古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:BRICS

 古村治彦です。

 アメリカ一極支配体制がすでに終焉を迎えつつあるということを私たちは日々目撃している。毎日毎日の報道ではどうした、こうしたという細かい動きが報じられるが、少し長いスパン、数年のスパン、数十年のスパンで見ていけば、アメリカは国力を大幅に低下させ、世界を支配する力を失いつつあることは明らかだ。

 2022年のウクライナ戦争によってはっきりしたのは、「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)」対「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の二極構造だ。ロシアに侵攻されたウクライナを西側諸国が支援し、ロシアに対しては結束して経済制裁を加えるという構図になったが、ロシアは戦争を継続できた。これは、ロシアに対して、積極的ではないが、西側以外の諸国が陰ながら支援を行ってきたことが理由の一つに挙げられる。さらに、イラン戦争において、「西側諸国」を率いるアメリカの世界支配の正統性にまで疑義が出ている。

 中国とロシアをはじめとする西側以外の国々は経済成長が進み、これから世界において重要な役割を果たすようになっていく。その中核がBRICS(拡大されたBRICS)であり、G20に入っている菱西側諸国である。一方で、欧米に日本を含む西側諸国は少子高齢化がますます進行し、経済力を失い、世界の中心的な役割を担えなくなっていく。拡大BRICSを見ると、それぞれの地域の中心的な諸国が入っている。これらがそれぞれの地域で大国として主導的な役割を果たすようになる。
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拡大BRICS
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G20諸国

 現在から約15年後の2040年には世界の状況は大きく変化しているだろう。1945年に第二次世界大戦が終結し、2045年で100年、中国が西洋(イギリス)に敗れ、屈辱の苦しい時代に入ったアヘン戦争開戦からは2040年で200年、屈辱的な不平等条約となった天津条約からは2042年で200年ということになる。2040年から2045年となるとまだ先のようであるが、それまでの20年ほどという期間は、世紀単位のスパンで見れば、短い期間とも言える。西側諸国の衰退、西側以外の国々の経済成長と台頭は進んでいるだろう。そうした中で、アメリカ一極支配は終わり、「そんな時代もあったね」と、有名な歌の歌詞にあるセリフを私たちは話していることになるだろう。下記論稿のサブタイトルの通り、「10年後、世界は大きく様変わりしているだろう」。

(貼り付けはじめ)

トランプ後の世界における3つのシナリオ(Three Scenarios for a Post-Trump World

―10年後、世界は大きく様変わりしているだろう。

ハル・ブランズ筆

2026年3月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/23/post-trump-world-order-cold-war-spheres-of-influence/?tpcc=recirc_more_from_fp051524

イタリアの哲学者アントニオ・グラムシは1930年に次のように記した。「旧世界は滅びつつあり、新世界は生まれようとあがいている(The old world is dying, and the new world struggles to be born)」。マルクス主義の信条を持つグラムシだが、トランプ時代にも違和感を覚えるだろう。ここでいう旧世界とは、第二次世界大戦後、アメリカ合衆国が西側諸国に築き上げ、冷戦勝利後にグローバル化を目指した国際秩序(the international order that the United States built in the West after World War II and then sought to globalize after its victory in the Cold War)のことである。この計画は、世界を変えるほどの平和、繁栄、そして自由をもたらした。しかし今日、旧秩序はその役割を終えようとしている。

長年にわたり、修正主義国家、特に中国とロシアは、この秩序を徐々に侵食してきた。そして今、アメリカ合衆国もまた、この秩序と戦っているように見えることがある。10年後、世界は大きく様変わりしているだろう。しかし、この過渡期の先に何が待ち受けているのか、新しい世界がどのような形をとるのかは、まだ誰にも分からない。

一つの可能​​性は、冷戦時代を彷彿とさせる二極世界シナリオ(a two-worlds scenario reminiscent of the Cold War)、すなわち世界がワシントンと北京が率いる二つの陣営に分断されるシナリオだ。二つ目の可能性は、二つの陣営ではなく、複数の帝国が跋扈する時代(an age not of two blocs but of several empires)、すなわち様々な勢力が地域的な勢力圏を掌握していく(an array of potentates capture regional spheres of influence)時代だ。三つ目の可能性は、自力救済の世界(a self-help world)、すなわちアメリカの行動が略奪的になり、システムが無政府状態の深淵へと陥る世界(U.S. behavior turns predatory and plunges the system into an anarchic abyss)だ。

現状がこれほど不安定に感じられるのは、これらのシナリオがどれも現実味を帯びており、しかもそれぞれが、葛藤を抱える超大国の外交政策によって支えられているからだ。多くのことが不確定要素であり、今後のアメリカの決断と選挙サイクルに大きく左右される。しかし、この過渡期(interregnum)の先に何が待ち受けているのかを探ることは、たとえ最良のシナリオであっても、私たちがこれまで経験してきた世界よりもさらに分裂し、激化するだろう未来に備えるための第一歩となるだろう。

現代世界はアメリカが生み出したものだ。第二次世界大戦後、アメリカはユーラシア大陸周辺に世界規模の同盟関係を築き上げた。荒廃した国々を復興させ、世界貿易を再建した。遠洋航路の航行の自由(freedom of navigation)を守り、その他の公共財(public goods)を提供した。世界政府に最も近い存在は、国連ではなくアメリカだった。こうした政策は、繁栄する西側体制の基盤となり、その後ソ連を打倒し、冷戦後には拡大する自由主義的な秩序へと発展した。

あらゆる英雄的偉業と同様に、この偉業にも神話、省略、誇張(myths, elisions, and exaggerations)が存在する。ワシントンは、時に残忍な軍事介入(military interventions)や秘密工作(covert intrigues)といった非自由主義的な手段を用いて自由主義秩序を維持した。同盟諸国の連帯を称える賛歌は、1956年のスエズ危機から2003年のアメリカ主導によるイラク侵攻に至るまで、民主政治体制世界を揺るがした激しい対立を無視している。アメリカは、都合が悪くなると自らのルールを無視したり変更したりしてきた。1971年に国際金融のブレトン・ウッズ体制を離脱したのもその一例だ。偽善と強制(hypocrisy and coercion)なしに秩序は成り立たない。

しかし概して言えば、パクス・アメリカーナ(Pax Americana)は、驚異的な力(power)を用いて、極めて広範な自己利益観を支えてきた。それは、地理的に孤立した大国であっても、弱小国を繁栄させ、安全を確保することによってのみ、自らの力で繁栄できるという認識である。この組み合わせは、歴史を覆すほどの恩恵をもたらした。一世代のうちに二度の世界大戦を経験した後、アメリカが築いた秩序は、数十年にわたる大国間の平和をもたらした。アメリカ主導の経済は、生活水準の飛躍的な向上をもたらした。アメリカの影響力は、民主政治体制の優位性を確立し、「国家の死(state death)」、すなわち独立国家の暴力的な消滅(the violent eradication of independent countries)を、衝撃的で稀なものにした。ワシントン自身も、比較的平和で活気に満ちた時代に生きたことだけでなく、同盟やその他の協力ネットワークによって、比類なき力を増幅させ、世界的な影響力を拡大させたことで、莫大な利益を得た。

しかしながら、何事も永遠ではない。そして、アメリカが築き上げた秩序、特に冷戦後に台頭したグローバル志向の秩序は終焉を迎えつつある。この秩序は外部からの攻撃にさらされている。北京、モスクワ、そしてその同盟諸国は、この秩序を自らの野望を阻む障壁であり、これらの国々の独裁体制への脅威とみなしている。彼らは、ユーラシア大陸全域で、勢力均衡(the balance of power)や、海洋の自由、武力による征服の禁止といった重要な規範を揺るがしている。これらの国々、特に中国は、内部からも秩序を破壊しようとしている。北京は世界経済への参入を利用して、現在アメリカに挑戦するために用いる製造力と軍事力を築き上げてきた。一方、ワシントン自身も、自らが築き上げた秩序に疲弊し、おそらくは致命的な幻滅を感じているのだろう。

こうした複雑な感情は、現実的な問題に根ざしている。アメリカの同盟関係における根強い不均衡とフリーライダー問題、グローバライゼーションに伴う経済的・物理的な不安、中東地域におけるアメリカの戦争がもたらした反動、そして自由主義秩序が中国の台頭を助長した経緯などだ。こうした感情は、少なくともアメリカの関与の条件を積極的に再交渉しようとする政権、そしてしばしばアメリカの国力を回復するには既存の体制を解体する必要があると主張する政権に、今や顕著に表れている。

こうした状況が、今の不安定な雰囲気を生み出している。ワシントンの国力は依然として比類なきものである。アメリカの同盟関係やG7といった、既存の秩序を支える主要な構造は依然として健在だ。しかし、その秩序の将来は暗く、おそらくは終焉を迎えようとしているように見える。断末魔(the death throes)の苦しみが終わった後、一体何が起こるのだろうか?

過去10年間、アメリカ主導の世界は二つの世界に分裂し、統合された世界秩序という夢は、陣営間の争いへと転じるだろうと思われていた。このシナリオでは、中国主導の陣営には、攻撃的なユーラシアの独裁国家に加え、キューバからパキスタン、そしてグローバル・サウス(global south)の広範囲にわたる国々が加わる。一方、アメリカ主導の陣営は、ユーラシア周辺部の民主政体同盟諸国で構成される。インドからサウジアラビア、ブラジルからインドネシアといった様々なスイングステート(swing states)は、これらの陣営に選択的に加わりながら、その間を巧みに動き回るだろう。国際政治の未来は、冷戦時代へと回帰するだろう。

これは完全な再現ではない。世界と繋がった中国は、クレムリンがかつて持っていたよりもはるかに優れた経済的誘引力と強制力を持っている。しかし、このシナリオでは、制裁とサプライチェインが武器化されるにつれ、国際経済は徐々に分断されていくことになるだろう。デカップリング(decoupling)は、起こるかどうかという問題ではなく、いつ、誰の条件で起こるかという問題となるだろう。冷戦時代と同様、二極構造の対立(a bipolar rivalry)があらゆる地域を巻き込むことになる。ウクライナ、台湾、南シナ海といった最も危険な地域は、地政学的な境界線上に位置することになる。

好むと好まざるとにかかわらず、強力な構造的力(strong structural forces)がこの未来を後押ししている。米中間の緊張は、首脳会談や危機によって高まったり低まったりするかもしれない。ドナルド・トランプ米大統領は習近平中国国家主席について畏敬の念をもって言及すべきかもしれない。しかし、中国が基幹技術、世界貿易、西太平洋における覇権を追求する動きが、アメリカの国力と特権に衝突するにつれ、根本的な対立は激化する一方だ。大国間の争い(Great-power fights)は世界政治を分極化させる傾向があり、相互依存(interdependence)は激しい紛争の中で脆弱性(vulnerability)の源泉となる。多くの点で、この未来への勢いは加速している。ロシアによるウクライナ侵攻は、ユーラシア大陸の独裁国家間の経済、技術、軍事面での連携(alignment)を加速させた。習近平国家主席とウラジーミル・プーティン大統領は、民主政体国家を相手に一斉に戦うことでしか勝利できないことを理解している。真の問題は、ワシントンが依然として自由世界を結集できるかどうかである。

トランプ政権の政策における善意の側面は、新たな冷戦においてワシントンとその同盟諸国を成功へと導く可能性を秘めている。しかし、その裏にある悪意は全く異なる様相を呈している。

トランプ政権の功績として、相互に絡み合う脅威に対抗するため軍事費の増額を要求することで、武装した民主政体共同体を構築している点が挙げられる。同盟国からの投資をアメリカの技術革新基盤にもたらす貿易協定は、中国の経済規模に対抗するために必要な資源と生産の統合を促進する可能性がある。重要鉱物資源に関するパートナーシップは、中国の支配から脱却するための道筋を示す(ただし、その道のりは長い)。そして何よりも、トランプはイランとヴェネズエラという弱小国を攻撃することで、独裁国家の枢軸に打撃を与えた。次はキューバかもしれない。歴史が示唆するところでは、西半球における覇権の再確立を目指すトランプの熱意(his drive to reassert hemispheric hegemony)―ドンロー主義(Donroe Doctrine)―は、より広い世界における影響力拡大の前提条件となるだろう。

大国が主導権を握り(call the shots)、小国は運命を受け入れる(accept their lots)というトランプの姿勢は、彼をアメリカの同盟国の大半よりも習近平やプーティンにとって都合の良い相手にしている。彼の強圧的で非対称的な交渉手法は、民主政体共同体の強化よりも、そこから最大限の譲歩(maximum concessions)を引き出すことに重点を置いているという印象を与える。グリーンランドとカナダに対するトランプの要求は、ワシントンを領土拡大を渇望する修正主義者たちと結びつけ、自由世界の核心である大西洋を挟んだ同盟関係を崩壊させる恐れがある。ヨーロッパの同盟諸国は、中国、ロシア、そしてアメリカという三つの強欲な大国に挟まれることをますます恐れている。もしそうなれば、新たな冷戦は起こらないだろう。なぜなら、独裁国家の勢力を弱める民主政体ブロックは存在しないからだ。

それでも、二極世界シナリオを軽視すべきではない。トランプ時代は、破壊(carnage)だけでなく建設(construction)ももたらすだろう。独裁政権の脅威が強まるにつれ、民主政体国家間の取引的な協力さえも促すインセンティヴが高まる。トラ​​ンプの後継者たちが、単なる自己利益追求ではなく、共通の目的を訴える物語を語ることができれば、新たなレヴェルの集団的努力(collective effort)と負担分担(burden-sharing)への新たなアプローチを伴う、自由世界の協定を再構築できるかもしれない。この未来にも危機と紛争はつきまとうだろう。危険は尽きない。しかし、それでもなお、全ての民主政体国家にとって最善のシナリオである。二極世界は、中国が支配する体制、あるいはさらに分裂する体制よりも望ましい。

第二のシナリオは、ポスト・アメリカ世界が二つの巨大ブロックではなく、いくつかのより小さな地域圏に分裂するというものだ。アメリカは、ホノルルからヌーク(グリーンランド)、北極圏、アルゼンチンにまたがる半球帝国(a hemispheric empire)に再び焦点を当てることで、戦略的な孤立(strategic insulation)を図る。ワシントンが大洋を越えた重荷から解放されるにつれ、中国は東南アジアから北東アジアにかけての広大な三日月地帯(the vast crescent)で支配権を握る。ロシアは、旧ソ連圏と東ヨーロッパの一部で、おそらくは血なまぐさい手段を用いて、支配を固めるだろう。

しかし、この勢力圏の分割(this spheres-of-influence partition)は、大国間のゲームにとどまらない。分裂する世界において、インドは南アジアとインド洋での支配を狙う。トルコは、ヨーロッパ、中東地域、アフリカの交差点に、オスマン帝国崩壊後の領域を築こうとする。イスラエル、サウジアラビア、その他の国々は、ペルシャ湾とアフリカの角を結ぶ紅海地域で覇権を争う。パクス・アメリカーナの後には、諸帝国存立の新たな時代(a new age of empires)が到来する。

これらの帝国は、ナチス支配下のヨーロッパのように、完全に閉鎖されたり軍事占領されたりする必要はなく、覇権は多様な形態で表現される。しかし、この未来において、世界秩序は勢力政治の岩礁に打ち砕かれる。

国際法が崩壊し、地域の有力者たち(regional potentates)が許容される行動規範を定め、従わない従属諸国(disobedient clients)に圧力をかけたり、打倒したりする。地域の支配者たちは貿易、投資、資源の流れを再構築し、弱い近隣諸国の他国との関係に厳しい制限を課す。新たな帝国の時代において、ラテンアメリカにヨーロッパやアジアの軍事基地は存在せず、ワシントンの海外同盟は崩壊するか、あるいは崩壊寸前となるだろう(Washington’s overseas alliances are dead or in tatters)。これは、世界の様々な地域におけるモンロー主義の集合体と考えることができる。

歴史的には、勢力圏はギャングの協定によって形成されてきた。その典型的な例は、アドルフ・ヒトラーとヨシフ・スターリンによる東欧分割(the division of Eastern Europe)である。現代のアナリストの中には、習近平、トランプ、プーティンが世界分割を企むような協定を結ぼうとしていると考える者もいる。しかし、勢力圏は非公式に、あるいは段階的に形成されることもある。

もしアメリカがNATO加盟国から領土を奪うことでNATOを崩壊させれば、西半球におけるアメリカの勢力圏の台頭は、東ヨーロッパにおけるロシアの勢力圏の台頭を助長する可能性がある。もし中国の容赦ない軍備増強によって、日本から台湾、フィリピンに至る第一列島線(the first island chain)が防衛不可能になれば、たとえ国防総省が明言しなくても、西太平洋は北京の影に覆われることになるだろう。つまり、ワシントンが半球覇権に全力を注ぎ込み、トランプ大統領自身が述べているように、遠い海を隔てた出来事は他国の問題だと考えるならば、多圏的な世界(a multisphere world)が生まれる可能性がある。

まさにその方向に向かっているように感じられる。ロシアと中国は長年にわたり地域支配(regional mastery)を争ってきた。そして今、トランプ大統領は南北アメリカ大陸においてワシントンの権威を容赦なく押し付けている。敵対的な支配者を強制的に排除し、重要な資源を主張し、公海上で致命的な武力を行使する一方で、ユーラシア大陸の最前線に位置する同盟諸国には自国の防衛を担うよう迫っている。トランプ大統領の国際法に対する軽視は、19世紀にリチャード・オルニー国務長官が「ワシントンはこの大陸において事実上主権者である(practically sovereign on this continent)」と宣言した言葉を21世紀に彷彿とさせる。西半球支配が、グローバルなプレゼンスを可能にするのではなく、いずれ取って代わる可能性が、今まさに見え始めているのだ。

しかし、トランプは決して厳格な半球主義主義者(hemisphericist)ではない。遠く離れた大陸での和平交渉を推進し、中東地域では野心的な戦争を繰り広げながら、ドンロー主義を声高に主張している。おそらくそれは、世界が厳密に勢力圏に分割されることが超大国アメリカにとって大きな痛手となることを彼が理解しているからだろう。

アメリカの保護を必死に求めるユーラシアの同盟諸国との一方的な貿易協定はもはや成り立たなくなり、日本やドイツがドルの支配を支える理由もなくなる。活気ある経済、重要な貿易ルート、そして高付加価値のサプライチェインを擁する東アジアからアメリカが締め出されれば、中国との競争は間違いなく困難になるだろう。台湾とホンジュラスの交換は、決して良い取引とは言えない。グローバルな影響力は、グローバルな関与から生まれる。

そして、勢力圏に基づくシステムがアメリカの国力を弱体化させるならば、その支持者が切望する安定性そのものをも弱体化させる可能性がある。理論上、勢力圏は小国の従属(lesser-power subservience)を通じて大国の平和を維持する。強大な国家は世界を分割し、手に負えない勢力を抑え込む。確かに、ワシントンが西太平洋から撤退すれば、台湾を巡る米中衝突は起こらないだろう。しかし、永続的な平和を期待することはできない。

複雑な相互依存関係は、勢力圏への移行を険悪なものにする。南アメリカにおける中国のデジタル浸透とインフラ整備を後退させるには、アメリカによる相当な圧力が必要となるだろう。逆に、東アジアにおける勢力圏の確立は、中国の野望の終わりではなく、始まりに過ぎないかもしれない。アメリカにとって、西半球における支配は、世界への介入の出発点だったのだ。

より重要なのは、勢力圏は単に与えられるものではないということだ。その起源はしばしば血塗られた歴史に彩られている。野心的な独裁国家は、支配地域において残虐行為、さらには大規模虐殺さえも厭わない傾向がある。そして、中小国家は、自分たちに何が待ち受けているかを認識しているため、支配をただ受け入れる以外の選択肢を持っている。ウクライナはロシア帝国から逃れるために激しく戦ってきた。日本も同様の行動をとるかもしれないし、あるいは単に核兵器を開発して北京に対する服従を避けるかもしれない。この危険性は、衰退していく秩序の後に起こりうる第三のシナリオ、すなわち醜悪で暴力的な混乱(ugly, violent disarray)を示唆している。

