古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:BRICS

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「有志連合(coalitions of the willing)」という言葉を聞くようになって久しい。このことを別名では「ミニラテラリズム(minilateralism)」とも言う。この言葉は比較的新しい言葉だ。一極主義(unilateralism)、二極主義(bilateralism)、多極主義(multilateralism)と似たような言葉があるが、二極主義と多極主義の間に入るのがミニラテラリズムだ。ミニラテラリズムは、簡単に言えば、3から6の国が集まって枠組みを作って、世界で起きる様々な問題に対処するということだ。アメリカのジョー・バイデン政権はこうしたミニラテラリズムに基づいた数カ国からなる有志連合を外交政策の中心に据えている。それは、国連は既に機能不全に陥っており、国際問題への効果的な対処が難しい状況になっているからだ。そして、これは、戦後の世界構造が変化しつつあることも関係している。
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 国連において最重要期間は国連安全保障理事会(国連安保理)である。その中でも、安保理常任理事国5カ国、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアが意思決定において優越的な地位を占めている。これらの国々には拒否権(veto)が認められている。国際連合(the United Nations)は、第二次世界体制の戦勝側である、連合国(the United NationsAllies)が国連なのである。戦時中の下のポスターを見て欲しい。ここには「The United Nations Fight for Freedom(連合国は自由のために戦う)」と書かれている。国連とは、第二次世界大戦の戦勝側が優越的な地位を占めるための国際的な枠組みなのである。そして、戦争で大きな犠牲を払った主要諸大国(powers)が世界の方向を決めるという仕組みになっている。
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 しかし、米ソ対立から冷戦が始まり、国連は協調の場ではなく、米ソ対立を基にした争いの場になってきた。そして、現在は、米英仏対中露、西側諸国対それ以外の国々、ザ・ウエスト(the West)対ザ・レスト(the Rest)の争いの場に変容しつつある。

 国連では何も決められない。問題にも対処できない。アメリカの国力がダ充実していたころは、一極的な行動もできたが、今はそれも難しい。だから、「ある程度お金や力を持っている気の合う仲間」を誘い合わせて、有志連合を形成する方向に進んでいる。パートナーは、西側の仲間内で見つけるということになる。各地域で有志連合を作り、それを重層的なネットワーク化しようとしている。こうした動きはザ・レスト側にもあり、その基本がブリックス(BRICS)ということになる。戦後世界構造の変化の中で、国際的な枠組みにも変化が起きている。

(貼り付けはじめ)

バイデンの「有志連合」外交ドクトリン(Biden’s ‘Coalitions of the Willing’ Foreign-Policy Doctrine

-アメリカ外交の最新の動きは、大統領がいかに「ミニラテラリズム(minilateralism)」を重視しているかを示している。

ロビー・グラマー筆

2024年4月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/11/biden-minilateralism-foreign-policy-doctrine-japan-philippines-aukus-quad/

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2023年3月13日、オーカス(AUKUS)の三カ国首脳会談の後の記者会見でのオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、ジョー・バイデン米大統領、リシ・スナク英首相

ジョー・バイデン米大統領が今週、ワシントンで日本とフィリピンの両国首脳を招き、史上初の3カ国首脳会議を開催する一方で、バイデン政権のアントニー・ブリンケン米国務長官は来週、イタリアで開催されるG7外相会議の準備を進めている。何千キロも離れており、議題も大きく異なっているにもかかわらず、この2つの会議はいずれもバイデン外交のドクトリンの特徴となっているミニラテラリズム(minilateralism)の一環である。

ミニラテリズムとは、本誌フォーリン・ポリシーの複数の記事で最初に広まった、奇妙な用語で、国連や世界貿易機関(WTO)のような大規模で動きの遅い伝統的な多国間機関ではなく、共通の利益を持つ、より小規模でよりターゲットを絞った国々のグループが関与する国際協力の一形態を指す。および。これはまさにバイデン政権が追求してきたアプローチであり、冷戦後の世界秩序がいかに崩壊しつつあるかを示すこれまでで最も明らかな兆候を表している。

この戦略は、民主党の外交政策の伝統的な理念からの大幅な転換を示している。バラク・オバマ政権時代、ワシントンは国連システムや他の主要な多国間ブロック(multilateral blocs)を通じて主要な外交政策の取り組みを推進することに重点を置いていた。2011年のNATOによるリビアへの介入については、最初は国連安全保障理事会のゴーサインを得ようと努力したし、バラク・オバマ大統領の気候変動への取り組みについても、主要な国連内部の会議を通して行おうとした。

その代わりに、バイデン・ティームは、主要な危機に関する特定の政策課題を推進するために、より小規模で目的に合った「有志連合」(smaller, fit-for-purpose “coalitions of the willing”)にますます頼るようになっている。

ヨーロッパでは、G7を利用してウクライナ戦争に対するロシアへの徹底的な経済制裁を実施し、ウクライナへの軍事援助を数十カ国間で調整するための暫定的な新組織、いわゆるラムシュタイン・グループ(Ramstein group、訳者註:ウクライナ防衛のための40カ国以上が参加した国際会議)を設立した。アジアでは、中国の台頭を食い止めようと、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)、AUKUS、そして日本とフィリピンとの三国間イニシアティヴ(今週首脳会談が実施された)など、重複する小さなグループのパッチワークをバイデン政権は採用している。

新アメリカ安全保障センター上級研究員リサ・カーティスは、「このような3、4カ国によるミニラテラルな会合(minilateral meetings)は、安全保障関係の緩やかなネットワーク(a loose network of security relationships)を発展させるというバイデン政権の戦略の特徴となっている」と述べている。

カーティスは、バイデンが2期目を勝ち取るかどうかにかかわらず、ミニラテラリズムのアプローチはバイデン政権が終わってからも、より長続きする可能性が高いと述べた。インド太平洋に関するバイデンとトランプのドクトリンは、驚くほどよく似ていると指摘している。加えて、中国に対抗するためのAUKUSのような構想は、ワシントンの政治的スペクトルを超えて広く普及しており、ドナルド・トランプの共和党にしても、国連と政界貿易機関(WTO)のシステムに深い懐疑的な見方をしている。

この戦略が功を奏しているかどうかはまだ明らかになっていない。バイデン政権は、インド太平洋地域でこうした外交的イニシアティヴの「格子細工(latticework)」と呼ばれるものを立ち上げ、一定の勝利を収めたが、それらが実際に中国を地政学的に制限できるかどうかはまだ分からない。

しかし、ワシントンが注意深くなければ、こうしたミニラテラルな取り組みも暗礁に乗り上げる可能性がある。「ASEANウォンク・ニュースレター」の発行人であるラシャンス・パラメスワランは次のように述べている。「もし将来の米政権が、気候や経済といった分野での各国のニーズも認識した、より包括的なアジェンダを維持するのではなく、アメリカ主導のミニラテラリズムの焦点を中国への対抗だけに絞った場合、アメリカは北京に対して僅かな勝利を得ることはできても、この地域の多くを失うリスクがある」。

パラメスワランは続けて次のように述べている。「ミニラテラルに参加する国々は、物事を成し遂げるために、より柔軟な連合を構築する。しかし、ミニラテラルは、二国間(bilateral)、もしくは多国間(multilateral)での関与を調整したときにこそ最も効果を発揮するため、既存の制度を弱体化させる一連の排他的なクラブのようには見えない。中国はじしんが発するメッセージの一部を使って、ミニラテラルを厄介者のように印象付けようとしている」。

いずれにせよ、バイデン政権の内部関係者たちによれば、新しいミニラテラリズム(minilateralism)のアプローチは、アメリカが何十年にもわたって築き上げ、維持してきた第二次世界大戦後の国際システムが、もはや目的にそぐわなくなっていることを端的に反映したものだという。

あるバイデン政権幹部は匿名上条件に、次のように率直に意見を述べた。「私たちが80年間構築し、依存してきた多国間秩序(multilateral order)は、あまりにも時代遅れ(old-timey)で扱いにくくなっている(unwieldy)。国連やその他の大きな機関における絶え間ない行き詰まりに対する回避策を見つけなければならない」。

新しい方策のために、バイデン政権は熱狂的なペースで取り組んでいる。政権の高官たちとこの問題に詳しい複数の外交官たちによれば、バイデンは来週イタリアで開かれるG7外相会議に続いて、6月にイタリアで開かれるG7サミットと、今年後半にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力サミット(Asia-Pacific Economic Cooperation summit)に出席する予定だという。複数のバイデン政権関係者はまた、11月下旬か12月上旬にニューデリーで開催される日米豪印戦略対話首脳会議(Quad Summit)のためのインド訪問の可能性も視野に入れ、その下準備を進めている。この計画はバイデンが再選されるかどうかにかかっている。

この言葉は比較的新しいかもしれないが、国連のような組織における外交的膠着状態を回避する方法としてのミニラテラリズムという考え方は、決して新しいものではない。たとえばG7はもともと、1973年の石油危機をきっかけにして、フランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカの主要先進工業国が、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)の厳格なシステムの枠外で、主要な金融問題に取り組むためのフォーラムとして1970年代初頭に設立された。後にイタリアとカナダが加盟し、ヨーロッパ連合(EU)も「数に挙げられていないメンバー(non-enumerated member)」として加わった。

しかし、近年ワシントンの一部では、ロシアのウクライナ紛争をめぐる行き詰まり、ミャンマー紛争への対応の失敗、国際機関における中国の影響力拡大に対する不信感、スーダンが内戦に突入した際の不手際など、注目される国際機関の失敗や失策が後を絶たないため、ミニラテラリズムはさらに魅力的なものとなっている。こうしたことから、民主党内の伝統的な制度の熱心な支持者でさえ、解決策を他に求めるようになっている。

経済面では、アメリカはG7レヴェルにおいて、対ロシア制裁を調整することを選択した。ウクライナ戦争の主要な侵略者が常任理事国(permanent member)であり、拒否権(veto)を持つ国連安全保障理事会(U.N. Security Council)では、そのような努力は効果を上げないと予測していたからだ。バイデン政権はまた、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)などの機関ではなく、G7という場を利用して世界的な法人税制の見直しを行い、中国の「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)に対抗して、国際インフラ投資プログラム(international infrastructure investment program)を立ち上げて注目を集めた

