古村治彦です。
今年2024年は世界各国で国政レヴェルの大きな選挙が実施された。ブラジル、インド、インドネシアなどで選挙が実施された。日本では9月の自民党総裁選挙で石破茂が総裁に選出され、首相となったが、10月初旬に衆議院を解散し総選挙が実施され、自公は過半数を割り込んだが、政権維持ができそうな公算が高まっている。アメリカでは大統領選挙と連邦上下両院の選挙が実施され、共和党のドナルド・トランプが大統領に返り咲き、連邦上下両院で共和党が過半数を獲得する勢いとなっている。
石破首相は総総選挙で自民党の議席を減らしたが、特に安倍派清和会系の議員たちの数を減らしたことで、党内の掌握ができたと考えられる。反石破派は党内野党的な立場となるが、造反することはできない。党を割って新党ということもできない。高市早苗議員たちが党を割って新党という与太話が出ていたが、現在はしぼんでいる。こうした議員たちは自民党にいてこそなんぼであり、自民党から離れたら何の力もない。サラリーマン世界で管理職だ、役員だと威張ってみても、定年退職したらただの高齢者というのと変わらない。政敵を無力化する、排除するというのは世の常だ。安倍派清和会支配の間は故安倍晋三元首相と追随者たちがこの世の春とばかりにやりたい放題であった。そのために自民党が緩み切って弛緩した。今回の総選挙での惨敗はまさに「因果は巡る糸車」ということになる。
今回の自民党総裁選挙と総選挙は自民党保守本流(突き詰めれば国民の生活が第一)と自民党保守傍流(突き詰めれば国民は国家の駒に過ぎない)の戦いで、保守本流が勝ったと言うことになる。2012年からの我慢に我慢の保守本流側が勝利をしたということになる。岸田前首相からの路線をこれからも堅持していくことになる。田中角栄と大平正芳が冥界で喜んでいるだろう。
国内政治はこれまでのように、増上慢に、傲慢になった安倍派清和会支配の自民党がやりたい放題であった時代から変わった。何事も交渉して、譲るところは譲ると言うことがなされることになった。自民党議員たちはこれまでのようにふんぞり返り、暴言を吐いて、国会運営も思い通りと言うことはできなくなった。一から頭の下げ方、野党との交渉の仕方を勉強することになるだろう。中途半端に当選回数を重ねてきた安倍チルドレンたちは鍛え直されるくらいでちょうど良い。
国内政治で忙しくなると、国際政治、外交が疎かになるという心配がある。これは逆手に取れば、「アメリカからの無理な注文に応じられない理由にできる」ということでもある。石破首相が国内政治対応が忙しくて、トランプ前大統領との関係構築が後手に回るという心配(批判)がなされているが、一目散にトランプタワーに行ってトランプに会うことに何の意味があるのか。歯の浮くようなお世辞とゴルフ場での媚びた態度でトランプの起源を取ることが外交と考えているならばそれは間違いだ。石破首相もどこまでできるは分からないが、対米隷属状態の改善と言うことに動くだろう。トランプは交渉の人だ。そして、石破首相がプロテスタントであることは交渉に貢献することになるだろう。詳しくは『世界覇権国交代劇の真相』の佐藤優先生によるまえがきと第一章を読んでいただきたい。
アメリカが衰退し、トランプはそのための墓堀人ということになる。石破首相は現状についてよく理解している。より現実的な動きを大きくはすることになるだろう。石破首相は国内政治と国際政治においてこれまでの安部派清和会支配時代の澱みを掃除しようとしているのであり、心ある国民は石破首相を応援するべきである。
(貼り付けはじめ)
日本の混迷政治が東アジアの安定を揺るがす(Japan’s Chaotic
Politics May Shake East Asia’s Stability)
-長らく支配してきた自民党の大敗が東京の計画を不透明なものにしている。
ウィリアム・スポサト筆
2024年10月30日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/10/30/japan-election-surprise-liberal-democratic-party-ishiba-komeito-uncertainty/
総選挙の翌日に石破茂首相を映し出す大型テレビ画面の下を歩く人々(10月28日、東京)
日本で長期にわたり政権を維持してきた自由民主党の選挙での驚くべき敗北は、まさに世界がそれを最も必要としていなかったときに、新たな不安定時代(new era of instability)の到来をもたらした。
