古村治彦です。
下記論考は外交・国際関係専門誌『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載されたものだ。これは、アメリカの新右派(New Right)と呼ばれる、アメリカの新思想潮流と外交政策潮流のつながりを検討した内容になっている。アメリカの新右派はドナルド・トランプを支持する人々たちが所属する思想潮流である。この新右派が外交政策における新潮流である「文明主義(Civlizationism)」を生み出していると下記論考の著者レオナール・A・シュッテは述べている。私は新しい言葉を生み出して、いかにも素晴らしい発見ですというようなことを装うことには懐疑的であり、「文明」という言葉を使うのは煽り文句の様にも感じている。
文明主義という言葉について、シュッテは発展途上としながら、文明主義を主張する人々は、「それぞれが覇権国(a hegemon)に主導される「境界を持った文明圏(bounded
civilizational spaces)」を基盤として世界を構成することだ。彼らは、アメリカこそが正当な西洋の覇権国(rightfully the hegemon of the West)であると確信し、アメリカは、西洋の覇権国として、世界規模でのリーダーシップを目指すのではなく、文明の境界を防衛し、ヨーロッパに対して西洋的とされる価値観を堅持するよう促し、中国のような他の文明との共存(coexistence)を図ることが役割であると考えている」と述べている。
文明主義とは、アメリカが西洋文明の覇権国であると考えることであり、西洋とは「特定の地理的領域(a specific geographic territory)、共有された祖先(a
shared ancestry)、そしてキリスト教(Christianity)によって定義される」ということである。簡単に言えば、ヨーロッパ、白人、キリスト教ということになる。アメリカはヨーロッパの派生物(derivatives)ということになる。南米も同様だ。しかし、ここで不思議なのは、文明主義は、アメリカが西半球(the Western Hemisphere)の優位性を確保することを目指している点だ。西半球は南北アメリカ大陸と大西洋と太平洋の一部で構成される。ヨーロッパはそこには入っていない。それなのに、アメリカは西洋文明の覇権国となる。ここの整合性が取れていない。また、わざわざ文明主義という言葉を用いなくても、モンロー主義(Monroe Doctrine)という言葉もあり、それをもじったドンロー主義(Donroe
Doctrine)という言葉がある。
アメリカが世界帝国を維持する国力を失い、世界覇権国の地位から脱落する流れとなっており、現在は、アメリカを中心とする西側諸国(the West)と中国を中心とする西側以外の国々(the Rest)の構造になっている。シュッテはいくつかの文明圏が分立し、それぞれに地域大国、地域覇権国がそれぞれを統治するという形になると主張している。これは、サミュエル・P・ハンティントンの「文明間の衝突(the clash of civilizations)」とどこが違うのだろうか。ドンロー主義と文明間の衝突を混ぜ合わせると、このような考えができて、それに勝手に文明主義という言葉を使っているだけに過ぎない。
アメリカが西半球に引きこもる、それ以外の地域については中国が指導的な立場に立つだろうが、介入主義的なアメリカと異なり、それぞれの体制を尊重し、イデオロギーを押し付けることはないだろう。アメリカは民主政治体制と資本主義と近代的な価値観を押し付けたが、そのようなことはないだろう。従って、ある程度の地位的なまとまりで、地域大国が出てくるということはあるだろう。しかし、そのようなことは誰でも考え付くことで、そこに大仰に「文明主義」などという言葉を使う必要があるのだろうかと私は今でも疑問に思っている。
(貼り付けはじめ)
トランプ後の新右派の大戦略(The New Right’s Grand
Strategy After Trump)
-文明主義(Civilizationism)はいかにして世界におけるアメリカの役割を根底から覆すのか。
レオナール・A・シュッテ
2026年8月25日
『フォーリン・アフェアーズ』誌
https://www.foreignaffairs.com/united-states/new-rights-grand-strategy-after-trump?check_logged_in=1
