古村治彦です。
イギリスの総選挙の投開票が実施され、労働党が圧倒的な議席を獲得し、14年ぶりに政権交代となった。保守党は歴史的な惨敗を喫した。中道派の自由民主党や右派のリフォームUKは議席を増やした。議席数は労働党が412議席(214議席増)、保守党が121議席(252議席減)、自由民主党が71議席(63議席増)、スコットランド国民党が9議席(37議席減)、リフォームUKが5議席(5議席増)、緑の党が4議席(3議席増)などとなっている。興味深いのは得票率で、労働党は前回とほぼ同じ、保守党は19.9%減、自由民主党も横ばい、リフォームUKは12.3%増となった。得票率が横ばいでも獲得議席数が激増した労働党と自由民主党、得票率は半減だったのに議席減が壊滅的となった保守党、得票率が激増したが議席数には反映されなかったリフォームUKという構図になる。
今回の選挙について、労働党が獲得議席数では大勝利ながら、得票率では前回とほぼ同じで、横ばいだったことを考えると、「保守党が自滅した、しかも大規模に」ということになる。このようなことが起きるのは、単純小選挙区制(first-past-the-post voting system)であるからだ。単記非移譲式投票(single non-transferable vote、SNTV)と呼ぶこともある。各選挙区の定数は1で、最多得票者が当選者となる。非常にシンプルだ。炭塵小選挙区制では、死票(wasted vote)が多く出るのが特徴で、それが欠点とされる。日本では衆議院選挙で小選挙区制が導入されたが、この時に比例代表での復活も可能な制度が導入された。日本の制度では死票が減少するが、「小選挙区で落選した候補者が復活するのはおかしい」という批判がなされる。完全な比例代表制度(proportional representation、PR)を採用している国もあるが、少数政党が乱立し、過半数を握る単一政党が出にくいために、連立政権となり、政治が安定しないという批判もある。完璧な選挙制度は今のところ考え出されていない。
死票が多く出る
今回のイギリスの総選挙では、保守党への大きな批判があったのは確かで、それをうまく利用したのが労働党であり、選挙戦術として、勝利の可能性の高い選挙区に集中した自由民主党が勝利を収めたということになる。そして、保守党への不満・批判票はリフォームUKに流れたと推察される。リフォームUKは得票率だけならば、第3位になった。労働党、保守党とリフォームUKの合計得票率は3割超えというところで、拮抗している。リフォームUKが出ていなければ保守党の議席減、労働党の議席増はそこまで大きくなかったと考えられる。私が子供の頃は、アメリカとイギリスは二大政党制と習った。小選挙区制では二大政党以外は勝ち抜くのがなかなか大変だと言われているし、実際そうである。
政治学では、デュヴェルジェの法則(Duverger's law)というものがあり、フランスの政治学者モーリス・デュヴェルジェが主張したものだが、選挙区でM人が選出される場合には、候補者はM+1人になるというものだ。小選挙区制度ではM=1なので、2人が候補者となる。この考えは最初、候補者ではなく、政党数が収れんしていくと主張するもので、小選挙区制度の国では政党数は2つになる、ということになる。昔の日本では中選挙区制(multi-member district)を採用しており、一番大きな選挙区では5人が選出されるとなっていたので、6つの政党が存在できるということになる。55年体制下の日本で考えると、自民党、社会党、公明党、民社党、共産党、社民連が国政政党として存在した。
イギリスでは第三党、中道の第三勢力を求める動きがあり、自由民主党が一定の勢力を持つことにつながっているようであるが、リフォームUKの出現がどこまで影響を与えるかが注目される。今回の投票率は約60%であり、これはこれまでと比べての低い数字となった。有権者の関心が低かったということもあるだろうが、政治に関する無関心が拡大しているということも考えられる。
労働党は大きな議席を得たが、国民生活の改善、物価高の抑制と移民対策、外交政策で成果を出すことが必要で、それがなければ、次の選挙では大敗を喫するということは十分に考えられる。
●イギリスのここ最近の選挙の概略的な結果表示●
■2010年
・保守党306議席(96議席増)36.1%
・労働党258議席(91議席減)29.0%
・自由民主党57議席(議席減)23.0%
■2015年
・保守党330議席(24議席増)36.9%
・労働党232議席(26議席減)30.4%
・スコットランド国民党56議席(50議席増)4.7%
・自由民主党8議席(49議席減)7.9%
■2017年
・保守党317議席(13議席減)42.3%
・労働党262議席(30議席増)40.0%
・スコットランド国民党35議席(21議席減)3.0%
・自由民主党12議席(4議席増)7.4%
■2019年
・保守党365議席(48議席増)43.6%
・労働党202議席(60議席減)32.1%