石破茂新首相が仕掛けた10月27日の解散総選挙では、自由民主党と、宗教組織の支援を受けた連立政党である公明党が大敗し、衆議院で過半数の議席を確保できなかった。それまで絶対安定多数を享受してきたがそれが崩壊した。自民党は前議会比23%減の191議席を確保した。仏教団体の創価学会が支援する公明党も同様に悲惨な結果となり、25%減のわずか24議席となった。更に追い打ちをかけるように、公明党の党首は自らの議席を獲得できなかった。
過去20年間、農水相や防衛相など影響力のあるポストを歴任し、政治家としてよく知られた石破にとって、今回の結果は特に厳しいものとなった。彼は9月末、この16年の間で、5度目の挑戦にして、ようやく自民党の総裁に選出された。
前任の岸田文雄前首相が、自民党議員たちの不適切な資金集めに絡む政治スキャンダルで責任を取って辞任した後、石破氏が党員投票で総裁に選ばれた。
このスキャンダルは典型的なほどに日本的なもので、他の多くの国、特にアメリカでは通常業務となるような、疑わしい慣行と比較的少額の資金が絡んでいた。この事件では、自民党の調査によって、85人の議員が4年間に5億8000万円(約380万ドル)の資金調達を報告していなかったことが判明した。
このようなスキャンダルは、複雑な規制によってほとんどの人が何かしらの罪を犯している日本では、ほとんど目新しいものではない。安倍晋三首相は在任中、同様のスキャンダルを何度も乗り越え、日本で最も長く首相を務めた。
首相退任後の2022年、安倍元首相は自民党と統一教会(Unification
Church)との長年にわたる関係に腹を立てた一匹狼的な犯罪者に殺害されるという悲劇に見舞われた。この殺害事件に対する怒りが広まる一方で、世論は犯人の訴えを支持するようになり、自民党は再調査を開始し、統一教会との関係を放棄せざるを得なくなった。
長い間待ったのではあるが、石破首相の在任期間は長くは存在しないかもしれない。衆議院が新首相を選出しなければならないまでの30日以内に、石破から相殺を交代させるのは物理的、手続き的に困難だが、惨めな成績を受けて、石破が辞任することが予想される。一方、自民党と最大野党の立憲民主党(Constitutional Democratic Party、CDP)の勢力均衡のカギを握る中小政党との密室交渉(backroom negotiations)が始まった。
自民党は11月11日に国会を開き、そこで新首相を選出することを提案している。過半数を獲得する者がいなければ、第2回投票での最大得票者に首相の座が与えられ、弱体化した少数政権(weakened minority government)が誕生することになる。このような政権の安定性を維持するのは難しいだろう。
日本の政治では通常そのようになるのであるが、自民党と立憲民主党の間にイデオロギー的な違いはほとんどない。立憲民主党は、女性が結婚後も自分の姓を保持できるようにすること(自民党には明確な政策がない問題)に賛成し、日本の巨額の政府債務を抑制しようとしながら貧富の格差を縮小するのに役立つ措置を提案している。日本の政府債務は年間 GDPの260%に相当し、世界の主要経済国の中で最高水準となっている。
立憲民主党は議席数を51%伸ばし、148議席に達した。これは215議席の自民党・公明党連立政権にはまだ遠く及ばないが、過半数までは射程圏(striking distance)内だ。立憲民主党は、自民党以外の政党の政治家で現在も政界で活躍している数少ないリーダーの1人である、野田佳彦元首相が率いる政党だ。財務大臣、そして総理大臣として安定した手腕を発揮した野田代表は、特に外交の分野では自民党と同じ政策の多くを追求することが予想される。
しかし、この全ての中でより大きな懸念は、権力争い(jockeying for
power)、連立提携の試み(attempted coalition tie-ups)、個人的な対立(personal rivalries)により、日本の存在が大いに役立つはずのときに、世界の舞台から日本がほぼいなくなることだ。
第二次世界大戦後の平和主義(pacifism)と、事実上あらゆる国際問題についての和解と交渉(reconciliation and negotiation)を助言する一般的な外交政策への重点から離れ、日本は今日、増大する近隣諸国(中国、ロシア、北朝鮮)の連合に対抗する最前線国家(front-line state)となっている。