インターナショナル・クライシス・グループの国連担当部長のリチャード・ゴーワンは、「ホワイトハウスは世界をよく観察し、多くの制度が綻びを見せているのを見て、かなり重要な問題に関して国連から望むものを引き出すのは非常に難しいと見ている」と述べている。

現在世界で最も大きな地政学的引火点の2つ、ウクライナ戦争とインド太平洋の緊張には、いずれも国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアと中国が関与しており、それらの緊張に対処するための国連の取り組みを阻止するために、中露両国は拒否権を行使することに何の躊躇もしない。(つい先月、ロシアは、ウクライナ戦争を支援するための武器供与と引き換えに北朝鮮との関係を強化する中、成立すると広く考えられていた対北朝鮮制裁を監視する15年間の計画を頓挫させた。)

アメリカはまた、世界で3番目に大きな地政学的火種であるイスラエルとハマスの戦争に対処する努力において、国連から距離を置いている。先月、ようやく1つの決議が可決されたが、アメリカが棄権したため、緊密なパートナーであるイスラエルは怒ったが、イスラエルの戦争戦略に全く変更は行われなかった。

2022年の歴史的な国連総会の投票では、世界の圧倒的多数がロシアのウクライナ侵攻を非難したが、それまでと同様にモスクワの戦争に関する計算を変えさせることはできなかった。

そして今週、アメリカがイランによるイスラエル攻撃の可能性に警告を発した時、アントニー・ブリンケン米国務長官は、イランが常設の外交拠点を持つ国連にその懸念を持ち込まず、むしろ従来のシステムを回避してトルコ、中国、サウジアラビアの外相に電話をかけ、緊張緩和のためにテヘランに水面下で働きかけを行うように促した。

インド、南アフリカ、ブラジルなどの中堅・新興大国(middle and rising powers)は、国連安全保障理事会は時代遅れであり、いわゆるグローバル・サウス(global south)が国際問題で果たす役割の高まりを反映していないと主張しているが、制度改革の努力は全てが失敗に終わっている。

表向きは大国(列強)間競争(great-power competition)に関与していない問題、たとえばハイチの安全保障危機やエチオピアとスーダンの戦争でさえ、バイデン政権は国連に可能な役割は存在しないと見ている。2021年にバイデン政権の国連大使に就任したリンダ・トーマス=グリーンフィールドは、エチオピア北部ティグライ地方での致命的な戦争に安保理が正式に対処するよう強く働きかけた。しかし、この危機に関する公開会合が開かれるまでに数カ月が必要だった。

前述のゴーワンは、このため、当初はバイデン政権がトランプ政権後の世界機構に大きな再投資を行うことを期待していた国連外交官たちは、バイデン政権のミニラテラリズムへの軸足移動(Biden’s pivot to minilateralism)に失望することになった、と主張している。

ゴーワンは次のように述べている。「バイデン政権は、大多数の国にウクライナの主権に対するリップサービスを求めたいときには国連は役に立つが、実際に何かを成し遂げたいときには、別の場所に行く方が賢明だと考えている。国連では、『トランプの嵐を乗り切って、バイデンが晴れをもたらしてくれると思ったのに、代わりに霧雨が降ってきた』という感覚があるようだ」。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界は大きく「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西峩々以外の国々)」に分裂していく、構造変化が起きています。そのことを詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「デカップリング(decoupling)」「脱ドル化(de-dollarization)」という言葉を聞くようになった。特に昨年、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の総会で、「BRICS通貨の創設が発表されるのではないか」という予測が出て、ドルに代わる世界通貨になるかもしれないということで、話題になった。結局、インドの反対もあり、今回は見送りとなったが、ドルが世界の基軸通貨(key currency)の地位を失う可能性が取り沙汰されるきっかけとなった。このことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも取り上げた。脱ドル化、デカップリングとは、西側世界への経済的な依存を減らすことである。その先頭を走っているのは中国である。下の論稿には、中国が行ってきたデカップリングと脱リスク化について、脱ドル化、技術依存度(technological dependence)を下げる努力、国内の金融部門に外国が関与することを制限することが挙げられている。これらは、20世紀末から西側諸国を中心に進められてきた、グローバライゼーション(Globalization)に逆行する動きであるが、グローバライゼーションに対する逆行こそが、国家を救う道である。

 現在の日本を見てみると、自国通貨である円の価値の低下によって、諸外国から見て、「なんでも安い国」となった。しかも高品質というおまけがつくので、「なんともおいしい」区になっている。現在、バブルを超える勢いで、株式市場が上昇を見せているが、これは、外国からの投資が増大し、それに国内の資金が流れているということである。外国からの資金はいつか日本株を打って出ていく。株高に誘惑されて株式を買ったり、NISA投資をしたりしている日本の人々には損がかぶせられる。そうして国力が奪われていき、日本の衰退は加速していく。グローバライゼーションで利益を得るのは国境を軽々と超えるエリートたちや資産家たちだけである。日本は30年以上、グローバライゼーションによって国力を毀損させられてきた。

 世界の構造が大きく変化しようとしている時期になっている。グローバライゼーションと世界構造の大変化に備えるためにも、デカップリングと脱ドル化を真剣に検討し、議論するべき時だ。しかし、既にアメリカ国債を買いまくり、外貨準備もドルに偏重している日本はこのようなことはできないかもしれない。アメリカと一緒に心中をするしかないということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

西側諸国がデカップリングを発明したのではない-中国が発明したのだ(The West Did Not Invent Decoupling—China Did

-北京は長い間、経済を西側諸国から切り離すことで自由裁量(free hand)を手にしようとしてきた。

アガーテ・デマライス筆

2024年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/01/china-decoupling-derisking-technology-sanctions-trade-us-eu-west/

クレムリン・ウォッチャーたちの間で語り継がれている話がある。2014年のロシアによるクリミア侵攻と併合に対して、西側諸国が初めてロシアに制裁を課した直後、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は経済補佐官たちを呼び出した。彼の質問は単純だった。「ロシアの食料自給率はどのような状況なのか?」。補佐官たちはあまり良くないという答えが返ってきた。ロシアは国民に提供する食糧は輸入に頼っていた。プーティンは顔をあ納めさせて、制裁によってモスクワの主食へのアクセスが制限されることを恐れ、何とかするよう命じた。

2022年にロシアが本格的にウクライナに侵攻する時点にまでテープを早送りすると、プーティンはもはや食料の心配をする必要がなくなった。わずか8年で、ロシアは食糧をほぼ自給自足できるようになり、肉、魚、そして、まあまあの品質のチーズまで生産できるようになった。

ロシアが食糧自給を目指したのは、現在流行している経済的デカップリング[economic decoupling](最近では脱リスク[de-risking]と言い換えられている)をめぐる議論よりもずっと以前のことである。政治的言説(political discourse)が示唆するところとは逆に、西側諸国がこうした政策を考案したわけではない。ロシアの例が示すように、西側の民主政治体制国家と対立する国々は、潜在的な敵国から自らを守るために、長い間リスク回避政策(de-risking policy)を追求してきた。

ロシアに比べ、中国は技術、貿易、金融の面で西側諸国への経済的依存(economic reliance)を減らしてきた実績がある。デカップリング(decoupling)とデリスク(de-risking)の発明者であり、世界のリーダーでも存在がいるとすれば、それはどう見ても北京である。

近年、アメリカが中国へのハイテク輸出を次々と規制するずっと以前から、中国の指導者たちはテクノロジーを脱リスクの最初の柱としてきた。例えば、北京の半導体分野への最初の投資計画は、1980年代まで遡るが、当時の中国が基本的なチップを生産する域にも達していなかったことを考えると、その結果は成功と失敗が入り混じったものであったことは間違いない。

中国の計算はシンプルだ。テクノロジーは経済的・軍事的優位性のバックボーンである。したがって、北京にとって技術的な自給自足は、生き残り、繁栄するために必要不可欠なことなのだ。

中国の技術依存度(technological dependence)を下げる努力は過去10年間で推進された。ドナルド・トランプ前米大統領が中国との関係断絶を自慢し始める2年前の2015年、北京は半導体(semiconductors)、人工知能()artificial intelligence、クリーンテクノロジー(clean tech)などの主要技術分野で、自給自足を目指す「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」の青写真を発表した。

中国は技術的な自給自足を自国が生存し続けるための必須条件と考え、わずか数年で目覚ましい進歩を遂げた。多くのハイテク分野では、中国企業や研究者たちは揺るぎない世界的リーダーであるか(特にクリーン技術分野では、中国企業がソーラーパネル[solar panels]、風力タービン[wind turbines]、電気自動車[electric vehicles]の市場を独占している)、あるいは西側諸国の競合相手とほぼ肩を並べている(人工知能、量子コンピューター[quantum computing]、バイオテクノロジー[biotech]を含む)。

半導体は例外だ。マイクロチップに関して言えば、西側諸国の政策立案者たちは、中国は最先端チップ(cutting-edge chips)の生産において、アメリカ、台湾、韓国に大きく遅れをとっていると指摘し、自らを安心させたがっている。確かにその通りだが、北京はアメリカの輸出規制が危機感を煽ることを歓迎しているのかもしれない。

中国指導部はまた、輸出管理が容易に裏目に出る可能性があることを知っている。歴史が示しているように、長期的には、アメリカの一方的な輸出管理は、ほとんどの場合、輸出収入を制限することでアメリカ企業に損害を与え、その結果、最先端を維持するための研究開発に費やすことができる額も抑制されることになる。言い換えれば、中国政府は長期戦を繰り広げており、アメリカ政府の積極的な戦略が最終的には裏目に出て、西側諸国の技術への依存を減らすという中国の取り組みを更に支援することを期待しているのだ。

金融分野は、北京のリスク回避戦略の2本目の柱であり、長い歴史を持つ。この分野でも、西側諸国経済との関係を断ち切ろうとする中国の努力は、北京からのリスクを取り除くというアメリカとヨーロッパの計画に先行していた。最も明白な例は、北京が国内の金融部門に外国が大きく関与することを認めてこなかったことだ。中国の金融市場は閉鎖的で、外国人投資家は中国株の4%、中国国債の9%しか保有していない。中国独自の銀行システムは、国際金融からほぼ完全に遮断されており、中国人以外の投資家が中国の銀行資産の2%未満しか所有していない。また、国内外への資金移動を厳しく制限する資本規制は、いまだ解除されていない。

