古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:EU

 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領が2025年12月に発表した「国家安全保障戦略(National Security StrategyNSS)」は、アメリカによるヴェネズエラ攻撃が実施されたことで、注目度を増している。この文書にはアメリカの「西半球回帰」、モンロー主義(ヤンキー帝国主義)への回帰が明らかになった。第二次トランプ政権の外交政策が「国家安全保障戦略」を基盤にして進むとすれば、この文書に注目するのは当然のことだ。

 「国家安全保障戦略」において、トランプ政権はヨーロッパの「文明の消失(civilizational erasure)」を危惧している。トランプ政権が考える「ヨーロッパ文明」は「白人文明」であある。非白人、非キリスト教徒の移民を多く受け入れることでヨーロッパらしさがなくなっているということである。また、ヨーロッパが安全保障分野において、アメリカに「ただ乗り(free-ride)」をしているという批判も継続している。更には、厳しい規制のために創造性と工業力が低下したために経済力の低下も起きているという指摘もしている。NATO加盟諸国は防衛費の対GDP比を5%(そのうちの1.5%はインフラ整備)にまで引き上げるとしている。アメリカ(トランプ政権)はヨーロッパに対して、移民を制限し、防衛費の増額を求めている。アメリカはヨーロッパに対して厳しい要求を突きつける形で介入をしている。

 こうした中で、ヴェネズエラ攻撃が発生した。また、トランプ大統領自身からグリーンランドについての言及もあった。ヨーロッパ諸国は対応に苦慮している。ヴェネズエラ攻撃に関しては主語を曖昧にして、「国際法は遵守されるべき」と生ぬるい対応をしていれば良いが、グリーンランドで何か起きれば、そうも言っていられない。ヨーロッパ諸国のほぼ全てがNATOに加盟し、集団的自衛権の義務を負う。アメリカ軍がグリーンランドに侵入すれば、当事国デンマークと共にアメリカ軍の排除に出動しなければならない。対ソ連(現在は対ロシア)の防衛同盟であったはずのNATOという枠組みで、そのリーダーであるアメリカが脅威となるという異常事態である。

 トランプのアイソレイショニズム(Isolationism)は、アメリカを国内に戻すということではなかった。世界の警察官(World Police)の役割を放棄して、自身が切り取り強盗になるということであった。そして、全ては「アメリカ・ファースト」という言葉をお題目にして、正当化するというものであった。私は「国家安全保障戦略」を読んで、「何でもアメリカ・ファーストと言えば万事OK、全てがうまくいくと思っているな」という感想を持った。「アメリカ・ファースト」は「世界の諸問題ではなく、アメリカ国内の諸問題を解決することを優先する」ということであったはずだ。トランプ本人が「トランプ革命」を裏切った。いつの時代も革命の指導者が革命を裏切るものであるがそれが世の習いというものだろうか。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領の「国家安全保障戦略」は西側諸国の崩壊に向けた青写真だ(Trump’s National Security Strategy Is a Blueprint for the Demise of the West

-ホワイトハウスの政策は一貫性に欠けるかもしれないが極めて危険だ。

ハワード・フレンチ筆

2025年12月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/11/trump-national-security-strategy-blueprint-west-demise/

かつて、アメリカの著名な保守派の人物たちは、西ヨーロッパの同盟諸国に対する数々の使い古された不満に固執していた。

冷戦期のアメリカのイデオローグたちによれば、ヨーロッパ諸国は過剰な税金を課し、その資金を過度に手厚い社会保障制度に費やし、それがヨーロッパを弱体化させ、技術革新と成長を阻害しているという。ヨーロッパは、かつて資本主義の砦であった自由で競争的な市場の精神を放棄し、着実に、しかし幾分静かに、社会主義の行き詰まりへと突き進んでいるという警告が頻繁に発せられた。

少なくともリチャード・ニクソン大統領の政権時代まで遡る、もう一つの定型的な不満は、ヨーロッパが慢性的に自国の防衛費を不足させているというものだ。これは、ヨーロッパ、ひいては西側諸国自身を、最大の存亡の危機であるソ連から守るために設計された、アメリカによる国防総省への多額の支出(予算)にただ乗り(free riding)しているだけなのだ。

ヨーロッパに対するこうした古くからの不満の一部、例えばヨーロッパ大陸の防衛費が倹約的だとされる点などは、ドナルド・トランプ米大統領政権が先週発表した新たな国家安全保障戦略にも依然として残っている。しかし、多くの評論家たちが指摘するように、この文書は共和党の世界観を数十年ぶりに抜本的に刷新するものだ。ヨーロッパに関する主要な前提に関して言えば、ほぼ全てが、近年の共和党の主要人物―ニクソン元大統領、ロナルド・レーガン大統領、そしておそらく1964年の大統領選挙で落選した超保守派のバリー・ゴールドウォーターでさえも―が認識できないほどに歪められている。

ロシアがアメリカとヨーロッパにとって共通の安全保障上の大きな懸念事項であるという前提は、ほぼ完全に消え去った。これは主に省略や行間から読み取れる情報を通して明らかだが、トランプ大統領が今年、アメリカの外交政策をモスクワに有利な方向に転換しようとした数々の行動からも見て取れる。そして、このことを最もよく表しているのはロシア自身だ。ロシアは、ワシントンの方針転換の中で、自らの幸運を信じられないかもしれない。ロシアのメディアは即座に、ワシントンの「国家安全保障戦略」はロシア自身の世界観と概ね一致していると断言した。

ウクライナで進行中の戦争が2022年のロシア侵攻によるものでなければ、これは別問題だろう。しかし、トランプ政権の安全保障関係者たちがロシアの拡張主義に関心を示していないという事実は、トランプとその顧問たちがまだ明確に表明する勇気も率直さも持ち合わせていない、真に急進的な何かを示唆している。

誤解のないようにしよう。ホワイトハウスの新たな戦略文書は、西洋―少なくとも第二次世界大戦以降、世界が西洋という言葉で理解してきたもの―の崩壊を企てる青写真であり、その出発点は、ヨーロッパとアメリカの間に緊密に結びついた共通の利益である。

トランプのシナリオは、名目上は白人社会が有色人種、つまりかつて熱狂的な白人パニック小説のジャンルを席巻した黒人、褐色人種、黄色人種の大群によって徐々に乗っ取られていくという暗い幻想を描いている。これは、1920年代の人気作家ロトロップ・ストッダードのような人物に最もよく例えられる。ストッダードは、影響力のある著書『白人の世界至上主義に抗う有色人種の高まる潮流(The Rising Tide of Color Against White World-Supremacy)』の中で、「有色人種の移民は普遍的な危機であり、白人世界のあらゆる部分を脅かす(colored migration is a universal peril, menacing every part of the white world)」と記している。(ストッダードへの薄っぺらな言及は、20世紀で最も高く評価されているアメリカ小説の一つ、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー(The Great Gatsby)』にも見受けられる。)

一方、トランプの「国家安全保障戦略」は、移民によってヨーロッパはもはやヨーロッパではなくなる危機に瀕しており、それは明らかに白人によって定義されることを意味すると警告している。これがこれほど重要な文書に含まれるに値する理由は、トランプにとって、アメリカとヨーロッパが共に「白人のままでいる(“remain” white)」ことが、緊密な同盟関係を維持するための根本条件だからだと直感的に理解できる。言い換えれば、トランプにとって、白人であることへのこだわりを維持することは、長きにわたり普遍的かつ疑問の余地なく用いられてきた「西洋(the West)」という呼称に値し続けるための条件なのだ。

アメリカ政府の白人性への執着は憂慮すべきものだが、トランプ政権の政策に少しでも一貫性があると想像するのは間違いだろう。非白人移民の流入が主な原因でヨーロッパがそのアイデンティティを失う危険に晒されていると警告するトランプの発言には、あまりにも明白な論理的欠陥があり、問題となっているのは人種問題だけではない、むしろ根底には、おそらくもっと深刻な別の問題が潜んでいることを示唆している。

この欠陥は、アメリカの移民率をヨーロッパの主要国や最も裕福な国々の移民率と比較すると明らかになる。そうすることで、ヨーロッパがこの点で際立っているわけではないことが分かる。

ドイツの人口の約19%は移民であり、これは米国の15%をわずかに上回っている。これは、アンゲラ・メルケル首相時代にドイツの人口減少を冷静に評価した結果と言えるだろう。メルケル首相の在任中、ドイツは中東の破綻国家シリアから数十万人の人々を受け入れた。これほど多くの新規移民を受け入れるには、必然的に文化的な適応が必要となり、受け入れ側の住民と移民の双方にストレスをもたらす。しかし、多くのドイツ有権者が少なくとも一時的には大規模な移民受け入れに反対しているとはいえ、シリア人などの流入が、ドイツの深刻な人口減少、高齢化、そしてそれに伴う労働力不足(crisis of population decline, aging, and the associated problem of too few workers)という危機を食い止めることができれば、歴史はメルケル首相の政策を寛大に評価することになるかもしれない。

ヨーロッパの他の二大大国フランスとイギリスの外国生まれの人口は、それぞれ全人口の約14%と16%で、アメリカ合衆国とほぼ同程度だ。挙げた3つの例のいずれも統計的に例外的な数値ではないという事実は、ヨーロッパが自らの人種的抹消に向かって急速に進んでいるというトランプの見解を明確に反証している。そして、はっきり言って、アメリカ合衆国もそうではない。

ヨーロッパの国防費に対するアメリカの不満も同様に根拠に乏しい。『ワシントン・ポスト』紙の最近の論説が指摘したように、アメリカ合衆国はヨーロッパ諸国に対し、GDPの5%を国防費に充てることを要求しているにもかかわらず、2025年度にGDPの3%を国防費に充てるという基準をかろうじて上回る見通しだ。

ヨーロッパが何らかの形でアメリカの先導に従うべきだという考えは、ヨーロッパの生活水準がトランプ政権下のアメリカよりも高いという現実、そして今日多くのヨーロッパ諸国が、大西洋を挟んだ新たな曖昧な長年の同盟国であるアメリカよりも、より活気に満ちた民主政体国家であると広く認識されているという事実によっても裏付けられていない。

何が起こっているのかをより深く理解するには、トランプが2016年の政権獲得当初、外国人嫌悪と人種・民族に基づく脅しを主要な戦術として用いたことを思い出す必要がある。アイデンティティ問題で多数の有権者を煽動することは、支持を集める確実な手段であるだけでなく、近年のいかなる前例からも大きく逸脱する彼の政策要素から目を逸らす効果的な手段でもあった。

これは、トランプのヨーロッパに対する真の狙いを示唆しているように思われる。それは、より大規模で広範な急進的な保守政策を支持することであり、人種に基づくナショナリズムはその槍の先ではあるものの、単なる一要素に過ぎない。

事実、トランプ自身も、国家安全保障声明において、ヨーロッパにおける極右政党の推進に対するワシントンの関心を表明することで、このことを自ら明らかにしたのだ(不器用な表現だと言いたいところだが)。トランプが人種的排外主義に訴えたことは、ヨーロッパの論評家たちから困惑と憤りを招いたが、それほど驚くことではなかった。なぜなら、これらは既に長らく彼の国内政治の中核を成していたからである。

トランプはこれまでもヨーロッパ諸国の国内政治に介入しようと試みてきたが、これほど大胆な介入はかつてなかった。ヨーロッパ大陸の極右勢力への全面的な協力を明確かつ公式に表明したのだ。極右勢力の政党の多くは、反ユダヤ主義に加担し、ファシズムに影響を受けている。このような大胆な介入は、ヨーロッパの多くの方面から激しい抗議を引き起こしている。

もしトランプがこれほどまでに急進的な政治転換に基づく政策を実行に移すならば、そして何よりも、非常に過激な見解を声高に推進してきたJD・ヴァンス副大統領のような人物が後継者となるならば、こうした展開は単なる白人性の強調にとどまらず、古い西洋の終焉を正式にもたらすことになるだろう。

アメリカ独立戦争中、ベンジャミン・フランクリンは「私たちは私たち自身の自由を守ることで、彼ら(ヨーロッパ人)の自由のために戦っているのだ」と述べ、フランスなどのヨーロッパ列強に支援を訴えた。

もちろん、西側諸国の民主政体の記録には欠点がつきものだ。しかし、自由を中心とする共通の価値観というこの理念こそが、アメリカとヨーロッパ諸国の同盟関係を支えてきた核心であり続けた。トランプがこれまで以上に露骨に権威主義(authoritarianism)を信奉する中、アメリカがこの価値観から乖離していることこそが、世界が「西側(the West)」と呼ぶものの常識を最終的に覆す可能性がある。

もしフランクリンが今日生きていたら、彼は自分の定式を逆転させ、「ヨーロッパ人は私たちの自由を守ることで、アメリカ人が自らの自由を守るよう鼓舞することを望んでいる」と表現したかもしれない。

※ハワード・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年海外特派員を務めた。最新作に『第二の解放:エンクルマ、汎アフリカ主義、そして最高潮の世界的な黒人性(The Second Emancipation: Nkrumah, Pan-Africanism, and Global Blackness at High Tide)』がある。Blueskyアカウント:@hofrench.bsky.socialXアカウント:@hofrench

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(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿は、ヨーロッパ諸国に向けた内容であるが、日本にとっても参考になる内容である。特に、現在、トランプ関税で厳しい交渉を続けている赤澤亮正経済再生担当大臣に読んでもらいたい内容だ。

 第二次ドナルド・トランプ政権との交渉を行う際には、アメリカの利益と自国の利益に配慮しつつ、引きすぎてはいけない。あまりにも過剰な要求をしてくるのであれば、交渉材料を持って、アメリカに抵抗する。引きすぎた時点で、トランプ政権は与しやすい相手と見て、さらに過大な要求をしてくる。逆に、強く出つつ、妥協をすれば、骨のある相手ということで、一定の配慮をする。付け入られないようにすることが重要だ。赤澤大臣は短期間に何度も日米間を往復し、ワシントンでの交渉に臨んでいる。妥協は成立していないようだが、それだけタフな交渉をしているのだろうと考えられる。

 ヨーロッパ諸国が中心となっているNATOでは、トランプ政権の要求を受け入れて、国防負の対GDP比5%実現を発表した。これは何とも解せない話だ。ヨーロッパの仮想敵(既に仮想ではないだろうが)はロシアだ。ロシアを恐れるあまりにこのようなことになったと考えられるが、そもそも、GDPで見ても、国防費で見ても、ヨーロッパはロシアを大幅に上回っている。フランスもイギリスも核兵器を保有している。ロシアを過剰に恐れる必要はない。ロシアとの関係を少しでも改善すればそれで済む話だ。ヨーロッパ諸国は国防費の対GDP比5%などやってしまったら、社会が大きく混乱し、不安定となる。それこそ、ローマ帝国は過剰な軍事費負担のために衰亡したではないか。その轍を踏むことになる。
 私はここまで書いて、ヨーロッパが恐れているのはロシアではないのではないかと考えついた。ヨーロッパが恐れているのは、「西側以外の国々(the Rest)」の「復讐」ではないかと考えた。日本人から見れば、今更そんなことは起きるはずはないと考えるが、ヨーロッパが500年近くにわたり行った残虐な植民地支配の記憶が、宗主国であったヨーロッパ諸国を苦しめているのではないかと思う。「自分たち(ヨーロッパ)が衰退して、立場が逆転した場合に、彼らはきっと復讐するだろう、なぜなら、自分たちが同じ立場だったらそうするからだ」という思考になっているのだろう。世界構造の大変化、大転換に際し、ヨーロッパはそのような不安感と恐怖に取りつかれているのではないか。
 筆がだいぶ横に滑って脱線してしまった。話を戻す。私は下記論稿を読んで、論稿の要諦は「最善を望み、最悪に備える(Hope for the best; plan for the worst)」であると主張する。そして、これは、外交をはじめとする政治の要諦でもあると思う。是非記憶しておきたい言葉だ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはトランプ大統領にどう対処すべきか(How Europe Should Deal With Trump

大国間政治(great-power politics)を真剣に考えるべき時が来た。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年5月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/07/europe-trump-us-defense-nato-china-technology/

ヨーロッパは岐路に立たされている。環大西洋安全保障協力(trans-Atlantic security cooperation)の全盛期は過去のものとなり、ドナルド・トランプ政権はヨーロッパの大半を侮蔑、軽蔑、あるいは敵対視(contempt, disdain, or outright hostility)している。少なくとも、ヨーロッパの指導者たちはもはやアメリカの支援と保護を当然視することはできない。最善を望むことはできるが、最悪の事態に備えなければならない(They can hope for the best, but they must plan for the worst)。そしてそれは、世界政治において独自の道を歩むことを意味する。

公平を期すなら、この状況はドナルド・トランプ大統領の責任ばかりではない。仮にトランプ大統領が当選していなかったとしても、大西洋間の関係の根本的な見直しはとっくに終わっていた。地球儀を見れば、その理由を理解できる。アメリカはヨーロッパの大国ではないし、そこに永続的にアメリカ軍がコミットするのは歴史的にも地政学的にも異常なことだ。この種のコストのかかる関与は、明確な戦略的必要性(clear strategic necessity)によってのみ正当化される。アメリカが第一次世界大戦と第二次世界大戦に参戦したのも、冷戦時代にヨーロッパにかなりの兵力を駐留させたのも、この戦略的目的(strategic objective)が主な理由である。

これらの政策は以前であれば理に適っていた。しかし、冷戦が30年以上前に終結し、アメリカの一極時代(the unipolar moment)も数年前に終わった。中国は今やアメリカの主要な大国のライヴァルであり、潜在的な地域覇権国(a potential regional hegemon)である。アメリカはアジアにおける中国の覇権を阻止するために、限りある資源とエネルギーを集中させる必要がある。良いニュースは、現在、ヨーロッパを支配できるほど強力な国はないということだ。ロシアであってもヨーロッパを支配することは不可能だ。これが意味するところは、アメリカはもはやヨーロッパ防衛の負担を負う必要はなくなったということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍以上、GDPはロシアの9倍であり、NATOのヨーロッパ加盟諸国は防衛費でもロシアを上回っている。もしヨーロッパの潜在的な力が適切に動員されれば、アンクルサム(訳者註:アメリカ)からの直接的な援助がなくても、ヨーロッパはロシアからの直接的な挑戦を抑止し、打ち負かすことができるだろう。

理想的には、アメリカはヨーロッパと協力して新たな分担を交渉し、この移行を可能な限り円滑かつ効率的に進めるべきだ。6月に開催されるNATO首脳会議は、特にアメリカが建設的な役割を果たすことを選択した場合、このプロセスを加速させる絶好の機会となるだろう。

残念ながら、トランプ政権はヨーロッパを貴重な経済パートナーや有用な戦略的同盟諸国とは考えていない。誇張しすぎているかもしれないが、トランプ政権はヨーロッパを、トランプとMAGA運動が拒絶するリベラルな価値観に傾倒する、堕落し、分裂し、衰退する国家の集合体(a set of decadent, divided, and declining states committed to liberal values that Trump and the MAGA movement reject)と見なしている。トランプは、主流派のヨーロッパの政治家たちよりも、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のような独裁者との方が安心感があり、政権はドイツのAfDやフランスのマリーヌ・ル・ペン率いる国民連合のような極右グループに共感的だ。トランプはブレグジットを支持し、ヨーロッパ連合(EU)は「アメリカを困らせる」ために設立されたと考えており、ヨーロッパ全体を代表するEU当局者と交渉するよりも、個々のヨーロッパ諸国と個別に交渉することを望んでいる。彼は、グリーンランド併合やカナダをアメリカ合衆国の一部とするという自身の夢を阻害する可能性のある規範や規則を拒否している。そして、トランプが始めた関税戦争にヨーロッパを巻き込むことで、トランプが望んでいるとされる国防費目標をヨーロッパが達成することを困難にしている。

ヨーロッパの観点からすれば、これらは全て十分に憂慮すべき事態だが、ヨーロッパの指導者たちはトランプ政権の根深い無能さも受け入れる必要がある。混沌とした貿易戦争はこの問題の最も明白な具体例であるが、政権による不適格な人事、恥ずべきシグナルゲート事件、科学界や大学への継続的な攻撃、ロシアやイランとの素人同然の交渉、そして国防長官室から生じる度重なる混乱も忘れてはいけない。もしヨーロッパの指導者たちが、アメリカは自分たちのやり方を理解していると思い込み、アメリカの先導に従うことに慣れきっているのであれば、今こそ考え直す時だ。

それでは、彼らはどうすべきだろうか?

