古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:譲位

 古村治彦です。

 

 今回はちょっとまとまりのない、分かりにくい日本関連の記事をご紹介します。

 

 今回の記事では、日本が初めて軍事衛星を打ち上げたことで、「日本の積極的平和主義」は進められているということを述べています。記事には、ワシントンにあるCSIS(戦略国際問題研究所)の日本部長ザック・クーパーが登場しています。クーパーは、スタンフォード大学卒、修士号と博士号はプリンストン大学というエリートです。日本部長をしていますが、博士論文(“Tides of Fortune: The Rise and Decline of Great Militaries”)の指導教授はアーロン・フリードバーグです。CSISの日本部長ということで、マイケル・グリーンCSIS副理事長の部下ということになります。クーパーは、「日本が積極的な平和主義を追求しているのは、平和主義的な姿勢を維持するためである。また、日本は“普通の国”になろうとしているのだ」と説明しています。

 

 日本では大きすぎる問題のためにかえって論じられることがはばかられてしまう天皇の退位と譲位についてですが、今上天皇の姿勢を「積極的平和主義」と対比させて描いているところは、外側からの目の方が重要な点を掴みやすいものなのだと感じました。

 

(貼りつけはじめ)

 

日本にとって、新しい軍事衛星が後になって新しい天皇になるかもしれない(For Japan, a New Military Satellite and, Maybe Later, a New Emperor

 

エミリー・タムキン筆

2017年1月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/01/24/for-japan-a-new-military-satellite-and-maybe-later-a-new-emperor/

 

日本の戦後の平和主義のゆっくりとしたしかし確固とした変化が火曜日に促進された。この日、日本政府は初めての軍事通信衛星を打ち上げた。

 

現在、日本の自衛隊が使用している非軍事用の衛星に代わる3つの軍事衛星の最初の衛星であるきらめき2号が打ち上げられた。新しい衛星は、高速の高性能の通信能力を持ち、自然災害に対してより効果的にかつ効率的に監視を行えるようになるが、それは同時に増大しつつある安全保障上の挑戦に対する対応もできるようになる。

 

アジア地域のアメリカの同盟諸国はアメリカの後退について懸念を持っている。一方、日本の政治家たちは、南シナ海と東シナ海における中国の攻撃的な姿勢と核兵器10発を製作できるだけのプルトニウムを持つと考えられている北朝鮮に備えようとしている。より良い通信能力を獲得することで、日本の軍事力は増強されることになるだろう。日本の自衛隊は現在海外での活動を認められているが、軍事衛星によって海外における平和維持活動に貢献することになる。

 

CSISの日本部長であるザック・クーパーは、新しい衛星群は再軍備を意味するものではないと本誌の取材に対して述べている。クーパーは、「日本は、憲法が認めた、積極的な平和主義を追求しているのであって、攻撃的な軍事増強を行っているのではない。日本はより“普通の国”に戻ろうとしているのだ」と語っている。

 

日本の安倍晋三首相が行っている積極的平和主義に向けた動きはこれだけに留まらない。2016年12月、日本政府は海上保安庁の予算を2100億円(18億ドル)に増額し、新たに5隻の巡視船と200名以上の要員の増加を決めた。また同時期、日本は5年連続で防衛予算を増加させ、総額は440億ドルに達している。

 

クーパーは、「アジア各国、特に中国が防衛予算を増額させることで、日本の防衛力の増大も阻害されている」と語った。火曜日、高分3号SAR衛星が実働を始めた。この衛星によって、領土紛争が起きている地域での様々な活動を監視することができる。クーパーは、「数隻の巡視船の投入と予算の微増は、周辺地域の安定が危機に直面している中で、平和主義的な姿勢を維持し続けるための方策に過ぎない」と述べた。

 

実際のところ、東シナ海で日本と領有権を争っている岩礁である尖閣諸島(中国では魚釣島)を包囲している。中国政府は南シナ海の大部分の領有を主張している。 ドナルド・トランプ米大統領とレックス・ティラーソン国務長官は、もし必要となれば武力を使ってでもこれらの地域のアメリカの国益を守るという強迫的な言辞を使って、中国に対して強硬姿勢を取っている。トランプ政権の強硬な姿勢について、日本では紛争に巻き込まれるのではないかという懸念を持つ人々が出ている。

