古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:USAID

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 先日、『ニューヨーク・タイムズ』紙がトランプ政権の閣議において、マルコ・ルビオ国務長官と政府効率化省を率いるイーロン・マスクが衝突したと報じられた。マスクはルビオが何もしていないと怒り、ルビオはマスクが米国国際開発庁(USAID)を閉鎖すべきと主張したことについて激怒しており、言い合いになったということだ。その他にもシーン・ダフィ運輸長官とマスクが衝突したということも伝えられている。USAIDに関しては、ルビオが国務長官就任早々に一部予算停止を行ったが、そのことよりもマスクが閉鎖を主張したことの方が取り上げられて面白くないのだろうと考えられる。

 イーロン・マスク率いる政府効率化省のスタッフたちは第2次トランプ政権発足直後から、各政府機関を「急襲」し、人事や予算などの情報を収集している。スタッフたちには腕利きのハッカーもおり、コンピュータに隠されている秘密情報などにもアクセスしているということだ。政府効率化省は連邦政府の人員整理や各機関の縮小や閉鎖を主導しており、官僚たちにとっては脅威になっている。

トランプに対して忠誠心が厚い閣僚たちも、マスクにばかり注目が集まるのは面白くないことだろう。自分が長官として主管する各省の人員整理や予算削減については、自分が主導して行い、手柄にしたいところに、マスクが荒らしまわっているということになる。また、マルコ・ルビオに関しては、まだ大統領選挙出馬に色気があるのだろうと考えられる。今のところ、JD・ヴァンス副大統領がトランプの後継者と見られているが、ルビオも以前の大統領選挙に出馬した経験を持ち、大統領の座を簡単にあきらめたくはないだろう。しかし、戦後、国務長官出身者で大統領になった人物はいない。ルビオは国務長官への使命を受諾した時点で、大統領になることは諦めておくべきだろう。しかし、閣僚全体のマスクへの不満を代表する形で衝突することで、存在感を増すという狙いもあったのではないかと考えられる。トランプ大統領はうまくマネイジメントをしようとしている。このような状況は彼にとっては日常茶飯事にあったことだろう。

 トランプの手綱さばきがどのようになるか注目されるが、第1次政権よりも第2次政権の方が安定してうまく行っているように見える。

(貼り付けはじめ)

ルビオ、マスクがトランプ政権の閣議で衝突:『ニューヨーク・タイムズ』紙報道(Rubio, Musk clash at Trump Cabinet meeting: NYT

フィリップ・ティモティジァ筆

2025年3月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5183121-rubio-musk-clash-at-trump-cabinet-meeting-nyt/

マルコ・ルビオ国務長官は、トランプ大統領主催の閣議で、ハイテク業界の大富豪でトランプ大統領の側近であるイーロン・マスクと衝突した。

6つの大企業を率いる世界一の大富豪であるマスクは、前上院議員のルビオを叱りつけ、国務省の職員の多くを解雇しなかったこと、そして彼は「テレビでは良いが(good on TV)」、それ以外ではほとんど何もしていないことを痛烈に批判したと『ニューヨーク・タイムズ』紙は金曜日に、この出来事を知る5人のインタヴューを引用して報じた。

ルビオは個人的にはマスクに対してしばらく前から「激怒(furious)」しており、特に政府効率化省(Department of Government EfficiencyDOGE)が、100カ国以上で数十億ドルの安全保障、人道、開発援助を管理する機関である米国国際開発庁(U.S. International Development Agency)の閉鎖を視野に入れていることから激怒しているとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。

スコット・ベセント財務長官が出席しなかった木曜日の閣議でルビオは反撃した。

国務長官ルビオはマスクが真実を語っていないと主張した。ニューヨーク・タイムズによると、ルビオ長官は早期退職した国務省職員1500人以上を解雇の対象として数え直す必要があるのか​​と質問したということだ。

ますますヒートアップしたやりとりの後、トランプ大統領はルビオ長官を擁護するために介入した。大統領は、国家トップの外交官が「素晴らしい仕事(great job)」をしていると賞賛し、彼はメディアへの出演が多く、過密なスケジュールをこなしており、なおかつ国務省を監督しなければならないと述べたとニューヨーク・タイムズは報じた。

トランプは金曜日にこの爆発的な報道について質問された。彼は、ルビオとマスクが争ったことを否定し、両者とも良い仕事をしていると賞賛した。

トランプは「衝突はない、私はそこにいた、君はただのトラブルメーカーだ。それに、そんな質問をすべきではない、ワールドカップの話をしているのだから」と述べた。

「イーロンはマルコと仲が良く、2人とも素晴らしい仕事をしている。衝突はない」と、FIFA会長のジャンニ・インファンティーノを横に置いて、トランプは付け加えた。

その数分後、大統領は再び木曜日の会談について質問されたが、この質問には直接答えなかった。

トランプ大統領は記者団に対して、「二人とも素晴らしいほど仲がいい。マルコは国務長官として信じられないようなことをやってのけた。そしてイーロンはユニークな男で、素晴らしい仕事をしている」と述べた。

国務省のタミー・ブルース報道官はニューヨーク・タイムズに、ルビオ長官は「この閣議は、アメリカを再び偉大な国にするという同じ目標を達成するために団結したダイナミックなティームとのオープンで生産的な話し合いだったと考えている」と語った。

閣議の中でトランプ大統領は、雇用や予算削減を推進するのは閣僚であるべきだが、マスクはアドヴァイザーとしてそこにいるのだと繰り返した。

「閣僚たちにはまず、望む人全員を留めてほしい。必要な人全員をそうして欲しい」とトランプ大統領は木曜日、大統領執務室で記者団に語った。

「私は彼らにできる限りの最高の仕事をするように望む。優秀な人材がいるのは貴重で、とても重要なことだ。私たちは彼らにその優秀な人材を維持してもらいたい。だから私たちは彼らを監視するつもりだ。イーロンとグループも彼らを監視するつもりだ。削減できるなら、それが一番いい。そして削減しないなら、イーロンが削減するだろう」とトランプ大統領は付け加えた。

