古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:高関税

 古村治彦です。※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 第2次ドナルド・トランプ政権は発足後から100日を過ぎた。政権は発足後、怒涛のスタートダッシュを見せて、アメリカ国内、そして、世界中を驚かせた。様々なことが起きて、いささか疲れ気味という感じになっている。トランプ政権には4年間しか時間がなく、次の選挙には出られないので、最後の1年はどうしてもレイムダック化(無力化)してしまうこと、2026年11月には中間選挙が実施され、上下両院での共和党の過半数が崩される可能性もあること、こうしたことから、2年間で公約の多くを進めようという意図が見える。

 トランプ政権の原理は「アメリカ・ファースト」であり、これはアメリカ国内問題解決最優先主義ということになる。アメリカ国内の諸問題を解決するために、政権は財政赤字と貿易赤字の削減を行おうとしている。肥大化した連邦政府と官僚機構の削減と、高関税とドル安誘導を行おうとしている。そして、関税と共に、不法移民対策によって、「国境を守る」という政策を進めている。

 これらのスピード感あふれる施策によって、摩擦も起きている。トランプ政権の大統領令や施策に対して、裁判所に提訴するということも多く起きている。政権側と司法(裁判所)が対立する構図にもなっている。

 アメリカの国内、国外の大変革は、国内、国外での「アメリカ政府の役割を変える」ということである。歴代の大統領たちは、「現状を変える」「ワシントン政治を変える」と訴えて当選してきた。しかし、結果は大きな変化は見られず、失望の4年間、8年間となった。そして、また、新しい人物が「変化」「変革」を訴えて当選して、失望させるというパターンに陥ってきた。それは、これまでの歴代の大統領たちがワシントンのインサイダーであり、「常識人」であったからだ。アメリカ国民はアウトサイダーのトランプに賭けた。子の賭けは失敗に終わるだろうが、それはアメリカの衰退という大きな流れの中で仕方がないことだ。それでも何とかしようとしたというトランプの存在は後世の歴史家たちに評価されていくだろう。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領が就任100日で政府を刷新した5つの方法(5 ways Trump reshaped the government in the first 100 days

アレックス・ガンギターノ筆

2025年4月28日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5271255-trump-executive-actions-federal-government/

ドナルド・トランプ大統領の就任後100日間は、主要な選挙公約の実現を目指した数々の大統領令(executive orders)や政策で、ホワイトハウスと連邦政府全体の常識を覆した。

その中には、複数の機関の削減、数千人の連邦職員の解雇、そして政権に異議を唱える多数の訴訟が提起される中での裁判所の介入回避などが含まれている。

以下で、トランプ大統領が2期目の最初の3カ月で政府を刷新した5つの方法について挙げていく。

(1)連邦政府機関の再編と削減(Federal agency overhauls, cuts

ドナルド・トランプ大統領は、億万長者のテック起業家イーロン・マスクを政府効率化省(Department of Government EfficiencyDOGE)の責任者に任命した。政府効率化省は、連邦政府機関の無駄を特定することで、連邦政府の抜本的な改革を目指している。

CNNの分析によると、少なくとも12万1000人の連邦職員が解雇またはレイオフされ、少なくとも30の機関が影響を受けている。

政府効率化省は、米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSIDA)を骨抜きにし、退役軍人省(Department of Veterans Affairs)の職員を大幅に削減し、保健福祉省(Department of Health and Human Services)などの省庁の再編に長官らと協力した。一部の削減は迅速かつ広範囲に行われ、トランプ大統領はマスクに「斧(hatchet)」ではなく、「メス(scalper)」で削減してほしいと公言した。

ホワイトハウス高官たちは、今回の改革は連邦政府の非選官僚から権力を奪い、選挙で選ばれた公職者に「権力を戻す(return power)」ために必要だと主張している。マスクはトランプの選挙運動中にアドヴァイザーとして就任し、大統領は彼を政府効率化省の責任者に任命した。

ホワイトハウス高官たちは、「私たちは民主政治体制とは全く相反する官僚制という牢獄(the prison of bureaucracy)の中で生きている。大統領が行った最大の改革の1つである最初の戦いは、行政部内の闘争(intrabranch fight)、つまり大統領と官僚たちの闘争だ」と述べた。

今回の改革後、マスクは政府における特別任務を縮小し、進行中の改革の指揮を長官たちに委ねる予定だ。マスクの自動車会社テスラは攻撃の標的となり、彼の仕事に対する国民の認識も一部で酷評されている。

(2)大統領令で連邦議会を回避する(Executive orders bypassing Congress

ホワイトハウスによると、トランプ大統領は就任後100日間で140件以上の大統領令に署名した。

就任宣誓の日から、移民問題や社会問題から、1月6日の被告人問題、教育問題、法律事務所への攻撃など、あらゆる問題に対処してきた。

大統領が大統領執務室から執行したこれらの大統領令は、財政権を持つ連邦議会を除外していた。共和党が多数派を占める連邦上下両院は、連邦議会の権限が縮小されているとについてほとんど言及していない。