 

トランプ政権は日本と協力することに特に関心を持っていないのではないかという懸念を持っている人々がいる。大統領になっての最初の行動として、トランプはアメリカのTPPからの脱退に署名した。TPPは多国間の貿易協定で、日本の安倍首相とアメリカのバラク・オバマ前大統領が主導してきた。

 

日本では政治の面で大きな変化が起きる可能性がある。月曜日、政府の審議会は、日本の国会に対して、今上天皇の退位を認める答申を出した。現在83歳になる今上天皇が息子である56歳の皇太子徳仁親王に天皇の地位を譲ることになる。現在までの2世紀の中で、日本の天皇が上位を行うのは初めてとなる。

 

付言すると、クェーカー教徒によって教育された今上天皇の天皇在位期間は、1989年に始まったのだが、この期間の多くの期間で、激戦地や戦争の爪痕を残す場所を訪問することで特徴づけられている。今上天皇はアジアにおける戦禍を目撃し続けてきた。日本の軍事力を整備した平和主義が追求されているが、皇太子がこの立場を取らねばならないということではない。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)








アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22


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 古村治彦です。

 

 昨日、今上天皇が生前退位の意向を持っている、とNHKが報じました。このニュースは驚きを持って迎えられました。

 

 今回の報道をアメリカとイギリスの新聞はどのように報じているかを皆様にご紹介します。まぁフィナンシャル・タイムズの親会社は日本の日本経済新聞ではあるのですが。

 

 ニューヨーク・タイムズはかなり踏み込んだ内容になっています。参院選3日後であること、皇太子も含めて安倍首相に批判的であるといった内容が書かれています。

 

 ワシントン・タイムズはAP通信の記事を掲載していますが、皇后と一緒に皇室の伝統を変えてきたということを書いています。

 

 フィナンシャル・タイムズは病気はあっても、歴史の傷を癒そうとしていると書いています。

 

 それではお読みください。

 

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●『ニューヨーク・タイムズ』紙

 

Emperor Akihito of Japan Plans to Abdicate Throne, Broadcaster Says

By MOTOKO RICH JULY 13, 2016

http://www.nytimes.com/2016/07/14/world/asia/emperor-akihito-abdicate.html?ref=asia&_r=0

 

「テレビ放送によると、日本の明仁天皇が譲位の計画を持っている」

 

・日本の公共放送NHKによると、82歳になる明仁天皇(1989年即位、父は太平洋戦争も天皇であった昭和天皇)が側近たちに対して、息子の皇太子徳仁(56歳)に天皇の地位を譲る意向であることが明らかになった。生前の譲位は1817年以来のことだ。

 

・天皇の役割は現在は全体として儀式に限られている。第二次世界大戦終了まで、日本の人々は天皇を半神だと考えていた。また日本軍の最高司令官でもあった。日本降伏後、日本を占領したアメリカは、昭和天皇から全ての政治的権威を取り去った。現在でも多くの日本人が天皇に敬意を抱いている。

 

NHKによると、明仁天皇は2003年に前立腺がんの治療を受け、2012年には心臓の手術を受けた。正式な退位の意向の発表は近いうちに行われる予定だ。

 

・明仁天皇は自身の天皇の地位の継承に関して、ドラマが起きないようにしようとしている可能性がある。父昭和天皇は亡くなるまでの数年間、健康を害していた。ワシントンにある外交評議会日本研究担当状況研究員のシーラ・A・スミスは「天皇は継承をより簡素に、より事務的にしたいと望んでいるように見える」と述べた。

 

NHKの報道の後、日本の左派傾向にある新聞の朝日新聞は宮内庁次長が、譲位の報道について、「天皇はそのような意図を持っていない」と否定した。

 