木曜日に対立した閣僚はルビオだけではない。

シーン・ダフィ運輸長官と航空宇宙大手スペースXを率いるマスクは、連邦航空局(Federal Aviation AdministrationFAA)が航空機を追跡するために使用する機器の条件や、それを改善するために必要なことについて対立したとニューヨーク・タイムズが報じた。また、ハワード・ラトニック商務長官は、このやり取りでマスクを支持したと付け加えた。

ダフィは、DOGEのスタッフたちが航空管制官(air traffic controllers)を解雇しようとしたと述べたが、ニューヨーク・タイムズによると、マスクはこの主張は「嘘」だと述べた。

元下院議員の運輸省長官ダフィは、マスクは間違っていると述べた。億万長者マスクはダフィに対し、運輸省の職員が解雇しようとした管制官の名前を挙げるよう求めたとニューヨーク・タイムズは報じた。

ダフィはまた、空港の管制塔には多様性、公平性、包括性(diversity, equity and inclusionDEI)の取り組みによって採用された労働者が配置されているというマスクの主張にも反撃した。

ニューヨーク・タイムズが金曜日に報じたところによると、この騒動はまたもやトランプが口を挟み、ダフィにマサチューセッツ工科大学から「天才(geniuses)」を連れてきて航空管制官として働かせなければならないと告げたことで終わった。

ニューヨーク・タイムズが金曜日に報じた後、ダフィは声明を発表し、トランプ大統領が「生産的な(productive)」会合を開いてくれたことに感謝し、DOGEがこれまで行ってきた仕事を賞賛した。

DOGEは、航空管制システムの重要なアップグレードに取り組んでいる私たちに助言を与えるだけでなく、各機関が非効率な部分を特定するのを手助けする素晴らしい仕事をしている」とダフィは書いている。

ダフィはまた、木曜日の会合で当局者たちは「特にFAAと航空管制官の」航空旅行の安全について議論したと書き、FAADEI部門は「2日目に」解体されたと付け加えた。

ダフィは、連邦政府の人員削減に対するトランプのアプローチを「革命的(revolutionizing)」であると賞賛し、運輸省はマスクおよびDOGEと「緊密に(closely)」協力して「政府の運営方法に革命を起こす(revolutionize the way government is run)」と述べた。

今週初め、ダグ・コリンズ退役軍人長官は、退役軍人省が約7万2000人、つまり全職員の15%を削減する計画であることを確認した。この動きは、連邦議会および全国の州から反発を招いている。

トランプ大統領は会談でコリンズ長官と、退役軍人省の雇用削減に関しては慎重なアプローチを採用すべきだという点で合意し、トランプ大統領は退役軍人省は「賢い者たち(smart ones)」を残し、「悪い者たち(bad ones)」を排除すべきだと付け加えたとニューヨーク・タイムズは報じている。

大統領は木曜日のトゥルース・ソーシャルへの投稿で、閣僚会議が「積極的なもの(positive)」であったと述べ、「最高の」「最も生産的な」人材を維持するためのコスト削減イニシアティヴについて「DOGEと協力する」よう各閣僚に伝えた。

トランプは、「私たちは『斧(hatchet)』ではなく、『メス(scalpel)』と言っている。彼ら、イーロン、DOGE、その他の偉大な人々の組み合わせは、歴史的なレヴェルで物事を行うことができるだろう」と書いている。

ホワイトハウスのキャロライン・リーヴィット報道官は本誌に対し、「トランプ大統領が述べたように、これは連邦政府全体のコスト削減策と人員配置について話し合うための、大統領のティームのメンバー間での素晴らしく生産的な会議だった。トランプ大統領が政府をより効率的にするという公約を実現するため、全員がひとつのティームとして働いている」と語った。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン政権の閣僚(cabinet members)人事で重要なのは、国務長官や財務長官といった重要閣僚の人事ではない。私が注目しているのは気候変動問題担当大統領特使(U.S. Special Presidential Envoy for Climate)ジョン・ケリー(John Kerry、1943年-、77歳)とアメリカ国際開発庁(USAID)長官(administrator)のサマンサ・パワー(Samantha Power、1970年-、50
歳)だ。今回はサマンサ・パワーを取り上げる。
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バイデン(左)とサマンサ・パワー

 私は著書『アメリカ政治の秘密』の中で、サマンサ・パワーを取り上げた。彼女は2008年の大統領選挙でオバマ選対に入り、民主党予備選挙でヒラリー・クリントン陣営と激しい戦いをする中で、イギリス・スコットランド地方の新聞のインタヴューを受けた際に、ヒラリーを「彼女は怪物よ、もちろんこれはオフレコでお願いね(She is a monster, too—that is off the record)」と発言したことが、そのまま掲載されたために、選対を離れることになった。オバマ政権では国家安全保障会議のスタッフになり、オバマ政権二期目には、閣僚級の米国国連大使に任命された。

 パワーは1990年代に、20代でジャーナリストとなり、民族紛争が激化していた当時のバルカン半島を取材した。そして、2002年に最初の著作『集団人間破壊の時代(A Problem from Hell": America and the Age of Genocide)』を出版した。これが2003年にピューリッツァー賞 一般ノンフィクション部門を受賞する。そこで高い知名度を得た。

 USAIDの予算規模は2016年の時点で272億ドル(約2兆9000億円)、人員は約4000名だ。「庁(Agency)」となっているが、「省(Department)」クラスの規模だ。ここに人道的介入主義者(humanitarian interventionist)のサマンサ・パワーを長官に持ってくる。その意味は重たい。

更に言えば、バイデン政権から、USAID長官も国家安全保障会議(National Security Council、NSC)にも出席できるようにする、ということになった。ここが重要ポイントだ。国家安全保障会議は縦割りの弊害をなくし、大統領の許で、外交や国家安全保障政策を一元化するための会議であり、アメリカにとっても世界にとっても最重要の会議である。議長は大統領であるが、実際の差配は国家安全保障問題担当大統領補佐官(National Security Advisor)が引き受ける。もっと細かいことは国家安全保障問題担当次席大統領補佐官(Deputy National Security Advisor)が行う。国務長官や国防長官、財務長官などは出席する。これまでの正式な出席メンバーは以下の通りだ。