アメリカの大戦略(grand strategy)をめぐる議論は、長らく「抑制(restraint)」、「リベラル・インターナショナリズム(liberal
internationalism)」、「卓越性(primacy)」といったよく知られた思想的潮流によって形作られてきた。しかし、ドナルド・トランプ大統領の台頭に思想的推進力を与えた「新右派(the Hew Right)」という知的潮流は、これらに代わる新たな有力な考え方を打ち出しつつある。それを「文明主義(civilizationism)」と呼ぶことができるだろう。トランプ政権の主要メンバーによる戦略文書や演説には、「西洋文明(Western Civilization)」についての言及が至る所に見られる。J・D・ヴァンス副大統領は、2025年2月のミュンヘン安全保障会議での演説においてその基調を打ち出し、「私たちが共有する文明(our shared civilization)」を特徴づける根本的な価値観に対する「内部からの脅威(threat from within)」を強調した。トランプ政権の「国家安全保障戦略(National
Security Strategy)」は、「文明の消滅(civilizational erasure)」に対する警告を発している。今年1月のダヴォス会議でトランプは「文明としてヨーロッパと共有する絆(the bonds we share with Europe as a civilization)」を強調し、翌月にはマルコ・ルビオ国務長官が、大西洋を挟んだパートナー諸国に対し、「人類史上最も偉大な文明を更新する(renew the greatest civilization in human history)」よう呼びかけた。
西洋文明が存在し、それが優れているという考え方は、もちろん新しいものではない。しかし、新右派が掲げる「西側諸国[西洋](the West)」の概念―そしてその概念がいかにアメリカの大戦略を導くべきかという点―は、それまで多くの人々が抱いていた理解とは根本的に異なる。それは、立憲民主政治体制(constitutional democracy)、自由(liberty)、平等(equality)といった、出発点を問わず誰もが信奉しうる一連の共有された原則に根ざした、信条に基づく西洋的アイデンティティの理解(a creedal understanding of Western identity)に立脚するものではない。むしろ、新右派の思想家たちにとって、西洋とは、特定の地理的領域(a specific geographic territory)、共有された祖先(a
shared ancestry)、そしてキリスト教(Christianity)によって定義される。
西洋文明の基盤を再考するこの動きを外交政策の領域にまで広げると、そこには新たな、そして明確に異なる大戦略が求められることになる。「文明主義」は、まだ発展途上の概念だ。外交政策に関する「新右派」の思想家たちによる著作は限られており、彼らの陣営内でも意見の対立がある。しかし、そうした文献を検討し、この運動が国内政策について掲げる理念を論理的に突き詰めていけば、彼ら特有の世界観が見えてくる。文明主義者たち(civilizationists)が目指すのは、それぞれが覇権国(a hegemon)に主導される「境界を持った文明圏(bounded
civilizational spaces)」を基盤として世界を構成することだ。彼らは、アメリカこそが正当な西洋の覇権国(rightfully the hegemon of the West)であると確信し、アメリカは、西洋の覇権国として、世界規模でのリーダーシップを目指すのではなく、文明の境界を防衛し、ヨーロッパに対して西洋的とされる価値観を堅持するよう促し、中国のような他の文明との共存(coexistence)を図ることが役割であると考えている。彼らは、圧倒的な優位性を求めて普遍的な覇権を志向することや、リベラル・インターナショナリズムによってアメリカの主権が制約されることを拒絶する。また、文明主義は「抑制」とも異なる。文明主義は、必要とあれば軍事介入(military intervention)を行ってでも西半球(the Western
Hemisphere)における優位性を確保することを求めるからだ。そして、大国が正当な安全保障上の利益(legitimate
