古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:NATO

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 ロバート・D・カプランと言えば、地政学の専門家として日本でも著書が翻訳されている著名な文化人である。カプランはトランプについて、アメリカ史上初の本を読まない大統領と呼んでいる。そして、本を読まないので歴史の知識もない、だからNATOの解体などを簡単に述べるのだと批判している。NATOは確かに、ナチス・ドイツがもたらした惨禍と第二次世界体制後の冷戦期のソ連の脅威の時代には現実感をもって受け入れられた。しかし、現在ではその存在意義は薄れている。ウクライナ戦争があったではないかという反論もあるだろうが、アメリカや西側諸国が火遊びをしなければ、ロシアを挑発しなければ戦争は起きなかった。カプランはトランプがNATOの歴史的な意義を全く理解していないと述べているが、NATOの意義はどこにあるのか逆に聞きたいほどだ。

ロバート・D・カプラントランプ政権のアプローチは、北米大陸の自給自足的な視点に偏っており、近隣諸国に求める期待などなく、国家間の連携が求められている現代のリーダーシップとは乖離していると指摘している。更に、ヨーロッパは、ロシアの脅威や中東情勢も絡む複雑な背景の中、トランプの施策により軽視されていると感じる面もある。彼が指導者としての歴史的な視点を欠いていることで、ヨーロッパからの期待とアメリカの対応には乖離が生まれている。トランプが主導する政治の中で、NATOの重要性が失われていく可能性があり、その結果としてヨーロッパの安定に悪影響を及ぼす状況が懸念されるとカプランは述べている。

 カプランは「北米大陸の自給自足的な視点に偏っており」と述べているのが重要だ。私はこの点を、最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で、「トランプのモンロー主義」と形容した。トランプと彼を支持するアメリカ人たちはヨーロッパから、そして世界から撤退したいのだ。そして、南北アメリカ大陸を勢力圏にして生きていくということにしたい。世界帝国になるなんてまっぴらごめんということだ。存在意義のないNATOにいつまでも入っていても意味はない。お金の無駄だということになる。それを歴史的な意義を理解できない、本を読まない大統領などと批判するのは愚の骨頂だ。

(貼り付けはじめ)

トランプの新しい地図(Trump’s New Map

-アメリカ初の本を読まない(post-literate)大統領は地理にだけ頼ることになるだろう。

ロバート・D・カプラン筆

2025年2月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/25/trump-america-panama-greenland-canada-nato-europe-geography/

2011年6月、当時のロバート・M・ゲイツ米国防長官はブリュッセルで予言的な演説を行った。その中で、ゲイツは、アメリカのヨーロッパの同盟諸国に対し、自国の安全保障のために大幅な負担増を始めなければ、NATOはいつの日か過去のものとなるかもしれないと警告を発した。ゲイツ国防長官は、「NATOが合意した国防支出の基準を満たすよう、同盟諸国に対して、非公式にも公式にも、しばしば苛立ちを露わにして促してきた、歴代の米国防長官の中で、自分は最新の人物に過ぎない」と発言した。

当時、NATO加盟28カ国のうち、2006年に誓約したように年間防衛費をGDPの2%以上支出していたのは、アルバニア、イギリス、フランス、ギリシャ、アメリカの5カ国だけだった。この状況が劇的に変化しない限り、「アメリカの政治体制全体(American body politic writ large)」の間でヨーロッパを防衛しようという「意欲は減退していくだろう(dwindling appetite)」とゲイツは語った。

ヨーロッパに変化は訪れたが、おそらくそのスピードは十分ではないだろう。現在、NATO加盟国の3分の2は2%という基準を満たしている。しかし、ロシアのウクライナ戦争やドナルド・トランプ米大統領による同盟諸国への5%への増額要求などを考慮すると、ヨーロッパにはまだ長い道のりが待っている。トランプ大統領は以前からNATOを軽蔑してきた。昨年は、防衛費を増やさないNATO諸国に対しては、ロシアに「やりたい放題(do whatever the hell they want)」を奨励すると発言した。一方、JD・ヴァンス副大統領は、ヨーロッパ連合(EU)がイーロン・マスクのビジネスプラットフォームを規制しようとすれば、アメリカはNATOへの支援を取りやめる可能性があると述べた。

予算配分をめぐる意見の相違は、より深遠な問題を指し示している: トランプやヴァンスのポピュリスト的なレトリックに見られるように、あまりにも多くのアメリカ人が、ヨーロッパを守ることに深い関心を持たなくなっている。

アメリカのヨーロッパに対する態度の変化は驚くべきことではない。NATOは80年近く存続している。情報、経済、空の旅、移民パターン、そしてアイデンティティ自体に影響を与えた急速な技術革新の時代にあってはなおさらだ。

第二次世界大戦直後にNATOが設立された当時、アメリカは世界の製造能力全体(all global manufacturing capacity)の半分以上を占め、世界を支配していた。この数字は、現在では16%にまで減少している。結局のところ、当時のヨーロッパの各都市は空爆で煙を上げており、ヨシフ・スターリンのソ連は西ヨーロッパにとって致命的な脅威として迫っていた。数十年の間に、この力学は進化した。ヨーロッパは、その安全保障の大部分をアメリカが賄い、羨望を集める社会福祉国家を建設し、市民は豊かな生活を享受した。スターリンが死に、西側諸国はソビエトとのデタント(detente)を達成した。ソビエト連邦は後に崩壊した。

NATOが冷戦とロシア帝国主義の再興後の数十年間を生き延びたのは、西側諸国におけるポピュリズム(populism)とアイデンティティ政治(identity politics)の台頭を含むが、NATOが第二次世界大戦と冷戦初期を強く記憶しているか、あるいは記憶している人々とともに育ち、尊敬している人々によって率いられていたからである。しかし、その生きた歴史的記憶(living historical memory)は蒸発しつつある。その過程でアメリカ人は、ヨーロッパ人があまりにも長い間軽視してきた、自国のアイデンティティのもっと古く、古風な側面を再発見した。ヨーロッパは、アメリカが大西洋だけでなく太平洋にも面する大陸であることを常に知っていたが、自らの行動に影響を与えるほどその知識を十分に内面化したことはなかった。

少なくとも20世紀初頭以来、アメリカのアイデンティティは、地理的なものとウィルソン的なものの2つの現象によって形成されてきた。1つは地理的なもので、もう1つはウィルソン的なものである。地理的なものは自明のことのように思えるが、多くの人々(特にヨーロッパのエリート)にとってはそうではない。

アメリカ合衆国の大部分を占める北アメリカの温帯地域は、東海岸沿いの深水港(deep-water ports)や、アパラチア山脈を抜けて広大な大草原の肥沃な土壌に至る航路など、国家として完璧な配分となっている。現在グレートプレーンズ(the Great Plains)として知られる、水不足のグレートアメリカンデザート(the water-starved Great American Desert)は、まさに自然の障壁として出現したが、大陸横断鉄道(a transcontinental railroad)が建設され、ロッキー山脈を抜けて太平洋まで人口を運ぶことができた。地理が、2つの海で外界から隔てられた団結している国家(a cohesive nation)を作り上げ、その内部では多くの問題や可能性が渦巻いており、世界の他の部分は不明瞭なままであった。

しかし、ひとたび太平洋に到達すれば、フロリダとテキサス間のメキシコ湾岸は言うに及ばず、海岸線は1本ではなく2本になる。これによってヨーロッパとアジアの両方に大きな海上連絡路が開かれ、外界との活発な貿易が可能になった。

ここで、アメリカのアイデンティティのもう1つの側面であるウィルソン主義(Wilsonianism)が登場する。これは、アメリカの領土をはるかに超えた場所での自由の達成の実現がアメリカ自体の安全保障にとって不可欠である(seeing the achievement of freedom far beyond U.S. shores as essential to the country’s own security)と考えるイデオロギーの略称である。第28代米大統領ウッドロー・ウィルソンは、第一次世界大戦後にアメリカを国際秩序(an international order)に組み込むことはできなかったが、蒸気船や航空機の登場でアメリカがヨーロッパにかなり近づき始めたちょうどその頃、アメリカが目指すべき目標を作った。ヨーロッパ大陸の大部分に自由と民主政治隊の砦を築くこと(establishing a bastion of freedom and democracy)というウィルソンの理想が実現したのは、第二次世界大戦とその後の混乱を経て、ワシントンが世界有数の大国となったときだった。

戦後、これら全てが明確で望ましいと考えられたが、地理的にはまったく自然ではなかった。アメリカがより良い世界のために払った犠牲についての知識と、ワシントンのヨーロッパのルーツに基づく歴史的親族関係[historical kinship](血や土地よりも哲学的なルーツ)が必要だった。これら全ては必読だったが、エリートたちはそれを当然のこととして受け止めているが、そうすべきではない。80年が経過した今、この伝統は書籍と教育を通じてのみ評価できる。大西洋同盟(the Atlantic alliance)の設立の生きた記憶(lived memory)は消え、冷戦(the Cold War)も人々の意識から消えつつあるからだ。

トランプはこの伝統の継承者(an heir to this tradition)ではない。彼は実際に本を読まない(He doesn’t really read)。彼は読まない(post-literate)のだ。つまり、ソーシャルメディアとスマートフォンの世界に生きているが、表面的にも、物語の歴史の研究(the study of narrative history)に没頭していないのだ。

したがって、トランプは西側諸国の戦後の物語を理解していない。NATOは彼にとって単なる頭字語の集まった単語でしかなく、ナチス・ファシズムとの戦いから生まれた人類史上最大の軍事同盟の意味合いを知らない。彼は、1941年8月にカナダのニューファンドランド沖でフランクリン・D・ルーズベルト米大統領とウィンストン・チャーチル英首相が署名した大西洋憲章(the Atlantic Charter)において、戦後世界に対する刺激的なヴィジョンを示したことや、アヴェレル・ハリマンやジョージ・ケナンなどの偉大なアメリカの外交官や政治家たちによる戦後秩序の構築について、おそらく何も知らない。

アメリカの外交政策エリートは、そのような刺激的な歴史で経験を積んできた。トランプと彼の支持者たちは、おそらくその多くを知らない。そして、テクノロジーの進化により、彼は彼のようなタイプの大統領の最後ではないかもしれない。