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●議長:大統領、●法的参加者:副大統領、国務長官、国防長官、エネルギー長官、●軍事アドバイザー:統合参謀本部 (JCS) 議長、●情報関係アドバイザー:国家情報長官、●定期的参加者:国家安全保障問題担当大統領補佐官、首席補佐官、国家安全保障問題担当次席大統領補佐官、●追加参加者:財務長官、司法長官、国土安全保障長官、ホワイトハウス法律顧問、アメリカ合衆国国家経済会議委員長、米国国連大使、アメリカ合衆国行政管理予算局局長

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省の長官(Secretary)でも出席できないものが殆どであるのに、国務省の傘下にあるUSAIDの長官(administrator)が出席できるようになった。これは、「アメリカの海外援助を国家安全保障政策や外交政策と同格に扱う」ということ、歴代政権もぼやかしてきたことを、初めて明確にしたのである。私たちは海外援助と言えば、井戸を掘ったり、農業技術の支援をしたり、学校や道路、橋を建設したり、ということをイメージする。困っている人たちを助ける、ということを想像する。

 しかし、アメリカの海外援助はそうではない。そんなただでお金をくれてやる、そんな無駄なことはしない。海外援助を「ターゲットにした国の体制転換(regime change)のために」使うということなのである。私はその実態を『』の中で書いている。そのために、人道的介入主義派(humanitarian interventionism)のリーダーである、サマンサ・パワーをUSAID長官に持ってきた。更に、サマンサ・パワーがホワイトハウスでの国家安全保障会議に出席できるようにした。バイデン政権は海外介入をやる気満々だ。

現在、新型コロナウイルス感染拡大が問題になっている。バイデン政権は感染症対策のために、このUSAIDの海外援助を利用しようとしている。中国が世界各国に対して支援を行っているが、アメリカもそれに遅れてはならじ、ということであろう。しかし、新型コロナウイルス感染拡大が一番深刻なのはアメリカである。まずは自国のことからしっかりやれよ、そのためにUSAIDの予算を削減して国内対策に回せ、と私は考える。

 人道的介入主義とネオコンは同根である。「アメリカの理想や価値観を世界中に広めて、それで統一すれば戦争は起きない、平和な世界になる」という何とも思い上がった思想を共有している。そのためにターゲットにされる国にとっては災難であり、厄災である。バイデン政権誕生を喜んでいる人間は何ともおめでたい人たち、なのだ。

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バイデンは元米国国連大使をUSAIDのトップに指名し、アジア担当スタッフを強化(Biden Names Former U.N. Envoy to Head USAID, Beefs Up Asia Staff

-元米国国連大使サマンサ・パワー(Samantha Power)はトラブルを抱えた政府機関を立て直すことになるだろう。一方、オバマ政権に参加したヴェテラン、カート・キャンベル(Kurt Campbell)とイーライ・ラトナー(Ely Ratner)をアジア担当のトップの地位に就く

ジャック・デッツ、アイミー・マキノン筆

2021年1月13日

『ザ・ヒル』誌

https://foreignpolicy.com/2021/01/13/biden-names-former-u-n-envoy-to-head-usaid-beefs-up-asia-staff/

大統領選挙当選者ジョー・バイデンは元米国国連大使サマンサ・パワーを米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)に指名している。著名なジャーナリストだったパワーを外国向け支援担当政府機関の責任者にすることになる。USAIDは過去4年間に予算削減と運営管理の失敗によって動きが取れなくなってしまっている。

パワーがUSAID長官に指名されるという報道を初めて行ったのは、NBCニュースであった。アイルランドからの移民であったパワーの名前が最初に世間に知られるようになったのは、大虐殺に対するアメリカの反応についての研究でピューリッツァー賞を受賞したことがきっかけだった。パワーのUSAID長官への指名を政権移行ティームが事実だと認めた。今回の人事は、新型コロナウイルス感染拡大への対応で、外国への支援が重要だと、来るべきバイデン政権が考えていることを示している。バイデン政権はUSADI長官を国家安全保障会議の参加メンバーに引き上げる。

バイデンは国家安全保障会議(NSC)に、調整役ポジションを新たに作った。このポジションは世界のより広範な地域や重要な地域を担当することになる。これらの地位はすぐに埋まった。バイデンはキャンベルとラトナーを指名したが、この人事は中国との戦略的競争に集中することを示している。

水曜日、『フィナンシャル・タイムズ』紙は次のように報じた。オバマ政権下で国務省において幹部を務めたカート・キャンベルをインド太平洋担当コーディネイターに指名した。キャンベルはオバマ政権下でアメリカは太平洋地域に集中すべきだと主張した人物である。また、ブルッキングス研究所の研究員ラッシュ・ドシーを中国担当部長に指名したフィナンシャル・タイムズ紙はまた、バイデンの副大統領時代に次席国家安全保障担当副大統領補佐官だったイーライ・ラトナーがインド太平洋問題担当国防次官補(assistant secretary)に就任すると報じた。インド太平洋問題担当国防次官補は、国防省の職位の中で、アジアに関して、連邦上院の人事同意を必要とする、最も高い地位である。

 こうした人事を発表する中で、バイデンはパワーを「世界的な賞賛を受けている、両親と道徳的明確性を主張する声のような存在」と称賛している。そして、パワーは尊厳と人間性のために立ち上がる人物だと評している。

バイデンは声明の中で次のように述べている。「パワーは、彼女自身が提起した、原理に基づいたアメリカの関与に対して、比類のない知識と疲れを知らない努力を行っていることを知っている。USAIDの世界の舞台でのリーダーという役割を再び果たすようになるためには、パワーの専門性と考えが必要不可欠である」。

国連大使として、パワーは国連において、シリアにおける化学兵器による攻撃、ロシアによるクリミア侵攻、エボラ出血熱危機などの諸問題に対するアメリカの対応を主導した。パワーは理想主義者を自称しているが、1990年代のバルカン半島においてジャーナリストとしての取材経験が大きな影響を彼女自身に与えている。バルカン半島において最初にプレスパスを得る際には、若いパワーは本誌『フォーリン・ポリシー』誌の推薦状を得た。この推薦状はカーネギー国際平和財団を通じてもたらされたものだが、当時、パワーは同財団でインターンをしていた。