もちろん、ヨーロッパの人々が私の助言を無視するのは自由だが、もし私が彼らの立場だったら、第一に、

現在の問題の責任をワシントンに明確に負わせることから始めるだろう。彼らはアメリカと争うつもりはなく、協力的な精神で新たな安全保障・経済協定について交渉することには喜んで応じるということを強調すべきだ。しかし、ワシントンが戦いを挑むことに固執するのであれば、ヨーロッパの利益を守るためならどんな犠牲を払っても構わないという覚悟があることを明確にすべきだ。

第二に、もしヨーロッパ諸国が非友好的な米政権と対峙しなければならないのであれば、声を合わせて、アメリカによる分断工作に抵抗する方がはるかに賢明である。ヨーロッパは、最近のドラギ総裁報告書で提言された経済改革の大半を実施し、反対派加盟諸国が必要な行動を阻止できる拒否権を廃止すべきである。もしこれがハンガリーのような反対派の国をEU離脱に導いたとしても、残りの加盟諸国はより有利な状況になる可能性は高い。

第三に、大国間政治(great-power politics)が復活し、ヨーロッパはより多くのハードパワーを必要としている。これは国防予算の増額という問題ではなく(一部のヨーロッパ諸国は増額を必要としているものの)、ユーロを効果的に使い、アメリカの支援に大きく依存しない持続可能な戦場能力を構築するという問題である。ジェームズ・マティス元国防長官が掲げた「フォー・サーティーズ(Four Thirties)」(30個大隊、30個航空隊、30隻の艦艇を30日以内に配備可能)という目標は良い出発点だが、アメリカの支援に大きく依存しない信頼性の高いヨーロッパ軍を構築するには、それ以上のものが求められる。バリー・ポーゼンが最近『フォーリン・アフェアーズ』誌で警告したように、ヨーロッパは戦後ウクライナにおける費用のかかる平和維持活動に巻き込まれることを避け、必要とされる場所であればどこでも介入できる強力な諸兵科連合能力(developing a robust combined arms capability that can intervene wherever it is needed.)の構築に注力すべきだ。

第四に、アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」がますます信頼できなくなりつつあることから、ヨーロッパは地域の安全保障における核兵器の役割について、真剣かつ持続的な議論を行う時期に来ている。もちろん、この問いにどう答えるかはヨーロッパの人々次第だが、これ以上無視することはできない。私の考えでは、信頼できるヨーロッパの抑止力には、アメリカやロシアの核兵器保有量に匹敵するようなものは必要ない。ヨーロッパの政府高官や戦略専門家がこうした問題について議論し始めていることは朗報である。

第五に、ヨーロッパ諸国は、アメリカが敵対的あるいは信頼できない態度を取り続けるのであれば、自分たちには選択肢があり、中国を含む他国と協力することをワシントンに思い知らせる必要がある。EUは中国との貿易について独自の懸念を持っているが、トランプ大統領がアメリカ国内の関税引き上げを主張するのであれば、北京との経済関係を維持し、場合によっては拡大することが必要かもしれない。このような理由から、EU首脳が7月に北京を訪問することは、ワシントンに自分たちを当然視しないよう念を押すためであるとしても、理にかなっている。

ヨーロッパ諸国はこれまで、たとえ多大なコストがかかったとしても、先端技術分野の重要分野においてアメリカの先導に進んで従ってきた。例えば、オランダはジョー・バイデン政権の要請に応じ、オランダ企業ASMLによる中国への先端リソグラフィー装置の販売を禁止した。また、EU諸国の中には、代替技術よりも安価で優れているにもかかわらず、ファウェイの5G技術を禁止する国もいくつかある。しかし、トランプ政権が他の問題でもヨーロッパに対して強硬な姿勢を崩さないのであれば、ヨーロッパは今後、この種の要求にはるかに慎重に対処べきだ。

最後に、長期的には、ヨーロッパ諸国はロシアとの関係を緩和する方法を模索すべきだ。特にプーティン大統領が依然としてロシアを支配している場合、これは容易なことではないが、現在の深刻な相互疑念、対立、そして混乱の状態は、ヨーロッパにとって利益にはならない。ヨーロッパ諸国のハードパワーが高まり、安全保障が向上するにつれて、各国は双方の正当な安全保障上の懸念に対処するための信頼醸成措置を受け入れる姿勢を維持すべきだ。ヘルシンキ・プロセスやヨーロッパ安全保障協力機構などの過去の取り組みは、ライヴァル国間でも緊張緩和(デタント、détente)が可能であることを私たちに思い出させてくれるものであり、将来のヨーロッパの指導者たちはこの可能性に心を開いておくべきだ。

これは野心的なアジェンダであり、大きな政治的障害に直面するだろう。ヨーロッパの戦略的自立性を高めるための過去の取り組みは常に失敗に終わったが、今日のヨーロッパはこれまでとは全く異なる状況に直面している。アメリカの大学や法律事務所が学んだように、トランプ政権を宥めようとすれば、要求がさらに強まるだけだ。一方、政権に抵抗すれば、他国も追随し、時にはホワイトハウスが自らの立場を再考することになる。今こそそうであることを願うしかない。いずれにせよ、ヨーロッパが自立を維持し、脆弱性を最小限に抑えたいのであれば、アメリカがもはや信頼できるパートナーではなくなった世界に備える以外に選択肢はない。最善を望み、最悪に備えるのだ(Hope for the best; plan for the worst)。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
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『トランプの電撃作戦』
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 ドナルド・トランプの主張は突き詰めれば、「アメリカ・ファースト(America First)」だ。このブログでも何度も書いているが、これは「アメリカが一番!」という単純な話ではない。「アメリカ国内の抱える深刻な諸問題を解決することを最優先しよう」ということであり、「アメリカ国内(問題解決)優先主義」と訳すべき言葉だ。これに関連して、「アイソレイショニズム(Isolationism)」という言葉もあるが、これも「孤立主義」と簡単に訳すのは間違っている。アメリカが完全に孤立することはできない。こちらもやはり「国内優先主義」と訳すべきだ。だから、「アメリカ・ファースト」と「アイソレイショニズム」はほぼ同じ意味ということになる。

 「アメリカ国内優先主義」ということになれば、アメリカが現在、世界中に派遣しているアメリカ軍をアメリカ国内に戻す、世界経営から手を引くということになる。これに困ってしまうのはヨーロッパである。ヨーロッパは第一次世界大戦、第二次世界大戦と20世紀の前半で二度の破壊を極めた戦争を経験した。戦後ヨーロッパは統合と、アメリカによる安全保障への関与という方向に進んだ。ヨーロッパ諸国はお互いが戦わないように、調停者・仲裁役・抑え役・お目付け役としてアメリカを必要とした。そして、対外的には、具体的には、ソ連、そしてロシアに対しては、アメリカ軍の存在を前提とした軍事力の軽度の整備(軽い負担で済んできた)を行ってきた。それが、アメリカが手を引くということになったらどうなるか。ヨーロッパ域内での調和は乱れ、ロシアに対しては足並みが乱れ、各国の判断で、より軍事力を強化する方向に進む国と、ロシアとの友好関係を重視する国に分かれるだろう。

 ヨーロッパは戦後の制度設計をアメリカの存在を前提にして築いてきた。そして、協調が進み、繫栄することができた。しかし、その良い面とは裏腹に、アメリカの力が衰えた場合、アメリカが手を引く場合の備えができていなかった。そして、現在は、アメリカの国力の衰退が現実のものとなっている。アメリカが手を引けばヨーロッパは混乱状態になる。私たちがヨーロッパから学ぶべきことは、アメリカを関与させない、対等な地域統合組織を作ること、そして、それをアジアで実現することだ。時代と状況の変化はここまで来ている。いつまでも、世界一強のアメリカ、超大国のアメリカということをのんきに信じ込んでいる訳にはいかない。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプの復帰はヨーロッパを変貌させることになるだろう(Trump’s Return Would Transform Europe

-ワシントンが掌握しなければ、ヨーロッパ大陸は無政府的で非自由主義的な過去に逆戻りする可能性がある。

ハル・ブランズ筆

2024年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/26/europe-security-eu-nato-alliances-liberal-democracy-nationalism-trump-us-election/

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どっちが本当のヨーロッパだろうか? 過去数十年間、ほぼ平和で民主的で統一された大陸? それとも、それ以前に何世紀にもわたって存在していた、断片化され、不安定で、紛争に満ちたヨーロッパ(fragmented, volatile, and conflict-ridden Europe)? 11月の米大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すれば、こうした疑問の答えはすぐに分かるかもしれない。

トランプは大統領としての最初の任期中に、アメリカをNATOから離脱させることに執心した。彼の元側近の中には、もし二期目に当選したら本当にやってくれるかもしれないと信じている人もいる。そして、このように語っているのはトランプ大統領だけではない。アメリカ・ファーストの有力信奉者の一人であるJD・ヴァンス連邦上院議員は、「ヨーロッパが自立する時が来た([The] time has come for Europe to stand on its own feet)」と主張している。アメリカ・ファーストの精神に明確に賛同していない人々の間でも、特にアジアにおいて、競合する優先事項への影響力はますます強くなっている。ポストアメリカ(アメリカ後)のヨーロッパについてより考慮されるようになっている。それがどんな場所になるかを聞いてみる価値はある。

楽観主義者たちは、たとえ7月にワシントンで開催されるNATO加盟75周年記念首脳会議で、NATO首脳たちが祝賀するアメリカの安全保障の傘を失ったとしても、ヨーロッパが繁栄し続けることを期待している。この見方では、アメリカは自国に引き上げることになるかもしれないが、過去80年間で豊かになり、安定し、確実に民主政治体制を築いてきたヨーロッパは、多極化した世界において建設的で独立した勢力として行動する用意ができている。

しかし、おそらくポスト・アメリカのヨーロッパは、直面する脅威に対抗するのに苦労し、最終的には過去のより暗く、より無秩序で、より非自由主義的なパターンに逆戻りする可能性すらある。「今日の私たちのヨーロッパは死に向かっているようだ。死に至る可能性がある」とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月下旬に警告した。アメリカ・ファーストの世界では、そうなるかもしれない。

第二次世界大戦後、ヨーロッパは劇的に変化したため、多くの人々、特にアメリカ人は、この大陸がかつてどれほど絶望的に見えたかを忘れている。古いヨーロッパは、歴史上最も偉大な侵略者や最も野心的な暴君を生み出した。帝国の野心と国内の対立が紛争を引き起こし、世界中の国々を巻き込んだ。飛行家で、著名な孤立主義者でもあったチャールズ・リンドバーグは1941年、ヨーロッパは「永遠の戦争(eternal wars)」と終わりのないトラブルの土地であり、アメリカは、そのような呪われた大陸に近づかないほうが良いと述べた。

根本的な問題は、限られたスペースにあまりにも多くの強力なプレイヤーたちが詰め込まれている地理にあった。この環境で生き残る唯一の方法は、他者を犠牲にして拡大することだった。この力関係により、ヨーロッパは壊滅的な紛争のサイクルに陥ることになった。 1870年以降、この地域の中心部に、産業と軍事の巨大企業としての統一ドイツが出現したことにより、このビールはさらに有毒なものになった。ヨーロッパ大陸の政治は、ヨーロッパ大陸の地政学と同じくらい不安定だった。フランス革命以来、ヨーロッパは、自由主義と歴史上最もグロテスクな形態の暴政(tyranny)の間で激しく揺れ動いた。

1940年代後半、第二次世界大戦によって、こうした争いのサイクルが壊れたと考える理由はなかった。古い対立が残ったままとなった。フランスは、ドイツが再び蜂起して近隣諸国を破壊するのではないかと恐れていた。ソ連とその支配下のヨーロッパ共産主義者という形で、新たな急進主義が脅威に晒される一方、ポルトガルとスペインでは右翼独裁政権が依然として力を持っていた。多くの国で民主政治体制が危機に瀕していた。経済的貧困が対立と分裂(rivalry and fragmentation)を加速させた。

新しいヨーロッパの誕生は、決して必然ではなかった。長い間大陸間の争いを避けようとしていた同じ国(アメリカ)による、前例のない介入(unprecedented intervention)が必要だった。この介入は冷戦によって引き起こされ、遠く離れた超大国にとってさえヨーロッパにおける均衡(European equilibrium)の更なる崩壊が耐え難いものになる恐れがあった。1940年代後半から1950年代前半にかけて、しばしば混乱した状況の中、ヨーロッパは徐々に統合されていった。そして、それは革新的な効果をもたらす一連の連動した取り組みを特徴としていた。

最も重要なのは、NATOを通じたアメリカの安全保障への取り組みと、それを裏付ける軍隊の派遣であった。アメリカ軍による保護は、西ヨーロッパをモスクワから、そして西ヨーロッパ自身の自己破壊的な本能から守ることで、暴力の破滅のループを断ち切った。アメリカがこの地域を保護することで、宿敵同士はもはや互いを恐れる必要がなくなった。1948年に、あるイギリス政府当局者は、NATOが「ドイツとフランスの間の長年にわたるトラブルは消滅するだろう」と述べた。西ヨーロッパ諸国はついに、他国の安全を否定することなしに、安全を達成することができるようになった。その結果、この地域を悩ませていた政治的競争や軍拡競争が回避され、NATO加盟諸国が共通の脅威に対して武器を確保できるようになった。

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マーシャル・プランのポスターには、ヨーロッパ各国の国旗をシャッターに、アメリカ国旗を舵に見立てた風車が描かれている

こうしてアメリカの政策は、前例のない経済的・政治的協力という第二の変化を可能にした。マーシャル・プランを通じて、アメリカは復興支援の条件としてヨーロッパ域内の協力を積極的に推し進め、後にヨーロッパ経済共同体(European Economic CommunityEEC)やヨーロッパ連合(European UnionEU)となる国境を越えた構造を生み出した。アメリカ軍の存在は、かつての敵同士が安全保障を損なうことなく資源を出し合うことを可能にし、この協力を促進した。1949年、西ドイツのコンラート・アデナウアー首相は「アメリカ人は最高のヨーロッパ人だ」と述べた。言い換えれば、ワシントンの存在によって、ヨーロッパの同盟諸国は過去の対立関係を葬り去ることができたのである。

第三の変化は政治的なものであった。侵略が独裁政治に根ざしているとすれば、ヨーロッパの地政学を変革するには、その政治を変革する必要があった。その変革は、連合諸国の占領下にあった西ドイツの強制的な民主化(forced democratization)から始まった。この変革には、脆弱な民主政治体制国家を活性化させ安定させるためにマーシャル・プランによる援助が用いられた。この変革もまた、アメリカの軍事的プレゼンスによって可能になった。アメリカの軍事的プレゼンスは、ヨーロッパの民主政治体制を消し去ろうとするソ連の覇権(hegemony)を食い止めると同時に、急進的な左派や右派を疎外する寛大な福祉プログラムに投資することを可能にした。

これは、ヨーロッパの問題に対するアメリカ独自の解決策だった。アメリカだけが、ヨーロッパを敵から守るのに十分な力を持ち、しかもヨーロッパを征服して永久に従属させるという現実的な脅威をもたらさないほど遠い存在だった。アメリカだけが、荒廃した地域の再建を支援し、繁栄する自由世界経済をもたらす資源を持っていた。民主的自由を守りながら、そしてより強化しながら、ヨーロッパの対立を鎮めることができるのはアメリカだけであった。実際、西ヨーロッパにおけるアメリカのプロジェクトは、冷戦が終結すると、単純に東へと拡大された。

アメリカの介入は、歴史家マーク・マゾワーがヨーロッパを「暗黒の大陸(dark continent)」と呼んだように、拡大する自由主義秩序の中心にある歴史後の楽園(post-historical paradise)へと変えた。それは世界を変えるほどの偉業であったが、今ではそれを危険に晒すことを決意したかのようなアメリカ人もいる。

アメリカのヨーロッパへの関与は、決して永遠に続くものではなかった。マーシャル・プランを監督したポール・ホフマンは、「ヨーロッパを自立させ、私たちの背中から引き離す(get Europe on its feet and off our backs)」ことが彼の目標だったと口癖のように語っていた。1950年代、ドワイト・D・アイゼンハワー米大統領は、ワシントンが 「腰を落ち着けていくらかリラックスできる(sit back and relax somewhat)」ように、ヨーロッパがいつ一歩を踏み出せるかと考えていた。アメリカは何度も、駐留部隊の削減、あるいは撤廃を検討した。

これは驚くべきことではない。ヨーロッパにおけるアメリカの役割は、並外れた利益をもたらしたが、同時に並外れたコストも課した。アメリカは、核戦争の危険を冒してでも、何千マイルも離れた国々を守ることを誓った。対外援助を提供し、広大な自国市場への非対称的なアクセスを可能にすることで、アメリカはヨーロッパ大陸を再建し、外国がアメリカ自身よりも速く成長するのを助けた。

フランスのシャルル・ド・ゴール大統領など、アメリカが提供した保護に対して積極的に憤慨しているように見える同盟諸国の指導者を容認した。そしてワシントンは、最も尊敬されてきた外交の伝統の1つである邪魔な同盟への敵意を捨てて、長らく問題でしかなかったヨーロッパ大陸の管理者となった。

その結果、両義的な感情が冷戦の必要性によって抑えられ、また批評家たちがアメリカ抜きで実行可能なヨーロッパ安全保障の概念を提示できなかったからである。しかし今日、古くからの苛立ちが根強く、新たな挑戦がワシントンの関心を別の方向へと引っ張っているため、アメリカのヨーロッパに対する懐疑論はかつてないほど強まっている。その象徴がトランプである。

トランプは長い間、ワシントンがNATOで負担している重荷を嘆いてきた。彼は、ただ乗りしているヨーロッパの同盟諸国に対して、襲撃してくるロシアに「やりたいことを何でもやらせる(whatever the hell they want)」と脅してきた。トランプは明らかにEUを嫌っており、EUを大陸統一の集大成としてではなく、熾烈な経済的競争相手として見ている。非自由主義的なポピュリストとして、彼はヨーロッパの自由民主主義の運命に無関心である。私たちの間には海があるのに、なぜアメリカ人がヨーロッパの面倒を見なければならないのか? トランプがアメリカ・ファーストの外交政策を謳うとき、それはアメリカが第二次世界大戦以来担ってきた異常な義務を最終的に放棄する外交政策を意味している。

はっきり言って、トランプ大統領が就任後に何をしでかすかは誰にも分からない。NATOからの全面的な脱退は、共和党に残る国際主義者たち(Republican internationalists)を激怒させるだろうし、政治的代償に見合わないかもしれない。しかし、トランプが大統領の座を争い、彼の信奉者たちが共和党内で勢力を伸ばしていること、そして中国がアジアにおけるアメリカの利益に対する脅威をますます強めていることから、アメリカがいつか本当にヨーロッパから離脱するかもしれないという可能性を真剣に受け止め、次に何が起こるかを考える時期に来ている。

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2023年5月16日、アイスランドのレイキャビクで開催されたヨーロッパ評議会首脳会議で演説するウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領

楽観的なシナリオでは、ヨーロッパは民主政治体制を維持し、結束し、敵に対抗するために団結する。アメリカが撤退すれば、EUは現在の戦争中もウクライナを支援し、和平後もキエフに意味のある安全保障を与え、ロシアや、これまでアメリカが防いできたその他の脅威を撃退するために、自らを世界的な軍事的主体へと変貌させることができる。こうしてヨーロッパは、自由主義的な世界秩序の強力で独立した柱として台頭することになる。ワシントンは他の優先事項に集中することができ、民主政体世界においてより効率的な分業が構築される。

ヨーロッパには自活するだけの資源がある。1940年代後半のような脆弱で没落した場所ではなく、民主政治体制と協力が規範となった、豊かで潜在的な力を持つ共同体なのだ。EUGDPはロシアの約10倍である。2022年以降、EU諸国は共同してアメリカを上回る軍事援助やその他の援助をウクライナに与えており、冷戦後に萎縮した防衛産業への再投資もようやく進みつつある。さらに、ヨーロッパの指導者たちは、ポーランドがそうであるように、自国を本格的な軍事大国へと変貌させたり、パリで長年の優先事項となっているヨーロッパの戦略的自立を再び推し進めることを提唱したりして、すでにポスト・アメリカの未来に備えている。「より団結し、より主権があり、より民主的な」大陸を構築する時期は過ぎたとヨーロッパのポスト・アメリカの展望について最も強気であると思われる指導者マクロンが4月に宣言した。

楽観的なシナリオの問題点は、簡単に見出せる。マクロンは、アメリカのリーダーシップに代わるものとしてヨーロッパ統合を喧伝しているが、ヨーロッパが統一され、まとまってきたのは、まさにワシントンが安心感を与えてきたからだということを忘れているようだ。例えば、1990年代初頭のバルカン戦争の始まりのように、アメリカが一歩引いてヨーロッパ勢力の前進を許した過去の例では、その結果、戦略的な結束よりもむしろ混乱が生じることが多かった。EUは2022年2月まで、ロシアの侵略をどう扱うかについて深く分裂していた。この教訓は、利害や戦略文化が異なる数十カ国の間で集団行動を調整するのは、誰かが優しく頭を叩いて覇権的なリーダーシップを発揮しない限り、非常に難しいということだ。

