第二次ドナルド・トランプ政権の肝いり政策である高関税に対して、米連邦最高裁判所が差し止め判決を出した。9名の最高裁判事のうち、判決に賛成が6名、反対が3名となった。共和党政権時に指名された保守派の判事が多い構成で、差し止め判決が出たことは衝撃となった。トランプ大統領は判事たちを口汚く非難した。
高関税政策は保護貿易政策であり、国内の産業を守り、育てるためのものだ。たとえば、自国内で自動車産業を育成したいということであれば、外国から入ってくる自動車(輸入車)に高関税を掛け、国内では高価格となるようにし、自国の自動車産業が製造する自動車が自国内で多く購入され、利益が出て、それが設備投資や研究開発に回るようにするということである。アメリカは、第二次世界大戦直後において、世界を凌駕する製造業の国であった。しかし、今は見る影もない。トランプ大統領は造船業や自動車産業、更に鉄鋼、そして、エネルギー産業を復活させるということで高関税政策を実施した。高関税の値上げ分を負担するのは消費者である。価格が上昇した輸入品を買わなくなることで、貿易赤字を減らすという目論見もあった。さらに、ドル安誘導にもなるということであった。
しかし、このような政策は1年くらいでやっても効果はない。製造業の設備投資だけでも数年の計画になる。保護貿易は長期間の見通しと計画が必要である。実は、第一次トランプ政権の後の、民主党のジョー・バイデン政権も保護貿易政策であった。第二次トランプ政権ほど激しい政策ではなかったが、保護貿易路線であった。それが、今回、最高裁判所の差し止め判決が出てしまった。
トランプ政権は一時的に、150日間、世界的に15%の関税を課すことになった。日本は交渉して既に15%になっていたので関税の引き下げの恩恵を受けない。加えて、80兆円規模の投資ということになると、実質的にはマイナスである。ここで恩恵を受けるのは、アメリカが貿易赤字を抱えるとして、高い税率を課されていた国々である。中国やブラジルは15%への引き下げで恩恵を受ける。トランプ政権はこの差し止め判決で打撃を受ける。中国やインド、ブラジルからの輸入品が安くなるというメリットがある。ドル安傾向のために効果は薄れるだろうが、それでも大きい。
トランプ政権は今年11月の中間選挙での共和党の連邦議会過半数維持を目指している。しかし、これまでのところ、経済政策などで支持が高まっていない。そうであれば、国内の不満を逸らすために、外国の脅威を喧伝し、外国への攻撃を企図することは可能性として高い。具体的には、イランへの攻撃ということも考えられるが、イランの実力はヴェネズエラ以上であり、アメリカ軍の制服組の最高機関である統合参謀本部は、イラク攻撃はリスクが高いという報告書をトランプ大統領に提出し、一蹴されたという報道も出ている。ウクライナ戦争停戦の仲介も進まない状況で、外交や軍事に支持率上昇のきっかけを見出すのも難しい。そうなると、今回の最高裁判決はトランプ政権にとって大きな打撃ということになる。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプ大統領の貿易戦争は次はどうなるか(What’s Next for
Trump’s Trade War)
-米連邦最高裁の判決は、米大統領の関税戦略と貿易協定を混乱に陥れた。
キース・ジョンソン筆
2026年2月23日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/02/23/trump-tariffs-trade-deals-supreme-court/
写真
左から右へ:ワシントンのホワイトハウスで実施された記者会見に出席した米訟務長官D・ジョン・ザウアー、米大統領ドナルド・トランプ、米商務長官ハワード・ラトニック、米通商代表ジェイミーソン・グリア(2026年2月20日)
ドナルド・トランプ米大統領は、金曜日の最高裁判所の不利な判決、国内の政治的支持の欠如、そしてこれまでのところ貿易政策による経済効果の不在にもかかわらず、週末にかけて関税を二度引き上げた。
米連邦最高裁判所が、トランプ大統領が関税賦課に用いてきた主要な権限を無効とした後、トランプ政権は1974年の法律のかつて用いられたことのない条項を、一時的な措置としてアメリカ企業と消費者への高税率を維持するための措置として利用した。この措置は5カ月後に失効するが、政権は年内に、より強力で包括的な関税権限を整備するための時間を稼ぎたいと考えている。
新たな権限の下での関税の即時再導入は、いくつかの疑問を提起する。今や違法となった関税の脅威の下でトランプ政権と貿易協定を交渉してきた国々は、この事態をどう見ているのだろうか?
トランプ政権の関税に関するプランBはそもそも合法なのだろうか? プランCとDは合法なのだろうか? これら全ては、連邦議会が貿易政策に対する伝統的な統制を取り戻すきっかけとなるだろうか? なぜ逆効果をもたらす政策がこれほど熱心に推進され、国民の議論がほとんど行われていないのだろうか?
