が高まり、特に電気自動車や半導体分野での需要が急増している。国際的なビジネス界でも、アメリカの貿易政策の変化によって中国への不信感が高まっていた状況は、今では中国の経済回復期待に変わりつつあるとケネディは主張している。

最終的に、アメリカの政治の動向が中国の指導者に新たな影響を及ぼしており、トランプの行動は中国に安定要素を提供していると見られる。アメリカの政治体制そのものに対する信頼感は低下しており、中国の指導者たちはこの状況を利用できる。

 トランプ大統領はアメリカが世界覇権国であることを辞めるために時代によって生み出された人物である。戦後世界体制を軍事と経済で支えてきたアメリカはその負担に耐えられず、その役割を終えようとしている。この大きな構造変化は世界に大きな影響を及ぼす。アメリカは強いドルによって生み出された膨大な貿易赤字と財政赤字を何とかしたい。そのために、連邦政府の規模を縮小し、高関税によってドル安誘導でアメリカ人の生活を引き締めようとしている。しかし、それで節約できるとしてもたかが知れている。最も手っ取り早いが、最も劇薬であるのが、アメリカ国債の踏み倒しである。「もう借金は払わない」と言ってしまえば、世界経済は大混乱になり、「世界一安全な資産」を世界一保有している日本は大変なことになる。しかし、トランプとアメリカにとってみれば、「これまでさんざん世話をしてやっただろう、そのコストだ」と言って平然と日本を裏切るだろう。それくらいの最悪のシナリオを考えておかねばならない。そして、日本はアメリカから少しずつでも離れて、中国との関係を改善しておくことが重要だ。

(貼り付けはじめ)

北京がトランプ大統領を打ち破れると考える理由(Why Beijing Thinks It Can Beat Trump

-中国のエリート層は自国の体制に新たな自信を抱いている。

スコット・ケネディ筆

2025年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/10/trump-china-tariffs-trade-war/?tpcc=recirc062921

これは歴史上最も短期間で終わる革命かもしれない。ドナルド・トランプ米大統領が、最恵国待遇(most-favored-nation status)と内国民待遇(national treatment)に基づく世界貿易システムを、個別に交渉された二国間協定に置き換える計画の一環として、世界各国にいわゆる相互関税(reciprocal tariffs)を課してからわずか1週間後、彼は事実上この実験を中止した。確かに、ほぼ全ての国に10%の関税が課されており、自動車、鉄鋼、アルミニウムへの高関税も依然として課されているが、これらはおそらく上限であり、これらの障壁が動く唯一の方向は下がるしかない。

もちろん、唯一の例外は中国だ。中国は(常に強調しなければならないが)、本稿執筆時点で、貿易相手国への標準関税(he standard tariffs on trading partners)、トランプ大統領の最初の任期中に課されジョー・バイデン大統領によって維持された懲罰的関税(the penal tariffs imposed during Trump’s first term and left in place by President Joe Biden)、フェンタニル関連製品への20%の関税(the 20 percent on fentanyl-related goods)、そして、4月9日に発表された追加関税(the duties announced on April 9)を含めると、アメリカから約150%の関税に直面している。

トランプ大統領のファンは、これは北京を標的に絞るための隠された計画だと言う。また、市場が暴落し、企業がショック状態に陥った後、退路を断つための面目を保つための転換だと見る人もいるだろう。いずれにせよ、中国が無傷で済むのは、トランプ大統領がまたすぐに突然のUターンをしない限り難しいようだ。アメリカは、金融制裁や留学生などの渡航の全面禁止など、自らに大きな負担はかかるものの、更に多くの痛みを課すことができる。中国が世界経済と社会から切り離されること(A China cut off from the global economy and society)で、経済的、政治的、地政学的に甚大な問題に直面することになる。

こうした危険性にもかかわらず、中国政府は現状維持(to stand its ground)しか選択肢がないと考えているように思われ、指導部は自分たちだけが譲歩を求められるような交渉には応じないだろう。更に言えば、私が最近中国やその他の地域を訪れた際に感じたのは、中国国内および国際社会が中国のシステムの回復性と強さ(resilience and strengths)について、より幅広く、そしてやや肯定的に再評価し始めていることである。

2022年末から2024年末にかけて中国を訪れた際、私は中国があらゆる面で苦闘しているのを目の当たりにした。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが続いた最後の数カ月は、多くの都市で住民が息苦しいロックダウンに直面し、数十万人、いや数百万人が重症を負ったり、命を落としたりするなど、深い傷跡を残した。政府のゼロコロナ政策の終了に伴い期待されていた経済回復は、急速に消え去った。経済成長を活性化させようと、電気自動車、バッテリー、医療機器、ロボット工学などの新たな製造施設に巨額の資本が投入されたが、国内消費はそれに追いつかず、需給ギャップが拡大し、工場の門前では深刻なデフレが続いた。

パンデミックによる不安、住宅市場の崩壊、そして脆弱な社会保障網により、世帯は予防的貯蓄を拡大し、若い夫婦は出産を控える傾向にあり、人口動態の問題は悪化した。より広範な政治的緊縮政策(the broader political tightening)と国家安全保障への重点化も国民感情に悪影響を及ぼした。消費者信頼感指標(indicators for consumer confidence)は2022年初頭に急落し、それ以降ほとんど変動していない。

その結果、この時期、中国人の間では、なぜ中国指導部が問題の深刻さを認めず、成長促進に必要な措置を講じようとしないのかという議論が盛んに行われた。その根拠として、国のトップに上り詰めるまでの苦難に関する正確な情報が不足していること、賢明な統治計画を持たない弱いチームであること、経済よりも安全保障を優先していること、あるいは指導部が先進技術(プロパガンダで「新生産力(new productive forces)」と呼ばれるもの)を最も重要な成長の原動力として重視することに熱心に取り組んでいることなどが挙げられた。

こうした国内の不安は、中国国外にも反映されていた。2023年初頭、JPモルガンがマイアミで開催した数千人の機関投資家向けカンファレンスでは、「中国は投資可能か?(Is China investible?)」が中心的な議論となった。ゼロコロナの終焉は新たな機会を意味すると主張する人がいる一方で、サプライチェインの脆弱性や民間部門への取り締まりを、投資を控える理由として強調する人もおり、意見の一致はなかった。

1年後、同じ会議でコンセンサスを得た答えは「ノー」だった。国際投資家たちは、中国の短期的な環境と長期的な軌道について、数々の懸念を表明した。多くの投資家たちが保有ポジションを売却し、資金を他の場所、特にアメリカに再配分したと述べています。

2025年まで時を早送りすると、中国国内のムードは、そして多くの外部の観測者からも、明らかに明るくなっている。その一因は、最近の国内情勢にある。第一に、昨年9月に指導部が深刻な経済課題を認め、大規模な景気刺激策を発表したことだ。その詳細は今年3月に明らかになった。第二に、ディープシーク(DeepSeek)の画期的な大規模言語モデルが発表された。これは、中国のイノヴェーターがアメリカ主導の技術規制を回避する方法を見つけることができたことを示唆している。

2025年3月に中国で行われた企業幹部との協議では、参加者たちは景気後退の最悪期は過ぎ去り、新たな成長の兆しが見え始めていると示唆した。ある自動車メーカー幹部は、EVモデルの需要が予想をはるかに上回るペースで伸びており、海外生産拠点の開設計画を前倒しすると述べた。

アメリカから制裁を受けている半導体企業の幹部は、西側諸国の装置サプライヤーからのサーヴィス支援がない状況下で、生産効率と品質が向上したと述べた。安堵のため息をつく時だと述べる者は誰もおらず、政策を発表することと実際に成果を出すことの間には大きな隔たりがあることを強調した。ある幹部は、民間企業が国有企業と比較して融資に支払う金利が依然として高いことを強調した。とはいえ、過去数年間の暗雲は消え去った。