大統領は重要な法案の1つ、レイケン・ライリー法に署名した。1月に署名されたこの法案は、窃盗、強盗、万引きの容疑で逮捕された、合法的な滞在資格を持たない幅広い移民を拘留することを義務付けている。

ホワイトハウス高官によると、ホワイトハウスは今後100日間で、税制および国境関連法案の成立に向けて連邦議会への圧力を強めると予想されており、法案の成立が近づくにつれ、トランプ大統領は連邦議会への働きかけを強めるだろう。

マイク・ジョンソン連邦下院議長(ルイジアナ州選出、共和党)は月曜日に大統領と会談し、議題について協議したが、連邦下院における共和党のわずかな過半数と、相反する優先事項のため、連邦議会が法案を成立させるには長い道のりが残されている。

(3)法廷闘争を回避する(Skirting court challenges

ホワイトハウスは、国外追放、連邦政府職員の解雇、軍におけるトランスジェンダーの兵士に関する措置など、大統領令に対する数十件の異議申し立てに直面している。

トランプ大統領が18世紀に制定された「外国人敵対者法(Alien Enemies Act)」を行使したことに対する法的異議申し立てが最も大きな注目を集めている。この法律は、外国への「侵略(invasion)」を理由に移民を国外追放することを可能にする。

その結果、数百人の移民が国外追放に巻き込まれており、トランんプ政権は証拠を示すことなく、彼らがヴェネズエラが発祥のトレン・デ・アラグア・ギャングのメンバーであった、あるいはその他の犯罪行為を行ったと主張している。

キルマー・アブレゴ・ガルシアのケースでは、トランプ政権は裁判所文書の中で、エルサルヴァドル国籍のアブレゴ・ガルシアの国外追放は「行政上の誤り(administrative error)」であったと認めたが、ホワイトハウスはその後、この見解に異議を唱えている。連邦最高裁判所からアブレゴ・ガルシアの帰国を「促進(facilitate)」するよう命じられたにもかかわらず、トランプ政権はアブレゴ・ガルシアがアメリカに帰国することはないと主張している。

トランプ政権は、アブレゴ・ガルシアは現在エルサルヴァドル当局の管轄下にあるため、アメリカの裁判所が帰国を義務付けることはできないと主張している。

別のケースでは、連邦判事が先週、「サンクチュアリ」地域(“sanctuary” jurisdictions)が「連邦資金へのアクセスを受けないようにする」大統領令は違憲の可能性が高いとの判決を下した。その後、トランプ大統領は月曜日、連邦移民当局との連携を怠ったサンクチュアリ都市への取り締まりを強化する大統領令に署名した。

複数のホワイトハウス高官は、裁判所が官僚機構の味方をしていると主張している。

(4)司法省、アメリカ移民・関税執行局の役割を拡大する(Expanding roles of DOJ, ICE

トランプ大統領は、最重要課題の執行の大部分を担う2つの機関、司法省(Department of JusticeDOJ)とアメリカ移民・関税執行局(Immigration and Customs EnforcementICE)の役割を拡大した。

トランプ大統領は、パム・ボンディ司法長官に対し、民主党の寄付者プラットフォーム「アクトブルー」への外国人によるダミー献金疑惑の捜査から、「反キリスト教的偏見の根絶(eradicate anti-Christian bias)」に向けたタスクフォースの指揮まで、幅広い任務を担うよう指示した。

トランプ政権はまた、司法省公民権局において一連の政策変更を実施し、「女子スポーツへの男性の介入排除()keeping men out of women’s sports」や「反キリスト教的偏見の根絶」といった優先事項に司法省職員たちが重点的に取り組むよう指示した。

アメリカ移民・関税執行局は、強制送還件数を急速に増やす任務も負っている。フロリダ州では州法執行機関と共同で「前例のない(first-of-its kind)」作戦を実施し、数日間で100人近くを逮捕した。また、日曜日の早朝にはコロラド州コロラドスプリングスのナイトクラブを急襲し、100人以上を拘束した。

加えて、FBIは金曜日、ミルウォーキー郡巡回裁判所のハンナ・C・デュガン判事を前例のない方法で逮捕した。デュガン判事は、アメリカに不法滞在している移民が法廷で逮捕を逃れるのを手助けし、トランプ大統領の移民政策を妨害しようとした疑いがある。

(5)民間機関をターゲットにする(Targeting of private institutions

トランプ大統領は、主要大学や法律事務所を含む様々な民間機関に対し、資金提供を停止し、企業への打撃を与えようとしている。

トランプ政権は、ハーヴァード大学が採用・入学手続きの変更、多様性・公平性・包摂性(diversity, equity and inclusion)プログラムの廃止といったトランプ大統領の要求を拒否したことを受け、ハーヴァード大学への22億ドルの資金提供を停止した。

ハーヴァード大学はトランプ政権を提訴しているが、トランプ大統領はハーヴァード大学の免税措置にも狙いを定めており、国土安全保障省はハーヴァード大学の留学生受け入れを停止すると警告している。