security interests)を根拠に自国の「裏庭(backyard)」を支配することを正当化するリアリストの構想とは異なり、文明主義は勢力圏(spheres of influence)とその境界線に対してイデオロギー的な正当性を与えるものだ。
トランプ政権は文明をめぐるレトリック(civilizational rhetoric)を頻繁に使用しているが、実際の外交政策は、文明主義が提唱する内容や、トランプの支持者の多くが期待していた方針とは異なるものだった。仮に202年の大統領選挙で共和党が再び勝利したとしても、直ちに文明主義がアメリカの大戦略になることはない。そのためには、新右派が党内のエスタブリッシュメントに勝つ必要がある。しかし、党内抗争において新右派に有利に働く要因が少なくとも2つあるようだ。一つは人口動態(demographic)だ。多くの世論調査が示すように、共和党内には世代間の分断(a
generational divide)があり、若い有権者は、中東地域におけるアメリカの役割縮小や、中国を主要な脅威と見なす姿勢からの転換といった立場をより強く支持している。もう一つは、トランプによるイラン戦争だ。戦略的に破滅的とも言えるこの戦争の結果がますます明らかになるにつれ、当初からこの戦争に反対していた新右派の影響力は高まっていくだろう。
●ワシントンの新しい外交エリート層(A NEW BLOB IN TOWN)
数十年にわたり、ワシントンの外交政策のエスタブリッシュメントは、様々な形の「リベラルな覇権(liberal hegemony)」を提唱してきた。トランプの第1期政権下でさえ、外交政策の伝統的なエリート層は大きな影響力を行使し、対外政策において相対的な継続性を保っていた。しかし、トランプの第2期政権は、長らく外交政策の議論を支配してきた知的合意を根本から覆し、アメリカの戦略を形成する議論の場に「新右派」を参加させた。ローラ・フィールドがその権威ある著書『激怒する精神(Furious Minds)』で要約しているように、この運動は様々な派閥で構成されている。「ポスト・リベラル派(postliberals)」は、カトリック的な「共通善(common good)」や道徳(morality)を社会に浸透させようとしている。建国時の米国を理想とする「クレアモント派(Claremonters)」は、同意、行政国家(官僚主導の統治機構)の打破、そして市民的徳性(civic virtue)の醸成を目指し、急進的かつ反革命的な行動を提唱している。「ナショナル・コンサバティブ(国家保守主義者)」はキリスト教ナショナリズムを掲げ、リベラリズムの脅威から同質的な国民国家を守ろうとしている。
これら異なる陣営を結びつけているのは、制限された政府(limited
government)、新自由主義経済学(neoliberal economics)、タカ派的な外交政策(hawkish foreign policy)といった伝統的保守主義(traditional
conservatism)の核心的な信条を拒絶し、理念や信条に基づくアメリカのアイデンティティの概念に反対するという点である。その代わりに、新右派はアメリカのアイデンティティを民族・宗教的かつ集団的な条件(ethnoreligious and collective terms)から捉え、アメリカを本質的に白人、キリスト教徒、そして同質的な国民に光栄される、ヨーロッパ文明にその起源を持つ国だと見なしている。彼らは、個人の自由と権利の最大化を執拗に追求した結果、共同体(community)、宗教(religion)、伝統的な規範(traditional norms)が犠牲にされてきたと考えている。言い換えれば、この運動はリベラリズムを西洋文明の基盤ではなく、その「癌(cancer)」であると見なしているのである。
新右派は今や権力の中枢に前例のないほど接近している。彼らは、自らを「現状を破壊する大統領(a self-advertised disruptor president)」と称するトランプの台頭を千載一遇の好機と捉え、それを掴み取ったからだ。この運動は、ヴァンスという著名かつ影響力のある人物を筆頭に、フロリダ州知事ロン・デサンティス、ミズーリ州選出上院議員ジョシュ・ホウリー、メディア・パーソナリティのタッカー・カールソンといった指導者たちをその脇に配している。また、保守派の知的エコシステムの中で、その影響力を制度化しつつある。