今年の世界経済フォーラムで、カナダのマーク・カーニー首相は、旧秩序の崩壊はミドルパワー国家にとって好機をもたらすと宣言した。協力し、能力を強化することで、これらの国々は大国間の道を切り開き、自らにとって許容可能なシステムを維持できると彼は主張した。

これは古くからの夢である。1970年代以来、学者や戦略家たちは、支配者なきルールの世界、つまり小国家が、たとえアメリカの指導力が失われた後でも、アメリカが築いた秩序の最良の部分を何とか維持できる世界が実現できると期待してきた。しかし、それは幻想(an illusion)に過ぎない。秩序は、最も強大な国々の関与なしには、ましてや反対を押し切っては維持できない。したがって、新たな冷戦や新たな帝国主義の時代に対する最も可能性の高い代替案は、無政府状態の混乱(an anarchic mess)である。

このシナリオでは、アメリカは暴走する。トランプのより暗い衝動は、残忍で規範を破る超大国の出現を予兆している。ワシントンは攻撃的な領土拡大に乗り出すだろう。アメリカは、武力や強制によって弱小国家から重要な資源を奪い取り、従属国家にますます大きな貢納(tribute)を要求し、非自由主義的なポピュリストのためにヨーロッパをはじめとする地域の政治に絶えず干渉している。アメリカは、自らのグローバルな役割を放棄するどころか、むしろ武器として利用している。

このような状況が深刻なのは、アメリカの行動によって、三大強国(米中露)全てが強欲で貪欲な歴史修正主義者として振る舞う世界が作り出されているからだ。特にユーラシア大陸の紛争地帯に位置する小国家は、四方八方から圧迫される危険に晒される。自助努力、つまり各国が自国のために戦うことこそが、唯一現実的な対応策と言えるだろう。

領土侵略、ひいては国家の消滅さえも、現状維持(status quo)や弱小国家の主権擁護に尽力する大国が存在しないために、はるかに頻繁に起こるようになる。自助努力の世界では、脆弱な国家が破壊され、従属させられ、あるいは分断されることになるだろう。ウクライナ戦争は、過去の醜い記憶ではなく、未来の予兆となるかもしれない。他の国々は、生き残るための最善策として核兵器を求めるなど、猛烈な勢いで軍備を増強するだろう。

一方、アメリカの力によって長らく抑え込まれてきた対立が再燃する可能性もある。ヨーロッパ連合が(おそらくアメリカとロシアの圧力によって)分裂する中で、ヨーロッパ諸国が再軍備を進めれば、かつてヨーロッパ大陸で頻繁に見られた軍拡競争と安全保障上の競争が再び激化する恐れがある。航行の自由はもはや過去のものとなるだろう。国際社会の安定が崩壊するにつれ、各国、さらには準国家主体(quasi-state actors)までもが、パナマ運河や北極海航路からバブ・エル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡に至るまで、重要なチョークポイントの支配権を巡って争奪戦を繰り広げることになる。無法地帯と化した世界(a lawless world)では、貿易、資源、市場の物理的な支配がますます重要視されるようになり、それは征服の動機をさらに強めるだけである。

たとえ世界が最終的に新たな安定モデルを見出したとしても、1945年以降の輝かしい成果が、その間の混乱の中で失われてしまう可能性もある。

これは悪夢のように聞こえるかもしれない。しかし、歴史の視点から見れば、決して荒唐無稽な話(a stretch)ではない。

1900年代初頭のイギリス覇権の終焉は、すぐに新たな世界をもたらしたわけではない。それは数十年にわたる混乱の幕開けとなったのだ。イギリスの覇権が台頭する何世紀も前、当時は国際システムの中心地だった多極化したヨーロッパ(a multipolar Europe)は、専制政治と戦争の温床(a hothouse of tyranny and war)だった。

相対的な安定が常態であり、横行する残虐行為は例外であるという私たちの信念は、何世代にもわたるアメリカの穏やかな覇権が残した知的遺産(the intellectual residue)である。もしその覇権が終焉を迎えるか、あるいは略奪的なものへと変貌すれば、恐ろしい逆戻りに備えなければならない。

実際、無政府状態は私たちが考えているほど完全に抑圧されることはなく、自助努力の世界の兆候は既に現れている。アメリカの信頼性(U.S. reliability)に対する懸念は核への関心を刺激している。韓国と日本が原子力潜水艦の取得に関心を示していること、あるいはスウェーデンやドイツでさえ核兵器に関する議論が激化していることがその証拠だ。最悪の事態を想定した計画が広まりつつある。カナダは、何世代にもわたって初めて、アメリカの侵略から自国を守るための準備を進めていると報じられている。

新たな防衛協力関係が生まれつつあり、しばしば新たな緊張を生み出している。昨年締結されたパキスタンとサウジアラビアの防衛協定は既にインドの不安を煽っており、トルコが加われば、イスラエルとの中東における対立をさらに激化させる可能性がある。主要地域では、対立(rivalry)が激化している。ペルシャ湾岸地域は言うまでもなく紛争の渦中(awash in conflict)にある。しかし、複数の大国が資源と戦略的要地を巡って代理戦争(proxy wars)を繰り広げるリビアやアフリカの角地域における状況は、これから起こる多極化の混乱(multipolar disorder)を予見させるものかもしれない。

この混乱は永遠に続くものではない。いずれは新たなルールに基づく新たな階層構造(a new hierarchy)が確立されるだろう。しかし、パクス・ブリタニカとパクス・アメリカーナの間の空白期間を埋めるには、世界恐慌と二度の世界大戦が必要だった。たとえ世界が最終的に新たな安定モデルを見出したとしても、その間の混乱の中で、1945年以降の輝かしい成果が失われてしまったことに気づくかもしれない。

今この瞬間を、世界の政治がいくつもの道筋を辿る岐路について考えてみよう。それぞれの道が全く異なる目的地へと繋がるため、不確実性(uncertainty)は極めて大きい。すでに分かっているのは、次の時代は前時代よりも分断され、危険な時代になるということだ。

10年前、新たな冷戦は最悪のシナリオのように思われた。しかし今や、それはおそらく私たちにとって最良の希望と言えるだろう。二つの世界が存在するシナリオでは、危険な危機が頻発し、世界経済はさらに分断されるだろう。自信に満ち、好戦的な中国に対抗するには、民主政体陣営からの莫大な資源と卓越した知恵が必要となる。しかし、このシナリオは少なくとも、かつてディーン・アチソン元米国務長官が述べたように、「世界の半分(half a world)」を維持するものだ。それは、許容範囲内の勢力均衡を維持し、北京の最も野心的な衝動を抑えるために、十分な民主主義的協力が必要となることを意味する。他のシナリオ―宣伝されていたほど安定も利益も得られない新たな帝国の時代、あるいは再び混沌へと陥るシナリオ―は、より悲惨なものだ。そうした道は、パクス・アメリカーナ以前の時代がいかに悲惨だったかをほとんど忘れてしまった超大国を誘惑するかもしれないが、その結末は必ず暗黒に終わる。

皮肉なことに、アメリカは自らが築き上げた秩序のその後に何が起こるかについて、依然として大きな発言力を持っている。なぜなら、良くも悪くも、世界最強のアクターの選択が依然として最も重要だからだ。もしアメリカがトランプ政権の最良の政策を踏襲すれば、大きく動揺しながらも改革された民主政体共同体を、独裁的な圧力に抵抗するために必要な集団的努力へと導くことができるかもしれない。しかし、ワシントンが海外の舞台から撤退すれば、勢力圏争奪戦(a spheres-of-influence scramble)を招くことになるだろう。もしアメリカが反逆者(renegade)となれば、旧秩序を破壊しようとする修正主義者たちに加わり、世界を新たな自助努力の時代へと突き落とすことになるだろう。

トランプの折衷的な(eclectic)外交政策には、これら3つの傾向全てが見られる。今後数年間、そしてアメリカの選挙サイクルによって、これらの傾向のうちどれが定着し、覆すことがますます困難になるパターンへと発展していくかが決まるだろう。

グリーンランド併合に対するアメリカ国内の支持の欠如は、トランプの行き過ぎた行動が、いずれ彼の過激な本能を失墜させることを示しているのかもしれない。後継者、民主党であれ共和党であれ、より伝統的な外交政策の理念を、「アメリカ・ファースト(America First)」時代の国内政治の現実と融合させる方法を見出すかもしれない。その大統領は、トランプの混乱を緩和しつつ、彼の有益な遺産を活用して、新たな冷戦(a new cold war)に向けて自由世界を再構築するだろう。

あるいは、トランプの軍事冒険の一つが裏目に出る可能性もある。その結果、MAGA運動のネオアイソレイショニズム派、つまりタッカー・カールソンなどの評論家から影響を受けた派閥が勝利し、超大国が自国の勢力圏に固執することになるかもしれない。あるいは、共和党と大統領職におけるトランプの真の後継者は、彼がアメリカの力を駆使して既存秩序を破壊するには不十分だったと主張する人物かもしれない。革命が最終的に最も過激な勢力に乗っ取られるというのは、決して初めてのことではない。

旧秩序は崩壊しつつある。グローバル志向のリベラルな国際秩序を称賛したところで、それが復活するわけではない。今後10年間で答えを出すべき重要な問いは、ワシントンがその世界を、困難を伴うものの容認できるものに置き換えようとするのか、それとも現在の不確実性をさらに悪化させる方向へと推し進めるのかということだ。

※ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院(School of Advanced International StudiesSAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念国際問題担当教授。アメリカ・エンタープライズ研究所上級研究員。マクロ・アドヴァイザリー・パートナーズ経営担当部長。Xアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争は開始から2カ月近くが経過しており、現在は停戦状態になっている。ホルム海峡封鎖をめぐり、アメリカとイラン両国は緊張関係にあるが、2回目の和平交渉に向けて、仲介国のパキスタンが動いている。その裏では中国もまたイランとの交渉を行っている。戦争はイランに有利な状況になっており、イランはそう簡単にアメリカに対して譲歩をすることはなく、かなり有利な条件での交渉を求めていると考えられる。それに対して、中国はあまり欲をかくと大きな失敗をするとイランを説得していると考えられる。
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BRICS加盟諸国の地図

 イランに対して、BRICSは積極的な支援をしていないように見える。また、国際的な問題に関して、足並みを揃えて行動していないように見える。しかし、それは当然のことだ。BRICSはもともとゴールドマンサックスが「21世紀において経済成長著しい国々」の総称として発表した言葉であって、それらの国々が自発的に集まったものではない。2009年になって初めて5カ国の首脳会談が開催された。その歴史はまだまだ浅い。これから枠組みを作っていく段階である。しかし、2010年代から、BRICSを中心とする西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)の経済成長や台頭が続き、世界の構造は大きく変わっている。G7よりもG20の枠組みが重要性を増しているのもその証拠である。

 BRICSは軍事同盟や集団安全保障の枠組みではない。それぞれの国家体制も違う。宗教や価値観も異なる。それでも協力できるところから協力し、問題が起きれば話し合いで解決を目指すという、ASEAN(東南アジア諸国連合)スタイルの枠組みである。一種の緩さこそが枠組みの柔軟性と多様性を担保している。これが、アメリカ主導、西側主導になれば、「非民主的な国家は入れない」「近代的、啓蒙主義的価値観を共有しない国家は入れない」という「排除の論理」が先に立つ。西側諸国では「多様性(diversity)」「平等(equity)」「包摂性(inclusiveness)」という「DEI」が尊重されるが、国際関係においてそれらは全く尊重されない。本音と建前の使い分け、西洋支配の継続性のみが重視される。

 建前だけの排除の論理がまかり通る国際秩序はこれから大きく変化していくだろう。西洋支配は終焉に進んでいくだろう。そうした中で柔軟性のある、包摂性の高い国際的な枠組みがこれから拡大していくだろう。BRICSはその中心となっていく。

(貼り付けはじめ)

BRICSはイラン問題で意見が分かれている。NATOG7も同様だ(BRICS Is Divided on Iran. So Are NATO and the G-7.

BRICSは地政学的な同盟ではなくそうであるべきでもない。

オリバー・シュトゥンケル筆

2026年3月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/18/iran-war-brics-nato-g7-economics-security/
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2025年7月6日にリオデジャネイロで開催されたBRICS首脳会議に出席したイランのアッバース・アラグチ外相とエジプトのモスタファ・マドブーリー首相

2月28日にアメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始して以来、多くのアナリストがBRICSは幻想に過ぎないと断言している。

イランは2024年に新規加盟国としてBRICSに加わった。しかし、BRICSは紛争に対する統一的な対応を示すことができていない。ブラジルや中国など一部の加盟国はアメリカとイスラエルの攻撃を非難したが、インドは非難していない。南アフリカは態度を保留している。こうしたBRICS批判者にとって、これらの意見の相違は、『ウォールストリート・ジャーナル』紙コラムニストであるサダナンド・ドゥームが先週主張したように、BRICSは一貫性を欠き、「全く無力(utterly ineffectual)」であるというおなじみの結論を裏付けるものとなっている。

しかし、この主張は誤った前提に基づいている。BRICSは安全保障に関する共通の立場を持つ正式な同盟のように振る舞うべきだという前提に立っている。実際には、BRICSは地政学的なブロックではないし、これまでもそうであったことはない。

BRICSは発足当初から、地政学的な優先事項が大きく異なる国々を結集させてきた。ブラジル、ロシア、インド、中国の首脳が初めて会合を開いたのは2009年で、その1年後に南アフリカが加わった。当時でさえ、加盟国は統一された世界観を共有していなかった。ロシア、そして程度は低いものの中国は、特に2014年のロシアによるクリミア侵攻以降、G7や西側諸国への対抗勢力としてBRICSを利用しようと長年努めてきた。一方、ブラジル、インド、南アフリカは、多国間連携戦略を追求してきた。

BRICSは発足当初から西側諸国の観察者から批判にさらされてきた。2011年、『フィナンシャル・タイムズ』紙のフィリップ・スティーヴンスは「モルタルなきBRICSに別れを告げる時が来た(“time to bid farewell” to the “Brics without mortar”)」と宣言した。ジャーナリストのマーティン・ウルフは2012年のインタヴューで、BRICSは「グループではない(not a group)」とし、加盟国には「共通点が全くない(nothing in common whatsoever)」と断言した。他の評論家もBRICSを「ばらばらの四人組(disparate quartet)」「奇妙なグループ(odd grouping)」「寄せ集め(motley crew)」「無作為な集団(random bunch)」と表現し、「やや滑稽な(faintly ridiculous)」構想に基づいていると評している。

中国とロシアが賛成し、ブラジル、インド、南アフリカが反対した近年のBRICS拡大は、こうした矛盾をより顕著にした。2024年にエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦が加盟したことで、このグループはさらに多様化し、分裂が激しくなった。イランのドローンがアラブ首長国連邦を攻撃する映像―BRICS加盟国同士の攻撃は、多くの新メンバーの加入によってもたらされた地政学的な対立を如実に物語っている。

『フォーリン・ポリシー』誌のC・ラジャ・モハンが指摘するように、BRICSの拡大はグループ内の結束を弱体化させた。グループが拡大する以前は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領のように、西側諸国から経済的あるいは外交的に孤立する恐れのある加盟国にとって、BRICS諸国との関係は外交上の救命ボートとして頼りにできるという利点があった。2014年には、BRICS諸国はロシアのG20継続参加を支持した。5年後、アマゾン熱帯雨林の火災をめぐって西側諸国からブラジルへの圧力が高まる中、中国はボルソナーロ大統領の環境政策を称賛した。

BRICSの拡大は、特に国連安全保障理事会の改革問題において、グループ内の意思決定を麻痺させている。ブラジル、インド、南アフリカは長年、常任理事国入りを目指してきた。しかし、たとえ新たなBRICS加盟国が安保理改革を支持したとしても、その具体的な内容についてグループ内で合意は得られていない。エジプトやエチオピアを含むアフリカ諸国は、自国の議席獲得よりも南アフリカの議席獲得を優先しているように見える表現に抵抗している。

昨年開催されたBRICS外相会議では、参加国代表がグループ史上初めて共同声明で合意に至らず、緊張は頂点に達した。

BRICSは、過去にアメリカがイランに対する攻撃をエスカレートさせた際にも同様の優柔不断な態度を示してきた。昨年6月にアメリカがイランを攻撃した際、BRICSは比較的穏やかな声明を発表し、「深刻な懸念(grave concern)」を表明するとともに、攻撃を国際法違反と非難した。しかし、この声明はワシントンに言及しておらず、特にインドなど一部の加盟国がアメリカとのデリケートな関税交渉を行っていた時期に、ドナルド・トランプ米大統領との摩擦を避けることを意図したものとみられる。

イラン情勢の再燃をめぐるBRICSの分裂は、さほど驚くべきことではなく、特に何かを明らかにしているわけでもない。もし重大な軍事危機をめぐる意見の相違が、ある組織が無能であることの証拠だとすれば、西側諸国の多くの同盟も同じ試練に合格することはないだろう。

NATOG7は、イラン戦争をめぐって意見が分かれている。スペインは、NATOの主要加盟国であるアメリカによる攻撃を国際法違反だと非難している。マドリードはまた、アメリカ軍が共同運営基地を攻撃に使用することを拒否し、ワシントンとの公然とした対立を招き、トランプ大統領からは貿易報復の脅迫を受けている。他のヨーロッパ各国政府も介入に消極的だ。ドイツのボリス・ピストリウス国防相は月曜日、「これは私たちの戦争ではない(This is not our war)」と述べた。

アメリカがカナダやデンマーク領グリーンランドの併合または侵攻をちらつかせた際、NATOG7も統一的な対応を示すことができなかった。2003年にアメリカがイラクに侵攻した際、フランスやドイツを含む複数のヨーロッパ諸国は戦争に強く反対した。国連安全保障理事会の改革といったより根本的な問題についても同様である。ドイツは常任理事国入りを目指しているが、イタリアはこれに反対している。しかし、G7が無力であるとか、崩壊寸前であると考える人はほとんどいないだろう。

BRICSについても同様の分析基準が適用されるべきだ。BRICSは、あらゆる地政学的危機に対して統一的な立場を取るために設立された訳ではない。むしろ、その目的は異なる。BRICSは、主要な新興国が選択的に協調(coordinate selectively)し、地政学的不確実性に対するヘッジを行い(hedge against geopolitical uncertainty)、依然として西側諸国が支配する世界において影響力を高めるためのプラットフォームなのである。

例えば、BRICSは2022年のウクライナ侵攻後、西側諸国がロシアを経済的に孤立させるよう求めたにもかかわらずこれに抵抗した。これは、加盟国が、プーティン大統領が国際法に違反したという西側諸国の評価に異議を唱えたからではなく、ますます不安定化する世界において、経済的・地政学的な選択肢を確保しておきたかったからである。こうした現実的な判断は、グローバル・サウス(the global south)に限ったことではない。アメリカは最近、イラン戦争に関連した原油価格の高騰を受け、ロシアに対する石油関連の制裁を緩和した。

BRICSは設立以来、安全保障よりも経済・制度面の問題に重点を置いてきた。特に、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の改革、新開発銀行(New Development Bank)を通じた開発金融の道筋の構築、そして米ドルへの依存度低減(reducing dependence on the U.S. dollar)といった点において顕著である。BRICS首脳は今年後半、インドで第18回首脳会議を開催し、デジタルインフラと人工知能(AI)分野における協力について協議する予定だ。

こうした取り組みはしばしば進展が遅いものの、多くの新興国が、自国の影響力の増大をより適切に反映するよう世界秩序を適応させようとする共通の関心を示している。さらに、ブラジルや南アフリカといった国々にとって、BRICSはアジアの意思決定者と直接対話できる貴重な場であり、経済的にますます統合が進むアジア地域において、その存在感は際立っている。

このように、BRICSは同盟(an alliance)というよりも外交的な場(a diplomatic space)、つまり、西側諸国の支配に対する懸念を共有する国々が、単一の戦略的アジェンダに縛られることなく、代替案を模索するためのフォーラム(a forum for countries that share concerns about Western dominance to explore alternatives without committing themselves to a single strategic agenda)として機能していると言えるだろう。イランをめぐる現在の対立は、BRICSの本質を改めて示すものに過ぎない。BRICSとは、利害が一致する部分では協力し、一致しない部分では対立する、緩やかでしばしば混乱した国家連合である。