国際的なビジネス界でも同様の変化が見られた。マイアミで開催されたJPモルガンの2025年初頭版カンファレンス(および他の場所で行われた同様のカンファレンス)では、投資家たちはもはや中国指導部の失策とされる行動について不満を漏らすことはなかった。その代わりに、彼らは「景気刺激策はどの程度の規模になるのか?(How big will the stimulus be?”)」と「景気刺激策はいつ成長加速につながるのか?(When will the stimulus translate into faster growth?)」という2つの質問を繰り返した。

毎年3月に北京で開催される中国開発フォーラム(the China Development Forum)では、欧米諸国の主要多国籍企業と中国の指導者が一堂に会し、次々と企業幹部が中国への新規投資計画を披露した。

中国の政策変更や技術革新がムードの変動の一因となっているものの、信頼回復の最も重要な源泉は、12タイムゾーン離れたワシントンにある。2025年第1四半期、北京、上海、ニューヨーク、マイアミなど、どこで開催されても、会議のたびに最大の話題はトランプ大統領だった。ほぼ全ての会話は、彼の政策に対する当惑といったものだった。

最も憂慮すべきことは、状況がこれほどまでに異なるにもかかわらず、多くの人が、促されることもなく、今日のアメリカを、1966年から1976年にかけての文化大革命(the 1966-76 Cultural Revolution)の時期の中国と比較していることだ。文化大革命は、中国が苦難の時代における政治的な類推(analogy、アナロジー)としてよく用いるものであり、西側諸国の一部の人々にとってナチス・ドイツがそうであるのと同じだ。しかし、アメリカ政府の行動は、アメリカで働いたり学んだりした経験を持つ中国人観察者たちを真に驚かせた。

私が中国で話した多くの人々は、自国における顕著な問題である政府の無駄遣いを削減し、汚職を減らす必要性を理解していると述べた。しかし、専門者たちは、イーロン・マスク率いる政府効率化省が、次々と無計画に政府機関を解体し、数万人の公務員を解雇する動きを主導している理由に、何度も困惑していた。米中科学技術協力の可能性を議論する会合で、ある中国政策専門家は、基礎科学研究、気候、医療、宇宙など、様々な分野におけるアメリカ政府機関や大学への予算削減リストを聞いた後、驚きの表情でこう問いかけた。「アメリカ政府は科学を信じているのだろうか?(Does the U.S. government even believe in science anymore?)」。

メディア、弁護士、そして裁判所への攻撃に、人々は多くの機会で衝撃を受けた。ある専門家は、自分と友人たちは中国で最も親米的な人々の1人であり、中国で学び、米国企業で働いたことを誇りに思っていると述べた。しかし、彼らが知る中国は目の前で変化しているように見え、もはや子供たちを中国に住ませたり、勉強させたりすることは考えられない、と付け加えた。

アメリカ国内の行動に対する困惑と同じくらい広まっていたのが、アメリカの貿易政策と外交政策の根本的な変化に対する困惑だった。トランプ大統領が自ら宣言した「解放記念日(Liberation Day)」の2週間足らず前、フェンタニル関連の関税が課された後に行われた議論において、中国人は、アメリカがなぜアメリカと世界に多大な繁栄をもたらしてきた多国間貿易体制(the multilateral trading system)を解体しようとするのか理解できなかった。アメリカが関税を利用して製造業の生産と雇用を劇的に回復させることができるという考えは、全くの空想だとみなされた。また、アメリカが同盟諸国を見捨てて、ウラジーミル・プーティン率いるロシアを支持する理由を疑問視する人もいた。

これらの発言の重要性は、それが正しいかどうかとは大きく関係ない。むしろ、アメリカにおける政府の無能さと社会の分断と見なされるものに対する広範な認識は、中国人が自国の現在と未来を再評価するための、目に見えない鏡となっているのだ。

現実には、中国の指導者の多くは極めてイデオロギー的であり、汚職は蔓延し、政治的粛清は依然として行われ、情報は統制され、科学者(物理学者と社会科学者の両方)は知的自由に対する大きな障壁に直面し、市場に対する不公平な規制が蔓延し、産業政策(industrial policy)は外国企業を著しく不利な立場に置いている。これらは全て、中国の発展の見通しと他国との関係を脅かしている。しかし、2025年のアメリカのレンズを通して見ると、中国のシステムは異なる視点から見える。

体制支持派のナショナリストにとって、トランプはまさに贈り物だ。彼の非自由主義的な方向転換は、アメリカが中国の政治体制に対するイデオロギー的な挑戦を放棄したことを意味する。更に、トランプがアメリカの統治機関、経済、そして同盟関係を弱体化させることは、「中国を再び偉大な国にする(making China great again)」ことを意味する。そして、多国間貿易体制(the multilateral trading system)への攻撃は、中国がアメリカに対する責任ある統治者として見られることをはるかに容易にする。

多くの無政治の中国人にとって、今日の中国や多くの具体的な政策には熱意がない。しかし、それと比較すると、中国は比較的安定しており、予測可能である(predictable)と感じており、彼らは自らの体制とそれを支持する世界の中で生きることに最低限の満足感を抱いている。

長年アメリカを称賛してきたリベラルな中国人にとって、ワシントンのトランプ的な転換は深い悲しみをもたらす。彼らにとって、アメリカはまさに「丘の上の灯台(light on a hill)」であり「烽火(beacon)」であった。2008年の世界金融危機において、アメリカは自由市場に対する中国の信頼を損なった。2025年、政治的内紛(political infighting)により、アメリカは自国の政治体制の信用を失墜させつつある。こうした憂鬱の帰結は、人々の諦め(resignation)である。この中国人にとって、解放記念日は正反対の感情に違いない。

今後数週間、数ヶ月の間、トランプが全面的な貿易戦争宣戦布告(full-scale declaration of trade war)を撤回したとしても、北京とワシントンの対立は予測不可能な展開を続けるだろう。米中両国には経済的な強みと弱みがあり、互いに相手の弱点を狙う可能性がある。両国はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、そしてラテンアメリカ諸国を取り込み、相手を出し抜き、孤立させようと画策するだろう。これから多くのドラマが繰り広げられるだろう。

しかし、中国やその他の地域での私の会話から、皮肉にも2つの確かなことが浮かび上がってくる。第一に、北京の決意が新たになっていることを考えると、トランプ政権が1月20日に中国から得られなかった譲歩を今後数ヶ月で引き出せる可能性はほぼゼロだ。エスカレーション(escalation)、瀬戸際政策(brinksmanship)、そして不安定さ(volatility)は、途方もない時間の無駄になるだろう。

そして第二に、どちらが相手方の経済を弱体化させるのに効果的か、あるいは交渉の場でどちらが相手を出し抜くかに関わらず、少なくとも今のところは、真のシステム競争は終わった。祝賀ムードであろうと哀悼ムードであろうと、ほとんどの中国人にとって、トランプの赤いネクタイは白旗なのだ(Whether in celebration or mourning, to most Chinese, Trump’s red tie is a white flag)。

※スコット・ケネディ:戦略国際問題研究所上級研究員、中国ビジネス・経済学部門評議委員長。

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 トランプ関税は迷走している。90日間の実施延期が発表されたり、対中ではスマートフォンや周辺機器への課税が例外とされたりで、「アメリカは強気で始めたが、米国債の弱点もあり、いつか後退するぞ」という考えが出てきつつある。そのために株式市場は落ち着き、株価は上昇している。トランプ関税の主眼は、アメリカの貿易赤字を解消することであり、アメリカの製造業を復活させることだ。そして、アメリカ製品を売るためにドル安に誘導することだ。