オバマ政権で、パワーはシリアとリビアで起きている人道上の危機の深刻化を止めるためにはアメリカの力が必要だと声高に主張した。2019年に出版した回顧録『ある理想主義者の教育(The Education of an Idealist)』の中で、パワーは、2013年にホワイトハウスのシチュエーションルームで激しいやり取りがあったと書いている。オバマ大統領は、パワーに向かって、「サマンサ、私たちは皆、君の本を読んでいるんだよ」と述べた。

USAIDはトランプ政権下で脇にどかされ、士気が下がっていた。パワーはそのUSAIDを率いることになる。USAID長官に政治任用された人物が就任することになり、USAIDの士気は上がるだろう。2020年の大統領選挙の翌日、ホワイトハウスは、連邦上院の人事承認が必要なUSAID副長官ボニー・グリックを解任した。その日は、USAIDの臨時長官ジョン・バルサの任期の最終日(連邦欠員法の定めによる)であった。そして、バルサはグリックの後任として副長官になり、USAIDのトップの地位を維持した。

1月6日の連邦議事堂進入事件の後、USAIDのホワイトハウス担当キャサリン・オニールはトランプ政権で登用された人物だが、事件をきっかけにしてUSAIDの幹部職員たちが次々と辞任していくことを批判した。

バラク・オバマ元大統領が連邦上院議員時代にサマンサ・パワーの文章に注目した。バイデンはトランプ政権と連邦議会によって予算を削られ続けたUSAIDに、知名度の高いパワーをもってきた。トランプ政権は繰り返し海外援助予算を削減しようとし、昨年にはUSAIDの予算を22%削減することを提案した。しかし、小の動きは連邦議会によって阻止された。トランプ政権は、イラクのような緊急性の高い場所でのフルタイムの援助担当職員の数を減らし、最低限の帰還要因だけを残すようにした。

パワーはバイデン、そして国務長官内定者アントニー・ブリンケンと直接の関係を持ち、人権問題に対して熱心に発言してきたという記録は残っているが、国際開発の分野におけるバックグラウンドは持っていない。パワーのUSAID長官指名に到達するまでに、バイデン・ハリス政権以降ティームは、国連世界食糧計画の責任者を務めたエルサリン・カズンやオバマ政権下でUSAIDの幹部職員を務めたジェレミー・コインディアックも候補に挙がった。コインディアックはツイッターなどを通じてトランプ政権の新型コロナウイルス感染拡大への対処を激しく批判したことで有名だ。

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 アメリカでは喜ばしいことに、国務省とUSAIDの予算削減をトランプ大統領は提案していますが、予算を決める連邦議会では削減を止めさせようという動きもあります。この動きは民主、共和両党にあります。また、元米軍の司令官クラスの人々も予算削減に反対し、懸念を表明しました。

 

 国務省、USAID、米軍は「世界中にアメリカと同盟諸国に対する様々な脅威が存在する」ということを理由にして多額の予算を分捕ってきました。そして、世界各国の政治に介入し、それらの国々を不幸にしてきました。日本もその中に入っています。日本の場合は、それに加えてお金の貢がされ係をやらされています。米国債の購入と為替市場への介入を通じて日本のお金をアメリカに貢いでいます。

 

 国務省の予算に関しては各国にある大使館や政府機関の出先の保護のために4割以上が割かれ、外交に使われているのが55%だということです。大使館の警備はアメリカ海兵隊が行っていますが、警備に対する予算が増えるということは海兵隊の仕事と予算が増えるということです。ですから、国務省の予算が減らされ、対外活動が減らされると海兵隊の食い扶持が減るということになります。

 

 米軍の大将クラスだった人々が連名で国務省とUSAIDの予算削減に反対しているのは、こうしたこともあってのことでしょう。また、アメリカが対外活動を行えば衝突や摩擦が起き、それを解決するために米軍が出るということになります。従ってアメリカの対外活動が減れば、米軍が今のような巨大な組織である必要もなくなる訳ですが、そうなれば、米軍の食い扶持や予算は減らされるということになります。国務省と米軍は一蓮托生な訳です。

 

 ですが、アメリカは既に力を失いつつあります。いつまでも膨大な数の米軍を外国に置いておくことはできませんし、米軍にかかる莫大な予算を支えられなくなっています。こうして帝国は衰退していくのでしょう。

 

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国務省とUSAIDは大幅な予算削減に直面(State Department, USAID Face Drastic Budget Cut

-民主、共和両党が政府予算における妥協が成立し、政府機関の閉鎖は終わった。しかし、アメリカの外交と国際開発プログラムの予算は削減されることになる。

 

ダン・デルース、ロビー・グラマー筆

2018年2月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2018/02/12/state-department-usaid-face-drastic-budget-cut-congress-military-generals-admirals-warn-against-slashing-diplomacy-budget/

 

国務省と米国国際開発庁(U.S. Agency for International Development、USAID)は先週民主、共和両党の間で成立した予算をめぐる合意を受けて、大幅な予算カットに直面している。先週の合意によって政府機関の閉鎖は終了した。連邦議会議員たちは税収不足を埋める更なる財源を探して苦闘している最中だ。

 

約88億ドルの税収不足を補うために、アメリカの外交団と国際開発プログラムに対して、1990年代以降で最大の予算削減が課されることになるだろう。与作削減によって国務省の士気の低下が起こり、外交官たちは「ドナルド・トランプ大統領は外交に対して熱心ではないのだ」と認識するようになっている。

 

民主、共和両党の連邦議会議員たちは国務省に予算をつけようと必死になっている。一方、トランプ政権の幹部たちは国務省の予算に関する議論には参加していない、と連邦議会関係者は語っている。

 