トランプは歴史に疎い(ahistorical)ので、彼にとって頼りになるのは地理だけだ(he has only geography to fall back upon)。彼はアメリカを独立した大陸として想像し、グリーンランドやパナマなどの比較的近い場所を、獲得すると誓った場所として認識している。トランプの考えでは、グリーンランドとパナマ運河は、特に北極圏での海軍活動が増えるであろう時代に、アメリカの地理の論理の有機的な延長である。

考慮すべきもう1つの要素は、テクノロジーが地理自体を縮小していることである。これは非常に緩やかであるため、見逃しやすい変化である。世界のある地域の危機は、これまでにないほど他の地域の危機に影響を与える可能性がある。博学で歴史に詳しい人は、この進展をアメリカが世界中で同盟を強化する理由と見なす。しかし、トランプ大統領のより原始的で決定論的な世界観では、永久に紛争が続く閉塞的な世界において、地域的な影響圏(regional spheres of influence)を強化する時なのだ。

トランプが頭の中に置いているであろうと考えられるのは、パナマ運河からグリーンランドまで、カナダがアメリカに従属する広大な北米大陸であるようだ。トランプの神話によれば、明白な運命(Manifest destiny)が今や完成し始めている。かつては北米の温帯地域を東から西まで征服することを意味していたものが、今では北から南まで征服することを意味している。トランプがメキシコ湾を「アメリカ湾」と改名しようとしていることが全てを物語っている。

ヨーロッパにとっては、東のロシアの脅威と、南の中東やアフリカからの移民に対する政治的混乱に脅かされ、弱体化し、分裂が進んでいる。2018年の著書『マルコ・ポーロの世界の復活(The Return of Marco Polo’s World)』の中で私が書いたように、「ヨーロッパが消えるにつれ、ユーラシアは一体化する([a]s Europe disappears, Eurasia coheres)」。ヨーロッパは最終的にユーラシアの勢力システムと融合すると私は説明した。ロシアを中国、イラン、北朝鮮との同盟関係を深めたウクライナ戦争は、この理論を裏付けている。今日の小さな世界では、ヨーロッパはアフロ・ユーラシアの激動から切り離すことができず、トランプの新しい地図の中では価値が下がっている。ウィルソン主義が死ぬと、このようなことが起こる。

長年にわたり、ヨーロッパの人々は、アメリカが中国やその他の東アジア諸国に過剰な関心を寄せていることを懸念してきた。問題はそれよりも深い。トランプ大統領は中国をアメリカと同じように独自の大陸、勢力ブロック(power bloc)と見なしているようだ。トランプ米大統領は中国と貿易戦争(a trade war)をするかもしれないし、しないかもしれない。北京との関係を改善しようとするかもしれない。NATOやヨーロッパ連合(EU)があるにもかかわらず、ヨーロッパが十分に結束していないのとは対照的だ。

トランプはエリートとそのプロジェクトも嫌っている。そして、NATOは究極のエリートプロジェクトだ。NATO加盟国が2011年にゲイツの叱責を真摯に受け止め、もっと早く防衛予算を増額していれば、トランプの今の気持ちは違っていたかもしれない。たとえそうしなかったとしても、少なくともNATO同盟諸国に対して使える比較的小規模なヨーロッパの防衛予算という武器は持たず、トランプの主張は著しく弱まるだろう。

一方、アメリカ初の本を読まない(post-literate)大統領は、1941年にワシントンがヨーロッパを救出して以来、ヨーロッパが直面したことのない課題を示唆している。冷戦と、かつての捕虜だった中欧・東欧諸国がNATOに加盟した冷戦の余波は、将来、平穏な時代として立ちはだかるかもしれない。

※ロバート・D・カプラン:『荒地:永続的な危機に瀕した世界(Waste Land: A World in Permanent Crisis)』の著者。外交政策研究所(Foreign Policy Research Institute)ロバート・シュトラウス・フーペ記念地政学部門長を務める。

(貼り付け終わり)

(終わり)
trumpnodengekisakusencover001

『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 ドナルド・トランプの主張は突き詰めれば、「アメリカ・ファースト(America First)」だ。このブログでも何度も書いているが、これは「アメリカが一番!」という単純な話ではない。「アメリカ国内の抱える深刻な諸問題を解決することを最優先しよう」ということであり、「アメリカ国内(問題解決)優先主義」と訳すべき言葉だ。これに関連して、「アイソレイショニズム(Isolationism)」という言葉もあるが、これも「孤立主義」と簡単に訳すのは間違っている。アメリカが完全に孤立することはできない。こちらもやはり「国内優先主義」と訳すべきだ。だから、「アメリカ・ファースト」と「アイソレイショニズム」はほぼ同じ意味ということになる。

 「アメリカ国内優先主義」ということになれば、アメリカが現在、世界中に派遣しているアメリカ軍をアメリカ国内に戻す、世界経営から手を引くということになる。これに困ってしまうのはヨーロッパである。ヨーロッパは第一次世界大戦、第二次世界大戦と20世紀の前半で二度の破壊を極めた戦争を経験した。戦後ヨーロッパは統合と、アメリカによる安全保障への関与という方向に進んだ。ヨーロッパ諸国はお互いが戦わないように、調停者・仲裁役・抑え役・お目付け役としてアメリカを必要とした。そして、対外的には、具体的には、ソ連、そしてロシアに対しては、アメリカ軍の存在を前提とした軍事力の軽度の整備(軽い負担で済んできた)を行ってきた。それが、アメリカが手を引くということになったらどうなるか。ヨーロッパ域内での調和は乱れ、ロシアに対しては足並みが乱れ、各国の判断で、より軍事力を強化する方向に進む国と、ロシアとの友好関係を重視する国に分かれるだろう。

 ヨーロッパは戦後の制度設計をアメリカの存在を前提にして築いてきた。そして、協調が進み、繫栄することができた。しかし、その良い面とは裏腹に、アメリカの力が衰えた場合、アメリカが手を引く場合の備えができていなかった。そして、現在は、アメリカの国力の衰退が現実のものとなっている。アメリカが手を引けばヨーロッパは混乱状態になる。私たちがヨーロッパから学ぶべきことは、アメリカを関与させない、対等な地域統合組織を作ること、そして、それをアジアで実現することだ。時代と状況の変化はここまで来ている。いつまでも、世界一強のアメリカ、超大国のアメリカということをのんきに信じ込んでいる訳にはいかない。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプの復帰はヨーロッパを変貌させることになるだろう(Trump’s Return Would Transform Europe

-ワシントンが掌握しなければ、ヨーロッパ大陸は無政府的で非自由主義的な過去に逆戻りする可能性がある。

ハル・ブランズ筆

2024年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/26/europe-security-eu-nato-alliances-liberal-democracy-nationalism-trump-us-election/

europeuswithdrawal001
どっちが本当のヨーロッパだろうか? 過去数十年間、ほぼ平和で民主的で統一された大陸? それとも、それ以前に何世紀にもわたって存在していた、断片化され、不安定で、紛争に満ちたヨーロッパ(fragmented, volatile, and conflict-ridden Europe)? 11月の米大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すれば、こうした疑問の答えはすぐに分かるかもしれない。

トランプは大統領としての最初の任期中に、アメリカをNATOから離脱させることに執心した。彼の元側近の中には、もし二期目に当選したら本当にやってくれるかもしれないと信じている人もいる。そして、このように語っているのはトランプ大統領だけではない。アメリカ・ファーストの有力信奉者の一人であるJD・ヴァンス連邦上院議員は、「ヨーロッパが自立する時が来た([The] time has come for Europe to stand on its own feet)」と主張している。アメリカ・ファーストの精神に明確に賛同していない人々の間でも、特にアジアにおいて、競合する優先事項への影響力はますます強くなっている。ポストアメリカ(アメリカ後)のヨーロッパについてより考慮されるようになっている。それがどんな場所になるかを聞いてみる価値はある。

楽観主義者たちは、たとえ7月にワシントンで開催されるNATO加盟75周年記念首脳会議で、NATO首脳たちが祝賀するアメリカの安全保障の傘を失ったとしても、ヨーロッパが繁栄し続けることを期待している。この見方では、アメリカは自国に引き上げることになるかもしれないが、過去80年間で豊かになり、安定し、確実に民主政治体制を築いてきたヨーロッパは、多極化した世界において建設的で独立した勢力として行動する用意ができている。

しかし、おそらくポスト・アメリカのヨーロッパは、直面する脅威に対抗するのに苦労し、最終的には過去のより暗く、より無秩序で、より非自由主義的なパターンに逆戻りする可能性すらある。「今日の私たちのヨーロッパは死に向かっているようだ。死に至る可能性がある」とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月下旬に警告した。アメリカ・ファーストの世界では、そうなるかもしれない。

第二次世界大戦後、ヨーロッパは劇的に変化したため、多くの人々、特にアメリカ人は、この大陸がかつてどれほど絶望的に見えたかを忘れている。古いヨーロッパは、歴史上最も偉大な侵略者や最も野心的な暴君を生み出した。帝国の野心と国内の対立が紛争を引き起こし、世界中の国々を巻き込んだ。飛行家で、著名な孤立主義者でもあったチャールズ・リンドバーグは1941年、ヨーロッパは「永遠の戦争(eternal wars)」と終わりのないトラブルの土地であり、アメリカは、そのような呪われた大陸に近づかないほうが良いと述べた。

根本的な問題は、限られたスペースにあまりにも多くの強力なプレイヤーたちが詰め込まれている地理にあった。この環境で生き残る唯一の方法は、他者を犠牲にして拡大することだった。この力関係により、ヨーロッパは壊滅的な紛争のサイクルに陥ることになった。 1870年以降、この地域の中心部に、産業と軍事の巨大企業としての統一ドイツが出現したことにより、このビールはさらに有毒なものになった。ヨーロッパ大陸の政治は、ヨーロッパ大陸の地政学と同じくらい不安定だった。フランス革命以来、ヨーロッパは、自由主義と歴史上最もグロテスクな形態の暴政(tyranny)の間で激しく揺れ動いた。

1940年代後半、第二次世界大戦によって、こうした争いのサイクルが壊れたと考える理由はなかった。古い対立が残ったままとなった。フランスは、ドイツが再び蜂起して近隣諸国を破壊するのではないかと恐れていた。ソ連とその支配下のヨーロッパ共産主義者という形で、新たな急進主義が脅威に晒される一方、ポルトガルとスペインでは右翼独裁政権が依然として力を持っていた。多くの国で民主政治体制が危機に瀕していた。経済的貧困が対立と分裂(rivalry and fragmentation)を加速させた。

