古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:連邦準備制度

 古村治彦です。

 アメリカ国内のインフレーションは深刻で、年率7.5%の上昇を記録した。1982年以来の急速なインフレーションとなっている。物価上昇は国民生活全体に影響を与えるが、低所得者層にとっては死活問題になる。食料、エネルギー、住宅(家賃)の価格高騰がインフレーションの原因となっている。これらは人々の生活にダイレクトに関わっている。家がなくなればホームレスになるしかないし、電気料金やガソリン価格が上がれば、生活の質は低下するし、寒冷地であれば生死にかかわる。食料品に関しては入手できなければ命を保つことができない。

 アメリカ国内のインフレーション退治、物価の安定はアメリカの中央銀行である連邦準備制度の使命である。連邦準備制度理事会(FRB)が設定している物価上昇率は2%であるが、現在はそれを大きく上回っている。これを何とかしなければならない。政権が民主党だろうが、共和党であろうがそんなことは関係ない。連邦準備制度の設置法の目的にそう書いてあるのだ。そのために、連邦準備制度は2022年3月に利上げを行うことをほぼ正式に決定した。ゼロ金利から脱却して、市場に出回っているお金を回収するということになる。

 しかし、基準金利が上がるということは、これからお金を借りる人には負担増ということになるし、現在変動金利で住宅ローンを借りている人たちにとってもまた負担増ということになる。この負担増にどれだけの人たちが耐えられるか、雇用をどれだけ増やして、人々を職場に復帰させ、住宅ローンを払えるようにするか、ということがジョー・バイデン政権にとっての課題ということになる。単純に言えば、給料の伸びが物価の上昇よりも大きければ、人々の生活は楽になる。この単純なことを実行することはとても難しい。

 現在のインフレーションの原因はコストプッシュということになる。輸入品の価格が高騰していることと、一度錆びついたサプライチェインや物流の再開のためのコストがのしかかっているということになる。輸入品の価格を下げるためには、ドル高傾向にしなければならない。そうなると日本にとっては「強いドル、弱い円」、円安傾向となる。そうなると、日本にとっての輸入品価格が上昇することになる。現在の日本は輸入大国であり、実際に様々なものの価格が上昇している。これは多くの人々が実感していることだ。「アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪をひく」という言葉があったが、今の状況はこの言葉のようになっている。

 アメリカの利上げでインフレーションがどれだけ収束するか、これから注目される。その効果が薄いとなれば、増税ということも考えられるが、選挙前に増税を打ち出すということは、バイデン政権、民主党にとって厳しいだろう。バイデン政権、民主党にとっては今年前半が正念場となる。

(貼り付けはじめ)

FRB幹部たちは1月の会合でより急速な利上げを検討した(Fed officials floated faster rate hikes in January meeting

シルヴァン・レイン筆

2022年2月16日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/finance/594576-fed-officials-floated-faster-rate-hikes-in-january-meeting

今週水曜日に発表された議事録によると、米連邦準備制度理事会(FRB)の理事たちは先月、インフレーション率が設定した目標を超えて上昇し続ける場合、現在の予想よりも早く利上げと保有債券の削減が必要になるだろうと述べた、ということだ。

2022年1月25日から26日に開催されたFOMCの議事録によると、FRBの金融政策を決定する連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee FOMC)の委員たちは、アメリカ経済の強さが量的緩和縮小のプロセスを加速させる可能性があるかどうかについて議論した。

米連邦準部制度理事会関係者たちは、オミクロン変種によるア感染拡大が収まり、サプライチェインへの圧力が緩和され、新型コロナウイルス感染拡大中に実施された財政刺激策が経済的に行き渡った後、年内(2022年)にインフレーションが緩和すると概ね予想していた。

それでも、FOMCメンバーの中には、企業が供給不足と労働力不足に苦しみ続けているため、インフレーション率が予想を上回って上昇し続ける可能性を示唆した。

議事録には、「ほとんどの参加者は、インフレーションが予想通り下がらなければ、委員会(FOMC)が現在予想しているよりも速いペースで政策緩和を解除することが適切であると指摘した」と書かれている。