国務省と米国国際開発庁(USAID)の予算不足は2018年度、更には2019年度の各事業に影響を及ぼす。連邦議会の指導者たちとホワイトハウスとの間で先週に成立した予算に関する合意によって政府機関の閉鎖の長期化を避けることが出来た。合意は2018年度と2019年度の支出レヴェルを設定することで締結された。しかし、予算に関する合意によって米軍予算は増加したが、海外緊急活動作戦(Overseas Contingency Operations)における非防衛関連予算は削減された。海外緊急対応作戦予算の3分の1はこれまで国務省とUSAIDの予算として供給されてきた。

 

その結果、2018年の政府予算における国務省予算を増額させる方法を探すのに数週間残っていないという状態になった。2019年の予算に関しても同様のことが起きるであろう。

 

一方、トランプ政権は月曜日、2019年の連邦政府予算要求を提出することになる。2019年の予算に関して、ホワイトハウスは国務省の予算を削減するのかどうかは明確になっていない。

 

2018年の外交関係予算が削減される可能性が高いという観測を受けて、151名の退役した将官クラスの高級軍人たちが共同して懸念を表明した。この中には陸軍、海軍、空軍、海兵隊、特殊部隊の司令官クラスだった人物たちが多数含まれている。彼らは、「アメリカの国家安全保障に対する世界規模での脅威が高まっている中で、このような予算削減を行うとアメリカの世界に対する影響力が落ちてしまう」という警告を発した。

 

元将官たちが連邦議会の指導者たちに宛てた書簡の中には、「私たちは現在のような不安定な時代において世界をリードする能力を減退させることはすべきではない」という文言もある。この書簡は「USグローバル・リーダー・シップ・コアリション」という組織によって出された。この組織は、軍部、ビジネス、宗教各界に、国務省とUSAIDを支持することを求めるために活動している。

 

高級将官であった人々は、重要な外交職の多くが空席になっていることに懸念を表明し、また、「アメリカの安全を維持するために国防と共に外交と開発援助を強化することが重要だという確信」を持っていることを表明した。

 

イスラム国が戦場で敗北を喫している状況下で、イラクとシリアにおけるアメリカの外交と両国の再建支援は特に重要度を増している、と元将官クラスの人々は主張している。彼らは次のように書いている。「ISISに対して軍事的に優勢になっているが、疑問なのは戦場で勝ち得た勝利を守る準備が出来ているのか、悪者たちが空白に這いこまなうように防げるかどうかということだ」。

 

国務省の予算を2017年並みに戻すために、連邦議員たちはこれから難しい決断をしなければならないだろう。彼らは国内の他の優先問題と折り合いをつけねばならない。連邦議会両院の予算委員会は、2018年の予算において630億ドルの一任された予算を分割することになるだろう。しかし、約210億ドルは医療研究、対麻薬研究、退役兵士やその他に分野に投じられることになる。

 

連邦上院外交委員会の民主党側幹部委員であるボブ・メネンデス連邦議員(ニュージャージー州選出)は、金曜日書簡を発表した。書簡の中で、メレンデス議員は同僚議員たちに向けて、国務省とUSAIDの予算を現在のレヴェルに回復させるように予算を見直すことを求めた。

 

メネンデス議員は次のように書いている。「アメリカは世界各地で複雑化した多くの問題に直面している。この世界はアメリカの確固とした指導力を必要としている。国際問題に関連する予算はこうした必要に応えるものとならねばならない」。

 

本誌が入手した書簡は、リンゼイ・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)とパトリック・リーリー連邦上院議員(ヴァーモント州選出、民主党)宛であった。2人は、国務省の予算を監視する連邦上院歳出小委員会の委員長と民主党側幹部委員だ。

 

予算に関する議論をフォローしているあるロビイストは次のように語っている。「安全保障支援から伝染病や飢饉対策までアメリカは関わっている。これらに関する予算が大幅に削減されるとアメリカの外交と国際援助プログラムに大きな影響が出るだろう」。

 

国務省の報道官は本誌の取材に対して次のように述べた。「国務省は2018年度の超党派の予算案について特定のコメントをする立場にない。私たちは、決定者たちが政府に対する予算の配分をするであろうと認識している」。

 

国務省の予算の中で実際に外交に使われている金額について正確に伝えられていない。世界各地の米国大使館の警護にかかる経費は増大し続けている。この経費は国務省全体の予算の中で割合を大きくしている。司法省、国土安全保障省、その他の連邦政府機関が世界各国にある米国大使館で業務を行っているのがその理由となっている。そして、国務省はこれらの帰還の保護のために予算を使わねばならなくなっている。

 

アメリカ外交協議会のデータによると、2008年、国務省は「外交と領事プログラム」関連予算の17パーセントを警備に使っていた。2018年の予算請求の中で、警備関連予算は「外交と領事プログラム」予算の45パーセントを占めるまでになっている。「外交と領事プログラム」の予算の55パーセントだけが実際の外交に使われることになる。

 

USグローバル・リーダー・シップ・コアリションの会長兼最高経営責任者リズ・シュレイヤーは「アメリカと同盟諸国は様々な脅威に直面している。アメリカ政府は世界から撤退することはできない」と語っている。

 

1年前、トランプ政権は国際問題に関連する予算の30パーセント減額を提案し、元高級外交官や軍人たちから激しく批判された。民主、共和両党の連邦議員たちはこの提案を退けた。

 

シュレイヤーは、連邦議会が今回の大きな予算カットに対して同様の反応をしてほしいと望んでいる。シュレイヤーは本誌の取材に対して、「私は、今度も前回と同様の大きなそして明確な反対の声が上がり、国務省とUSAIDに対して超党派の支持があるものと考えている」と述べた。

 

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 古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプ政権が国家予算を発表し、国務省とUSAIDの予算を大幅に削減し(30%の削減)、国防費を540億ドル増加させました。これについては、批判の声が多く挙がっています。しかし、私はこれを当然のことで、大変喜ばしいことだと考えています。

 