正式な陸海空軍がないにもかかわらず、東京の防衛力増強は、1950年に「警察予備隊(National
Police Reserve)」という無難な名称で最初の部隊が創設されて以来、静かに行われてきた。そのペースは2012年から2020年までの安倍政権時代に加速し、最近更迭された岸田首相によって更に加速した。岸田首相は、防衛費を10年間でNATO加盟国の基準であるGDPの2%にまで倍増させると宣言したが、その財源は明らかではない。日本の軍事力は世界で最も有能なものの1つと考えられており、通常トップ10に入る。
日本はまた、アメリカとの戦略的同盟(strategic alliance)を超えて、幅広い国々と防衛関係を形成する連合構築国(coalition builder)となっている。日本人は、日米防衛協力が世界でも最も広範なものの1つであるとよく強調していることに注目したい。
今日、日本は多くの国々と防衛関係を築いている。その中には、南シナ海の支配に向け着実に歩みを進める中国を警戒する東南アジア諸国だけでなく、イギリス、フランス、イタリアといった遠く離れた同盟諸国も含まれている。日本は、東京にNATOの事務所を置くというアイデアさえ推進しようとしたが、消極的なフランスに却下された。
日本もまた、外交政策の発表においてより強い姿勢を示しており、これまでの歴史的寡黙さ(historical
reticence)の多くから脱却している。岸田はロシアのウクライナ侵略を即座に非難し、すぐに制裁を発動した。岸田は「これは明らかな国際法違反であり、ウクライナの主権と領土保全を侵害するものである。国際秩序の根幹を揺るがす行為として全く容認できない」と述べた。
岸田は後に、日本が懸念する理由を明らかにし、2023年にワシントンを訪問した際に記者団に対し、「ウクライナは明日の東アジアの姿になるかもしれない(Ukraine may be the East Asia of tomorrow)」と語った。これは、中国がモスクワからヒントを得て、そのような中国と台湾の再統一(reunification of China and Taiwan)と呼ばれる計画を進めるのではないかという懸念に明確に言及したものだ。
このウクライナへの支持、そしてアジアにおける同様の侵略に対する懸念の高まりは、誰が政権を獲得しようとも変わる可能性は低い。横浜にある神奈川大学の日本外交政策専門家コーリー・ウォレスは、連立政権の首相には焦点を当てるべき国内問題が山ほどあるというリスクがあると語る。
ウォレスは「日本の石破首相は、国内問題で忙殺されることになり、国際問題でリーダーシップを発揮する余裕がなくなるかもしれない」と述べている。
日本にとっての懸念の1つは、ドナルド・トランプがアメリカ大統領に返り咲く可能性にどう対処するかだろう。日本は、トランプ大統領の最初の任期中、トランプ大統領との衝突を回避できた数少ない同盟国の1つであり、安倍首相が「トランプのささやき屋(Trump whisperer)」になったことが大きく評価されている。お世辞とゴルフ(flattery
and golf)を組み合わせることで、安倍首相は気まぐれなトランプ大統領と良い関係を保つことができた。
ウォレスは「石破にはトランプ大統領の懐に飛び込むスキルも関心もないと思う」と語った。
この新米の指導者は、日本の外交・防衛政策について、すでにいくつかの厳しい発言で驚かせている。石破は自民党総裁選に向けた準備期間中に、岸田と安倍が強化に努めてきた日米安全保障関係を再構築したいと述べ、本質的にはより平等である必要があることを示唆した。石破はまた、中国に対抗するためのアジア版NATOの創設も提案した。これがどうやってうまくいくのかという疑問に直面した石破は、後にこれらは長期的なアイデアだと言って撤回した。
元外交官の沼田貞昭は「石破氏はかなり世間知らず(naive)のようだ。彼は防衛専門家と言われているので、問題について知っているに違いない」と述べ、この考えは日本にとって、特に核兵器の分野で多くの問題を抱えていると付け加えた。沼田は「安倍と石破が核共有(nuclear sharing)などの概念について話すとき、彼らは核兵器の使用に関して何を決断する準備ができている必要があるのかについて本当に明確な考えを持っていたのだろうか?