新しいヨーロッパの誕生は、決して必然ではなかった。長い間大陸間の争いを避けようとしていた同じ国(アメリカ)による、前例のない介入(unprecedented intervention)が必要だった。この介入は冷戦によって引き起こされ、遠く離れた超大国にとってさえヨーロッパにおける均衡(European equilibrium)の更なる崩壊が耐え難いものになる恐れがあった。1940年代後半から1950年代前半にかけて、しばしば混乱した状況の中、ヨーロッパは徐々に統合されていった。そして、それは革新的な効果をもたらす一連の連動した取り組みを特徴としていた。

最も重要なのは、NATOを通じたアメリカの安全保障への取り組みと、それを裏付ける軍隊の派遣であった。アメリカ軍による保護は、西ヨーロッパをモスクワから、そして西ヨーロッパ自身の自己破壊的な本能から守ることで、暴力の破滅のループを断ち切った。アメリカがこの地域を保護することで、宿敵同士はもはや互いを恐れる必要がなくなった。1948年に、あるイギリス政府当局者は、NATOが「ドイツとフランスの間の長年にわたるトラブルは消滅するだろう」と述べた。西ヨーロッパ諸国はついに、他国の安全を否定することなしに、安全を達成することができるようになった。その結果、この地域を悩ませていた政治的競争や軍拡競争が回避され、NATO加盟諸国が共通の脅威に対して武器を確保できるようになった。

europeuswithdrawal002
マーシャル・プランのポスターには、ヨーロッパ各国の国旗をシャッターに、アメリカ国旗を舵に見立てた風車が描かれている

こうしてアメリカの政策は、前例のない経済的・政治的協力という第二の変化を可能にした。マーシャル・プランを通じて、アメリカは復興支援の条件としてヨーロッパ域内の協力を積極的に推し進め、後にヨーロッパ経済共同体(European Economic CommunityEEC)やヨーロッパ連合(European UnionEU)となる国境を越えた構造を生み出した。アメリカ軍の存在は、かつての敵同士が安全保障を損なうことなく資源を出し合うことを可能にし、この協力を促進した。1949年、西ドイツのコンラート・アデナウアー首相は「アメリカ人は最高のヨーロッパ人だ」と述べた。言い換えれば、ワシントンの存在によって、ヨーロッパの同盟諸国は過去の対立関係を葬り去ることができたのである。

第三の変化は政治的なものであった。侵略が独裁政治に根ざしているとすれば、ヨーロッパの地政学を変革するには、その政治を変革する必要があった。その変革は、連合諸国の占領下にあった西ドイツの強制的な民主化(forced democratization)から始まった。この変革には、脆弱な民主政治体制国家を活性化させ安定させるためにマーシャル・プランによる援助が用いられた。この変革もまた、アメリカの軍事的プレゼンスによって可能になった。アメリカの軍事的プレゼンスは、ヨーロッパの民主政治体制を消し去ろうとするソ連の覇権(hegemony)を食い止めると同時に、急進的な左派や右派を疎外する寛大な福祉プログラムに投資することを可能にした。

これは、ヨーロッパの問題に対するアメリカ独自の解決策だった。アメリカだけが、ヨーロッパを敵から守るのに十分な力を持ち、しかもヨーロッパを征服して永久に従属させるという現実的な脅威をもたらさないほど遠い存在だった。アメリカだけが、荒廃した地域の再建を支援し、繁栄する自由世界経済をもたらす資源を持っていた。民主的自由を守りながら、そしてより強化しながら、ヨーロッパの対立を鎮めることができるのはアメリカだけであった。実際、西ヨーロッパにおけるアメリカのプロジェクトは、冷戦が終結すると、単純に東へと拡大された。

アメリカの介入は、歴史家マーク・マゾワーがヨーロッパを「暗黒の大陸(dark continent)」と呼んだように、拡大する自由主義秩序の中心にある歴史後の楽園(post-historical paradise)へと変えた。それは世界を変えるほどの偉業であったが、今ではそれを危険に晒すことを決意したかのようなアメリカ人もいる。

アメリカのヨーロッパへの関与は、決して永遠に続くものではなかった。マーシャル・プランを監督したポール・ホフマンは、「ヨーロッパを自立させ、私たちの背中から引き離す(get Europe on its feet and off our backs)」ことが彼の目標だったと口癖のように語っていた。1950年代、ドワイト・D・アイゼンハワー米大統領は、ワシントンが 「腰を落ち着けていくらかリラックスできる(sit back and relax somewhat)」ように、ヨーロッパがいつ一歩を踏み出せるかと考えていた。アメリカは何度も、駐留部隊の削減、あるいは撤廃を検討した。

これは驚くべきことではない。ヨーロッパにおけるアメリカの役割は、並外れた利益をもたらしたが、同時に並外れたコストも課した。アメリカは、核戦争の危険を冒してでも、何千マイルも離れた国々を守ることを誓った。対外援助を提供し、広大な自国市場への非対称的なアクセスを可能にすることで、アメリカはヨーロッパ大陸を再建し、外国がアメリカ自身よりも速く成長するのを助けた。

フランスのシャルル・ド・ゴール大統領など、アメリカが提供した保護に対して積極的に憤慨しているように見える同盟諸国の指導者を容認した。そしてワシントンは、最も尊敬されてきた外交の伝統の1つである邪魔な同盟への敵意を捨てて、長らく問題でしかなかったヨーロッパ大陸の管理者となった。

その結果、両義的な感情が冷戦の必要性によって抑えられ、また批評家たちがアメリカ抜きで実行可能なヨーロッパ安全保障の概念を提示できなかったからである。しかし今日、古くからの苛立ちが根強く、新たな挑戦がワシントンの関心を別の方向へと引っ張っているため、アメリカのヨーロッパに対する懐疑論はかつてないほど強まっている。その象徴がトランプである。

トランプは長い間、ワシントンがNATOで負担している重荷を嘆いてきた。彼は、ただ乗りしているヨーロッパの同盟諸国に対して、襲撃してくるロシアに「やりたいことを何でもやらせる(whatever the hell they want)」と脅してきた。トランプは明らかにEUを嫌っており、EUを大陸統一の集大成としてではなく、熾烈な経済的競争相手として見ている。非自由主義的なポピュリストとして、彼はヨーロッパの自由民主主義の運命に無関心である。私たちの間には海があるのに、なぜアメリカ人がヨーロッパの面倒を見なければならないのか? トランプがアメリカ・ファーストの外交政策を謳うとき、それはアメリカが第二次世界大戦以来担ってきた異常な義務を最終的に放棄する外交政策を意味している。

はっきり言って、トランプ大統領が就任後に何をしでかすかは誰にも分からない。NATOからの全面的な脱退は、共和党に残る国際主義者たち(Republican internationalists)を激怒させるだろうし、政治的代償に見合わないかもしれない。しかし、トランプが大統領の座を争い、彼の信奉者たちが共和党内で勢力を伸ばしていること、そして中国がアジアにおけるアメリカの利益に対する脅威をますます強めていることから、アメリカがいつか本当にヨーロッパから離脱するかもしれないという可能性を真剣に受け止め、次に何が起こるかを考える時期に来ている。

europeuswithdrawal003
2023年5月16日、アイスランドのレイキャビクで開催されたヨーロッパ評議会首脳会議で演説するウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領

楽観的なシナリオでは、ヨーロッパは民主政治体制を維持し、結束し、敵に対抗するために団結する。アメリカが撤退すれば、EUは現在の戦争中もウクライナを支援し、和平後もキエフに意味のある安全保障を与え、ロシアや、これまでアメリカが防いできたその他の脅威を撃退するために、自らを世界的な軍事的主体へと変貌させることができる。こうしてヨーロッパは、自由主義的な世界秩序の強力で独立した柱として台頭することになる。ワシントンは他の優先事項に集中することができ、民主政体世界においてより効率的な分業が構築される。

ヨーロッパには自活するだけの資源がある。1940年代後半のような脆弱で没落した場所ではなく、民主政治体制と協力が規範となった、豊かで潜在的な力を持つ共同体なのだ。EUGDPはロシアの約10倍である。2022年以降、EU諸国は共同してアメリカを上回る軍事援助やその他の援助をウクライナに与えており、冷戦後に萎縮した防衛産業への再投資もようやく進みつつある。さらに、ヨーロッパの指導者たちは、ポーランドがそうであるように、自国を本格的な軍事大国へと変貌させたり、パリで長年の優先事項となっているヨーロッパの戦略的自立を再び推し進めることを提唱したりして、すでにポスト・アメリカの未来に備えている。「より団結し、より主権があり、より民主的な」大陸を構築する時期は過ぎたとヨーロッパのポスト・アメリカの展望について最も強気であると思われる指導者マクロンが4月に宣言した。

楽観的なシナリオの問題点は、簡単に見出せる。マクロンは、アメリカのリーダーシップに代わるものとしてヨーロッパ統合を喧伝しているが、ヨーロッパが統一され、まとまってきたのは、まさにワシントンが安心感を与えてきたからだということを忘れているようだ。例えば、1990年代初頭のバルカン戦争の始まりのように、アメリカが一歩引いてヨーロッパ勢力の前進を許した過去の例では、その結果、戦略的な結束よりもむしろ混乱が生じることが多かった。EUは2022年2月まで、ロシアの侵略をどう扱うかについて深く分裂していた。この教訓は、利害や戦略文化が異なる数十カ国の間で集団行動を調整するのは、誰かが優しく頭を叩いて覇権的なリーダーシップを発揮しない限り、非常に難しいということだ。

独立した、地政学的に強力なヨーロッパが素晴らしく聞こえるとしても、誰がそれを主導すべきかについては誰も同意できていない。フランスは常に自発的な活動に積極的だが、パリに自国の安全を扱う傾向や能力があるとは信じていない東ヨーロッパ諸国を不快にさせている。ベルリンには大陸をリードする経済的素養があるが、その政治指導者階級は、そうすればドイツの力に対する恐怖が再び高まるだけだと長年懸念してきた。おそらく彼らは正しい。冷戦後のドイツ統一が近隣諸国にとって容認できたのは、アメリカとNATOに抱きしめられたベルリンがヨーロッパの優位性を追求することは許されないと彼らが保証されていたからだ。アメリカがヨーロッパの一員ではないからこそ、ヨーロッパ人たちがアメリカのリーダーシップを容認してきたという結論から逃れるのは難しい。アメリカはヨーロッパの一員ではないため、かつて大陸を引き裂いた緊張を再び高めることなく権力を行使できるのだ。