パーキンス・コイ法律事務所やウィルマー・ヘイル法律事務所といった法律事務所は、トランプ大統領の政敵と協力していることで、トランプ大統領の怒りを買っている。大統領は様々な機関に対し、これらの法律事務所の従業員の機密情報取扱許可(セキュリティクリアランス)の剥奪、連邦政府施設へのアクセスの停止、そして政府と法律事務所との契約内容の精査を指示している。

パーキンス・コイ法律事務所とウィルマー・ヘイル法律事務所は、トランプ大統領の命令は違法であり、政府に関わる法律業務を遂行する能力に重大な危害をもたらすとして、裁判所に法的救済を求めている。司法省は、国家機密を誰に委託するかは大統領の裁量に委ねられていると主張し、これに反論している。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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ドナルド・トランプ大統領による高関税(相互関税)の発表があり、その最大の標的が中国であるという状況になっている。145%という法外な関税(1万円の商品の場合には、1万4500円の関税がかけられ2万4500円になる)が中国に対して課されると発表され、中国は対抗措置として対米関税を125%にまで引き上げた。その後、トランプ大統領は高関税を引き下げる意向を示しているが、中国は強気の姿勢を崩さず、譲歩を強いられる交渉には応じないと予想される。

 こうした中で、「中国は自由貿易を守る旗手だ」「中国経済はアメリカの高関税を乗り越える」という主張も出ている。市場や国際社会の評価も中国にとってプラスの内容になっている。しかし、下記論稿の著者スコット・ケネディは、中国経済のマイナス要素をいくつか指摘している。中国は新型コロナウイルスの影響で深刻な経済危機に見舞われ、多くの都市住民が厳しいロックダウンに直面した。政府のゼロコロナ政策から期待された経済回復は失敗し、国内経済は依然として困難を抱えている。家庭の貯蓄が増え、出産を控える傾向が強まる中、中国政府の政策に対する不満も高まっている。国際的に見ても、投資家たちが中国市場への信頼感が揺らいでいると強調している。

ところが、2025年には状況が一変し、中国の経済が立ち直りつつある兆しが見えるとスコット・ケネディは指摘している。この変化は、政府が経済問題を認識し刺激策を発表したことや新技術の開発によって可能になったものだとケネディは主張している。

中国国内では、経済成長の期待が高まり、特に電気自動車や半導体分野での需要が急増している。国際的なビジネス界でも、アメリカの貿易政策の変化によって中国への不信感が高まっていた状況は、今では中国の経済回復期待に変わりつつあるとケネディは主張している。

最終的に、アメリカの政治の動向が中国の指導者に新たな影響を及ぼしており、トランプの行動は中国に安定要素を提供していると見られる。アメリカの政治体制そのものに対する信頼感は低下しており、中国の指導者たちはこの状況を利用できる。

 トランプ大統領はアメリカが世界覇権国であることを辞めるために時代によって生み出された人物である。戦後世界体制を軍事と経済で支えてきたアメリカはその負担に耐えられず、その役割を終えようとしている。この大きな構造変化は世界に大きな影響を及ぼす。アメリカは強いドルによって生み出された膨大な貿易赤字と財政赤字を何とかしたい。そのために、連邦政府の規模を縮小し、高関税によってドル安誘導でアメリカ人の生活を引き締めようとしている。しかし、それで節約できるとしてもたかが知れている。最も手っ取り早いが、最も劇薬であるのが、アメリカ国債の踏み倒しである。「もう借金は払わない」と言ってしまえば、世界経済は大混乱になり、「世界一安全な資産」を世界一保有している日本は大変なことになる。しかし、トランプとアメリカにとってみれば、「これまでさんざん世話をしてやっただろう、そのコストだ」と言って平然と日本を裏切るだろう。それくらいの最悪のシナリオを考えておかねばならない。そして、日本はアメリカから少しずつでも離れて、中国との関係を改善しておくことが重要だ。

(貼り付けはじめ)

北京がトランプ大統領を打ち破れると考える理由(Why Beijing Thinks It Can Beat Trump

-中国のエリート層は自国の体制に新たな自信を抱いている。

スコット・ケネディ筆

2025年4月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/10/trump-china-tariffs-trade-war/?tpcc=recirc062921

これは歴史上最も短期間で終わる革命かもしれない。ドナルド・トランプ米大統領が、最恵国待遇(most-favored-nation status)と内国民待遇(national treatment)に基づく世界貿易システムを、個別に交渉された二国間協定に置き換える計画の一環として、世界各国にいわゆる相互関税(reciprocal tariffs)を課してからわずか1週間後、彼は事実上この実験を中止した。確かに、ほぼ全ての国に10%の関税が課されており、自動車、鉄鋼、アルミニウムへの高関税も依然として課されているが、これらはおそらく上限であり、これらの障壁が動く唯一の方向は下がるしかない。

もちろん、唯一の例外は中国だ。中国は(常に強調しなければならないが)、本稿執筆時点で、貿易相手国への標準関税(he standard tariffs on trading partners)、トランプ大統領の最初の任期中に課されジョー・バイデン大統領によって維持された懲罰的関税(the penal tariffs imposed during Trump’s first term and left in place by President Joe Biden)、フェンタニル関連製品への20%の関税(the 20 percent on fentanyl-related goods)、そして、4月9日に発表された追加関税(the duties announced on April 9)を含めると、アメリカから約150%の関税に直面している。