しかし、金融分野における北京のリスク回避努力は、外国人を遠ざけるだけではない。中国の指導者たちは不都合な真実に直面している。西側諸国の金融チャネルへの依存は、北京のアキレス腱になるかもしれない。西側諸国は世界の支配的な通貨を所有し、世界の全ての銀行を結ぶ世界的な決済システムであるSWIFTや、世界で最も重要な証券保管機関であるユーロクリア(Euroclear)など、グローバルな金融インフラへのアクセスを支配している。

西側諸国の金融支配が制裁を強力なものにしている。ドルやSWIFTへのアクセスを失うことは、ほとんどの銀行や企業にとって事実上の死刑宣告である。2012年に西側諸国がイランのSWIFTへのアクセスを遮断する決定を下した後、北京はその結果を目撃した。

金融制裁に対抗するための先制攻撃として、中国は3つの戦略を展開している。

第一に、人民元による国境を越えた決済の整備を進めている。世界貿易におけるドルとユーロの優位性を考えれば、その道のりは険しい。しかし、中国の脱ドル化計画(China’s de-dollarization plans)は進展している。人民元で決済される世界的な決済の割合は、2023年にはほぼ倍増し、約4%にまで達した。重要なのは、中国の対外貿易の3分の1が人民元建てになっていることで、中国企業は西側諸国の制裁からある程度身を守ることができる。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして最近加わった5カ国からなるBRICS圏の通貨の可能性が取り沙汰されているが、人民元がロシアと中国の貿易で最も使用されている通貨になったように、北京もBRICS諸国間の貿易で人民元が選択される通貨になることを望んでいる。

SWIFTに代わる中国の決済システムCIPSthe Cross-Border Interbank Payment System)は、北京の金融リスク軽減の2つ目の礎石となる。2015年に開始されたこの決済ネットワークは、SWIFTよりもはるかに規模が小さい。しかし、SWIFTは世界中のほとんどの銀行を接続している中で、SWIFTが中国の銀行を切断した場合のバックアップとなるだろう。最後に、中国はアラブ首長国連邦やタイなどともデジタル通貨を使った国境を越えた取引を試験的に行っている。中国のデジタル通貨がグローバルになる道のりはまだまだ遠い。しかし、優位性は重要ではないかもしれない。中国の目標は、保護手段として代替金融チャネルを持つことであり、そのためには運用が可能であることが必要なだけなのだ。

中国のリスク回避戦略の3つ目のそして最後の柱は、貿易および中国の投資先としての非友好国への依存を減らすことを伴う。その論拠は、2014年にプーティン大統領がロシアの食糧安全保障を懸念したときの論拠と似ている。紛争、感染症拡大、地政学的な緊張によって経済関係が阻害されたり、サプライチェインが混乱したりする可能性があるため、中国政府は貿易の流れをどこかの国に過度に依存することが弱点だと見なしている。中国のような輸出指向の経済にとって、重要な原材料の輸入や主要な輸出先として特定の国に過度に依存することは致命的となる可能性がある。

中国の貿易におけるリスク回避の努力は、ハイテクや金融のそれよりも最近のもので、2018年の最初の米中貿易戦争が起きた際に始まった。しかし、中国の税関が発表した最新の統計を見てみると、中国は最近、一見非友好的に見える西側諸国との関係を分散させるための明確な努力をもって、貿易のリスク回避を加速させている。

2023年の最初の11か月間で、中国のアメリカへの輸出は2022年の同時期と比較して8.5%減少し、ヨーロッパ連合(EU)への輸出は5.8%減少した。一方、インド、ロシア、タイ、ラテンアメリカ、アフリカを含むほとんどの新興市場への中国の輸出は増加した。西側経済への貿易依存度を減らす中国の努力は功を奏しており、2023年には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国向けの輸出が、アメリカやEUを抑え、中国の最大の輸出先となった。

中国のリスク回避努力は投資分野にも及んでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所のデータによると、2014年までの10年間、G7諸国とオーストラリア、ニュージーランドは、「一帯一路」構想の資金を除いた中国の対外投資フローの半分近くを吸収していた。2022年までに、この割合はわずか15%にまで低下し、インドネシア、サウジアラビア、ブラジルなどの新興諸国が中国からの直接投資の最大の流入を引き寄せている。

中国の他の取り組みと同様、新興国市場への投資促進も、西側諸国のリスク回避策が発明される以前から行われていた。この変化は2017年のデータで顕著になったが、投資プロジェクトは通常、実現までに数年かかるため、開始はもっと早かったと考えられる。

これらのことから、中国のリスク回避の動きは、アメリカやヨーロッパの取り組みよりもはるかに古く、広範囲に及んでいることが分かる。しかし、中国自身のリスク回避戦略に関する議論は、西側諸国の議論の中ではかなり少ない。

これは重大な欠陥である。北京から見ると、中国への依存を減らそうとする西側諸国の圧力は、アメリカの最先端技術への依存から技術的自給自足の優先、西側の銀行チャネルよりも自国の金融インフラへの依存、西側経済よりも新興市場の優先という、中国の長年確立された計画を加速させるもう1つの理由となる。北京の長期にわたる組織的なアメリカやヨーロッパからの離脱は、中国の経済政策の顕著な特徴であり、それは大きな影響を持つ。

リスク回避は双方向である。協力と平和を導く、経済的相互依存(economic interdependence)という考えは、ロシアのウクライナ侵攻で崩れ去ったと主張する人々もいるが、経済的結びつきはアメリカとヨーロッパに対して、北京への大きな影響力を与えている。しかし、現在進行中の中国と西側諸国との関係を断ち切るプロセスは、西側諸国の制裁脅威の抑止効果を弱めることは避けられず、世界、特に台湾海峡をより危険なものとするだろう。

これはまさに中国の戦略であり、そもそも中国が自給自足を目指す基底には、台湾併合という野望がある。アメリカやヨーロッパがリスク回避を発明したのではなく、中国が発明したのである。そして中国は、この分野で最も熟練した実践者のようである。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アメリカから構成されるブリックス(BRICS)という国際グループは、2001年にその概念が提出されたものだ。その後、21世紀を通じて、具体的な国際グループとして存在感を増してきた。先日、ブリックスの首脳会談が南アフリカで開催され、新たに6カ国がブリックスに参加することが認められた。その6カ国とは、イラン、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピア、アルゼンチンである。地図で見ていただくと分かるが、ペルシア湾と紅海(スエズ運河)、アラビア海、南大西洋、喜望峰、マゼラン海峡をがっちり抑えている。このブログでは、中国がアフリカ西部各国の港湾に投資を行っていることを既にご紹介した。中国の資源確保のための航路づくり、中国の大航海時代の始まりということになる。
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 今回参加を認められた6カ国以外にも加盟申請を行っている国々もあるようだ。これらの国々はブリックスだけにとどまらず、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)、一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)にも参加している。様々な国際機関、国際機構に重層的に参加することで、非西側・非欧米諸国の関係が深まり、強固になっていく。今回。ブリックス通貨(BRICS currency)の導入は行われなかったが、脱ドル化(dedollarization)の流れは変わらない。非欧米諸国は金を購入しており、新たに金本位制を導入するかもしれない。アメリカという国家の「信用(脅し)」で持っているドルの価値が揺らいでいくことになるだろう。
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 中国が今年に入ってイランとサウジアラビアの国交正常化を仲介したというニューズがあった。今回のブリックス拡大に向けた動きであることが明らかになった。ヨーロッパと北米を南半球から、グローバル・サウス(Global South)が圧迫していくという構図が出来上がりつつある。

(貼り付けはじめ)

イラン、サウジアラビア、エジプトが新興国グループに参加(Iran, Saudi Arabia and Egypt Join Emerging Nations Group

-アルゼンチン、エチオピア、アラブ首長国連邦もブリックス(BRICS)に招待され、欧米主導のフォーラムに代わるグループとしての役割が強化された。

スティーヴン・エルランガー、デイヴィッド・ピアーソン、リンゼイ・チャテル筆

2023年8月24日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2023/08/24/world/europe/brics-expansion-xi-lula.html

今回の拡大は、グループの主要メンバー2カ国にとって重要な勝利と見なされている。中国の政治的影響力が増大し、ロシアの孤立を軽減するのに役立っている。しかし、ロシアと中国は、両国が利益を促進していると主張している、国々の経済を損なう可能性のある経済的な逆風に直面している。

中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカに加え、サウジアラビアを筆頭とする中東の3カ国と、ロシアのウクライナ侵攻を強固に支持する反米色の強いイランが参加した。

開催国である南アフリカは、テヘランと長年にわたって関係があり、イランの加盟を支持したが、インドやブラジルのような、いわゆる「グローバル・サウス(Global South)」のリーダーであり、ワシントンと北京の間で行動の自由を守りたい国にとっては、厄介な結果となった。

今回の決定は、現在のグローバルな金融・統治システムを、よりオープンで多様性に富み、制限の少ない、そしてアメリカの政治やドルの力に左右されにくいものに作り変えたいという願望を除いては、多種多様な(heterogenous)、明確な政治的一貫性をもたないこのグループの奇妙な性質を浮き彫りにした。

11カ国を合わせた人口は約37億人だが、5つの民主政体国家(democracies)、3つの権威主義国家(authoritarian states)、2つの独裁的君主制国家(autocratic monarchies)、1つの神政国家(theocracy)で構成されており、なかでもサウジアラビアとイランは数ヶ月前まで宿敵(sworn enemies)だった。

グループを支配し拡大を急ぐ中国を除けば、彼らの経済的影響力は比較的小さい。サウジアラビアとアラブ首長国連邦の参加は、特にブリックス・グループが独自の小規模な開発銀行(development bank)の規模と影響力を拡大しようとしているため、財政的により大きな重みをもたらすことになる。

エジプト、エチオピア、イランが加わったことで、北京はロシアとの「無制限のパートナーシップ(no-limits partnership)」や主権国家ウクライナへの侵攻を黙認したことで、先進諸国の多くの国々を遠ざけてきたにもかかわらず、そのアジェンダへの支持が高まっていることを示そうとしている。