むしろ、イラン戦争はBRICS諸国の多方面にわたる連携と、より大きな戦略的自律性の追求を改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。一部の評論家がBRICSの解体を提唱しているのとは裏腹に、これまでBRICSから脱退を決めた国は一つもない。実際、BRICSは大きく成長を遂げている。最近では、トランプが主導する平和評議会(the Trump-led Board of Peace)に加盟したものの、その後参加を停止したインドネシアのような新興国も加わっている。

BRICSという枠組みを誤解しているだけでなく、BRICSに対する批判は、世界政治におけるより根本的な変化を見落としている。世界は、同盟関係によって形成される秩序から、場当たり的な連合、課題別協力、そして短期的な利益とニーズに基づくトランプ流の取引的な関係へと移行しつつある。

イラン核戦争の最初の数週間は、この新たな現実を如実に示している。アメリカがロシアへの制裁緩和を決定すると、つい最近ウクライナの領土保全を認める国連決議への支持を拒否したペルシア湾岸諸国は、イランのドローン攻撃から自国領土を守るため、キエフに軍事顧問の派遣を要請した。その後、トランプ大統領は中国に対しホルムズ海峡の防衛支援を要請したが、中国はこれを拒否した。これらの行動は、長年の原則や同盟関係に基づくものではなく、差し迫った戦略的・経済的ニーズに基づくものだった。

BRICSは決して統一されたブロックにはならないだろう。それは主に、加盟国の利益にならないからだ。ブラジルは、アメリカとの交渉においてBRICSという枠組みを利用して交渉力を高めるのと同様に、アメリカとの関係や、最近締結されたヨーロッパ連合とメルコスール間の貿易協定を利用して、中国との交渉における交渉力を強化している。BRICSは、多くの国が、より細分化され、激動する世界に備えている方法の一つに過ぎない。

※オリヴァー・ストゥエンケル:ワシントンDCにあるカーネギー国際平和財団の民主政治体制・紛争・ガヴァナンスプログラムの上級研究員であり、サンパウロにあるジェトゥリオ・ヴァルガス研究所の国際関係学准教授。Xアカウント:@OliverStuenkel

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領の外交政策はいつも通り、はったりを利かせながら進んでいる。西半球(Western Hemisphere)を勢力圏(Sphere of Influence)として、支配を確立するために、逆に言えば、世界覇権国であることを辞めるために動いている。ヴェネズエラ攻撃、グリーランド奪取への言及、パナマ運河への野心、カナダやメキシコを「州」として扱うような行動は南北アメリカ大陸を支配するための動きである。ドンロー主義は、モンロー主義(南アメリカからイギリスの影響を排除する)と棍棒外交(アメリカ海軍の戦艦の太平洋と大西洋の行き来を確保しつつ、物流の通行料を取るためにパナマを奪取する)を混合させたものだ。ドンロー主義が排除を目指すのは、中国とアメリカの影響力だ。

 19世紀のイギリス、21世紀の中国とロシア、それぞれターゲットは異なる。また、置かれている状況も異なる。南アメリカには「西側以外の国々」の中核であるBRICSの一角ブラジルが控えている。ブラジルは国力を充実させ、南アメリカの地域大国となり、ドル覇権からの離脱を目指す存在である。BRICSは既に世界の重要な拠点を押さえている。BRICSの位置を確認すれば、北米大陸(とヨーロッパ)が包囲されていることが分かる。
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BRICS加盟諸国の地図

 アメリカの横暴な動きが続けば、ヨーロッパ諸国がそうであるように、アメリカを「脅威」と見なすことで、西側以外の国々が「対米防衛同盟」を成立させることで、「脅威の均衡(balance of threat)」を図るということも起きるだろう。「脅威の均衡」はこのブログでも頻繁にご紹介しているスティーヴン・M・ウォルトが提唱した考えである。簡単に言えば、ある国を「脅威」と認識した国々は、その国に従うか(「バンドワゴニング、勝馬に乗る[bandwagoning]」)、同盟を組んで対抗するか(バランシング、均衡を図る[balancing])ということになる。中国は表立って、対米防衛同盟の動きを行うことはないだろうが、アメリカの暴力的な動きが激しくなれば、西側以外の国々が結束して、アメリカに対抗し、アメリカを包囲し、封じ込める(containment)ということも考えられる。

(貼り付けはじめ)

勢力均衡理論が再び台頭している(The Balance-of-Power Theory Strikes Again

-ドナルド・トランプの脅しに対する世界の反応に誰も驚くことはない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年1月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/23/trump-threats-europe-greenland-balance-power/

ついに、かつて友好国だった国々が、ならず者国家アメリカ(a rogue America)に対抗し始めているのを目にする日が来たのだろうか?

このような変化は、世界情勢の大きな転換点となるだろう。もし実際にそうなったとしても、それはトランプ政権の戦略的近視眼(the strategic myopia of the Trump administration)と、ますます不安定になる大統領の略奪的衝動(the predatory impulses of an increasingly erratic president)に完全に起因するだろう。

過去100年ほど、アメリカの世界支配の台頭は、その地位が圧倒的ではあっても、多くの国々がワシントンを牽制するために結集するほどではなかったという点で、古いスタイルの勢力均衡理論(old-style balance-of-power theory)の部分的な例外であった。冷戦期には、アメリカはソ連主導の諸国連合という対抗勢力に直面したが、世界の主要諸国や中規模諸国のほとんどは、アメリカの特定の政策に時折反対する場合があっても、アメリカを貴重な同盟国と見なしていた。しかし、カナダのマーク・カーニー首相が火曜日、スイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムの参加者に語ったように、そのような世界はもはや過去のものとなった。今日、彼は次のように語った。「大国間の競争(great-power rivalry)が繰り広げられる世界において、中間に位置する国々には選択肢がある。互いに好意を得るために競争するか、協力して影響力のある第三の道を切り開くかだ。」

以下、私自身の研究に触れて恐縮ですが、約40年以上前に博士論文(そして最初の著書)を執筆して以来、同盟の諸起源(the origins of alliances)と国家間の均衡を保つ理由(the reasons why states balance)というテーマについて考え、書き続けてきた。国家が同盟を結ぶのは、主に脅威への対応(response to threats)であり、力(power)だけによるものではないと私は主張した。もちろん、力は脅威の一要素だ(つまり、他の条件が同じであれば、強い国家は弱い国家よりも危険だ)。しかし、地理や知覚された意図[他者の行動から読み取った目的や動機]geography and perceived intentions)も重要だ。近隣にある国家は遠くにある国家よりも厄介な傾向があり、修正主義的な野心を持つ国家(states with highly revisionist ambitions)は特に危険だ。特に、他国から領土を奪ったり、他の国の統治者を支配しようとしたりする場合には猶更だ。弱小国家や孤立国家は、脅威となる勢力に「勝ち馬に乗る、バンドワゴニング(bandwagoning)」することで融和(accommodate)しようとすることもあるが、より典型的な対応は、理想的には他国と連携して、脅威となる勢力と均衡を保つことだ(the more typical response is to balance against a threatening power, ideally in partnership with others)。

私が「脅威の均衡理論(balance-of-threat theory)」と名付けたこの定式は、とりわけ、アメリカの冷戦同盟システムがワルシャワ条約機構やソ連の様々な非同盟諸国よりもはるかに大規模で強力であった理由を説明するものであった。アメリカは総合的な力では勝っていたが、ソ連はヨーロッパとアジアの多くの中規模国に隣接し、領土獲得に最適化された大規模な軍隊を有し、その指導者たちは共産主義の普及に公然と尽力していた。対照的に、アメリカはヨーロッパとアジアから2つの巨大な海によって隔てられており、そこに領土的野心はなかった。脅威の均衡理論は、1991年にイラクをクウェートから追い出した多国籍軍のような、不均衡な構造(lopsided alignments)も説明できる。あの事件では、イラクをはるかに上回る能力を総合的に備えた、本来はあり得ないような国々のグループが力を合わせた。なぜなら、彼らは皆、イラクの行動が地域の安定に対する深刻な脅威であると見なしたからである。

脅威均衡理論は、アメリカが単独で権力の頂点に立つ一方で、公然とした均衡維持の努力が少数の脆弱なならず者国家(weak rogue states)に限られていた「一極時代(unipolar moment)」という一見異常な状況を理解する上でも役立つだろう。冷戦時代のアメリカの同盟諸国がNATOに残留したのは、(1)制度的惰性(institutional inertia)(「NATOが崩壊していないのなら、なぜ修復する必要があるのか​​?」)、(2)不確実性へのヘッジをしたいという願望(a desire to hedge against uncertainty)、(3)アメリカの保護に頼るのは極めて良い取引だという認識(the recognition that relying on American protection was a pretty good deal)、そして、(4)ワシントンの最悪の衝動が他国に向けられていたという事実(the fact that Washington’s worst impulses were directed elsewhere)、による。ヨーロッパの指導者たちは、2003年のイラク侵攻のような失策が自国に悪影響を及ぼすことを正しく恐れ、アメリカの判断力に何度も疑問を呈したが、「ソフト・バランシング(soft balancing)」にとどまり、再編や自立に向けた努力は行わなかった。この決定が容易にされたのは、アメリカが依然として同盟諸国に対して自制(with restraint)を示し、領土的野心を抱かず、概ね各国政府と建設的な協力関係を築こうと努めていたためである。対照的に、ロシア、中国、北朝鮮、イランは、アメリカからの潜在的な脅威をより強く懸念する理由があったため、アメリカの力のバランスを取るためにより積極的な努力を傾けた。

それは当時のことであり、今は違う。ドナルド・トランプは、大統領として2期目を開始して以来、脅威の均衡理論が警告するほぼ全てのことを実行し、予想通り否定的な結果をもたらしている。トランプは、カナダ、グリーンランド・デンマーク、パナマに対する拡張主義的な目標を公然と繰り返し宣言しており、その野望はそこで止まらないかもしれない。彼と彼の側近たちは、主権の規範(the norm of sovereignty)を含む国際法は無意味であり、強い者は手に入れることができるものは何でも手に入れることができると信じているようだ。彼は、他国に経済的・政治的譲歩を強要するために、関税の脅威を繰り返し振りかざしたり、課したりしてきた。彼は、多くの場合、非常に疑わしい理由をもって、6カ国以上に軍事力を行使し、デンマークなどの忠実な同盟国に対しても軍事力行使をほのめかしてきた。彼は、他の外国の指導者たちを露骨に軽蔑し、適正手続きを経ずに100人以上の外国人民間人を殺害することを容認してきた。これもまた、国際法違反である。さらに、反逆的な政府の凶悪集団(例:移民関税執行局[Immigration and Customs Enforcement])をアメリカ国内の都市に解き放つことで、他国社会がアメリカを安定し規制の行き届いた社会と見なすこと、あるいは彼の外交政策行動を異常な事例と捉えることを不可能にした。要するに、国内外を問わず、アメリカ政府は危険ないじめっ子であり、強迫的な略奪者のように振る舞っているのだ。

ある意味、この行動は奇妙だ。賢い捕食者たち(clever predators)は、真意を可能な限り隠そうとする。トランプも2016年、そして最初の任期の大部分においてそうだったように、それは「部屋の中の大人(adults in the room)」によって抑制されていたことも一因だ。しかし、2021年1月6日の犯罪を免れ、再選を果たし、確固たる信念を持たない取り巻き、忠誠者、追従者、そして日和見主義者たち(cronies, loyalists, sycophants, and opportunists with no fixed principles)で政権を固めたことで、彼は最悪の衝動を解き放った。そして今、世界は注目し始めている。

世界はどのように反応しているのだろうか? 確かに、アメリカの最も近い同盟諸国は、いくつかの明白な理由から、トランプの好戦的な姿勢に抵抗するのが遅れている。アメリカとの関係を縮小し、アメリカに対抗する動きを見せるにはコストがかかり、意味のある対抗勢力となるのに十分な数の国を集めるには、集団行動におけるよくあるディレンマ(the usual dilemmas of collective action)に直面する。したがって、イギリスのキア・スターマー首相、NATO事務総長のマーク・ルッテ、韓国の李在明大統領のような人々が、お世辞、象徴的な服従、贈り物、そして小さな譲歩を組み合わせることで、ワシントンとの緊密なパートナーシップから得られる利益のほとんどを維持できるかどうかを見極めようとしたのは理解できる。

試してみる価値はあったかもしれないが、その賭けは明らかに成功しなかった。トランプ自身の言動が、そのアプローチの愚かさを露呈した。過去の合意は全ていつでも再交渉可能であると信じ、いかなる譲歩もさらなる要求への誘いと解釈する捕食者を受け入れることはできない。

脅威均衡理論が予測するように、かつての友好諸国は距離を置き、信頼できず潜在的に敵対的なアメリカに対する依存を減らし、互いに、そして場合によってはアメリカの敵対諸国とも新たな取り決めを結んでいる。長年、どの国にとっても最良の隣国であったカナダの首相が北京を訪れ、「新たな戦略的パートナーシップの柱(the pillars of [a] new strategic partnership)」を概説するということは、地殻変動が起こっていることを物語っている。ヨーロッパの指導者たちも、数十年にわたるゼリー状の優柔不断の後、再び背骨が生えてきたように見える。なぜなら、彼らには選択肢がほとんど残されていないからだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙のエド・ルースは明確に次のように述べている。「トランプに立ち向かうことが成功を保証するわけではない。一方、服従は必ず失敗する(Standing up to Trump offers no guarantee of success. Submission, on the other hand, is certain to fail)」。

かつてアメリカが誇った数々の国際的パートナーシップの更なる崩壊を防ぎ、新興国により適した新たな枠組みを構築するには、もう手遅れではないだろうか? 確かに手遅れだが、それはトランプ政権がこれまでの略奪的な戦略を捨て、アメリカが一方的な利益のためだけでなく、共通の利益のために他国と協力する意思を示すことが条件だ。その可能性はどれほど高いだろうか?

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領のヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束連行は世界に衝撃を与えた。私も「トランプはどうしてそんなことをやったんでしょうか」「アメリカはどうなるんですかね」といった問い合わせをいただくことがある。トランプが主張するドンロー主義(Donroe Doctrine)は、1830年代のジェイムズ・モンロー大統領のモンロー主義(南北アメリカ大陸からスペインとイギリスの影響を排除する)と、1900年頃のセオドア・ルーズヴェルト大統領(と先代のウィリアム・マッキンリー大統領)が採用した棍棒外交(中南米諸国に対して武力行使をちらつかせ、また実際に行使してアメリカに従わせる)を混合した外交政策の基盤となる原理ということになる。そして、これこそが「アメリカ・ファースト」(アメリカの利益が最優先)ということになる。

 こうしたドンロー主義に対して、懸念の声が出てくるのは当然のことだ。国外から一気に首都を急襲するという方式は、1979年から1981年にかけて起きたイランのテヘランのアメリカ大使館人質事件(Iran Hostage Crisis)において、人質救出作戦として立案されたイーグルクロー作戦(Operation Eagle Claw)と似たような形である。イーグルクロー作戦は天候に恵まれず失敗し、アメリカ大使館人質事件は当時のジミー・カーター大統領の再選失敗の最大の原因となった。もし、今回のヴェネズエラ急襲作戦が失敗していれば、トランプ大統領と政権にとって致命的な傷となったことだろう。今回の成功は幸運だったと言える。

 懸念されるのは、今回の成功に味を占めて、成功体験に浮かれて、他国にも同様の攻撃を行う可能性があることだ。メキシコやグリーンランド、パナマにアメリカ軍部隊を侵入させるということは今のところ考えにくいが、可能性がゼロではない。また、そのような可能性を相手側に考慮させることで、アメリカ側の交渉力を上げ、意向に従わせようとする可能性もある。短期的にそれが成功しても、中長期的に見て、それが成功となるかどうかは分からない。アメリカのならず者のような行動は他国からの反感を買い、忌避を生み出す。そして、相対的に、中国とロシアの評価を上げることになる。

国際関係論では、「バランシング(balancing)」と「バンドワゴニング(bandwagoning)」という考え方があるが、脅威となる国が出てきたときに他国が一緒になって対抗することを「バランシング」、脅威となる国に味方することを「バンドワゴニング」という。アメリカに対抗できるもう一つの軸として、著書やブログでも何度も紹介してきた、中国とロシアを中心とするBRICS諸国を中核とする「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」による「バランシング」が起きる可能性が高い。アメリカは予期しているよりも影響力を行使できないということになる。そうなると、国際的な孤立を招くということになる。今回のヴェネズエラ急襲成功が結果として大きな損失を生み出すということも十分に考えられる。

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ヴェネズエラはドナルド・トランプ大統領の運が尽きる場所になるかもしれない(Venezuela Might Be Where Trump’s Luck Runs Out

-トランプ大統領は、支持基盤内部の極めて強硬な派閥とハト派の間で綱渡りを続けている。

エンマ・アシュフォード筆

2026年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/05/venezuela-trump-us-military-intervention-regime-change-south-america/

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(右から)ドナルド・トランプ米大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ジョン・ラトクリフCIA長官、ピート・ヘグゼス国防長官がフロリダ州パームビーチにあるトランプの邸宅マール・ア・ラーゴからヴェネズエラにおける米軍の作戦を監視する(2026年1月3日)

国境の南側へのアメリカの軍事介入は、野球やアップルパイと同じくらいアメリカ的だ。1914年、ウッドロウ・ウィルソン大統領はアメリカの経済的利益を守るため、メキシコのベラクルスを占領するために軍隊を派遣した。冷戦時代、アメリカはキューバからニカラグア、グアテマラ、パナマに至るまで、公然と、あるいは秘密裏に、様々な政権転覆作戦(overt and covert regime change operations)を実行した。さらに最近の1994年には、クリントン政権がハイチに侵攻し、退陣したジャン=ベルトラン・アリスティド大統領を復帰させた。

それにもかかわらず、先週末に見られたような、事実上の武装誘拐(an armed kidnapping)とも言える指導者交代を、アメリカの政権が公然と、そして誇らしげに行っていることは衝撃的だった。これらの行動が選択された理由に関する公式の説明には、ほとんど策略がなく、この攻撃を何らかの国際法に組み込もうとする真摯な試みもなかった。むしろ、ドナルド・トランプ政権は事実上、アメリカの利益の優先性を主張した。ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、移民の阻止、麻薬の流入の防止、そしてアメリカの石油会社によるヴェネズエラの豊かな油田へのアクセスの許可を妨害したという主張であった。

提示された数々の論拠は、2003年のイラク侵攻の直前、政権が既に決定していた行動を正当化する様々な理由付けを次々と提示した状況を彷彿とさせる。しかし、これさえも誤解を招く。ヴェネズエラに関する説明は、ジョージ・W・ブッシュ政権が夢見ることしかできなかったようなスピードで、国際法の建前を無視して提示された。少なくともジョージ・W・ブッシュ大統領は、最終的にそのプロセスを無視する前に、国連安全保障理事会の承認(U.N. Security Council authorization)を求めた。

ここでも、提示された論拠はどれも真に説得力がない。アメリカは世界最大の産油国であり、ヴェネズエラ産の原油供給過剰(a glut of Venezuelan oil)は、世界的な価格下落によって、テキサス州などの産油地にさえ悪影響を及ぼしかねない。アメリカ国内で死者を出している薬物のほとんどは、ヴェネズエラ産ではない。そして、アメリカの法執行機関は、たとえ有効な令状があっても、通常は海外で軍事行動を起こすことはない。

実際には、これは明らかにアメリカの力、そしてこの地域を支配する必要性を誇示するための演習となった。マドゥロ大統領はトランプ政権に繰り返し反抗し、カリブ海における圧力と軍備増強にもかかわらず、権力を手放して快適な亡命生活(a comfortable exile)を送ることを拒否してきた。マドゥロ大統領の継続的な抵抗に、たとえドナルド・トランプでさえ、アメリカの譲歩(U.S. concessions)によって乗り越えられる可能性は、常に低かった。トランプは、アメリカ大統領の中でも、ハイリスクな状況においてブラフを仕掛け、譲歩する姿勢で知られている。