かつては周辺的な存在だったクレアモント研究所(the Claremont Institute)、かつてはエスタブリッシュメント寄りだったが今やトランプ派の牙城となったヘリテージ財団(the Heritage Foundation)、そして「アメリカ・ファースト政策研究所(the America First Policy Institute、AFPI)」、「センター・フォー・リニューイング・アメリカ(the Center for Renewing America)」、「アメリカン・モーメント(American Moment)」といった新興勢力が、現在、貿易や外交政策など多岐にわたる問題について、右派の議論を主導している。これらの組織は、トランプ政権に政治任用された多数の人材を育成してきた。ある集計によれば、ホワイトハウス行政管理予算局(the White House Office of Management and Budget)局長や国家安全保障担当大統領副補佐官を含む少なくとも70人のクレアモント・フェローシップ出身者が、現政権で要職に就いている。
●文明主義の揺りかご(THE CRADLES OF CIVILIZATIONISM)
新右派のアメリカについてのヴィジョンは、アメリカ社会の非リベラルな基盤を強化し、彼らが考える「西洋文明の遺産(Western civilizational heritage)」を守ろうとする独特な外交政策に変換している。文明とは―少なくとも、政治学者の故サミュエル・ハンティントンが広めた単純化された理解においては―宗教(religion)、歴史(history)、言語(language)といった継承された特性によって定義される、同質的な文化的実体(homogeneous
cultural entities)と見なされる。ハンティントンは、文明間の差異は単なる政治的イデオロギーの違いよりも根本的かつ不変なものであり、それらは「何世紀にもわたって生み出された産物(the product of centuries)」であると主張した。ハンティントンは、文明間で力が分散するにつれて文化的差異は解消不可能となり、対立を生むようになる。そして、とりわけ西洋の優位性(the West’s dominance)や普遍主義的な野心(universalist
ambitions)が激しく異議を唱えられる中で、そうした事態が加速すると予測した。
しかし、新右派の文明主義の論理は、ハンティントン的というよりはむしろシュミット的である。「敵味方の区別(he friend-enemy distinction)」に関する理論で知られるナチス時代の法学者カール・シュミットは、新右派の思想家の間で広く読まれており、国際秩序(the international order)をいかに構築するべきかという議論も展開していた。シュミットは、世界は地域的な覇権国が支配する空間的ブロック、すなわち「広大地域(グロースラウム、Grossräume)」によって適切に組織化されるだろうと提唱した。シュミットは、それぞれの広大地域を支配する覇権国は、必要とあれば強圧的に支配を行うべきだと考えていた。しかし同時に、そのような秩序は安定したものになる(such an order would be stable)とも予測していた。なぜなら、普遍主義的なイデオロギーとは異なり、異なる政治体制の共存を受容するからだ。
安定(stability)と共存(coexistence)を重視するシュミット的な視点は、「永久戦争(forever wars)」への反対や普遍主義的な構想の拒絶といった新右派の姿勢と共鳴している。文明主義が示す相対的な抑制の姿勢は、軍事介入を正当化するためにしばしば西洋文明の防衛を掲げた「十字軍的(crusading)」なネオコンサヴァティヴィズム(neoconservativism)や、文明の衝突を予言する(prediction that civilizations will clash)ハンティントンの説とも区別されるものだ。したがって、文明主義とは、地域的な帝国主義(regional imperialism)こそが世界秩序を形成する上で最も正当かつ有望な手段であると見なす、階層的かつ反普遍主義的な(hierarchical and antiuniversalist)大戦略として定義するのが最も適切だろう。具体的には、この大戦略は次のように主張する。すなわち、アメリカは西半球における優位性(dominance over the Western Hemisphere)を追求すべきであり、文明主義的な世界観を共有する極右勢力を支援するためにヨーロッパの情勢に介入すべきであり、一方で他の文明の勢力圏からは手を引きつつも、それらを尊重すべきであるというものだ。