「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト」のコブス・ファン・スタデン研究員は、「イランは明らかに複雑な選択だ。他の加盟国の中には、欧米諸国との地政学的な緊張を高めるのではないかと懸念している国もあるだろうと想像できる」と述べている。

中国の習近平国家主席は木曜日、「今回の加盟国拡大は歴史的なものだ」と宣言し、「ブリックス諸国が、より広い発展途上国のために団結と協力を目指す決意を示した」と付け加えた。

それでも、中国にとって成功の様相を呈したことは、首脳会談から得られる最も重要な収穫となるかもしれない。さもなければ、米ドルの覇権(hegemony of the U.S. dollar)に匹敵するブリックス通貨(BRICS currency)を確立するという長年の目標を達成できなかったからだ。ブリックス・グループは代わりに、貿易に現地通貨を使用することをメンバーに奨励した。

ブリックス・ブロックの限界のもう1つの象徴は、ロシアのウラジーミル・V・プーティン大統領の欠席だった。プーティン大統領は、西側主導の国際機関である国際刑事裁判所(International Criminal Court)の発行した令状に基づき、ウクライナでの戦争犯罪で指名手配されているため出席できなかった。南アフリカは国際刑事裁判所の決定を無視したくないと考えた。

加えて、今週は、ロシアの傭兵部隊(mercurial mercenary)のリーダーであるエフゲニー・V・プリゴジンが、アメリカや他の西側当局の発表によれば、プライヴェートジェット機内で爆発に巻き込まれ、墜落死したことが明らかになり、クレムリンのイメージは更に悪化した。

今週のサミットで導入された変更が、各国が期待しているような影響を与えるかどうかはまだ分からない。2001年にBRICsという言葉を作った元ゴールドマン・サックスのエコノミストであるジム・オニールは、歴史的な記録は安心できるものではないと言う。

オニールは、BRICs首脳会議は「象徴的なものでしかない」と語り、「BRICs首脳会議が何かを成し遂げたとは私には思えない」と付け加えた。

そして、首脳会議からしばしば発せられる高尚な美辞麗句(lofty rhetoric)は、今後数年間にBRICsメンバーに重くのしかかるであろう重大な問題を隠蔽している。

アジア・ソサエティ政策研究所の中国専門家フィリップ・ル・コレは、「不動産スキャンダル、原因不明の外交部長更迭、中国人民解放軍の将軍の突然の解任など、中国経済が低迷するなか、習近平は自国に誇示するための政治的勝利を必要としていた」と指摘する。

しかし、特に中国とロシアの経済については、挫折が積み重なっているようだ。

ピーターソン国際経済研究所のエコノミスト、ジェイコブ・ファンク・キルケゴールは次のように述べている。「中国が主要な経済的比重(main economic weight)と貿易上の優位性(trading advantages)を提供しているため、ブリックスは常に中国プラス4である。しかし、中国経済は深刻な危機に陥っている。中国経済の不振は中国への一次産品輸出に依存しているブラジルや南アフリカなどの国にとっても困難をもたらす」。

キルケゴールは「ロシア経済自体が制裁の重みで崩壊しつつあり、他のブリックス諸国はロシアを搾取し、安い石油を買いあさり、石油精製品をヨーロッパに送っている」と述べた。

厳重に管理された会議では、表向きは結束をアピールしていたものの、ブリックスのメンバーたちは、経済拡大に関して対立する見解を持ち寄っていた。中国は、ブリックスがアメリカのパワーに対抗するためのプラットフォームであると考え、急速な拡大を推し進めた。しかし、何人かの首脳は、冷戦時代を彷彿とさせるような分裂的な世界秩序への回帰を警告を発し、反発した。

ブリックス諸国は西側の覇権(Western hegemony)に対抗して結束を固めたとはいえ、その目標は依然としてバラバラだ。インドのタクシャシラ研究所中国アナリストであるマノジ・ケワラマーニは、「ブリックスは、様々な利害関係を持つ新たなアクターたちによって、未知の道を進んでいる。ブリックスは扱いにくくなり、あえて言えば、より非効率になるだろう」と述べている。

ブリックス関係者の中には、これに同意しない人たちもいた。

ブリックス交渉の南アフリカ代表であるアニル・スークラルは、西側が支配している各機関の構造は時代とともに変化する必要があると述べた。スークラルは「ブリックスが言っているのは、『もっと包括的になろう(Let’s be more inclusive)』ということだ。BRICSは反西洋ではない」と発言した。

対照的に、キルケゴールは、この組織が拡大しても、致命的に多様であり、「反西洋感情によって何とかまとめられた人為的な創造物」に過ぎないと見ている。

サウジアラビアと並ぶイランの加盟は、ロシアの侵攻軍への供給におけるテヘランの重要な役割と、リヤドのアメリカとの長期的な安全保障同盟を考えれば、おそらく最大の驚きとなった。

サウジアラビアはいまだに兵器のほとんどをアメリカから調達しており、複数のアナリストによれば、アメリカの安全保障の傘をすぐに放棄する意図はないという。しかし、サウジアラビア当局者たちは、ワシントンが本当に中東に関与しているのかについて懐疑的であり、今年初めに北京でテヘランとの和解を交渉し、中国の外交的地位を高めた。

テヘランは決してワシントンのファンではない。そして、北京とは意外にも親密になっている。北京は、国際的な制裁を無視して、大幅に値引きされた石油を購入することで、テヘランを浮揚させる手助けをしてきた。

木曜日、イランの政治担当副大統領であるモハマド・ジャムシディは、イランのブリックス加盟を「歴史的な偉業と戦略的勝利(historic achievement and a strategic victory)」と呼んだ。イランの加盟は、一種の世界的な門番としてワシントンがテヘランに対して持っていた影響力を弱めるものでもある、と「クインシー・インスティテュート・フォー・レスポンシブル・ステートクラフト」のトリタ・パルシは述べた。

デリーに本拠を置くオブザーヴァー・リサーチ財団の副理事長で、キングス・カレッジ・ロンドンのインド研究所で国際関係論を教えるハーシュ・V・パント教授は、インドは重大な懸念を抱きながらも、悪役を演じたくなかったため、この拡大に協力した、と語った。更に、ニューデリーは「このプラットフォームの性質が、地理経済的(geoeconomic)なものから地政学的(geopolitical)なものへと変化する」ことに警戒を怠らないだろうと付け加えた。

木曜日、米国務省はイランの参加については触れず、代わりにホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が週明けに述べた、バイデン政権が「ブリックスがアメリカや他の国々に対する地政学的ライバルのような存在に進化するとは考えていない」という発言を紹介した。

アナリストの中には、ブリックスへの加盟に関心を示した数十カ国は、西側諸国への警鐘(wake-up call)になるはずだと述べた。

アジア・ソサエティ政策研究所中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマスは、「多くの発展途上国がブリックスへの加盟に熱意を示しているのは、中国の価値中立的なグローバリゼーションの魅力だけでなく、西側諸国がより包括的な国際秩序の構築に失敗していることを反映している」と指摘している。

ワシントンのエドワード・ウォン、ロンドンのイザベル・クワイ、ベルリンのポール・ソンヌ、ニューデリーのスハシニ・ラジがこの記事の作成に貢献した。

※スティーヴン・エルランガー:『ニューヨーク・タイムズ』紙外交担当特派員チーフ、ベルリンを拠点としている。以前はブリュッセル、ロンドン、パリ、イェルサレム、ベルリン、プラハ、ベルグラード、ワシントン、モスクワ、バンコクで取材活動を行った。

※デイヴィッド・ピアーソン:中国外交政策と中国経済と文化の世界とのかかわりを取材している。

※リンゼイ・チャテル:本紙ヨハネスブルク支局を拠点に南アフリカを取材している。本紙インターナショナル・モーニング・ニューズレターでアフリカについて記事を書いている。チャテルは『フォーリン・ポリシー・クアーツ』誌とAP通信に勤務していた。

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ブリックス(Brics)、新たに6カ国を加盟させ2倍以上に拡大(Brics to more than double with admission of six new countries

-ロシアと中国を含む経済圏の大規模な拡大がアメリカと西側の同盟諸国への対抗軸を提供しようとしている。

ジュリアン・ボーガー筆(ワシントン発)

2023年8月24日

『ガーディアン』紙

https://www.theguardian.com/business/2023/aug/24/five-brics-nations-announce-admission-of-six-new-countries-to-bloc

新興経済大国で構成されるブリックス・グループ(Brics group)は、6カ国の新メンバーの加盟を発表した。今回の拡大は、グローバルな世界秩序を再構築し、アメリカとその同盟諸国に対抗しようとしてのことだ。

来年初め、イラン、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアが、現在の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に加わることが、木曜日にヨハネスブルグで開催された首脳会談の席上で発表された。

中国の習近平国家主席は、この拡大について「歴史的」と表現した。習近平国家主席は、新メンバー加入の重要な推進者であり、ブリックスの拡大がグローバル・サウス(global south)が世界情勢でより強い発言力を持つための方法であると主張してきた。

しかし、この拡大が世界の舞台でブリックスの影響力をどの程度高めることになるのかは不明だ。アナリストたちは、影響力の拡大は、これらの国々がどこまで一致団結して行動できるかにかかっており、新メンバーの加入によって、強力な独裁国家と中所得国や発展途上の民主政治体制国家が混在する、よりバラバラのグループとなった。

「米州対話(Inter-American Dialogue)」でアジア・ラテンアメリカ・プログラムのディレクターを務めるマーガレット・マイヤーズは、「ブリックスの新メンバーが、このブロックに加盟することで何を得ることになるかはまったく明らかではない。少なくとも現時点では、この動きは何よりも象徴的なものであり、世界秩序の再調整に対するグローバル・サウスからの広範な支持を示すものだ」と述べた。

ウラジーミル・プーティンは、国際刑事裁判所(international criminal court)からウクライナでの戦争犯罪の逮捕状が出されている。プーティンは3日間のサミットに直接出席することはなかったが、ブリックスの拡大は、プーティンにとって象徴的な後押しとなる。現在、プーティン大統領は、アメリカが主導する、ロシア軍の撤退と先勝の終結を強いるための努力と企てに対して戦っている。