これは、トランプ政権が最近発表した国家安全保障戦略において、いわゆるモンロー主義のトランプ系(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)が提示されたことを考えると特に当てはまる。この戦略は、中国などの西半球外の勢力を締め出し、「西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配置する能力、あるいは戦略的に重要な資産を所有・管理する能力(the ability to position forces or other threatening capabilities, or to own or control strategically vital assets, in our Hemisphere)」を否定することを約束している。この文書が不吉に約束しているように、アメリカは「各国が私たちを第一選択のパートナーと見なすことを望んでおり、(様々な手段を通じて)他国との協力を阻止するつもりだ(nations to see us as their partner of first choice, and … will (through various means) discourage their collaboration with others)」。

マドゥロの拘束はまさにこの目的にかなうものであり、中国とロシアに西半球への介入を避けるよう求めるシグナルを送る可能性もある。また、複数の政権当局者によるキューバとメキシコに関する発言が示唆するように、これは他の地域内の諸国政府にも、移民問題、麻薬問題、あるいは他国との協力といった問題で協力を求めるシグナルを送ることになる。もし協力しなければ、アメリカによる懲罰的攻撃(a U.S. punitive strike)を受けるリスクがある。これは非常にリスクの高い戦略だ。今回の襲撃が計画通りに進まなければ、トランプ政権は期待していたよりも弱体化してしまう可能性がある。

おそらく最大の問題は、今回の襲撃をトランプのより広範な外交政策の文脈でどう解釈するかということだ。一部の人々はこれを政権内の1つの派閥の勝利(the triumph of one faction inside the administration)と解釈し、「タカ派が勝利している(The hawks are winning)」と簡潔に報じた。そして、この作戦の顔は明らかにタカ派のマルコ・ルビオ国務長官であることは事実だ。外国の政権交代を長年批判してきたJD・ヴァンス副大統領は、この襲撃を支持しているものの、襲撃に関する写真や記者会見には出席しておらず、その理由については安全保障に関する漠然とした発言のみで説明している。

しかし、トランプの側近であるタカ派やネオコンもこの状況に不満を抱いている。大統領は記者団に対し、民主派野党の有力候補であるマリア・コリーナ・マチャドには、近いうちにヴェネズエラで政権を掌握するために必要な支持がないと述べた。ルビオ長官もすぐにこの見解に同調した。政権当局者たちは、マドゥロの副大統領であるデルシー・ロドリゲスが政権移行に向けて政権と協力すると見込まれていると述べており、この作戦は民主政治体制を促す政権交代(pro-democracy regime change)というよりも、非協力的な指導者を排除すること(removing an uncooperative leader)が目的であることを示唆している。

このように、マドゥロ襲撃は、その行動は攻撃的かつ野心的であると同時に、政治的目的は非常に限定的である。この点において、これはおそらく2025年6月のトランプによるイラン核施設への攻撃に最も類似していると言えるだろう。どちらのケースでも、トランプはアメリカの軍事力の強力なデモンストレーションを行う一方で、911以降のアメリカの軍事介入の多くを悩ませてきたエスカレーション、混乱、そして意図せぬ結果(the escalation, chaos, and unintended consequences)を回避しようと努めた。つまり、彼はアメリカがほとんど何の責任も負わない武力行使を行えるという主張を試しているのだ。

このアプローチは、政権内の対立する諸派閥の間を縫うように進められ、ネオコンやレーガン主義の残党(Reaganite holdovers)が渇望する軍事行動を許容しつつ、介入主義(interventionist)に消極的な支持基盤に対しては、アメリカがイラク戦争のような惨事を再び招くことはないとの安心感を与えようとするものだ。これまでのところ、この戦略は功を奏している。しかし、政治的にも地政学的にも、依然として非常にリスクの高い戦略であることに変わりはない。トランプ大統領は幸運だった。イランへの攻撃は事態の大幅なエスカレーションにはつながらず、マドゥロ政権の掌握は今のところヴェネズエラを混乱に陥れたようには見えない。

しかし、だからといって、大統領が将来、例えばメキシコやグリーンランドで同様の攻撃を行った場合、その影響を回避できる能力がアメリカへの逆風に容易に転じないという保証はない。そして、トランプ大統領がこうしたアメリカの武力行使を繰り返せば繰り返すほど、そのどれかが壊滅的な結果を招く可能性が高まるのだ。ヴェネズエラでは、それは軍事クーデター、国家崩壊、あるいはより広範な難民危機(military coup, state collapse, or broader refugee crisis)を意味する可能性がある。他の地域では、戦争、もしくは混乱を意味する可能性がある。

トランプ大統領は、自身を支持してくれた支持基盤を遠ざけるリスクを負っているだけではない。この国際的な瀬戸際政策(this game of international brinksmanship)が成功するたびに、トランプはより自信過剰(more overconfident)になり、次回の誤算のリスク(the risks of miscalculation)が高まる可能性が高い。

※エンマ・アシュフォード:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。スティムソン・センターアメリカ大戦略再発想プログラム上級研究員。ジョージタウン大学非常勤助教。著作に『石油、国家、そして戦争(Oil, the State, and War)』がある。Xアカウント:@EmmaMAshford

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 私は、「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)」対「それ以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造が世界を変化させると主張している。グローバルノースとグローバルサウスという分裂もこれに似ているが、地理に関する言葉が入っているため、ロシアや中国といった北半球に位置する国々がグローバルサウスに入っていることに違和感を持つ人がいるだろうと考え、これらの言葉を使う際には気を付けている。しかし、マスメディアでは、グローバルノース対グローバルサウスという言葉が良く使われている。

西潟諸国対それ以外に国々という分裂が明らかになったのがウクライナ戦争だった。ウクライナ戦争が発生し、ロシア非難決議について、強制力を持つ国連安保理決議はロシアが拒否権を持っているので、そもそも可決成立しないことは分かっていた。強制力を持たない国連総会決議では、反対5カ国、棄権35カ国、意思を示さずが12カ国となった。人口比で言えば「賛成15対反対85」ということで、世界の大きな分断が明らかになった。以前であれば、西側・欧米諸国の意向に唯々諾々と従っていた国々が、ある程度自分たちの意向で動けるようになっている。それだけ欧米諸国の力が落ちているということが明らかになっている。

その代表格がBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)であり、G20のうちの、西側諸国のG7加盟諸国以外の13カ国である。この13カ国は、BRICS以外では、アルゼンチン、オーストラリア、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、トルコである。これらの地域大国・二番手国がこれから重要になってくる。以下の論稿では、

ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコを重要な「どちらにも肩入れしない国々(swing states)」「中規模大国(middle powers)」と規定している。これらの国々は、地域のリーダーとしての役割を果たし、国際政治においても重要な役割を果たしている。トルコとサウジアラビアは中東地域の大国であり、地域の安定において重要な存在である。トルコは東西をつなぐ地理的な位置、ロシアとの関係もあり、ウクライナ戦争において和平の仲介を行おうとしている。ブラジルやインドネシア、南アフリカは資源大国としての存在感を示しているが、工業化を目指している。
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 西側諸国の衰退とそれ以外の国々の台頭は大きな世界の流れである。私たちは、そのことをしっかりと理解して、世界の変動に備えねばならない。日本にとって、最も馬鹿らしいのは、アメリカと心中する覚悟で、中国に突っかかり、戦争をしてしまうことだ。

(貼り付けはじめ)

6つのどちらにも肩入れしない国々が地政学の将来を決定する(6 Swing States Will Decide the Future of Geopolitics

-これらのグローバルサウスの中規模大国がアメリカの政策の焦点となるべきだ。

クリフ・カプチャン筆

2023年6月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/06/06/geopolitics-global-south-middle-powers-swing-states-india-brazil-turkey-indonesia-saudi-arabia-south-africa/

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2018年7月27日、南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議で挨拶するロシアのウラジーミル・プーティン大統領、インドのナレンドラ・モディ首相、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領

先月、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領は異例の形でウクライナを飛び出し、サウジアラビアのジッダと日本の広島でほぼ1週間を過ごした。彼の目標は、ロシアのウクライナ戦争を擁護する4大国であるブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビアの支持を獲得することだった。これらおよびその他のグローバルサウス(global south)の主要諸国は今日、かつてないほど大きな力を持っている。彼らが新たに発見した地政学的影響力(geopolitical heft)の理由は、彼らがより多くの主体性(agency)を持ち、地域化(regionalization)の恩恵を受け、そして米中間の緊張を利用できることだ。

今日の中規模大国(middle powers)は、第二次世界大戦後、これまで以上に多くの主体性を持っている。これらの国々は、地政学(geopolitics)において大きな影響力を持っているが、世界の2つの超大国であるアメリカと中国ほど強力ではない。グローバルノースには、フランス、ドイツ、日本、ロシア、韓国などが含まれる。ロシアを除いて、これらの国々は米国と幅広く連携しているため、権力と影響力の変化についてはあまり語られていない。

もっと興味深いのは、ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコというグローバルサウスの主要な中規模大国6カ国だ。グローバルサウスのこれらどちらにも肩入れしない国々(swing states)は、米中どちらの超大国とも完全に連携していないため、自由に新たな権力関係を生み出すことができる。これら6カ国は、G―20のメンバーであり、地政学と地経学(geoeconomics)の両方の面で活発に活動している。これら6つの国は、グローバルサウスにおけるより広範な地政学的傾向を示す、良いバロメーターとしても機能している。

これら6つの国の重要性が高まっている理由は多くあるが、長期的な歴史的発展と、より最近の世界的な傾向という2つの要素に分類できる。最初のバケツに関しては、冷戦(Cold War)以来の発展により、これらの中規模大国は、国際関係においてより多くの主体性を得ることができるようになった。冷戦により、対立するブロックへのより厳格な分離が必要となり、今日のどちらにも肩入れしない国々の一部が取り込まれた。その後のアメリカの一極支配(unipolarity)の時代では、ほぼ全ての国がワシントンに対して一定の忠義(fealty)を示す必要があった。今日の中国とアメリカの二極性(bipolarity)は弱まり、全ての中規模大国はより自由に行動できるようになった。

歴史のバケツの2つ目は次の通りだ。過去20年間、世界は重要な形で脱グローバル化(deglobalizing)し、その結果、地域レヴェルで新たな地政学的・地経済的関係が形成されつつある。その結果、地域レヴェルで新たな地政学的・地理経済的関係が形成されつつある。どちらにも肩入れしない中規模大国は全て、地域のリーダーであり、力が地域に委譲されるにつれて、その重要性は増していく。ニア・ショアリング [near-shoring](サプライチェインを自国の近くに移動させること)やフレンド・ショアリング [friend-shoring](敵対国から志を同じくする国へと移動させること)の過程で、一部の企業や貿易関係は中国から他の地域(主にグローバルサウス)へと徐々に移動している。グローバルサウスの、どちらにも肩入れしない中規模大国のいくつかは、地域貿易のハブとして、更に忙しくようになるだろう。インドがその最たる例で、アメリカ企業の一部は、インドに生産拠点を置き、新たなサプライチェインを構築している。エネルギー市場はより地域的なものになりつつあり、サウジアラビアに利益をもたらしている。同様に、サウジの首都リヤドは地域金融のハブとして台頭しつつある。また、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)は、世界は分断化(fragmenting)しつつあり、分断化した世界では地域の中規模大国が論理的により重要な役割を果たすと強調している。

第三に、冷戦時代、インドとインドネシアは植民地支配から脱したばかりだった。そのため、米ソ冷戦二極時代の世界的な役割は限られていた。今日、どちらにも肩入れしない中規模大国6カ国は完全に自立したアクターである。しかし、彼らは、非同盟運動(Non-Aligned Movement)や、G―77やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のようなグローバルサウスが支配する他のグループの新しい姿ではない。これらのグループは全て、イデオロギー的な親和性(ideological affinity)を持っているか、あるいは持っている。イデオロギー的な親和性がないため、これらの国家は外交政策において強硬な取引主義的アプローチ(hard-core transactional approach)をとることができ、その結果、国際情勢への影響力を高めている。

どちらにも肩入れしない中規模大国の力を高めるその他の要因は、最近の世界的な傾向から生じている。どちらにも肩入れしない中規模大国の力は、米中関係を明確に特徴づける競争と対立(competition and confrontation)から得られる影響力によって強化される。それぞれの超大国は、どちらにも肩入れしない中規模大国が自国に同調することを望んでおり、どちらにも肩入れしない中規模大国が他方を翻弄する機会を作り出している。例えば、中国のバランスをとるための、アメリカ主導の最も重要な取り組みである日米豪印四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に参加して以来、インドの力と影響力は劇的に増大した。ブラジルとインドネシアは、特にリチウム、ニッケル、アルミニウムといった重要な鉱物資源に関する取引を封じ込めようとする中国の熱意から利益を得ている。最近の調査によると、6カ国は、それぞれ特定の問題で、アメリカや中国に傾斜することはあっても、そのほとんどは比較的バランスの取れた忠誠を保っている。今のところ、6カ国は多くの分野で大国を翻弄する自由を手にしている。半導体(semiconductors)、人工知能(artificial intelligence)、量子技術(quantum technology)、5G通信(5G telecommunications)、バイオテクノロジー(biotechnology)などの基盤技術は唯一の例外である。

同様に、グローバルサウスのどちらにも肩入れしない中規模大国は、経済規模が大きく成長しており、国際的な気候政策の影響力を持っている。これらの国々の参加なしに、汚染や気候への影響による課題を解決することはできない。炭素市場(carbon markets)は、排出量への実際の影響に関係なく、これらの中規模大国に更に資源をもたらすことになるだろう。なぜなら、西側企業はネットゼロの地位を追求する際にオフセットを購入する必要があるからである。より広範に、森林破壊と脱炭素化に関する政策には、森林破壊に関してはブラジルとインドネシア、脱炭素化、特に石炭の利用に関する脱炭素化に関しては主にインドとインドネシアといった激戦州の建設的な参加が必要である。最後に、「ジャスト・エネルギー・トラン十ション・パートナシップス」は、気候変動目標に資金を提供するための創造的な解決策を見つけることに重点を置いており、南アフリカとインドネシアが最初の資金提供先となる。このプログラムの結果は今のところまちまちだが、これは2つの中規模大国が気候政策において指導的役割を担う例である。

どちらにも肩入れしない中規模大国6カ国は、制裁(sanctions)とウクライナ戦争の構図作りにおいて重要な役割を果たしてきた。彼らは当初から、西側諸国によるウクライナへの軍事援助や対ロシア制裁に同調することを拒否してきた。彼らは、この戦争は、ヨーロッパのみに影響を及ぼし、世界の安全保障には影響を与えず、開発(development)、債務削減(debt reduction)、食料安全保障(food security)、エネルギー安全保障(energy security)などの分野における国益を促進するものではないと主張している。

しかし、これらの国々が戦争に与えた最も重要な影響は、西側諸国の対ロシア制裁に反対し、場合によってはそれを弱体化させるというリーダーシップの役割を果たしたことである。トルコは、大量の軍需品のロシアへの輸出に関与しており、西側諸国の制裁の精神に違反し、おそらくはその規定にも違反している国の一つである。こうした活動に対し、アメリカは既にトルコ企業4社に制裁をしている。南アフリカはロシアに傾いているものの、他の中規模大国のほとんどは断固として中立を保っている。6カ国はいずれも、戦争開始以来、ロシアとの貿易その他の関係を維持または強化してきた。

国際通貨基金の予測によれば、ロシア経済の今年の成長率は0.7%で、西側諸国が期待していたような、経済を完全に麻痺させる影響はほとんどない。どちらにも肩入れしない中規模大国が、ロシアが経済制裁の影響を弱め、それを続けるために支援をしている。この数字は、クレムリンが、貿易を南と東に向けることで生計を立てられると信じている理由の一つでもある。

グローバルサウスの中規模大国の影響力が大幅に増していることは、彼らの調停イニシアティヴにも表れている。トルコは、ウクライナ戦争に関して最も影響力のある唯一の対外勢力である。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、穀物取引の主要な交渉者であり、戦争開始時の和平交渉にも関与した。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、自らのイニシティヴで名乗りを上げた。一方、インドはより静かに、将来の和平を仲介する立場にある。これらの国家は現在、他の紛争も調停できる立場にある。この点でのインドの地位は特に高く、2月の時点ですでに国連平和維持活動(U.N. peacekeepers)の8%を担っているからだ。インドネシアや南アフリカも調停役や平和維持要員として活躍している。

最後に、これらの国々に見られる科学や工学の専門知識は、将来の核拡散リスクを高めている。仮に次に核兵器が拡散するとすれば、それはグローバルサウスの国々である可能性が高い。近い将来、特にサウジアラビアとの和解が実現した後は、その可能性は低いものの、イランは依然として世界で最も危険な核拡散リスクである。イランが潜在的な核保有国になるには、技術的にあと数歩のところまで来ている。リヤドとの関係が急激に崩壊し、テヘランがダッシュで爆弾製造に乗り出すというシナリオでは、サウジやおそらくトルコも爆弾(核兵器)を求める可能性がある。サウジアラビアがイスラエルとの国交樹立と引き換えに、アメリカに核保証を要求したとされるのはそのためである。

西側支配に対抗する主役として、BRICS諸国が注目されることは、グローバルサウスの興味深い点の多くを見えにくくしている。なぜなら、BRICSに中国とロシアが加わることで、どちらにも肩入れしない中規模大国の重要な台頭が覆い隠されてしまうからだ。

中国とロシアが拡大したBRICSを、そしてBRICSを通じてグローバルサウスを共同支配することは、対処すべき真の脅威である。

中国は今日、二極化した世界における2つの大国のうちの1つである。中国をグローバルサウスの一員と考えるのは大げさだが、それは中国の経済力と広範な地政学的野心が、中国を異なるタイプの国家にしているからである。ロシアは中規模大国だが、衰退しつつある。ロシアはまた、世界へのアプローチにおいて高度修正主義的(hyper-revisionist)であり、これは、グローバルサウスのどちらにも肩入れしない中規模大国にはない見方である。そのため、地政学的に最も活発なBRICSの2カ国の政策は、どちらにも肩入れしない中規模大国とは異なる論理で説明する必要がある。

しかしながら、BRICS諸国が中国の指導の下、グローバルサウスを代表すると主張する、より正式な機関になるのかどうかという疑問は残る。特に、他の19カ国がすでにBRICSへの加盟に関心を示していることを考えれば、この見通しは西側諸国に対する明確な挑戦ということになる。しかし、その脅威が現実のものとなる可能性は低い。インドはBRICSの有力国であり、BRICSを共同支配しようとする中国の動きに断固として反対するだろう。サウジアラビア、ブラジル、トルコ(NATO加盟国)、インド、そして南アフリカでさえも、安全保障や貿易の面で、アメリカやその他の主要な西側諸国と重要な関係を保っている。これらの国々は、アメリカから離れているかもしれないが、それは中国が主導し、ロシアが支援する、アメリカに積極的に反対する組織に参加することとは異なる。現在のところ、BRICSは共通のアジェンダを策定し、実施する能力を示していないため、中国が共闘するための組織的な力はほとんどない。最後に、BRICSはコンセンサスに基づいて運営されている。独自の利害を持つ新メンバーが加わる可能性が高いため、コンセンサスを得るのはさらに難しくなるだろう。

これら6つのどちらにも肩入れしない中規模が注目すべき大国であるという考えに同意しない人もいるかもしれない。これらはいずれもまだ新興市場(emerging markets)であり、近年は世界経済のその部分にとっては好ましい状況ではない。インドを除いて、どちらにも肩入れしない中規模大国の成長率は予想を下回っている。このグループは法の支配(rule of law)を支える制度の発展が遅れている。AIを含む技術革命は、先進工業民主政体諸国(advanced industrialized democracies)よりもグローバルサウスに大きな打撃を与えるだろう。前者は生成型AIの政治的に危険な影響に対抗するためのリソースが少ないからだ。そして、気候目標によって激戦州に影響力が与えられるとしても、気候関連の影響はこれらの国々の一部に重大な損害と苦痛を与えることになる。

しかし全体として、これらの勢力は地政学的にますます強力になっており、今後もさらに強力になるだろうという主張は依然として強い。彼らは最も強力な世界的トレンドの一部から影響力を引き出すことができ、彼らの新たな力はすでに明確に現れている。

