古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:NATO

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿は、ヨーロッパ諸国に向けた内容であるが、日本にとっても参考になる内容である。特に、現在、トランプ関税で厳しい交渉を続けている赤澤亮正経済再生担当大臣に読んでもらいたい内容だ。

 第二次ドナルド・トランプ政権との交渉を行う際には、アメリカの利益と自国の利益に配慮しつつ、引きすぎてはいけない。あまりにも過剰な要求をしてくるのであれば、交渉材料を持って、アメリカに抵抗する。引きすぎた時点で、トランプ政権は与しやすい相手と見て、さらに過大な要求をしてくる。逆に、強く出つつ、妥協をすれば、骨のある相手ということで、一定の配慮をする。付け入られないようにすることが重要だ。赤澤大臣は短期間に何度も日米間を往復し、ワシントンでの交渉に臨んでいる。妥協は成立していないようだが、それだけタフな交渉をしているのだろうと考えられる。

 ヨーロッパ諸国が中心となっているNATOでは、トランプ政権の要求を受け入れて、国防負の対GDP比5%実現を発表した。これは何とも解せない話だ。ヨーロッパの仮想敵(既に仮想ではないだろうが)はロシアだ。ロシアを恐れるあまりにこのようなことになったと考えられるが、そもそも、GDPで見ても、国防費で見ても、ヨーロッパはロシアを大幅に上回っている。フランスもイギリスも核兵器を保有している。ロシアを過剰に恐れる必要はない。ロシアとの関係を少しでも改善すればそれで済む話だ。ヨーロッパ諸国は国防費の対GDP比5%などやってしまったら、社会が大きく混乱し、不安定となる。それこそ、ローマ帝国は過剰な軍事費負担のために衰亡したではないか。その轍を踏むことになる。
 私はここまで書いて、ヨーロッパが恐れているのはロシアではないのではないかと考えついた。ヨーロッパが恐れているのは、「西側以外の国々(the Rest)」の「復讐」ではないかと考えた。日本人から見れば、今更そんなことは起きるはずはないと考えるが、ヨーロッパが500年近くにわたり行った残虐な植民地支配の記憶が、宗主国であったヨーロッパ諸国を苦しめているのではないかと思う。「自分たち(ヨーロッパ)が衰退して、立場が逆転した場合に、彼らはきっと復讐するだろう、なぜなら、自分たちが同じ立場だったらそうするからだ」という思考になっているのだろう。世界構造の大変化、大転換に際し、ヨーロッパはそのような不安感と恐怖に取りつかれているのではないか。
 筆がだいぶ横に滑って脱線してしまった。話を戻す。私は下記論稿を読んで、論稿の要諦は「最善を望み、最悪に備える(Hope for the best; plan for the worst)」であると主張する。そして、これは、外交をはじめとする政治の要諦でもあると思う。是非記憶しておきたい言葉だ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはトランプ大統領にどう対処すべきか(How Europe Should Deal With Trump

大国間政治(great-power politics)を真剣に考えるべき時が来た。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年5月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/07/europe-trump-us-defense-nato-china-technology/

ヨーロッパは岐路に立たされている。環大西洋安全保障協力(trans-Atlantic security cooperation)の全盛期は過去のものとなり、ドナルド・トランプ政権はヨーロッパの大半を侮蔑、軽蔑、あるいは敵対視(contempt, disdain, or outright hostility)している。少なくとも、ヨーロッパの指導者たちはもはやアメリカの支援と保護を当然視することはできない。最善を望むことはできるが、最悪の事態に備えなければならない(They can hope for the best, but they must plan for the worst)。そしてそれは、世界政治において独自の道を歩むことを意味する。

公平を期すなら、この状況はドナルド・トランプ大統領の責任ばかりではない。仮にトランプ大統領が当選していなかったとしても、大西洋間の関係の根本的な見直しはとっくに終わっていた。地球儀を見れば、その理由を理解できる。アメリカはヨーロッパの大国ではないし、そこに永続的にアメリカ軍がコミットするのは歴史的にも地政学的にも異常なことだ。この種のコストのかかる関与は、明確な戦略的必要性(clear strategic necessity)によってのみ正当化される。アメリカが第一次世界大戦と第二次世界大戦に参戦したのも、冷戦時代にヨーロッパにかなりの兵力を駐留させたのも、この戦略的目的(strategic objective)が主な理由である。

これらの政策は以前であれば理に適っていた。しかし、冷戦が30年以上前に終結し、アメリカの一極時代(the unipolar moment)も数年前に終わった。中国は今やアメリカの主要な大国のライヴァルであり、潜在的な地域覇権国(a potential regional hegemon)である。アメリカはアジアにおける中国の覇権を阻止するために、限りある資源とエネルギーを集中させる必要がある。良いニュースは、現在、ヨーロッパを支配できるほど強力な国はないということだ。ロシアであってもヨーロッパを支配することは不可能だ。これが意味するところは、アメリカはもはやヨーロッパ防衛の負担を負う必要はなくなったということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍以上、GDPはロシアの9倍であり、NATOのヨーロッパ加盟諸国は防衛費でもロシアを上回っている。もしヨーロッパの潜在的な力が適切に動員されれば、アンクルサム(訳者註:アメリカ)からの直接的な援助がなくても、ヨーロッパはロシアからの直接的な挑戦を抑止し、打ち負かすことができるだろう。

理想的には、アメリカはヨーロッパと協力して新たな分担を交渉し、この移行を可能な限り円滑かつ効率的に進めるべきだ。6月に開催されるNATO首脳会議は、特にアメリカが建設的な役割を果たすことを選択した場合、このプロセスを加速させる絶好の機会となるだろう。

残念ながら、トランプ政権はヨーロッパを貴重な経済パートナーや有用な戦略的同盟諸国とは考えていない。誇張しすぎているかもしれないが、トランプ政権はヨーロッパを、トランプとMAGA運動が拒絶するリベラルな価値観に傾倒する、堕落し、分裂し、衰退する国家の集合体(a set of decadent, divided, and declining states committed to liberal values that Trump and the MAGA movement reject)と見なしている。トランプは、主流派のヨーロッパの政治家たちよりも、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のような独裁者との方が安心感があり、政権はドイツのAfDやフランスのマリーヌ・ル・ペン率いる国民連合のような極右グループに共感的だ。トランプはブレグジットを支持し、ヨーロッパ連合(EU)は「アメリカを困らせる」ために設立されたと考えており、ヨーロッパ全体を代表するEU当局者と交渉するよりも、個々のヨーロッパ諸国と個別に交渉することを望んでいる。彼は、グリーンランド併合やカナダをアメリカ合衆国の一部とするという自身の夢を阻害する可能性のある規範や規則を拒否している。そして、トランプが始めた関税戦争にヨーロッパを巻き込むことで、トランプが望んでいるとされる国防費目標をヨーロッパが達成することを困難にしている。

ヨーロッパの観点からすれば、これらは全て十分に憂慮すべき事態だが、ヨーロッパの指導者たちはトランプ政権の根深い無能さも受け入れる必要がある。混沌とした貿易戦争はこの問題の最も明白な具体例であるが、政権による不適格な人事、恥ずべきシグナルゲート事件、科学界や大学への継続的な攻撃、ロシアやイランとの素人同然の交渉、そして国防長官室から生じる度重なる混乱も忘れてはいけない。もしヨーロッパの指導者たちが、アメリカは自分たちのやり方を理解していると思い込み、アメリカの先導に従うことに慣れきっているのであれば、今こそ考え直す時だ。

それでは、彼らはどうすべきだろうか?

もちろん、ヨーロッパの人々が私の助言を無視するのは自由だが、もし私が彼らの立場だったら、第一に、

現在の問題の責任をワシントンに明確に負わせることから始めるだろう。彼らはアメリカと争うつもりはなく、協力的な精神で新たな安全保障・経済協定について交渉することには喜んで応じるということを強調すべきだ。しかし、ワシントンが戦いを挑むことに固執するのであれば、ヨーロッパの利益を守るためならどんな犠牲を払っても構わないという覚悟があることを明確にすべきだ。

第二に、もしヨーロッパ諸国が非友好的な米政権と対峙しなければならないのであれば、声を合わせて、アメリカによる分断工作に抵抗する方がはるかに賢明である。ヨーロッパは、最近のドラギ総裁報告書で提言された経済改革の大半を実施し、反対派加盟諸国が必要な行動を阻止できる拒否権を廃止すべきである。もしこれがハンガリーのような反対派の国をEU離脱に導いたとしても、残りの加盟諸国はより有利な状況になる可能性は高い。

第三に、大国間政治(great-power politics)が復活し、ヨーロッパはより多くのハードパワーを必要としている。これは国防予算の増額という問題ではなく(一部のヨーロッパ諸国は増額を必要としているものの)、ユーロを効果的に使い、アメリカの支援に大きく依存しない持続可能な戦場能力を構築するという問題である。ジェームズ・マティス元国防長官が掲げた「フォー・サーティーズ(Four Thirties)」(30個大隊、30個航空隊、30隻の艦艇を30日以内に配備可能)という目標は良い出発点だが、アメリカの支援に大きく依存しない信頼性の高いヨーロッパ軍を構築するには、それ以上のものが求められる。バリー・ポーゼンが最近『フォーリン・アフェアーズ』誌で警告したように、ヨーロッパは戦後ウクライナにおける費用のかかる平和維持活動に巻き込まれることを避け、必要とされる場所であればどこでも介入できる強力な諸兵科連合能力(developing a robust combined arms capability that can intervene wherever it is needed.)の構築に注力すべきだ。