制裁を回避する方法を探していたイランを加盟させるという決定は、プーティンと習近平の勝利を意味し、グループに反欧米的、非民主的な色合いを与えることに貢献した。彼らは、グループを非同盟(non-aligned)として表現することを好む他のメンバーのより慎重なアプローチに勝った。

厳しい経済問題に直面しているアルゼンチンにとって、加盟は深刻化する危機から脱出するための生命線となりうる。アルベルト・フェルナンデス大統領は、アルゼンチンにとって今回の加盟はアルゼンチンにとっての「新しいシナリオ(new scenario)」となると述べた。

フェルナンデス大統領は「新市場への参加、既存市場の強化、投資の拡大、雇用の創出、輸入の増加の可能性が開ける」と語った。

エチオピアはグループ唯一の低所得国となった。アビイ・アーメド首相は、自国にとって「素晴らしい瞬間(great moment)」だと述べた。

10以上の国々が正式に加盟を申請しているが、加盟候補国が加盟するには、オリジナルの5カ国の間でコンセンサスを得る必要がある。

南アフリカ大統領のシリル・ラマフォサは、加盟諸国が「ブリックス拡大プロセスの指導原則、基準、手順」に合意したと述べた。しかし、これらの基準は説明されなかった。例えば、2億7400万人の人口を持ち、アジアで強力な力を持つインドネシアは、加盟を申請したが今回は認められなかった。

戦略国際問題研究センター(Centre for Strategic and International Studies)の米州プログラム責任者であるライアン・バーグは次のように述べている。「中国とロシアにとって、今回の拡大は勝利だ。中国にとっては、自分たちが望む北京中心の秩序を構築し続けることができる。来年、首脳会議を主催するロシアにとっては、孤立が深刻化している現在、これは大きなチャンスである」。

「ブラジルやインドの立場から見ると、たとえ美辞麗句を並べ立てたとしても、中国のような世界的な大国を含む組織の一員としての力を弱めてしまうため、その拡大にはあまり乗り気ではないだろう」とバーグは述べている。

既に中国と広範な二国間関係を結んでいる加盟諸国にとって、加盟による経済的利益がすぐに得られるとは思えない。ブリックス・グループの新開発銀行(New Development Bank)はまだ比較的小規模だ。しかし、マイヤーズは、この動きは象徴的なものではあるが、重要でないことを意味するものではないと述べた。

マイヤーズは次のように語っている。「これは重要なことであり、G7や他の北半球のグローバル・アクターたちが否定すべきではない。これらの新メンバー(特に主要産油国)が加わったことで、ブリックスの構成は、世界経済と世界人口に占める割合がはるかに大きくなった」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 中国が「一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)」戦略に基づいて、世界各国に進出していることはよく知られている。日本でもよく報道されている。中国の東海岸からヨーロッパまでを陸上と海上でつなぐ、モンゴル帝国時代のユーラシアに訪れた「パクス・モンゴリカ(Pax Mongolica)」時代と大航海時代(Great Navigation)時代を彷彿とさせる大戦略だ。中国自体が外洋に出ていったのは、明時代の鄭和提督の大船団によるアフリカ遠征までだったが、中国はそれ以来の世界進出の時代を迎えている。
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 下記記事によると、中国は現在、「46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクト」を実行しており、その投資総額は「299億ドルに達する」ということだ。港湾の開発と管理(port authority)を行うことで、中国は物流で有利な立場に立つことができる。また、現在、中国人民解放軍海軍は、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、ジブチに海軍基地を設置している。これは「真珠の首飾り(String of Pearls)」戦略に基づいている。簡単に言えば、インドを包囲するという戦略だ。そして、インド洋でアメリカに対抗するための戦略である。この戦略については拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で取り上げている。

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中国の海外港湾プログラム
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「真珠の首飾り」戦略

 中国の海洋進出は更に継続していく。下記記事はそのように分析している。その対象となるのが西アフリカだ。私たちは太平洋からインド洋にかけての地域に目が向いている。従って、「それならばアフリカ大陸ならば東部に進出するのではないか」と考えてしまう。しかし、中国はアフリカ西部に進出する。そのために大規模な投資を行っている。そこには。中国の壮大な戦略が隠されている。
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中国の次の海洋戦略は、「南半球の資源大国を繋ぐ大航海時代の逆ヴァージョン」となると私は考える。以下の記事にある通り、中国はこれから西アフリカに重点を置くと見られている。何故、西アフリカなのかと言えば、それは、南アメリカ大陸とつながるためだ。「中国-東南アジアインド洋(スリランカ)-南アフリカ(喜望峰)-西アフリカ-南アメリカ(ブラジル)」というシーレーンを構築する。西側欧米諸国の影響を受けない、「独立した」シーレーンが完成する。ブリックス(BRICS、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち、南半球にあるブラジルと南アフリカという、南米とアフリカの地域大国でかつ資源大国である国々を中国とつなぐためのシーレーン、航路ということになる。ユーラシア大陸を貫く「一帯一路」が北半球の戦略ならば、こちらは南半球での戦略となる。このシーレーンはまた、「ブリックス通貨(BRICS currency)」の成功のために重要な役割を果たすことになるだろう。

 更に言えば、中国の西アフリカ・南米への進出、「中国の南大西洋戦略」は、アメリカが、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官が発表した「Pivot to Asia(アジアに軸足を移す)」、更には「インド太平洋戦略」という戦略に対抗するための中国の戦略でもある。アメリカが太平洋とインド洋で中国を「封じ込める」という戦略を推進している。それに対抗して、中国はアメリカの「裏庭(backyard)」である南米とつながろうとしている。大きく言えば、南半球を固めて、アメリカを包囲し、包囲網を縮めていくということになる。中国はそのために南大西洋に進出しようとしている。私たちの目がインド太平洋に向いている間に。中国は周到に次の世界覇権国としての準備を進めている。

(貼り付けはじめ)

中国は世界に発展していく-そして海軍基地を次々と建設(Beijing Is Going Places—and Building Naval Bases

-次に中国が基地を建設するであろう候補地はこれらの場所だ。

アレクサンダー・ウーリー、シェン・ジャン筆

2023年7月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/27/china-military-naval-bases-plan-infrastructure/

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スリランカ・ハンバントタにあるハンバントタ国際港に寄港する中国のミサイル追跡船遠望5号2を歓迎する人々(2022年8月16日)

中国は2017年に中国人民解放軍海軍(People’s Liberation Army NavyPLAN)の初の海外基地をジブチに建設したことで知られている。中国は次はどこに海軍基地を建設するだろうか?

この疑問に答えるため、本稿の著者たちはAidDataの新しいデータセットを用いて、2000年から2021年の間に低・中所得国で中国の国有企業によって融資され、2000年から2023年の間に実施された港湾とインフラ建設に焦点を当てた。この詳細なデータセットは、46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクトを捕捉しており、その総額は299億ドルに達する。

私たちの分析の中心的な前提は、対外援助(foreign aid)や投資(investment)を通じて中国が港湾や関連インフラに資金を提供し建設することは、平時でも戦時でも人民解放軍海軍にとって役立つ可能性のある港湾や基地を示す1つの指標になるということである。それには理由がある。中国の法律では、名目上は民間の港湾が、必要な時には必要な分だけ、中国人民解放軍海軍に後方支援を提供することが義務付けられている。港湾の建設や拡張を通じて築かれる経済的な結びつきは永続的なものであり、その関係には長期的なライフサイクルがある。北京はまた、その支出に見合う非貨幣的債務もあると見ている。投資額が大きければ大きいほど、中国は便宜を図ってもらうための影響力を増すはずだ。

私たちのデータは、中国が陸上だけでなく海上でも超大国であり、世界の低・中所得国と並外れた結びつきがあることを明らかにしている。中国の国有銀行はモーリタニアのヌアクショット港の拡張に4億9900万ドルを貸し付けた。シエラレオネの総GDPは40億ドルの国であるが、シエラレオネのフリータウンには、7億5900万ドルの港湾融資を行っている。カリブ海にまで広がる世界的なポートフォリオである。その象徴的な足掛かりとなる場所はアンティグア・バーブーダで、2022年後半、中国の事業体が1億700万ドルを投じてセントジョンズ港の埠頭と護岸の拡張工事を完了させ、港湾を浚渫し、海岸沿いの施設を建設した。 

商業的な投資と将来の海軍基地を結びつけるのは、中国のビジネスのやり方をよく知らない人にとっては奇妙に思えるかもしれない。しかし、中国の港湾建設会社や運営会社の株式は上海証券取引所で取引されているが、一方で公的な政府機関でもある。港湾建設の大手企業としては、中国交通建設股份有限公司(China Communications Construction Company, Ltd.CCCC)がある。中国交通建設は、株式の大半が国有で、上場している多国籍エンジニアリング・建設会社である。その港湾子会社の1つが中国港湾工程有限責任公司(China Harbour Engineering Company, Ltd.CHEC)である。どちらも海外での港湾建設における主要企業である。2020年、米商務省は南シナ海の人工島建設に関与したとして中国交通建設股份有限公司に制裁を科した。

海軍基地建設の立地に関する選択肢を絞り込むために、戦略的位置、港湾の規模や水深、北京との潜在的なホスト国との関係(たとえば国連総会での投票の一致など)といった他の基準も適用した。また、入手可能な場合には、一般に公開されている衛星画像や地理空間マッピングの情報源や技術も利用した。

そこから、私たちは将来の中国人民解放軍海軍基地の候補として、最も可能性の高い8つの候補地を導き出した。それらは、 スリランカのハンバントタ、赤道ギニアのバタ、パキスタンのグワダル、カメルーンのクリビ、カンボジアのリーム、ヴァヌアツのルガンヴィル、モザンビークのナカラ、モーリタニアのヌアクショットである。

中国が資金を提供した港湾インフラと中国人民解放軍海軍基地立地の可能性が高い場所

中国の国有企業は、2000年から2021年にかけて、46カ国78港の拡張・建設プロジェクト123件に299億ドルの融資を約束している。この地図は、49の港湾について正式に承認された、活動中の、または完了したプロジェクトを示し、中国海軍基地として使用される可能性が最も高い8つの港湾の位置を強調している。