 アメリカの最大の貿易赤字を生み出している国は中国である。アメリカの対中貿易赤字は約3000億ドルだ。対日赤字は約680億ドルだ。日本はそこまで大きくない。1000億ドルを超えているのは中国、メキシコ、ヴェトナムだ。アメリカはスマートフォンや付属品、周辺機器を中国で生産している。そして、中国はアメリカ国債の世界第2位の保有国だ。これらの点はアメリカにとって中国に対峙する際の弱点となる。中国はアメリカに対して簡単に屈服することはないし、そんな必要もない。中国はアメリカの属国ではない。そこは1980年代の日米貿易摩擦の際の日本との最大の違いだ。
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 更に言えば、アメリカが世界唯一の超大国として、強いドルを背景にして、世界中の産品を買うことで、外国を経済成長させ、その儲かった分でアメリカ国債を買わせて、ドルをアメリカ国内に還流させ、アメリカ国内の生活を豊かにする(借金によって)というスキームは終わりを迎えようとしている。他人の借金で生きるというアメリカ人の生活をトランプは変革させようとしている(彼個人は汗水たらして働くなんてできないだろうが)。

 アメリカが世界覇権国の地位から退くことによって(必然的にそのための乱暴なやり方が進められることで)、世界各国の中国に対する信望が高まる。少なくとも「アメリカよりはだいぶまし」という状況になる。そうなれば、相対的に中国の国際的な地位は更に高まる。日本は、アメリカ一辺倒の対外政策を選択し続けることは不可能だ。やはり中国や韓国と言った東アジアの周辺国との関係を改善し、アメリカの世界覇権国の地位喪失後の世界に備える必要がある。

 トランプ政権によって、世界の構造の大変化は進められることになる。日本はその大変化に備えねばならない。

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トランプ関税は習近平中国国家主席への贈り物だ(Trump’s Tariffs Are a Gift to Xi

-中国への高額な関税にもかかわらず、アメリカ主導の経済のジェットコースターは北京にとって有利に働く可能性がある。

ハワード・W・フレンチ筆

2025年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/10/trump-us-tariffs-china-impact-xi-jinping-global-order/

2012年に中国の指導者である習近平が権力の座に就いて間もなく、数十年にわたる低摩擦外交(low-friction diplomacy)と世界屈指の経済成長(world-beating economic growth)によって築き上げてきた中国の優位性を、彼がいかに容易に浪費したかを見て、専門家たちたちは困惑し始めた。

習近平は統治開始初期、南シナ海全域の領有権を主張する積極的な動きを強めた。中国はまた、新型空母をはじめとする軍事技術の導入を進め、軍の近代化(the modernization of its armed forces)を加速させた。また、習近平は中国人民解放軍に対し、戦争に備えるだけでなく勝利も目指すよう熱心に訴え、近隣諸国に警鐘を鳴らした。

国内では、習近平は大規模な反汚職運動(anti-corruption drive)を開始したが、これはすぐに批判者や潜在的なライヴァルを威圧するためのキャンペーンと映った。間もなく、習政権はこの政治攻勢(political offensive)を拡大し、言論統制(constrain speech)を更に強化した。そして、急速な成長と革新で中国の台頭を支えてきたアリババなど、中国で最も成功した企業のトップたちを脅迫し、屈辱を与えた。

多くの中国人は、規律ある行政部門(a disciplined executive)への権力の集中(the concentration of power)は、民主政治体制の喧騒と混沌(the palaver and chaos)の中では不可能な方法で物事を成し遂げるという、お決まりの議論に頼って権威主義(authoritarianism)を正当化した。長年、私の授業に出席する中国人の大学院生たちは、この制度上の優位性(systemic advantage)を誇っていたが、習近平による弾圧の息苦しい雰囲気と、それに伴う憂慮すべき経済減速(the alarming economic slowdown)によって、その主張は終焉を迎えた。

突然、会話は政治理論家たちが「悪帝​​」問題(the “bad emperor” problem)と呼ぶものへと移った。新世代の若者たちは、ほぼ確実にチャンスが巡ってきた時代の喪失を嘆き、権威主義体制下での生活を単なる運の問題と捉え始めた。彼らは、一見すると啓蒙的な独裁者(a seemingly enlightened dictator)が、一瞬にして軽率で無知な暴君(a rash and benighted despot)に取って代わられる可能性があることに気づいたのである。この振り子の揺れ(pendulum swing)を経験した人々にとって、権威主義には決定的な欠点があった。政府を投票で追放できる民主政体とは異なり、国民には、不運を耐えてより良い後継者を期待する以外に頼る手段がないのだ。

しかし、これは権威主義に固有の問題だけではない。近年、世界最古かつ最強の民主政体国家が今や「悪い皇帝」のジレンマに直面していることが、ますます明らかになっている。

アメリカが誇る牽制と均衡のシステム(the United States’ vaunted system of checks and balances)は、ドナルド・トランプ米大統領の権力を抑制する上でほとんど無力であることを毎週のように露呈している。『フィナンシャル・タイムズ』紙のあるコラムニストは最近次のように書いている。トランプ政権は「アメリカ共和国とアメリカが築き上げた世界秩序に対する包括的な攻撃を行っている。国内では、国家(the state)、法の支配(the rule of law)、立法府の役割(the role of the legislature)、裁判所の役割(the role of the courts)、科学へのコ関与(the commitment to science)、そして大学の独立性(the independence of the universities)が攻撃されている。今、彼は自由主義的な国際秩序を破壊している」。

再選された民主的な指導者のほとんどが任期制限(term limits)に縛られていると感じている一方で、トランプは2期目には更に無謀な行動を取り、憲法で定められた8年の任期制限を超えて権力を拡大する懸念を繰り返し提起している。

皮肉なことに、トランプ大統領の最も無謀な行動のいくつかは、中国に集中している。水曜日、トランプ大統領は中国を除くほぼ全ての国に対する恣意的で不合理な高関税の課税を停止した。トランプ大統領自身は気づいていないかもしれないが、145%にまで引き上げられた対中関税の劇的なエスカレーションは、習近平国家主席への贈り物となる可能性が高い。

確かに、北京は短期的には、そしておそらく長期的にも困難に直面するだろう。しかし、トランプ大統領の行動は、習近平国家主席自身の欠点から中国国民の目を逸らさせ、自国の政治体制の優位性、そして中国を抑え込もうとするワシントンの悪意ある企みに関する、長年にわたる北京のプロパガンダに力を与えることになる。

世界全体にとって、中国は今や、安定と現状維持を志向する国際秩序において、より穏健な勢力として映っている(To the world at large, China now looks like a more moderate force in the international order oriented toward stability and the status quo)。もし、ある国家がどの超大国と手を組むか選択しなければならない場合、中国は好ましい選択肢として浮かび上がってくるかもしれない。

トランプ大統領の北京に対する極端な措置は、中国と通常は不信感を抱く隣国である日本と韓国、そして中国とヨーロッパの間に和解の道(avenues for rapprochement)を開いた。株価と債券市場の低迷の中で、トランプ大統領が突如、自らの誇る取引締結能力を証明しなければならなくなったことで、東京とソウルのトランプ大統領政権に対する交渉力も強化されただろう。これは、無謀な経済戦争(a reckless economic war)を仕掛け、他の指導者たちが自分の尻にキスしたがっていると豪語するほど愚かで権力に酔った大統領を抑制できなかったことに対する、ワシントンが払うであろう戦術的な代償である。