 2011年のアラブの春から始まった中東の不安定な状況は、ムアンマール・カダフィ大佐の殺害、ベンガジ事件へと発展し、シリア内戦、シリアとイラク国内でのISの勃興というところまで悪化しています。また、ウクライナを巡る西欧とロシアの対立ですが、これはウクライナ国内の歴史的に複雑な問題とも相まって、こじれてしまいました。アメリカはロシアを非難し、制裁を課していますが、トランプ大統領は選挙戦期間中から、ロシアのウラジミール・プーティン大統領を賞賛し、ロシアとの関係改善を主張しています。また、中国に対しては厳しい言葉遣いをしていますが、貿易戦争をやる気はなく、また、北朝鮮は中国の問題だとしています。

 

現在の世界の不安定要因が発生した原因は、端的に言って、アメリカの対外政策の失敗が理由です。特に、共和党のネオコン、民主党の人道的介入派がアメリカ外交を牛耳ってきた結果、現在の状況にまでなってしまいました。こうしたことは拙著『アメリカ政治の秘密』で明らかにしましたので、是非お読みください。
 

 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカの政府機関である米国国際開発庁(USAID)についての記事をご紹介します。USAIDについては、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で詳しく書きましたが、アメリカの外国介入の尖兵です。


 今回の記事の主張は、
USAIDの目的をはっきりさせろ、それは、外国に行って、政府機関を作ったり、改善したりすることだ、というものです。USAIDは現在、衛生や教育、人権などの改善のために、世界100カ国近くで活動しています。しかし、そうしたものは、他の省庁や機関に任せて、USAIDは、世界各国の政府機関の創設や改善に特化しろと言うのです。

 この主張は、ヒラリー・クリントンが大統領になったら、実際に行われることになるでしょう。現在でも国務省やUSAID内部には、人道的介入主義派がたくさんいるのですから。

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USAIDの本部 

 
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 これは恐ろしいことです。1930年代の日本と満洲国の関係を考えてみてください。満洲国は、清帝国最後の皇帝であった溥儀を執政(後に皇帝)にして誕生しました。独立国ですが、政府機関は日本が作り、日本の官僚たちが実権を握りました。また、関東軍司令官が駐満日本大使を兼務し、定期的に溥儀と面会し、日本の意向を伝え、強制しました。これは「内面指導」と呼ばれます。満洲国の事例を考えると、論稿の著者たちがUSAIDにやれ、と言っているのは、この内面指導のような形の「外国支配」の基礎を作れ、というものです。これは、実際に政府機関をアメリカに作られる方からしてみれば、大変なことで、アメリカは憎悪の対象になることも起きるでしょう。

 

 また、興味深いのは、国家機関創設の専門家がいないので、最近のイラクやアフガニスタンでその分野の経験がある陸軍の将校たちを雇用しろと言っている点です。アメリカ軍は、膨大な予算を食いつぶす機関であり、その縮小がオバマ政権下で進められました。縮小となると、人員も整理されます。つまり、解雇になったり、これ以上いても昇進はないと言われたりすることになります。そうなると、不満が溜まる訳ですが、「経験を活かして、引き続き、公務員として働ける(しかも表向きは世界に貢献できる仕事ということで)」となれば、不満もある程度は解消されます。

 論稿の著者たちは、USAIDが衛生や教育の分野は別の組織や団体に任せるべきだと書いています。「トイレを作るような事業は平和部隊に任せろ」と。私はここで、自衛隊のアメリカ軍による下請け化が進んでいる中で、日本の海外援助組織のUSAIDによる下請け化が進むのではないかと思います。7月1日、バングラデシュのダッカで痛ましい事件が起きました。JICAがUSAIDと連動して動くというようなことになると、残念ながらこうした事件がこれからも起きてしまうかもしれません。

 

 こうやって読むと、なかなか危険な論稿であることが分かっていただけると思います。それではお読みください。

 

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米国国際開発庁は「海外の国家機関創設省」となるべきだ(USAID Should Become the Department of Nation-Building

―ワシントンにある海外の発展途上国の発展に関わる政府機関は、無秩序状態に陥った外国に民主政治体制ではなく、まずは政府を樹立することに集中する必要がある

 

マックス・ブート、マイケル・ミクラウシック筆

2016年6月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/06/22/usaid-should-become-the-department-of-nation-building/#_ftn1

 

 外国の国家機関創設(nation-building)は、アメリカ政治においては痛みを思い出させる言葉となっている。この言葉を聞くと、アフガニスタンとイラクにおける長きにわたる、人的、物理的に消耗の激しかった戦争を思い出す人々が多い。バラク・オバマ大統領とドナルド・トランプとの間に一致する点はほとんどないが、外国の国家機関建設への反対では両者は一致している。歴代の大統領も「国家機関の創設(問題の解決)はまず国内から」と言っていたが、オバマ大統領とトランプもまたこの考えを持っている。

 

 しかしながら、アメリカの指導者たちは国家機関創設に対する反対を唱えながらも、破綻国家(failed states)がアメリカの国益にとって深刻な脅威となっていることを認めている。オバマ大統領は2016年の一般教書演説の中で、「たとえ、イスラム国が存在しない場合でも、不安定はこれから世界の多くの場所で増大していくだろう。中東で、アフガニスタンで、パキスタンの一部で、中央アメリカの一部で、アフリカで、そしてアジアで。これらの場所の中には、テロリスト・ネットワークの避難場所となるところも出てくるだろう。その他の場所では、民族紛争、飢餓、新たな難民を生み出すことだろう。世界は、私たちにこうした問題の解決のための手助けをしてくれるように求めているのだ」と述べている。

 

 しかし、アメリカは、軍事力の使用のみで世界の不安定さに対処することはできないのだ。アメリカ国民は、大義がないイラクやアフガニスタンで行った大規模な介入を支持しないだろう。一方、ドローンによる空襲や特殊部隊による急襲のような小規模な軍事的手段は、アメリカの安全保障を守る上で適切な手段とはなっていない。「活発な」攻撃でタリバンのムラー・マンスールやアルカイーダのオサマ・ビン・ラディンのようなテロ組織の指導者を殺害することは可能だが、確立されたテロ組織自体を壊滅することはほぼ不可能だ。そして、法と秩序の維持を実行できる自生的な政府機関を構築することは不可能だ。

 

