古村治彦です。
アメリカ中間選挙の結果を受け、連邦下院で過半数を失った民主党は、連邦議会の新しい指導部(floor leaders)を選出した。その前に、指導部トップのナンシー・ペロシ連邦下院議長(カリフォルニア州選出、82歳)、序列2位のステニー・ホイヤー多数党(民主党)院内総務(メリーランド州選出、83歳)、序列3位のジム・クライバーン多数党(民主党)院内幹事(サウスカロライナ州選出、82歳)が任期いっぱいでの退任を発表した。ペロシは2002年に院内幹事に就任してから20年にわたり指導部におり、2011年からは連邦下院民主党のトップを務めた。今回本格的な指導部交代となった。
ここでアメリカ連邦議会の民主、共和両党の指導部の構成について書いておく。連邦上院の場合、民主、共和両党の指導部の序列は、(多数党・少数党)院内総務(Majority/Minority Leader)、(多数党・少数党)院内幹事(Majority/Minority
Whip)、所属連邦上院議員会会長(Caucus Chair)となる。連邦下院の場合、過半数を握った政党から議長(Speaker)が出るが、この人がその政党指導部のトップとなる。序列2位が多数党院内総務、3位が多数党院内幹事、4位が所属連邦下院議員会会長となる。少数党の場合は、院内幹事が序列1位、院内総務が2位、所属連邦下院議員会会長が3位となる。指導部は法案の審議や議場での戦略、選挙を取り仕切る。大統領府(ホワイトハウス)との交渉も行う。
今回、民主党指導部は大幅に若返った。前の指導部が全員80代だったが、今回一番若いアギラーは43歳だ。そして、多様性が反映される構成になった。トップのハキーム・ジェフリーズはアフリカ系アメリカ人初の議会指導部トップとなった。序列2位の院内幹事に就任予定のキャサリン・クラーク(59歳)は白人女性、序列3位の民主党所属連邦下院議員会会長に就任予定のピート・アギラー(43歳)はヒスパニック系である。
民主党と共和党のぶつかり合いが来年の連邦議会から始まる。ドナルド・トランプ前大統領がかかわったとされる2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件についての連邦議会の特別パネルでの調査をめぐって、トランプ派が多くなった共和党側は反発するだろう。これはあくまで予想であるが、そうした国内問題から目を逸らさせるために、来年以降のアメリカ政治は表向き対中強硬姿勢を強めるだろう。民主、共和両党はこの点では一致点を見出しやすい。しかし、実態はアメリカの中国経済依存は深まっており、経済界と農業界(中国が穀物を輸入している)は中国との対立は避けたいところだ。そこのところの舵取りが連邦議会の指導部とホワイトハウスにとっては負担となるだろう。
(貼り付けはじめ)
歴史的な投票により、民主党はペロシの後任としてジェフリーズを党の指導者に指名した(In
historic vote, Democrats pick Jeffries to replace Pelosi as party leader)
マイク・リリス、マイケル・シュニール筆
2022年11月30日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/house/3756296-in-historic-vote-democrats-pick-jeffries-to-replace-pelosi-as-party-leader/
連邦下院民主党は2日、来年の指導者(少数党院内総務)にハキーム・ジェフリーズ(Hakeem
Jeffries)連邦下院議員(ニューヨーク州選出)を選出した。ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選手)の指導が20年続いた後で世代交代を示すとともに、ジェフリーズはアメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人の連邦議会指導者となった。
この変化は驚くようなことではなかった。ペロシをはじめとする指導部が今月初めに指導的地位のトップ3から退くと発表した後、52歳のジェフリーズは、すぐに民主党指導部のトップ争いに加わってその地位を固めた、3人の次世代リーダーのうちの1人だった。
その他の2人、キャサリン・クラーク連邦下院議員(マサチューセッツ州選出)とピート・アギラー連邦下院議員(カリフォルニア州選出)は水曜日のそれぞれ新しい指導的な立場に投票によって選出された。クラークは来年、ステニー・ホイヤー連邦下院議員(メリーランド州選出)に後任として連邦下院民主党第2位(少数党院内幹事)の地位に就き、アギラーは、ジェイムズ・クライバーン連邦下院議員(サウスカロライナ州選出)が退任して空席となっている第3位の地位(民主党所属連邦下院議員会会長)に就く予定だ。