日本の指導者、政策立案者、国民は核IQを高める必要がある」と述べている。
政治的な駆け引きが進行する中、このような議論は将来に先送りされる可能性が高い。しかし、どの程度先の未来になるかは、ロシア、北朝鮮、中国がそれぞれの同盟関係をどこまで発展させるかによって大きく左右されるだろう。北朝鮮軍のロシアへの派遣は、また新たな緊張の高まりを意味する。日本の首相が誰であれ、早急に準備を整える必要があるだろう。
※ウィリアム・スポサト:東京を拠点とするジャーナリストで2015年以来『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。ロイター通信とウォールストリート・ジャーナル紙に勤務し、20年以上にわたり日本の政治と経済を取材してきた。2021年にはカルロス・ゴーン事件とそれが日本に与えた衝撃に関する著作で執筆者の1人となった。
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日本の新首相は政治的断層の上に座っている(Japan’s New Prime Minister Is
Sitting on a Political Fault Line)
-与党である自民党は国力の追求をめぐって揺れ動いている。
トバイアス・ハリス筆
2024年10月9日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/10/09/ishiba-japan-ldp-shinzo-abe-militarization/
石破茂新首相が2018年の自民党(Liberal Democratic Party、LDP)総裁選で当時の安倍晋三首相に挑戦することを決めた瞬間ほど、石破茂新首相の人柄が表れた瞬間はないと言えるだろう。
2018年、安倍首相は2度目に首相に就任してから6年を迎え、支持率に影響を及ぼしたいくつかのスキャンダルにもかかわらず、国内では完全に支配的であり、海外ではますます有名な政治家となっていた。自民党は規則を変更し、安倍首相が3期目(任期は3年間)の総裁選に立候補することを可能にした。これにより、安倍首相は日本で最長の首相職に就くのに十分な期間首相の座に留まることが可能となった。自民党が安倍の再任を拒否するとは考えられなかった。
それでも石破は総裁選への立候補と安倍への挑戦を決意した。石破は2012年9月の自民党総裁選で安倍に逆転で敗北したにも関わらず、かつては安倍に忠実に仕えていたが、安倍首相に対する幻滅はますます高まっていた。石破は、首相の経済計画であるアベノミクス(Abenomics)は主に大企業と大都市に利益をもたらし不平等を増大させる一方で、安倍首相の国家安全保障改革は日本をどのように守るべきかというより本質的な議論を回避していると考えていた。
より根本的な点としては、石破はまた、特に影響力の個人的な使用や権力の濫用に関する確かな非難に直面して、安倍首相の強権的なリーダーシップのスタイルにもがっかりした。石破は安倍首相にこれらの懸念に答えてもらいたいと考え、2018年の選挙戦では「正直と正義(honesty and justice)」をスローガンに掲げて選挙活動を行ったが、安倍首相の同盟者たちはこのスローガンを首相と彼のスキャンダルに対する陰険な攻撃だと認識していた。
石破は予想以上に健闘したが、安倍は予想通り快勝した。
石破は、安倍首相に敵対したために大きな代償を払った。今月首相に就任するまでの8年間、石破氏は閣僚や自民党幹部のポストに就いていなかった。石破は安倍首相の最も熱心な支持者たちから恨み(enmity)を買っており、彼らは石破が安倍首相を裏切っていると非難していた。このことが、2020年の安倍首相辞任後の党首選で石破が3位に甘んじた原因の1つであることは間違いない。
彼は自分の党と歩調を合わせていない人物だったが、それでも安倍首相の重大な誤りであると信じていることに関して自分の見解を曲げることを望まなかった。
それゆえ、石破が党内では友人を持たず、依然として権力を持つ右派に嫌われているという評判にもかかわらず、9月27日にわずか15票差で、安倍首相の最も忠実な側近である高市早苗氏を破り、自民党の総裁に、そして日本の次期首相になったことは驚きだった。