このことは、最後の問題と関連している。自国の安全保障問題を処理できるヨーロッパは、現在よりもはるかに重武装になるだろう。国防支出は多くの国で2倍、3倍に増加せざるを得ないだろう。ヨーロッパ各国は、ミサイル、攻撃機、高度な戦力投射能力など、世界で最も殺傷力の高い兵器に多額の投資を行うだろう。アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」が失われることで、ロシアを抑止したいと願う最前線の国々、とりわけポーランドは、独自の核兵器を求める可能性さえある。

仮にヨーロッパが本格的な武装を行ったとしよう。アメリカの安全保障という毛布がなければ、ヨーロッパ諸国が外からの脅威に立ち向かうために必要な能力を開発するという行為そのものが、域内での軍事的不均衡が生み出した恐怖を再び呼び起こす可能性がある。別の言い方をすれば、アメリカの力に守られたヨーロッパでは、ドイツの戦車は共通の安全保障に貢献するものである。ポスト・アメリカのヨーロッパでは、ドイツの戦車はより脅威的に映るかもしれない。

二つ目のシナリオは、ポスト・アメリカのヨーロッパが弱体化し、分裂するというものである。このようなヨーロッパは、無政府状態(anarchy)に戻るというよりは、無気力状態(lethargy)が続くということになるだろう。EUはウクライナを解放し、自国の東部前線国家を守るための軍事力を生み出すことができないだろう。中国がもたらす経済的・地政学的脅威に対処するのに苦労するだろう。実際、ヨーロッパは攻撃的なロシア、略奪的な中国、そしてトランプ大統領の下では敵対的なアメリカに挟まれることになるかもしれない。ヨーロッパはもはや地政学的対立の震源地ではなくなるかもしれない。しかし、無秩序な世界では影響力と安全保障を失うことになる。

これこそが、マクロンや他のヨーロッパ各国の首脳を悩ませるシナリオだ。既に進行している、または検討中のヨーロッパの防衛構想の多くは、これを回避するためのものである。しかし、短期的には、ヨーロッパが弱体化し分裂することはほぼ確実だろう。

なぜなら、アメリカの撤退はNATOの根幹を引き裂くことになるからだ。NATOは、その先進的な能力の大部分を有し、その指揮統制体制を支配している国である最も強力で最も戦いを経験した加盟国アメリカを失うことになる。実際、アメリカは NATO の中で、ヨーロッパの東部戦線やその先の戦線に断固として介入できる戦略的範囲と兵站能力を備えている唯一の国だ。このブロックに残るのは、主にアメリカ軍と協力して戦うように設計されており、アメリカ軍なしでは効果的に活動する能力に欠けているヨーロッパ各国の軍隊の寄せ集めとなるだろう。これらは、脆弱で断片化した防衛産業基盤によって支えられることになる。ヨーロッパのNATO加盟諸国は、170を超える主要兵器システムを重複して寄せ集めて配備している。この基盤は、迅速かつ協調的な増強を支援することができない。

europeuswithdrawal004
ポーランドのノヴァ・デバで多国籍軍の訓練に参加するポーランド兵(2023年5月6日)

アメリカの撤退後、軍事的に弱体化したヨーロッパは、ここ数十年のどの時期よりも高い動員ピッチに達したロシアと対峙することになるが、ヨーロッパがすぐに弱体化を是正する選択肢はほとんどない。

アメリカの力なしでロシアと均衡を図るには、ヨーロッパの軍事費の膨大で財政的に負担の大きい増額が必要となるだろうが、ロシアがウクライナを制圧し、その人口と経済をクレムリンの軍事機構に統合することに成功すれば、更にその必要性は高まるだろう。巨額の赤字を永久に続けるという米国政府の「法外な特権(exorbitant privilege)」がなければ、ヨーロッパ諸国は不人気な巨額の増税を課すか、社会福祉プログラムを削減しなければならないだろう。ポーランドやバルト三国などの一部の国は、独立を維持するためにその代償を払うかもしれない。また、軍事的な準備は社会契約を破る価値はなく、攻撃的なロシアに従う方が賢明だと判断する人もいるかもしれない。

あるいは、ヨーロッパ諸国はどのような脅威に対抗すべきかについて意見が対立するだけかもしれない。冷戦時代でさえ、ソ連は西ドイツを、たとえばポルトガルを脅かすよりもはるかに厳しく脅していた。EUが成長するに従って、脅威に対する認識の相違という問題はより深刻になっている。東部と北部の国々は、プーティン率いるロシアを当然恐れており、互いに防衛のために力を合わせるかもしれない。しかし、西や南に位置する国々は、テロや大量移民など非伝統的な脅威のほうを心配しているかもしれない。ワシントンは長い間、NATO内のこのような紛争において誠実な仲介役を果たし、あるいは単に、大西洋を越えた多様な共同体が一度に複数のことを行えるような余力を提供してきた。このようなリーダーシップがなければ、ヨーロッパは分裂し、低迷しかねない。

それは酷い結果だが、最も醜い結果ではない。三つ目のシナリオでは、ヨーロッパの未来は過去によく似ているかもしれない。

このヨーロッパでは、弱さは一時的なものであり、EUの安全保障のような集団行動(collective-action)の問題を克服できないのは、その始まりに過ぎない。ワシントンの安定化への影響力が後退するにつれ、長い間抑圧されてきた国家間の対立が、最初はゆっくりとかもしれないが、再燃し始めるからである。ヨーロッパ大陸における経済的・政治的主導権をめぐって争いが勃発し、ヨーロッパ・プロジェクトは分裂する。国内のポピュリストや外国の干渉に煽られ、離反主義的な行動(revanchist behavior)が復活する。穏健な覇権国が存在しないため、古くからの領土問題や地政学的な恨みが再び表面化する。自助努力の環境の中で、ヨーロッパ諸国は自国の武装を強め始め、核兵器だけが提供できる安全保障を求める国も出てくる。非自由主義的で、しばしば外国人嫌いのナショナリズムが暴走し、民主政治体制は後退する。数年、あるいは数十年かかるかもしれないが、ポスト・アメリカのヨーロッパは、急進主義と対立の温床(hothouse of radicalism and rivalry)となる。

これは、1990年代初頭に一部の著名な専門家たちが予想していたことである。バルカン半島での民族紛争、ドイツ再統一をめぐる緊張、ソ連圏崩壊後の東ヨーロッパにおける不安定な空白地帯(vacuum of instability)の全てが、このような未来を予期していたのである。冷戦終結後、アメリカはヨーロッパの影響力を縮小させるどころか拡大させた。ボスニアとコソヴォに介入して民族紛争を消し去ると同時に、EUが東方拡大(eastward expansion)について逡巡し遅滞する中で、東ヨーロッパをNATOの傘下に収めたからだ。しかし、だからといってヨーロッパの悪魔が二度と戻ってこない訳ではない。

europeuswithdrawal005
2019年11月7日、ブダペストでハンガリーのヴィクトール・オルバン首相と会談するトルコのレジェップ・エルドアン大統領(左)

今日、バルカン半島では激しいナショナリズムの炎が揺らめいている。トルコやハンガリーでは、修正主義的な不満(revisionist grievances)と独裁的な本能(autocratic instincts)が指導者たちを動かしている。2009年のヨーロッパ債務危機とそれに続く数年にわたる苦難と緊縮財政(austerity)は、ドイツの影響力(この場合は経済的影響力)に対する恨みが決して深く埋まらないことを示した。ウラジーミル・プーティンがヨーロッパ諸国に協力するあらゆる理由を与えている今日でさえ、ウクライナとポーランド、あるいはフランスとドイツの間に緊張が走ることがある。

懸念すべき政治的傾向もある。ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相は何年もかけてハンガリーの民主主義を解体し、「非自由主義国家(illiberal state)」の台頭を喧伝してきた。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も自国で同様のプロジェクトを進めている。フランスの国民連合(National Rally)のような政党は世論調査で上昇し、何世紀にもわたる歴史的不満が覚醒する準備を整え、ゼロサムの地政学的思考に陥りやすい硬直したナショナリズムを売りにしている。極右の「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAfD)」は、より過激になりながらも、政治的な競争者であり続けている。こうした運動の勝利は、ヨーロッパ諸国を互いに対立させようと躍起になり、政治戦争を繰り広げるロシアによって助長されるかもしれない。

分裂したヨーロッパが古代の悪魔(ancient demons)に支配されるというのは悪夢のシナリオであり、悪夢は通常、実現しない。しかし、理解すべき重要なことは、ポスト・アメリカのヨーロッパは、私たちが知っているヨーロッパとは根本的に異なるということである。アメリカのパワーとヨーロッパに対する傘によってもたらされた地政学的ショックアブソーバーはなくなる。地位と安全保障をめぐる不安定な不確実性が戻ってくる。各国はもはや、以前の時代を特徴づけていたような行動(軍備増強や激しい対立)に頼らなくても、自分たちの生存を確保できるという自信を持つことはないだろう。今日のヨーロッパは、アメリカが作り上げた歴史的にユニークで前例のないパワーと影響力の構成の産物である。75年もの間、旧態依然とした悪習を抑制してきた安全策が撤回されれば、旧態依然とした悪習が再び姿を現すことはないと、私たちは本当に言い切れるのだろうか?

