古村治彦です。
3月上旬のイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフのアメリカ連邦議会での演説とイスラエルの総選挙の結果はアメリカ政治に大きな分裂の原因となりました。今回はそれについての記事を皆様にご紹介します。
アメリカ政治における大きな分裂については、副島隆彦先生の最新刊『日本に恐ろしい大きな戦争が迫り来る』(講談社、2015年)でも詳しく分析されていますし、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)ではその枠組をいち早く提示したという自負もあります。また、本ブログでは重要な情報をご紹介しております。
これからもよろしくお願い申し上げます。
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ベンヤミンは勝ったが、AIPACは負けた(When Bibi Won, AIPAC Lost)
―イスラエルはアメリカ政治においてより分裂を招く問題になってしまった
ピーター・ベイナート筆
2015年3月19日
『ジ・アトランティック』誌
http://www.theatlantic.com/international/archive/2015/03/when-bibi-won-aipac-lost/388203/
ベンヤミン・ネタニヤフの勝利の裏には破れ去った犠牲者がいる。イサク・ヘルツォグはネタニヤフを首相の座から追いとしたいと考えていた。バラク・オバマは共和党と一緒になって自分を攻撃しない、そしてイスラエルとパレスチナ二国共存によるパレスチナ問題解決を支持する人物がイスラエルの首相になって欲しいと望んでいた。彼らが犠牲者であることは明らかだ。
分かりづらい犠牲者たちも存在する。ここ数カ月の間にネタニヤフ首相が米国イスラエル広報委員会(American Israel Public Affairs Committee、AIPAC)に対して行ったことを考えてみよう。AIPACはワシントンにおいて、アメリカ・イスラエル同盟のために活動するロビー団体である。AIPACは右派の組織だと批判する人々もいる。しかし、組織内部は全くそのようなことはない。AIPACのスタッフたちは戦闘的であるが、超党派である。つまり、彼らは誰がワシントンで権力を握ってもそれに関係なく影響力を維持できるようにしている。それでも歴史的に見て、AIPACの会員たちは多くが民主党員や民主党支持者である。 ユダヤ系アメリカ人の多くが民主党員や民主党支持者である。従って、巨大な、そしてユダヤ系アメリカ人世界の主流派を形成するAIPACの会員の多くもまた民主党支持となるのも当然のことだ。
AIPACはイスラエルとパレスチナの共存によるパレスチナ問題の解決(two-state solution)を支持している。それは、「イスラエルは民主政治体制であるのだから、アメリカはイスラエルを支持すべきだ」という主張がAIPACの基本にあるからだ。クリスチャン・ユナイテッド・フォ・イスラエルのような宗教右派グループは、イスラエルとアメリカは宗教上の強いつながりがあるからアメリカはイスラエルを支持すべきなのだと主張する。しかし、そのような宗教を絡めた主張を行うことで、AIPAC内部の民主党支持の会員を含む、多くの民主党員をかえってイスラエル支持から離れさせてしまうことになるとAIPACは認識しているのだ。AIPACは、「民主政治体制への関与、法の支配、信教と言論の自由、人権こそは、アメリカとイスラエルが共有している、両国の核となる価値観である」と強調する。イスラエルがヨルダン川西岸地区の数百万のパレスチナ人たちに市民権、投票権、移動の自由を認めずに、戒厳令下で軍事的な支配を続けることをAIPACは望まないし、支持しないのである。従って、AIPACはイスラエルによるヨルダン川西岸地区の支配は一時的なものであり、パレスチナによる反乱に対して民主的な志向を持つイスラエル政府が心ならずも非民主的な対応をせざるを得なかった、悲しい現実なのだと主張しているのだ。
こうした点から、ネタニヤフの最近の行動は、AIPACにとっては迷惑なものなのである。2009年にパレスチナ国家について不承不承支持することに同意したはずなのに、今回の総選挙の選挙運動の最終盤になってネタニヤフはその支持を撤回する発言を行った。AIPACは自分たちのウェブサイト上で「ユダヤ人国家イスラエルと非武装のパレスチナ国家の2つの国家の共存が交渉を通じて合意された」ことを支持すると発表していたが、ネタニヤフの行動によって困った立場に置かれることになった。AIPACがネタニヤフを支持して、2国家共存への支持を放棄すると、AIPACは世俗的な会員、民主党支持の会員、アメリカとイスラエルが共有している民主政治体制を理由にして支持してくれている会員たちが離れてしまう危険性があり、そうした人々がハト派の親イスラエル団体であるJストリートに向かうと考えられる。しかし、AIPACが自分たちとネタニヤフとの間に距離があるということを公に認めてしまうと、よりタカ派的な会員たちが離れてしまう危険がある。彼らはイスラエル首相が誰であれその人物に対するアメリカ政府の批判をいっさい認めない。彼らはネタニヤフを賞賛しているので特に彼に対する批判を容認しない。