なぜトランプ大統領は、このような行動に価値があると考えているのだろうか? コメンテイターたちが頻繁に指摘するように、トランプ大統領の世界観の多くは、アメリカの産業的優位性の時代(the waning era of U.S. industrial preeminence)が衰退しつつあった、1970年代と1980年代に形成された。当時、トランプ大統領はまず日本を、そして次に中国を、アメリカの雇用、生産、そしてアイデアを「盗んでいる(stealing)」と非難した。トランプにとって、国家の階層構造の頂点に立つワシントンの地位は、確かにノスタルジーにとらわれているが、同時に生得権にもとづいているようだ。そして、関税によって他国を罰することで、アメリカから奪ったはずのものを返還できると考えているようだ。

これは経済学の基礎だけでなく、世界史についても大きな誤解だ。中国は確かに、近年の急成長の中で、高速鉄道の技術から戦闘機の設計に至るまで、海外から知的財産を盗み、競争から自国経済を守る方法を編み出してきたと考えられる。しかし、トランプは、19世紀のアメリカを含め、近代以降、新興国が同様のことを行ってきたことに気づいていないようだ。

しかし、自動車、輸送、再生可能エネルギー、ロボット工学における中国のリーダーシップ、そして人工知能や宇宙探査におけるアメリカとの熾烈な競争は、窃盗だけで片付けられるものではない。トランプが理解していないのは、中国の功績の大部分は、国民の勤勉さと犠牲、そして継続的かつ意図的な国家改革によってもたらされてきたということだ。産業界においては、バイオメディカルやロボット工学といった最先端分野を特定し、多額の投資を行ってきた。そして、それは高等教育の改善とより広範な教育機会の提供に向けた、同様に協調的な取り組みによって支えられてきた。

悪い皇帝は自信過剰(self-sure)で衝動的(impulsive)なだけではない。彼らはまた、情報に疎い傾向がある。それは、彼らが自らの政党を完全に服従させ、イエスマンに取り囲まれるまでに、自分たちの意見に反する情報に触れることはほとんどなくなるからだ。

トランプは、自身の無敵感(invincibility)とアメリカ合衆国の無敵感を混同している。国内で誰も彼に抵抗できなかったため、今では世界で誰も彼に抵抗できないと考えている。たとえ政権のメンバーが中国について人種差別的な軽蔑的な発言をしても、だ。JD・ヴァンス副大統領は先週、アメリカ人は「中国の農民(Chinese peasants)」から借りるべきではないと述べた。日曜日には、ハワード・ラトニック商務長官が、世界的なスマートフォン革命を可能にした中国の工場を、大量の労働者が「小さなネジを締める([screw] in little screws)」だけの作業場だと一蹴した。

一方、スコット・ベセント米財務長官は今週、中国のビジネスモデルは破綻しており、アメリカ市場なしでは「生き残れない(can’t survive)」と述べた。(中国の対米輸出が世界の輸出に占める割合が、1990年代後半の42%という高水準から現在では約13%へと着実に減少していることは考慮に入れていない。)ベセントは、ワシントンの指示に北京が従うような世界を思い描いている。彼は次のように述べている。「バランスを取り戻せ。消費を増やし、生産を減らす。私たちは消費を減らし、生産を増やす。私たちは競争条件を大幅に平等にする」。

トランプの顧問の中で最も冷静な人物としばしば評される人物によるこの傲慢な発言は、そのナイーヴさに驚かされる。これは、1985年のプラザ合意(the 1985 Plaza Accord)のような、アメリカの全能の過去に対するトランプのノスタルジーを反映している。プラザ合意は、西ドイツや当時非常に競争力があった日本とのアメリカの貿易赤字を削減するために、世界の主要通貨を再調整した、一見すると一筆書き(the stroke of a pen)のような合意だった。

しかし、経済が減速し、人口が減少し始めた中国でさえ、1980年代の日本とは全く異なる。当時の日本ははるかに小さな国で、アメリカとの貿易に依存し、安全保障もアメリカに頼っていた。中国の人口は日本の約11倍であるだけでなく、わずか1世代余りで、ほとんどの国にとって主要な貿易相手国となり、世界銀行よりも大きな資金源となり、そして一流の軍事力を持つに至った。

中国外務省は最近の声明で次のように述べている。「中国は古代文明(an ancient civilization)を有し、礼儀正しさと正義の国である。私たちは問題を起こさず、また問題に怯むこともない。中国に対して圧力をかけたり脅迫したりすることは、正しい対処法ではない。中国はこれまで、そして今後も、自国の主権、安全保障、そして発展の利益を守るために断固たる措置を講じていく」。

レトリックはさておき、北京のこの冷静な発言は基本的に正しい。アメリカは関税を根拠に中国を威嚇することはできないだろうし、悪しき工程の大統領が自らの力と国家の能力を誇張することによっても中国を威嚇することはできないだろう。自国の弱点に目を向けなければならないのであって、決して戻ってこない過去に対する見当違いのノスタルジーではなく、未来に向けた前向きで要求の高いアジェンダが必要だ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり特派員を務めた。最新作に『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.socialXアカウント:@hofrench
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ヘンリー・キッシンジャーが最後に発表した(と考えられる)論稿を以下にご紹介する。この論稿については、『トランプの電撃作戦』でも取り上げた。論稿の共著者はハーヴァード大学教授グレアム・アリソンだ。これは推測になるが、この論稿の草稿はアリソンが書き、キッシンジャーが目を通し、加筆修正したのだろう。キッシンジャーが共著者として名前を出しているというのは、アリソンがそれだけの実力を持つ学者であるからだ。最新刊『トランプの電撃作戦』でも書いたが、アリソンはキッシンジャーのハーヴァード大学の教え子である。

 冷戦期、アメリカとソ連は、核兵器開発競争から協力しての核兵器管理に移行した。これは、突発的な核兵器を使っての戦争の発生を抑制して、世界を破滅させ異様にするとともに、核兵器開発や保有による負担を軽減するためのものであった。また、核兵器が多くの国に拡散しないようにするということもあった。核兵器の世界規模での管理体制構築が進められた。それによって、冷戦期は「長い平和(long peace)」と呼ばれるような状態を保つことができた(実際に戦争が起きた地域もあるが)。

 20世紀の核兵器開発技術に相当するのが、21世紀ではAIartificial intelligence、人工知能)である。AIの軍事転用は既に進んでいる。そのことも『トランプの電撃作戦』で取り上げている。20世紀に米ソ間で核兵器開発について管理(control)がなされたように、AIに関しても、管理なされるべきだというのが、キッシンジャーとアリソンの主張である。21世紀の管理は米中両国で行われることになる。そのためには米中間での対話が必要である。ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の間での対話が何よりも重要ということになる。

 『トランプの電撃作戦』で詳しく分析したが、米中露による新たな枠組みができつつある。アメリカ一極支配が終わる中で、アメリカと中露による世界管理ということになっていくだろう。詳しくは是非新刊をお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

AI 軍備管理への道(The Path to AI Arms Control

-アメリカと中国は大惨事(Catastrophe)を回避するために協力する必要がある

ヘンリー・A・キッシンジャー、グレアム・アリソン筆

2023年10月13日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/henry-kissinger-path-artificial-intelligence-arms-control

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上海で展示されるテスラのロボット(2023年7月)

※ヘンリー・A・キッシンジャー(HENRY A. KISSINGER):キッシンジャー・アソシエイツ会長。国家安全保障問題担当大統領補佐官(1969-1975年)、米国務長官(1973-1977年)を歴任。

※グレアム・アリソン(GRAHAM ALLISON):ハーヴァード大学ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『戦争に進む運命:アメリカと中国はトゥキュディデスの罠を避けられるか?(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