最も重要な政策的意味は、世界の力の均衡における、アメリカの地位の大幅な弱体化を防ぐために、ワシントンは、6つのどちらにも肩入れしない中規模大国に対するゲームをアップする必要があるということである。ロシア・ウクライナ戦争や中国との競争において、どちらにも肩入れしない中規模大国がアメリカの後ろ盾になることを拒否しているため、これらの主要国の多くは既に離れつつある。拡大したBRICS、そしてそれを通じたグローバルサウスと中露両国が共闘するという脅威は現実であり、それに対処する必要がある。

ワシントンは、主要6カ国それぞれに対してだけでなく、より広くグローバルサウスに対して、練り上げられた外交戦略を持つ必要がある。先日のG7にどちらにも肩入れしない中規模大国の大半を招待したことは有益なスタートであったが、もっと多くのことが必要となる。より良い戦略は、アメリカの主要外交官によるハイレヴェルの訪問を増やすことから始まるだろう。政策の改善には、アメリカ市場へのアクセスという難題を解決する、より機敏な貿易戦略も含まれる。より広く言えば、アメリカは、アメリカの重要な政策決定に対する、6つのどちらにも肩入れしない中規模大国とグローバルサウスの反応をよりよく予測できるようになる必要がある。例えば、ロシアの戦争に対する西側の政策がグローバルサウスに疎外感(alienation)をもたらした度合いは、ワシントンを驚かせた。2022年2月の侵攻開始以来、アメリカは、追いつ追われつを繰り返している。このような予測能力を持つには、グローバルサウスの多くの国々における感情やエリートの信条をよりよく理解する必要がある。

第二に、米中間の緊張が劇的に高まり、冷戦型の対立に発展した場合、どちらにも肩入れしない中規模大国、更には全ての中堅国の力と影響力は打撃を受けるだろう。デカップリング(decoupling)は拡大し、どちらにも肩入れしない中規模大国はどちらか一方により接近せざるを得なくなるだろう。

最後に、どちらにも肩入れしない中規模大国の台頭により、地政学的な結果に対して影響力を持つ国が世界に増えた。こうした国々の間では、自国の国益を集中的に追求する以上の明確な行動パターンは見られない。地政学上のあらゆる問題で、より多くのドライヴァーが存在するようになった。そのため、ただでさえ困難な地政学的結果の予測がさらに難しくなっている。

※クリフ・カプチャン:ユーラシア・グループ会長。

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 中国が主導する多国籍機関がうまく機能していない、という指摘がある。そもそも、中国が主導する多国籍機関は、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)やブリックス(BRICS)といったところは知られているが、その他は、あまり知られていない。しかし、これらの枠組み以外にも、「ユーラシア地域の問題について話し合う機関(talk shop)であるアジア交流信頼醸成対策会議(Conference on Interaction and Confidence Building Measures in AsiaCICA)がそうした組織である。過去3年間で、この中国中心の国際組織壮絶プロジェクトのアルファベットのスープ(訳者註:頭字語や略語)に、更に多くのイニシアティヴが追加されてきた。世界安全保障イニシアティヴ(Global Security InitiativeGSI)、グローバル文明イニシアティヴ (Global Civilization InitiativeGCI)、およびグローバル開発イニシアティヴ (Global Development InitiativeGDI) 」といった枠組みが存在する。しかし、これらの諸機関がうまく機能していないというのが下記論稿の趣旨である。

下記論稿では、以下のような主張がなされている。中国が提案する多国間主義構想に多くの国々が注目しているが、中国中心の組織やイニシアティヴは成果を上げていない。アメリカ主導のシステムの崩壊に伴い、中国の提案には賛同する声が広がっているが、実際には中国の行動に疑問符がつくこともある。中国は一帯一路構想を通じて世界経済に影響を与えているが、その取り組みには批判も多い。ブリックスや中国の新たな金融秩序構築に期待する声もあるが、実際には、西側手動の枠組みの方が現在ではまだ、信頼性が高い。中国が新たな秩序を築くには、ソフトパワーや文化面での魅力を高める必要があり、その過程で外交的課題や経済問題に直面する可能性がある。

 中国が多国籍機関を主導するようになっての歴史はまだ浅い。大国として台頭してきたのは21世紀に入ってからだ。中国は大国として、まだ経験が浅い。そうした中で、中国主導の多国籍機関が、歴史と経験を持つ西側諸国の枠組みよりも信頼を勝ち得ていないのは仕方がない。しかし、これから、中国が更に台頭し、米中二国による世界支配・管理体制が構築されていく中で、中国自身の経験が蓄積され、中国が主導する枠組みも洗練されていくだろう。

(貼り付けはじめ)

中国は発展途上世界を騙している(China Is Gaslighting the Developing World

-北京の平等に関する約束は、覇権のための偽装である。

ロバート・A・マニング筆

2024年4月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/05/china-developing-world-bri-global-development-initiative-hegemony/?tpcc=recirc062921

昨年12月の習近平国家主席のヴェトナム訪問中に、ハノイが中国の提案する「運命共同体(community of shared destiny)」に対しての支持を表明したとき、中国政府はこれを歓迎した。中国は独自に設計するポスト・アメリカの世界秩序(post-American world order of its own design)を望んでおり、習近平国家主席のヴィジョンは野心的であると同時に曖昧ではあるが、中国政府は主に、現在不安定になっている、1兆ドル規模の融資を含む公共財という名目でそのプロジェクトを構築している。

習近平が政権を掌握して以来、時にはまだ初期段階にあるとはいえ、既存の中国中心の組織を構築してきた。上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして現在他の4カ国で構成されているBRICSグループ。そして、ユーラシア地域の問題について話し合う機関(talk shop)であるアジア交流信頼醸成対策会議(Conference on Interaction and Confidence Building Measures in AsiaCICA)がそうした組織である。過去3年間で、この中国中心の国際組織壮絶プロジェクトのアルファベットのスープ(訳者註:頭字語や略語)に、更に多くのイニシアティヴが追加されてきた。世界安全保障イニシアティヴ(Global Security InitiativeGSI)、グローバル文明イニシアティヴ (Global Civilization InitiativeGCI)、およびグローバル開発イニシアティヴ (Global Development InitiativeGDI) がそれに当たる。

しかし、これらのプログラムの多くは、グローバルサウス(global south)にとって魅力的かもしれないが、これらの国々が本当にポスト・アメリカの未来、ましてや北京主導の未来を望んでいるのかどうかは不明である。中国の多国間主義構想(China’s vision of multilateralism)は自らの覇権的野望をカモフラージュするものであり、心からの目標ではない。

現在のアメリカ主導のシステムは崩壊しつつある。購買力平価(purchasing power parity)に基づくG7のGDPは世界のGDPの約30%に低下し、BRICSよりわずかに小さく、気候変動から貧困削減に至るまで多くの公約は果たせなかった。そのため、各国は「民主的多国間主義(democratic multilateralism)」、つまり、アメリカ主導の秩序へのアンチテーゼに基づく協力の感覚を育むと主張する中国の提案を受け入れやすくなっている。軍事同盟は冷戦の遺物として否定され、人権は経済中心で、政治的権利、少数民族の権利、独立した司法、言論の自由は結果として制限されている。北京は、非西洋的な発展の道(non-Western path to development)を提供すると主張し、代替案として中国の国家主導モデル(China’s state-driven model)を示唆している。偶然の一致ではないが、中国がアメリカの統治から離れようとしていることは、北京の構想が描く想像上の偽ユートピア(faux utopia)にはない。

しかし、これまでのところ、これらは全て願望的なものだ。上海協力機構(SCO)、BRICS、アジア交流信頼醸成対策会議(CICA)は、話し合いの場ではあるが、決定の場ではない(talking shops)という役割を果たしているが、大きな成果は出ていない。カザフスタンで危機が起きたとき、介入したのは、上海協力機構ではなくロシアだった。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領がウクライナに侵攻したとき、中国政府は主権(sovereignty)と不干渉(noninterference)という自国の核心原則に対する違反を無視した。

習近平の行き過ぎにも関わらず、中国政府の指導力とグローバルサウスにおける多大な連携とヘッジには需要と供給の両方が不足している。習近平は、2014年のCICA会議で行ったように、「アジア人のためのアジア(Asia for Asians)」演説をするかもしれないが、その反応を決定づけたのは、南シナ海における中国の侵略と、韓国のTHAADのようなプロジェクトをめぐる近隣諸国へのいじめだった。アメリカの同盟関係は強化されており、これに対応してアジア内の協力も深まっている。

経済が低迷し、中国という債権者に対する発展途上諸国の債務が増大する(そして一帯一路の融資と投資が減少する)にもかかわらず、北京は依然として巨大な世界経済の足跡を残している。しかし、多極同盟のグローバルサウスに対する習近平の訴えは薄れるのだろうか? 一帯一路構想(Belt and Road InitiativeBRI)については、ジンバブエやスリランカといった債務者に、主権の尊重についてはフィリピンの海事当局者に、世界最大の温室効果ガス排出国については気候活動家に聞いてみて欲しい。ピュー・リサーチ・センターによる2023年の世論調査によると、調査対象となった24カ国のうち、中央値の3分の2がブラジル、インド、韓国を含む中国に対して否定的な見方をしていた。2017年のピュー世論調査では、インドネシア、フィリピン、ヴェトナムでは中国の台頭が脅威と見なしていることが多かった。

しかし、中国政府は、世界安全保障イニシアティヴ(GSI)が、100カ国以上から「支持と評価(support and appreciation)」を得ていると述べている。世界安全保障イニシアティヴは、「全ての国の主権と領土一体性の尊重(respecting the sovereignty and territorial integrity of all countries)」、「共通、包括的、協力的かつ持続可能な安全保障(common, comprehensive, cooperative and sustainable security)」、「国連憲章の目的と原則(the purposes and principles of the U.N. Charter)」、そして「対話と助言を通じた国家間の相違と紛争の解決(resolving differences and disputes between countries through dialogue and consultation)」に対する関与を進めている。

世界安全保障イニシアティヴ(GSI)は、中印協定締結後の1954年に周恩来が導入して以来、中国の公式外交政策の柱となっている平和共存5原則の再利用版である。

それでは、表面的に、何が良くないこととなるだろうか? グローバルサウスの多くの人々にとって、習近平国家主席の取り組みを支持することには、具体的な費用や約束は伴わないが、それらを拒否すれば中国を怒らせるリスクがある。しかし、現実の世界では、他の国よりもより平等に扱われる国もある。その例外がパキスタンであり、中国政府はパキスタンに対して、安全保障を提供していない。また、中国の取り組みのほとんどが、アメリカのパワーの正当性を拒絶し、その地位を奪うことを目的としているという内実もまったく感じられない。ワシントンの庇護下にある国々は、アメリカのパワーについて、不満を言いたくなるかもしれないが、必ずしも、アメリカのパワーが消滅することを望んでいる訳ではない。

理論的には、不侵略(nonaggression)、不干渉(noninterference)、主権の尊重(respect for sovereignty)、紛争の平和的解決(peaceful resolution of disputes)は、小国が大国からいじめられたり、強要されたりしないという希望を与える。実際には状況は異なる。中国の経済力と軍事力が増大するにつれ、それは中国の特徴をもった不干渉(noninterference with Chinese characteristics)へと変化してきた。ウクライナの主権に対する大規模な侵害であるロシアの戦争に対する中国の沈黙、現在はトーンダウンした「戦狼」外交(“wolf warrior” diplomacy)、そしてオーストラリア、リトアニア、フィリピン、台湾などが、中国を少しでも批判すると輸出品の多くが突然歓迎されなくなるような経済的強制を見れば分かるだろう。

中国政府は、リスクの低い調停の役割(low-risk mediation roles)を果たしている。しかし、主要な世界問題に関しては、中国のしばしば活動的な外交は、人を欺くごまかし(smoke and mirrors)であり、問​​題解決ではない。2023年2月、中国は、ウクライナに対する12項目の和平案を発表したが、本格的な外交フォローアップもなく、白紙となった。中東特使の翟隽は、10月下旬に中東地域各国を歴訪し、翌月には中国が北京でアラブ・イスラム指導者たちの会合を主催し、イスラエル・ハマス戦争の終結を訴えた。繰り返しになるが、こうした試みの効果はない。

習近平の外交は、現実的な問題解決よりも、グローバルサウスに対するパフォーマンス的な要素が強いように思われる。よく引き合いに出される、2023年のサウジアラビアとイランの脆弱な緊張緩和(détente)を中国が促進したことはその例外である。北京での式典は、湾岸諸国との経済関係の結びつきを強める中国の影響力の高まりを反映したものだった(そしてサウジアラビアは、ジョー・バイデン米大統領に対する影響力を高めようとしていた)。

もう1つの習近平派プロジェクトである、グローバル文明イニシアティヴ (GCI)は、「文明の多様性(diversity of civilizations)」の尊重を反映した対話を呼びかけており、言論の自由、表現の自由、民主政治体制といった普遍的価値観に関する、アメリカの概念の正当性を拒絶することを目的としているようだ。理解を深めるために対話をする。繰り返しになるが、グローバルサウスの国々がこれに同意することにはリスクはないが、ほとんど意味はない。

3番目の計画であるグローバル開発イニシアティヴ GDI)は、中国政府の取り組みの中で最も深刻であり、おそらく最も正当なものである。概念的には、これは本質的に、貧困緩和、食糧安全保障、グリーン開発、気候変動対策などの国連の持続可能な開発のための「2030アジェンダ」を再パッケージ化したものである。一帯一路構想は、中国が産業の過剰生産能力を輸出する傾向を制度化した。150カ国が参加する中国の大規模な一帯一路インフラ・プロジェクト(グローバルサウスでは少なくとも90のプロジェクト)と、ある程度の独自の開発経験を考慮すると、中国にはある程度の信用がある。2022年以来、中国政府はグローバル開発イニシアティヴ目標を追求する「南・南協力(South-South cooperation)」に関する一連の会議を開催している。

しかし、中国の金融危機と発展途上国の債務が増大するにつれて(中国は発展途上国の債務総額の約37%を保有している)、一帯一路の融資は90%以上減少し、規模を縮小した一帯一路は、IT接続とグリーンテクノロジーに重点を置いている。しかし、現在の一帯一路融資の58%は中国の債務者に対する救済融資の形となっている。世界最大の二国間債権者であるにもかかわらず、中国は発展途上国の債務再編に関して、G7を中心とするパリクラブ(Paris ClubClub de Paris)に参加しておらず、G20共通枠組みに関与しているにもかかわらず、協力することはたまにしかない。むしろ、中国政府は債務者に対して二国間的に行動し、他の債権者の債務救済の取り組みをしばしば妨害してきた。それにもかかわらず、債務危機を軽減するためにIMFや世界銀行のリソースを改革して拡大したり、グローバルサウスに同等のインフラを提供したりしていないアメリカとG7にとっての問題は、何も持たずに何かを打ち負かすことはできないということだ。

一帯一路と、米ドルに象徴されるアメリカ・G7の優位性に対する憤りが、BRICSの推進力となっている。他の全ての加盟国を合わせたよりも経済規模が大きい中国は、拡大するBRICSを中国中心のネットワークとして、ブレトンウッズ体制とは言わないまでも競争相手として構想している。多くの加盟国は、G7に対抗する新たな多極性を実証するためのプラットフォームとして捉えているが、驚くほど異なる議題を持っている。例えば、インドとブラジルには、グローバルサウスの代弁者になるという独自の野望があり、それは習国家主席が初めて欠席した昨年のニューデリーでのG20会議で明らかだった。ニューデリーは中国政府を支援することにほぼ関心を持っていない。

新たな金融秩序と脱ドル化(de-dollarization)に対する期待に関して言えば、BRICS新開発銀行(BRICS New Development Bank)は取るに足らない存在である(small beer)。脱ドル化の目標にもかかわらず、330億ドルのプロジェクト融資の約3分の2は、米ドルで行われている。同グループの新規メンバーの一部(エジプト、エチオピア)は債務不履行(debt defaults)の有力候補となっている。人民元や他の現地通貨との通貨スワップ(currency swap)は、新たな世界金融危機の際にある程度の断熱効果をもたらす可能性があるが、中国が通貨管理を維持する限り、ドルに取って代わることは遠い夢にとどまるだろう。

まとめると、BRICS の人気は、アメリカ・G7の内向性と経済ナショナリズム(inwardness and economic nationalism)は、に正比例して高まっている。BRICSの人気は、グローバルサウスから西側諸国に対しての、代替案というよりは、頭痛の種として見られている。発展途上国の多くは、BRICSが低コストで、ある程度の利益をもたらす可能性があり、加えて、アメリカに対して、もっと自分たちに注意を払うよう信号を送る梃子(てこ)としても同様に重要であると考えている。

第二次世界大戦後に、アメリカが設計したブレトンウッズ経済・政治システムは、アメリカの安全保障の傘と比較的開かれた市場へのアクセスによって促進され、当初は主にヨーロッパと日本に限定されていたものの、前例のない成長と安定を促進する秘密のソースとなった。しかしソ連崩壊後、その恩恵は世界中に広がり、ブラジル、中国、インドなどで数億人が貧困から救い出され、世界規模の中流階級(global middle class)が育成された。

アメリカが主導する自由主義秩序は、アメリカの世界的優位性を強化したが、全ての参加者(他ならぬ中国)に利益をもたらし、合意に基づくものであり、アメリカの力を正当化するのに役立った。しかし、2008年の金融危機と現在高まっている、アメリカの経済ナショナリズム、そしてイラク戦争からガザ危機に至る出来事により、西側諸国とグローバルサウスの信頼性の格差(credibility gap)は拡大し、その正統性の感覚は失われつつある。

中国は、安全保障や核の傘(nuclear umbrella)をほとんど提供しておらず、外交的な問題解決にはあまり役立たない。中国政府による公共財の提供は、アメリカの戦略を参考にしている。しかし、発展途上諸国の中国に対する負債、貿易ルールの欠如、経済的強制、あまり開かれていない市場などの理由から、経済的な代替案は実行可能ではない。これまでのところ、中国政府が着手しつつある取り組みは、中国中心の秩序における平和と繁栄を約束する体制には至っていない。

更に言えば、中国は偽善(hypocrisy)においてアメリカに匹敵し始めている。このことは、世界貿易機関(WTO)の制度を利用したゲームから、経済的強制や保護主義、そして疑わしく信用できない主権主張に基づくヒマラヤ山脈から東シナ海や南シナ海に至るまでの軍事的主張に至るまで、その公言する原則、姿勢、そして実際の行動との間のギャップに明らかになりつつある。

新秩序の構築に関して言えば、中国には、第二次世界大戦以来、アメリカの支配力を支えたようなソフトパワーや文化、開放性、機会といった魅力がない。米中間に緊張があるにもかかわらず、毎年約30万人の中国人学生がアメリカに留学しているが、中国に残っているアメリカ人学生はわずか350人に過ぎない。他のアジア諸国とは異なり、中国にはボリウッド、K-POP、韓国映画、ポケモンや近藤麻理恵のような日本のポップカルチャーに相当するものはまだ存在しない。検閲が強化され続けている文化は、世界に広がる可能性が存在しないことを意味する。

中国は、せいぜい、未熟な大国であるように見え、その願望は、その把握力や魅力をはるかに超えている。中国政府が目指す、ポスト・アメリカ秩序(post-U.S. order)は正統性の欠如に直面している。世界がIMFの呼ぶところの「地経学的分断(geoeconomic fragmentation)」に耐えている中、米中競争でどちらの国がどのようにして「勝つ(wins)」のかは明らかではない。