独立した、地政学的に強力なヨーロッパが素晴らしく聞こえるとしても、誰がそれを主導すべきかについては誰も同意できていない。フランスは常に自発的な活動に積極的だが、パリに自国の安全を扱う傾向や能力があるとは信じていない東ヨーロッパ諸国を不快にさせている。ベルリンには大陸をリードする経済的素養があるが、その政治指導者階級は、そうすればドイツの力に対する恐怖が再び高まるだけだと長年懸念してきた。おそらく彼らは正しい。冷戦後のドイツ統一が近隣諸国にとって容認できたのは、アメリカとNATOに抱きしめられたベルリンがヨーロッパの優位性を追求することは許されないと彼らが保証されていたからだ。アメリカがヨーロッパの一員ではないからこそ、ヨーロッパ人たちがアメリカのリーダーシップを容認してきたという結論から逃れるのは難しい。アメリカはヨーロッパの一員ではないため、かつて大陸を引き裂いた緊張を再び高めることなく権力を行使できるのだ。

このことは、最後の問題と関連している。自国の安全保障問題を処理できるヨーロッパは、現在よりもはるかに重武装になるだろう。国防支出は多くの国で2倍、3倍に増加せざるを得ないだろう。ヨーロッパ各国は、ミサイル、攻撃機、高度な戦力投射能力など、世界で最も殺傷力の高い兵器に多額の投資を行うだろう。アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」が失われることで、ロシアを抑止したいと願う最前線の国々、とりわけポーランドは、独自の核兵器を求める可能性さえある。

仮にヨーロッパが本格的な武装を行ったとしよう。アメリカの安全保障という毛布がなければ、ヨーロッパ諸国が外からの脅威に立ち向かうために必要な能力を開発するという行為そのものが、域内での軍事的不均衡が生み出した恐怖を再び呼び起こす可能性がある。別の言い方をすれば、アメリカの力に守られたヨーロッパでは、ドイツの戦車は共通の安全保障に貢献するものである。ポスト・アメリカのヨーロッパでは、ドイツの戦車はより脅威的に映るかもしれない。

二つ目のシナリオは、ポスト・アメリカのヨーロッパが弱体化し、分裂するというものである。このようなヨーロッパは、無政府状態(anarchy)に戻るというよりは、無気力状態(lethargy)が続くということになるだろう。EUはウクライナを解放し、自国の東部前線国家を守るための軍事力を生み出すことができないだろう。中国がもたらす経済的・地政学的脅威に対処するのに苦労するだろう。実際、ヨーロッパは攻撃的なロシア、略奪的な中国、そしてトランプ大統領の下では敵対的なアメリカに挟まれることになるかもしれない。ヨーロッパはもはや地政学的対立の震源地ではなくなるかもしれない。しかし、無秩序な世界では影響力と安全保障を失うことになる。

これこそが、マクロンや他のヨーロッパ各国の首脳を悩ませるシナリオだ。既に進行している、または検討中のヨーロッパの防衛構想の多くは、これを回避するためのものである。しかし、短期的には、ヨーロッパが弱体化し分裂することはほぼ確実だろう。

なぜなら、アメリカの撤退はNATOの根幹を引き裂くことになるからだ。NATOは、その先進的な能力の大部分を有し、その指揮統制体制を支配している国である最も強力で最も戦いを経験した加盟国アメリカを失うことになる。実際、アメリカは NATO の中で、ヨーロッパの東部戦線やその先の戦線に断固として介入できる戦略的範囲と兵站能力を備えている唯一の国だ。このブロックに残るのは、主にアメリカ軍と協力して戦うように設計されており、アメリカ軍なしでは効果的に活動する能力に欠けているヨーロッパ各国の軍隊の寄せ集めとなるだろう。これらは、脆弱で断片化した防衛産業基盤によって支えられることになる。ヨーロッパのNATO加盟諸国は、170を超える主要兵器システムを重複して寄せ集めて配備している。この基盤は、迅速かつ協調的な増強を支援することができない。

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ポーランドのノヴァ・デバで多国籍軍の訓練に参加するポーランド兵(2023年5月6日)

アメリカの撤退後、軍事的に弱体化したヨーロッパは、ここ数十年のどの時期よりも高い動員ピッチに達したロシアと対峙することになるが、ヨーロッパがすぐに弱体化を是正する選択肢はほとんどない。

アメリカの力なしでロシアと均衡を図るには、ヨーロッパの軍事費の膨大で財政的に負担の大きい増額が必要となるだろうが、ロシアがウクライナを制圧し、その人口と経済をクレムリンの軍事機構に統合することに成功すれば、更にその必要性は高まるだろう。巨額の赤字を永久に続けるという米国政府の「法外な特権(exorbitant privilege)」がなければ、ヨーロッパ諸国は不人気な巨額の増税を課すか、社会福祉プログラムを削減しなければならないだろう。ポーランドやバルト三国などの一部の国は、独立を維持するためにその代償を払うかもしれない。また、軍事的な準備は社会契約を破る価値はなく、攻撃的なロシアに従う方が賢明だと判断する人もいるかもしれない。

あるいは、ヨーロッパ諸国はどのような脅威に対抗すべきかについて意見が対立するだけかもしれない。冷戦時代でさえ、ソ連は西ドイツを、たとえばポルトガルを脅かすよりもはるかに厳しく脅していた。EUが成長するに従って、脅威に対する認識の相違という問題はより深刻になっている。東部と北部の国々は、プーティン率いるロシアを当然恐れており、互いに防衛のために力を合わせるかもしれない。しかし、西や南に位置する国々は、テロや大量移民など非伝統的な脅威のほうを心配しているかもしれない。ワシントンは長い間、NATO内のこのような紛争において誠実な仲介役を果たし、あるいは単に、大西洋を越えた多様な共同体が一度に複数のことを行えるような余力を提供してきた。このようなリーダーシップがなければ、ヨーロッパは分裂し、低迷しかねない。

それは酷い結果だが、最も醜い結果ではない。三つ目のシナリオでは、ヨーロッパの未来は過去によく似ているかもしれない。

このヨーロッパでは、弱さは一時的なものであり、EUの安全保障のような集団行動(collective-action)の問題を克服できないのは、その始まりに過ぎない。ワシントンの安定化への影響力が後退するにつれ、長い間抑圧されてきた国家間の対立が、最初はゆっくりとかもしれないが、再燃し始めるからである。ヨーロッパ大陸における経済的・政治的主導権をめぐって争いが勃発し、ヨーロッパ・プロジェクトは分裂する。国内のポピュリストや外国の干渉に煽られ、離反主義的な行動(revanchist behavior)が復活する。穏健な覇権国が存在しないため、古くからの領土問題や地政学的な恨みが再び表面化する。自助努力の環境の中で、ヨーロッパ諸国は自国の武装を強め始め、核兵器だけが提供できる安全保障を求める国も出てくる。非自由主義的で、しばしば外国人嫌いのナショナリズムが暴走し、民主政治体制は後退する。数年、あるいは数十年かかるかもしれないが、ポスト・アメリカのヨーロッパは、急進主義と対立の温床(hothouse of radicalism and rivalry)となる。

これは、1990年代初頭に一部の著名な専門家たちが予想していたことである。バルカン半島での民族紛争、ドイツ再統一をめぐる緊張、ソ連圏崩壊後の東ヨーロッパにおける不安定な空白地帯(vacuum of instability)の全てが、このような未来を予期していたのである。冷戦終結後、アメリカはヨーロッパの影響力を縮小させるどころか拡大させた。ボスニアとコソヴォに介入して民族紛争を消し去ると同時に、EUが東方拡大(eastward expansion)について逡巡し遅滞する中で、東ヨーロッパをNATOの傘下に収めたからだ。しかし、だからといってヨーロッパの悪魔が二度と戻ってこない訳ではない。

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2019年11月7日、ブダペストでハンガリーのヴィクトール・オルバン首相と会談するトルコのレジェップ・エルドアン大統領(左)

今日、バルカン半島では激しいナショナリズムの炎が揺らめいている。トルコやハンガリーでは、修正主義的な不満(revisionist grievances)と独裁的な本能(autocratic instincts)が指導者たちを動かしている。2009年のヨーロッパ債務危機とそれに続く数年にわたる苦難と緊縮財政(austerity)は、ドイツの影響力(この場合は経済的影響力)に対する恨みが決して深く埋まらないことを示した。ウラジーミル・プーティンがヨーロッパ諸国に協力するあらゆる理由を与えている今日でさえ、ウクライナとポーランド、あるいはフランスとドイツの間に緊張が走ることがある。

懸念すべき政治的傾向もある。ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相は何年もかけてハンガリーの民主主義を解体し、「非自由主義国家(illiberal state)」の台頭を喧伝してきた。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も自国で同様のプロジェクトを進めている。フランスの国民連合(National Rally)のような政党は世論調査で上昇し、何世紀にもわたる歴史的不満が覚醒する準備を整え、ゼロサムの地政学的思考に陥りやすい硬直したナショナリズムを売りにしている。極右の「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAfD)」は、より過激になりながらも、政治的な競争者であり続けている。こうした運動の勝利は、ヨーロッパ諸国を互いに対立させようと躍起になり、政治戦争を繰り広げるロシアによって助長されるかもしれない。

分裂したヨーロッパが古代の悪魔(ancient demons)に支配されるというのは悪夢のシナリオであり、悪夢は通常、実現しない。しかし、理解すべき重要なことは、ポスト・アメリカのヨーロッパは、私たちが知っているヨーロッパとは根本的に異なるということである。アメリカのパワーとヨーロッパに対する傘によってもたらされた地政学的ショックアブソーバーはなくなる。地位と安全保障をめぐる不安定な不確実性が戻ってくる。各国はもはや、以前の時代を特徴づけていたような行動(軍備増強や激しい対立)に頼らなくても、自分たちの生存を確保できるという自信を持つことはないだろう。今日のヨーロッパは、アメリカが作り上げた歴史的にユニークで前例のないパワーと影響力の構成の産物である。75年もの間、旧態依然とした悪習を抑制してきた安全策が撤回されれば、旧態依然とした悪習が再び姿を現すことはないと、私たちは本当に言い切れるのだろうか?

ヨーロッパが今日の平和なEUへと変貌を遂げたことは、決して元に戻せないと考えてはいけない。

ヨーロッパが今日の平和なEUへと変貌を遂げたが、決して以前の状態に戻らないと考えてはいけない。結局のところ、ヨーロッパは1945年以前、例えばナポレオンが敗北した後の数十年間、比較的平和な時期を過ごしたが、勢力均衡(balance of power)が変化すると平和は崩壊した。見識を持ったように見える大陸に悲劇が起こることはあり得ないと考えてはならない。アメリカが関与する以前のヨーロッパの歴史は、世界で最も経済的に先進的で、最も近代的な大陸が、自らを引き裂くことを繰り返してきた歴史であった。実際、ヨーロッパの過去から学ぶことがあるとすれば、それは、現在想像できるよりも早く、そして険しい転落が訪れる可能性があるということだ。

1920年代、自由主義の勢力が台頭しているように見えた。しかし、イギリスの作家ジェイムズ・ブライスは、「民主政治体制が正常かつ自然な政治形態として普遍的に受け入れられた(universal acceptance of democracy as the normal and natural form of government)」と称賛した。新しく創設された国際連盟(League of Nations)は、危機管理のための斬新なメカニズムを提供していた。それからわずか10年後、大陸が再び世界大戦に突入する勢いを作り出したのはファシズム勢力だった。ヨーロッパの歴史は、物事がいかに早く完全に崩壊するかを物語っている。

アメリカ第一主義者(America Firsters)たちは、アメリカはコストを負担することなく、安定したヨーロッパの恩恵を全て受けることができると考えているかもしれない。現実には、彼らの政策は、ヨーロッパにはもっと厄介な歴史的規範があることを思い起こさせる危険性がある。それはヨーロッパにとってだけでなく、災難となる。ヨーロッパが弱体化し、分裂すれば、民主政体世界がロシア、中国、イランからの挑戦に対処することが難しくなる。暴力的で競争過剰な(hypercompetitive)ヨーロッパは、世界的な規模で影響を及ぼす可能性がある。

ここ数十年、ヨーロッパが繁栄する自由主義秩序の一部であることで利益を得てきたとすれば、その自由主義秩序は、平和的で徐々に拡大するEUを中核とすることで利益を得てきた。ヨーロッパが再び暗黒と悪意に染まれば、再び世界に紛争を輸出することになるかもしれない。アメリカが大西洋を越えて後退する日、それはヨーロッパの未来以上のものを危険に晒すことになるだろう。

※ハル・ブランズ」ジョンズ・ホプキンズ大学国際高等大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念特別国際問題担当教授兼アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナが国際的な関心を集めたのは、やはり2022年2月のロシアの侵攻によるウクライナ戦争からであった。ウクライナの地理的な条件や国内情勢は報道されてきたが、ここまで詳しく報道されることはなかった。戦争が始まってから、西側諸国が多くの支援を行っているが、一部に疑問を持たれているには、「ウクライナは長年ヨーロッパ連合やNATOに加盟申請をしてきているのに、どうして加盟が認められてこなかったのか」ということだ。NATOに関しては、元々が対ソ連の軍事同盟ということで、西ヨーロッパ諸国とアメリカで結成された組織であり、それが東方に拡大していった。ロシアと国境を接する東ヨーロッパ諸国も参加して、東方に拡大していった。ウクライナに関しては、ロシアが特に敏感で、もし参加を認めれば状況が不安定化するということで、参加は認められなかった。これはまぁ理解できることだ。

 それならばヨーロッパ連合に参加が認められてこなかったというのはどうしてか。それは、ウクライナが財政赤字を抱え、汚職にまみれた国で、とても「西側」の仲間に入ることができない国であったからだ。ウクライナは長年にわたり、ヨーロッパ連合加盟を申請してきているが、財政赤字の問題と汚職の問題をクリアしない限り、参加は認められない。ウクライナ戦争で、財政問題は仕方がないにしても、汚職問題は非常に厳しい。

 ウクライナでは戦争中も武器の横流しや徴兵逃れのための贈収賄が行われている。アメリカのUSAIDの協力(指示)を受けて、反汚職機関の整備を行っているようだが、ウクライナ政府内部での抵抗が大きいようだ。ゼレンスキーの側近たちも汚職を行っているという話もある。戦争が膠着状態になって、西側諸国(主にアメリカ)からの支援が横梨などされているということになれば、ウクライナ戦争への支援自体も再考されねばならない。

 戦争となれば莫大な予算が動く。それで汚職が起きる。これは中国太平洋戦争時代の日本でもあったことだ。日本の軍部の腐敗は酷かった。そのことの責任も取らずに、戦後ものうのうと生きた、戦前戦時中の政府高官たちや軍幹部たちの責任追及を徹底できなかったことが、現在の日本の衰退を真似ていると私は考えている。ウクライナも戦後、戦時中のウクライナ政府やウクライナ軍の腐敗について徹底追及しなければ、体質は変わらず、衰退し続けていくことになるだろう。

(貼り付けはじめ)

ウクライナは現在でも西側に参加するにはあまりにも汚職が蔓延している(Ukraine Is Still Too Corrupt to Join the West

-西側諸国の諸機関に参加することで戦争に勝利するという戦略は1つの高い、自分たちが作り出したハードルに直面している。

アンチャル・ヴォーラ筆

2024年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/29/ukraine-is-still-too-corrupt-to-join-the-west/

ウクライナは、西側諸国(the West)の政治共同体や安全保障制度に参加することでロシアを打ち負かすという戦略を採用しているが、西側の基準をはるかに超えた汚職との苦闘を続けているために、その戦略は台無しになっている。この問題はウクライナ国家の中枢にまで及んでいる。トップクラスの裁判官、政治家、役人たちが汚職容疑に直面し、国防省は、高値の卵や冬用ジャケットの調達、納入されなかった10万発の迫撃砲弾の購入、徴兵を逃れたい男性たちからの賄賂の受け取りなど、多くの汚職スキャンダルの中心となっている。

「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表した2023年の腐敗指数で、ウクライナは180カ国中104位となり、ウクライナが対等加盟(to join as an equal)を希望しているヨーロッパ連合(European UnionEU)加盟諸国よりもはるかに悪い結果となった。最も汚職の少ない国はデンマーク、ドイツは9位、エストニアは12位、フランスは20位だった。

過去10年間、ウクライナは汚職問題の是正に一定の成果を上げてきた。しかし、本誌がウクライナ、アメリカ、ヨーロッパの主要関係者たちに取材したところによると、ウクライナが欧米社会に完全に入り込み、望むような支援を受けるまでには、まだまだ多くのことを成し遂げなければならない。

EUは、ウクライナ人が親ロシア派の大統領に対して大規模な抗議行動を行った2014年以来、ウクライナの本質的な改革を支援してきた。その年、ウクライナ国民はヨーロッパを完全に受け入れるという希望を声高に表明し、ペトロ・ポロシェンコ大統領(当時)の下で、EUとの連合協定に調印し、「経済、司法、金融改革の追求(pursue economic, judicial, and financial reforms.)」を選択した。

NATOは、ウクライナの軍隊と国防機関の改革を支援してきた。2016年からは、「ウクライナがソヴィエト時代からNATOの基準に移行する(Ukraine transition from Soviet-era to NATO standards)」のを支援するための幅広い能力構築プログラムを含む包括的支援パッケージを通じて支援を組織してきた。

しかし、ウクライナの有力者の中には、改革要求は、戦争の当事者になることを恐れる一部の加盟諸国の政治的躊躇(political reticence)を隠すための「口実(an excuse)」にすぎないと指摘する人たちもいる。「ウクライナのNATO加盟を阻止している問題は、改革がないことではなく、いわゆるロシアのエスカレーションに対するアメリカとドイツの恐れだ(The issue that stops Ukraine’s inclusion in NATO is not the absence of reforms, but the fear in U.S. and Germany of the so-called Russian escalation)」と、ウクライナの元国防副大臣アリーナ・フロロワはキエフからの電話で本誌に語った。

米国防総省のある高官は匿名を条件に本誌のインタヴューに答え、政治的躊躇が理由であることは認めたが、汚職、軍に対する文民の監視の欠如(lack of civilian oversight over the armed forces)、政府機関の限られた透明性が大きな障害になっていると述べた。

この高官は、「防衛調達に関しては特に懸念がある。特定の指導者に近い人物に有利な契約を与えるケースもあった」と述べた。

ウクライナの2024年に適応された「年次国家計画(Annual National Program)」は、国防、法執行、統治の改革を求める重要な文書である。この計画の最重要目標の1つは、ヨーロッパ大西洋の手順と慣行に沿ってウクライナの防衛調達システムを改革することだ。国防部門における多くのスキャンダルは、国のために戦っているウクライナ国民の信頼を揺るがしただけでなく、西側支持者、特にウクライナの戦争努力に全軍事援助の99%を送ってきたNATO同盟諸国の信頼も揺るがした。

本誌は、ウクライナがロシアと戦っているにもかかわらず、ウクライナが防衛調達における汚職をチェックするための制度的手段を確立するのにNATOの専門家たちが支援していることを知った。ウクライナは、汚職撲滅が期待される国家物流実施機関(State Logistics OperatorDOT)と国防調達庁(Defense Procurement AgencyDPA)という2つの新たな調達機関を設立した。国家物流実施機関は食料、毛布、靴、軍が必要とするその他の日用品などの非致死性品を調達する一方、国防調達庁は軍需品を調達する。

2つの別個の機関の創設は、戦争のさなかにおける武器購入に関連する情報に秘密が含まれるためであり、それが公開されれば、敵対者が戦闘計画を立てるのに役立たせる可能性がある。NATOは、戦争が終われば両機関が統合されることを期待している。

ウクライナ議会議員で議会汚職防止委員会の副委員長であるヤロスラフ・ユルチシンは、それでもなお、最近まで新機関に割り当てられている全ての機能を果たしていた国防省の権限を各機関が縮小することになると示唆した。

ユルチシンは、本誌の取材に対して次のように答えた。「調達ルール(procurement rules)を定め、参謀の要望に応じておおよその購入金額を算出し、オークションを開催した。現在、これらの権力は分割されている。これにより、第一に、国防省は汚職のリスクを回避できるようになる」。

オレクシィ・レズニコフの後任として、2023年9月に任命されたウクライナ国防大臣ルステム・ウメロフは12月の演説で、新システムは「国際基準とNATOの原則に従って国際パートナーと連携して構築された(built according to international standards and NATO principles in coordination with our international partners)」と述べた。

ユルチシンは、ウクライナが公務員に対し資産を申告し、その情報を公的にアクセスできるようにする義務を復活させたと述べた。2022年2月にロシアが本格的な侵攻を開始したとき、この要件は一時停止されていた。しかし、この措置には「多かれ少なかれ平和な都市で働く人々」を除き、軍のメンバー全員が含まれているわけではないとユルチシンは付け加えた。