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注:地図には、資金提供の約束や中止または中断されたプロジェクトは含まれていない。ロシアのサベッタ港(ヤマル液化天然ガスプロジェクト)は除外されている。このプロジェクトは中国から推定149億ドルの資金提供を受けているが、研究者たちはサベッタ港のみに使われた金額を集計することができなかった。

西太平洋でアメリカを追い出す、あるいは包囲することは北京にとっての優先事項であり、インド洋ではアメリカ、インド、そしていわゆるクアッド同盟(Quad alliance)の他の国々への挑戦でもある。そして、ジブチもそうだが、候補の半分以上はインド太平洋を志向している。驚くべきことには、アフリカの大西洋側における、港湾を含む中国の投資の激しさである。中国の港湾業者について考えると、中国は地政学的に注目されているインド洋よりも、アフリカの大西洋側でより多くの港湾に積極的に投資していることになる。中国はモーリタニアから西アフリカを南下し、ギニア湾を経てカメルーン、アンゴラ、ガボンへと港を建設している。

 

西アフリカや中央アフリカに基地を建設することは、アデン湾での海賊対処任務で自国から遠く離れた場所で活動する方法を学んでからわずか15年しか経っていない海軍にとって、まだ外洋での足場を固めつつある大胆な試みとなる。大西洋の基地は、中国人民解放軍海軍をヨーロッパ、ジブラルタル海峡、主要な大西洋横断航路に相対的に近づけることになる。そして、大西洋へのシフトは流れに逆行することになる。アメリカはインド太平洋に執着しており、イギリスやオーストラリアとAUKUS安全保障パートナーシップを締結し、インドとの物流関係を深め、フィリピンやソロモン諸島に回帰し、パプアニューギニアと防衛協力を行っている。大西洋に中国人民解放軍海軍の基地があれば、ワシントンとブリュッセル(EU)の海軍に関する計算に狂いが生じ、計画立案者たちは図面に戻ることになるだろう。

また、中国は港湾を人里離れた場所に設置することを好んでいることを発見した。その一例が、アンゴラの飛び地であるカイオ港への北京の多額の投資である。十分な水深のある天然の港がないとか、天然資源に近いとか、単純な説明がつくこともある。しかし、ある海運会社の幹部によると、中国の事業体は過去に労働争議や市民の抗議行動、その他の混乱に港がさらされるのを見てきたため、現在ではこうした状況から距離を置くことを好むという。中国の事業体は、多数派で自由な支配権を確保できる、あるいはホスト国の世論の反発を避けられる、安全な新しい場所を好むようだ。これらは、海軍施設をどこに設置するかを決める際のセールスポイントにもなるだろう。

地図上で強調されている、中国人民解放軍海軍の基地の可能性が最も高いトップ8については以下をご覧いただきたい。

(1)ハンバントタ(スリランカ)(Hambantota, Sri Lanka

中国がハンバントタに投じた総額は20億ドル以上を超える。北京はこの施設を直接管理している。その戦略的立地、エリート層や国民の間での中国人気、国連総会での投票におけるスリランカの中国との連携も相まって、ハンバントタは将来の海軍基地の最有力候補である。

(2)バタ(赤道ギニア)(Bata, Equatorial Guinea

米国防総省の情報提供者は、バタ基地に対する中国の関心について懸念を示し、それを主要メディアが取り上げた。基地に関する北京の公式声明がないことは、必ずしも決定的なものではない。基地ができるという発表がなされる直前まで、中国はジブチに対するそのような意図について繰り返し否定していた。商業投資を入り口にして、数カ月以内に建設が始まった。政治的には、赤道ギニアは、カメルーンやトーゴと同様に、全て一族支配、権威主義政権で、長年にわたって政権を維持しており、後継者への政権移譲計画があるか、あるいはその話が持ち上がっている。2022年の『エコノミスト』誌インテリジェンス・ユニットの民主政体指数によると、3カ国とも世界の民主政体ランキングの最下位に位置している。 トーゴは130位、カメルーンは140位、赤道ギニアは158位である。

(3)グワダル(パキスタン)(Gwadar, Pakistan

中国とパキスタンの関係は、戦略的かつ経済的なものだ。パキスタンは、中国が推進する「一帯一路(Belt and Road)」インフラ計画の旗艦国であり、北京にとって最大の軍事品輸出先でもある。パキスタンでは、中国の軍艦は既に定着している。近代化する(modernize)に伴い、パキスタン海軍は中国製の武器を購入する最大の購入者となり、中国が設計した近代的な水上戦艦や潜水艦を運用している。グワダル自体はパキスタンの西の果てに位置し、ホルムズ海峡をカバーする戦略的な場所である。中国はパキスタン国民に、アメリカよりもかなり人気がある。問題を抱えているとはいえ、パキスタンは民主政治体制国家であるため、中国は海軍基地という概念に友好的な指導者を必ずしも永久に当てにすることはできない。グワダルがその大きな構成要素である「一帯一路」の主役である巨大な中国パキスタン経済回廊のパキスタンにおける運命には、多くのことがかかっているかもしれない。この経済回廊の成否は、中国人民解放軍海軍の基地受け入れに影響を与える可能性がある。

(4)クリビ(カメルーン)(Kribi, Cameroon

クリビ港は、中国の投資規模ではハンバントタ港に次ぐ。クリビ港はバタ港と最も競合しそうな港だが、両港の距離は100マイルほどしか離れていない。中国はどちらかを選ぶだろう。カメルーンの国連総会での議決と全体的な地政学的位置づけは、中国とよく一致している。その他では、アンゴラのカイオ、シエラレオネのフリータウン、コートジボワールのアビジャンが、北京の投資規模から、拠点となる可能性がある。シエラレオネの二大政党のうち、1つ(全人民評議会[All People’s Congress])は中国と密接な関係にある。政治集会では、支持者たちが「私たちは中国人だ(We are Chinese)」や「私たちは黒い中国人だ(We are black Chinese )」と叫んでいる。北京はこの国の政治生活に入り込むことに成功している。

(5)リーム(カンボジア)(Ream, Cambodia

現在までの公式投資は小規模だが、カンボジアのリームは何らかの形で中国人民解放軍海軍の施設となる可能性が非常に高い。アメリカや西側諸国はカンボジア人に人気があるが、フン・セン首相は北京にとっての長年の盟友である。フン・センは中国にとって重要な存在である。フン・セン首相は2023年8月に退陣し、息子の後任が予定されているが、今後もフン・セン首相が主導権を握り続けると見られている。カンボジアのエリートたちは、一帯一路構想のもとでうまくやっており、中国と緊密に連携している。2020年、カンボジアの国連総会での投票は中国と同じで、その年の争点となった100票のうちわずか19票で、イラン、キューバ、シリアよりもわずかに高い割合でアメリカと一致した。フン・センは、リームが近いうちに中国人民解放軍海軍を迎えることはないと否定しているが、証拠はそうでないことを示している。

(6)ルガンヴィル(ヴァヌアツ)(Luganville, Vanuatu

北京は何十年もかけて、自国を取り囲む第一列島線を割ろうとしてきた。中国人民解放軍海軍の基地は、おそらくそれほど大きくはないだろうが、南太平洋か中央太平洋のどこかに行かれることが理にかなっている。私たちのデータでは、この地域の港湾インフラへの中国の投資は限られているが、ヴァヌアツではエスピリトゥ・サント島のルガンヴィル港に中国から建設資金が投入されている。9700万ドルの投資は、私たちのデータによれば、ヴァヌアツの世界的な投資額のトップ30に入るもので、決して小さいものではない。そして前例もある。第二次世界大戦中、この戦略的立地にある島には、太平洋で最大級の米海軍の前進基地と修理施設があった。ルガンヴィル港前のセゴンド運河は、船団、浮体式乾ドック、航空基地、補給基地が置かれた、巨大で保護された停泊地(sheltered anchorage)だった。

(7)ナカラ(モザンビーク)(Nacala, Mozambique

モザンビークにおける中国の港湾投資は、他の地域ほど大規模なものではないが、取るに足らないものでもない。モザンビークはまた、ケニアやタンザニアといった東アフリカや南部アフリカの他の国々で見られるような、中国の融資や投資に対する反発も見られない。中国はエリート層にも一般市民にも人気があり、モザンビークのメディア・コンテンツのかなりの部分を中国が後援している。問題は、どこに基地を置くかだ。マプトは最大の港だが、モザンビーク政府とドバイ・ポーツ・ワールドが運営している。中国は、ベイラとナカラの両港の建設や拡張に資金を提供しており、両港は投資総額でトップ20に入っている。ベイラは定期的な浚渫(regular dredging)が必要なため、大型軍艦には浅すぎるだろう。ナカラは最も理にかなった港湾であり、中国による多額の投資が行われており、水深の深い港湾である。

(8)ヌアクショット(モーリタニア)(Nouakchott, Mauritania

モーリタニアは、西アフリカと中央アフリカの中国人民解放軍海軍オプションの渋滞から外れている。例えば、ヌアクショットはバタから2000マイル以上北西にある。西アフリカの国はまた、ヨーロッパとジブラルタル海峡のような隘路にもかなり近い。2020年の国連人権理事会の公聴会では、中国の香港に対する新しい安全保障法について、アンティグア・バーブーダ、カンボジア、カメルーン、赤道ギニア、モザンビーク、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、モーリタニアを含む53カ国が中国を支持した。

特別参加枠(Wild Card):ロシアか?