FOMCは1月の会合後、基準金利の幅を0~0.25%に据え置いたが、大きな経済ショックがない限り3月の会合で利上げを行うと明言した。FRBはまた、新型コロナウイルス感染拡大に見舞われた経済を支援するために始まった、毎月の国債と住宅ローンの購入プログラムを2年後の来月(2022年3月)に終了する予定であり、これらの債券の一部がすぐに借り換えされることなく満期になる可能性がある。

FRBは通常0.25ポイント刻みで利上げを行うが、労働省が消費者物価を前月比0.6%上昇したと発表したことを受けて、投資家の多くは3月に0.5ポイントの利上げを実施すると予想している。

消費者物価指数で測定した1月の年間インフレ率は7.5%に達し1982年2月以来の高い上昇率となった。FRBの望ましいインフレ指標である個人消費支出(personal consumption expenditures PCE)価格指数は2021年に5.8%上昇し、FRBの平均年間目標である2%の2倍以上となった。

FRB幹部たちは、インフレーション率が2021年中に上昇し続ける中、利上げと債券購入の終了を見送り、景気回復への支援を後退させるには時期尚早であると主張した。失業率は現在4%、賃金は急上昇し、雇用主は数百万の求人を埋めるのに苦労しており、ほとんどのFOMCメンバーは、経済は最大限の新型コロナウイルス感染拡大後のポテンシャルに近いと見ている。

「参加者は、労働市場が新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気後退から回復する上で著しい進歩を遂げ、ほとんどの指標において、現在非常に堅調であることに留意した」と議事録に記されている。

議事録には、「労働市場が全般的に好調で改善していることを背景に、多くの参加者はオミクロン変種の影響は労働市場の上昇率を一時的に抑制するだけだろうとの見方を示した」と書かれている。

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年間インフレーション率が7.5%に達し、1982年2月以来の高水準に達する(Annual inflation reaches 7.5 percent, highest rate since February 1982

シルヴァン・レイン筆

2022年2月10日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/finance/593652-annual-inflation-reaches-75-percent-highest-rate-since-february-1982

米国労働省が木曜日に発表した最新データによると、2022年1月末までにアメリカ国内の消費者物価は年間7.5%上昇し、1982年2月以来最も速い上昇率となった。

インフレーション率を示す労働省が発表する消費者物価指数(consumer price indexCPI)は6ヵ月連続で上昇し、経済学者やエコノミストたちのコンセンサスが予測した7.2%の上昇を上回った。

消費者物価も3ヵ月連続の下落から、1月は2021年1月と同じ0.6%の上昇となった。

食品とエネルギー価格を除いた場合、消費者物価指数は年間6%上昇し、1982年8月以来最も速いペースで上昇した。

アメリカは2021年半ばから高いインフレーション率に直面し、新型コロナウイルス感染拡大不況からの強力な経済回復も物価上昇を生み出した。アメリカ経済は昨年600万人以上の雇用を増やし、5.7%の成長を遂げ、個人消費は新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻ったが、駆け込み需要は深刻な供給不足と人手不足、輸送のボトルネック、その他の新型コロナウイルス感染拡大関連の制約とぶつかることになった。

労働統計局は木曜日、2022年1月のインフレーション率上昇をもたらしたのは、食料、電気、住居の値上げが理由だと発表した。食品価格は0.9%上昇し、12月の0.5%上昇のほぼ2倍になった。エネルギー価格も、電気料金の上昇がガソリンと天然ガス価格の下落を相殺し、0.9%の上昇となった。

ホワイトハウスや連邦準備制度理事会の幹部たちを含む多くの経済学者たちは、新型コロナウイルス感染拡大が収束し、多くのアメリカ人が仕事に復帰するにつれて、インフレーションは今年夏には低下するだろうと予想していた。しかし、高いインフレーションの持続は、バイデン政権と中央銀行の双方に大きな政治的・政策的課題を突きつけている。