ヨーロッパが今日の平和なEUへと変貌を遂げたことは、決して元に戻せないと考えてはいけない。

ヨーロッパが今日の平和なEUへと変貌を遂げたが、決して以前の状態に戻らないと考えてはいけない。結局のところ、ヨーロッパは1945年以前、例えばナポレオンが敗北した後の数十年間、比較的平和な時期を過ごしたが、勢力均衡(balance of power)が変化すると平和は崩壊した。見識を持ったように見える大陸に悲劇が起こることはあり得ないと考えてはならない。アメリカが関与する以前のヨーロッパの歴史は、世界で最も経済的に先進的で、最も近代的な大陸が、自らを引き裂くことを繰り返してきた歴史であった。実際、ヨーロッパの過去から学ぶことがあるとすれば、それは、現在想像できるよりも早く、そして険しい転落が訪れる可能性があるということだ。

1920年代、自由主義の勢力が台頭しているように見えた。しかし、イギリスの作家ジェイムズ・ブライスは、「民主政治体制が正常かつ自然な政治形態として普遍的に受け入れられた(universal acceptance of democracy as the normal and natural form of government)」と称賛した。新しく創設された国際連盟(League of Nations)は、危機管理のための斬新なメカニズムを提供していた。それからわずか10年後、大陸が再び世界大戦に突入する勢いを作り出したのはファシズム勢力だった。ヨーロッパの歴史は、物事がいかに早く完全に崩壊するかを物語っている。

アメリカ第一主義者(America Firsters)たちは、アメリカはコストを負担することなく、安定したヨーロッパの恩恵を全て受けることができると考えているかもしれない。現実には、彼らの政策は、ヨーロッパにはもっと厄介な歴史的規範があることを思い起こさせる危険性がある。それはヨーロッパにとってだけでなく、災難となる。ヨーロッパが弱体化し、分裂すれば、民主政体世界がロシア、中国、イランからの挑戦に対処することが難しくなる。暴力的で競争過剰な(hypercompetitive)ヨーロッパは、世界的な規模で影響を及ぼす可能性がある。

ここ数十年、ヨーロッパが繁栄する自由主義秩序の一部であることで利益を得てきたとすれば、その自由主義秩序は、平和的で徐々に拡大するEUを中核とすることで利益を得てきた。ヨーロッパが再び暗黒と悪意に染まれば、再び世界に紛争を輸出することになるかもしれない。アメリカが大西洋を越えて後退する日、それはヨーロッパの未来以上のものを危険に晒すことになるだろう。

※ハル・ブランズ」ジョンズ・ホプキンズ大学国際高等大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念特別国際問題担当教授兼アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。
ウクライナ戦争は2022年2月24日に始まってからいまだに停戦を迎えていない。このまままた冬を迎え、年を越していくことになる。現在、中東情勢が緊迫の度合いを深めている中で、注目も薄れているように感じる。大きな動きもなく、戦況は膠着状態に陥っている。そうした中で、犠牲者だけが増えている。私は2年前から訴えているが、一日も早い停戦を望む者である。

ukrainewarsituationmap20241014001

ウクライナの最大の支援国であるアメリカは大統領選挙期間中、しかも現職の大統領は再選を目指さないということでレイムダック状態になり、大きなことはできにくい状態にあり、選挙が終わって、新政権ができてからしばらくの間は、アメリカは動けない。そうした中で、停戦のきっかけをつかむのは難しい。ウクライナの国内状況が変わらねば、早期停戦は望めない。具体的にはヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の交代だ。

 そうした中で、「ウクライナのNATO加盟」という話も出ている。私は、ウクライナのNATO加盟には反対する。ウクライナのNATO加盟は紛争の火種を残すことになる。それならば、EU加盟を目指すべきだ。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は多少の皮肉も込めながら、ウクライナのEU加盟には反対しない姿勢を示した。ウクライナの腐敗度や財政赤字をEU諸国で面倒を見られるのか、どうなんだという皮肉を示しているが、ウクライナにとっては、EU加盟は経済を向上させるには良いきっかけとなる。

EU諸国にとっては逆で、ウクライナを支援する負担を考えるとEUには加盟させたくない。しかし、ロシアをこれからも挑発する存在としては味方につけておきたい。それで、NATO加盟という話も出ている。しかし、それはあまりにも危険だという慎重論ももちろんある。自分たちからわざわざ危険を高めてしまう行為であるからだ。現在のウクライナ戦争もヨーロッパ諸国にとっては大きな負担である。そうした状況がこれからも続く上に、ロシアからの核攻撃の脅威に晒されるという危険が継続するということはヨーロッパ諸国、更にはアメリカの人々にとっては耐えがたい苦痛だ。

 アメリカと西側諸国の火遊びがロシアによるウクライナ侵攻を招いた。そうした中で、将来に火種を残すような、ウクライナのNATO加盟、NATO軍のウクライナ国内駐留という話は状況を不安定化させるだけだ。

=====

ウクライナはNATOへの「河川湖沼横断(渡河作戦)」を必要としている(Ukraine Needs a ‘Wet Gap Crossing’ to NATO

-ウクライナに戦時中の橋渡しをするために、アメリカ軍の戦略(playbook)を使う時が来た。

アン・マリー・デイリー筆

2024年6月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/18/ukraine-nato-bridge-biden-usa/

passerellemimrampedestrianbridgeeu001

NATO首脳会議中の2009年4月4日に撮影された、ドイツのケールとフランスのストラスブールを繋ぐパセレル・ミムラム歩道橋の一帯。

バイデン政権は時に、ウクライナのNATO加盟への「橋(bridge)」を築く必要性に言及する。これは適切な比喩だが、支持者たちが考えるような方法ではない。

橋について言えば、単なる希望の象徴(symbol of hope)と思うかもしれない。しかし、軍事的な文脈で使われる橋は、戦時中のインフラとしての役割を最もよく示している。なぜなら、戦時中の橋の建設は、軍事プランナーが「ウェット・ギャップ・クロッシング(河川湖沼横断、wet gap crossing)」と呼ぶ、とてつもなく困難で複雑な作戦だからである。2022年5月にウクライナがシヴェルスキー・ドネツ川を渡ろうとしたロシア軍大隊を壊滅させたように、河川湖沼横断の実施は危険を伴うが、戦略的な見返りは大きい。1944年、ジョージ・S・パットン将軍率いる第3軍はナンシーでモーゼル川を渡り、ドイツ軍の防衛ラインを転換させ、バルジの戦いのための戦略的位置を開いた。

ウクライナをNATOに加盟させることは、河川湖沼横断と同じようにリスクとコストがかかるが、戦略的な成功につながる可能性がある。もしNATO諸国がウクライナをNATOに加盟させることを本当に真剣に考えているのであれば、NATOへの架け橋を作ることは単に巧みな外交的比喩であってはならないし、シヴェルスキー・ドネツ川のロシア軍のように単に向こう側に行くためだけに試みるべきではない。困難で、洗練された、多面的な作戦のように取り組まなければならないし、第二次世界大戦中のモーゼル川横断のように、戦後のヨーロッパ・大西洋安全保障のためのより広範な戦略の一部でなければならない。

7月にワシントンで開催されるNATO首脳会議で、ウクライナのNATOにおける将来的な役割を計画する外交官や政治家たちは、河川湖沼横断に対するアメリカ軍独自のアプローチを理解するのがよいだろう。その教訓は示唆に富んでおり、身の引き締まる思いがする。

ステップ1:迂回を試みる(Step 1: Try to go around

河川湖沼横断は非常に困難であるため、可能であれば完全に回避することが望ましい。ウクライナをNATOに参加させるのはリスクが高すぎるから回避すべきだと言う人もいるだろう。しかし、それはウクライナにとってNATO加盟以外に良い選択肢がないという事実を無視しており、長期的に見ればウクライナをNATOに加盟させないリスクの方が大きい。軍事作戦でもそうだが、川を渡ることが目的地への最も早く効果的な方法であることはよくある。

コンバット・ブリッジング(戦闘中の架橋、combat bridging)に固有のリスクや困難が知られているにもかかわらず、軍隊がこの能力を維持しているのは、河川湖沼横断の成功によって得られる戦略的機会が、リスクや困難に見合うものである場合があることを知っているからである。また、時には迂回するという選択肢がないことも知っている。ロシアは近隣諸国を侵略し、核のサーベルを鳴らしているが、NATOを直接攻撃することはしていない。それは、NATOの第5条が依然として効果的な抑止力となっているからだ。それ以外には何も機能していないのだ。

ウクライナのNATO加盟に反対する人々は、ウクライナへの継続的な物資支援という「イスラエル・モデル(Israel model)」を選ぶべきかもしれない、あるいはG7諸国のような国々の組み合わせがウクライナに長期的な経済支援を提供することで、ロシアに勝ち目はないと確信させることができるだろうと主張する。それは、イスラエルには核兵器があり、ウクライナにはないからだ。実際、そこが重要だ。ウクライナは1994年、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することにロシアなどが同意したことで、核兵器を放棄した。同様に、すでにEUに加盟しているにもかかわらず、スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟を決定したことは、ウクライナをEUに加盟させ、EUの第42条7項の相互援助条項を与えるだけでは、ロシアの侵略を抑止するには不十分であることを示している。

ステップ2:計画とリハーサル(Step 2: Plan and rehearse

意図的な河川湖沼横断を行うことが決まったら計画が重要である。単に水際まで兵力を移動させ、水際に到達してから横断方法を考えようとしても、大惨事になることは確実だ。渡河地点の候補を偵察し、地形や敵味方の長所・短所を考慮して、どれが成功しそうかを判断し、複数の渡河地点を準備しなければならない。

ウクライナをNATOに加盟させるための選択肢はいくつかあり、いずれも検討されるべきだが、有望と思われるものばかりではない。最初の選択肢は、敵対行為が続いている間にウクライナをNATO加盟国にするというもので、理論的には可能だが、新加盟国を受け入れるには32カ国の同盟国の全会一致が必要であることから、政治的には実現不可能な可能性が高い。地理的に恵まれ、軍事的にも先進国であるスウェーデンを同盟に加入させるのに1年もかかったという事実は、この厳しい事実を裏付けている。仮に、これが政治的に実現可能になった場合、NATOは第5条の保証を単なるリップサービス以上のものにするために、速やかにウクライナに軍を展開しなければならなくなる。

2つ目の選択肢は、停戦または敵対行為の停止をめぐる交渉中の保証の一環として、ウクライナをNATOに加盟させることだ。つまり、停戦が成立次第、ウクライナはNATOに加盟することになる。ロシアはウクライナのNATO加盟のきっかけとなった戦闘停止に同意せずに戦闘を続けることが考えられるため、これはおそらくうまくいかないだろう。

3つ目の選択肢は、停戦後のウクライナの主権と領土の一体性を保証するために、NATO諸国がウクライナ領内に部隊を展開することである。これには、ウクライナに具体的な安全保障を提供する一方で、ウクライナ加盟に懐疑的なNATO諸国を味方につける時間を確保できるという利点がある。