更に言うと、ここ数カ月のネタニヤフはアメリカ国内で全く別の分裂した評価を受ける人物となった。共和党は彼を愛している。それは彼がタカ派であるだけでなく、オバマ大統領の敵であるからだ。民主党員の多くは同じ理由から彼を嫌っている。党派性の強いユダヤ人団体にとってそれは都合の良いことであった。民主党に近いJストリートは、会員たちにネタニヤフからの攻撃に対してオバマを擁護するように呼びかけている。ザイオニスト・ユニオン・オブ・アメリカと、右翼の大富豪であるシェルドン・アデルソンからの資金援助を受けているラビのシュマリー・ボテック率いるディス・ワールド:ザ・ヴァリュー・ネットワークのような団体は、オバマからの攻撃からネタニヤフを擁護するように呼びかけている。AIPACはこの2つの間に挟まれ、何も発言できず、取るに足らない存在のようになっている。
AIPACが取るに足らない存在などではない。ワシントンで最も有力なユダヤ系アメリカ人団体である。しかし、AIPACは党派対立やイデオロギー対立の激しくなっているこの時代にそぐわないのである。一般有権者からすると、共和党と民主党ではイスラエルに対する姿勢が異なっており、その相違が大きくなっているように見える。共和党はイスラエルを、アメリカに憎悪を抱いているイスラム教徒たちに包囲されたユダヤ・キリスト教の最前線基地だと考えている。民主党は、イスラエルを母国アメリカでは人気のない「ネオコンサヴァティヴ」派の人々によって率いられている国だと考えている。AIPACはこの分裂がワシントンを二分させないようにする必要がある。AIPACからすると、民主党所属の連邦議員たちには有権者たちの本能に抵抗して欲しいということになる。共和党に対しては、党派的な利益のためにイスラエルを利用して、有権者たちに取り入るのをやめて欲しいと思っている。そして、民主党支持者たちがAIPACからこれ以上離れないようにして欲しいと願っている。
イサク・ヘルツォグはこのような試みにとっては良いパートナーになったことだろう。彼はオバマ大統領を尊敬しており、そのことで民主党側は安心感を得られたことであろう。しかし、彼がイスラエル国民による選挙の結果としてイスラエル首相になることで、共和党側からはその立場に対する尊重を得ることが出来たことであろう。ヘルツォグが選挙に勝利していれば、自然な形で2国共存の解決を支持したことであろう。そうすればAIPACはこれまでの主張を繰りかえることが出来ただろう。それは、「パレスチナ国家が成立しないのはパレスチナ人側の失敗である」というものだ。これから数年間、ネタニヤフが首相の座に留まることになる。それによってイスラエルはアメリカ国内でより分裂を招く問題となることだろう。AIPACにとってみれば、選挙の投開票があった火曜日は最悪の日ということになる。
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ベイナーがイランとの交渉最終日にイスラエルを訪問(Boehner to visit
Israel on Iran deadline)
ベン・カミサール筆
2015年3月20日
『ザ・ヒル』誌
http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/236400-boehner-to-lead-trip-to-israel-meet-with-netanyahu
連邦下院議長ジョン・ベイナー(オハイオ州選出、共和党)は共和党所属の連邦議員のグループを引き連れて、3月31日からイスラエルを訪問し、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフと会談を行う予定であることが明らかになった。3月31日はアメリカとイランとの核開発を巡る交渉の最終日になっている。
イスラエル政府のある高官はCNNに対してベイナーのイスラエル訪問の予定がある子を認め、イスラエルの新聞『ハアレツ』紙は、連邦議員たちは3月31日にイスラエルに到着することになると報じている。この訪問は総選挙前から計画されていたということだ。
共和党の連邦議員たちはオバマ大統領が進めているイランとの交渉に対して批判的であり、交渉によって、イスラエルの破壊を求めているイランに対して行動の自由を認めてしまうことになると主張している。ベイナーは3月上旬に、オバマ政権に相談することなくネタニヤフを議会での演説のために招聘したことでホワイトハウスと民主党の怒りを買った。ホワイトハウスの高官たちはこの行動を外交儀礼に反するものと厳しく批判し、多くの民主党所属の連邦議員たちはネタニヤフの議会演説を欠席した。この演説には政治的な意図が隠されており、数週間後にはイスラエル国会の総選挙が控えていた。
しかし、ベイナーと他の共和党所属の連邦議員たちは、ネタニヤフの演説を擁護し、彼が反対しているイランとの核開発を巡る交渉について意見を聞くのは重要だと述べた。
こうした争いはネタニヤフとオバマ大統領の間の冷め切った関係を示すもので、2人は長年にわたり衝突してきた。2012年の米大統領選挙で、ネタニヤフは共和党の候補者ミット・ロムニーを支持したことで批判された。ネタニヤフとロムニーはボストン・コンサルティング・グループで一緒に働いた経験がある。
ネタニヤフは総選挙の前に2国共存への支持を撤回するかのような発言を行ったが、これはここ数十年間のアメリカの外交政策と大きく矛盾するものなのである。ホワイトハウスによると、今週木曜日、オバマ大統領はネタニヤフ首相へ選挙に勝利したことを祝すために電話をかけ、その時に、「アメリカは長年にわたり2国共存による解決のために努力してきたことを再確認」したということである。
ネタニヤフ首相は、NBCのニュース番組「ナリトリー・ニュース」でインタビューを受け、その際に選挙前の発言からトーンを落とした発言を行い、イスラエルとアメリカとの間には強固な関係が存在することを再確認した。
イスラエル国会クネセトの総選挙でリクードが多数を制したことから、ネタニヤフは首相の座に留まると予想されている。
(終わり)