石破と安倍やその追随者たちとの違いは、単なる政策の問題ではない。むしろ、それらは自民党内のより根本的な哲学的分裂(more fundamental philosophical divide)を反映している。
安倍首相は文字通り、たとえ日本国民がそのグループの目標を共有しなかったり、その手法を承認しなかったりしたとしても、日本軍に対する戦後の制約を取り除き、日本を本格的な大国にしようとする党の伝統の継承者だった。冷戦終結後の安倍たちの努力のおかげで、この伝統が党内を支配するようになり、自民党内の他の思想派を脇に追いやったり、包摂したりした。
石破は、そうした対立する系統の1つに属する。彼は1980年代、自民党の悪名高き「影の将軍(shadow shogun)」田中角栄の勧めで政界入りした。田中角栄は、いわゆるロッキード事件に端を発する贈収賄容疑で法的手続きに巻き込まれながらも、圧倒的な政治機構を築き上げた人物である。田中角栄は腐敗した政治機構を築いたことで最もよく知られているが、彼の政治には接待以上のものがあった。
日本の辺境の「雪国(snow country)」の一部である日本海に面した新潟県出身の田中角栄は、この国のどの地域も戦後の経済奇跡から取り残されないようにするという決意を持っていた。田中は、自民党がその権力を使って高速道路、橋、高速鉄道を建設し、故郷のような田舎の僻地で雇用を創出し開発を促進し、列島をつなぎ合わせることを望んでいた。彼は徹底した民主政体信奉者であり、彼のニックネームのもう1つは「庶民の首相(the commoners’ prime minister)」であったが、石破や他の若手政治家たちに対し、有権者の意見や懸念に耳を傾け、彼らの生活をより良くするために国家権力を活用することを優先しなければならないと強調した。
田中派は1970年代から1980年代にかけて自民党を支配したが、田中が法廷闘争に明け暮れ、ますます健康を害していくにつれて分裂し、ついには汚職スキャンダルによって田中の信奉者たち(石破もその1人)が政治改革を求めて自民党を離党し、1993年に自民党を初めて野党に転落させた。
結局、石破は1997年に自民党に戻ったが、その時点で自民党は別の政党になっており、安倍支配をもたらした右傾化(the move to the right)が既に始まっていた。
しかし、自民党が変わっても、石破は田中から学んだ教訓に固執した。党は有権者の声に耳を傾けなければならなかった。日本の最も恵まれない人々や地域の生活をより良いものにしなければならなかった。そして、自民党が大きな変化、例えば日本国憲法の変更や国防費の増額を望むのであれば、有権者がこれらの目標を支持するよう説得するために、懸命に働き、正直に話さなければならなかった。
石破が一貫して自民党で最も人気のある政治家の1人であるのは偶然ではない。
石破が現代の自民党で異彩を放っているのは、田中への愛着だけではない。彼はまた、世界の中で日本が果たすべき役割についても独自な見解を持っている。戦時中、満州での従軍経験から再軍備に深く懐疑的で、冷戦時代にはアメリカからの日本の独立を主張することに熱心だった田中とは異なり、石破は平和主義者(pacifist)ではない。実際、石破は自分のことを「軍事オタク(military
otaku)」と呼んでいる。日本の議員としては異例なほど軍事問題に熱心であることを、狂信的なオタク(fanatical
nerd)を意味する日本語を使って表現している。
しかし、安倍首相とその支持者たちが国家的大国のプロジェクトの一環として日本の軍備を強化しようとしたのに対し、石破は自国と国民を守ることに関心がある。日本は軍事的脅威から自国を守るだけの能力を持つべきであり、無謀や無策(ecklessness or fecklessness)によって東京を危険に晒す可能性のあるアメリカへの依存を減らすべきである。確かに、石破は日本がアメリカと同盟を結ぶことに反対していないが、核抑止力(nuclear deterrent)の管理も含め、日本が一人前の独立したパートナーになることを望んでいる。