※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「有志連合(coalitions of the willing)」という言葉を聞くようになって久しい。このことを別名では「ミニラテラリズム(minilateralism)」とも言う。この言葉は比較的新しい言葉だ。一極主義(unilateralism)、二極主義(bilateralism)、多極主義(multilateralism)と似たような言葉があるが、二極主義と多極主義の間に入るのがミニラテラリズムだ。ミニラテラリズムは、簡単に言えば、3から6の国が集まって枠組みを作って、世界で起きる様々な問題に対処するということだ。アメリカのジョー・バイデン政権はこうしたミニラテラリズムに基づいた数カ国からなる有志連合を外交政策の中心に据えている。それは、国連は既に機能不全に陥っており、国際問題への効果的な対処が難しい状況になっているからだ。そして、これは、戦後の世界構造が変化しつつあることも関係している。
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 国連において最重要期間は国連安全保障理事会(国連安保理)である。その中でも、安保理常任理事国5カ国、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアが意思決定において優越的な地位を占めている。これらの国々には拒否権(veto)が認められている。国際連合(the United Nations)は、第二次世界体制の戦勝側である、連合国(the United NationsAllies)が国連なのである。戦時中の下のポスターを見て欲しい。ここには「The United Nations Fight for Freedom(連合国は自由のために戦う)」と書かれている。国連とは、第二次世界大戦の戦勝側が優越的な地位を占めるための国際的な枠組みなのである。そして、戦争で大きな犠牲を払った主要諸大国(powers)が世界の方向を決めるという仕組みになっている。
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 しかし、米ソ対立から冷戦が始まり、国連は協調の場ではなく、米ソ対立を基にした争いの場になってきた。そして、現在は、米英仏対中露、西側諸国対それ以外の国々、ザ・ウエスト(the West)対ザ・レスト(the Rest)の争いの場に変容しつつある。

 国連では何も決められない。問題にも対処できない。アメリカの国力がダ充実していたころは、一極的な行動もできたが、今はそれも難しい。だから、「ある程度お金や力を持っている気の合う仲間」を誘い合わせて、有志連合を形成する方向に進んでいる。パートナーは、西側の仲間内で見つけるということになる。各地域で有志連合を作り、それを重層的なネットワーク化しようとしている。こうした動きはザ・レスト側にもあり、その基本がブリックス(BRICS)ということになる。戦後世界構造の変化の中で、国際的な枠組みにも変化が起きている。

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バイデンの「有志連合」外交ドクトリン(Biden’s ‘Coalitions of the Willing’ Foreign-Policy Doctrine

-アメリカ外交の最新の動きは、大統領がいかに「ミニラテラリズム(minilateralism)」を重視しているかを示している。

ロビー・グラマー筆

2024年4月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/11/biden-minilateralism-foreign-policy-doctrine-japan-philippines-aukus-quad/

foreignpolicyaukusleaders001 

2023年3月13日、オーカス(AUKUS)の三カ国首脳会談の後の記者会見でのオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、ジョー・バイデン米大統領、リシ・スナク英首相

ジョー・バイデン米大統領が今週、ワシントンで日本とフィリピンの両国首脳を招き、史上初の3カ国首脳会議を開催する一方で、バイデン政権のアントニー・ブリンケン米国務長官は来週、イタリアで開催されるG7外相会議の準備を進めている。何千キロも離れており、議題も大きく異なっているにもかかわらず、この2つの会議はいずれもバイデン外交のドクトリンの特徴となっているミニラテラリズム(minilateralism)の一環である。

ミニラテリズムとは、本誌フォーリン・ポリシーの複数の記事で最初に広まった、奇妙な用語で、国連や世界貿易機関(WTO)のような大規模で動きの遅い伝統的な多国間機関ではなく、共通の利益を持つ、より小規模でよりターゲットを絞った国々のグループが関与する国際協力の一形態を指す。および。これはまさにバイデン政権が追求してきたアプローチであり、冷戦後の世界秩序がいかに崩壊しつつあるかを示すこれまでで最も明らかな兆候を表している。

この戦略は、民主党の外交政策の伝統的な理念からの大幅な転換を示している。バラク・オバマ政権時代、ワシントンは国連システムや他の主要な多国間ブロック(multilateral blocs)を通じて主要な外交政策の取り組みを推進することに重点を置いていた。2011年のNATOによるリビアへの介入については、最初は国連安全保障理事会のゴーサインを得ようと努力したし、バラク・オバマ大統領の気候変動への取り組みについても、主要な国連内部の会議を通して行おうとした。

その代わりに、バイデン・ティームは、主要な危機に関する特定の政策課題を推進するために、より小規模で目的に合った「有志連合」(smaller, fit-for-purpose “coalitions of the willing”)にますます頼るようになっている。

ヨーロッパでは、G7を利用してウクライナ戦争に対するロシアへの徹底的な経済制裁を実施し、ウクライナへの軍事援助を数十カ国間で調整するための暫定的な新組織、いわゆるラムシュタイン・グループ(Ramstein group、訳者註:ウクライナ防衛のための40カ国以上が参加した国際会議)を設立した。アジアでは、中国の台頭を食い止めようと、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)、AUKUS、そして日本とフィリピンとの三国間イニシアティヴ(今週首脳会談が実施された)など、重複する小さなグループのパッチワークをバイデン政権は採用している。

新アメリカ安全保障センター上級研究員リサ・カーティスは、「このような3、4カ国によるミニラテラルな会合(minilateral meetings)は、安全保障関係の緩やかなネットワーク(a loose network of security relationships)を発展させるというバイデン政権の戦略の特徴となっている」と述べている。

カーティスは、バイデンが2期目を勝ち取るかどうかにかかわらず、ミニラテラリズムのアプローチはバイデン政権が終わってからも、より長続きする可能性が高いと述べた。インド太平洋に関するバイデンとトランプのドクトリンは、驚くほどよく似ていると指摘している。加えて、中国に対抗するためのAUKUSのような構想は、ワシントンの政治的スペクトルを超えて広く普及しており、ドナルド・トランプの共和党にしても、国連と政界貿易機関(WTO)のシステムに深い懐疑的な見方をしている。

この戦略が功を奏しているかどうかはまだ明らかになっていない。バイデン政権は、インド太平洋地域でこうした外交的イニシアティヴの「格子細工(latticework)」と呼ばれるものを立ち上げ、一定の勝利を収めたが、それらが実際に中国を地政学的に制限できるかどうかはまだ分からない。

しかし、ワシントンが注意深くなければ、こうしたミニラテラルな取り組みも暗礁に乗り上げる可能性がある。「ASEANウォンク・ニュースレター」の発行人であるラシャンス・パラメスワランは次のように述べている。「もし将来の米政権が、気候や経済といった分野での各国のニーズも認識した、より包括的なアジェンダを維持するのではなく、アメリカ主導のミニラテラリズムの焦点を中国への対抗だけに絞った場合、アメリカは北京に対して僅かな勝利を得ることはできても、この地域の多くを失うリスクがある」。

パラメスワランは続けて次のように述べている。「ミニラテラルに参加する国々は、物事を成し遂げるために、より柔軟な連合を構築する。しかし、ミニラテラルは、二国間(bilateral)、もしくは多国間(multilateral)での関与を調整したときにこそ最も効果を発揮するため、既存の制度を弱体化させる一連の排他的なクラブのようには見えない。中国はじしんが発するメッセージの一部を使って、ミニラテラルを厄介者のように印象付けようとしている」。

いずれにせよ、バイデン政権の内部関係者たちによれば、新しいミニラテラリズム(minilateralism)のアプローチは、アメリカが何十年にもわたって築き上げ、維持してきた第二次世界大戦後の国際システムが、もはや目的にそぐわなくなっていることを端的に反映したものだという。

あるバイデン政権幹部は匿名上条件に、次のように率直に意見を述べた。「私たちが80年間構築し、依存してきた多国間秩序(multilateral order)は、あまりにも時代遅れ(old-timey)で扱いにくくなっている(unwieldy)。国連やその他の大きな機関における絶え間ない行き詰まりに対する回避策を見つけなければならない」。

新しい方策のために、バイデン政権は熱狂的なペースで取り組んでいる。政権の高官たちとこの問題に詳しい複数の外交官たちによれば、バイデンは来週イタリアで開かれるG7外相会議に続いて、6月にイタリアで開かれるG7サミットと、今年後半にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力サミット(Asia-Pacific Economic Cooperation summit)に出席する予定だという。複数のバイデン政権関係者はまた、11月下旬か12月上旬にニューデリーで開催される日米豪印戦略対話首脳会議(Quad Summit)のためのインド訪問の可能性も視野に入れ、その下準備を進めている。この計画はバイデンが再選されるかどうかにかかっている。

この言葉は比較的新しいかもしれないが、国連のような組織における外交的膠着状態を回避する方法としてのミニラテラリズムという考え方は、決して新しいものではない。たとえばG7はもともと、1973年の石油危機をきっかけにして、フランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカの主要先進工業国が、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)の厳格なシステムの枠外で、主要な金融問題に取り組むためのフォーラムとして1970年代初頭に設立された。後にイタリアとカナダが加盟し、ヨーロッパ連合(EU)も「数に挙げられていないメンバー(non-enumerated member)」として加わった。

しかし、近年ワシントンの一部では、ロシアのウクライナ紛争をめぐる行き詰まり、ミャンマー紛争への対応の失敗、国際機関における中国の影響力拡大に対する不信感、スーダンが内戦に突入した際の不手際など、注目される国際機関の失敗や失策が後を絶たないため、ミニラテラリズムはさらに魅力的なものとなっている。こうしたことから、民主党内の伝統的な制度の熱心な支持者でさえ、解決策を他に求めるようになっている。

経済面では、アメリカはG7レヴェルにおいて、対ロシア制裁を調整することを選択した。ウクライナ戦争の主要な侵略者が常任理事国(permanent member)であり、拒否権(veto)を持つ国連安全保障理事会(U.N. Security Council)では、そのような努力は効果を上げないと予測していたからだ。バイデン政権はまた、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)などの機関ではなく、G7という場を利用して世界的な法人税制の見直しを行い、中国の「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)に対抗して、国際インフラ投資プログラム(international infrastructure investment program)を立ち上げて注目を集めた

インターナショナル・クライシス・グループの国連担当部長のリチャード・ゴーワンは、「ホワイトハウスは世界をよく観察し、多くの制度が綻びを見せているのを見て、かなり重要な問題に関して国連から望むものを引き出すのは非常に難しいと見ている」と述べている。

現在世界で最も大きな地政学的引火点の2つ、ウクライナ戦争とインド太平洋の緊張には、いずれも国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアと中国が関与しており、それらの緊張に対処するための国連の取り組みを阻止するために、中露両国は拒否権を行使することに何の躊躇もしない。(つい先月、ロシアは、ウクライナ戦争を支援するための武器供与と引き換えに北朝鮮との関係を強化する中、成立すると広く考えられていた対北朝鮮制裁を監視する15年間の計画を頓挫させた。)

アメリカはまた、世界で3番目に大きな地政学的火種であるイスラエルとハマスの戦争に対処する努力において、国連から距離を置いている。先月、ようやく1つの決議が可決されたが、アメリカが棄権したため、緊密なパートナーであるイスラエルは怒ったが、イスラエルの戦争戦略に全く変更は行われなかった。

2022年の歴史的な国連総会の投票では、世界の圧倒的多数がロシアのウクライナ侵攻を非難したが、それまでと同様にモスクワの戦争に関する計算を変えさせることはできなかった。

そして今週、アメリカがイランによるイスラエル攻撃の可能性に警告を発した時、アントニー・ブリンケン米国務長官は、イランが常設の外交拠点を持つ国連にその懸念を持ち込まず、むしろ従来のシステムを回避してトルコ、中国、サウジアラビアの外相に電話をかけ、緊張緩和のためにテヘランに水面下で働きかけを行うように促した。

インド、南アフリカ、ブラジルなどの中堅・新興大国(middle and rising powers)は、国連安全保障理事会は時代遅れであり、いわゆるグローバル・サウス(global south)が国際問題で果たす役割の高まりを反映していないと主張しているが、制度改革の努力は全てが失敗に終わっている。

表向きは大国(列強)間競争(great-power competition)に関与していない問題、たとえばハイチの安全保障危機やエチオピアとスーダンの戦争でさえ、バイデン政権は国連に可能な役割は存在しないと見ている。2021年にバイデン政権の国連大使に就任したリンダ・トーマス=グリーンフィールドは、エチオピア北部ティグライ地方での致命的な戦争に安保理が正式に対処するよう強く働きかけた。しかし、この危機に関する公開会合が開かれるまでに数カ月が必要だった。

前述のゴーワンは、このため、当初はバイデン政権がトランプ政権後の世界機構に大きな再投資を行うことを期待していた国連外交官たちは、バイデン政権のミニラテラリズムへの軸足移動(Biden’s pivot to minilateralism)に失望することになった、と主張している。

ゴーワンは次のように述べている。「バイデン政権は、大多数の国にウクライナの主権に対するリップサービスを求めたいときには国連は役に立つが、実際に何かを成し遂げたいときには、別の場所に行く方が賢明だと考えている。国連では、『トランプの嵐を乗り切って、バイデンが晴れをもたらしてくれると思ったのに、代わりに霧雨が降ってきた』という感覚があるようだ」。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界は大きく「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西峩々以外の国々)」に分裂していく、構造変化が起きています。そのことを詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「デカップリング(decoupling)」「脱ドル化(de-dollarization)」という言葉を聞くようになった。特に昨年、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の総会で、「BRICS通貨の創設が発表されるのではないか」という予測が出て、ドルに代わる世界通貨になるかもしれないということで、話題になった。結局、インドの反対もあり、今回は見送りとなったが、ドルが世界の基軸通貨(key currency)の地位を失う可能性が取り沙汰されるきっかけとなった。このことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも取り上げた。脱ドル化、デカップリングとは、西側世界への経済的な依存を減らすことである。その先頭を走っているのは中国である。下の論稿には、中国が行ってきたデカップリングと脱リスク化について、脱ドル化、技術依存度(technological dependence)を下げる努力、国内の金融部門に外国が関与することを制限することが挙げられている。これらは、20世紀末から西側諸国を中心に進められてきた、グローバライゼーション(Globalization)に逆行する動きであるが、グローバライゼーションに対する逆行こそが、国家を救う道である。

 現在の日本を見てみると、自国通貨である円の価値の低下によって、諸外国から見て、「なんでも安い国」となった。しかも高品質というおまけがつくので、「なんともおいしい」区になっている。現在、バブルを超える勢いで、株式市場が上昇を見せているが、これは、外国からの投資が増大し、それに国内の資金が流れているということである。外国からの資金はいつか日本株を打って出ていく。株高に誘惑されて株式を買ったり、NISA投資をしたりしている日本の人々には損がかぶせられる。そうして国力が奪われていき、日本の衰退は加速していく。グローバライゼーションで利益を得るのは国境を軽々と超えるエリートたちや資産家たちだけである。日本は30年以上、グローバライゼーションによって国力を毀損させられてきた。

 世界の構造が大きく変化しようとしている時期になっている。グローバライゼーションと世界構造の大変化に備えるためにも、デカップリングと脱ドル化を真剣に検討し、議論するべき時だ。しかし、既にアメリカ国債を買いまくり、外貨準備もドルに偏重している日本はこのようなことはできないかもしれない。アメリカと一緒に心中をするしかないということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

西側諸国がデカップリングを発明したのではない-中国が発明したのだ(The West Did Not Invent Decoupling—China Did

-北京は長い間、経済を西側諸国から切り離すことで自由裁量(free hand)を手にしようとしてきた。

アガーテ・デマライス筆

2024年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/01/china-decoupling-derisking-technology-sanctions-trade-us-eu-west/

クレムリン・ウォッチャーたちの間で語り継がれている話がある。2014年のロシアによるクリミア侵攻と併合に対して、西側諸国が初めてロシアに制裁を課した直後、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は経済補佐官たちを呼び出した。彼の質問は単純だった。「ロシアの食料自給率はどのような状況なのか?」。補佐官たちはあまり良くないという答えが返ってきた。ロシアは国民に提供する食糧は輸入に頼っていた。プーティンは顔をあ納めさせて、制裁によってモスクワの主食へのアクセスが制限されることを恐れ、何とかするよう命じた。

2022年にロシアが本格的にウクライナに侵攻する時点にまでテープを早送りすると、プーティンはもはや食料の心配をする必要がなくなった。わずか8年で、ロシアは食糧をほぼ自給自足できるようになり、肉、魚、そして、まあまあの品質のチーズまで生産できるようになった。

ロシアが食糧自給を目指したのは、現在流行している経済的デカップリング[economic decoupling](最近では脱リスク[de-risking]と言い換えられている)をめぐる議論よりもずっと以前のことである。政治的言説(political discourse)が示唆するところとは逆に、西側諸国がこうした政策を考案したわけではない。ロシアの例が示すように、西側の民主政治体制国家と対立する国々は、潜在的な敵国から自らを守るために、長い間リスク回避政策(de-risking policy)を追求してきた。

ロシアに比べ、中国は技術、貿易、金融の面で西側諸国への経済的依存(economic reliance)を減らしてきた実績がある。デカップリング(decoupling)とデリスク(de-risking)の発明者であり、世界のリーダーでも存在がいるとすれば、それはどう見ても北京である。

近年、アメリカが中国へのハイテク輸出を次々と規制するずっと以前から、中国の指導者たちはテクノロジーを脱リスクの最初の柱としてきた。例えば、北京の半導体分野への最初の投資計画は、1980年代まで遡るが、当時の中国が基本的なチップを生産する域にも達していなかったことを考えると、その結果は成功と失敗が入り混じったものであったことは間違いない。

中国の計算はシンプルだ。テクノロジーは経済的・軍事的優位性のバックボーンである。したがって、北京にとって技術的な自給自足は、生き残り、繁栄するために必要不可欠なことなのだ。

中国の技術依存度(technological dependence)を下げる努力は過去10年間で推進された。ドナルド・トランプ前米大統領が中国との関係断絶を自慢し始める2年前の2015年、北京は半導体(semiconductors)、人工知能()artificial intelligence、クリーンテクノロジー(clean tech)などの主要技術分野で、自給自足を目指す「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」の青写真を発表した。

中国は技術的な自給自足を自国が生存し続けるための必須条件と考え、わずか数年で目覚ましい進歩を遂げた。多くのハイテク分野では、中国企業や研究者たちは揺るぎない世界的リーダーであるか(特にクリーン技術分野では、中国企業がソーラーパネル[solar panels]、風力タービン[wind turbines]、電気自動車[electric vehicles]の市場を独占している)、あるいは西側諸国の競合相手とほぼ肩を並べている(人工知能、量子コンピューター[quantum computing]、バイオテクノロジー[biotech]を含む)。

半導体は例外だ。マイクロチップに関して言えば、西側諸国の政策立案者たちは、中国は最先端チップ(cutting-edge chips)の生産において、アメリカ、台湾、韓国に大きく遅れをとっていると指摘し、自らを安心させたがっている。確かにその通りだが、北京はアメリカの輸出規制が危機感を煽ることを歓迎しているのかもしれない。

中国指導部はまた、輸出管理が容易に裏目に出る可能性があることを知っている。歴史が示しているように、長期的には、アメリカの一方的な輸出管理は、ほとんどの場合、輸出収入を制限することでアメリカ企業に損害を与え、その結果、最先端を維持するための研究開発に費やすことができる額も抑制されることになる。言い換えれば、中国政府は長期戦を繰り広げており、アメリカ政府の積極的な戦略が最終的には裏目に出て、西側諸国の技術への依存を減らすという中国の取り組みを更に支援することを期待しているのだ。

金融分野は、北京のリスク回避戦略の2本目の柱であり、長い歴史を持つ。この分野でも、西側諸国経済との関係を断ち切ろうとする中国の努力は、北京からのリスクを取り除くというアメリカとヨーロッパの計画に先行していた。最も明白な例は、北京が国内の金融部門に外国が大きく関与することを認めてこなかったことだ。中国の金融市場は閉鎖的で、外国人投資家は中国株の4%、中国国債の9%しか保有していない。中国独自の銀行システムは、国際金融からほぼ完全に遮断されており、中国人以外の投資家が中国の銀行資産の2%未満しか所有していない。また、国内外への資金移動を厳しく制限する資本規制は、いまだ解除されていない。

しかし、金融分野における北京のリスク回避努力は、外国人を遠ざけるだけではない。中国の指導者たちは不都合な真実に直面している。西側諸国の金融チャネルへの依存は、北京のアキレス腱になるかもしれない。西側諸国は世界の支配的な通貨を所有し、世界の全ての銀行を結ぶ世界的な決済システムであるSWIFTや、世界で最も重要な証券保管機関であるユーロクリア(Euroclear)など、グローバルな金融インフラへのアクセスを支配している。

西側諸国の金融支配が制裁を強力なものにしている。ドルやSWIFTへのアクセスを失うことは、ほとんどの銀行や企業にとって事実上の死刑宣告である。2012年に西側諸国がイランのSWIFTへのアクセスを遮断する決定を下した後、北京はその結果を目撃した。