第四に、アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」がますます信頼できなくなりつつあることから、ヨーロッパは地域の安全保障における核兵器の役割について、真剣かつ持続的な議論を行う時期に来ている。もちろん、この問いにどう答えるかはヨーロッパの人々次第だが、これ以上無視することはできない。私の考えでは、信頼できるヨーロッパの抑止力には、アメリカやロシアの核兵器保有量に匹敵するようなものは必要ない。ヨーロッパの政府高官や戦略専門家がこうした問題について議論し始めていることは朗報である。

第五に、ヨーロッパ諸国は、アメリカが敵対的あるいは信頼できない態度を取り続けるのであれば、自分たちには選択肢があり、中国を含む他国と協力することをワシントンに思い知らせる必要がある。EUは中国との貿易について独自の懸念を持っているが、トランプ大統領がアメリカ国内の関税引き上げを主張するのであれば、北京との経済関係を維持し、場合によっては拡大することが必要かもしれない。このような理由から、EU首脳が7月に北京を訪問することは、ワシントンに自分たちを当然視しないよう念を押すためであるとしても、理にかなっている。

ヨーロッパ諸国はこれまで、たとえ多大なコストがかかったとしても、先端技術分野の重要分野においてアメリカの先導に進んで従ってきた。例えば、オランダはジョー・バイデン政権の要請に応じ、オランダ企業ASMLによる中国への先端リソグラフィー装置の販売を禁止した。また、EU諸国の中には、代替技術よりも安価で優れているにもかかわらず、ファウェイの5G技術を禁止する国もいくつかある。しかし、トランプ政権が他の問題でもヨーロッパに対して強硬な姿勢を崩さないのであれば、ヨーロッパは今後、この種の要求にはるかに慎重に対処べきだ。

最後に、長期的には、ヨーロッパ諸国はロシアとの関係を緩和する方法を模索すべきだ。特にプーティン大統領が依然としてロシアを支配している場合、これは容易なことではないが、現在の深刻な相互疑念、対立、そして混乱の状態は、ヨーロッパにとって利益にはならない。ヨーロッパ諸国のハードパワーが高まり、安全保障が向上するにつれて、各国は双方の正当な安全保障上の懸念に対処するための信頼醸成措置を受け入れる姿勢を維持すべきだ。ヘルシンキ・プロセスやヨーロッパ安全保障協力機構などの過去の取り組みは、ライヴァル国間でも緊張緩和(デタント、détente)が可能であることを私たちに思い出させてくれるものであり、将来のヨーロッパの指導者たちはこの可能性に心を開いておくべきだ。

これは野心的なアジェンダであり、大きな政治的障害に直面するだろう。ヨーロッパの戦略的自立性を高めるための過去の取り組みは常に失敗に終わったが、今日のヨーロッパはこれまでとは全く異なる状況に直面している。アメリカの大学や法律事務所が学んだように、トランプ政権を宥めようとすれば、要求がさらに強まるだけだ。一方、政権に抵抗すれば、他国も追随し、時にはホワイトハウスが自らの立場を再考することになる。今こそそうであることを願うしかない。いずれにせよ、ヨーロッパが自立を維持し、脆弱性を最小限に抑えたいのであれば、アメリカがもはや信頼できるパートナーではなくなった世界に備える以外に選択肢はない。最善を望み、最悪に備えるのだ(Hope for the best; plan for the worst)。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 2025年6月21日、ドナルド・トランプ大統領はアメリカ軍に命じて、アメリカ空軍の戦闘機にイラン国内の核関連施設3カ所を攻撃させた。中東情勢は緊迫化を増すが、イランがアメリカを攻撃する力はない。イスラエルに対するミサイル攻撃が反撃の柱になるだろう。アメリカとイスラエルは中東地域において完全な敵役となった。イスラエルのイラン攻撃には、中国やロシアが

ヨーロッパ(ウクライナ)、中東(イスラエル、イラン)ときな臭くなっているが、アジア地域は安定し、世界経済のエンジンとなっている。アメリカのトランプ政権は、日本をはじめとするアジア諸国に防衛費の増額を求めている。日米間では、日本の国防費の対GDP比をアメリカ並みの3.5%にせよと求めたという報道が出た。そして、ついには、5%にせよという無茶苦茶な要求まで出た。現在が1.8%程度だが、その2倍、3倍にせよという要求だ。日本の国民生活や経済のことなど何も考えていない。それは当然のことで、アメリカの属国である日本からは搾り取れるだけ搾り取るのがアメリカの国益だ。正確には、アメリカにとって唯一の「競争力のある」製造業である軍事産業の利益である。現在でも重税で苦しんでいるが、日本国民はさらに増税で苦しめられることになる。
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 アメリカは世界最大の防衛費を誇り、最強の軍隊を保有している。防衛費の対GDP比を見てみると、最近になって減少させている。4%を切って、3%台になっている。防衛費もアメリカにとって重い負担になっている。この負担を他に押し付けようというのがアメリカの魂胆でもある。そのターゲットが日本である。日本を中国に対する「番犬」にしようということになる。米国防総省序列第3位の国防次官(政治担当)のエルブリッジ・コルビーの著書は日本でも翻訳が出ているが、日本に「大軍拡」を求めている。それは中国に対する抑止のためだが、アメリカと中国が直接廠とすることは想定しない。ウクライナやイランに比べて、中国は国際社会における存在感が桁違いだ。そこは伸長にならねばならないが、日本に「汚れ仕事」をやらせることで、いざとなれば、「日本が暴走しただけで、自分たちは関係ない、それどころか、日本は米中両国で抑えねばならない」ということになって、日本は切り捨てられることになるだろう。

日本は戦争をしてはいけない。戦争につながる動きにも敏感にならねばならない。アメリカは日本を戦争に巻き込もうとしている、いや、正確には日本を捨て駒にしようとしている。そもそも防衛費を現在の3倍、4倍ににしたら、国民生活は困窮の度を深める。庶民からはこれ以上搾り取れないとなったら、後は富裕層や大企業から取るしかない。「皆さんが安心して金儲けができるためのショバ代ですよ」ということで、増税することになるだろう。海外に逃げることも許されないだろう。私たちは戦後体制についてよくよく再考しなければならない。
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防衛費GDP比5%要求 米政権、日本含むアジア同盟国に

時事通信 外信部202506220747分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062200115&g=int

 【ワシントン時事】トランプ米政権は日本を含むアジア太平洋の同盟国に対し、防衛費を国内総生産(GDP)比5%に増やすよう要求した。国防総省のパーネル報道官が21日、取材に明らかにした。日本政府は2027年度に防衛費をGDP比2%に引き上げる方針だが、トランプ政権は大幅な積み増しを迫った格好で、日本国内でも増額に関する議論が熱を帯びそうだ。

 パーネル氏は、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国がGDP比5%の防衛費目標を協議していると指摘。「中国の大規模な軍事力増強、北朝鮮の核・ミサイル開発を考慮すると、アジア太平洋地域の同盟国が欧州の水準とペースに迅速に追いつくべきなのは当然だ」と強調した。

 また、「これはアジア太平洋地域の同盟国の安全保障上の利益だ。アジアの同盟国とのより均衡の取れた、より公平な負担分担は米国民にとっても利益となる」と主張。「トランプ大統領のアプローチは、この常識的な考えに基づくものだ」と理解を求めた。

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●「トランプ米政権が日本に防衛費GDP35%要請か 英紙報道、3%から引き上げ」

産経新聞 2025/6/21 06:40

https://www.sankei.com/article/20250621-EVLR2GBOLFIJHE7ABJZUI7V6F4/

【ワシントン=坂本一之】英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は20日、トランプ政権が日本の防衛費に関し国内総生産(GDP)比で35%に引き上げることを求めたと報じた。日米関係筋は35%への引き上げ要請について「聞いていない」としている。トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)加盟国にGDP5%を求めていて、オーストラリアには35%を要求するなどアジア太平洋地域の同盟国にも増額を求めている。

同紙によると米側は当初、日本の防衛費に関しGDP3%を主張していたが、最近になって増額規模を引き上げて35%を要請。国防総省ナンバー3として政策立案を担うコルビー政策担当次官のアイデアという。

日本側は、71日に米国で予定していた日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)開催を取りやめたとしている。

コルビー氏は3月、議会の公聴会で日本の防衛費について「少なくともGDP3%を可及的速やかに支出すべきだ」と主張していた。

ヘグセス国防長官は5月末にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(通称シャングリラ対話)で、NATO5%を「新たな模範」としアジア太平洋地域の同盟国にも増額を呼び掛けていた。同会議に合わせて開いた米豪防衛相会談では、オーストラリアに35%への引き上げを求めている。

国防総省のパーネル報道官は20日、アジア太平洋地域の同盟国の防衛費について「中国の大規模な軍事力増強や北朝鮮の核・ミサイル開発を考えると、欧州の防衛費の水準に追いつくよう迅速に対応することは常識的だ」と述べた。

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米、日本に防衛費3.5%要求 反発で2プラス2見送りか―英紙報道

時事通信 外信部202506210839分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062100227&g=int

 【ワシントン時事】英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は20日、トランプ米政権が日本に対し、防衛費を国内総生産(GDP)比3.5%に引き上げるよう要求したと報じた。もともとの要求は3%だったため、日本側は反発し、7月1日で調整していた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の開催を見送ったという。