最近の各種世論調査の結果は示しているのは、バイデン大統領と民主党所属の連邦議員たちが、経済への対応に不満を募らせている有権者たちに景気回復の力強さを売り込むのに苦労しているということだ。食料品、燃料、その他の消費財の価格上昇は、多くの労働者の急速な賃金上昇を、政治的利益とともに帳消しにしている。

労働省によると、2021年1月と比較して、食料価格は7%、ガソリン価格は40%、エネルギー価格全般は27%上昇している。

2021年のインフレーションは主に商品、特にサプライチェインの問題に悩まされた商品に限られていたが、2022年1月の報告書では、サーヴィス価格も上昇し続けており、多くの経済学者たちにとって憂慮すべき兆候となっている。

2022年1月の非エネルギー関連サーヴィスの価格は年率4.1%上昇し、住居の家賃は4.4%、医療価格は2.7%、輸送サーヴィスは5.6%、娯楽サーヴィスは5%上昇した。

会計事務所グラントソントンのチーフエコノミストであるダイアン・スウォンクは、インフレーション率の急上昇は「広範囲に及び、サーヴィス部門に定着する兆しを見せている」と述べた。彼女は、FRBは 「かなり遅れていて、今、沸騰した鍋に氷を入れるニーズに対応できていない」と警告を発した。

FRBは2022年1月に、インフレーション率が年平均目標である2%を大幅に上回る中、今年中に数回の利上げを行うための土台ができているとしている。2020年に世界経済を襲った新型コロナウイルス感染拡大の影響でゼロに近い水準に設定されていた金利を2022年3月に引き上げることをほぼ正式に決定した。

FRBは通常、一度に0.25%ポイント刻みの利上げ・利下げを行うが、一部のエコノミストは、来月はより急な0.5%ポイントの利上げを検討するだろうと予想している。

FRBはインフレーションを抑制することを最優先課題としている。経済分析のオックスフォード・エコノミクス社のアメリカ金融担当チーフエコノミストであるキャシー・ボスティャンシックは木曜日に発表した分析において、「こうした上昇し続ける物価データは、3月の政策会議で50ベーシスポイントの利上げを行い、引き締めサイクルを開始し、その後の会議で連続して利上げを行う可能性を高める」と書いている。

1ベーシスポイントは1%ポイントの100分の1ポイントである。

キャシー・ボスティャンシックは続けて、「FRBが引き締めサイクルのキックオフに50ベーシスポイントは強すぎると判断した場合、次の会合で50が視野に入る可能性がある」と述べた。

共和党所属の連邦議員とエコノミストの多くは昨年(2021年)、FRBに利上げを開始するよう求めていたが、FRBの幹部たちは労働力の復帰を制限するとの懸念から抵抗していた。しかしFRBは、インフレーションが引き続き急騰し、将来の雇用増を脅かす可能性があるとして、2021年12月に方針を急転回させた。

2022年1月のインフレーション率によってFRBの利上げ路線は堅持されることになるだろう。借入コストの上昇は、輸送のボトルネック、他国での新型コロナウイルス封じ込め策、労働力不足による物価上昇にはほとんど影響を与えないかもしれない。

バイデン大統領もインフレーション抑制のプレッシャーに直面することは間違いないが、バイデンは、根強い新型コロナウイルス感染拡大と不均等な景気回復が物価上昇を助長させていることをコントロールすることにも限界がある。

バラク・オバマ前大統領の下でホワイトハウス経済諮問委員会委員長(the chairman of the White House Council of Economic Advisers)を務めたジェイソン・ファーマンは次のようにツィートした。「バイデン大統領はインフレーションを下げるためにほとんど何もできないのが実情だ。大統領は供給に関してできることは何でもできるし、そうすべきだ(そして既にそのほとんどを行っている)が、大したことはできないだろう」。