今年は、史上最も悲惨な戦争(the deadliest war in history)が終結し、近代において大国間戦争(great-power war)がなかった最長期間が始まってから78周年を迎える。なぜなら、第一次世界大戦のわずか20年後に第二次世界大戦が勃発したからであり、第三次世界大戦の亡霊(the specter of World War III)は、理論上全人類を脅かすほど破壊的となった兵器を使って戦い、その後の冷戦の数十年にわたって張り付いていたからである。アメリカによる広島と長崎の原爆を使用しての破壊により、日本は即時無条件降伏(Japan’s immediate unconditional surrender,)を余儀なくされたとき、世界が今後70年間にわたり核兵器の使用を事実上一時停止するとは誰も考えなかった。ほぼ80年後、核兵器保有国がわずか9カ国になるということは、さらにありそうもないことのように思えた。核戦争(nuclear war)を回避し、核拡散(nuclear proliferation)を遅らせ、数十年にわたる大国の平和をもたらした国際秩序の形成において、この数十年にわたってアメリカが示したリーダーシップは、アメリカの最も重要な成果の一つとして歴史に残るだろう。

今日、世界が別の前例のない、ある意味では更に恐ろしいテクノロジーである人工知能(artificial intelligence)によってもたらされる特有の課題に直面しているため、多くの人が歴史に教訓を求めているのは驚くべきことではない。超人的な能力を備えたマシンは、宇宙の支配者としての人類の地位を脅かすのだろうか? AIは集団暴力手段(means of mass violence)における国家の独占を弱体化させるだろうか? AIによって、個人や小集団が、これまで大国の権限であったような規模で人を殺すことができるウイルスを生成できるようになるのだろうか? AI は今日の世界秩序の柱である核抑止力(nuclear deterrents)を侵食する可能性があるだろうか?

現段階では、誰もこれらの質問に自信を持って答えることはできない。しかし、この2年間、AI革命の最前線に立つテクノロジー・リーダーたちと一緒にこれらの問題を探求してきた結果、AIの無制限な進歩がアメリカと世界に破滅的な結果をもたらすという見通しは非常に説得力を持ち、各国政府の指導者たちは今すぐ行動を起こさなければならないという結論に達した(we have concluded that the prospects that the unconstrained advance of AI will create catastrophic consequences for the United States and the world are so compelling that leaders in governments must act now)。彼らも他の誰も未来がどうなるかを知ることはできないが、困難な選択と行動を今日から始めるには十分なことが分かっている。

指導者たちがこうした選択をする際には、核時代に学んだ教訓がその決定に影響を与える可能性がある。何億人もの人々を殺害する可能性がある前例のないテクノロジーの開発と導入を競う敵対者たちでさえ、共通の利益が存在する島を発見した。二者独占(duopolists)として、アメリカとソ連の両国は、この技術が自国を脅かす可能性のある他の国家に急速に拡散するのを防ぐことに関心を持っていた。ワシントンとロシアは両国とも、核テクノロジーが自国の国境内で不正行為者やテロリストたちの手に渡った場合、脅威に利用される可能性があることを認識しており、それぞれが自国の兵器庫のために堅固な安全システムを開発した。しかし、敵対する社会の不正行為者が核兵器を手に入れれば、それぞれが脅される可能性もあることから、両者とも、このリスクを互いに話し合い、これが起こらないようにするために開発した慣行や技術について説明することが自分たちの利益になると考えた。米ソ両国の核兵器の保有量が、どちらも自滅する反応を引き起こさずに相手を攻撃できないレベルに達すると、相互確証破壊(mutual assured destructionMAD)という逆説的な安定性を発見した。この醜い現実が内面化されるにつれ、各勢力は自らを制限することを学び、戦争につながる可能性のある対立を避けるために敵対者を説得して自国の取り組みを抑制する方法を見つけた。実際、アメリカとソ連の両政府の指導者たちは、自国が最初の犠牲者となる核戦争を回避することが重大な責任であると認識するようになった。

今日 AI によってもたらされる課題は、単なる核時代の第2章ではない。歴史は、スフレを作るためのレシピを載せた料理本ではない。AI と核兵器の違いは、少なくとも類似点と同じくらい重要だ。しかし、適切に理解され、適応されれば、80年近く大国間戦争がなかった国際秩序の形成において学んだ教訓は、今日AIに立ち向かう指導者たちに利用できる最良の指針となる。

現時点では、AI 超大国は2つだけだ。最も洗練された AI モデルをトレーニングするために必要な人材、研究機関、大量のコンピューティング能力を備えているのはアメリカと中国だけだ。これは、AI の最も危険な進歩と応用を防ぐためのガイドラインを作成するための狭い機会を彼らに提供する。アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は、おそらく11月にサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議の直後に首脳会談を開催することでこの機会を捉えるべきであり、そこでは、今日直面している最も重大な問題の1つと見るべきものについて、延長的で直接、対面で議論することができるだろう。

■核兵器時代からの様々な教訓(LESSONS FROM THE NUCLEAR AGE

1945年、原子爆弾が日本の都市を壊滅させた後、パンドラの箱を開けた科学者たちは、自分たちが作り出したものを見て恐怖に慄いた。マンハッタン計画の主任科学者ロバート・オッペンハイマーは、バガヴァッド・ギーター(Bhagavad Gita)の一節を暗唱した。「今、我は死神、世界の破壊者になれり(Now I am become Death, the destroyer of worlds.)」。オッペンハイマーは、原爆を制御するための過激な手段を熱烈に支持するようになり、機密保持資格(security clearance)を剥奪された。「ラッセル・アインシュタイン宣言(Russell-Einstein Manifesto)」は1955年、バートランド・ラッセルやアルバート・アインシュタインだけでなく、ライナス・ポーリングやマックス・ボルンなど11人の一流の科学者が署名し、核兵器の恐るべき威力を警告し、世界の指導者たちに決して核兵器を使用しないよう懇請した。

ハリー・トルーマン米大統領は、この決断について考え直すとは決して言わなかったが、彼も彼の国家安全保障ティームのメンバーたちも、この驚異的な技術を戦後の国際秩序にどのように組み入れることができるのか、実行可能な見解を持っていなかった。アメリカは、唯一の原子大国としての独占的地位を維持すべきなのか? それは可能なのか? その目的を達成するために、アメリカはソ連と技術を共有できるのか? この兵器のある世界で生き残るためには、指導者たちは各国政府よりも優れた権威を発明する必要があったのだろうか? トルーマンの陸軍長官であったヘンリー・スティムソン(ドイツと日本の勝利に貢献した人物)は、核兵器の拡散を防ぐ大国の「コンドミニアム(condominium)」を作るために、アメリカが独占している原爆をソ連の指導者ヨシフ・スターリンとイギリスの首相ウィンストン・チャーチルと共有することを提案した。トルーマンは、国務次官ディーン・アティソンを委員長とする委員会を設置し、スティムソンの提案を追求する戦略を練らせた。

アティソンは根本的にスティムソンに同意した。破滅的な戦争(catastrophic war)に終わる核軍拡競争を防ぐ唯一の方法は、原子兵器を単独で所有する国際機関を創設することである。そのためには、アメリカが核兵器の秘密をソ連や他の国連安全保障理事会のメンバーたちと共有し、核兵器を新しい国連の「原子力開発機関(atomic development authority)」に移譲し、全ての国が兵器を開発したり、兵器級の核物質を製造する能力を独自に構築したりすることを禁じなければならない。1946年に、トルーマンは、アティソンの計画を実現するための協定を交渉するため、金融家であり大統領顧問であったバーナード・バルークを国連に派遣した。しかし、この提案はソ連の国連代表アンドレイ・グロムイコによって断固拒否された。