トランプ大統領のファンは、これは北京を標的に絞るための隠された計画だと言う。また、市場が暴落し、企業がショック状態に陥った後、退路を断つための面目を保つための転換だと見る人もいるだろう。いずれにせよ、中国が無傷で済むのは、トランプ大統領がまたすぐに突然のUターンをしない限り難しいようだ。アメリカは、金融制裁や留学生などの渡航の全面禁止など、自らに大きな負担はかかるものの、更に多くの痛みを課すことができる。中国が世界経済と社会から切り離されること(A China cut off from the global economy and society)で、経済的、政治的、地政学的に甚大な問題に直面することになる。

こうした危険性にもかかわらず、中国政府は現状維持(to stand its ground)しか選択肢がないと考えているように思われ、指導部は自分たちだけが譲歩を求められるような交渉には応じないだろう。更に言えば、私が最近中国やその他の地域を訪れた際に感じたのは、中国国内および国際社会が中国のシステムの回復性と強さ(resilience and strengths)について、より幅広く、そしてやや肯定的に再評価し始めていることである。

2022年末から2024年末にかけて中国を訪れた際、私は中国があらゆる面で苦闘しているのを目の当たりにした。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが続いた最後の数カ月は、多くの都市で住民が息苦しいロックダウンに直面し、数十万人、いや数百万人が重症を負ったり、命を落としたりするなど、深い傷跡を残した。政府のゼロコロナ政策の終了に伴い期待されていた経済回復は、急速に消え去った。経済成長を活性化させようと、電気自動車、バッテリー、医療機器、ロボット工学などの新たな製造施設に巨額の資本が投入されたが、国内消費はそれに追いつかず、需給ギャップが拡大し、工場の門前では深刻なデフレが続いた。

パンデミックによる不安、住宅市場の崩壊、そして脆弱な社会保障網により、世帯は予防的貯蓄を拡大し、若い夫婦は出産を控える傾向にあり、人口動態の問題は悪化した。より広範な政治的緊縮政策(the broader political tightening)と国家安全保障への重点化も国民感情に悪影響を及ぼした。消費者信頼感指標(indicators for consumer confidence)は2022年初頭に急落し、それ以降ほとんど変動していない。

その結果、この時期、中国人の間では、なぜ中国指導部が問題の深刻さを認めず、成長促進に必要な措置を講じようとしないのかという議論が盛んに行われた。その根拠として、国のトップに上り詰めるまでの苦難に関する正確な情報が不足していること、賢明な統治計画を持たない弱いチームであること、経済よりも安全保障を優先していること、あるいは指導部が先進技術(プロパガンダで「新生産力(new productive forces)」と呼ばれるもの)を最も重要な成長の原動力として重視することに熱心に取り組んでいることなどが挙げられた。

こうした国内の不安は、中国国外にも反映されていた。2023年初頭、JPモルガンがマイアミで開催した数千人の機関投資家向けカンファレンスでは、「中国は投資可能か?(Is China investible?)」が中心的な議論となった。ゼロコロナの終焉は新たな機会を意味すると主張する人がいる一方で、サプライチェインの脆弱性や民間部門への取り締まりを、投資を控える理由として強調する人もおり、意見の一致はなかった。

1年後、同じ会議でコンセンサスを得た答えは「ノー」だった。国際投資家たちは、中国の短期的な環境と長期的な軌道について、数々の懸念を表明した。多くの投資家たちが保有ポジションを売却し、資金を他の場所、特にアメリカに再配分したと述べています。

2025年まで時を早送りすると、中国国内のムードは、そして多くの外部の観測者からも、明らかに明るくなっている。その一因は、最近の国内情勢にある。第一に、昨年9月に指導部が深刻な経済課題を認め、大規模な景気刺激策を発表したことだ。その詳細は今年3月に明らかになった。第二に、ディープシーク(DeepSeek)の画期的な大規模言語モデルが発表された。これは、中国のイノヴェーターがアメリカ主導の技術規制を回避する方法を見つけることができたことを示唆している。

2025年3月に中国で行われた企業幹部との協議では、参加者たちは景気後退の最悪期は過ぎ去り、新たな成長の兆しが見え始めていると示唆した。ある自動車メーカー幹部は、EVモデルの需要が予想をはるかに上回るペースで伸びており、海外生産拠点の開設計画を前倒しすると述べた。

アメリカから制裁を受けている半導体企業の幹部は、西側諸国の装置サプライヤーからのサーヴィス支援がない状況下で、生産効率と品質が向上したと述べた。安堵のため息をつく時だと述べる者は誰もおらず、政策を発表することと実際に成果を出すことの間には大きな隔たりがあることを強調した。ある幹部は、民間企業が国有企業と比較して融資に支払う金利が依然として高いことを強調した。とはいえ、過去数年間の暗雲は消え去った。