・スコットランド国民党48議席(13議席増)3.9%
・自由民主党11議席(1議席減)11.6%
■2024年
・保守党121議席(251議席減)23.7%
・労働党411議席(211議席増)32.1パーセント
・自由民主党72議席(64議席増)12.2%
・スコットランド国民党9議席(38議席減)2.5%
・リフォームUK5議席(5議席増)14.3%
(貼り付けはじめ)
イギリス労働党は全国総投票数のわずか34%で選挙において大勝利を収めた(Britain’s
Labour pulled off a thumping election victory with just 34% of the national
vote)
ヴィッキー・マッキ―ヴァー筆
『CNBC』
2024年7月5日
https://www.cnbc.com/2024/07/05/uk-election-2024-britains-labour-pulled-off-a-thumping-election-victory.html
・イギリス労働党は全国総投票数のわずか34%を獲得し、一方で保守党は約24%を獲得した。
・中道派の自由民主党、右派のリフォームUK、緑の党は一般投票の約43%を獲得したが、確保した議席は総議席数の18%弱にとどまった。
キア・スターマー英首相と妻ヴィクトリア・スターマーが選挙の結果を受けてダウニング街10番地で労働党の選挙活動参加者や活動家たちに挨拶(イギリスロンドン、2024年7月5日)
ロンドン発。イギリスの労働党が総選挙でイギリス議会の議席で巨大な過半数を勝ち取った。しかし、独特なイギリスの選挙制度では、わずか総投票数の34%で大勝が実現した。
選挙結果によると、野党労働堂は全650議席中412議席を獲得した。残り2議席はまだ結果が判明していない。この議席数は全議席数の約63%を占めることを意味している。しかし、労働党は全「一般」投票(“popular vote”)の僅か34%を獲得しただけだ。一方の保守党は総投票数の約24%を獲得した。
他方、中道派の自由民主党、右派のリフォームUK、緑の党を含む少数政党は合計で約43%の得票となったが、獲得議席は全議席の18%にとどまった。
これは、有権者が国内650の各選挙区の地元リストから候補者を1人だけ選ぶという英国の単純小選挙区制度、「先取り」制度(first past the post” system)が手助けをしているものだ。各選挙区で最も多くの票を獲得した人物が、イギリスの下院である庶民院(the House of Commons)議員に選出される。通常、下院で最も多くの議席を獲得した政党が新政府を樹立し、その党首が首相になる。
他の投票システムとは異なり、第2ラウンドや、第1候補者と第2候補者の順位付けはない。これは、小規模政党が一般投票の増加したシェアを議席につなげることが難しいことを意味する
アクサ・インベストメント・マネージャーズのG7担当エコノミストのガブリエラ・ディケンズは金曜日に発表したメモの中で、今回の選挙は「一般投票の3分の1強で過半数を大きく超える議席が得られたため、政治制度に対する警告サインとなった」と述べた。
彼女は、今回の選挙の投票率は60%にとどまったことを指摘している。これは、投票率が59.4%に低下した2001年に次いで、1918年以降、2番目に低い投票率だ。2019年の投票率から7.6%低下した。これは「広範な政治的断絶(broader political disconnect)」を示しているとディケンズは述べた。
ディケンズは「労働党の過半数を大きく超えての大勝は、労働党の人気復活によるものというよりも、私たちの投票システムの持つ特殊性と、票の分散とスコットランド国民党(Scottish National Party、SNP)の崩壊の相互作用の結果である」と述べた。
そうは言っても、ディケンズは「投票はより一般的に左にシフトした」と付け加えた。
「労働党政権が今後5年間統治し、経済成長、投資、個人の実質所得を回復させることができれば、彼らは、将来的に真の改善が見られる立場に立つだろう」とディケンズは語った。
一方、パンテオン・マルコ・エコノミクスのイギリス担当首席エコノミストのロブ・ウッドは、投資家たちは「投票シェア、右派リフォームUKの結果、政治的忠誠を転換しようとする有権者の意欲がどのように政策に反映されるのかをよく吟味する必要がある」と述べた。
ナイジェル・ファラージ率いるリフォームUK党は一般投票の14%を獲得したが、確保した議席はわずか4議席だった。
ウッドは「通常、今回の労働党が獲得した過半数よりも大幅な議席数があれば、複数期の政権を保証することになるだろう。しかし、投票動向を考慮すると、スターマーの過半数は通常ほど安全であるとは言えない」と述べた。
ウッドは、労働党は「約束した変化を実現できることを証明するために、政策変更に迅速に取り組む必要があるだろう」と述べている。
(貼り付け終わり)
(終わり)

ビッグテック5社を解体せよ