3年後、ソ連が独自の(核)爆弾製造に成功すると、アメリカとソ連は人々が冷戦(Cold War)と呼び始めた時代、つまり爆弾と弾丸以外の競争に突入した。この競争の中心的な特徴は、核の優位性(nuclear superiority)を追求することでした。この2つの超大国の核兵器は、最盛期には6万発以上の兵器を備えており、その中には有史以来の全ての戦争で使用された、全ての兵器よりも爆発力の高い弾頭も含まれていた。専門家たちは、全面核戦争(all-out nuclear)が地球上の全ての生きている魂の終焉を意味するかどうかを議論した。

数十年にわたり、米政府とロシア政府は核兵器の開発に数兆ドルを費やしてきた。アメリカの原子力事業の現在の年間予算は500億ドルを超えている。この競争の初期の数十年間、米ソ両国は、決定的な優位性を獲得することを期待して、以前は想像もできなかった躍進を遂げた。兵器の爆発力の増加には、新しい指標の作成が必要だった。元の核分裂兵器のキロトン(1000トンの TNT が放出するエネルギーに相当)から、水素核融合爆弾のメガトン(100万トンが放出するエネルギーに相当)までだ。米ソ両国は、弾頭を30分以内に地球の反対側の標的に届けることができる大陸間ミサイル、数百マイルの高さで地球を周回する衛星を発明し、数インチ以内で標的の座標を特定できるカメラを搭載し、本質的に弾丸を弾丸で攻撃することができる防衛装置を発明した。ロナルド・レーガン大統領の言葉を借りれば、核兵器を「無力で時代遅れ(impotent and obsolete)」にする防衛を真剣に想像する専門家たちもいた。

■概念的な武器庫(THE CONCEPTUAL ARSENAL

こうした発展を形成しようとする中で、戦略家たちは第一撃と第二撃を区別する概念的な兵器を開発した。彼らは、確実な報復対応(retaliatory response)に不可欠な要件を明確にした。そして、敵が1つの脆弱性(vulnerability)を発見した場合でも、兵器の他の構成要素が壊滅的な対応に利用できるようにするために、潜水艦、爆撃機、地上発射ミサイルという核兵器の三本柱を開発した。兵器の偶発的または許可されていない発射のリスクが認識されたことで、許容アクションリンク (核兵器に埋め込まれた電子ロックで、適切な核発射コードがなければ作動しないようにする) の発明が促進された。冗長性(redundancies)は、指揮統制システム(command-and-control systems)を危険に晒す可能性のある技術革新(invention)から保護するために設計され、これがインターネットへと進化したコンピュータネットワークの発明の動機となった。戦略家ハーマン・カーンが有名な言葉で述べたように、彼らは「考えられないことを考えていた(thinking about the unthinkable)」ということになる。

核戦略(nuclear strategy)の中核にあるのは抑止(deterrence)の概念であり、考えうる利益に比例しないコストを脅し取ることで、敵の攻撃を防ぐことである。抑止を成功させるには、能力だけでなく信頼性も必要だと理解されるようになった。潜在的な犠牲者たちには、断固とした対応をとる手段(means)だけでなく、意志(will)も必要だった。戦略家たちは、この基本的な考え方をさらに洗練させ、拡大抑止(extended deterrence)などの概念を導入した。拡大抑止は、政治的メカニズム、すなわち同盟による保護の誓約(pledge of protection via alliance)を用いることで、主要諸国に自国の軍備を増強しないよう説得しようとするものであった。  

1962年、ジョン・F・ケネディ米大統領がソ連のニキータ・フルシチョフ書記長と、ソ連がキューバに配備した核弾頭ミサイルをめぐって対立したとき、米情報諜報機関は、ケネディが先制攻撃に成功したとしても、ソ連が既存の能力で報復し、6200万人のアメリカ人が死亡する可能性があると見積もっていた。1969年、リチャード・ニクソンが大統領に就任したとき、アメリカはアプローチを再考する必要があった。私たちの1人、キッシンジャーは後にこの課題について次のように述べている。「私たちが優勢だった時代に形成された防衛戦略は、新たな現実の厳しい光の下で再検討されなければならなかった。・・・いかなる好戦的なレトリックも、既存の核兵器備蓄が人類を破滅させるのに十分であるという事実を覆い隠すことはできない。・・・核戦争の惨事を防ぐこと以上に崇高な義務はない」。

この状態を明確にするため、戦略家たちは皮肉な頭文字をとってMADという言葉を作った。これは次のような意味である。「核戦争に勝つことはできない。だから決して戦ってはならない」。運用上、MADは相互確証脆弱性(mutual assured vulnerability)を意味した。米ソ両国はこの状態から逃れようと努めたが、最終的にはそれが不可能であることを認識し、米ソ両国の関係を根本的に再認識する必要があった。1955年、チャーチルは「安全が恐怖の丈夫な子供になり、生存が消滅の双子の兄弟になる(safety will be the sturdy child of terror, and survival the twin brother of annihilation)」という最高の皮肉を指摘した。価値観の違いを否定したり、重要な国益を損なったりすることなく、死闘を繰り広げるライヴァルは、全面戦争(all-out war)以外のあらゆる手段で敵を打ち負かす戦略を立てなければならなかった。

こうした戦略の柱の 1 つは、現在では軍備管理(arms control)として知られる、一連の暗黙的および明示的な制約だ。MAD 以前、各超大国が優位に立つためにあらゆる手を尽くしていたときでさえ、米ソ両国は共通の利益のある分野を発見していた。誤りを犯すリスクを減らすため、アメリカとソ連は非公式の協議で、相手国による領土監視(surveillance of their territory)に干渉しないことで合意した。放射性降下物から国民を守るため、大気圏内核実験(atmospheric testing)を禁止した。一方が、相手側が先制攻撃を仕掛けるだろうと確信して攻撃する必要性を感じる「危機不安定性(crisis instability)」を回避するため、米ソ両国は1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(Anti-Ballistic Missile Treaty)でミサイル防衛を制限することで合意した。1987年に調印された中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)では、ロナルド・レーガン大統領とソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフが中距離核戦力を廃止することで合意した。1972年と1979年に締結された条約の締結につながった戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talks)により、ミサイル発射台の増加は制限され、その後、1991年に締結された戦略兵器削減条約(Strategic Arms Reduction TreatySTART)と2010年に締結された新STARTにより、ミサイル発射台数は削減された。おそらく最も重大なことは、アメリカとソ連が、核兵器の他国への拡散は両国にとって脅威であり、最終的には核の無政府状態(anarchy)を招くリスクがあると結論付けたことだろう。米ソ両国は、現在核拡散防止体制(nonproliferation regime)として知られる体制を樹立した。その中心となるのが1968年の核拡散防止条約(Nuclear Nonproliferation Treaty)であり、現在186カ国がこの条約を通じて独自の核兵器の開発を控えることを誓約している。

AIをコントロールする(CONTROLLING AI

AIを封じ込める方法に関する現在の提案には、こうした過去の響きが数多く聞こえてくる。億万長者のイーロン・マスクによるAI開発の6カ月間の停止の要求、AI研究者のエリゼル・ユドコウスキーによるAI廃止の提案、心理学者ゲイリー・マーカスによるAIを世界政府機関が管理すべきという要求は、核時代に失敗した提案の繰り返しである。その理由は、いずれも主要国に自国の主権を従属させる(subordinate)必要があるからだ。競争相手が新技術を適用して自国の生存と安全を脅かすのではないかと恐れて、大国が自国でその技術の開発を放棄した例は歴史上ない。イギリスやフランスなどアメリカの緊密な同盟国でさえ、アメリカの核の傘に頼るだけでなく、独自の国家核能力の開発を選んだ。