国際的なビジネス界でも同様の変化が見られた。マイアミで開催されたJPモルガンの2025年初頭版カンファレンス(および他の場所で行われた同様のカンファレンス)では、投資家たちはもはや中国指導部の失策とされる行動について不満を漏らすことはなかった。その代わりに、彼らは「景気刺激策はどの程度の規模になるのか?(How big will the stimulus be?”)」と「景気刺激策はいつ成長加速につながるのか?(When will the stimulus translate into faster growth?)」という2つの質問を繰り返した。

毎年3月に北京で開催される中国開発フォーラム(the China Development Forum)では、欧米諸国の主要多国籍企業と中国の指導者が一堂に会し、次々と企業幹部が中国への新規投資計画を披露した。

中国の政策変更や技術革新がムードの変動の一因となっているものの、信頼回復の最も重要な源泉は、12タイムゾーン離れたワシントンにある。2025年第1四半期、北京、上海、ニューヨーク、マイアミなど、どこで開催されても、会議のたびに最大の話題はトランプ大統領だった。ほぼ全ての会話は、彼の政策に対する当惑といったものだった。

最も憂慮すべきことは、状況がこれほどまでに異なるにもかかわらず、多くの人が、促されることもなく、今日のアメリカを、1966年から1976年にかけての文化大革命(the 1966-76 Cultural Revolution)の時期の中国と比較していることだ。文化大革命は、中国が苦難の時代における政治的な類推(analogy、アナロジー)としてよく用いるものであり、西側諸国の一部の人々にとってナチス・ドイツがそうであるのと同じだ。しかし、アメリカ政府の行動は、アメリカで働いたり学んだりした経験を持つ中国人観察者たちを真に驚かせた。

私が中国で話した多くの人々は、自国における顕著な問題である政府の無駄遣いを削減し、汚職を減らす必要性を理解していると述べた。しかし、専門者たちは、イーロン・マスク率いる政府効率化省が、次々と無計画に政府機関を解体し、数万人の公務員を解雇する動きを主導している理由に、何度も困惑していた。米中科学技術協力の可能性を議論する会合で、ある中国政策専門家は、基礎科学研究、気候、医療、宇宙など、様々な分野におけるアメリカ政府機関や大学への予算削減リストを聞いた後、驚きの表情でこう問いかけた。「アメリカ政府は科学を信じているのだろうか?(Does the U.S. government even believe in science anymore?)」。

メディア、弁護士、そして裁判所への攻撃に、人々は多くの機会で衝撃を受けた。ある専門家は、自分と友人たちは中国で最も親米的な人々の1人であり、中国で学び、米国企業で働いたことを誇りに思っていると述べた。しかし、彼らが知る中国は目の前で変化しているように見え、もはや子供たちを中国に住ませたり、勉強させたりすることは考えられない、と付け加えた。

アメリカ国内の行動に対する困惑と同じくらい広まっていたのが、アメリカの貿易政策と外交政策の根本的な変化に対する困惑だった。トランプ大統領が自ら宣言した「解放記念日(Liberation Day)」の2週間足らず前、フェンタニル関連の関税が課された後に行われた議論において、中国人は、アメリカがなぜアメリカと世界に多大な繁栄をもたらしてきた多国間貿易体制(the multilateral trading system)を解体しようとするのか理解できなかった。アメリカが関税を利用して製造業の生産と雇用を劇的に回復させることができるという考えは、全くの空想だとみなされた。また、アメリカが同盟諸国を見捨てて、ウラジーミル・プーティン率いるロシアを支持する理由を疑問視する人もいた。

これらの発言の重要性は、それが正しいかどうかとは大きく関係ない。むしろ、アメリカにおける政府の無能さと社会の分断と見なされるものに対する広範な認識は、中国人が自国の現在と未来を再評価するための、目に見えない鏡となっているのだ。

現実には、中国の指導者の多くは極めてイデオロギー的であり、汚職は蔓延し、政治的粛清は依然として行われ、情報は統制され、科学者(物理学者と社会科学者の両方)は知的自由に対する大きな障壁に直面し、市場に対する不公平な規制が蔓延し、産業政策(industrial policy)は外国企業を著しく不利な立場に置いている。これらは全て、中国の発展の見通しと他国との関係を脅かしている。しかし、2025年のアメリカのレンズを通して見ると、中国のシステムは異なる視点から見える。

体制支持派のナショナリストにとって、トランプはまさに贈り物だ。彼の非自由主義的な方向転換は、アメリカが中国の政治体制に対するイデオロギー的な挑戦を放棄したことを意味する。更に、トランプがアメリカの統治機関、経済、そして同盟関係を弱体化させることは、「中国を再び偉大な国にする(making China great again)」ことを意味する。そして、多国間貿易体制(the multilateral trading system)への攻撃は、中国がアメリカに対する責任ある統治者として見られることをはるかに容易にする。

多くの無政治の中国人にとって、今日の中国や多くの具体的な政策には熱意がない。しかし、それと比較すると、中国は比較的安定しており、予測可能である(predictable)と感じており、彼らは自らの体制とそれを支持する世界の中で生きることに最低限の満足感を抱いている。