文明主義は、トランプの世界に対するアプローチとは著しく異なる。トランプ政権はしばしば文明主義的な言葉を使うが、トランプ自身の行動は、個人的な不満(personal
grievance)や取引的な衝動(transactional impulse)、そして身内や側近(kin and clique)の財産を最大化しようとする私的な関心に主に突き動かされている。トランプ政権の外交政策と文明主義との間の最大の乖離は、中東政策に見られる。選挙公約とは裏腹に、トランプはこの地域から撤退するどころか、当初はイランに対する体制転換(regime change)を目的とした戦争と銘打った行動に踏み切った。イスラエルを特権的な同盟国として扱うその態度は、故リンジー・グラム連邦上院議員のようなネオコンのタカ派の姿勢と似通っている。
■「文明主義 は、アメリカがヨーロッパの情勢に介入すべきだと主張する。」
一方、アメリカの新右派は、イスラエルを擁護することにはそれほど関心を持っていない。右派層に陰謀論的な反ユダヤ主義が広がっていることが要因の1つだ。また、イスラエルを聖書の預言の成就(the fulfillment of biblical prophecies)であり、それゆえに文明的な同盟国として不可欠な存在と見なす「キリスト教シオニズム(Christian Zionism)」の人気が、アメリカの保守層の間で低下していることも挙げられる。しかし、戦略的な理由もある。新右派の多くの人々は、イスラエルとの同盟関係によってアメリカが中東地域に縛り付けられ、不必要かつ莫大なコストのかかる戦争を強いられてきたと考えている。ガザ地区でのイスラエルの軍事作戦がもたらした暴力の規模もまた、特に若い保守層の間でイスラエル支持から離れる動きを加速させた。
文明主義はまた、中国に対してトランプが採用してきたものとは異なるアプローチを提唱している。トランプ政権は、中国を危険なライヴァルとして敵対的に扱うことと、東アジアから撤退することの間で、一貫性を欠いた揺れ動きを見せてきた。トランプ政権支持者は、こうした方針の揺れを、対決に向けてアメリカがより有利な立場を築くための時間を稼ぐ「巧妙な策略(cunning ploy)」だと見ている。アジアへの軸足の転換(pivot to
Asia)は事実上頓挫したと考える人々もいる。いずれにせよ、文明主義が提唱するのは、アジア地域からの軍事撤退という、より一貫した戦略だ。これは、中国の勢力圏内における中国の覇権を容認することに等しい方針と言える。例えば、新右派の著名な論客であるソーラブ・アーマリ、パトリック・デニーン、グラッデン・パッピンが2022年に『ニューヨーク・タイムズ』紙に共同寄稿した論説では、中国を「文明的に対等(civilizational equal)」と位置づけ、「無思慮な対中タカ派姿勢(mindless
China hawkism)」ではなく、実践的な協力(pragmatic cooperation)を呼びかけている。新右派を代表する外交政策の論客であるマイケル・アントンは、台湾をめぐって戦う価値はない(Taiwan is not worth fighting over)と明確に発言している。
文明主義は、西半球やヨーロッパに対するトランプの外交政策にすでに強い影響を及ぼしている。文明主義的な見方によれば、地域覇権国は秩序を維持し外部勢力を排除するために、自らの「裏庭」に対して支配力を主張すべきとされる。西半球の管理は、新右派にとって特に切迫した懸念事項である。なぜなら、異質とされる文化圏からの移民や麻薬の流入が、彼らが望む社会の同質性や安定を損なうからだ。文明主義者はヨーロッパを、西洋文明の歴史的発祥地であると同時に、その最大の脅威であるリベラリズム(liberalism)の主要な発生源とも見なしている。したがって、ヘリテージ財団のケビン・ロバーツ会長が「文明の自殺(civilizational suicide)」と呼んだ事態を防ぐためにヨーロッパの情勢に強引にでも介入することは、ある種の内政の一環として正当化されることになる。しかし文明主義は、リベラルなヨーロッパ連合(EU)諸国政府を弱体化させ、最終的にヨーロッパを文化的に従属させようとするトランプ政権の、往々にして場当たり的かつ象徴的なアプローチをさらに激化させるだろう。