核の歴史から得た教訓を現在の課題に応用するには、AI と核兵器の顕著な違いを認識することが不可欠だ。まず、核技術の開発は政府が主導したのに対し、AI の進歩を推進しているのは民間の起業家、技術者、企業だ。MicrosoftGoogleAmazonMetaOpenAI、そして少数の小規模なスタートアップ企業で働く科学者たちは、政府の類似の取り組みをはるかに上回っている。さらに、これらの企業は現在、間違いなく技術革新を推進しているが、コストがかかる、企業間の闘争に巻き込まれている。これらの民間主体がリスクと報酬の間でトレードオフを行うため、国家の利益が軽視されることは間違いないところだ。

第二に、AIはデジタルだ。核兵器は製造が難しく、ウラン濃縮から核兵器の設計まで全てを実行するには複雑なインフラストラクチャが必要だった。製品は物理的な物体であるため、数えることができる。敵の行動を検証できる場合は、制約が生じる。AIは、全く異なる課題を表している。その主な進化は人間の心の中で起こる。その適用性(applicability)は実験室で進化し、その展開を観察することは困難だ。核兵器は実体があるが、人工知能の本質は概念的だ(the essence of artificial intelligence is conceptual)。

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中国国旗とアメリカ国旗を示すスクリーン(北京、2023年7月)

第三に、AIが進歩し普及するスピードが速く、長期にわたる交渉は不可能であることだ。軍備管理は数十年かけて発展してきた。AI に対する制限は、AIが各社会の安全保障構造に組み込まれる前に、つまり機械が独自の目的を設定し始める前に行う必要がある。専門家の一部には、これは今後5年以内に起こる可能性が高いと指摘している。このタイミングには、まず国内、次に国際的な議論と分析、そして政府と民間部門の関係における新たなダイナミクスが必要だ。

幸いなことに、生成型AIを開発し、アメリカを主要なAI超大国にした各種大手企業は、株主だけでなく、国と人類全体に対しても責任があることを認識している。多くの企業がすでに、導入前にリスクを評価し、トレーニングデータの偏りを減らし、モデルの危険な使用を制限するための独自のガイドラインを作成している。トレーニングを制限し、クラウド コンピューティング プロバイダーに「顧客を知る(know your customer)」要件を課す方法を模索している企業もある。バイデン政権が7月に発表したイニシアティヴは、正しい方向への大きな一歩であり、7つの大手AI企業のリーダーをホワイト ハウスに招き、「安全、セキュリティ、信頼(safety, security, and trust)」を確保するためのガイドラインを確立するという共同誓約を行った。

私たち著者の1人であるキッシンジャーが『AIの時代(The Age of AI)』の中で指摘しているように、進化し、しばしば目を見張るような発明や応用がもたらす長期的な影響について体系的な研究を行うことが急務となっている。アメリカが南北戦争以来の分断状態(divided)にあるとはいえ、AIの無制限な進歩がもたらすリスクの大きさは、政府と企業の両リーダーに今すぐ行動を起こすことを求めている。新たなAIモデルを訓練するマスコンピューティング能力を持つ各企業と、新たなモデルを開発する各企業や研究グループは、その商業的AI事業がもたらす人間的・地政学的影響を分析するグループを作るべきだ。

この課題は超党派的なものであり、統一した対応が必要だ。大統領と連邦議会は、その精神に則り、民間部門、連邦議会、アメリカ軍、情報諜報機関の著名な超党派の元リーダーで構成される国家委員会(national commission)を設立すべきだ。国家委員会は、より具体的な義務的セーフガードを提案すべきだ。これには、GPT-4などのAIモデルのトレーニングに必要な大量コンピューティング機能を継続的に評価することや、企業が新しいモデルをリリースする前に極度のリスクに対してストレステストを行うことなどが含まれるべきだ。ルール策定の作業は困難だが、国家委員会は人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)にモデルを置くことになるだろう。2021年に発表された委員会の勧告は、アメリカ軍と米情報諜報機関が中国とのAI競争で行っている取り組みに弾みと方向性を与えた。

■二大AI超大国(THE TWO AI SUPERPOWERS

アメリカが国内でAIを統制するための独自の枠組みを構築しているこの初期段階であっても、世界で唯一のもう1つのAI超大国と真剣な対話を始めるのに早すぎることはない。中国のテクノロジー分野の国家的リーダーである百度(Baidu、同国最大の検索エンジン)、バイトダンス(ByteDanceTikTokの制作者)、テンセント(TencentWeChatのメーカー)、アリババ(Alibaba、電子商取引のリーダー)は、中国の政治システムがAIにとって特に困難をもたらしているにもかかわらず、ChatGPTの独自の中国語版を構築している。中国は高度な半導体を製造する技術ではまだ遅れをとっているが、近い将来に先行するための基本技術を備えている。

バイデンと習近平は近い将来、AI軍備管理について私的な会話をするために会うべきだ。11月にサンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力会議がその機会を提供してくれる。各首脳は、AIがもたらすリスクを個人的にどのように評価しているのか、壊滅的なリスクをもたらすアプリケーションを防ぐために自国は何をしているのか、国内企業がリスクを輸出しないよう自国はどのように保証しているのかについて話し合うべきだ。次回の協議に反映させるため、米中のAI科学者たちや、こうした進展の意味を考察してきたその他の人々で構成される諮問グループを設けるべきである。このアプローチは、他分野における既存のトラックII外交に倣ったものであり、政府の正式な承認はないものの、その判断力と公平性から選ばれた人物でグループを構成するものである。日米両政府の主要な科学者たちとの議論から、私たちはこれが非常に生産的な議論になると確信している。

この議題に関するアメリカと中国の議論と行動は、11月にイギリスが主催するAI安全サミットや国連で進行中の対話など、AIに関する新たな世界的対話の一部に過ぎない。各国が自国の社会の安全を確保しながら国民の生活を向上させるためにAIを採用しようとするため、長期的には世、界的なAI秩序(global AI order)が必要となる。その取り組みは、AIの最も危険で潜在的に破滅的な結果を防ぐための国家的取り組みから始めるべきである。これらの取り組みは、大規模なAIモデルの開発に携わる様々な国の科学者たちと、ここで提案されているような国家委員会のメンバーたちとの間の対話によって補完されるべきである。最初は先進的なAIプログラムを持つ国々の間での正式な政府交渉では、国際原子力機関に匹敵する国際機関とともに、国際的な枠組みを確立することを目指すべきである。

バイデンや習近平をはじめとする世界の指導者たちが、数十年前に核の脅威に対処した先人たちと同じように、AIがもたらす課題に真正面から向き合おうと今行動すれば、果たして成功するだろうか? 歴史という大きなキャンバスと今日の分極化の進展を見れば、楽観視することは難しい。それにもかかわらず、核保有国間の平和が78年続いたという白熱した事実は、AIの未来がもたらす革命的で避けられない課題を克服しようとする全ての人々を鼓舞するのに役立つはずだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

 今回は、私の最新刊でも取り上げた論稿をご紹介する。短い論稿なので抵抗は少なく読めると思う。論稿の著者グレアム・アリソンはハーヴァード大学教授で、「トゥキュディデスの罠(Thucydides’s trap)」という言葉を世の中に広めた人物だ。国際関係論分野では常陽な学者である。トゥキュディデスの罠とは、「古代アテネの歴史家トゥキュディデスにちなむ言葉で、従来の覇権国家と台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態にまで衝突する現象」のことだ。古代ギリシアのペロポネソス戦争は、ギリシア世界を軍事力で制覇し、覇権国家だったスパルタと、海洋貿易で経済力を高めた新興大国アテネとの戦いだ。これを現代に敷衍すると米中両国のことになる。以下に、論稿の内容を要約する。
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グレアム・アリソン