長年アメリカを称賛してきたリベラルな中国人にとって、ワシントンのトランプ的な転換は深い悲しみをもたらす。彼らにとって、アメリカはまさに「丘の上の灯台(light on a hill)」であり「烽火(beacon)」であった。2008年の世界金融危機において、アメリカは自由市場に対する中国の信頼を損なった。2025年、政治的内紛(political infighting)により、アメリカは自国の政治体制の信用を失墜させつつある。こうした憂鬱の帰結は、人々の諦め(resignation)である。この中国人にとって、解放記念日は正反対の感情に違いない。

今後数週間、数ヶ月の間、トランプが全面的な貿易戦争宣戦布告(full-scale declaration of trade war)を撤回したとしても、北京とワシントンの対立は予測不可能な展開を続けるだろう。米中両国には経済的な強みと弱みがあり、互いに相手の弱点を狙う可能性がある。両国はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、そしてラテンアメリカ諸国を取り込み、相手を出し抜き、孤立させようと画策するだろう。これから多くのドラマが繰り広げられるだろう。

しかし、中国やその他の地域での私の会話から、皮肉にも2つの確かなことが浮かび上がってくる。第一に、北京の決意が新たになっていることを考えると、トランプ政権が1月20日に中国から得られなかった譲歩を今後数ヶ月で引き出せる可能性はほぼゼロだ。エスカレーション(escalation)、瀬戸際政策(brinksmanship)、そして不安定さ(volatility)は、途方もない時間の無駄になるだろう。

そして第二に、どちらが相手方の経済を弱体化させるのに効果的か、あるいは交渉の場でどちらが相手を出し抜くかに関わらず、少なくとも今のところは、真のシステム競争は終わった。祝賀ムードであろうと哀悼ムードであろうと、ほとんどの中国人にとって、トランプの赤いネクタイは白旗なのだ(Whether in celebration or mourning, to most Chinese, Trump’s red tie is a white flag)。

※スコット・ケネディ:戦略国際問題研究所上級研究員、中国ビジネス・経済学部門評議委員長。

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ドナルド・トランプには大統領としては残り4年間弱しか時間がない。そのうち、最終年はレイムダック化と呼ばれる、次はないのだからということで、人々が離れて実質的に力を失う時期があるとなると、3年間ほどしかない。2026年11月には中間選挙(連邦上院議席の一部と連邦下院の全議席の選挙)が実施され、だいたい与党側が議席を減らすので、連邦上下両院での優位も崩れるかもしれない。そうなれば、政権運営は難しくなるので、最初の2年間で勝負を決しておかねばならない。

トランプは、アメリカの抱える財政赤字と貿易赤字を何とかしようと、電撃作戦を仕掛けた。巨大な連邦政府(職員は約200万人)と巨額の連邦政府予算(約7兆ドル、約1000兆円に達する)の削減を行うために、イーロン・マスクを政府効率化省のトップに据えた。私たちは新自由主義全盛の頃に、アメリカは小さい政府で効率が良い、決定スピードが速いなどと嘘を教えられてきたが、共和党と民主党の大統領、連邦議会は、アメリカ連邦政府を巨大化させてきた。そのくせ、日本は国家予算を削り、人員を減らすことを、アメリカの手先にして売国奴、買弁の小泉純一郎や竹中平蔵に強要されてきた。話が逸れたので元に戻す。

 貿易赤字に対しては、高関税を課すことになった。関税を支払うのは、輸入する業者たちだ。そして、関税が上がった分で業者や取引業者が吸収できない分は消費者が価格の上昇ということで支払うことになる。物価上昇については、トランプ大統領はエネルギーの増産で対処しようとしているが、アメリカ政府の輸出増加を狙う、ドル安誘導で物価上昇は避けられない。アメリカ国民は、強いドルのおかげで世界中から製品を比較的安価に手に入れることができた。そして、外国に支払ったドルは、「世界で最も安全な資産」である米国債購入で、アメリカに戻るというシステムを作り上げ、借金漬けの生活を送ることが可能になった。

 トランプはそのような戦後のシステムとそれが生んだひずみを解消しようとしている。もちろん、それはうまくいかないだろう。はっきり言って、アメリカの製造業が復活するなんてことはないし、アメリカの借金が全てチャラになることはない。多少の延命になるかどうかだ。しかし、これまでの政治家たちが先送りにしてきたことを何とかしようという姿勢を見せているだけでも、アメリカ国民の評価を得るだろう。

 以下の論稿にあるように、これまでの常識で見ていけば、トランプはすぐに失敗することになるだろう。しかし、現状はこれまでとは大きく異なっている。戦後の世界構造、いや、近代600年の世界構造が大きく動揺している。その中で、時代精神、心性を体現する人物としてトランプは出現した。このことを分からなければ、右往左往するだけのことになってしまう。

(貼り付けはじめ)

これは「トランプのピーク」になるかもしれない(This Could Be ‘Peak Trump’

-彼の権力への復帰は印象的なものだが、これから困難な仕事が始まる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/27/peak-trump-war-diplomacy-tariffs-economy/