ウクライナは米国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)と協力して、政府と国民の間のインターフェースをデジタル化した。電子政府アプリおよびデジタル プラットフォームである「ディイア(Diia)」を使用すると、給付金の申請、税金の支払い、ビジネスの登録と運営、戦争で国を離れたウクライナ人への援助へのアクセスなどのサービスを利用して、「ウクライナ人がワンストップショップでオンラインで政府と関わることができる」。USAIDDiiaを「電子政府のゴールドスタンダード(the gold standard in e-government)」と表現し、ウクライナがこの技術を他国と共有することに取り組んでいることを指摘した。

上記の変化は注目すべきものではあるが、それらはウクライナがいつかヨーロッパ連合とNATOに加盟するための長い旅路のほんの小さな一歩とみなされている。「年次国家計画」ではまた、民主的管理(democratic control)の強化と、軍隊および広範な安全保障および防衛部門に対する監視の強化も求められている。『キエフ・インディペンデント』紙のジャーナリストであるダニーロ・モクリクは、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は国防省に対する政治的監督権を持っているが、国内の4大汚職防止機関の1つである国家汚職防止局が法的監督権を持っていると述べた。しかしモクリクは、どちらも十分ではないと主張した。

モクリクは、本誌の取材に対して電話で、「大統領による政治的な監視はかなりソフトだ。反汚職局による法的な監視は、限定的と言えるでしょう」と答えた。モクリクは国防省が大規模な汚職疑惑の渦中にあることが発覚した後に退任したレズニコフについて、「例えば、前次官や調達会社に対する手続きはあるが、上層部は退陣を求められるだけで、前国防相に対する刑事手続きはない」と述べた。

ウクライナの4機関が軍を含む中央政府当局の汚職を捜査している。しかし、活動家たちは、これらの機関のうち、少なくとも2つの機関の独立性に懸念があると述べた。例えば、「汚職対策局長は政府に非常に忠実であるようだ」とモクリクは付け加えた。

国内の法執行機関の改革に関してさえも、政府の動きはヨーロッパ連合やウクライナ国民の予想よりも遅い。ウクライナの閣僚たちは、ウクライナ当局者とヨーロッパ連合諮問使節団の代表者が起草した法執行機関改革の行動計画をまだ承認していない。

ユルチシンは次のように述べた。「行動計画は依然としてウクライナ閣僚会議によって承認される予定だ。内務省(Ministry of Internal Affairs)は承認を求める文書をウクライナ内閣に提出しなければならない。承認後に実施が開始されるため、現時点ではまだ何も行われていない。」

ヨーロッパ連合加盟のもう1つの主要な基準は独立した司法(independent judiciary)だ。昨年5月、ウクライナ検察は、300万ドル近い賄賂を受け取った疑いでウクライナの最高裁判所長官を拘束した。そして、2022年、中央公共当局に対する訴訟を検討する権限を持っていたキエフ地方行政裁判所は、裁判官の職権乱用が判明したことを受けて解体された。

非政府組織「キエフ汚職防止活動センター」の国際関係責任者であるオレナ・ハルシュカは本誌の取材に対して、中央政府機関に対する訴訟を扱う新しい裁判所はまだ設立されていないと述べた。また、別の活動家は本誌に対し、司法関係者の多くがより厳格な審査手続きに抵抗していると語った。

ヨーロッパ委員会のウクライナに関する2023年報告書の主要な調査結果の中で、ヨーロッパ委員会は「中央政府機関が関与する事件を処理し、適切に審査された裁判官を配置する新しい行政裁判所を設立する必要がある(new administrative court to handle cases involving the central government bodies and staffed by properly vetted judges needs to be established)」と指摘した。

専門家たちはまた、防衛の分野ではウクライナはもっとできると確信している。ウクライナの防衛調達における問題の1つは、致死的か、非致死的かにかかわらず、同じ物資に対する需要がウクライナの諸機関で競合していることであり、専門家たちはこれが供給業者の価格上昇を可能にしていると考えている。NATOは、ウクライナが汚職や不履行の可能性のある取引に巻き込まれることを避けるために、承認されたサプライヤーの登録簿を作成する必要があると提案した。

米国防総省のある高官は、「ウクライナは上昇軌道(upward trajectory)に乗っている。これらの改革を真剣に受け止めなければ、NATOの加盟国にはなれない」と述べた。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについての記事を執筆。『タイムズ』誌(ロンドン)中東特派員、アルジャジーラ・イングリッシュとドイッチュ・ウェルのテレビ特派員を務めた。ベイルートとデリーを拠点にして、20カ国以上の紛争と政治について報道してきた。ツイッターアカウント:Twitter: @anchalvohra

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行いたしました。ウクライナ戦争について詳しく分析しました。是非お読みください。

 ヨーロッパには、ヨーロッパ連合(European UnionEU)とNATO(北大西洋条約機構)という大きな国家連合、協力の枠組みがる。NATOはヨーロッパを超えて、アメリカやトルコも加盟している。EUは元々が経済協力のための枠組みであったヨーロッパ経済共同体(European Economic CommunityEEC)が前身のため、経済活動がメインとなる。もちろん、軍事組織もあるが、それがメインではない。NATOは、冷戦下に、対ソ連の集団防衛を目的としたもので、ソ連崩壊後も存続し、現在はロシアの脅威に対抗する組織となっており、安全保障がメインだ。NATOがヨーロッパの防衛、安全保障のメインの枠組みということになり、これは、アメリカが大きな役割を果たすということになる。アメリカ側皮すれば、好意的に解釈すれば「アメリカにとって重要なヨーロッパ地域の安全保障に貢献する」ということになるが、悪く解釈すれば「ヨーロッパはアメリカのお金と軍隊にただ乗りして、自分たちをアメリカに守らせている」ということになる。ドナルド・トランプ前大統領は、アメリカ軍の引き上げ、ヨーロッパ諸国の負担増を求めたが、これはアメリカ国民の多くの意思を反映している。

 ヨーロッパは、2022年2月からのウクライナ戦争を受けて、自分たちの防衛について真剣に考えねばならなくなった。アメリカに頼るのか、アメリカに頼るにしてもどの程度頼るようにするか、自分たちでどれだけのことができるか、ロシアの脅威はどれくらいで、自分たちの負担はどれくらいになるか、負担をどのように分担するかということが問題になってくる。ヨーロッパの防衛のためには、各国の協力が不可欠であるが、以前に昇華した論稿にもあったが、それぞれの国の軍事装備の基準の違いやインフラの規格の違いなどから、協力は大変難しい状況だ。それでも、ウクライナ戦争を受けて、防衛協力について、真剣に考えねばならないようになっている。

 しかし、ここで考えねばならないことは、ロシアがヨーロッパ諸国にとって脅威とならないように対応するということだ。ロシアがヨーロッパを脅威と捉えて侵攻するということがないような状況を作ることも大切だ。戦争が起きない状況を作ることも真剣に考えねばならない。アメリカやイギリスが「作り出す」ロシアの脅威という幻想に踊らされないことが何よりも重要だ。これは日本にも言えることだ。「中国の脅威」「台湾危機」といった言葉に安易に踊らされないようにしたいものだ。

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何故ヨーロッパは軍事行動を合同して行えないのか(Why Europe Can’t Get Its Military Act Together

-ヨーロッパ大陸は、軍事的自立(military autonomy)への道のりで複数の障害に直面している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/21/europe-military-trump-nato-eu-autonomy/

ドナルド・トランプ前米大統領は選挙集会で、自身が防衛義務を怠っていると判断した国々について、ロシアに対し「やりたいことは何でもする(do whatever the hell they want)」よう促すと述べ、ヨーロッパに警鐘を鳴らした。ヨーロッパ諸国は既に、トランプの2度目の大統領就任の可能性について懸念していたが、今回の発言でこうした懸念がさらに高まった。ヨーロッパ委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は数日後、『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、ヨーロッパは「より荒れた(tougher)」世界に直面しており、「私たちはより多くの支出をしなければならないし、より賢く支出をしなければならないし、そしてヨーロッパのための支出をしなければならない」と語った。

しかし、疑問が残る。ヨーロッパは自らを守るために十分なことを実行するだろうか? ヨーロッパ諸国がアメリカの保護に過度に依存し(overly dependent)、十分な防衛力を維持しようとしないという、アメリカ側の不満には長い歴史があり、2022年にロシアがウクライナに侵攻したことで警鐘が鳴らされたが、ヨーロッパの使える軍事力が劇的に向上することはまだない。たしかに、NATO加盟諸国は現在、より多くの資金を費やしており、EUは最近、ウクライナへの追加的な500億ユーロの財政支援を承認した。しかし、数週間以上にわたって実戦部隊を維持するヨーロッパの能力は、依然として微々たるものだ。つまり、いくつかの重要な能力は依然としてアメリカに依存しており、NATO加盟諸国の一部には、自分たちが攻撃された場合、そのパートナーが助けようと努力したとしても、それほどのことができるのか疑問を持つ国もある。

確かに、ヨーロッパの高官たちのレトリックはより激しくなっている。デンマークのトロエルス・ルンド・ポウルセン国防相は最近、ロシアは「3年から5年以内に」NATOの相互防衛条項を試すかもしれないと警告し、別のNATOの幹部外交官は、もはや「ロシアがウクライナで止まってくれると考える余裕はない」と考えていると述べた。別の上級外交官によれば、ロシアが2030年までにNATO加盟諸国を攻撃する「意図と能力(intent and capability)」は、現時点では同盟内の「ほぼ総意(pretty much consensus)」だと述べた。ヨーロッパが独自に十分な能力を開発するには10年以上かかる可能性があるため、熱心な大西洋主義者たちは、アメリカの時間、注意力、資源に対する競合する全ての要求にもかかわらず、アメリカをヨーロッパにしっかりと関与させ続けたいと考えている。

ヨーロッパは行動を共にできるのか? ここでは、2つの確立された理論体系(well-established bodies of theory)が関連する。1つは、私が貢献しようとしている「力の均衡(balance of power)」(あるいは「脅威の均衡[balance of threat]」)理論である。この理論では、ヨーロッパの安全保障に対する深刻な外的脅威(external threat)、たとえば強力な軍事力と高度な修正主義的な野心を持つ大国が近隣に出現した場合、その脅威を抑止するために(あるいは必要であれば、その脅威を打ち負かすために)、これらの国のほとんどが力を合わせると予測している。このような衝動は、もしこれらの国々が、自分たちは他の誰にも保護を頼ることができないと理解すれば、より強くなるだろう。最近のヨーロッパの国防費の増加とスウェーデンとフィンランドのNATO加盟決定は、脅威に晒されている国々が完全に均衡(バランス)を取る傾向を示しており、この確立された傾向により、ヨーロッパが自らの防衛に対してより大きな責任を負う能力と意欲について、私たちがより楽観的になれるはずだ。

しかし、残念なことに、2つ目の理論体系がこの明るい結果を確実なものにはしていない。安全保障は「集合罪(collective good)」であるため、同盟関係にある国家は、自国の安全保障を維持するために、たとえ自国の貢献が少なくても、パートナーが十分な貢献をしてくれることを期待して、他国の努力を「バックパス(back-pass)」したり、もしくは、フリーライド(ただ乗り、free-ride)したりしたくなる。この傾向は、同盟の最強メンバーが集団的努力に不釣り合いなほど貢献する傾向がある理由を説明するのに役立つ。同盟の主要メンバーが攻撃を抑止または撃退するのに十分な働きをすれば、小規模なメンバーの貢献は余計なものになるかもしれない。結局のところ、同盟は彼らの努力を倍増させたとしても、それほど強くはならないのである。それゆえ、強力なアクターが自らの利己的な利益のために十分なことをしてくれると確信し、力の弱いアクターたちはより少ない貢献をする誘惑に駆られるのである。しかし、もし十分な数のメンバーが、より大きな負担を他のメンバーに負わせる誘惑に屈したり、他の利己的な利害が協力の必要性に打ち勝ったりすれば、同盟は安全確保に必要な統合能力(combined capabilities)と協調戦略(coordinated strategy)を生み出さないかもしれない。

これら2つのよく知られた理論を合わせると、NATOが今日直面しているディレンマが浮き彫りになる。良いニューズとしては、NATOのヨーロッパ加盟諸国はロシアよりもはるかに潜在的な力を持っているということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍から4倍、経済規模はロシアの10倍にも達する。いくつかのヨーロッパ諸国は、優れた兵器を生産できる高度な軍事産業を持っており、冷戦後期には強大な地上軍と空軍を保有していた国もある(ドイツなど)。さらに驚くべきことに、NATOのヨーロッパ加盟諸国だけで、毎年少なくともロシアの3倍以上の防衛費を費やしている。人件費の高騰や努力の重複、その他の非効率を考慮したとしても、潜在的な能力が適切に動員され、指揮されることを前提にすれば、ヨーロッパにはロシアの攻撃を抑止したり、撃退したりするのに十分すぎるほどの潜在的戦力がある。ウクライナ戦争が始まって以来、ロシアの軍事力と国防生産能力は大幅に向上しているが、数が少なく、武装も不十分なウクライナ軍を打ち負かすのは難しい。バフムートやアブディフカを占領するのに数カ月かかる軍隊が、他の誰に対しても電撃戦(blitzkrieg)を成功させることはできない。

悪いニューズは、有能なヨーロッパ防衛力を構築するための持続的な取り組みが大きな障害に直面していることだ。第一に、NATOのヨーロッパ加盟諸国は主要な安全保障問題のレヴェル、あるいはその正体についてさえ意見が一致していない。バルト三国やポーランドにとっては、ロシアが最大の危険をもたらしていることは明らかである。しかし、スペインやイタリアにとっては、ロシアはせいぜいが遠い問題であり、不法移民の方が大きな課題である。アナリストの一部とは異なり、私はヨーロッパがこうした状況にあっても、ロシアに対して効果的な防衛を行うことを邪魔するとは考えない。しかし、負担の分担や軍事計画の問題をより複雑にしている。ポルトガルにエストニアを支援するよう働きかけるには、ちょっとした説得が必要だろう。

第二に、ヨーロッパに更なる努力を求める人々は、微妙なディレンマに直面している。深刻な問題があることを人々に納得してもらわなければならないが、同時に、その問題を解決するのにそれほど費用がかかったり困難であったりする訳ではないと納得してもらわなければならない。ロシアの軍事力を誇張し、ウラジーミル・プーティンを無限の野望を抱く狂人として描くことで、大規模な防衛力増強への支持を集めようとすれば、ヨーロッパが直面している課題は克服不可能に見え、アメリカに頼ろうという誘惑が強まるかもしれない。しかし、ロシアの力と野望がより控えめであり、それゆえ管理可能であると信じられれば、今大きな犠牲を払い、長期にわたって真剣な努力を維持するようにヨーロッパ各国の国民を説得することは難しくなる。より大きな自主性を機能させるためには、ヨーロッパの人々にロシアが危険であることを信じさせねばならないが、同時に、たとえアメリカの力が大幅に弱まったとしても、自分たちならこの問題に対処できると信じさせねばならない。このため、アメリカの全面的な関与を維持するために、ヨーロッパ諸国が自国を防衛することは単に不可能だと主張することは、ヨーロッパの真剣な取り組みを抑制し、アメリカがいずれにせよ関与を縮小することになれば、逆効果になりかねない。

第三の障害は、核兵器の曖昧な役割である。核兵器が大規模な侵略行為を抑止すると確信している場合、英仏の核戦力とアメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」が、どんな状況下でも、ロシアの攻撃からNATOを守ってくれると考えるだろう(ウクライナはNATO加盟国ではないことを覚えておく価値がある)。そうであれば、大規模で高価な通常戦力を構築する必要はない。しかし、拡大核抑止の信頼性に確信が持てない場合や、低レヴェルの挑戦に対して核兵器使用の威嚇をする必要がない場合は、能力のある通常戦力が提供するような柔軟性を求めることになる。この問題は、1960年代の「柔軟な対応(Flexible Response)」をめぐる同盟内論争や1980年代の「ユーロミサイル(Euromissiles)」論争が示すように、冷戦期を通じてNATO内で争点となった。核兵器が存在し続けることで、通常戦力を停滞させる誘惑に駆られる国が出てくる可能性があるという点で、この問題は今日でも関連している。

第四に、ヨーロッパ諸国は武器の標準化や共通戦略や防衛計画の策定に協力する代わりに、依然として自国の防衛産業や軍隊に投資することを好んでいる。戦略国際​​問題研究所の2023年の報告書によると、2014年にロシアがクリミアを占領して以来、ヨーロッパ全体の国防費は急激に増加しているものの、共同調達努力(cooperative procurement efforts)に充てられる割合は、2021年まで着実に減少し、EUによって設定された、以前の目標である35%に近づくことはなかった。 EU諸国は、支出が少ないにもかかわらず、約178の異なる兵器システムを配備していると報告されており、アメリカよりも148も多い。単独で行動しようとする頑固な傾向は、ヨーロッパが潜在的な挑戦者に対して享受している膨大な潜在的資源の優位性を無駄にしており、もはや余裕のない贅沢である可能性がある。

最後の障害は、少なくとも現時点では、ヨーロッパの自立を奨励することに対するアメリカの長年の曖昧さである。アメリカは一般に、ヨーロッパのパートナー諸国が軍事的に強いが強力すぎないこと、政治的に団結しているが団結しすぎていないことを望んでいる。それは何故か? それは、NATOは、有能ではあるが従属的なパートナーの連合に対するアメリカの影響力を最大化したからである。アメリカ政府は、NATOの残りの国々が有用であるだけでなく、アメリカの要望に完全に従うのに十分な強さを持たせたいと考えており、これらの国々がより強くなり、一つの声で発言し始めれば、現状のNATOを維持するのは難しくなるだろう。ヨーロッパの依存と従順さを維持したいという願望により、歴代のアメリカ政権は、ヨーロッパの真の戦略的自治につながる可能性のあるあらゆる措置に反対するようになった。

しかし、そうした時代は終わりを告げようとしている。アメリカが「全てを持つことはできない」こと、そして集団的防衛(collective defense)の重荷をヨーロッパのパートナー諸国にもっと転嫁する必要があることを認識するのに、トランプ的である必要はない。しかし、過去の例を見る限り、ヨーロッパの指導者たちが、どんな状況下でもアメリカが「全面的(all-in)」に関与してくれると信じているのであれば、ヨーロッパがその責任を負うことはないだろう。1950年代初頭にヨーロッパ経済統合が推進された背景には、アメリカがやがて大陸から軍を撤退させ、ワルシャワ条約機構に対抗する能力が、大規模で統一されたヨーロッパ経済秩序の構築によって強化されるというヨーロッパ全体の懸念があったことは、思い出す価値がある。ヨーロッパ統合の背後にある安全保障上の衝動は、アメリカの残留が明らかになった時点で後退したが、アメリカの関与に対する疑念の高まりは、ヨーロッパの優れた経済力と潜在的な軍事力を、純粋に自己の利益のために、より効果的に動員する十分な動機を与えるだろう。

来年のホワイトハウスが誰になるかにかかわらず、アメリカ政府関係者たちはこの動きを後押しすべきである。以前にも主張したように、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパに戻すプロセスは、大西洋間の新たな役割分担の一環として、徐々に行うべきである。アメリカへの依存度が下がれば、ヨーロッパはより精力的にバランスを取るようになり、この方向にゆっくりと、しかし着実に進むことで、同盟諸国は必然的に生じる集団行動のディレンマを克服する時間を得ることができる。ヨーロッパ諸国はロシアよりもかなり多くの軍事的潜在力を持っているため、これを完璧に行う必要はなく、かなり安全な状態にすることができる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 下に紹介しているシェンゲン協定(Schengen Agreement)とは、ヨーロッパ諸国間で国境での審査や検査なしで国境通過を許可する協定だ。加盟している国(ヨーロッパの国)の国民であれば、加盟している国々の間を自由に往来できる。日本のパスポート所有者であれば、それに近い形で往来ができる。ヨーロッパ連合(European UnionEU)の加盟諸国とほぼ重なるが、EUに加盟していなくてもシェンゲン協定に加盟している国があるし、逆にEUに加盟していながら、シェンゲン協定には加盟していない国もある。

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シェンゲン協定に関するヨーロッパの現状

 今回ご紹介している論稿では、「ヨーロッパ諸国の間での武器や装備品の軍事移動が自由にできるようにすべきだ」という内容だ。ヨーロッパはEUNATOという枠組みでまとまっている(加盟していない国もあるが)。両組織共に、大雑把に言ってしまえば、「対ソ連(現在は対ロシア)でまとまる」ということになる。ロシアが戦車部隊と先頭にして退去として押し寄せてくるというイメージがあるようだ。

 それが、2022年2月からのウクライナ戦争で現実のものとなるかもしれないとヨーロッパ諸国で懸念が高まった。また、ロシアがウクライナ戦争への参戦はロシアに対する敵対行為となり、核兵器による攻撃の可能性も排除しないということになって、ヨーロッパ諸国、特に西ヨーロッパの先進諸国は及び腰となった。ウクライナが戦闘機をはじめとする、より効果の高い、より程度の高い武器の供与を求めているのに、西側諸国は、ロシアからの核攻撃が怖いものだから、ウクライナの要請を聞き流している。ヨーロッパ諸国の考えは、「自分たちにとばっちりが来ないようにする、火の粉が降りかからないようにする」というものだ。