中国が南シナ海や東シナ海において攻撃的な姿勢を強めていることは、単なる現象ではなく、今後の国際情勢における重要な兆候だ。アメリカの「パックス・パシフィカ」の下で、アジア諸国は急速な経済成長を遂げてきたが、中国が世界最大の経済大国として台頭する中で、既存のルールの見直しを求めるのは自然な流れだ。

今後の世界秩序において重要な課題は、中国とアメリカが「トゥキュディデスの罠」を回避できるかどうかである。歴史的に見ても、新興勢力の台頭は既存の大国との対立を引き起こし、戦争に至るケースが多かった。特に、アテネとスパルタの例が示すように、台頭と恐怖が競争を生み出し、最終的には紛争に発展することがある。

中国の急速な台頭は、アメリカにとって脅威であるが、国際関係においてより多くの発言権を求めることは自然なことである。アメリカ自身も過去に同様の行動をとっており、その歴史を振り返る必要がある。アメリカは、他国に対して自国の価値観を押し付けるのではなく、相手の立場を理解し、対話を重視する姿勢が求められる。

中国とアメリカの指導者たちは、歴史の教訓を踏まえ、対立を避けるために率直な対話を行い、互いの譲れない要求に応じるための調整を始める必要がある。これにより、将来的な大惨事を回避するための道筋を見出すことができるだろう。

 米中両大国が直接武力衝突を起こす可能性は今のところ低い。それでも、経済面だけではなく、最先端のテクノロジー開発の面で、激しいつばぜり合いを展開している。それは、この面での勝者が軍事面でも有利になるからだ。しかし、こうした競争は良いとしても、それが武力衝突まで進まないようにすることが重要だ。そのためには、米中両国の指導者たちの対話と交渉が必要だ。取引を重視するドナルド・トランプ政権はその点で、ジョー・バイデン前政権よりもずっと期待が持てる。

(貼り付けはじめ)

太平洋でトゥキュディデスの罠が発動した(Thucydides’s trap has been sprung in the Pacific

-中国とアメリカは現代のアテネとスパルタだとグレアム・アリソンは言う

グレアム・アリソン

2012年8月22日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/5d695b5a-ead3-11e1-984b-00144feab49a

中国が南シナ海や東シナ海の尖閣諸島に対して攻撃的な姿勢を強めていることは、それ自体が重要なのではなく、来るべき事態の兆候として重要なのだ。第二次世界大戦後の60年間、アメリカの「太平洋の平和(Pax Pacifica、パックス・パシフィカ)」は安全保障と経済の枠組み(security and economic framework)を提供し、その中でアジア諸国は歴史上最も急速な経済成長を遂げてきた。しかし、今後10年でアメリカを抜いて世界最大の経済大国になる大国として台頭してきた中国が、他国が築いたルールの見直しを要求するのは当然のことである。

今後数十年の世界秩序に関する決定的な問題は、「中国とアメリカがトゥキュディデスの罠(Thucydides’s trap)から逃れられるか?」どうかだ。歴史家の比喩は、台頭する大国が支配的な大国に対抗するときに米中両陣営が直面する危険を思い起こさせる。紀元前5世紀のアテネや19世紀末のドイツがそうだったように。こうした挑戦のほとんどは戦争で終わった。平和的なケースでは、関係する米中両国の政府と社会の姿勢と行動に大きな調整が必要だった。

古代アテネは文明の中心だった。哲学、歴史、演劇、建築、民主政治体制-全てがそれまでの想像を超えていた。この劇的な台頭は、ペロポネソス半島の既存のランドパウア(land power)であったスパルタに衝撃を与えた。スパルタの指導者たちは恐怖に促され、対応せざるを得なくなった。脅威と反脅威(threat and counter-threat)が競争(competition)を生み、対立(confrontation)を生み、ついには紛争(conflict)に発展した。30年にわたる戦争の末、両国は滅亡した。

トゥキディデスはこの出来事を次のように書いている。「戦争が避けられなくなったのは、アテネの台頭(rise of Athens)と、それがスパルタに与えた恐怖(fear that this inspired in Sparta)のせいである」。台頭と恐怖(rise and fear)という2つの重要な変数に注目してほしい。

新しい勢力が急速に台頭することは、現状を混乱させる。21世紀において、ハーヴァード大学の「アメリカの国益に関する委員会(Commission on American National Interests)」が中国について述べたように、「このような割合の歌姫が、影響なしに舞台に上がることはありえない」のだ。

国家がこれほど急速に、あらゆる面で国際ランキングを駆け上ったことはかつてなかった。一世代の間に、国内総生産がスペインより小さかった国が、世界第2位の経済大国になったのだ。

歴史的な根拠に基づいて賭けをするのであれば、トゥキディデスの罠に関する質問の答えは明白に見えてくる。1500年以降、支配勢力に対抗する新興勢力が台頭した15件のうち11件で、戦争が起きている。ヨーロッパ最大の経済大国としてイギリスを追い抜いた統一後のドイツについて考えてみよう。1914年と1939年、ドイツの侵略とイギリスの対応が世界大戦を引き起こした。

中国の台頭はアメリカにとって不愉快なものだが、強大化する中国が国家間の関係においてより多くの発言権とより大きな影響力を要求することは何も不自然なことではない。アメリカ人、特に中国人に「もっと私たちのようになれ(more like us)」と説教する人たちは、自分たちの歴史を振り返るべきだ。

1890年頃、アメリカが西半球(western hemisphere)で支配的な勢力として台頭したとき、アメリカはどのように行動したか? 後の大統領セオドア・ルーズヴェルトは、次の100年はアメリカの世紀になると絶対的に自信のある(supremely confident)国家の典型だった。第一次世界大戦前の数年間、アメリカはキューバを解放し、イギリスとドイツに戦争で脅してヴェネズエラとカナダでの紛争に関するアメリカの立場を受け入れさせ、コロンビアを分裂させてパナマという新しい国を作った反乱を支援し(パナマ運河建設の譲歩を直ちにアメリカに与えた)、イギリスの支援とロンドンの銀行家たちの資金提供を受けたメキシコ政府を打倒しようとした。その後の半世紀で、アメリカ軍は「私たちの半球(our hemisphere)」に30回以上介入し、アメリカ人に有利な条件で経済紛争や領土紛争を解決したり、受け入れられないと判断したりした指導者たちを追い出したりした。

強力な構造的要因を認識することは、指導者たちが歴史の鉄則の囚人(prisoners of the iron laws of history)であると主張することではない。むしろ、課題の大きさを理解するのに役立つ。中国とアメリカの指導者たちが古代ギリシャや20世紀初頭のヨーロッパの先人たちよりも優れた行動をとらなければ、21世紀の歴史家たちはその後に起こる大惨事(catastrophe)を説明するためにトゥキュディデスを引用するだろう。戦争が米中両国にとって壊滅的である(devastating)という事実は重要だが、決定的ではない。全ての戦闘員たちが最も大切なものを失った第一次世界大戦を思い出して欲しい。

このような結果のリスクを考慮すると、中国とアメリカ両国の指導者たちは、起こりうる対立や火種(flash points)についてもっと率直に話し合う必要がある。さらに困難で苦痛なことに、米中両国は、相手の譲れない要求に応えるために大幅な調整を始めなければならない。

※筆者はハーヴァード大学ベルファー科学・国際問題センター所長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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