・安倍晋三首相率いる自由民主党とパートナーが議会選挙で勝利を収めた3日後に、今回の報道がなされた。選挙の結果、彼らは参議院で3分の2を占めた。これは憲法の見直しに必要な数である。安倍首相は長年にわたり、戦争を放棄するとする日本国憲法の条項を覆したいという野心を持っている。

 

・天皇は公式的には一切政治的権威を持っていない。しかし、皇太子は安倍首相の目標に対抗するかのような行動を取っている。皇太子は1947年にアメリカの占領軍が起草した平和憲法について繰り返し発言を行っている。2015年の55回目の誕生日を前に、皇太子は、日本国憲法を賞賛し、「平和の大切さを心に留めておきたい」と述べた。

 

天皇が譲位するについては、国会が皇室典範の改正をする必要が出てくるであろう。現在の皇室典範では、天皇の崩御の後に次の天皇の即位が行われると規定されている。

 

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●『ワシントン・ポスト』紙

 

Japan’s Emperor Akihito, 82, reportedly considering retiring

By Associated Press July 13 at 11:40 AM

https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/report-japans-emperor-akihito-82-considering-retiring/2016/07/13/bd97d23e-48e6-11e6-8dac-0c6e4accc5b1_story.html

 

「日本の明仁天皇(82歳)が退位を考えているという報道」

 

・日本の明仁天皇が、年齢を重ねることで公務を減らすよりも、数年のうちに退位して、天皇の地位を譲る意向を示した、と日本の公共放送が伝えた。

 

・82歳になる明仁天皇はここ数年、自身の好例について言及し、儀式で些細な間違いをしてしまうことを認めている。宮内庁は公務の削減し、皇太子に任せるように提案してきていた。

 

NHKは匿名の宮内庁の取材源からの話として、明仁天皇は宮中の職員たちに対して、天皇としての責任を大きく減らしたり、摂政を置いたりしてまで地位に留まりたくないと述べたと報じている。共同通信も政府関係者の話として、同様の報道を行っている。

 

・水曜日の深夜、宮内庁次長は報道を否定し、日本国憲法では天皇の政治関与は禁止されているので、天皇はコメントしないと述べた。

 

NHKは、明仁天皇は退位の可能性についてここ数年考えており、彼の2人の息子も父の考えを受け入れていると報じた。

 

・明仁天皇は1989年1月に亡くなった父昭和天皇から天皇の地位を受け継いだ。2003年には前立腺がん手術、2012年には心臓手術を受け、いずれも回復した。

 

・近現代の日本の歴史において生前の譲位は行われなかったことであり、明仁天皇はまた皇室の伝統を破ることになった。

 

・明仁天皇は、天皇として初めて、一般人出身の皇后と結婚した。また、皇后は皇室の歴史で初めて、皇后は3人の子供を、乳母を使わずに育てた。

 

・明仁天皇は2013年には、死後は火葬にして遺骨を歴代の天皇よりも小さい霊廟に収めること、そして皇后の遺骨も傍らに安置することを選択し、国全体を驚かせた。この計画は過去400年間の皇室の埋葬の習慣を破るものとなる。

 

・明仁天皇は高齢にもかかわらず、忙しいスケジュールを付けている。儀式に出席し、外国からの訪問者に挨拶をし、海外や日本国内を訪問している。巨大な地震の後は住民たちを慰撫するために被災地を訪問する。

 

・明仁天皇はこれまで、第二次世界大戦の傷を癒そうとしてきた。即位からすぐに中国を訪問し、またその後も主要な戦地を訪問している。昨年には、西太平洋の国パラオを訪問し、今年初めには、日本の戦時中の侵略の被害国フィリピンを訪問した。

 

・56歳になる皇太子徳仁は皇位継承第一位に位置している。皇太子妃雅子は元外交官で、現在は、ストレスが原因となる精神の不調からの回復途上にある。

 

・皇室典範は存命中の皇位継承についてのルールを定めていない。退位後の天皇の地位についても書かれていない。共同通信は匿名の政府関係者の話として、生前の皇位継承には皇室典範の改正が必要になると伝えている。

 

・最後に存命中の天皇の譲位が行われたのは200年前のことだ。

 