 ヨーロッパ諸国はまた、アメリカの力の減退、衰退を目の当たりしている。そこで、「これまではアメリカに任してきたし、本気で取り組む必要がなかった、対ロシア防衛を本気で考えねばならない」という状況に追い込まれた。ロシアはヨーロッパの東方にあり、もし戦争となれば、ロシアに隣接する、近接する国々の防衛をしなければならないが、これらの国々は小国が多く、とても自分たちだけでは守り切れない。そこで、西ヨーロッパからの武器や装備人の支援が必要となる。しかし、これが大変に難しい。
 ヨーロッパはEUとして一つのまとまりになっているが、それぞれの国の制度が個別に残っているので、道路や鉄道の規格が異なるために、武器を陸上輸送するだけも大変なことだ。軍事移動の自由がかなり効かない状態になっている。まずはそこから何とかしなければならないということになる。

 今頃になって慌てているヨーロッパ諸国、NATOはお笑い草だが、ロシアが西ヨーロッパに手を出すと本気で心配して慌てだしているのは何とも哀れだ。経済制裁を止めて、エネルギー供給を軸にした以前の関係に戻れば何も心配はいらない。そのうちにこう考えるようになるだろう、「アメリカがいるから邪魔なんじゃないか」と。ヨーロッパのウクライナ戦争疲れからアメリカへの反発が大きくなっていくかもしれない。

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「軍事シェンゲン圏」時代が到来(The ‘Military Schengen’ Era Is Here

-ヨーロッパ共通の軍事的野心の第一歩は自由な移動について理解することである。

アンチャル・ヴォーラ筆

2024年3月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/04/europe-military-autonomy-nato-schengen/

2024年1月下旬、ドイツ、オランダ、ポーランドの3カ国は、3カ国の間に軍事輸送回廊(military transport corridor)を設置する協定に調印し、ヨーロッパ全域の軍事的流動性(military mobility)を向上させるという、長い間議論されてきたがほとんど追求されてこなかった目標に大いに弾みをつけた。ドイツ国防省のシェムティエ・メラー政務次官は、この回廊によって軍事移動が「真の軍事シェンゲン圏(true military Schengen)への道を歩むことになる」と述べた。ヨーロッパの政策立案者たちが、シェンゲン圏内の人と商業物資のヴィザなし移動を、ヨーロッパ全域の軍隊と軍事装備の移動に適応させるというアイデアを浮上させたのは、これが初めてではない。しかし、このアイデアは現在、明らかに勢いを増している。

軍事シェンゲン圏構想が浮上したのは、ロシアによるクリミア併合の後だった(2014年)。ロシアによるクリミア併合から10年、ウクライナへの侵攻から2年が経過した今、ヨーロッパはロシアのウラジーミル・プーティン大統領が更に西側への軍事行使に踏み切る可能性に備える必要があることを認識しつつある。ヨーロッパの軍事関係者たつは、冷戦で学んだ教訓を掘り下げている。その中には、軍の機動性に関する具体的な教訓も含まれている。

しかし、複数の専門家、外交官、軍関係者が本誌に語ったところによると、その進展は望まれているよりもはるかに遅れている。ポーランドのNATO常任代表であるトマシュ・シャトコフスキは本誌に対し、「ルールの自由化は誰もが支持している。しかし、問題は2015年以来、私たちはそれについて話し続けてきたということだ」。彼らは、ヨーロッパは冷戦時代の緊張が戻ってきた可能性があることを認めており、ヨーロッパ諸国が兵員や物資を効果的に移動させるには「長い道のり(long way to go)」があると述べた。

ヨーロッパにおける軍事ミッションに関連するあらゆるものの通過には、官僚的なハードルから決定的な遅れの原因となるインフラのギャップまで、さまざまな障害がつきまとう。バルト三国であるエストニアのヨーロッパ連合(European UnionEU)議員で、外務委員会の副委員長を務めるウルマス・パエトは、軍事的機動性を10段階の中で3段階でしかないと評価し、現在、バルト三国に物資を送るには「数週間から少なくとも1週間以上」かかると述べた。

書類仕事は煩雑で大変だ。様々な国の様々な省庁から、時には国内の様々な地域から、いくつもの承認を得る必要がある。ほとんどの道路や橋は民間用に建設されたものであり、重い軍事機材の重量に耐えられるとは考えられない。中央ヨーロッパの燃料パイプラインは東部諸国に伸びていないため、燃料供給の遅れが長期化すれば、決定的な要因となりかねない。更に言えば、旧ソ連諸国の鉄道の軌間はヨーロッパの鉄道の軌間とは大きさが異なり、戦時に数千人の兵員や装備を列車から別の列車に移すことは、さらに時間のかかる作業となる。

軍事シェンゲン圏の最初の提唱者であり、この言葉を作ったと思われる、NATO司令官を務めたベン・ホッジス中将は、少なくともここ数年、軍事移動性について議論が盛り上がっているのは良いことだと評価している。ホッジス司令官は最近のミュンヘン安全保障会議に出席し、本誌の取材に対して、「現在、様々な国の様々な政府機関の閣僚たちが軍事シェンゲン圏について話しているのを聞くようになっている」と語った。

ホッジス元司令官は、危機に際して迅速に行動する能力は、軍事抑止ドクトリンの重要な部分であると述べた。彼は更に、軍隊が動員され、迅速に移動する能力は、敵にとって目に見えるものでなければならず、そもそも攻撃することを抑止するものでなければならない、と述べた。

ホッジスは「私たちは装備や兵力だけでなく、迅速に移動し、予備部品を供給し、燃料や弾薬を保管する能力など、真の能力を持たなければならない。ロシアに私たちがそうした能力を持っていることを理解させる必要がある」と述べた。

ホッジスは、ドイツ、オランダ、ポーランドの合意は素晴らしいスタートだと称賛し、このような回廊は他にも数多く検討されていると述べた。ブルガリアのエミール・エフティモフ国防長官は、同盟諸国はギリシャのアレクサンドロウポリスからルーマニアへの回廊と、アドリア海からアルバニアと北マケドニアを通る回廊を優先すべきだと述べた。

ホッジスは続けて、「彼ら(同盟諸国)はギリシャからブルガリア、ルーマニアまでの回廊を望んでいる。これら全ての回廊の目的は、インフラの面でスムーズなルートを確保するだけでなく、税関やすべての法的なハードルを前もって整理しておくことだ」と述べた。

ドイツ、オランダ、ポーランドの回廊は多くの構想の中の最初のものであり、ボトルネックを特定して解決し、将来の回廊のモデルとなる可能性があると期待されている。匿名を条件に本誌の取材に応じたあるドイツ軍幹部は、この回廊ではあらゆる問題を調査すると述べた。この軍幹部は、ドイツでは各州、つまり連邦州が領土内を通過する軍隊や危険な装備について独自の法律を定めているため、平時においては当局が連邦手続きを円滑化することも可能になると述べた。戦争時には、回廊は「単なる通り道以上のもの(much more than a road)」になるだろうと彼は付け加えた。

上述の軍幹部は「危機発生時にはおそらく10万人以上の兵士が出動するだろう。移動を停止し、休憩し、スペアパーツを保管する倉庫や燃料保管センターにアクセスできる場所が必要となるだろう。そのようなシナリオには、戦争難民の世話をするための取り決めも必要になるだろう」と述べた。

これは、3カ国の間でさえ難しいことだ。20数カ国の加盟国間の協力、特に武装した兵士や危険な機械が関係する協力には、更に数え切れないほどの規制が課されることになる。前述のウルマス・パエトは、「防衛は、『国家の権限(a national competence)』であり、各国は共有したいものを共有する」と述べた。軍事的な荷重分類があり、重戦車の重量に耐えられる橋がどこにどれだけあるかといったような重要なインフラの詳細については、各国はなかなか共有しない。

ヨーロッパ外交評議会(European Council of Foreign Relations)というシンクタンクの防衛専門家であるラファエル・ロスは、インフラの必要性に関するカタログは存在しないと述べた。ロスは「どこにどのようなインフラが必要なのか、明確になっていない」と本誌に語った。ヨーロッパ政策分析センター(Center for European Policy AnalysisCEPA)が2021年に発表した報告書によると、欧州では高速道路の90%、国道の75%、橋の40%が、軍事的に分類される最大積載量50トンの車両を運ぶことができる。ウクライナの戦場でロシアを相手にステルス性を証明したレオパルド戦車やエイブラム戦車は、重量がかなりある。

ホッジスは次のように語っている。「レオパルド戦車の重量は約75トンで、エイブラムス戦車はもう少し重い。これらの戦車のほとんどは、重装備輸送車(heavy equipment transportersHETs)の荷台に載せられて輸送され、HET1台あたりの重量は約15トンから20トンだ」。CEPAは、トラック、トレーラー、重戦車の組み合わせは120トンをはるかに超える可能性があると指摘し、軍事的移動に適したインフラはほぼ存在しないことになる。

EUは、軍民両用インフラに資金を提供する必要性を認めており、既に95件のプロジェクトへの資金提供を承認している。ポーランド大使とホッジスはともに、EUのインフラ資金調達手段であるコネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(Connecting Europe FacilityCEF)に割り当てられた資金が65億ユーロから17億ユーロに削減されたことを懸念していると述べた。

CEFを通じて資金提供される国境を越えた鉄道プロジェクト「レイル・バルティカ(Rail Baltica)」は、ヨーロッパの鉄道網をリトアニア、エストニア、ラトビアのバルト三国まで拡大する計画で、2030年までに機能する予定だ。しかし、資金面での懸念が現地のニューズで報じられている。更に、フランス、ベルギー、そしてドイツでさえも、ヨーロッパの集団的自衛権にGDPの大きな部分を費やすことが多い東ヨーロッパ諸国への中央ヨーロッパパイプラインの拡張に費用をかけることに強い抵抗がある。

EUの防衛協力を調整するヨーロッパ防衛庁は、陸空の移動に関する官僚的プロセスの標準化と事務手続きを簡素化するための共通フォームの開発に取り組んでいる。しかし、これは25の加盟国によって合意されているものの、これらの「技術的取り決め(technical arrangements)」を国内プロセスにまだ組み込んでいない加盟国は消極的である。

EUの27カ国、NATOの30カ国以上の全加盟国を合意に導くのは大変に困難だが、リトアニアのヴィリニュスで開かれた前回のNATO首脳会議以来、ホッジスには希望を抱くことができる理由がある。昨年7月、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は3つの地域防衛計画(regional defense plans)を発表した。ストルテンベルグ事務総長は、北は大西洋とヨーロッパ北極圏、中央はバルト海地域と中央ヨーロッパ、南は地中海と黒海における抑止力を計画・強化すると述べた。これらの計画によって、NATO加盟国は正確な防衛要件を評価し、それを各同盟国に配分し、その過程で具体的な後方支援の必要性を理解することができる。ホッジスは、これが「ゲームチェンジャー(game changer)」となることを期待している。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌コラムニストでヨーロッパ、中東、南アジアについて記事を執筆中。ロンドンの『タイムズ』紙中東特派員を務め、アルジャジーラ・イングリッシュとドイツ国営放送ドイチェ・ヴェレのテレビ特派員を務めた。以前にはベイルートとデリーに駐在し、20カ国以上の国から紛争と政治を報道した。ツイッターアカウント:@anchalvohra

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が始まって約1年半が経過した。ウクライナ政府は今年の春頃に春季大攻勢(Spring Offensive)をかけてロシアに大打撃を与えると内外に宣伝していた。春が終わり、暑い夏がやってきても(ヨーロッパ各国でも気温40度に達している)、戦争は膠着状態に陥っている。春季大攻勢は宣伝倒れに終わってしまったようだ。西側諸国もこれまで支援を続けているが、現状維持が精いっぱいというところだ。
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NATO加盟国地図

 ウクライナは戦争が始まる前からEUNATOへの参加を熱望してきた。NATO加盟諸国、特にアメリカが軍事支援を強化していたが、ウクライナのNATO加盟に消極的であった。それはウクライナがNATOに加盟し、その後に外国から攻撃を受けたら、NATO加盟諸国は自分たちが攻撃を受けたと見なし、即座に軍事行動を起こさねばならないからだ。ウクライナの仮想敵国はロシアであり、もし2022年のウクライナ戦争前にウクライナがNATOに入っていたら、ウクライナ戦争はロシア対NATOの全面戦争となっていたところだ。アメリカはウクライナへの軍事支援を強めながら、NATO加盟は認めないという、ウクライナもロシアもいたぶるような状態を長く続けていた。アメリカの火遊びが過ぎたのが現状である。

 ウクライナのNATO加盟に関しては、一時期、トルコがスウェーデンとの関係が悪化していたために、反対の姿勢を示していたが(全会一致が原則)、それが解消された。しかし、NATOは様々な条件を付け、更に時期も明確にしないという形で、ウクライナの加盟を保留している。ウクライナ戦争が終わっても、ウクライナがNATOに加盟できるかは不透明だが、ロシアの断固とした姿勢を前にして、NATO加盟諸国は躊躇している。
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EU加盟国地図

 ウクライナのEU加盟も難航している。こちらは軍事同盟という訳でもないし、「ウクライナをEU経済圏に入れてやればよいではないか」と多くの人たちが思っていることだろう。何よりもロシアのウラジーミル・プーティン大統領さえも、「EUは軍事同盟ではないから、ウクライナが加盟しても良い」と述べているほどだ。しかし、EU加盟も又厳しい状況だ。ウクライナは長年にわたり、EU加盟申請を行ってきたが、加盟候補国にすらなれない状況だった。経済状況、民主政治体制の状況、汚職の状況などでEU側が加盟を断ってきた。今回のウクライナ戦争を受けて、EUはやっとウクライナを加盟候補国として認めた。

 ウクライナのEU加盟のハードルになるのは、まず旺盛な農業生産力、特に小麦の生産力だ。ウクライナの安価な小麦がEU市場に流れ出れば、他のEU諸国の農業を破壊することになる。現在でも補助金頼みのEU各国の農業が壊滅することになる。しかも、ウクライナは経済力自体が低いために、EUから補助金を受けられる立場になる。これでは他の貧しい国々にとっては踏んだり蹴ったりだ。

 ウクライナ自体は国土も大きく、軍事力も戦争を経て強大なものとなる。そうした国が新たにEUに加盟することは、東ヨーロッパや中央ヨーロッパの国際関係に変化をもたらすことになる。東ヨーロッパの大国はポーランドであり、ポーランドがウクライナを取り込んで、反ロシアでタッグを組み、東ヨーロッパで影響力を持つと、EU自体とロシアとの間の関係の悪化にもつながる。また、他の国々は、ウクライナが入ることでの発言力の低下を懸念している。しかし、実質的には28カ国の加盟国があっても発言力があるのはドイツとフランスくらいのものではあるが。ウクライナが加盟することで支出する圃場金をどうするかということをまだ多少豊かな国々で話さねばならないが、ウクライナのような貧しい国が加盟するのは迷惑なことというのが本音である。
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 EU諸国はウクライナが加盟することでのデメリットを考え、二の足を踏んでいるが、言葉だけは立派だ。ウクライナ戦争が終わって、事態が落ち着いたら、「そんな話ありましたか?」ととぼけて知らんぷりをするだろう。その時になって、ウクライナは西側諸国、アメリカとヨーロッパに騙された、いいように弄ばれたということに気づくだろう。西側とロシアの間に会って、中立を保ちながら、うまくその状況を利用するということができなかったのは残念なことだ。日本も同様の状況に置かれている。調子に乗って、小型犬が吠え散らかすように虚勢を張って「中国と戦う覚悟を持って」などと平和ボケして叫んでいると大変な目に遭うだろう。後悔先に立たず、だ。

(貼り付けはじめ)

EUはウクライナ参加の準備ができていない(The EU Isn’t Ready for Ukraine to Join

―キエフのNATOへの途が困難であると考えるならば、EU加盟への苦闘を目撃するまでその判断を待つべきだ。

イルク・トイロイジャー、マックス・バーグマン筆

2023年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/17/ukraine-eu-european-union-nato-membership-reform-subsidies-budget-reconstruction-agriculture-war-russia/?tpcc=recirc_trending062921

ウクライナはNATOEUの両方に加盟するための待機室にいる。リトアニアのヴィリニュスで開催されたNATO首脳会議は先週、「条件が整えば(considerations are met)」、将来的に同盟に加盟するという漠然とした声明を出しただけで終わり、キエフは失望した。

しかし、少なくともNATOは、同盟諸国間にまだ克服すべき障害があることを正直に示している。これは、EUとそのウクライナ加盟に関するメッセージとは対照的だ。ウクライナのNATO加盟が難航していると考えるならば、ウクライナのEU加盟が真剣に検討される際に何が起きるかがはっきりするまで、その判断を待った方が良い。

ブリュッセル(EU本部)は、ウクライナのEU加盟後の将来について大袈裟な言い回しを使い、キエフのEU加盟があたかも決定事項であるかのように語っている。2月にウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がブリュッセルを訪問した際、EU首脳たちは戦時中の指導者との記念撮影のために互いに肘がくっつき合うほどに近づいた。シャルル・ミシェルヨーロッパ理事会議長は、ツイートでゼレンスキー大統領に挨拶を送った。その文言は、「お帰りなさい、EUへようこそ」というものだった。

ウクライナとの間でEU加盟について詳細な議論がなされる際に、焦点となるのは、加盟のためにウクライナが何をなすべきなのかということである。戦争によって深く団結したウクライナの人々は、EU加盟に必要な新しい法律の採択や規制の実施など、自分たちの役割を果たすために前進している。ウクライナ人は、司法改革から新しいメディア法の策定、汚職の取り締まりまで、EU加盟のための長い「やることリスト」のチェック済み項目をどんどん増やしている。

ウクライナはモルドヴァと共に、2022年6月にEU加盟候補国(EU candidate)の地位を獲得し、他の加盟待機国が何年もかかっていた複雑なプロセス(byzantine process)を大幅に短縮した。キエフは2023年10月に欧州委員会から最初の書面による進捗評価を受ける予定だ。この勢いを維持するため、ウクライナ政府関係者は年内にも加盟交渉を正式に開始するよう働きかけている。

EUの予算と再分配のプロセスに変更がなければ、あっという間に、キエフはEU予算の膨大な部分を吸い上げることになるだろう。

しかし、ウクライナがEU加盟に向けて急ピッチで取り組んでいる一方で、ブリュッセルとEU加盟諸国はウクライナを吸収するための準備をほとんど整えていない。そのため、ウクライナの加盟に関するEU首脳の大袈裟な美辞麗句は、彼らの行動と一致していない。戦禍に見舞われたウクライナのような規模、人口、低い所得水準、資金調達、復興ニーズを持つ国を吸収するには、EUの制度、政策、予算プロセスの大改革が必要だ。少なくとも、EU資金の分配をめぐって現加盟諸国間で厳しく悪意に満ちた対立を引き起こすだろう。

従って、EU首脳たちが真剣にウクライナの加盟を考えているのであれば、EU改革への取り組みは既に始まっているはずである。この問題の核心はEU予算である。EU予算は、農業補助金と貧困地域への開発プロジェクトという2つの大きな要素に支配されており、これらを合わせるとEUの長期予算の約65%を占める。この2つの問題を考えると、ウクライナの加盟は爆発的なインパクトとなる。ウクライナはヨーロッパで最も貧しい国の一つであり、一人当たりの所得はEU平均の10分の1、EU最貧国のブルガリアの半分以下である。また、ウクライナは現在、膨大なインフラ整備と復興のニーズを抱えている。これに、EUの補助金の対象となる大陸最大級の農業部門が加わる。

もしEUの予算と再分配のプロセスに変更がなければ、キエフはEU予算の膨大な部分を即座に吸い上げることになる。現在、それらの資金は東ヨーロッパをはじめとするあまり豊かではない加盟諸国に流れている。現在EU資金の恩恵を受けている国々の多くは、一夜にして純支出国に転落するだろう。このようなことがスムーズに進むと思うのであれば、あなたはヨーロッパの政治についてよく知らないということになる。

現在のEU内の資金再配分を考えれば、ウクライナの加盟支持に大きな亀裂が入ったのは、EU内部の純資金受給国が集中する東ヨーロッパで起きたことは不思議ではない。実際、ウクライナのヨーロッパ農産物市場へのアクセスをめぐる争いは、EUの農業補助金が再配分されるずっと前からすでに始まっている。ロシアの侵攻後、ブリュッセルはウクライナの穀物やその他の農産物のEU単一市場への参入を認め、ウクライナを支援した。安いウクライナ産品は、ウクライナ周辺のポーランド、ハンガリー、スロヴァキアの農民たちの収入を減少させることになった。ウクライナが収入を得るために必死だったにもかかわらず、ポーランドはEUの規則に違反し、ウクライナの穀物がポーランド領内に入るのを一方的に阻止した。EUは妥協案を提示し、ウクライナの農産物のEU入りを認めたが、歓迎されない競争の影響を最も受ける東ヨーロッパ5カ国を迂回することを義務付けた。