2022年11月30日(水)、記者会見で連邦下院民主党指導者選挙のトップ3の結果について記者団に話すハキーム・ジェフリーズ下院議員(民主党)。
新指導部の面々はいずれも対立候補なしで当選した。水曜日の議事進行は選挙というより戴冠式だったという感がある。しかし、ペロシという歴史的人物をジェフリーズという別の人物に置き換えたことを歓迎する民主党の祝賀ムードは祝賀会程度では収まらない。
そしてペロシは、3人の新指導者たちが民主党の未来を担う活力あふれる人物たちであることを即座に讃えた。
「この指導者部の新顔は、私たち国の活力と多様性を反映しており、新しいエネルギー、アイデア、展望によって民主党内を活性化するだろう」とペロシ連邦下院議長は述べた。
ジェフリーズは、自分のリーダーシップの歴史的意義について考える時間はあまりないと述べ、その代わりに民主党の少数派への移行と、これから引き受ける「厳粛な責任(solemn responsibility)」に集中していると述べた。
火曜日の夜、連邦議会担当の少数の記者団を前にしてジェフリーズは「この重大かつ厳粛な瞬間の結果として、私たちができる最善のことは、身を粉にして、人々のためにできる限りの仕事に懸命に取り組むことだ」と述べた。
他の民主党連邦議員、特に連邦議会アフリカ系アメリカ人議員連盟(Congressional
Black Caucus)の議員たちは、ジェフリーズの昇進を、公民権に関する長い間の厳しい闘いにおけるもう1つの大きな節目として喝采の声を挙げている。
連邦議員を32年務めているヴェテランで、アフリカ系アメリカ人議員連盟の影響力を持つメンバーであるマキシン・ウォーターズ議員(カリフォルニア州選出、民主党)は次のように語った。「アフリカ系アメリカ人として、今こそ真の多様性と包括性を求める時だというメッセージをこの国に送っている。そして、有能で指導力のある多くの有色人種の人々が存在する。ジェフリーズの党院内総務就任は有色人種やアフリカ系アメリカ人の大人や少年にとって、そのような高い地位を目指すことができる素晴らしいイメージになるだろう」。
ジェフリーズの登場で、民主党はブルックリン出身者が連邦上下両院を率いることになる。中間選挙で民主党が上院の過半数を維持したので、チャールズ・シューマー(ニューヨーク州選出、民主党)が引き続き多数党院内総務となる見通しだ。
ジェフリーズは、連邦上院に移るまで20年近く連邦下院で過ごしたシューマーとは「素晴らしい関係」であると語った。しかし、ブルックリンの代表として連邦議会に参加し、議会指導部のトップに就任することに興奮を覚えるかと聞かれるとジェフリーズは控え目に答えた。
ジェフリーズは「ブルックリンで盛り上がっているようだ」と答えた。
シューマーはジェフリーズとの関係構築を待ち望んでいる。
「ペロシ議長としたように、ブルックリンの友人と共にと1日に4、6回話すのが今から待ち遠しい」と連邦上院民主党院内総務シューマーは水曜日の朝に議場で述べた。
2022年11月30日(水)、連邦下院民主党指導部の上位3つのポジションの選出結果について記者会見するキャサリン・クラーク議員(マサチューセッツ州選出、民主党)。
2012年に連邦下院議員に初当選したジェフリーズは急速に出世の階段を駆け上がり、民主党が連邦下院の過半数を握った2019年に民主党所属連邦下院議員会会長の座に就いた。その後、キャサリン・クラーク(Katherine Clark)が彼と一緒に共同会長となり、2年前にピート・アギラー(Peter
Rey Aguilar)が副会長として加わり、ペロシ、ホイヤー、クライバーンの「ビッグ3」が退任し、この3人が連邦下院民主党の手綱を取る立場になった。
しかし、クライバーンは来年序列第4位の地位に就くことを目指している。しかし、クライバーンにとって驚くべき事態が起きた。水曜日、デイヴィッド・シシリーン連邦下院議員(ロードアイランド州選出、民主党)が挑戦者としてレースに参戦することになったのだ。
クライバーンはアフリカ系アメリカ人議員連盟の有力メンバーであり、2006年以降、連邦下院民主党指導部で序列第3位の地位を保持し続けてきた。クライバーンはこれからも連邦下院民主党指導部内でアメリカ南部地域の代表を保持し続けるために行為の地位にとどまりたいと述べている。シシリーンは連邦議会LGBTQ+平等推進議連の共同委員長を務めている。連邦下院民主党指導部内のLGBTQ+メンバー2人、シーン・パトリック・マロニー連邦下院議員(ニューヨーク州選出)とモンデイル・ジョーンズ連邦下院議員(ニューヨーク州選出)がそれぞれ再選のための選挙に落選したことを受けて、シシリーンは指導部内に同性愛の人々の声を維持する必要があると述べた。