ウクライナの将来の姿は未知数であり、ウクライナのNATO加盟のスケジュールも不明である。NATOはウクライナ加盟に対するNATO諸国の政治的支持の一致を達成するために、また、ウクライナの主権と領土の一体性を保証するために、NATO諸国の軍隊をいつ、どこで、どのように使用するかを決定するために、今すぐ作業を開始すべきである。どちらの選択肢が最も信頼できると判断されるかにかかわらず、どちらの措置も避けられないだろう。

ステップ3:戦場を準備する(Step 3: Prepare the battlespace

コンバット・ブリッジング(戦闘中の架橋、combat bridging)においては、車列を組んで橋を架けたい場所に直接車を走らせ、水中に物を置き始めるようなことはしない。それは自殺行為だ。計画を立て、リハーサルを行い、戦力を整え、有利な条件を整えるための準備を行う。同様に、何の計画も準備もせずにウクライナのNATOへの橋渡しを宣言するだけでは、ウクライナは、2008年のブカレスト宣言後に直面したのと同じ戦略的手詰まり(strategic limbo)の状態に置かれるだけであり、同様に、NATOに加盟できるようになる前にウクライナの主権を弱体化させようとするモスクワの努力を更に倍増させることになる。

NATOにとって、これは加盟諸国が今すぐウクライナのNATO加盟に賛成する票を集め始める必要があることを意味する。外交官たちは、同盟の誰が既にウクライナをNATOに加盟させることに賛成しているのか、そしてどのような条件のもとで加盟させることに賛成しているのかを理解する必要がある。「絶対的に」あるいは「戦争が終わるまでは」加盟させないという立場の人々に対しては、より創造的な解決策を提案し、議論し、内輪で固めていかなければならない。これは一時的な議論では済まない。最終的なウクライナ加盟に向けて戦場を準備するための絶え間ないキャンペーンでなければならない。

ウクライナが1991年の国境を取り戻して戦争が終結するにしても、キエフがそれを下回る形で決着するにしても、NATO加盟諸国の軍隊をウクライナ国内に駐留させ、NATOへの橋渡しに必要な時間、空間、安全を提供する必要がある。この軍隊には、NATOの核保有3カ国(英、仏、米)を含む主要同盟諸国の連合体を含めることが理想的であり、第5条の安全保障がないにもかかわらず、NATOの核保有諸国が合意された国境を守ることを約束していることを示す必要がある。ちょうど、第二次世界大戦の終結から西ドイツがNATOに加盟するまでの数年間、東ドイツのソ連軍を抑止するためにNATO軍が西ドイツに駐留した前例を真似る必要がある。

休戦または停戦後、短期間でこれらの軍隊をウクライナに移動させることは、論理的にも政治的にも極めて困難だ。したがってNATO加盟諸国は、ウクライナを包囲するNATOの防空網がNATO領内を攻撃する軌道にあるロシアのミサイルや、一方向攻撃ドローンの撃墜を開始することを宣言し、ウクライナに少人数のNATO将兵を派遣してウクライナ人に訓練を提供し、民間船舶を保護するために黒海にNATO海軍の能力を認めることについてトルコと交渉することによって、そのような動きの舞台を今すぐ整え始めるべきだ。

ステップ4:関与する(Step 4: Commit

河川湖沼横断作戦は大規模な作戦である。アメリカ陸軍では軍団レヴェルの作戦とされている。空軍、宇宙軍、サイバー資産も重要な支援を提供するように想定されている。困難でリスクが高く、コストもかかるが、適切に行えば戦略的突破口(strategic breakthrough)につながる。

リスクが大きいからこそ、作戦指揮官は関係するリスクを評価し、作戦を危険に晒すことなく、可能な限りリスクを軽減するが、同時に全てのリスクを軽減することは不可能であることを受け入れなければならない。これは極めて重要なステップだ。なぜならば、ひとたび河川湖沼横断が始まれば、指揮官はその計画に全面的に関与し、利用可能な全ての戦力を活用して成功させなければならないからだ。この種の作戦において中途半端な対策は失敗を招く。

NATOがウクライナを加盟させることを真剣に考えているのなら、そしてそうでなければならないのなら、リスクについて明確な認識を持たなければならない。この計画は、より広範な戦略を支えるものでなければならない。そして最も重要なことは、成功を約束することである。もしそうしなければ、最終的に失敗に終わる可能性が高い。

※アン・マリー・デイリー:ランド研究所政策研究員、大西洋評議会スコウクロフト記念戦略・安全保障センター大西洋横断安全保障イニシアティヴ非常駐上級研究員、米陸軍予備役将校。ランド研究所入所以前は、国防長官室でロシア戦略上級顧問およびウクライナ担当デスクを務めた。本書に含まれる見解、意見、発見、結論、提言は筆者個人のものであり、ランド研究所やその研究スポンサー、クライアント、助成機関のものではない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 NATO(北大西洋条約機構、North Atlantic Treaty Organization)は、1949年に北米大陸にあるアメリカとカナダと西ヨーロッパ諸国で結成された軍事同盟気候である。加盟国のいずれかに対する攻撃を全加盟国への攻撃と見なして対処するとする集団的自衛権(right of collective self-defense)を行使する同盟である。具体的には、東西冷戦が激化する中で、ソ連からの侵略にアメリカが率いる西側諸国で対処するというものであった。ソ連を中心とする東ヨーロッパ諸国は、NATOに対抗して、1955年にワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty Organization)を結成した。冷戦終了後の1991年にワルシャワ条約機構は解体された。しかし、冷戦で勝利し、仮想敵であるソ連が消滅して以降も、NATOは存続し、加盟国を増加させていった。その様子は以下の通りだ。このいわゆる「東方拡大(eastward expansion)」は、対ロシア封じ込めのために実施された。ソ連時代に比べて、国力を大きく落としたロシアを「挑発(provocation)」し、ロシアを虐める行為だった。

1949年:アイスランド・アメリカ・イギリス・イタリア・オランダ・カナダ・デンマーク・ノルウェー・フランス・ベルギー・ポルトガル・ルクセンブルク(原加盟国、12か国)

1952年:ギリシャ・トルコ

1955年:西ドイツ(1990年に東西ドイツ統一)

1982年:スペイン

1999年:チェコ・ハンガリー・ポーランド

2004年:ブルガリア・エストニア・ラトビア・リトアニア・ルーマニア・スロバキア・スロベニア  

2009年:アルバニア・クロアチア   

2017年:モンテネグロ

2020年:北マケドニア

2023年:フィンランド

2024年:スウェーデン
natoeastwardexpansion001

そして、NATO東方拡大の焦点は、ウクライナとなった。ウクライナはNATOにもEU(ヨーロッパ連合、European Union)にも加盟申請をしながら長年にわたってほったらかしされながら、同時にアメリカを中心とする西側諸国から軍事援助を受けて、ロシアとの衝突要因として育成されてきた。ロシアは昔の勢力圏であった東ヨーロッパのNATO加盟までは隠忍自重してきたが、ウクライナの軍事力強化は自国の安全保障に対する深刻な脅威と判断し、緩衝地帯を作るということもあり、2022年2月にウクライナに侵攻した。ウクライナ戦争は、ロシアにとっての「自存自衛(self-sufficiency and self-defense」のための戦争である。私がこの言葉を使うのは、太平洋戦争の開戦となった、日本軍によるハワイ州パールハーバーの奇襲攻撃と同じだと言いたいためだ。太平洋戦争はアメリカの圧力のために開戦にまで追い込まれた訳だが、当時の日本とロシアは同じであり、攻撃に誘い込まれたと言いたいためだ。当時の日本とロシアの違いは、ロシアは戦争に引き込まれて苦境に陥りながら、中国やインドなどの間接的な支援を受けて、持ち直しているというところだ。

NATOはロシアがいてくれて、暴れてくれなければ存在意義はない。そして、新たな存在意義を求めて、アジア太平洋地域に進出しようとしている。イギリスやドイツなどが対中国のために、選管などを派遣する動きを見せている。また、NATOの事務所を東京に設置しようとして、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対にあった。こうした動きは、対中国封じ込めをアメリカ単独では不可能なので、防衛費をGDP2%まで増加させるように厳命した、NATO諸国を使って、手伝わせようということである。

 しかし、NATOとは文字通り、北大西洋地域の軍事同盟だ。その主敵はロシアである。中国を仮想敵として想定しないし、そのための組織構成にはなっていない。NATOはロシアの暴発(攻撃)を抑えるための組織でありながら、ロシアを挑発したことで、かえって、状況を悪化させる結果になった。NATOこそがヨーロッパの安全保障にとっての不安定要因になっている。そして、NATOがアメリカのための下働き組織になっていることが露(あら)わになっている。NATOの存在意義は薄れている。そして、この動きは止められない。それでも、一度できて、ここまで肥大化した官僚組織としてのNATOは存続していくために、危機をこれからも演出し続けることになる。これが世界にとっての大きな危険ということになる。

(貼り付けはじめ)

今回は、NATOは本当に危機的状況に陥っている(This Time, NATO Is in Trouble for Real

-長年にわたる誤った警告が発せられた末に、西側の軍事同盟はついに崖っぷちに立たされてしまうようになっている。

スティーヴン・M・ウォルト筆
2024年78

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

July 8, 2024, 4:19 PM

https://foreignpolicy.com/2024/07/08/nato-75-anniversary-washington-summit-trouble/

大学、企業、シンクタンク、あるいは夫婦など、どのような機関であれ、創立75周年を迎えると、その支援者たちはその功績や美徳、目覚ましい長寿など、バラ色の要素を列挙するのを耳にすることになる。ワシントンで開催されるNATOサミットも例外ではない。 NATOの過去の実績を称え、大西洋横断関係の礎石としての役割を称賛するスピーチが数多く行われるに違いない。

しかしながら、NATOのラブ・フェスティバルに不吉な影を落とす暗雲を無視することはできない。ドナルド・トランプは、2025年に米大統領に返り咲く可能性が高い。フランスの極右である国民連合(National Rally)は今やフランスで最も強力な政治運動となり、ハンガリーのヴィクトール・オルバンは、依然として破壊的な力を持っている。イスラエルとハマスの戦争、中国、デジタル技術の規制、苦境を深めるウクライナを助ける最善の方法などをめぐってヨーロッパ人とアメリカ人の意見は分かれている。