また、ウクライナの最大の軍事的・外交的支援国であるこれら東ヨーロッパ諸国の一部が、ウクライナのEU加盟の前提となるEU改革に真剣に取り組むことに反対しているのも驚くべきことではない。これらの国々は、多額の資金を失う可能性があるだけでなく、ウクライナの加盟に向けたEU改革には、EUの意思決定ルールの合理化も含まれる可能性が高く、個々の加盟国、特にハンガリーやポーランドのようにEUの決定に影響を与えるために拒否権を自由に行使してきた国の力が低下する可能性もある。

EU拡大は、歴史上最も成功した政治的、経済的、社会的政策の1つであり、EUを平和的に拡大し、27カ国、4億5000万人を含むまでになった。新規加盟国にとって、EUへの加盟はしばしば経済的な奇跡をもたらす。市場アクセス、EUからの資金提供、より良い統治に関するEUの規則、そして確かな未来を手に入れることでもたらされる自信などである。しかし、過去10年間、更なる拡大は凍結されてきた。その主な理由は、新規加盟国(通常は貧困国)の加盟に伴う再分配が、政治的に非常に困難だったからである。

2022年2月28日、ロシアの侵攻が始まってわずか4日後にゼレンスキーがEU加盟の正式な申請書を提出して以来、更なる拡大の問題が再び議題に上るようになった。ウクライナとモルドヴァの加盟に加え、EUの指導者たちは、ヨーロッパの安全保障と安定を確保するためには、まだEUに加盟していない国々、特にバルカン半島西部の各国も加盟させなければならないとの認識を強めている。

ウクライナの加盟がEU予算に与える爆発的な影響は、EUが財政連合(fiscal union)を結ぶという議論を迫ることになるだろう。言い換えると、ドイツやフランス、一部の小金持ち国家など、より裕福な加盟国による拠出金の大幅な増加、EU全体の所得税やその他の累進課税、EU独自の債務発行能力の大幅な増加、あるいは上記の全ての実施を意味する。明らかに、これは小さな議論ではない。

また、EUの更なる拡大は、既にハンディキャップを負っているEUの意思決定能力や新しい法律や政策の採択能力にも負担をかけるだろう。例えば、外交政策で必要とされる全会一致を27の主権国家(sovereign member states)の間で達成することは既に至難の業であり、ハンガリーのような非自由主義的でロシアに友好的な国家の存在によって更に複雑になっている。ウクライナや他の加盟を辛抱強く待っている国々が加われば、EUの加盟国は30カ国をはるかに超えるだろう。加盟国が拒否権を武器にしてきた長い歴史があり、他の加盟国がEUの機能を変えることなく意思決定の場に国を増やすことをためらう理由もそこにある。

例えば、ドイツは、外交政策など新たな政策分野への特定多数決方式(qualified majority)の拡大を推進している。全会一致を必要としなくなれば、EUの外交政策決定能力は大幅に効率化される。小国は、拒否権を失うことはEUにおける発言力を失うことになると懸念しているが、これは憲政史を学んだ人なら誰でも知っている議論である。この他、ヨーロッパ委員会の委員(現在は加盟国1カ国につき1人)やヨーロッパ議会の議席の配分に関する懸念もある。EUの拡大は、これらの分野でも改革を必要とするだろう。

EU拡大は、法の支配(rule of law)と民主政治体制(democracy)という未解決の問題にもスポットを当てることになる。EUは自らを民主政体国家の連合体として定義し、市民的権利に関する厳格な規則を定めているが、ハンガリーやポーランドにおける民主主義の衰退や法の支配の後退には深い懸念がある。特に西ヨーロッパ各国政府は、民主政治体制の衰退に対抗するEUの行動力を強化することなしにEUを拡大することに強い警戒感を抱いている。この懸念は、フリーダムハウスが発表した2023年の「世界の自由度」指数で、候補リストに完全に自由と評価された国が1つもないことから、特に深刻である。

ウクライナは、新たなEU拡大の波を起こすきっかけになるかもしれない。EU加盟には改革が必要であり、その改革はバルカン半島西部の各国の加盟を同様に妨げてきた障害の多くを取り除くことになる。ロシアによるウクライナへの残忍な攻撃は、EUが安全保障にとって不可欠な存在であることをヨーロッパの人々に示すことで、別の意味で既にEUの起爆剤となっている。国防に関する調査では、ヨーロッパの人々はEUがより大きな役割を果たすことを望んでいる。決定的に重要なのは、EU加盟各国市民のウクライナ支持率が信じられないほど高いままであることだ。ユーロバロメーターの世論調査によれば、制裁措置、数百万人の難民、エネルギーの切り離し、生活費の危機が1年続いた後でも、EU各国市民の74%がEUのウクライナ支援を支持している。

ウクライナ人はヨーロッパの未来のために戦っている。EUの指導者たちは今、ウクライナを加盟させる準備のために自らの役割を果たす必要がある。ウクライナの加盟を成功させるために必要なEUの制度やプロセスについて、長年の懸案であった改革を進めれば、EUの規模が拡大するだけではない。EUはより強くなる。

※イルク・トイロイジャー:戦略国際問題研究所ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究プログラム上級研究員、カルロス三世大学講師。ツイッターアカウント: @IlkeToygur

※マックス・バーグマン:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)ヨーロッパ・大西洋・北ヨーロッパ研究センター部長、ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究プログラム担当部長。米国務省上級顧問を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@maxbergmann
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争によって、ヨーロッパの安全保障環境が安定したものではなく、常に危険と隣り合わせのものであることが明らかになった。「それは当然だ。ロシアに対峙しているので、ロシアが侵攻すれば危険になるのは当然ではないか。アジアにおいてはさらに中国があるのだから危険が高まる」という主張が出てくるだろうが、それこそが危険な主張だ。自分たちのことだけではなく、相手側に立って考えてみることも重要だ。相手側からすれば、「大きな脅威」が存在しているということになるから、取り返しがつかなくなるほどに大きくなる前にその脅威を取り除かねばならない、ということになる。
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 「相手に対して危害を加えようなどとはみじんも考えていない」といくら言葉で行っても駄目で、態度で示さねばならない。態度でどんどんと武力を増強し続けていれば、相手は「口ではあんなことを言っているが嘘だ」ということになって、武力を増強する。そういうお互いが武力を増強し続ける状況になり、「自国の安全保障を高めるために武力を増強することが相手を刺激し、相手も武力を増強する行動に出て、結局安全保障は高まらない」という「安全保障のディレンマ(security dilemma)」に陥ってしまう。このような状況を喜ぶのは一部の政治家と国防産業である。

 ロシアは確かに自国の安全保障に関して病的なほどに固執する。自国の国境の周りに緩衝地帯を置くという行動を何世紀も続けてきた。それがロシアの拡大主義ということになる。対ロシアをどのようにするかということはヨーロッパにとっては何世紀もの課題ということになる。東ヨーロッパ、中央ヨーロッパという地域に目を向けると、ここも栄枯盛衰が激しい場所である。色々な国が合従連衡を繰り返し、ある時は一緒の国になり(同君連合や連邦)、または滅亡の憂き目にあった。ドイツの拡大主義やポーランドの拡大主義ということもあった。

 現在のウクライナ戦争を見ていく中で重要なのは、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパの安全保障環境のための枠組みである。バルト海から黒海までの東ヨーロッパ、中央ヨーロッパにおいては、ポーランド、ウクライナ、リトアニアの「ルブリン・トライアングル(Lublin Triangle)」、ポーランド、エストニア、ラトヴィア、リトアニア(バルト三国)の「リガ・フォーマット(Riga Format)」、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの「ヴィシェグラード・グループ(Visegrad Group)といった枠組みが存在する。中心的な役割を果たしているのはポーランドである。ルブリン・トライアングルは中世にはポーランド、ウクライナ、リトアニアが一つの国(連邦)であったということから考えるとこの枠組みは数世紀にわたる歴史を持つということになる。
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 私が注目したいのは、「イギリス・ポーランド・ウクライナ産国協約(British–Polish–Ukrainian trilateral pact)」である。これは、イギリスが、ヨーロッパ本土にぴしりと打ち込んだ碁盤上の石で、ドイツとロシアをけん制する効果を持つ。ポーランドの動きを見ていると、その後ろにはヨーロッパ本土をコントロールしようとするイギリスがいる。
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 ロシアにとって脅威となる環境にある中で、ロシアが暴発しないのは、カリーニングラードを保持しているからだ。カリーニングラードはルブリン・トライアングルに突き刺さった杭となっている。ロシアはカリーニングラードを保持していることで、ポーランドとバルト三国をけん制できる。ベラルーシとカリーニングラードの間に、ポーランドとリトアニアの国境線が約72キロにわたって走っており、これをスヴァウキ・ギャップ(Suwałki Gap)と呼ぶ。
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ベラルーシとカリーニングラードをつなぐ道路がポーランドとリトアニアの国境線となっているという、国際関係論的に非常に複雑で微妙な場所ということになる。ロシアはベラルーシとの間の補給路となるこのスヴァウキ・ギャップを確保したい。一方で、ポーランドやリトアニアはこのスヴァウキ・ギャップを遮断してカリーニングラードへの補給路を断つことができる。しかし、そのような状況になれば、ポーランドとリトアニアはロシアと全面対決となる。カリーニングラードをめぐっての激しい攻防戦ということになるし、ロシア本国からの長距離ミサイル攻撃ということにもなる。バルト海をめぐる状況が一気に不安定化するので、バルト海に面している国々はそのような状況を歓迎しない。西側がロシアから先に手を出させるということは考えられるが、今のところはあまり現実的ではないだろう。

 ウクライナ戦争終結と終結後の戦後のヨーロッパにおいてポーランド(とその後ろにいる)の動きは重要になると考える。ポーランドが現状を変更する、ロシアに対してより強硬な姿勢を取り続けるということになれば、ヨーロッパを不安定化させることになる。アジア地域はヨーロッパを反面教師にして、「不安定」なアジアを作り出さないようにしなければならない。

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ポーランドとウクライナはプーティンの帝国主義的な夢をいかに挫くことができるか(How Poland and Ukraine Could Undermine Putin’s Imperial Dreams

-歴史上、両国はロシアの帝国主義への抵抗の中で国家のアイデンティティを形成した。そして、今日、両国は協力してロシアを打倒できる。

マチェイ・オルチャワ

2023年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/21/poland-ukraine-russia-putin-imperial-dreams/

ロシアがウクライナで続けている戦争は、何百万人もの人々に想像を絶する苦しみを与え、ヨーロッパの安全保障構造を大きく変化させた。戦闘の終結はほとんど見通すことができない状態であり、ウクライナの武装勢力は欧米諸国からの武器供与を受けて攻勢に転じる構えを見せている。この紛争には明るい兆しもある。それは、ワルシャワとキエフが強力な同盟関係となった。

「自由なウクライナなくして自由なポーランドはない」という宣言は、ポーランド建国の父ヨゼフ・ピルシュツキに由来し、この文言はよく引用される。当時、赤軍は世界革命を起こそうとしていたが、ポーランド軍とウクライナ軍によって阻止され、追い返された。

当時も今も、このスローガンは、主権国家ウクライナが存在しないヨーロッパという概念がもはや考えられないことを証明している。キエフとワルシャワにとって、一方の繁栄は他方の成功と安定に支えられている。両国の国歌(national anthems)の冒頭の歌詞はほぼ同じである。「ポーランド(ウクライナ)はまだ敗北していない(Poland/Ukraine is not yet lost)」という歌詞は、分割、占領、敵の侵略を経験しても生き延びようとする民族特有の頑強さを表現している。どちらの国歌もロシア帝国主義(Russian imperialism)に反抗して作られた。

両国に関する友好的なエピソードが残っているにもかかわらず、20世紀のポーランド人とウクライナ人の関係は、反感(animosity)と民族浄化(ethnic cleansings)に特徴づけられた。ソ連とナチス・ドイツの占領は国境地帯を血の土地に変え、相互の不満と固定観念が傷跡を残した。1945年以降、ポーランドの共産主義政権は、「ウクライナ問題を完全に解決する」という目的を達成するために、ウクライナ人を国内避難させた。民族主義的傾向が疑われた民間人は、1943年から44年にかけてヴォルヒニアと東ガリチアで数千人のポーランド人を虐殺した「獣のような」ウクライナ人反乱軍の同調者とみなされた。

集団的責任が適用されたのは1947年で、14万人以上のウクライナ人が南東部の国境地帯から北と西の戦後領土(ポーランドの一部となった旧ドイツ領)に追いやられた。この軍事作戦(コードネーム「ヴィスワ」)の目的は、共産主義ポーランドにおけるウクライナ人のアイデンティティと文化を破壊することだった。

映画や文学におけるポーランド政府のプロパガンダは、ウクライナ人が血に飢えたファシストであるという有害なイメージを植え付けた。1991年にポーランドがカナダとともにウクライナの独立を承認した最初の国であったにもかかわらず、世論調査ではウクライナ人に対する否定的な見方が1990年代を通じて続いていた。この困難な歴史が、今日のポーランド人のウクライナとの連帯をより顕著なものにしている。

ポーランドは、手段とノウハウさえ与えられれば、ウクライナが西側の安全保障の消費者から、ヨーロッパ・大西洋共同体にとって重要な安全保障の提供者に早変わりできることを知っている。こうした志を同じくする反帝国主義者たち(like-minded anti-imperialists)は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の失地回復・大国復活的な(revanchist)策動を一挙に覆す脅威を与えるだけでなく、ヨーロッパの政治的・軍事的重心の東方シフトを加速させている。西側諸国は、プーティン帝国崩壊後の不測の事態に備えるべきだ。そのひとつが、ポーランド・ウクライナ戦略同盟に支えられた戦後ヨーロッパということになる。

かつてソ連勢力圏に属しながら、ロシアの拡張主義に反対した経緯を持ち、プーティンが「今世紀最大の地政学的大惨事(greatest geopolitical catastrophe of the century)」と嘆いたソ連崩壊に貢献した東欧諸国間の親密な関係ほど、プーティンを苛立たせるものはない。最近のリトアニア、ポーランド、ウクライナの大統領による共同宣言のような戦略的措置は、キエフの防衛力を継続的に強化し、NATOEUでの支援を更に推進する用意があることを再確認するもので、プーティンを狂気へと駆り立てている。

プーティンの目には、ウクライナ、リトアニア、ラトヴィア、エストニア、ベラルーシは、モスクワの勢力圏(sphere of influence)内にある小国、いわゆる「旧従属国(near abroad)」のグレーゾーンを構成しており、超大国間の世界的な争いの中で、勢力争いの可能性が残されている。プーティンは、これらの国々のヨーロッパ・大西洋機構への加盟とその熱望を、克服すべき危険な障害とみなしている。これらの国々をロシアの支配下に置かくことなしに、モスクワの影響力を再構築し拡大する道はないと考えている。

これらの国々がロシアからのサイバー攻撃、虚偽情報キャンペーン、政治的干渉、武力侵略の標的となっているのは驚くに値しない。プーティンの野心に対抗するため、これらの国々は各種の多国間枠組みを立ち上げている。その中には、リトアニア、ポーランド、ウクライナの間で政治、経済、インフラ、安全保障、防衛、文化的なつながりを強化することを目的とした三国間プラットフォーム「ルブリン・トライアングル(Lublin Triangle)」や、バルト三国とポーランドの間の「リガ・フォーマット(Riga Format」などがある。ハンガリーの親ロシア的な態度や、フランスとドイツのウクライナ支援が当初は揺らいでいたことを考えると、これらの多国間フォーラムは、ヴィシェグラード・グループ(Visegrad Group)など、以前の東欧ブロックの影響力や重要性を凌駕している。

ポーランドは、より多くのウクライナ人から、友人としてだけでなく、重要な同盟国として見られている。

ワルシャワとキエフの戦略的関係は現実的に発展している。一時は政治的な遅れをとったとしてパートナー諸国から批判されたポーランドだが、プーティンの新帝国主義的なレトリックが、ウクライナとワルシャワが堅固に結ばれているヨーロッパ・大西洋同盟にもたらす脅威をきちんと認識していた。ポーランドはヨーロッパを代表する安全保障推進の存在であり、同盟諸国の防衛と脅威の抑止という公約を果たすために軍備を近代化し、反乱主義失地回復・大国復活志向のプーティンに対抗する重要な同盟国として地位を高めている。

戦争からの避難を求めるウクライナ人に対して、ポーランド人は連帯感を示している。これは当然のことだ。2022年2月24日以来、900万人以上のウクライナ人がポーランドに入国し、150万人から200万人がポーランドに留まり、その他の人々は帰国した。数百万人が安全を求めてポーランドに逃れてきたが、難民キャンプは必要なかった。難民危機の際によく使われる間に合わせのテントや国連の臨時キャンプ地の代わりに、ポーランド人はウクライナ人の隣人たちに家を開放した。過去には難民支援に関してヨーロッパのパートナー諸国から異端児扱いされていたポーランドだが、現在ではヨーロッパ大陸で疑いようのない人道主義の巨人となり、ウクライナとの友愛関係と重なる道徳的義務感を示している。

130万人以上のウクライナ人がポーランドの社会保障番号に相当するものを取得し、合法的な雇用を見つけることができるようになった。彼らは公的医療、幼稚園、学校、直接的な財政援助を受けることができる。ポーランド経済研究所によると、2022年1月から9月までの間に、ウクライナ資本の企業3600社とウクライナ人の個人事業主10200社がポーランドで設立され、調査対象となった企業の66%が、ウクライナ情勢にかかわらずポーランドで事業を継続すると宣言した。

更に言えば、戦争終了後にウクライナに戻った人々は、ポーランド人による歓待を覚えている可能性が高い。ロシアの絶滅戦争(war of extermination)だけでなく、ポーランドでの肯定的な経験からも影響を受けるだろう。労働力として働いていたため、多くの大人はポーランド語でコミュニケーションをとることができ、子どもたちはポーランドの教育システムで数カ月から数年を過ごした後、流暢に話すことができるようになるだろう。既に、ポーランド語の習得に関心を持つウクライナ人の数は増加しており(36%)、今後も増加し続けるだろう。

社会的な絆の深まりは、今後の両国の政治関係に影響を与えるだろう。ミエロシェフスキ・センターがウクライナで実施した世論調査の結果によると、回答者の40%がポーランドとウクライナは単に良き隣人であるべきだと考えているのに対し、ウクライナ人の58%はそれ以上に緊密な関係を築くべきだと考えている。29%は、外交政策で協調しながらお互いを支援する同盟関係を構築することを望み、さらに29%は、純粋に象徴的な国境と共通の外交政策を持つ連邦(commonwealth)の形をとるべきだと考えている。

プーティンの戦争マシーンは、かつてナチス・ドイツやソ連がポーランド人とウクライナ人を分断させるために行ったような、敵意を利用した作戦を成功させることはできなかった。ポーランドが過去に帰属していたウクライナ西部の領土を取り戻すという秘密計画について、戦争中に流布されたロシアのプロパガンダは説得力がない。むしろ逆効果だ。

もちろん、ポーランド人とウクライナ人は過去の悲劇的な出来事、特に20世紀における悲劇的な出来事に対して互いに不満を持っている。犠牲者の記憶について言えば、1943年から44年にかけてヴォルヒニアと東ガリチアでポーランド人が殺害された事件や、1947年にウクライナ人が強制移住させられた事件のような出来事は、水に流されるのではなく、むしろ研究され、記憶されるべきである。良い兆候は、両国を分断するのではなく、むしろ結びつけるもの、すなわちロシアの新帝国主義という存亡の危機重点が置かれつつあることだ。

ポーランドとウクライナの両国大統領が、20世紀初頭に両国が争ったリヴィウの軍事墓地で並んで献花した姿は、戦略的な結びつきを追求する上で歴史が邪魔にならないことを示す象徴的なイメージとなった。過去の傷跡や記憶とともに生きていない若い世代が一緒に過ごす時間が多ければ多いほど、歴史的な出来事をめぐる和解(reconciliation)の可能性は高まる。

国際舞台でウクライナの領土保全を明確に擁護するポーランドは、より多くのウクライナ人に友人としてだけでなく、重要な同盟国として見られている。87%のウクライナ人が、ジョー・バイデン米大統領(79%)を含む他のどの西側指導者よりも、ポーランドのアンドレイ・ドゥダ大統領を信頼している。ポーランド人はまた、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を好意的に見ている。ある世論調査では、ポーランド人が最も信頼する外国人指導者のトップはゼレンスキー(86%)で、バイデンは2位(74%)だった。