中国は発展途上国に資金を費やしているが、ロシア海軍の基地に艦隊を駐留させることで、先進国に近い地域に基地を確保することも可能だ。中国の視点からは、明らかなプラス面がある。アメリカとヨーロッパが脅威であるとロシアの指導部を説得する必要がなく、ロシアを誘い出すためのアメリカの魅力攻勢(charm offensive)の危険性もほとんどない。

ロシアは広大な国土全体に海軍基地を有しており、その多くは冷戦時代の遺産である。中国人民解放軍海軍の計画立案者たちにとって魅力的なのは、北太平洋にある基地だろう。そのような施設、例えばカムチャッカ半島のヴィリュチンスクにある既存のロシア軍基地は、安全で、人目に触れることがなく、既存の軍艦の停泊・修理施設を利用でき、中国人民解放軍海軍をアメリカの同盟国である日本とアラスカの間に置くメリットがある。2021年と2022年の両年、中国人民解放軍海軍とロシア海軍は、東シナ海と西太平洋で、日本の主要な島々の周回を含む大規模な合同演習を行った。中国はまた、ノルウェーとロシアの北岸に位置するバレンツ海や、バレンツ海沖の天然の港であるコラ湾でロシア海軍と施設を共有し、北大西洋へのアクセスを提供する可能性もある。

※ロリー・フェドロチコとサリーナ・パターソンがこの記事の作成に貢献した。

※アレクサンダー・ウーリー:ジャーナリスト、元イギリス海軍将校。

※シェン・ジャン:AidData中国発展資金プログラム研究アナリスト。このプログラムで彼は過少申告されている資金の流れを追跡し、地政学上のデータ収集を主導している。中国国際発展に関するAidDataのレポート「一帯一路の資金」の共著者である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争勃発後、アメリカを中心とする西側諸国(the West)は対ロシア制裁を発動した。具体的には国際金融、決済からロシアを締め出すというものだった。ロシアが輸出する石油や天然ガスの支払い手段であるドルが使えなければ、ロシアは経済的に追い詰められ、戦費負担も併せて、ロシアは戦争継続が困難になるというのが西側諸国の見立てだった。ロシアがドルを受け取れなければロシアは経済的に追い詰められギヴアップするという見込みだった。

 しかし、ロシアに対する制裁には西側以外の国々(the Rest)は参加しなかった。中国やインドにはロシアから割安の石油や天然資源を手に入れることができるようになった。それでは取引ではどの通貨を使っているのかということになる。それは人民元とロシアのルーブルである。その枠組みとなっているのは上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)だ。上海協力機構は、1996年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの首脳会合が開催されたことが端緒である。これを上海ファイヴと呼ぶ。2001年にウズベキスタンが参加して発足したのが上海協力機構である。2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロもあり、この枠組みは安全保障分野のものであると考えられていた。それから約20年が経ち、上海協力機構はユーラシア大陸を網羅する国際的な枠組みに成長した。上海協力機構の構成は以下の通りだ。

(1)   正式加盟国は、中華人民共和国、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、キルギ

ス(以上が上海ファイヴ)、ウズベキスタン(2001年に加盟)、インド(2017年に加盟)、パキスタン(2017年)(2)オブザーヴァーは、イラン(2023年から正式加盟が決定)、モンゴル(2005年にオブザーヴァー参加)、ベラルーシ(2015年にオブザーヴァー参加)、アフガニスタン(2012年におブザーヴァー参加)、(3)対話パートナーは、スリランカ(2009年に対話パートナー参加)、トルコ(2012年に対話パートナー参加)、アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、エジプト、カタール、サウジアラビア、(4)対話パートナー参加予定国は、アラブ首長国連邦、ミャンマー、クウェート、モルディヴ、バーレーン、(5)参加申請国は、バングラデシュ、イスラエル、シリア、イラク、(6)客員参加は、トルクメニスタン、独立国家共同体、東南アジア諸国連合となっている。

 このユーラシアを網羅する国際的枠組みに、BRICSのブラジルと南アフリカという資源大国が加わって、中国の人民元を基軸とする国際決済システムを構成すれば、ドルの国際決済システムにおける基軸通貨という地位は脅かされる。ドルの力を使って世界中の国々を従わせるという構造が崩れることになる。そのような状況がすぐに現実化するとは考えにくいが、10年、20年の単位でこのようなことが起きるということも頭に入れておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

中国は静かにドルを王座から引きずり降ろそうとしている(China Is Quietly Trying to Dethrone the Dollar

各地域グループと小規模の銀行が整体に対する北京の絶縁を手助けしている。

ゾンユアン・ゾー・ルー

2022年9月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/21/china-yuan-us-dollar-sco-currency/

中国とロシアを中心とする上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganisationSCO)は、ウズベキスタンで開催された首脳会議で、地域通貨(local currencies)による貿易を拡大するためのロードマップを作成することに合意した。現地通貨を貿易に活用し、代替決済システム(alternative payment and settlement systems)を開発するためのロードマップ作りは、上海協力機構の経済計画の一部として何年も前から行われてきた。

このロードマップは、西側諸国による制裁を緩和しようとするロシア、アメリカとの関係を悪化させる中国、ロシアとの貿易で非ドル通貨(nondollar currencies)を利用するインド、そして最近イランが提案した上海協力機構単一通貨(single SCO currency)など、同グループの有力メンバー側の個々の政策と一致するものであった。中国の習近平国家主席は、地域統合(regional integration)による開発赤字(development deficits)の解消、特に現地通貨決済のシェア拡大、現地通貨による国境を越えた決済システムの開発強化、上海協力機構開発銀行(SCO Development Bank)設立の推進を提案した。

習近平主席は、今回の上海協力機構サミットでの演説で、米ドル依存の地政学的リスク(geopolitical risk of U.S. dollar dependence)について公式には触れなかった。しかし、習近平の提案は、ドル覇権(U.S. dollar hegemony)に対する中国経済の脆弱性(vulnerability)に対する中国指導者たちの深い懸念と、ドル覇権のリスクを回避する(hedge)ための代替システムの開発への願望を反映したものだ。

北京は今のところ、人民元(yuan)を国際化した通貨にしようとはしていない。米ドルを退け、国際システムにおける米ドルの支配を人民元に置き換えようとは考えていない。むしろ、中国国内の地方機関や上海協力機構などの地域政府間組織を通じて、人民元を地域的に強力な通貨とするための措置を講じているのである。北京は、中国の国境を越えた貿易決済や投資における人民元の利用を拡大し、ドルへの依存度を下げ、為替リスクやドルの流動性不足を最小化し、地政学的危機の際にも世界市場へのアクセスを維持したいとしている。

中国の脱ドル(China’s de-dollarization)への取り組みは、北京の中央政府だけが行っている訳ではない。地方政府、地方金融機関でも実施されている。その一例が「中露金融連合(Sino-Russian Financial Alliance」」である。2015年10月、中国のハルビン銀行(都市型商業銀行)とロシアのスベルバンク(資産規模でロシア最大の貯蓄銀行)は、非営利の国境を越えた金融協力組織として「中露金融同盟」を発足させた。この連合の主な目的は、中露貿易を支援する効率的なメカニズムを確立し、二国間金融協力を包括的に促進し、二国間決済における現地通貨の使用を促進することだ。この金融連合には、中国の金融機関(中小銀行、保険会社、信託投資会社)18社とロシアの金融機関17社を含む35社が当初から加盟していた。黒龍江省の孫堯(Sun Yao、1963年-)副省長(当時)は、この金融連合の発足に際して、「中国・モンゴル・ロシア経済回廊の発展を促進するための重要なプラットフォームである」と述べた。

ドルを基軸とする国際金融システムとの接点が少ない中国の小規模銀行群は、代替的な支払・決済メカニズムを実践するにはうってつけの存在である。これらの銀行は、ロシア側と連携することで、制裁回避のための脱ドル戦略の実施に習熟する可能性がある。2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、アメリカはロシアの金融機関に制裁を加えたが、ハルビン銀行と黒龍江省は二次的制裁の可能性にも動じないように見える。ハルビン銀行は今年5月、黒龍江省の地方指導者たちの対ロシア金融開放推進の野望を実現するため、「百策(Hundred Measures)」と称する施策を発表した。

アメリカ政府がロシアの銀行群に対する制裁措置を発表したことを受け、中国銀行(Bank of China)や中国工商銀行(Commercial Bank of China)など中国のシステム上重要な銀行群は直ちにロシア企業との取引処理を停止した。しかし、中露金融同盟の中小銀行群は、越境銀行間決済システム(Cross-Border Interbank Payment SystemCIPS)や現金などの代替決済インフラを利用して、ロシア企業の制裁回避を支援することができる。

ハルビン銀行がその良い例だ。中国の、越境銀行間決済システム(CIPS)に直接参加しているハルビン銀行の決済ネットワークはロシア全土を網羅しており、ロシアの銀行や企業にとって国境を越えた人民元決済のハブとして有力な候補となる。航空機だけでなく、トラックによる陸上輸送でロシアに人民元を現金で供給することも、ロシアの制裁回避につながる仕組みだ。こうした仕組みは、2018年以降、黒龍江省の複数の小規模銀行によって開発・拡大されている。ハルビン銀行の地方支店は2019年、ロシアのポルタフカ税関支署に1500万元(約200万ドル)の現金を届けることに成功した。

習近平が上海協力機構の首脳会議に出席したことは、中国の厳格なゼロ新型コロナウイルス政策にもかかわらず、北京が中国主導の地域ブロックとの関与を強化することによって西側の更なる孤立のリスクを回避する準備を進めていることを示唆している。北京は、上海協力機構(SCO)が北京にとって地政学的なクッションになることを期待している。過去20年間、上海協力機構は、より高いレベルの集団的自給自足(collective self-sufficiency)と、世界的な金融・地政学的混乱に対する自己防衛の強化を目指す非西洋的地域地経済圏として静かに成長してきた。

2002年に中国、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国による地域安全保障協力組織(regional security cooperation organization)として発足した上海協力機構(SCO)は、経済、エネルギー、技術といった側面を含むようにそのアジェンダを拡大した。2002年に制定された上海協力機構(SCO)憲章では、経済、貿易、金融、エネルギー、インフラ整備など、安全保障以外の分野での協力も組織の任務とされた。2003年9月、当時6カ国だった上海協力機構は、現在9カ国(2017年にインドとパキスタン、2022年にイランが加盟)に拡大し、「多極的経済・貿易協力に関する要綱(An Outline for Multilateral Economic and Trade Cooperation)」を発表した。この要綱は、経済協力の法的根拠を示し、銀行・金融サービス協力を優先分野として指定した。2013年に中国の「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」が開始されて以来、中国は上海協力機構加盟国へのインフラ投資計画を推進してきた。2015年の上海協力機構ウファ宣言では、上海協力機構加盟諸国が「一帯一路」を支持することが正式に発表され、2つの構想の結合が示された。