金融制裁に対抗するための先制攻撃として、中国は3つの戦略を展開している。

第一に、人民元による国境を越えた決済の整備を進めている。世界貿易におけるドルとユーロの優位性を考えれば、その道のりは険しい。しかし、中国の脱ドル化計画(China’s de-dollarization plans)は進展している。人民元で決済される世界的な決済の割合は、2023年にはほぼ倍増し、約4%にまで達した。重要なのは、中国の対外貿易の3分の1が人民元建てになっていることで、中国企業は西側諸国の制裁からある程度身を守ることができる。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして最近加わった5カ国からなるBRICS圏の通貨の可能性が取り沙汰されているが、人民元がロシアと中国の貿易で最も使用されている通貨になったように、北京もBRICS諸国間の貿易で人民元が選択される通貨になることを望んでいる。

SWIFTに代わる中国の決済システムCIPSthe Cross-Border Interbank Payment System)は、北京の金融リスク軽減の2つ目の礎石となる。2015年に開始されたこの決済ネットワークは、SWIFTよりもはるかに規模が小さい。しかし、SWIFTは世界中のほとんどの銀行を接続している中で、SWIFTが中国の銀行を切断した場合のバックアップとなるだろう。最後に、中国はアラブ首長国連邦やタイなどともデジタル通貨を使った国境を越えた取引を試験的に行っている。中国のデジタル通貨がグローバルになる道のりはまだまだ遠い。しかし、優位性は重要ではないかもしれない。中国の目標は、保護手段として代替金融チャネルを持つことであり、そのためには運用が可能であることが必要なだけなのだ。

中国のリスク回避戦略の3つ目のそして最後の柱は、貿易および中国の投資先としての非友好国への依存を減らすことを伴う。その論拠は、2014年にプーティン大統領がロシアの食糧安全保障を懸念したときの論拠と似ている。紛争、感染症拡大、地政学的な緊張によって経済関係が阻害されたり、サプライチェインが混乱したりする可能性があるため、中国政府は貿易の流れをどこかの国に過度に依存することが弱点だと見なしている。中国のような輸出指向の経済にとって、重要な原材料の輸入や主要な輸出先として特定の国に過度に依存することは致命的となる可能性がある。

中国の貿易におけるリスク回避の努力は、ハイテクや金融のそれよりも最近のもので、2018年の最初の米中貿易戦争が起きた際に始まった。しかし、中国の税関が発表した最新の統計を見てみると、中国は最近、一見非友好的に見える西側諸国との関係を分散させるための明確な努力をもって、貿易のリスク回避を加速させている。

2023年の最初の11か月間で、中国のアメリカへの輸出は2022年の同時期と比較して8.5%減少し、ヨーロッパ連合(EU)への輸出は5.8%減少した。一方、インド、ロシア、タイ、ラテンアメリカ、アフリカを含むほとんどの新興市場への中国の輸出は増加した。西側経済への貿易依存度を減らす中国の努力は功を奏しており、2023年には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国向けの輸出が、アメリカやEUを抑え、中国の最大の輸出先となった。

中国のリスク回避努力は投資分野にも及んでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所のデータによると、2014年までの10年間、G7諸国とオーストラリア、ニュージーランドは、「一帯一路」構想の資金を除いた中国の対外投資フローの半分近くを吸収していた。2022年までに、この割合はわずか15%にまで低下し、インドネシア、サウジアラビア、ブラジルなどの新興諸国が中国からの直接投資の最大の流入を引き寄せている。

中国の他の取り組みと同様、新興国市場への投資促進も、西側諸国のリスク回避策が発明される以前から行われていた。この変化は2017年のデータで顕著になったが、投資プロジェクトは通常、実現までに数年かかるため、開始はもっと早かったと考えられる。

これらのことから、中国のリスク回避の動きは、アメリカやヨーロッパの取り組みよりもはるかに古く、広範囲に及んでいることが分かる。しかし、中国自身のリスク回避戦略に関する議論は、西側諸国の議論の中ではかなり少ない。

これは重大な欠陥である。北京から見ると、中国への依存を減らそうとする西側諸国の圧力は、アメリカの最先端技術への依存から技術的自給自足の優先、西側の銀行チャネルよりも自国の金融インフラへの依存、西側経済よりも新興市場の優先という、中国の長年確立された計画を加速させるもう1つの理由となる。北京の長期にわたる組織的なアメリカやヨーロッパからの離脱は、中国の経済政策の顕著な特徴であり、それは大きな影響を持つ。

リスク回避は双方向である。協力と平和を導く、経済的相互依存(economic interdependence)という考えは、ロシアのウクライナ侵攻で崩れ去ったと主張する人々もいるが、経済的結びつきはアメリカとヨーロッパに対して、北京への大きな影響力を与えている。しかし、現在進行中の中国と西側諸国との関係を断ち切るプロセスは、西側諸国の制裁脅威の抑止効果を弱めることは避けられず、世界、特に台湾海峡をより危険なものとするだろう。

これはまさに中国の戦略であり、そもそも中国が自給自足を目指す基底には、台湾併合という野望がある。アメリカやヨーロッパがリスク回避を発明したのではなく、中国が発明したのである。そして中国は、この分野で最も熟練した実践者のようである。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais
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 古村治彦です。

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アメリカから構成されるブリックス(BRICS)という国際グループは、2001年にその概念が提出されたものだ。その後、21世紀を通じて、具体的な国際グループとして存在感を増してきた。先日、ブリックスの首脳会談が南アフリカで開催され、新たに6カ国がブリックスに参加することが認められた。その6カ国とは、イラン、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピア、アルゼンチンである。地図で見ていただくと分かるが、ペルシア湾と紅海(スエズ運河)、アラビア海、南大西洋、喜望峰、マゼラン海峡をがっちり抑えている。このブログでは、中国がアフリカ西部各国の港湾に投資を行っていることを既にご紹介した。中国の資源確保のための航路づくり、中国の大航海時代の始まりということになる。
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 今回参加を認められた6カ国以外にも加盟申請を行っている国々もあるようだ。これらの国々はブリックスだけにとどまらず、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)、一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)にも参加している。様々な国際機関、国際機構に重層的に参加することで、非西側・非欧米諸国の関係が深まり、強固になっていく。今回。ブリックス通貨(BRICS currency)の導入は行われなかったが、脱ドル化(dedollarization)の流れは変わらない。非欧米諸国は金を購入しており、新たに金本位制を導入するかもしれない。アメリカという国家の「信用(脅し)」で持っているドルの価値が揺らいでいくことになるだろう。
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 中国が今年に入ってイランとサウジアラビアの国交正常化を仲介したというニューズがあった。今回のブリックス拡大に向けた動きであることが明らかになった。ヨーロッパと北米を南半球から、グローバル・サウス(Global South)が圧迫していくという構図が出来上がりつつある。

(貼り付けはじめ)

イラン、サウジアラビア、エジプトが新興国グループに参加(Iran, Saudi Arabia and Egypt Join Emerging Nations Group

-アルゼンチン、エチオピア、アラブ首長国連邦もブリックス(BRICS)に招待され、欧米主導のフォーラムに代わるグループとしての役割が強化された。

スティーヴン・エルランガー、デイヴィッド・ピアーソン、リンゼイ・チャテル筆

2023年8月24日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2023/08/24/world/europe/brics-expansion-xi-lula.html

今回の拡大は、グループの主要メンバー2カ国にとって重要な勝利と見なされている。中国の政治的影響力が増大し、ロシアの孤立を軽減するのに役立っている。しかし、ロシアと中国は、両国が利益を促進していると主張している、国々の経済を損なう可能性のある経済的な逆風に直面している。

中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカに加え、サウジアラビアを筆頭とする中東の3カ国と、ロシアのウクライナ侵攻を強固に支持する反米色の強いイランが参加した。

開催国である南アフリカは、テヘランと長年にわたって関係があり、イランの加盟を支持したが、インドやブラジルのような、いわゆる「グローバル・サウス(Global South)」のリーダーであり、ワシントンと北京の間で行動の自由を守りたい国にとっては、厄介な結果となった。

今回の決定は、現在のグローバルな金融・統治システムを、よりオープンで多様性に富み、制限の少ない、そしてアメリカの政治やドルの力に左右されにくいものに作り変えたいという願望を除いては、多種多様な(heterogenous)、明確な政治的一貫性をもたないこのグループの奇妙な性質を浮き彫りにした。

11カ国を合わせた人口は約37億人だが、5つの民主政体国家(democracies)、3つの権威主義国家(authoritarian states)、2つの独裁的君主制国家(autocratic monarchies)、1つの神政国家(theocracy)で構成されており、なかでもサウジアラビアとイランは数ヶ月前まで宿敵(sworn enemies)だった。

グループを支配し拡大を急ぐ中国を除けば、彼らの経済的影響力は比較的小さい。サウジアラビアとアラブ首長国連邦の参加は、特にブリックス・グループが独自の小規模な開発銀行(development bank)の規模と影響力を拡大しようとしているため、財政的により大きな重みをもたらすことになる。

エジプト、エチオピア、イランが加わったことで、北京はロシアとの「無制限のパートナーシップ(no-limits partnership)」や主権国家ウクライナへの侵攻を黙認したことで、先進諸国の多くの国々を遠ざけてきたにもかかわらず、そのアジェンダへの支持が高まっていることを示そうとしている。

「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト」のコブス・ファン・スタデン研究員は、「イランは明らかに複雑な選択だ。他の加盟国の中には、欧米諸国との地政学的な緊張を高めるのではないかと懸念している国もあるだろうと想像できる」と述べている。

中国の習近平国家主席は木曜日、「今回の加盟国拡大は歴史的なものだ」と宣言し、「ブリックス諸国が、より広い発展途上国のために団結と協力を目指す決意を示した」と付け加えた。

それでも、中国にとって成功の様相を呈したことは、首脳会談から得られる最も重要な収穫となるかもしれない。さもなければ、米ドルの覇権(hegemony of the U.S. dollar)に匹敵するブリックス通貨(BRICS currency)を確立するという長年の目標を達成できなかったからだ。ブリックス・グループは代わりに、貿易に現地通貨を使用することをメンバーに奨励した。

ブリックス・ブロックの限界のもう1つの象徴は、ロシアのウラジーミル・V・プーティン大統領の欠席だった。プーティン大統領は、西側主導の国際機関である国際刑事裁判所(International Criminal Court)の発行した令状に基づき、ウクライナでの戦争犯罪で指名手配されているため出席できなかった。南アフリカは国際刑事裁判所の決定を無視したくないと考えた。

加えて、今週は、ロシアの傭兵部隊(mercurial mercenary)のリーダーであるエフゲニー・V・プリゴジンが、アメリカや他の西側当局の発表によれば、プライヴェートジェット機内で爆発に巻き込まれ、墜落死したことが明らかになり、クレムリンのイメージは更に悪化した。

今週のサミットで導入された変更が、各国が期待しているような影響を与えるかどうかはまだ分からない。2001年にBRICsという言葉を作った元ゴールドマン・サックスのエコノミストであるジム・オニールは、歴史的な記録は安心できるものではないと言う。

オニールは、BRICs首脳会議は「象徴的なものでしかない」と語り、「BRICs首脳会議が何かを成し遂げたとは私には思えない」と付け加えた。

そして、首脳会議からしばしば発せられる高尚な美辞麗句(lofty rhetoric)は、今後数年間にBRICsメンバーに重くのしかかるであろう重大な問題を隠蔽している。

アジア・ソサエティ政策研究所の中国専門家フィリップ・ル・コレは、「不動産スキャンダル、原因不明の外交部長更迭、中国人民解放軍の将軍の突然の解任など、中国経済が低迷するなか、習近平は自国に誇示するための政治的勝利を必要としていた」と指摘する。

しかし、特に中国とロシアの経済については、挫折が積み重なっているようだ。

ピーターソン国際経済研究所のエコノミスト、ジェイコブ・ファンク・キルケゴールは次のように述べている。「中国が主要な経済的比重(main economic weight)と貿易上の優位性(trading advantages)を提供しているため、ブリックスは常に中国プラス4である。しかし、中国経済は深刻な危機に陥っている。中国経済の不振は中国への一次産品輸出に依存しているブラジルや南アフリカなどの国にとっても困難をもたらす」。

キルケゴールは「ロシア経済自体が制裁の重みで崩壊しつつあり、他のブリックス諸国はロシアを搾取し、安い石油を買いあさり、石油精製品をヨーロッパに送っている」と述べた。

厳重に管理された会議では、表向きは結束をアピールしていたものの、ブリックスのメンバーたちは、経済拡大に関して対立する見解を持ち寄っていた。中国は、ブリックスがアメリカのパワーに対抗するためのプラットフォームであると考え、急速な拡大を推し進めた。しかし、何人かの首脳は、冷戦時代を彷彿とさせるような分裂的な世界秩序への回帰を警告を発し、反発した。

ブリックス諸国は西側の覇権(Western hegemony)に対抗して結束を固めたとはいえ、その目標は依然としてバラバラだ。インドのタクシャシラ研究所中国アナリストであるマノジ・ケワラマーニは、「ブリックスは、様々な利害関係を持つ新たなアクターたちによって、未知の道を進んでいる。ブリックスは扱いにくくなり、あえて言えば、より非効率になるだろう」と述べている。

ブリックス関係者の中には、これに同意しない人たちもいた。

ブリックス交渉の南アフリカ代表であるアニル・スークラルは、西側が支配している各機関の構造は時代とともに変化する必要があると述べた。スークラルは「ブリックスが言っているのは、『もっと包括的になろう(Let’s be more inclusive)』ということだ。BRICSは反西洋ではない」と発言した。

対照的に、キルケゴールは、この組織が拡大しても、致命的に多様であり、「反西洋感情によって何とかまとめられた人為的な創造物」に過ぎないと見ている。

サウジアラビアと並ぶイランの加盟は、ロシアの侵攻軍への供給におけるテヘランの重要な役割と、リヤドのアメリカとの長期的な安全保障同盟を考えれば、おそらく最大の驚きとなった。

サウジアラビアはいまだに兵器のほとんどをアメリカから調達しており、複数のアナリストによれば、アメリカの安全保障の傘をすぐに放棄する意図はないという。しかし、サウジアラビア当局者たちは、ワシントンが本当に中東に関与しているのかについて懐疑的であり、今年初めに北京でテヘランとの和解を交渉し、中国の外交的地位を高めた。

テヘランは決してワシントンのファンではない。そして、北京とは意外にも親密になっている。北京は、国際的な制裁を無視して、大幅に値引きされた石油を購入することで、テヘランを浮揚させる手助けをしてきた。

木曜日、イランの政治担当副大統領であるモハマド・ジャムシディは、イランのブリックス加盟を「歴史的な偉業と戦略的勝利(historic achievement and a strategic victory)」と呼んだ。イランの加盟は、一種の世界的な門番としてワシントンがテヘランに対して持っていた影響力を弱めるものでもある、と「クインシー・インスティテュート・フォー・レスポンシブル・ステートクラフト」のトリタ・パルシは述べた。

デリーに本拠を置くオブザーヴァー・リサーチ財団の副理事長で、キングス・カレッジ・ロンドンのインド研究所で国際関係論を教えるハーシュ・V・パント教授は、インドは重大な懸念を抱きながらも、悪役を演じたくなかったため、この拡大に協力した、と語った。更に、ニューデリーは「このプラットフォームの性質が、地理経済的(geoeconomic)なものから地政学的(geopolitical)なものへと変化する」ことに警戒を怠らないだろうと付け加えた。

木曜日、米国務省はイランの参加については触れず、代わりにホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が週明けに述べた、バイデン政権が「ブリックスがアメリカや他の国々に対する地政学的ライバルのような存在に進化するとは考えていない」という発言を紹介した。

アナリストの中には、ブリックスへの加盟に関心を示した数十カ国は、西側諸国への警鐘(wake-up call)になるはずだと述べた。

アジア・ソサエティ政策研究所中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマスは、「多くの発展途上国がブリックスへの加盟に熱意を示しているのは、中国の価値中立的なグローバリゼーションの魅力だけでなく、西側諸国がより包括的な国際秩序の構築に失敗していることを反映している」と指摘している。

ワシントンのエドワード・ウォン、ロンドンのイザベル・クワイ、ベルリンのポール・ソンヌ、ニューデリーのスハシニ・ラジがこの記事の作成に貢献した。

※スティーヴン・エルランガー:『ニューヨーク・タイムズ』紙外交担当特派員チーフ、ベルリンを拠点としている。以前はブリュッセル、ロンドン、パリ、イェルサレム、ベルリン、プラハ、ベルグラード、ワシントン、モスクワ、バンコクで取材活動を行った。

※デイヴィッド・ピアーソン:中国外交政策と中国経済と文化の世界とのかかわりを取材している。

※リンゼイ・チャテル:本紙ヨハネスブルク支局を拠点に南アフリカを取材している。本紙インターナショナル・モーニング・ニューズレターでアフリカについて記事を書いている。チャテルは『フォーリン・ポリシー・クアーツ』誌とAP通信に勤務していた。

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ブリックス(Brics)、新たに6カ国を加盟させ2倍以上に拡大(Brics to more than double with admission of six new countries

-ロシアと中国を含む経済圏の大規模な拡大がアメリカと西側の同盟諸国への対抗軸を提供しようとしている。

ジュリアン・ボーガー筆(ワシントン発)

2023年8月24日

『ガーディアン』紙

https://www.theguardian.com/business/2023/aug/24/five-brics-nations-announce-admission-of-six-new-countries-to-bloc

新興経済大国で構成されるブリックス・グループ(Brics group)は、6カ国の新メンバーの加盟を発表した。今回の拡大は、グローバルな世界秩序を再構築し、アメリカとその同盟諸国に対抗しようとしてのことだ。

来年初め、イラン、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアが、現在の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に加わることが、木曜日にヨハネスブルグで開催された首脳会談の席上で発表された。

中国の習近平国家主席は、この拡大について「歴史的」と表現した。習近平国家主席は、新メンバー加入の重要な推進者であり、ブリックスの拡大がグローバル・サウス(global south)が世界情勢でより強い発言力を持つための方法であると主張してきた。

しかし、この拡大が世界の舞台でブリックスの影響力をどの程度高めることになるのかは不明だ。アナリストたちは、影響力の拡大は、これらの国々がどこまで一致団結して行動できるかにかかっており、新メンバーの加入によって、強力な独裁国家と中所得国や発展途上の民主政治体制国家が混在する、よりバラバラのグループとなった。

「米州対話(Inter-American Dialogue)」でアジア・ラテンアメリカ・プログラムのディレクターを務めるマーガレット・マイヤーズは、「ブリックスの新メンバーが、このブロックに加盟することで何を得ることになるかはまったく明らかではない。少なくとも現時点では、この動きは何よりも象徴的なものであり、世界秩序の再調整に対するグローバル・サウスからの広範な支持を示すものだ」と述べた。

ウラジーミル・プーティンは、国際刑事裁判所(international criminal court)からウクライナでの戦争犯罪の逮捕状が出されている。プーティンは3日間のサミットに直接出席することはなかったが、ブリックスの拡大は、プーティンにとって象徴的な後押しとなる。現在、プーティン大統領は、アメリカが主導する、ロシア軍の撤退と先勝の終結を強いるための努力と企てに対して戦っている。

制裁を回避する方法を探していたイランを加盟させるという決定は、プーティンと習近平の勝利を意味し、グループに反欧米的、非民主的な色合いを与えることに貢献した。彼らは、グループを非同盟(non-aligned)として表現することを好む他のメンバーのより慎重なアプローチに勝った。

厳しい経済問題に直面しているアルゼンチンにとって、加盟は深刻化する危機から脱出するための生命線となりうる。アルベルト・フェルナンデス大統領は、アルゼンチンにとって今回の加盟はアルゼンチンにとっての「新しいシナリオ(new scenario)」となると述べた。