ファーマンは続けて、「アメリカ連邦議会は収縮財政政策でインフレーションを下げることは可能だが、私はFRBに任せる」と述べた。バイデンが提案した1兆9000億ドルの社会福祉・気候法案、通称「ビルドバックベター法」は物価上昇を冷ますのに役立つと付け加えた。

バイデン大統領、民主党所属の連邦議員、左派の経済学者たちは、ビルドバックベター法は長期的に医療、処方薬、育児の価格を下げると主張している。法案の支持者たちは、その費用をまかなうための増税のおかげで、更なるインフレーションを引き起こすことなく、この法案を実現できると述べている。

しかし、この主張はジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)には通じず、マンチン議員は2021年12月にビルドバックベター計画への反対を表明し、木曜日に追加支出に対して警告を発した。

マンチンは木曜日に発表した声明の中で、「連邦準備制度がこの問題に正面から取り組むべき時を超えている。連邦議会とバイデン政権は、既に火だるまになっている経済に更に燃料を投入する前に、慎重に行動しなければならない」と述べた。
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イギリスのインフレーション率がほぼ30年ぶりの高水準に急上昇(Inflation in UK surges to fastest rate in almost 30 years

マイケル・シュネル筆

2022年2月16日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/594556-inflation-in-uk-surges-to-fastest-rate-in-nearly-30-years

イギリスのインフレーション率は先月(2022年1月)までの1年間で5.5%上昇し、過去約30年間で最も速い上昇率を記録した。

イギリス国家統計局が水曜日に最新のデータによると、インフレーション率を示す消費者物価指数(consumer price indexCPI)の上昇は、1992年3月以来最速の記録であったということだ。イギリスのインフレーション率は2022年1月に年率7.1%上昇した。

年間消費者物価指数は2021年12月から今年(2022年)1月にかけて0.1%上昇し、5.4%から5.5%になった。

イギリスの電気製造料金は先月までの1年間で28.3%上昇した。各社の電気料金は19.2%上昇した。国家統計局は、この値上げについて、「北アイルランドのエネルギー価格が変化したため」と発表している。

更に言えば、先月までの1年間で、持ち家の住宅コストは2.4%増加し、賃貸料は2.3%上昇した。

アメリカでは現在、更に高いレヴェルでのインフレーションが進行しており、2022年11月の中間選挙を控えた民主党は継続的な危機的状況に直面している。先月(2022年1月)までの1年間で、米国の消費者物価は年率7.5%上昇し、1982年以来最も速いペースで上昇している。食品、電気、住居(家賃)の価格上昇がインフレーションの最大の原動力となった。

アメリカでは、新型コロナウイルス感染拡大からの回復を図る過程で、昨年(2021年)半ばからインフレーション率が上昇し続けている。しかし、高いレヴェルの需要と低い供給力、労働力不足、輸送のボトルネックなどの新型コロナウイルス感染拡大関連の問題がぶつかり、全米レヴェルで値上げが行われた。

近い将来におけるイギリスにとっての環境はより悪くなるだろう。AP通信によると、イギリスのエネルギー規制当局が、2022年4月にガスと電気の料金が54%上昇すると発表したので、1500万世帯に影響が及ぶとみられる。AP通信によると、この値上げは、所得税が1.5%増加する予定の同じ月(2022年4月)に実施される。
(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 今回は、「米ドルの供給(US dollar supply)が増大すると、実物資産、特に食糧価格が急騰する。食糧ショック(food shock、食糧価格の急騰)が社会不安(social unrest)を引き起こす」という内容の記事をご紹介する。著者たちの主張の証拠となるのが、2008年のリーマンショックからの国際的な金融危機(global financial crisis)と2010年からの「アラブの春(Arab Spring)」からの相関関係である。アラブの春は民主化(democratization)を求めた人々の動きと言うのが一般的な理解であるが、これはアメリカ、アメリカ国務省が主導した。このことは拙著『アメリカ政治の秘密』で詳しく説明した。