ヨーロッパ人とアメリカ人の意見の違いについては、今に始まったことではないと言う人もいるだろう。米欧同盟はその歴史を通じて深刻な危機に直面してきたし、(私自身を含め)その終焉が差し迫っているという見立ては、常に時期尚早であることが判明してきた。1956年のスエズ危機は深刻な亀裂だったし、ヴェトナム戦争もそうだった。軍事ドクトリン(特に核兵器の役割)をめぐる論争は、冷戦期を通じて米欧同盟を緊張させた(ユーロ・ミサイル論争を覚えているだろうか)し、1999年のコソヴォをめぐる戦争では、同盟内の不和が明らかになった。ドイツとフランスは、2003年のジョージ・W・ブッシュ政権のイラク侵攻決定に公然と反対し、ドワイト・D・アイゼンハワーからトランプまで歴代のアメリカ大統領は、ヨーロッパのアメリカの保護にただ乗りする傾向(Europe’s tendency to free-ride on U.S. protection)に対して、苦言を呈してきた。今日の問題は同じことの繰り返しに過ぎず、2029年にまた盛大な誕生日を迎えるために、皆で計画を立て始めるべきなのかもしれない。

こうした見方を軽々しく否定すべきではない。一度創設された機関は、その創設時の状況が消滅した後も長く存続することが多い。イギリスとフランスが今でも国連安全保障理事会の常任理事国であるのはそのためだ。 NATOの継続性は、ブリュッセルの大規模で確立された官僚組織と、あらゆる場面でNATOを擁護する元当局者、親大西洋主義の専門家、そして潤沢な資金を集めたシンクタンクからなる、周辺部からの支援によって強化されている。幅広いエリート層の支持を考えると、来週のサミットがNATO最後のサミットとならないことは間違いない。

しかし、今日の状況は、これまでの同盟内緊張の瞬間とは著しく異なり、NATOの将来を脅かす勢力は、トランプやマリーヌ・ルペンといった個々の指導者の個人的な傾向を超えている。実際、彼らの見解 (そしてそれらの受け入れの広がり) は、独立した原因であると同時に、これらのより広範な勢力の兆候でもある。

緊張の最も明白な原因は、世界における力の分布の変化である。NATOが1949年に設立されたとき、ヨーロッパの加盟国は第二次世界大戦からの回復途上にあり、ソ連は、アメリカの積極的な支援なしでは、ヨーロッパ単独が対処できない脅威であると考えられた。ヨーロッパは世界の工業力の重要な中心地の一つでもあったため、特に戦略的に価値のある存在であった。各国は主に共通の脅威に対処するために同盟を形成しており、アメリカがヨーロッパの防衛に専念し、そこで大規模な軍事プレゼンスを維持することは理にかなっているものとなった。

そんな日々はもう遠い昔のことになった。ソ連とワルシャワ条約機構はもはや存在せず、ロシアにはもはやヨーロッパ大陸を征服し征服する能力はない。確かに、ロシアはウクライナで違法な戦争を仕掛けており、いつかバルト三国の小国を脅かすかもしれないが、ロシア軍がポーランドに電撃戦(blitzkrieg)を仕掛けて英仏海峡まで進もうとしているという考えは滑稽だ。たとえ、ウラジーミル・プーティン大統領がそのような野心を抱いていたとしても、小さくて弱いウクライナに対して手いっぱいのロシア軍では、急速な領土拡大の手段にはならないだろう。

一方、中国はアメリカ(およびプーティン率いるロシアのシニア・パートナー)と肩を並べる競争相手、手強い技術的挑戦者、そして世界最大の貿易国として台頭してきた。現在、世界経済に占めるアジアの割合(54%)は、ヨーロッパ(17%)を大幅に上回り、世界経済成長への貢献度も高くなっている。中国はまた、安全保障環境を根本的に変える可能性のある領有権の主張を強めている。したがって、純粋に構造的な理由から、今日、アメリカが注目する割合はアジアに対して賀高く、ヨーロッパが低くなっているのは当然だ。ヨーロッパがもはや重要でないということはないが、アメリカの戦略的関心の中で、ヨーロッパが占める位置はもはや高いとは言えない。最近、NATOがインド太平洋地域でより大きな役割を担うという話がよく聞かれ、今回のNATOサミットにはアジア諸国からもオブザーバーが出席するが、NATOの欧州加盟国がアジアの勢力均衡(balance of power)に影響を与えようと思っても、それほどのことはできないだろう。

NATOの目的についての疑問は、ソ連が崩壊するとすぐに始まり、年が経つにつれて新たな理論的根拠と使命を考え出した加盟諸国を称賛しなければならない。しかし、問題は、これらの新しい試みのほとんどがそれほどうまくいかなかったことだ。 NATOの拡大により、新たな安全保障要件が追加されたが、それらを満たすための追加の能力は追加されず、費用がかからなかったのは、ロシアが弱く、従順であり続ける限りのことであった。東方への際限のない拡大(pen-ended expansion eastward)が「完全で、自由で、平和な(whole, free, and at peace)」ヨーロッパをもたらすだろうという予測は、ウクライナで激化する残忍な戦争と極度の凍結状態にあるロシアとの関係により、今日ではかなり空虚に見える。NATOは、1999年のコソヴォ戦争で部分的な成功を収めたと主張できるが、あの戦いは同盟内の結束を証明するものではなく、バルカン半島の政治は依然として微妙な状態にある。 NATO加盟国は911のテロ攻撃後、初めて第5条を発動して、アメリカを支持するために結集したが、その後のアフガニスタンにおけるいわゆる国家建設における同盟の取り組みは多大な犠牲を払いながらも、失敗に終わった。NATOは2011年にリビアに介入したが、その目的は民間人保護であったが、同時にリビアの指導者ムアンマル・アル・カダフィの打倒を支援することでもあった。しかし、その結果は再び国家の破綻を招いた。NATOが、ウクライナが初期のロシア侵攻から生き残り、領土の大部分を防衛できるよう支援してきたことは明らかだが、明らかな勝利で戦争が終わり、NATOがそれを祝福できる可能性は低い。こうした実績を考えれば、ヨーロッパの安全保障環境が悪化しているにもかかわらず、NATOの価値に対する疑問が高まっているのも理解できるだろう。

最終的に、NATO が苦境に陥っているのは、まさにそれがあまりにも長く続いており、共通の価値観や大西洋を越えた連帯に関するよく知られた常套句が、特に若い世代にとってかつてほど強力に響いていないためである。ヨーロッパ系アメリカ人の割合は減少しており、「故国(old country)」との感情的なつながりはより薄れており、第二次世界大戦、ベルリン空輸、ベルリンの壁崩壊などの出来事は、成人した若者にとっては古い歴史となっている。テロとの世界的な戦争や2008年の金融危機のさなか、その政治意識は権力政治よりも気候変動に集中していた。当然のことながら、若いアメリカ人は、これまでの世代ほどアメリカの例外主義の主張に説得力を持たず、積極的な国際主義者(internationalist)の役割を支持する傾向が低い。これらはいずれも、池の向こうで問題が発生するたびに、アメリカが初期対応者として行動することに依然として大きく依存している安全保障パートナーシップにとって良い兆しではない。

繰り返しになるが、たとえトランプが再び大統領になり、より多くのNATO懐疑論者がヨーロッパで権力を握ったとしても、NATOが崩壊するということに私は疑いを持っている。しかし、ヨーロッパとアメリカを徐々に引き離す強力な構造的力が存在しており、11月にアメリカで、そして、ウクライナで、あるいはヨーロッパ自体で何が起きようと、こうした傾向は続くだろう。よって、NATO結成75周年を祝うのは良いが、大西洋を越えた団結に関する充実した声明を耳にしても、それについてあまり真剣に受け止めない方が良い。ヨーロッパとアメリカは、徐々に離れて言っているが、唯一重要な問題は、その乖離がどれくらいのスピードで起こり、どこまで広がるかということだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ウクライナが国際的な関心を集めたのは、やはり2022年2月のロシアの侵攻によるウクライナ戦争からであった。ウクライナの地理的な条件や国内情勢は報道されてきたが、ここまで詳しく報道されることはなかった。戦争が始まってから、西側諸国が多くの支援を行っているが、一部に疑問を持たれているには、「ウクライナは長年ヨーロッパ連合やNATOに加盟申請をしてきているのに、どうして加盟が認められてこなかったのか」ということだ。NATOに関しては、元々が対ソ連の軍事同盟ということで、西ヨーロッパ諸国とアメリカで結成された組織であり、それが東方に拡大していった。ロシアと国境を接する東ヨーロッパ諸国も参加して、東方に拡大していった。ウクライナに関しては、ロシアが特に敏感で、もし参加を認めれば状況が不安定化するということで、参加は認められなかった。これはまぁ理解できることだ。

 それならばヨーロッパ連合に参加が認められてこなかったというのはどうしてか。それは、ウクライナが財政赤字を抱え、汚職にまみれた国で、とても「西側」の仲間に入ることができない国であったからだ。ウクライナは長年にわたり、ヨーロッパ連合加盟を申請してきているが、財政赤字の問題と汚職の問題をクリアしない限り、参加は認められない。ウクライナ戦争で、財政問題は仕方がないにしても、汚職問題は非常に厳しい。

 ウクライナでは戦争中も武器の横流しや徴兵逃れのための贈収賄が行われている。アメリカのUSAIDの協力(指示)を受けて、反汚職機関の整備を行っているようだが、ウクライナ政府内部での抵抗が大きいようだ。ゼレンスキーの側近たちも汚職を行っているという話もある。戦争が膠着状態になって、西側諸国(主にアメリカ)からの支援が横梨などされているということになれば、ウクライナ戦争への支援自体も再考されねばならない。

 戦争となれば莫大な予算が動く。それで汚職が起きる。これは中国太平洋戦争時代の日本でもあったことだ。日本の軍部の腐敗は酷かった。そのことの責任も取らずに、戦後ものうのうと生きた、戦前戦時中の政府高官たちや軍幹部たちの責任追及を徹底できなかったことが、現在の日本の衰退を真似ていると私は考えている。ウクライナも戦後、戦時中のウクライナ政府やウクライナ軍の腐敗について徹底追及しなければ、体質は変わらず、衰退し続けていくことになるだろう。

(貼り付けはじめ)

ウクライナは現在でも西側に参加するにはあまりにも汚職が蔓延している(Ukraine Is Still Too Corrupt to Join the West

-西側諸国の諸機関に参加することで戦争に勝利するという戦略は1つの高い、自分たちが作り出したハードルに直面している。

アンチャル・ヴォーラ筆

2024年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/29/ukraine-is-still-too-corrupt-to-join-the-west/