石破が望んでいないのは、日本が自国のために力を競い合ったり、東アジアの軍事バランスだけに集中したりすることだ。そして、軍事力の追求と並行して、中国や韓国、その他の地域大国との関係における外交や通商の重要性を強調し、戦時中の過去について日本がもっと謙虚になることを求めてさえいる。
この哲学的な隔たりは、9月の自民党総裁選挙で明らかになった。石破は日本国民の安全と安心を強調して立候補した。高市のスローガンは「総合的な国力の強化(strengthening comprehensive national power)」だった。これら2つの綱領の間には、戦後の日本の政治において最も永続的な断層(the most enduring fault lines)のいくつかがあり、21世紀においては、相対的な衰退を容認し対応する日本政府と、それを逆転させるために並外れた措置とリスクを講じる日本政府の違いを意味する可能性がある。
石破の今後について楽観視できないのはこのためだ。安倍首相は去ったかもしれないが、安倍派自体が一部の議員の政治資金の移転を隠蔽した資金計画による裏金(slush fund scheme)への参加によって崩壊したとしても、2012年から2022年に亡くなるまで安倍首相が支配していた党内で、安倍の思想とその知的な後継者たちは引き続き大きな役割を果たし続けている。
石破の勝利が彼らの最後の敗北を意味しない。高市は既に次の党首選の準備をしているかもしれない。しかし、石破の反安倍ヴィジョンの高市の親安倍ヴィジョンに対する勝利というよりは、石破の有権者からの根強い人気が議席を守るかもしれないと考えた自民党の弱小議員たちによる日和見的な賭け(opportunistic bet)であり、石破の前任者である岸田文雄による、高市よりも石破の方が自分の遺産を守れるという賭けだったのかもしれない。
従って、石破は勝利したが、依然として党内で孤立している。自民党総裁としての最初の1週間を彼は、アベノミクスへの反対を撤回し、とりわけ岸田前首相が安倍元首相の経済政策を推進したことを理由に、安倍自身の派閥を中心とした選挙資金スキャンダルに関与した自民党議員に対して寛容の姿勢を表明した。石破氏が2018年に声高に拒否した、何が何でも権力を行使するスタイルの政治だ。
これらの妥協(compromises)は避けられなかったのかもしれない。高市とその支持者たちは現在、自民党内で野党を構成しており、石破が安倍路線から大きく逸脱した場合、反乱の有力な火種となる可能性がある。しかし、これらの措置はまた、より民主的な政治を築こうと決意した理想主義的な真実の語り手としての彼の評判を損なう可能性があり、まさにそれが彼が政治に固執し続ける理由であるが、それは首相の職を開始直後に弱体化させるだけでなく、首相の地位を危険にさらす可能性もある。石破が10月27日の解散総選挙で政府の過半数を獲得することを準備している。どの政治家にとっても、特に石破の歴史を持つ政治家にとって、党内で過半数の支持者がいる状況でポスト安倍自民党を新たに構築するのは荷が重すぎるかもしれない。安倍首相の政治的ヴィジョンに引き続き関与している。
しかしながら、石破自身が新しい自民党の追求に失敗したとしても、彼の勝利は日本の与党の中心にある対立を露わにした。安倍首相が国内外で執拗に権力を追い求めた代償に対する自民党の清算は、今後何年にもわたって日本の政治を形作っていくだろう。
※トバイアス・ハリス:アメリカ進歩センター(Center for American
Progress)上級研究員。著者に『因習打破主義者:安倍晋三と新しい日本(The Iconoclast:
Shinzo Abe and the New Japan)』がある。ツイッターアカウント:@observingjapan
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(終わり)

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