 しかし、このアラブの春は別名「空腹・飢餓の革命(Hunger Revolution)」とも呼ばれている。食糧価格の急激な変動は人々の生活を苦しめ、その不安の高まりもあり、暴動や内戦にまで発展したということである。食糧価格の推移と世界各地での抗議活動やデモの数の推移を示したグラフが下の記事に示されているが、相関関係はあるようだ。

 日米欧、特に日本はデフレーション(deflation)の状態である。給料も下がれば物価も下がる、だから景気が悪い、という状態だ。デフレとは簡単に言うと、供給(supply)は多が、需要(demand)が少ないという状況だ。だから物価が下がる、そして企業や個人の売上が下がれば給料も下がる、そうなると、家計の消費は減っていくということになる。

 ここで日本にとって怖いのは、「コストプッシュ・インフレーション(cost-push inflation)」だ。景気が悪く、給料が上がらない中で、食糧価格が高騰すると、生活は苦しくなる。食糧や石油について日本では輸入に頼っているが、それらの価格が高騰すると、日本でも物価高ということになるが、景気が良くなっている中での物価高ならば給料も上がっていくが、給料が下がっているのに物価が上がっていくということになれば、生活が苦しくなる人は多く出る。

 新型コロナウイルス感染拡大によって世界経済は大きく減速している。その規模は2008年の国際金融危機を超えるものだとも言われている。その時と同様、アメリカの中央銀行である連邦準備制度(Federal Reserve)は経済の安定化のために、ドル供給を行う。そうなれば、食糧価格が高騰し、世界各地で社会不安が起きるという、こういう図式である。日本もまた他人ごとではないが、主には発展途上国を襲うことになる。ハンガー・れヴォルーションが再び起きるということになるのだろう。

(貼り付けはじめ)

食糧価格の急上昇と社会不安:連邦準備制度(アメリカの中央銀行)の危機との戦いの暗い側面(Food Price Spikes and Social Unrest: The Dark Side of the Fed’s Crisis-Fighting

―緊急金融政策は意図しない結果を生み出す:世界規模での食糧価格の上昇

オレ・コーレン、W・キンドレッド・ワインコフ筆

2020年5月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/20/food-price-spikes-and-social-unrest-the-dark-side-of-the-feds-crisis-fighting/

2010年12月の初め、国際連合食糧・農業機関は政策短観を発表した。その中には次のように書かれていた。「世界的な農産物市場における極端な価格の不安定さは、世界の食糧に関する安全性に大きな脅威を及ぼすことになる」。それから数日後の12月17日に、チュニジアの露天商ムハンマド・ブアジジは自分の体に火をつけた。警察がブアジジのフルーツの屋台を没収した。その後にブアジジは自殺した。フルーツの屋台は彼にとっての唯一の生活費を稼ぐ手段だった。ブアジジの自殺はそれ以降、十数件の焼身自殺を引き起こした。そして、大規模な抗議運動が発生した。その大部分は上昇し続ける食糧価格が原因であった。そして、抗議運動は中東と北アフリカに急速に拡大していった。

社会の大混乱の頻発は西側のメディアでは「アラブの春(Arab Spring)」として知られるようになった。しかし、この地域の活動家たちは、アラブの春を「空腹の革命(Hunger Revolution)」だったと描写した。一連の混乱がアラブ世界にだけ限定されなかったということを考慮すると、空腹の革命の方がふさわしい名前ということになる。一連の大混乱は一国の国境内に限定されるものではなかった。リビアとシリアへと飛び火した内戦状態は特に国際化されたものである。シリア内戦による2015年の難民ショックは、ポピュリズム・ナショナリズムの政治運動の台頭をもたらした。こうした政治運動は、最初にヨーロッパで起き、やがて世界中に伝播した。