フェルナンデス大統領は「新市場への参加、既存市場の強化、投資の拡大、雇用の創出、輸入の増加の可能性が開ける」と語った。

エチオピアはグループ唯一の低所得国となった。アビイ・アーメド首相は、自国にとって「素晴らしい瞬間(great moment)」だと述べた。

10以上の国々が正式に加盟を申請しているが、加盟候補国が加盟するには、オリジナルの5カ国の間でコンセンサスを得る必要がある。

南アフリカ大統領のシリル・ラマフォサは、加盟諸国が「ブリックス拡大プロセスの指導原則、基準、手順」に合意したと述べた。しかし、これらの基準は説明されなかった。例えば、2億7400万人の人口を持ち、アジアで強力な力を持つインドネシアは、加盟を申請したが今回は認められなかった。

戦略国際問題研究センター(Centre for Strategic and International Studies)の米州プログラム責任者であるライアン・バーグは次のように述べている。「中国とロシアにとって、今回の拡大は勝利だ。中国にとっては、自分たちが望む北京中心の秩序を構築し続けることができる。来年、首脳会議を主催するロシアにとっては、孤立が深刻化している現在、これは大きなチャンスである」。

「ブラジルやインドの立場から見ると、たとえ美辞麗句を並べ立てたとしても、中国のような世界的な大国を含む組織の一員としての力を弱めてしまうため、その拡大にはあまり乗り気ではないだろう」とバーグは述べている。

既に中国と広範な二国間関係を結んでいる加盟諸国にとって、加盟による経済的利益がすぐに得られるとは思えない。ブリックス・グループの新開発銀行(New Development Bank)はまだ比較的小規模だ。しかし、マイヤーズは、この動きは象徴的なものではあるが、重要でないことを意味するものではないと述べた。

マイヤーズは次のように語っている。「これは重要なことであり、G7や他の北半球のグローバル・アクターたちが否定すべきではない。これらの新メンバー(特に主要産油国)が加わったことで、ブリックスの構成は、世界経済と世界人口に占める割合がはるかに大きくなった」。

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 古村治彦です。

 中国が「一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)」戦略に基づいて、世界各国に進出していることはよく知られている。日本でもよく報道されている。中国の東海岸からヨーロッパまでを陸上と海上でつなぐ、モンゴル帝国時代のユーラシアに訪れた「パクス・モンゴリカ(Pax Mongolica)」時代と大航海時代(Great Navigation)時代を彷彿とさせる大戦略だ。中国自体が外洋に出ていったのは、明時代の鄭和提督の大船団によるアフリカ遠征までだったが、中国はそれ以来の世界進出の時代を迎えている。
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 下記記事によると、中国は現在、「46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクト」を実行しており、その投資総額は「299億ドルに達する」ということだ。港湾の開発と管理(port authority)を行うことで、中国は物流で有利な立場に立つことができる。また、現在、中国人民解放軍海軍は、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、ジブチに海軍基地を設置している。これは「真珠の首飾り(String of Pearls)」戦略に基づいている。簡単に言えば、インドを包囲するという戦略だ。そして、インド洋でアメリカに対抗するための戦略である。この戦略については拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で取り上げている。

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中国の海外港湾プログラム
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「真珠の首飾り」戦略

 中国の海洋進出は更に継続していく。下記記事はそのように分析している。その対象となるのが西アフリカだ。私たちは太平洋からインド洋にかけての地域に目が向いている。従って、「それならばアフリカ大陸ならば東部に進出するのではないか」と考えてしまう。しかし、中国はアフリカ西部に進出する。そのために大規模な投資を行っている。そこには。中国の壮大な戦略が隠されている。
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中国の次の海洋戦略は、「南半球の資源大国を繋ぐ大航海時代の逆ヴァージョン」となると私は考える。以下の記事にある通り、中国はこれから西アフリカに重点を置くと見られている。何故、西アフリカなのかと言えば、それは、南アメリカ大陸とつながるためだ。「中国-東南アジアインド洋(スリランカ)-南アフリカ(喜望峰)-西アフリカ-南アメリカ(ブラジル)」というシーレーンを構築する。西側欧米諸国の影響を受けない、「独立した」シーレーンが完成する。ブリックス(BRICS、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち、南半球にあるブラジルと南アフリカという、南米とアフリカの地域大国でかつ資源大国である国々を中国とつなぐためのシーレーン、航路ということになる。ユーラシア大陸を貫く「一帯一路」が北半球の戦略ならば、こちらは南半球での戦略となる。このシーレーンはまた、「ブリックス通貨(BRICS currency)」の成功のために重要な役割を果たすことになるだろう。

 更に言えば、中国の西アフリカ・南米への進出、「中国の南大西洋戦略」は、アメリカが、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官が発表した「Pivot to Asia(アジアに軸足を移す)」、更には「インド太平洋戦略」という戦略に対抗するための中国の戦略でもある。アメリカが太平洋とインド洋で中国を「封じ込める」という戦略を推進している。それに対抗して、中国はアメリカの「裏庭(backyard)」である南米とつながろうとしている。大きく言えば、南半球を固めて、アメリカを包囲し、包囲網を縮めていくということになる。中国はそのために南大西洋に進出しようとしている。私たちの目がインド太平洋に向いている間に。中国は周到に次の世界覇権国としての準備を進めている。

(貼り付けはじめ)

中国は世界に発展していく-そして海軍基地を次々と建設(Beijing Is Going Places—and Building Naval Bases

-次に中国が基地を建設するであろう候補地はこれらの場所だ。

アレクサンダー・ウーリー、シェン・ジャン筆

2023年7月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/27/china-military-naval-bases-plan-infrastructure/

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スリランカ・ハンバントタにあるハンバントタ国際港に寄港する中国のミサイル追跡船遠望5号2を歓迎する人々(2022年8月16日)

中国は2017年に中国人民解放軍海軍(People’s Liberation Army NavyPLAN)の初の海外基地をジブチに建設したことで知られている。中国は次はどこに海軍基地を建設するだろうか?

この疑問に答えるため、本稿の著者たちはAidDataの新しいデータセットを用いて、2000年から2021年の間に低・中所得国で中国の国有企業によって融資され、2000年から2023年の間に実施された港湾とインフラ建設に焦点を当てた。この詳細なデータセットは、46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクトを捕捉しており、その総額は299億ドルに達する。

私たちの分析の中心的な前提は、対外援助(foreign aid)や投資(investment)を通じて中国が港湾や関連インフラに資金を提供し建設することは、平時でも戦時でも人民解放軍海軍にとって役立つ可能性のある港湾や基地を示す1つの指標になるということである。それには理由がある。中国の法律では、名目上は民間の港湾が、必要な時には必要な分だけ、中国人民解放軍海軍に後方支援を提供することが義務付けられている。港湾の建設や拡張を通じて築かれる経済的な結びつきは永続的なものであり、その関係には長期的なライフサイクルがある。北京はまた、その支出に見合う非貨幣的債務もあると見ている。投資額が大きければ大きいほど、中国は便宜を図ってもらうための影響力を増すはずだ。

私たちのデータは、中国が陸上だけでなく海上でも超大国であり、世界の低・中所得国と並外れた結びつきがあることを明らかにしている。中国の国有銀行はモーリタニアのヌアクショット港の拡張に4億9900万ドルを貸し付けた。シエラレオネの総GDPは40億ドルの国であるが、シエラレオネのフリータウンには、7億5900万ドルの港湾融資を行っている。カリブ海にまで広がる世界的なポートフォリオである。その象徴的な足掛かりとなる場所はアンティグア・バーブーダで、2022年後半、中国の事業体が1億700万ドルを投じてセントジョンズ港の埠頭と護岸の拡張工事を完了させ、港湾を浚渫し、海岸沿いの施設を建設した。 

商業的な投資と将来の海軍基地を結びつけるのは、中国のビジネスのやり方をよく知らない人にとっては奇妙に思えるかもしれない。しかし、中国の港湾建設会社や運営会社の株式は上海証券取引所で取引されているが、一方で公的な政府機関でもある。港湾建設の大手企業としては、中国交通建設股份有限公司(China Communications Construction Company, Ltd.CCCC)がある。中国交通建設は、株式の大半が国有で、上場している多国籍エンジニアリング・建設会社である。その港湾子会社の1つが中国港湾工程有限責任公司(China Harbour Engineering Company, Ltd.CHEC)である。どちらも海外での港湾建設における主要企業である。2020年、米商務省は南シナ海の人工島建設に関与したとして中国交通建設股份有限公司に制裁を科した。

海軍基地建設の立地に関する選択肢を絞り込むために、戦略的位置、港湾の規模や水深、北京との潜在的なホスト国との関係(たとえば国連総会での投票の一致など)といった他の基準も適用した。また、入手可能な場合には、一般に公開されている衛星画像や地理空間マッピングの情報源や技術も利用した。

そこから、私たちは将来の中国人民解放軍海軍基地の候補として、最も可能性の高い8つの候補地を導き出した。それらは、 スリランカのハンバントタ、赤道ギニアのバタ、パキスタンのグワダル、カメルーンのクリビ、カンボジアのリーム、ヴァヌアツのルガンヴィル、モザンビークのナカラ、モーリタニアのヌアクショットである。

中国が資金を提供した港湾インフラと中国人民解放軍海軍基地立地の可能性が高い場所

中国の国有企業は、2000年から2021年にかけて、46カ国78港の拡張・建設プロジェクト123件に299億ドルの融資を約束している。この地図は、49の港湾について正式に承認された、活動中の、または完了したプロジェクトを示し、中国海軍基地として使用される可能性が最も高い8つの港湾の位置を強調している。

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注:地図には、資金提供の約束や中止または中断されたプロジェクトは含まれていない。ロシアのサベッタ港(ヤマル液化天然ガスプロジェクト)は除外されている。このプロジェクトは中国から推定149億ドルの資金提供を受けているが、研究者たちはサベッタ港のみに使われた金額を集計することができなかった。

西太平洋でアメリカを追い出す、あるいは包囲することは北京にとっての優先事項であり、インド洋ではアメリカ、インド、そしていわゆるクアッド同盟(Quad alliance)の他の国々への挑戦でもある。そして、ジブチもそうだが、候補の半分以上はインド太平洋を志向している。驚くべきことには、アフリカの大西洋側における、港湾を含む中国の投資の激しさである。中国の港湾業者について考えると、中国は地政学的に注目されているインド洋よりも、アフリカの大西洋側でより多くの港湾に積極的に投資していることになる。中国はモーリタニアから西アフリカを南下し、ギニア湾を経てカメルーン、アンゴラ、ガボンへと港を建設している。

 

西アフリカや中央アフリカに基地を建設することは、アデン湾での海賊対処任務で自国から遠く離れた場所で活動する方法を学んでからわずか15年しか経っていない海軍にとって、まだ外洋での足場を固めつつある大胆な試みとなる。大西洋の基地は、中国人民解放軍海軍をヨーロッパ、ジブラルタル海峡、主要な大西洋横断航路に相対的に近づけることになる。そして、大西洋へのシフトは流れに逆行することになる。アメリカはインド太平洋に執着しており、イギリスやオーストラリアとAUKUS安全保障パートナーシップを締結し、インドとの物流関係を深め、フィリピンやソロモン諸島に回帰し、パプアニューギニアと防衛協力を行っている。大西洋に中国人民解放軍海軍の基地があれば、ワシントンとブリュッセル(EU)の海軍に関する計算に狂いが生じ、計画立案者たちは図面に戻ることになるだろう。

また、中国は港湾を人里離れた場所に設置することを好んでいることを発見した。その一例が、アンゴラの飛び地であるカイオ港への北京の多額の投資である。十分な水深のある天然の港がないとか、天然資源に近いとか、単純な説明がつくこともある。しかし、ある海運会社の幹部によると、中国の事業体は過去に労働争議や市民の抗議行動、その他の混乱に港がさらされるのを見てきたため、現在ではこうした状況から距離を置くことを好むという。中国の事業体は、多数派で自由な支配権を確保できる、あるいはホスト国の世論の反発を避けられる、安全な新しい場所を好むようだ。これらは、海軍施設をどこに設置するかを決める際のセールスポイントにもなるだろう。

地図上で強調されている、中国人民解放軍海軍の基地の可能性が最も高いトップ8については以下をご覧いただきたい。

(1)ハンバントタ(スリランカ)(Hambantota, Sri Lanka

中国がハンバントタに投じた総額は20億ドル以上を超える。北京はこの施設を直接管理している。その戦略的立地、エリート層や国民の間での中国人気、国連総会での投票におけるスリランカの中国との連携も相まって、ハンバントタは将来の海軍基地の最有力候補である。

(2)バタ(赤道ギニア)(Bata, Equatorial Guinea

米国防総省の情報提供者は、バタ基地に対する中国の関心について懸念を示し、それを主要メディアが取り上げた。基地に関する北京の公式声明がないことは、必ずしも決定的なものではない。基地ができるという発表がなされる直前まで、中国はジブチに対するそのような意図について繰り返し否定していた。商業投資を入り口にして、数カ月以内に建設が始まった。政治的には、赤道ギニアは、カメルーンやトーゴと同様に、全て一族支配、権威主義政権で、長年にわたって政権を維持しており、後継者への政権移譲計画があるか、あるいはその話が持ち上がっている。2022年の『エコノミスト』誌インテリジェンス・ユニットの民主政体指数によると、3カ国とも世界の民主政体ランキングの最下位に位置している。 トーゴは130位、カメルーンは140位、赤道ギニアは158位である。

(3)グワダル(パキスタン)(Gwadar, Pakistan

中国とパキスタンの関係は、戦略的かつ経済的なものだ。パキスタンは、中国が推進する「一帯一路(Belt and Road)」インフラ計画の旗艦国であり、北京にとって最大の軍事品輸出先でもある。パキスタンでは、中国の軍艦は既に定着している。近代化する(modernize)に伴い、パキスタン海軍は中国製の武器を購入する最大の購入者となり、中国が設計した近代的な水上戦艦や潜水艦を運用している。グワダル自体はパキスタンの西の果てに位置し、ホルムズ海峡をカバーする戦略的な場所である。中国はパキスタン国民に、アメリカよりもかなり人気がある。問題を抱えているとはいえ、パキスタンは民主政治体制国家であるため、中国は海軍基地という概念に友好的な指導者を必ずしも永久に当てにすることはできない。グワダルがその大きな構成要素である「一帯一路」の主役である巨大な中国パキスタン経済回廊のパキスタンにおける運命には、多くのことがかかっているかもしれない。この経済回廊の成否は、中国人民解放軍海軍の基地受け入れに影響を与える可能性がある。

(4)クリビ(カメルーン)(Kribi, Cameroon

クリビ港は、中国の投資規模ではハンバントタ港に次ぐ。クリビ港はバタ港と最も競合しそうな港だが、両港の距離は100マイルほどしか離れていない。中国はどちらかを選ぶだろう。カメルーンの国連総会での議決と全体的な地政学的位置づけは、中国とよく一致している。その他では、アンゴラのカイオ、シエラレオネのフリータウン、コートジボワールのアビジャンが、北京の投資規模から、拠点となる可能性がある。シエラレオネの二大政党のうち、1つ(全人民評議会[All People’s Congress])は中国と密接な関係にある。政治集会では、支持者たちが「私たちは中国人だ(We are Chinese)」や「私たちは黒い中国人だ(We are black Chinese )」と叫んでいる。北京はこの国の政治生活に入り込むことに成功している。

(5)リーム(カンボジア)(Ream, Cambodia

現在までの公式投資は小規模だが、カンボジアのリームは何らかの形で中国人民解放軍海軍の施設となる可能性が非常に高い。アメリカや西側諸国はカンボジア人に人気があるが、フン・セン首相は北京にとっての長年の盟友である。フン・センは中国にとって重要な存在である。フン・セン首相は2023年8月に退陣し、息子の後任が予定されているが、今後もフン・セン首相が主導権を握り続けると見られている。カンボジアのエリートたちは、一帯一路構想のもとでうまくやっており、中国と緊密に連携している。2020年、カンボジアの国連総会での投票は中国と同じで、その年の争点となった100票のうちわずか19票で、イラン、キューバ、シリアよりもわずかに高い割合でアメリカと一致した。フン・センは、リームが近いうちに中国人民解放軍海軍を迎えることはないと否定しているが、証拠はそうでないことを示している。

(6)ルガンヴィル(ヴァヌアツ)(Luganville, Vanuatu

北京は何十年もかけて、自国を取り囲む第一列島線を割ろうとしてきた。中国人民解放軍海軍の基地は、おそらくそれほど大きくはないだろうが、南太平洋か中央太平洋のどこかに行かれることが理にかなっている。私たちのデータでは、この地域の港湾インフラへの中国の投資は限られているが、ヴァヌアツではエスピリトゥ・サント島のルガンヴィル港に中国から建設資金が投入されている。9700万ドルの投資は、私たちのデータによれば、ヴァヌアツの世界的な投資額のトップ30に入るもので、決して小さいものではない。そして前例もある。第二次世界大戦中、この戦略的立地にある島には、太平洋で最大級の米海軍の前進基地と修理施設があった。ルガンヴィル港前のセゴンド運河は、船団、浮体式乾ドック、航空基地、補給基地が置かれた、巨大で保護された停泊地(sheltered anchorage)だった。

(7)ナカラ(モザンビーク)(Nacala, Mozambique

モザンビークにおける中国の港湾投資は、他の地域ほど大規模なものではないが、取るに足らないものでもない。モザンビークはまた、ケニアやタンザニアといった東アフリカや南部アフリカの他の国々で見られるような、中国の融資や投資に対する反発も見られない。中国はエリート層にも一般市民にも人気があり、モザンビークのメディア・コンテンツのかなりの部分を中国が後援している。問題は、どこに基地を置くかだ。マプトは最大の港だが、モザンビーク政府とドバイ・ポーツ・ワールドが運営している。中国は、ベイラとナカラの両港の建設や拡張に資金を提供しており、両港は投資総額でトップ20に入っている。ベイラは定期的な浚渫(regular dredging)が必要なため、大型軍艦には浅すぎるだろう。ナカラは最も理にかなった港湾であり、中国による多額の投資が行われており、水深の深い港湾である。

(8)ヌアクショット(モーリタニア)(Nouakchott, Mauritania

モーリタニアは、西アフリカと中央アフリカの中国人民解放軍海軍オプションの渋滞から外れている。例えば、ヌアクショットはバタから2000マイル以上北西にある。西アフリカの国はまた、ヨーロッパとジブラルタル海峡のような隘路にもかなり近い。2020年の国連人権理事会の公聴会では、中国の香港に対する新しい安全保障法について、アンティグア・バーブーダ、カンボジア、カメルーン、赤道ギニア、モザンビーク、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、モーリタニアを含む53カ国が中国を支持した。

特別参加枠(Wild Card):ロシアか?

中国は発展途上国に資金を費やしているが、ロシア海軍の基地に艦隊を駐留させることで、先進国に近い地域に基地を確保することも可能だ。中国の視点からは、明らかなプラス面がある。アメリカとヨーロッパが脅威であるとロシアの指導部を説得する必要がなく、ロシアを誘い出すためのアメリカの魅力攻勢(charm offensive)の危険性もほとんどない。

ロシアは広大な国土全体に海軍基地を有しており、その多くは冷戦時代の遺産である。中国人民解放軍海軍の計画立案者たちにとって魅力的なのは、北太平洋にある基地だろう。そのような施設、例えばカムチャッカ半島のヴィリュチンスクにある既存のロシア軍基地は、安全で、人目に触れることがなく、既存の軍艦の停泊・修理施設を利用でき、中国人民解放軍海軍をアメリカの同盟国である日本とアラスカの間に置くメリットがある。2021年と2022年の両年、中国人民解放軍海軍とロシア海軍は、東シナ海と西太平洋で、日本の主要な島々の周回を含む大規模な合同演習を行った。中国はまた、ノルウェーとロシアの北岸に位置するバレンツ海や、バレンツ海沖の天然の港であるコラ湾でロシア海軍と施設を共有し、北大西洋へのアクセスを提供する可能性もある。

※ロリー・フェドロチコとサリーナ・パターソンがこの記事の作成に貢献した。

※アレクサンダー・ウーリー:ジャーナリスト、元イギリス海軍将校。

※シェン・ジャン:AidData中国発展資金プログラム研究アナリスト。このプログラムで彼は過少申告されている資金の流れを追跡し、地政学上のデータ収集を主導している。中国国際発展に関するAidDataのレポート「一帯一路の資金」の共著者である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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