ウクライナは、西側諸国(the West)の政治共同体や安全保障制度に参加することでロシアを打ち負かすという戦略を採用しているが、西側の基準をはるかに超えた汚職との苦闘を続けているために、その戦略は台無しになっている。この問題はウクライナ国家の中枢にまで及んでいる。トップクラスの裁判官、政治家、役人たちが汚職容疑に直面し、国防省は、高値の卵や冬用ジャケットの調達、納入されなかった10万発の迫撃砲弾の購入、徴兵を逃れたい男性たちからの賄賂の受け取りなど、多くの汚職スキャンダルの中心となっている。

「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表した2023年の腐敗指数で、ウクライナは180カ国中104位となり、ウクライナが対等加盟(to join as an equal)を希望しているヨーロッパ連合(European UnionEU)加盟諸国よりもはるかに悪い結果となった。最も汚職の少ない国はデンマーク、ドイツは9位、エストニアは12位、フランスは20位だった。

過去10年間、ウクライナは汚職問題の是正に一定の成果を上げてきた。しかし、本誌がウクライナ、アメリカ、ヨーロッパの主要関係者たちに取材したところによると、ウクライナが欧米社会に完全に入り込み、望むような支援を受けるまでには、まだまだ多くのことを成し遂げなければならない。

EUは、ウクライナ人が親ロシア派の大統領に対して大規模な抗議行動を行った2014年以来、ウクライナの本質的な改革を支援してきた。その年、ウクライナ国民はヨーロッパを完全に受け入れるという希望を声高に表明し、ペトロ・ポロシェンコ大統領(当時)の下で、EUとの連合協定に調印し、「経済、司法、金融改革の追求(pursue economic, judicial, and financial reforms.)」を選択した。

NATOは、ウクライナの軍隊と国防機関の改革を支援してきた。2016年からは、「ウクライナがソヴィエト時代からNATOの基準に移行する(Ukraine transition from Soviet-era to NATO standards)」のを支援するための幅広い能力構築プログラムを含む包括的支援パッケージを通じて支援を組織してきた。

しかし、ウクライナの有力者の中には、改革要求は、戦争の当事者になることを恐れる一部の加盟諸国の政治的躊躇(political reticence)を隠すための「口実(an excuse)」にすぎないと指摘する人たちもいる。「ウクライナのNATO加盟を阻止している問題は、改革がないことではなく、いわゆるロシアのエスカレーションに対するアメリカとドイツの恐れだ(The issue that stops Ukraine’s inclusion in NATO is not the absence of reforms, but the fear in U.S. and Germany of the so-called Russian escalation)」と、ウクライナの元国防副大臣アリーナ・フロロワはキエフからの電話で本誌に語った。

米国防総省のある高官は匿名を条件に本誌のインタヴューに答え、政治的躊躇が理由であることは認めたが、汚職、軍に対する文民の監視の欠如(lack of civilian oversight over the armed forces)、政府機関の限られた透明性が大きな障害になっていると述べた。

この高官は、「防衛調達に関しては特に懸念がある。特定の指導者に近い人物に有利な契約を与えるケースもあった」と述べた。

ウクライナの2024年に適応された「年次国家計画(Annual National Program)」は、国防、法執行、統治の改革を求める重要な文書である。この計画の最重要目標の1つは、ヨーロッパ大西洋の手順と慣行に沿ってウクライナの防衛調達システムを改革することだ。国防部門における多くのスキャンダルは、国のために戦っているウクライナ国民の信頼を揺るがしただけでなく、西側支持者、特にウクライナの戦争努力に全軍事援助の99%を送ってきたNATO同盟諸国の信頼も揺るがした。

本誌は、ウクライナがロシアと戦っているにもかかわらず、ウクライナが防衛調達における汚職をチェックするための制度的手段を確立するのにNATOの専門家たちが支援していることを知った。ウクライナは、汚職撲滅が期待される国家物流実施機関(State Logistics OperatorDOT)と国防調達庁(Defense Procurement AgencyDPA)という2つの新たな調達機関を設立した。国家物流実施機関は食料、毛布、靴、軍が必要とするその他の日用品などの非致死性品を調達する一方、国防調達庁は軍需品を調達する。

2つの別個の機関の創設は、戦争のさなかにおける武器購入に関連する情報に秘密が含まれるためであり、それが公開されれば、敵対者が戦闘計画を立てるのに役立たせる可能性がある。NATOは、戦争が終われば両機関が統合されることを期待している。

ウクライナ議会議員で議会汚職防止委員会の副委員長であるヤロスラフ・ユルチシンは、それでもなお、最近まで新機関に割り当てられている全ての機能を果たしていた国防省の権限を各機関が縮小することになると示唆した。

ユルチシンは、本誌の取材に対して次のように答えた。「調達ルール(procurement rules)を定め、参謀の要望に応じておおよその購入金額を算出し、オークションを開催した。現在、これらの権力は分割されている。これにより、第一に、国防省は汚職のリスクを回避できるようになる」。

オレクシィ・レズニコフの後任として、2023年9月に任命されたウクライナ国防大臣ルステム・ウメロフは12月の演説で、新システムは「国際基準とNATOの原則に従って国際パートナーと連携して構築された(built according to international standards and NATO principles in coordination with our international partners)」と述べた。

ユルチシンは、ウクライナが公務員に対し資産を申告し、その情報を公的にアクセスできるようにする義務を復活させたと述べた。2022年2月にロシアが本格的な侵攻を開始したとき、この要件は一時停止されていた。しかし、この措置には「多かれ少なかれ平和な都市で働く人々」を除き、軍のメンバー全員が含まれているわけではないとユルチシンは付け加えた。

ウクライナは米国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)と協力して、政府と国民の間のインターフェースをデジタル化した。電子政府アプリおよびデジタル プラットフォームである「ディイア(Diia)」を使用すると、給付金の申請、税金の支払い、ビジネスの登録と運営、戦争で国を離れたウクライナ人への援助へのアクセスなどのサービスを利用して、「ウクライナ人がワンストップショップでオンラインで政府と関わることができる」。USAIDDiiaを「電子政府のゴールドスタンダード(the gold standard in e-government)」と表現し、ウクライナがこの技術を他国と共有することに取り組んでいることを指摘した。

上記の変化は注目すべきものではあるが、それらはウクライナがいつかヨーロッパ連合とNATOに加盟するための長い旅路のほんの小さな一歩とみなされている。「年次国家計画」ではまた、民主的管理(democratic control)の強化と、軍隊および広範な安全保障および防衛部門に対する監視の強化も求められている。『キエフ・インディペンデント』紙のジャーナリストであるダニーロ・モクリクは、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は国防省に対する政治的監督権を持っているが、国内の4大汚職防止機関の1つである国家汚職防止局が法的監督権を持っていると述べた。しかしモクリクは、どちらも十分ではないと主張した。

モクリクは、本誌の取材に対して電話で、「大統領による政治的な監視はかなりソフトだ。反汚職局による法的な監視は、限定的と言えるでしょう」と答えた。モクリクは国防省が大規模な汚職疑惑の渦中にあることが発覚した後に退任したレズニコフについて、「例えば、前次官や調達会社に対する手続きはあるが、上層部は退陣を求められるだけで、前国防相に対する刑事手続きはない」と述べた。

ウクライナの4機関が軍を含む中央政府当局の汚職を捜査している。しかし、活動家たちは、これらの機関のうち、少なくとも2つの機関の独立性に懸念があると述べた。例えば、「汚職対策局長は政府に非常に忠実であるようだ」とモクリクは付け加えた。

国内の法執行機関の改革に関してさえも、政府の動きはヨーロッパ連合やウクライナ国民の予想よりも遅い。ウクライナの閣僚たちは、ウクライナ当局者とヨーロッパ連合諮問使節団の代表者が起草した法執行機関改革の行動計画をまだ承認していない。

ユルチシンは次のように述べた。「行動計画は依然としてウクライナ閣僚会議によって承認される予定だ。内務省(Ministry of Internal Affairs)は承認を求める文書をウクライナ内閣に提出しなければならない。承認後に実施が開始されるため、現時点ではまだ何も行われていない。」

ヨーロッパ連合加盟のもう1つの主要な基準は独立した司法(independent judiciary)だ。昨年5月、ウクライナ検察は、300万ドル近い賄賂を受け取った疑いでウクライナの最高裁判所長官を拘束した。そして、2022年、中央公共当局に対する訴訟を検討する権限を持っていたキエフ地方行政裁判所は、裁判官の職権乱用が判明したことを受けて解体された。

非政府組織「キエフ汚職防止活動センター」の国際関係責任者であるオレナ・ハルシュカは本誌の取材に対して、中央政府機関に対する訴訟を扱う新しい裁判所はまだ設立されていないと述べた。また、別の活動家は本誌に対し、司法関係者の多くがより厳格な審査手続きに抵抗していると語った。

ヨーロッパ委員会のウクライナに関する2023年報告書の主要な調査結果の中で、ヨーロッパ委員会は「中央政府機関が関与する事件を処理し、適切に審査された裁判官を配置する新しい行政裁判所を設立する必要がある(new administrative court to handle cases involving the central government bodies and staffed by properly vetted judges needs to be established)」と指摘した。

専門家たちはまた、防衛の分野ではウクライナはもっとできると確信している。ウクライナの防衛調達における問題の1つは、致死的か、非致死的かにかかわらず、同じ物資に対する需要がウクライナの諸機関で競合していることであり、専門家たちはこれが供給業者の価格上昇を可能にしていると考えている。NATOは、ウクライナが汚職や不履行の可能性のある取引に巻き込まれることを避けるために、承認されたサプライヤーの登録簿を作成する必要があると提案した。

米国防総省のある高官は、「ウクライナは上昇軌道(upward trajectory)に乗っている。これらの改革を真剣に受け止めなければ、NATOの加盟国にはなれない」と述べた。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについての記事を執筆。『タイムズ』誌(ロンドン)中東特派員、アルジャジーラ・イングリッシュとドイッチュ・ウェルのテレビ特派員を務めた。ベイルートとデリーを拠点にして、20カ国以上の紛争と政治について報道してきた。ツイッターアカウント:Twitter: @anchalvohra

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