トランプ政権の発表だけを聞いたり、これまでに業績を上げてきたジャーナリストたちによる、まるで目の前の出来事に戸惑うような(the deer-in-the-headlights)説明だけを読んだりすれば、トランプ新政権は既に抗えないほどの勢いを増大させているという結論を皆さんは持つかもしれない。トランプの君主的な野心(Trump’s monarchical pretensions)を考えると、彼は間違いなく、自分には制限がなく、抵抗は無駄だと皆に思わせたいと思っているだろう。しかし、それは事実ではない。トランプの華々しい復帰と初期の広範な取り組みを、止められない勢いだと誤解すべきではない。むしろ、後になって、この時期を振り返ったえら、トランプ的傲慢さの頂点(the highwater mark of Trumpian hubris)だったということになるだろう。大袈裟な約束をするのは簡単だが、実際に成果を上げるのは非常に困難なのだ。

もちろん、トランプの手腕を過小評価すべきではない。彼は、疑わしい事業に銀行から融資を取り付け、騙されやすい顧客に、決して実現しないものに金を支払わせることに大いに長けている。彼は、事実がどうであろうと、アメリカは絶望的な状況にあり、自分だけがそれを解決できると有権者を説得することに驚くほど長けていることを証明してきた。これは、様々な問題の責任を負わせる架空の敵(fictitious enemies)を見つけることにも同様に長けているからだ。過去の犯罪に対する処罰を逃れることにかけては並外れた技能を持っており、自身、家族、そして仲間に利益をもたらすことにも長けている。そして正直に言って、彼は疑問視されるべき正統性(orthodoxies that deserved to be questioned)、特にアメリカを不必要で失敗に終わる戦争に引きずり込む外交政策エスタブリッシュメントの傾向に、果敢に挑戦してきたことでも恩恵を受けている。

トランプが才能を発揮できていないのは、政府を運営し、首尾一貫した政策を立案し、一般のアメリカ国民に広範かつ具体的な利益をもたらすことにおいてだ。彼の最初の任期における実績は忘れてはならない。貿易赤字は改善するどころか悪化し、不法移民は大幅に減少せず、パンデミックへの対応の失敗で何千人ものアメリカ人が不必要な死を遂げ、北朝鮮は核兵器を増強し、イランはウラン濃縮を再開し、大々的に宣伝されたアブラハム合意は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の布石となった。彼はアメリカ・メキシコ国境に壁を建設することはなく、メキシコは費用を負担しなかった。中国は、トランプが交渉した大規模貿易協定で約束した2000億ドル相当のアメリカ製品を購入しなかった。まさに多くの勝利を得た!

今回はもっと良い結果になるだろうか? もしかしたらその可能性はある。2017年とは異なり、今回は彼には要職に忠実な側近が就いており、ホワイトハウスには有能で有能な首席補佐官(chief of staff)がいると誰もが認めるだろう。しかし、こうした強みをもってしても、トランプの政治政策に潜む深刻な矛盾(deep contradictions)や、彼が直面するであろう障害(obstacles)を解消することはできない。

それらの点を列挙してみよう。

第一に、偉大な平和調停者(a great peacemaker)として歴史に名を残したいというトランプ氏の願望と、自分の思い通りにするために相手を威圧し、武力行使で脅すという彼の根強い特長との間には、明らかな緊張関係がある。巧みな強制外交の使用(the adroit use of coercive diplomacy)は和平努力を促進することもあるが、あらゆる方向に大きな棒を振り回すトランプの特長は、どこでも通用する訳ではない。遅かれ早かれ、彼のブラフは見破られ、彼は引き下がるか、行動を起こさなければならないだろう。彼の怒りの矛先となっている相手の中には、「泥沼(quagmire)」に陥っている存在もおり、武力行使の脅しは、従わせるどころか、抵抗を強める傾向がある。彼はまた、ロシアによるウクライナ戦争と、ほぼ確実に崩壊するイスラエルとハマスの停戦という、特に厄介な2つの紛争を引き継いだ。そして、後者については24時間以内に解決できると選挙運動中に自慢していたことを、既に撤回している。

第二に、トランプの経済政策は到底納得のいくものではなく、彼は自らが表明した目標の一部を犠牲にするか、経済破綻の危機(a potential economic trainwreck)に直面することになるだろう。減税(tax cuts)の延長、関税(tariffs)の導入、そして労働者の国外追放(deporting)は、いずれも財政赤字の拡大とインフレの再燃を招く恐れがあり、トランプが得意とする予測不可能性(unpredictability)によって生じる不確実性(uncertainty)は、企業の足かせにもなるだろう。トランプと支持者たちは、規制緩和(deregulation)と「無駄な(wasteful)」支出の削減でこの矛盾は解消されると主張しているが、国防総省への支出を増やすのであれば、多くのアメリカ人が依存し支持している社会保障制度を大幅に削減しない限り、大した節約にはならない。トランプ大統領は、ジョー・バイデン前大統領から極めて健全な経済を引き継いだ。更に重要なのは、トランプ大統領が実施すると約束した政策が、この落ち込みをより悪化させるということだ。

第三に、トランプが他国(特にメキシコ)を罰すると脅すことと、反移民政策の間には明らかな矛盾がある。メキシコへの関税は、多くのアメリカの製造業が依存するサプライチェインを混乱させるだけでなく、メキシコ経済に打撃を与え、より多くの人々がリスクを無視してアメリカへの移住を試みるようになるだろう。不法移民を阻止する最良の方法は、近隣諸国を不況に陥れるのではなく、経済的に繁栄させることだが、トランプはこのことを理解しているのだろうか?