文明を基軸とした大戦略をとれば、ロシアは脅威とは見なされず、結果としてヨーロッパに対するアメリカの安全保障上の関与も維持されなくなるだろう。新右派の中には、ロシアとの文明的な親和性を強調し、二国間関係の深化を主張している人たちもいる。ロシアは「反ウォーク(反進歩主義的、anti-woke)」な国であり、タッカー・カールソンの言葉を借りれば、アメリカと「多くの共通点を持つ(a lot in common with)」「キリスト教国(Christian
country)」だからだ。また別の勢力は、東ヨーロッパにおけるロシアの勢力圏を容認するような、モスクワとの現実的な妥協を提唱している。
●新右派、新世界(NEW RIGHT, NEW WORLD)
もしワシントンが一貫した文明を基礎に下大戦略を採用すれば、アメリカの外交政策は根本から覆されることになるだろう。それは、地政学的なライヴァル国に対して、従来は考えられなかったような譲歩を許容することにつながる。文明主義は、すでに揺らいでいる大西洋同盟関係に歴史的な試練を突きつけるだろう。ロシアに東ヨーロッパの実質的な支配権を与えたり、モスクワを共通の西洋文明の一部と見なしたり、あるいはヨーロッパの現職政府に対してより公然と敵対的な動きを見せたりすることになるからだ。アメリカの他の歴史的な同盟関係も打撃を受けるだろう。中国の地域覇権を容認すれば東アジアの同盟諸国を見捨てることになり、中東地域から撤退すればイスラエルは孤立無援の状態に置かれることになる。
しかし、文明主義には矛盾が山積しており、もしそれがワシントンの指針となる政策になれば、そうした矛盾はすぐに露呈するだろう。学者アミタヴ・アチャリヤが書いているように、文明とは「分析的な意味での神話(myths in the analytical sense)」に過ぎないからだ。長い時間の経過の中で、民族的・文化的な純粋さ(ethnically or culturally pure)を保ち続けたり、あるいは同じ国境の枠内に留まり続けたりした文明は1つとして存在しない。実際、文明の境界線を引くことは容易ではない。ロシア文明はどこで終わるのか?
ジョージア、バルト諸国、あるいはフィンランドまでを含めるべきなのか? また、アメリカの文明圏はラテンアメリカのどこまで及んでいるのか?
文明に基づく秩序が平和的なものになるとも考えにくい。文明間の主張が競合し、地域戦争(regional
wars)の火種となる可能性があるからだ。ある文明が他の文明を「異質な文化(alien cultures)」と定義するような文明論的大戦略をとれば、差異を容認するどころか、むしろ敵対心を煽ることになりかねない。実際、ヨーロッパの極右政党でさえ、アメリカの極右勢力から露骨な支援を受けることに、次第に関心を示さなくなっているようだ。仮に大国間衝突(great-power conflict)を回避できたとしても、文明内部での暴力や紛争が頻発するだろう。日本、パキスタン、ポーランドといった国々が、それぞれ中国、インド、ロシアによる地域覇権を容認するとは考えにくいからだ。
新右派もまた、統一された陣営(a unitary camp)ではない。例えば、国家保守主義者たちは、アメリカとイスラエルの関係を弱めることや、中国やロシアの帝国主義を容認することに反対している。一方で、中国やイランといった「文明上の敵(civilizational enemies)」に対する「十字軍(a crusade)」を支持する人々も依然として存在する。さらに、新右派の最大の関心事はあくまで国内政策にあり、外交政策は往々にして二の次にされてきた。
しかし、アメリカの右派の思想的未来、そしてアメリカの大戦略の行方は、依然として不透明なままだ。トランプ政権は、冷戦後の「リベラルな覇権(liberal hegemony)」をめぐる超党派の合意を打ち破ったものの、それに代わる一貫性のある代替案を提示することには失敗した。ワシントンの外交政策のあり方をめぐる今後の論争において、文明主義は有力な選択肢の1つとなるだろう。
※レオナール・A・シュッテ:カーネギー国際平和財団のヨーロッパ・プログラム研究員。2025年から2026年にかけて、ハーヴァード大学ケネディスクール・ベルファー記念センターの国際安全保障プログラム研究員を務めた。
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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』