コロナウイルス危機によって、手頃な価格で食糧を手に入れることができるだろうかという懸念が大きくなっている。特に発展途上諸国でこの懸念が高まっている。今月初め、国際連合総会議長ティジャニ・ムハンマド=バンデは、感染拡大がもたらす食糧危機に警告を発した。一方、国連食糧計画は、感染拡大が起きる前の水準に比べて、急激な食糧不足が2倍の水準に達することになると予測している。近年の農業生産高は堅調に推移してきたが、公的機関や各国政府の幹部たちは、世界規模の食糧供給チェイン(網)のもろさ、食糧買い占め、食糧に関する保護主義について懸念を持っている。食糧不足が顕著化する中で、抗議活動、大衆行動、暴力・非暴力を問わない大規模な反政府デモといった政治に対する争いに関するエピソードが世界各地に広がっていく可能性も大きくなっている。

これらの出来事全てが広範囲な社会的秩序の動揺をもたらす訳ではないが、その中のいくつかは社会秩序を動揺させる。その結果は深刻なものとなるだろう。手頃な価格の食糧へのアクセスを求める抗議活動は政治掲載においては定期的に起きる現象である。2007年から2008年にかけてこうした抗議活動の波が発生した。2010年末に起きたアラブの春よりも前の現象である。より一般的に言えば、食糧ショックに対応する社会運動は、近代史を形作りにあたり重要な役割を果たした。急速に上昇する物価はフランス革命を引き起こした。1848年の革命は、ヨーロッパ諸国で続いた干ばつのために起きた食糧価格の上昇によって引き起こされた。食糧を求める抗議活動はソヴィエト連邦を生み出した1917年のロシア革命だけではなく、歴史的な皮肉と言うしかないが、ソヴィエト連邦の終焉をももたらした。最近で言えば、食糧危機によって、1998年にはインドネシアのスハルト政権が倒された。

これら歴史的な出来事の多くには干ばつのような自然現象も含まれていた。自然現象はマルサス流の力学を始めさせ、悪化させた。食糧の供給可能性は人々が食糧を求める需要のために脅威に晒されることになる。特に都市部での急激な人口増加が伴うと、食糧需要が急速に高まり、供給が脅威に晒されることになる。しかし、これとは別の要素が国際的な食糧価格、そして政治の安定に大きな影響を与えている。その要素とは国際的な通貨システムの変化である。

食糧の国際的な取引は拡大し続けている。その結果、食糧に関しては米ドルで示される国際価格が出るようになっている。その理由は米ドルが国際的に最も使用されている通貨であるからだ。米ドルの価値の変化は世界各地での、その中には食糧価格も含まれるが、物価の変動をもたらす可能性が高い。そして、米ドルの価値は、連邦準備制度の行動に最も影響を受ける。

連邦準備制度は、アメリカ政府から、アメリカ経済において完全雇用、低く安定したインフレーション率、金融の安定の維持を達成するように求められている。連邦準備制度は、様々な政策を利用して、上記の目的を達するために、ドル供給を拡大したり、縮小したりする。連邦準備制度が持つ手段とは、金利の変更、資産購入(別名「量的緩和」)である。通貨供給量の変化は物価に影響を与える。そして、ドルは最も国際的に使われている通貨であるので、物価の変動は国際的なものとなる。

農産物や鉱物資源などの実物資源の価格は特にアメリカの金融政策の影響を受ける。在庫量、分配ネットワークの機能、世界的な需要のレヴェルといった他の諸要素もまた重要な役割を果たすことになる。他の全ての要素がそれまで同様だった場合に、米ドルの供給拡大が実物資源価格の高騰につながるのが典型的な反応だ。食糧価格の変動は世界中での社会の安定に強力な影響力を持つことになる。