第一に、トランプ政権との貿易協定で妥協・修正(accommodation)に至った国々は、偽りの商品を買ってしまったのではないかと自問している。皮肉なことに、アメリカの同盟諸国(イギリスなど)は1週間前よりも高い輸出障壁に直面する一方で、名目上の経済ライヴァル諸国(中国など)はより低い障壁に直面している。
例えば、ヨーロッパ連合(EU)はアメリカと貿易戦争休戦(a trade truce)について交渉した(まだ批准していない)。この休戦協定では、アメリカのEU製品に対する関税は15%という高水準に据え置かれる一方、アメリカからの輸出に対するEUの関税は引き下げられる。しかし、それは過去の話だ。最近発表されたアメリカの関税率では、EUは実際には交渉時よりも高い関税率に直面する可能性がある。EUは「合意は合意(deal is a deal)」であり、「関税の引き上げはなし(no increases
in tariffs)」と主張している。ヨーロッパ議会のベルント・ランゲ通商担当委員長は、関税に関するおとり商法(bait-and-switch)は当初の合意に違反する可能性があると示唆した。
イギリスは、自国の輸出品にわずか10%の関税を課すという甘い協定を結んだと思っていたが、現在では自国の製品に対する障壁がさらに高まっており、トランプ政権との自国の貿易協定の運命がどうなるのか明確になることを切望している。
ヴェトナム、マレーシア、日本、韓国を含むアジア諸国も、懲罰的関税の脅威(the
threat of punitive levies)に晒されながら、トランプ政権との合意を急いだが、その関税は後に違法と判明し、今や自らの約束に疑問を呈している。
もう一つの大きな疑問は、トランプ政権が関税維持のために講じた代替措置、すなわち1974年通商法第122条だ。トランプ政権は最高裁判決を受け、直ちに全ての国に10%(後に15%に引き上げ)の関税を課すことを発表した。第122条は、5カ月間最大15%の関税を課すことを可能にしており、その後関税を継続するには議会の承認が必要だ。(政権が新たな大統領令で関税を再び延長できるかどうかは不明だ。)
しかし、真の疑問は、これらの代替関税が合法なのか、それとも先週金曜日に無効とされた関税のように違法なのかということだ。第122条に基づく関税は、国際収支危機への対処を明確に意図している。これは、アメリカがまだ金本位制(the gold standard)だった。1960年代と1970年代に苦闘していた問題だ。その後、アメリカは通貨を自由変動相場制に移行しており、理論的には国際収支危機は発生し得ないため、新たな関税も違法となった。国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストのジーナ・ゴピナスは、世界最大かつ最も流動性の高い経済が国際収支危機に直面しているとは考えていない。
しかし、誰もが同意している訳ではない。現在外交問題評議会に所属する、尊敬を集める元米財務省高官のブラッド・セッツァーは、アメリカの経常収支状況は1974年の法律で定められた条件を基本的に満たしていると主張した。
また注目すべきは、トランプ政権が最高裁判所への提出書類の中で、第122条に基づく関税は現在の状況には適用できないと主張し、だからこそカーター政権時代の法律を前例のない形で適用し、各国により高い関税を課さざるを得なかったと主張した点である。
新たな関税はほぼ確実に訴訟を呼ぶだろうが、近い将来には問題にはならず、あるいは審理されることさえないだろう。(裁判所が最終的に、広範な新たな関税概念を持つ行政府に敬意を払うならば問題は生じるだろう。)新たな関税は、連邦議会が更新を決定しない限り、7月下旬に失効する。
それまでに、トランプ政権はプランCとDを準備したいと考えている。これらには、1974年通商法第301条の更なる活用が含まれる。これは、政権が「差別的(discriminatory)」行為を理由に中国に関税を課す際に繰り返し利用してきた、より明確な貿易救済措置である。第301条関税をめぐる法的疑問は少ないものの、実施には時間がかかる。米通商代表部(USTR)はその件で残業を続けている。
その他の可能性のある措置としては、1962年通商拡大法第232条に基づく「国家安全保障」関税(the “national security” tariffs)の更なる活用が挙げられる。米商務省は既に、木材や大型トラック部品といった分野の国家安全保障を守るために関税を利用する件について、12件の調査を進めている。別の選択肢としては、1930年スムート・ホーレー関税法(そう、あのスムート・ホーレー法だ)の新たな斬新な活用が挙げられ、これは更なる法的争点を招く可能性がある。
法的措置に関しては、直ちに行われる措置として、アメリカ政府が輸入業者から徴収した1300億ドルから1750億ドルの税金の還付が行われる予定だ。これは後に違法と判明した。昨年の法廷闘争中、アメリカ政府は、還付は容易かつ自動的に行われると述べていた。しかし、最高裁判所で敗訴した際には、還付は不可能であり、そうでなければ「企業福祉(corporate welfare 訳者註:政府が特定の企業や産業に対して行う補助金、減税、優遇措置)」に当たると警告した。既に数千社の企業が救済措置を申請している。高額な輸入品に高い代金を支払った消費者たちは、いずれにせよ還付を受けられないが、経験豊富な法律事務所の中には還付を受けられるところもある。
より大きな疑問は、最高裁判所のニール・ゴーサッチ判事が金曜日の判決に賛成する中で提起した疑問であるが、それは、連邦議会がほぼ1世紀を経て、アメリカの貿易・関税政策の立案者であり裁定者としての役割を取り戻すかどうかである。トランプ大統領の第二期目において、これまでのところ、貿易権限を行政府から奪還しようとする臆病で不運な試みはほんのわずかしかなかった。
さらに大きな疑問は、最高裁判所の非難と、トランプ政権が輸入品に課税するための未検証の方法を必死に模索していることが、過去半世紀以上にわたり前例のない繁栄の促進に貢献してきた貿易の流れを阻害することの有用性をめぐる、より広範な政治的議論を巻き起こすかどうかである。
トランプ大統領の関税は、アメリカの貿易赤字削減や製造業の再建という目標を達成していないものの、企業と消費者のコストを上昇させ、世界の他の経済圏に取引相手を見直すよう促すことには成功している。自由貿易への強い政治的支持があることを考えると、最高裁の重大判決と政権の慌ただしい対応は、行き詰まりを招いてきた政策を見直す機会となるかもしれない。
※キース・ジョンソン:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター(地経学とエネルギー担当)。Blueskyアカウント:@kfj-fp.bsky.social、Xアカウント:@KFJ_FP
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』