2022年11月30日(水)、連邦下院民主党指導部のトップ3選出の結果について記者会見後、記者団と話すハキーム・ジェフリーズ議員(ニューヨーク州選出、民主党)。
民主党はまた、水曜日にテッド・リュー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)を来年の所属議員会副会長に選出した。また、首席選挙ストラティジストを選ぶ権限を議員会全体から奪い、その決定を指導部に委ねるという内部規則変更も採択した。
つまり、ジェフリーズは院内総務として、2024年の選挙に向けた民主党連邦議会選挙委員会(Democratic Congressional Campaign Committee、DCCC)の責任者を任命する責任を負うことになるが、その時期については明言を避けた。
カリフォルニア州選出の2人の連邦下院議員であるアミ・ベラ議員とトニー・カルデナス議員がその座を争っている。
民主党は連邦下院の過半数を失ったが、世論調査や有識者の予測よりはるかに良い成績を収め、共和党は次期連邦議会でわずかな過半数にとどまり、党の優先事項のために落ち着きのない議会をまとめようとする共和党指導者の頭を悩ませることになった。中間選挙から1週間経過して、連邦下院民主党指導部の選出の投票が実施された。
ジェフリーズは連邦下院共和党トップのケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出)を強く批判してきた。特に2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件後、共和党のリーダーがトランプ前大統領に寄り添った後はそうだった。しかし今週、民主党側のトップリーダーの座に投票されることになったジェフリーズは、そうした緊張関係を軽減し、国を救うことに真剣な共和党員なら誰とでも協力する用意があると述べた。
ジェフリーズは「確かに、次期多数党(共和党)院内総務のスティーヴ・スカリスとはより交流を持っている。しかし、国のためにケヴィン・マッカーシーと協力することも可能だと考えている」と述べた。
ペロシは連邦下院の議場で人々が注目していた演説の中で、次期議会で指導的地位を求めないことを発表した。その翌日、ジェフリーズは連邦下院民主党指導部トップの座に正式に就くことになった。ペロシは20年以上とどまった連邦下院民主党指導部から離れるという歴史的な決定を行った。
その直後、ペロシ議長の補佐役であるホイヤーとクライバーンも、党のトップの座に留まることを望まないと発表し、新世代の民主党の政治家たちが党をリードする道が開かれた。
ジェフリーズは選出直後に「民主党は国民のために戦いに最善を尽くす。これはスローガンではなく、生き方である。私たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と述べた。
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米下院民主党トップに初の黒人 指導部の世代交代進む
12/1(木) 13:48配信 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/6f7422e076719d367308b8b3afe39e9e8c7b6b1d
米連邦下院の民主党は11月30日、2023年1月からの新会期の党トップに東部ニューヨーク州選出のハキーム・ジェフリーズ氏(52)を選んだ。連邦上下両院で黒人が2大政党のトップを務めるのは初めて。約20年間にわたって下院民主党を率いてきたナンシー・ペロシ下院議長(82)は指導部からの引退を表明しており、懸案だった世代交代が進むことになる。
ジェフリーズ氏は選出後の声明で「可能な時には共和党との妥協点を模索するが、過激主義には反対する」と述べた。11月8日の中間選挙で共和党が下院の過半数を奪還したため、新会期には少数派として臨むことになる。
党下院ナンバー2の院内幹事には女性のキャサリン・クラーク氏(59)、ナンバー3の下院議員団長には中南米系のピート・アギラー氏(43)が選出された。院内総務を含めて対立候補はなく、役員経験者から順当に選出された。民主党の下院指導部は、ペロシ氏らトップ3が80代という現体制から大幅に若返ることになる。【ワシントン秋山信一】
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