このことが示されたのは2007年に始まった世界金融危機の時期だった。アメリカ経済が減速し始め、崩壊した時、連邦準備制度は金利をわずか1年の間に5.25%からゼロに引き下げた。主要な政策金利をゼロにするということは前代未聞だった。しかし、金融部門で崩壊が始まった時、ゼロ金利はアメリカ経済を安定させるためには不十分であったことを示した。2008年秋から、連邦準備制度は一連の量的緩和を開始した。連邦準備制度はドルを他の資産に変えた。資産の多くは政府債券と不動産担保証券で、これで各種金融市場を安定化させ、経済を回復させようとした。2008年から2014年にかけて、連邦準備制度の資産は1兆ドル弱から約4兆5000億ドルに増加した。これもまた前代未聞のことであった。これらの行動の効果は、ドル貨幣供給の増加を招き、2008年から2014年にかけて約50%増加した。

下のグラフが示しているように、食糧価格の急騰と共にみられる極端な動きは、毎月の米ドル供給の変化(これには標準的なM2法を用いる。これは銀行が持つ現金と金融市場の預入額の合計である)と毎月の国際的な食糧価格の変化(こちらのデータは国連食糧・農業機関のものだ)を同時に示したものである。2007年から2011年にかけての食糧ショックの各段階に先だったのは、ドル供給に影響を与える金融政策の変化であった。しかし、連邦準備制度の政策だけが危機をもたらしたと非難することは間違いであろう。石油価格の上昇のような連邦準備制度の政策以外の要素も影響を与えた。しかし、これらの諸要素にしても金融政策の変化に関連して変化するものである。国際金融システムの中核における極端な金融政策は実物資産の急激な価格変動を生み出したのだ。

■食糧ショックとドル供給

米国通貨(ドル)供給と食糧価格指標(複数の農産物を一緒にした国際価格の月単位での変化)

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食糧価格の上昇は政治に大きな影響を与える。下のグラフが示しているように、世界における食糧を求める暴動の件数(マーク・ベレマレのデータによる)は、食糧価格の急上昇に対応して、2005年から2011年にかけての期間の平均に比べて250%も急激に増加している。現在も続いている市民的不服従運動の件数(非暴力・暴力運動とその結果3.0データによる)は、2010年1月の13件から2011年12月の28件に増加している。こうした多くの人々が動員される運動は、リビア、シリア、イエメンで現在まで長引いている内戦状態を生み出した。そして、エジプトでは新しい独裁政権を生み出した。更には、イスラム国の台頭をもたらした。

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現在はその時のような状態になって、私たちはその中に生きていると言えるだろう。新型コロナウイルス感染拡大は別の経済危機を引き起こしている。今年の3月中旬以降、連邦準備制度は大規模な金融政策を実施している。その規模は最近の歴史にないほどのものだ。2016年に政策金利が少しそして中庸に上昇したが、それ以降はゼロ金利に戻っている。更に重要なのは、連邦準備制度の積極的な資産購入のペースは、2008年から2014年にかけての量的緩和プログラムを小さく見せてしまうほどのものだ。中央銀行の総資産は2月末の4兆2000億ドル(約450兆円)から4月末には約7兆ドル(約750兆円)に膨れ上がっている。

いくつかの食糧価格は既に上昇している。上記のグラフが示しているように、食肉価格は歴史上2番目の高さに達している。一方、供給は少しずつ減少している。更に重要なのは、穀物(小麦、トウモロコシ、米)の価格である。穀物は発展途上諸国においては基礎食品を構成しており、摂取カロリーの最大部分を占める。2007年から2008年、2010年から2011年にかけての抗議運動は穀物価格の急激な動きに深く関係していた。最近の米価は近年になく高い状態になっているが、他の穀物の価格の動きは激しくない。それは供給が高いレヴェルを維持しているからだ。連邦準備制度の諸政策はアメリカの食糧生産に大きな影響を与える可能性が高い。アメリカはトウモロコシの世界最大の輸出国であり、小麦と大豆に関しては世界2位の輸出国である。