 報道によると、米国防総省ナンバー3のコルビー国防次官(政策担当)が最近、3.5%目標を求めた。要求拡大が日本側の「怒りを買った」とされる。

 7月20日に参院選の投開票が見込まれることも、2プラス2開催見送りの一因となった。日本側は2プラス2開催が参院選に与える影響を懸念した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ロバート・D・カプランと言えば、地政学の専門家として日本でも著書が翻訳されている著名な文化人である。カプランはトランプについて、アメリカ史上初の本を読まない大統領と呼んでいる。そして、本を読まないので歴史の知識もない、だからNATOの解体などを簡単に述べるのだと批判している。NATOは確かに、ナチス・ドイツがもたらした惨禍と第二次世界体制後の冷戦期のソ連の脅威の時代には現実感をもって受け入れられた。しかし、現在ではその存在意義は薄れている。ウクライナ戦争があったではないかという反論もあるだろうが、アメリカや西側諸国が火遊びをしなければ、ロシアを挑発しなければ戦争は起きなかった。カプランはトランプがNATOの歴史的な意義を全く理解していないと述べているが、NATOの意義はどこにあるのか逆に聞きたいほどだ。

ロバート・D・カプラントランプ政権のアプローチは、北米大陸の自給自足的な視点に偏っており、近隣諸国に求める期待などなく、国家間の連携が求められている現代のリーダーシップとは乖離していると指摘している。更に、ヨーロッパは、ロシアの脅威や中東情勢も絡む複雑な背景の中、トランプの施策により軽視されていると感じる面もある。彼が指導者としての歴史的な視点を欠いていることで、ヨーロッパからの期待とアメリカの対応には乖離が生まれている。トランプが主導する政治の中で、NATOの重要性が失われていく可能性があり、その結果としてヨーロッパの安定に悪影響を及ぼす状況が懸念されるとカプランは述べている。

 カプランは「北米大陸の自給自足的な視点に偏っており」と述べているのが重要だ。私はこの点を、最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で、「トランプのモンロー主義」と形容した。トランプと彼を支持するアメリカ人たちはヨーロッパから、そして世界から撤退したいのだ。そして、南北アメリカ大陸を勢力圏にして生きていくということにしたい。世界帝国になるなんてまっぴらごめんということだ。存在意義のないNATOにいつまでも入っていても意味はない。お金の無駄だということになる。それを歴史的な意義を理解できない、本を読まない大統領などと批判するのは愚の骨頂だ。

(貼り付けはじめ)

トランプの新しい地図(Trump’s New Map

-アメリカ初の本を読まない(post-literate)大統領は地理にだけ頼ることになるだろう。

ロバート・D・カプラン筆

2025年2月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/25/trump-america-panama-greenland-canada-nato-europe-geography/

2011年6月、当時のロバート・M・ゲイツ米国防長官はブリュッセルで予言的な演説を行った。その中で、ゲイツは、アメリカのヨーロッパの同盟諸国に対し、自国の安全保障のために大幅な負担増を始めなければ、NATOはいつの日か過去のものとなるかもしれないと警告を発した。ゲイツ国防長官は、「NATOが合意した国防支出の基準を満たすよう、同盟諸国に対して、非公式にも公式にも、しばしば苛立ちを露わにして促してきた、歴代の米国防長官の中で、自分は最新の人物に過ぎない」と発言した。

当時、NATO加盟28カ国のうち、2006年に誓約したように年間防衛費をGDPの2%以上支出していたのは、アルバニア、イギリス、フランス、ギリシャ、アメリカの5カ国だけだった。この状況が劇的に変化しない限り、「アメリカの政治体制全体(American body politic writ large)」の間でヨーロッパを防衛しようという「意欲は減退していくだろう(dwindling appetite)」とゲイツは語った。

ヨーロッパに変化は訪れたが、おそらくそのスピードは十分ではないだろう。現在、NATO加盟国の3分の2は2%という基準を満たしている。しかし、ロシアのウクライナ戦争やドナルド・トランプ米大統領による同盟諸国への5%への増額要求などを考慮すると、ヨーロッパにはまだ長い道のりが待っている。トランプ大統領は以前からNATOを軽蔑してきた。昨年は、防衛費を増やさないNATO諸国に対しては、ロシアに「やりたい放題(do whatever the hell they want)」を奨励すると発言した。一方、JD・ヴァンス副大統領は、ヨーロッパ連合(EU)がイーロン・マスクのビジネスプラットフォームを規制しようとすれば、アメリカはNATOへの支援を取りやめる可能性があると述べた。

予算配分をめぐる意見の相違は、より深遠な問題を指し示している: トランプやヴァンスのポピュリスト的なレトリックに見られるように、あまりにも多くのアメリカ人が、ヨーロッパを守ることに深い関心を持たなくなっている。

アメリカのヨーロッパに対する態度の変化は驚くべきことではない。NATOは80年近く存続している。情報、経済、空の旅、移民パターン、そしてアイデンティティ自体に影響を与えた急速な技術革新の時代にあってはなおさらだ。

第二次世界大戦直後にNATOが設立された当時、アメリカは世界の製造能力全体(all global manufacturing capacity)の半分以上を占め、世界を支配していた。この数字は、現在では16%にまで減少している。結局のところ、当時のヨーロッパの各都市は空爆で煙を上げており、ヨシフ・スターリンのソ連は西ヨーロッパにとって致命的な脅威として迫っていた。数十年の間に、この力学は進化した。ヨーロッパは、その安全保障の大部分をアメリカが賄い、羨望を集める社会福祉国家を建設し、市民は豊かな生活を享受した。スターリンが死に、西側諸国はソビエトとのデタント(detente)を達成した。ソビエト連邦は後に崩壊した。

NATOが冷戦とロシア帝国主義の再興後の数十年間を生き延びたのは、西側諸国におけるポピュリズム(populism)とアイデンティティ政治(identity politics)の台頭を含むが、NATOが第二次世界大戦と冷戦初期を強く記憶しているか、あるいは記憶している人々とともに育ち、尊敬している人々によって率いられていたからである。しかし、その生きた歴史的記憶(living historical memory)は蒸発しつつある。その過程でアメリカ人は、ヨーロッパ人があまりにも長い間軽視してきた、自国のアイデンティティのもっと古く、古風な側面を再発見した。ヨーロッパは、アメリカが大西洋だけでなく太平洋にも面する大陸であることを常に知っていたが、自らの行動に影響を与えるほどその知識を十分に内面化したことはなかった。

少なくとも20世紀初頭以来、アメリカのアイデンティティは、地理的なものとウィルソン的なものの2つの現象によって形成されてきた。1つは地理的なもので、もう1つはウィルソン的なものである。地理的なものは自明のことのように思えるが、多くの人々(特にヨーロッパのエリート)にとってはそうではない。

アメリカ合衆国の大部分を占める北アメリカの温帯地域は、東海岸沿いの深水港(deep-water ports)や、アパラチア山脈を抜けて広大な大草原の肥沃な土壌に至る航路など、国家として完璧な配分となっている。現在グレートプレーンズ(the Great Plains)として知られる、水不足のグレートアメリカンデザート(the water-starved Great American Desert)は、まさに自然の障壁として出現したが、大陸横断鉄道(a transcontinental railroad)が建設され、ロッキー山脈を抜けて太平洋まで人口を運ぶことができた。地理が、2つの海で外界から隔てられた団結している国家(a cohesive nation)を作り上げ、その内部では多くの問題や可能性が渦巻いており、世界の他の部分は不明瞭なままであった。

しかし、ひとたび太平洋に到達すれば、フロリダとテキサス間のメキシコ湾岸は言うに及ばず、海岸線は1本ではなく2本になる。これによってヨーロッパとアジアの両方に大きな海上連絡路が開かれ、外界との活発な貿易が可能になった。

ここで、アメリカのアイデンティティのもう1つの側面であるウィルソン主義(Wilsonianism)が登場する。これは、アメリカの領土をはるかに超えた場所での自由の達成の実現がアメリカ自体の安全保障にとって不可欠である(seeing the achievement of freedom far beyond U.S. shores as essential to the country’s own security)と考えるイデオロギーの略称である。第28代米大統領ウッドロー・ウィルソンは、第一次世界大戦後にアメリカを国際秩序(an international order)に組み込むことはできなかったが、蒸気船や航空機の登場でアメリカがヨーロッパにかなり近づき始めたちょうどその頃、アメリカが目指すべき目標を作った。ヨーロッパ大陸の大部分に自由と民主政治隊の砦を築くこと(establishing a bastion of freedom and democracy)というウィルソンの理想が実現したのは、第二次世界大戦とその後の混乱を経て、ワシントンが世界有数の大国となったときだった。

戦後、これら全てが明確で望ましいと考えられたが、地理的にはまったく自然ではなかった。アメリカがより良い世界のために払った犠牲についての知識と、ワシントンのヨーロッパのルーツに基づく歴史的親族関係[historical kinship](血や土地よりも哲学的なルーツ)が必要だった。これら全ては必読だったが、エリートたちはそれを当然のこととして受け止めているが、そうすべきではない。80年が経過した今、この伝統は書籍と教育を通じてのみ評価できる。大西洋同盟(the Atlantic alliance)の設立の生きた記憶(lived memory)は消え、冷戦(the Cold War)も人々の意識から消えつつあるからだ。