第四に、政府機関を骨抜きにし、公務員にリトマス試験を課し、不適格者や深刻な問題を抱えた人物を主要な政府機関の責任者に据えることは、不可欠な公共サーヴィスの低下を確実に招く。政府機関は政治の格好の標的だが、億万長者ではないアメリカ人は、特に緊急事態において、それらの機関が円滑に機能することを頼りにしている。公共サーヴィスが低下した場合、一般のアメリカ人は憤慨するだろうし、トランプには他に責める相手はいないはずだ。

第五に、大学やその他の知識生産組織を攻撃することは、アメリカを愚かにし、人的資本を減退させ、他の国々の追い上げを助長することになる。大学を標的にするなら、技術革新を推進し、効果的な公共政策の策定に貢献し、社会全体の幸福に貢献する将来の科学者、エンジニア、医師、芸術家、社会科学者、弁護士、その他の専門家を誰が教育することになるのだろうか? 大学、非政府組織、シンクタンクにMAGAアジェンダを押し付けることで、各国が致命的な過ちを避けるための健全な議論が阻害されてしまう。これは、アメリカのような開かれた社会が、権威主義的なライヴァル国よりも一般的に豊かで、強く、過ちを犯しにくい理由を説明するものだ。賢明な大統領なら、この優位性を手放したいと思うだろうか?

第六に、トランプ氏が政府の腐敗を全く新しいレヴェルに引き上げると信じるに足る理由は十分にある。彼は既に、金持ちでテクノロジー業界の大富豪たちからの金銭と譲歩を強要している。彼らは金銭の授受に躍起になっている。関税やその他の貿易制限を課すことで、企業は例外を求め、それを得るために金銭を投じるため、腐敗が蔓延する新たな機会が生まれる。腐敗が蔓延すると、資源は人材買収に浪費され、投資は最も優秀なイノベーターや最も有望な事業ではなく、独裁者の言いなりになる忠誠心の高い層に流れていく。開発専門家たちは、腐敗の削減と法の支配の強化が経済成長を促進すると強調しているが、トランプはアメリカを逆の方向に導こうとしているようだ。彼と彼の仲間はより豊かになるだろうが、あなたはそうならないだろう。

第七に、トランプの二期目は、ある意味で、共和党が長年追求してきたいわゆる統一された行政権の実現に向けた集大成と言えるだろう。行政権の集中(the concentration of executive power)は1世紀以上にわたり着実に進んできたが、近年の最高裁判決はこの傾向を加速させ、トランプの君主制的な本能(Trump’s monarchical instincts)を強めている。抑制されない権力の問題は、独裁者の過ちを正す術がないことだ。特に、情報環境も掌握し、自らの失策を指摘する者を排除したり、沈黙させたりできる場合、猶更だ。人間は誤りを犯す生き物であり、過ちは避けられないが、抑制されない権力を持つ指導者は、大きな過ちを犯しがちだ。ヨシフ・スターリン、毛沢東、アドルフ・ヒトラー、ベニート・ムッソリーニ、サダム・フセイン、ムアンマル・カダフィ、そして北朝鮮の金王朝が、権力を掌握し、やりたい放題になった時にどれほどの損害を与えたかを考えてみて欲しい。中国の習近平国家主席の最近の一連の失策もまた、警告となる具体例となる。

就任演説でトランプは、アメリカ合衆国を新たな「黄金時代(golden age)」へと導くと宣言した。しかし、寡頭政治家たち(oligarchs)が政治を支配し、縁故資本主義(crony capitalism)が蔓延し、政府が市民社会(civil society)の独立した機関を威圧し、嘘が政治言説の常套手段となり、宗教的教義が公共政策の主要要素を左右し、問題は常に変化する内外の「敵(enemy)」のせいにされるような国のヴィジョンとは、到底合致しない。これはアメリカ合衆国というより、ロシア、中国、あるいはイランに近い。そして、大多数のアメリカ人が本当に望んでいるのは、そのような状況ではないだろう。

良いニューズなのは、そこに到達するにはまだ道のりが長く、独裁政治(autocracy)への道には落とし穴がたくさんあるということだ。22024年11月5日のアメリカ大統領選挙以来、トランプが続けてきた勝利のラップソングは終わりを迎え、彼の突飛な公約を全て実現するという困難な仕事が始まる。特に誠実さや清廉さといった基本的規範を軽蔑する人物には嫌悪感を抱いているものの、もしトランプが私の予想を覆し、専門家の予想を覆し、アメリカをより豊かで、より団結し、より安全で、より尊敬され、より平穏な国にしてくれるなら、嬉しい驚きを感じるだろう。しかし、私はそれに賭けるつもりはない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Bluesky: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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