 アメリカには、無秩序に陥った国々で、より良く機能する政府機関を作り上げる、いわゆる政府機関創設能力を持つ文民側の行政機関が必要だ。国務省や農務省といった様々な連邦政府の省庁はそれぞれが政府機関創設プロジェクトを行っているが、それを主要な目的にしている訳ではない。政府機関創設準備の失敗が明らかになったのは、2003年のイラク侵攻の時だ。当時のブッシュ政権は、サダム・フセイン政府から引き継ぐために、機能不全に陥った連合国暫定当局を創設したが、悲劇的な結果になった。この結果は予測されていた。現在、国家機関創設事業は、アメリカ軍に押し付けられている。アメリカ軍は他にも多くの任務をこなさねばならない。アメリカ軍は急ごしらえで国家機関創設を行える能力を持ってはいるが、しっかりと計画を立て確実に実行するまでの能力は備えていない。

 

 アメリカは、国家機関創設を目的とする政府機関を必要としている。軍事占領をせずに、つまり、アメリカ軍の駐屯を必要とせずに自国の領土を守れるようにするために、アメリカの同盟諸国の助けを借りながら、国家機関を作ることにまい進する連邦政府の機関が必要なのだ。幸運なことに、アメリカ政府には既にこの目的にうってつけの機関が既に存在している。それがアメリカ国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)だ。しかし、外国の国家機関創設という目的を達成するためには、USAID自体を変革する必要がある。USAIDは少ない労力で最大の成果を上げるような組織にならねばならない。USAIDは、戦略的に重要な国々での中核的な機能を強化するような事業を行うべきだ。世界各地の全ての貧困国で活動することで組織自体を拡大すべきではない。

 

 USAIDの2016年度予算は、223億ドル(約2兆4000億円)である。その中で、107億ドル(約1兆500億円)は、USAIDが直接管理し、運用できる中核的予算である。その中で、外国の国家機関創設に使われる予算は、24億ドル(約2700億円)のみだと考えられている。その他の予算は、貧困解消、世界各国の健康状態の改善、女性の地位向上、教育、衛生、経済発展、農業改良に使われている。これらの事業は素晴らしいものだ。しかし、USAIDは、これらの事業に関して、これらの分野で活動する国連や世界銀行のような国際機関とオックスファムとアフリケアのような非政府組織と比較して、優れた成果を上げているとまでは言えない。従って、USAIDは、これらの分野を国際機関や民間組織に任せるべきだ。そのために、これらの分野で活動するNGOへの支援を削減すべきだ。

 

 USAIDと擁護者たちは、USAIDが行うことは全て、外国の国家機関創設に貢献するためのものだと主張するだろう。USAIDは外国で衛生、電気、環境保護のような公共財の支援を行っている。成功している国々というのは、こうした公共財の国民への提供を行っている国々のことだと考えられている。USAIDのウェブサイトには次のように書かれている。「国民への衛生、安全、福祉の提供を確保できる政府や機関が存在する時のみ、進歩は継続される」。これは正しい。しかし、これらの国々が公共財を国民に供給するから、これらの国々は成功していると言われているのではない。これらの国々は国家機関創設に成功しているから、公共財を供給しているのだ。USAIDは、公衆衛生や教育、その他の分野で一時的に成果を上げるよりも、支援している国々がそれぞれの抱える問題に対処できるように国家機関を創設し、その能力を引き上げることに力を注ぐべきだ。そうした事業がたとえ、USAIDの理想からかけ離れたものであったとしても、そうすべきだ。

 

 発展途上諸国では、民主政治体制がぜいたく品となっている場合が多い。しかし、USAIDの外国の国家機関創設に関するプログラムは、「民主政治体制・人権・統治」プログラムと名付けられている。最も重要な問題である「統治」が最後にきている。これは、USAIDが、政府機関を一から作り上げ、育て上げるという仕事よりも、選挙、政党、市民社会の組織の育成に力を入れていることを示している。しかし、非民主的な国々が責任ある行動を取る限りにおいて、アメリカはそれらと共存できる。ヨルダンとシンガポールはアメリカにとって緊密な関係にある同盟国だ。韓国、チリ、インドネシアのような現在の同盟諸国の多くは元々非民主的であったが、今は民主国家になっている。アメリカは、エジプトやヴェトナムのような戦略的に重要な国々の人権侵害を見て見ぬふりをする傾向にある。これには批判的な人も多い。

 

 無政府状態の場所が世界各地にある状態で、アメリカは生きていくことが出来ない。なぜなら、それらの土地は、テロ組織、犯罪組織、伝染病、難民、その他の諸問題を生み出し、世界中に送り出すからだ。代議制の機関を育て上げることは、全米民主政治体制のための基金(National Endowment for DemocracyNED)にとってはふさわしい仕事である。しかし、USAIDは、民主的な統治よりも実際に成果が上がる統治の方に主眼を置くべきだ。

 

 電気から自由な選挙まで、誰からも歓迎されるが緊急的に必要とは言えないサーヴィスばかりをやるのではなくて、USAIDは安定した国家にとっと必要不可欠な事業に集中すべきなのだ。そうした事業として、暴力の正当な使用を独占できる軍隊や警察などの訓練、正義を実行することが出来る裁判所の支援、根深い腐敗に負けない職業意識の高い公務員の育成と支援、透明性を確保しながら税収を確保することが出来る財政システムの構築が挙げられる。現在のUSAIDはこうした事業を行うだけの能力を持っていない。これらの事業を適切に行うための政府機関はアメリカ国内に存在していない。たとえば、アメリカ軍は外国の軍隊を支援している。しかし、肝心の外国の警察と裁判所を支援するという仕事は、国務省と司法省に任せる。国務省と司法省は、価値観が疑わしい契約業者にこれらの事業を丸投げしてしまう。USAIDは、あまり重要ではない事業から手を引き、機能を起用化する方向に進むべきだ。言い換えるなら、USAIDは、モザンビークでトイレを作る仕事は、平和部隊(Peace Corps)に任せるべきなのだ。

 