トランプはこの伝統の継承者(an heir to this tradition)ではない。彼は実際に本を読まない(He doesn’t really read)。彼は読まない(post-literate)のだ。つまり、ソーシャルメディアとスマートフォンの世界に生きているが、表面的にも、物語の歴史の研究(the study of narrative history)に没頭していないのだ。

したがって、トランプは西側諸国の戦後の物語を理解していない。NATOは彼にとって単なる頭字語の集まった単語でしかなく、ナチス・ファシズムとの戦いから生まれた人類史上最大の軍事同盟の意味合いを知らない。彼は、1941年8月にカナダのニューファンドランド沖でフランクリン・D・ルーズベルト米大統領とウィンストン・チャーチル英首相が署名した大西洋憲章(the Atlantic Charter)において、戦後世界に対する刺激的なヴィジョンを示したことや、アヴェレル・ハリマンやジョージ・ケナンなどの偉大なアメリカの外交官や政治家たちによる戦後秩序の構築について、おそらく何も知らない。

アメリカの外交政策エリートは、そのような刺激的な歴史で経験を積んできた。トランプと彼の支持者たちは、おそらくその多くを知らない。そして、テクノロジーの進化により、彼は彼のようなタイプの大統領の最後ではないかもしれない。

トランプは歴史に疎い(ahistorical)ので、彼にとって頼りになるのは地理だけだ(he has only geography to fall back upon)。彼はアメリカを独立した大陸として想像し、グリーンランドやパナマなどの比較的近い場所を、獲得すると誓った場所として認識している。トランプの考えでは、グリーンランドとパナマ運河は、特に北極圏での海軍活動が増えるであろう時代に、アメリカの地理の論理の有機的な延長である。

考慮すべきもう1つの要素は、テクノロジーが地理自体を縮小していることである。これは非常に緩やかであるため、見逃しやすい変化である。世界のある地域の危機は、これまでにないほど他の地域の危機に影響を与える可能性がある。博学で歴史に詳しい人は、この進展をアメリカが世界中で同盟を強化する理由と見なす。しかし、トランプ大統領のより原始的で決定論的な世界観では、永久に紛争が続く閉塞的な世界において、地域的な影響圏(regional spheres of influence)を強化する時なのだ。

トランプが頭の中に置いているであろうと考えられるのは、パナマ運河からグリーンランドまで、カナダがアメリカに従属する広大な北米大陸であるようだ。トランプの神話によれば、明白な運命(Manifest destiny)が今や完成し始めている。かつては北米の温帯地域を東から西まで征服することを意味していたものが、今では北から南まで征服することを意味している。トランプがメキシコ湾を「アメリカ湾」と改名しようとしていることが全てを物語っている。

ヨーロッパにとっては、東のロシアの脅威と、南の中東やアフリカからの移民に対する政治的混乱に脅かされ、弱体化し、分裂が進んでいる。2018年の著書『マルコ・ポーロの世界の復活(The Return of Marco Polo’s World)』の中で私が書いたように、「ヨーロッパが消えるにつれ、ユーラシアは一体化する([a]s Europe disappears, Eurasia coheres)」。ヨーロッパは最終的にユーラシアの勢力システムと融合すると私は説明した。ロシアを中国、イラン、北朝鮮との同盟関係を深めたウクライナ戦争は、この理論を裏付けている。今日の小さな世界では、ヨーロッパはアフロ・ユーラシアの激動から切り離すことができず、トランプの新しい地図の中では価値が下がっている。ウィルソン主義が死ぬと、このようなことが起こる。

長年にわたり、ヨーロッパの人々は、アメリカが中国やその他の東アジア諸国に過剰な関心を寄せていることを懸念してきた。問題はそれよりも深い。トランプ大統領は中国をアメリカと同じように独自の大陸、勢力ブロック(power bloc)と見なしているようだ。トランプ米大統領は中国と貿易戦争(a trade war)をするかもしれないし、しないかもしれない。北京との関係を改善しようとするかもしれない。NATOやヨーロッパ連合(EU)があるにもかかわらず、ヨーロッパが十分に結束していないのとは対照的だ。

トランプはエリートとそのプロジェクトも嫌っている。そして、NATOは究極のエリートプロジェクトだ。NATO加盟国が2011年にゲイツの叱責を真摯に受け止め、もっと早く防衛予算を増額していれば、トランプの今の気持ちは違っていたかもしれない。たとえそうしなかったとしても、少なくともNATO同盟諸国に対して使える比較的小規模なヨーロッパの防衛予算という武器は持たず、トランプの主張は著しく弱まるだろう。

一方、アメリカ初の本を読まない(post-literate)大統領は、1941年にワシントンがヨーロッパを救出して以来、ヨーロッパが直面したことのない課題を示唆している。冷戦と、かつての捕虜だった中欧・東欧諸国がNATOに加盟した冷戦の余波は、将来、平穏な時代として立ちはだかるかもしれない。

※ロバート・D・カプラン:『荒地:永続的な危機に瀕した世界(Waste Land: A World in Permanent Crisis)』の著者。外交政策研究所(Foreign Policy Research Institute)ロバート・シュトラウス・フーペ記念地政学部門長を務める。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 ドナルド・トランプの主張は突き詰めれば、「アメリカ・ファースト(America First)」だ。このブログでも何度も書いているが、これは「アメリカが一番!」という単純な話ではない。「アメリカ国内の抱える深刻な諸問題を解決することを最優先しよう」ということであり、「アメリカ国内(問題解決)優先主義」と訳すべき言葉だ。これに関連して、「アイソレイショニズム(Isolationism)」という言葉もあるが、これも「孤立主義」と簡単に訳すのは間違っている。アメリカが完全に孤立することはできない。こちらもやはり「国内優先主義」と訳すべきだ。だから、「アメリカ・ファースト」と「アイソレイショニズム」はほぼ同じ意味ということになる。

 「アメリカ国内優先主義」ということになれば、アメリカが現在、世界中に派遣しているアメリカ軍をアメリカ国内に戻す、世界経営から手を引くということになる。これに困ってしまうのはヨーロッパである。ヨーロッパは第一次世界大戦、第二次世界大戦と20世紀の前半で二度の破壊を極めた戦争を経験した。戦後ヨーロッパは統合と、アメリカによる安全保障への関与という方向に進んだ。ヨーロッパ諸国はお互いが戦わないように、調停者・仲裁役・抑え役・お目付け役としてアメリカを必要とした。そして、対外的には、具体的には、ソ連、そしてロシアに対しては、アメリカ軍の存在を前提とした軍事力の軽度の整備(軽い負担で済んできた)を行ってきた。それが、アメリカが手を引くということになったらどうなるか。ヨーロッパ域内での調和は乱れ、ロシアに対しては足並みが乱れ、各国の判断で、より軍事力を強化する方向に進む国と、ロシアとの友好関係を重視する国に分かれるだろう。

 ヨーロッパは戦後の制度設計をアメリカの存在を前提にして築いてきた。そして、協調が進み、繫栄することができた。しかし、その良い面とは裏腹に、アメリカの力が衰えた場合、アメリカが手を引く場合の備えができていなかった。そして、現在は、アメリカの国力の衰退が現実のものとなっている。アメリカが手を引けばヨーロッパは混乱状態になる。私たちがヨーロッパから学ぶべきことは、アメリカを関与させない、対等な地域統合組織を作ること、そして、それをアジアで実現することだ。時代と状況の変化はここまで来ている。いつまでも、世界一強のアメリカ、超大国のアメリカということをのんきに信じ込んでいる訳にはいかない。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプの復帰はヨーロッパを変貌させることになるだろう(Trump’s Return Would Transform Europe

-ワシントンが掌握しなければ、ヨーロッパ大陸は無政府的で非自由主義的な過去に逆戻りする可能性がある。

ハル・ブランズ筆

2024年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/26/europe-security-eu-nato-alliances-liberal-democracy-nationalism-trump-us-election/

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どっちが本当のヨーロッパだろうか? 過去数十年間、ほぼ平和で民主的で統一された大陸? それとも、それ以前に何世紀にもわたって存在していた、断片化され、不安定で、紛争に満ちたヨーロッパ(fragmented, volatile, and conflict-ridden Europe)? 11月の米大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すれば、こうした疑問の答えはすぐに分かるかもしれない。

トランプは大統領としての最初の任期中に、アメリカをNATOから離脱させることに執心した。彼の元側近の中には、もし二期目に当選したら本当にやってくれるかもしれないと信じている人もいる。そして、このように語っているのはトランプ大統領だけではない。アメリカ・ファーストの有力信奉者の一人であるJD・ヴァンス連邦上院議員は、「ヨーロッパが自立する時が来た([The] time has come for Europe to stand on its own feet)」と主張している。アメリカ・ファーストの精神に明確に賛同していない人々の間でも、特にアジアにおいて、競合する優先事項への影響力はますます強くなっている。ポストアメリカ(アメリカ後)のヨーロッパについてより考慮されるようになっている。それがどんな場所になるかを聞いてみる価値はある。

楽観主義者たちは、たとえ7月にワシントンで開催されるNATO加盟75周年記念首脳会議で、NATO首脳たちが祝賀するアメリカの安全保障の傘を失ったとしても、ヨーロッパが繁栄し続けることを期待している。この見方では、アメリカは自国に引き上げることになるかもしれないが、過去80年間で豊かになり、安定し、確実に民主政治体制を築いてきたヨーロッパは、多極化した世界において建設的で独立した勢力として行動する用意ができている。