これら複数の金融政策、特に大規模な資産購入(これは“無制限の量的緩和”と呼ばれる)は、急速な需要縮小に見舞われているアメリカ経済(そして世界経済)を安定させるために、経済的に必要となるだろう。しかし、更なる金融的な介入が少量価格の不安定化を招く可能性が高い。食糧価格の極端な動向の10年を過ぎて、食糧価格が落ち着くまでにはさらに4年間かかった。こうした価格の変動の政治的な結果はより深刻となるだろう。更に言えば、コロナウイルスによるロックダウンから社会が再開し始め、人々がこれから数カ月でレストランに戻ると、各種物価は上昇する結果になるだろう。

どういった国々が最もリスクに晒されているだろうか?下に掲載している地図は国際食糧安全保障指標に基づいて作られている。国際食糧安全保障指標は、食糧購入能力、供給能力、質を1つの安全保障の指標にまとめられている数字である。数字が大きいということは、より安全性が高いということになる。全ての国のデータが利用できる訳ではないが、一般的に言って、これらの側面に関するデータがないことは、全ての状況がうまくいっていると考えるべきではないことを示している。これが示しているのは、現在の食糧安全保障が低い国々のリストは、2000年代のリストとほぼ同じだ。サハラ砂漠以南のアフリカ、中東、北米の国々だけでなく、中央アジアと南アジアの一部、ヴェネズエラ、中央アメリカもリストに入っている。

国際食糧安全保障指標

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この結果は究極的には、最も強力な経済部門である連邦準備制度は、その行動が国際的な影響を持ちながら、究極的な国内的な政策権限を持つという事実から生み出されている。発展途上諸国は国際機関を通じて実物資産価格の安定化を長年にわたり求め続けてきた。それは現在も同じだ。国連は発展途上諸国への支援のために2兆5000億ドル規模の金融支援を求めている。国連のムハンマド=バンデ事務総長は「国際協力と協調は、食糧市場の安定を促進し、突然の価格ショックを防止するために極めて重要だ」と述べている。

しかし、こうした請願は各国政府によってほぼ無視されてきた。アメリカ型局主義を否定し、ヨーロッパ連合が動揺し、中国が国際的な公共財のコストの支払いを渋っている現在、国際協調主義は不足傾向にある。しかし、各国政府の国際協調といった試みなどを組み合わせることで、世界各地での社会不安と暴動を生み出す食糧ショックを防止することができるだろう。国際協調に加えて、国際的な金融機関(世界銀行と国際通貨基金)の寛大な行動も必要となるだろう。連邦準備制度は最も遠くまで国際的な影響を与えながら、最も反対を受けづらい機関である。連邦準備制度の緊急安定化プログラムはアメリカ財務省が発行する債券を支援し、国際機関と諸外国の政府に資金を供給することに使われ、少量価格の急騰から国際市場を守ることができる。もちろん、そのためにはトランプ政権が現在よりも国際問題についてより大きな関心を持つようになる必要がある。

世界の政治と経済は複雑な形で相互依存している。世界ネットワークの中核部分で取られた行動はシステム全体に影響を与える。アメリカ連邦準備制度の金融政策は世界の食糧価格に影響を与える。主要食料品の価格の急騰を引き起こすことになる。食糧価格の高騰によって抗議運動や暴動、不服従運動、大規模なデモが起こり、そこから国家の崩壊や内戦にまで進んでしまう場合もある。

前回食糧を求める暴動の波が起きて10年が過ぎた。しかし、その影響を今でも認識することができる。シリアでは内戦状態が続いている。レバノン(大規模なデモの回数が増えている)、トルコ、ヨーロッパ、その他の地域に逃げているシリアからの難民の経済的、政治的影響は今でも感じられている。結果として、ポピュリズムとナショナリズムを扇動する政治家たちに、自分たちの主張のプロパガンダにとっての効果的な道具を与えることになる。こうした政治家たちは食糧危機を、権力を掌握し、民主政治体制を掘り崩すために使う。この複雑さを人々が理解しないということになれば、同様のシナリオが間もなく繰り返される可能性がある。

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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