 USAIDは現在100を超える国々で活動している。そのうちの約半数の国々で、「民主政治体制・人権・統治」に関するプログラムを実行している。このように手広く事業を展開すると、一つ一つの事業の内容が薄くなってしまう。現在の職員の数と予算から考えて、30から40までに事業対象国を絞らないと成果を上げることはできない。アメリカにとって重要な外国における国家機関創設という目的を達成するために何も今以上の予算を付ける必要もない。

 

 USAIDは、アメリカの戦略にとって極めて重要な、効果をあげられる国々に努力を傾注すべきだ。アメリカにとってイスラム教徒によるテロ攻撃は脅威となっている。この状況下では、イスラム教徒の人口が多い国々を優先すべきだ。こうした国々は、西アフリカから東南アジアまでの「不安定の弧」に位置している。リビア、ソマリア、シリア、イエメンのような国々では、中央政府は存在しないか、とても弱体化している。

 

 トルコやペルシア湾岸の君主国のように比較的富裕な国々、そしてスーダンやイランのようにアメリカに敵対的な国々は除外する。パキスタンやパレスティナ政府のような名目上の同盟国に対して支援を行うかどうかを判断することは大変難しい。それは、これらの国々の政府はテロを支援しているからだ。USAIDが成果を上げられないなら(政府機関がその基本的な機能を果たす能力を上げることができないなら)、USAIDは関わるべきではない。

 

 USAIDは、イスラム過激主義の拡散を止めるために、各国の地方政府の統治能力を確立する仕事をしている。しかし、それよりも、他国に従属させられる危険に直面している戦略的重要な国々の国家機関創設事業に集中すべきだ。ロシアからの進攻の危険があるウクライナとグルジア、中国からの進攻の危険があるモンゴルとミャンマー、巨大な麻薬密売組織の卿に晒さられている南米諸国、特にコロンビア、エルサルヴァドル、グアテマラ、ホンデュラス、メキシコといった国々に集中すべきだ。USAIDはこれらの国々には既に進出している。しかし、曖昧な目標と手を広げ過ぎた事業のために、基本的な政府機能の確立を重要としている、破綻国家になりかねない国々に予算と人材を重要な事業に集中させることが出来ていないのだ。

 

 こうした事業は重要である。そして、現在、USAIDが活動している国のうち、半分の国では必要ではない事業である。USAIDは、レソトやマダガスカルのような戦略的に重要ではない国々や中国のようなアメリカに友好的ではない国々、インドのような発展著しい国々に対して、基本的に不足している予算を投入すべきではない。予算と人材は、地政学的に見返りが大きい国々に投入すべきだ。

 

 外国の国家機関創設をより効果的に行うために、USAIDはその方法を変える必要がある。そのためには、USAIDはアメリカ軍から学ぶべきだ。最近の外国の国家機関創設の経験から教訓を学び取り、外部の専門家たちに事業の成果を精査し、評価してもらうのだ。USAIDが使っている契約業者や職員が事業の成果を評価するべきではない。取り敢えず予算が消化されたからその事業は成功したと言うのではなく、失敗したなら失敗したとはっきりさせるべきだ。

 

 USAIDは内部の官僚機構を合理化すべきだ。現在、USAID内部には、14の局と11の独立した事務局が存在するが、これほど多くの部局は必要ではない。USAIDには管理局が存在するが、それなのに他に、人的資本・才能管理事務局が存在する必要があるだろうか?中間管理者たちに、大きな出来事が起きた際には、部局の垣根を越えて、予算や人材の配分を変更するための責任と権限を与えるべきだ。ロビイスト、弁護士、補助金行政の専門家たちを使って、複雑な契約をして、補助金をがっぽりと稼ぐ、ワシントンに本社を置く決まった契約業者ばかりを使うべきではない。例えば、2010年に発生したハイチの大地震の後、USAIDは、アメリカ連邦議会に承認されて、36億ドル(約4000億円)を支出した。AP通信の報道によると、全支出のうち、ハイチの企業に流れたのは、1.6%しかなかった。USAIDの援助予算の最大の受け手は、ワシントンに本社を置く、USAIDからの補助金を特に受けているケモニクス・インターナショナルであった。

 

 USAIDが契約業者への依存を減らすためには、職員たちを変革する必要がある。USAIDの職員たちは、才能はあるのだが、国家機関創設にとって必要な知識を持つ専門家ではない。土木工学、都市管理、公務システム開発、治安維持、開発経済の専門家はほとんどいない。職員の多くは、国際関係論の修士課程を修了したばかりで、政府機関やビジネスの警官が乏しい。USIADは、巨大組織の運営や外国文化の中での勤務の経験豊富な中途採用の専門家をより多く採用すべきだ。そうした人材の供給源として、アメリカ陸軍が考えられる。アメリカ陸軍では現在、国家機関創設の経験を持つ将校たちが多く除隊させられている。

 

 これまでに提案してきたいくつもの変革案はどれを行うにしても、既得権益を持つ勢力によって激しい抵抗に遭うだろう。USAIDのプログラムが撤退する国々からは不平不満が出るだろう。USAIDの職員や契約業者で仕事や補助金を失う人々もまた不平不満を訴えるだろう。USAIDの変革を成功させるには、次期政権がUSAIDの変革を重要政策に位置付けるしかない。

 

 もちろん、USAIDを再編しても、全てのケース、もしくはほとんどのケースで国家機関創設に成功する保証はない。国家機関創設は大変な困難の伴う事業なのだ。しかし、アメリカには、コロンビア、東ティモール、エルサルヴァドル、ドイツ、イタリア、日本、コソヴォ、フィリピン、韓国と言った共通点のない様々な国々の国家機関創設に貢献してきた歴史がある。USAIDはこうしたケースで一定の役割を果たしてきた。USAIDがこれからどれくらい成功を収めることが出来るかを予測することはできないが、政府の基準から見て比較的適当な投資でいくつかの成功が収められたら投資に見合っていると言える。アメリカが際限のない軍事介入を避けて破綻国家の問題に対処したいと望むなら、国家機関創設以上の選択肢はない。アメリカ政府が外国の国家機関創設で成功しようという場合には、再編されたUSAIDが主導的な立場に立たねばならない。

 

(終わり)





 

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