しかし、おそらくポスト・アメリカのヨーロッパは、直面する脅威に対抗するのに苦労し、最終的には過去のより暗く、より無秩序で、より非自由主義的なパターンに逆戻りする可能性すらある。「今日の私たちのヨーロッパは死に向かっているようだ。死に至る可能性がある」とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月下旬に警告した。アメリカ・ファーストの世界では、そうなるかもしれない。

第二次世界大戦後、ヨーロッパは劇的に変化したため、多くの人々、特にアメリカ人は、この大陸がかつてどれほど絶望的に見えたかを忘れている。古いヨーロッパは、歴史上最も偉大な侵略者や最も野心的な暴君を生み出した。帝国の野心と国内の対立が紛争を引き起こし、世界中の国々を巻き込んだ。飛行家で、著名な孤立主義者でもあったチャールズ・リンドバーグは1941年、ヨーロッパは「永遠の戦争(eternal wars)」と終わりのないトラブルの土地であり、アメリカは、そのような呪われた大陸に近づかないほうが良いと述べた。

根本的な問題は、限られたスペースにあまりにも多くの強力なプレイヤーたちが詰め込まれている地理にあった。この環境で生き残る唯一の方法は、他者を犠牲にして拡大することだった。この力関係により、ヨーロッパは壊滅的な紛争のサイクルに陥ることになった。 1870年以降、この地域の中心部に、産業と軍事の巨大企業としての統一ドイツが出現したことにより、このビールはさらに有毒なものになった。ヨーロッパ大陸の政治は、ヨーロッパ大陸の地政学と同じくらい不安定だった。フランス革命以来、ヨーロッパは、自由主義と歴史上最もグロテスクな形態の暴政(tyranny)の間で激しく揺れ動いた。

1940年代後半、第二次世界大戦によって、こうした争いのサイクルが壊れたと考える理由はなかった。古い対立が残ったままとなった。フランスは、ドイツが再び蜂起して近隣諸国を破壊するのではないかと恐れていた。ソ連とその支配下のヨーロッパ共産主義者という形で、新たな急進主義が脅威に晒される一方、ポルトガルとスペインでは右翼独裁政権が依然として力を持っていた。多くの国で民主政治体制が危機に瀕していた。経済的貧困が対立と分裂(rivalry and fragmentation)を加速させた。

新しいヨーロッパの誕生は、決して必然ではなかった。長い間大陸間の争いを避けようとしていた同じ国(アメリカ)による、前例のない介入(unprecedented intervention)が必要だった。この介入は冷戦によって引き起こされ、遠く離れた超大国にとってさえヨーロッパにおける均衡(European equilibrium)の更なる崩壊が耐え難いものになる恐れがあった。1940年代後半から1950年代前半にかけて、しばしば混乱した状況の中、ヨーロッパは徐々に統合されていった。そして、それは革新的な効果をもたらす一連の連動した取り組みを特徴としていた。

最も重要なのは、NATOを通じたアメリカの安全保障への取り組みと、それを裏付ける軍隊の派遣であった。アメリカ軍による保護は、西ヨーロッパをモスクワから、そして西ヨーロッパ自身の自己破壊的な本能から守ることで、暴力の破滅のループを断ち切った。アメリカがこの地域を保護することで、宿敵同士はもはや互いを恐れる必要がなくなった。1948年に、あるイギリス政府当局者は、NATOが「ドイツとフランスの間の長年にわたるトラブルは消滅するだろう」と述べた。西ヨーロッパ諸国はついに、他国の安全を否定することなしに、安全を達成することができるようになった。その結果、この地域を悩ませていた政治的競争や軍拡競争が回避され、NATO加盟諸国が共通の脅威に対して武器を確保できるようになった。

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マーシャル・プランのポスターには、ヨーロッパ各国の国旗をシャッターに、アメリカ国旗を舵に見立てた風車が描かれている

こうしてアメリカの政策は、前例のない経済的・政治的協力という第二の変化を可能にした。マーシャル・プランを通じて、アメリカは復興支援の条件としてヨーロッパ域内の協力を積極的に推し進め、後にヨーロッパ経済共同体(European Economic CommunityEEC)やヨーロッパ連合(European UnionEU)となる国境を越えた構造を生み出した。アメリカ軍の存在は、かつての敵同士が安全保障を損なうことなく資源を出し合うことを可能にし、この協力を促進した。1949年、西ドイツのコンラート・アデナウアー首相は「アメリカ人は最高のヨーロッパ人だ」と述べた。言い換えれば、ワシントンの存在によって、ヨーロッパの同盟諸国は過去の対立関係を葬り去ることができたのである。

第三の変化は政治的なものであった。侵略が独裁政治に根ざしているとすれば、ヨーロッパの地政学を変革するには、その政治を変革する必要があった。その変革は、連合諸国の占領下にあった西ドイツの強制的な民主化(forced democratization)から始まった。この変革には、脆弱な民主政治体制国家を活性化させ安定させるためにマーシャル・プランによる援助が用いられた。この変革もまた、アメリカの軍事的プレゼンスによって可能になった。アメリカの軍事的プレゼンスは、ヨーロッパの民主政治体制を消し去ろうとするソ連の覇権(hegemony)を食い止めると同時に、急進的な左派や右派を疎外する寛大な福祉プログラムに投資することを可能にした。

これは、ヨーロッパの問題に対するアメリカ独自の解決策だった。アメリカだけが、ヨーロッパを敵から守るのに十分な力を持ち、しかもヨーロッパを征服して永久に従属させるという現実的な脅威をもたらさないほど遠い存在だった。アメリカだけが、荒廃した地域の再建を支援し、繁栄する自由世界経済をもたらす資源を持っていた。民主的自由を守りながら、そしてより強化しながら、ヨーロッパの対立を鎮めることができるのはアメリカだけであった。実際、西ヨーロッパにおけるアメリカのプロジェクトは、冷戦が終結すると、単純に東へと拡大された。

アメリカの介入は、歴史家マーク・マゾワーがヨーロッパを「暗黒の大陸(dark continent)」と呼んだように、拡大する自由主義秩序の中心にある歴史後の楽園(post-historical paradise)へと変えた。それは世界を変えるほどの偉業であったが、今ではそれを危険に晒すことを決意したかのようなアメリカ人もいる。

アメリカのヨーロッパへの関与は、決して永遠に続くものではなかった。マーシャル・プランを監督したポール・ホフマンは、「ヨーロッパを自立させ、私たちの背中から引き離す(get Europe on its feet and off our backs)」ことが彼の目標だったと口癖のように語っていた。1950年代、ドワイト・D・アイゼンハワー米大統領は、ワシントンが 「腰を落ち着けていくらかリラックスできる(sit back and relax somewhat)」ように、ヨーロッパがいつ一歩を踏み出せるかと考えていた。アメリカは何度も、駐留部隊の削減、あるいは撤廃を検討した。

これは驚くべきことではない。ヨーロッパにおけるアメリカの役割は、並外れた利益をもたらしたが、同時に並外れたコストも課した。アメリカは、核戦争の危険を冒してでも、何千マイルも離れた国々を守ることを誓った。対外援助を提供し、広大な自国市場への非対称的なアクセスを可能にすることで、アメリカはヨーロッパ大陸を再建し、外国がアメリカ自身よりも速く成長するのを助けた。

フランスのシャルル・ド・ゴール大統領など、アメリカが提供した保護に対して積極的に憤慨しているように見える同盟諸国の指導者を容認した。そしてワシントンは、最も尊敬されてきた外交の伝統の1つである邪魔な同盟への敵意を捨てて、長らく問題でしかなかったヨーロッパ大陸の管理者となった。

その結果、両義的な感情が冷戦の必要性によって抑えられ、また批評家たちがアメリカ抜きで実行可能なヨーロッパ安全保障の概念を提示できなかったからである。しかし今日、古くからの苛立ちが根強く、新たな挑戦がワシントンの関心を別の方向へと引っ張っているため、アメリカのヨーロッパに対する懐疑論はかつてないほど強まっている。その象徴がトランプである。

トランプは長い間、ワシントンがNATOで負担している重荷を嘆いてきた。彼は、ただ乗りしているヨーロッパの同盟諸国に対して、襲撃してくるロシアに「やりたいことを何でもやらせる(whatever the hell they want)」と脅してきた。トランプは明らかにEUを嫌っており、EUを大陸統一の集大成としてではなく、熾烈な経済的競争相手として見ている。非自由主義的なポピュリストとして、彼はヨーロッパの自由民主主義の運命に無関心である。私たちの間には海があるのに、なぜアメリカ人がヨーロッパの面倒を見なければならないのか? トランプがアメリカ・ファーストの外交政策を謳うとき、それはアメリカが第二次世界大戦以来担ってきた異常な義務を最終的に放棄する外交政策を意味している。

はっきり言って、トランプ大統領が就任後に何をしでかすかは誰にも分からない。NATOからの全面的な脱退は、共和党に残る国際主義者たち(Republican internationalists)を激怒させるだろうし、政治的代償に見合わないかもしれない。しかし、トランプが大統領の座を争い、彼の信奉者たちが共和党内で勢力を伸ばしていること、そして中国がアジアにおけるアメリカの利益に対する脅威をますます強めていることから、アメリカがいつか本当にヨーロッパから離脱するかもしれないという可能性を真剣に受け止め、次に何が起こるかを考える時期に来ている。

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2023年5月16日、アイスランドのレイキャビクで開催されたヨーロッパ評議会首脳会議で演説するウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領