・伝統的な数え方では、明仁天皇は125代目の天皇となる。紀元前660年に神武天皇が初代の天皇となってから125代目と言われている。歴史学的な記録では、天皇の始まりは少なくとも紀元後5世紀まで遡れる。最も古い継承されてきた王家ということになる。

 

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●「フィナンシャル・タイムズ」紙

 

July 13, 2016 2:00 pm

Japan’s public broadcaster says Emperor Akihito ready to abdicate

Robin Harding in Tokyo

http://www.ft.com/cms/s/0/0ac18e98-48e6-11e6-b387-64ab0a67014c.html#axzz4EKBs9swl

 

「日本の公共放送、明仁天皇が退位の準備と報道」

 

・水曜日、明仁天皇は天皇の地位から退きたいと考えている、と日本の公共放送NHKが報じた。生前譲位は近現代の日本で前例のないことだ。

 

・生前譲位は「ここ数年」のことであるが、実現すれば200年ぶりとなる。これは、天皇の長男である56歳の皇太子が菊の玉座を引き継ぐことを意味する。

 

・ここ数年、82歳になる明仁天皇は病気がちであった。彼の退位は日本にショックを与えることになるだろう。日本では、天皇は日本国家の安定と継続性のシンボルだ。

 

・宮内庁はコメントを出していない。しかし、NHKはよく宮中からの準公式の情報を報じ、このような国にとって重大な問題について一か八かの報道はしない。

 

NHKの報道によると、天皇は高齢を理由にして公務を減らすことや代理を立てることに消極的だということだ。天皇は国家の象徴のような憲法上の義務を完全に履行できる人間が天皇の役割を果たすべきだと考えているとのことだ。

 

・日本では天皇の退位に対しての準備はできていない。法律を改正する必要がある。

 

・平均寿命が延びていることは、元首たちも高齢になっていくことを意味する。これが退位の理由となる。2013年、オランダのベアトリクス女王は息子に王位を譲った。同じ年、法皇ベネディクト一六世も退位した。

 

・明仁天皇は一九八九年に皇位を継承した。宮内庁が発表している系譜によると、明仁天皇は125代目で、初代は紀元前660年まで遡る。

 

・歴史上、天皇は退位を迫られることも多かったが、最後に生前退位が行われたのは1817年だ。この当時、日本の実権を握っていたのは徳川将軍であった。

 

・明仁天皇は健康問題を抱えている。2002年には前立腺がんと診断された。昨年には心臓病も見つかった。今年2月にはインフルエンザに罹患した。

 

・しかし、今年になって天皇は皇后を伴って、フィリピンを公式訪問し、全ての戦争で亡くなった人々を慰霊した。

 

・憲法で厳しい制約下に置かれているが、明仁天皇は日本の歴史に存在する傷を癒そうとしてきた。昨年は第二次世界終結70周年にあたり、「深い悲しみ」を表明した。

 

・昨年の誕生日の記者会見で、天皇は公務が負担になっていることをほのめかした。「私は誕生日を迎えて82歳となります。年齢を感じるようになりました。儀式ではいくつか間違いをするようになりました」と述べた。昨年のいくつかの機会で、天皇は間違いをしたことを認め、スケジュールの調整をしなければならないとほのめかした。「私は全ての機会において最善を尽くしてそのようなことがないように努めるつもりです」と述べた。

 

・天皇は歴史を正しく記憶することの大切さを発言した。この話題に関しては、皇室と日本の右翼歴史修正主義者とでは考えが対立している。理論上では彼らは天皇を崇め奉るのだが、この点では意見が異なる。

 

・「年を経るごとに、戦争を経験したことがない日本人がどんどん増えていきますが、前の大戦の知識を持ち、戦争についての考えを深めることが日本の将来にとって大変重要であると考えます」と天皇は述べた。

 

・皇太子には一人娘がいるが、現在の男性のみが皇位継承できるとする法律の下では、天皇の地位を継承できない。従って、現在では、皇位継承権第2位は、明仁天皇の次男の息子である悠仁皇子となる。

 

(終わり)





 
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