上海協力機構(SCO)の枠組みを利用して二国間決済に現地通貨の使用を促進することへの中国の関心は、一帯一路構想が開始された2013年以前からあった。中国の政策立案者たちは、2008年の世界金融危機の後、非ドル建て貿易決済の選択肢を模索した。例えば、2012年の上海協力機構ビジネスフォーラムで、中国の王岐山(Wang Qishan、1948年-)副首相(当時)は、上海協力機構加盟諸国は貿易決済における現地通貨の使用を促進し、二国間通貨スワップを進め、地域金融協力を強化し、新しい融資モデルを開発すべきであると強調した。

2011年以降、中国は上海協力機構の正加盟国(ウズベキスタン、カザフスタン、ロシア、タジキスタン、パキスタンなど)および上海協力機構の遵守・対話パートナー(モンゴル、トルコ、アルメニアなど)と二国間通貨スワップ協定(bilateral currency swap agreements)を締結してきた。これらの二国間スワップ協定は、人民元と相手国通貨建てで、中国人民銀行(People’s Bank of ChinaPBOC)の相手国の中央銀行が自国通貨を暗黙の担保として、比較的低い金利で短期間人民元の流動性を利用できるようにするものだ。このようなスワップ協定は、相手国が人民元建て融資を利用して中国製品の購入を増やすことを後押しする。中国はキルギスと二国間通貨スワップを締結していないが、中国銀行とキルギス共和国国立銀行は、通貨スワップに向けた一歩となる協力強化の意向書に署名している。

中国と他の上海協力機構(SCO)加盟諸国との間の国境を越えた決済における自国通貨の使用は、依然として非常に限られている。しかし、中国が域内で人民元の国際化を推進しているため、その比率は高まっている。その進展は、中露貿易決済において最も顕著となった。張漢暉駐ロシア中国大使は最近、人民元を使った中露貿易決済の割合が2014年から2021年の間に、3.1%から17.9%に増え、477%増になったことを明らかにした。2020年、人民元を使った中露二国間決済の割合は44.92%に達した。これは480億ドルに相当する。

中国は、上海協力機構(SCO)加盟諸国が銀行業務と開発金融で協力し、域内の決済協力を促進することを提唱してきた。2005年10月、上海協力機構の加盟諸国は、国家が出資する投資プロジェクトの資金調達と銀行業務を調整するメカニズムとして、上海協力機構銀行間コンソーシアム(SCO Interbank ConsortiumSCO IBC)を創設した。上海協力機構銀行間コンソーシアムSCO IBC)には、加盟諸国の開発銀行や政策金融機関からなる8つの加盟銀行があり、中国開発銀行(China Development Bank)が最大の融資先となっている。また、上海協力機構銀行間コンソーシアムはグループ外の3つの提携銀行を有している。上海協力機構銀行間コンソーシアムの協力の優先分野の一つは、インフラ整備、基礎・ハイテク産業、輸出志向の文や、社会プロジェクトに対する資金提供である。2014年のドゥシャンベ宣言では、上海協力機構開発基金(特別会計)と上海協力機構開発銀行を創設し、加盟諸国でのプロジェクトを銀行化し、加盟諸国間の金融協力を進めるためのさらなる取り組みが盛り込まれました。2018年以降、中国開発銀行は上海協力機構銀行間コンソーシアムに300億元(43億ドル)相当の特別融資を実施した。今年8月までに、中国開発銀行は他上海協力機構銀行間コンソーシアム加盟銀行や提携銀行とともに、63のプロジェクトに融資し、累計で146億ドルの融資を行い、そのうち約4分の1の251億元が中国開発銀行から提供された。

上海協力機構(SCO)開発銀行の可能性は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるBRICSにならって、為替リスクと米ドルによる高コストな資金調達を軽減するために、貿易決済と開発資金調達における現地通貨の使用を促進する公式機関を建設する道のりを示唆している。しかし、これはまだ先の話である。この10年近く、首脳会議の度に上海協力機構開発銀行と開発基金(Development Fund)の議論を続ける意思を表明してきたが、まだ具体的な計画には至っていない。

最終的にそのような銀行が設立されるとしても、他の上海協力機構加盟諸国の資本不足と地域全体の資本市場の未発達を考慮すれば、少なくとも当面は中国と中国開発銀行が主要な資金提供者となる可能性が高い。上海協力機構とBRICSの間でアジェンダや制度が収斂していることは、二国間通貨スワップの拡大、貿易や開発金融における現地通貨の利用促進、代替決済システムの開発、そして最終的には各国の米ドル依存度の低減といった問題において、この二つの非西洋連合とそのメンバー間の政策協力を促進するものである。

BRICSと上海協力機構(SCO)の間では、脱ドルに向けての緊密な連携がすでに行われている。ウラジミール・ノロフ上海協力機構事務総長(当時)は昨年、上海協力機構加盟諸国が決済に現地通貨を使用するよう段階的に移行していることを確認した。また、上海協力機構の投資ポテンシャルを十分に引き出すために、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank)、新開発銀行(New Development Bank)、シルクロード基金(Silk Road Fund)とのパートナーシップを構築することを提案した。

中国は、カザフスタン政府が2018年7月に立ち上げた「アスタナ国際金融センター(Astana International Financial Centre AIFC)」も支援している。アスタナ国際金融センター(AIFC)は、中央アジア、中国西部、コーカサス、ユーラシア経済連合、中東、モンゴル、ヨーロッパの地域金融ハブとして戦略的に位置づけられている。また、カザフスタンはアスタナ国際金融センター(AIFC)を中国とロシアの企業間の契約に関する仲介・仲裁センター(arbitration center)として発展させることを望んでいる。カザフスタンの金融市場が限られていることを考えると、こうした構想は今のところ現実的とは言えない。

より重要なのは、中国西部の新疆ウイグル自治区が、中国と中央アジアを結ぶ国境を越えた決済の中心地として、すでに地域金融のハブとなっていることだ。新疆ウイグル自治区で行われた国境を越えた人民元決済の累積額は、2013年には早くも1000億元(140億ドル)を突破し、2018年には2600億元を超えた。それでも、中国の金融機関が提供するアスタナ国際金融センター(AIFC)への支援は、カザフスタンや北京の利益に沿った他の上海協力機構加盟諸国にインセンティブを与えている。

上海協力機構の枠組みを超えて、中国はBRICSプラットフォームやアジア太平洋地域の他の地域多国間機関を通じて、貿易決済や金融における現地通貨の利用を進めている。例えば、今年2月のG20会合で、中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang、1958年-)は、アジア諸国と協力して貿易・投資における現地通貨の利用を促進し、地域の金融安全保障と外部ショックに対する弾力性(resilience)を強化すると述べた。6月には、中国人民銀行と国際決済銀行(Bank for International Settlements)が、インドネシア銀行、マレーシア中央銀行、香港金融管理局、シンガポール金融管理局、チリ中央銀行の参加を得て、人民元流動性アレンジメント(Renminbi Liquidity Arrangement)を開始した。この取り決めは流動性支援を目的としており、市場の変動時に参加している中央銀行群が利用することができる。

上海協力機構(SCO)は今後、貿易・投資における現地通貨の追求や代替決済システムの開発など、既存メンバー諸国と共通の利益を持つ新規メンバーを加え、拡大していく可能性がある。上海協力機構は、先日の上海協力機構首脳会議で、西側諸国による厳しい制裁に対処し、脱ドル通貨に積極的なイランを9番目の正式メンバーとして迎えたばかりである。イランのエブラーヒーム・ライースィー大統領は、上海協力機構への加盟がアメリカの単独行動主義(American unilateralism)を阻止し、制裁を回避するための手段であることを明らかにした。

現在またもや通貨危機に陥っているトルコは、2012年以来上海協力機構の対話パートナーであり、オブザーバー資格の取得、あるいは正会員としての加入に関心を示している。トルコ中央銀行は2019年に中国銀行と通貨スワップ協定を締結し、2020年には中国との貿易決済に初めてスワップ枠を利用した。トルコの5つの銀行が既にロシアの決済システムを採用している。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とロシアのウラジミール・プーティンも、先日の上海協力機構首脳会議の傍ら、トルコへのロシアのガス供給の25%をルーブルで支払うという合意に至った。

ベラルーシはオブザーバー資格から正式加盟への格上げ申請書を提出し、これもロシアの支持を得た。バーレーン、モルディヴ、アラブ首長国連邦、クウェート、ミャンマーが新たに上海協力機構(SCO)の対話パートナーとなり、エジプト、カタール、サウジアラビアがすでに対話パートナーとして署名している。このように、上海協力機構はアメリカの制裁に直面している、あるいはアメリカの覇権的な力(hegemonic power)やドルによる支配に不満を抱いている主要な天然資源輸出諸国を受け入れていることが示唆される。エネルギーやその他の主要商品の取引において、上海協力機構圏内で非ドル建て通貨がより広く使用されるようになる。

アメリカは長い間、上海協力機構(SCO)の存在と拡大を軽視してきた。上海協力機構の主要メンバーであるロシアと中国との関係は悪化している。アメリカの同盟システムの復活は、中国が先端技術の購入や商品の輸出で依存してきた西側諸国から中国を孤立させる危険性をより高めている。西側諸国からの孤立リスクが高まる中、中国にとっての上海協力機構(SCO)の真の意味は、ロシアとの関係ではなく、西側諸国の孤立が深刻化した場合に、中国の地政学的安全保障のクッションとなるグループ化をいかに実現するかということだ。

この論理は、イランやインドなど西側諸国による制裁に弱い、あるいはドルへの依存度を減らそうとする他のメンバー諸国にも当てはまる。アメリカ政府は、上海協力機構(SCO)加盟諸国が貿易や投資のために代替通貨を共同で追求しようとすることを止めることはできない。しかし、過剰な制裁措置の誘惑に負けることなく、デカップリング(decoupling)を積極的に脅かすのではなく、アメリカの金融市場と中国市場のつながりを強化し、開発途諸国の社会経済成長に資するプロジェクトに資金を提供する米国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation)と米国際開発庁(Agency for International DevelopmentUSAID)の役割を強化することによって、ドルを基軸とするシステムの魅力を向上させることは可能であることは確かだ。

※ゾンユアン・ゾー・ルー:外交問題評議会(Council on Foreign RelationsCFR)国際政治経済担当研究員。

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(終わり)

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