楽観的なシナリオでは、ヨーロッパは民主政治体制を維持し、結束し、敵に対抗するために団結する。アメリカが撤退すれば、EUは現在の戦争中もウクライナを支援し、和平後もキエフに意味のある安全保障を与え、ロシアや、これまでアメリカが防いできたその他の脅威を撃退するために、自らを世界的な軍事的主体へと変貌させることができる。こうしてヨーロッパは、自由主義的な世界秩序の強力で独立した柱として台頭することになる。ワシントンは他の優先事項に集中することができ、民主政体世界においてより効率的な分業が構築される。

ヨーロッパには自活するだけの資源がある。1940年代後半のような脆弱で没落した場所ではなく、民主政治体制と協力が規範となった、豊かで潜在的な力を持つ共同体なのだ。EUGDPはロシアの約10倍である。2022年以降、EU諸国は共同してアメリカを上回る軍事援助やその他の援助をウクライナに与えており、冷戦後に萎縮した防衛産業への再投資もようやく進みつつある。さらに、ヨーロッパの指導者たちは、ポーランドがそうであるように、自国を本格的な軍事大国へと変貌させたり、パリで長年の優先事項となっているヨーロッパの戦略的自立を再び推し進めることを提唱したりして、すでにポスト・アメリカの未来に備えている。「より団結し、より主権があり、より民主的な」大陸を構築する時期は過ぎたとヨーロッパのポスト・アメリカの展望について最も強気であると思われる指導者マクロンが4月に宣言した。

楽観的なシナリオの問題点は、簡単に見出せる。マクロンは、アメリカのリーダーシップに代わるものとしてヨーロッパ統合を喧伝しているが、ヨーロッパが統一され、まとまってきたのは、まさにワシントンが安心感を与えてきたからだということを忘れているようだ。例えば、1990年代初頭のバルカン戦争の始まりのように、アメリカが一歩引いてヨーロッパ勢力の前進を許した過去の例では、その結果、戦略的な結束よりもむしろ混乱が生じることが多かった。EUは2022年2月まで、ロシアの侵略をどう扱うかについて深く分裂していた。この教訓は、利害や戦略文化が異なる数十カ国の間で集団行動を調整するのは、誰かが優しく頭を叩いて覇権的なリーダーシップを発揮しない限り、非常に難しいということだ。

独立した、地政学的に強力なヨーロッパが素晴らしく聞こえるとしても、誰がそれを主導すべきかについては誰も同意できていない。フランスは常に自発的な活動に積極的だが、パリに自国の安全を扱う傾向や能力があるとは信じていない東ヨーロッパ諸国を不快にさせている。ベルリンには大陸をリードする経済的素養があるが、その政治指導者階級は、そうすればドイツの力に対する恐怖が再び高まるだけだと長年懸念してきた。おそらく彼らは正しい。冷戦後のドイツ統一が近隣諸国にとって容認できたのは、アメリカとNATOに抱きしめられたベルリンがヨーロッパの優位性を追求することは許されないと彼らが保証されていたからだ。アメリカがヨーロッパの一員ではないからこそ、ヨーロッパ人たちがアメリカのリーダーシップを容認してきたという結論から逃れるのは難しい。アメリカはヨーロッパの一員ではないため、かつて大陸を引き裂いた緊張を再び高めることなく権力を行使できるのだ。

このことは、最後の問題と関連している。自国の安全保障問題を処理できるヨーロッパは、現在よりもはるかに重武装になるだろう。国防支出は多くの国で2倍、3倍に増加せざるを得ないだろう。ヨーロッパ各国は、ミサイル、攻撃機、高度な戦力投射能力など、世界で最も殺傷力の高い兵器に多額の投資を行うだろう。アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」が失われることで、ロシアを抑止したいと願う最前線の国々、とりわけポーランドは、独自の核兵器を求める可能性さえある。

仮にヨーロッパが本格的な武装を行ったとしよう。アメリカの安全保障という毛布がなければ、ヨーロッパ諸国が外からの脅威に立ち向かうために必要な能力を開発するという行為そのものが、域内での軍事的不均衡が生み出した恐怖を再び呼び起こす可能性がある。別の言い方をすれば、アメリカの力に守られたヨーロッパでは、ドイツの戦車は共通の安全保障に貢献するものである。ポスト・アメリカのヨーロッパでは、ドイツの戦車はより脅威的に映るかもしれない。

二つ目のシナリオは、ポスト・アメリカのヨーロッパが弱体化し、分裂するというものである。このようなヨーロッパは、無政府状態(anarchy)に戻るというよりは、無気力状態(lethargy)が続くということになるだろう。EUはウクライナを解放し、自国の東部前線国家を守るための軍事力を生み出すことができないだろう。中国がもたらす経済的・地政学的脅威に対処するのに苦労するだろう。実際、ヨーロッパは攻撃的なロシア、略奪的な中国、そしてトランプ大統領の下では敵対的なアメリカに挟まれることになるかもしれない。ヨーロッパはもはや地政学的対立の震源地ではなくなるかもしれない。しかし、無秩序な世界では影響力と安全保障を失うことになる。

これこそが、マクロンや他のヨーロッパ各国の首脳を悩ませるシナリオだ。既に進行している、または検討中のヨーロッパの防衛構想の多くは、これを回避するためのものである。しかし、短期的には、ヨーロッパが弱体化し分裂することはほぼ確実だろう。

なぜなら、アメリカの撤退はNATOの根幹を引き裂くことになるからだ。NATOは、その先進的な能力の大部分を有し、その指揮統制体制を支配している国である最も強力で最も戦いを経験した加盟国アメリカを失うことになる。実際、アメリカは NATO の中で、ヨーロッパの東部戦線やその先の戦線に断固として介入できる戦略的範囲と兵站能力を備えている唯一の国だ。このブロックに残るのは、主にアメリカ軍と協力して戦うように設計されており、アメリカ軍なしでは効果的に活動する能力に欠けているヨーロッパ各国の軍隊の寄せ集めとなるだろう。これらは、脆弱で断片化した防衛産業基盤によって支えられることになる。ヨーロッパのNATO加盟諸国は、170を超える主要兵器システムを重複して寄せ集めて配備している。この基盤は、迅速かつ協調的な増強を支援することができない。

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ポーランドのノヴァ・デバで多国籍軍の訓練に参加するポーランド兵(2023年5月6日)

アメリカの撤退後、軍事的に弱体化したヨーロッパは、ここ数十年のどの時期よりも高い動員ピッチに達したロシアと対峙することになるが、ヨーロッパがすぐに弱体化を是正する選択肢はほとんどない。

アメリカの力なしでロシアと均衡を図るには、ヨーロッパの軍事費の膨大で財政的に負担の大きい増額が必要となるだろうが、ロシアがウクライナを制圧し、その人口と経済をクレムリンの軍事機構に統合することに成功すれば、更にその必要性は高まるだろう。巨額の赤字を永久に続けるという米国政府の「法外な特権(exorbitant privilege)」がなければ、ヨーロッパ諸国は不人気な巨額の増税を課すか、社会福祉プログラムを削減しなければならないだろう。ポーランドやバルト三国などの一部の国は、独立を維持するためにその代償を払うかもしれない。また、軍事的な準備は社会契約を破る価値はなく、攻撃的なロシアに従う方が賢明だと判断する人もいるかもしれない。

あるいは、ヨーロッパ諸国はどのような脅威に対抗すべきかについて意見が対立するだけかもしれない。冷戦時代でさえ、ソ連は西ドイツを、たとえばポルトガルを脅かすよりもはるかに厳しく脅していた。EUが成長するに従って、脅威に対する認識の相違という問題はより深刻になっている。東部と北部の国々は、プーティン率いるロシアを当然恐れており、互いに防衛のために力を合わせるかもしれない。しかし、西や南に位置する国々は、テロや大量移民など非伝統的な脅威のほうを心配しているかもしれない。ワシントンは長い間、NATO内のこのような紛争において誠実な仲介役を果たし、あるいは単に、大西洋を越えた多様な共同体が一度に複数のことを行えるような余力を提供してきた。このようなリーダーシップがなければ、ヨーロッパは分裂し、低迷しかねない。

それは酷い結果だが、最も醜い結果ではない。三つ目のシナリオでは、ヨーロッパの未来は過去によく似ているかもしれない。

このヨーロッパでは、弱さは一時的なものであり、EUの安全保障のような集団行動(collective-action)の問題を克服できないのは、その始まりに過ぎない。ワシントンの安定化への影響力が後退するにつれ、長い間抑圧されてきた国家間の対立が、最初はゆっくりとかもしれないが、再燃し始めるからである。ヨーロッパ大陸における経済的・政治的主導権をめぐって争いが勃発し、ヨーロッパ・プロジェクトは分裂する。国内のポピュリストや外国の干渉に煽られ、離反主義的な行動(revanchist behavior)が復活する。穏健な覇権国が存在しないため、古くからの領土問題や地政学的な恨みが再び表面化する。自助努力の環境の中で、ヨーロッパ諸国は自国の武装を強め始め、核兵器だけが提供できる安全保障を求める国も出てくる。非自由主義的で、しばしば外国人嫌いのナショナリズムが暴走し、民主政治体制は後退する。数年、あるいは数十年かかるかもしれないが、ポスト・アメリカのヨーロッパは、急進主義と対立の温床(hothouse of radicalism and rivalry)となる。