昨年11月のポーランドの独立記念日を記念して、ゼレンスキーはメッセージを録音した。「ウクライナ人はポーランド国民から受けた支援を常に忘れていない。あなた方は私たちの同盟国であり、あなた方の国は私たちの姉妹だ。私たちの間には意見の相違があったが、私たち親族であり、自由な国民なのだ」。同じ日、ウクライナのオレナ・ゼレンスカ大統領夫人は、ウクライナ人女性とその子供たちが家を出てポーランドに避難し、ポーランド人ヴォランティアの腕の中で慰めを受ける様子を描いたイラストを投稿した。夫が戦死したと聞き、イラスの中の女性は言う。「もう二度と夫に会えないと分かった時、あなたは私と一緒に泣いてくれる。もう会えないんだと思うと、あなたは一緒に泣いてくれる。私はウクライナ。あなたはポーランド。そして私たちの心臓は常に共に鼓動している」。 歴史上、ポーランド人とウクライナ人がこれほど親密だった時期を見出すのは難しい。

プーティンの侵略行為と罪のない市民に対する残虐行為は、ウクライナ人をロシア人から永久に遠ざけ、彼らを許すことはおろか、モスクワとの戦後の関係を追求する考えからも遠ざけている。前線の兵士たちやブチャのような町の犠牲者たちは、国民全体が、そして世界が自分たちのものと呼ぶ新しい世代の英雄や殉教者を生み出している。彼らの犠牲は、ウクライナ人の強い反帝国主義的感情を中心とした国民意識とアイデンティティを自動的に再確認させる。将来、キエフがポーランドや西側に近づいていくのは自然な流れだ。

このプロセスは、どちらの国にとっても、二国間関係の明暗を分ける瞬間として扱われるべきではなく、プーティンのような権威主義的な暴力志向者が間違っていることを証明したいという純粋な願望として扱われるべきである。

アレクサンダー・モティルはその画期的な著作『帝国の終焉』の中で、帝国が終焉を迎えるのは、中心部が周辺部を支配できなくなった時ではなく、周辺部が互いに大きく影響し合うようになった時だと指摘している。このプロセスは、ポーランドとウクライナの間で進行中である。ポーランドはヨーロッパ・大西洋共同体にしっかりと根を下ろし、ウクライナはそうした正式な機構への加盟を目指している。

カナダ、イギリス、アメリカといった利害関係者の支援を受けながら、ワルシャワ・キエフの結びつきを軸とする強力なパートナーシップが構築されれば、政治、経済、防衛の課題を再優先するという骨の折れるプロセスを経ているヨーロッパを支えることができる。もし西側諸国が、プーティンの敗北を早める可能性のあるこの戦略的パートナーシップを支持できなければ、ヨーロッパは敵対的なロシアや将来の不安定性に対して脆弱なままになってしまう危険な可能性がある。

※パヴェル・マルキェヴィッチ:20世紀の中央・東ヨーロッパを専門とする歴史家。ポーランド国際問題研究所ワシントンオフィス事務局長。著作に『あり得ない同盟:第二次世界大戦中のウクライナ総督府におけるナチス・ドイツとウクライナのナショナリストの協同関係(Unlikely Allies: Nazi German and Ukrainian Nationalist Collaboration in the General Government during World War II)』がある。ツイッターアカウント:@DrPMarkiewicz

※マチェイ・オルチャワ:ロヨラ大学シカゴのコジオスコ財団スカラー。ポーランド・東ヨーロッパ史で教鞭を執る。ウクライナの複数の著作があり、代表作は『ミッション・ウクライナと帝国のゲーム:アメリカの地政学的戦略におけるウクライナ(Mission Ukraine and Imperial Games: Ukraine in the United States’ Geopolitical Strategy)』がある。ツイッターアカウント:@MaciejOlchawa

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ポーランドは如何にしてウクライナを西側に向けさせたか(How Poland Turned Ukraine to the West

-キエフにとって、ロシアの傘から離脱するにあたり、ワルシャワはどのような国になることができるかという点でモデルとなる。

ルカ・イワン・ユキッチ筆

2022年2月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/18/ukraine-poland-russia-history-west-nato-euromaidan-crimea/

多くの人々はウクライナを東ヨーロッパの国と考えている。ウクライナのドミトロ・クレバ外相はそのような人たちの仲間ではない。クレバ外相は、「私は、ウクライナは歴史的にも、政治的にも、文化的にも、常に中央ヨーロッパの国家であると深く確信している。私たちのアイデンティティは中央ヨーロッパに属している」と述べている。

これは地理的な事実ではなく、歴史的、文化的な観点からの発言である。ウクライナの未来は、過去と同様、ロシアではなく、北大西洋条約機構(NATO)とヨーロッパ連合(European UnionEU)にしっかりと根を下ろしている中央ヨーロッパ諸国と共有している。そうした中央ヨーロッパ諸国にはスロヴァキア、ハンガリー、リトアニア、そして特にポーランドが含まれている。

過去20年間、ポーランドはウクライナの文化的、政治的発展にロシア以外のどの国よりも大きな影響を与えてきた。EUNATOの中でウクライナを最も強力に支援し、何百万人ものウクライナ人を受け入れている。ウクライナ人の多くがポーランドに住み、学び、働いている。ポーランドは、ウクライナが真の中央ヨーロッパの国になるための代替モデル(alternative model)を提供してきた。ポーランドは、ヨーロッパ的で、愛国的で、公然と反ロシア姿勢を示し、経済的に成功し、その全てが米国の安全保障の傘の下にある。

2014年にロシアがウクライナに侵攻し、クリミア半島を併合して以来、キエフはポーランドをモデルにした国家として着実に自国を築き上げてきた。これはロシアが自ら仕掛けたプロセスであり、ロシア軍が再びウクライナの国境に集結し、戦争が間近に迫っている現在、これを覆すことは不可能である。

ほとんどの西側諸国は、反ロシアの立場からウクライナを強く支持しているが、ポーランドとウクライナを結びつける個人的な絆、相互の歴史、そして近接性を主張できる国はない。

ポーランドとウクライナは、1795年に地図上から消滅したポーランド・リトアニア連邦で数世紀を共に過ごした。19世紀のロマンチックなナショナリズムの時代、ポーランド人とウクライナ人は東ヨーロッパの広大な領土をめぐって、お互いに競合する主張を展開したが、常に共通していたのはロシアの支配に対する敵意だった。

次のようなポーランドの古い格言がある。「自由なウクライナなくして自由なポーランドはあり得ず、自由なポーランドなくして自由なウクライナはあり得ない(There can be no free Poland without a free Ukraine, nor a free Ukraine without a free Poland)」。意識的であろうとなかろうと、この原則は今世紀に入ってからのポーランドの対ウクライナ政策を動かしてきた。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ人とロシア人は「ひとつの民族」であると主張し、ポーランド人を含む西側諸国の人々はウクライナを搾取することしか考えていないと主張している。

「歴史は、ロシアとウクライナの戦争が始まった当初から戦場となっている」とウクライナの歴史家セルヒイ・プロキーは指摘する。一方では、ウクライナは単に、より大きなロシア全体の中にある「小さなロシア(little Russian)」だと考える者もいる。一方、ウクライナは西側諸国の一部であるべきで、ポーランドやリトアニアのような中央ヨーロッパの国であるべきだと主張する者もいる。ロシア帝国主義の手による抑圧という歴史的運命を共有し、近代ヨーロッパでの復活を望んでいるからだ。どちらの歴史観もウクライナ国内外に支持者がいるが、2つの考えは両立しない。

ポーランドはウクライナに、その歴史的な戦争の進め方のモデルを提供した。ポーランドで共産主義が崩壊した後、ソ連は第二次世界大戦後のポーランド国民を解放したのではなく、占領し抑圧した存在として再認識された。それにも理由がある。1940年、カティンの森で、当時のソ連の指導者ヨシフ・スターリンは、ナチス・ドイツによってポーランドが二分された後、2万2000人のポーランド人将校と知識人の大量処刑を密かに命じた。冷戦の間、ドイツ人を非難してきたソ連政府が、自らの責任を認めたのは1990年のことだった。

1998年、ポーランド政府は、物議を醸している歴史戦争部門である国民追悼研究所(Institute of National Remembrance)のポーランド国民に対する犯罪訴追委員会(Commission for the Prosecution of Crimes Against the Polish NationIPN)を設立した。その目的は、カティンの森事件のようなポーランドにおける共産主義政権とナチス政権の犯罪を捜査することだ。そこには、両者を同等の悪とみなすことが含まれており、ポーランドやバルト三国では当たり前のことだが、ロシアやその緊密な同盟国の間では支持されない。こうした国々では、ソヴィエト連邦は依然としてナチスの侵略からヨーロッパを解放した積極的な勢力と見なされている。

2006年、ウクライナはIPNをモデルにした独自の国家追悼研究所(Institute of National Remembrance UINR)を設立した。親ロシア派のウクライナ大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権下の2010年から2014年まで、UINRの活動は一時停止していた。UINRは、1917年から1991年にかけてソ連当局が犯した犯罪を調査するという、IPNと同様の任務を与えられていた。残虐行為のなかでも、1932年から1933年にかけてスターリンのもとで何百万人ものウクライナ人が人為的な飢饉で餓死したことは、現在ではウクライナも大量虐殺(genocide、ジェノサイド)と認めている。

設立の翌年、UINRはウクライナで物議を醸した一連の非教権化法(decommunization laws)の起草に重要な役割を果たした。この法律では、ソ連時代の第二次世界大戦記念碑が撤去され、地名が変更され、共産主義的シンボルが全て禁止された。この法律は、研究所と同様、ポーランドやバルト三国で可決されたものをモデルとしている。そこでは、ソ連によるナチス支配からの東ヨーロッパ解放は、新たな占領として扱われていた。近年、新たな大祖国戦争崇拝とスターリン礼賛(a renewed cult of the Great Patriotic War and valorization of Stalin)が再燃しているロシアとは対照的である。

ウクライナは共産主義の遺産だけでなく、元共産主義者そのものを追及するようになっている。2014年、ポーランドとバルト三国が1990年代に同様の法律を独自に可決したのに続き、ウクライナでも元共産主義当局者を対象とした物議を醸す一連の浄化法(lustration laws)が可決された。 「浄化(Lustration)」は、共産主義の文化的遺産だけでなく、その制度的遺産も根こそぎ絶やしてしまおうとする試みであり、ウクライナ国内の親ロシア派とソヴィエト懐古主義者を主要なターゲットにしているものである。

ポーランドとウクライナの両国共にソ連の傘下にあった時代(前者は衛星国[satellite state]として、後者はソ連の一部として)、ポーランドとウクライナの間に取り立てて言及すべき関係はなかった。しかし、1989年にポーランドで共産主義が崩壊し、1991年にソ連が崩壊すると、両国関係は一夜にして大きく変わった。

当時のポーランドの最優先目標は「ヨーロッパ・大西洋統合(Euro-Atlantic integration)」であり、ウクライナが今日直面しているような状況を避けるために、できるだけ早くNATOEUに加盟することだった。ポーランドは、NATO加盟の招待がなければ、独自の核開発を行うとさえ脅迫し、ポーランドの初代大統領レフ・ワレサは、当時のロシア大統領ボリス・エリツィンに、NATOへの加盟は「ロシアも含まれるいかなる国家の利益にも反しない」と主張し、ポーランドのNATO加盟に同意するよう圧力をかけた。ポーランドは早期のうちに、具体的には1999年に NATO に加盟し、2004 年には EU に加盟した。

ヨーロッパ・大西洋統合という目標が達成されたことで、ポーランドは今や自由に東方への新たな大戦略を追求することができるようになった。ポーランドの大戦略とは、西側世界の境界線が自国の東部辺境に位置しないようにするというものだ(ensuring the West’s border did not lie on its own eastern frontier)。

2008年、ポーランドはスウェーデンとともに、EUが欧州近隣諸国と東方パートナーシップ(Eastern partnership)を追求することを提案し、ウクライナ、モルドヴァ、ベラルーシ(後に一時停止)、アゼルバイジャン、グルジア(ジョージア)、アルメニアの加盟への道筋を明示した。EUの主要諸国は、このパートナーシップをEUの新たな勢力圏を切り開こうとする試みだと非難したクレムリンを刺激するのをためらい、この構想には曖昧な態度を示した。

一方、ウクライナは苦境に立たされていた。ソ連崩壊の影響は、ワルシャワの体制転換(regime change)よりもはるかに深刻だった。1990年代、ウクライナの経済は年々縮小した。それでも2005年になってようやく1989年の水準を上回った。政治的、文化的アイデンティティの問題も独立当時から国民を分断し始めていた。ポーランドがEU加盟を祝う一方で、2004年、ウクライナは不正選挙をめぐる一連の抗議行動に突入し、オレンジ革命(Orange Revolution)として知られる事態に発展した。

大激戦となった大統領選の決選投票では、ヤヌコビッチが親欧米派候補のヴィクトル・ユシチェンコを僅差で降した。しかし、ユシチェンコと彼の支持者たちはこの結果に異議を唱え、ウクライナの最高裁判所が投票を無効とし再選挙を要求したことで、ユシュチェンコ側の正当性が証明され、ユシチェンコが勝利した。

ロシアは激怒し、ヤヌコビッチを正当な勝者と認定した。ポーランドはユシュチェンコ側の勝利という結果を支持した。ワレサをはじめとするポーランド政府高官たちは一致してユシチェンコを支持した。当時のポーランド大統領アレクサンデル・クワシニエフスキは、政府と反体制派の円卓会談開催を推し進めた。そしてクワシニエフスキ大統領は他の多くの欧州首脳とともに会議に出席した。

オレンジ革命から10年後、ヤヌコビッチ(最終的に2010年に当選)がEUとの連合協定への署名を拒否したため、より重大な抗議運動が発生し、いわゆるユーロマイダン革命(Euromaidan revolution)に発展した。ロシアはクリミア半島を併合し、まもなくウクライナ東部のドンバス地方で戦争を始めた。ロシアはユーロマイダン革命をワルシャワが画策したクーデターと呼んだ。

ポーランドは、ロシアを除くと、ウクライナの文化的、政治的発展に、どの国よりも大きな影響を与えた。

それ以来、何百万人ものウクライナ人がポーランドでより良い生活、少なくともより良い賃金を求めてやって来た。かつてはヨーロッパで最も単一民族的な国の一つであったポーランドにとって、この変化は誇張しがたいものであり、今やウクライナ人はポーランド社会のいたるところに存在する。ウクライナはまた、ヨーロッパで最も送金に依存する国となっている。送金額は2020年時点でウクライナのGDPの9.8%を占めており、ウクライナの経済にとって外国で働く人々は重要な役割を果たしている。

ポーランドは経済分野以外でも、ウクライナを地域における重要なパートナーだと考えている。ポーランドのある地域は何世紀にもわたりロシアが支配してきた。一方、ウクライナはポーランドを、モスクワの支配から逃れるために必要な西側諸制度への加盟を確かなものとするために重要なパートナーと考えている。

2019年にウクライナの現大統領であるヴォロディミール・ゼレンスキーが政権に就いた時、前任のペトロ・ポロシェンコ大統領の下で、ポーランドとの間で歴史をめぐる対立が関係を緊張させていたが、それを「リセット」することを求めた。象徴的なことに、ゼレンスキーは第二次世界大戦開戦80周年をワルシャワで過ごし、ポーランド・ウクライナ関係の雪解けどころか躍進を宣言した。

2020年、ポーランド、リトアニア、ウクライナの各国首脳はポーランドのルブリンで会談し、「ルブリン・トライアングル(Lublin Triangle)」と呼ばれる新たな同盟の共同宣言を発表した。親クレムリン派のプロパガンダは、この結成をロシアとの「アングロサクソンの代理戦争(Anglo-Saxon proxy war)」の一部と位置づけた。今年、ポーランドとウクライナは、ウクライナの主権を守ることを目的とした三か国同盟(trilateral alliance)を、今度はイギリスと結んだ。

2021年末に行われたルブリン・トライアングル3カ国の大統領による会議では、同盟の目的が実際に行われ、ゼレンスキーは共通課題を「ロシアの脅威を阻止し、攻撃的なロシアの政策からヨーロッパを守ること」とまとめた。ポーランド、リトアニア、ウクライナは「この抵抗の先陣を切っている」とゼレンスキーは述べた。ポーランドのアンドレイ・ドゥダ大統領は、EUNATOの加盟国であるポーランドとリトアニアは、「ヨーロッパの一部の安全を確保する」ためのこの提案を推進しなければならないと強調した。

ウクライナ自身の汚職と法の支配の問題、そして東部での活発な戦争を考慮すると、同国が近い将来にEUにもNATOにも加盟することは不可能である。ロシアは、モスクワとワシントンの相互合意によって、ウクライナのNATO加盟を完全に排除することを要求している。しかし問題の一つは、ウクライナはNATOに加盟していないにもかかわらず、EUNATO加盟諸国(ポーランドやリトアニアなど)がウクライナの安全保障を自国の安全保障の問題として扱っていることだ。

ウクライナが今日ロシアの侵略に苦しんでいるのを見て、ポーランド人は自分たちが過去ロシアの侵略の犠牲者であった事実を考え、同情を寄せている。ヨーロッパ外交問題評議会が最近行った世論調査によると、ポーランド人は、自国がロシアの新たな侵略からウクライナを守るべきだという考えにおいて、欧州主要諸国の中で圧倒的に強固であり、他のEU主要国では半数以下であるのに対し、65%がそうすべきだと答えている。同じ世論調査によれば、ポーランド人の80%が、ロシアの侵攻があった場合にはNATOEUの両方がウクライナの防衛にあたるべきだと考えている。

ポーランドとウクライナが隣接する主権国家同士として姿を現したのは1991年のことだった。共通の政治的利害を発見するまでにさらに10年、そして2014年の出来事によって2つの社会が不可逆的に融合するまでにさらに10年かかった。

しかし、その運命は、ポーランドとウクライナがロシアの侵略を共有した経験によって、多くの意味で運命づけられていた。プーティンは、ウクライナを恒久的に自国の影響下の下に置くという賭けに出たが、その代わりにウクライナ人を西に向かわせた。どちらの国にも引き返す兆しは見えない。

・訂正(2022年2月19日):この記事の前のヴァージョンはカティンの森がどの国にあるかについて誤って言及していた。

※ルカ・イワン・ユキッチ:フリーランスのジャーナリストで中央・東ヨーロッパに水滴字を書いている。ツイッターアカウント:@lijukic

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が始まり、2度目の夏を迎える。西側諸国はウクライナに支援を続け、今年の春にはウクライナが春季大攻勢(Spring Offensive)を開始したが、大きな成果は上がっていない。これは当たり前の話で、ウクライナ側があれだけさんざん「近々大攻勢をやるぞ」とウクライナ国内外で宣伝して回れば、ロシア側は準備ができる。防備を固めた要塞や基地を攻め落とすには、攻める側は数倍の戦力が必要であるが、ウクライナにはそれだけの戦力もない。

最近になって西側諸国がウクライナに対して、より強力な武器を支援する動きを見せているが、ウクライナ軍が戦力を落としているので、それを再強化するための「カンフル剤」ということになる。出血しながらカンフル剤で何とか心臓を動かしてウクライナを戦わせていているというのが西側の実態だ。西側諸国は一兵も出さずに、兵器を出しているから助けているでしょというふざけた態度に終始している。本当にウクライナを助けるというのならば、自国の若者たちをウクライナに送るべきだ。そうすれば戦争終結に対してより本気になるだろう。しかし、そのようなことをすれば、ロシアがどのような報復をするか分からないということで、西側は腰が引けている。

「西側(the West)」に対抗する「それ以外の国々(the Rest)」が、ロシアにとっての大後方(great back)となっている。ロシアの石油や天然資源を非西側諸国が購入している。ここで重要なのは、BRICsによる新共通通貨である。「ブリックス・ペイ」という「デジタル共通通貨」となるか、「ブリック」という通貨になるかは分からないが、「米ドル基軸通貨体制」に対する大きな脅威となる。ブリックス5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)にインドネシア、トルコ、メキシコを加えた「新G8」が貿易決済でブリックス共通通貨を利用するとなれば、ブリックス共通通貨が有効な決済通貨となり、国際通貨となる。米ドル決済体制によってアメリカは世界の石油と食料の貿易を支配する態勢が崩壊する。

 西側諸国、特にアメリカとイギリスは対ロシアで、ウクライナはEUにもNATOにも正式加盟していないのにロシアを刺激し、挑発するかのような行動を繰り返してきた。ウクライナの武力を増強し続け、ロシアに脅威を与えてきた。そのような「火遊び」の結果が今回のウクライナ戦争である。そして、ロシアが戦争に打って出ざるを得ない状況にしておいて(真珠湾攻撃直前の日本のように)、ロシアを戦争に引きずり込んで、一気にロシア経済を破綻させてロシアをつぶしてやろうというシナリオになっていた。しかし、ロシアはそのような危機的状況から脱した。っそして、ウクライナ戦争で負けない戦術に転換している。西側の短期間でのロシアの屈服というシナリオが崩れた時点で、西側の負けだ。戦争は多くの誤算の積み重ねだ。戦っている当事者たちはあらゆるレヴェルで多くの誤算を積み重ねていく。しかし、重要なのは戦略的な判断ミスを戦術レヴェルで挽回するということは困難だということだ(私はこの言葉を『銀河英雄伝説』で覚えた)。政治家の判断ミス、誤算を軍人がいくら奮闘しても挽回することはできないということだ。西側諸国の政治家の大きなミスは最後まで響くことになる。

(貼り付けはじめ)

プーティンが正しく行ったもの(What Putin Got Right

スティーヴン・M・ウォルト筆
2023年2月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/15/putin-right-ukraine-war/

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ侵攻を決定した際に多くのことを誤った。彼はロシア軍の軍事力を過大評価した。ウクライナのナショナリズムの力と、脆弱なウクライナ軍がウクライナを防衛する能力を過小評価した。西側諸国の結束、NATOやその他の諸国がウクライナ支援を決定執行するスピード、エネルギー輸入諸国がロシアに制裁を科し、ロシアからのエネルギー輸出と自国を切り離す意思と能力を見誤ったようだ。プーティンはまた、中国の支援意欲を過大評価していたかもしれない。北京はロシアの石油とガスを大量に購入しているが、モスクワに対して明確な外交的な支援や貴重な軍事援助を提供してはいない。こうした誤りと失敗を全て合わせると、プーティンが表舞台から去った後も長く残るであろう、ロシアにとってマイナスな結果をもたらす決断となってしまったということになる。戦争がどのような結果になろうとも、ロシアはプーティンが別の道を選んだ場合よりも弱体化し、影響力を失うだろう。

しかし、もし私たちが自分自身に対して正直であるならば、そして戦時下においては冷酷なまでに正直であることが必要不可欠であるならば、ロシアの大統領も正しいことをしたと認めるべきである。そのどれもが、開戦の決断やロシアの戦争遂行方法を正当化するものではない。これらの要素を無視することは、彼と同じ過ちを犯すことになる。つまり、相手を過小評価し、状況の重要な要素を読み違えることである。

彼は何を正しく実行したのか?