これは、1990年代初頭に一部の著名な専門家たちが予想していたことである。バルカン半島での民族紛争、ドイツ再統一をめぐる緊張、ソ連圏崩壊後の東ヨーロッパにおける不安定な空白地帯(vacuum of instability)の全てが、このような未来を予期していたのである。冷戦終結後、アメリカはヨーロッパの影響力を縮小させるどころか拡大させた。ボスニアとコソヴォに介入して民族紛争を消し去ると同時に、EUが東方拡大(eastward expansion)について逡巡し遅滞する中で、東ヨーロッパをNATOの傘下に収めたからだ。しかし、だからといってヨーロッパの悪魔が二度と戻ってこない訳ではない。

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2019年11月7日、ブダペストでハンガリーのヴィクトール・オルバン首相と会談するトルコのレジェップ・エルドアン大統領(左)

今日、バルカン半島では激しいナショナリズムの炎が揺らめいている。トルコやハンガリーでは、修正主義的な不満(revisionist grievances)と独裁的な本能(autocratic instincts)が指導者たちを動かしている。2009年のヨーロッパ債務危機とそれに続く数年にわたる苦難と緊縮財政(austerity)は、ドイツの影響力(この場合は経済的影響力)に対する恨みが決して深く埋まらないことを示した。ウラジーミル・プーティンがヨーロッパ諸国に協力するあらゆる理由を与えている今日でさえ、ウクライナとポーランド、あるいはフランスとドイツの間に緊張が走ることがある。

懸念すべき政治的傾向もある。ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相は何年もかけてハンガリーの民主主義を解体し、「非自由主義国家(illiberal state)」の台頭を喧伝してきた。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も自国で同様のプロジェクトを進めている。フランスの国民連合(National Rally)のような政党は世論調査で上昇し、何世紀にもわたる歴史的不満が覚醒する準備を整え、ゼロサムの地政学的思考に陥りやすい硬直したナショナリズムを売りにしている。極右の「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAfD)」は、より過激になりながらも、政治的な競争者であり続けている。こうした運動の勝利は、ヨーロッパ諸国を互いに対立させようと躍起になり、政治戦争を繰り広げるロシアによって助長されるかもしれない。

分裂したヨーロッパが古代の悪魔(ancient demons)に支配されるというのは悪夢のシナリオであり、悪夢は通常、実現しない。しかし、理解すべき重要なことは、ポスト・アメリカのヨーロッパは、私たちが知っているヨーロッパとは根本的に異なるということである。アメリカのパワーとヨーロッパに対する傘によってもたらされた地政学的ショックアブソーバーはなくなる。地位と安全保障をめぐる不安定な不確実性が戻ってくる。各国はもはや、以前の時代を特徴づけていたような行動(軍備増強や激しい対立)に頼らなくても、自分たちの生存を確保できるという自信を持つことはないだろう。今日のヨーロッパは、アメリカが作り上げた歴史的にユニークで前例のないパワーと影響力の構成の産物である。75年もの間、旧態依然とした悪習を抑制してきた安全策が撤回されれば、旧態依然とした悪習が再び姿を現すことはないと、私たちは本当に言い切れるのだろうか?

ヨーロッパが今日の平和なEUへと変貌を遂げたことは、決して元に戻せないと考えてはいけない。

ヨーロッパが今日の平和なEUへと変貌を遂げたが、決して以前の状態に戻らないと考えてはいけない。結局のところ、ヨーロッパは1945年以前、例えばナポレオンが敗北した後の数十年間、比較的平和な時期を過ごしたが、勢力均衡(balance of power)が変化すると平和は崩壊した。見識を持ったように見える大陸に悲劇が起こることはあり得ないと考えてはならない。アメリカが関与する以前のヨーロッパの歴史は、世界で最も経済的に先進的で、最も近代的な大陸が、自らを引き裂くことを繰り返してきた歴史であった。実際、ヨーロッパの過去から学ぶことがあるとすれば、それは、現在想像できるよりも早く、そして険しい転落が訪れる可能性があるということだ。

1920年代、自由主義の勢力が台頭しているように見えた。しかし、イギリスの作家ジェイムズ・ブライスは、「民主政治体制が正常かつ自然な政治形態として普遍的に受け入れられた(universal acceptance of democracy as the normal and natural form of government)」と称賛した。新しく創設された国際連盟(League of Nations)は、危機管理のための斬新なメカニズムを提供していた。それからわずか10年後、大陸が再び世界大戦に突入する勢いを作り出したのはファシズム勢力だった。ヨーロッパの歴史は、物事がいかに早く完全に崩壊するかを物語っている。

アメリカ第一主義者(America Firsters)たちは、アメリカはコストを負担することなく、安定したヨーロッパの恩恵を全て受けることができると考えているかもしれない。現実には、彼らの政策は、ヨーロッパにはもっと厄介な歴史的規範があることを思い起こさせる危険性がある。それはヨーロッパにとってだけでなく、災難となる。ヨーロッパが弱体化し、分裂すれば、民主政体世界がロシア、中国、イランからの挑戦に対処することが難しくなる。暴力的で競争過剰な(hypercompetitive)ヨーロッパは、世界的な規模で影響を及ぼす可能性がある。

ここ数十年、ヨーロッパが繁栄する自由主義秩序の一部であることで利益を得てきたとすれば、その自由主義秩序は、平和的で徐々に拡大するEUを中核とすることで利益を得てきた。ヨーロッパが再び暗黒と悪意に染まれば、再び世界に紛争を輸出することになるかもしれない。アメリカが大西洋を越えて後退する日、それはヨーロッパの未来以上のものを危険に晒すことになるだろう。

※ハル・ブランズ」ジョンズ・ホプキンズ大学国際高等大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念特別国際問題担当教授兼アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

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ウクライナ戦争は2022年2月24日に始まってからいまだに停戦を迎えていない。このまままた冬を迎え、年を越していくことになる。現在、中東情勢が緊迫の度合いを深めている中で、注目も薄れているように感じる。大きな動きもなく、戦況は膠着状態に陥っている。そうした中で、犠牲者だけが増えている。私は2年前から訴えているが、一日も早い停戦を望む者である。

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ウクライナの最大の支援国であるアメリカは大統領選挙期間中、しかも現職の大統領は再選を目指さないということでレイムダック状態になり、大きなことはできにくい状態にあり、選挙が終わって、新政権ができてからしばらくの間は、アメリカは動けない。そうした中で、停戦のきっかけをつかむのは難しい。ウクライナの国内状況が変わらねば、早期停戦は望めない。具体的にはヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の交代だ。

 そうした中で、「ウクライナのNATO加盟」という話も出ている。私は、ウクライナのNATO加盟には反対する。ウクライナのNATO加盟は紛争の火種を残すことになる。それならば、EU加盟を目指すべきだ。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は多少の皮肉も込めながら、ウクライナのEU加盟には反対しない姿勢を示した。ウクライナの腐敗度や財政赤字をEU諸国で面倒を見られるのか、どうなんだという皮肉を示しているが、ウクライナにとっては、EU加盟は経済を向上させるには良いきっかけとなる。

EU諸国にとっては逆で、ウクライナを支援する負担を考えるとEUには加盟させたくない。しかし、ロシアをこれからも挑発する存在としては味方につけておきたい。それで、NATO加盟という話も出ている。しかし、それはあまりにも危険だという慎重論ももちろんある。自分たちからわざわざ危険を高めてしまう行為であるからだ。現在のウクライナ戦争もヨーロッパ諸国にとっては大きな負担である。そうした状況がこれからも続く上に、ロシアからの核攻撃の脅威に晒されるという危険が継続するということはヨーロッパ諸国、更にはアメリカの人々にとっては耐えがたい苦痛だ。

 アメリカと西側諸国の火遊びがロシアによるウクライナ侵攻を招いた。そうした中で、将来に火種を残すような、ウクライナのNATO加盟、NATO軍のウクライナ国内駐留という話は状況を不安定化させるだけだ。

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ウクライナはNATOへの「河川湖沼横断(渡河作戦)」を必要としている(Ukraine Needs a ‘Wet Gap Crossing’ to NATO

-ウクライナに戦時中の橋渡しをするために、アメリカ軍の戦略(playbook)を使う時が来た。

アン・マリー・デイリー筆

2024年6月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/18/ukraine-nato-bridge-biden-usa/

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NATO首脳会議中の2009年4月4日に撮影された、ドイツのケールとフランスのストラスブールを繋ぐパセレル・ミムラム歩道橋の一帯。

バイデン政権は時に、ウクライナのNATO加盟への「橋(bridge)」を築く必要性に言及する。これは適切な比喩だが、支持者たちが考えるような方法ではない。

橋について言えば、単なる希望の象徴(symbol of hope)と思うかもしれない。しかし、軍事的な文脈で使われる橋は、戦時中のインフラとしての役割を最もよく示している。なぜなら、戦時中の橋の建設は、軍事プランナーが「ウェット・ギャップ・クロッシング(河川湖沼横断、wet gap crossing)」と呼ぶ、とてつもなく困難で複雑な作戦だからである。2022年5月にウクライナがシヴェルスキー・ドネツ川を渡ろうとしたロシア軍大隊を壊滅させたように、河川湖沼横断の実施は危険を伴うが、戦略的な見返りは大きい。1944年、ジョージ・S・パットン将軍率いる第3軍はナンシーでモーゼル川を渡り、ドイツ軍の防衛ラインを転換させ、バルジの戦いのための戦略的位置を開いた。

ウクライナをNATOに加盟させることは、河川湖沼横断と同じようにリスクとコストがかかるが、戦略的な成功につながる可能性がある。もしNATO諸国がウクライナをNATOに加盟させることを本当に真剣に考えているのであれば、NATOへの架け橋を作ることは単に巧みな外交的比喩であってはならないし、シヴェルスキー・ドネツ川のロシア軍のように単に向こう側に行くためだけに試みるべきではない。困難で、洗練された、多面的な作戦のように取り組まなければならないし、第二次世界大戦中のモーゼル川横断のように、戦後のヨーロッパ・大西洋安全保障のためのより広範な戦略の一部でなければならない。

7月にワシントンで開催されるNATO首脳会議で、ウクライナのNATOにおける将来的な役割を計画する外交官や政治家たちは、河川湖沼横断に対するアメリカ軍独自のアプローチを理解するのがよいだろう。その教訓は示唆に富んでおり、身の引き締まる思いがする。

ステップ1:迂回を試みる(Step 1: Try to go around

河川湖沼横断は非常に困難であるため、可能であれば完全に回避することが望ましい。ウクライナをNATOに参加させるのはリスクが高すぎるから回避すべきだと言う人もいるだろう。しかし、それはウクライナにとってNATO加盟以外に良い選択肢がないという事実を無視しており、長期的に見ればウクライナをNATOに加盟させないリスクの方が大きい。軍事作戦でもそうだが、川を渡ることが目的地への最も早く効果的な方法であることはよくある。

コンバット・ブリッジング(戦闘中の架橋、combat bridging)に固有のリスクや困難が知られているにもかかわらず、軍隊がこの能力を維持しているのは、河川湖沼横断の成功によって得られる戦略的機会が、リスクや困難に見合うものである場合があることを知っているからである。また、時には迂回するという選択肢がないことも知っている。ロシアは近隣諸国を侵略し、核のサーベルを鳴らしているが、NATOを直接攻撃することはしていない。それは、NATOの第5条が依然として効果的な抑止力となっているからだ。それ以外には何も機能していないのだ。

ウクライナのNATO加盟に反対する人々は、ウクライナへの継続的な物資支援という「イスラエル・モデル(Israel model)」を選ぶべきかもしれない、あるいはG7諸国のような国々の組み合わせがウクライナに長期的な経済支援を提供することで、ロシアに勝ち目はないと確信させることができるだろうと主張する。それは、イスラエルには核兵器があり、ウクライナにはないからだ。実際、そこが重要だ。ウクライナは1994年、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することにロシアなどが同意したことで、核兵器を放棄した。同様に、すでにEUに加盟しているにもかかわらず、スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟を決定したことは、ウクライナをEUに加盟させ、EUの第42条7項の相互援助条項を与えるだけでは、ロシアの侵略を抑止するには不十分であることを示している。

ステップ2:計画とリハーサル(Step 2: Plan and rehearse

意図的な河川湖沼横断を行うことが決まったら計画が重要である。単に水際まで兵力を移動させ、水際に到達してから横断方法を考えようとしても、大惨事になることは確実だ。渡河地点の候補を偵察し、地形や敵味方の長所・短所を考慮して、どれが成功しそうかを判断し、複数の渡河地点を準備しなければならない。

ウクライナをNATOに加盟させるための選択肢はいくつかあり、いずれも検討されるべきだが、有望と思われるものばかりではない。最初の選択肢は、敵対行為が続いている間にウクライナをNATO加盟国にするというもので、理論的には可能だが、新加盟国を受け入れるには32カ国の同盟国の全会一致が必要であることから、政治的には実現不可能な可能性が高い。地理的に恵まれ、軍事的にも先進国であるスウェーデンを同盟に加入させるのに1年もかかったという事実は、この厳しい事実を裏付けている。仮に、これが政治的に実現可能になった場合、NATOは第5条の保証を単なるリップサービス以上のものにするために、速やかにウクライナに軍を展開しなければならなくなる。

2つ目の選択肢は、停戦または敵対行為の停止をめぐる交渉中の保証の一環として、ウクライナをNATOに加盟させることだ。つまり、停戦が成立次第、ウクライナはNATOに加盟することになる。ロシアはウクライナのNATO加盟のきっかけとなった戦闘停止に同意せずに戦闘を続けることが考えられるため、これはおそらくうまくいかないだろう。

3つ目の選択肢は、停戦後のウクライナの主権と領土の一体性を保証するために、NATO諸国がウクライナ領内に部隊を展開することである。これには、ウクライナに具体的な安全保障を提供する一方で、ウクライナ加盟に懐疑的なNATO諸国を味方につける時間を確保できるという利点がある。

ウクライナの将来の姿は未知数であり、ウクライナのNATO加盟のスケジュールも不明である。NATOはウクライナ加盟に対するNATO諸国の政治的支持の一致を達成するために、また、ウクライナの主権と領土の一体性を保証するために、NATO諸国の軍隊をいつ、どこで、どのように使用するかを決定するために、今すぐ作業を開始すべきである。どちらの選択肢が最も信頼できると判断されるかにかかわらず、どちらの措置も避けられないだろう。

ステップ3:戦場を準備する(Step 3: Prepare the battlespace

コンバット・ブリッジング(戦闘中の架橋、combat bridging)においては、車列を組んで橋を架けたい場所に直接車を走らせ、水中に物を置き始めるようなことはしない。それは自殺行為だ。計画を立て、リハーサルを行い、戦力を整え、有利な条件を整えるための準備を行う。同様に、何の計画も準備もせずにウクライナのNATOへの橋渡しを宣言するだけでは、ウクライナは、2008年のブカレスト宣言後に直面したのと同じ戦略的手詰まり(strategic limbo)の状態に置かれるだけであり、同様に、NATOに加盟できるようになる前にウクライナの主権を弱体化させようとするモスクワの努力を更に倍増させることになる。

NATOにとって、これは加盟諸国が今すぐウクライナのNATO加盟に賛成する票を集め始める必要があることを意味する。外交官たちは、同盟の誰が既にウクライナをNATOに加盟させることに賛成しているのか、そしてどのような条件のもとで加盟させることに賛成しているのかを理解する必要がある。「絶対的に」あるいは「戦争が終わるまでは」加盟させないという立場の人々に対しては、より創造的な解決策を提案し、議論し、内輪で固めていかなければならない。これは一時的な議論では済まない。最終的なウクライナ加盟に向けて戦場を準備するための絶え間ないキャンペーンでなければならない。

ウクライナが1991年の国境を取り戻して戦争が終結するにしても、キエフがそれを下回る形で決着するにしても、NATO加盟諸国の軍隊をウクライナ国内に駐留させ、NATOへの橋渡しに必要な時間、空間、安全を提供する必要がある。この軍隊には、NATOの核保有3カ国(英、仏、米)を含む主要同盟諸国の連合体を含めることが理想的であり、第5条の安全保障がないにもかかわらず、NATOの核保有諸国が合意された国境を守ることを約束していることを示す必要がある。ちょうど、第二次世界大戦の終結から西ドイツがNATOに加盟するまでの数年間、東ドイツのソ連軍を抑止するためにNATO軍が西ドイツに駐留した前例を真似る必要がある。

休戦または停戦後、短期間でこれらの軍隊をウクライナに移動させることは、論理的にも政治的にも極めて困難だ。したがってNATO加盟諸国は、ウクライナを包囲するNATOの防空網がNATO領内を攻撃する軌道にあるロシアのミサイルや、一方向攻撃ドローンの撃墜を開始することを宣言し、ウクライナに少人数のNATO将兵を派遣してウクライナ人に訓練を提供し、民間船舶を保護するために黒海にNATO海軍の能力を認めることについてトルコと交渉することによって、そのような動きの舞台を今すぐ整え始めるべきだ。

ステップ4:関与する(Step 4: Commit

河川湖沼横断作戦は大規模な作戦である。アメリカ陸軍では軍団レヴェルの作戦とされている。空軍、宇宙軍、サイバー資産も重要な支援を提供するように想定されている。困難でリスクが高く、コストもかかるが、適切に行えば戦略的突破口(strategic breakthrough)につながる。

リスクが大きいからこそ、作戦指揮官は関係するリスクを評価し、作戦を危険に晒すことなく、可能な限りリスクを軽減するが、同時に全てのリスクを軽減することは不可能であることを受け入れなければならない。これは極めて重要なステップだ。なぜならば、ひとたび河川湖沼横断が始まれば、指揮官はその計画に全面的に関与し、利用可能な全ての戦力を活用して成功させなければならないからだ。この種の作戦において中途半端な対策は失敗を招く。

NATOがウクライナを加盟させることを真剣に考えているのなら、そしてそうでなければならないのなら、リスクについて明確な認識を持たなければならない。この計画は、より広範な戦略を支えるものでなければならない。そして最も重要なことは、成功を約束することである。もしそうしなければ、最終的に失敗に終わる可能性が高い。

※アン・マリー・デイリー:ランド研究所政策研究員、大西洋評議会スコウクロフト記念戦略・安全保障センター大西洋横断安全保障イニシアティヴ非常駐上級研究員、米陸軍予備役将校。ランド研究所入所以前は、国防長官室でロシア戦略上級顧問およびウクライナ担当デスクを務めた。本書に含まれる見解、意見、発見、結論、提言は筆者個人のものであり、ランド研究所やその研究スポンサー、クライアント、助成機関のものではない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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