ジョー・バイデン政権は、「前例のない制裁(unprecedented sanctions)」の脅威がプーティンの侵攻を抑止することを期待し、そしてこの制裁を科すことでプーティンの戦争マシーンの首を絞め、民衆の不満を引き起こし、プーティンを方向転換させることを期待した。プーティンは、われわれがどんな制裁を科そうとも、ロシアはやり過ごすことができると確信して戦争に踏み切った。ロシアの原材料(エネルギーを含む)にはまだ十分な需要があり、GDPはわずかな減少で済んでいる。長期的にはもっと深刻な結果を招くかもしれないが、制裁だけではしばらくの間は紛争の帰趨は決まらないと考えたプーティンの判断は正しかった。

第二に、プーティンは、ロシア国民が高いコストを許容し、軍事的挫折が自身の失脚につながることはないと正しく判断した。プーティンは、戦争が短時間で低いコストに終わることを望んで始めたのかもしれないが、最初の挫折(setbacks)の後でも戦争を続け、最終的には予備兵力を動員して戦い続けるという決断を下したのは、ロシア国民の大半が自分の決断に賛同し、出てきた反対派を抑え込むことができるという彼の信念を反映したものだった。しかし、ロシアは甚大な損失にもかかわらず、またプーティンの権力維持を危うくすることなく、大規模な部隊を維持することができた。もちろん、それが変わる可能性もあるが、これまでのところ、この問題に関してもプーティンが正しいことが証明されている。

第三に、プーティンは、他国が自国の利益に従うこと、そして自分の行動が万国から非難されることはないことを理解していた。ヨーロッパ、アメリカ、その他いくつかの国は鋭く強く反応したが、グローバル・サウス(global south)の主要メンバーや他のいくつかの主要な国(サウジアラビアやイスラエルなど)はそうではなかった。戦争はロシアの世界的なイメージの向上にはつながっていないが(国連総会での戦争非難の票が偏っていたことが示している)、より具体的な反対は世界の一部の国に限られている。

とりわけ重要なのは、ウクライナの運命が西側諸国よりもロシアにとって重要であることをプーティンが理解していたことだ。読者の皆さんに心に留めていただきたいことは、ロシアにとってウクライナの命運は、自国を守るために多大な犠牲を払っているウクライナ人にとっての命運よりも決して重要ではないということだ。しかし、プーティンは、ウクライナの主要な支持者たちよりも、コストとリスクの負担を嫌がらない点で優位に立っている。プーティンが有利なのは、西側の指導者たちが弱虫だからでも、臆病だからでも、屁理屈をこねているからでもない。

このような利害と動機に関わる、根本的な非対称性が、アメリカ、ドイツ、そしてNATOの他の多くの国々が対応を慎重に調整した理由であり、ジョー・バイデン米大統領が最初からアメリカ軍の派遣を否定した理由である。プーティンは、ウクライナの運命には数十万人の軍隊を送り込んで戦わせ、死に至らしめる価値があると考えるかもしれないが、アメリカ国民は息子や娘たちをウクライナに反対させるために送り込むことに同じような気持ちは持っていないし、持つはずもないということを正しく理解していた。ウクライナ人が自国を守るのを助けるために何十億ドルもの援助を送る価値はあるかもしれないが、その目的は、アメリカがアメリカ軍を危険な目に遭わせる、もしくは核戦争の重大なリスクを冒すほど重要なものではない。このような動機の非対称性を踏まえ、私たちはアメリカ軍が直接関与することなくロシアを阻止しようとしている。このアプローチがうまくいくかどうかはまだ明確ではない。

この状況は、ウクライナ人、そして西側で最も声高な支持者たちが、自国の運命を多くの無関係な問題と結びつけるために莫大な労力を費やしている理由にもなっている。彼らに言わせれば、ロシアがクリミアやドンバスのどこかを支配することは、「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」にとって致命的な打撃であり、中国が台湾を掌握することへの誘いとなり、どこの国の独裁者にとっても恩恵となり、民主政治体制の破滅的な失敗であり、核兵器による恐喝は簡単で、プーティンはそれを使って英仏海峡まで軍隊を進軍させることができるというサインだということになる。西側諸国の強硬派は、ウクライナの運命がロシアにとって重要であるのと同様に私たちにとっても重要であるかのように見せるために、このような議論を展開するが、そのような脅しの戦術は、おおざっぱな調査にすら耐えられない。21世紀のこれからの行方は、キエフとモスクワのどちらが現在争っている領土を支配することになるのかによって決まるのではなく、むしろ、どの国が重要な技術を支配するのか、気候変動や他の多くの場所での政治的展開によって決まる。

この非対称性を認識することは、核兵器による威嚇(nuclear threats)が限定的な効果しか持たない理由や、核兵器による恐喝(nuclear blackmail)に対する恐怖が見当違いである理由も説明できる。トーマス・シェリングが何年も前に書いたように、核兵器による応酬(nuclear exchange)は非常に恐ろしいものであるため、核兵器の影の下での交渉は「リスク・テイクの競争(competition in risk taking)」となる。誰も核兵器を1発たりとも使いたくはないが、特定の問題をより重視する側は、特に重要な利害がかかっている場合には、より大きなリスクを冒すことを避けることはないだろう。このような理由から、ロシアが壊滅的な敗北を喫しそうになった場合、核兵器を使用する可能性を完全に否定することはできない。繰り返すが、西側の指導者たちは意志薄弱であったり、臆病であったりするのではなく、賢明で慎重に振舞っているのだ。

これは、私たちが「核兵器による恐喝nuclear blackmail)」に屈していることを意味するのだろうか? プーティンはこのような脅しを使って、別の場所で更なる譲歩を勝ち取ることができるのだろうか? 答えは「ノー」である。なぜなら、プーティンが先に進めば進むほど、動機の非対称性がわれわれに有利に働くからである。ロシアが自国の重要な利害に関わる問題で他国に譲歩を強要しようとしても、その要求は耳に入らないだろう。プーティンがバイデンに電話して、「もしアメリカがアラスカをロシアに返還することを拒否したら、核攻撃を仕掛けるかもしれない」と言ったとしよう。バイデンは笑って、酔いから醒めたらかけ直すように言うだろう。ライヴァルの強圧的な核兵器による威嚇は、決意の均衡(balance of resolve)が私たちに有利な場合には、ほとんど、あるいはまったく通用しない。長い冷戦(long Cold War)の期間中、米ソ両国は、自由に使える膨大な核兵器があったにもかかわらず、非核保有国に対してさえ、核兵器による恐喝を成功させたことはなかったことを思い出すことには価値がある。

しかしながら、この状況が変化する可能性がある方法が1つあり、それは安心できる考えではない。アメリカとNATOがウクライナに提供する援助、武器、諜報、外交支援が増えれば増えるほど、その評判が結果に結びつくようになる。これが、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領とウクライナ人がますます洗練された形態の支援を要求し続ける理由の1つである。西側諸国を自分たちの運命にできるだけ密接に結びつけることが彼らの利益になる。ちなみに、私はこのことで彼らを少しも責めない。私が彼らの立場だったらそうするだろう。

風評被害は誇張されがちだが、重大な物質的利益が危機にさらされていなくても、そうした懸念が戦争を継続させることがある。1969年、ヘンリー・キッシンジャーは、ヴェトナムがアメリカにとって戦略的価値が低く、勝利への道筋が見えないことを理解していた。しかし彼は、「50万人のアメリカ人のコミットメント(関与)によって、ヴェトナムの重要性は決着した。今必要なのは、アメリカの約束に対する信頼なのだ」と述べた。その信念に基づき、彼とリチャード・ニクソン大統領は、「名誉ある平和(peace with honor)」を求めて、さらに4年間もアメリカの参戦を続けた。ウクライナにエイブラムス戦車やF-16を送るのも同じ教訓からとなるだろう。武器が増えれば増えるほど、私たちはより献身的になる。残念なことに、両陣営が自らの死活的利益には相手に決定的な敗北を与えることが必要だと考え始めると、戦争を終わらせることは難しくなり、エスカレートする可能性が高くなる。

繰り返すと次のようになる。プーティンが戦争を始めたのは正しかったとか、NATOがウクライナを助けるのは間違っているとか、そういうことを示唆するものではない。しかし、プーティンは全てにおいて間違った訳ではない。プーティンが正しかったことを認識することが、ウクライナとその支持者が今後数カ月をどのように過ごすかを決めるはずだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 昨日は、国際関係論の一学派リアリズムの泰斗であるスティーヴン・M・ウォルトのリアリズムによる新型コロナウイルス感染拡大に関する分析論稿を紹介した。今回ご紹介する論稿はウォルトの論稿に対する反論という内容になっている。

 新型コロナウイルス拡大が国際的な問題となって3年が経過した。各国は医療体制の拡充や補助金の新設や増額などで対応してきた。日本も例外ではない。そうした中で、国家の役割が増大し、人と物、資本が国境を越えて激しく動き回る、グローバライゼーションの深化はとん挫した形になった。国際機関に対する信頼も小さくなっていった。

 しかし、今回ご紹介する論稿の著者ジョンストンは、初期段階の対応はリアリズムで分析できるが、これからはそうではないと述べている。もう1つの学派であるリベラリズム(Liberalism)によって分析・説明が可能になると主張している。

 リベラリズムとは、各国家は国益を追求するために、進んで協力を行う、国際機関やNGOなどの非国家主体が国際関係において、重要役割を果たすと主張する学派だ。新型コロナウイルス感染拡大の初期段階では各国は国境を閉じ、人の往来を制限して、国内での対応に終始した。しかし、これから新型コロナウイルス感染拡大前の世界に戻るということになれば、国際的な取り決めや協力が必要になり、国際機関の役割も重要になっていく。グローバライゼーションの動きがどれくらい復活をしてくるかは分からないが、おそらくこれまでのような無制限ということはないにしても、人、物、資本の往来はどんどん復活していくだろう。

 社会科学の諸理論は、社会的な出来事を分析し、説明し、更には予測することを目的にして作られている。理論(theory)が完璧であればそれは法則(law)ということになるが、それはなかなか実現できないことだ。諸理論は長所と短所をそれぞれ抱えており、また、現実の出来事のどの部分を強調するかという点でも違っている。理論を構成していくというのは、言葉遊びのようであり、まどろっこしくて、めんどくさいのように感じる。

 しかし、そうやって遅々としてか進まない営為というものもまた社会にとって必要であり、いつか大いに役立つものが生み出されるのではないかという希望を持って進められるべき営為でもある。日本においては官民で、学問研究に対する理解も支援も少なくなりつつあるように感じている。それは何とも悲しいことだし、日本の国力が落ちている、衰退国家になっているということを実感させられる動きだ。

(貼り付けはじめ)

感染拡大とリアリズムの限界(The Pandemic and the Limits of Realism

-国際関係論の基本的な理論であるリアリズムはそれが主張するよりも現実的ということではない。

セス・A・ジョンストン筆

2020年6月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/06/24/coronavirus-pandemic-realism-limited-international-relations-theory/

スティーブン・ウォルトの「コロナウイルス感染に対するリアリズム的ガイド」は、彼の他の論文とともに、国際関係の現実主義者がコロナウイルスをこの学派の思想の正当性を証明するのに役立つと見ている説得力のある例である。現実主義者が自信を持つには十分な理由がある。新型コロナウイルス感染拡大への対応は、主権国家の優位性(primacy of sovereign states)、大国間競争の根拠(rationale for great-power competition)、国際協力への様々な障害(obstacles to international cooperation)など、リアリズムの伝統の主要な信条を実証するものとなった。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大は、政策を成功に導く源泉としてのリアリズムの欠点も露呈している。リアリズムが得意とするのは、リスクや危険を説明することであり、解決策を提示することではない。リアリズムの長所は治療や予防よりも診断にある。新型コロナウイルスに最も効果的に対処するためには、政策立案者たちは、過去4分の3世紀の他の大きな危機への対応に、不本意ながら情報を与えてくれたもう1つの理論的伝統に目を向ける必要がある。

リアリズムは多くのことを正しく理解しており、それが、少なくともアメリカにおいて、リアリズムが国際関係論の基礎となる学派であり続ける理由の1つである。新型コロナウイルス感染拡大は、世界政治の主役は国家であるというリアリズムの見識を浮き彫りにしている。新型コロナウイルスが発生すると、各国は国境を閉鎖または強化し、国境内の移動を制限し、安全保障と公衆衛生の資源を結集して迅速に行動した。世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は当初、こうした国境管理に反対するよう勧告し、企業は経済活動の低下を懸念し、個人は移動の自由の制限に苦しんだが、これは秩序を維持し出来事を形成する国家の権威を強調するものだ。

しかし、国の独自行動がいかにリアリズムから理解できるものであっても、また予測できるものであっても、その不十分さは同じである。国境管理と渡航制限によって、各国が新型コロナウイルス感染拡大から免れることはなかった。たとえ完璧な管理が可能であったとしても、それが望ましいかどうかは疑問である。島国であるニュージーランドは、物理的な地理的優位性と国家の決定的な行動により、新型コロナウイルスに対して国境を維持し、比較的成功を収めていることについて考える。ニュージーランドが国家的勝利を収めたとしても、感染拡大が国境を越えて猛威を振るう限り、それは不完全なものに過ぎない。再感染し、国際的な開放性に依存する産業が経済的なダメージを受け続ける危険性がある。つまり、自国内での感染を防ぐことは国益にかなうが、他の国が同じことをしない限り、その国益は実現しないのだ。経済や安全保障の競争は、「相対的利益(relative gains)」やゼロサムの競争論理といったリアリズム的な考察に合致しやすいが、疾病のような国境を越えた大災害は、「無政府状態(anarchy)」の国際システムにおける個々の国家の限界を露わにする。

国境を越えるようなリスクと国益との間の断絶は、資源をめぐる国家の奔走という別の問題にも関連している。ここでもリアリズムがこの問題の診断に役立っている。なぜ各国が医療用マスク、人工呼吸器、治療やワクチンのための知的財産といった希少な品目をめぐって争うのかを説明している。このような争いは、ゼロサムの論理の性質を持つ。しかし、協調性のない行動は非効率的な配分(inefficient allocation)をもたらし、時間と労力を浪費し、コストを増大させる。これら全ては、感染症の発生を阻止するという包括的なそして共通の利益を損なうものである。同じ資源をめぐるアメリカの州や自治体の無秩序な争いは、国内でもよく見られる光景である。リアリズムが提示する建設的な選択肢はほとんどない。

リアリストたちは国際機関を信用しないよう注意を促す。例えば、国連もWHOも新型コロナウイルスを倒すことはできない。国際機関が自律的な国際的なアクターであるとすれば、それは弱いものであることは事実である。しかし、この批判は的外れである。国際機関は、国家の行動に代わるものでも、国際関係における国家の主要な地位に対する挑戦者でもない。むしろ、外交政策や国家運営(statecraft)の道具である。国家が国際機関を設立し、参加するのは、予測可能性(predictability)、情報、コスト削減、その他機関が提供できるサーヴィスから利益を得るためである。リアリズムの著名な学者であるジョン・ミアシャイマーでさえ、国際機関は「事実上、大国が考案し、従うことに同意したルールであり、そのルールを守ることが自分たちの利益になると信じているからである」と認めている。制度学派のロバート・コヘインとリサ・マーティンが数十年前にミアシャイマーとの大激論で述べたように、国家は確かに自己利益追求的であるが、協力はしばしば彼らの利益になり、制度はその協力を促進するのに役立つのである。ミアシャイマーは、最近、他の分野でもアメリカの利益に資するために、より多くの国際機関を創設するよう主張したので、最終的には同意することになったのかもしれない。また、制度学派も、安易な協力を期待することの甘さに対するリアリズムの警告を認めている。日常生活において、隣人との協力は簡単でも確実でもない。しかし、アメリカ人の多くが感染拡大にもかかわらず、街頭に出て要求したように、代替案よりも望ましいことであるから、それを得るために努力する価値があるのだ。

主要な違いは、制度主義(institutionalism)の方が、自己利益追求的な協力の現実的な可能性をより強調することである。この強調の仕方の違いによって、リアリズムと制度主義の間にある実質的な共通点が曖昧になりかねない。両方とも、国際協力(international cooperation)が望ましいことは認識しているが、より困難な問題は、それをどのように達成するかということである。この点では、現実主義的な洞察(insight)が大いに貢献する。覇権的なパワー(hegemony power)が国際的な制度を押し付けると、その制度は覇権を失った後も存続しうるという古典的な考え方がある。また、ジョセフ・ナイのリーダーシップに関する議論でも、パワーは中心的な役割を果たし、コストを下げ、成果を向上させるために、パワーのハードとソフト両面の「賢い(smart)」応用が必要であるとしている。さらに他の研究者たちは、制度設計(institutional design)が強制、情報共有、その他の設計上の特徴を通じて、不正行為(cheating)、恐怖(fear)、不確実性(uncertainty)のリスクを縮小することができると指摘している。これらの資源は完璧ではないが、パワー、リーダーシップ、制度設計に対する影響力など、その全てがアメリカで利用可能であることは朗報である。

日常生活において、隣国との協力は簡単でも確実でもない。しかし、感染拡大にもかかわらず、アメリカ人の多くが街頭に立って要求しているように、代替案よりも望ましいことであるから、それを得るために努力する価値はある。国益は、利用可能な資源やヴィジョンと相まって、アメリカや他の国々が過去の危機の際に国際機関を設立し、行動してきた理由を説明する。国際連合(United Nations)は、第二次世界大戦中にアメリカが連合国(the Allies)に対して作った造語であり、終戦時に制度化されたものである。イスラム国(Islamic State)討伐のための国際的な連合は、国際テロ対策という共通の利益を更に高めるために数十カ国が結集し、それ自体は2014年のNATO会議の傍らで考案されたものである。2008年の金融危機の際、各国は経済政策を調整し、コストを分担し、経済を救うために、G20を再発明した。

アメリカはこうした制度の創設を主導し、莫大な利益を得た。第一次世界大戦後の国際連盟(League of Nations)への加盟を拒絶し、911後のテロ対策では、当初はやや単独行動的(unilateral)であったように、国際協力は必ずしもアメリカの最初の衝動では無かった。しかし、アメリカは最終的に、国際的な協調行動とリーダーシップによって、自国の利益をよりよく実現することができると判断したのである。

新型コロナウイルスの大流行に対する国家の初期反応については、リアリズムで説明することができるが、より良い方法を見出すためには、他の諸理論に建設的な政策アイデアを求める必要がある。これまでの世界的危機と同様、アメリカは国際機関に国益を見出す努力をすることができるし、そうすべきである。

※セス・A・ジョンストン:ハーヴァード大学ベルファー科学・国際問題センター研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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